説明

フランジシート面補修装置およびフランジシート面補修方法

【課題】補修現場において、製膜に寄与しなかった粉末材料(原料粉末)を回収し、製膜に寄与しなかった粉末材料が大気中に拡散するのを防止すること。
【解決手段】粉末材料を燃焼炎または不活性ガスとともに高速で吹き出させて、基板7の表面2に皮膜18を形成させるガンと、このガンの周囲を取り囲むようにして配置された隔壁12とを備えたフランジシート面補修装置であって、第1の空間24に、皮膜18の形成に寄与しなかった粉末材料の大部分が流れ込み、第2の空間26に、第2の隔壁22の先端22cから第3の隔壁23の側に漏れ出した、皮膜18の形成に寄与しなかった粉末材料、および第3の隔壁23の外側に存する大気が流れ込むように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、図1に示すように、熱交換器や化学反応容器、あるいは圧力容器のフランジシート面1,2や、フランジシート面1に周方向に沿って設けられ、シール部材8を収容する周溝3内(の死水域)に発生した孔食を補修するのに用いられるフランジシート面補修装置およびフランジシート面補修方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、図1に示す熱交換器や化学反応容器、あるいは圧力容器のフランジシート面1,2や、フランジシート面1に周方向に沿って設けられ、シール部材8を収容する周溝3内に発生した孔食は、溶接により補修されるというのが一般的であった。しかし、溶接による補修は、応急的なものに過ぎず、補修してもすぐ同じ場所に孔食が発生してしまい、いたちごっごの状態になっている。
【0003】
一方、このような孔食に対しては、例えば、特許文献1に開示された高速フレーム(High Velocity Oxide Fuel:以下、「HVOF」という。)溶射ガンを用いて、基板となるフランジシート面に皮膜を製膜すると良好(有効)であるということが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−183805号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に開示されたHVOF溶射ガンを、熱交換器や化学反応容器、あるいは圧力容器を補修のために開放した現場で使用すると、HVOF溶射ガンから放出され、製膜に寄与しなかった粉末材料(原料粉末)が、大気中に拡散することになり、好ましくない。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、補修現場において、製膜に寄与しなかった粉末材料(原料粉末)を回収することができて、製膜に寄与しなかった粉末材料が大気中に拡散するのを防止することができるフランジシート面補修装置およびフランジシート面補修方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用した。
本発明に係るフランジシート面補修装置は、粉末材料を燃焼炎または不活性ガスとともに高速で吹き出させて、基板の表面に皮膜を形成させるガンと、このガンの周囲を取り囲むようにして配置された隔壁とを備えたフランジシート面補修装置であって、前記隔壁が、前記ガンの外側に配置された第1の隔壁と、この第1の隔壁の外側に配置された第2の隔壁と、この第2の隔壁の外側に配置された第3の隔壁とを備え、前記第1の隔壁と前記第2の隔壁との間に形成された第1の空間には、第1の排気回収系統が接続されているとともに、前記第2の隔壁と前記第3の隔壁との間に形成された第2の空間には、第2の排気回収系統が接続されており、前記第1の空間に、前記皮膜の形成に寄与しなかった粉末材料の大部分が流れ込むように、前記第1の隔壁の先端と前記基板との最短距離、前記第2の隔壁の先端と前記基板との最短距離、および前記第1の排気回収系統の吸引力が設定され、前記第2の空間に、前記第2の隔壁の先端から前記第3の隔壁の側に漏れ出した、前記皮膜の形成に寄与しなかった粉末材料、および前記第3の隔壁の外側に存する大気が流れ込むように、前記第3の隔壁の先端と前記基板との最短距離、および前記第2の排気回収系統の吸引力が設定されている。
【0008】
