説明

パワーモジュール用基板の製造方法、パワーモジュール用基板、ヒートシンク付パワーモジュール用基板及びパワーモジュール

【課題】容易に、かつ、低コストで、金属板とセラミックス基板とが確実に接合された冷熱サイクル信頼性の高いパワーモジュール用基板を得ることができるパワーモジュール用基板の製造方法を提供する。
【解決手段】セラミックス基板の接合面及び金属板の接合面のうち少なくとも一方にSiを固着させて、0.002mg/cm以上1.2mg/cm以下のSiを含むSi層を形成するSi固着工程S1と、Si層を介してセラミックス基板と金属板と積層する積層工程S2と、セラミックス基板と金属板との界面に溶融金属領域を形成する加熱工程S3と、溶融金属領域を凝固させることによってセラミックス基板と金属板とを接合する凝固工程S4と、を有し、加熱工程S3において、Si層のSiを金属板側に拡散させることにより、セラミックス基板と金属板との界面に溶融金属領域を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、大電流、高電圧を制御する半導体装置に用いられるパワーモジュール用基板の製造方法、このパワーモジュール用基板の製造方法によって製造されたパワーモジュール用基板、ヒートシンク付パワーモジュール用基板及びこのパワーモジュール用基板を備えたパワーモジュールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体素子の中でも電力供給のためのパワーモジュールは発熱量が比較的高いため、これを搭載する基板としては、例えば特許文献1に示すように、AlN(窒化アルミ)からなるセラミックス基板上にAl(アルミニウム)の金属板がろう材を介して接合されたパワーモジュール用基板が用いられる。
また、この金属板は回路層として形成され、その金属板の上には、はんだ材を介してパワー素子の半導体チップが搭載される。
なお、セラミックス基板の下面にも放熱のためにAl等の金属板が接合されて金属層とされ、この金属層を介して放熱板上にパワーモジュール用基板全体が接合されたものが提案されている。
【0003】
また、回路層を形成する手段としては、金属板をセラミックス基板に接合した後に金属板に回路パターンを形成する方法の他に、例えば特許文献2に開示されているように、予め回路パターン状に形成された金属片をセラミックス基板に接合する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−086744号公報
【特許文献2】特開2008−311294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、セラミックス基板と金属板とのろう付けする際には、融点を低く設定するためにSiを7.5質量%以上含有するAl−Si系合金のろう材箔が使用されることが多い。このようにSiを比較的多く含有するAl−Si系合金においては、延性が不十分であることから圧延等によって箔材を製造するのが困難であった。
【0006】
また、ろう材箔を用いた場合、金属板の表面、ろう材箔の両面の3つの面において酸化被膜が存在することになり、金属板とセラミックス基板との界面部分に存在する酸化被膜の合計厚さが厚くなる傾向にあった。
【0007】
さらに、セラミックス基板と金属板との間にろう材箔を配置し、これらを積層方向に加圧して加熱することになるが、この加圧に際してろう材箔の位置がずれないように、ろう材箔、セラミックス基板及び金属板を積層配置する必要があった。
特に、特許文献2に記載されているように、予め回路パターン状に形成された金属片をろう材箔を介して接合する場合には、接合面の形状が複雑なため、さらに、ろう材箔、セラミックス基板及び金属板の位置精度を向上させる必要があった。
なお、ろう材箔の位置がずれた場合には、セラミックス基板と金属板との間に溶融金属層を十分に形成することができず、セラミックス基板と金属板との間の接合強度が低下するおそれがある。
【0008】
さらに、最近では、パワーモジュールの小型化・薄肉化が進められるとともに、その使用環境も厳しくなってきており、搭載される半導体素子等の電子部品からの発熱量が大きくなる傾向にあり、前述のように放熱板上にパワーモジュール用基板を配設する必要がある。この場合、パワーモジュール用基板が放熱板によって拘束されるために、冷熱サイクル負荷時に、金属板とセラミックス基板との接合界面に大きなせん断力が作用することになるため、従来にも増して、セラミックス基板と金属板との間の接合強度の向上及び信頼性の向上が求められている。
