説明

フェノール誘導型化合物、その製造方法、及びその用途

【課題】 エポキシ樹脂硬化剤に有用なフェノール誘導型化合物、その製法、及びエポキシ樹脂組成物に対して相溶性が高く、高いガラス転移温度のエポキシ樹脂硬化物を与えるエポキシ樹脂硬化剤、並びに該硬化剤とエポキシ樹脂を含有するエポキシ樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】 式(1)(Ar、Arは、式(2)のフェニレン基又は式(3)のナフタレン基で、Xは直接結合、異種原子を含んでよい2価炭化水素基、O、S又はSOで、R1〜3はC1〜15の炭化水素基又は水酸基、v、w、xは0〜3、nは0以上)のフェノール化合物で、2個以上の水酸基を有し、それが式(4)(RはC1〜15の炭化水素基)の置換基により10〜100%未満の置換率で置換されているフェノール誘導型化合物、その製法及びそれからなるエポキシ硬化剤、並びに該硬化剤を含むエポキシ樹脂組成物。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェノール誘導型化合物、その製造方法、及びその用途に関する。さらに詳しくは、エポキシ樹脂硬化剤に有用なフェノール誘導型化合物、その製法およびそれからなる硬化剤、並びに該硬化剤を含有してなるエポキシ樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂の硬化剤としてこれまでに用いられている化合物には、アミン類、酸無水物類、ポリアミド類、イミダゾール類、メルカプタン類、フェノール類などがあり、中でもフェノール系硬化剤は種類に富み大きな一群を成している。とりわけ近年では、液状封止材、アンダーフィル剤などの用途拡大に伴い、液状または低粘度型のフェノール系硬化剤のニーズも高まっている。
【0003】
一般にフェノール系硬化剤はフェノール性水酸基の水素結合のため固形の性状を示すことが多く、高結晶性のものとなるとエポキシ樹脂組成物に対し相溶しにくくエポキシ樹脂組成物の流動性を低下させる。このためフェノール系硬化剤を上記用途とするためのアプローチとして、フェノール系硬化剤の水酸基による水素結合を防止あるいは阻害する手段が用いられる。たとえば、フェノール性水酸基を部分的または完全にアシル基またはシリル基で保護したフェノール誘導体(特許文献1〜5参照)や、フェノール性水酸基のオルソ位に置換基を導入する手段などが用いられている(特許文献6参照)。特に後者アプローチによる硬化剤の場合、前述用途において高流動性、低吸水性などの好ましい特性を発揮する一方で、一般に硬化が遅く高いガラス転移温度の硬化物が得られにくいという難点もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−53675号公報
【特許文献2】特開平8−208807号公報
【特許文献3】特開平10−168283号公報
【特許文献4】特開2001−151783号公報
【特許文献5】特開2006−96838号公報
【特許文献6】特開2000−169537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、エポキシ樹脂硬化剤に有用なフェノール誘導型化合物、およびその製法を提供する。
本発明は、さらにエポキシ樹脂組成物に対して相溶性が高く、高いガラス転移温度のエポキシ樹脂硬化物を与えうるエポキシ樹脂硬化剤、および該硬化剤とエポキシ樹脂を含有するエポキシ樹脂組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下記一般式(1)
【化1】

(式中、Ar、Arは、それぞれ下記一般式(2)で表わされるフェニレン基または下記一般式(3)で表わされるナフタレン基であり、
【0007】
【化2】

【0008】
【化3】

Xは直接結合、異種原子を含んでいてもよい2価の炭化水素基、O、S、またはSOであり、R〜Rはそれぞれ炭素数1〜15個の炭化水素基、または水酸基であり、v、w、xはそれぞれ0〜3の整数、nは0以上の整数)で示されるフェノール化合物において、一般式(1)の中に2個以上の水酸基が存在し、その水酸基が下記一般式(4)で示される置換基によって10〜100%未満の置換率で置換されているフェノール誘導型化合物を提供する。
【0009】
【化4】

(式中、Rは炭素数1〜15個の炭化水素基)
【0010】
本発明はまた、前記シラン混合物からなるエポキシ樹脂硬化剤、エポキシ樹脂組成物、エポキシ樹脂硬化物を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によって、エポキシ樹脂硬化剤に有用な新規なフェノール誘導型化合物、およびその製法が提供される。
本発明によって、エポキシ樹脂組成物に対して相溶性が高く、高いガラス転移温度のエポキシ樹脂硬化物を与えうるエポキシ樹脂硬化剤、およびそれとエポキシ樹脂を含有するエポキシ樹脂組成物が提供される。
本発明によって、成形材、各種バインダー、コーティング材、積層材などに有用なエポキシ樹脂組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、一般式(1)で表わされるフェノール化合物において、
【0013】
【化5】

