説明

ブレーキ装置及び減速機構付モータ

【課題】組み付けを容易にできるブレーキ装置及び減速機構付モータを提供する。
【解決手段】ブレーキ部材33に対し駆動側回転体31及び従動側回転体32をそれぞれ離脱不能に係止可能とすべく、駆動側回転体31とブレーキ部材33との間に第1係止手段としての環状係止部33iを、従動側回転体32とブレーキ部材33との間に第2係止手段としての従動側係止部32j及びブレーキ側係止部33fを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車のウインドガラスを開閉するパワーウインド用の減速機構付モータに用いられるブレーキ装置及びその減速機構付モータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のブレーキ装置は、例えば特許文献1に示すように、駆動軸に一体回転可能に連結される駆動側回転体と、駆動軸と同軸配置された従動軸に一体回転可能に連結される従動側回転体とを備え、該駆動側回転体と従動側回転体との間には、固定摩擦部と当接して回転方向に係合する係合位置、及びその固定摩擦部から離間して回転方向に非係合となる非係合位置の2位置間で移動可能なブレーキ部材が従動側回転体と一体回転可能に設けられている。また、ブレーキ部材と従動側回転体との間にはブレーキ部材を固定摩擦部側に付勢する付勢部材が介装されている。このようなブレーキ装置では、駆動軸側から回転入力されると、駆動側回転体の回転力によってブレーキ部材が付勢部材の付勢力に抗して非係合位置に退避し、駆動軸の回転が従動軸に伝達されるようになっている。一方、従動軸側からの回転入力時には、ブレーキ部材を付勢部材の付勢力により係合位置に維持して従動軸の回転を規制するようになっている。
【特許文献1】特開2002−130336号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記のようなブレーキ装置では、例えば減速機構付モータに組み付ける際に、駆動側回転体、従動側回転体、ブレーキ部材及び付勢部材等の各構成部品を1つ1つ順に積層して組み付けられるようになっているため、その組み付けが困難なものとなっていた。
【0004】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、組み付けを容易にできるブレーキ装置及び減速機構付モータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、駆動軸に一体回転可能に連結される駆動側回転体と、前記駆動軸と同軸配置された従動軸に一体回転可能に連結される従動側回転体と、前記駆動側回転体と前記従動側回転体との間において該従動側回転体に一体回転可能に設けられるブレーキ部材を、固定摩擦部に対し付勢部材の付勢力を受けて当接させて回転方向に係合する係合位置、及びその固定摩擦部に対し前記付勢部材の付勢力に抗して離間させて回転方向に非係合となる非係合位置の2位置間で移動可能に設けてなるブレーキ機構とを備え、前記駆動軸側からの回転入力時には前記駆動側回転体からの回転力により前記ブレーキ部材を前記非係合位置に切り替えて前記駆動軸の回転を前記従動軸に伝達可能とし、前記従動軸側からの回転入力時には、前記ブレーキ部材を前記係合位置に維持して前記従動軸の回転を規制するブレーキ装置であって、前記ブレーキ部材に対し前記駆動側回転体及び前記従動側回転体をそれぞれ離脱不能に係止可能とすべく、前記駆動側回転体と前記ブレーキ部材との間に第1係止手段を、前記従動側回転体と前記ブレーキ部材との間に第2係止手段を備えたことをその要旨とする。
【0006】
この発明では、ブレーキ部材に対し駆動側回転体及び従動側回転体をそれぞれ離脱不能に係止可能とすべく、駆動側回転体とブレーキ部材との間に第1係止手段を、従動側回転体とブレーキ部材との間に第2係止手段を備える。これにより、ブレーキ装置を駆動軸及び従動軸への組み付けから独立して組み付けてユニット化(一体化)することが可能となるため、駆動軸及び従動軸への組み付けを容易にすることができる。また、ブレーキ装置を一括で生産可能となるため、生産効率の向上に寄与できる。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のブレーキ装置において、前記第2係止手段は、前記従動側回転体から軸方向駆動軸側に延出形成された従動側係止部と、前記ブレーキ部材から軸方向従動軸側に延出形成されたブレーキ側係止部とからなり、前記従動側係止部と前記ブレーキ側係止部とが軸方向に係止されることをその要旨とする。
