説明

パターン化結晶質半導体薄膜

【課題】フォトレジストを用いずに製造可能で、所望の形状に直接描画できるパターン化結晶質半導体薄膜を提供する。
【解決手段】酸化インジウムを主成分とする非晶質薄膜を成膜し、前記非晶質薄膜の一部を結晶化することにより半導体化し、前記一部が結晶化した薄膜の非晶質部分をエッチングによって除去することにより得られるパターン化結晶質半導体薄膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パターン化結晶質半導体薄膜に関する。特に、フォトレジストを用いずに製造可能で、所望の形状に直接描画できるパターン化結晶質半導体薄膜に関する。
【背景技術】
【0002】
複合金属酸化物からなる酸化物半導体膜は、高移動度性及び可視光透過性を有しているので、液晶表示装置、薄膜エレクトロルミネッセンス表示装置、電気泳動方式表示装置、粉末移動方式表示装置のスイッチング素子、駆動回路素子等として使用されている。上記複合金属酸化物からなる酸化物半導体膜の中でも、酸化インジウム−酸化ガリウム−酸化亜鉛(IGZO)からなる酸化物半導体膜が最も普及しており、この他に、酸化インジウム−酸化亜鉛(IZO)からなる酸化物半導体膜、酸化錫に酸化亜鉛(ZTO)を添加した酸化物半導体膜、酸化インジウム−酸化亜鉛−酸化スズに酸化ガリウムを添加した酸化物半導体膜等が知られている。
【0003】
これら複合金属酸化物からなる酸化物半導体膜は、通常、パターニングして用いる。具体的には、目的の酸化物半導体膜にフォトレジストを塗布し、マスクを通して光を照射して所望の形状にパターニングし、現像、エッチング、レジスト剥離、リンス等の行程を経て、所望の形状にパターン化した酸化物半導体膜を製造できる。上記の方法のほか、基材にフォトレジストを塗布し、マスクを通して光を照射することにより所望の形状にパターン化して現像し、この上にパターン化する目的の酸化物半導体膜を成膜し、レジストを剥離し、不要な部分の酸化物半導体をリフトオフすることにより、所望の形状にパターン化した酸化物半導体膜を製造できる(特許文献1〜7)。
【0004】
しかし、これらフォトレジストを用いた製造方法では、レジスト剥離剤による酸化物半導体膜表面がダメージを受ける問題があるうえ、フォトレジスト行程自体が煩雑であり、コストアップ要因となっていた。また、特許文献8では酸化物半導体膜を結晶化させて半導体化する方法が開示されているが、当該方法もリフトオフ、マスクスパッタ等を用いて半導体膜を形成している。
【特許文献1】特開2006−165527号公報
【特許文献2】特開2006−165528号公報
【特許文献3】特開2006−165529号公報
【特許文献4】特開2006−165530号公報
【特許文献5】特開2006−165531号公報
【特許文献6】特開2006−165532号公報
【特許文献7】特開2006−173580号公報
【特許文献8】WO2007/058248号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、フォトレジストを用いずに製造可能で、所望の形状に直接描画できるパターン化結晶質半導体薄膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、以下のパターン化結晶質半導体薄膜等が提供される。
1.酸化インジウムを主成分とする非晶質薄膜を成膜し、
前記非晶質薄膜の一部を結晶化することにより半導体化し、
前記一部が結晶化した薄膜の非晶質部分をエッチングによって除去することにより得られるパターン化結晶質半導体薄膜。
2.前記酸化インジウムを主成分とする非晶質薄膜が、正2価の金属酸化物を含む酸化インジウムからなる1に記載のパターン化結晶質半導体薄膜。
3.前記酸化インジウムを主成分とする非晶質薄膜が、正3価の金属酸化物を含む酸化インジウムからなる1に記載のパターン化結晶質半導体薄膜。
4.前記酸化インジウムを主成分とする非晶質薄膜が、正2価の金属酸化物及び正3価の金属酸化物を含む酸化インジウムからなる1に記載のパターン化結晶質半導体薄膜。