【0009】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、容易に、かつ、低コストで、金属板とセラミックス基板とが確実に接合された冷熱サイクル信頼性の高いパワーモジュール用基板を得ることができるパワーモジュール用基板の製造方法、このパワーモジュール用基板の製造方法によって製造されたパワーモジュール用基板、ヒートシンク付パワーモジュール用基板及びこのパワーモジュール用基板を備えたパワーモジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような課題を解決して、前記目的を達成するために、本発明のパワーモジュール用基板の製造方法は、セラミックス基板の表面に、アルミニウムからなる金属板が積層されて接合されたパワーモジュール用基板の製造方法であって、前記セラミックス基板の接合面及び前記金属板の接合面のうち少なくとも一方にSiを固着させて、0.002mg/cm以上1.2mg/cm以下のSiを含むSi層を形成するSi固着工程と、このSi層を介して前記セラミックス基板と前記金属板と積層する積層工程と、積層された前記セラミックス基板と前記金属板を積層方向に加圧するとともに加熱し、前記セラミックス基板と前記金属板との界面に溶融金属領域を形成する加熱工程と、この溶融金属領域を凝固させることによって、前記セラミックス基板と前記金属板とを接合する凝固工程と、を有し、前記加熱工程において、前記Si層のSiを前記金属板側に拡散させることにより、前記セラミックス基板と前記金属板との界面に、Al−Si共晶系からなる前記溶融金属領域を形成することを特徴としている。
【0011】
この構成のパワーモジュール用基板の製造方法においては、前記セラミックス基板の接合面及び前記金属板の接合面のうち少なくとも一方にSiを固着させて、0.002mg/cm以上1.2mg/cm以下のSiを含むSi層を形成するSi固着工程を備えており、加熱工程において、前記Si層のSiを前記金属板側に拡散させることにより、前記セラミックス基板と前記金属板との界面に、Al−Si共晶系からなる前記溶融金属領域を形成する構成としているので、製造が困難なAl−Si系のろう材箔を用いる必要がなく、低コストで、金属板とセラミックス基板とが確実に接合されたパワーモジュール用基板を製造することができる。
【0012】
また、ろう材箔を使用せずに、前記セラミックス基板の接合面及び前記金属板の接合面のうち少なくとも一方に直接Si層を形成しているので、ろう材箔の位置合わせ作業等を行う必要がない。よって、例えば、予め回路パターン状に形成された金属片をセラミックス基板に接合する場合であっても、位置ズレ等によるトラブルを未然に防止することができる。
【0013】
しかも、金属板及びセラミックス基板に直接Si層を形成した場合、酸化被膜は、金属板の表面にのみ形成されることになり、金属板及びセラミックス基板の界面に存在する酸化被膜の合計厚さが薄くなるので、初期接合の歩留りが向上する。
なお、前記セラミックス基板の接合面及び前記金属板の接合面のうち少なくとも一方にSi層を形成する構成としているが、生産性の観点から、金属板の接合面にSi層を形成することが好ましい。セラミックス基板の接合面にSi層を形成する場合、一枚毎のセラミックス基板にそれぞれSi層を形成しなければならない。これに対して、金属板の接合面へSi層を形成する場合には、ロール状に巻かれた長尺の金属条に対し、その一端から他端にまで連続的にSi層を形成することが可能となり、生産性に優れている。
【0014】
また、固着するSi量を0.002mg/cm以上としているので、セラミックス基板と金属板との界面にAl−Si共晶系からなる溶融金属領域を確実に形成することができ、セラミックス基板と金属板とを強固に接合することが可能となる。
さらに、固着するSi量を1.2mg/cm以下としているので、Si層自体にクラックが発生することを防止することができ、セラミックス基板と金属板との界面にAl−Si共晶系からなる溶融金属領域を確実に形成することができる。さらに、Siが過剰に金属板側に拡散して界面近傍の金属板の強度が過剰に高くなることを防止できる。よって、パワーモジュール用基板に冷熱サイクルが負荷された際に、熱応力を金属板で吸収することができ、セラミックス基板の割れ等を防止できる。