【0008】
この発明では、第2係止手段は従動側回転体から軸方向駆動軸側に延出形成された従動側係止部と、ブレーキ部材から軸方向従動軸側に延出形成されたブレーキ側係止部とからなり、従動側係止部とブレーキ側係止部とが軸方向に係止されるため、従動側回転体とブレーキ部材とが離脱不能に係止可能となる。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載のブレーキ装置において、前記駆動側回転体には、該駆動側回転体の回転を前記従動側回転体に伝達するための回転伝達部が設けられ、前記従動側回転体には、前記回転伝達部と前記回転方向に係合可能な回転係合部が設けられ、前記回転方向における前記回転伝達部と前記回転係合部との間には、緩衝部材が設けられたことをその要旨とする。
【0010】
この発明では、回転方向における回転伝達部と回転係合部との間に緩衝部材が設けられるため、回転伝達部と回転係合部との間において例えば回転力が伝達される際に生じる衝撃を抑えることができる。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載のブレーキ装置において、前記緩衝部材は、前記回転伝達部及び前記回転係合部の少なくとも一方に一体成形されることをその要旨とする。
【0012】
この発明では、緩衝部材は回転伝達部及び回転係合部の少なくとも一方に一体成形されるため、緩衝部材を別体で設ける場合に比べて部品点数を抑えることができ、ブレーキ装置の組み付けが容易となる。
【0013】
請求項5に記載の発明は、回転軸を回転駆動するモータ本体と、前記回転軸と同軸上に配置されるウォーム軸を有する減速部とを一体に組み付けてなる減速機構付モータであって、前記回転軸と前記ウォーム軸との間に請求項1〜4のいずれか1項に記載のブレーキ装置を組み付けてなることをその要旨とする。
【0014】
この発明では、ユニット化可能なブレーキ装置を組み付けて構成されるため、減速機構付モータの組み付け性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0015】
従って、上記記載の発明によれば、ブレーキ装置の組み付けを容易にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1は、本実施形態のモータ1を示す。本実施形態のモータ1は、自動車のウインドガラスを開閉するパワーウインド用のモータであり、モータ本体2と減速部3とからなる減速機付きモータにて構成されている。
【0017】
モータ本体2は、ヨークハウジング4、一対のマグネット5、電機子6、ブラシホルダ7及び一対のブラシ8を備えている。ヨークハウジング4は略有底扁平円筒状に形成され、その内側面にマグネット5が固着されている。ヨークハウジング4の底部中央には軸受9が設けられ、該軸受9は電機子6の回転軸(駆動軸)10の基端を回転可能に支持する。
【0018】
ヨークハウジング4の開口部4aはフランジ状に形成され、後述するギヤハウジング21の開口部21aにネジ11にて固定される。尚、この固定の際に、ヨークハウジング4の開口部4aとギヤハウジング21の開口部21aとでブラシホルダ7が挟持されて固定される。
【0019】
ブラシホルダ7は、ヨークハウジング4内において、電機子6の回転軸10の先端を回転可能に支持する軸受12及び回転軸10に固着された整流子13に摺接するブラシ8を保持している。また、ブラシホルダ7の両ハウジング4,21から突出する部分は車体側から延びる車体側コネクタ(図示略)と連結するためコネクタ部7aであって、該コネクタ部7aの凹部7b内には複数本のターミナル14が露出している。これらターミナル14はブラシホルダ7にインサートされており、前記ブラシ8、及びモータ1内に備えられる回転センサ15a等と電気的に接続されている。そして、コネクタ部7aが車体側コネクタと連結されることで、モータ1と車体側に備えられるウインドECU20とが電気的に接続され、電源供給やセンサ信号等の出力が行われる。
【0020】
このようなモータ本体2に対し、減速部3は、ギヤハウジング21、ウォーム軸22、ウォームホイール23、出力軸24及びブレーキ装置30を備えている。
ギヤハウジング21は樹脂製であって、該ギヤハウジング21の内部には、ウォーム軸22、ウォームホイール23及びブレーキ装置30が収容されている。ギヤハウジング21は、前記ヨークハウジング4の開口部4aと対向する開口部21aを備え、両開口部4a,21a間に前記ブラシホルダ7が介装される。
【0021】
