ブラシレスモータの駆動装置
【課題】モータ(巻線)のばらつきや温度環境などに因る通電モードの切り替えタイミングのずれを抑制でき、以って、効率の低下や脱調の発生を抑制できるブラシレスモータの駆動装置を提供する。
【解決手段】非通電相(開放相)の電圧と電圧閾値とに基づいて通電モードを順次切り替えるブラシレスモータの駆動装置において、1つの通電モードを継続させることで、ブラシレスモータを通電モードの切り替えを行う角度位置に位置決めし、その後に次の通電モードへの切り替えを行い、該通電モードの切り替え直後における非通電相の電圧を検出する。そして、検出した非通電相の電圧を、更に次の通電モードへの切り替えるときの判断に用いる電圧閾値として学習する。
【解決手段】非通電相(開放相)の電圧と電圧閾値とに基づいて通電モードを順次切り替えるブラシレスモータの駆動装置において、1つの通電モードを継続させることで、ブラシレスモータを通電モードの切り替えを行う角度位置に位置決めし、その後に次の通電モードへの切り替えを行い、該通電モードの切り替え直後における非通電相の電圧を検出する。そして、検出した非通電相の電圧を、更に次の通電モードへの切り替えるときの判断に用いる電圧閾値として学習する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラシレスモータの駆動装置に関し、詳しくは、センサレスで通電モードの切り替えを行うブラシレスモータの駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、3相同期電動機の非通電相の端子電位を、基準電圧とレベル比較し、該レベル比較の結果に応じて、通電モードを順次切り替えていく、同期電動機の駆動システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−189176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前述のようなセンサレス式の駆動制御では、開放相(非通電相)の端子電圧(誘起電圧)が、電圧検出回路の検出ばらつき、モータ(巻線)のばらつき、温度環境などによって変化することで、通電モードの切り替えタイミングにずれを生じ、効率の低下や脱調が発生する惧れがあった。
【0005】
本発明は上記問題点に鑑みなされたものであり、電圧検出回路の検出ばらつき、モータ(巻線)のばらつき、温度環境などに因る通電モードの切り替えタイミングのずれを抑制でき、以って、効率の低下や脱調の発生を抑制できるブラシレスモータの駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そのため、本願発明では、非通電相の電圧と電圧閾値とに基づいて通電モードを順次切り替えるブラシレスモータの駆動装置において、1つの通電モードを継続させてブラシレスモータを停止させた状態から次の通電モードへの切り替えを行い、該通電モードの切り替え直後における非通電相の電圧に基づいて前記電圧閾値を設定するようにした。
【発明の効果】
【0007】
上記発明によると、電圧検出回路の検出ばらつき、モータ(巻線)のばらつき、温度環境の違いなどがあっても、通電モードの切り替えタイミングを適正に維持することが可能となり、効率の低下や脱調の発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施形態において、本願発明に係るブラシレスモータの駆動装置を適用する、自動車AT(オートマチック・トランスミッション)用油圧ポンプシステムの構成を示すブロック図である。
【図2】実施形態におけるモータ制御装置及びブラシレスモータの構成を示す回路図である。
【図3】実施形態における制御器の構成を示すブロック図である。
【図4】実施形態におけるブラシレスモータの通電パターンを示すタイムチャートである。
【図5】実施形態における電圧閾値の学習処理を示すフローチャートである。
【図6】実施形態における電圧閾値V4-5の学習処理を説明するための図であり、(A)は通電モードの切り替え角度位置への位置決め状態を示す図、(B)は通電モード(4)の通電状態を示す図、(C)は開放相の電圧変化を示すタイムチャートである。
【図7】実施形態における電圧閾値V5-6の学習処理を説明するための図であり、(A)は通電モードの切り替え角度位置への位置決め状態を示す図、(B)は通電モード(5)の通電状態を示す図、開放相の電圧変化を示すタイムチャートである。
【図8】実施形態における電圧閾値V6-1の学習処理を説明するための図であり、(A)は通電モードの切り替え角度位置への位置決め状態を示す図、(B)は通電モード(6)の通電状態を示す図、(C)は開放相の電圧変化を示すタイムチャートである。
【図9】実施形態における電圧閾値V1-2の学習処理を説明するための図であり、(A)は通電モードの切り替え角度位置への位置決め状態を示す図、(B)は通電モード(1)の通電状態を示す図、(C)は開放相の電圧変化を示すタイムチャートである。
【図10】実施形態における電圧閾値V2-3の学習処理を説明するための図であり、(A)は通電モードの切り替え角度位置への位置決め状態を示す図、(B)は通電モード(2)の通電状態を示す図、(C)は開放相の電圧変化を示すタイムチャートである。
【図11】実施形態における電圧閾値V3-4の学習処理を説明するための図であり、(A)は通電モードの切り替え角度位置への位置決め状態を示す図、(B)は通電モード(3)の通電状態を示す図、(C)は開放相の電圧変化を示すタイムチャートである。
【図12】実施形態における電動オイルポンプを駆動するブラシレスモータの通電モードの切り替えに用いる電圧閾値の学習処理を示すフローチャートである。
【図13】実施形態における温度条件毎の電圧閾値の学習を説明するための図である。
【図14】実施形態における絶対値を共通とする電圧閾値の学習を説明するための図であり、(A)は全ての通電モードの切り替えを、絶対値を共通とする電圧閾値に基づき行わせる例を示し、(B)はプラスの電圧閾値とマイナスの電圧閾値とのそれぞれで絶対値を共通とする例を示す図である。
【図15】実施形態における電圧閾値のモータ回転速度による電圧閾値の補正値の特性を示す線図である。
【図16】実施形態におけるパルスシフトを行わない場合のPWM生成を示すタイムチャートである。
【図17】実施形態におけるパルスシフトを行った場合のPWM生成を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本願発明に係るブラシレスモータの駆動装置を適用する、自動車AT(オートマチック・トランスミッション)用油圧ポンプシステムの構成を示すブロック図である。
図1に示す自動車AT用油圧ポンプシステムでは、変速機7やアクチュエータ8にオイルを供給するオイルポンプとして、図外のエンジン(内燃機関)の出力により駆動される機械式オイルポンプ6と、モータで駆動される電動オイルポンプ1とを備えている。
【0010】
また、エンジンの制御システムは、自動停止条件の成立時にエンジンを停止し、自動始動条件が成立するとエンジンを再始動するアイドルストップ制御機能を備えていて、アイドルストップによってエンジンが停止している間は、機械式オイルポンプ6もその動作を停止するため、アイドルストップ中は、電動オイルポンプ1を用いて、変速機7やアクチュエータ8に対するオイルの供給を行う。
電動オイルポンプ1は、直結したブラシレスモータ2により駆動され、ブラシレスモータ2は、AT制御装置(ATCU)4からの指令を受け取るモータ制御装置(MCU)3によって制御される。
【0011】
モータ制御装置(駆動装置)3は、ブラシレスモータ2を駆動制御して電動オイルポンプ1を駆動し、オイルパン10のオイルを、電動オイル配管5を介して変速機7やアクチュエータ8に供給する。
エンジン駆動中は、エンジン駆動の機械式オイルポンプ6により、変速機7やアクチェータ8にオイル配管9を介してオイルパン10のオイルが供給され、このとき、ブラシレスモータ2はオフ状態であり、電動オイルポンプ1に向かうオイルは逆止弁11によって遮断される。
【0012】
エンジンがアイドルストップすると、機械式オイルポンプ6の回転速度が低下してオイル配管9の油圧が低下するので、エンジンのアイドルストップと略同時に、AT制御装置4がモータ起動の指令をモータ制御装置3に向けて送信する。
起動指令を受けたモータ制御装置3は、ブラシレスモータ2を駆動して電動オイルポンプ1を回転させ、電動オイル配管5内の油圧を徐々に上昇させる。
機械式オイルポンプ6の油圧が低下する一方で、電動オイルポンプ1の吐出圧が逆止弁11の開弁圧を超えるようになると、オイルは、電動オイル配管5,電動オイルポンプ1,逆止弁11,変速機7・アクチェータ8,オイルパン10の経路を通って循環する動作を行う。
【0013】
図2は、モータ制御装置3及びブラシレスモータ2の詳細を示す。
モータ制御装置3は、モータ駆動回路212と、マイクロコンピュータを備えた制御器213とを含んで構成され、制御器213がAT制御装置4との間で通信を行う。
ブラシレスモータ2は、3相DCブラシレスモータ(3相同期電動機)であり、U相,V相及びW相の3相巻線215U,215V,215Wが、図示省略した円筒状の固定子に設けられ、該固定子の中央部に形成された空間に永久磁石回転子216が配置される。
【0014】
そして、モータ駆動回路212は、例えばIGBTからなる6個のスイッチング素子217a〜217fを3相ブリッジ接続し、かつ、各スイッチング素子217a〜217fに逆並列にダイオード218a〜218fをそれぞれ接続して構成され、かつ、電源回路219を有している。
スイッチング素子217a〜217fの制御端子(ゲート端子)は、制御器213に接続されており、スイッチング素子217a〜217fのオン・オフは、制御器213によってデューティ制御される。
【0015】
制御器213は、ブラシレスモータ2の印加電圧を演算し、駆動回路212に出力するパルス幅変調信号(PWM信号)を生成する回路であり、図3に示すように、PWM発生器251、ゲート信号切替器252、通電モード決定器253、比較器254、電圧閾値切替器255、電圧閾値学習器256、非通電相電圧選択器257を含んでいる。
PWM発生器251は、指令トルクに応じて決定した印加電圧指令(指令電圧)に基づき、パルス幅変調されたPWM波を生成する回路である。
【0016】
通電モード決定器253(通電モード切替手段)は、モータ駆動回路212の通電モード(スイッチングモード)を決定するモード指令信号を順次出力するデバイスであり、比較器254が出力するモード切替トリガ信号をトリガとして通電モードを6通りに切り替える。
ゲート信号切替器252は、モータ駆動回路212の各スイッチング素子217a〜217fがどのような動作でスイッチングするかを、通電モード決定器253の出力であるモード指令信号に基づいて決定し、該決定に従い、最終的な6つのゲートパルス信号をモータ駆動回路212に出力する。
【0017】
電圧閾値切替器255は、非通電相の端子電圧の閾値(電圧閾値)を発生する回路であり、電圧閾値の切り替えタイミングは、通電モード決定器253の出力であるモード指令信号に基づき決定される。
非通電相電圧選択器257は、ブラシレスモータ2の3相端子電圧Vu,Vv,Vwの中から非通電相の電圧をモード指令信号に従い選択して出力する回路であり、前記端子電圧は、ブラシレスモータ2の中性点に対する電位差として出力される。
【0018】
比較器254は、電圧閾値切替器257が出力する電圧閾値と非通電相電圧選択器257が出力する非通電相の電圧(誘起電圧)とを比較し、通電モード決定器253にモード切替トリガを出力する。
尚、誘起電圧は、2相の印加パルス電圧によって非通電相に誘起される電圧であり、回転子の位置により磁気回路の飽和状態が変化することから、回転子の位置に応じた誘起電圧が非通電相に発生することになり、非通電相の誘起電圧から、回転子位置を推定して、通電モードの切り替えタイミングを検出することができる。
【0019】
図4は、通電モード毎の各相への印加電圧を示す。
通電モードは、電気角60degごとに順次切り替わる6通りの通電モード(1)〜(6)からなり、各通電モード(1)〜(6)においてスイッチング素子217a〜217fは、指令電圧に応じてパルス幅変調した信号で駆動される。
【0020】
本実施形態では、永久磁石回転子216のN極が、U相のコイルに対向する位置を0(deg)としたときに、通電モード(3)から通電モード(4)への切り替えを行う角度位置を30degに、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替えを行う角度位置を90degに、通電モード(5)から通電モード(6)への切り替えを行う角度位置を150degに、通電モード(6)から通電モード(1)への切り替えを行う角度位置を210degに、通電モード(1)から通電モード(2)への切り替えを行う角度位置を270degに、通電モード(2)から通電モード(3)への切り替えを行う角度位置を330degに設定している。
【0021】
通電モード(1)は、スイッチング素子217a及びスイッチング素子217dをオン制御し、他を全てオフとすることで、U相に電圧Vを印加し、V相に電圧−Vを印加し、U相からV相に向けて電流を流す。
通電モード(2)は、スイッチング素子217a及びスイッチング素子217fをオン制御し、他を全てオフとすることで、U相に電圧Vを印加し、W相に電圧−Vを印加し、U相からW相に向けて電流を流す。
通電モード(3)は、スイッチング素子217c及びスイッチング素子217fをオン制御し、他を全てオフとすることで、V相に電圧Vを印加し、W相に電圧−Vを印加し、V相からW相に向けて電流を流す。
通電モード(4)は、スイッチング素子217b及びスイッチング素子217cをオン制御し、他を全てオフとすることで、V相に電圧Vを印加し、U相に電圧−Vを印加し、V相からU相に向けて電流を流す。
通電モード(5)は、スイッチング素子217b及びスイッチング素子217eをオン制御し、他を全てオフとすることで、W相に電圧Vを印加し、U相に電圧−Vを印加し、W相からU相に向けて電流を流す。
通電モード(6)は、スイッチング素子217e及びスイッチング素子217dをオン制御し、他を全てオフとすることで、W相に電圧Vを印加し、V相に電圧−Vを印加し、W相からV相に向けて電流を流す。
【0022】
尚、上記通電制御の場合、例えば通電モード(1)では、スイッチング素子217a及びスイッチング素子217dをオン制御し、他を全てオフとすることで、U相に電圧Vを印加し、V相に電圧−Vを印加し、U相からV相に向けて電流を流すようにしたが、下段のスイッチング素子217dの駆動するPWM波と逆位相のPWM波で上段のスイッチング素子217cを駆動し、下段のスイッチング素子217dがオンであるときに、上段のスイッチング素子217cをオフさせ、下段のスイッチング素子217dがオフであるときに、上段のスイッチング素子217cをオンさせるようにする相補制御方式で、各通電モード(1)〜(6)での通電制御を行わせることができる。
【0023】
上記のように、6つの通電モード(1)〜(6)を、電気角60deg毎に切り替えることで、各スイッチング素子217a〜217fは、240deg毎に120deg間通電されることから、図4に示すような通電方式は120度通電方式と呼ばれる。
前記通電モードの切り替えを、本実施形態では、非通電相に発生する電圧(誘起電圧)と電圧閾値との比較に基づき行うようになっており、本実施形態のモータ制御装置3は、所謂位置センサレスの通電制御を行う。
具体的には、非通電相電圧選択器257が3相端子電圧Vu,Vv,Vwの中から非通電相(開放相)の電圧を選択して出力する一方、電圧閾値切替器255が電圧閾値を出力し、比較器254が、非通電相の端子電圧が電圧閾値を横切ったか否かを判断する。そして、比較器254は、非通電相の端子電圧が電圧閾値を横切って増大変化又は減少変化したときに(非通電相の端子電圧が電圧閾値に一致したときに)、モード切替トリガを通電モード決定器253に出力する。
