説明

プラズマ電極

【課題】耐絶縁性を向上させながらも、低電圧で安定的にプラズマ放電を行うためのプラズマ電極を提供する。
【解決手段】複数の貫通孔を有する金属基板2枚が平行に配設されたプラズマ電極10であって、該金属基板13,14の対向する面には、ブラスト加工、エッチング、プレス、電鋳加工などの表面加工により1〜500μmの凹凸が形成され、その上にコーティング層16が形成されており、前記2枚の金属基板に形成された貫通孔11,12は、その表面にダイヤモンドライクカーボン(DLC)、Si0などの絶縁膜17が形成されている。コーティング層16は、金属基板13,14の上にBaTiOなどの強誘電体薄膜が形成されたものであることが望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面改質、室内空気清浄、オゾン生成、除菌・殺菌、排ガス浄化、水浄化、水中の殺菌等のためのプラズマ放電を生起せしめるプラズマ電極に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、このようなプラズマ放電を生起せしめる放電電極は、産業分野から民生分野までさまざまな分野で用いられており、それぞれの用途に適応したものの研究開発が各方面で進められており、プラズマ電極は10〜100μm程度の極短ギャップにすることで約1kVという電圧で大気圧下においてのプラズマ放電を可能としている。
また、電極に使用する誘電体膜の材料には強誘電体であるチタン酸バリウムなどを、溶射などの手法によりコーティングしている。
【0003】
とりわけ、プラズマにより大気中の酸素からオゾンを生成せしめ、もって表面改質を図ろうとする利用分野では、例えば、下記特許文献1(特開2007−233475号公報)や特許文献2(特開2007−250284号公報)に示されるように、さまざまな放電電極が開発されてきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−233475号公報
【特許文献2】特開2007−250284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来技術に開示されたプラズマ電極は、チタン酸バリウムなどの強誘電体材料は、高価な電気材料であるため、コスト低減の大きな障害となっている。特に大気圧下における低電圧でのマイクロプラズマ放電には放電空間への電界集中を向上させる為、誘電体膜層の静電容量を高める必要が有り、それには、
(a)誘電体に誘電率の高い物質を使用する、
(b)誘電体膜層を薄膜化する、
ことが必要となる。
しかしながら上記(a)を考慮すると、絶縁体として一般的に使用される誘電体膜でアルミナ、窒化アルミニウム、石英、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)などの絶縁材料は誘電率の観点から適当ではない。
また、上記(b)の点から、強誘電体であるチタン酸バリウムなどは、一般的にPVD、CVD,DLC,ADといった手法でのコーティングは困難であり、溶射による皮膜形成は可能であるが、その際、ポーラス層が形成されるため、実効的誘電率および絶縁性に優れているとはいえず、耐絶縁性能を上げるためには膜厚を100μm程度確保する必要があった。
【0006】
また、絶縁性の優れた薄膜を形成した場合、PVD、CVD,DLC,ADなど手法で形成されたコーティング表面は均一性が高く、特に1kVといった低電圧では電界集中が起きない為、放電が成されないと云う問題点があった。
【0007】
本発明は、以上の問題点鑑み、耐絶縁性を向上させながらも、低電圧で安定的にプラズマ放電を行うためには材料の最適化と誘電体膜表面の状況が極めて重要であり、本発明にかかる観点からこれらを改善するためのプラズマ電極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明のプラズマ電極は、複数の貫通孔を有する金属基板2枚が平行に配設されたプラズマ電極であって、該金属基板の対向する面には、ブラスト加工、エッチング、プレス、電鋳加工などの表面加工により表面粗度Rz=1〜500μmの凹凸が形成され、その上にコーティング層が形成されており、前記2枚の金属基板に形成された貫通孔は、その表面にダイヤモンドライクカーボン(DLC)、Si0などの絶縁膜が形成されていることを特徴とする。