ギヤハウジング21は、ウォーム軸22を収容するために開口部21aから軸方向に延びる略円筒状の軸収容筒部21bと、該軸収容筒部21bと連通しウォームホイール23を収容するためのホイール収容凹部21cと、軸収容筒部21bの基端(モータ本体2側)に設けられブレーキ装置30を収容するためのブレーキ収容凹部21dとを備えている。
【0022】
軸収容筒部21bには、所定間隔を有する一対の軸受25a,25bにてウォーム軸22が前記回転軸10と同軸上に回転可能に支持されて収容されている。ウォーム軸22の軸受25a,25bにて支持される部位間には、ウォームホイール23と噛合するためのウォーム22aが形成されている。ウォーム22aは、軸方向両端部より軸方向中央部が小径とされウォームホイール23の歯部23aを有する外周部に倣った鼓型ウォームにて構成されている。つまり、ウォーム22aとウォームホイール23との噛合範囲が大きくされており、この噛合部分の強度向上が図られている。また、ウォーム軸22の先端には、該ウォーム軸22のスラスト荷重を受けるためのスラスト受けボール26a及びスラスト受けプレート26bが備えられている。
【0023】
ホイール収容凹部21cには、前記ウォーム軸22のウォーム22aと噛合されるウォームホイール23が回転可能に収容支持されている。ウォームホイール23は、金属製の補強プレート23xの外周部に樹脂製のギヤ部23yが一体に成形されて構成されている。この樹脂製のギヤ部23yの外周部には、ウォーム軸22のウォーム22aと噛合する歯先が平坦状の歯部23aを有している。このようなウォームホイール23を支持するホイール収容凹部21cは、開口部がカバー部材28にて閉塞され、該カバー部材28の一部にて出力軸24の基端端面も支持されている。また、出力軸24にはウインドガラスを開閉するウインドレギュレータ(図示略)が駆動連結されている。
【0024】
[ブレーキ装置の構成]
ブレーキ収容凹部21dには、ウォーム軸22と前記回転軸10との間に介装されたブレーキ装置30が収容されている。図2(a)(b)に示すように、ブレーキ装置30は、回転軸10に連結され該回転軸10と一体回転する駆動側回転体31と、ウォーム軸22に連結され該ウォーム軸22と一体回転する従動側回転体32とを備えている。また、駆動側回転体31と従動側回転体32との間において該従動側回転体32に一体回転可能に設けられるブレーキ部材33と、従動側回転体32とブレーキ部材33との間に介装される付勢部材としてのコイルスプリング34とを備えている。
【0025】
図3(a)(b)(c)に駆動側回転体31を示す。尚、図3(a)においてハッチングされた部分(点々で示す部分)は平面視におけるエラストマ部分を示している。駆動側回転体31は平面視で円形状をなし、その中央部に形成された円筒部31aには回転軸10の先端部が挿入固定される固定孔31bが貫通形成されている。また、円筒部31aの内部には周方向等間隔に複数の突起35aを有する金属製のプレート35がインサート成形されており、該プレート35にも回転軸10の先端部が挿通固定されている。尚、固定孔31b及び回転軸10の先端部は扁平状に形成されている。
【0026】
駆動側回転体31の従動側回転体32側には、円筒部31aから外側に向かって延びる回転伝達部31cが周方向等間隔に3つ形成されている。各回転伝達部31cは軸方向に突出形成され、その突出部分における内周側端部は緩衝部材としてのエラストマ36aにて覆われている。この回転伝達部31cの内周側端部は、エラストマ36aにて膨らんだ形状をなすとともに、その周方向幅が回転伝達部31cにおけるエラストマ36aに覆われていない部分の周方向幅よりも大きくなっている。尚、エラストマ36aは二色成形により駆動側回転体31に設けられる。また、円筒部31aの先端面(従動側回転体32側の端面)、及び固定孔31bの内周面の一部にもエラストマが二色成形され、該エラストマは回転伝達部31cのエラストマ36aと連続的に形成されている。
【0027】
駆動側回転体31におけるモータ本体2側の端部には、円筒部31aから鍔状に延びるフランジ部31dが形成されている。フランジ部31dには円筒部31aと接する環状のエラストマ36bが、回転伝達部31cのエラストマ36aと連続的に形成されている。このフランジ部31dのエラストマ36bは、該フランジ部31dに軸方向に沿って貫通形成された複数の貫通孔31e内にも形成されている。尚、貫通孔31eがプレート35の突起35aと重なる部分においては突起35aよりも従動側回転体32側のみにエラストマ36bが形成されるようになっている(図3(b)参照)。
【0028】
