説明

ブレーキ装置

【課題】バキュームブースタを備えたブレーキ装置において、バキュームブースタの助勢限界後アシスト制御が行われる場合に、良好にアシスト量減少制御が行われるようにする。
【解決手段】効き特性制御中に、マスタシリンダ液圧の減少勾配が設定勾配以上である場合に減圧条件が満たされたとされて、アシスト量減少制御が開始される。一方、アシスト量減少制御が開始されると再開禁止フラグがONとされるが、再開禁止フラグがONの間、効き特性制御の開始が禁止される。その結果、制御ハンチングを抑制することができ、運転者の操作フィーリングの低下を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バキュームブースタを備えたブレーキ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、バキュームブースタの助勢限界後に、助勢限界の前後でブレーキ操作力に対するブレーキ力の増加勾配が同じとなるようにブレーキシリンダ液圧をアシスト量だけマスタシリンダ液圧より大きくする制御(以下、効き特性制御と称する)が行われるブレーキ装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−250564号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、効き特性制御が行われるブレーキ装置におけるブレーキシリンダ液圧制御の改良である。
【課題を解決するための手段および効果】
【0005】
請求項1に記載のブレーキ装置は、(a)車両に設けられたブレーキ操作部材と、(b)そのブレーキ操作部材の操作により液圧を発生させるマスタシリンダと、(c)ブレーキシリンダを含み、そのブレーキシリンダの液圧により作動させられ、車輪の回転を抑制する液圧ブレーキと、(d)前記ブレーキ操作部材に連携させられた入力ロッドと、前記マスタシリンダの加圧ピストンに連携させられた出力ロッドと、負圧室および変圧室とを備え、それら変圧室と負圧室との差圧に基づいて、前記入力ロッドを介して入力されたブレーキ操作力を倍力して出力ロッドを介して前記マスタシリンダに出力するバキュームブースタと、(e)動力の供給により作動させられ、液圧を発生可能な動力式液圧源と、(f)前記バキュームブースタが助勢限界に達した後に、前記動力式液圧源の液圧を利用して、前記ブレーキシリンダの液圧を前記マスタシリンダの液圧よりアシスト量だけ増圧する助勢限界後アシスト制御を行うアシスト制御装置とを含むブレーキ装置であって、前記アシスト制御装置が、(g)前記アシスト量を、前記ブレーキ操作部材に加えられた操作力の変化に対する前記ブレーキシリンダ液圧の変化勾配が、前記バキュームブースタが助勢限界に達する前後で同じになる大きさに決定するアシスト量決定部を含み、そのアシスト量決定部によって決定されたアシスト量だけ前記ブレーキシリンダ液圧を前記マスタシリンダ液圧より大きくする前記助勢限界後アシスト制御としての効き特性制御を行う効き特性制御部と、(h)その効き特性制御部による制御中に、前記マスタシリンダの液圧と、その変化状態との少なくとも一方に基づき、その少なくとも一方で決まる減圧条件が成立した場合に、前記効き特性制御部による制御を終了して、前記アシスト量を小さくする前記助勢限界後アシスト制御の一部としてのアシスト量減少制御を行うアシスト量減少制御部と、(i)そのアシスト量減少制御部によるアシスト量減少制御が開始された後、予め定められた許可条件が満たされるまでの間、前記効き特性制御部による効き特性制御の開始を禁止する効き制御禁止部とを含むものとされる。
本項に記載のブレーキ装置においては、バキュームブースタ(以下、単に、ブースタと略称する)が助勢限界に達した後に、助勢限界に達する前後で、ブレーキシリンダ液圧の変化勾配が同じになるように、ブレーキシリンダの液圧をマスタシリンダの液圧よりアシスト量だけ大きくする効き特性制御が行われる。
そして、効き特性制御中に、マスタシリンダの液圧、変化状態に基づいて減圧条件が満たされた場合に、効き特性制御が終了させられて、アシスト量が減少させられる。このように、ブースタが助勢限界に達した後の状態にある場合において、アシスト量の減少が開始されるため、速やかにブレーキシリンダ液圧を減少させることができ、引きずりを抑制することができる。また、アシスト量減少制御の開始時期がマスタシリンダ液圧と変化状態との少なくとも一方に基づいて決まるため、運転者の意図に応じた時期からアシスト量減少制御を開始させることができる。
また、アシスト量減少制御が開始された後、許可条件が満たされるまでの間、効き特性制御の開始が禁止される。たとえ、効き特性制御の開始条件が成立しても、効き特性制御が開始されることがないため、制御ハンチングを防止することができる。
【特許請求可能な発明】
【0006】
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある。請求可能発明は、少なくとも、請求の範囲に記載された発明である「本発明」ないし「本願発明」を含むが、本願発明の下位概念発明や、本願発明の上位概念あるいは別概念の発明を含むこともある。)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、請求可能発明を構成する構成要素の組を、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。
【0007】
(1)車両に設けられたブレーキ操作部材と、
そのブレーキ操作部材の操作により液圧を発生させるマスタシリンダと、
ブレーキシリンダを含み、そのブレーキシリンダの液圧により作動させられ、前記車輪の回転を抑制する液圧ブレーキと、
前記ブレーキ操作部材に連携させられた入力ロッドと、前記マスタシリンダの加圧ピストンに連携させられた出力ロッドと、負圧室および変圧室とを備え、それら変圧室と負圧室との差圧に基づいて、前記入力ロッドを介して入力されたブレーキ操作力を倍力して出力ロッドを介して前記マスタシリンダに出力するブースタと、
動力の供給により作動させられ、液圧を発生可能な動力式液圧源と、