本発明に係るフランジシート面補修装置によれば、第1の空間に、皮膜の形成に寄与しなかった粉末材料の大部分が流れ込み、第2の空間に、第2の隔壁の先端から第3の隔壁の側に漏れ出した、皮膜の形成に寄与しなかった粉末材料、および第3の隔壁の外側に存する大気が流れ込んで、第3の隔壁の外側には、粉末材料が漏れ出ない(流れ出ない)ようになっている。
これにより、補修現場において、製膜に寄与しなかった粉末材料(原料粉末)を回収することができて、製膜に寄与しなかった粉末材料が大気中に拡散するのを防止することができる。
【0009】
上記フランジシート面補修装置において、前記第1の隔壁、前記第2の隔壁、および前記第3の隔壁はそれぞれ、円筒部と、この円筒部の先端側に配置され、その先端に向かって先細となる円錐台部とを備えているとさらに好適である。
【0010】
このようなフランジシート面補修装置によれば、図2に示すように、半径方向外側に位置して、製膜に(寄与しない)有効でない速度の遅い粉末材料は、第1の隔壁の円錐台部の内周面に衝突し、第1の隔壁の円錐台部の内周面に堆積していくことになる。
これにより、基材の表面には、半径方向内側に位置して、製膜に有効な速度の速い粉末材料のみが到達することになり、基材の表面に良好な皮膜を効率よく製膜することができて、製膜品質を向上させることができる。
【0011】
上記フランジシート面補修装置において、前記隔壁が、前記第1の隔壁の内側に配置されるとともに、円筒部と、この円筒部の先端側に配置され、その先端に向かって先細となり、前記粉末材料が通過することのできる孔を多数有する多孔質材料やメッシュ状の材料で作られた円錐台部とを備えた第4の隔壁を備え、前記第1の隔壁と前記第4の隔壁との間に形成された第3の空間には、第3の排気回収系統が接続されているとさらに好適である。
【0012】
このようなフランジシート面補修装置によれば、図2に示すように、半径方向外側に位置して、製膜に(寄与しない)有効でない速度の遅い粉末材料は、第4の隔壁の円錐台部を通過して第3の空間に流れ込み、第3の排気回収系統によって回収されることになる。
これにより、基材の表面には、半径方向内側に位置して、製膜に有効な速度の速い粉末材料のみが到達することになり、基材の表面に良好な皮膜を効率よく製膜することができて、製膜品質を向上させることができる。
また、第4の隔壁の円錐台部が目詰まりしてから、第4の隔壁の円錐台部の内周面に粉末材料が堆積していくことになり、長時間連続して使用することができて、基板の表面に連続した良好な皮膜を製膜することができる。
【0013】
上記フランジシート面補修装置において、前記第4の隔壁を構成する前記円錐台部の内周面に、弾力性を有し、かつ、前記粉末材料が入り込むことのできる孔を多数有する多孔質材料で作られたロープが、前記内周面に沿って螺旋状に配置されているとともに、前記ロープは、ロープ移動機構により、前記内周面に沿って旋回しながら縮径側から拡径側に向かって移動可能に構成されているとさらに好適である。
【0014】
このようなフランジシート面補修装置によれば、製膜に(寄与しない)有効でない粉末材料は、ロープに付着した後、ロープとともに隔壁の外に排出されることになるので、第4の隔壁の円錐台部の目詰まりを防止することができ、長時間連続して使用することができて、基板の表面に連続した良好な皮膜を製膜することができる。
【0015】
本発明に係るフランジシート面補修方法は、粉末材料を燃焼炎または不活性ガスとともに高速で吹き出させて、フランジシート面に皮膜を形成させるフランジシート面補修方法であって、上記いずれかのフランジシート面補修装置を用いて行われる。
【0016】
本発明に係るフランジシート面補修方法によれば、第2の空間に、第2の隔壁の先端から第3の隔壁の側に漏れ出した、皮膜の形成に寄与しなかった粉末材料、および第3の隔壁の外側に存する大気が流れ込んで、第3の隔壁の外側には、粉末材料が漏れ出ない(流れ出ない)ようになっている。
これにより、補修現場において、製膜に寄与しなかった粉末材料(原料粉末)を回収することができて、製膜に寄与しなかった粉末材料が大気中に拡散するのを防止することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るフランジシート面補修装置およびフランジシート面補修方法によれば、補修現場において、製膜に寄与しなかった粉末材料(原料粉末)を回収することができて、製膜に寄与しなかった粉末材料が大気中に拡散するのを防止することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係るフランジシート面補修装置およびフランジシート面補修方法が適用されるフランジシート面の断面図である。
