説明

パイロット式電磁弁および燃料電池システム

【課題】パイロット式電磁弁において、パイロット弁シート部の劣化を抑制する技術を提供する。
【解決手段】パイロット式電磁弁であって、パイロット弁体とパイロット弁シート部とを嵌合させる第2弾性体と、第1貫通孔および第2貫通孔の断面より小さい断面形状であり、第1貫通孔および第2貫通孔に挿入されると共に、プランジャに固定されるパイロットピンと、を備え、ソレノイドの励磁に対応して、プランジャが吸引方向に移動した場合において、パイロットピンは、主弁体よりも先に、若しくは、主弁体と共に、パイロット弁体を押圧し、ソレノイドの消磁時に、主弁体が所定の力を受けて、吸引方向に移動した場合において、パイロットピンは、パイロット弁体よりも先に、若しくは、パイロット弁体と共に、主弁体を押圧する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パイロット式電磁弁、または、パイロット式電磁弁を取り付けた燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
高圧な流体を貯蔵するタンク等に取り付けられるパイロット式電磁弁が知られている(下記特許文献1参照)。パイロット式電磁弁において、プランジャにパイロットピンが固定され、パイロットピンにパイロット弁体が固定される。プランジャは、弾性体であるスプリングによって、所定方向(以下では、押圧方向とも呼ぶ)に押圧される。ソレノイドの消磁時において、パイロット弁体は、プランジャが弾性体であるスプリングから受ける押圧力によって、パイロット弁シート部と嵌合している。
【0003】
タンクに流体を充填する場合には、流体は、タンク外部からパイロット式電磁弁を介してタンク内に充填される。
【0004】
【特許文献1】特開2005−163896号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記パイロット式電磁弁において、タンクに流体を充填する場合には、流体による押圧力(以下では、流体押圧力とも呼ぶ)で、主弁体を押圧方向とは反対方向に移動させることにより行うため、パイロット弁シート部は、反作用として、パイロット弁体から流体押圧力に相当する押圧力を受けるおそれがあった。その結果、パイロット弁シート部が劣化する等の不具合が生じるおそれがあった。なお、上記問題は、パイロット式電磁弁をタンクに取り付けた場合に限られず、その他の所定装置に取り付けた場合にも生じる得る問題である。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、パイロット式電磁弁において、パイロット弁シート部の劣化を抑制する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]
パイロット式電磁弁であって、プランジャと、励磁時に前記プランジャを吸引するソレノイドと、前記ソレノイドが前記プランジャを吸引する吸引方向とは反対の方向に、前記プランジャを押圧する第1弾性体と、前記第1弾性体が前記プランジャを押圧する押圧方向および前記吸引方向に略垂直な垂直方向に貫通する第1貫通孔を有するパイロット弁体と、主弁シート部と、前記主弁シート部と前記プランジャとの間に配置され、前記主弁体と嵌合する主弁体であって、前記第3方向に貫通する第2貫通孔と、前記パイロット弁体が挿入される中空部とを有し、前記パイロット弁体を、前記吸引方向、または、前記押圧方向に導くガイド部と、パイロット弁シート部と、を備える主弁体と、前記プランジャに取り付けられ、前記パイロット弁体を前記押圧方向に押圧し、前記ソレノイドの消磁時において、前記パイロット弁体と前記パイロット弁シート部とを嵌合させる第2弾性体と、前記第1貫通孔および前記第2貫通孔の断面より小さい断面形状であり、前記第1貫通孔および前記第2貫通孔に挿入されると共に、前記プランジャに固定されるパイロットピンと、を備え、前記ソレノイドの励磁に対応して、前記プランジャが前記吸引方向に移動した場合において、前記パイロットピンは、前記主弁体よりも先に、若しくは、前記主弁体と共に、前記パイロット弁体を押圧し、前記ソレノイドの消磁時に、前記主弁体が所定の力を受けて、前記吸引方向に移動した場合において、前記パイロットピンは、前記パイロット弁体よりも先に、若しくは、前記パイロット弁体と共に、前記主弁体を押圧することを要旨とする。
【0009】
上記構成のパイロット式電磁弁によれば、パイロット弁シート部の劣化を抑制することができる。