5.前記結晶化を電子ビームを用いて行う1〜4のいずれかに記載のパターン化結晶質半導体薄膜。
6.前記結晶化をレーザー光を用いて行う1〜4のいずれかに記載のパターン化結晶質半導体薄膜。
7.前記エッチング後、さらに熱処理する5又は6に記載のパターン化結晶質半導体薄膜。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、フォトレジストを用いずに製造可能で、所望の形状に直接描画できるパターン化結晶質半導体薄膜を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のパターン化結晶質半導体薄膜は、酸化インジウムを主成分とする非晶質薄膜を成膜し、非晶質薄膜の一部を結晶化することにより半導体化し、一部が結晶化した薄膜の非晶質部分をエッチングによって除去することにより得られる。このように、本発明のパターン化結晶質半導体薄膜は、フォトレジストを用いずに製造可能で、所望の形状に直接描画できる
【0009】
酸化インジウムを主成分とする非晶質薄膜は、例えば所望の組成を有するターゲットを用いてスパッタリングすることにより簡便に成膜できる。本発明において酸化インジウムを主成分とする非晶質薄膜とは、酸化インジウムを50重量%以上含む非晶質薄膜をいう。
【0010】
酸化インジウムを主成分とする非晶質薄膜は、好ましくは正2価の金属酸化物を含む酸化インジウムからなる。非晶質薄膜が正2価の金属酸化物を含むことにより、非晶質薄膜を結晶質化した場合に半導体化をより容易にすることができる。
上記正2価の金属酸化物としては、例えばZn、Mg、Ni及びCuからなる群から選ばれる1以上の金属の酸化物が挙げられ、好ましくはZnO、MgO,NiO又はCuOである。
【0011】
酸化インジウムを主成分とする非晶質薄膜が、正2価の金属酸化物を含む酸化インジウムからなる場合において、正2価の金属酸化物の金属成分をM2とした場合、非晶質薄膜中のインジウムとM2の原子比M2/(In+M2)は、好ましくは0.0001〜0.1であり、より好ましくは0.0005〜0.05であり、さらに好ましくは0.001〜0.05である。
【0012】
原子比M2/(In+M2)が0.0001未満の場合、非晶質薄膜が半導体化しにくくなるおそれがある。一方、原子比M2/(In+M2)が0.1超の場合、非晶質薄膜が結晶化せず半導体化しないおそれがあるうえ、その後のエッチングで所望の形状部分が除去されてしまうおそれがある。
【0013】
正2価の金属酸化物を含む酸化インジウムからなる非晶質薄膜は、結晶化すると正2価の金属イオンが結晶化した酸化インジウム結晶中に固溶し、酸化インジウムの酸素欠損により発生する電子キャリヤーを抑制でき、キャリヤー濃度を最適な範囲に制御することができる。最適なキャリヤー濃度とは、例えば10E12cm−3〜10E17cm−3であり、好ましくは10E14cm−3〜10E17cm−3である。
【0014】
酸化インジウムを主成分とする非晶質薄膜は、好ましくは正3価の金属酸化物を含む酸化インジウムからなる。非晶質薄膜が正3価の金属酸化物を含むことにより、非晶質薄膜を結晶化した場合に半導体化をより容易にすることができる。
【0015】
上記正3価の金属酸化物としては、結晶化の容易さの観点から、インジウムのイオン半径と同じ又は近いイオン半径(インジウムのイオン半径の±25%以内)を有する正3価の金属酸化物を選択するとよく、好ましくはインジウムのイオン半径の±20%以内のイオン半径を有する正3価の金属酸化物である。このような正3価の金属酸化物は非晶質薄膜の結晶化を妨げない。
【0016】
上記正3価の金属酸化物としては、B、Al、Ga、Sc、Y及びランタノイド系元素からなる群から選ばれる1以上の金属の酸化物が挙げられる。上記ランタノイド系元素としては、好ましくはSm、Ho、Lu、La、Nd、Eu,Gd、Er又はYbである。
【0017】