【0015】
ここで、前記Si固着工程では、SiとともにAlを固着させる構成とすることが好ましい。
この場合、SiとともにAlを固着させているので、形成されるSi層がAlとSiとを含有することになり、Si層にクラックが発生することを抑制することができる。また、このSi層が優先的に溶融することになり、溶融金属領域を確実に形成することが可能となり、セラミックス基板と金属板とを強固に接合することができる。なお、SiとともにAlを固着させるには、SiとAlとを同時に蒸着してもよいし、SiとAlの合金をターゲットとしてスパッタリングしてもよい。さらに、SiとAlを積層してもよい。
【0016】
また、前記Si固着工程は、蒸着、CVD又はスパッタリングによって前記セラミックス基板の接合面及び前記金属板の接合面のうち少なくとも一方にSiを固着させるものとすることが好ましい。
この場合、蒸着、CVD又はスパッタリングによって、Siが前記セラミックス基板の接合面及び前記金属板の接合面のうち少なくとも一方に確実に固着され、セラミックス基板と金属板との接合界面にSi層を確実に形成することが可能となる。また、Siの固着量を精度良く調整することができ、溶融金属領域を確実に形成して、セラミックス基板と金属板とを強固に接合することが可能となる。
【0017】
また、本発明のパワーモジュール用基板は、前述のパワーモジュール用基板の製造方法により製造されたパワーモジュール用基板であって、前記金属板には、Siが固溶されており、前記金属板のうち前記セラミックス基板との界面近傍におけるSi濃度が0.05質量%以上0.5質量%以下の範囲内に設定されていることを特徴としている。
【0018】
この構成のパワーモジュール用基板においては、前記金属板にSiが固溶しており、接合界面側部分のSi濃度が、0.05質量%以上に設定されているので、前述の加熱工程においてSiが十分に金属板側に拡散しており、金属板とセラミックス板とが強固に接合されていることになる。さらに、金属板の接合界面側部分がSiによって固溶強化することになる。これにより、金属板部分における亀裂の発生を防止することができ、パワーモジュール用基板の接合信頼性の向上を図ることができる。
また、接合界面側部分のSi濃度が0.5質量%以下に設定されているので、界面近傍の金属板の強度が過剰に高くなることを防止でき、パワーモジュール用基板に冷熱サイクルが負荷された際に、熱応力を金属板で吸収することが可能となり、セラミックス基板の割れ等を防止できる。
【0019】
また、本発明のパワーモジュール用基板は、パワーモジュール用基板の製造方法により製造されたパワーモジュール用基板であって、前記セラミックス基板が、AlN、Al及びSiのいずれかで構成されていることを特徴としている。
この構成のパワーモジュール用基板においては、セラミックス基板が、絶縁性及び強度に優れたAlN、Al及びSiのいずれかで構成されているので、高品質なパワーモジュール用基板を提供することができる。
【0020】
本発明のヒートシンク付パワーモジュール用基板は、前述のパワーモジュール用基板と、このパワーモジュール用基板を冷却するヒートシンクと、を備えたことを特徴としている。
この構成のヒートシンク付パワーモジュール用基板によれば、パワーモジュール用基板を冷却するヒートシンクを備えているので、パワーモジュール用基板に発生した熱をヒートシンクによって効率的に冷却することができる。
【0021】
本発明のパワーモジュールは、前述のパワーモジュール用基板と、該パワーモジュール用基板上に搭載された電子部品と、を備えることを特徴としている。
この構成のパワーモジュールによれば、セラミックス基板と金属板との接合強度が高く、使用環境が厳しい場合であっても、その信頼性を飛躍的に向上させることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、容易に、かつ、低コストで、金属板とセラミックス基板とが確実に接合された冷熱サイクル信頼性の高いパワーモジュール用基板を得ることができるパワーモジュール用基板の製造方法、このパワーモジュール用基板の製造方法によって製造されたパワーモジュール用基板、ヒートシンク付パワーモジュール用基板及びこのパワーモジュール用基板を備えたパワーモジュールを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態であるパワーモジュール用基板を用いたパワーモジュールの概略説明図である。
