説明

プラズマエッチング方法および記憶媒体

【課題】無機膜をマスクとして有機膜をエッチングする場合に、ボーイング等のエッチング形状不良を生じさせずにエッチングすることができるプラズマエッチング方法を提供すること。
【解決手段】処理容器内に、その表面がシリコン含有物からなる上部電極と、被処理基板が載置される下部電極とが配置され、上部電極と下部電極との間にプラズマを形成して被処理基板に対してプラズマエッチングを行うプラズマエッチング装置を用い、無機膜をマスクとして被処理基板の有機膜をプラズマエッチングするにあたり、有機膜を途中までプラズマエッチングし、その後、プラズマを形成しつつ上部電極に負の直流電圧を印加して、エッチング部位の側壁に上部電極のシリコン含有物を含む保護膜を形成し、その後、プラズマエッチングを継続する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機膜をプラズマエッチングするプラズマエッチング方法および記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造プロセスにおいては、デザインルールの微細化にともない、ホールパターンやラインパターンのエッチングにおいて高アスペクト比のエッチングが要求されており、そのための技術として、フォトレジスト膜の下に無機膜とアモルファスカーボン等の有機膜とが積層された構造のマスク(多層レジスト)を用いた方法が提案されている。
【0003】
無機膜をマスクとしてアモルファスカーボン膜等の有機膜をエッチングする際には、エッチングガスとしてOガスやNガスを用いることが一般的に行われている(例えば特許文献1、2)。また、有機膜のエッチングにはHガスも用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−214465号公報
【特許文献2】特開2006−351862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、無機膜をマスクとしてアモルファスカーボン膜等の有機膜のエッチングを行う場合に、有機膜のエッチングが高アスペクト比になると、サイドエッチやボーイング等のエッチング形状不良が発生し、垂直加工および微細加工が困難となる。
【0006】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであって、無機膜をマスクとして有機膜をエッチングする場合に、ボーイング等のエッチング形状不良を生じさせずにエッチングすることができるプラズマエッチング方法およびその方法を実施するためのプログラムを記憶した記憶媒体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は、処理容器内に、その表面がシリコン含有物からなる上部電極と、被処理基板が載置される下部電極とが配置され、前記上部電極と前記下部電極との間にプラズマを形成して被処理基板に対してプラズマエッチングを行うプラズマエッチング装置を用い、無機膜をマスクとして被処理基板の有機膜をプラズマエッチングするプラズマエッチング方法であって、有機膜を途中までプラズマエッチングする第1エッチング工程と、前記第1エッチング工程の後、プラズマを形成しつつ前記上部電極に負の直流電圧を印加して、前記第1エッチング工程によるエッチング部位の側壁に前記上部電極の前記シリコン含有物を含む保護膜を形成する工程と、前記保護膜を形成する工程の後、プラズマエッチングを継続する第2エッチング工程とを有することを特徴とするプラズマエッチング方法を提供する。
【0008】
本発明において、前記第1エッチング工程と前記第2エッチング工程は、プラズマ生成ガスとしてOガスを含有するガスを用いて行うことができる。また、前記保護膜を形成する工程と、前記第2エッチング工程とを複数回繰り返すこともできる。さらに、エッチングの形状不良が生じる深さ位置を予め把握しておき、その位置に対応するタイミングで前記保護膜を形成する工程を行うことができる。
【0009】
前記保護膜を形成する工程は、Hガスを含有するガスのプラズマを用いて行うことができる。この場合に、前記保護膜を形成する工程に用いるプラズマは、さらにフッ素含有ガスを含んでもよい。
【0010】
前記保護膜を形成する工程の後に、フッ素含有ガスを含むプラズマによる処理を行ってもよい。
【0011】