前記ブースタが助勢限界に達した後に、前記動力式液圧源の液圧を利用して、前記ブレーキシリンダの液圧を前記マスタシリンダの液圧よりアシスト量だけ増圧する助勢限界後アシスト制御を行うアシスト制御装置と
を含むブレーキ装置。
(2)前記アシスト制御装置が、
前記アシスト量を、前記ブレーキ操作部材に加えられた操作力の変化に対する前記ブレーキシリンダ液圧の変化勾配が、前記バキュームブースタが助勢限界に達する前後で同じになる大きさに決定するアシスト量決定部を含み、そのアシスト量決定部によって決定されたアシスト量だけ前記ブレーキシリンダ液圧を前記マスタシリンダ液圧より大きくする前記助勢限界後アシスト制御としての効き特性制御を行う効き特性制御部と、
その効き特性制御部による制御中に、前記マスタシリンダの液圧と、その変化状態との少なくとも一方に基づき、その少なくとも一方で決まる減圧条件が成立した場合に、前記効き特性制御部による制御を終了して、前記アシスト量を小さくする前記助勢限界後アシスト制御の一部としてのアシスト量減少制御を行うアシスト量減少制御部と
を含む(1)項に記載のブレーキ装置。
アシスト制御とは、ブースタの助勢限界後に、ブレーキシリンダの液圧をマスタシリンダの液圧よりアシスト量だけ大きくする制御であり、効き特性制御とアシスト量減少制御とが含まれる。
効き特性制御において、アシスト量が、ブレーキ操作部材に加えられた操作力の変化に対するブレーキシリンダ液圧の変化勾配が、バキュームブースタが助勢限界に達する前後で同じになる大きさに、決定されるのであるが、アシスト量は、原則として、前後で変化勾配が同じになるように決定されるのであり、厳密な意味において変化勾配が同じになる大きさに決定されるという意味ではない。
(3)前記アシスト量減少制御部が、(a)前記マスタシリンダの減少勾配が、予め定められた設定勾配以上である場合、(b)前記マスタシリンダ液圧が最大値から設定値以上減少した場合、(c)前記マスタシリンダ液圧と前記バキュームブースタが助勢限界に達した場合のマスタシリンダ液圧との差が設定値以下になった場合のうちの1つ以上が成立した場合に、前記アシスト量減少制御を開始する制御開始部を含む(2)項に記載のブレーキ装置。
減少勾配が設定勾配以上である場合には、運転者がブレーキ力を小さくする意図があるとすることができる。設定勾配は、運転者がブレーキ力を小さくする意図があるとみなし得る大きさとしたり、マスタシリンダ液圧が確実に減少したとみなし得る大きさとしたりすることができる。
最大値からの減少量が設定値以上である場合にも同様に、運転者がブレーキ力を小さくする意図があるとみなすことができる。設定値は、ブレーキ力を小さくする意図があるとみなし得る大きさとすることができる。
マスタシリンダ液圧とバキュームブースタが助勢限界に達した場合のマスタシリンダ液圧(以下、助勢限界時液圧と称する)との差が設定値以下になった場合には、効き特性制御が不要であるとみなすことができる。設定値は、マスタシリンダ液圧が助勢限界時液圧より大きいが、アシストが不要であるとみなし得る大きさとすることができる。
効き特性制御において、実施例において詳述するようにアシスト量の変化に制限が加えられる場合には、ブレーキ操作部材の操作力を速やかに緩め、マスタシリンダ液圧が急速に減少しても、ブレーキシリンダの液圧が緩やかに減少することがある。その結果、運転者の意図に応じてブレーキ力が減少しない場合、運転者が意図するより大きなブレーキ力が加えられる場合、引きずりが生じる場合等がある。それに対して、減圧条件が満たされた場合に、アシスト量が減少させられれば、ブレーキ力を速やかに減少させることができ、ブレーキフィーリングの低下を抑制することができる。
(4)前記アシスト制御装置が、前記アシスト量減少制御部によるアシスト量減少制御が開始された後、予め定められた許可条件が満たされるまでの間、前記効き特性制御部による効き特性制御の開始を禁止する効き制御禁止部を含む(2)項または(3)項に記載のブレーキ装置。
(5)前記アシスト制御装置が、前記アシスト量減少制御部によるアシスト量減少制御の開始後、前記ブレーキ操作部材の操作力の増加が検出された場合に前記許可条件が満たされたとして、前記効き特性制御部による効き特性制御の開始を許可する第1効き制御許可手段を含む(4)項に記載のブレーキ装置。
ブレーキ操作部材の操作力の増加があったことは、マスタシリンダの液圧の変化に基づいて検出することができる。また、ブレーキ操作部材に加えられた操作力を検出する操作力センサやストロークを検出するストロークセンサを設け、これらの検出値の変化に基づいて検出することができる。
(6)前記アシスト制御装置が、前記アシスト量減少制御部によるアシスト量減少制御の開始後、前記ブレーキ操作部材の操作が解除された場合と、車両が停止状態になった場合との少なくとも一方の場合に、前記効き特性制御部による前記効き特性制御の開始を許可する第2効き制御許可手段を含む(4)項または(5)項に記載のブレーキ装置。
ブレーキ操作部材の操作が解除された場合や、車両の走行速度が停止状態にあるとみなし得る設定速度より小さくなった場合に、効き特性制御の開始が許可される。次に、ブレーキ操作部材が操作されて、効き特性制御の開始条件が満たされた場合に、効き特性制御の開始が許可されるようにするためである。
(7)前記効き特性制御部が、前記動力式液圧源の液圧を前記ブレーキシリンダに供給することにより、前記ブレーキシリンダの液圧を前記アシスト量だけ前記マスタシリンダの液圧より大きくするものであり、前記アシスト量減少制御部が、前記動力式液圧源が停止している状態で前記アシスト量を小さくするものである(2)項ないし(6)項のいずれか1つに記載のブレーキ装置。
効き特性制御においては、ブレーキシリンダに動力式液圧源の液圧が供給されて、ブレーキシリンダ液圧が増加させられる。アシスト量減少制御においては、動力式液圧源が停止させられた状態で、アシスト量が減少させられる。アシスト量を減少させる場合には、本来、動力式液圧源から液圧をブレーキシリンダに供給する必要性は低い。そのため、動力式液圧源の作動を停止させることによって、消費エネルギの低減を図ることができる。