(2)本発明のプラズマ電極は、前記(1)において、前記コーティング層は、金属基板の上にBaTiOなどの強誘電体薄膜が形成されたものであることを特徴とする。
(3)本発明のプラズマ電極は、前記(1)において、前記コーティング層は、金属基板の上にBaTiOなどの強誘電体薄膜が形成され、さらにその上にDLC、Si0などの絶縁膜が形成されたものであることをことを特徴とする。
(4)本発明のプラズマ電極は、前記(1)において、前記コーティング層は、金属基板の上にDLC、Si0などの絶縁膜が形成され、さらにその上にBaTiOなどの強誘電体薄膜が形成されたものであることをことを特徴とする。
【0009】
(5)本発明のプラズマ電極は、前記(3)又は(4)において、前記絶縁膜は、その成分中に強誘電体材料を10〜90質量%含有していることを特徴とする。
(6)本発明のプラズマ電極は、前記(2)〜(5)のいずれかにおいて、前記強誘電体薄膜は、強誘電体粉体を接着して形成されたものであることを特徴とする。
(7)本発明のプラズマ電極は、前記(2)〜(5)のいずれかにおいて、前記強誘電体薄膜は、スクリーン印刷技術により強誘電体粉体を印刷、焼結したものであることを特徴とする。
(8)本発明のプラズマ電極は、前記(1)〜(7)のいずれかにおいて、前記コーティング層は、金属基板に形成された凹凸の一部を研磨して除去し、その上に形成されたものであることを特徴とする。
(9)本発明のプラズマ電極は、前記(1)〜(8)のいずれかにおいて、前記2枚の金属基板に形成された貫通孔は、金属基板における対向する位置がずれて配設されていることを特徴とする。
(10)本発明のプラズマ電極は、前記(1)〜(9)のいずれかにおいて、前記2枚の金属基板に形成された貫通孔は、一方の金属基板に形成された孔径が他方の金属基板に形成された孔径よりも大であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のプラズマ電極は、電極基板上に形成するコーティング層や、貫通孔表面に形成する絶縁膜の最適化を制御し、低電圧で安定的にプラズマ放電を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施の形態1のプラズマ電極の縦断面構造を示す概略説明図である。
【図2】実施の形態2のプラズマ電極の縦断面構造を示す概略説明図である。
【図3】実施の形態3のプラズマ電極の縦断面構造を示す概略説明図である。
【図4】実施の形態4のプラズマ電極の縦断面構造を示す概略説明図である。
【図5】実施の形態5のプラズマ電極の縦断面構造を示す概略説明図である。
【図6】実施の形態6のプラズマ電極の縦断面構造を示す概略説明図である。
【図7】実施例1のプラズマ電極の貫通孔表面に10μm厚のシリカ絶縁膜を形成した場合における、印加電圧と、放電電流及び発生するオゾン濃度との関係を示す。
【図8】実施例1のプラズマ電極の貫通孔表面に30μm厚のシリカ絶縁膜を形成した場合における、印加電圧と、放電電流及び発生するオゾン濃度との関係を示すグラフである。
【図9】実施例2のプラズマ電極を用いて行った、印加電圧とプラズマ放電電流との関係を示すグラフである。
【図10】実施例2のプラズマ電極を用いて行った、印加電圧と発生したオゾン濃度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のプラズマ電極は、複数の貫通孔を有する金属基板2枚が平行に配設されたプラズマ電極であって、該金属基板の対向する面には、ブラスト加工、エッチング、プレス、電鋳加工などの表面加工により表面粗度Rz=1〜500μmの凹凸が形成され、その上にコーティング層が形成されており、前記貫通孔の表面にダイヤモンドライクカーボン(DLC)、Si0などの絶縁膜が形成されていることを特徴とする。