フランジ部31dにおいて、回転伝達部31cの径方向外側の位置にはブレーキ部材33と対向するカム溝31fが周方向等間隔に3つ形成されている。各カム溝31fは周方向に延びる形状をなすとともに、周方向端部に向かうほど径方向幅が小さく形成されている。また、各カム溝31fはその周方向中央が最も深く、周方向端部に向かうほど徐々に浅くなるようにその底面が湾曲している(図3(c)参照)。
【0029】
図2及び図4(a)(b)(c)に示すように、従動側回転体32はその中央部に円筒部32aを有し、その円筒部32aにはウォーム軸22が挿入固定される固定孔32bが形成されている。円筒部32aの先端部(モータ本体2側端部)には中心部から放射状に延びる延出部32cが周方向等間隔に3つ形成されるとともに、その各延出部32cには軸方向に突出する回転係合部32dが形成されている。各回転係合部32dはその内周側端部における周方向両側面に当接凹部32eがそれぞれ形成されており、該各回転係合部32dは径方向内側が周方向に若干細くなる形状をなしている。この回転係合部32dの内周側には前記駆動側回転体31の円筒部31aが挿入され、その駆動側回転体31の各回転伝達部31cは従動側回転体32の各回転係合部32d間に配置される(図2参照)。即ち、駆動側回転体31の各回転伝達部31cと、従動側回転体32の各回転係合部32dとは周方向に交互に配置される。
【0030】
また、従動側回転体32において、円筒部32aの外周部には駆動側回転体31側に開口する円形カップ状をなすスプリング支持部32fが形成されている。スプリング支持部32fは、軸直交方向に延びる底部32gと、該底部32gの外周縁から軸方向(回転軸10側)に延びる一対の側壁32hとからなる。この一対の側壁32hは従動側回転体32の中心に対し互いに点対称をなしており、その周方向における一方の端部は外周側に突出する突出端部32iとなっている。尚、スプリング支持部32fのウォーム軸22側には、周方向に多極着磁されたリング状のセンサマグネット15bが固定されており(図1及び図2参照)、該センサマグネット15bと径方向に対向する前記回転センサ15aにて従動側回転体32の回転方向や回転数等の回転情報が検出される。
【0031】
各側壁32hの端部間にはそれぞれ、底部32gの外周縁から該側壁32hと同方向に延出する従動側係止部32jが形成されている。各係止部32jは、その先端に従動側回転体32の周方向(突出端部32i側)に突出する係合突起32kを有している。各係止部32jは、従動側回転体32の中心に対し互いに点対称をなしている。また、各係止部32jはスプリング支持部32fの外周側に突出しており、その突出量は側壁32hの突出端部32iのものと同等である。
【0032】
図2及び図5(a)(b)(c)に示すように、ブレーキ部材33は略円筒状をなし、その円筒部33aの内周面には軸方向に沿って延びる係合溝33bが周方向等間隔に3つ形成されている。各係合溝33bには従動側回転体32の各回転係合部32dが挿入され、各係合溝33bは各回転係合部32dと周方向に係合するようになっている。即ち、ブレーキ部材33は従動側回転体32と一体回転可能、且つ軸方向に移動可能となるように取り付けられる。
【0033】
ブレーキ部材33において、円筒部33aの先端部(モータ本体2側端部)には従動側回転体32側に開口する円形カップ状をなすスプリング支持部33cが形成されている。スプリング支持部33cは、円筒部33aの外周面から外側に延びる底部33dと、該底部33dの外周縁から軸方向(ウォーム軸22側)に延びる一対の側壁33eとからなる。尚、このブレーキ部材33のスプリング支持部33cの径は、従動側回転体32のスプリング支持部32fの径よりも若干大きく形成され、ブレーキ部材33のスプリング支持部33cは従動側回転体32のスプリング支持部32fの外周側に位置している。各側壁33eの端部間にはそれぞれ、底部33dの外周縁から該側壁33eと同方向に延出するブレーキ側係止部33fが形成されている。各係止部33fはその先端にブレーキ部材33の周方向に突出する係合突起33gを有している(図6参照)。各係止部33fはブレーキ部材33の中心に対し互いに点対称をなし、その係合突起33gは前記従動側回転体32の係合突起32kと軸方向に係止可能となっている。本実施形態のブレーキ装置30では、従動側回転体32の従動側係止部32j、及びブレーキ部材33のブレーキ側係止部33fが第2係止手段を構成している。
【0034】