【図2】本発明の実施形態であるパワーモジュール用基板の回路層及び金属層のSi濃度分布を示す説明図である。
【図3】本発明の実施形態であるパワーモジュール用基板の製造方法を示すフロー図である。
【図4】本発明の実施形態であるパワーモジュール用基板の製造方法を示す説明図である。
【図5】図4における金属板とセラミックス基板との接合界面近傍を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明の実施形態について添付した図面を参照して説明する。図1に本発明の実施形態であるパワーモジュール用基板、ヒートシンク付パワーモジュール用基板及びパワーモジュールを示す。
このパワーモジュール1は、回路層12が配設されたパワーモジュール用基板10と、回路層12の表面にはんだ層2を介して接合された半導体チップ3と、ヒートシンク4とを備えている。ここで、はんだ層2は、例えばSn−Ag系、Sn−In系、若しくはSn−Ag−Cu系のはんだ材とされている。なお、本実施形態では、回路層12とはんだ層2との間にNiメッキ層(図示なし)が設けられている。
【0025】
パワーモジュール用基板10は、セラミックス基板11と、このセラミックス基板11の一方の面(図1において上面)に配設された回路層12と、セラミックス基板11の他方の面(図1において下面)に配設された金属層13とを備えている。
セラミックス基板11は、回路層12と金属層13との間の電気的接続を防止するものであって、絶縁性の高いAlN(窒化アルミ)で構成されている。また、セラミックス基板11の厚さは、0.2〜1.5mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、0.635mmに設定されている。なお、本実施形態では、図1に示すように、セラミック基板11の幅は、回路層12及び金属層13の幅より広く設定されている。
【0026】
回路層12は、セラミックス基板11の一方の面に導電性を有する金属板22が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、回路層12は、純度が99.99%以上のアルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)の圧延板からなる金属板22がセラミックス基板11に接合されることにより形成されている。
【0027】
金属層13は、セラミックス基板11の他方の面に金属板23が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、金属層13は、回路層12と同様に、純度が99.99%以上のアルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)の圧延板からなる金属板23がセラミックス基板11に接合されることで形成されている。
【0028】
ヒートシンク4は、前述のパワーモジュール用基板10を冷却するためのものであり、パワーモジュール用基板10と接合される天板部5と冷却媒体(例えば冷却水)を流通するための流路6とを備えている。ヒートシンク4(天板部5)は、熱伝導性が良好な材質で構成されることが望ましく、本実施形態においては、A6063(アルミニウム合金)で構成されている。
また、本実施形態においては、ヒートシンク4の天板部5と金属層13との間には、アルミニウム又はアルミニウム合金若しくはアルミニウムを含む複合材(例えばAlSiC等)からなる緩衝層15が設けられている。
【0029】
そして、図2に示すように、セラミックス基板11と回路層12(金属板22)及び金属層13(金属板23)との接合界面30の幅方向中央部においては、回路層12(金属板22)及び金属層13(金属板23)にSiが固溶しており、接合界面30から積層方向に離間するにしたがい漸次Siの濃度が低下する濃度傾斜層33が形成されている。ここで、この濃度傾斜層33の接合界面30側のSi濃度が0.05質量%以上0.5質量%以下の範囲内に設定されている。
なお、濃度傾斜層33の接合界面30側のSi濃度は、EPMA分析(スポット径30μm)によって、接合界面30から50μmの位置で5点測定した平均値である。また、図2のグラフは、回路層12(金属板22)及び金属層13(金属板23)の中央部分において積層方向にライン分析を行い、前述の50μm位置での濃度を基準として求めたものである。
