説明

パターン形成方法

【課題】複雑な構成を用いることない、描画開始から終了に至るまでの全体にわたって欠陥のない滑らかなパターン形成方法を実現することを目的とする。
【解決手段】保護剤で被覆して安定化した超微粒子を基板に接触させ、基板上にエネルギービームを照射しながら基板上を走査することで超微粒子を基板上に固定するパターン形成法において、エネルギービームの照射開始時にエネルギービームのエネルギーをエネルギービームの照射開始点のパターン中央部に欠陥が生じないよう所定時間かけて増加させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上への電気的および/または光学的機能を備えた材料のパターンを形成するためのパターン形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリコンウェハー上に真空プロセスとフォトリソグラフィー等の微細加工技術を用いて集積回路を形成する従来型の固体/ガス材料ベースの機能素子作成方法に対して、溶液化した有機材料や溶媒中にコロイド状に分散された無機材料等の液体材料と、印刷技術とを組み合わせた全く新しい材料/プロセスに基づくいわゆる印刷エレクトロニクスを用いた機能素子が数多く提案されてきている。そして、現在、印刷エレクトロニクスにおける印刷方式は、インクジェット方式を中心として、スクリーン印刷方式やグラビア印刷方式、そしてレーザー描画方式などの検討が行われている。
【0003】
レーザー描画方式は予め基板上に塗布して形成した材料の薄膜の一部にレーザー照射を行うことでその部分の材料の少なくとも一部を分解、乾燥、重合、結晶化させるなどして未照射部分との間に物性の差異を生じさせその結果パターン形成を行うものであって、商業印刷分野における版下の作製などにおいて実用化されている技術である。
【0004】
一方でパターンとして形成される材料として、近年のナノテクノロジーの進展により様々な材料の提案が行われてきている。これらは例えば直径数nmの銀の超微粒子を保護剤で被覆し適当な溶媒中に分散させたコロイド状液体材料を代表的なものとして挙げることができ、上市品を試薬メーカー等から購入可能である。この材料は銀インクなどと称され、あたかも従来の印刷用インクのように基板上に塗布を行うことができ、塗布後に熱処理を行うことで銀の超微粒子を被覆していた保護剤が分解除去され銀の皮膜が形成されるといったものである。銀のほかにも金や銅、白金、パラジウム等の貴金属を中心とした金属類、透明導電体として知られているインジウム錫酸化物や絶縁体や光導波路材料としての酸化ケイ素や酸化チタン、さらには半導体材料としてのシリコン微粒子を分散した半導体インクなどが盛んに検討されている。
【0005】
これら機能性インクともいうべき液体材料群をレーザー描画法と組み合わせて使用することで、基板上に例えば銀インクを塗布して所望のパターンにレーザー照射を行なえば導電パターンを形成することができ、また例えば酸化ケイ素のインクを塗布してパターン形成を行えば絶縁膜や光導波路を形成することができる。このようにして形成されるパターンはセンサやトランジスタ、コンデンサなどの電子素子用の電極や、あるいは光制御用の光学素子として利用される。機能性インクとレーザー描画を用いたパターン形成については例えば(特許文献1や2)に詳細が開示されている。
【特許文献1】特開2006−38999号公報
【特許文献2】特開2004−253680号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このようなレーザー描画法と超微粒子を含む液体材料を用いた手法は、フォトリソグラフィーなどに比較すると非常に簡易な方法で自由度高く高精細なパターン形成を行うことができるが、描画条件によって生成されるパターンに欠陥を生じるという問題があるが、この課題を解決するためには、例えば照射開始点において欠陥を生じる原因となっているビーム中央部のピークを下げ、ビーム全体のエネルギー分布を均一なものに近づけていけばよいのであって、例えば(特許文献1)に提案されているような照射するビームのエネルギー分布を変化させるという方法がある。