また、本発明は、コンピュータ上で動作し、プラズマエッチング装置を制御するためのプログラムが記憶された記憶媒体であって、前記プログラムは、実行時に、上記プラズマエッチング方法が行われるように、コンピュータに前記プラズマエッチング装置を制御させることを特徴とする記憶媒体を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、無機膜を用いて被処理基板の有機膜をエッチングする際に、エッチングの途中で上部電極に負の直流電圧を印加して上部電極のシリコン含有物からなる保護膜をエッチング部位の側壁に形成するので、ボーイング等のエッチング形状不良を生じさせずにエッチングすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のプラズマエッチング方法を実施することが可能なプラズマエッチング装置を示す概略断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係るプラズマエッチング方法に適用される半導体ウエハの構造例を模式的に示す図である。
【図3】本発明の実施形態に係るプラズマエッチング方法を説明するためのフローチャートである。
【図4】本発明の原理を説明するための図である。
【図5】実験例におけるエッチング形状を従来方法と対比して示す図である。
【図6】他の実験例におけるエッチング形状を従来方法と対比して示す図である。
【図7】さらに他の実験例に用いた半導体ウエハの構造を模式的に示す図である。
【図8】さらに他の実験例におけるエッチング形状を従来方法と対比して示す走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して本発明の実施の形態について具体的に説明する。
<プラズマエッチング装置>
図1は、本発明の一実施形態に係るプラズマエッチング方法を実施するためのプラズマエッチング装置の一例を示す概略断面図である。
【0015】
このプラズマエッチング装置は、容量結合型平行平板プラズマエッチング装置として構成されており、例えば表面が陽極酸化処理されたアルミニウムからなる略円筒状のチャンバ(処理容器)10を有している。このチャンバ10は保安接地されている。
【0016】
チャンバ10の底部には、セラミックス等からなる絶縁板12を介して円柱状のサセプタ支持台14が配置され、このサセプタ支持台14の上に例えばアルミニウムからなるサセプタ16が設けられている。サセプタ16は下部電極を構成し、その上に被処理基板である半導体ウエハWが載置される。この半導体ウエハWには本発明のエッチング対象である有機膜が形成されている。
【0017】
サセプタ16の上面には、半導体ウエハWを静電力で吸着保持する静電チャック18が設けられている。この静電チャック18は、導電膜からなる電極20を一対の絶縁層または絶縁シートで挟んだ構造を有するものであり、電極20には直流電源22が電気的に接続されている。そして、直流電源22からの直流電圧により生じたクーロン力等の静電力により半導体ウエハWが静電チャック18に吸着保持される。
【0018】
静電チャック18(半導体ウエハW)の周囲でサセプタ16の上面には、エッチングの均一性を向上させるための、例えばシリコンからなる導電性のフォーカスリング(補正リング)24が配置されている。サセプタ16およびサセプタ支持台14の側面には、例えば石英からなる円筒状の内壁部材26が設けられている。
【0019】
サセプタ支持台14の内部には、例えば円周上に冷媒室28が設けられている。この冷媒室には、外部に設けられた図示しないチラーユニットより配管30a,30bを介して所定温度の冷媒、例えば冷却水が循環供給され、冷媒の温度によってサセプタ上の半導体ウエハWの処理温度を制御することができる。
【0020】
さらに、図示しない伝熱ガス供給機構からの伝熱ガス、例えばHeガスがガス供給ライン32を介して静電チャック18の上面と半導体ウエハWの裏面との間に供給される。
【0021】
下部電極であるサセプタ16の上方には、サセプタ16と対向するように平行に上部電極34が設けられている。そして、上部および下部電極34,16間の空間がプラズマ生成空間となる。上部電極34は、下部電極であるサセプタ16上の半導体ウエハWと対向してプラズマ生成空間と接する面、つまり対向面を形成する。
【0022】
この上部電極34は、絶縁性遮蔽部材42を介して、チャンバ10の上部に支持されており、サセプタ16との対向面を構成しかつ多数のガス吐出孔37を有する電極板36と、この電極板36を着脱自在に支持し、導電性材料、例えばアルミニウムからなる水冷構造の電極支持体38とによって構成されている。電極板36はシリコン含有物質、例えばSiやSiCで構成されている。電極支持体38の内部には、ガス拡散室40が設けられ、このガス拡散室40からはガス吐出孔37に連通する多数のガス通流孔41が下方に延びている。
【0023】