なお、ブレーキシリンダ液圧は、動力式液圧源の出力液圧の大きさを制御することにより制御したり(例えば、ポンプモータの作動状態を制御することにより出力液圧の大きさを制御する態様)、ブレーキシリンダ、低圧源、動力式液圧源との間に電磁制御弁装置を設け、電磁制御弁装置の制御により、ブレーキシリンダ液圧を制御したりすることができる。アシスト量減少制御においては、後者の態様が実施される。
(8)前記アシスト制御装置が、
前記アシスト量を、前記ブレーキ操作部材に加えられた操作力の変化に対する前記ブレーキシリンダ液圧の変化勾配が、前記バキュームブースタが助勢限界に達する前後で同じになる大きさに決定するアシスト量決定部を含み、前記ブレーキシリンダに前記動力式液圧源の液圧を供給することにより、前記アシスト量決定部によって決定されたアシスト量だけ前記ブレーキシリンダ液圧を前記マスタシリンダ液圧より大きくする前記助勢限界後アシスト制御としての効き特性制御を行う効き特性制御部と、
その効き特性制御部による制御中に、前記マスタシリンダの液圧と、その変化状態との少なくとも一方に基づき、その少なくとも一方で決まる減圧条件が成立した場合に、前記動力式液圧源の作動を停止させるとともに、前記効き特性制御部による制御を終了させて、前記アシスト量を小さくする前記助勢限界後アシスト制御としてのアシスト量減少制御を行うアシスト量減少制御部と
を含む(1)項に記載のブレーキ装置。
本項には、(3)項ないし(5)項のいずれか1つに記載の技術的特徴を採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施例であるブレーキ装置を示す図である。
【図2】上記ブレーキ装置に含まれるバキュームブースタおよびマスタシリンダの断面図である。
【図3】上記ブレーキ装置に含まれる圧力制御弁の作動を概念的に示す図である。
【図4】(a)上記ブレーキ装置における踏力とブレーキシリンダ液圧との関係を示す図である。(b)上記ブレーキ装置において効き特性制御が行われた場合の踏力とブレーキシリンダ液圧との関係を示す図である。(c)上記ブレーキ装置に含まれるブレーキECUの記憶部に記憶されたマスタシリンダと目標アシスト量との関係を示すテーブルである。(d)上記ブレーキECUの記憶部に記憶された目標アシスト量と圧力制御弁への供給電流との関係を示すテーブルである。
【図5】(a)上記ブレーキECUの記憶部に記憶された助勢限界時液圧と負圧値との関係を示すテーブルである。(b)負圧値が異なる場合の、マスタシリンダ液圧と踏力との関係を示す図である。
【図6】上記ブレーキECUの記憶部に記憶された助勢限界後アシスト制御プログラムを表すフローチャートである。
【図7】上記助勢限界後アシスト制御プログラムの一部(効き特性制御)を表すフローチャートである。
【図8】上記助勢限界後アシスト制御プログラムの別の一部(アシスト量減少制御)を表すフローチャートである。
【図9】上記ブレーキECUの記憶部に記憶された再開禁止フラグON/OFFプログラム表すフローチャートである。
【図10】上記再開禁止フラグON/OFFプログラムが実行された場合のマスタシリンダ液圧の変化の状態と再開禁止フラグのON・OFF状態とを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態であるブレーキ装置である液圧ブレーキ装置について図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0010】
[液圧ブレーキ回路]
図1に示す液圧ブレーキ装置において、ブレーキペダル10の踏力がバキュームブースタ12により倍力され、その倍力された踏力に応じた液圧がマスタシリンダ14に発生させられる。この液圧は、車輪に設けられたブレーキ16のブレーキシリンダ18に供給され、それによってブレーキ16が作動させられて車輪の回転が抑制される。また、ブレーキシリンダ18とマスタシリンダ14との間には、ブレーキシリンダ18の液圧を制御可能なアクチュエータである液圧制御ユニット20が設けられる。液圧制御ユニット20は、実行部、記憶部、入出力部等を含むコンピュータを主体とするブレーキECU24により制御され、ブレーキシリンダ18の液圧が制御される。
【0011】
マスタシリンダ14は、図2に示すように、タンデム式のものであり、ハウジングに、直列に摺動可能に嵌合された2つの加圧ピストン60a,60bを含む。加圧ピストン60a,60bの前方には、それぞれ、2つの加圧室61a,61bが形成される。
バキュームブースタ(以下、単にブースタと略称する)12は、中空のハウジング64と、ハウジング64内に設けられたパワーピストン66とを含み、パワーピストン66によりマスタシリンダ14の側の負圧室68とブレーキペダル10の側の変圧室70とに仕切られる。
パワーピストン66は、ブレーキペダル10側において、バルブオペレーティングロッド71(入力ロッド)を介してブレーキペダル10と連携させられ、マスタシリンダ14側において、リアクションディスク72を介してブースタピストンロッド74と連携させられている。ブースタピストンロッド74(出力ロッド)はマスタシリンダ14の加圧ピストン60aに連携させられ、パワーピストン66の作動力を加圧ピストン60aに伝達する。
【0012】
負圧室68と変圧室70との間に弁機構76が設けられている。弁機構76は、バルブオペレーティングロッド71とパワーピストン66との相対移動に基づいて作動するものであり、コントロールバルブ76aと、エアバルブ76bと、バキュームバルブ76cと、コントロールバルブスプリング76dとを備えている。エアバルブ76bは、コントロールバルブ76aと共同して変圧室70の大気に対する連通・遮断を選択的に行うものであり、バルブオペレーティングロッド71に一体的に移動可能に設けられている。コントロールバルブ76aは、バルブオペレーティングロッド71にコントロールバルブスプリング76dによりエアバルブ76bに着座する向きに付勢される状態で取り付けられている。バキュームバルブ76cは、コントロールバルブ76aと共同して変圧室70の負圧室68に対する連通・遮断を選択的に行うものであり、パワーピストン66に一体的に移動可能に設けられている。
【0013】