【0010】
[適用例2]
適用例1に記載のパイロット式電磁弁において、前記ソレノイドの消磁時において、前記第1貫通孔の内側面における前記パイロットピンから前記押圧方向に最も離れた第1部分と前記パイロットピンとの第1距離は、前記第2貫通孔の内側面における前記パイロットピンから前記押圧方向に最も離れた第2部分と前記パイロットピンとの第2距離より長いと共に、前記ソレノイドの消磁時において、前記第1貫通孔の内側面における前記パイロットピンから前記吸引方向に最も離れた第3部分と前記パイロットピンとの第3距離は、前記第2貫通孔の内側面における前記パイロットピンから前記吸引方向に最も離れた第4部分と前記パイロットピンとの第4距離より短いことを特徴とするパイロット式電磁弁。このようにすれば、パイロット弁シート部の劣化を抑制することができる。
【0011】
[適用例3]
適用例1または適用例2に記載のパイロット式電磁弁において、前記パイロット弁シート部は、樹脂またはゴムで形成されていることを特徴とするパイロット式電磁弁。
【0012】
このようにすれば、パイロット弁シート部とパイロット弁体とを密着した状態でしっかり嵌合させることができる。
【0013】
[適用例4]
適用例1ないし適用例3のいずれかに記載のパイロット式電磁弁において、前記ソレノイドの消磁時において、前記第2部分は、前記パイロットピンと非接触であり、前記パイロット弁シート部において、前記パイロット弁体から受ける押圧力は、前記第2弾性体による押圧力とほぼ等しいことを特徴とするパイロット式電磁弁。このようにすれば、パイロット弁シート部の劣化を抑制することができる。
【0014】
[適用例5]
適用例1ないし適用例4のいずれかに記載のパイロット式電磁弁において、前記第1弾性体は、前記第2弾性体より弾性力が強いことを特徴とするパイロット式電磁弁。
【0015】
このようにすれば、パイロット式電磁弁の消磁時において、主弁体が主弁シート部に密着した状態でしっかり嵌合し、流体が漏洩することを抑制することができる。
【0016】
[適用例6]
適用例1ないし適用例5のいずれかに記載のパイロット式電磁弁において、前記パイロット式電磁弁は、ガスタンクに取り付けられることを特徴とするパイロット式電磁弁。
【0017】
[適用例7]
燃料電池を備える燃料電池システムであって、前記燃料電池で電気化学反応に供される反応ガスを貯蔵するガスタンクを備え、適用例1ないし適用例6に記載のパイロット式電磁弁を、前記ガスタンクに取り付けたことを特徴とする燃料電池システム。
【0018】
上記構成の燃料電池システムによれば、パイロット式電磁弁におけるパイロット弁シート部の劣化を抑制することができる。
【0019】
なお、本発明は、上記したパイロット式電磁弁や燃料電池システムの他、バルブアセンブリなど、他の装置発明の態様として実現することが可能である。また、パイロット式電磁弁の製造方法やパイロット式電磁弁の制御方法など、方法発明としての態様で実現することも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、実施例に基づき次の順序で説明する。
A.実施例:
A1.装置全体の説明:
図1は、本発明の一実施例における燃料電池システム1000の構成を示すブロック図である。この燃料電池システム1000は、主に、燃料電池FCと、パイロット式電磁弁100と、手動遮断弁210と、逆止弁220と、ブロワ230と、水素タンク300と、制御回路400と、を備えている。
【0021】
燃料電池FCは、固体高分子型の燃料電池であり、構成単位である燃料電池セルCEを複数積層したスタック構造を有している。
【0022】
水素タンク300は、高圧の水素を貯蔵する。水素タンク300は、ガスバリア性を有し、内側において、後述する水素の貯蔵空間333を形成するライナー(内殻)(図示せず)と、ライナーの外側を覆うように配置されるシェル(外殻)(図示せず)と、を備える。ライナーは、例えば、高密度ポリエチレンなどの樹脂や、アルミニウム合金などの金属により構成される。
【0023】
パイロット式電磁弁100は、タンク遮断弁として水素タンク300に取り付けられる。水素タンク300に貯蔵される水素は、パイロット式電磁弁100が開弁されると、水素供給流路204を介して、燃料電池FCに燃料ガスとして供給される。パイロット式電磁弁100の詳細は、後述する。
【0024】
燃料電池FCで、電気化学反応に供された後の水素は、水素排出流路206を介して、燃料電池FC外部に排出される。
