説明

プリプレグ及び積層板

【課題】成形加工時及び使用後焼却する際に、ダイオキシン及びホスフィンが発生せず、難燃剤がブリードアウトせず、且つ耐熱性、難燃性及び電気特性に優れたプリプレグ及び積層板を提供する。
【解決手段】一般式(1):


で表わされる化合物と、アミノ基と反応する官能基を2個以上有する樹脂を含む組成物を、繊維強化材からなる基材に含浸してなるプリプレグ及び上記プリプレグに金属箔を積層し成形してなる積層板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリプレグ及び積層板に関するものである。詳細には、本発明は、電子材料として用いられるプリプレグ及び積層板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、熱硬化性樹脂(例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂及びメラミン樹脂等)及び熱可塑性樹脂(例えば、ABS樹脂、AS樹脂、PET樹脂、PBT樹脂及びPMMA樹脂等)を含む樹脂組成物に難燃性を付与する場合、難燃剤として有機ハロゲン化合物が配合されてきた。かかる有機ハロゲン化合物を含む樹脂組成物は、難燃性に優れているものの、成形加工時に加熱する際及び使用後に焼却する際に、環境に悪影響を与える猛毒のダイオキシン類を発生するという問題があった。そのため、有機ハロゲン化合物に代わる難燃剤として、トリアルキルホスフェート及びトリアリールホスフェート等のリン酸エステル系化合物を樹脂組成物に配合することが提案されている。
しかしながら、上記リン酸エステル系化合物は、樹脂組成物に配合した場合、加水分解してフリーのリン酸イオンを発生し易く、硬化物の電気的特性を劣化させてしまう。
【0003】
そこで、かかる加水分解を防止する難燃剤として縮合型リン酸エステルを用いることが提案されている(例えば、特許文献1及び2)。また、かかる縮合型リン酸エステルを配合した樹脂組成物をプリプレグ及び積層板に用いることも提案されている(例えば、特許文献3及び4)。
【0004】
【特許文献1】特開平5−1079号公報
【特許文献2】特開平8−277344号公報
【特許文献3】特開2005−15510号公報
【特許文献4】特開平11−60909号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような縮合型リン酸エステルを樹脂組成物に十分な難燃性が発現するまで配合すると、かかる樹脂組成物から得られる硬化物(例えば、プリプレグ及び積層板)の表面に縮合型リン酸エステルがブリードアウトしたり、硬化物の耐熱性(ガラス転移温度)が低下するという問題があった。
従って、本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、成形加工時に加熱する際及び使用後に焼却する際にダイオキシン類が発生しないと共に、難燃剤のブリードアウトが生じず、且つ耐熱性、難燃性及び電気特性に優れたプリプレグ及び積層板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、次の一般式(1):
【0007】
【化1】

【0008】
(式中、X、X、X、X及びXは、同一でも異なっていてもよく、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基である)で表わされるアミノ基含有リン酸エステル化合物と、アミノ基と反応する官能基を1分子中に2個以上有する樹脂とを含む難燃性樹脂組成物を、繊維強化材からなる基材に含浸、乾燥してなることを特徴とするプリプレグである。
また、本発明は、前記プリプレグに金属箔を積層し、加熱下で加圧成形してなることを特徴とする積層板である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、成形加工時に加熱する際及び使用後に焼却する際にダイオキシン類が発生しないと共に、難燃剤のブリードアウトが生じず、且つ耐熱性、難燃性及び電気特性に優れたプリプレグ及び積層板を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のプリプレグは、所定の難燃性樹脂組成物を、繊維強化材からなる基材に含浸、乾燥してなる。
本発明で用いられる難燃性樹脂組成物は、所定の一般式で表されるアミノ基含有リン酸エステル化合物と、アミノ基と反応する官能基を1分子中に2個以上有する樹脂とを含む。
本発明において使用可能なアミノ基含有リン酸エステル化合物は、次の一般式(1):
【0011】
【化2】