電極支持体38にはガス拡散室40へ処理ガスを導くガス導入口62が形成されており、このガス導入口62にはガス供給管64が接続され、ガス供給管64には処理に必要なガスを供給するガス供給源66が接続されている。ガス供給管64には、複数のガス配管が接続されており、これらガス配管には流量制御器および開閉バルブ(いずれも図示せず)が設けられている。そして、処理に必要なガスは、ガス供給源66からガス供給管64を介してガス拡散室40に至り、ガス通流孔41およびガス吐出孔37を介してシャワー状にプラズマ生成空間に吐出される。すなわち、上部電極34は処理ガスを供給するためのシャワーヘッドとして機能する。
【0024】
上部電極34には、ローパスフィルタ(LPF)51を介して可変直流電源50が電気的に接続されている。可変直流電源50は、負極が上部電極34側となるように接続されており、上部電極34にマイナスの電圧を印加するようになっている。可変直流電源50からの給電はオン・オフスイッチ52によりオン・オフが可能となっている。ローパスフィルタ(LPF)51は後述する第1および第2の高周波電源からの高周波をトラップするものであり、好適にはLRフィルタまたはLCフィルタで構成される。
【0025】
チャンバ10の側壁から上部電極34の高さ位置よりも上方に延びるように円筒状の接地導体10aが設けられている。
【0026】
下部電極であるサセプタ16には、第1の整合器46を介して、第1の高周波電源48が電気的に接続されている。第1の高周波電源48は、27〜100MHzの周波数、例えば40MHzの高周波電力を出力する。第1の整合器46は、第1の高周波電源48の内部(または出力)インピーダンスに負荷インピーダンスを整合させるもので、チャンバ10内にプラズマが生成されている時に第1の高周波電源48の出力インピーダンスと負荷インピーダンスが見かけ上一致するように機能する。
【0027】
また、下部電極であるサセプタ16には、第2の整合器88を介して第2の高周波電源90も電気的に接続されている。この第2の高周波電源90から下部電極であるサセプタ16に高周波電力が供給されることにより、半導体ウエハWに高周波バイアスが印加され半導体ウエハWにイオンが引き込まれる。第2の高周波電源90は、400kHz〜20MHzの範囲内の周波数、例えば13MHzの高周波電力を出力する。第2の整合器88は第2の高周波電源90の内部(または出力)インピーダンスに負荷インピーダンスを整合させるためのもので、チャンバ10内にプラズマが生成されている時に第2の高周波電源90の内部インピーダンスとチャンバ10内のプラズマを含めた負荷インピーダンスが見かけ上一致するように機能する。
【0028】
チャンバ10の底部には排気口80が設けられ、この排気口80に排気管82を介して排気装置84が接続されている。排気装置84は、ターボ分子ポンプなどの真空ポンプを有しており、チャンバ10内を所望の真空度まで減圧可能となっている。また、チャンバ10の側壁には半導体ウエハWの搬入出口85が設けられており、この搬入出口85はゲートバルブ86により開閉可能となっている。また、チャンバ10の内壁に沿ってチャンバ10にエッチング副生物(デポ)が付着することを防止するためのデポシールド11が着脱自在に設けられている。すなわち、デポシールド11がチャンバ壁を構成している。また、デポシールド11は、内壁部材26の外周にも設けられている。チャンバ10の底部のチャンバ壁側のデポシールド11と内壁部材26側のデポシールド11との間には排気プレート83が設けられている。デポシールド11および排気プレート83としては、アルミニウム材にY等のセラミックスを被覆したものを好適に用いることができる。
【0029】
デポシールド11のチャンバ内壁を構成する部分の半導体ウエハWとほぼ同じ高さの部分には、グランドにDC的に接続された導電性部材(GNDブロック)91が設けられており、これにより異常放電防止効果を発揮する。なお、この導電性部材91は、プラズマ生成領域に設けられていれば、その位置は図1の位置に限定されず、例えばサセプタ16の周囲に設ける等、サセプタ16側に設けてもよく、また上部電極34の外側にリング状に設ける等、上部電極近傍に設けてもよい。
【0030】
プラズマエッチング装置の各構成部、例えば電源系やガス供給系、駆動系、さらには、第1の高周波電源48、第2の高周波電源90、整合器46,88等は、マイクロプロセッサ(コンピュータ)を含む制御部(全体制御装置)100に接続されて制御される構成となっている。また、制御部100には、オペレータがプラズマエッチング装置を管理するためにコマンドの入力操作等を行うキーボードや、プラズマエッチング装置の稼働状況を可視化して表示するディスプレイ等からなるユーザーインターフェース101が接続されている。