これはビームホモジナイザやビームシェイパーを用いて前述したビーム中央部のエネルギーのピークを下げる、または意図的に散乱させることでビームの面内エネルギー分布を平均化させるといったもので、いずれの方法を用いても前述したビームエネルギーのガウシアン分布に起因する照射開始点中央部の欠陥の問題は回避できるものである。しかしながら提案された方法はいずれも光学系の中に追加要素を取り入れるものであって、ビームが本来持っているエネルギーの利用効率という面からは有利なものではないし、実施のための装置も追加された光学要素のために構成が複雑化し、調整が煩雑となることは避け得ない。
【0007】
そこで本発明では、上記複雑な構成を用いることなく、描画開始から終了に至るまでの全体にわたって欠陥の無い滑らかなパターン形成を実現する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような課題を解決するために本発明では、保護剤で被覆して安定化した超微粒子を基板に接触させ、基板上にエネルギービームを照射しながら基板上を走査することで超微粒子を基板上に固定するパターン形成法において、エネルギービームの照射開始時にエネルギービームのエネルギーをエネルギービームの照射開始点のパターン中央部に欠陥が生じないよう所定時間かけて増加させることを特徴とするパターン形成方法とした。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、複雑な構成を用いることなく、描画開始から終了に至るまでの全体にわたって欠陥の無い滑らかなパターン形成方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の請求項1記載のパターン形成方法によれば、保護剤で被覆して安定化した超微粒子を基板に接触させ、基板上にエネルギービームを照射しながら基板上を走査することで超微粒子を基板上に固定するパターン形成法において、エネルギービームの照射開始時にエネルギービームのエネルギーをエネルギービームの照射開始点のパターン中央部に欠陥が生じないよう所定時間かけて増加させることを特徴とするので、複雑な構成を用いることなく、描画開始から終了に至るまでの全体にわたって欠陥の無い滑らかなパターン形成を実現するという効果を奏する。
【0011】
本発明の請求項2記載のパターン形成方法によれば、エネルギービームのエネルギーをエネルギービームの照射開始点で欠陥が生じない第一のエネルギー値から前記エネルギービームを走査する際に生じない第二のエネルギー値に増加させることを特徴とするので、上記複雑な構成を用いることなく、描画開始から終了に至るまでの全体にわたって欠陥の無い滑らかなパターン形成を実現するという効果を奏する。
【0012】
本発明の請求項3記載の発明によれば、超微粒子の基板への接触が、超微粒子をコロイド状に分散した液体材料を基板上に塗布した後に乾燥させることで実現されることを特徴とするので、基板選択の自由度が高いパターン形成が可能になるという効果を奏する。
【0013】
本発明の請求項4記載の発明によれば、超微粒子の基板への接触が、超微粒子をコロイド状に分散した液体材料を基板に液体のまま接触させることで実現されることを特徴とするので、液体材料の塗布、乾燥、不要部分の除去といったプロセスを削減することが出来、より生産性の高いパターン形成を行うことが可能になるという効果を奏する。
【0014】
本発明の請求項5記載の発明によれば、液体材料は金属微粒子を含むことにより、基板上にエネルギービームを照射することによって容易に金属膜を形成することができる。
【0015】
本発明の請求項6記載の発明によれば、コロイド分散液は酸化物微粒子を含むことにより、基板上にエネルギービームを照射することによって容易に金属酸化膜を形成することができる。
【0016】
以下に図面を参照して、本発明にかかるパターン形成方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【0017】
(実施の形態)