【0012】
(式中、X、X、X、X及びXは、同一でも異なっていてもよく、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基である)で表わされる。
かかる一般式(1)で表されるアミノ基含有リン酸エステルの製造方法は、特に制限されることはなく、従来公知の方法に従って製造することができる。かかる方法の中でも、所定の一般式で表されるアミノフェノール化合物と、所定の一般式で表されるジクロロリン酸化合物とを、無機塩基性化合物の存在下、非プロトン性有機溶媒中で反応させる方法は、1段階の反応によって容易に調製することができるので生産効率及びコストの面において好ましい。
本発明において使用可能なアミノフェノール化合物は、次の一般式(4)で表される。
【0013】
【化3】

【0014】
このようなアミノフェノール化合物としては、例えば、o−アミノフェノール、m−アミノフェノール及びp−アミノフェノールを挙げることができる。また、アミノフェノール化合物は、アルキル基及びアルコキシ基等の置換基を有していてもよい。
本発明において使用可能なジクロロリン酸化合物は、次の一般式(5)で表される。
【0015】
【化4】

【0016】
上記式中、X、X、X、X及びXは、同一でも異なっていてもよく、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基である。
このようなジクロロリン酸化合物としては、例えば、フェニルジクロロリン酸、2−メチルジクロロリン酸、4−メチルフェニルジクロロリン酸、2,6−ジメチルフェニルジクロロリン酸、2,4,6−トリメチルフェニルジクロロリン酸、4−エチルフェニルジクロロリン酸及び4−プロピルフェニルジクロロリン酸等を挙げることができる。
【0017】
アミノフェノール化合物とジクロロリン酸化合物との割合は、ジクロロリン酸化合物の塩素原子1当量に対して、アミノフェノール化合物が1.0〜3.0当量であることが好ましく、1.1〜1.6当量であることがより好ましい。アミノフェノール化合物が1.0当量未満であると、アミノ基含有リン酸エステル化合物の所望の収率が得られないことがあり、また3.0当量を超えると、未反応のアミノフェノール化合物の量が多すぎ、経済的でないことがあるので好ましくない。
【0018】
本発明において使用可能な無機塩基性化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウム等の水酸化物や、炭酸塩等を挙げることができる。これらの中でも、炭酸ナトリウム及び炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩は、反応の選択性を高め、副反応生成物の量を少なくすることができるので好ましい。
無機塩基性化合物の使用量は、ジクロロリン酸化合物の塩素原子1当量に対して、1.0〜4.0当量が好ましく、1.1〜3.0当量がより好ましい。無機塩基性化合物の使用量が1.0当量未満では、反応において発生する塩素イオンを十分にトラップできず、反応系が酸性となって反応速度が低下することがあるので好ましくない。一方、無機塩基性化合物の使用量が4.0当量を超えると、過剰の無機塩基性化合物が多すぎ、経済的ではないことがあるので好ましくない。
【0019】
本発明において使用可能な非プロトン性有機溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン及びキシレン等の芳香族系;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン及びジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系;アセトニトリル等のニトリル系を挙げることができる。これらの中でも、アセトニトリルは、アミノフェノール化合物及びジクロロリン酸化合物の溶解性に優れるので好ましい。
非プロトン性有機溶媒の使用量は、アミノフェノール化合物及びジクロロリン酸化合物を溶解し得る量であれば良く、特に限定されることはない。
【0020】
アミノ基含有リン酸エステル化合物の製造方法において、上記成分の添加順序は特に制限されることはないが、副反応を抑えてアミノ基含有リン酸エステル化合物の収率を高める観点からは、アミノフェノール化合物を溶解させた非プロトン性有機溶媒に無機塩基性化合物を溶解又は分散させ、その後にジクロロリン酸化合物をゆっくり加えることが好ましい。
反応温度は、使用する非プロトン性有機溶媒の種類等によって変化するが、一般に40〜100℃が好ましい。反応温度が40℃未満であると、所望の反応速度が得られないことがあり、また100℃を超えると副反応による生成物が増加することがあるので好ましくない。
反応時間は、上記成分の使用量等によって変化するが、一般に0.5〜10時間が好ましい。反応時間が0.5時間未満であると、アミノフェノール化合物とジクロロリン酸化合物との反応が十分でないことがある。一方、反応時間が10時間を超えると、副反応が起こって所望の収率が得られなかったり、また経済的にも好ましくないことがある。
【0021】
反応終了後、濾過及び洗浄等の公知方法によって、反応物からアミノ基含有リン酸エステル化合物を単離することができる。
具体的には、反応物を濾過することによって、触媒及び生成した塩等の不純物を反応物から除去する。次いで、濾液を減圧濃縮した後、該濾液に多量の水を加えることによって固形物を析出させる。次いで、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の無機アルカリを加えてよく撹拌することで、固形物中に含まれる未反応のアミノフェノールを水に可溶化させる。次いで、該固形物を濾過した後、水等を用いて該固形物を洗浄し、乾燥させることによってアミノ基含有リン酸エステル化合物を得ることができる。
【0022】
かかるアミノ基含有リン酸エステル化合物は、分子中にハロゲン原子を有しておらず、成形加工時に加熱する際及び使用後に焼却する際にダイオキシン類を発生することがないので、難燃剤として樹脂組成物に配合することができる。
【0023】
上記一般式(1)で表されるアミノ基含有リン酸エステル化合物の中でも、次の一般式(2)で表されるアミノ基含有リン酸エステル化合物は、優れた難燃性を有しているので難燃剤として有用であり、また上記製造方法における収率が高いので経済性にも優れている。
【0024】
【化5】