一般式(1)の中に2個以上の水酸基が存在し、その水酸基が下記一般式(4)で示される置換基によって10〜100%未満の置換率で置換されているフェノール誘導型化合物を提供する。
【0014】
【化6】

(式中、Rは炭素数1〜15個の炭化水素基)
【0015】
上記一般式(1)において、Ar、Arは、それぞれ下記一般式(2)で表わされるフェニレン基または下記一般式(3)で表わされるナフタレン基である。
【0016】
【化7】

【0017】
【化8】

【0018】
一般式(2)または(3)におけるR、RおよびRは、それぞれ1〜15の炭素数で成る炭化水素基、例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、2−エチルヘキシル、シクロヘキシル、ベンジル、トリフルオロメチル、2−エトキシエチルなどの置換または非置換のアルキル基、フェニル、2−、3−または4−メチルフェニル、2−、3−または4−エチルフェニル、2−、3−または4−イソプロピルフェニル、2−、3−または4−イソブチルフェニル、2−、3−または4−tert−ブチルフェニル、2−、3−または4ベンジルフェニル、2−、3−または4−クロロフェニル、2−、3−または4−エトキシエチルフェニル、2−、3−または4−フェニルフェニル、2−、3−または4−メチルスルフィニルフェニル、α−またはβ−ナフチルなどの置換または非置換のアリール基、または水酸基である。
【0019】
v、w、およびxは、それぞれ0〜3の整数であり、v個のR、w個のRおよびx個のRは、それぞれ同一のものでも異なるものであってもよい。但し、nが0の場合は、一般式(2)におけるvが1以上でRの少なくとも一つが水酸基であるか、または一般式(3)におけるwまたはxの少なくとも一方が1以上で且つRまたはRの少なくとも一つが水酸基である。
【0020】
一般式(1)におけるXは、直接結合、酸素、硫黄、ハロゲンなどの異種原子を含んでいてもよい2価の炭化水素基、O、SまたはSOであり、特に直接結合または異種原子を含んでいてもよい2価の炭化水素基が好ましい。
【0021】
一般式(1)におけるnは0以上の整数、通常10以下、好ましくは0〜3であり、フェノール化合物が、nが異なるものの混合物である場合には、nの平均が1〜3の範囲のものであることが好ましい。
【0022】
上記式におけるXが2価の1〜20の炭素数で成る炭化水素の場合、水酸基、アルコキシ基、O、S、SO、塩素などの異種原子を含んでいてもよく、具体的には以下のようなものを例示することができる。例えばメチレン、エチレン、トリメチレン、イソプロピリデン、テトラメチレン、イソブチリデン、シクロヘキシレンなどのアルキリデン基や、フェニレン、メチルフェニレンなどのアリーレン基などの他に、下記(a)〜(m)のようなものを例示することができる。
【0023】
【化9】

【0024】
一般式(1)で表わされるフェノール化合物としてより具体的には、ヒドロキノン、レゾルシン、カテコール、などのジヒドロキシベンゼン類、o,m'−ビフェノール、o,p'−ビフェノール、m,m'−ビフェノール、m,p'−ビフェノール、p,p'−ビフェノールなどのビフェノール類、フロログルシン、1,2,4−トリヒドロキシベンゼンなどのトリヒドロキシフェノール類、ビスフェノールF、ビスフェノールAなどのビスフェノール類、1,2−ジヒドロキシナフタレン、1,3−ジヒドロキシナフタレン、1,4−ジヒドロキシナフタレン、1,5−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、1,7−ジヒドロキシナフタレン、1,8−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレンなどのジヒドロキシナフタレン類のほか、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂、フェノールナフチルアラルキル樹脂、フェノールビフェニルアラルキル樹脂、ナフトールノボラック樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、トリフェノールメタン型ノボラック樹脂、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂などの公知のフェノール系硬化剤を挙げることができる。これらの中ではジヒドロキシベンゼン類、トリヒドロキシベンゼン類、ビフェノール類、フェノール樹脂系硬化剤を使用するのが好ましいが、中でもトリヒドロキシベンゼン類の使用が特に好ましい。
【0025】
前記一般式(1)のnが0、Rが水酸基、vが2であり、前記一般式(4)のRが炭素数4〜10個の炭化水素基であるフェノール誘導型化合物は、本発明の好ましい態様である。
【0026】
また本発明のフェノール誘導型化合物の溶融粘度は、120℃のとき3000mPa・S以下あることが好ましい。
【0027】
本発明のフェノール誘導型化合物を製造する方法として、前記一般式(1)のフェノール化合物に、下記一般式(5)で示されるイソシアネート化合物を反応させる方法を挙げることができる。
【0028】
【化10】