また、前記コーティング層は、金属基板の上にBaTiOなどの強誘電体薄膜が形成されたもの、金属基板の上にBaTiOなどの強誘電体薄膜が形成されさらにその上にDLC、Si0などの絶縁膜が形成されたもの、金属基板の上にDLC、Si0などの絶縁膜が形成されさらにその上にBaTiOなどの強誘電体薄膜が形成されたものが挙げられる。
また、前記DLC、Si0などの絶縁膜は、その成分中に強誘電体材料を10〜90質量%含有していることを特徴とする。
また、前記強誘電体薄膜は、強誘電体粉体を接着して形成されたものや、スクリーン印刷技術により強誘電体粉体を印刷、焼結したものや、また、金属基板に形成された凹凸の一部を研磨して除去し、その上に形成されたものが挙げられる。
また、前記2枚の金属基板に形成された貫通孔は、金属基板における対向する位置がずれて配設されているものや、一方の金属基板に形成された孔径が他方の金属基板に形成された孔径よりも大であるものが挙げられる。
【0013】
以下、実施形態によって、本発明のプラズマ電極をさらに説明する。
<実施形態1>
図1は、実施形態1のプラズマ電極の断面図である。図1に示すように、プラズマ電極10は、2枚の金属基板13,14を組合わせて平行に配設されている。金属基板13,14の組合わせに際して、金属基板13,14に形成されている複数の貫通孔11,12は、互いにその位置を一致するように配設されており、2枚の金属基板に形成されている貫通孔を通過させる流体を通りやすくしている。
【0014】
また、図1に示すように、プラズマ電極10は、その周縁部分に非導電体スペーサ15を介在させることにより、2枚の金属基板13,14を平行に配設している。
さらに、金属基板13,14の対向する面は、ブラスト加工、エッチング、プレス、電鋳加工などの表面加工手段により表面粗度Rz=1〜500μmの凹凸が形成されており、その上にコーティング層16が形成されていることを特徴とする。
【0015】
次に、実施形態1のプラズマ電極の各部をより詳細に説明する。
(金属基板)
金属基板13,14を構成する素材としては、大気を供給して大気圧プラズマを発生させる電極として用いるため、高温での耐酸化性を有する材料が好ましい。具体的には、マルテンサイト系ステンレス鋼(martensitic stainless steels)、フェライト系ステンレス鋼(ferritic stainless steels)、オーステナイト系ステンレス鋼(austenitic stainless steels)、オーステナイト・フェライト系ステンレス鋼(austenitic-ferritic stainless steels)、析出硬化系ステンレス鋼(precipitation hardening stainless steels)等のステンレス鋼が挙げられる。このうち、非磁性体のオーステナイト系の18%クロム−8%ニッケル(18−8)ステンレス鋼を好ましく採用することができる。なお、本実施形態では、高温での耐酸化性を有する一例として上記のステンレス鋼を挙げたが、ステンレス鋼に限らず他の金属を用いることもできる。
【0016】
(金属基板の厚み)
また、金属基板13,14の厚みとしては、0.1〜2mmとすることが好ましい。厚みが0.1mm未満では、電極表面への加工が困難(若しくはコスト高)になるという問題があり、2mmを超えると重量が重たくなり電極として取扱いが困難となり好ましくない。
また、金属基板13,14の形状は、本実施形態では平板としているが、プラズマ放電の安定性などに影響を及ぼさないのであれば、その形状は特に限定されない。例えば、所定の曲率をつけた管状とすることもできる。
【0017】
(貫通孔)