酸化インジウムを主成分とする非晶質薄膜が、正3価の金属酸化物を含む酸化インジウムからなる場合において、正3価の金属酸化物の金属成分をM3とした場合、非晶質薄膜中のインジウムとM3の原子比M3/(In+M3)は、好ましくは0.0001〜0.2であり、より好ましくは0.0005〜0.15であり、さらに好ましくは0.001〜0.1である。
【0018】
原子比M3/(In+M3)が0.0001未満の場合、結晶質薄膜が半導体化しにくくなるおそれがある。一方、原子比M3/(In+M3)が0.2超の場合、非晶質薄膜が結晶化せず半導体化しないおそれがあるうえ、その後のエッチングで所望の形状部分が除去されてしまうおそれがある。さらに、原子比M3/(In+M3)が0.2超の非晶質薄膜が結晶化して得られる結晶質半導体薄膜は移動度が小さくなりすぎるおそれがある。
【0019】
正3価の金属酸化物を含む酸化インジウムからなる結晶質薄膜は、正3価の金属酸化物が、酸化インジウムの酸素欠損自体を抑制することができ、キャリヤー濃度を最適な範囲に制御することができる。最適なキャリヤー濃度とは、例えば10E12cm−3〜10E17cm−3であり、好ましくは10E14cm−3〜10E17cm−3である。
【0020】
酸化インジウムを主成分とする非晶質薄膜は、好ましくは正2価の金属酸化物及び正3価の金属酸化物を含む酸化インジウムからなる。非晶質薄膜が上述の正2価の金属酸化物及び正3価の金属酸化物の両方を含むことにより、結晶化した場合に半導体化をより容易にすることができる。
【0021】
上述したように、正2価の金属酸化物と正3価の金属酸化物の結晶質薄膜中での機能は異なる。正2価の金属酸化物は、正2価の金属イオンが結晶化した酸化インジウム結晶中に固溶し、酸化インジウムの酸素欠損により発生する電子キャリヤーを抑制できる。一方、正3価の金属酸化物は、酸化インジウムの酸素欠損自体を抑制することができる。本発明では、非晶質薄膜が正2価の金属酸化物と正3価の金属酸化物の両方を含むことにより、相乗的に電子キャリヤー抑制効果を得ることができる。また、これら正2価の金属酸化物と正3価の金属酸化物の両方を含むことにより、これら金属酸化物を単独で含む場合に比べて、含有量が少量でも効果を得ることができる。
【0022】
本発明において、非晶質薄膜は酸化インジウム、及び任意に正2価の金属酸化物及び/又は正3価の金属酸化物から実質的になっていてもよく、また、これら成分のみからなっていてもよい。「実質的になる」とは、非晶質薄膜が酸化インジウム、及び任意に正2価の金属酸化物及び/又は正3価の金属酸化物のみからなり、これら成分の他に下記の成分を含みうることである。
【0023】
非晶質薄膜は、本発明の効果(特に半導体特性)を損なわない範囲で、例えば正4価以上の金属酸化物を含みうる。正4価以上の金属酸化物としては、例えばGeO、SnO、TiO、ZrO、HfO、CeO、Nb、Ta、MoO及びWOが挙げられる。
非晶質薄膜が上記正4価以上の金属酸化物を含む場合、正4価以上の金属酸化物の含有量は、通常10重量%以下、好ましくは5重量%以下、より好ましくは3重量%以下である。
【0024】
非晶質薄膜の結晶化は、好ましくは電子ビーム又はレーザー光を用いて行う。電子ビーム又はレーザー光を、酸化インジウムを主成分とする非晶質薄膜に照射することで、簡便に非晶質薄膜を結晶化し、半導体化することができる。
【0025】
結晶化に電子ビームを用いる場合において、用いる電子ビームは、例えば出力5kV〜1000kVの加速された電子ビームを使用できる。また、照射方法としては、所望の形状の全面に電子ビームを一括照射してもよく、部分的に照射しながら照射位置を移動して、所望の形状に照射してもよい。照射時間は、通常1秒〜120分であり、好ましくは10秒〜30分である。照射時間が1秒未満の場合、結晶化しないおそれある。一方、照射時間が120分超では、生産性を落ちコストが増大するおそれがある。
【0026】
結晶化にレーザー光を用いる場合において、用いるレーザー光は、例えば100mW〜1kWの出力のレーザー光が使用できる。また、照射方法としては、所望の形状の全面に電子ビームを一括照射してもよく、部分的に照射しながら照射位置を移動して、所望の形状に照射してもよい。