(式中Rは前記と同じである)
【0029】
前記化学式(5)に示されるイソシアネート化合物の具体例としては、メチルイソシアネート、エチルイソシアネート、n-プロピルイソシアネート、イソプロピルイソシアネート、n-ブチルイソシアネート、s-ブチルイソシアネート、t-ブチルイソシアネート、n-ペンチルイソシアネート、シクロペンチルイソシアネート、n-ヘキシルイソシアネート、シクロヘキシルイソシアネート、フェニルイソシアネート、1-ナフチルイソシアネート、2-ナフチルイソシアネートなどを挙げることができ、特にフェニルイソシアネートが好ましい。
【0030】
反応は無溶剤でも溶剤中でも行うことが出来る。溶剤を使用する場合は水、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタンなどが挙げられる。溶剤を使用する場合、その使用量はフェノール化合物とイソシアネート化合物の仕込み重量に対して通常5〜100重量%、好ましくは10〜50重量%である。
【0031】
また反応に際しては触媒を用いるのが好ましい。使用し得る触媒としてはエポキシ基とフェノール性水酸基の付加反応に用い得るものであれば何れも使用できる。具体的にはテトラメチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムブロマイドなどの4級アンモニウム塩、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、トリエチルアミン等の塩基、トリフェニルホスフィン等のホスフィン化合物等が挙げられる。触媒の使用量は用いるグリシドール1モルに対して通常0.001〜5g、好ましくは0.005〜2.5gである。
反応時間は通常1〜20時間、好ましくは2〜15時間である。反応温度は通常40〜150℃、好ましくは50〜140℃である。
【0032】
反応終了後、目的物が結晶性である場合は水などの貧溶媒を系中に加え、冷却することにより析出させ濾過、水洗、乾燥により不純物などを除去することが出来る。また、目的物が樹脂状の場合は加熱減圧下で処理することにより未反応のイソシアネート化合物や溶剤などを除去することができる。加熱減圧下で精製を行う場合、反応触媒としては揮発しやすいトリエチルアミンなどの有機塩基を用いることが特に好ましい。
【0033】
本発明のフェノール誘導型化合物はエポキシ樹脂硬化剤として好適である。本発明のフェノール誘導型化合物からなるエポキシ樹脂硬化剤は、エポキシ樹脂組成物に対して相溶性が高く、高いガラス転移温度のエポキシ樹脂硬化物を与えうるエポキシ樹脂硬化剤である。
【0034】
また本発明のフェノール誘導型化合物を公知のフェノール系硬化剤に混合させたものもエポキシ樹脂硬化剤として用いることができる。公知のフェノール系硬化剤として、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂、フェノールナフチルアラルキル樹脂、フェノールビフェニルアラルキル樹脂、ナフトールノボラック樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、トリフェノールメタン型ノボラック樹脂、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂などの公知のフェノール系硬化剤を挙げることができるが、常温下で液状のエポキシ樹脂組成物とする用途に対しては、フェノールとオルソアリルフェノールをホルムアルデヒドで縮合させた縮合物の使用が好ましい。これら混合に用いるフェノール系硬化剤は単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。
【0035】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂及び本発明のエポキシ樹脂用硬化剤を含有する。
本発明のエポキシ樹脂組成物に用いるエポキシ樹脂としては、1分子中にエポキシ基を2個以上有する化合物であれば特に制限はなく、ノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビフェニル−フェノール類縮合型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン・フェノール重縮合型エポキシ樹脂、フェノール・アラルキル重縮合型エポキシ樹脂、アミノフェノールのトリグリシジル化物等が挙げられる。常温下で液状のエポキシ樹脂組成物とする用途に対しては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、アミノフェノールのトリグリシジル化物の使用が好ましい。
【0036】
本発明のエポキシ樹脂組成物において硬化剤の使用量は、エポキシ樹脂のエポキシ基1当量に対して0.7〜1.2当量が好ましい。エポキシ基1当量に対して、0.7当量に満たない場合、あるいは1.2当量を超える場合、いずれも硬化が不完全となり良好な硬化物性が得られない恐れがある。
【0037】
また本発明のエポキシ樹脂組成物において硬化促進剤を併用しても差し支えない。用いうる硬化促進剤の具体例としては例えば2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾ−ル類、2−(ジメチルアミノメチル)フェノール、1,8−ジアザ−ビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7等の第3級アミン類、トリフェニルホスフィン等のホスフィン類、オクチル酸スズ等の金属化合物等が挙げられる。硬化促進剤はエポキシ樹脂100重量部に対して0.1〜5.0重量部が必要に応じ用いられる。
【0038】
本発明のエポキシ樹脂組成物は必要により無機充填材を含有する。用いうる無機充填材の具体例としてはシリカ、アルミナ、タルク等が挙げられる。無機充填材は本発明のエポキシ樹脂組成物中において0〜90重量%を占める量が用いられる。更に本発明のエポキシ樹脂組成物には、シランカップリング剤、ステアリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム等の離型剤、顔料等の種々配合剤を添加することができる。
【0039】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、上記各成分を均一に混合することにより得られる。本発明のエポキシ樹脂組成物は従来知られている方法と同様の方法で容易にその硬化物とすることができる。
本発明のエポキシ樹脂組成物が、常温下で液状を呈していると取り扱いが容易であるので、好ましい態様である。
【0040】
エポキシ樹脂組成物は、例えば、エポキシ樹脂と硬化剤、並びに必要により硬化促進剤及び無機充填材及び配合剤とを必要に応じて押出機、ニーダ、ロール等を用いて均一になるまで充分に混合することより本発明のエポキシ樹脂組成物を得て、そのエポキシ樹脂組成物を溶融注型法あるいはトランスファー成型法やインジェクション成型法、圧縮成型法などによって成型し、更に80〜200℃で2〜10時間に加熱することにより硬化物を得ることができる。
【0041】
また本発明のエポキシ樹脂を、ガラス繊維、カ−ボン繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アルミナ繊維、紙などの基材に含浸させ加熱乾燥して得たプリプレグを熱プレス成形して硬化物を得ることもできる。この際の溶剤は、本発明のエポキシ樹脂組成物と該溶剤の混合物中で通常10〜70重量%、好ましくは15〜70重量%を占める量を用いる。
【0042】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、成形材、各種バインダー、コーティング材、積層材などに好適に使用することができる。エポキシ樹脂組成物の好適な用途して、半導体封止材料、積層材料、塗料、接着剤、レジスト、液状封止材または導電ペーストなどを挙げることができる。
【実施例】
【0043】
以下に実施例を用いて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら制限されるものではない。
【0044】
(参考例)液状フェノールノボラック樹脂の合成
フェノール117.6g(1250ミリモル)、2-アリルフェノール503.2g(3750ミリモル)、37%-ホルマリン81.2g(1000ミリモル)の混合物を60℃に加熱後、蓚酸二水和物2gを添加して2時間かけながら95℃まで昇温した。そのあとさらに蓚酸二水和物2gを添加して95℃で3時間保持した。反応終了後、減圧留去により液状フェノールノボラック樹脂232.9gを得た(水酸基当量:135g/eq)。
【0045】
(実施例1)フロログルシン誘導型化合物Aの合成[モル比(フェニルイソシアネート/フロログルシン)=1/1]
フロログルシン25.2g(200ミリモル)、ジメトキシエタン80g、トリエチルアミン0.02gの混合溶液に、フェニルイソシアネート23.8g(200ミリモル)を常温下で0.5時間かけて滴下した後、70℃で6時間保持した。反応終了後、減圧留去によりフロログルシン誘導型化合物A50.1gを得た。120℃時の溶融粘度は800mPa・sであった。
【0046】
(比較例1)
参考例で得られた液状フェノールノボラック樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製、エポキシ当量:168/g/eq)、1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン-7を表1に示す割合で配合し、充分に混合してエポキシ樹脂組成物を得た。これを用いて組成物粘度およびゲル化時間を測定した。またエポキシ組成物を120℃下で1時間、150℃下で1時間、さらに180℃下で3時間加熱してガラス転移温度測定用のテストピースを作成した。結果を表1に示す。
【0047】
本発明における物性の測定は下記の方法によって行った。
(1)組成物粘度
ICI溶融粘度計により硬化剤とエポキシ種を溶融混合物の50℃のときの粘度を測定した。
(2)ゲル化時間
150℃熱板上でゲル化が観測されるまでの時間を測定した。
(3)ガラス転移温度(Tg)
TMAにより得られる線膨張係数の変曲点をガラス転移温度とした。
【0048】
(比較例2)
比較例1の液状フェノールノボラック樹脂の代わりにフロログルシンを用い、表1のような配合とした以外は、比較例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0049】
(実施例2)
比較例の液状フェノールノボラック樹脂の代わりに実施例1のフロログルシン誘導型化合物Aを用い、表1のような配合とした以外は、比較例と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0050】
(実施例3〜4)
硬化剤に比較例の液状フェノールノボラック樹脂、および実施例1のフロログルシン誘導型化合物Aの両方を用い、表1のような配合とした以外は、比較例と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。なお、実施例3における硬化剤成分中のフロログルシン誘導型化合物Aの濃度は50%、実施例4における硬化剤成分中のフロログルシン誘導型化合物Aの濃度は25%である。
【0051】
【表1】

