説明

フラップバルブ

【課題】弁体の上下流の圧力差を相殺させて、弁体の駆動トルクを小さくしたEGRバルブを提供する。
【解決手段】EGRバルブ1の閉弁時は、弁体5がバルブシート4に着座する。このとき、上流側の圧力が圧力導入孔7を通ってベローズ8の内部に供給される。すると、ベローズ8内が加圧されてベローズ8に伸長力(伸びる力)が発生し、弁体5を上流側へ押す。このベローズ8の伸長力(弁体5を上流側へ押す力)によって、弁体5の上流側に加わる圧力を相殺(キャンセル)させることができ、小さな駆動トルクで弁体5を開閉駆動できる。このため、電動アクチュエータにおいて大きな駆動トルクが必要なく、電動アクチュエータを小型化できるとともに、コストを抑えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体通路を少なくとも閉塞可能なフラップバルブに関し、例えばEGRバルブ等に用いて好適な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
フラップバルブは、「流体通路の内壁部」や「流体通路から離れた部位」に、弁体を駆動するためのシャフトが配置される。このため、流体の流れ抵抗を小さくでき、弁体が配置される流体通路の容積を小さくすることができる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、流体上流側と流体下流側の圧力差が大きい場合、弁体を駆動する際に、圧力差に打ち勝つ駆動トルクを弁体に与える必要がある。即ち、弁体の駆動トルクが大きくなってしまう不具合がある。その結果、例えばバルブ駆動手段に電動アクチュエータを用いる場合には、電動アクチュエータが大型化するとともにコストが上昇し、結果的にフラップバルブの大型化とコスト上昇を招いてしまう。
【0004】
上記の問題点を、EGRバルブを用いて説明する。
車両に搭載されるエンジン(燃料の燃焼により動力を発生させる内燃機関)の排出した排気ガスの一部をEGRガスとして吸気通路へ戻すEGR装置(排気ガス循環装置)を搭載する。
EGR装置は、
・エンジンの排気通路から排気ガスの一部を吸気通路へ戻すEGR流路と、
・このEGR流路の開度を調整することで吸気側へ戻されるEGRガス量をコントロールするEGRバルブと、
・このEGRバルブの開度制御(具体的には、EGRバルブに搭載される電動アクチュエータの通電制御)を行なうECU(エンジン・コントロール・ユニットの略)と、
を備える。
【0005】
このように、EGRバルブは、高圧の排気圧と、低圧の吸気圧とを連通させるEGR流路の開閉を行なうものであるため、EGRガス上流側(排気通路側:以下、上流側と称す)とEGRガス下流側(吸気通路側:以下、下流側と称す)との圧力差が100kPa前後と大きい。
EGRバルブにフラップバルブを提要した場合(例えば、特許文献2参照)、大きな圧力差を受ける弁体を駆動するために、電動アクチュエータにおいて大きな駆動トルクを発生する必要がある。このため、電動アクチュエータの大型化とコスト上昇によりEGRバルブが大型化するとともに、コストアップする不具合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−174175号公報
【特許文献2】特開平11−294267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、弁体の上下流の圧力差を相殺させて、弁体の駆動トルクを小さくできるフラップバルブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
〔請求項1の手段〕
請求項1の手段の弁体には、上流側の圧力を下流側へ導く圧力導入孔が設けられ、弁体における下流側にはベローズ(筒方向に伸縮可能な部材:蛇腹等)が設けられる。このベローズは、圧力導入孔により下流側へ導かれた圧力を漏れなく収容するものであり、下流側が固定される。
このため、弁体がバルブシートに着座して流体通路を閉塞する状態では、上流側の圧力が圧力導入孔を通ってベローズの内部に蓄えられてベローズに伸長力(伸びる力)を与える。
ベローズは、下流側が固定されているため、ベローズに生じた伸長力によって、弁体が上流側へ押される。これにより、下流側に設けたベローズの伸長力によって、弁体の上流側に加わる圧力を相殺(キャンセル)させることができ、結果的に小さな駆動トルクで弁体を開閉させることができる。