【0027】
使用できるレーザー光の種類は結晶化に必要なエネルギーを印加できるレーザー光を適宜選択すればよく、例えばYAGレーザー、グリーンレーザー、炭酸ガスレーザー等の赤外レーザー;半導体レーザー、色素レーザー、エキシマレーザー等が使用できる。
上記レーザー光のうち、具体的には照射波長が248nmのKrFエキシマレーザー、又は波長が193nmのArFエキシマレーザーを用いることができる。これらエキシマレーザーをパルス照射する場合、好ましくは回数を2〜2000回の範囲に設定し、パルス幅を5nsec.〜100nsec.の範囲に設定し、及びビームサイズを10μm×10μm□又は1mm×1mm□等、ビームを絞って用いる。
【0028】
レーザー光の照射面のエネルギー密度としては、通常、10mJ/cm〜1000mJ/cmであり、好ましくは50mJ/cm〜500mJ/cmである。照射面のエネルギー密度が10mJ/cm未満の場合、結晶化に時間がかかりすぎるおそれがあり、一方、照射面のエネルギー密度が1000mJ/cm超の場合、エネルギー密度が強すぎるため、非晶質薄膜が蒸発する、及び結晶化薄膜にダメージを与えるおそれがある。
【0029】
本発明のパターン化結晶質半導体薄膜は、所望の形状に一部を結晶化した薄膜の非晶質部分をエッチングによって除去することにより得られる。非晶質薄膜部分と、結晶質半導体薄膜部分では、そのエッチング速度の差が大きく、非晶質薄膜部分はエッチング速度が速いが、結晶質半導体薄膜部分は結晶化しているためにエッチング速度は非常に遅くなる。これらの速度差を利用することにより、選択的に非晶質薄膜部分のみをエッチングし、所望の形状を有するパターン化結晶質半導体薄膜が得られる。
【0030】
用いるエッチング液としては、通常、有機酸等の弱酸を用いる。具体的には、酢酸、蓚酸、プロピオン酸等の有機酸を使用でき、好ましくはこれら有機酸の水溶液を用いる。
有機酸の水溶液の濃度は、通常0.1〜10wt%であり、好ましくは1〜5wt%である。有機酸の水溶液の濃度が0.1wt%未満の場合、エッチング速度が遅くなるおそれがあり、一方、有機酸の水溶液の濃度が10wt%超の場合、エッチング速度が速すぎて、結晶質半導体部分までがエッチングされて、所望の形状のパターン化結晶質半導体薄膜が得られないおそれがある。
【0031】
エッチング時のエッチング液の温度は、通常10℃〜60℃であり、好ましくは20℃〜50℃である。エッチング液の温度が10℃未満の場合、エッチング速度が遅くるおそれがあり、エッチング液の温度が60℃超の場合、エッチング液の水分が蒸発し、有機酸濃度を一定に保つのが困難となるおそれがある。
【0032】
エッチング液は、有機酸以外に、塩化水素酸、臭化水素酸、沃化水素酸、硫酸、硝酸、燐酸等の酸の水溶液も使用できる。これら有機酸以外のエッチング液を用いる場合、その濃度及び温度は適宜選択すればよい。また、これら水溶液の混合液も使用できる。
【0033】
上記エッチングにより得られるパターン化結晶質半導体薄膜は、好ましくはさらに熱処理する。非晶質部分をエッチング後に、さらに熱処理することにより結晶質部分の結晶度を向上させ、非晶質部分(結晶粒界部分の結晶の乱れ)のない結晶質半導体薄膜を得ることができる。非晶質部分(結晶粒界部分の結晶の乱れ)が残った結晶質半導体薄膜を薄膜トランジスタ等に用いた場合、off電流が大きくなったり、no/off比が小さくなったり、及び駆動中に閾値電圧が変動したりするおそれがある。
【0034】
熱処理時の雰囲気は、大気中、窒素等の不活性ガス中及び真空下のいずれでもよいが、製造コストの観点から、好ましくは大気中で行う。熱処理温度は、通常150℃〜450℃の範囲で設定し、好ましくは200℃〜300℃の範囲で設定する。熱処理温度が150℃未満の場合、結晶化が進まないおそれがあり、熱処理温度が450℃超の場合、基板の耐熱性が足りず、基板が変形するおそれがある。熱処理時間としては、通常1分〜12時間であり、好ましくは10分〜60分である。熱処理時間が1分未満の場合、結晶化が進まないおそれがあり、熱処理時間が12時間超では、製造コストが増大するおそれがある。