【0025】
手動遮断弁210は、水素供給流路204において、パイロット式電磁弁100と燃料電池FCとの間に設けられる。
【0026】
水素供給流路204は、手動遮断弁210とパイロット式電磁弁100との間において、充填流路208と接続される。充填流路208は、水素供給流路204と接続すると共に、燃料電池システム1000の外部と連通している。逆止弁220は、充填流路208上に設けられる。
【0027】
逆止弁220は、充填流路208から燃料電池システム1000の外部に流体が逆流することを防止する。
【0028】
本実施例の燃料電池システム1000では、充填流路208を介して、水素タンク300に水素を充填することが可能となっている。具体的には、管理者は、燃料電池システム1000において、水素タンク300の水素量が減少した場合等、水素タンク300に水素の充填が必要な場合には、燃料電池FCの発電停止時に、手動遮断弁210を手動で閉弁し、充填流路208に水素を注入する。充填流路208に注入された水素は、水素供給流路204、パイロット式電磁弁100を介して、水素タンク300に充填される。これについての詳細は、後述する。
【0029】
ブロワ230は、酸化ガスとして、空気を、空気供給流路234を介して、燃料電池FCに供給する。燃料電池FCで、電気化学反応に供された後の空気は、空気排出流路236を介して、燃料電池FC外部に排出される。
【0030】
制御回路400は、マイクロコンピュータを中心とした論理回路として構成され、詳しくは、予め設定された制御プログラムに従って所定の演算などを実行するCPU(図示せず)と、CPUで各種演算処理を実行するのに必要な制御プログラムや制御データ等が予め格納されたROM(図示せず)と、同じくCPUで各種演算処理をするのに必要な各種データが一時的に読み書きされるRAM(図示せず)と、各種信号を入出力する入出力ポート(図示せず)等を備える。そして、制御回路400は、パイロット式電磁弁100、および、ブロワ230等に駆動信号を出力し、これらの制御を行う。
【0031】
A2.パイロット式電磁弁の説明:
図2、図3、図4、および、図5は、本実施例におけるパイロット式電磁弁100の開閉メカニズムを説明するための図である。具体的には、図2は、パイロット式電磁弁100の消磁(主弁閉弁)時における状態を示す図である。図3は、パイロット式電磁弁100の励磁開始(パイロット弁開弁)時における状態を示す図である。図4は、パイロット式電磁弁100の励磁時(主弁開弁)時における状態を示す図である。図5は、水素タンク300に水素を充填する場合におけるパイロット式電磁弁100の状態(消磁状態で主弁開弁状態)を示す図である。
【0032】
図2に示すように、パイロット式電磁弁100は、主に、ハウジング110と、パイロットピン140と、スプリング157と、ソレノイド160と、スプリング170と、プランジャ180と、主弁MBと、パイロット弁PBと、を備える。パイロット式電磁弁100は、プランジャ180と、主弁MBと、パイロット弁PBと、パイロットピン140と、スプリング157と、スプリング170と、をハウジング110内に組み込むと共に、ハウジング110の外壁にソレノイド160が配置されて形成される。
【0033】
ハウジング110は、水素供給流路204と接続される連通流路110Aと、貫通孔110Bと、を備え、内部にタンク連通空間111を形成する。タンク連通空間111は、貫通孔110Bを介して、水素タンク300の貯蔵空間333と連通する。
【0034】
ソレノイド160は、制御回路400によって、励磁、消磁を制御される。
【0035】
プランジャ180は、磁性体であり、中空部181を形成する中空部形成部182を備える。プランジャ180は、ソレノイド160の励磁に応じて、移動する。以下では、ソレノイド160の励磁に応じて、プランジャ180が移動する方向を、吸引方向とも呼ぶ。
【0036】
スプリング170は、プランジャ180を、吸引方向とは反対方向に押圧する。以下では、吸引方向とは反対方向を押圧方向とも呼ぶ。
【0037】
主弁MBは、主弁シート部105と、主弁体120と、から構成され、主弁体120が主弁シート部105と嵌合することによって閉弁し、これらが離間することによって開弁する。パイロット弁PBは、パイロット弁体150と、パイロット弁シート部120Aとから構成され、パイロット弁体150がパイロット弁シート部120Aと嵌合することによって閉弁し、これらが離間することによって開弁する。