また図示するように、対向する金属基板13,14には、その厚み方向に貫通させた貫通孔11,12が多数形成されている。貫通孔11,12は種々の形状を採用することができる。円形が広く採用されるが、楕円、三角形、四角形、六角形、瓢箪形、またはこれらの組合せなど種々の形状を採用することができる。
また、貫通孔11,12は四角形を細長くしたスリット状としても良い。スリット状とする場合は、非貫通部分の幅と貫通孔部分の幅や、縦横の長さ比は使用の態様によって適宜最適なものとすることができる。
なお、貫通孔11,12の断面形状は、金属基板の表裏で大きさが同じになるようにストレート形状とすることが、流体の流通抵抗を低減化させる観点から好ましいが、ストレート形状ではなく金属基板の表裏で大きさが異なっていてもよい。
【0018】
(貫通孔表面の絶縁膜)
また、貫通孔の表面には、空気中の水分、油分などによる汚れ性の改善および放電抑制を改善するため、電気絶縁性の絶縁膜17を形成している。
絶縁膜の材料としては、撥水性を持つものが好ましく用いられ、DLC、シリカ、シリコーン樹脂、テフロン(登録商標)又はフッ素含有成分などやこれらの材料を組み合わせたものが挙げられる。
絶縁膜の厚さとしては、プラズマ電極10の印加電圧である1〜2kVでアーク放電に移行しない程度で十分である。例えば、1〜50μmであれば、材料の対絶縁性によるが2000V程度の絶縁性は保たれる。
絶縁膜形成手段としては、DLCは、PVD(Physical Vapor Deposition)、CVD(Chemical Vapor Deposition),AD(Aerosil Deposition)などの薄膜生成技術により、貫通孔11,12の内部に薄膜を廻りこみ形成させることができる。特に、CVD手段を用いることによって、静電力により貫通孔11,12内部にまで薄い絶縁膜17を形成することができ好適である。
また、シリカ、シリコーン樹脂、テフロン(登録商標)などは、吹き付け塗装などの手段によっても絶縁膜を形成することができる。
【0019】
(貫通孔の配置)
プラズマ電極10は、複数の貫通孔11,12を有した金属基板13,14を2枚対向して組み合わせた構造とすることが好ましい。電極に対して直角方向に流体を通過させるので、貫通孔11,12の位置を互いに一致させて配設していることによって、ガスや液体などの流体を淀みなく通過させることができるのである。
なお、金属基板13,14間に生成させたプラズマをプラズマ電極10の外部に引き出すためには、貫通孔11,12の位置をずらしたり、2枚の金属基板13,14に形成させた貫通孔の大きさを異ならせたりすることもできる。
【0020】
(表面凹凸)
金属基板13,14の対向面は、プラズマ放電を発生させる面であることから、絶縁性や比誘電率などが高いコーティング層16を形成するとともに、プラズマ放電を発生しやすくするため凹凸状態とすることが好ましい。このような凹凸状態を形成させるには、従来、金属基板上に強誘電体材料を溶射法によって直接吹き付けて形成していたが、溶射材料の粒径によっては電極表面の面粗度を均質できず、プラズマ放電の安定化が困難であった。溶射材料の粒径を均一にしようとすればコストアップの要因となっていた。
そこで、本実施形態においては、下地となる金属基板13,14の対向する面を、ショットブラスト、エッチング、プレス、電鋳加工などの手段によって、表面粗度Rz=1〜500μmの凹凸状とした。
Rzが1μm未満では、プラズマ中に活性種を生成するための放電ギャップ(平行に配設された金属基板の間隔)が確保できないからであり、500μmを超えると、プラズマ生成に必要な印加電圧が2kV以上となり、絶縁膜が破壊されアーク放電に移行する危険性を持つため好ましくない。
【0021】
そして、凹凸状とした金属基板13,14の表面の上にコーティング層16を形成する。
コーティング層16の材料としては、絶縁性、比誘電率、2次電子放出係数、耐スパッタ性、耐熱性、などがそれぞれ高いことが望ましいことから強誘電体の薄膜が好ましく用いられる。
絶縁性が低いと電極に印加された電圧により、誘電体が絶縁破壊し火花放電が発生し望ましくない。絶縁破壊電圧としては、5000V以上の材料が好ましい。