【0009】
〔請求項2の手段〕
請求項2において弁体とベローズは、樹脂素材によって一体に設けられる。
これにより、部品点数が減るため、組付けが容易になり、製造コストを抑えることができる。
【0010】
〔請求項3の手段〕
請求項3のフラップバルブは、排気ガス還流装置のEGRバルブに適用されるものであり、四フッ化エチレン樹脂(テフロン:登録商標)によって弁体とベローズが一体に設けられる。
四フッ化エチレン樹脂は、熱履歴による塑性変化が小さい。また、四フッ化エチレン樹脂は、摩擦係数の小さい低μの樹脂部材であるため、摩耗の発生を抑えることができるとともに、異物(デポジット、もらい錆等)の付着が抑えられる。このため、弁体およびベローズの長寿命化が可能になり、EGRバルブの信頼性を高めることができる。
【0011】
〔請求項4の手段〕
請求項4のフラップバルブは、シャフトと弁体とを弾性変形可能なバネ材を用いて結合するものである。
閉弁時においてベローズに生じる伸長力によって、弁体がバルブシートに押される。弁体がバルブシートに押されてバネ材が撓む(弾性変形する)ことで、弁体とバルブシートが確実に合致する。この結果、閉弁時において、弁体とバルブシートの隙間漏れの発生を確実に防ぐことができる。
【0012】
〔請求項5の手段〕
請求項5のバネ材は、シャフトに外嵌されるシャフト結合バネ部を備える。このシャフト結合バネ部に形成された直線係合部が、シャフトに形成されたカット平面に係合することでシャフトとバネ材とが一体に回動するものである。
このように、シャフトの周囲にバネ材を外嵌するだけで、シャフトとバネ材が結合されるため、組付けを簡素化でき、製造コストを抑えることができる。
【0013】
〔請求項6の手段〕
請求項6のバネ材は、弁体に結合する弁体結合バネ部を備える。この弁体結合バネ部は、前記弁体の外周縁を両側から挟んで支持する2本の円弧アームによって設けられる。
このように、2本の円弧アームで弁体を挟むだけで、弁体とバネ材が結合されるため、組付けを簡素化でき、製造コストを抑えることができる。
【0014】
〔請求項7の手段〕
請求項7における2本の円弧アームは、弁体の外周縁に形成されたバルブ溝の内部に嵌め入れられる円弧形状を呈する。
そして、(i)2本の円弧アームの内径寸法が、バルブ溝における溝底の外径寸法より大きく設けられるとともに、
(ii)閉弁時に弁体においてバルブシートの内部に侵入する凸形台形テーパ部の外径寸法が、バルブシートの内径寸法より小さく設けられる。
【0015】
上記(i)により、円弧アームに対して弁体が径方向へ移動可能に支持される。
そして、上記(ii)により、弁体が閉じる際、凸形台形テーパ部がバルブシートの内径に接触すると、凸形台形テーパ部がバルブシートにならい、弁体が径方向へ移動しながら弁体がバルブシートに着座する。
このように、弁体が閉じる際に、上記(i)、(ii)によって弁体をバルブシートに対して調芯させることができ、閉弁時に弁体とバルブシートの隙間漏れの発生を確実に防ぐことができる。
【0016】
〔請求項8の手段〕
請求項8のバルブシートは、摩擦係数の小さい四フッ化エチレン樹脂によって設けられる。
これにより、バルブシートおよびバルブシートに着座する弁体の摩耗が抑えられるとともに、バルブシートに対する異物(デポジット、もらい錆等)の付着が抑えられる。このため、長期に亘って閉弁時における漏れの発生を防ぐことができ、フラップバルブ(例えば、EGRバルブ等)の信頼性を高めることができる。
【0017】
〔請求項9の手段〕
請求項9のハウジングは、
・流体通路における下流側を形成する第1型抜きと、
・流体通路における上流側を形成する第2型抜きと、
・ハウジングの外部から流体通路の内部にベローズを含む弁体の組み入れを行なう挿入口を形成する第3型抜きとを用いて形成される。
これにより、ハウジングの1部品化を実現することができる。このため、部品点数の低減によりコストを抑えることができるとともに、ハウジングの小型化によりフラップバルブの小型化が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】EGRバルブの開閉状態の説明図である(実施例1)。
【図2】ベローズの説明図である(実施例1)。
【図3】EGRバルブの概略断面図である(実施例1)。
【図4】シャフトに組み付けられる弁体の説明図である(実施例1)。