【0030】
以下に、前述の構成のパワーモジュール用基板10の製造方法について、図3から図5を参照して説明する。
【0031】
(Si固着工程S1)
まず、図4及び図5に示すように、金属板22、23のそれぞれの接合面に、スパッタリングによってSiを固着し、Si層24、25を形成する。ここで、Si層24、25におけるSi固着量が0.002mg/cm以上1.2mg/cm以下に調整されることになる。なお、本実施形態においては、Si層24、25におけるSi固着量を0.466mg/cmに設定した。
【0032】
(積層工程S2)
次に、図4に示すように、金属板22をセラミックス基板11の一方の面側に積層し、かつ、金属板23をセラミックス基板11の他方の面側に積層する。このとき、図4及び図5に示すように、金属板22、23のうちSi層24、25が形成された面がセラミックス基板11を向くように積層する。すなわち、金属板22、23とセラミックス基板11との間にそれぞれSi層24、25を介在させているのである。このようにして積層体20を形成する。
【0033】
(加熱工程S3)
次に、積層工程S2において形成された積層体20を、その積層方向に加圧(圧力1〜35kgf/cm)した状態で真空加熱炉内に装入して加熱し、図5に示すように、金属板22、23とセラミックス基板11との界面にそれぞれ溶融金属領域26、27を形成する。この溶融金属領域26、27は、図5に示すように、Si層24、25のSiが金属板22、23側に拡散することによって、金属板22、23のSi層24、25近傍のSi濃度が上昇して融点が低くなることにより形成されるものである。なお、上述の圧力が1kgf/cm未満の場合には、セラミックス基板11と金属板22、23との接合を良好に行うことができなくなるおそれがある。また、上述の圧力が35kgf/cmを超えた場合には、金属板22,23が変形するおそれがある。よって、積層体20を加圧する際の圧力は、1〜35kgf/cmの範囲内とすることが好ましい。
ここで、本実施形態では、真空加熱炉内の圧力を10−6〜10−3Pa、加熱温度を630℃以上655℃以下の範囲内に設定している。
【0034】
(凝固工程S4)
次に、溶融金属領域26、27が形成された状態で温度を一定に保持しておく。すると、溶融金属領域26、27中のSiがさらに金属板22、23側へと拡散していくことになる。これにより、溶融金属領域26、27であった部分のSi濃度が徐々に低下していき融点が上昇することになり、温度を一定に保持した状態で凝固が進行していくことになる。つまり、セラミックス基板11と金属板22、23とは、いわゆる拡散接合(Transient Liquid Phase Diffusion Bonding)によって接合されているのである。このようにして凝固が進行した後に、常温にまで冷却を行う。
【0035】
このようにして、回路層12及び金属層13となる金属板22、23とセラミックス基板11とが接合され、本実施形態であるパワーモジュール用基板10が製造される。
【0036】
以上のような構成とされた本実施形態であるパワーモジュール用基板10及びパワーモジュール1においては、セラミックス基板11と回路層12(金属板22)及び金属層13(金属板23)とが、金属板22、23の接合面に形成されたSi層24、25のSiを金属板22、23側に拡散させることによって溶融金属領域26、27を形成し、この溶融金属領域26、27のSiを金属板22、23へ拡散して凝固させることにより接合されているので、比較的短時間の接合条件でセラミックス基板11と回路層12(金属板22)及び金属層13(金属板23)を接合することが可能となる。
【0037】
また、セラミックス基板11と回路層12(金属板22)及び金属層13(金属板23)との接合界面30の幅方向中央部においては、回路層12(金属板22)及び金属層13(金属板23)にSiが固溶しており、接合界面30から積層方向に離間するにしたがい漸次Siの濃度が低下する濃度傾斜層33が形成されており、この濃度傾斜層33の接合界面30側のSi濃度が0.05質量%以上0.5質量%以下の範囲内に設定されているので、回路層12(金属板22)及び金属層13(金属板23)の接合界面30側の部分が固溶強化し、回路層12(金属板22)及び金属層13(金属板23)における破断の発生を防止することができる。
また、加熱工程S3においてSiが十分に金属板22、23側に拡散しており、金属板22、23とセラミックス板11とが強固に接合されていることになる。
