説明

バイポーラ半導体素子およびその製造方法

【課題】SiC基板をp型とした結晶品質の良いSiCバイポーラ素子を提供する。
【解決手段】このダイオード素子1によれば、p型のSiCアノード層12,p型のSiCドリフト層13とn+型SiCカソード層14をn型SiC基板21上にエピタキシャル成長により形成してから、n型SiC基板21を除去した。つまり、p型基板に見立てるp+型4H-SiCアノード層12は、エピタキシャル成長により作製するから、バルク成長で作製されるp型基板に比べて結晶成長速度が遅く、p型ドーパントであるアルミニウムの濃度を上げても、結晶品質が良くなる。したがって、この結晶品質が良いp+型4H-SiCアノード層12を基板に見立てることができ、SiC基板をp型とした結晶品質の良いSiCダイオード素子を実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、炭化けい素半導体で作製されたダイオード,pnpトランジスタ,GTO(ゲート・ターンオフ・サイリスタ),IGBT(インシュレーテッド・ゲート・バイポーラトランジスタ)等のバイポーラ半導体素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、SiC(炭化けい素)基板としては、通常、n型SiC基板が用いられる。その理由は、SiC基板において、p型の低抵抗基板を得るために、p型ドーパントであるアルミニウムの濃度を上げると結晶の品質が悪くなるからである(非特許文献1(Material Science Forum Vols.389-393,p.131−134,2002)参照)。
【0003】
このため、炭化けい素半導体で作製されたGTOやIGBTなどのバイポーラスイッチング素子では、n型SiC基板上にp型SiCドリフト層を形成した構造にしている。また、炭化けい素半導体で作製されたpnダイオードなどの整流素子では、n型SiC基板上にn型SiCドリフト層を形成した構造にしている。
【0004】
しかし、基板をn型としたSiCバイポーラ素子だけでなく基板をp型とした結晶品質の良いSiCバイポーラ素子も使用可能として、回路構成上(インバータ回路におけるスイッチング素子と整流素子との逆並列接続等)の自由度を向上させることが望まれている。
【0005】
例えば、電圧型インバータでは、図10Aに示すように、上記スイッチング素子としてのGTO100と上記整流素子としてのダイオード素子200を1セットとしてパッケージに組み込んだモジュール500を用いている。図10Bに示すように、このモジュール500では、上記GTO100とダイオード素子200とが逆並列接続されている。
【0006】
上記整流素子としてのダイオード素子200の断面を、図11Aに示す。このダイオード素子200は、n+型4H‐SiC基板201とこのn+型4H‐SiC基板201上に形成されたn型SiCドリフト層202とこのn型SiCドリフト層202上に形成されたp+型SiCアノード層203とを備える。上記n+型4H‐SiC基板201にカソード電極205が形成され、上記p+型SiCアノード層203にアノード電極206が形成されている。上記n型SiCドリフト層202は、ドナー密度1×1014〜5×1014cm−3、膜厚は75μmである。
【0007】
また、上記スイッチング素子としてのGTO100の断面を、図11Bに示す。このGTO100は、n+型4H‐SiC基板101とこのn+型4H‐SiC基板101上に順に形成されたp型SiCバッファ層102とp−型SiCドリフト層103とn型SiCドリフト層105とメサ形状のp+型SiCアノードエミッタ層106とを備える。上記p−型SiCドリフト層103は、厚さが75μmでアクセプタ密度が1×1014〜5×1014cm−3である。上記n型SiCドリフト層105には、n+型埋込ゲート層107とn+型ゲートコンタクト層108とが形成されている。また、上記メサ形状のp+型SiCアノードエミッタ層106には、アノード電極110が形成され、上記n+型ゲートコンタクト層108にはゲート電極111が形成され、上記n+型4H‐SiC基板101にはカソード電極109が形成されている。
【0008】
図10Aに示すように、上記スイッチング素子としてのGTO100は、カソードKをなすn+型4H‐SiC基板101に形成したカソード電極109が導電性支持体301上に直接に載置されて電気的に接続されている。このGTO100のアノード電極110は、リード線308で端子305に電気的に接続され、この端子305は、図示しない絶縁体でもって導電性支持体301に対して絶縁されている。なお、図示していないが、このGTO100のゲート電極は導電性支持体301に対して絶縁された端子にリード線で電気的に接続される。
【0009】
一方、上記整流素子としてのダイオード素子200のカソードKをなすn+型4H‐SiC基板201に形成されたカソード電極205が導電性支持体301上に配置された絶縁基板302上に載置されている。このカソード電極205は、導電性支持体301に対して絶縁された端子303に、図示しないリード線で電気的に接続される。
【0010】
また、このダイオード素子200のアノード電極206は、リード線307で端子306に電気的に接続され、この端子306は、導電性支持体301に対して電気的に接続されている。
【0011】
図10Aに示すように、上記モジュール500では、ダイオード素子200のカソードKを絶縁基板302を挟んで導電性支持体301上に設置して、ダイオード素子200のカソードKが導電性支持体301によってGTO100のカソードKに電気的に接続されないようにしている。このため、上記絶縁基板302の熱抵抗により、ダイオード素子200の冷却が妨げられ、冷却性能の低下を招いて、素子接合部温度の上昇を引き起こして、最終的に素子破壊を招く可能性がある。
【0012】
ここで、上記ダイオード素子200の低抵抗なp型SiC基板からなるアノードAを備えたダイオード素子を実現できれば、このダイオード素子のアノードAをなす結晶品質の良いp型SiC基板を上記導電性支持体301上に絶縁体を介在させずに配置して冷却性能を損なうことなくGTO100と逆並列接続することできる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Material Science Forum Vols.389-393,p.131−134,2002
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
そこで、この発明の課題は、SiC基板をp型とした結晶品質の良いSiCバイポーラ素子およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、この発明のバイポーラ半導体素子の製造方法は、炭化けい素半導体で作製されたn型の基板上に炭化けい素半導体でエピタキシャル成長によりp型の半導体層を形成し、
上記p型の半導体層上に炭化けい素半導体でn型の半導体層を形成し、
上記n型の基板を除去することを特徴とする。
【0016】
この発明のバイポーラ半導体素子の製造方法によれば、上記p型のSiC半導体層を、エピタキシャル成長により作製するから、バルク成長で作製されるp型基板に比べて結晶成長速度が遅く、低抵抗にするためp型ドーパントであるアルミニウムの濃度を上げても、結晶品質が良くなる。したがって、この結晶品質が良いp型のSiC半導体層を基板に見立てることができ、SiC基板をp型とした結晶品質の良いSiCバイポーラ素子を実現可能になり、インバータ回路における逆並列接続等の回路構成上の自由度を向上させることができる。
【0017】
また、この発明のバイポーラ半導体素子は、炭化けい素半導体で作製されたp型の半導体層と、
上記p型の半導体層上に形成されていると共に炭化けい素半導体で作製されたn型の半導体層と
を備え、
上記p型の半導体層と上記n型の半導体層とを炭化けい素半導体で作製されたn型の基板上にエピタキシャル成長により形成してから、上記n型の基板を除去したことを特徴とする。
【0018】
この発明のバイポーラ半導体素子によれば、上記p型のSiC半導体層は、エピタキシャル成長で作製されるから、バルク成長で作製されるp型基板に比べて結晶成長速度が遅く、p型ドーパントであるアルミニウムの濃度を上げても、結晶品質が良くなる。したがって、この結晶品質が良いp型のSiC半導体層を基板に見立てることができ、SiC基板をp型とした結晶品質の良いSiCバイポーラ素子を実現可能になり、インバータ回路における逆並列接続等の回路構成上の自由度を向上させることができる。
【0019】
また、一実施形態のバイポーラ半導体素子では、上記p型の半導体層がアノードをなし、上記n型の半導体層がカソードをなすダイオードである。