【図5】EGRバルブの要部断面図である(実施例2)。
【図6】バネ材の撓みによるシール性向上の説明図である(実施例2)。
【図7】ハウジングの製造とEGRバルブの組付けの説明図である(実施例3)。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図面を参照して[発明を実施するための形態]を説明する。
EGRバルブ1(フラップバルブの一例)は、
・内部にEGR流路2(流体通路の一例)が形成されるハウジング3と、
・EGR流路2内に設けられたバルブシート4に着座することでEGR流路2を閉塞する弁体5と、
・この弁体5を開閉駆動する電動アクチュエータ6(バルブ駆動手段の一例)と、
を具備する。
【0020】
弁体5には、EGRガスの上流側(排気通路側)の圧力を、EGRガスの下流側(吸気通路側)へ導く圧力導入孔7が設けられる。
また、弁体5における下流側には、筒方向(筒の外周方向に対して垂直な方向)へ伸縮可能なベローズ8が設けられる。このベローズ8は、圧力導入孔7により下流側へ導かれた圧力を漏れなく収容するものであり、内部に圧力が供給されると、内圧の上昇によって筒方向へ伸びる伸長力を発生するものである。そして、ベローズ8の下流側は、ハウジング3に対して直接または間接的に固定されるものである。
なお、ベローズ8の復元力(バネ力)は小さい方が好ましい。また、ベローズ8の復元力は、無負荷状態(フリーの状態)で伸長状態{図2(a)の状態参照}に戻るものが望ましいが、限定されるものではない。
【実施例】
【0021】
以下において本発明を車両エンジンに搭載されるEGR装置のEGRバルブ1に適用した具体的な一例(実施例)を、図面を参照して説明する。以下の実施例は、具体的な一例を開示するものであって、本発明が実施例に限定されないことは言うまでもない。
なお、以下の実施例において、上記[発明を実施するための形態]と同一符号は、同一機能物を示すものである。
【0022】
[実施例1]
図1〜図4を参照して実施例1を説明する。
EGR装置は、エンジンの排出した排気ガスの一部をEGRガスとしてエンジンの吸気側に戻すことで、吸気の一部に不燃ガスであるEGRガスを混入させる周知の技術である。
EGR装置は、排気通路を流れる排気ガスの一部を吸気通路へ戻すEGR流路2と、このEGR流路2の開閉および開度調整を行なうEGRバルブ1とを少なくとも備え、このEGRバルブ1の開度が車両の走行状態に応じてECUによって制御される。
【0023】
EGRバルブ1は、吸気通路におけるスロットルバルブの吸気下流側へEGRガスを戻す高圧EGR装置に搭載される高圧EGRバルブであっても良いし、吸気通路におけるスロットルバルブの吸気上流側(例えばターボチャージャ搭載車両であればコンプレッサの吸気上流側)へEGRガスを戻す低圧EGR装置に搭載される低圧EGRバルブであっても良い。
【0024】
EGRバルブ1の具体的な一例を、図3を参照して説明する。
なお、以下では、図3の図示左側を左、図示右側を右と称して説明するが、この左右は実施例の説明のための方向であり、限定されるものではない。
EGRバルブ1は、フラップバルブであり、
・内部にEGR流路2(具体的にはEGR流路2の一部)を形成するハウジング3と、
・このEGR流路2に配置され、EGR流路2内に設けられたバルブシート4に着座することでEGR流路2を閉塞するる弁体5と、
・ハウジング3に対して回転自在に支持されるシャフト9と、
・このシャフト9と弁体5を結合する弾性変形可能なバネ材10と、
・シャフト9を介して弁体5を回動させる電動アクチュエータ6と、
を具備する。
【0025】
ハウジング3は、例えば、アルミニウム製であり、ハウジング3の内部にはEGR流路2が形成されている。
ハウジング3内に形成されるEGR流路2は屈曲して設けられるものであり、この実施例では上流側に対して下流側が直角に屈曲して設けられ、その屈曲部において弁体5が回動するように配置されている。
【0026】
屈曲部における上流側には、閉弁時に弁体5が着座する円環状のバルブシート4が設けられている。
このバルブシート4は、その上流側のEGR流路2の内径寸法より大径の環状段差部であり、弁体5がバルブシート4に全周に亘って着座することでEGR流路2の閉塞が行なわれる。
【0027】
弁体5は略円盤形状を呈し、外周側にはバルブシート4に着座する環状平面部5aが設けられている。なお、環状平面部5aの内側に設けられる凸形台形テーパ部5bについては実施例2で説明する。