まず、上述したパターンに欠陥ができる点について図を用いながら以下に説明する。この欠陥というのは前述したようなコロイド材料を用いるパターン形成において特有と考えられる課題である。以下にその現象と考えられる原因を説明する。
【0018】
まず、コロイド材料は金属や酸化物などのセラミックスなどからなる超微粒子と、これら超微粒子を安定に保持するための保護剤と、保護剤に被覆された超微粒子を分散させる溶媒と、その他添加剤等からなる液体材料であって、保護剤などの超微粒子以外の物質は多くの場合有機物である。そして、このようなコロイド材料に含まれる超微粒子は、その粒子径が数nmから数百nmと非常に小さいために、体積に対する表面積の比率が大きくなり、物性に対する表面の特性の影響が強く現れる傾向が強い。その特性変化の一つとして顕著なのが見かけの融点の低下である。例えば、後述する銀の場合、バルク体の融点は960℃付近にあるのに対して、保護剤で被覆された超微粒子が見かけ上融解して相互に結合しバルク体を形成する温度は高々300℃付近である。
【0019】
ここで、見かけ上と表現しているのは、超微粒子がバルク体を形成するためにはその表面が融解して互いに連結すれば十分であるからであって、超微粒子の内部までが完全に融解して超微粒子を構成する原子一つ一つがばらばらになるという意味ではないからである。一般に表面に存在する原子はダングリングボンド等の不安定要素のために内部に存在する原子に対してエネルギーが高い状態であると言え、これは融点という意味ではより低くなっていると解釈することができる。これに対して内部は安定な結合のために融点はより高くなっているといえる。我々が通常見かけるバルク体は表面に露出した原子に比べて内部に存在する原子の数が圧倒的に多く、ほとんどが内部の原子といえるため、融点を含めた諸物性は内部の原子の状態が決定する。それに対して、超微粒子では表面の比率がバルク体に比較して極端に高くなるために表面の性質が無視できなくなり、結果見かけの融点が下がったように見えるのである。
【0020】
ところで、超微粒子が一旦結合してバルク体を形成すると、その物理的な構造はバルク体銀そのものであって、当然ながら諸物性はバルク体の銀と同一となる。つまり融点もバルク体と同じになる。このような性質は銀の超微粒子に限らず、超微粒子一般に見受けられる性質である。つまり、コロイド材料は比較的低い温度で見かけ上溶解して互いに結合することでバルク体となり、そして一旦バルク体となると、その融点は上昇するという性質がある。なお、ここでいうバルク体とは超微粒子が保護剤に被覆されるなどしてそれぞれ独立している状態の対義であって、後述する薄膜もバルク体に含まれるものである。
【0021】
ところで、このような性質を持ったコロイド材料を基板に塗布して溶媒を乾燥によって除去すると、超微粒子と保護剤からなる乾燥膜が形成される。このとき、乾燥膜内の超微粒子は保護剤によって保護されているため安定している。このような乾燥膜にエネルギーを与えて加熱するなどすることで与えられるエネルギーがある一定以上になると、保護剤が分解して超微粒子がむき出しになり、不安定な状態に晒された超微粒子が互いに結合し、最終的にコロイド材料の乾燥膜はそのまま超微粒子を構成している材料からなる薄膜となる。前述したように、この薄膜化が生じる時の温度は、超微粒子を構成する材料からなるバルク体の融点に比較して低く、銀の場合で高々300℃程度である。
【0022】
次に、パターン描画に用いるレーザーなどのエネルギービームを見てみる。今レーザーを例に取ると、意図的な光学的加工を施さない限り、レーザーの光束であるビームは中央部のエネルギーが周辺部のエネルギーよりも大きくなっている、つまりエネルギーの強度はビーム進行方向に対する垂直断面の中央部ピークとした正規分布、いわゆるガウシアンカーブ、ガウシアン分布などと呼ばれる分布状態を取るのが一般的である。そして、これはレーザー以外の多くのエネルギービームでも同様である。
【0023】
さて、このようなビームを前述したようなコロイド材料からなる膜に照射し、走査を行うことで基板上に特定のパターン形成をする場合、ビームのエネルギーの大小によって以下のような現象が観察される。これを照射開始点とビーム走査時の状況に分けてそれぞれ説明する。