【0024】
ところで、非通電相の電圧は、温度などの環境条件やブラシレスモータ2(巻線)の製造ばらつき、更には、電圧検出回路の検出ばらつきなどによって変化するため、予め決定した固定の電圧閾値を用いて通電モードの切り替えタイミング(切り替え角度位置)を検出すると、通電モードの切り替えタイミングが適正なタイミングからずれて、ブラシレスモータ2が脱調する可能性がある。
そこで、本実施形態では、前記電圧閾値を更新して記憶する電圧閾値学習器256(電圧閾値設定手段)を設け、温度などの環境条件、ブラシレスモータ2の製造ばらつき、電圧検出回路の検出ばらつきなどに対して、電圧閾値を逐次適正値に修正し、修正結果を更新記憶して用いるように構成してある。
【0025】
以下では、電圧閾値学習器256における電圧閾値の学習(更新記憶)処理を、詳細に説明する。
図5のフローチャートに示すルーチンは、制御器213(電圧閾値学習器256)によって行われる電圧閾値の学習処理の手順を示す。
【0026】
ステップ1では、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替え判定に用いる電圧閾値V4-5を学習し、ステップ2は、通電モード(5)から通電モード(6)への切り替え判定に用いる電圧閾値V5-6を学習し、ステップ3は、通電モード(6)から通電モード(1)への切り替え判定に用いる電圧閾値V6-1を学習し、ステップ4は、通電モード(1)から通電モード(2)への切り替え判定に用いる電圧閾値V1-2を学習し、ステップ5は、通電モード(2)から通電モード(3)への切り替え判定に用いる電圧閾値V2-3を学習し、ステップ6は、通電モード(3)から通電モード(4)への切り替え判定に用いる電圧閾値V3-4を学習する。但し、各電圧閾値の学習順は任意であり、適宜変更することができる。
【0027】
通電モード(4)から通電モード(5)への切り替え判定に用いる電圧閾値V4-5を学習するステップ1(step1)は、詳細には、ステップ11〜ステップ13の各ステップを実行する。
まず、ステップ11では、永久磁石回転子216を、通電モード(3)に対応する角度に位置決めする。
具体的には、図6(A)に示すように、通電モード(3)に対応する印加電圧、即ち、Vu=0、Vv=Vin、Vw=−Vinを各相に加える。通電モード(3)に対応する印加電圧を各相に加えると、U相,V相及びW相の合成磁束が、図6(A)に示すようになり、係る合成磁束に永久磁石回転子216が引かれることでトルクが発生し、永久磁石回転子216のN極が、角度90degまで回転することになる。
尚、通電モード(3)に対応する印加電圧を加えたときの角度である90degは、前述のように、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替えを行う角度位置である。
【0028】
ステップ12では、ステップ11でU相,V相及びW相に対する印加電圧Vu,Vv,Vwを通電モード(3)に対応する印加電圧に設定した後、永久磁石回転子216のN極が、通電モード(3)に対応する90degの角度位置に到達するのに要すると見込まれる最大動作遅れ時間(待機時間)が経過していて、永久磁石回転子216が90degの角度位置に停止しているものと推定できるようになってから、通電モード(3)に対応する印加電圧から、図6(B)に示すように、通電モード(4)に対応する印加電圧、即ち、Vu=−Vin、Vv=Vin、Vw=0に切り替える。
図6(A),(B)において、永久磁石回転子216を中心として扇状に塗りつぶした領域は、モータを回転駆動するときに、当該通電モードによる通電を行う角度領域を示すものであり、後述する図7〜図11の(A),(B)においても同様である。
【0029】
ステップ13では、図6(C)に示すように、通電モード(3)に対応する印加電圧から通電モード(4)に対応する印加電圧に切り替えた直後における、通電モード(4)での開放相(非通電相)であるW相の端子電圧Vwを検出し、該端子電圧Vwに基づき、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替え判定に用いる電圧閾値V4-5を更新して記憶する。
即ち、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替えは、前述のように、角度90degで行わせるように設定されていて、角度90degになったか否かは、通電モード(4)における開放相(非通電相)であるW相の端子電圧Vwに基づいて判断する。
【0030】
ここで、通電モード(3)に対応する印加電圧を継続させることで、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替えを行う角度位置(90deg)に位置決めすることができ、係る状態で通電モード(3)から通電モード(4)に切り替えれば、切り替え直後のW相の端子電圧Vwは、角度位置90degにおける開放相の端子電圧Vを示すことになる。
そこで、通電モード(3)に対応する印加電圧を継続させている状態から通電モード(4)に切り替えた直後におけるW相の端子電圧Vwに基づき、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替え判定に用いる電圧閾値V4-5を更新して記憶し、通電モード(4)の開放相(非通電相)であるW相の端子電圧Vwが、電圧閾値V4-5を横切ったときに(W相の端子電圧Vw=電圧閾値V4-5になったとき)、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替えを実行させるようにする。
【0031】
電圧閾値の更新処理においては、今回求めた開放相の端子電圧Vをそのまま電圧閾値として記憶させても良いし、また、前回までの電圧閾値と、今回求めた開放相の端子電圧Vとの加重平均値を新たな電圧閾値として記憶させても良いし、更に、過去複数回に亘って求めた開放相の端子電圧Vの移動平均値を新たな電圧閾値として記憶させても良い。
また、今回求めた開放相の端子電圧Vが、予め記憶している正常範囲内の値であれば、今回求めた開放相の端子電圧Vに基づく電圧閾値の更新を行い、前記正常範囲から外れている場合には、今回求めた開放相の端子電圧Vに基づく電圧閾値の更新を禁止し、電圧閾値を前回値のまま保持させるとよい。
【0032】
また、電圧閾値の初期値として設計値を記憶させておき、電圧閾値の学習を1度も経験していない未学習状態では、電圧閾値として初期値(設計値)を用いて通電モードの切り替えタイミングを判断させるようにする。
また、開放相(非通電相)の端子電圧を、一定時間周期でA/D変換して読み込む場合には、通電モード切り替え直後の開放相の端子電圧を検出させるときに、通電モードの切り替え実行後、最初に読み込んだ開放相の端子電圧を、切り替え直後の開放相の端子電圧とすることができるが、通電モードの切り替え処理に同期してA/D変換処理を実行させてもよい。
【0033】
次に、ステップ2における、通電モード(5)から通電モード(6)への切り替え判定に用いる電圧閾値V5-6の学習を、詳述する。
まず、ステップ21では、永久磁石回転子216を、通電モード(4)に対応する角度に位置決めする。
具体的には、図7(A)に示すように、通電モード(4)に対応する印加電圧、即ち、Vu=−Vin、Vv=Vin、Vw=0を各相に加える。通電モード(4)に対応する印加電圧を各相に加えると、U相,V相及びW相の合成磁束が、図7(A)に示すようになり、係る合成磁束に永久磁石回転子216が引かれることでトルクが発生し、永久磁石回転子216のN極が、角度150degまで回転することになる。
尚、通電モード(4)に対応する印加電圧を加えたときの角度である150degは、前述のように、通電モード(5)から通電モード(6)への切り替えを行う角度位置である。
【0034】
ステップ22では、ステップ21でU相,V相及びW相に対する印加電圧Vu,Vv,Vwを通電モード(4)に対応する印加電圧に設定した後、永久磁石回転子216のN極が、通電モード(4)に対応する150degの角度位置に到達するのに要すると見込まれる最大動作遅れ時間(待機時間)が経過していて、永久磁石回転子216が150degの角度位置に停止しているものと推定できるようになってから、通電モード(4)に対応する印加電圧から、図7(B)に示すように、通電モード(5)に対応する印加電圧、即ち、Vu=−Vin、Vv=0、Vw=Vinに切り替える。
【0035】
ステップ23では、図7(C)に示すように、通電モード(4)に対応する印加電圧から通電モード(5)に対応する印加電圧に切り替えた直後における、通電モード(5)での開放相(非通電相)であるV相の端子電圧Vvを検出し、該端子電圧Vvに基づき、通電モード(5)から通電モード(6)への切り替え判定に用いる電圧閾値V5-6を更新して記憶する。
即ち、通電モード(5)から通電モード(6)への切り替えは、前述のように、角度150degで行わせるように設定されていて、角度150degになったか否かは、通電モード(5)における開放相(非通電相)であるV相の端子電圧Vvに基づいて判断する。
【0036】
ここで、通電モード(4)に対応する印加電圧を継続させることで、通電モード(5)から通電モード(6)への切り替えを行う角度位置(150deg)に位置決めすることができ、係る状態で通電モード(4)から通電モード(5)に切り替えれば、切り替え直後のV相の端子電圧Vvは、角度位置150degにおける開放相の端子電圧Vを示すことになる。
そこで、通電モード(4)に対応する印加電圧を継続させている状態から通電モード(5)に切り替えた直後におけるV相の端子電圧Vvに基づき、通電モード(5)から通電モード(6)への切り替え判定に用いる電圧閾値V5-6を更新して記憶し、通電モード(5)の開放相(非通電相)であるV相の端子電圧Vvが、電圧閾値V5-6を横切ったときに(V相の端子電圧Vv=電圧閾値V5-6になったとき)、通電モード(5)から通電モード(6)への切り替えを実行させるようにする。
【0037】
次に、ステップ3における、通電モード(6)から通電モード(1)への切り替え判定に用いる電圧閾値V6-1の学習を、詳述する。
まず、ステップ31では、永久磁石回転子216を、通電モード(5)に対応する角度に位置決めする。
具体的には、図8(A)に示すように、通電モード(5)に対応する印加電圧、即ち、Vu=−Vin、Vv=0、Vw=Vinを各相に加える。通電モード(5)に対応する印加電圧を各相に加えると、U相,V相及びW相の合成磁束が、図8(A)に示すようになり、係る合成磁束に永久磁石回転子216が引かれることでトルクが発生し、永久磁石回転子216のN極が、角度210degまで回転することになる。
尚、通電モード(5)に対応する印加電圧を加えたときの角度である210degは、前述のように、通電モード(6)から通電モード(1)への切り替えを行う角度位置である。
【0038】
ステップ32では、ステップ31でU相,V相及びW相に対する印加電圧Vu,Vv,Vwを通電モード(5)に対応する印加電圧に設定した後、永久磁石回転子216のN極が、通電モード(5)に対応する210degの角度位置に到達するのに要すると見込まれる最大動作遅れ時間(待機時間)が経過していて、永久磁石回転子216が210degの角度位置に停止しているものと推定できるようになってから、通電モード(5)に対応する印加電圧から、図8(B)に示すように、通電モード(6)に対応する印加電圧、即ち、Vu=0、Vv=−Vin、Vw=Vinに切り替える。
【0039】
ステップ33では、図8(C)に示すように、通電モード(5)に対応する印加電圧から通電モード(6)に対応する印加電圧に切り替えた直後における、通電モード(6)での開放相(非通電相)であるU相の端子電圧Vuを検出し、該端子電圧Vuに基づき、通電モード(6)から通電モード(1)への切り替え判定に用いる電圧閾値V6-1を更新して記憶する。
即ち、通電モード(6)から通電モード(1)への切り替えは、前述のように、角度210degで行わせるように設定されていて、角度210degになったか否かは、通電モード(6)における開放相(非通電相)であるU相の端子電圧Vuに基づいて判断する。
【0040】
ここで、通電モード(5)に対応する印加電圧を継続させることで、通電モード(6)から通電モード(1)への切り替えを行う角度位置(210deg)に位置決めすることができ、係る状態で通電モード(5)から通電モード(6)に切り替えれば、切り替え直後のU相の端子電圧Vuは、角度位置210degにおける開放相の端子電圧Vを示すことになる。
そこで、通電モード(5)に対応する印加電圧を継続させている状態から通電モード(6)に切り替えた直後におけるU相の端子電圧Vuに基づき、通電モード(6)から通電モード(1)への切り替え判定に用いる電圧閾値V6-1を更新して記憶し、通電モード(6)の開放相(非通電相)であるU相の端子電圧Vuが、電圧閾値V6-1を横切ったときに(U相の端子電圧Vu=電圧閾値V6-1になったとき)、通電モード(6)から通電モード(1)への切り替えを実行させるようにする。
【0041】
次に、ステップ4における、通電モード(1)から通電モード(2)への切り替え判定に用いる電圧閾値V1-2の学習を、詳述する。
まず、ステップ41では、永久磁石回転子216を、通電モード(6)に対応する角度に位置決めする。
具体的には、図9(A)に示すように、通電モード(6)に対応する印加電圧、即ち、Vu=0、Vv=−Vin、Vw=Vinを各相に加える。通電モード(6)に対応する印加電圧を各相に加えると、U相,V相及びW相の合成磁束が、図9(A)に示すようになり、係る合成磁束に永久磁石回転子216が引かれることでトルクが発生し、永久磁石回転子216のN極が、角度270degまで回転することになる。
尚、通電モード(6)に対応する印加電圧を加えたときの角度である270degは、前述のように、通電モード(1)から通電モード(2)への切り替えを行う角度位置である。
【0042】
ステップ42では、ステップ41でU相,V相及びW相に対する印加電圧Vu,Vv,Vwを通電モード(6)に対応する印加電圧に設定した後、永久磁石回転子216のN極が、通電モード(6)に対応する270degの角度位置に到達するのに要すると見込まれる最大動作遅れ時間(待機時間)が経過していて、永久磁石回転子216が270degの角度位置に停止しているものと推定できるようになってから、通電モード(6)に対応する印加電圧から、図9(B)に示すように、通電モード(1)に対応する印加電圧、即ち、Vu=Vin、Vv=−Vin、Vw=0に切り替える。
【0043】
ステップ43では、図9(C)に示すように、通電モード(6)に対応する印加電圧から通電モード(1)に対応する印加電圧に切り替えた直後における、通電モード(1)での開放相(非通電相)であるW相の端子電圧Vwを検出し、該端子電圧Vwに基づき、通電モード(1)から通電モード(2)への切り替え判定に用いる電圧閾値V1-2を更新して記憶する。
即ち、通電モード(1)から通電モード(2)への切り替えは、前述のように、角度270degで行わせるように設定されていて、角度270degになったか否かは、通電モード(1)における開放相(非通電相)であるW相の端子電圧Vwに基づいて判断する。
【0044】
ここで、通電モード(6)に対応する印加電圧を継続させることで、通電モード(1)から通電モード(2)への切り替えを行う角度位置(270deg)に位置決めすることができ、係る状態で通電モード(6)から通電モード(1)に切り替えれば、切り替え直後のW相の端子電圧Vwは、角度位置270degにおける開放相の端子電圧Vを示すことになる。