【0052】
本発明が与えるフェノール誘導型化合物は、エポキシ樹脂組成物に対する相溶性が高く、ガラス転移温度の高いエポキシ樹脂硬化物を与えうるエポキシ樹脂硬化剤として作用する。また、液状フェノールノボラック樹脂との併用により液状としたエポキシ樹脂組成物の場合においても上記の特徴を維持し、液状フェノールノボラック樹脂のみを硬化剤とした場合よりもエポキシ樹脂硬化物のガラス転移温度が高く、少量の添加でもガラス転移温度の上昇効果が高いことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明によって、エポキシ樹脂硬化剤に有用な新規なフェノール誘導型化合物、およびその製法が提供される。
本発明によって、エポキシ樹脂組成物に対して相溶性が高く、高いガラス転移温度のエポキシ樹脂硬化物を与えうるエポキシ樹脂硬化剤、およびそれとエポキシ樹脂を含有するエポキシ樹脂組成物が提供される。
本発明によって提供されるエポキシ樹脂組成物は、成形材、各種バインダー、コーティング材、積層材などに好適に使用される。
本発明が与えるフェノール誘導型化合物は、エポキシ樹脂組成物に対し相溶性が高くガラス転移温度の高いエポキシ樹脂硬化物を与えることができるエポキシ樹脂硬化剤として作用する。さらに、そのエポキシ樹脂組成物に対する添加量が少量であってもガラス転移温度の上昇効果が高い特徴を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】