また、弁体5には、上流側のEGRガスを下流側へ導く圧力導入孔7が1つまたは複数(図面は4つ)設けられている。
【0028】
一方、弁体5における下流側には、圧力導入孔7により弁体5の下流側へ導かれたEGRガスの圧力を漏れなく収容するベローズ8が、弁体5と一体に設けられている。
このベローズ8は、その下流側がハウジング3の屈曲部に固定される。このため、ベローズ8の内部圧力が上昇すると、ベローズ8に伸長力(伸びる力)が生じて、上流側の弁体5に付勢力(弁体5をバルブシート4に押し付ける力)を発生させるものである。
【0029】
ベローズ8は、内圧変化によって筒方向へ伸縮する筒体(蛇腹部材)であり、
(i)復元力(バネ力)は小さく設けられ、
(ii)無負荷状態(フリーの状態)では伸長状態に戻り{図2(a)参照}、
(iii)筒体に圧縮力を加えると容易に圧縮状態に変形するものである{図2(b)参照}。
なお、ベローズ8がハウジング3内の屈曲部に組み付けた状態では、図2(c)に示すように、ベローズ8が曲がって組み付けられる。
【0030】
ベローズ8における下流端部(弁体5とは異なった側の端部)には、ハウジング3に固定される大径リング8aが一体に設けられている。
この大径リング8aは、弁体5の外径寸法およびベローズ8の外径寸法より大径に設けられている。
【0031】
一方、ハウジング3の屈曲部には、外部から弁体5およびベローズ8をハウジング3の内部に挿入する挿入口11が設けられている。
挿入口11の外側は大径リング8aが挿入可能な大径穴に設けられ、挿入口11の内側は大径リング8aより小径で弁体5およびベローズ8が挿入可能な小径穴に設けられている。
そして、弁体5およびベローズ8を挿入口11の内部に組み入れ、続いて挿入口11の内部に大径リング8aを嵌め入れた後、挿入口11をベローズ固定プレート12で閉塞することで、弁体5およびベローズ8の組付けが行なわれている。
【0032】
シャフト9は、EGR流路2に対して垂直に配置された略円柱棒状を呈する耐腐食性に優れた部材(例えば、ステンレスなど)よりなる軸体であり、屈曲部における隅部と外部(図3の左側)を貫通したシャフト挿通穴の内部において軸受13(メタルベアリング、転がりベアリング等)を介して回転自在に支持される。
また、シャフト9とハウジング3との間には、EGRガスが電動アクチュエータ6の内部(ギヤやモータ等が収容される空間)へ漏れるのを防ぐシール部材が配置される。このシール部材は、シール機能を有する軸受13を用いるものであっても良いし、軸受13と独立したものであっても良い。
さらに、シャフト9の周囲のハウジング3の内部には、昇温を抑える冷却水循環路(エンジン冷却水等が循環する循環路:図示しない)が設けられており、電動アクチュエータ6の昇温を抑えるように設けられている。
【0033】
バネ材10は、所定径のバネ線を所定形状に設けたものであり、
(i)シャフト9に結合するシャフト結合バネ部14と、
(ii)弁体5に結合する弁体結合バネ部15と、
(iii)シャフト結合バネ部14から弁体結合バネ部15に至るアームバネ部16と、で構成される。
【0034】
電動アクチュエータ6は、ハウジング3の左部に配置されて、シャフト9を回動駆動するものであり、
・通電により回転動力を発生する電動モータ17(例えば、通電量に応じた回転トルクを発生する周知の直流モータ)と、
・この電動モータ17の回転トルクを増幅してシャフト9に伝達する減速装置18(図3では、複数のギヤを組み合わせた歯車式減速機)と、
・シャフト9を介して弁体5に閉弁方向の付勢力を与えるリターンスプリング19と、
・弁体5の開度を検出する回転角センサ(例えば、シャフト9の角度を非接触で検出する磁気回転角センサ:図示しない)と、
を備える。
【0035】
なお、電動モータ17は、ECUによって通電制御されるものであり、電動モータ17がECUによって通電制御されることで弁体5の開度制御が行なわれて、エンジンに戻されるEGRガス量の調整が行なわれる。
具体的にECUは、マイクロコンピュータを搭載した周知の電子制御装置であり、回転角センサによって検出される実際の弁体5の開度が、車両走行状態に応じて算出された目標開度となるように、ECUが電動モータ17を通電制御するものである。
【0036】
(実施例1における特徴技術1の作動および効果)