【0020】
この実施形態によれば、上記アノードをなすp型の半導体層を結晶品質が良いp型SiC基板に見立てたダイオードを実現でき、インバータ回路における逆並列接続等の回路構成上の自由度を向上させることができる。
【0021】
また、一実施形態のバイポーラ半導体素子は、オン時に上記p型の半導体層から上記n型の半導体層へ電流が流れるスイッチング素子である。
【0022】
この実施形態によれば、アノードをなす上記p型の半導体層を結晶品質が良いp型SiC基板に見立てたスイッチング素子を実現でき、インバータ回路における逆並列接続等の回路構成上の自由度を向上させることができる。
【0023】
また、一実施形態のバイポーラ半導体素子では、さらに、上記n型の半導体層上に形成されたp型の炭化けい素成長層を備え、上記p型の半導体層がエミッタをなし、上記n型の半導体層がベースをなし、上記n型の半導体層上に形成されたp型の炭化けい素成長層がコレクタをなすpnpトランジスタである。
【0024】
この実施形態によれば、上記エミッタをなすp型の半導体層を結晶品質が良いp型SiC基板に見立てたpnpトランジスタを実現でき、インバータ回路における逆並列接続等の回路構成上の自由度を向上させることができる。
【0025】
また、一実施形態のバイポーラ半導体素子では、さらに、上記n型の半導体層上に順に形成されたp型の炭化けい素成長層とn型の炭化けい素成長層を備え、
上記p型の半導体層がアノードエミッタをなし、上記n型の半導体層がベースをなし、上記n型の炭化けい素成長層がカソードをなすGTOである。
【0026】
この実施形態によれば、上記アノードエミッタをなすp型の半導体層を結晶品質が良いp型SiC基板に見立てたGTOを実現でき、インバータ回路における逆並列接続等の回路構成上の自由度を向上させることができる。
【0027】
また、一実施形態のバイポーラ半導体素子では、さらに、上記n型の半導体層上に形成されたp型の炭化けい素成長層を備え、
上記p型の半導体層がエミッタをなし、上記n型の半導体層がベースをなし、上記n型の半導体層上に形成されたp型の炭化けい素成長層がコレクタをなすIGBTである。
【0028】
この実施形態によれば、上記エミッタをなすp型の半導体層を結晶品質が良いp型SiC基板に見立てたIGBTを実現でき、インバータ回路における逆並列接続等の回路構成上の自由度を向上させることができる。
【0029】
また、一実施形態のバイポーラ半導体素子では、さらに、上記n型の半導体層上に順に形成されたp型の炭化けい素成長層とn型の炭化けい素成長層を備え、
上記p型の半導体層がアノードエミッタをなし、上記n型の半導体層がベースをなし、上記n型の炭化けい素成長層がカソードをなすサイリスタである。
【0030】
この実施形態によれば、上記アノードエミッタをなすp型の半導体層を結晶品質が良いp型SiC基板に見立てたサイリスタを実現でき、インバータ回路における逆並列接続等の回路構成上の自由度を向上させることができる。
【0031】
また、一実施形態のバイポーラ半導体装置では、上記ダイオードである実施形態とスイッチング素子とを備え、
上記スイッチング素子は、
炭化けい素半導体で作製されたn型の基板と、
上記n型の基板上に形成されていると共に炭化けい素半導体で作製されたp型の半導体層とを有する。
【0032】
この実施形態のバイポーラ半導体装置によれば、上記ダイオードのp型の半導体層によるアノードを結晶品質が良いp型SiC基板とし、上記スイッチング素子のカソードをn型SiC基板としたので、上記p型SiC基板とn型SiC基板とを同一の導電性支持体上に絶縁物を介在させることなく実装でき、冷却能力を損なうことなく逆並列接続の回路モジュールを実現できる。
【0033】
また、一実施形態のバイポーラ半導体装置では、上記スイッチング素子である実施形態とダイオードとを備え、上記ダイオードは、
炭化けい素半導体で作製されたn型の基板と、
上記n型の基板上に形成されていると共に炭化けい素半導体で作製されたp型の半導体層とを有する。
【0034】
この実施形態のバイポーラ半導体装置によれば、上記スイッチング素子のp型の半導体層によるアノードを結晶品質が良いp型SiC基板とし、上記ダイオードのカソードをn型SiC基板としたので、上記p型SiC基板とn型SiC基板とを同一の導電性支持体上に絶縁物を介在させることなく実装して、冷却能力を損なうことなく逆並列接続の回路モジュールを実現できる。
【0035】
また、一実施形態のバイポーラ半導体装置では、導電性支持板を備え、
上記導電性支持板上に上記ダイオードと上記スイッチング素子とが載置され、
上記ダイオードのp型の半導体層と上記スイッチング素子のn型の基板とが上記導電性支持板で電気的に接続されている。
【0036】
この実施形態のバイポーラ半導体装置によれば、上記ダイオードのp型の半導体層によるアノードを結晶品質が良いp型SiC基板とし、上記スイッチング素子のカソードをn型SiC基板としたので、上記p型SiC基板とn型SiC基板とを同一の導電性支持板上に絶縁物を介在させることなく実装して、冷却能力を損なうことなく逆並列接続の回路モジュールを実現できる。
【0037】
また、一実施形態のバイポーラ半導体装置では、導電性支持板を備え、
上記導電性支持板上に上記スイッチング素子と上記ダイオードとが載置され、
上記スイッチング素子のp型の半導体層と上記ダイオードのn型の基板とが上記導電性支持板で電気的に接続されている。
【0038】
この実施形態のバイポーラ半導体装置によれば、上記スイッチング素子のp型の半導体層によるアノードを結晶品質が良いp型SiC基板とし、上記ダイオードのカソードをn型SiC基板としたので、上記p型SiC基板とn型SiC基板とを同一の導電性支持体上に絶縁物を介在させることなく実装して、冷却能力を損なうことなく逆並列接続の回路モジュールを実現できる。
【0039】
また、一実施形態のバイポーラ半導体装置では、導電性支持板と、
上記導電性支持板上に載置された絶縁基板と、
上記絶縁基板の表面に形成された導電部材とを有し、
上記導電部材上に上記ダイオードと上記スイッチング素子とが載置され、上記導電部材で上記ダイオードのp型の半導体層と上記スイッチング素子のn型の基板とが電気的に接続されている。
【0040】
この実施形態によれば、上記ダイオードとスイッチング素子とが上記絶縁基板を介して導電性支持板上に載置されている。これにより、上記ダイオードやスイッチング素子の熱膨張係数と導電性支持板の熱膨張係数との差異に起因する歪みを上記絶縁基板で吸収することが可能となって、上記歪みの低減が図れ、信頼性の向上が図れる。
【0041】
また、一実施形態のバイポーラ半導体装置では、導電性支持板と、
上記導電性支持板上に載置された絶縁基板と、
上記絶縁基板の表面に形成された導電部材とを有し、
上記導電部材上に上記スイッチング素子と上記ダイオードとが載置され、上記導電部材で上記スイッチング素子のp型の半導体層と上記ダイオードのn型の基板とが電気的に接続されている。
【0042】
この実施形態によれば、上記ダイオードとスイッチング素子とが上記絶縁基板を介して導電性支持板上に載置されている。これにより、上記ダイオードやスイッチング素子の熱膨張係数と導電性支持板の熱膨張係数との差異に起因する歪みを上記絶縁基板で吸収することが可能となって、上記歪みの低減が図れ、信頼性の向上が図れる。
【発明の効果】
【0043】
この発明のバイポーラ半導体素子の製造方法によれば、p型のSiC半導体層を、エピタキシャル成長により作製するから、バルク成長で作製されるp型基板に比べて結晶成長速度が遅く、p型ドーパントであるアルミニウムの濃度を上げても、結晶品質が良くなる。したがって、この結晶品質が良いp型のSiC半導体層を基板に見立てることができ、SiC基板をp型とした結晶品質の良いSiCバイポーラ素子を実現可能になり、インバータ回路における逆並列接続等の回路構成上の自由度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】この発明の第1実施形態のバイポーラ半導体素子としてのダイオード素子の断面図である。
【図2】この発明の第2実施形態のバイポーラ半導体素子としてのGTOの断面図である。
【図3】この発明の第3実施形態のバイポーラ半導体素子としてのpnpトランジスタの断面図である。
【図4】この発明の第4実施形態のバイポーラ半導体素子としてのIGBTの断面図である。
【図5A】この発明の第5実施形態のバイポーラ半導体装置としての逆並列回路モジュールの断面図である。
【図5B】上記第5実施形態を示す回路図である。
【図6A】この発明の第6実施形態のバイポーラ半導体装置としての逆並列回路モジュールの断面図である。