【0024】
始めに照射開始点における現象であるが、照射されるエネルギーが後述するように大きすぎもせず、また小さすぎもしない中間的な範囲にある時はコロイド材料からなる膜で生じる現象は以下のようなものになる。まず、照射されたビームの中央部、即ち周辺部に比較して高いエネルギーを持った部分では速やかにコロイドを構成する材料の分解が生じて膜形成が行われ、そして中央部に比較してエネルギーが小さいビーム周辺部でも中央部に比較して時間は多少かかるものの、中央部に次いで正常に膜形成が行われる。ところが、エネルギーがこの中間的な範囲よりも小さい場合には、ビーム中央部ではコロイドを構成する材料の分解が生じて膜形成が行われるものの、ビーム周辺部ではビームの裾野に当たるためにエネルギーが小さく保護剤の分解が不完全となるために膜形成も不完全となり、欠陥が生じる。また逆にエネルギーが中間的な範囲よりも大きい場合には、ビーム中央部では投入されるエネルギーが大きすぎるために材料がアブレーションされたり、溶解によって液化した材料が凝集して欠陥が生じてしまう。ところがこのとき、ビーム周辺部ではちょうど適切なエネルギー値となり良好な膜形成が行われる。このように、パターン形成のためのビーム照射開始点においては、ビームのエネルギーが中間的な値よりも大きくても小さくても欠陥を生じてしまう。
【0025】
次に、照射開始点からエネルギーを保ったままパターン形成のためのビーム走査を行った場合、照射されるエネルギーが照射開始点での現象で説明したところの中間的な範囲内にある時は、ビームの中央部が移動する領域ではパターンが形成されていくが、ビームの周辺部が通過するパターンの両端部近傍ではビームの移動によって単位時間当たりに照射されるエネルギーが減少するために膜形成が不完全となり欠陥を生じる。そしてこの現象はビームの走査速度が速くなるほどに顕著になる。一方、エネルギーが照射開始点での現象で説明したところの中間的な範囲よりも小さい場合には、ビーム中央部に相当する部分であっても、もはやパターンを形成するのが困難になり、両端近傍においては全くパターン形成が出来なくなる。
【0026】
さて、ではエネルギーが照射開始点での現象で説明したところの中間的な範囲よりも大きい場合はどうかというと、この場合はビームを走査すると、ビームの走査痕に相当する欠陥の無い滑らかなパターンが形成されるのである。
【0027】
ここで、何故このようなことになるかを説明するが、説明においては、すでに述べたように超微粒子の融点は低く、バルクの融点はそれに比較して高いという性質、つまり超微粒子は低融点のため比較的低温で容易にバルク状態に変化し、一旦バルク状態に変化するとその融点は上昇するという性質がポイントとなる。今、前述した照射開始点での現象を振り返ると、エネルギーが照射開始点での現象で説明したところの中間的な範囲よりも大きい場合、ビーム中央部では投入されるエネルギーが大きすぎるために材料がアブレーションされたり、溶解によって液化した材料が凝集して欠陥が生じてしまうが、ビーム周辺部ではちょうど適切なエネルギー値となり良好な膜形成が行われる。つまり、ビーム中央部では欠陥が生じるが、ビーム周辺部では正常な膜形成が行われ、その結果ビーム周辺部の融点は上昇するのである。このとき形成されるパターンはドーナツ状のものになる。
【0028】
さて、この状態からビーム走査を始めると、ビームの周辺部が通過する部分は膜形成のための十分なエネルギーが与えられるためにコロイド材料が次々に分解してパターンが形成されていく。そしてエネルギーの大きなビームの中央部は、照射開始点から走査がいかなる方向に行われたとしても、すでに周辺にはドーナツ状に正常な膜形成がなされており、その部分は融点が上昇しているために、欠陥を生じることは無い。そしてこれ以降走査が終了する点に至るまで、ビームがいずれの方向に走査方向を変化されたとしても、エネルギー値の大きなビーム中央部は必ずビーム周辺部が前もって通過して膜形成が完了した部分を通過することになり、結果として静止状態であれば欠陥を生じてしまうほどエネルギーの大きなビームの中央部が通過する領域であっても、ビームを走査した場合にはもはや欠陥が生じることは無い。