そこで、通電モード(6)に対応する印加電圧を継続させている状態から通電モード(1)に切り替えた直後におけるW相の端子電圧Vwに基づき、通電モード(1)から通電モード(2)への切り替え判定に用いる電圧閾値V1-2を更新して記憶し、通電モード(1)の開放相(非通電相)であるW相の端子電圧Vwが、電圧閾値V1-2を横切ったときに(W相の端子電圧Vw=電圧閾値V1-2になったとき)、通電モード(1)から通電モード(2)への切り替えを実行させるようにする。
【0045】
次に、ステップ5における、通電モード(2)から通電モード(3)への切り替え判定に用いる電圧閾値V2-3の学習を、詳述する。
まず、ステップ51では、永久磁石回転子216を、通電モード(1)に対応する角度に位置決めする。
具体的には、図10(A)に示すように、通電モード(1)に対応する印加電圧、即ち、Vu=Vin、Vv=−Vin、Vw=0を各相に加える。通電モード(1)に対応する印加電圧を各相に加えると、U相,V相及びW相の合成磁束が、図10(A)に示すようになり、係る合成磁束に永久磁石回転子216が引かれることでトルクが発生し、永久磁石回転子216のN極が、角度330degまで回転することになる。
尚、通電モード(1)に対応する印加電圧を加えたときの角度である330degは、前述のように、通電モード(2)から通電モード(3)への切り替えを行う角度位置である。
【0046】
ステップ52では、ステップ51でU相,V相及びW相に対する印加電圧Vu,Vv,Vwを通電モード(1)に対応する印加電圧に設定した後、永久磁石回転子216のN極が、通電モード(1)に対応する330degの角度位置に到達するのに要すると見込まれる最大動作遅れ時間(待機時間)が経過していて、永久磁石回転子216が330degの角度位置に停止しているものと推定できるようになってから、通電モード(1)に対応する印加電圧から、図10(B)に示すように、通電モード(2)に対応する印加電圧、即ち、Vu=Vin、Vv=0、Vw=−Vinに切り替える。
【0047】
ステップ53では、図10(C)に示すように、通電モード(1)に対応する印加電圧から通電モード(2)に対応する印加電圧に切り替えた直後における、通電モード(2)での開放相(非通電相)であるV相の端子電圧Vvを検出し、該端子電圧Vvに基づき、通電モード(2)から通電モード(3)への切り替え判定に用いる電圧閾値V2-3を更新して記憶する。
即ち、通電モード(2)から通電モード(3)への切り替えは、前述のように、角度330degで行わせるように設定されていて、角度330degになったか否かは、通電モード(2)における開放相(非通電相)であるV相の端子電圧Vvに基づいて判断する。
【0048】
ここで、通電モード(1)に対応する印加電圧を継続させることで、通電モード(2)から通電モード(3)への切り替えを行う角度位置(330deg)に位置決めすることができ、係る状態で通電モード(1)から通電モード(2)に切り替えれば、切り替え直後のV相の端子電圧Vvは、角度位置330degにおける開放相の端子電圧Vを示すことになる。
そこで、通電モード(1)に対応する印加電圧を継続させている状態から通電モード(2)に切り替えた直後におけるV相の端子電圧Vvに基づき、通電モード(2)から通電モード(3)への切り替え判定に用いる電圧閾値V2-3を更新して記憶し、通電モード(2)の開放相(非通電相)であるV相の端子電圧Vvが、電圧閾値V2-3を横切ったときに(V相の端子電圧Vv=電圧閾値V2-3になったとき)、通電モード(2)から通電モード(3)への切り替えを実行させるようにする。
【0049】
次に、ステップ6における、通電モード(3)から通電モード(4)への切り替え判定に用いる電圧閾値V3-4の学習を、詳述する。
まず、ステップ61では、永久磁石回転子216を、通電モード(2)に対応する角度に位置決めする。
具体的には、図11(A)に示すように、通電モード(2)に対応する印加電圧、即ち、Vu=Vin、Vv=0、Vw=−Vinを各相に加える。通電モード(2)に対応する印加電圧を各相に加えると、U相,V相及びW相の合成磁束が、図11(A)に示すようになり、係る合成磁束に永久磁石回転子216が引かれることでトルクが発生し、永久磁石回転子216のN極が、角度30degまで回転することになる。
尚、通電モード(2)に対応する印加電圧を加えたときの角度である30degは、前述のように、通電モード(3)から通電モード(4)への切り替えを行う角度位置である。
【0050】
ステップ62では、ステップ61でU相,V相及びW相に対する印加電圧Vu,Vv,Vwを通電モード(2)に対応する印加電圧に設定した後、永久磁石回転子216のN極が、通電モード(2)に対応する30degの角度位置に到達するのに要すると見込まれる最大動作遅れ時間(待機時間)が経過していて、永久磁石回転子216が30degの角度位置に停止しているものと推定できるようになってから、通電モード(2)に対応する印加電圧から、図11(B)に示すように、通電モード(3)に対応する印加電圧、即ち、Vu=0、Vv=Vin、Vw=−Vinに切り替える。
【0051】
ステップ63では、図11(C)に示すように、通電モード(2)に対応する印加電圧から通電モード(3)に対応する印加電圧に切り替えた直後における、通電モード(3)での開放相(非通電相)であるU相の端子電圧Vuを検出し、該端子電圧Vuに基づき、通電モード(3)から通電モード(4)への切り替え判定に用いる電圧閾値V3-4を更新して記憶する。
即ち、通電モード(3)から通電モード(4)への切り替えは、前述のように、角度30degで行わせるように設定されていて、角度30degになったか否かは、通電モード(3)における開放相(非通電相)であるU相の端子電圧Vuに基づいて判断する。
【0052】
ここで、通電モード(2)に対応する印加電圧を継続させることで、通電モード(3)から通電モード(4)への切り替えを行う角度位置(30deg)に位置決めすることができ、係る状態で通電モード(2)から通電モード(3)に切り替えれば、切り替え直後のU相の端子電圧Vuは、角度位置30degにおける開放相の端子電圧Vを示すことになる。
そこで、通電モード(2)に対応する印加電圧を継続させている状態から通電モード(3)に切り替えた直後におけるU相の端子電圧Vuに基づき、通電モード(3)から通電モード(4)への切り替え判定に用いる電圧閾値V3-4を更新して記憶し、通電モード(3)の開放相(非通電相)であるU相の端子電圧Vuが、電圧閾値V3-4を横切ったときに(U相の端子電圧Vu=電圧閾値V3-4になったとき)、通電モード(3)から通電モード(4)への切り替えを実行させるようにする。
【0053】
上記のように、本実施形態では、通電モード(1)〜(6)のいずれか1つに保持することで、通電モードの切り替えを行う角度位置に永久磁石回転子216を位置決めし、該位置決め時の通電モードから次の通電モードに切り替え、該切り替え直後における開放相の端子電圧を、位置決めした角度位置で通電モードを切り替えるとき(切り替え後の通電モードから更に次の通電モードに切り替えるとき)に用いる電圧閾値として学習する。
【0054】
従って、電圧検出回路の検出ばらつき、モータのばらつき、温度などの環境条件の変化などによって、切り替えを行わせる角度位置での開放相の端子電圧がばらついても、係るばらつきに応じて電圧閾値を逐次修正することができ、通電モードの切り替えタイミングが、所期の角度位置からずれてしまうことを抑制できる。
また、通電モードの6通りの切り替え毎に、電圧閾値を個別に学習し、どの通電モードに切り替えるかによって、通電モードの切り替えタイミングの判定に用いる電圧閾値を選択するから、ブラスレスモータ2の個々の巻線にばらつきがあっても、各通電モードへの切り替えを適正なタイミング(所期の角度位置)で行わせることができる。
【0055】
次に、電動オイルポンプ1を駆動するモータとしてのブラシレスモータ2について、通電モードの切り替え判断に用いる電圧閾値の学習を行わせる場合の学習処理の流れを、図12のフローチャートに示すルーチンに従って説明する。
ステップ101で、エンジンのメインスイッチであるイグニッションスイッチ(IGN)がオンすると、ステップ102では、電圧閾値の学習条件が成立しているか否かを判断する。
【0056】
具体的には、以下の(a)〜(f)が全て成立している場合に、電圧閾値の学習条件が成立していると判断し、後述するように電圧閾値の学習を実行する。
(a)エンジン回転中である。
(b)オイル温度が学習許可領域内である
(c)ブラシレスモータ、駆動回路、制御器などについて故障診断されていない。
(d)ブラシレスモータの電源電圧が設定値を超えている。
(e)エンジン始動後から安定運転状態への移行に要する時間が経過している。
(f)同一温度条件で一度も学習されていない
【0057】
上記条件(a)は、電動オイルポンプ1を駆動する要求がないことを判断するものであり、エンジン停止中であっても、電動オイルポンプ1を駆動する要求がない場合には、学習条件の成立を判定することができる。
条件(b)は、後述する温度条件毎の電圧閾値の学習において、電圧閾値を学習させる温度領域内であるか否かを判断するものであり、オイル温度センサ(温度検出手段)12が検出したオイル温度が、学習領域から外れている場合には、電圧閾値の学習は行わない。
【0058】
条件(c)は、ブラシレスモータ、駆動回路、制御器などが正常であって、電圧閾値の学習が正常に行えると見込まれる場合に、学習を許可するものである。
条件(d)は、電源電圧が設定値を超えている(正常範囲内である)か否かに基づいて、学習精度を維持できる電源電圧であるか否かを判断するものである。
条件(e)は、エンジンが安定的に運転されていている状態において学習を許可し、始動直後のエンジン運転が不安定な状態において学習を禁止するものである。
【0059】
条件(f)は、各通電モードの切り替え判断に用いる電圧閾値を、ブラシレスモータ2の温度条件毎に学習させるに当たって、現時点の温度が、未学習の温度条件であれば学習を許可し、学習済みの温度条件であれば、学習条件が成立しないものとして学習処理を禁止する。
例えば、図13に示すように、各通電モードの切り替え判断に用いる電圧閾値を、15℃、50℃、80℃、110℃の各温度毎に学習させるようにし、通電モード(2)から通電モード(3)への切り替え判断を行うときに用いる電圧閾値V2-3として、そのときの温度が80℃であったとすると、80℃に対応して記憶されている電圧閾値V2-3を用いるようにする。
【0060】
ここで、ステップ102の学習条件の成立・非成立を判断する時点でのモータ温度が、未学習の温度であれば学習を許可し、学習済み若しくは最近に学習した時点からの経過時間が充分に短い場合には、学習(現時点の温度条件に対応する電圧閾値の更新)を禁止する。
尚、温度毎の電圧閾値の学習において、例えば、通電モード(2)から通電モード(3)への切り替え判断を行うときに用いる電圧閾値V2-3として、モータ温度80℃に対応する電圧閾値V2-3が学習済みであるのに対し、その他の温度条件に対応する電圧閾値V2-3が未学習であれば、80℃での学習値を全ての温度条件に適用させて、通電モード(2)から通電モード(3)への切り替え判断を行わせることができる。
【0061】
また、例えば、通電モード(2)から通電モード(3)への切り替え判断を行うときに用いる電圧閾値V2-3として、複数の温度条件で学習済みであれば、未学習の温度条件に対応させる電圧閾値V2-3を、学習済みの温度での電圧閾値V2-3から補間演算して推定させることができる。
また、電圧閾値の学習条件としての温度は、ブラシレスモータ2の温度若しくはモータ温度に相関する温度であればよく、モータ温度に相関する温度としては、電動オイルポンプ1が圧送するオイルの温度(オイル温度センサ12の検出値)や、エンジンの冷却水温度などを用いることができ、更には、外気温度やモータ2における消費電力などからモータ温度を推定することもできる。
【0062】
尚、電圧閾値の学習条件を、上記の条件(a)〜(f)に限定するものではなく、また、条件(a)〜(f)のうちの一部を学習条件として採用することができ、また、複数の条件の論理和又は論理積、更には、論理和と論理積との組み合わせで、学習条件の成立・非成立を判断することができる。更に、電圧閾値が未学習である場合に、エンジンの一時停止(アイドルストップ)を禁止することもできる。
【0063】
ステップ102で学習条件が成立していると判断すると、ステップ103へ進み、前述の図5のフローチャートに従って各通電モードの切り替え判断に用いる電圧閾値の学習を行わせる。
前述の図5のフローチャートに従った電圧閾値の学習処理では、6通りのモード切り替え毎に6個の電圧閾値V1-2,V2-3,V3-4,V4-5,V5-6,V6-1を学習するから、3相間でばらつきがあっても、通電モードを適正なタイミングで切り替えることができる。
【0064】
但し、3相間でのばらつきが十分に小さいと見込まれる場合には、個別に学習した6個の電圧閾値に基づいて、絶対値が共通する電圧閾値V1-2,V2-3,V3-4,V4-5,V5-6,V6-1を設定して、モード切替の判断を行わせることができる。
具体的には、図5のフローチャートに従って求めた6個の電圧閾値V1-2,V2-3,V3-4,V4-5,V5-6,V6-1それぞれの絶対値の中での最小値を求め、該最小値に基づいて、図14(A)に示すようにして、通電モードの切り替え判断に用いる各電圧閾値を設定する。
即ち、通電モードの切り替えにおいて、(1)→(2)、(3)→(4)、(5)→(6)の切り替えにおいては開放相電圧が基準電圧からマイナス側に振れ、(2)→(3)、(4)→(5)、(6)→(1)の切り替えにおいては開放相電圧が基準電圧からプラス側に振れるので、開放相電圧がマイナス側に振れるモード切替は、−最小値を電圧閾値とし、開放相電圧がプラス側に振れるモード切替は、+最小値を電圧閾値とする。
【0065】
尚、6個の電圧閾値それぞれの絶対値の単純平均値を、各モード切替の判断に用いる電圧閾値に共通する絶対値としても良いが、誘起電圧が電圧閾値を横切らない場合が生じると、通電モードの切り替えが行えず、モータが脱調してしまう可能性があるので、最小値を選択し、電圧閾値の絶対値が比較的低い通電モードであっても誘起電圧が電圧閾値を横切って通電モードの切り替えが行えるようにするとよい。
また、例えば、6通りの通電モードの切り替えのうちの一部(例えば1つ)についてのみ、電圧閾値を学習させ、この学習値の絶対値を他の通電モードの切り替え判断に用いる電圧閾値の絶対値として用いることができる。
【0066】
また、開放相電圧が基準電圧に対してマイナス側に振れる(減少変化する)、(1)→(2)、(3)→(4)、(5)→(6)のモード切替において共通の電圧閾値を設定し、開放相電圧が基準電圧に対してプラス側に振れる(増大変化する)、(2)→(3)、(4)→(5)、(6)→(1)のモード切替において共通の電圧閾値を設定してもよい。
具体的には、図14(B)に示すように、(1)→(2)、(3)→(4)、(5)→(6)のモード切替に対しては、電圧閾値V1-2,V3-4,V5-6の中での最大値、即ち、マイナス値として算出される電圧閾値V1-2,V3-4,V5-6の中で基準電圧(=0V)に最も近い値(絶対値の最小値)を選択し、該選択した電圧閾値Vを、(1)→(2)、(3)→(4)、(5)→(6)のモード切替に共通の電圧閾値として学習させる。
【0067】
また、(2)→(3)、(4)→(5)、(6)→(1)のモード切替に対しては、電圧閾値V2-3,V4-5,V6-1の中での最小値、即ち、プラス値として算出される電圧閾値V2-3,V4-5,V6-1の中で基準電圧(=0V)に最も近い値(絶対値の最小値)を選択し、該選択した電圧閾値Vを、(2)→(3)、(4)→(5)、(6)→(1)のモード切替に共通の電圧閾値として学習させる。