【図2】本発明に係るフランジシート面補修装置の概略を示す構成図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係るフランジシート面補修装置の要部を示す構成図である。
【図4】第1の隔壁の円錐台部の先端とフランジシート面との最短距離が大きい場合の問題点を説明するための図である。
【図5】第1の隔壁の円錐台部の先端とフランジシート面との最短距離が小さい場合の問題点を説明するための図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係るフランジシート面補修装置の要部を示す構成図である。
【図7】本発明の第3実施形態に係るフランジシート面補修装置の要部を示す構成図である。
【図8】本発明の第4実施形態に係るフランジシート面補修装置の要部を示す概念図である。
【図9】本発明の第4実施形態に係るフランジシート面補修装置の要部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の第1実施形態に係るフランジシート面補修装置およびフランジシート面補修方法について、図1から図5を参照しながら説明する。図1は本発明に係るフランジシート面補修装置およびフランジシート面補修方法が適用されるフランジシート面の断面図、図2は本発明に係るフランジシート面補修装置の概略を示す構成図、図3は本実施形態に係るフランジシート面補修装置の要部を示す構成図、図4は第1の隔壁の円錐台部の先端とフランジシート面との最短距離が大きい場合の問題点を説明するための図、図5は第1の隔壁の円錐台部の先端とフランジシート面との最短距離が小さい場合の問題点を説明するための図である。
【0020】
本発明に係るフランジシート面補修装置およびフランジシート面補修方法は、図1に示すような、例えば、熱交換器や化学反応容器、あるいは圧力容器のフランジシート面1,2や、フランジシート面1に周方向に沿って設けられた周溝3内(の死水域)に発生した孔食を補修するのに用いられる。
なお、図1中の符号4,5はそれぞれ、一方のフランジ部(容器フランジ)6と、他方のフランジ部(容器フランジ)7とを締結するボルト、ナットであり、符号8は、周溝3内に収容されて、内部の水9等が外部に漏れ出す(流れ出す)ことを防止するシール部材(封止部材)である。
【0021】
本発明に係るフランジシート面補修装置は、例えば、図2に示すようなHVOF溶射ガン11と、隔壁12とを備えている。
HVOF溶射ガン11は、燃焼チャンバ13と、ノズル14と、バレル15とを備えている。燃焼チャンバ13内では、燃料と酸素とが混合され、点火プラグ16により着火されて燃焼炎が発生する。燃焼チャンバ13内で発生した燃焼炎は、ノズル14の途中に設けられたスロート17で一度絞られた後、ノズル14の末広がりとなった部分を通り、ストレートのバレル15を通過して出口15aから排出される。燃料としては、水素、アセチレン、プロパン等のガスや灯油のような液体燃料が用いられる。粉末材料(原料粉末)は、ノズル14の末広がりとなった部分の出口14aで負圧を利用して燃焼炎内に搬送ガスによって吹き込まれ、バレル15内で加熱・加速されて燃焼炎とともにバレル15の出口15aから放出され、隔壁12の内周側を20〜40cm程度飛行して基板(以下、フランジシート面2を一具体例として挙げて説明する。)に堆積して皮膜18となる。
【0022】
ここで、粉末材料としては、例えば、Zn、Al、Zn−Al合金、SUS316L、Ni−Cr合金、ハステロイ、インコネル、モネル、ステライト、メテコ16C相当(4種)、メテコ15E相当(5種)、メテコ18C相当(1種)、サーメット(WC−27NiCr等)、Cr、Y等の耐食性に優れたものが好適であり、その中でも特に優れた耐食性を有するSUS316L、50Ni−50Cr合金、ハステロイB、ハステロイC−276、インコネル625等がより好適である。
また、燃料としては、製膜品質を特に高く保つことができるという観点から、他の燃料よりもエネルギー密度(カロリー)が高い灯油がより好適である。