EGRバルブ1の開弁時の作動を、図1(a)を参照して説明する。
車両の運転状態が、EGRガスを吸気側へ戻す運転状態(例えば、エンジン負荷が小さい運転状態など)になると、ECUが電動モータ17に開弁方向の駆動力を発生させ、リターンスプリング19の付勢力に抗して弁体5を開弁方向へ回動させる。
その結果、EGR流路2の上流側と下流側が連通し、弁体5の開度(電動モータ17の通電量)に応じたEGRガスが吸気側へ戻される。
【0037】
EGRバルブ1の閉弁時の作動を、図1(b)を参照して説明する。
車両の運転状態が、EGRガスの循環を停止する運転状態(例えば、エンジン負荷が大きい運転状態など)になると、ECUは電動モータ17の通電を停止し、リターンスプリング19の付勢力により弁体5を閉弁方向へ回動させる。
弁体5がバルブシート4に着座すると、EGR流路2の上流側と下流側の連通が遮断される。
また、弁体5がバルブシート4に着座すると、上流側におけるEGRガスの圧力(排気圧)が圧力導入孔7を通ってベローズ8の内部に供給され、ベローズ8内を加圧する。その結果、ベローズ8に伸長力(伸びる力)が発生する。
【0038】
ベローズ8の下流側は、ハウジング3に固定されているため、ベローズ8に生じた伸長力が弁体5を上流側へ押す。これにより、弁体5の下流側に設けたベローズ8の伸長力によって、弁体5の上流側に加わる圧力を相殺(キャンセル)させることができる。
即ち、例えば、高圧EGRバルブ1に用いる場合、上流側(排気通路側)と下流側(吸気通路側)との圧力差が100kPa前後と大変大きいが、ベローズ8の伸長力によって、弁体5の上流側に加わる圧力を相殺(キャンセル)できる。
【0039】
このように、例え上流側と下流側との差圧が大きくても、その圧力差をベローズ8の伸長力によってキャンセルすることができるため、小さな駆動トルクで弁体5を開閉させることができる。
このため、電動アクチュエータ6において大きな駆動トルクが必要がなく、電動アクチュエータ6を小型化することができるとともに、コストを抑えることができる。即ち、EGRバルブ1を小型化できるとともに、EGRバルブ1のコストを抑えることが可能になる。
【0040】
(実施例1における特徴技術2)
この実施例の弁体5とベローズ8は、樹脂素材によって一体に設けられる。
具体的に、この実施例の弁体5とベローズ8は、熱履歴で塑性変化の少ない四フッ化エチレン樹脂によって一体に設けられる。
さらに具体的に説明すると、この実施例の弁体5とベローズ8は、棒状を呈する四フッ化エチレン樹脂材に切削加工を施し、削り出しによって弁体5とベローズ8を一体に設けたものである。
このように、弁体5とベローズ8を樹脂素材によって一体に設けることにより、弁体5とベローズ8の隙間の発生を確実に無くして信頼性を高めることができるとともに、部品点数を抑えることができ、組付けが容易になり、製造コストを抑えることができる。
【0041】
また、弁体5とベローズ8を成す四フッ化エチレン樹脂は、熱履歴による塑性変化が小さいため、EGRバルブ1に使用しても長期に亘って変形が防がれる。
さらに、弁体5とベローズ8を成す四フッ化エチレン樹脂は、摩擦係数の小さい低μの樹脂部材であるため、弁体5および弁体5が着座するバルブシート4の摩耗を抑えることができるとともに、デポジット等の異物の付着が抑えられる。このため、弁体5およびベローズ8の長寿命化が可能になり、EGRバルブ1の信頼性を高めることができる。
【0042】
(実施例1における特徴技術3)
バネ材10におけるシャフト結合バネ部14は、シャフト9に外嵌されてシャフト9とバネ材10とを結合するものであり、このシャフト結合バネ部14を図4を参照して説明する。
シャフト9には、バネ材10(具体的にはシャフト結合バネ部14)が外嵌される範囲(シャフト9の右側)に、軸方向に沿うカット平面9a(キー溝)が設けられている。
一方、シャフト結合バネ部14には、シャフト9のカット平面9aに係合する直線係合部14aが設けられている。即ち、シャフト結合バネ部14は、シャフト9の軸方向から見て「の」字形に設けられたものである。
【0043】
そして、シャフト9の周囲にバネ材10を外嵌して、シャフト9のカット平面9aに直線係合部14aを係合させるだけで、シャフト9に対してバネ材10を結合でき、シャフト9と一体にバネ材10が回動する。