【図6B】上記第6実施形態を示す回路図である。
【図7】上記第5実施形態の変形例を示す断面図である。
【図8】上記第6実施形態の変形例を示す断面図である。
【図9】上記第5または第6実施形態のバイポーラ半導体装置による逆並列回路モジュールで構成したインバータ主回路部を示す回路図である。
【図10A】従来の逆並列回路モジュールの断面図である。
【図10B】上記従来の逆並列回路モジュールの回路図である。
【図11A】上記従来の逆並列回路モジュールが備える整流素子としてのダイオードの断面図である。
【図11B】上記従来の逆並列回路モジュールが備えるスイッチング素子としてのGTOの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、この発明を図示の実施の形態により詳細に説明する。
【0046】
(第1の実施の形態)
図1に、この発明のバイポーラ半導体素子の実施形態としてのダイオード素子1の断面を示す。このダイオード素子1の製造工程では、n型の4H型SiCで作製した基板11の上に、以下に説明する半導体層を形成する。なお、4H型の「H」は六方晶を表し、4H型の「4」は原子積層が4層周期となる結晶構造を表している。
【0047】
この第1実施形態の製造工程では、上記n型の4H型SiC基板11上に、p型4H−SiC、n型4H−SiCを順次エピタキシャル成長させて、後述するように、ダイオード素子1を作製する。
【0048】
図1に示すn型の4H型SiC基板11は、改良レーリー法によって成長させたインゴットをオフ角θを8度にしてスライスし、鏡面研磨することによって作製した。ホール効果測定法によって求めたn型SiC基板11のキャリヤ密度は8×1018cm−3、厚さは400μmである。
【0049】
上記基板21のC面(カーボン面)に、CVD法によってアルミニウムドープp型SiC層(p型成長層)と窒素ドープn型SiC層(n型成長層)とを順次エピタキシャル成長で形成する。上記アルミニウムドープp型SiC層であるp型成長層が、アノード層12とp型のドリフト層13となる。このアノード層12は、アクセプタ密度5×1017cm−3、膜厚は20μmである。また、上記p型のドリフト層13は、アクセプタ密度1.5×1014cm−3、膜厚は75μmである。なお、ドリフト層13の膜厚は一例として60μmから75μmの範囲で設定されるが必ずしもこの範囲に限定されるものではない。また、上記窒素ドープn型SiC層であるn型成長層が、図1に示すn+型カソード層14となる。このn+型カソード層14は、ドナー密度7×1017cm−3、膜厚は10μmである。
【0050】
この実施形態のダイオード素子1は、その作製の過程において、上記n型SiC基板11の上に、p型アノード層12、p型ドリフト層13、n+型カソード層14を順次形成しているが、上記作製時の処理条件を以下により詳しく説明する。
【0051】
先ず、この実施形態のダイオード素子1の製造工程では、材料ガスとして、シラン(SiH)およびプロパン(C)を用いる。ドーパントガスとして窒素(N)およびトリメチルアルミニウム(Al(CH)) を用いる。また、キャリアガスとして水素(H)を用いる。各ガスの流量は、sccm(standard cc per minute)または、slm(standard liter minute)で表す。圧力は、kPa(kilo pascal)で表す。また、以下の説明において、各ガスの名称の後に付したかっこ内の数値は流量を表す。また、上記SiC基板21の温度は1550℃に保たれており、処理チャンバー内の圧力は5.6kPaに保たれている。
【0052】
n型4HSiC基板21のC面にp型SiC成長層であるp+4H-SiCアノード層12を形成する工程では、シリコン原料ガスとしてのシラン(30sccm)、炭素原料ガスとしてのプロパン(12sccm)、トリメチルアルミニウム(30sccm)およびキャリアガスとしての水素(10slm)を供給する。この工程の処理時間は80分である。また、上記p型SiC成長層であるp型SiCドリフト層13を形成する工程では、シラン(30sccm)、プロパン(12sccm)、トリメチルアルミニウム(0.009sccm)およびキャリアガスとしての水素(10slm)を供給する。この工程の処理時間は300分である。
【0053】
また、上記n型SiC成長層であるn+型SiCカソード層14を形成する工程では、シラン(30sccm)、プロパン(12sccm)、窒素(30sccm)およびキャリアガスとしての水素(10slm)を供給する。この工程の処理時間は40分である。
【0054】
次に、上述のようなエピタキシャル成長の後、n型4H-SiC基板11の全ての部分をCMP(化学的機械的研磨)にて除去した。なお、上記p型ドリフト層13の形成工程の後であると共に上記n+型カソード層14の形成工程の前に、上記n型4H-SiC基板11の全ての部分をCMP(化学的機械的研磨)にて除去してもよい。
【0055】
上記の各形成工程の処理により、この第1実施形態のpinダイオード用のSiCエピタキシャルウェハを作製できる。
【0056】
次に、この第1実施形態となるSiCエピタキシャルウェハに、次に説明する加工を施すことによって、図1に示すこの実施形態のダイオード素子1を作製できる。
【0057】
アノードとなるp+型4H-SiCアノード層12の下面に、Ti(チタン:厚さ350nm)とAl(アルミニウム:厚さ100nm)の膜をそれぞれ蒸着し、アノード電極16とする。このアノード電極16は、Ti層とAl層から構成されている。また、上記n+型SiCカソード層14上に、Ni(厚さ350nm)を形成しカソード電極15とする。最後に、1000℃で20分間の熱処理を行って、カソード電極15およびアノード電極16をそれぞれオーミック電極にする。pn接合のサイズは直径が2.6mmφでありほぼ円形である。
【0058】
この第1実施形態のダイオード素子1によれば、上記p型のSiCアノード層12,p型のSiCドリフト層13と上記n+型SiCカソード層14をn型SiC基板11上にエピタキシャル成長により形成してから、上記n型SiC基板11を除去した。つまり、p型基板に見立てる上記p+型4H-SiCアノード層12は、エピタキシャル成長により作製するから、バルク成長で作製されるp型基板に比べて結晶成長速度が遅く、p型ドーパントであるアルミニウムの濃度を上げても、結晶品質が良くなる。したがって、上記p+型4H-SiCアノード層12をp型基板に見立てた結晶品質が良いSiCダイオード素子を実現可能になり、後述するインバータ回路における逆並列接続等の回路構成上の自由度を向上させることができる。
【0059】
(第2の実施の形態)
次に、図2に、この発明のバイポーラ半導体素子の第2実施形態としてのGTO30の断面を示す。この第2実施形態のGTO30の製造工程では、n型の4H型SiCで作製した基板31の上に、以下に説明する半導体層を形成する。
【0060】
この第2実施形態の製造工程では、上記n型の4H型SiC基板31上に、p型4H−SiC、n型4H−SiC、p型4H−SiC、n型4H−SiCを順次エピタキシャル成長させて、後述するように、GTO30を作製する。
【0061】
図2に示すn型の4H型SiC基板31は、改良レーリー法によって成長させたインゴットをオフ角θを8度にしてスライスし、鏡面研磨することによって作製した。ホール効果測定法によって求めたn型SiC基板31のキャリヤ密度は8×1018cm−3、厚さは400μmである。
【0062】
上記基板31のC面(カーボン面)に、CVD法によってアルミニウムドープp型SiC層(第1のp型成長層)、窒素ドープn型SiC層(第1のn型成長層)、アルミニウムドープp型SiC層(第2のp型成長層)、窒素ドープn型SiC層(第2のn型成長層)を順次エピタキシャル成長で形成する。
【0063】
上記アルミニウムドープp型SiC層である第1のp型成長層が、p型アノードエミッタ層32となる。このp型アノードエミッタ層32は、アクセプタ密度5×1017cm−3、膜厚は20μmである。また、上記窒素ドープn型SiC層である第1のn型成長層が、n型バッファ層33およびn型ドリフト層34となる。上記n型バッファ層33は、ドナー密度7×1017cm−3、膜厚は75μmである。また、上記n型ドリフト層33は、ドナー密度1.5×1014cm−3、膜厚は75μmである。
【0064】
また、上記アルミニウムドープp型SiC層である第2のp型成長層が、p型ドリフト層35となる。このp型ドリフト層35は、アクセプタ密度1×1017cm−3、膜厚は20μmである。また、窒素ドープn型SiC層である第2のn型成長層が、n+型カソード層36となる。このn+型カソード層36は、ドナー密度7×1017cm−3、膜厚は25μmである。