【0029】
このように、コロイド材料からなる膜にレーザーなどのエネルギービームを照射してパターン形成を行う際、良好なパターンを得るためにビームが投入すべきエネルギー値は、照射開始点と走査中では最適な範囲が異なっているため、ビームのエネルギーを一定にしたままでは欠陥の無いパターンを得ることは困難である。
【0030】
ここで、ビームのエネルギーが中間的な範囲よりも大きいときに発生するビーム照射開始点での欠陥の電子顕微鏡写真を図1に示し、またそのエネルギーを保ったままでビーム走査を行った場合に得られるパターン形成の実例を説明するための写真を図2に示す。図1において、符号1はビーム中央部に生じた欠陥、符号2はビームの周辺部で形成された正常なパターンである。また、図2において符号3はパターンの形成を開始した点であって、前述した照射開始点である。符号4はパターン中央部、符号5はパターン形成終了点である。図2において明らかなように欠陥は照射開始点3のみに存在して、パターン中央部4および終了点5には欠陥は存在しない。
【0031】
このように、ビームのエネルギーをビームの走査による描画時に正常なパターンが得られるような値に設定すると走査開始点において欠陥を生じ、また走査開始点において欠陥を生じないようなエネルギー値を設定するとビーム走査によるパターン形成時に欠陥を生じるという問題がある。上記問題を解決するための方法について以下に述べる。
【0032】
図3は、パターン形成装置の光学要素配置を説明するための概念図である。図3において、符号11はエネルギービーム源であり、本実施の形態においては波長532nm、最大出力1000mwの緑色レーザー光源である。本発明を実施可能なエネルギービームとしては、このような可視光レーザーのほかに赤外線や紫外線レーザー、電子線、イオンビームなどを用いることができる。符号12はビームエキスパンダ、符号13は集光レンズである。符号14は基板であって、本実施の形態においては厚さ1.1mmの一般的な耐熱ガラスを使用している。符号15は基板4上に塗布された後溶媒を乾燥させ固化したコロイド材料からなる薄膜であって、厚さはおおよそ10μmである。使用している材料は銀の超微粒子を保護剤で被覆した後に有機溶媒等に分散させたいわゆる銀インクであって、ハリマ化成株式会社等より入手先より入手可能なものである。符号16は光源1としてのレーザー装置から射出され、ビームエキスパンダ12でそのビーム幅を拡大された後に集光レンズ13で基板上に集光されるビームである。そして符号17は集光の結果形成されるビームの焦点。符号18は形成されたパターン、符号19はエネルギービーム源11の制御部、そして符号20はパターン描画の開始点である照射開始点である。
【0033】
ここで、本実施の形態ではコロイド材料としてパターン形成後に導電性を持った銀の膜となるインクを用いたが、もちろん本発明にかかるパターン形成方法を用いてパターン化可能なものは銀インクに制限されるものではなく、金や白金、銅、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、オスミウム、等の金属およびそれらの合金や混合物、ITO(インジウム錫酸化物)やIZO(インジウム亜鉛酸化物)やSnO2(酸化錫)等の化合物系導電体材料、SiO2(二酸化珪素)やSiN(窒化珪素)やTiO2(チタン酸化物)やAl23(アルミナ)等のセラミックス系絶縁体材料、SiやGaN(窒化ガリウム)やCdSe(セレン化カドミウム)を始めとする半導体材料等々、前述したコロイド様の状態を実現可能なものはほとんど全てについて本発明を用いることが可能である。
【0034】