【0038】
主弁シート部105は、ゴム、または、樹脂で形成され、連通流路110Aとタンク連通空間111との接続部であって、連通流路110Aの外周縁に沿って配置される。
【0039】
主弁体120は、パイロット弁シート部120Aと、ガイド部120Bと、オリフィス孔120Cと、を備える。主弁体120は、主弁シート部105とプランジャ180との間であって、ガイド部120Bの一部が、プランジャ180の中空部181内に配置される。
【0040】
ガイド部120Bは、中空部127を形成する。ガイド部120Bは、吸引方向または押圧方向に対して垂直な方向(以下では、ピン挿入方向とも呼ぶ)に貫通する貫通孔122を有する。
【0041】
オリフィス孔120Cは、中空部127から押圧方向に伸びて形成される貫通孔であり、主弁MBが閉弁状態の時には、連通流路110Aと連通する。
【0042】
パイロット弁シート部120Aは、ゴム、または、樹脂で形成され、オリフィス孔120Cと中空部127との接続部であって、オリフィス孔120Cの外周縁に沿って配置される。
【0043】
パイロット弁体150は、中空部127に配置され、ピン挿入方向に貫通する貫通孔155を有する。
【0044】
スプリング157は、プランジャ180とパイロット弁体150とに固定され、パイロット弁体150を押圧方向に押圧する。
【0045】
パイロットピン140は、貫通孔122および貫通孔155の断面より小さい断面形状であり、貫通孔122および貫通孔155に挿入されて配置されると共に、中空部形成部182に固定されている。
【0046】
図2に示すように、貫通孔122の内側面において、パイロットピン140から押圧方向に最も離れた部分を押圧側内側面122Aとも呼び、パイロットピン140から吸引方向に最も離れた部分を吸引側内側面122Bとも呼ぶ。貫通孔155の内側面において、パイロットピン140から押圧方向に最も離れた部分を押圧側内側面155Aとも呼び、パイロットピン140から吸引方向に最も離れた部分を吸引側内側面155Bとも呼ぶ。
【0047】
スプリング170は、スプリング157よりも弾性力が強いものが用いられる。このようにすれば、ソレノイド160の消磁時において、主弁体120が主弁シート部105に密着した状態でしっかり嵌合し、水素が水素供給流路204に漏洩することを抑制することができる。
【0048】
図2に示すように、パイロット式電磁弁100において、ソレノイド160の消磁時には、主弁MBおよびパイロット弁PBは、共に閉弁されている。この場合、パイロット弁体150は、スプリング157による押圧力で押されて、パイロット弁シート部120Aと嵌合している。押圧側内側面155Aとパイロットピン140との距離(以下、第1距離L1と呼ぶ)は、押圧側内側面122Aとパイロットピン140との距離(以下、第2距離L2と呼ぶ)より長くなっている。また、吸引側内側面155Bとパイロットピン140との距離(以下、第3距離L3と呼ぶ)は、吸引側内側面122Bとパイロットピン140との距離(以下、第4距離L4と呼ぶ)より短くなっている。
【0049】
パイロット式電磁弁100において、主弁MBおよびパイロット弁PBが共に閉弁されている状態では、タンク連通空間111(中空部127および中空部181を含む)には、貯蔵空間333の水素が充填されている。従って、タンク連通空間111の圧力および貯蔵空間333の圧力は、ほぼ同じである。
【0050】
ソレノイド160の励磁が開始されると、プランジャ180は、吸引方向に移動する。それに伴い、パイロットピン140は、吸引方向に移動する。第4距離L4より第3距離L3の方が短いので、パイロットピン140は、貫通孔122よりも先に、貫通孔155の吸引側内側面155Bにぶつかり、パイロット弁体150を押圧し、パイロット弁体150を吸引方向に移動させる。その結果、図3に示すように、パイロット弁PBは、パイロット弁体150がパイロット弁シート部120Aから離間し、開弁する。パイロットピン140(プランジャ180)は、パイロット弁体150を吸引方向に移動させつつ、吸引側内側面122Bにぶつかって停止する。
【0051】
パイロット弁PBが開弁すると、中空部127の水素が、オリフィス孔120Cを介して、連通流路110Aに流入する。
【0052】