【0065】
この実施形態のGTO30は、その作製の過程において、上記n型SiC基板31の上に、p型アノードエミッタ層32、n型バッファ層33、n型ドリフト層34、p型ドリフト層35、n+型カソード層36を順次形成しているが、上記作製時の処理条件を以下により詳しく説明する。
【0066】
先ず、この実施形態のGTO30の製造工程では、材料ガスとして、シラン(SiH)およびプロパン(C)を用いる。ドーパントガスとして窒素(N)およびトリメチルアルミニウム(Al(CH)) を用いる。また、キャリアガスとして水素(H)を用いる。各ガスの流量は、sccm(standard cc per minute)または、slm(standard liter minute)で表す。圧力は、kPa(kilo pascal)で表す。また、以下の説明において、各ガスの名称の後に付したかっこ内の数値は流量を表す。また、上記SiC基板31の温度は1550℃に保たれており、処理チャンバー内の圧力は5.6kPaに保たれている。
【0067】
n型4HSiC基板31のC面にp型SiC成長層であるp+4H-SiCアノードエミッタ層32を形成する工程では、シリコン原料ガスとしてのシラン(30sccm)、炭素原料ガスとしてのプロパン(12sccm)、トリメチルアルミニウム(30sccm)およびキャリアガスとしての水素(10slm)を供給する。この工程の処理時間は80分である。
【0068】
また、上記n型SiC成長層であるn型バッファ層33を形成する工程では、シラン(30sccm)、プロパン(12sccm)、窒素(30sccm)およびキャリアガスとしての水素(10slm)を供給する。この工程の処理時間は40分である。上記n型SiC成長層であるn型ドリフト層34を形成する工程では、シラン(30sccm)、プロパン(12sccm)、窒素(0.006sccm)およびキャリアガスとしての水素(10slm)を供給する。この工程の処理時間は300分である。
【0069】
また、上記p型SiC成長層であるp型SiCドリフト層35を形成する工程では、シラン(30sccm)、プロパン(12sccm)、トリメチルアルミニウム(6sccm)およびキャリアガスとしての水素(10slm)を供給する。この工程の処理時間は80分である。また、上記n型カソード層36となる第2のn型SiC成長層を形成する工程では、シラン(30sccm)、プロパン(12sccm)、窒素(30sccm)およびキャリアガスとしての水素(10slm)を供給する。この工程の処理時間は100分である。
【0070】
次に、上述のようなエピタキシャル成長の後、n型4H-SiC基板31の全ての部分をCMP(化学的機械的研磨)にて除去した。なお、上記p+4H-SiCアノードエミッタ層32の形成工程の後であると共に上記n型バッファ層33の形成工程の前に、上記n型4H-SiC基板31の全ての部分をCMP(化学的機械的研磨)にて除去してもよい。また、上記n型4H-SiC基板31を除去する工程は、上記n型バッファ層33を形成する工程または上記n型ドリフト層34を形成する工程の次に行なってもよく、上記p型SiCドリフト層35を形成する工程の次に行なってもよい。
【0071】
上記の各形成工程の処理により、この第1実施形態のpinダイオード用のSiCエピタキシャルウェハを作製できる。
【0072】
なお、上記n型バッファ層33は必ずしも必要ではなく、これを形成しない場合もある。また、p型アノードエミッタ層32とn型バッファ層33の間に、p型バッファ層を形成してもよい。
【0073】
次に、上記第2のn型SiC成長層のうちの、上記n型カソード層36となる領域を残して、他の領域を反応性イオンエッチング法により、p型ドリフト層35の表面が露出しかつ表面部分がいくらか除去される程度に深くエッチングしてメサ型のn型カソード層36を形成する。また、上記露出したp型ドリフト層35にイオン注入をして、順次、p+型の埋込ゲート領域38およびp+型のゲートコンタクト領域37を、メサ型のn型カソード層36を取り囲むように形成する。なお、上記p+型の埋込ゲート領域38は必ずしも必要でなく、これを形成しない場合もある。
【0074】
上記p型の埋込ゲート領域38の不純物濃度は、p型ドリフト層35の不純物濃度の3倍以上であるのが好ましい。イオン注入の工程でp型の埋込ゲート領域38がp型ドリフト層35の上面近傍にまで形成されてもよい。p型の埋込ゲート領域38は、メサ型のn型カソード層36とp型ドリフト層35の接合部から若干離れて形成される。p+型のゲートコンタクト領域37はp型の埋込ゲート領域38より更に不純物濃度の高い低抵抗領域であり、上記接合部から離れた位置に形成される。
【0075】
次に、アノードとなるp+型4H-SiCアノード層32の下面に、Ti(チタン:厚さ350nm)とAl(アルミニウム:厚さ100nm)の膜をそれぞれ蒸着し、アノード電極41とする。このアノード電極41は、Ti層とAl層から構成されている。また、上記n型カソード層36にNi(厚さ350nm)を形成しカソード電極39を形成する。また、上記p+型ゲートコンタクト領域37上にNi(厚さ350nm)を形成しゲート電極40が形成される。最後に、1000℃で20分間の熱処理を行って、カソード電極39,ゲート電極40およびアノード電極41をそれぞれオーミック電極にする。
【0076】
この第2実施形態のGTO30によれば、上記p型のSiCアノードエミッタ層32,n型バッファ層33とn型ドリフト層34,p型ドリフト層35,n型カソード層36をn型SiC基板31上にエピタキシャル成長により形成してから、上記n型SiC基板31を除去した。つまり、p型基板に見立てる上記p+型4H-SiCアノード層32を、エピタキシャル成長により作製するから、バルク成長で作製されるp型基板に比べて結晶成長速度が遅く、p型ドーパントであるアルミニウムの濃度を上げても、結晶品質が良くなる。したがって、この結晶品質が良いp+型4H-SiCアノード層32をp型基板に見立てた結晶品質の良いSiC GTOを実現可能になり、後述するインバータ回路における逆並列接続等の回路構成上の自由度を向上させることができる。
【0077】
尚、上記第2実施形態では、本発明のバイポーラ半導体素子がサイリスタの一例としてのGTO(ゲートターンオフサイリスタ)について説明したが、本発明はGTO以外のサイリスタにも適用できる。
【0078】
(第3の実施の形態)
次に、図3に、この発明のバイポーラ半導体素子の第3実施形態としてのpnpバイポーラトランジスタ50の断面を示す。この第3実施形態のpnpバイポーラトランジスタ50の製造工程では、n型の4H型SiCで作製した基板51の上に、以下に説明する半導体層を形成する。
【0079】
この第3実施形態のpnpバイポーラトランジスタ50は、その製造工程において、n型の4H型SiCを用いた基板の(000−1)カーボン面上に、p型4H−SiC、n型4H−SiC、p型4H−SiCの順番で連続的にエピタキシャル成長させ、pnpバイポーラトランジスタ50を作製した。
【0080】
n型の4H型SiCの基板51は、改良レーリー法によって成長したインゴットをオフ角θが8度となるようにスライスし、鏡面研磨することによって作製した。上記SiC基板51はn型であり、ホール効果測定法によって測定したキャリヤ密度は8×1018cm−3、厚さは400μmである。このSiC基板51のC面上に、CVD法によってアルミニウムドープp型SiC層であるp+4H-SiCアノードエミッタ層52とp型SiCドリフト層53を成膜する。このp+4H-SiCアノードエミッタ層52は、アクセプタ密度5×1017cm−3、膜厚は20μmである。また、上記p型SiCドリフト層53は、アクセプタ密度1.5×1014cm−3、膜厚は75μmである。上記p+4H-SiCアノードエミッタ層52とp型SiCドリフト層53とがp型エミッタ層になる。
【0081】
上記p型SiCドリフト層53上に窒素ドープのn型SiC成長層54、およびアルミドープのp型SiC成長層55を順にエピタキシャル成長法で成膜した。n型ベース層となるn型SiC成長層54はドナー密度7×1017cm−3、膜厚は1μmである。また、上記p型SiC成長層55はアクセプタ密度約2×1017cm−3、膜厚は0.75μmである。
【0082】
次に、この実施形態のpnpバイポーラトランジスタ50を作製するときの処理条件を説明する。材料ガスとして、シラン(SiH)およびプロパン(C)を用いる。ドーパントガスとして窒素(N)およびトリメチルアルミニウム{Al(CH)}を用いる。また、キャリアガスとして水素(H)を用いる。基板の温度は1550℃に保たれており、処理チャンバー内の圧力は5.6kPaに保たれている。各ガスの流量は、sccm(standard cc per minute)または、slm(standard liter minute)で表す。また、圧力は、kPa(kilo pascal)で表す。そして、以下の説明において、各ガスの名称の後に付したかっこ内の数値は流量を表す。