このように構成されたブースタ12において、非作動状態では、コントロールバルブ76aが、エアバルブ76bに着座する一方、バキュームバルブ76cから離間し、それにより、変圧室70が大気から遮断されて負圧室68に連通させられる。したがって、この状態では、負圧室68も変圧室70も共に等しい高さの圧力(大気圧以下の圧力)とされる。これに対して、作動状態では、バルブオペレーティングロッド71がパワーピストン66に対して相対的に接近し、やがてコントロールバルブ76aがバキュームバルブ76cに着座し、それにより、変圧室70が負圧室68から遮断される。その後、バルブオペレーティングロッド71がパワーピストン66に対してさらに相対的に接近すれば、エアバルブ76bがコントロールバルブ76aから離間し、それにより、変圧室70が大気に連通させられる。この状態では、変圧室70の圧力が大気圧に近づき、負圧室68と変圧室70との間に差圧が発生し、その差圧によってパワーピストン66が前進させられ、ブースタ12により倍力されたブレーキ操作力に応じた液圧がマスタシリンダ14に発生させられる。
負圧室68の圧力(以下、ブースタ負圧と略称することがある)は、ブースタ負圧センサ78によって検出され、マスタシリンダ14の加圧室61bの液圧はマスタシリンダ圧センサ79によって検出される。
【0014】
図1に示すように、本実施例に係る液圧ブレーキ装置においては前後2系統とされており、マスタシリンダ14の加圧室61bに右前輪、左前輪のブレーキ16のブレーキシリンダ18が接続され、加圧室61aに左後輪、右後輪のブレーキ16のブレーキシリンダ18が接続される。
以下、前輪のブレーキ系統について説明し、後輪のブレーキ系統については構造が同じであるため、説明を省略する。
【0015】
加圧室61bには、左前輪、右前輪のブレーキシリンダ18が、主通路80と、それぞれの個別通路82とによって接続される。個別通路82の各々には増圧弁84が設けられ、ブレーキシリンダ18の各々とリザーバ86とを接続するリザーバ通路には、それぞれ、減圧弁88が設けられる。
リザーバ86にはポンプ通路90が接続され、主通路80の増圧弁84の上流側に接続される。ポンプ通路90には、ポンプ92、吸入弁93,94、吐出弁96等が設けられる。ポンプ92はポンプモータ98によって駆動される。また、吸入弁93,94の間には、マスタシリンダ14が補給通路100を介して接続され、補給通路100には、補給弁102が設けられる。
なお、本実施例においては、図1に示すように、ポンプモータ98が前輪のブレーキ系統と後輪のブレーキ系統とで共通とされている。
【0016】
前記主通路80のポンプ通路90の接続部とマスタシリンダ14との間に圧力制御弁110が設けられる。圧力制御弁110は、ブレーキシリンダ18側の液圧とマスタシリンダ14側の液圧との差圧を制御するものであり、ブレーキシリンダ18の液圧をマスタシリンダ14の液圧に対して、制御差圧だけ高くする。
圧力制御弁110は、図3に示すように、図示しないハウジングと、弁子120および弁座122と、弁子120を弁座122から離間させる向きに付勢するスプリング126とを含む常開の電磁弁であり、主通路80に、弁子120に、ブレーキシリンダ18の液圧からマスタシリンダ14の液圧を引いた大きさの差圧が作用する姿勢で設けられる。ソレノイド128に電流が供給されると、弁子120を弁座122に接近させる向きの電磁力が作用する。
この圧力制御弁110において、ソレノイド128が励磁されない非作用状態(OFF状態)では開状態にある。ブレーキ操作が行われれば、ブレーキシリンダ液圧はマスタシリンダ液圧と同じとなり、マスタシリンダ液圧の増加に伴って増加させられる。
ソレノイド128が励磁される作用状態(ON状態)では、弁子120に、ブレーキシリンダ液圧とマスタシリンダ液圧との差に基づく力F2 とスプリング126の弾性力F3 との和と、ソレノイド128の電磁力に基づく吸引力F1 とが互いに逆向きに作用する。ブレーキシリンダ液圧とマスタシリンダ液圧との差圧に基づく力F2 は、弾性力F3 が同じ場合に、吸引力F1 が大きい場合は小さい場合より大きくなるのであり、ソレノイド128への供給電流の制御によって、これらの差圧が制御される。
なお、図1に示すように、圧力制御弁110と並列に逆止弁134、リリーフ弁136が設けられている。逆止弁134により、圧力制御弁110が異常であっても、マスタシリンダ14からブレーキシリンダ18へ向かう作動液の流れが許容される。また、リリーフ弁136により、ブレーキシリンダ側の液圧、すなわち、ポンプ92による吐出圧が過大となることを回避する。
本実施形態においては、圧力制御弁110,ポンプ92,ポンプモータ98等により液圧制御ユニット20が構成され、ポンプ92およびポンプモータ98により動力式液圧源148が構成される。
【0017】
[ブレーキECU24について]
ブレーキECU24の入力部には、図1に示すように、ブースタ負圧センサ78,マスタシリンダ圧センサ79に加えて、ブレーキスイッチ150,車輪速センサ152、大気圧センサ154等が接続される。
ブレーキスイッチ150は、ブレーキペダル10の操作状態にON信号を出力する。ブレーキスイッチ150はストップランプスイッチと称することもでき、図面等においてSTSWと略称することがある。
車輪速センサ152は、前後左右の各車輪毎に設けられ、各車輪の車輪速を表す車輪速信号を出力する。ブレーキECU24において、4輪の車輪速に基づいて車両の走行速度vが取得される。
大気圧センサ154は、例えば、車両の車室内に設けられ、車両が存在する大気圧を検出する。
ブレーキECU24の出力部には、ポンプモータ98が図示しない駆動回路を介して接続されるとともに、圧力制御弁110のソレノイド128、増圧弁84、減圧弁88および補給弁102のソレノイド160,162,164が、それぞれ、駆動回路を介して接続される。また、ブレーキECU24の記憶部には、複数のプログラム、テーブル等が記憶されている。
【0018】
本実施例においては、ブースタ12が助勢限界に達した後に、動力式液圧源148の液圧を利用して、ブレーキシリンダ18の液圧をマスタシリンダ14の液圧よりアシスト量だけ増圧する助勢限界後アシスト制御が行われる。助勢限界後アシスト制御には、効き特性制御とアシスト量減少制御とが含まれる。