上記したような従動側回転体32及びブレーキ部材33の各スプリング支持部32f,33c間には、図2に示すように、付勢部材としてのコイルスプリング34が圧縮状態で介装される。コイルスプリング34はその両端が各スプリング支持部32f,33cの底部32g,33dと当接しており、ブレーキ部材33を軸方向(モータ本体2側)に付勢するようになっている。
【0035】
図2及び図5に示すように、ブレーキ部材33においてスプリング支持部33cのモータ本体2側端面には環状のブレーキ面33hが形成されている。ブレーキ面33hはスプリング支持部33cの側壁33eと連続するように該スプリング支持部33cの底部33dの外周縁に形成されている。また、ブレーキ面33hはモータ本体2側に向かうにつれて縮径する傾斜面となっており、その傾斜角度は軸線に対して45°となるように形成されている。
【0036】
このブレーキ面33hは、図2(a)(b)に示すように、ギヤハウジング21のブレーキ収容凹部21d内に固定された円環状の固定摩擦部材(固定摩擦部)40と当接可能となっている。固定摩擦部材40は金属材料からなり、テーパ形状をなしている。固定摩擦部材40には周方向等間隔に4つの固定片40aが形成され、この固定片40aにて固定摩擦部材40はブレーキ収容凹部21dに固定されている。また、ブレーキ部材33と当接する摩擦面40bはブレーキ面33hと同様に軸線に対して45°の傾斜を有し、これにより、ブレーキ面33hとの間に大きな摩擦力を発生させることができる。また、この摩擦面40bはショットピーニングによりザラザラした面に形成され、ブレーキ面33hとの摩擦力が発生し易いようになっている。本実施形態では、ブレーキ部材33、固定摩擦部材40及びコイルスプリング34がブレーキ機構を構成している。
【0037】
図2及び図5に示すように、ブレーキ部材33のモータ本体2側端部には、ブレーキ面33hの内周縁から軸方向(モータ本体2側)に延出する第1係止手段としての環状係止部33iが連続的な環状に形成されており、環状係止部33iの延出先端には内周側に突出する係止突起33jが形成されている。環状係止部33iの内周側には、前記駆動側回転体31のフランジ部31dが収容配置されており、環状係止部33iの係止突起33jがフランジ部31dの周縁部に軸方向に係止可能となっている(図2参照)。
【0038】
また、環状係止部33iの内周側においてブレーキ部材33の円筒部33a先端面(モータ本体2側端面)には、前記駆動側回転体31のカム溝31fと同形状のカム溝33kが周方向等間隔に3つ形成されている。ブレーキ部材33の円筒部33a先端面は駆動側回転体31のフランジ部31dと軸方向に対向配置され、ブレーキ部材33の各カム溝33kと駆動側回転体31の各カム溝31fとは軸方向に対向し、それらのカム溝31f,33k間には球体37がそれぞれ介装されている(図2(a)参照)。
【0039】
各カム溝31f,33kは、その周方向中央において球体37の略半分を収容可能となっているとともに、各カム溝31f,33kの径方向幅は周方向中央以外の箇所では球体37の直径よりも狭くなっている。そのため、駆動側回転体31の回転により球体37が各カム溝31f,33kの周方向端部に相対的に移動したとき、その球体37が駆動側回転体31の各カム溝31fから軸方向に突出するようになっている。一方、カム溝31f,33kの周方向中央の位置が略一致しているときには、球体37は各カム溝31f,33k内に収容されるようになっている。尚、各カム溝31f,33kには球体37の一部が常に収容されるようになっているため、球体37の脱落が防止されている。
【0040】
[ブレーキ装置の動作]
上記のようなブレーキ装置30において、モータ本体2の非駆動時、即ち、駆動側回転体31に回転力が入力されてないときには、駆動側回転体31のカム溝31fとブレーキ部材33のカム溝33kとは、周方向において同位置にあり、その各カム溝31f,33k間における周方向中央に球体37は位置している。また、ブレーキ部材33はコイルスプリング34からの付勢力を受けて固定摩擦部材40の摩擦面40bに圧接され、該固定摩擦部材40に対し回転方向に係合する係合位置に位置している。この状態では、ブレーキ部材33のブレーキ面33hと固定摩擦部材40の摩擦面40bとの間に生じる摩擦力によりブレーキ部材33及び従動側回転体32の回転が規制されるようになっている。これにより、ウォーム軸22、ウォームホイール23及び出力軸24の回転が規制されるため、ウインドガラスの落下や悪意のある者のウインドガラスの開作動が防止されて車両の盗難防止が図られる。
【0041】