【0068】
また、学習した電圧閾値に基づいてモード切替のタイミングを判断するときに、そのときのモータ回転速度に応じて電圧閾値を補正することが好ましい。
即ち、モータ回転速度が低くなるほど、開放相に発生する誘起電圧が低くなるので、モータ速度が低く誘起電圧が低くなるほど、電圧閾値の絶対値を小さく補正し、逆に、モータ速度が速く誘起電圧が高くなるほど、電圧閾値の絶対値を大きく補正する。これにより、モータ回転速度に依存する誘起電圧の大きさに対応させて、電圧閾値を上下させることができ、モータ回転速度が異なっても、適正なタイミング(所期の切り替え角度)で通電モードを切り替えることができる。
【0069】
具体的には、数1に従って、電圧閾値をモータ回転速度に応じた補正値で修正するように、かつ、前記補正値として、図15に示すように、(1)→(2)、(3)→(4)、(5)→(6)のモード切替に対しては、回転速度が高くなるに従って絶対値が大きくなるマイナスの補正値を設定し、(2)→(3)、(4)→(5)、(6)→(1)のモード切替に対しては、回転速度が高くなるに従って絶対値が大きくなるプラスの補正値を設定する。
(数1)
電圧閾値=電圧閾値+回転速度による補正値
回転速度による補正値=回転速度*誘起電圧定数*1/2
上記回転速度に応じた電圧閾値の補正は、個別の学習結果をそのまま用いてモード切替を判断させる場合と共に、絶対値を共通化させた電圧閾値を設定する場合にも適用できる。
尚、モータの回転速度による補正値を演算式で求めても良いし、モータの回転速度を補正値に変換する変換テーブルを用いてもよい。
【0070】
また、電圧閾値の学習において、通電モードの切り替えを行わせる角度位置に位置決めするための通電モードに応じた通電状態から、次の通電モードに切り替える際に、PWM信号のデューティが大きいと、モータ回転の立ち上がり応答が速くなって、電圧閾値の学習精度が低下する。
そこで、電圧閾値の学習を行わせる場合に、PWM生成において、低デューティとしてモータ回転の立ち上がり応答を抑制しつつ、開放相の誘起電圧を検出できるようにすることが望まれ、そのためには、後述するパルスシフトを実施するとよい。
【0071】
図16は、一般的なPWM生成を示す。
図16において、三角波キャリアの中間値Dの値が電圧=0であり、また、電圧指令値をBとし、V相のPWMは、三角波キャリアと電圧指令値D+Bを比較した結果を用い、W相のPWMは、三角波キャリアと電圧指令値D−Bを比較した結果を用いている。
即ち、V相の上段スイッチング素子は、三角波キャリアよりも電圧指令値D+Bが高い期間においてONとなり、W相の下段スイッチング素子は、三角波キャリアが電圧指令値D−Bよりも高い期間においてONとなる。
【0072】
しかし、図16に示すPWM生成では、デューティが小さいとV相とW相とが共に通電している時間(図16中の斜線の期間)が短く、非通電相に誘起される電圧を検出できなくなってしまうが、V相とW相とが共に通電している時間を長くし、誘起電圧の検出を可能とするために、デューティを大きくすると、モータ回転の立ち上がり応答が速くなって、位置決めした角度位置での開放相の端子電圧の検出精度が低下する。
そこで、図17に示すパルスシフトを実施することで、図16に示したPWM生成と同一のデューティで2相が共に通電している連続時間をより長くし、速度起電力の発生を抑えつつ、非通電相(開放相)に誘起される電圧の検出を可能にできる。
【0073】
図17に示すパルスシフトでは、三角波キャリアの山・谷(上昇・下降)のタイミングで、電圧指令値に対して補正を行っている。
具体的には、三角波キャリアの上昇期間では、電圧指令値を電圧=DからXだけ離れるように、電圧指令値D+BについてはD+B+A(但し、A=X−B)に補正し、電圧指令値D−BについてはD−B−A(但し、A=X−B)に補正し、三角波キャリアの下降期間では、電圧指令値を電圧=Dに近づけるように、電圧指令値D+BについてはD+B−A(但し、A=X−B)に補正し、電圧指令値D−BについてはD−B+A(但し、A=X−B)に補正している。
上記の電圧指令値の補正によって、三角波キャリアの下降期間でV相とW相とが共に通電している時間が短くなる分だけ、三角波キャリアの上昇期間でV相とW相とが共に通電している時間が長くなり、デューティを変えずに(換言すれば、低デューティでも)、2相が共に通電している連続時間を長くすることができる。
【0074】
ステップ103では、上記のようにして電圧閾値の学習を実施し、学習に充分な時間だけ学習条件が連続して成立していれば、学習を完了することになるが、学習途中でアイドルストップの開始要求が発生するなどして、学習条件が成立しなくなった場合には、その時点で学習処理を中止させる。
【0075】
そして、ステップ104では、電圧閾値の学習が正常に終了したか否かを判断する。
ここで、学習の正常終了とは、図5のフローチャートに示すルーチンを少なくとも1回実施し(好ましくは複数回繰り返し)、かつ、取得した電圧閾値が正常範囲内の場合である。一方、学習の異常終了とは、アイドルストップ要求の発生などによって途中で学習処理を停止した場合や、学習を所定回数(或いは所定時間)だけ実施しても、正常範囲内の電圧閾値を取得することができなかった場合である。
【0076】
そして、学習が正常終了した場合には、ステップ105へ進み、ステップ103で新たに取得した電圧閾値に基づき、それまでの電圧閾値の記憶値を更新させる処理を行う。
一方、学習が異常終了した場合には、ステップ106へ進み、電圧閾値の記憶値を更新せずに、電圧閾値を前回値若しくは初期値(設計値)に保持させる。
【0077】
ステップ107では、アイドルストップ条件が成立したか否か、換言すれば、ブラシレスモータ2によって電動オイルポンプ1を駆動させる要求が発生したか否かを判断する。
アイドルストップ条件が成立していない場合(エンジンの運転が継続される場合)には、電圧閾値の学習を全て完了していない可能性、例えば、異なる温度条件に対応する電圧閾値の学習が未実施の場合などがあるため、ステップ102へ戻って、学習条件の成立判断を行う。
【0078】
ここで、未学習の電圧閾値がなく、電圧閾値の学習が全て完了している場合には、そのままアイドルストップ条件が成立するまで待機させてもよい。
一方、アイドルストップ条件が成立すると、ステップ108へ進み、学習した電圧閾値と開放相電圧とを比較して通電モードを切り替えてブラシレスモータ2を駆動させる、センサレス式の駆動制御を実施する。
【0079】
ステップ109(脱調検出手段)では、学習した電圧閾値に基づき通電モードを切り替えてブラシレスモータ2を駆動させている状態(センサレス駆動状態)で、脱調が発生したか否かを検出する。
脱調の発生は、公知の種々の方法を採用でき、例えば、特開2001−25282号公報に開示されるように、ブラシレスモータ2の電流周期と電圧周期との比較に基づき、脱調の発生を検出することができる。
【0080】
ブラシレスモータ2が脱調した場合には、通電モードの切り替えタイミングの判断に用いる電圧閾値が不適切であるために、通電モードの切り替えタイミングが所期の角度位置からずれたものと判断し、ステップ102の学習条件の成立判断に戻る。
脱調が発生した場合には、ブラシレスモータ2によって電動オイルポンプ1を正常に回転駆動させることができずに、供給オイルの不足などによって変速機7の動作不良などを発生させる可能性があるので、アイドルストップを強制終了させ、エンジンを再始動させた上で、電圧閾値の学習を開始させることが好ましく、また、アイドルストップを強制終了させたときに、車両の運転者に対してランプなどで異常の発生(アイドルストップの禁止)を警告するとよい。
【0081】
また、脱調後に電圧閾値を再学習させた場合に、再学習後の電圧閾値をそのまま通電モードの切り替えタイミングの判断に用いても良いが、再学習の結果を採用した結果、再度脱調が発生することを抑制するように、脱調時に用いていた電圧閾値と再学習後の電圧閾値との相対比較に基づき、再学習の結果を補正した上で、通電モードの切り替えタイミングの判断に用いることが好ましい。
電圧閾値の絶対値が適正値よりも大きいと脱調し易くなり、また、過剰に小さいと効率が悪くなるので、前記再学習の結果の補正は、例えば以下のようにして行わせることができる。
【0082】
まず、再学習後の電圧閾値の絶対値が、脱調時の電圧閾値の絶対値よりも小さい場合には、再学習後の電圧閾値をそのまま通電モードの切り替えタイミングの判断に用いるようにする。
また、再学習後の電圧閾値の絶対値が、脱調時の電圧閾値の絶対値と同等であれば、再学習後の電圧閾値の絶対値を設定電圧だけ小さく補正し(換言すれば、脱調時の電圧閾値の絶対値を設定電圧だけ小さく補正し)、補正後の電圧閾値を用いて通電モードの切り替えタイミングの判断を行わせる。ここで、前記設定電圧を過小に設定すると、補正した電圧閾値を用いても脱調が再発する可能性があり、逆に、前記設定電圧を過大に設定すると効率が悪くなるので、角度と電圧との相関から、なるべく小さい電圧で脱調の再発を抑制できるように前記設定電圧を予め適合する。
更に、再学習後の電圧閾値の絶対値が、脱調時の電圧閾値の絶対値よりも大きい場合には、そのままの電圧閾値を用いると脱調する可能性が高いので、脱調時の電圧閾値の絶対値を前記設定電圧だけ小さく補正した結果を、通電モードの切り替えタイミングの判断に用いるようにする。
【0083】
具体的には、例えば、脱調時の電圧閾値が0.5Vであって、再学習後の電圧閾値がより低い0.3Vであれば、0.3Vをそのまま用いて通電モードの切り替えタイミングの判断を行わせ、脱調時の電圧閾値が0.5Vであって、再学習後の電圧閾値が同等の0.5Vであれば、設定電圧として例えば0.1Vだけマイナスした電圧=0.4Vを電圧閾値として用い、脱調時の電圧閾値が0.5Vであって、再学習後の電圧閾値がより高い1.0Vであれば、脱調時の電圧閾値=0.5Vから設定電圧として例えば0.1Vだけマイナスした電圧=0.4Vを電圧閾値として用いるようにする。
また、イグニッションスイッチのオフなどによって自動車の運転を終了させた後の再起動時には、上記のように補正した脱調後の電圧閾値を記憶しておき、この記憶値と、初期値設定電圧閾値又は初期学習電圧閾値との加重平均などによって電圧閾値を変更してもよい。
【0084】
一方、脱調が発生しない場合には、電圧閾値が適正な値に学習されているものと判断できるので、再学習を行わせることなく、ブラシレスモータ2の駆動を継続させる。
そして、運転者が車両の運転を終了し(ステップ110)、イグニッションスイッチ(IGN)がオフされると、学習更新した電圧閾値をバックアップRAMに格納するなどして、電圧閾値の学習及びブラシレスモータ2の駆動制御を終了させる。
【0085】
尚、上記実施形態では、ブラシレスモータ2を3相モータとしたが、相数を3相に限定するものではなく、また、120度通電方式の他、180度通電方式であってもよい。
また、通電モードの切り替え判断に用いる電圧閾値を学習させ、学習結果に基づいてセンサレス式で通電モードの切り替えを行うブラシレスモータは、電動オイルポンプの駆動に用いるモータに限定されない。
【0086】
ここで、上記実施形態から把握し得る請求項以外の技術的思想について、以下に効果と共に記載する。
(イ)請求項1〜3のいずれか1つに記載のブラシレスモータの駆動装置において、
前記電圧閾値設定手段が、通電モード毎に設定した電圧閾値から、複数の通電モードに共通の電圧閾値を設定し、この複数の通電モードに共通の電圧閾値に基づいて通電モードの切り替えを行わせるブラシレスモータの駆動装置。
上記構成によると、1つの電圧閾値を、複数のモード切り替えに共通的に用いるようにすることで、通電モード毎の電圧閾値の切り替えを簡易化でき、また、電圧閾値の記憶容量を節約できる。
【0087】
(ロ)請求項(イ)記載のブラシレスモータの駆動装置において、
前記電圧閾値設定手段が、通電モード毎に設定した電圧閾値のうちの複数の電圧閾値の中で絶対値が最小である電圧閾値を、複数の通電モードに共通の電圧閾値として設定するブラシレスモータの駆動装置。
上記構成によると、個別に設定した電圧閾値のうちの複数の中から最小値を選択し、複数の通電モードに共通の電圧閾値とするから、電圧閾値の要求が比較的低い通電モードであっても、非通電相の電圧と電圧閾値との比較から通電モードの切り替えタイミングを安定して判断させることができる。
【0088】
(ハ)請求項1〜3のいずれか1つに記載のブラシレスモータの駆動装置において、
前記電圧閾値設定手段が、前記電圧閾値を、モータ回転速度に応じて補正するブラシレスモータの駆動装置。
上記構成によると、モータ回転速度によって誘起電圧のレベルが変動しても、モータ回転速度に応じて電圧閾値をシフトさせることで、一定の角度位置で通電モードの切り替えタイミングを判断させることができる。
【0089】
(ニ)請求項1〜3のいずれか1つに記載のブラシレスモータの駆動装置において、
前記ブラシレスモータの温度を検出する温度検出手段を更に備え、
前記電圧閾値設定手段は、前記ブラシレスモータの温度毎に前記電圧閾値を設定するブラシレスモータの駆動装置。
上記構成によると、通電モードの切り替え角度での非通電相(開放相)の端子電圧が、モータ温度に影響されて変化することに対応して、電圧閾値をそのときの温度条件に対応する値に設定できる。
【0090】
(ホ)請求項1〜3のいずれか1つに記載のブラシレスモータの駆動装置において、
前記ブラシレスモータが、自動車用オートマチック・トランスミッションにオイルを圧送する電動オイルポンプであって、前記電動オイルポンプが、エンジンで駆動されてオイルを前記自動車用オートマチック・トランスミッションに圧送する機械式オイルポンプと並列に設けられ、
前記電圧閾値設定手段が、前記エンジンの運転中であって前記機械式オイルポンプによってオイルを自動車用オートマチック・トランスミッションに圧送しているときに、前記電圧閾値を設定するブラシレスモータの駆動装置。
上記構成によると、エンジンが停止すると、機械式オイルポンプが停止し、自動車用オートマチック・トランスミッションに対してオイルを圧送できなくなり、このときに電動オイルポンプを駆動することで、自動車用オートマチック・トランスミッションに対するオイルの圧送を継続させることができるが、電動オイルポンプの駆動状態では、電圧閾値の設定を行えないので、エンジン運転中であって、機械式オイルポンプによってオイルを自動車用オートマチック・トランスミッションに圧送しているときに、電圧閾値の設定を行う。
【符号の説明】
【0091】
1…電動オイルポンプ、2…ブラシレスモータ、3…モータ制御装置、212…モータ駆動回路、213…制御器、215U,215V,215W…巻線、216…永久磁石回転子、217a〜217f…スイッチング素子、251…PWM発生器、252…ゲート信号切替器、253…通電モード決定器、254…比較器、255…電圧閾値切替器、256…電圧閾値学習器、257…非通電相電圧選択器
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラシレスモータの駆動装置に関し、詳しくは、センサレスで通電モードの切り替えを行うブラシレスモータの駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、3相同期電動機の非通電相の端子電位を、基準電圧とレベル比較し、該レベル比較の結果に応じて、通電モードを順次切り替えていく、同期電動機の駆動システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−189176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前述のようなセンサレス式の駆動制御では、開放相(非通電相)の端子電圧(誘起電圧)が、電圧検出回路の検出ばらつき、モータ(巻線)のばらつき、温度環境などによって変化することで、通電モードの切り替えタイミングにずれを生じ、効率の低下や脱調が発生する惧れがあった。