即ち、シャフト9の周囲にバネ材10を外嵌するだけで、シャフト9とバネ材10の結合を行なうことができるため、組付けを簡素化することができ、EGRバルブ1の製造コストを抑えることができる。
【0044】
(実施例1における特徴技術4)
バネ材10における弁体結合バネ部15は、弁体5の外周縁を両側から挟んで支持する2本の円弧アーム15aによって設けられており、この弁体結合バネ部15を図4を参照して説明する。
弁体5の外周縁には、全周に亘ってバルブ溝5cが形成されている。
一方、2本の円弧アーム15aは、弁体5のバルブ溝5cの内部に嵌め入れられる円弧形状を呈する。
【0045】
そして、弁体5を2本の円弧アーム15aで挟むだけ(弁体5のバルブ溝5cの内部に2本の円弧アーム15aを嵌め入れるだけ)で、弁体5とバネ材10を結合でき、バネ材10と一体に弁体5が回動する。
即ち、弁体5を2本の円弧アーム15aで挟むだけで、弁体5とバネ材10の結合を行なうことができるため、組付けを簡素化することができ、EGRバルブ1の製造コストを抑えることができる。
【0046】
[実施例2]
図5、図6を参照して実施例2を説明する。なお、以下の実施例において、上記実施例1と同一符号は同一機能物を示すものである。
(実施例2における特徴技術1)
シャフト9と弁体5は、実施例1で説明したように、弾性変形可能なバネ材10を用いて結合されている。具体的にシャフト9と弁体5は、弾性変形可能なアームバネ部16によって結合されている。
このアームバネ部16は、シャフト結合バネ部14と弁体結合バネ部15を連結する直線部であり、上述したように所定径のバネ線によって弾性変形可能に設けられている。なお、アームバネ部16の形状は限定されるものではない。
【0047】
このため、図6(a)に示すように、閉弁時に製造誤差や経時変化等によってバルブシート4と弁体5との間に隙間が生じる場合であっても、電動アクチュエータ6から与えられる閉弁力に加え、閉弁時においてベローズ8に生じる伸長力によって弁体5がバルブシート4に押し付けられることで、アームバネ部16が変形して弁体5の全周がバルブシート4に着座する。
具体的には、閉弁時において、先ず最初に弁体5の一部がバルブシート4に当接する。続いて、ベローズ8に生じる伸長力によって弁体5がバルブシート4に押し付けられることで、弁体5の全周がバルブシート4に着座し、弁体5によってEGR流路2を完全に閉塞する。
即ち、製造誤差や経時変化等が生じたとしても、閉弁時にベローズ8の伸長力によってバネ材10が撓む(弾性変形する)ことで、弁体5とバルブシート4を確実に合致させることができる。このため、長期に亘って低弁漏れを実現することができ、高い信頼性のEGRバルブ1を提供できる。
【0048】
(実施例2における特徴技術2)
また、この実施例のEGRバルブ1には、閉弁時にバルブシート4に対して弁体5が調芯する調芯機能が設けられている。
上記実施例1で示したように、弁体5とバネ材10の結合は、バネ材10における2本の円弧アーム15aによって、弁体5の外周縁に形成されたバルブ溝5cを両側から挟むことで成される。
そして、2本の円弧アーム15aの内径寸法は、バルブ溝5cにおける溝底の外径寸法より大きく設けられている。即ち、2本の円弧アーム15aに対して弁体5が径方向へスライド可能に設けられている。
【0049】
一方、弁体5においてバルブシート4に着座する環状平面部5aの内側には、閉弁時にバルブシート4の内部に侵入する凸形台形テーパ部5bが設けられている。
この凸形台形テーパ部5bは、断面が台形形状を呈して、外周部に円錐テーパ面を有する凸部であり、凸形台形テーパ部5bの外縁(円錐テーパ面の外縁)の外径寸法は、バルブシート4の内径寸法より小さく設けられている。即ち、バルブシート4に対して弁体5が径方向にスライド可能に設けられている。
【0050】
上記構成を採用することにより、弁体5が閉じられる際、凸形台形テーパ部5bがバルブシート4の内径に接触すると、凸形台形テーパ部5bがバルブシート4にならって移動する。即ち、弁体5が径方向へ移動しながら弁体5がバルブシート4に着座する。
このように、弁体5が閉じる際に、弁体5をバルブシート4に対して調芯させることができるため、閉弁時に弁体5とバルブシート4の隙間漏れの発生を確実に防ぐことができる。
【0051】
(実施例2における特徴技術3)
上記実施例1では、ハウジング3にバルブシート4を形成する例を示したが、この実施例ではバルブシート4を摩擦係数の小さい四フッ化エチレン樹脂によって設けるものである。