ところで、本発明を実施するに当たり本質的ではないために図3に図示していない補助的な要素として、架台、各光学要素の保持調整機構、基板14上の材料15と焦点17との相対的な位置関係を変化させるための相対位置変更機構、さらにはこれらの各要素を一貫して動作させるためのコンピューター等の制御機構とその制御を予め記述した制御プログラムなどを挙げることができる。ここで、例えば相対位置変更機構とは、材料15と焦点17との相対位置関係を変更することができるような機構であって、二つのリニアステージを互いに直交に保持したいわゆるXYステージのことである。基板14をこのXYステージ上に固定し、基板14上の材料15と共に適切な方向に移動をさせることにより、任意のパターンを形成することができる。さらに、別の相対位置変更機構として、エネルギービーム源11やビームエキスパンダ12等を含む光源側をロボットアームなどを用いて可動に保持し、これを材料15に対して相対的に移動させるようなものや、レンズ13のみを可動に保持して、レンズ13を適切に移動させることによって焦点17の位置を材料15に対して移動させるといったものを用いても本発明を実現することができる。
【0035】
さて、以上説明したような構成を用いることでどのようにして欠陥の発生を防ぎながらパターン形成を行うのかを、パターン形成の手順に従って次に説明する。
【0036】
なお、パターン形成の一連の工程は制御機構と制御機構に備えられた制御プログラムに従いスムースに進行するものである。
【0037】
まず、基板14上にコロイドインクの乾燥膜15を形成し、この基板14を図示しないXYステージに固定する。ここで制御機構は光源の制御部19を制御してレーザー光源からレーザー光を射出すると同時にXYステージを駆動して予め定められたパターンを形成するためのビーム走査を行う。そしてパターン形成が終了すると、基板はXYステージから取り外され、次いで適切な溶媒を用いるなどしてレーザー照射がなされなかった部分のコロイドインクが除去される。このようにして基板上に所望のパターンが形成される。
【0038】
パターン形成の概略の工程はこのようなものであるが、本発明の要諦はこの中のレーザー光の射出時の制御部19の動作、特にパターン描画開始のためにレーザー光を射出し照射開始点20にビームが照射される際にビームのエネルギーを漸増させることにある。この部分について以下に詳しい説明を行う。
【0039】
すでに述べたように、ビーム16がガウシアンカーブに代表されるような中央が凸のエネルギー分布を持っている場合、ビーム16を走査する際に正常なパターン描画の行うことが可能であるようなエネルギー値(以下第二のエネルギー値と呼ぶ)と、描画開始点、即ち照射開始点20において正常なパターン形成を行うことが可能となるエネルギー値(以下第一のエネルギー値と呼ぶ)は異なっており、第一のエネルギー値よりも第二のエネルギー値のほうが大きい。繰り返すが、本発明でいうエネルギー値とは、ビームの周辺部よりも中央部のほうがエネルギー値が大きなビーム、即ち中央が凸となっているエネルギー分布を持ったビームが照射するエネルギーの合計値である。
【0040】
さて、ここまでの説明を整理すると、パターン形成のための描画を開始する照射開始点20においては、コロイド材料を分解して基板上にパターンを形成するために第一のエネルギー値よりも大きなエネルギーを与える必要があるが、この第一のエネルギー値を保ったままでビーム16を走査するとビーム周辺部が通過する領域のパターン形成が不完全になる欠陥が生じる。そして、ビーム16を走査する際に正常なパターンを形成可能な第二のエネルギー値を持ったビーム16を、描画開始時に照射開始点20にいきなり照射すると、図1に示しその成因について説明したようなドーナツ状の欠陥が生じるということである。従って、全体にわたって欠陥の無いパターンを得るためには、照射開始点20において第一のエネルギー値よりも大きく第二のエネルギー値を超えない範囲のエネルギーを持ったビーム16を照射する必要があり、ビーム16を走査して描画を行うときには第二のエネルギー値を持ったビーム16とする必要があるということである。すでに説明したように、第一のエネルギー値を持ったビーム16によって膜形成が完了した照射開始点20は、その融点が上昇しているために、ビーム16のエネルギー値を第二のエネルギー値まで上昇させたとしても欠陥を生じるといったことは無い。つまり、描画によるパターン形成を通じて欠陥を生じさせないようにするためには、照射開始点20にビームの照射を開始する際に、ビーム16の持つエネルギーをまず第一のエネルギー値以上とすることで照射開始点20にドーナツ状の欠陥のないパターンを形成し次いで第二のエネルギーに至るように順次増加させ、しかる後に描画を開始すればよいということである。