【0023】
図3に示すように、本実施形態に係る隔壁12は、第1の隔壁21と、第2の隔壁22と、第3の隔壁23とを備えている。第1の隔壁21は、円筒部21aと、この円筒部21aと連続するようにして形成された円錐台部21bとを備えており、第2の隔壁22の(半径方向)内側に配置されている。第2の隔壁22は、円筒部22aと、この円筒部22aと連続するようにして形成された円錐台部22bとを備えており、第1の隔壁21の(半径方向)外側で、かつ、第3の隔壁23の(半径方向)内側に配置されている。第3の隔壁23は、円筒部23aと、この円筒部23aと連続するようにして形成された円錐台部23bとを備えており、第2の隔壁22の(半径方向)外側に配置されている。
【0024】
円錐台部21bの先端21cは、これから補修を行おうとするフランジシート面2にHVOF溶射ガン11および隔壁12がセットされた際(図3参照)に、円錐台部22bの先端22cとフランジシート面2との最短距離、および円錐台部23bの先端23cとフランジシート面2との最短距離よりも大きくなるように設定されている。円錐台部22bの先端22cは、これから補修を行おうとするフランジシート面2にHVOF溶射ガン11および隔壁12がセットされた際(図3参照)に、円錐台部21bの先端21cとフランジシート面2との最短距離、および円錐台部23bの先端23cとフランジシート面2との最短距離よりも小さくなるように設定されている。円錐台部23bの先端23cは、これから補修を行おうとするフランジシート面2にHVOF溶射ガン11および隔壁12がセットされた際(図3参照)に、円錐台部21bの先端21cとフランジシート面2との最短距離よりも小さく、かつ、円錐台部22bの先端22cとフランジシート面2との最短距離よりも大きくなるように設定されている。
【0025】
第1の隔壁21と第2の隔壁22とで形成される第1の空間24には、例えば、サイクロンC1と、フィルターF1と、メカニカルブースターポンプMP1と、ロータリーポンプRP1とを備えた第1の排気回収系統25が接続されており、第1の空間24内に流入した粉末材料等は、第1の排気回収系統25を介して排出されるようになっている。
一方、第2の隔壁22と第2の隔壁23とで形成される第2の空間26には、例えば、ニードルバルブV2と、サイクロンC2と、フィルターF2と、ロータリーポンプRP2とを備えた第2の排気回収系統27が接続されており、第2の空間26内に流入した粉末材料および大気等は、第2の排気回収系統27を介して排出されるようになっている。
なお、ニードルバルブV2は排気量を微調整するために、サイクロンC1,C2は粗粒子を取り除くとともに、フィルターF1,F2の目詰まりを防止するために、フィルターF1,F2は微粒子を取り除くために、ロータリーポンプRP1はメカニカルブースターポンプMP1の排圧を確保して、メカニカルブースターポンプMP1からの逆流を防止するために設けられている。
【0026】
また、図4に示すように、円錐台部21bの先端21cとフランジシート面2との最短距離hが大きかったり、第1の排気回収系統25の吸引力が強いと、製膜に(寄与する)有効な粉末材料を吸引してしまうおそれがあり、図5に示すように、円錐台部21bの先端21cとフランジシート面2との最短距離hが小さかったり、第2の排気回収系統27の吸引力が弱いと、第1の隔壁21の出口(より詳しくは、円錐台部21bの先端21c)における流路抵抗が大きくなり、製膜に(寄与しない)有効でない粉末材料が上手く吸引できず、第1の隔壁21内に滞留してしまうおそれがある。そのため、円錐台部21bの先端21cは、これらの点も考慮して設定されることになる。
一方、円錐台部22bの先端22cとフランジシート面2との最短距離が大きいと、製膜に寄与せずに円錐台部21bの先端21cから漏れ出した粉末材料が、円錐台部22bの先端22cとフランジシート面2との間から大量に漏れ出してしまうおそれがある。そのため、円錐台部22bの先端22cは、この点も考慮して、円錐台部22bの先端22cとフランジシート面2との間から漏れ出す粉末材料の量が極力少なくなるように、すなわち、円錐台部22bの先端22cとフランジシート面2との最短距離ができるだけ小さくなるように設定されることになる。