【0083】
n型4HSiC基板51のC面にp型SiC成長層であるp+4H-SiCアノードエミッタ層52を形成する工程では、シリコン原料ガスとしてのシラン(30sccm)、炭素原料ガスとしてのプロパン(12sccm)、トリメチルアルミニウム(30sccm)およびキャリアガスとしての水素(10slm)を供給する。この工程の処理時間は80分である。
【0084】
また、上記p型SiC成長層であるp型SiCドリフト層53を形成する工程では、シラン(30sccm)、プロパン(12sccm)、トリメチルアルミニウム(0.009sccm)およびキャリアガスとしての水素(10slm)を供給する。この工程の処理時間は300分である。
【0085】
また、上記n型SiC成長層54となるn型SiC成長層を形成する工程では、シラン(30sccm)、プロパン(12sccm)、窒素(30sccm)およびキャリアガスとしての水素(10slm)を供給する。この工程の処理時間は4分である。また、上記p型SiC成長層55となるp型SiC成長層を形成する工程では、シラン(30sccm)、プロパン(12sccm)、トリメチルアルミニウム(6sccm)および水素(10slm)を供給する。この工程の処理時間は3分である。
【0086】
次に、上述のようなエピタキシャル成長の後、n型4HSiC基板51の全ての部分をCMP(化学的機械的研磨)にて除去した。なお、上記p型SiCドリフト層53の形成工程の後であると共に上記n型成長層54の形成工程の前に、n型4HSiC基板51の全ての部分をCMP(化学的機械的研磨)にて除去してもよい。
【0087】
上記の各工程の処理により、この第3実施形態のpnpバイポーラトランジスタ用のSiCエピタキシャルウェハを作製できる。そして、この第2実施形態用のSiCエピタキシャルウエハに以下に説明する加工を施すことにより図2に示す第2実施形態のpnpバイポーラトランジスタ50を作製できる。
【0088】
まず、反応性イオンエッチング(RIE)によりp型成長層55となるp型成長層を幅10μm、深さ0.75μm、ピッチ23μmでエッチングし、コレクタとなるn型成長層55を残す。このRIEのエッチングガスとしては、CFとOを用い、圧力は0.05Torr、高周波電力260Wの条件でエッチングした。また、このときのマスク材料として、CVDによって堆積したSiO膜(厚さ10μm)を用いた。
【0089】
次に、ベース領域において素子分離を行うために、反応性イオンエッチング(RIE)により上記n型SIC成長層54をメサ構造にする。このRIEのエッチングガスにはCFとOを用い、圧力は0.05Torr、高周波電力260Wの条件で深さ約1μmまでエッチングした。このときのマスク材料として、CVDによって堆積したSiO膜(厚さ10μm)を用いた。
【0090】
この第3実施形態では、ベース端部での電界集中を緩和するためのn型ガードリング56と、ベースのコンタクト領域57を同一プロセスの窒素イオン注入によって形成した。ベースのコンタクト領域57は幅3μmでエミッタとの間隔は5μmであり、n型ガードリング56の幅は150μmである。コンタクト領域57,p型ガードリング56の深さは共に0.5μmである。
【0091】
上記n型ガードリング56、ベースのコンタクト領域57を形成する時の窒素イオン注入のエネルギーは40〜560keVであり、トータルドーズ量は1.0×1013cm−2である。このイオン注入のマスクとしては、CVDにより形成したSiO膜(厚さ5μm)を用いた。また、イオン注入はすべて室温で行い、注入イオン活性化のための熱処理はアルゴンガス雰囲気中の温度1600℃、時間5分の条件で行った。
【0092】
次に、アニールの後、温度1150℃で2時間のウェット酸化によって熱酸化膜を形成し、さらにCVDによってSiO膜を堆積させ、合計2μmの酸化膜58を形成した。次に、エミッタとなるp+型4H-SiCアノードエミッタ層52の下面に、エミッタ電極59Cを形成する。また、ベースコンタクト領域57にベース電極59Bを形成する。また、コレクタ領域であるp型SiC成長層55にNiを蒸着してコレクタ電極69を形成する。次に、1000℃、20分間の熱処理を行ってそれぞれオーミック接合を形成した。
【0093】
最後に、ベース電極59Bおよびコレクタ電極69をTi/Au電極70で覆って各電極端子を形成した。接合部の大きさは3.2mm×3.2mmである。
【0094】
この第3実施形態のpnpトランジスタ50によれば、上記p型のSiCアノードエミッタ層52,p型SiCドリフト層53とn型SiC成長層54,p型SiC成長層55をn型SiC基板51上にエピタキシャル成長により形成してから、上記n型SiC基板51を除去した。つまり、p型基板に見立てる上記p+型4H-SiCアノードエミッタ層52を、エピタキシャル成長により作製するから、バルク成長で作製されるp型基板に比べて結晶成長速度が遅く、p型ドーパントであるアルミニウムの濃度を上げても、結晶品質が良くなる。したがって、この結晶品質が良いp+型4H-SiCアノードエミッタ層52をp型基板に見立てた結晶品質の良いSiCpnpトランジスタ50を実現できる。よって、後述するインバータ回路における逆並列接続等の回路構成上の自由度を向上させることができる。
【0095】
(第4の実施の形態)
次に、図4に、この発明のバイポーラ半導体素子の第4実施形態としてのIGBT80の断面を示す。
【0096】
この第4実施形態のIGBT80の製造工程では、n型の6H型SiCで作製した基板71の上に、膜厚の時間(h)当たりの増加速度が15μm/hで、p型6H−SiC層、n型6H−SiC層、p型6H−SiC層、n型6H−SiC層の順番で4つの層をエピタキシャル成長させ、以下に詳しく説明するようにして、IGBT80を作製した。このIGBT80では、p層とn層の主たる接合面(図において紙面に垂直な方向に広がる面)は、{0001}面となっている。
【0097】
次に、このIGBT80の作製方法を説明する。すなわち、面方位が、(000−1)カーボン面から3.5度のオフ角θの面をもつn型の6H型SiCを用いた基板上に、15μm/hの成膜速度で、p型6H−SiC層、n型6H−SiC層、p型6H−SiC層、n型6H−SiC層を順次形成する。
【0098】
上記n型の6H型SiC基板71は、改良レーリー法によって成長したインゴットを(000−1)カーボン面から3.5度傾いた面でスライスし、鏡面研磨することによって作製した。上記6H型SiC基板71はn型で、厚さは400μm、ホール効果測定法によって求めたキャリヤ密度は5×1018cm−3である。
【0099】
このSiC基板71上に、CVD法によって、第1のアルミニウムドープp型SiC層、第1の窒素ドープn型SiC層、第2のアルミニウムドープp型SiC層、第2の窒素ドープn型SiC層の四層を連続的にエピタキシャル成長した。
【0100】
上記第1のアルミニウムドープp型SiC層は、図4のp+6H‐SiCアノードエミッタ層72となる。このp+6H‐SiCアノードエミッタ層72は、アクセプタ密度が5×1017cm−3、膜厚は20μmである。また、上記第1の窒素ドープn型SiC層は、n型SiCドリフト層73となる。このn型SiCドリフト層73は、ドナー密度が1.5×1014cm−3、膜厚は75μmである。また、n型SiCドリフト層73の上に形成されるp型成長層74は、上記第2のアルミニウムドープp型SiC層で作製され、アクセプタ密度が2×1017cm−3、膜厚は2μmである。また、上記p型成長層74上に形成されるn型成長層75は、上記第2の窒素ドープn型SiC層で作製され、ドナー密度が約1×1018cm−3、膜厚は0.75μmである。
【0101】
次に、このIGBT80を作製するときの処理条件を説明する。
【0102】
まず、材料ガスとして、シラン(SiH)およびプロパン(C)を用いる。また、ドーパントガスとして窒素(N)およびトリメチルアルミニウム{Al(CH)}を用いる。また、キャリアガスとして水素(H)を用いる。ここで、各ガスの流量は、sccm(standard cc per minute)または、slm(standard liter minute)で表す。また、圧力は、kPa(kilo pascal)で表す。また、以下の説明において、各ガスの名称の後に付したかっこ内の数値は流量を表す。
【0103】