【0005】
本発明は上記問題点に鑑みなされたものであり、電圧検出回路の検出ばらつき、モータ(巻線)のばらつき、温度環境などに因る通電モードの切り替えタイミングのずれを抑制でき、以って、効率の低下や脱調の発生を抑制できるブラシレスモータの駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そのため、本願発明では、非通電相の電圧と電圧閾値とに基づいて通電モードを順次切り替えるブラシレスモータの駆動装置において、1つの通電モードを継続させてブラシレスモータを停止させた状態から次の通電モードへの切り替えを行い、該通電モードの切り替え直後における非通電相の電圧に基づいて前記電圧閾値を設定するようにした。
【発明の効果】
【0007】
上記発明によると、電圧検出回路の検出ばらつき、モータ(巻線)のばらつき、温度環境の違いなどがあっても、通電モードの切り替えタイミングを適正に維持することが可能となり、効率の低下や脱調の発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施形態において、本願発明に係るブラシレスモータの駆動装置を適用する、自動車AT(オートマチック・トランスミッション)用油圧ポンプシステムの構成を示すブロック図である。
【図2】実施形態におけるモータ制御装置及びブラシレスモータの構成を示す回路図である。
【図3】実施形態における制御器の構成を示すブロック図である。
【図4】実施形態におけるブラシレスモータの通電パターンを示すタイムチャートである。
【図5】実施形態における電圧閾値の学習処理を示すフローチャートである。
【図6】実施形態における電圧閾値V4-5の学習処理を説明するための図であり、(A)は通電モードの切り替え角度位置への位置決め状態を示す図、(B)は通電モード(4)の通電状態を示す図、(C)は開放相の電圧変化を示すタイムチャートである。
【図7】実施形態における電圧閾値V5-6の学習処理を説明するための図であり、(A)は通電モードの切り替え角度位置への位置決め状態を示す図、(B)は通電モード(5)の通電状態を示す図、開放相の電圧変化を示すタイムチャートである。
【図8】実施形態における電圧閾値V6-1の学習処理を説明するための図であり、(A)は通電モードの切り替え角度位置への位置決め状態を示す図、(B)は通電モード(6)の通電状態を示す図、(C)は開放相の電圧変化を示すタイムチャートである。
【図9】実施形態における電圧閾値V1-2の学習処理を説明するための図であり、(A)は通電モードの切り替え角度位置への位置決め状態を示す図、(B)は通電モード(1)の通電状態を示す図、(C)は開放相の電圧変化を示すタイムチャートである。
【図10】実施形態における電圧閾値V2-3の学習処理を説明するための図であり、(A)は通電モードの切り替え角度位置への位置決め状態を示す図、(B)は通電モード(2)の通電状態を示す図、(C)は開放相の電圧変化を示すタイムチャートである。
【図11】実施形態における電圧閾値V3-4の学習処理を説明するための図であり、(A)は通電モードの切り替え角度位置への位置決め状態を示す図、(B)は通電モード(3)の通電状態を示す図、(C)は開放相の電圧変化を示すタイムチャートである。
【図12】実施形態における電動オイルポンプを駆動するブラシレスモータの通電モードの切り替えに用いる電圧閾値の学習処理を示すフローチャートである。
【図13】実施形態における温度条件毎の電圧閾値の学習を説明するための図である。
【図14】実施形態における絶対値を共通とする電圧閾値の学習を説明するための図であり、(A)は全ての通電モードの切り替えを、絶対値を共通とする電圧閾値に基づき行わせる例を示し、(B)はプラスの電圧閾値とマイナスの電圧閾値とのそれぞれで絶対値を共通とする例を示す図である。
【図15】実施形態における電圧閾値のモータ回転速度による電圧閾値の補正値の特性を示す線図である。
【図16】実施形態におけるパルスシフトを行わない場合のPWM生成を示すタイムチャートである。
【図17】実施形態におけるパルスシフトを行った場合のPWM生成を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本願発明に係るブラシレスモータの駆動装置を適用する、自動車AT(オートマチック・トランスミッション)用油圧ポンプシステムの構成を示すブロック図である。
図1に示す自動車AT用油圧ポンプシステムでは、変速機7やアクチュエータ8にオイルを供給するオイルポンプとして、図外のエンジン(内燃機関)の出力により駆動される機械式オイルポンプ6と、モータで駆動される電動オイルポンプ1とを備えている。
【0010】
また、エンジンの制御システムは、自動停止条件の成立時にエンジンを停止し、自動始動条件が成立するとエンジンを再始動するアイドルストップ制御機能を備えていて、アイドルストップによってエンジンが停止している間は、機械式オイルポンプ6もその動作を停止するため、アイドルストップ中は、電動オイルポンプ1を用いて、変速機7やアクチュエータ8に対するオイルの供給を行う。
電動オイルポンプ1は、直結したブラシレスモータ2により駆動され、ブラシレスモータ2は、AT制御装置(ATCU)4からの指令を受け取るモータ制御装置(MCU)3によって制御される。
【0011】
モータ制御装置(駆動装置)3は、ブラシレスモータ2を駆動制御して電動オイルポンプ1を駆動し、オイルパン10のオイルを、電動オイル配管5を介して変速機7やアクチュエータ8に供給する。
エンジン駆動中は、エンジン駆動の機械式オイルポンプ6により、変速機7やアクチェータ8にオイル配管9を介してオイルパン10のオイルが供給され、このとき、ブラシレスモータ2はオフ状態であり、電動オイルポンプ1に向かうオイルは逆止弁11によって遮断される。
【0012】
エンジンがアイドルストップすると、機械式オイルポンプ6の回転速度が低下してオイル配管9の油圧が低下するので、エンジンのアイドルストップと略同時に、AT制御装置4がモータ起動の指令をモータ制御装置3に向けて送信する。
起動指令を受けたモータ制御装置3は、ブラシレスモータ2を駆動して電動オイルポンプ1を回転させ、電動オイル配管5内の油圧を徐々に上昇させる。
機械式オイルポンプ6の油圧が低下する一方で、電動オイルポンプ1の吐出圧が逆止弁11の開弁圧を超えるようになると、オイルは、電動オイル配管5,電動オイルポンプ1,逆止弁11,変速機7・アクチェータ8,オイルパン10の経路を通って循環する動作を行う。
【0013】
図2は、モータ制御装置3及びブラシレスモータ2の詳細を示す。
モータ制御装置3は、モータ駆動回路212と、マイクロコンピュータを備えた制御器213とを含んで構成され、制御器213がAT制御装置4との間で通信を行う。
ブラシレスモータ2は、3相DCブラシレスモータ(3相同期電動機)であり、U相,V相及びW相の3相巻線215U,215V,215Wが、図示省略した円筒状の固定子に設けられ、該固定子の中央部に形成された空間に永久磁石回転子216が配置される。
【0014】
そして、モータ駆動回路212は、例えばIGBTからなる6個のスイッチング素子217a〜217fを3相ブリッジ接続し、かつ、各スイッチング素子217a〜217fに逆並列にダイオード218a〜218fをそれぞれ接続して構成され、かつ、電源回路219を有している。
スイッチング素子217a〜217fの制御端子(ゲート端子)は、制御器213に接続されており、スイッチング素子217a〜217fのオン・オフは、制御器213によってデューティ制御される。
【0015】
制御器213は、ブラシレスモータ2の印加電圧を演算し、駆動回路212に出力するパルス幅変調信号(PWM信号)を生成する回路であり、図3に示すように、PWM発生器251、ゲート信号切替器252、通電モード決定器253、比較器254、電圧閾値切替器255、電圧閾値学習器256、非通電相電圧選択器257を含んでいる。
PWM発生器251は、指令トルクに応じて決定した印加電圧指令(指令電圧)に基づき、パルス幅変調されたPWM波を生成する回路である。
【0016】
通電モード決定器253(通電モード切替手段)は、モータ駆動回路212の通電モード(スイッチングモード)を決定するモード指令信号を順次出力するデバイスであり、比較器254が出力するモード切替トリガ信号をトリガとして通電モードを6通りに切り替える。
ゲート信号切替器252は、モータ駆動回路212の各スイッチング素子217a〜217fがどのような動作でスイッチングするかを、通電モード決定器253の出力であるモード指令信号に基づいて決定し、該決定に従い、最終的な6つのゲートパルス信号をモータ駆動回路212に出力する。
【0017】
電圧閾値切替器255は、非通電相の端子電圧の閾値(電圧閾値)を発生する回路であり、電圧閾値の切り替えタイミングは、通電モード決定器253の出力であるモード指令信号に基づき決定される。
非通電相電圧選択器257は、ブラシレスモータ2の3相端子電圧Vu,Vv,Vwの中から非通電相の電圧をモード指令信号に従い選択して出力する回路であり、前記端子電圧は、ブラシレスモータ2の中性点に対する電位差として出力される。
【0018】
比較器254は、電圧閾値切替器257が出力する電圧閾値と非通電相電圧選択器257が出力する非通電相の電圧(誘起電圧)とを比較し、通電モード決定器253にモード切替トリガを出力する。
尚、誘起電圧は、2相の印加パルス電圧によって非通電相に誘起される電圧であり、回転子の位置により磁気回路の飽和状態が変化することから、回転子の位置に応じた誘起電圧が非通電相に発生することになり、非通電相の誘起電圧から、回転子位置を推定して、通電モードの切り替えタイミングを検出することができる。
【0019】
図4は、通電モード毎の各相への印加電圧を示す。
通電モードは、電気角60degごとに順次切り替わる6通りの通電モード(1)〜(6)からなり、各通電モード(1)〜(6)においてスイッチング素子217a〜217fは、指令電圧に応じてパルス幅変調した信号で駆動される。
【0020】
本実施形態では、永久磁石回転子216のN極が、U相のコイルに対向する位置を0(deg)としたときに、通電モード(3)から通電モード(4)への切り替えを行う角度位置を30degに、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替えを行う角度位置を90degに、通電モード(5)から通電モード(6)への切り替えを行う角度位置を150degに、通電モード(6)から通電モード(1)への切り替えを行う角度位置を210degに、通電モード(1)から通電モード(2)への切り替えを行う角度位置を270degに、通電モード(2)から通電モード(3)への切り替えを行う角度位置を330degに設定している。
【0021】
通電モード(1)は、スイッチング素子217a及びスイッチング素子217dをオン制御し、他を全てオフとすることで、U相に電圧Vを印加し、V相に電圧−Vを印加し、U相からV相に向けて電流を流す。
通電モード(2)は、スイッチング素子217a及びスイッチング素子217fをオン制御し、他を全てオフとすることで、U相に電圧Vを印加し、W相に電圧−Vを印加し、U相からW相に向けて電流を流す。
通電モード(3)は、スイッチング素子217c及びスイッチング素子217fをオン制御し、他を全てオフとすることで、V相に電圧Vを印加し、W相に電圧−Vを印加し、V相からW相に向けて電流を流す。
通電モード(4)は、スイッチング素子217b及びスイッチング素子217cをオン制御し、他を全てオフとすることで、V相に電圧Vを印加し、U相に電圧−Vを印加し、V相からU相に向けて電流を流す。
通電モード(5)は、スイッチング素子217b及びスイッチング素子217eをオン制御し、他を全てオフとすることで、W相に電圧Vを印加し、U相に電圧−Vを印加し、W相からU相に向けて電流を流す。
通電モード(6)は、スイッチング素子217e及びスイッチング素子217dをオン制御し、他を全てオフとすることで、W相に電圧Vを印加し、V相に電圧−Vを印加し、W相からV相に向けて電流を流す。
【0022】
尚、上記通電制御の場合、例えば通電モード(1)では、スイッチング素子217a及びスイッチング素子217dをオン制御し、他を全てオフとすることで、U相に電圧Vを印加し、V相に電圧−Vを印加し、U相からV相に向けて電流を流すようにしたが、下段のスイッチング素子217dの駆動するPWM波と逆位相のPWM波で上段のスイッチング素子217cを駆動し、下段のスイッチング素子217dがオンであるときに、上段のスイッチング素子217cをオフさせ、下段のスイッチング素子217dがオフであるときに、上段のスイッチング素子217cをオンさせるようにする相補制御方式で、各通電モード(1)〜(6)での通電制御を行わせることができる。
【0023】
上記のように、6つの通電モード(1)〜(6)を、電気角60deg毎に切り替えることで、各スイッチング素子217a〜217fは、240deg毎に120deg間通電されることから、図4に示すような通電方式は120度通電方式と呼ばれる。
前記通電モードの切り替えを、本実施形態では、非通電相に発生する電圧(誘起電圧)と電圧閾値との比較に基づき行うようになっており、本実施形態のモータ制御装置3は、所謂位置センサレスの通電制御を行う。
具体的には、非通電相電圧選択器257が3相端子電圧Vu,Vv,Vwの中から非通電相(開放相)の電圧を選択して出力する一方、電圧閾値切替器255が電圧閾値を出力し、比較器254が、非通電相の端子電圧が電圧閾値を横切ったか否かを判断する。そして、比較器254は、非通電相の端子電圧が電圧閾値を横切って増大変化又は減少変化したときに(非通電相の端子電圧が電圧閾値に一致したときに)、モード切替トリガを通電モード決定器253に出力する。
【0024】
ところで、非通電相の電圧は、温度などの環境条件やブラシレスモータ2(巻線)の製造ばらつき、更には、電圧検出回路の検出ばらつきなどによって変化するため、予め決定した固定の電圧閾値を用いて通電モードの切り替えタイミング(切り替え角度位置)を検出すると、通電モードの切り替えタイミングが適正なタイミングからずれて、ブラシレスモータ2が脱調する可能性がある。
そこで、本実施形態では、前記電圧閾値を更新して記憶する電圧閾値学習器256(電圧閾値設定手段)を設け、温度などの環境条件、ブラシレスモータ2の製造ばらつき、電圧検出回路の検出ばらつきなどに対して、電圧閾値を逐次適正値に修正し、修正結果を更新記憶して用いるように構成してある。
【0025】
以下では、電圧閾値学習器256における電圧閾値の学習(更新記憶)処理を、詳細に説明する。
図5のフローチャートに示すルーチンは、制御器213(電圧閾値学習器256)によって行われる電圧閾値の学習処理の手順を示す。
【0026】
ステップ1では、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替え判定に用いる電圧閾値V4-5を学習し、ステップ2は、通電モード(5)から通電モード(6)への切り替え判定に用いる電圧閾値V5-6を学習し、ステップ3は、通電モード(6)から通電モード(1)への切り替え判定に用いる電圧閾値V6-1を学習し、ステップ4は、通電モード(1)から通電モード(2)への切り替え判定に用いる電圧閾値V1-2を学習し、ステップ5は、通電モード(2)から通電モード(3)への切り替え判定に用いる電圧閾値V2-3を学習し、ステップ6は、通電モード(3)から通電モード(4)への切り替え判定に用いる電圧閾値V3-4を学習する。但し、各電圧閾値の学習順は任意であり、適宜変更することができる。
【0027】
通電モード(4)から通電モード(5)への切り替え判定に用いる電圧閾値V4-5を学習するステップ1(step1)は、詳細には、ステップ11〜ステップ13の各ステップを実行する。