【0031】
さらに、制御部100には、プラズマエッチング装置で実行される各種処理を制御部100の制御にて実現するための制御プログラムや、処理条件に応じてプラズマエッチング装置の各構成部に処理を実行させるためのプログラムすなわち処理レシピが格納された記憶部102が接続されている。処理レシピは記憶部102の中の記憶媒体に記憶されている。記憶媒体は、ハードディスクや半導体メモリであってもよいし、CDROM、DVD、フラッシュメモリ等の可搬性のものであってもよい。また、他の装置から、例えば専用回線を介してレシピを適宜伝送させるようにしてもよい。
【0032】
そして、必要に応じて、ユーザーインターフェース101からの指示等にて任意の処理レシピを記憶部102から呼び出して制御部100に実行させることで、制御部100の制御下で、プラズマエッチング装置での所望の処理が行われる。
【0033】
<プラズマエッチング方法の実施形態>
次に、このように構成されるプラズマエッチング装置により実施される、本発明の一実施形態に係るプラズマエッチング方法について説明する。
本実施形態では、一例として図2に示すような構造の半導体ウエハWを用い、その有機膜をプラズマエッチングする場合について図3のフローチャートを参照して説明する。
【0034】
ここで用いる半導体ウエハは、図示しない基板上に最終的なエッチング対象となる下層膜201、本実施形態でのエッチングが行われる有機膜202、有機膜202のエッチングマスクとなるハードマスク層(無機膜)203、有機系の反射防止膜(BARC)204、フォトレジスト膜205を順次形成した後、フォトレジスト膜205にフォトリソグラフィにより所定パターンを形成した構造を有している。このような構造は、上層の多層レジスト構造(202〜205)を用いてエッチング対象である下層膜201をエッチングするためのものであり、本実施形態では、最終的なエッチング対象膜である下層膜201をエッチングするためのマスクとなる有機膜202のエッチングを対象とする。
【0035】
本実施形態におけるエッチング対象膜である有機膜202としては、通常この分野で用いられる有機膜であれば制限はなく、アモルファスカーボン(a−C)やSOC(スピンオンカーボン)を好適に用いることができる。有機膜202の厚さは100〜1000nm程度である。
【0036】
ハードマスク層203としては、無機膜であれば特に制限はないが、SiON膜、SiC膜、SiN膜、SiO膜、SOG膜等、Si含有膜を好適に用いることができ、その厚さは10〜100nm程度である。反射防止膜(BARC)204としてはSiON膜や有機系のものを用いることができ、その厚さは20〜100nm程度である。フォトレジスト膜205は、典型的にはArFレジストであり、その厚さは20〜200nm程度である。
【0037】
本実施形態では、説明を簡略化するために、図2の状態から、フォトレジスト膜205をマスクとして反射防止膜(BARC)204およびハードマスク層203をエッチングした後の半導体ウエハについて、チャンバ10内に搬入し、サセプタ16上に載置してエッチングする場合について説明する。
【0038】
半導体ウエハWをサセプタ16上に載置(ステップ1)した後、排気装置84によりチャンバ10内を排気しながら、ガス供給源66からエッチングガスを所定の流量でガス拡散室40へ供給し、ガス通流孔41およびガス吐出孔37を介してチャンバ10内へ供給しつつ、その中の圧力を例えば5〜800mTorrの範囲とし、下部電極であるサセプタ16に第1の高周波電源48から27〜100MHz、例えば40MHzの比較的高い周波数のプラズマ生成用の高周波電力を100〜2000Wのパワーで印加し、かつ第2の高周波電源90から400kHz〜20MHz、例えば13MHzのイオン引き込み用の高周波電力を0〜2000Wのパワーで印加して、ハードマスク層203をマスクとして有機膜202に対してプラズマエッチングを行う(ステップ2)。このとき、エッチングガスとしては、Oガス、Oガス+COSガス、Nガス、Hガス等を好適に用いることができる。
【0039】
次に、エッチングガスを停止し、保護膜形成用の処理ガスに切り替え、チャンバ10内の圧力を例えば5〜800mTorrの範囲とし、プラズマ生成用の第1の高周波電源48からの高周波電力のパワーを低下させて100〜2000Wにし、第2の高周波電源90からの高周波電力のパワーを0〜2000Wにするとともに、可変直流電源50から電極板36に負の直流電圧を例えば100〜2000V印加し、エッチング部位の側壁に保護膜を形成する(ステップ3)。
【0040】