n型SiC基板71の温度は1550℃に保たれており、処理チャンバー内の圧力は5.6kPaに保たれている。このn型SiC基板71のC面上に、p+6H‐SiCアノードエミッタ層72を形成する工程では、シラン(30sccm)、プロパン(12sccm)、トリメチルアルミニウム(30sccm)およびキャリアガスとしての水素(10slm)を供給する。この工程の処理時間は80分である。
【0104】
また、上記n型SiCドリフト層73を形成する工程では、シラン(30sccm)、プロパン(12sccm)、窒素(0.006sccm)および水素(10slm)を供給する。この工程の処理時間は300分である。
【0105】
また、上記p型成長層74を形成する工程では、シラン(30sccm)、プロパン(12sccm)、トリメチルアルミニウム(12sccm)およびキャリアガスとしての水素(10slm)を供給する。この工程の処理時間は8分である。また、上記n型成長層75を形成する工程では、シラン(30sccm)、プロパン(12sccm)、窒素(45sccm)および水素(10slm)を供給する。この工程の処理時間は3分である。
【0106】
次に、上述のようなエピタキシャル成長の後、n型SiC基板71の全ての部分をCMP(化学的機械的研磨)にて除去した。なお、上記n型SiCドリフト層73の形成工程の後であると共に上記p型成長層74の形成工程の前に、n型SiC基板71の全ての部分をCMP(化学的機械的研磨)にて除去してもよい。
【0107】
上記の各工程での処理により、このIGBT80用のSiCエピタキシャルウェハができる。そして、この第4実施形態用のSiCエピタキシャルウェハに、次に説明する加工を施すことによって、図4に示すIGBT80を作製できる。
【0108】
まず、フォトリソグラフ法を用いて、n型成長層75の中央部をRIEでエッチングして、孔76aを設け、アルミニウムをイオン注入することにより、コレクタとなるコンタクト領域76を形成する。次に、ゲート領域を形成するために、RIEによりn型成長層75とp型成長層74をエッチングして孔78a(図4では2つ)をあける。次に、孔78aの壁面にMOS構造を形成するために、CVDによりSiO膜を堆積させ、絶縁膜77を形成する。
【0109】
次に、p+6H-SiCアノードエミッタ層72によるエミッタ領域にNiを蒸着してエミッタ電極79Cとする。また、コレクタとなるコンタクト領域76にコレクタ電極79を蒸着する。次に、熱処理を行って、それぞれオーミック接合を形成する。さらに、絶縁膜77の上にMo電極を形成しゲート電極78とする。
【0110】
こうして完成した本実施形態のIGBT80は、上記p型のSiCアノードエミッタ層72,n型SiCドリフト層73とp型SiC成長層74,n型SiC成長層75をn型SiC基板71上にエピタキシャル成長により形成してから、上記n型SiC基板71を除去した。つまり、p型基板に見立てる上記p+型4H-SiCアノード層72を、エピタキシャル成長により作製するから、バルク成長で作製されるp型基板に比べて結晶成長速度が遅く、p型ドーパントであるアルミニウムの濃度を上げても、結晶品質が良くなる。したがって、この結晶品質が良いp+型4H-SiCアノード層72をp型基板に見立てた結晶品質の良いSiC IGBTを実現可能になる。よって、後述するインバータ回路における逆並列接続等の回路構成上の自由度を向上させることができる。
【0111】
(第5の実施の形態)
次に、図5Aの断面模式図を参照して、この発明の第5実施形態であるバイポーラ半導体装置として回路モジュール700を説明する。
【0112】
この回路モジュール700は、図1を参照して説明した前述の第1実施形態のダイオード素子1と図10Bを参照して説明したスイッチング素子としてのGTO100とを備える。図5Bの回路図に示すように、上記ダイオード素子1と上記GTO100は逆並列接続される。
【0113】
図5Aに示すように、上記スイッチング素子としてのGTO100は、カソードKをなすn+型4H‐SiC基板101に形成したカソード電極109が導電性支持体701上に直接に載置されて電気的に接続されている。上記カソード電極109は、一例として金シリコン,金スズ,金ゲルマニウムのような金系半田やその他の高温半田でもって上記導電性支持体701に電気的に接続される。また、上記導電性支持体701は、一例として銅で作製される。一方、上記GTO100のアノードAをなすメサ形状のp+型SiCアノードエミッタ層106に形成されたアノード電極110は、リード線708で端子705に電気的に接続されている。上記リード線708は、一例としてアルミニウム,金,銅等で作製される。また、上記端子705は、絶縁体711でもって導電性支持体701との間の絶縁を保ちつつ導電性支持体701を貫通して固定されている。また、上記GTO100のゲート電極111は、リード線709により、ゲート端子703の上端に接続されている。上記リード線709は、例えばアルミニウム,金,銅等で作製される。上記ゲート端子703は、絶縁体713でもって導電性支持体701との間の絶縁を保ちつつ導電性支持体701を貫通して固定されている。
【0114】
また、上記整流素子としてのダイオード素子1のアノードAをなすp+型4H-SiCアノード層12に形成されたアノード電極16が導電性支持体701上に直接に載置されて電気的に接続されている。上記アノード電極16は、一例として金シリコン,金スズ,金ゲルマニウムのような金系半田やその他の高温半田でもって上記導電性支持体701に電気的に接続される。一方、このダイオード素子1のカソードKをなすn+型SiCカソード層14に形成されたカソード電極15はリード線707で端子706に電気的に接続されている。上記リード線707は、例えばアルミニウム,金,銅等で作製される。
【0115】
上記導電性支持体701には窒素雰囲気中で金属キャップ702が溶接され、内部空間には窒素ガスが満たされている。なお、導電性支持体701に装着した上記ダイオード素子1およびGTO100をエポキシ樹脂等のモールドレジン(樹脂)を用いてモールドすれば金属キャップ702は不要になる。
【0116】
この実施形態のバイポーラ半導体装置としての回路モジュール700によれば、上記ダイオード素子1の結晶品質が良いp型のSiCアノード層12をp型SiC基板と見立ててアノードをとし、上記スイッチング素子としてのGTO100のn型SiC基板101をカソードとした。これにより、上記p型SiC基板と見立てた結晶品質が良いp型のSiCアノード層12とn型SiC基板101とを同一の導電性支持体701上に絶縁物を介在させることなく実装して、冷却能力を損なうことなく逆並列接続の回路モジュールを実現できる。
【0117】
なお、上記実施形態の回路モジュール700では、n型SiC基板をカソードとしたGTO100をスイッチング素子として備えたが、スイッチング素子としてGTOに替えてn型SiC基板をコレクタとしたnpnトランジスタを備えてもよい。この場合、このnpnトランジスタのコレクタをなすn型SiC基板に形成したコレクタ電極を導電性支持体701に直接電気的に接続すると共にエミッタをなすn型SiC成長層に形成したエミッタ電極をリード線708で端子705に電気的に接続し、ベース電極をリード線709で端子703に電気的に接続する。
【0118】
また、スイッチング素子としてGTOに替えてn型SiC基板をコレクタとしたIGBTを備えてもよい。この場合、このIGBTのコレクタをなすn型SiC基板に形成したコレクタ電極を導電性支持体701に直接電気的に接続すると共にエミッタをなすn型SiC成長層に形成したエミッタ電極をリード線708で端子705に電気的に接続し、ゲート電極をリード線709で端子703に電気的に接続する。
【0119】
次に、図7の断面模式図に、上記第5実施形態の回路モジュール700の変形例としての回路モジュール750を示す。この変形例の回路モジュール750は、上記導電性支持体701上に配置された絶縁基板710を有する点が前述の第5実施形態と異なる。よって、この変形例では、前述の第5実施形態と同様の部分には同様の符号を付して、前述の第5実施形態と異なる点を主として説明する。
【0120】