具体的に、この実施例では、EGR流路2の上流側の内壁に、四フッ化エチレン樹脂製の円筒体20を固定し、この円筒体20の下流端部をバルブシート4として用いるものである。
【0052】
このように、バルブシート4を摩擦係数の小さい四フッ化エチレン樹脂で設けることにより、バルブシート4およびバルブシート4に着座する弁体5の摩耗が抑えられるとともに、バルブシート4にデポジットやもらい錆等の異物の付着が抑えられる。
このため、長期に亘って閉弁時における漏れの発生を防ぐことができ、EGRバルブ1の信頼性を高めることができる。
【0053】
[実施例3]
図7を参照して実施例3を説明する。
この実施例3では、EGRバルブ1の製造および組付けについて説明する。
先ず、ハウジング3の製造について説明する。
ハウジング3は、ダイキャスト製であり、
(i)EGR流路2の下流側および屈曲部は、ダイキャスト技術による第1型抜きによって形成され、
(ii)EGR流路2の上流側は、ダイキャスト技術による第2型抜きによって形成され、
(iii)ハウジング3の外部から屈曲部の内部にベローズ8を含む弁体5の組み入れを行なう挿入口11は、ダイキャスト技術による第3型抜きによって形成される。
【0054】
ダイキャスト技術により製造されたハウジング3に、切削加工(ドリル刃を用いた加工)によりシャフト挿通穴を形成し、形成したシャフト挿通穴の内部に軸受13を圧入固定する。
なお、ベローズ固定プレート12が嵌め入れられる挿入口11の大径穴を、切削加工により平滑に仕上げても良い。
以上により、ハウジング3が製造される。
【0055】
次に、第1型抜きによって製造されたEGR流路2の下流側からバネ材10を屈曲部の内部に挿入する。
続いて、シャフト挿通穴の内部(軸受13の内部)にシャフト9を挿入する。このとき、シャフト9の周囲にシャフト結合バネ部14を外嵌させ、シャフト9のカット平面9aに、バネ材10の直線係合部14aを係合させて、シャフト9とバネ材10の結合を行なう(実施例1における特徴技術3参照)。
【0056】
続いて、第3型抜きによって製造された挿入口11から、ベローズ8を含む弁体5を、屈曲部の内部に挿入する。このとき、弁体5のバルブ溝5cの内部に、バネ材10における2本の円弧アーム15aを嵌め入れて、弁体5とバネ材10の結合を行なう(実施例1における特徴技術4参照)。
その後、挿入口11にベローズ固定プレート12を圧入等により固定し、ベローズ8の下流側を閉塞した状態でハウジング3の屈曲部に固定するとともに、挿入口11を閉塞する。
【0057】
この実施例のEGRバルブ1は、フラップバルブとしては類を見ないハウジング3の1部品化を実現することができる。このため、部品点数の低減によりEGRバルブ1のコストを抑えることができるとともに、ハウジング3の小型化によりEGRバルブ1の小型化が可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
上記の各実施例を組み合わせて用いても良い。
上記の実施例では、本発明をEGRバルブ1に適用する例を示したが、流体は排気ガスに限定されるものではなく、他の気体流体や液体流体の開閉や、流量または圧力調整を行なうフラップバルブに本発明を適用しても良い。
【0059】
上記の実施例では、弁体5とベローズ8を1部品で設ける例を示したが、別々に設けて接合して用いても良い。具体的には、弁体5とベローズ8を別体で設け、接着剤等の結合技術で一体に設けても良い。
【0060】
上記の実施例では、弁体5とベローズ8を樹脂で設ける例を示したが、用途に応じて、一方を樹脂、他方を金属で設けたり、両者を金属で設けても良い。両者を金属で設ける場合には、両者を溶接やろう付け等の接合技術で固定しても良い。
【0061】
上記の実施例では、バルブ駆動手段の一例として電動アクチュエータ6を用いる例を示したが、弁体5に回動力を付与する手段は限定されるものではなく、流体圧アクチュエータ(例えば、負圧アクチュエータ、油圧アクチュエータ等)や手動など、他のバルブ駆動手段を用いても良い。
【符号の説明】
【0062】
1 EGRバルブ(フラップバルブ)
2 EGR流路(流体通路)
3 ハウジング
4 バルブシート
5 弁体
5b 凸形台形テーパ部
5c バルブ溝
6 電動アクチュエータ(バルブ駆動手段)
7 圧力導入孔
8 ベローズ
9 シャフト
9a カット平面
10 バネ材