[効き特性制御の概要]
ブースタ12は、ブレーキ操作力がある値まで増加すると、変圧室70の圧力が大気圧まで上昇し切ってしまい、助勢限界に達する。助勢限界後は、ブースタ12はブレーキ操作力を倍力することができないから、何ら対策を講じないと、図4(a)のグラフで表されているように、ブレーキの効きが、同じブレーキ操作力Fに対応する減速度(ブレーキシリンダ圧P Wの高さが助勢限界がないと仮定した場合におけるブレーキシリンダ圧PWの高さに対応する)より低下する。かかる事実に着目して効き特性制御が行われるのであり、具体的には、図4(b)のグラフで表されるように、ブースタ12が助勢限界に達した後に、動力式液圧源148を作動させてマスタシリンダ液圧PM より差圧ΔPcだけ高い液圧をブレーキシリンダ18に発生させ、それにより、ブースタ12の助勢限界の前後を問わず、ブレーキの効きを安定させる。
差圧ΔPc(換言すれば、差圧の目標値であり、以下、目標アシスト量と称する)は、ゲインαを用いて、式
ΔPc=(PM−PMB)・α・・・(1)
に従って求められるが、目標アシスト量ΔPcとマスタシリンダ液圧PM との関係を、予めROMに記憶しておくこともでき、その場合の一例を図4(c)に示す。
尚、図4(d)のグラフは、圧力制御弁110のソレノイド128への供給電流IPMと目標アシスト量ΔPc(後述する本目標アシスト量ΔPc*のことである)との関係を示し、これらの間の関係を表すテーブルは予めROMに記憶されている。
【0019】
また、ブースタ12が助勢限界に達した場合のマスタシリンダ液圧の大きさは、大気圧センサ154,ブースタ負圧センサ78の検出値に基づいて取得される。図5(b)に示すように、大気圧PAからブースタ負圧PBを引いた値である負圧値PBA(PBA=PA−PB)が大きい場合は小さい場合より助勢限界に達した場合のマスタシリンダ液圧(以下、助勢限界時液圧と称する)が大きくなる。
そのため、図5(a)に示すように負圧値PBAと助勢限界時液圧PMBとの関係を表すテーブルが予め記憶されており、ブレーキペダル10の非操作状態において取得された負圧値PBAに基づいて助勢限界時液圧PMBが取得される。
そして、マスタシリンダ液圧センサ79による検出値、すなわち、実際のマスタシリンダ液圧PMが助勢限界時液圧PMBに達した場合に効き特性制御が行われるのである。
【0020】
[アシスト量減少制御の概要]
本実施例において、効き特性制御中に、マスタシリンダ液圧PMの減少勾配dPM(本実施例において、減少勾配を正の値で示す。減少勾配が設定勾配(正の値)より大きいとは、減少勾配が設定勾配より急勾配であることをいう)が設定勾配dPMth以上になった場合にアシスト量減少制御が開始される。
アシスト量減少制御においては、ポンプ92が停止させられた状態で、アシスト量が低減させられる。マスタシリンダ液圧PMが助勢限界時液圧PMBより大きくても、アシスト量が減少させられる。
また、アシスト量減少制御が開始された場合には、再開禁止フラグがONとされ、許可条件が満たされるまで、効き特性制御の開始が禁止される。アシスト量減少制御と、効き特性制御とが交互に行われる制御ハンチングを防止するためである。
【0021】
図6のフローチャートで表される助勢限界後アシスト制御プログラムは、予め定められた設定時間毎に実行される。
S11において、ブレーキスイッチ(STSW)150がONであるか否かが判定される。ブレーキスイッチ150がOFFである場合には、S12,S13において、ブースタ負圧センサ78の検出値,大気圧センサ154の検出値が読み込まれ、S13において、負圧値PBAが取得され、負圧値PBAに基づいて助勢限界時液圧PMBが取得されて、記憶される。ブレーキスイッチ150がOFFの間、S11〜13が繰り返し実行されるのであり、S13においては、常に最新の助勢限界時液圧PMBが記憶されることになる。
ブレーキスイッチ150がONである場合には、S14において再開禁止フラグがOFFであるか否かが判定される。OFFである場合には、S15において、効き特性制御中であるか否か(ポンプモータ98が作動させられ、圧力制御弁110への供給電流が0より大きいか否か)が判定される。効き特性制御中でない場合には、S16において、効き特性制御の開始条件が満たされるか否かが判定される。開始条件は、(a)ブレーキスイッチ150がON状態にあること、(b)マスタシリンダ液圧センサ79による検出値PMが助勢限界時液圧PMB以上であること、(c)車両の走行速度vが停止状態にあるとみなし得る設定速度vthより大きいことの3つの条件を含むが、(a)については、S11において判定されたため、S16においては、(b)、(c)の条件を満たすか否かが判定される。
車両の走行速度vが設定速度vth以上であるが、マスタシリンダ液圧PMが助勢限界時液圧PMBに達する以前においては、S11,S14〜16が繰り返し実行され、助勢限界時液圧PMBに達した場合には、S17において、後述する、アシスト量減少制御開始済みフラグがOFFとされ、S18において、パラメータPMINが0とされ、S19において、効き特性制御が実行される。
【0022】
[効き特性制御]
効き特性制御の内容を図7のフローチャートに示す。
S41において、補給弁102が開状態に切り換えられて、ポンプモータ98を作動させることにより、前輪ブレーキ系統、後輪ブレーキ系統の両方のポンプ92が作動させられる。S42において、マスタシリンダ液圧センサ79による検出値PMと助勢限界時液圧PMBとに基づき式(1)に従って目標アシスト量ΔPcが暫定的に取得され、S43において、前回の本ルーチンの実行時に取得された最終的な目標アシスト量ΔPc(n-1)*(以下、本目標アシスト量と称する)と今回取得された暫定的な目標アシスト量ΔPc(n)との差dΔPcが取得される。
dΔPc=ΔPc(n)−ΔPc(n-1)*
そして、S44,S45において、差dΔPcが上限値γと下限値β(β<0)との間にあるか否かが判定される。上限値γ以上であるか否か、下限値β以下であるか否かが判定されるのである。
β<dΔPc<γ