図4に示すように、プランジャ180は、連通流路110Aとタンク連通空間111との差圧が小さくなると、さらに、吸引方向に移動する。これに伴い、パイロットピン140および主弁体120も吸引方向に移動する。その結果、図4に示すように、主弁MBは、主弁体120が主弁シート部105から離間し、開弁する。貯蔵空間333の水素は、タンク連通空間111、連通流路110Aを介して、水素供給流路204に供給される。
【0053】
管理者は、燃料電池システム1000の外部から水素タンク300に、パイロット式電磁弁100を介して水素を充填する場合には、ソレノイド160を消磁させた状態で行う。
【0054】
図5に示すように、パイロット式電磁弁100において、主弁体120は、水素供給流路204から水素が供給されると、連通流路110Aに流入した水素によって、吸引方向に押圧され、移動する。以下では、この押圧力を水素押圧力とも呼ぶ。主弁体120が吸引方向に移動すると、第2距離L2より第1距離L1の方が長いので、ガイド部120Bの押圧側内側面122Aが、パイロットピン140にぶつかる。その結果、主弁体120、パイロットピン140、および、プランジャ180が一体となって、吸引方向に移動する。この際、パイロット弁シート部120Aは、パイロットピン140と接触せず、スプリング157からの押圧力のみを受けている。
【0055】
図6は、比較例としてのパイロット式電磁弁100Aにおける消磁(主弁閉弁)時の状態を示す図である。図7は、水素タンク300に水素を充填する場合におけるパイロット式電磁弁100Aの状態を示す図である。比較例のパイロット式電磁弁100Aは、図6に示すように、パイロット弁体150、パイロットピン140、および、プランジャ180とが一体に形成されており、スプリング157が設けられていない。なお、パイロット式電磁弁100Aおいて、本実施例のパイロット式電磁弁100と同様の構成については、同じ符号で示しており、その説明は省略する。
【0056】
比較例のパイロット式電磁弁100Aにおいて、水素タンク300に水素を充填する場合、図7に示すように、主弁体120は、連通流路110Aに流入した水素によって、吸引方向に水素押圧力で押圧され、移動する。パイロット弁体150は、主弁体120の移動に伴い、主弁体120から水素押圧力で吸引方向に押圧される。パイロット弁体150、パイロットピン140、および、プランジャ180は一体に形成されているので、主弁体120の移動に伴い、パイロット弁体150、パイロットピン140、および、プランジャ180も吸引方向に共に移動する。
【0057】
ところで、比較例のパイロット式電磁弁100Aでは、水素タンク300に水素を充填する場合、主弁体120が水素押圧力でパイロット弁体150を押圧するので、パイロット弁シート部120Aは、反作用として、パイロット弁体150から水素押圧力に相当する大きな押圧力を受けるおそれがあった。その結果、パイロット弁シート部120A内で過度の応力が生じ、パイロット弁シート部120Aが劣化する等の不具合が生じるおそれがあった。
【0058】
一方、本実施例のパイロット式電磁弁100では、水素タンク300に水素を充填する場合において、第2距離L2より第1距離L1の方が長く、パイロット弁シート部120Aは、パイロットピン140と接触しにくいので、主弁体120が受ける水素押圧力は、パイロット弁体150に伝達されにくい。従って、パイロット弁シート部120Aが、水素押圧力を受けることを抑制することができ、パイロット弁シート部120Aが劣化することを抑制することができる。
【0059】
なお、本実施例において、パイロット式電磁弁100は、特許請求の範囲におけるパイロット式電磁弁に該当し、ソレノイド160は、特許請求の範囲におけるソレノイドに該当し、プランジャ180は、特許請求の範囲におけるプランジャに該当し、スプリング170は、特許請求の範囲における第1弾性体に該当し、パイロット弁体150は、特許請求の範囲におけるパイロット弁体に該当し、スプリング157は、特許請求の範囲における第2弾性体に該当し、主弁シート部105は、特許請求の範囲における主弁シート部に該当し、主弁体120は、特許請求の範囲における主弁体に該当し、ガイド部120Bは、特許請求の範囲におけるガイド部に該当し、パイロット弁シート部120Aは、特許請求の範囲におけるパイロット弁シート部に該当し、パイロットピン140は、特許請求の範囲におけるパイロットピンに該当し、貫通孔155は、特許請求の範囲における第1貫通孔に該当し、押圧側内側面155Aは、特許請求の範囲における第1部分に該当し、吸引側内側面155Bは、特許請求の範囲における第2部分に該当し、貫通孔122は、特許請求の範囲における第2貫通孔に該当し、押圧側内側面122Aは、特許請求の範囲における第3部分に該当し、吸引側内側面122Bは、特許請求の範囲における第4部分に該当し、第1距離L1は、特許請求の範囲における第1距離に該当し、第2距離L2は、特許請求の範囲における第2距離に該当し、第3距離L3は、特許請求の範囲における第3距離に該当し、第4距離L4は、特許請求の範囲における第4距離に該当し、水素タンク300は、特許請求の範囲におけるガスタンクに該当し、燃料電池システム1000は、特許請求の範囲における燃料電池システムに該当する。