(式中、Ar、Arは、それぞれ下記一般式(2)で表わされるフェニレン基または下記一般式(3)で表わされるナフタレン基であり、
【化2】

【化3】

Xは直接結合、異種原子を含んでいてもよい2価の炭化水素基、O、S、またはSOであり、R〜Rはそれぞれ炭素数1〜15個の炭化水素基、または水酸基であり、v、w、xはそれぞれ0〜3の整数、nは0以上の整数)で示されるフェノール化合物において、一般式(1)の中に2個以上の水酸基が存在し、その水酸基が下記一般式(4)で示される置換基によって10〜100%未満の置換率で置換されているフェノール誘導型化合物。
【化4】

(式中、Rは炭素数1〜15個の炭化水素基)
【請求項2】
前記一般式(1)のnが0、Rが水酸基、vが2である請求項1に記載のフェノール誘導型化合物。
【請求項3】
120℃のときの溶融粘度が3000mPa・S以下ある請求項1または2に記載のフェノール誘導型化合物。
【請求項4】
請求項1に記載の前記一般式(1)のフェノール化合物に、下記一般式(5)で示されるイソシアネート化合物を反応させることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のフェノール誘導型化合物の製造方法。
【化5】

(式中Rは前記と同じである)
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載のフェノール誘導型化合物からなるエポキシ樹脂硬化剤。
【請求項6】
フェノールとオルソアリルフェノールをホルムアルデヒドで縮合させた縮合物に請求項1〜3のいずれかに記載のフェノール誘導型化合物を混合してなるエポキシ樹脂硬化剤。
【請求項7】
請求項5または6に記載のエポキシ樹脂硬化剤とエポキシ樹脂とからなるエポキシ樹脂組成物。
【請求項8】
硬化促進剤を含有する請求項7に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項9】
半導体封止材料、積層材料、塗料、接着剤およびレジストから選ばれるいずれかの用途に用いるものである請求項7または8に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項10】
常温下で液状を呈することを特徴とする請求項7または8に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項11】
液状封止材または導電ペーストに用いるものである請求項10に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項12】
請求項7〜11のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物を硬化して得られるエポキシ樹脂硬化物。

【公開番号】特開2010−189296(P2010−189296A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−33922(P2009−33922)
【出願日】平成21年2月17日(2009.2.17)
【出願人】(000126115)エア・ウォーター株式会社 (254)
【Fターム(参考)】