差dΔPcが上限値γ、下限値βの間にある場合には、S46において、暫定的に取得された目標アシスト量ΔPc(n)が今回の本目標アシスト量ΔPc(n)*とされる。
ΔPc(n)*←ΔPc(n)
それに対して、差dΔPcが上限値γ以上である場合には、S47において、前回の本目標アシスト量ΔPc(n-1)*に上限値γを加えた値が今回の本目標アシスト量ΔPc(n)*とされ、
ΔPc(n)*←ΔPc(n-1)*+γ
下限値β以下である場合には、S48において、前回の本目標アシスト量ΔPc(n-1)*に下限値β(β<0)を加えた値が今回の本目標アシスト量ΔPc(n)*とされる。
ΔPc(n)*←ΔPc(n-1)*+β
そして、S49において、今回の本目標アシスト量ΔPc(n)*と図4(d)のテーブルとに基づいて、圧力制御弁110のソレノイド128への供給電流量IPM(n)が決定され、S50において、それに基づいて圧力制御弁110が制御される。
なお、最初に本ルーチンが実行される場合には、前回の本目標アシスト量ΔPc(n-1)*を0として演算が行われる。しかし、実際のマスタシリンダ液圧PMと助勢限界後液圧PMBとの差は小さいため、今回の本目標アシスト量ΔPc(n)*は上限値γ、下限値βとの間の値であると考えられる。
【0023】
一方、効き特性制御中である場合には、S15の判定がYESとなるため、S20において、減圧条件が満たされるか否かが判定され、減圧条件が満たされない間は、S19において、効き特性制御が継続して行われる。
減圧条件は、実際のマスタシリンダ液圧PMの時間に対する減少勾配dPMが予め定められた設定勾配dPMth以上である場合に成立する条件とされる。マスタシリンダ液圧PMの減少勾配dPMが設定勾配dPMth以上(減少勾配が急である)である場合には、運転者がブレーキ操作を緩める意図があるとみなし得るため、アシスト量が減少させられるのである。この意味において、設定勾配dPMthは、運転者がブレーキ力を小さくする意図を有するとみなし得る大きさとされるのであり、緩め判定しきい値と称することができる。
減圧条件が満たされない間、S11,S14,S15,S20,S19が繰り返し実行され、効き特性制御が行われる。
そのうちに、減圧条件が満たされると、S20の判定がYESとなり、S21において、アシスト量減少開始済みフラグがONとされて、S22において、アシスト量減少制御が行われる。
[アシスト量減少制御]
図8のフローチャートで表されるアシスト量減少制御ルーチンにおいて、S71において、補給弁102が閉状態とされて、ポンプモータ98が停止させられ、S72において、圧力制御弁110のソレノイド128への供給電流量IPM(n)が一定量ΔI減少させられる。S73において、供給電流量IPM(n)が0より大きいか否かが判定され、0より大きい場合には、圧力制御弁110のソレノイド128への供給電流が制御されるが、0以下である場合には、0とされる。圧力制御弁110は全開状態とされるのであり、実質的に非制御状態であるとされる。アシスト量減少制御が終了し、異常時効き特性制御が終了したとされる。
【0024】
一方、アシスト量減少制御が開始されると、再開禁止フラグがセットされる。そのため、S14の判定がNOとなり、S23において、アシスト量減少制御中であるか否か(ポンプモータ98が停止状態にあり、かつ、圧力制御弁110への供給電流が0より大きいか否か)が判定される。アシスト量減少制御中である場合には、S22において、アシスト量減少制御が継続して行われるが、アシスト量減少制御が終了した後には、S11,S14,S23が繰り返し実行される。このように、再開禁止フラグがONの間、S16が実行されないため、マスタシリンダ液圧が助勢限界時液圧より大きくても、効き特性制御が開始されることはない。
【0025】
図9のフローチャートで表される再開禁止フラグON/OFFプログラムは予め定められた設定時間毎に実行される。
S81において、車両の走行速度vが設定速度vth以下であること、ブレーキスイッチ150がOFFであることの少なくとも一方が成立するか否かが判定され、S82において、アシスト量減少制御開始済みフラグがONであるか否かが判定される。効き特性制御中においては、S81,S82の判定がNOとなるため、S83において、再開禁止フラグがOFFとされる。
それに対して、アシスト量減少制御が開始されると、アシスト量減少開始済みフラグがONとなる。S82の判定がYESとなり、S84において、アシスト量減少制御の開始から予め定められた設定時間Tthが経過したか否かが判定される。設定時間Tthが経過する前においては、S85において、再開禁止フラグがONとされる。それに対して、設定時間Tthが経過した後においては、S86において、マスタシリンダ液圧の最小値が取得され、S87において、実際のマスタシリンダ液圧PMが最小値PMINより設定値ΔP以上増加したか否かが判定される。設定値ΔP以上増加した場合には、踏み増しが行われたとされ、S83において再開禁止フラグがOFFにされる。設定値ΔP以上増加しない間は、再開禁止フラグはONの状態に保たれる。
【0026】
一方、アシスト量減少制御が開始されることにより、ポンプ92が停止させられ、補給弁102が閉状態に切り換えらると、液通路100内の作動液がマスタシリンダ14に戻り、マスタシリンダ液圧が増加することがある。しかし、このマスタシリンダ液圧の増加は、ブレーキペダル10の踏み増しに起因するものではない。そのため、アシスト量減少制御が開始された後、マスタシリンダ14への作動液の戻りに起因して液圧が増加するおそれがある時間の間、踏増しが行われたか否かが判定されないのであり、再開禁止フラグはON状態に保持されるのである。このアシスト量減少制御が開始された後、マスタシリンダ14への作動液の戻りに起因して液圧が増加するおそれがある時間に基づいて設定時間Tthが決定される。
また、設定値ΔPは、ブレーキペダル10の踏増しが行われたとみなし得る大きさである。この意味において、設定値ΔPは、踏増し判定しきい値と称することができる。
なお、踏増しが行われたことは、ブレーキペダル10のストロークを検出するストロークセンサ、ブレーキペダル10に加えられた踏力を検出する踏力センサを設け、これらの検出値に基づいて取得することもできる。
【0027】