【0041】
本実施の形態においては、照射開始の際、エネルギービーム源11の制御部19がビーム16のエネルギーを漸増させる制御を行う。この制御について図4を用いて説明を行う。
【0042】
図4は、レーザー光のエネルギー値の時間変化を説明するためのグラフである。符号21は第一のエネルギー値、符号22は第二のエネルギー値、符号23はビームのエネルギー値、符号24は照射開始から第一のエネルギーに到達するまでの時間(以降第一の時間とする)を表す線、符号25は照射開始から第二のエネルギー値に到達するまでの時間(以降第二の時間とする)を表す線である。
【0043】
ここまで説明してきたように、照射開始点20においては、第一のエネルギー値以上のエネルギーを照射することによって、照射開始点20におけるパターン形成が開始されるが、このときいきなり第二のエネルギー値22を持ったビームを照射するとビーム中央部に欠陥を生じる。よって、図4に示した第一の時間24と第二の時間25の間には欠陥のないパターンを形成するための時間に相当する一定の差が必要である。この第一の時間24と第二の時間25の差は、パターンを十分に形成させるためには長いほうがよいが、生産性を考慮すると短いほどよい。実際には使用する材料や膜厚、基板種類等々、様々な周辺条件によって最適値は変化するため、適宜検討して定めるべきものである。本実施の形態においては第一の時間24と第二の時間25の差は1msecである。なお、このとき第一の時間24はゼロであってもよい。またさらに、第一の時間24を経過し第二の時間25に至るまでの間は、ビームのエネルギーは第一のエネルギー値21を上回り、第二のエネルギー値22を超えない範囲であれば一定であっても変化してもよい。
【0044】
このようなエネルギー値の制御は、例えば制御部19が光源に供給する電流を図4に示したようなパターンで変化させることで達成することができるし、また、機械的なシャッターでビームの制御を行うような場合にはシャッターを単なるON/OFFする光の遮蔽版ではなく、開閉に伴って透過率が0%から100%まで漸次変化するように位置によって透過率を変化させた板を用いるなどすればよい。つまり、シャッターの開閉によって照射開始点20において図4に示したものと同様のビームのエネルギー変化が達成されるように透過率を調整した開閉板を用いればよいということである。
【0045】
また、図4の第一のエネルギー値20と第二のエネルギー値22の具体的な値も第一の時間24と第二の時間25の差と同様様々な条件によって変化するものであるため、個々の場合に対して適切に設定されるべきものである。このとき、第一の時間24と第二の時間25の差を相対的に大きくすることによって第一のエネルギー値21を低下させることも可能である。本実施の形態においては、第一の時間24と第二の時間25の差は先に述べたように1msecであって、このときの第一のエネルギー値21と第二のエネルギー値22はそれぞれ約50mWと約80mWであった。そしてこのエネルギー値の変化は、光源の出力を決定する電流値をソフトウェアとコンピューターを用いて制御することで実現している。従って、装置に新たな光学要素等を追加しておらず、装置の構造はシンプルであり、ビームの利用効率も高いままである。
【0046】
本実施の形態による描画パターンの描画開始点および描画終了点の一例を図5(a)および(b)に示す。図5(a)は描画開始点、(b)は描画終了点である。図5(a)、(b)共に欠陥のない滑らかな表面を持ったパターンが形成されている。
【0047】
本発明の別の実施例から得られた第一および第二のエネルギー値、第一と第二の時間の差の幾つかを以下の(表1)に示す。これらの例は前述した実施例に対してコロイドインクの乾燥膜厚、エネルギービームとしてのレーザー光の波長が異なるものを含む。
【0048】