また、比誘電率が低いと、放電時に外部電極と逆の極性の壁電圧が生じ、放電電流の時間的増加を抑制することが不可能となり安定な放電を維持できなくなるためである。よって、比誘電率が3以上の材料を用いることが好ましい。
2次電子放出係数が低いと、放電開始電圧を下げることが不可能となるためである。2次電子放出係数としては、Arより電離エネルギーの大きいガスのイオンに対して0.1以上の材料が好ましい。
さらに、耐スパッタ性が低いと、プラズマ、ラジカル、イオン等のアタックによる強誘電体薄膜の損耗を増加するからである。
耐熱性が低いと、表面処理もしくは成膜処理に際し、ガス成分を電極に付着させないために電極を加熱することができなくなるからである。耐熱性としては、200℃以上の材料を使用することが好ましい。
【0022】
強誘電体薄膜の材料としては、SiO、Al、MgO、ZrO、Y、PbZrO−PbTiO、BaTiO、TiO、ZnO等が挙げられる。また、これらを混合して複合酸化物として用いることもできる。中でも、Al、BaTiO、TiOが、比誘電率、耐絶縁性、触媒効果という観点から好適に採用できる。
【0023】
コーティング層16の膜厚については、絶縁性と誘電性と耐スパッタ性を総合的に勘案する必要がある。膜厚が薄いと絶縁性と耐スパッタ性は低下するが、誘電性は向上する。反対に、膜厚が厚いと絶縁性と耐スパッタ性は向上するが、誘電性は低下する。薄くても絶縁性と耐スパッタ性が高い材料を金属基板に形成し、誘電性を向上させることが必要であり、その膜厚は1μm以上500μm以下とする。1μm未満であると電極劣化による火花放電への移行し易く、500μmを超えると、電極生成のコスト増を招き好ましくない。
【0024】
コーティング層の形成手段としては、DLCは、PVD、CVD,ADなどの薄膜生成技術により、電極基板の対向する面に薄膜を形成させることができる。
また、溶射などの手段によって、薄膜よりも厚いコーティング層を形成することができる。
【0025】
(非導電体スペーサ)
また図示するように、プラズマ電極10は、金属基板13,14の放電距離間を所定の間隔(電極間ギャップ)に保つために、プラズマ電極10の周縁部分に非導電体スペーサ15を介在させて、金属基板13,14を平行に配設している。
非導電体スペーサ15の厚みは、プラズマ電極10の周縁部分に設けられる厚みによって異なるが、金属基板13,14の放電距離間を所定の間隔(例えば、5〜500μm)に保つことができる。
スペーサ15の材質としては、耐久性やコストの観点から、ポリエチレン樹脂、テフロン(登録商標)樹脂などの、合成樹脂フィルムが好ましく用いられる。
【0026】
(電圧の印加方法)
次に、このプラズマ電極10への電圧の印加方法について説明する。プラズマ電極10は強誘電体薄膜16を介在させているので、金属基板間に直流的な電流は流れない。そのため、プラズマ電極10では、電圧を印加する2枚の金属基板13,14の間には相対的に交流となる電圧を供給する。その波形はトランス交流電圧を印可した正弦波でもパルス電圧を印可した矩形のパルス波、あるいは鋸歯状波などでもよい。
印加電圧の波高値は、概ね500V〜2kV程度の範囲である。
平均電流は電極の面積に依存するが、概ね20mA〜10A程度の範囲である。
また、電源の周波数は1kHz〜1000MHzといった低周波から超高周波に至る領域のいずれの帯域でもよいが、電極温度上昇などを考慮して10kHz〜100kHz程度の帯域の周波数が好ましい。
なお、プラズマ電極10の加熱温度は、室温〜300℃が好ましく、より好ましくは、室温〜100℃の範囲内である。
【0027】
(実施形態1の効果)
以上のように構成された、実施形態1のプラズマ電極10は、電極基板13,14の表面は、ブラスト加工、エッチング、プレス、電鋳加工などの手段によって凹凸が形成されているので、電極基板表面の面粗度を制御して均質化することができる。