この際の処理ガスとしては、HガスまたはHガス+ArガスのようなH含有ガスを好適に用いることができる。Hガスはエッチングの荒れを低減する機能を有するため好ましいが、Hガス単独ではプラズマが立ち難く、Si含有物のスパッタ量も少ない傾向がある。したがって、このような点が問題となる場合には、Arガスを添加することが好ましい。Arガスを添加することによりプラズマが立ちやすくなり、かつSi含有物のスパッタ量を多くすることができる。
【0041】
この際の保護層形成のメカニズムについて図4を参照して説明する。
図4の(a)に示すように、第1の高周波電源48により形成されたプラズマ中には例えばArイオン(Ar)、Hイオン(H)、Hラジカル(H)が存在するが、Siを含む電極板36に可変直流電源50から負の電圧を印加すると、ArやHが電極板36に引き寄せられて電極板36に衝突し、電極板36を構成するSi含有物がたたき出され、Si含有物は半導体ウエハWに向けて降り注ぐ。このSi含有物は、図4の(b)に示すように、有機膜202に途中まで形成されたトレンチやホール等のエッチング部位210の側壁に付着し、これが保護層となって、ボーイング等のエッチング形状不良が抑制される。
【0042】
この場合に、溝幅が広いパターンのエッチングでは、溝底にSi含有物が付着してそのままでは正常なエッチングが行えないおそれがある。そのような場合には、HガスまたはHガスとArガスのプラズマ中に、さらに、例えばCF、CHF、CH、CHF、SF、NF等のF含有ガスを添加して溝底の余分なSi含有物を除去することが好ましい。また、直流電圧印加による保護層の形成の後にこのような溝底の余分なSi含有物をCF、CHF、CH、CHF、SF、NF等のF含有ガスのプラズマ処理により除去するようにしてもよい。なお、溝底が狭いパターンでは、垂直に入射してくるSi含有物は少ないため、このような溝底のSi含有物が少なくSi含有物質の除去は必ずしも必要はない。
【0043】
保護層を形成した後は、保護膜形成用の処理ガスを停止し、再びエッチングガスに切替え、第1および第2の高周波電源48、90のパワーおよびチャンバ10内の圧力を例えばステップ2と同様のエッチング条件に戻して有機膜202のエッチングを再開する(ステップ4)。
【0044】
このように、有機膜202のエッチングの途中で、上部電極34の電極板36に直流電圧を印加することにより、電極板36からSi含有物をたたき出してエッチング部位の側壁に付着させ、保護膜を形成し、その後にエッチングを再開するので、ボーイング等のエッチング形状不良を抑制することができる。
【0045】
ステップ3の保護膜形成工程とステップ4のエッチングとは複数回繰り返してもよい。ボーイング等が発生しやすい箇所が複数あるような場合には、このようにステップ3とステップ4とを複数回繰り返すことによりボーイング等のエッチング形状不良を抑制する効果をより高めることができる。
【0046】
また、1ステップエッチングで予めボーイングが大きい深さ位置を把握しおき、その位置に対応するタイミングで1回または複数回の保護膜形成工程を行うことが好ましい。これによりボーイング等のエッチング形状不良をより確実に抑制することができる。
【0047】
ステップ4のエッチングを所定のオーバーエッチング時間まで行った後、半導体ウエハWをチャンバ10から搬出する(ステップ5)。
【0048】
<実験結果>
次に、本発明の効果を実験によって確認した結果について以下に説明する。
ここでは、上記図2に示す構造を有し、有機膜202として厚さ200〜300nmのアモルファスカーボン、ハードマスク層203として厚さ20nmのSiONを用い、その上に厚さ24nmのBARC(有機系)204、厚さ90nmのフォトレジスト膜205が順次形成し、フォトレジスト膜205にフォトリソグラフィにより、Line
& Spaceパターンを形成した構造のものを用いた。
【0049】
このサンプルを図1の装置に搬入した後、従来のレシピである以下の1ステップのレシピAと、本発明のレシピである上記ステップ2〜4を以下の条件で行ったレシピBとでアモルファスカーボン膜のエッチングを行った。なお、第2の高周波電源からの高周波バイアスは、全て13Hz、0Wとした。
1.レシピA(1ステップ:従来)
チャンバ圧力:10mTorr
第1の高周波電源:40MHz、600W
エッチングガス:O/COS=300/60sccm
時間:75sec
2.レシピB(本発明)
・ステップ2
チャンバ圧力:10mTorr
第1の高周波電源:40MHz、600W
エッチングガス:O/COS=300/60sccm
時間:15sec
・ステップ3
チャンバ圧力:50mTorr
第1の高周波電源:40MHz、300W