一方、モータ本体2が駆動されて駆動側回転体31が回転すると、駆動側回転体31のカム溝31fがブレーキ部材33のカム溝33kに対して回転方向にずれる。このとき、球体37は転がりながら各カム溝31f,33kの周方向端部に相対的に移動しつつ駆動側回転体31のカム溝31fから軸方向に突出し、ブレーキ部材33をコイルスプリング34の付勢力に抗して押圧する。これにより、ブレーキ部材33は固定摩擦部材40の摩擦面40bから離間し、固定摩擦部材40に対して回転方向に非係合となる非係合位置に移動する。そして、このブレーキ部材33の非係合状態において、回転伝達部31c(駆動側回転体31)のエラストマ36aが回転係合部32d(従動側回転体32)の当接凹部32eと回転方向に当接する。これにより、駆動側回転体31の回転力が従動側回転体32に伝達可能となり、駆動側回転体31と従動側回転体32とが一体回転するようになっている。尚、回転伝達部31cはエラストマ36aを介して従動側回転体32の当接凹部32eと当接するため、その当接する瞬間の衝撃や、回転伝達部31cが当接凹部32eから離間する際の衝撃を抑制することができる。
【0042】
[ブレーキ装置の組み付け]
ブレーキ装置30をモータ1に組み付ける際には、まず、ブレーキ装置30を組み付けてユニット化した後、そのユニット化したブレーキ装置30をモータ1に組み付ける。ブレーキ装置30をユニット化すべく組み付ける際には、コイルスプリング34を従動側回転体32の円筒部32aに挿入し、該従動側回転体32のスプリング支持部32fに載置する。その後、従動側回転体32の円筒部32aをブレーキ部材33の円筒部33a内に挿入し、該従動側回転体32及びブレーキ部材33の各係合突起32k,33g同士を軸方向に係止させる(図6参照)。これにより、ブレーキ部材33が従動側回転体32から離脱不能となる。尚、コイルスプリング34が従動側回転体32及びブレーキ部材33に対してそれらを離間する方向に付勢しているため、係合突起32k,33gの係止状態は維持される。
【0043】
一方、駆動側回転体31は、カム溝33kに球体37が載置されたブレーキ部材33の環状係止部33iに挿入され、その各回転伝達部31cは従動側回転体32の各回転係合部32d間に配置される。駆動側回転体31の挿入の際、環状係止部33iは駆動側回転体31のフランジ部31dにより外周側に一旦湾曲し、該フランジ部31dが通過すると弾性復帰する。尚、環状係止部33iの係止突起33jは、駆動側回転体31の挿入側が傾斜面を有しており、該傾斜面により駆動側回転体31が挿入し易くなっている。環状係止部33iの弾性復帰後には、係止突起33jがフランジ部31dの上側(反従動側回転体32側)に位置し、駆動側回転体31がブレーキ部材33から離脱不能となる。以上のように、ブレーキ部材33に駆動側回転体31及び従動側回転体32を離脱不能に組み付けることでブレーキ装置30はユニット化される。
【0044】
ユニット化されたブレーキ装置30をモータ1に組み付ける際には、ブレーキ装置30をギヤハウジング21のブレーキ収容凹部21dに収容し、従動側回転体32にウォーム軸22を固定する。その後、固定摩擦部材40をブレーキ部材33のブレーキ面33hに載置するとともに、該固定摩擦部材40にてブレーキ部材33をコイルスプリング34の付勢力に抗して従動側回転体32側に押し込んで移動させ、固定摩擦部材40をブレーキ収容凹部21dに固定する。これにより、ブレーキ部材33が係合位置に配置されるとともに、従動側回転体32及びブレーキ部材33の各係合突起32k,33g間にはブレーキ部材33の軸方向の移動を許容する隙間が形成される。
【0045】
その後、駆動側回転体31にモータ本体2の回転軸10が固定され、駆動側回転体31のフランジ部31dとブレーキ部材33の係止突起33jとの間にもブレーキ部材33の軸方向の移動を許容する隙間が形成される。これにより、ブレーキ部材33は係合位置と非係合位置の2位置間の移動が可能となる。以上のように、ブレーキ装置30がモータ本体2及び減速部3に組み付けられ、モータ1が完成する。
【0046】
次に、本実施形態の特徴的な作用効果を記載する。
(1)本実施形態では、ブレーキ部材33に対し駆動側回転体31及び従動側回転体32をそれぞれ離脱不能に係止可能とすべく、駆動側回転体31とブレーキ部材33との間に第1係止手段としての環状係止部33iを、従動側回転体32とブレーキ部材33との間に第2係止手段としての従動側係止部32j及びブレーキ側係止部33fを備える。これにより、ブレーキ装置30をモータ1への組み付けから独立して組み付けてユニット化(一体化)することが可能となるため、モータ1への組み付けを容易にすることができる。また、ブレーキ装置30を一括で生産可能となるため、生産効率の向上に寄与できる。