さらに電極基板13,14の凹凸状表面に、均質性の高いコーティング膜16を形成しているので、プラズマ放電開始電圧を一定値として安定させることができる。
さらに、貫通孔の表面に絶縁膜を形成しているので、耐湿性が向上するという効果がある。
なお、本発明において、コーティング層と絶縁層として区別しているが、それらの機能は重複している場合もあり、誘電率ε=10以上の特性を備えているものをコーティング層とし、誘電率ε=10未満のものを絶縁層としている。
【0028】
<実施形態2>
図2は、実施形態2のプラズマ電極の概略断面図である。図2に示すように、実施形態2のプラズマ電極10は、金属基板13,14の対向する面に、ブラスト加工、エッチング、プレス、電鋳加工などの表面加工手段により形成した凹凸の凸部を研磨し、その上にコーティング層16を形成している点で、実施形態1のプラズマ電極と異なるが、その他の点では実施形態1のプラズマ電極と同一である。すなわち、コーティング層の表面粗さが大きい状態の金属基板を対向させてプラズマ電極とすると、一番山の高いところでコーティング層が接触し、山の低い部分では未だコーティング層が接触していない状態となり、プラズマ放電が均一でなくなり、不安定となるので好ましくない。
実施形態2の、金属基板に形成された凹凸を研磨手段により均一化したプラズマ電極によって、プラズマ持続を均一かつ安定化させることができる。
【0029】
<実施形態3>
図3は、実施形態3のプラズマ電極の概略断面図である。図3に示すように、実施形態3のプラズマ電極10は、金属基板13,14の対向する面上のコーティング層16の上に、さらに絶縁膜18を形成している点で実施形態1のプラズマ電極と異なるが、その他の点では実施形態1のプラズマ電極と同一である。すなわち、コーティング層16の上にさらに絶縁膜18を形成することで、対向する金属基板間でのアーク放電を防止でき、電界集中に有利であり、低電圧(0.5−2kV)でのプラズマ放電を可能とするとともに、ガス中の水分、ほこり、油分に対しても電極表面を保護する効果を持ち、よりプラズマ持続の安定化が実現できる。
【0030】
絶縁膜18の材料としては、DLC、シリカ、シリコーン樹脂、テフロン(登録商標)などやこれらを組み合わせたものが好ましい。シリコーン樹脂、テフロン(登録商標)などは、湿気に対して強いので、湿度の高い雰囲気で使用するプラズマ電極に好適である。絶縁膜18の厚さとしては、例えば、1〜50μmで十分である。
絶縁膜18の形成手段としては、DLCは、PVD、CVD,ADなどの薄膜生成技術により、貫通孔の内部に廻りこみ形成させることができる。シリカ、シリコーン樹脂、テフロン(登録商標)などは、吹き付け塗装などの手段も挙げられる。
なお、コーティング層の中に、粒径1μm以下程度の強誘電体材料を10〜90%混入しておくことで、絶縁性の高い強誘電体薄膜とすることもでき、この場合は絶縁膜を省略することも可能である。
また、金属基板13,14の裏面(プラズマ放電に晒されない面)にも絶縁膜を形成することができ、この場合は、無駄なプラズマ放電を抑制できるのでより好ましい。
また、実施形態3のプラズマ電極は絶縁膜18を形成しているため、誘電体材料粒径の緻密さ、ポーラス状況および誘電体材料特性によらず、コーティング層として用いる高価な強誘電体薄膜の厚みを薄く設定することが可能となり、プラズマ電極製造のコスト低減につなげることができる。
なお、コーティング層の中に混入する強誘電体材料を10%未満とすると、強誘電体層としての効果が薄く、90%を超えると、絶縁膜としての機械的強度が不十分となる恐れがあるため、10〜90%とすることが好ましい。
【0031】
<実施形態4>
図4は、実施形態4のプラズマ電極の概略断面図である。図4に示すように、実施形態4のプラズマ電極は、金属基板13,14の対向する面上に絶縁膜18を形成し、さらにその上にコーティング層16を形成している点で実施形態3のプラズマ電極と異なるが、その他の点では実施形態3のプラズマ電極と同一である。すなわち、金属基板13,14の対向する面上に形成された絶縁膜18とコーティング層16の積層順が実施形態3のプラズマ電極と異なる。