また、走行速度vが設定速度vth以下であること、ブレーキスイッチ150がOFFであることとの少なくとも一方が成立した場合には、S88,S89において、再開禁止フラグ、アシスト量減少制御開始済みフラグがOFFにされるとともに、S90において、PMINが0にされる。
このように、アシスト量減少制御が開始された後に、マスタシリンダ液圧PMが最小値PMINから設定値ΔP以上増加したこと、走行速度vが設定速度vth以下になったこと、ブレーキスイッチ150がOFFになったことの少なくとも1つが満たされた場合に許可条件が満たされたとされ、再開禁止フラグがOFFとされる。
【0028】
特許文献1に記載のブレーキ装置と本実施例におけるブレーキ装置とを比較すると、特許文献1に記載のブレーキ装置においては、アシスト量が、常に、マスタシリンダ液圧と助勢限界時液圧との差に応じた大きさとされるため、マスタシリンダ液圧の減少に伴ってアシスト量が減少させられる。それに対して、本実施例におけるブレーキ装置においては、減圧条件が満たされた場合には、その後、マスタシリンダの液圧とは無関係に、アシスト量が減少させられる点が異なる。減圧条件が満たされた場合には、運転者がブレーキ力を小さくする意図を有すると考えられるため、その後、たとえ、マスタシリンダ液圧が一定に保持されてもアシスト量が減少させられるのであり、速やかにブレーキ力を小さくすることができる等の効果が得られる。
また、特許文献1に記載のブレーキ装置においては、効き特性制御中にポンプモータは作動状態に保持される。それに対して、本実施例におけるブレーキ装置においては、アシスト量減少制御中にポンプモータが停止させられる点が異なる。アシスト量を減少させる場合には、ブレーキシリンダに作動液を供給する必要がない。そのため、ポンプモータを作動させる必要がないのであり、停止させることにより、消費電力の低減を図ることができる。
【0029】
以下、具体的に説明する。
図10(a)において、時刻t0において、ブレーキスイッチ150がONであり、走行速度vが設定速度vthより大きい状態で、マスタシリンダ液圧PMが助勢限界時液圧PMB以上となることにより、効き特性制御が開始される。
時刻t1において、マスタシリンダ液圧の減少勾配dPMが設定勾配dPMth以上になり、減圧条件が満たされる。ポンプ92が停止させられるとともに効き特性制御が終了させられて、アシスト量減少制御が開始される。アシスト量が漸減させられるのであり、圧力制御弁110への供給電流が漸減させられる。
このように、アシスト量減少制御がマスタシリンダ液圧PMが助勢限界液圧PMBより大きい状態において開始されるため、マスタシリンダ液圧を速やかに減少させることができ、引きずりを抑制することができる。また、運転者がブレーキ力を小さくする意図を有するとみなし得る時期からアシスト量減少制御が開始されるため、運転者の意図に沿ってブレーキシリンダ液圧の制御することができる。さらに、アシスト量減少制御においては、ポンプ92が停止させられる。このように、不要なポンプ92の作動が停止させられるため、その分、消費エネルギの低減を図ることができる。
【0030】
また、アシスト量減少制御が開始されると再開禁止フラグがONにされる。そのため、マスタシリンダ液圧PMが助勢限界時液圧PMB以上であっても効き特性制御が開始されることがなく、制御ハンチングを防止することができる。
さらに、再開禁止フラグはブレーキペダル10の踏増しが行われた場合に、ONからOFFに切り換えられる。しかし、アシスト量減少制御開始時から設定時間Tthの間は再開禁止フラグは必ずONに保持される。そのため、マスタシリンダ液圧PMがポンプ92の停止に起因して増加させられても、踏増しが行われたと誤って判定されることを回避することができる。
そして、時刻t1から設定時間Tthを経過した後の時刻t2において、マスタシリンダ液圧PMが最小値PMINから設定値ΔP以上増加し、ブレーキペダル10の踏増しが検出されたため、再開禁止フラグがOFFとされる。その後、マスタシリンダ液圧PMが助勢限界時液圧PMB以上となり、効き特性制御の開始条件が満たされると、効き特性制御が開始される(t3)。
【0031】
それに対して、アシスト量減少制御開始後、踏増しが行われなかった場合には、図10(b)に示すように、時刻t4において、ブレーキスイッチ150がOFFになったこと、車速が設定速度vth以下になったこととの少なくとも一方が満たされたため、再開禁止フラグがOFFにされる。その後、ブレーキペダル10が操作された場合に、効き特性制御が許可される。
【0032】
以上のように、本実施例においては、ブレーキECU24のS19(S41〜50)を記憶する部分、実行する部分等により効き特性制御部が構成され、ブレーキECU24のS22(S71〜75)を記憶する部分、実行する部分等によりアシスト量減少制御部が構成され、これら効き特性制御部およびアシスト量減少制御部によってアシスト制御装置が構成される。また、ブレーキECU24の再開禁止フラグON/OFFプログラムを記憶する部分、実行する部分等により効き特性制御禁止部が構成される。そのうちの、S87,S83,S84を記憶する部分、実行する部分等により第1効き特性制御許可部が構成され、S81,S88を記憶する部分、実行する部分等により第2効き特性制御許可部が構成される。
【0033】
なお、図10においては、アシスト量減少制御において、アシスト量の減少勾配が、効き特性制御における減少勾配より大きくなる状態を示したが、効き特性制御における減少勾配とほぼ同じ勾配としたり、効き特性制御における減少勾配より緩やかな勾配(マスタシリンダ液圧が助勢限界液圧より小さくなってからアシスト量減少制御が終了することになる)としてもよい。
また、上記実施例に係るブレーキ装置には、大気圧センサ154とブースタ負圧センサ78との両方が設けられていたが、いずれか一方のみでもよい。大気圧センサ154の検出値、あるいは、ブレーキペダル10の非操作状態におけるブースタ負圧センサ78の検出値に基づいて助勢限界時液圧を取得することができるからである。大気圧が高い場合は低い場合より助勢限界時液圧が大きくなり、非操作状態におけるブースタ負圧が真空に近い場合は大気圧に近い場合より助勢限界時液圧が大きくなる。