そして、円錐台部23bの先端23cとフランジシート面2との最短距離が小さいと、第3の隔壁23の外側に存する大気を円錐台部23bの先端23cとフランジシート面2との間から上手く吸引できず、円錐台部23bの先端23cとフランジシート面2との間から粉末材料が漏れ出してしまうおそれがあり、円錐台部23bの先端23cとフランジシート面2との最短距離が大きいと、第3の隔壁23の外側に存する大気だけが吸引され、円錐台部22bの先端22cとフランジシート面2との間から漏れ出した粉末材料を上手く吸引できず、円錐台部23bの先端23cとフランジシート面2との間から粉末材料が漏れ出してしまうおそれがある。そのため、円錐台部23bの先端23cは、これらの点も考慮して設定されることになる。
なお、第1の空間24において排気される排気回収系統の吸引力よりも、第2の空間26において排気される排気回収系統の吸引力の方が大きい。
さらに、第1の隔壁の先端と基板との最短距離をR1と、第2、3の隔壁の先端と前記基板との最短距離をそれぞれR2、R3とすると、R1>R2>R3≒0 となる。
【0027】
本実施形態に係るフランジシート面補修装置およびフランジシート面補修方法によれば、第1の空間24に、皮膜18の形成に寄与しなかった粉末材料の大部分が流れ込み、第2の空間26に、第2の隔壁22の先端22cから第3の隔壁23の側に漏れ出した、皮膜18の形成に寄与しなかった粉末材料、および第3の隔壁23の外側に存する大気が流れ込んで、第3の隔壁23の外側には、粉末材料が漏れ出ない(流れ出ない)ようになっている。
これにより、補修現場において、製膜に寄与しなかった粉末材料(原料粉末)を回収することができて、製膜に寄与しなかった粉末材料が大気中に拡散するのを防止することができる。
また、図2に示すように、半径方向外側に位置して、製膜に(寄与しない)有効でない速度の遅い粉末材料は、第1の隔壁21の円錐台部21bの内周面に衝突し、第1の隔壁21の円錐台部21bの内周面に堆積していくことになる。
これにより、フランジシート面2には、半径方向内側に位置して、製膜に有効な速度の速い粉末材料のみが到達することになり、フランジシート面2に良好な皮膜18を効率よく製膜することができて、製膜品質を向上させることができる。
【0028】
本発明の第2実施形態に係るフランジシート面補修装置およびフランジシート面補修方法について、図6を参照しながら説明する。図6は本実施形態に係るフランジシート面補修装置の要部を示す構成図である。
図6に示すように、本実施形態に係る隔壁12は、第1の隔壁21と、第2の隔壁22と、第3の隔壁23と、第4の隔壁31とを備えているという点で上述した第1実施形態のものと異なる。その他の構成要素については上述した第1実施形態のものと同じであるので、ここではそれら構成要素についての説明は省略する。
なお、上述した第1実施形態と同一の部材には同一の符号を付している。
【0029】
第4の隔壁31は、円筒部31aと、この円筒部31aと連続するようにして形成された円錐台部31bとを備えており、第1の隔壁21の(半径方向)内側に配置されている。
円錐台部31bは、粉末材料が通過することのできる孔を多数有する多孔質材料やメッシュ状の材料で作られており、円錐台部31bの先端31cは、円錐台部21bの先端21cと同様、これから補修を行おうとするフランジシート面2にHVOF溶射ガン11(図2参照)および隔壁12がセットされた際(図3参照)に、円錐台部22bの先端22cとフランジシート面2との最短距離、および円錐台部23bの先端23cとフランジシート面2との最短距離よりも大きくなるように設定されている。
【0030】
第4の隔壁31と第1の隔壁21とで形成される第3の空間32には、例えば、ニードルバルブV0と、サイクロンC0と、フィルターF0と、ロータリーポンプRP0とを備えた第3の排気回収系統33が接続されており、第3の空間32内に流入した粉末材料等は、第3の排気回収系統33を介して排出されるようになっている。
なお、ニードルバルブV0は排気量を微調整するために、サイクロンC0は粗粒子を取り除くとともに、フィルターF0の目詰まりを防止するために、フィルターF0は微粒子を取り除くために設けられている。
【0031】