実施形態4のプラズマ電極も、コーティング層として用いる高価な強誘電体薄膜の厚みを薄く設定することが可能となり、プラズマ電極製造のコスト低減につなげることができる。
【0032】
<実施形態5>
図5は、実施形態5のプラズマ電極の概略断面図である。図5に示すように、実施形態4のプラズマ電極10は、2枚の金属基板に形成された貫通孔11,12が、金属基板において対向する位置がずれて配設されている点で実施形態1のプラズマ電極と異なるが、その他の点では実施形態1のプラズマ電極と同一である。
このように貫通孔11,12の位置をずらすことにより、プラズマ電極で生成されたプラズマにより金属基板13,14間に発生させた化学活性種(ラジカル、準安定励起分子、イオン等)をプラズマ電極10の外部に引き出しやすくなるという効果がある。
【0033】
<実施形態6>
図6は、実施形態6のプラズマ電極の概略断面図である。図6に示すように、実施形態4のプラズマ電極10は、一方の金属基板13に形成された貫通孔11の大きさが他方の金属基板14に形成された貫通孔12の大きさよりも小である点で実施形態1のプラズマ電極と異なるが、その他の点では実施形態1のプラズマ電極と同一である。
このように貫通孔の大きさを異ならしめることにより、実施形態5と同様に、プラズマ電極で生成されたプラズマにより、金属基板13,14間に発生させた化学活性種(ラジカル、準安定励起分子、イオン等)をプラズマ電極10の外部に引き出しやすくなるという効果がある。
【0034】
<実施例1>
以下、実施例を用いて、本発明を更に詳細に説明する。
金属基板13,14の素材として、18−8ステンレス製の、厚み:0.5mm、外径:100mmの円板を作製した。この素材を、プレスにて打ち抜き多数の円形状の貫通孔11,12を形成しプラズマ電極用の金属基板を作成した。貫通孔のサイズは外径:0.2mmとし、開口面積率は50%とした。この金属基板13,14の表面にショットブラスト加工を施し、表面粗度Rz=10μmの凹凸状とした。
次に、凹凸の上に、溶射によって膜厚200μmのコーティング層(強誘電体BaTiO)を形成した。この金属基板13,14の2枚をコーティング層を対向させ、その周縁に、ポリエチレンフィルムからなる非導電体スペーサ15を挿入して、加熱接合して実施例1のプラズマ電極10とした。
なお、2枚の電極基板の貫通孔の位置は上下同じ位置となるように組み立てた。このプラズマ電極を用いて以下の実験を行った。
図7、図8は、貫通孔表面にシリカの絶縁膜を形成したプラズマ電極における、印加電圧と、放電電流及び発生するオゾン濃度との関係を示す。図7はシリカの絶縁膜の厚みが10μmであり、図8はシリカの絶縁膜の厚みが30μmである。
図7、図8から、シリカの絶縁膜の厚みが10μmでは、電極耐久性の観点から印加電圧を1.2kVとしており、その結果として放電電流は200mA以下となり、オゾン濃度も20ppm以下となった。
通常、貫通孔表面にシリカの絶縁膜が形成されていないと、1.5kV程度でアーク放電に移行する場合があるが、図8に示すように、シリカの絶縁膜の厚みが30μmにすると、プラズマ放電電圧を1.5kV以上にしてもアーク放電に移行することもなく、電極耐久性に問題が無かった。結果として、プラズマ放電電流は350mA以上、発生したオゾン濃度も50ppmに達した。
【0035】
<実施例2>
実施例1では金属基板表面に形成した凹凸を表面粗度G3:Rz=10μmとしたが、実施例2では、この表面粗度Rzを2種類(G2:Rz=18μm,G4:Rz=11.8μm)追加した。それ以外は実施例1に用いたと同じプラズマ電極を用いて実験を行った。
図9は、印加電圧とプラズマ放電電流との関係を示す。図9の結果から、印加電圧を増加させると放電電流も増加する傾向が分かる。但し、表面粗度をG2としたものでは、表面の凹凸が大きくなったことによって、印加電圧の高い領域では電流が他の粗さのものよりも大きくなったことが分かる。