処理ガス:H/Ar=100/800sccm
直流電圧:−900V
時間:10sec
・ステップ4
チャンバ圧力:10mTorr
第1の高周波電源:40MHz、600W
エッチングガス:O/COS=300/60sccm
時間:60sec
【0050】
これらエッチング処理を行った結果を図5に示す。
図5(a)に示すように、従来のレシピAで一度にエッチングを行った場合には、アモルファスカーボン膜の上部にサイドエッチが入り、ボーイング形状(CD=30nm)が発生し、微細加工が困難であることが確認された。
【0051】
これに対して、本発明のレシピBでは、従来と同様の条件でエッチングを行い、CD=20nmの状態で、途中でエッチングを停止し(ステップ2、図5(b))、直流電圧印加プラズマにより保護膜を形成し(ステップ3)、その後残部のエッチングを行う(ステップ4)。このため、ステップ4の残部のエッチングにおいても、図5(b)のCDが維持され、図5(c)に示すように垂直加工が可能であり、微細加工が可能であることが確認された。
【0052】
次に、上記実験と同様の有機膜について、ステップ2の第1段階のエッチングの時間を10sec、15sec、20secと変化させた後にステップ3の保護膜形成およびステップ4の残部のエッチング(オーバーエッチングを含む)を行った。また、比較のため、従来条件のエッチングも行った。その結果を図6に示す。ここでは、一番幅広の部分のCDをボーイングCDと定義する。
【0053】
図6(d)は従来のエッチングの状態であるが、ボーイングCD=27nmとなってボーイングが発生していた。
【0054】
これに対して、図6(a)はステップ2のエッチングを10sec(深さ56nm)まで行い、ボーイングCD=20nmの状態であったのが、その後、ステップ3を20secおよびステップ4を65sec行った結果、ボーイングCDが23nmとなってわずかにボーイング形状が発生したが、従来と比較するとボーイングの程度は小さかった。図6(b)はステップ2のエッチングを15sec(深さ79nm)まで行い、ボーイングCD=21nmの状態であったのが、その後、ステップ3を20secおよびステップ4を60sec行った結果、ボーイングCDが19nmとなってボーイング形状が発生しなかった。図6(c)はステップ2のエッチングを20sec(深さ117nm)まで行い、ボーイングCD=24nmの状態ですでにボーイング形状が発生していたのが、その後、ステップ3を20secおよびステップ4を55sec行った結果、ボーイングCDが23nmとなってボーイング形状がむしろ改善され、従来と比較するとボーイングの程度は小さかった。
【0055】
次に、他の実験結果について説明する。
ここでは、図7に示すように、Siウエハ上の下層膜201としてのSiN膜301の上に有機膜302としてSOC膜を200nmの厚さで形成し、その上にハードマスク層となるSi−ARC303を35nmの厚さで形成し、その上にArFフォトレジスト膜304を100nmの厚さで形成した後、フォトレジスト膜304にフォトリソグラフィにより所定パターンを形成した構造の半導体ウエハを用いた。
【0056】
このサンプルを図1の装置に搬入した後、従来のレシピである以下の1ステップのレシピCと、本発明のレシピである上記ステップ2〜4を以下の条件としたレシピDとでSOC膜のエッチングを行った。なお、第2の高周波電源からの高周波バイアスは、全て13Hz、0Wとした。
1.レシピC(1ステップ:従来)
チャンバ圧力:10mTorr
第1の高周波電源:40MHz、600W
エッチングガス:O/COS=300/60sccm
時間:35sec
2.レシピD(本発明)
・ステップ2
チャンバ圧力:10mTorr
第1の高周波電源:40MHz、600W
エッチングガス:O/COS=300/60sccm
時間:15sec
・ステップ3
チャンバ圧力:50mTorr
第1の高周波電源:40MHz、300W
処理ガス:H/CF/Ar=100/40/800sccm
直流電圧:−900V
時間:20sec
・ステップ4
チャンバ圧力:10mTorr
第1の高周波電源:40MHz、600W
エッチングガス:O/COS=300/60sccm
時間:22sec
【0057】
これらエッチング処理を行った結果を図8の電子顕微鏡(SEM)写真に示す。図8(a)に示すように、従来のレシピCで一度にエッチングを行った場合には、ボーイングCD(Bow)=48.2nm、ボトムCD(Btm)=39.3nm、ΔCD(Bow−Btm)=8.9nmであったのに対し、図8(b)に示すように、本発明のレシピDの場合には、ボーイングCD(Bow)=36.7nm、ボトムCD(Btm)=33.0nm、ΔCD(Bow−Btm)=3.7nmとなり、本発明によってボーイング形状が抑制されていることが確認された。