【0038】
さらに、金属板の接合面にSiを固着させて、0.002mg/cm以上1.2mg/cm以下のSiを含むSi層24、25を形成するSi固着工程S1を備えており、加熱工程S3において、Si層24、25のSiを金属板22、23側に拡散させることにより、セラミックス基板11と金属板22、23との界面に、Al−Si共晶系からなる溶融金属領域26、27を形成する構成としているので、製造が困難なAl−Si系のろう材箔を用いる必要がなく、低コストで、金属板22、23とセラミックス基板11とが確実に接合されたパワーモジュール用基板10を製造することができる。
【0039】
また、Si層24、25におけるSi固着量が0.002mg/cm以上とされているので、セラミックス基板11と金属板22、23との界面に、Al−Si共晶系からなる溶融金属領域26、27を確実に形成することができ、金属板22、23とセラミックス基板11とを強固に接合することができる。
さらに、Si層24、25におけるSi固着量が1.2mg/cm以下とされているので、Si層24、25自体にクラックが発生することを防止することができる。
【0040】
また、ろう材箔を使用せずに、金属板22、23の接合面に直接Si層24、25を形成しているので、ろう材箔の位置合わせ作業等を行う必要がない。よって、このパワーモジュール用基板10を効率良く製出することが可能となる。
しかも、Si層24、25を形成しているので、金属板22、23とセラミックス基板11との界面に介在する酸化被膜は、金属板22、23の表面にのみ存在することになるため、初期接合の歩留りを向上させることができる。
さらに、本実施形態では、金属板22、23の接合面にSi層24、25を形成する構成としているので、Si固着工程S1を効率良く行うことができる。
【0041】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、回路層及び金属層を構成する金属板を純度99.99%の純アルミニウムの圧延板としたものとして説明したが、これに限定されることはなく、純度99%のアルミニウム(2Nアルミニウム)であってもよい。
【0042】
また、ヒートシンクの天板部と金属層との間に、アルミニウム又はアルミニウム合金若しくはアルミニウムを含む複合材(例えばAlSiC等)からなる緩衝層を設けたものとして説明したが、この緩衝層がなくてもよい。
さらに、ヒートシンクをアルミニウムで構成したものとして説明したが、アルミニウム合金、又はアルミニウムを含む複合材等で構成されていてもよい。さらに、ヒートシンクとして冷却媒体の流路を有するもので説明したが、ヒートシンクの構造に特に限定はなく、種々の構成のヒートシンクを用いることができる。
【0043】
また、セラミックス基板をAlNで構成されたものとして説明したが、これに限定されることはなく、SiやAl等の他のセラミックスで構成されていてもよい。
【0044】
また、Si固着工程を、金属板の接合面にSiを固着させる構成としたものとして説明したが、これに限定されることはなく、セラミックス基板の接合面にSiを固着させてもよい。
さらに、Si固着工程において、スパッタによってSi層を形成するものとして説明したが、これに限定されることはなく、蒸着やCVD等でSiを固着させてSi層を形成してもよい。また、Si固着工程において、例えば、SiとAlとを同時に蒸着したり、SiとAlの合金をターゲットとしてスパッタリングしたりして、SiとAlとを含むSi層を形成してもよい。また、AlとSiとを積層してもよい。
【0045】
また、セラミックス基板と金属板との接合を、真空加熱炉を用いて行うものとして説明したが、これに限定されることはなく、N雰囲気、Ar雰囲気やHe雰囲気などでセラミックス基板と金属板との接合を行ってもよい。
【実施例】
【0046】
本発明の有効性を確認するために行った確認実験について説明する。
厚さ0.6mmの4Nアルミニウムからなる金属板を2枚準備し、これら金属板の片面に真空蒸着によってSiを固着させ、これら2枚の金属板を40mm角で厚さ0.635mmのAlNからなるセラミックス基板の両面に、それぞれ蒸着面がセラミックス基板を向くようにして積層し、積層方向に圧力1〜5kgf/cmで加圧した状態で真空加熱炉(真空度10−3〜10−5Pa)で630〜650℃に加熱し、セラミックス基板と回路層及び金属層とを備えたパワーモジュール用基板を製出した。