上記絶縁基板710は、両面に導電部材としての導電膜721,722が形成されている。上記導電膜721,722は一例として銅で作製される。上記導電膜722は上記金系半田や高温半田でもって導電性支持体701に電気的に接続されている。また、上記絶縁基板710上の導電膜721上に上記ダイオード素子1と上記スイッチング素子としてのGTO100が載置されている。このダイオード素子1のアノード電極16とGTO100のカソード電極109とが上記金系半田や高温半田でもって上記導電膜721に電気的に接続されている。この導電膜721は、例えば、図示しないリード線等で上記導電性支持板701に電気的に接続される。また、上記ゲート端子703は、絶縁体713でもって導電性支持体701との間の絶縁を保ちつつ導電性支持体701を貫通して固定されている。一方、上記ゲート端子703と絶縁体713は、上記絶縁基板710および導電膜721,722に対して図7における奥行方向に位置ずれしており、上記絶縁基板710および導電膜721,722を貫通していない。この変形例によれば、ダイオード素子1とGTO100とが導電膜721,722で挟んだ絶縁基板710を介して導電性支持板701上に載置されている。これにより、ダイオード素子1やGTO100の熱膨張係数と導電性支持板701の熱膨張係数との差異に起因する歪みを上記絶縁基板710で吸収することが可能となって、上記歪みの低減が図れ、信頼性を向上できる。なお、上記絶縁基板710の材質としては、一例として、アルミナ等のセラミックス、窒化アルミニウム、石英ガラス等を採用できる。また、上記導電膜721,722を導電板としてもよい。
【0121】
(第6の実施の形態)
次に、図6Aの断面模式図を参照して、この発明の第6実施形態であるバイポーラ半導体装置として回路モジュール800を説明する。この第6実施形態の回路モジュール800は、ダイオード素子1に替えてダイオード素子200を備える点とGTO100に替えてGTO30を備える点とが図5A,図5Bを参照して説明した前述の第5実施形態の回路モジュール700と異なる。
【0122】
この回路モジュール800は、図2を参照して説明した前述の第2実施形態のスイッチング素子としてのGTO30と図10Aを参照して説明した整流素子としてのダイオード素子200を備える。図6Bの回路図に示すように、上記ダイオード素子200と上記GTO30は逆並列接続される。
【0123】
図6Aに示すように、上記スイッチング素子としてのGTO30は、アノードAをなすp型4H-SiCアノードエミッタ層32に形成したアノード電極41が導電性支持体801上に直接に載置されて電気的に接続されている。上記アノード電極41は、一例として金シリコン,金スズ,金ゲルマニウムのような金系半田やその他の高温半田でもって上記導電性支持体801に電気的に接続される。また、上記導電性支持体801は、一例として銅で作製される。一方、上記GTO30のカソードKをなすメサ形状のn+型SiCカソード層36に形成されたカソード電極39は、リード線808で端子805に電気的に接続されている。上記リード線808は、一例としてアルミニウム,金,銅等で作製される。また、上記端子805は、絶縁体811でもって導電性支持体801との間の絶縁を保ちつつ導電性支持体801を貫通して固定されている。また、上記GTO30のゲート電極40は、リード線809により、ゲート端子803の上端に接続されている。上記リード線809は例えばアルミニウム,金,銅等で作製される。上記ゲート端子803は、絶縁体813でもって導電性支持体801との間の絶縁を保ちつつ導電性支持体801を貫通して固定されている。
【0124】
また、上記整流素子としてのダイオード素子200のカソードKをなすn+型4H‐SiC基板201に形成されたカソード電極205が導電性支持体801上に直接に載置されて電気的に接続されている。上記カソード電極205は、一例として金シリコン,金スズ,金ゲルマニウムのような金系半田やその他の高温半田でもって上記導電性支持体801に電気的に接続される。一方、このダイオード素子200のアノードAをなすp+型SiCアノード層203に形成されたアノード電極206はリード線807で端子806に電気的に接続されている。上記リード線807は、例えばアルミニウム,金,銅等で作製される。
【0125】
上記導電性支持体801には窒素雰囲気中で金属キャップ802が溶接され、内部空間には窒素ガスが満たされている。なお、導電性支持体801に装着した上記ダイオード素子200およびGTO30をエポキシ樹脂等のモールドレジン(樹脂)を用いてモールドすれば金属キャップ802は不要になる。
【0126】
この実施形態のバイポーラ半導体装置としての回路モジュール800によれば、上記スイッチング素子としてのGTO30のp型4H-SiCアノードエミッタ層32によるアノードを結晶品質が良いp型SiC基板とし、上記ダイオード素子200のカソードをn型SiC基板201としたので、上記結晶品質が良いp型SiC基板としてのp型4H-SiCアノードエミッタ層32とn型SiC基板201とを同一の導電性支持体801上に絶縁物を介在させることなく実装して、冷却能力を損なうことなく逆並列接続の回路モジュールを実現できる。
【0127】
なお、上記実施形態の回路モジュール800では、p型SiCアノードエミッタ層32をアノードとしたGTO30をスイッチング素子として備えたが、GTO30に替えて、スイッチング素子としてp+4H-SiCアノードエミッタ層52をエミッタとした第3実施形態のpnpトランジスタ50を備えてもよい。この場合、上記pnpトランジスタ50のエミッタ電極59Cを導電性支持体801上に直接載置し、エミッタ電極59Cを上記金系半田や高温半田でもって導電性支持体801に電気的に接続する。また、上記pnpトランジスタ50のコレクタ電極69をリード線808で端子805に電気的に接続する。また、上記pnpトランジスタ50のベース電極59Bをリード線809で端子803に電気的に接続する。
【0128】
また、スイッチング素子としてGTO30に替えて、p+型4H-SiCアノード層72をアノードエミッタとした第4実施形態のIGBT80を備えてもよい。この場合、上記IGBT80のエミッタ電極79Cを導電性支持体801上に直接載置し、エミッタ電極59Cを上記金系半田や高温半田でもって導電性支持体801に電気的に接続する。また、上記IGBT80のコレクタ電極79をリード線808で端子805に電気的に接続する。また、上記IGBT80のゲート電極78をリード線809で端子803に電気的に接続する。
【0129】
次に、図8の断面模式図に、上記第6実施形態の回路モジュール800の変形例としての回路モジュール850を示す。この変形例の回路モジュール850は、上記導電性支持体801上に配置された絶縁基板810を有する点が前述の第6実施形態と異なる。よって、この変形例では、前述の第6実施形態と同様の部分には同様の符号を付して、前述の第6実施形態と異なる点を主として説明する。
【0130】
上記絶縁基板810は、両面に導電部材としての導電膜821,822が形成されている。上記導電膜821,822は一例として銅で作製される。上記導電膜822は上記金系半田や高温半田でもって導電性支持体801に電気的に接続されている。また、上記絶縁基板810上の上記導電膜821上に上記ダイオード素子200と上記スイッチング素子としてのGTO30が載置されている。このダイオード素子200のカソード電極205と上記GTO30のアノード電極41とが上記金系半田や高温半田でもって上記導電膜821に電気的に接続されている。この導電膜821は、例えば、図示しないリード線等で上記導電性支持板801に電気的に接続される。また、上記ゲート端子803は、絶縁体813でもって導電性支持体801との間の絶縁を保ちつつ導電性支持体801を貫通して固定されている。一方、上記ゲート端子803と絶縁体813は、上記絶縁基板810および導電膜821,822に対して図8における奥行方向に位置ずれしており、上記絶縁基板810および導電膜821,822を貫通していない。この変形例によれば、ダイオード素子200とGTO30とが導電膜821,822で挟んだ絶縁基板810を介して導電性支持板801上に載置されている。これにより、ダイオード素子200やGTO30の熱膨張係数と導電性支持板801の熱膨張係数との差異に起因する歪みを上記絶縁基板810で吸収することが可能となって、上記歪みの低減が図れ、信頼性を向上できる。なお、上記絶縁基板810の材質としては、例えば、アルミナ等のセラミックス、窒化アルミニウム、石英ガラス等を採用できる。また、上記導電膜821,822を導電板としてもよい。
【0131】
(第7の実施の形態)
図7は、この発明の第7実施形態としての三相インバータ主回路部の回路図である。この三相インバータ主回路部は、上記第5実施形態の回路モジュール700を6つ備えている。
【0132】
図7に示すように、この三相インバータ主回路部1000は、上記回路モジュール700によるダイオード素子1とGTO100との逆並列接続回路1001を6つ備え、直流電源1002から交流出力を得る。
【0133】
尚、上記第5実施形態で述べたのと同様、各並列接続回路1001において、スイッチング素子を、GTO100に替えて、n型SiC基板をコレクタとしたnpnトランジスタまたはn型SiC基板をコレクタとしたIGBTを備えてもよい。また、上記各並列接続回路1001を、上記第5実施形態の回路モジュール700に替えて、上記第6実施形態の回路モジュール800で構成してもよい。