【0058】
<他の適用>
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されることなく種々変形可能である。例えば、上記実施形態では、本発明の方法を実施する装置として下部電極に周波数の異なる2つの高周波電力を印加する装置を示したが、これに限らず、下部電極にプラズマ生成用の一つの高周波電力を印加するようにしてもよいし、高周波電力を上部電極に印加するようにしてもよいし、上部電極にプラズマ生成用の高周波電力を印加し、下部電極にバイアス用の高周波電力を印加するようにしてもよい。また、上記実施形態では、ステップ3の保護膜を形成する工程のみに直流電圧を印加した例を示したが、ステップ2、ステップ4のエッチング工程において直流電圧を印加してもよい。さらに、上記実施形態においては、多層レジストの下層の有機膜のエッチングを行う場合について説明したが、シリンダー等のそれ自体が実用部位として用いる用途にも適用可能である。さらにまた、被処理基板は半導体ウエハに限らず、FPD(フラットパネルディスプレイ)等の他の基板にも適用可能である。
【符号の説明】
【0059】
10…チャンバ(処理容器)
16…サセプタ(下部電極)
34…上部電極
48…第1の高周波電源
50…可変直流電源
66…ガス供給源
90…第2の高周波電源
100…制御部
102…記憶部
W…半導体ウエハ(被処理基板)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理容器内に、その表面がシリコン含有物からなる上部電極と、被処理基板が載置される下部電極とが配置され、前記上部電極と前記下部電極との間にプラズマを形成して被処理基板に対してプラズマエッチングを行うプラズマエッチング装置を用い、無機膜をマスクとして被処理基板の有機膜をプラズマエッチングするプラズマエッチング方法であって、
有機膜を途中までプラズマエッチングする第1エッチング工程と、
前記第1エッチング工程の後、プラズマを形成しつつ前記上部電極に負の直流電圧を印加して、前記第1エッチング工程によるエッチング部位の側壁に前記上部電極の前記シリコン含有物を含む保護膜を形成する工程と、
前記保護膜を形成する工程の後、プラズマエッチングを継続する第2エッチング工程と
を有することを特徴とするプラズマエッチング方法。
【請求項2】
前記第1エッチング工程と前記第2エッチング工程は、プラズマ生成ガスとしてOガスを含有するガスを用いて行うことを特徴とする請求項1に記載のプラズマエッチング方法。
【請求項3】
前記保護膜を形成する工程と、前記第2エッチング工程とを複数回繰り返すことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のプラズマエッチング方法。
【請求項4】
エッチングの形状不良が生じる深さ位置を予め把握しておき、その位置に対応するタイミングで前記保護膜を形成する工程を行うことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のプラズマエッチング方法。
【請求項5】
前記保護膜を形成する工程は、Hガスを含有するガスのプラズマを用いて行うことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のプラズマエッチング方法。
【請求項6】
前記保護膜を形成する工程に用いるプラズマは、さらにフッ素含有ガスを含むことを特徴とする請求項5に記載のプラズマエッチング方法。
【請求項7】
前記保護膜を形成する工程の後に、フッ素含有ガスを含むプラズマによる処理を行うことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のプラズマエッチング方法。
【請求項8】
コンピュータ上で動作し、プラズマエッチング装置を制御するためのプログラムが記憶された記憶媒体であって、前記プログラムは、実行時に、請求項1から請求項7のいずれかのプラズマエッチング方法が行われるように、コンピュータに前記プラズマエッチング装置を制御させることを特徴とする記憶媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−204668(P2012−204668A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−68694(P2011−68694)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】