まず、ステップ11では、永久磁石回転子216を、通電モード(3)に対応する角度に位置決めする。
具体的には、図6(A)に示すように、通電モード(3)に対応する印加電圧、即ち、Vu=0、Vv=Vin、Vw=−Vinを各相に加える。通電モード(3)に対応する印加電圧を各相に加えると、U相,V相及びW相の合成磁束が、図6(A)に示すようになり、係る合成磁束に永久磁石回転子216が引かれることでトルクが発生し、永久磁石回転子216のN極が、角度90degまで回転することになる。
尚、通電モード(3)に対応する印加電圧を加えたときの角度である90degは、前述のように、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替えを行う角度位置である。
【0028】
ステップ12では、ステップ11でU相,V相及びW相に対する印加電圧Vu,Vv,Vwを通電モード(3)に対応する印加電圧に設定した後、永久磁石回転子216のN極が、通電モード(3)に対応する90degの角度位置に到達するのに要すると見込まれる最大動作遅れ時間(待機時間)が経過していて、永久磁石回転子216が90degの角度位置に停止しているものと推定できるようになってから、通電モード(3)に対応する印加電圧から、図6(B)に示すように、通電モード(4)に対応する印加電圧、即ち、Vu=−Vin、Vv=Vin、Vw=0に切り替える。
図6(A),(B)において、永久磁石回転子216を中心として扇状に塗りつぶした領域は、モータを回転駆動するときに、当該通電モードによる通電を行う角度領域を示すものであり、後述する図7〜図11の(A),(B)においても同様である。
【0029】
ステップ13では、図6(C)に示すように、通電モード(3)に対応する印加電圧から通電モード(4)に対応する印加電圧に切り替えた直後における、通電モード(4)での開放相(非通電相)であるW相の端子電圧Vwを検出し、該端子電圧Vwに基づき、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替え判定に用いる電圧閾値V4-5を更新して記憶する。
即ち、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替えは、前述のように、角度90degで行わせるように設定されていて、角度90degになったか否かは、通電モード(4)における開放相(非通電相)であるW相の端子電圧Vwに基づいて判断する。
【0030】
ここで、通電モード(3)に対応する印加電圧を継続させることで、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替えを行う角度位置(90deg)に位置決めすることができ、係る状態で通電モード(3)から通電モード(4)に切り替えれば、切り替え直後のW相の端子電圧Vwは、角度位置90degにおける開放相の端子電圧Vを示すことになる。
そこで、通電モード(3)に対応する印加電圧を継続させている状態から通電モード(4)に切り替えた直後におけるW相の端子電圧Vwに基づき、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替え判定に用いる電圧閾値V4-5を更新して記憶し、通電モード(4)の開放相(非通電相)であるW相の端子電圧Vwが、電圧閾値V4-5を横切ったときに(W相の端子電圧Vw=電圧閾値V4-5になったとき)、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替えを実行させるようにする。
【0031】
電圧閾値の更新処理においては、今回求めた開放相の端子電圧Vをそのまま電圧閾値として記憶させても良いし、また、前回までの電圧閾値と、今回求めた開放相の端子電圧Vとの加重平均値を新たな電圧閾値として記憶させても良いし、更に、過去複数回に亘って求めた開放相の端子電圧Vの移動平均値を新たな電圧閾値として記憶させても良い。
また、今回求めた開放相の端子電圧Vが、予め記憶している正常範囲内の値であれば、今回求めた開放相の端子電圧Vに基づく電圧閾値の更新を行い、前記正常範囲から外れている場合には、今回求めた開放相の端子電圧Vに基づく電圧閾値の更新を禁止し、電圧閾値を前回値のまま保持させるとよい。
【0032】
また、電圧閾値の初期値として設計値を記憶させておき、電圧閾値の学習を1度も経験していない未学習状態では、電圧閾値として初期値(設計値)を用いて通電モードの切り替えタイミングを判断させるようにする。
また、開放相(非通電相)の端子電圧を、一定時間周期でA/D変換して読み込む場合には、通電モード切り替え直後の開放相の端子電圧を検出させるときに、通電モードの切り替え実行後、最初に読み込んだ開放相の端子電圧を、切り替え直後の開放相の端子電圧とすることができるが、通電モードの切り替え処理に同期してA/D変換処理を実行させてもよい。
【0033】
次に、ステップ2における、通電モード(5)から通電モード(6)への切り替え判定に用いる電圧閾値V5-6の学習を、詳述する。
まず、ステップ21では、永久磁石回転子216を、通電モード(4)に対応する角度に位置決めする。
具体的には、図7(A)に示すように、通電モード(4)に対応する印加電圧、即ち、Vu=−Vin、Vv=Vin、Vw=0を各相に加える。通電モード(4)に対応する印加電圧を各相に加えると、U相,V相及びW相の合成磁束が、図7(A)に示すようになり、係る合成磁束に永久磁石回転子216が引かれることでトルクが発生し、永久磁石回転子216のN極が、角度150degまで回転することになる。
尚、通電モード(4)に対応する印加電圧を加えたときの角度である150degは、前述のように、通電モード(5)から通電モード(6)への切り替えを行う角度位置である。
【0034】
ステップ22では、ステップ21でU相,V相及びW相に対する印加電圧Vu,Vv,Vwを通電モード(4)に対応する印加電圧に設定した後、永久磁石回転子216のN極が、通電モード(4)に対応する150degの角度位置に到達するのに要すると見込まれる最大動作遅れ時間(待機時間)が経過していて、永久磁石回転子216が150degの角度位置に停止しているものと推定できるようになってから、通電モード(4)に対応する印加電圧から、図7(B)に示すように、通電モード(5)に対応する印加電圧、即ち、Vu=−Vin、Vv=0、Vw=Vinに切り替える。
【0035】
ステップ23では、図7(C)に示すように、通電モード(4)に対応する印加電圧から通電モード(5)に対応する印加電圧に切り替えた直後における、通電モード(5)での開放相(非通電相)であるV相の端子電圧Vvを検出し、該端子電圧Vvに基づき、通電モード(5)から通電モード(6)への切り替え判定に用いる電圧閾値V5-6を更新して記憶する。
即ち、通電モード(5)から通電モード(6)への切り替えは、前述のように、角度150degで行わせるように設定されていて、角度150degになったか否かは、通電モード(5)における開放相(非通電相)であるV相の端子電圧Vvに基づいて判断する。
【0036】
ここで、通電モード(4)に対応する印加電圧を継続させることで、通電モード(5)から通電モード(6)への切り替えを行う角度位置(150deg)に位置決めすることができ、係る状態で通電モード(4)から通電モード(5)に切り替えれば、切り替え直後のV相の端子電圧Vvは、角度位置150degにおける開放相の端子電圧Vを示すことになる。
そこで、通電モード(4)に対応する印加電圧を継続させている状態から通電モード(5)に切り替えた直後におけるV相の端子電圧Vvに基づき、通電モード(5)から通電モード(6)への切り替え判定に用いる電圧閾値V5-6を更新して記憶し、通電モード(5)の開放相(非通電相)であるV相の端子電圧Vvが、電圧閾値V5-6を横切ったときに(V相の端子電圧Vv=電圧閾値V5-6になったとき)、通電モード(5)から通電モード(6)への切り替えを実行させるようにする。
【0037】
次に、ステップ3における、通電モード(6)から通電モード(1)への切り替え判定に用いる電圧閾値V6-1の学習を、詳述する。
まず、ステップ31では、永久磁石回転子216を、通電モード(5)に対応する角度に位置決めする。
具体的には、図8(A)に示すように、通電モード(5)に対応する印加電圧、即ち、Vu=−Vin、Vv=0、Vw=Vinを各相に加える。通電モード(5)に対応する印加電圧を各相に加えると、U相,V相及びW相の合成磁束が、図8(A)に示すようになり、係る合成磁束に永久磁石回転子216が引かれることでトルクが発生し、永久磁石回転子216のN極が、角度210degまで回転することになる。
尚、通電モード(5)に対応する印加電圧を加えたときの角度である210degは、前述のように、通電モード(6)から通電モード(1)への切り替えを行う角度位置である。
【0038】
ステップ32では、ステップ31でU相,V相及びW相に対する印加電圧Vu,Vv,Vwを通電モード(5)に対応する印加電圧に設定した後、永久磁石回転子216のN極が、通電モード(5)に対応する210degの角度位置に到達するのに要すると見込まれる最大動作遅れ時間(待機時間)が経過していて、永久磁石回転子216が210degの角度位置に停止しているものと推定できるようになってから、通電モード(5)に対応する印加電圧から、図8(B)に示すように、通電モード(6)に対応する印加電圧、即ち、Vu=0、Vv=−Vin、Vw=Vinに切り替える。
【0039】
ステップ33では、図8(C)に示すように、通電モード(5)に対応する印加電圧から通電モード(6)に対応する印加電圧に切り替えた直後における、通電モード(6)での開放相(非通電相)であるU相の端子電圧Vuを検出し、該端子電圧Vuに基づき、通電モード(6)から通電モード(1)への切り替え判定に用いる電圧閾値V6-1を更新して記憶する。
即ち、通電モード(6)から通電モード(1)への切り替えは、前述のように、角度210degで行わせるように設定されていて、角度210degになったか否かは、通電モード(6)における開放相(非通電相)であるU相の端子電圧Vuに基づいて判断する。
【0040】
ここで、通電モード(5)に対応する印加電圧を継続させることで、通電モード(6)から通電モード(1)への切り替えを行う角度位置(210deg)に位置決めすることができ、係る状態で通電モード(5)から通電モード(6)に切り替えれば、切り替え直後のU相の端子電圧Vuは、角度位置210degにおける開放相の端子電圧Vを示すことになる。
そこで、通電モード(5)に対応する印加電圧を継続させている状態から通電モード(6)に切り替えた直後におけるU相の端子電圧Vuに基づき、通電モード(6)から通電モード(1)への切り替え判定に用いる電圧閾値V6-1を更新して記憶し、通電モード(6)の開放相(非通電相)であるU相の端子電圧Vuが、電圧閾値V6-1を横切ったときに(U相の端子電圧Vu=電圧閾値V6-1になったとき)、通電モード(6)から通電モード(1)への切り替えを実行させるようにする。
【0041】
次に、ステップ4における、通電モード(1)から通電モード(2)への切り替え判定に用いる電圧閾値V1-2の学習を、詳述する。
まず、ステップ41では、永久磁石回転子216を、通電モード(6)に対応する角度に位置決めする。
具体的には、図9(A)に示すように、通電モード(6)に対応する印加電圧、即ち、Vu=0、Vv=−Vin、Vw=Vinを各相に加える。通電モード(6)に対応する印加電圧を各相に加えると、U相,V相及びW相の合成磁束が、図9(A)に示すようになり、係る合成磁束に永久磁石回転子216が引かれることでトルクが発生し、永久磁石回転子216のN極が、角度270degまで回転することになる。
尚、通電モード(6)に対応する印加電圧を加えたときの角度である270degは、前述のように、通電モード(1)から通電モード(2)への切り替えを行う角度位置である。
【0042】
ステップ42では、ステップ41でU相,V相及びW相に対する印加電圧Vu,Vv,Vwを通電モード(6)に対応する印加電圧に設定した後、永久磁石回転子216のN極が、通電モード(6)に対応する270degの角度位置に到達するのに要すると見込まれる最大動作遅れ時間(待機時間)が経過していて、永久磁石回転子216が270degの角度位置に停止しているものと推定できるようになってから、通電モード(6)に対応する印加電圧から、図9(B)に示すように、通電モード(1)に対応する印加電圧、即ち、Vu=Vin、Vv=−Vin、Vw=0に切り替える。
【0043】
ステップ43では、図9(C)に示すように、通電モード(6)に対応する印加電圧から通電モード(1)に対応する印加電圧に切り替えた直後における、通電モード(1)での開放相(非通電相)であるW相の端子電圧Vwを検出し、該端子電圧Vwに基づき、通電モード(1)から通電モード(2)への切り替え判定に用いる電圧閾値V1-2を更新して記憶する。
即ち、通電モード(1)から通電モード(2)への切り替えは、前述のように、角度270degで行わせるように設定されていて、角度270degになったか否かは、通電モード(1)における開放相(非通電相)であるW相の端子電圧Vwに基づいて判断する。
【0044】
ここで、通電モード(6)に対応する印加電圧を継続させることで、通電モード(1)から通電モード(2)への切り替えを行う角度位置(270deg)に位置決めすることができ、係る状態で通電モード(6)から通電モード(1)に切り替えれば、切り替え直後のW相の端子電圧Vwは、角度位置270degにおける開放相の端子電圧Vを示すことになる。
そこで、通電モード(6)に対応する印加電圧を継続させている状態から通電モード(1)に切り替えた直後におけるW相の端子電圧Vwに基づき、通電モード(1)から通電モード(2)への切り替え判定に用いる電圧閾値V1-2を更新して記憶し、通電モード(1)の開放相(非通電相)であるW相の端子電圧Vwが、電圧閾値V1-2を横切ったときに(W相の端子電圧Vw=電圧閾値V1-2になったとき)、通電モード(1)から通電モード(2)への切り替えを実行させるようにする。
【0045】
次に、ステップ5における、通電モード(2)から通電モード(3)への切り替え判定に用いる電圧閾値V2-3の学習を、詳述する。
まず、ステップ51では、永久磁石回転子216を、通電モード(1)に対応する角度に位置決めする。
具体的には、図10(A)に示すように、通電モード(1)に対応する印加電圧、即ち、Vu=Vin、Vv=−Vin、Vw=0を各相に加える。通電モード(1)に対応する印加電圧を各相に加えると、U相,V相及びW相の合成磁束が、図10(A)に示すようになり、係る合成磁束に永久磁石回転子216が引かれることでトルクが発生し、永久磁石回転子216のN極が、角度330degまで回転することになる。
尚、通電モード(1)に対応する印加電圧を加えたときの角度である330degは、前述のように、通電モード(2)から通電モード(3)への切り替えを行う角度位置である。
【0046】
ステップ52では、ステップ51でU相,V相及びW相に対する印加電圧Vu,Vv,Vwを通電モード(1)に対応する印加電圧に設定した後、永久磁石回転子216のN極が、通電モード(1)に対応する330degの角度位置に到達するのに要すると見込まれる最大動作遅れ時間(待機時間)が経過していて、永久磁石回転子216が330degの角度位置に停止しているものと推定できるようになってから、通電モード(1)に対応する印加電圧から、図10(B)に示すように、通電モード(2)に対応する印加電圧、即ち、Vu=Vin、Vv=0、Vw=−Vinに切り替える。
【0047】