【0134】
上述のように、上記実施形態のSiCバイポーラ素子(ダイオード素子1,GTO30,pnpバイポーラトランジスタ50,IGBT80)およびそれを用いたバイポーラ半導体装置(回路モジュール700,800)は、家電分野、産業分野、電気自動車などの車両分野、送電などの電力系統分野等において、例えばインバータなどの電力制御装置等に組込んで使用される。上記各実施形態を電力制御装置に組み込むことで、熱抵抗を低減することになり、冷却性能が向上し、素子の接合温度を下げることができる。その結果、SiCバイポーラ素子の破壊を防ぐだけでなく、大電流通電が可能となると共に装置の信頼性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0135】
1 ダイオード素子
11 n型の4H型SiC基板
12 p型の4H-SiCアノード層
13 p型のSiCドリフト層
14 n型のSiCカソード層
15 カソード電極
16 アノード電極
30 GTO
31 n型SiC基板31
32 p型SiCアノードエミッタ層
33 n型SiCバッファ層
34 n型SiCドリフト層
35 p型SiCドリフト層
36 n+型カソード層
37 p+型ゲートコンタクト領域
38 p型埋込ゲート領域
39 カソード電極
40 ゲート電極
41 アノード電極
50 pnpバイポーラトランジスタ
51 n型SiC基板
52 p型SiCアノードエミッタ層
53 p型SiCドリフト層(コレクタ層)
54 n型SiC成長層(ベース層)
55 p型SiC成長層(コレクタ層)
56 n型ガードリング
57 ベースコンタクト領域
58 酸化膜
59B ベース電極
59C エミッタ電極
69 コレクタ電極
70 Ti/Au電極
71 n型6H型SiC基板
72 p型6H-SiCアノードエミッタ層
73 n型SiCドリフト層(ベース層)
74 p型成長層
75 n型成長層
76 コンタクト領域(コレクタ)
77 絶縁膜
78 ゲート電極
79 コレクタ電極
80 IGBT
100 GTO
101 n+型4H‐SiC基板
102 p型SiCバッファ層
103 p−型SiCドリフト層
105 n型SiCドリフト層
106 p+型SiCアノードエミッタ層
109 カソード電極
110 アノード電極
111 ゲート電極
200 ダイオード素子
201 n+型4H‐SiC基板
202 n型SiCドリフト層
203 p+型SiCアノード層
205 カソード電極
206 アノード電極
700,750,800,850 回路モジュール
701,801 導電性支持体
710,810 絶縁基板
721,722,821,822 導電膜
702,802 金属キャップ
703,705,706,803,805,806 端子
707,708,709,807,808,809 リード線
811,812,813 絶縁体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化けい素半導体で作製されたn型の基板上に炭化けい素半導体でエピタキシャル成長によりp型の半導体層を形成し、
上記p型の半導体層上に炭化けい素半導体でn型の半導体層を形成し、
上記n型の基板を除去することを特徴とするバイポーラ半導体素子の製造方法。
【請求項2】
炭化けい素半導体で作製されたp型の半導体層と、
上記p型の半導体層上に形成されていると共に炭化けい素半導体で作製されたn型の半導体層と
を備え、
上記p型の半導体層と上記n型の半導体層とを炭化けい素半導体で作製されたn型の基板上にエピタキシャル成長により形成してから、上記n型の基板を除去したことを特徴とするバイポーラ半導体素子。
【請求項3】
請求項2に記載のバイポーラ半導体素子において、
上記p型の半導体層がアノードをなし、上記n型の半導体層がカソードをなすダイオードであることを特徴とするバイポーラ半導体素子。
【請求項4】
請求項2に記載のバイポーラ半導体素子において、
オン時に上記p型の半導体層から上記n型の半導体層へ電流が流れるスイッチング素子であることを特徴とするバイポーラ半導体素子。
【請求項5】
請求項4に記載のバイポーラ半導体素子において、
さらに、上記n型の半導体層上に形成されたp型の炭化けい素成長層を備え、
上記p型の半導体層がエミッタをなし、上記n型の半導体層がベースをなし、上記n型の半導体層上に形成されたp型の炭化けい素成長層がコレクタをなすpnpトランジスタであることを特徴とするバイポーラ半導体素子。
【請求項6】
請求項4に記載のバイポーラ半導体素子において、
さらに、上記n型の半導体層上に順に形成されたp型の炭化けい素成長層とn型の炭化けい素成長層を備え、
上記p型の半導体層がアノードエミッタをなし、上記n型の半導体層がベースをなし、上記n型の炭化けい素成長層がカソードをなすGTOであることを特徴とするバイポーラ半導体素子。
【請求項7】
請求項4に記載のバイポーラ半導体素子において、
さらに、上記n型の半導体層上に形成されたp型の炭化けい素成長層を備え、
上記p型の半導体層がエミッタをなし、上記n型の半導体層がベースをなし、上記n型の半導体層上に形成されたp型の炭化けい素成長層がコレクタをなすIGBTであることを特徴とするバイポーラ半導体素子。
【請求項8】
請求項4に記載のバイポーラ半導体素子において、
さらに、上記n型の半導体層上に順に形成されたp型の炭化けい素成長層とn型の炭化けい素成長層を備え、
上記p型の半導体層がアノードエミッタをなし、上記n型の半導体層がベースをなし、上記n型の炭化けい素成長層がカソードをなすサイリスタであることを特徴とするバイポーラ半導体素子。
【請求項9】
請求項3に記載のバイポーラ半導体素子と、
スイッチング素子と
を備え、
上記スイッチング素子は、
炭化けい素半導体で作製されたn型の基板と、
上記n型の基板上に形成されていると共に炭化けい素半導体で作製されたp型の半導体層とを有することを特徴とするバイポーラ半導体装置。
【請求項10】
請求項4から8のいずれか1つに記載のバイポーラ半導体素子と、
ダイオードと
を備え、
上記ダイオードは、
炭化けい素半導体で作製されたn型の基板と、
上記n型の基板上に形成されていると共に炭化けい素半導体で作製されたp型の半導体層とを有することを特徴とするバイポーラ半導体装置。
【請求項11】
請求項9に記載のバイポーラ半導体装置において、
導電性支持板を備え、
上記導電性支持板上に上記ダイオードと上記スイッチング素子とが載置され、
上記ダイオードのp型の半導体層と上記スイッチング素子のn型の基板とが上記導電性支持板で電気的に接続されていることを特徴とするバイポーラ半導体装置。
【請求項12】
請求項10に記載のバイポーラ半導体装置において、
導電性支持板を備え、
上記導電性支持板上に上記スイッチング素子と上記ダイオードとが載置され、
上記スイッチング素子のp型の半導体層と上記ダイオードのn型の基板とが上記導電性支持板で電気的に接続されていることを特徴とするバイポーラ半導体装置。
【請求項13】
請求項9に記載のバイポーラ半導体装置において、
導電性支持板と、
上記導電性支持板上に載置された絶縁基板と、
上記絶縁基板の表面に形成された導電部材とを有し、
上記導電部材上に上記ダイオードと上記スイッチング素子とが載置され、上記導電部材で上記ダイオードのp型の半導体層と上記スイッチング素子のn型の基板とが電気的に接続されていることを特徴とするバイポーラ半導体装置。
【請求項14】
請求項10に記載のバイポーラ半導体装置において、
導電性支持板と、
上記導電性支持板上に載置された絶縁基板と、
上記絶縁基板の表面に形成された導電部材とを有し、
上記導電部材上に上記スイッチング素子と上記ダイオードとが載置され、上記導電部材で上記スイッチング素子のp型の半導体層と上記ダイオードのn型の基板とが電気的に接続されていることを特徴とするバイポーラ半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図11A】
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【図11B】
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【公開番号】特開2012−230964(P2012−230964A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−97111(P2011−97111)
【出願日】平成23年4月25日(2011.4.25)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【Fターム(参考)】