【0060】
B.変形例:
なお、上記各実施例における構成要素の中の、独立クレームでクレームされた要素以外の要素は、付加的な要素であり、適宜省略可能である。また、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば以下のような変形も可能である。
【0061】
B1.変形例1:
上記実施例のパイロット式電磁弁100は、水素タンク300に取り付けられているが、本発明はこれに限られるものではない。パイロット式電磁弁100は、例えば、所定の配管等、他の装置に取り付けるようにしてもよい。
【0062】
B2.変形例2:
上記実施例のパイロット式電磁弁100は、ソレノイド160の励磁に対応して、プランジャ180が吸引方向に移動した場合において、パイロットピン140は、主弁体120よりも先にパイロット弁体150を押圧するように構成されているが、本発明はこれに限られるものではない。例えば、パイロット式電磁弁100は、第3距離L3と第4距離L4とを同程度とし、ソレノイド160の励磁に対応して、プランジャ180が吸引方向に移動した場合において、パイロットピン140が、主弁体120およびパイロット弁体150とを押圧するように構成してもよい。このようにしても、パイロット弁PBを開弁することができる。
【0063】
B3.変形例3:
上記実施例のパイロット式電磁弁100は、水素充填時に、主弁体120が水素押圧力を受けて、吸引方向に移動した場合において、パイロットピン140は、パイロット弁体150よりも先に主弁体120を押圧するように構成されているが、本発明はこれに限られるものではない。例えば、パイロット式電磁弁100は、第1距離L1と第2距離L2とを同程度とし、水素充填時に、主弁体120が水素押圧力を受けて、吸引方向に移動した場合において、パイロットピン140が、パイロット弁体150および主弁体120とを押圧するように構成してもよい。このようにしても、パイロット弁シート部120Aが、水素押圧力を受けることを抑制することができ、パイロット弁シート部120Aが劣化することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の一実施例における燃料電池システム1000の構成を示すブロック図である。
【図2】パイロット式電磁弁100の消磁(主弁閉弁)時における状態を示す図である。
【図3】パイロット式電磁弁100の励磁開始(パイロット弁開弁)時における状態を示す図である。
【図4】パイロット式電磁弁100の励磁時(主弁開弁)時における状態を示す図である。
【図5】水素タンク300に水素を充填する場合におけるパイロット式電磁弁100の状態(消磁状態で主弁開弁状態)を示す図である。
【図6】比較例としてのパイロット式電磁弁100Aにおける消磁(主弁閉弁)時の状態を示す図である。
【図7】水素タンク300に水素を充填する場合におけるパイロット式電磁弁100Aの状態を示す図である。
【符号の説明】
【0065】
100…パイロット式電磁弁
100A…パイロット式電磁弁
105…主弁シート部
110…ハウジング
110A…連通流路
110B…貫通孔
111…タンク連通空間
120…主弁体
120A…パイロット弁シート部
120B…ガイド部
120C…オリフィス孔
122…貫通孔
122A…押圧側内側面
122B…吸引側内側面
127…中空部
140…パイロットピン
150…パイロット弁
155…貫通孔
155内側面…貫通孔
155A…押圧側内側面
155B…吸引側内側面
157…スプリング
160…ソレノイド
170…スプリング
180…プランジャ
181…中空部
182…中空部形成部
204…水素供給流路
206…水素排出流路
208…充填流路
210…手動遮断弁
220…逆止弁
230…ブロワ
234…空気供給流路
236…空気排出流路
300…水素タンク
333…貯蔵空間
400…制御回路
1000…燃料電池システム
L1…第1距離