【0047】
ここで、真空蒸着により形成したSi層の厚さ(Si固着量)を、0.008μm(0.0019mg/cm)、0.6μm(0.1398mg/cm)、0.8μm(0.1864mg/cm)、1.0μm(0.2330mg/cm)、1.2μm(0.2796mg/cm)、1.5μm(0.3495mg/cm)、2.4μm(0.5592mg/cm)、3.6μm(0.8388mg/cm)、4.8μm(1.1184mg/cm)、6.0μm(1.3980mg/cm)の10水準としたパワーモジュール用基板を成形した。
このようにして成形されたパワーモジュール用基板の金属層側に、4Nアルミニウムからなる厚さ0.9mmの緩衝層を介して、ヒートシンクの天板に相当する50mm×60mm、厚さ5mmのアルミニウム板(A6063)を接合した。
これらの試験片を−45℃〜105℃の冷熱サイクルに負荷し、接合率を比較した。評価結果を表1に示す。
なお、接合率は、以下の式で算出した。ここで、初期接合面積とは、接合前における接合すべき面積のこととした。
接合率 = (初期接合面積−剥離面積)/初期接合面積
【0048】
【表1】

【0049】
Si層の厚さを0.008μm(0.0019mg/cm)とした比較例1及びSi層の厚さを6.0μm(1.3980mg/cm)とした比較例2においては、冷熱サイクル1000回での接合率が85%以下となっており、セラミックス基板と金属板との接合強度が不足していることが確認された。
一方、Si層の厚さを0.6〜4.8μm(0.1398〜1.1184mg/cm)の範囲とした実施例1−8においては、冷熱サイクル1000回での接合率が95%以上、4000回での接合率が70%以上となっており、セラミックス基板と金属板とが強固に接合されていることが確認された。
【0050】
特に、Si層の厚さを1.0〜2.4μm(0.2330〜0.5592mg/cm)の範囲とした実施例3−6においては、冷熱サイクル1000回での接合率が99.5%以上、4000回での接合率が85%以上となっており、セラミックス基板と金属板との接合強度がさらに向上していることが確認された。
【0051】
次に、厚さ0.6mmの4Nアルミニウムからなる金属板を2枚準備し、これら金属板の片面に真空蒸着によってSiを固着させ、これら2枚の金属板を40mm角で厚さ0.635mmのAlNからなるセラミックス基板の両面に、それぞれ蒸着面がセラミックス基板を向くようにして積層し、積層方向に圧力5〜35kgf/cmで加圧した状態で真空加熱炉(真空度10−3〜10−5Pa)で630〜650℃に加熱し、セラミックス基板と回路層及び金属層とを備えたパワーモジュール用基板を製出した。
【0052】
ここで、真空蒸着により形成したSi層の厚さ(Si固着量)を、0.008μm(0.0019mg/cm)、0.1μm(0.0233mg/cm)、0.4μm(0.0932mg/cm)、0.6μm(0.1398mg/cm)、0.8μm(0.1864mg/cm)、1.0μm(0.2330mg/cm)、1.2μm(0.2796mg/cm)、1.5μm(0.3495mg/cm)、2.4μm(0.5592mg/cm)、3.6μm(0.8388mg/cm)、4.8μm(1.1184mg/cm)、6.0μm(1.3980mg/cm)の12水準としたパワーモジュール用基板を成形した。
このようにして成形されたパワーモジュール用基板の金属層側に、4Nアルミニウムからなる厚さ0.9mmの緩衝層を介して、ヒートシンクの天板に相当する50mm×60mm、厚さ5mmのアルミニウム板(A6063)を接合した。
これらの試験片を−45℃〜105℃の冷熱サイクルに負荷し、接合率を比較した。評価結果を表2に示す。
なお、接合率は、以下の式で算出した。ここで、初期接合面積とは、接合前における接合すべき面積のこととした。
接合率 = (初期接合面積−剥離面積)/初期接合面積
【0053】
また、これらの試験片について、金属板のうちセラミックス基板の接合界面近傍(接合界面から50μm)のSi濃度を、EPMA分析(スポット径30μm)によって測定した。測定結果を表2に併せて示す。
【0054】
【表2】

【0055】
Si層の厚さを0.008μm(0.0019mg/cm)とした比較例3においては、接合時の加圧圧力を5〜35kgf/cmと高くした場合であっても、冷熱サイクル1000回での接合率が63%となっており、セラミックス基板と金属板との接合強度が不足していることが確認された。また、Si層の厚さを6.0μm(1.3980mg/cm)とした比較例4においては、冷熱サイクル4000回での接合率が60.3%と低くなっていることが確認される。