本実施形態に係るフランジシート面補修装置およびフランジシート面補修方法によれば、第4の隔壁31の円錐台部31bが目詰まりしてから、第4の隔壁31の円錐台部31bの内周面に粉末材料が堆積していくことになり、長時間連続して使用することができて、フランジシート面2に連続した良好な皮膜18を製膜することができる。
その他の作用効果は、上述した第1実施形態のものと同じであるので、ここではその説明を省略する。
【0032】
本発明の第3実施形態に係るフランジシート面補修装置およびフランジシート面補修方法について、図7を参照しながら説明する。図7は本実施形態に係るフランジシート面補修装置の要部を示す構成図である。
本実施形態に係るフランジシート面補修装置は、第2の排気回収系統27の代わりに図7に示す排気回収系統41が設けられており、第3の排気回収系統33の代わりに図7に示す排気回収系統41が設けられているという点で上述した第2実施形態のものと異なる。その他の構成要素については上述した第2実施形態のものと同じであるので、ここではそれら構成要素についての説明は省略する。
【0033】
排気回収系統41は、水槽42と、ポンプ43と、アスピレータ(エジェクター)44とを備えており、水槽42内に溜められた水をポンプ43により循環させ、アスピレータ44に減圧状態を発生させて、第2の空間26内に流入した粉末材料および大気等を吸引して、第2の空間26内から排出し、第3の空間32内に流入した粉末材料等を吸引して、第3の空間32内から排出するものである。
【0034】
本実施形態に係るフランジシート面補修装置およびフランジシート面補修方法によれば、粉末材料は水槽42内に回収されることになるので、サイクロンC0,C2、フィルターF0,F2を不要とすることができる。
その他の作用効果は、上述した第2実施形態のものと同じであるので、ここではその説明を省略する。
【0035】
本発明の第4実施形態に係るフランジシート面補修装置およびフランジシート面補修方法について、図8および図9を参照しながら説明する。図8は本実施形態に係るフランジシート面補修装置の要部を示す概念図、図9は本実施形態に係るフランジシート面補修装置の要部を示す断面図である。
本実施形態に係るフランジシート面補修装置は、円錐台部31bの内周面31dに、弾力性および耐熱性を有し、かつ、粉末材料が入り込むことのできる孔を多数有する多孔質材料で作られたロープ51が、図8および図9に示すように、螺旋状に配置されているという点で上述した第2実施形態のものと異なる。その他の構成要素については上述した第2実施形態のものと同じであるので、ここではそれら構成要素についての説明は省略する。
【0036】
図8に示すように、ロープ51は、図示しないロープ移動機構(例えば、ロープ51を円錐台部31b内に順次送り込むロープ送り込み機構や、ロープ51を円錐台部31b内から順次引き出すロープ引き出し機構)により、円錐台部31bの内周面31dに沿って旋回しながら縮径側(先端側)から拡径側(円筒部側)に向かって移動していくようになっている。
【0037】
本実施形態に係るフランジシート面補修装置およびフランジシート面補修方法によれば、製膜に(寄与しない)有効でない粉末材料は、ロープ51に付着した後、ロープ51とともに隔壁12の外に排出されることになるので、円錐台部31bの目詰まりを防止することができ、フランジシート面補修装置を長時間連続して使用することができて、フランジシート面2に連続した良好な皮膜18を製膜することができる。
その他の作用効果は、上述した第2実施形態のものと同じであるので、ここではその説明を省略する。
【0038】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で各種変更・変形が可能である。
例えば、ロータリーポンプRP1の代わりに、ダイヤフラムポンプや真空ポンプ、ブロワー等を採用することもできる。
【0039】
また、HVOF溶射法の代わりに、コールドスプレー法を採用することもできる。すなわち、HVOF溶射ガン11の代わりに、粉末材料を溶融させることなく、不活性ガスとともに超音速流で固相状態のまま基板(基材)に衝突させて皮膜を形成するコールドスプレーガン(図示せず)を採用することもできる。
【0040】
さらに、上述した実施形態では、各隔壁21,22,23,31の断面視形状を円形状としたが、本発明はこれに限定されるものではなく、補修を行おうとするフランジシート面の形状に合わせて適宜変更することができる。