【0047】
(2)本実施形態では、第2係止手段は従動側回転体32から軸方向(回転軸10側)に延出形成された従動側係止部32jと、ブレーキ部材33から軸方向(ウォーム軸22側)に延出形成されたブレーキ側係止部33fとからなり、該従動側係止部32jとブレーキ側係止部33fとが軸方向に係止されるため、従動側回転体32とブレーキ部材33とが離脱不能に係止可能となる。
【0048】
(3)本実施形態では、回転方向における回転伝達部31cと回転係合部32dとの間に緩衝部材としてのエラストマ36aが設けられるため、回転伝達部31cと回転係合部32dとの間において例えば回転力が伝達される際に生じる衝撃を抑えることができる。また、緩衝部材としてのエラストマ36aがブレーキ装置30に設けられるため、減速部3による減速前の部分に設けることができる。その結果、緩衝部材を減速後の部分に設け減速後の大きな回転力を受けるように構成した場合に比べて、緩衝部材を小型に構成でき、モータ1の小型化に寄与できる。
【0049】
(4)本実施形態では、エラストマ36aは回転伝達部31cに一体成形されるため、緩衝部材を別体で設ける場合に比べて部品点数を抑えることができ、ブレーキ装置30の組み付けが容易となる。
【0050】
尚、本発明の実施形態は、以下のように変更してもよい。
・上記実施形態では、第1係止手段として環状係止部33iが設けられたが、特にこれに限定されるものではなく、例えば図7に示すように、ブレーキ部材33の円筒部32aの内周面に形成された係止溝50と、駆動側回転体31の各回転伝達部31cの外周側端面に形成された係止突起51とから構成してもよい。係止溝50は周方向に連続的に形成され、係止突起51は径方向外側に突出するように形成されており、係止突起51は係止溝50内に位置している。係止溝50と係止突起51とは軸方向に係止可能であり、該係止溝50と係止突起51により駆動側回転体31がブレーキ部材33から離脱不能となっている。尚、ブレーキ装置30の組み付け状態において、係止溝50と係止突起51との間にはブレーキ部材33の軸方向の移動を許容する隙間が形成される。このような構成によれば、ブレーキ装置30が軸方向に大型化するのを防ぎつつ第1係止手段を構成できる。また、第1係止手段として別体からなる係止部材を設けてもよい。
【0051】
・上記実施形態では、環状係止部33iは周方向沿って連続的に形成されたが、分割して1つ又は複数の係止突起として設けてもよい。
・上記実施形態では、従動側係止部32j及びブレーキ側係止部33fは、それぞれ2つ設けられたが、特にこれに限定されるものではなく、それぞれ1つ、又は3つ以上設けてもよい。
【0052】
・上記実施形態では、従動側回転体32及びブレーキ部材33の各係合突起32k,33gは周方向に突出しているが、径方向に突出させてもよい。
・上記実施形態では、第2係止手段は従動側回転体32及びブレーキ部材33の各スプリング支持部32f,33cに形成された従動側係止部32j及びブレーキ側係止部33fにて構成されたが、これ以外に例えば、従動側回転体32及びブレーキ部材33の各円筒部32a,33aに形成してもよく、また、第2係止手段として別体からなる係止部材を設けてもよい。
【0053】
・上記実施形態では、緩衝部材としてのエラストマ36aは駆動側回転体31の回転伝達部31cに一体形成されたが、従動側回転体32の回転係合部32dに一体形成してもよく、また、回転伝達部31c及び回転係合部32dの両方に一体成形してもよい。また、別体として回転伝達部31cと回転係合部32dとの間に介装してもよい。この他にも、駆動側回転体31の円筒部31aと回転伝達部31cの側面全体、及び従動側回転体32の回転係合部32dの側面全体の少なくとも一方にエラストマをアウトサート成形してもよい。
【0054】
・上記実施形態では、緩衝部材としてエラストマ36aが用いられたが、特にこれに限定されるものではない。
・上記実施形態では、固定摩擦部材40はギヤハウジング21のブレーキ収容凹部21dに対し別部材としても設けられたが、ブレーキ収容凹部21dの内面に固定摩擦部を形成してもよい。
【0055】
・上記実施形態では、ブレーキ部材33を付勢する付勢手段としてコイルスプリング34が用いられたが、特にこれに限定されるものではなく、例えば板ばね等を用いてもよい。
【0056】
・上記実施形態では、従動軸として減速機構を構成するウォーム軸22が用いられたが、特にこれに限定されるものではなく、例えば平ギヤを有する従動軸を用いてもよい。