一方、Si層の厚さを0.1〜4.8μm(0.0233〜1.1184mg/cm)の範囲とした実施例9−18においては、冷熱サイクル1000回での接合率が89%以上、4000回での接合率が70%以上となっており、セラミックス基板と金属板とが強固に接合されていることが確認された。
【0056】
また、Si層の厚さを0.1〜4.8μm(0.0233〜1.1184mg/cm)とした場合に、金属板のうちセラミックス基板の接合界面近傍(接合界面から50μm)のSi濃度が0.1質量%以上0.5質量%以下の範囲内になることが確認された。
【符号の説明】
【0057】
1 パワーモジュール
3 半導体チップ(電子部品)
10 パワーモジュール用基板
11 セラミックス基板
12 回路層
13 金属層
22、23 金属板
24、25 Si層
26、27 溶融金属領域
30 接合界面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス基板の表面に、アルミニウムからなる金属板が積層されて接合されたパワーモジュール用基板の製造方法であって、
前記セラミックス基板の接合面及び前記金属板の接合面のうち少なくとも一方にSiを固着させて、0.002mg/cm以上1.2mg/cm以下のSiを含むSi層を形成するSi固着工程と、
このSi層を介して前記セラミックス基板と前記金属板と積層する積層工程と、
積層された前記セラミックス基板と前記金属板を積層方向に加圧するとともに加熱し、前記セラミックス基板と前記金属板との界面に溶融金属領域を形成する加熱工程と、
この溶融金属領域を凝固させることによって、前記セラミックス基板と前記金属板とを接合する凝固工程と、を有し、
前記加熱工程において、前記Si層のSiを前記金属板側に拡散させることにより、前記セラミックス基板と前記金属板との界面に、Al−Si共晶系からなる前記溶融金属領域を形成することを特徴とするパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項2】
前記Si固着工程では、Siとともに、Alを固着させることを特徴とする請求項1に記載のパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項3】
前記Si固着工程は、めっき、蒸着、CVD、スパッタリング、コールドスプレー、又は、粉末が分散しているペースト及びインクなどの塗布によって前記セラミックス基板の接合面及び前記金属板の接合面のうち少なくとも一方にSiを固着させることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載されたパワーモジュール用基板の製造方法により製造されたパワーモジュール用基板であって、
前記金属板には、Siが固溶されており、前記金属板のうち前記セラミックス基板との界面近傍におけるSi濃度が0.05質量%以上0.5質量%以下の範囲内に設定されていることを特徴とするパワーモジュール用基板。
【請求項5】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載されたパワーモジュール用基板の製造方法により製造されたパワーモジュール用基板であって、
前記セラミックス基板が、AlN、Al及びSiのいずれかで構成されていることを特徴とするパワーモジュール用基板。
【請求項6】
請求項3又は請求項4に記載のパワーモジュール用基板と、該パワーモジュール用基板を冷却するヒートシンクと、を備えたことを特徴とするヒートシンク付パワーモジュール用基板。
【請求項7】
請求項3又は請求項4に記載のパワーモジュール用基板と、該パワーモジュール用基板上に搭載される電子部品と、を備えたことを特徴とするパワーモジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−66404(P2011−66404A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−184071(P2010−184071)
【出願日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】