ステップ53では、図10(C)に示すように、通電モード(1)に対応する印加電圧から通電モード(2)に対応する印加電圧に切り替えた直後における、通電モード(2)での開放相(非通電相)であるV相の端子電圧Vvを検出し、該端子電圧Vvに基づき、通電モード(2)から通電モード(3)への切り替え判定に用いる電圧閾値V2-3を更新して記憶する。
即ち、通電モード(2)から通電モード(3)への切り替えは、前述のように、角度330degで行わせるように設定されていて、角度330degになったか否かは、通電モード(2)における開放相(非通電相)であるV相の端子電圧Vvに基づいて判断する。
【0048】
ここで、通電モード(1)に対応する印加電圧を継続させることで、通電モード(2)から通電モード(3)への切り替えを行う角度位置(330deg)に位置決めすることができ、係る状態で通電モード(1)から通電モード(2)に切り替えれば、切り替え直後のV相の端子電圧Vvは、角度位置330degにおける開放相の端子電圧Vを示すことになる。
そこで、通電モード(1)に対応する印加電圧を継続させている状態から通電モード(2)に切り替えた直後におけるV相の端子電圧Vvに基づき、通電モード(2)から通電モード(3)への切り替え判定に用いる電圧閾値V2-3を更新して記憶し、通電モード(2)の開放相(非通電相)であるV相の端子電圧Vvが、電圧閾値V2-3を横切ったときに(V相の端子電圧Vv=電圧閾値V2-3になったとき)、通電モード(2)から通電モード(3)への切り替えを実行させるようにする。
【0049】
次に、ステップ6における、通電モード(3)から通電モード(4)への切り替え判定に用いる電圧閾値V3-4の学習を、詳述する。
まず、ステップ61では、永久磁石回転子216を、通電モード(2)に対応する角度に位置決めする。
具体的には、図11(A)に示すように、通電モード(2)に対応する印加電圧、即ち、Vu=Vin、Vv=0、Vw=−Vinを各相に加える。通電モード(2)に対応する印加電圧を各相に加えると、U相,V相及びW相の合成磁束が、図11(A)に示すようになり、係る合成磁束に永久磁石回転子216が引かれることでトルクが発生し、永久磁石回転子216のN極が、角度30degまで回転することになる。
尚、通電モード(2)に対応する印加電圧を加えたときの角度である30degは、前述のように、通電モード(3)から通電モード(4)への切り替えを行う角度位置である。
【0050】
ステップ62では、ステップ61でU相,V相及びW相に対する印加電圧Vu,Vv,Vwを通電モード(2)に対応する印加電圧に設定した後、永久磁石回転子216のN極が、通電モード(2)に対応する30degの角度位置に到達するのに要すると見込まれる最大動作遅れ時間(待機時間)が経過していて、永久磁石回転子216が30degの角度位置に停止しているものと推定できるようになってから、通電モード(2)に対応する印加電圧から、図11(B)に示すように、通電モード(3)に対応する印加電圧、即ち、Vu=0、Vv=Vin、Vw=−Vinに切り替える。
【0051】
ステップ63では、図11(C)に示すように、通電モード(2)に対応する印加電圧から通電モード(3)に対応する印加電圧に切り替えた直後における、通電モード(3)での開放相(非通電相)であるU相の端子電圧Vuを検出し、該端子電圧Vuに基づき、通電モード(3)から通電モード(4)への切り替え判定に用いる電圧閾値V3-4を更新して記憶する。
即ち、通電モード(3)から通電モード(4)への切り替えは、前述のように、角度30degで行わせるように設定されていて、角度30degになったか否かは、通電モード(3)における開放相(非通電相)であるU相の端子電圧Vuに基づいて判断する。
【0052】
ここで、通電モード(2)に対応する印加電圧を継続させることで、通電モード(3)から通電モード(4)への切り替えを行う角度位置(30deg)に位置決めすることができ、係る状態で通電モード(2)から通電モード(3)に切り替えれば、切り替え直後のU相の端子電圧Vuは、角度位置30degにおける開放相の端子電圧Vを示すことになる。
そこで、通電モード(2)に対応する印加電圧を継続させている状態から通電モード(3)に切り替えた直後におけるU相の端子電圧Vuに基づき、通電モード(3)から通電モード(4)への切り替え判定に用いる電圧閾値V3-4を更新して記憶し、通電モード(3)の開放相(非通電相)であるU相の端子電圧Vuが、電圧閾値V3-4を横切ったときに(U相の端子電圧Vu=電圧閾値V3-4になったとき)、通電モード(3)から通電モード(4)への切り替えを実行させるようにする。
【0053】
上記のように、本実施形態では、通電モード(1)〜(6)のいずれか1つに保持することで、通電モードの切り替えを行う角度位置に永久磁石回転子216を位置決めし、該位置決め時の通電モードから次の通電モードに切り替え、該切り替え直後における開放相の端子電圧を、位置決めした角度位置で通電モードを切り替えるとき(切り替え後の通電モードから更に次の通電モードに切り替えるとき)に用いる電圧閾値として学習する。
【0054】
従って、電圧検出回路の検出ばらつき、モータのばらつき、温度などの環境条件の変化などによって、切り替えを行わせる角度位置での開放相の端子電圧がばらついても、係るばらつきに応じて電圧閾値を逐次修正することができ、通電モードの切り替えタイミングが、所期の角度位置からずれてしまうことを抑制できる。
また、通電モードの6通りの切り替え毎に、電圧閾値を個別に学習し、どの通電モードに切り替えるかによって、通電モードの切り替えタイミングの判定に用いる電圧閾値を選択するから、ブラスレスモータ2の個々の巻線にばらつきがあっても、各通電モードへの切り替えを適正なタイミング(所期の角度位置)で行わせることができる。
【0055】
次に、電動オイルポンプ1を駆動するモータとしてのブラシレスモータ2について、通電モードの切り替え判断に用いる電圧閾値の学習を行わせる場合の学習処理の流れを、図12のフローチャートに示すルーチンに従って説明する。
ステップ101で、エンジンのメインスイッチであるイグニッションスイッチ(IGN)がオンすると、ステップ102では、電圧閾値の学習条件が成立しているか否かを判断する。
【0056】
具体的には、以下の(a)〜(f)が全て成立している場合に、電圧閾値の学習条件が成立していると判断し、後述するように電圧閾値の学習を実行する。
(a)エンジン回転中である。
(b)オイル温度が学習許可領域内である
(c)ブラシレスモータ、駆動回路、制御器などについて故障診断されていない。
(d)ブラシレスモータの電源電圧が設定値を超えている。
(e)エンジン始動後から安定運転状態への移行に要する時間が経過している。
(f)同一温度条件で一度も学習されていない
【0057】
上記条件(a)は、電動オイルポンプ1を駆動する要求がないことを判断するものであり、エンジン停止中であっても、電動オイルポンプ1を駆動する要求がない場合には、学習条件の成立を判定することができる。
条件(b)は、後述する温度条件毎の電圧閾値の学習において、電圧閾値を学習させる温度領域内であるか否かを判断するものであり、オイル温度センサ(温度検出手段)12が検出したオイル温度が、学習領域から外れている場合には、電圧閾値の学習は行わない。
【0058】
条件(c)は、ブラシレスモータ、駆動回路、制御器などが正常であって、電圧閾値の学習が正常に行えると見込まれる場合に、学習を許可するものである。
条件(d)は、電源電圧が設定値を超えている(正常範囲内である)か否かに基づいて、学習精度を維持できる電源電圧であるか否かを判断するものである。
条件(e)は、エンジンが安定的に運転されていている状態において学習を許可し、始動直後のエンジン運転が不安定な状態において学習を禁止するものである。
【0059】
条件(f)は、各通電モードの切り替え判断に用いる電圧閾値を、ブラシレスモータ2の温度条件毎に学習させるに当たって、現時点の温度が、未学習の温度条件であれば学習を許可し、学習済みの温度条件であれば、学習条件が成立しないものとして学習処理を禁止する。
例えば、図13に示すように、各通電モードの切り替え判断に用いる電圧閾値を、15℃、50℃、80℃、110℃の各温度毎に学習させるようにし、通電モード(2)から通電モード(3)への切り替え判断を行うときに用いる電圧閾値V2-3として、そのときの温度が80℃であったとすると、80℃に対応して記憶されている電圧閾値V2-3を用いるようにする。
【0060】
ここで、ステップ102の学習条件の成立・非成立を判断する時点でのモータ温度が、未学習の温度であれば学習を許可し、学習済み若しくは最近に学習した時点からの経過時間が充分に短い場合には、学習(現時点の温度条件に対応する電圧閾値の更新)を禁止する。
尚、温度毎の電圧閾値の学習において、例えば、通電モード(2)から通電モード(3)への切り替え判断を行うときに用いる電圧閾値V2-3として、モータ温度80℃に対応する電圧閾値V2-3が学習済みであるのに対し、その他の温度条件に対応する電圧閾値V2-3が未学習であれば、80℃での学習値を全ての温度条件に適用させて、通電モード(2)から通電モード(3)への切り替え判断を行わせることができる。
【0061】
また、例えば、通電モード(2)から通電モード(3)への切り替え判断を行うときに用いる電圧閾値V2-3として、複数の温度条件で学習済みであれば、未学習の温度条件に対応させる電圧閾値V2-3を、学習済みの温度での電圧閾値V2-3から補間演算して推定させることができる。
また、電圧閾値の学習条件としての温度は、ブラシレスモータ2の温度若しくはモータ温度に相関する温度であればよく、モータ温度に相関する温度としては、電動オイルポンプ1が圧送するオイルの温度(オイル温度センサ12の検出値)や、エンジンの冷却水温度などを用いることができ、更には、外気温度やモータ2における消費電力などからモータ温度を推定することもできる。
【0062】
尚、電圧閾値の学習条件を、上記の条件(a)〜(f)に限定するものではなく、また、条件(a)〜(f)のうちの一部を学習条件として採用することができ、また、複数の条件の論理和又は論理積、更には、論理和と論理積との組み合わせで、学習条件の成立・非成立を判断することができる。更に、電圧閾値が未学習である場合に、エンジンの一時停止(アイドルストップ)を禁止することもできる。
【0063】
ステップ102で学習条件が成立していると判断すると、ステップ103へ進み、前述の図5のフローチャートに従って各通電モードの切り替え判断に用いる電圧閾値の学習を行わせる。
前述の図5のフローチャートに従った電圧閾値の学習処理では、6通りのモード切り替え毎に6個の電圧閾値V1-2,V2-3,V3-4,V4-5,V5-6,V6-1を学習するから、3相間でばらつきがあっても、通電モードを適正なタイミングで切り替えることができる。
【0064】
但し、3相間でのばらつきが十分に小さいと見込まれる場合には、個別に学習した6個の電圧閾値に基づいて、絶対値が共通する電圧閾値V1-2,V2-3,V3-4,V4-5,V5-6,V6-1を設定して、モード切替の判断を行わせることができる。
具体的には、図5のフローチャートに従って求めた6個の電圧閾値V1-2,V2-3,V3-4,V4-5,V5-6,V6-1それぞれの絶対値の中での最小値を求め、該最小値に基づいて、図14(A)に示すようにして、通電モードの切り替え判断に用いる各電圧閾値を設定する。
即ち、通電モードの切り替えにおいて、(1)→(2)、(3)→(4)、(5)→(6)の切り替えにおいては開放相電圧が基準電圧からマイナス側に振れ、(2)→(3)、(4)→(5)、(6)→(1)の切り替えにおいては開放相電圧が基準電圧からプラス側に振れるので、開放相電圧がマイナス側に振れるモード切替は、−最小値を電圧閾値とし、開放相電圧がプラス側に振れるモード切替は、+最小値を電圧閾値とする。
【0065】
尚、6個の電圧閾値それぞれの絶対値の単純平均値を、各モード切替の判断に用いる電圧閾値に共通する絶対値としても良いが、誘起電圧が電圧閾値を横切らない場合が生じると、通電モードの切り替えが行えず、モータが脱調してしまう可能性があるので、最小値を選択し、電圧閾値の絶対値が比較的低い通電モードであっても誘起電圧が電圧閾値を横切って通電モードの切り替えが行えるようにするとよい。
また、例えば、6通りの通電モードの切り替えのうちの一部(例えば1つ)についてのみ、電圧閾値を学習させ、この学習値の絶対値を他の通電モードの切り替え判断に用いる電圧閾値の絶対値として用いることができる。
【0066】
また、開放相電圧が基準電圧に対してマイナス側に振れる(減少変化する)、(1)→(2)、(3)→(4)、(5)→(6)のモード切替において共通の電圧閾値を設定し、開放相電圧が基準電圧に対してプラス側に振れる(増大変化する)、(2)→(3)、(4)→(5)、(6)→(1)のモード切替において共通の電圧閾値を設定してもよい。
具体的には、図14(B)に示すように、(1)→(2)、(3)→(4)、(5)→(6)のモード切替に対しては、電圧閾値V1-2,V3-4,V5-6の中での最大値、即ち、マイナス値として算出される電圧閾値V1-2,V3-4,V5-6の中で基準電圧(=0V)に最も近い値(絶対値の最小値)を選択し、該選択した電圧閾値Vを、(1)→(2)、(3)→(4)、(5)→(6)のモード切替に共通の電圧閾値として学習させる。
【0067】
また、(2)→(3)、(4)→(5)、(6)→(1)のモード切替に対しては、電圧閾値V2-3,V4-5,V6-1の中での最小値、即ち、プラス値として算出される電圧閾値V2-3,V4-5,V6-1の中で基準電圧(=0V)に最も近い値(絶対値の最小値)を選択し、該選択した電圧閾値Vを、(2)→(3)、(4)→(5)、(6)→(1)のモード切替に共通の電圧閾値として学習させる。
【0068】
また、学習した電圧閾値に基づいてモード切替のタイミングを判断するときに、そのときのモータ回転速度に応じて電圧閾値を補正することが好ましい。
即ち、モータ回転速度が低くなるほど、開放相に発生する誘起電圧が低くなるので、モータ速度が低く誘起電圧が低くなるほど、電圧閾値の絶対値を小さく補正し、逆に、モータ速度が速く誘起電圧が高くなるほど、電圧閾値の絶対値を大きく補正する。これにより、モータ回転速度に依存する誘起電圧の大きさに対応させて、電圧閾値を上下させることができ、モータ回転速度が異なっても、適正なタイミング(所期の切り替え角度)で通電モードを切り替えることができる。
【0069】
具体的には、数1に従って、電圧閾値をモータ回転速度に応じた補正値で修正するように、かつ、前記補正値として、図15に示すように、(1)→(2)、(3)→(4)、(5)→(6)のモード切替に対しては、回転速度が高くなるに従って絶対値が大きくなるマイナスの補正値を設定し、(2)→(3)、(4)→(5)、(6)→(1)のモード切替に対しては、回転速度が高くなるに従って絶対値が大きくなるプラスの補正値を設定する。
(数1)
電圧閾値=電圧閾値+回転速度による補正値
回転速度による補正値=回転速度*誘起電圧定数*1/2
上記回転速度に応じた電圧閾値の補正は、個別の学習結果をそのまま用いてモード切替を判断させる場合と共に、絶対値を共通化させた電圧閾値を設定する場合にも適用できる。
尚、モータの回転速度による補正値を演算式で求めても良いし、モータの回転速度を補正値に変換する変換テーブルを用いてもよい。
【0070】
また、電圧閾値の学習において、通電モードの切り替えを行わせる角度位置に位置決めするための通電モードに応じた通電状態から、次の通電モードに切り替える際に、PWM信号のデューティが大きいと、モータ回転の立ち上がり応答が速くなって、電圧閾値の学習精度が低下する。
そこで、電圧閾値の学習を行わせる場合に、PWM生成において、低デューティとしてモータ回転の立ち上がり応答を抑制しつつ、開放相の誘起電圧を検出できるようにすることが望まれ、そのためには、後述するパルスシフトを実施するとよい。
【0071】