なお、これらの値はあくまで実施の一例であって、第一と第二の時間の差は参考とすべきものである。例えば乾燥膜厚が実施例に示したものよりも厚い試料を処理する場合には、照射点における材料の絶対量が増えるために金属化が完了するまでにより長い時間が必要となるであろう。その場合は、第一の時間と第二の時間の差は数十msecあるいはそれ以上の値になることも十分に考えられる。
【0049】
【表1】

【0050】
なお、上記第一の時間と第二の時間の差は(表1)に示すように、使用するサンプルおよび、レーザーの波長によって変化するが、表記する時間以上の時間間隔をあければよい。
【産業上の利用可能性】
【0051】
以上のように、ガウシアン形状に代表される中央が凸のエネルギー分布を持つエネルギービームを用いてパターン形成を行う際に、パターン形成の開始点、即ちエネルギービームの照射開始点、において照射するビームのエネルギーを増加させることで、描画開始から終了に至るまでの全体にわたって欠陥の無い滑らかなパターン形成方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】ビーム照射開始点での欠陥を説明するための写真を示す図
【図2】パターン形成の実例を説明するための写真を示す図
【図3】パターン形成装置の光学要素配置を説明するための概念図
【図4】レーザー光のエネルギー値の時間変化を説明するためのグラフ
【図5】描画パターンの描画開始点および描画終了点を示す図
【符号の説明】
【0053】
1 ビーム中央部に生じた欠陥
2 正常なパターン
3 照射開始点
4 パターン中央部
5 終了点
11 エネルギービーム源
12 ビームエキスパンダ
13 集光レンズ
14 基板
15 材料
16 ビーム
17 焦点
18 パターン
19 制御部
20 照射開始点
21 第一のエネルギー値
22 第二のエネルギー値
23 ビームのエネルギー値
24 照射開始から第一のエネルギーに到達するまでの時間を表す線(第一の時間)
25 照射開始から第二のエネルギーに到達するまでの時間を表す線(第二の時間)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
保護剤で被覆して安定化した超微粒子を基板に接触させ、基板上にエネルギービームを照射しながら前記基板上を走査することで前記超微粒子を前記基板上に固定するパターン形成法において、前記エネルギービームの照射開始時に前記エネルギービームのエネルギーを前記エネルギービームの照射開始点のパターン中央部に欠陥が生じないよう所定時間かけて増加させることを特徴とするパターン形成方法。
【請求項2】
前記エネルギービームのエネルギーを前記エネルギービームの照射開始点で欠陥が生じない第一のエネルギー値から前記エネルギービームを走査する際に欠陥が生じない第二のエネルギー値に増加させることを特徴とする請求項1記載のパターン形成方法。
【請求項3】
前記超微粒子の前記基板への接触が、前記超微粒子をコロイド状に分散した液体材料を前記基板上に塗布した後に乾燥させることで実現されることを特徴とする請求項1記載のパターン形成方法。
【請求項4】
前記超微粒子の前記基板への接触が、前記超微粒子をコロイド状に分散した液体材料を前記基板に液体のまま接触させることで実現されることを特徴とする請求項1記載のパターン形成方法。
【請求項5】
前記超微粒子が金属を含むことを特徴とする請求項1記載のパターン形成方法。
【請求項6】
前記超微粒子が酸化物微粒子を含むことを特徴とする請求項1記載のパターン形成方法。

【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図2】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−27755(P2010−27755A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−185566(P2008−185566)
【出願日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】