【0034】
本発明は、上述に記載の態様の他、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0035】
12:バキュームブースタ 14:マスタシリンダ 16:液圧ブレーキ 18:ブレーキシリンダ 20:液圧制御ユニット 68:負圧室 70:変圧室 78:ブースタ負圧センサ 79:マスタシリンダ液圧センサ 92:ポンプ 98:ポンプモータ 110:圧力制御弁 126:ソレノイド 148:動力式液圧源 154:大気圧センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に設けられたブレーキ操作部材と、
そのブレーキ操作部材の操作により液圧を発生させるマスタシリンダと、
ブレーキシリンダを含み、そのブレーキシリンダの液圧により作動させられ、車輪の回転を抑制する液圧ブレーキと、
前記ブレーキ操作部材に連携させられた入力ロッドと、前記マスタシリンダの加圧ピストンに連携させられた出力ロッドと、負圧室および変圧室とを備え、それら変圧室と負圧室との差圧に基づいて、前記入力ロッドを介して入力されたブレーキ操作力を倍力して出力ロッドを介して前記マスタシリンダに出力するバキュームブースタと、
動力の供給により作動させられ、液圧を発生可能な動力式液圧源と、
前記バキュームブースタが助勢限界に達した後に、前記動力式液圧源の液圧を利用して、前記ブレーキシリンダの液圧を前記マスタシリンダの液圧よりアシスト量だけ増圧する助勢限界後アシスト制御を行うアシスト制御装置と
を含むブレーキ装置であって、
前記アシスト制御装置が、
前記アシスト量を、前記ブレーキ操作部材に加えられた操作力の変化に対する前記ブレーキシリンダ液圧の変化勾配が、前記バキュームブースタが助勢限界に達する前後で同じになる大きさに決定するアシスト量決定部を含み、そのアシスト量決定部によって決定されたアシスト量だけ前記ブレーキシリンダ液圧を前記マスタシリンダ液圧より大きくする前記助勢限界後アシスト制御としての効き特性制御を行う効き特性制御部と、
その効き特性制御部による制御中に、前記マスタシリンダの液圧とその変化状態との少なくとも一方に基づき、その少なくとも一方で決まる減圧条件が成立した場合に、前記効き特性制御部による制御を終了して、前記アシスト量を小さくする前記助勢限界後アシスト制御の一部としてのアシスト量減少制御を行うアシスト量減少制御部と、
そのアシスト量減少制御部によるアシスト量減少制御が開始された後、予め定められた許可条件が満たされるまでの間、前記効き特性制御部による効き特性制御の開始を禁止する効き制御禁止部と
を含むことを特徴とするブレーキ装置。
【請求項2】
前記アシスト制御装置が、前記アシスト量減少制御部によるアシスト量減少制御の開始後、前記ブレーキ操作部材の操作力の増加が検出された場合に前記許可条件が満たされたとして、前記効き特性制御部による効き特性制御の開始を許可する第1効き制御許可手段を含む請求項1に記載のブレーキ装置。
【請求項3】
前記アシスト制御装置が、前記アシスト量減少制御部によるアシスト量減少制御の開始後、前記ブレーキ操作部材の操作が解除された場合と、車両が停止状態になった場合との少なくとも一方の場合に、前記効き特性制御部による前記効き特性制御の開始を許可する第2効き制御許可手段を含む請求項1または2に記載のブレーキ装置。
【請求項4】
前記効き特性制御部が、前記動力式液圧源の液圧を前記ブレーキシリンダに供給することにより、前記ブレーキシリンダの液圧を前記アシスト量だけ前記マスタシリンダの液圧より大きくするものであり、前記アシスト量減少制御部が、前記動力式液圧源が停止している状態で前記アシスト量を小さくするものである請求項1ないし3のいずれか1つに記載のブレーキ装置。
【請求項5】
車両に設けられたブレーキ操作部材と、
そのブレーキ操作部材の操作により液圧を発生させるマスタシリンダと、
車輪に設けられたブレーキシリンダを含み、そのブレーキシリンダの液圧により作動させられ、前記車輪の回転を抑制する液圧ブレーキと、
前記ブレーキ操作部材に連携させられた入力ロッドと、前記マスタシリンダの加圧ピストンに連携させられた出力ロッドと、負圧室および変圧室とを備え、それら変圧室と負圧室との差圧に基づいて、前記入力ロッドを介して入力されたブレーキ操作力を倍力して出力ロッドを介して前記マスタシリンダに出力するバキュームブースタと、
動力の供給により作動させられ、液圧を発生可能な動力式液圧源と、
前記バキュームブースタが助勢限界に達した後に、前記動力式液圧源の液圧を利用して、前記ブレーキシリンダの液圧を前記マスタシリンダの液圧よりアシスト量だけ増圧する助勢限界後アシスト制御を行うアシスト制御装置と
を含むブレーキ装置であって、
前記アシスト制御装置が、
前記アシスト量を、前記ブレーキ操作部材に加えられた操作力の変化に対する前記ブレーキシリンダ液圧の変化勾配が、前記バキュームブースタが助勢限界に達する前後で同じになる大きさに決定するアシスト量決定部を含み、前記ブレーキシリンダに前記動力式液圧源の液圧を供給することにより、前記アシスト量決定部によって決定されたアシスト量だけ前記ブレーキシリンダ液圧を前記マスタシリンダ液圧より大きくする前記助勢限界後アシスト制御としての効き特性制御を行う効き特性制御部と、
その効き特性制御部による制御中に、前記マスタシリンダの液圧と、その変化状態との少なくとも一方に基づき、その少なくとも一方で決まる減圧条件が成立した場合に、前記動力式液圧源の作動を停止させるとともに、前記効き特性制御部による制御を終了させて、前記アシスト量を小さくする前記助勢限界後アシスト制御としてのアシスト量減少制御を行うアシスト量減少制御部と
を含むことを特徴とするブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−126354(P2011−126354A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−284860(P2009−284860)
【出願日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】