・上記実施形態では、本発明を自動車のウインドガラスを開閉するパワーウインド用のモータに具体化したが、特にこれに限定されるものではなく、パワーウインド用以外のモータに具体化してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本実施形態におけるモータの側断面図。
【図2】(a)ブレーキ装置を示す側断面図、(b)ブレーキ装置を示す平断面図。
【図3】(a)駆動側回転体をウォーム軸側から見た平面図、(b)駆動側回転体のA−A断面図、(c)駆動側回転体のB−B断面図。
【図4】(a)従動側回転体をウォーム軸側から見た平面図、(b)従動側回転体のC−C断面図、(c)従動側回転体を回転軸側から見た平面図。
【図5】(a)ブレーキ部材をウォーム軸側から見た平面図、(b)ブレーキ部材を回転軸側から見た平面図、(c)ブレーキ部材の部分断面図。
【図6】ブレーキ装置の一部を示す側面図。
【図7】別例のブレーキ装置を示す側断面図。
【符号の説明】
【0058】
1…モータ、2…モータ本体、3…減速部、10…駆動軸としての回転軸、22…従動軸としてのウォーム軸、30…ブレーキ装置、31…駆動側回転体、31c…回転伝達部、32…従動側回転体、32d…回転係合部、32j…第2係止手段を構成する従動側係止部、33…ブレーキ部材、33f…第2係止手段を構成するブレーキ側係止部、33i…第1係止手段としての環状係止部、34…付勢部材としてのコイルスプリング、36a…緩衝部材としてのエラストマ、40…固定摩擦部材(固定摩擦部)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動軸に一体回転可能に連結される駆動側回転体と、
前記駆動軸と同軸配置された従動軸に一体回転可能に連結される従動側回転体と、
前記駆動側回転体と前記従動側回転体との間において該従動側回転体に一体回転可能に設けられるブレーキ部材を、固定摩擦部に対し付勢部材の付勢力を受けて当接させて回転方向に係合する係合位置、及びその固定摩擦部に対し前記付勢部材の付勢力に抗して離間させて回転方向に非係合となる非係合位置の2位置間で移動可能に設けてなるブレーキ機構と
を備え、前記駆動軸側からの回転入力時には前記駆動側回転体からの回転力により前記ブレーキ部材を前記非係合位置に切り替えて前記駆動軸の回転を前記従動軸に伝達可能とし、前記従動軸側からの回転入力時には、前記ブレーキ部材を前記係合位置に維持して前記従動軸の回転を規制するブレーキ装置であって、
前記ブレーキ部材に対し前記駆動側回転体及び前記従動側回転体をそれぞれ離脱不能に係止可能とすべく、前記駆動側回転体と前記ブレーキ部材との間に第1係止手段を、前記従動側回転体と前記ブレーキ部材との間に第2係止手段を備えたことを特徴とするブレーキ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のブレーキ装置において、
前記第2係止手段は、前記従動側回転体から軸方向駆動軸側に延出形成された従動側係止部と、前記ブレーキ部材から軸方向従動軸側に延出形成されたブレーキ側係止部とからなり、前記従動側係止部と前記ブレーキ側係止部とが軸方向に係止されることを特徴とするブレーキ装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のブレーキ装置において、
前記駆動側回転体には、該駆動側回転体の回転を前記従動側回転体に伝達するための回転伝達部が設けられ、
前記従動側回転体には、前記回転伝達部と前記回転方向に係合可能な回転係合部が設けられ、
前記回転方向における前記回転伝達部と前記回転係合部との間には、緩衝部材が設けられたことを特徴とするブレーキ装置。
【請求項4】
請求項3に記載のブレーキ装置において、
前記緩衝部材は、前記回転伝達部及び前記回転係合部の少なくとも一方に一体成形されることを特徴とするブレーキ装置。
【請求項5】
回転軸を回転駆動するモータ本体と、前記回転軸と同軸上に配置されるウォーム軸を有する減速部とを一体に組み付けてなる減速機構付モータであって、
前記回転軸と前記ウォーム軸との間に請求項1〜4のいずれか1項に記載のブレーキ装置を組み付けてなることを特徴とする減速機構付モータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−174665(P2009−174665A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−15609(P2008−15609)
【出願日】平成20年1月25日(2008.1.25)
【出願人】(000101352)アスモ株式会社 (1,622)
【Fターム(参考)】