各隔壁21,22,23,31の断面視形状を、補修を行おうとするフランジシート面の形状に合わせることにより、隔壁21,22,23,31がマスキングの作用も兼ねることになり、さらに良好な皮膜18を製膜することができるようになる。
【符号の説明】
【0041】
1 フランジシート面(基板の表面)
2 フランジシート面(基板の表面)
6 フランジ部(基板)
7 フランジ部(基板)
11 HVOF溶射ガン(ガン)
12 隔壁
18 皮膜
21 第1の隔壁
21a 円筒部
21b 円錐台部
21c 先端
22 第2の隔壁
22a 円筒部
22b 円錐台部
22c 先端
23 第3の隔壁
23a 円筒部
23b 円錐台部
23c 先端
24 第1の空間
25 第1の排気回収系統
26 第2の空間
27 第2の排気回収系統
31 第4の隔壁
31a 円筒部
31b 円錐台部
31c 先端
31d 内周面
32 第3の空間
33 第3の排気回収系統
51 ロープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末材料を燃焼炎または不活性ガスとともに高速で吹き出させて、基板の表面に皮膜を形成させるガンと、このガンの周囲を取り囲むようにして配置された隔壁とを備えたフランジシート面補修装置であって、
前記隔壁が、前記ガンの外側に配置された第1の隔壁と、この第1の隔壁の外側に配置された第2の隔壁と、この第2の隔壁の外側に配置された第3の隔壁とを備え、
前記第1の隔壁と前記第2の隔壁との間に形成された第1の空間には、第1の排気回収系統が接続されているとともに、前記第2の隔壁と前記第3の隔壁との間に形成された第2の空間には、第2の排気回収系統が接続されており、
前記第1の空間に、前記皮膜の形成に寄与しなかった粉末材料の大部分が流れ込むように、前記第1の隔壁の先端と前記基板との最短距離、前記第2の隔壁の先端と前記基板との最短距離、および前記第1の排気回収系統の吸引力が設定され、
前記第2の空間に、前記第2の隔壁の先端から前記第3の隔壁の側に漏れ出した、前記皮膜の形成に寄与しなかった粉末材料、および前記第3の隔壁の外側に存する大気が流れ込むように、前記第3の隔壁の先端と前記基板との最短距離、および前記第2の排気回収系統の吸引力が設定されていることを特徴とするフランジシート面補修装置。
【請求項2】
前記第1の隔壁、前記第2の隔壁、および前記第3の隔壁はそれぞれ、円筒部と、この円筒部の先端側に配置され、その先端に向かって先細となる円錐台部とを備えていることを特徴とする請求項1に記載のフランジシート面補修装置。
【請求項3】
前記隔壁が、前記第1の隔壁の内側に配置されるとともに、円筒部と、この円筒部の先端側に配置され、その先端に向かって先細となり、前記粉末材料が通過することのできる孔を多数有する多孔質材料やメッシュ状の材料で作られた円錐台部とを備えた第4の隔壁を備え、
前記第1の隔壁と前記第4の隔壁との間に形成された第3の空間には、第3の排気回収系統が接続されていることを特徴とする請求項1または2に記載のフランジシート面補修装置。
【請求項4】
前記第4の隔壁を構成する前記円錐台部の内周面に、弾力性を有し、かつ、前記粉末材料が入り込むことのできる孔を多数有する多孔質材料で作られたロープが、前記内周面に沿って螺旋状に配置されているとともに、
前記ロープは、ロープ移動機構により、前記内周面に沿って旋回しながら縮径側から拡径側に向かって移動可能に構成されていることを特徴とする請求項3に記載のフランジシート面補修装置。
【請求項5】
粉末材料を燃焼炎または不活性ガスとともに高速で吹き出させて、フランジシート面に皮膜を形成させるフランジシート面補修方法であって、
請求項1から4のいずれか一項に記載のフランジシート面補修装置を用いて行うことを特徴とするフランジシート面補修方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−179059(P2011−179059A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−43524(P2010−43524)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】