11 挿入口
14 シャフト結合バネ部
14a 直線係合部
15 弁体結合バネ部
15a 2本の円弧アーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に流体通路(2)が形成されるハウジング(3)と、
前記流体通路(2)内に設けられたバルブシート(4)に着座することで前記流体通路(2)を閉塞する弁体(5)と、
この弁体(5)を開閉駆動するバルブ駆動手段(6)と、
を具備するフラップバルブ(1)において、
前記弁体(5)には、流体上流側の圧力を流体下流側へ導く圧力導入孔(7)が設けられ、
前記弁体(5)における流体下流側には、前記圧力導入孔(7)により流体下流側へ導かれた圧力を漏れなく収容し、流体下流側が前記ハウジング(3)に固定されるベローズ(8)が設けられることを特徴とするフラップバルブ。
【請求項2】
請求項1に記載のフラップバルブ(1)において、
前記弁体(5)と前記ベローズ(8)は、樹脂素材によって一体に設けられていることを特徴とするフラップバルブ。
【請求項3】
請求項2に記載のフラップバルブ(1)において、
このフラップバルブ(1)は、排気ガス還流装置のEGRバルブに適用されるものであり、
前記樹脂素材は、熱履歴で塑性変化の少ない四フッ化エチレン樹脂であることを特徴とするフラップバルブ。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載のフラップバルブ(1)において、
このフラップバルブ(1)は、
前記バルブ駆動手段(6)によって回転駆動されるシャフト(9)と、
このシャフト(9)と前記弁体(5)を結合する弾性変形可能なバネ材(10)と、
を備えることを特徴とするフラップバルブ。
【請求項5】
請求項4に記載のフラップバルブ(1)において、
前記バネ材(10)は、前記シャフト(9)に外嵌されるシャフト結合バネ部(14)を備え、
このシャフト結合バネ部(14)に形成された直線係合部(14a)が、前記シャフト(9)に形成されたカット平面(9a)に係合することで前記シャフト(9)と前記バネ材(10)とが一体に回動することを特徴とするフラップバルブ。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載のフラップバルブ(1)において、
前記バネ材(10)は、前記弁体(5)に結合する弁体結合バネ部(15)を備え、
この弁体結合バネ部(15)は、前記弁体(5)の外周縁を両側から挟んで支持する2本の円弧アーム(15a)によって設けられることを特徴とするフラップバルブ。
【請求項7】
請求項6に記載のフラップバルブ(1)において、
前記2本の円弧アーム(15a)は、前記弁体(5)の外周縁に形成されたバルブ溝(5c)の内部に嵌め入れられる円弧形状を呈するものであり、
円弧形状を呈する前記2本の円弧アーム(15a)の内径寸法は、前記バルブ溝(5c)における溝底の外径寸法より大きく設けられるとともに、
閉弁時に前記弁体(5)において前記バルブシート(4)の内部に侵入する凸形台形テーパ部(5b)の外径寸法は、前記バルブシート(4)の内径寸法より小さく設けられることを特徴とするフラップバルブ。
【請求項8】
請求項1〜請求項7のいずれかに記載のフラップバルブ(1)において、
前記バルブシート(4)は、摩擦係数の小さい四フッ化エチレン樹脂によって設けられることを特徴とするフラップバルブ。
【請求項9】
請求項1〜請求項8のいずれかに記載のフラップバルブ(1)において、
前記ハウジング(3)は、
前記流体通路(2)における流体下流側および前記ベローズ(8)が組み付けられる屈曲部を形成する第1型抜きと、
前記流体通路(2)における流体上流側を形成する第2型抜きと、
前記ハウジング(3)の外部から前記流体通路(2)の内部に前記ベローズ(8)を含む前記弁体(5)の組み入れを行なう挿入口(11)を形成する第3型抜きとを用いて形成されることを特徴とするフラップバルブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−172519(P2012−172519A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−31883(P2011−31883)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】