図16は、一般的なPWM生成を示す。
図16において、三角波キャリアの中間値Dの値が電圧=0であり、また、電圧指令値をBとし、V相のPWMは、三角波キャリアと電圧指令値D+Bを比較した結果を用い、W相のPWMは、三角波キャリアと電圧指令値D−Bを比較した結果を用いている。
即ち、V相の上段スイッチング素子は、三角波キャリアよりも電圧指令値D+Bが高い期間においてONとなり、W相の下段スイッチング素子は、三角波キャリアが電圧指令値D−Bよりも高い期間においてONとなる。
【0072】
しかし、図16に示すPWM生成では、デューティが小さいとV相とW相とが共に通電している時間(図16中の斜線の期間)が短く、非通電相に誘起される電圧を検出できなくなってしまうが、V相とW相とが共に通電している時間を長くし、誘起電圧の検出を可能とするために、デューティを大きくすると、モータ回転の立ち上がり応答が速くなって、位置決めした角度位置での開放相の端子電圧の検出精度が低下する。
そこで、図17に示すパルスシフトを実施することで、図16に示したPWM生成と同一のデューティで2相が共に通電している連続時間をより長くし、速度起電力の発生を抑えつつ、非通電相(開放相)に誘起される電圧の検出を可能にできる。
【0073】
図17に示すパルスシフトでは、三角波キャリアの山・谷(上昇・下降)のタイミングで、電圧指令値に対して補正を行っている。
具体的には、三角波キャリアの上昇期間では、電圧指令値を電圧=DからXだけ離れるように、電圧指令値D+BについてはD+B+A(但し、A=X−B)に補正し、電圧指令値D−BについてはD−B−A(但し、A=X−B)に補正し、三角波キャリアの下降期間では、電圧指令値を電圧=Dに近づけるように、電圧指令値D+BについてはD+B−A(但し、A=X−B)に補正し、電圧指令値D−BについてはD−B+A(但し、A=X−B)に補正している。
上記の電圧指令値の補正によって、三角波キャリアの下降期間でV相とW相とが共に通電している時間が短くなる分だけ、三角波キャリアの上昇期間でV相とW相とが共に通電している時間が長くなり、デューティを変えずに(換言すれば、低デューティでも)、2相が共に通電している連続時間を長くすることができる。
【0074】
ステップ103では、上記のようにして電圧閾値の学習を実施し、学習に充分な時間だけ学習条件が連続して成立していれば、学習を完了することになるが、学習途中でアイドルストップの開始要求が発生するなどして、学習条件が成立しなくなった場合には、その時点で学習処理を中止させる。
【0075】
そして、ステップ104では、電圧閾値の学習が正常に終了したか否かを判断する。
ここで、学習の正常終了とは、図5のフローチャートに示すルーチンを少なくとも1回実施し(好ましくは複数回繰り返し)、かつ、取得した電圧閾値が正常範囲内の場合である。一方、学習の異常終了とは、アイドルストップ要求の発生などによって途中で学習処理を停止した場合や、学習を所定回数(或いは所定時間)だけ実施しても、正常範囲内の電圧閾値を取得することができなかった場合である。
【0076】
そして、学習が正常終了した場合には、ステップ105へ進み、ステップ103で新たに取得した電圧閾値に基づき、それまでの電圧閾値の記憶値を更新させる処理を行う。
一方、学習が異常終了した場合には、ステップ106へ進み、電圧閾値の記憶値を更新せずに、電圧閾値を前回値若しくは初期値(設計値)に保持させる。
【0077】
ステップ107では、アイドルストップ条件が成立したか否か、換言すれば、ブラシレスモータ2によって電動オイルポンプ1を駆動させる要求が発生したか否かを判断する。
アイドルストップ条件が成立していない場合(エンジンの運転が継続される場合)には、電圧閾値の学習を全て完了していない可能性、例えば、異なる温度条件に対応する電圧閾値の学習が未実施の場合などがあるため、ステップ102へ戻って、学習条件の成立判断を行う。
【0078】
ここで、未学習の電圧閾値がなく、電圧閾値の学習が全て完了している場合には、そのままアイドルストップ条件が成立するまで待機させてもよい。
一方、アイドルストップ条件が成立すると、ステップ108へ進み、学習した電圧閾値と開放相電圧とを比較して通電モードを切り替えてブラシレスモータ2を駆動させる、センサレス式の駆動制御を実施する。
【0079】
ステップ109(脱調検出手段)では、学習した電圧閾値に基づき通電モードを切り替えてブラシレスモータ2を駆動させている状態(センサレス駆動状態)で、脱調が発生したか否かを検出する。
脱調の発生は、公知の種々の方法を採用でき、例えば、特開2001−25282号公報に開示されるように、ブラシレスモータ2の電流周期と電圧周期との比較に基づき、脱調の発生を検出することができる。
【0080】
ブラシレスモータ2が脱調した場合には、通電モードの切り替えタイミングの判断に用いる電圧閾値が不適切であるために、通電モードの切り替えタイミングが所期の角度位置からずれたものと判断し、ステップ102の学習条件の成立判断に戻る。
脱調が発生した場合には、ブラシレスモータ2によって電動オイルポンプ1を正常に回転駆動させることができずに、供給オイルの不足などによって変速機7の動作不良などを発生させる可能性があるので、アイドルストップを強制終了させ、エンジンを再始動させた上で、電圧閾値の学習を開始させることが好ましく、また、アイドルストップを強制終了させたときに、車両の運転者に対してランプなどで異常の発生(アイドルストップの禁止)を警告するとよい。
【0081】
また、脱調後に電圧閾値を再学習させた場合に、再学習後の電圧閾値をそのまま通電モードの切り替えタイミングの判断に用いても良いが、再学習の結果を採用した結果、再度脱調が発生することを抑制するように、脱調時に用いていた電圧閾値と再学習後の電圧閾値との相対比較に基づき、再学習の結果を補正した上で、通電モードの切り替えタイミングの判断に用いることが好ましい。
電圧閾値の絶対値が適正値よりも大きいと脱調し易くなり、また、過剰に小さいと効率が悪くなるので、前記再学習の結果の補正は、例えば以下のようにして行わせることができる。
【0082】
まず、再学習後の電圧閾値の絶対値が、脱調時の電圧閾値の絶対値よりも小さい場合には、再学習後の電圧閾値をそのまま通電モードの切り替えタイミングの判断に用いるようにする。
また、再学習後の電圧閾値の絶対値が、脱調時の電圧閾値の絶対値と同等であれば、再学習後の電圧閾値の絶対値を設定電圧だけ小さく補正し(換言すれば、脱調時の電圧閾値の絶対値を設定電圧だけ小さく補正し)、補正後の電圧閾値を用いて通電モードの切り替えタイミングの判断を行わせる。ここで、前記設定電圧を過小に設定すると、補正した電圧閾値を用いても脱調が再発する可能性があり、逆に、前記設定電圧を過大に設定すると効率が悪くなるので、角度と電圧との相関から、なるべく小さい電圧で脱調の再発を抑制できるように前記設定電圧を予め適合する。
更に、再学習後の電圧閾値の絶対値が、脱調時の電圧閾値の絶対値よりも大きい場合には、そのままの電圧閾値を用いると脱調する可能性が高いので、脱調時の電圧閾値の絶対値を前記設定電圧だけ小さく補正した結果を、通電モードの切り替えタイミングの判断に用いるようにする。
【0083】
具体的には、例えば、脱調時の電圧閾値が0.5Vであって、再学習後の電圧閾値がより低い0.3Vであれば、0.3Vをそのまま用いて通電モードの切り替えタイミングの判断を行わせ、脱調時の電圧閾値が0.5Vであって、再学習後の電圧閾値が同等の0.5Vであれば、設定電圧として例えば0.1Vだけマイナスした電圧=0.4Vを電圧閾値として用い、脱調時の電圧閾値が0.5Vであって、再学習後の電圧閾値がより高い1.0Vであれば、脱調時の電圧閾値=0.5Vから設定電圧として例えば0.1Vだけマイナスした電圧=0.4Vを電圧閾値として用いるようにする。
また、イグニッションスイッチのオフなどによって自動車の運転を終了させた後の再起動時には、上記のように補正した脱調後の電圧閾値を記憶しておき、この記憶値と、初期値設定電圧閾値又は初期学習電圧閾値との加重平均などによって電圧閾値を変更してもよい。
【0084】
一方、脱調が発生しない場合には、電圧閾値が適正な値に学習されているものと判断できるので、再学習を行わせることなく、ブラシレスモータ2の駆動を継続させる。
そして、運転者が車両の運転を終了し(ステップ110)、イグニッションスイッチ(IGN)がオフされると、学習更新した電圧閾値をバックアップRAMに格納するなどして、電圧閾値の学習及びブラシレスモータ2の駆動制御を終了させる。
【0085】
尚、上記実施形態では、ブラシレスモータ2を3相モータとしたが、相数を3相に限定するものではなく、また、120度通電方式の他、180度通電方式であってもよい。
また、通電モードの切り替え判断に用いる電圧閾値を学習させ、学習結果に基づいてセンサレス式で通電モードの切り替えを行うブラシレスモータは、電動オイルポンプの駆動に用いるモータに限定されない。
【0086】
ここで、上記実施形態から把握し得る請求項以外の技術的思想について、以下に効果と共に記載する。
(イ)請求項1〜3のいずれか1つに記載のブラシレスモータの駆動装置において、
前記電圧閾値設定手段が、通電モード毎に設定した電圧閾値から、複数の通電モードに共通の電圧閾値を設定し、この複数の通電モードに共通の電圧閾値に基づいて通電モードの切り替えを行わせるブラシレスモータの駆動装置。
上記構成によると、1つの電圧閾値を、複数のモード切り替えに共通的に用いるようにすることで、通電モード毎の電圧閾値の切り替えを簡易化でき、また、電圧閾値の記憶容量を節約できる。
【0087】
(ロ)請求項(イ)記載のブラシレスモータの駆動装置において、
前記電圧閾値設定手段が、通電モード毎に設定した電圧閾値のうちの複数の電圧閾値の中で絶対値が最小である電圧閾値を、複数の通電モードに共通の電圧閾値として設定するブラシレスモータの駆動装置。
上記構成によると、個別に設定した電圧閾値のうちの複数の中から最小値を選択し、複数の通電モードに共通の電圧閾値とするから、電圧閾値の要求が比較的低い通電モードであっても、非通電相の電圧と電圧閾値との比較から通電モードの切り替えタイミングを安定して判断させることができる。
【0088】
(ハ)請求項1〜3のいずれか1つに記載のブラシレスモータの駆動装置において、
前記電圧閾値設定手段が、前記電圧閾値を、モータ回転速度に応じて補正するブラシレスモータの駆動装置。
上記構成によると、モータ回転速度によって誘起電圧のレベルが変動しても、モータ回転速度に応じて電圧閾値をシフトさせることで、一定の角度位置で通電モードの切り替えタイミングを判断させることができる。
【0089】
(ニ)請求項1〜3のいずれか1つに記載のブラシレスモータの駆動装置において、
前記ブラシレスモータの温度を検出する温度検出手段を更に備え、
前記電圧閾値設定手段は、前記ブラシレスモータの温度毎に前記電圧閾値を設定するブラシレスモータの駆動装置。
上記構成によると、通電モードの切り替え角度での非通電相(開放相)の端子電圧が、モータ温度に影響されて変化することに対応して、電圧閾値をそのときの温度条件に対応する値に設定できる。
【0090】
(ホ)請求項1〜3のいずれか1つに記載のブラシレスモータの駆動装置において、
前記ブラシレスモータが、自動車用オートマチック・トランスミッションにオイルを圧送する電動オイルポンプであって、前記電動オイルポンプが、エンジンで駆動されてオイルを前記自動車用オートマチック・トランスミッションに圧送する機械式オイルポンプと並列に設けられ、
前記電圧閾値設定手段が、前記エンジンの運転中であって前記機械式オイルポンプによってオイルを自動車用オートマチック・トランスミッションに圧送しているときに、前記電圧閾値を設定するブラシレスモータの駆動装置。
上記構成によると、エンジンが停止すると、機械式オイルポンプが停止し、自動車用オートマチック・トランスミッションに対してオイルを圧送できなくなり、このときに電動オイルポンプを駆動することで、自動車用オートマチック・トランスミッションに対するオイルの圧送を継続させることができるが、電動オイルポンプの駆動状態では、電圧閾値の設定を行えないので、エンジン運転中であって、機械式オイルポンプによってオイルを自動車用オートマチック・トランスミッションに圧送しているときに、電圧閾値の設定を行う。
【符号の説明】
【0091】
1…電動オイルポンプ、2…ブラシレスモータ、3…モータ制御装置、212…モータ駆動回路、213…制御器、215U,215V,215W…巻線、216…永久磁石回転子、217a〜217f…スイッチング素子、251…PWM発生器、252…ゲート信号切替器、253…通電モード決定器、254…比較器、255…電圧閾値切替器、256…電圧閾値学習器、257…非通電相電圧選択器
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の巻線を備えたブラシレスモータの各相に対する通電モードを切り替えることで、前記ブラシレスモータを回転駆動するブラシレスモータの駆動装置であって、
非通電相の電圧と電圧閾値とに基づいて前記通電モードを順次切り替える通電モード切替手段と、
1つの通電モードを継続させてブラシレスモータを停止させた状態から次の通電モードへの切り替えを行い、該通電モードの切り替え直後における非通電相の電圧に基づいて前記電圧閾値を設定する電圧閾値設定手段と、
を備えるブラシレスモータの駆動装置。
【請求項2】
前記電圧閾値設定手段は、検出した非通電相の電圧に基づき、該電圧を検出したときに行った通電モードの切り替えの次の順番の通電モードの切り替え判断に用いる前記電圧閾値を設定する請求項1記載のブラシレスモータの駆動装置。
【請求項3】
前記ブラシレスモータの脱調を検知する脱調検知手段を更に備え、
前記電圧閾値設定手段は、少なくとも前記脱調検知手段が前記ブラシレスモータの脱調を検知したときに作動する請求項1又は2記載のブラシレスモータの駆動装置。
【請求項1】
複数の巻線を備えたブラシレスモータの各相に対する通電モードを切り替えることで、前記ブラシレスモータを回転駆動するブラシレスモータの駆動装置であって、
非通電相の電圧と電圧閾値とに基づいて前記通電モードを順次切り替える通電モード切替手段と、
1つの通電モードを継続させてブラシレスモータを停止させた状態から次の通電モードへの切り替えを行い、該通電モードの切り替え直後における非通電相の電圧に基づいて前記電圧閾値を設定する電圧閾値設定手段と、
を備えるブラシレスモータの駆動装置。
【請求項2】
前記電圧閾値設定手段は、検出した非通電相の電圧に基づき、該電圧を検出したときに行った通電モードの切り替えの次の順番の通電モードの切り替え判断に用いる前記電圧閾値を設定する請求項1記載のブラシレスモータの駆動装置。
【請求項3】
前記ブラシレスモータの脱調を検知する脱調検知手段を更に備え、
前記電圧閾値設定手段は、少なくとも前記脱調検知手段が前記ブラシレスモータの脱調を検知したときに作動する請求項1又は2記載のブラシレスモータの駆動装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図13】
【図14】
【図15】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図13】
【図14】
【図15】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2012−10477(P2012−10477A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−143621(P2010−143621)
【出願日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】
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