図10は、印加電圧と発生したオゾン濃度との関係を示す。図10の結果から、表面粗度Rzが粗い場合(G2)は、印加電圧を増加させても、0.7kVではオゾンが生成されず、0.8kVから急激に生成される。
表面粗度Rzが(G2)よりも小さい場合(G3)では、印加電圧の増加とともに徐々にオゾンが生成されることが分かる。これらの結果から、表面粗度Rzが小さい場合のほうが、オゾン生成の制御性が良いことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明のプラズマ電極は、電極基板上に形成するコーティング層や、貫通孔表面に形成する絶縁膜の最適化を制御し、低電圧で安定的にプラズマ放電を行うことができ、産業上の利用可能性が極めて高い。
【符号の説明】
【0037】
10 プラズマ電極
11,12 貫通孔
13,14 金属基板
15 非導電体スペーサ
16 コーティング層(強誘電体薄膜)
17、18 絶縁膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の貫通孔を有する金属基板2枚が平行に配設されたプラズマ電極であって、
該金属基板の対向する面には、ブラスト加工、エッチング、プレス、電鋳加工などの表面加工により表面粗度Rz=1〜500μmの凹凸が形成され、
その上にコーティング層が形成されており、
前記2枚の金属基板に形成された貫通孔は、その表面にダイヤモンドライクカーボン(DLC)、Si0などの絶縁膜が形成されていることを特徴とするプラズマ電極。
【請求項2】
前記コーティング層は、金属基板の上にBaTiOなどの強誘電体薄膜が形成されたものであることを特徴とする請求項1に記載のプラズマ電極。
【請求項3】
前記コーティング層は、金属基板の上にBaTiOなどの強誘電体薄膜が形成され、
さらにその上にDLC、Si0などの絶縁膜が形成されたものであることをことを特徴とする請求項1に記載のプラズマ電極。
【請求項4】
前記コーティング層は、金属基板の上にDLC、Si0などの絶縁膜が形成され、
さらにその上にBaTiOなどの強誘電体薄膜が形成されたものであることをことを特徴とする請求項1に記載のプラズマ電極。
【請求項5】
前記絶縁膜は、その成分中に強誘電体材料を10〜90質量%含有していることを特徴とする請求項3又は4に記載のプラズマ電極。
【請求項6】
前記強誘電体薄膜は、強誘電体粉体を接着して形成されたものであることを特徴とする請求項2〜5のいずれかに記載のプラズマ電極。
【請求項7】
前記強誘電体薄膜は、スクリーン印刷技術により強誘電体粉体を印刷、焼結したものであることを特徴とする請求項2〜5のいずれかに記載のプラズマ電極。
【請求項8】
前記コーティング層は、金属基板に形成された凹凸の一部を研磨して除去し、
その上に形成されたものであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のプラズマ電極。
【請求項9】
前記2枚の金属基板に形成された貫通孔は、金属基板における対向する位置がずれて配設されていることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のプラズマ電極。
【請求項10】
前記2枚の金属基板に形成された貫通孔は、一方の金属基板に形成された孔径が他方の金属基板に形成された孔径よりも大であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のプラズマ電極。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−182026(P2012−182026A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−44504(P2011−44504)
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【出願人】(507302737)
【Fターム(参考)】