L2…第2距離
L3…第3距離
L4…第4距離
MB…主弁
PB…パイロット弁
FC…燃料電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パイロット式電磁弁であって、
プランジャと、
励磁時に前記プランジャを吸引するソレノイドと、
前記ソレノイドが前記プランジャを吸引する吸引方向とは反対の方向に、前記プランジャを押圧する第1弾性体と、
前記第1弾性体が前記プランジャを押圧する押圧方向および前記吸引方向に略垂直な垂直方向に貫通する第1貫通孔を有するパイロット弁体と、
主弁シート部と、
前記主弁シート部と前記プランジャとの間に配置され、前記主弁体と嵌合する主弁体であって、前記第3方向に貫通する第2貫通孔と、前記パイロット弁体が挿入される中空部とを有し、前記パイロット弁体を、前記吸引方向、または、前記押圧方向に導くガイド部と、パイロット弁シート部と、を備える主弁体と、
前記プランジャに取り付けられ、前記パイロット弁体を前記押圧方向に押圧し、前記ソレノイドの消磁時において、前記パイロット弁体と前記パイロット弁シート部とを嵌合させる第2弾性体と、
前記第1貫通孔および前記第2貫通孔の断面より小さい断面形状であり、前記第1貫通孔および前記第2貫通孔に挿入されると共に、前記プランジャに固定されるパイロットピンと、を備え、
前記ソレノイドの励磁に対応して、前記プランジャが前記吸引方向に移動した場合において、前記パイロットピンは、前記主弁体よりも先に、若しくは、前記主弁体と共に、前記パイロット弁体を押圧し、前記ソレノイドの消磁時に、前記主弁体が所定の力を受けて、前記吸引方向に移動した場合において、前記パイロットピンは、前記パイロット弁体よりも先に、若しくは、前記パイロット弁体と共に、前記主弁体を押圧することを特徴とするパイロット式電磁弁。
【請求項2】
請求項1に記載のパイロット式電磁弁において、
前記ソレノイドの消磁時において、前記第1貫通孔の内側面における前記パイロットピンから前記押圧方向に最も離れた第1部分と前記パイロットピンとの第1距離は、前記第2貫通孔の内側面における前記パイロットピンから前記押圧方向に最も離れた第2部分と前記パイロットピンとの第2距離より長いと共に、
前記ソレノイドの消磁時において、前記第1貫通孔の内側面における前記パイロットピンから前記吸引方向に最も離れた第3部分と前記パイロットピンとの第3距離は、前記第2貫通孔の内側面における前記パイロットピンから前記吸引方向に最も離れた第4部分と前記パイロットピンとの第4距離より短いことを特徴とするパイロット式電磁弁。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のパイロット式電磁弁において、
前記パイロット弁シート部は、樹脂またはゴムで形成されていることを特徴とするパイロット式電磁弁。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のパイロット式電磁弁において、
前記ソレノイドの消磁時において、前記第2部分は、前記パイロットピンと非接触であり、前記パイロット弁シート部において、前記パイロット弁体から受ける押圧力は、前記第2弾性体による押圧力とほぼ等しいことを特徴とするパイロット式電磁弁。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のパイロット式電磁弁において、
前記第1弾性体は、前記第2弾性体より弾性力が強いことを特徴とするパイロット式電磁弁。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のパイロット式電磁弁において、
前記パイロット式電磁弁は、ガスタンクに取り付けられることを特徴とするパイロット式電磁弁。
【請求項7】
燃料電池を備える燃料電池システムであって、
前記燃料電池で電気化学反応に供される反応ガスを貯蔵するガスタンクを備え、
請求項1ないし請求項6に記載のパイロット式電磁弁を、前記ガスタンクに取り付けたことを特徴とする燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−210120(P2009−210120A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−56814(P2008−56814)
【出願日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】