【0035】
上記工程を経て得られるパターン化結晶質半導体薄膜の厚みは、通常、5〜500nmであり、好ましくは10〜200nm、より好ましくは15〜100nmである。結晶質半導体薄膜の厚みが5nm未満の場合、結晶質半導体薄膜が薄膜にならず、海島模様となるおそれがあり、結晶質半導体薄膜の厚みが500nm超の場合、本発明の結晶質半導体薄膜を薄膜トランジスタとして用いる場合において、その移動度が低下する、及びその閾値が大きくなり過ぎるおそれがある。
【実施例】
【0036】
本発明を実施例を用いて説明する。尚、下記実施例は、本発明の好適な例を示すのみであり、本発明を制限しない。従って、本発明の技術思想に基づく変形又は他の実施例は本発明に包含される。
【0037】
実施例1
平均粒径2μmの酸化インジウムと、平均粒径1〜2μm程度に粉砕したZnOをそれぞれ秤量し、酸化インジウム及びZnOが表1に記載の組成比となるように混合し、湿式粉砕機を用いて24時間粉砕した。得られた混合物をスプレードライヤーにて造粒した。得られた造粒分を、2tプレス機械を用いて所定の大きさにプレスし、このプレスした成型体を静水圧プレス機により、200MPaにて成型した。得られた成型体を1380℃にて、酸素を流通させながら、24時間焼成した。焼成後、切削加工し、4インチφ厚み5mmtの焼結体を得た。この焼結体をバッキングプレートに金属インジウムによりボンディングし、スパッタリングターゲットとした。
【0038】
得られたスパッタリングターゲットをスパッタリング装置HSM550(株式会社島津製作所製)に装着し、Ar100%雰囲気下、0.1Paの圧力にて、熱酸化膜(SiOn:100nm)を有するSb原子をハードドープしたSiウエハー上に、20nmの膜厚にて非晶質薄膜を成膜した。得られた薄膜付きSiウエハーを、走査型電子顕微鏡に挿入し、電子線(20kV加速電子)の照射を1分間行った。
【0039】
得られた電子線を照射した薄膜付きSiウエハー上に保護膜として炭素、及びタングステンを成膜し、FIB法(ファースト・アトミック・ボンバードメント法)により、薄膜切片を作製し、その表面を透過型電子顕微鏡にて観察し、結晶領域と非晶質領域が存在するか確認した。得られた写真を図1に示す。この写真から、電子線を照射した部分には、結晶格子が確認でき、結晶化していることが確認された。
【0040】
電子線を照射した薄膜付きSiウエハーを、蓚酸2.38wt%の水溶液に3分間浸漬して非晶質部分をエッチングし、パターン化結晶質薄膜を製造した。得られたパターン化結晶質薄膜の結晶化部分について、ホール測定によりキャリアー濃度を計測した。結果を表1に示す。この結果より、得られた結晶質薄膜は、半導体薄膜であることが確認された。また、得られたパターン化結晶質薄膜を、上述の走査型電子顕微鏡に再度挿入し、その表面を観察した。当該表面写真を図2に示す。
【0041】
尚、上記ホール測定で用いたホール測定装置、及びその測定条件は下記のとおりである。
[ホール測定装置]
東陽テクニカ製:Resi Test8310
[測定条件]
室温(約25℃)、約0.5[T]、約10−4〜10−12A、AC磁場ホール測定
【0042】
実施例2〜22
表1に記載の組成比に従って実施例1と同様にしてスパッタリングターゲットを製造し、実施例1と同様にして結晶質薄膜を成膜し、評価した。結果を表1に示す。また、実施例1と同様にして実施例2〜22の電子線照射後の薄膜を観察したところ、いずれも電子線を照射した部分のみが結晶化していることが確認された。
尚、スパッタリングターゲットの製造に用いた正2価の金属酸化物及び正3価の金属酸化物の平均粒径はいずれも1〜2μmである。
【0043】
実施例23
平均粒径2μmの酸化インジウムと、平均粒径1〜2μm程度に粉砕したZnO、平均粒径2μmの酸化ガリウムをそれぞれ秤量し、酸化インジウム、ZnO及びGaが表1に記載の組成比となるように混合し、湿式粉砕機を用いて24時間粉砕した。得られた混合物をスプレードライヤーにて造粒した。得られた造粒分を、2tプレス機械を用いて所定の大きさにプレスし、このプレスした成型体を静水圧プレス機により、200MPaにて成型した。得られた成型体を1380℃にて、酸素を流通させながら、24時間焼成した。焼成後、切削加工し、4インチφ厚み5mmtの焼結体を得た。この焼結体をバッキングプレートに金属インジウムによりボンディングし、スパッタリングターゲットとした。
【0044】
得られたスパッタリングターゲットをスパッタリング装置HSM550(株式会社島津製作所製)に装着し、Ar100%雰囲気下、0.1Paの圧力にて、熱酸化膜(SiOn:100nm)を有するSb原子をハードドープしたSiウエハー上に、50nmの膜厚にて非晶質薄膜を成膜した。得られた薄膜付きSiウエハーに、エネルギー密度が150mJ/cmで、波長248nmのKrFエキシマレーザーを用いて、1パルス(パルス幅=30nsec.)照射し、レーザーアニール処理を行った。得られたエキシマレーザーを照射した薄膜付きSiウエハーを、実施例1と同様にして観察したところ、レーザーを照射した部分のみが結晶化していることが確認された。
【0045】
得られたエキシマレーザーを照射した薄膜付きSiウエハーを、実施例1と同様にしてエッチングし、パターン化結晶質薄膜を製造した。得られたパターン化結晶質薄膜を実施例1と同様にしてキャリアー濃度を計測した。結果を表1に示す。この結果から、得られたパターン化結晶質薄膜は、半導体薄膜であることが確認された。
【0046】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明のパターン化結晶質半導体薄膜は、LCD用の薄膜トランジスタや、有機エレクトロルミネッセンス(EL)用薄膜トランジスタとして好適にに使用できる。特に、本発明の半導体薄膜は酸化物からなることから、電流制御系の有機EL用の薄膜トランジスタとして用いた場合には、耐久性の高い薄膜トランジスタとして機能する。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】電子線を照射した実施例1で製造した薄膜付きSiウエハーの表面写真である。
【図2】実施例1で製造したパターン化結晶質薄膜の表面写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化インジウムを主成分とする非晶質薄膜を成膜し、
前記非晶質薄膜の一部を結晶化することにより半導体化し、
前記一部が結晶化した薄膜の非晶質部分をエッチングによって除去することにより得られるパターン化結晶質半導体薄膜。
【請求項2】
前記酸化インジウムを主成分とする非晶質薄膜が、正2価の金属酸化物を含む酸化インジウムからなる請求項1に記載のパターン化結晶質半導体薄膜。
【請求項3】
前記酸化インジウムを主成分とする非晶質薄膜が、正3価の金属酸化物を含む酸化インジウムからなる請求項1に記載のパターン化結晶質半導体薄膜。
【請求項4】
前記酸化インジウムを主成分とする非晶質薄膜が、正2価の金属酸化物及び正3価の金属酸化物を含む酸化インジウムからなる請求項1に記載のパターン化結晶質半導体薄膜。
【請求項5】
前記結晶化を電子ビームを用いて行う請求項1〜4のいずれかに記載のパターン化結晶質半導体薄膜。
【請求項6】
前記結晶化をレーザー光を用いて行う請求項1〜4のいずれかに記載のパターン化結晶質半導体薄膜。
【請求項7】
前記エッチング後、さらに熱処理する請求項5又は6に記載のパターン化結晶質半導体薄膜。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−66023(P2011−66023A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−321226(P2007−321226)
【出願日】平成19年12月12日(2007.12.12)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】