【0025】
上記一般式(2)中、X、X、X、X及びXは、同一でも異なっていてもよく、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基である。
また、次の一般式(3)で表されるアミノ基含有リン酸エステル化合物は、より優れた難燃性を有しているので難燃剤として有用である。
【0026】
【化6】

【0027】
上記一般式(3)中、X、X、X、X及びXは、同一でも異なっていてもよく、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基である。
上記一般式(2)で表わされるアミノ基含有リン酸エステル化合物の中でも、次の化学式(I)で表される化合物は、より優れた難燃性を有し、また上記製造方法における収率が高いので、難燃剤として使用するのに好ましい。さらに、次の化学式(II)で表される化合物は、上記特性に加えて、耐加水分解性にも優れているので、難燃剤として使用するのにより好ましい。
【0028】
【化7】

【0029】
【化8】

【0030】
また、上記一般式(3)で表わされるアミノ基含有リン酸エステル化合物の中でも、次の化学式(III)で表される化合物は、特に優れた難燃性を有しているので難燃剤として使用するのに好ましい。また、次の化学式(IV)で表される化合物は、上記特性に加えて、耐加水分解性にも優れているので、難燃剤として使用するのにより好ましい。
【0031】
【化9】

【0032】
【化10】

【0033】
本発明で用いられる難燃性樹脂は、上記のアミノ基含有リン酸エステル化合物に加えて、アミノ基と反応する官能基を1分子中に2個以上有する樹脂を含む。ここで、アミノ基と反応する官能基とは、例えば、エポキシ基及びイソシアネート基等の基を意味する。かかる官能基は、樹脂組成物を硬化させるのに有用な基である。このような官能基を有する樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂及びウレタン樹脂等を挙げることができる。これらの中でも、硬化系に容易に組み込むことができ、また難燃性がより高いという点で、エポキシ樹脂がより好ましい。
難燃性樹脂組成物に使用可能なエポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールビフェニレン型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、及びグルシジルアミン型エポキシ樹脂、含リンエポキシ樹脂等の1分子中に2個上のエポキシ基を有する樹脂を挙げることができ、これらは単独又は混合して使用することができる。
【0034】
また、本発明における難燃性樹脂組成物は、硬化物の物性を調整する観点から、アミノ基含有リン酸エステル化合物以外のジアミン化合物を含むことが可能である。かかるジアミン化合物としては、ヘキサメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、m−キシレンジアミン、イソホロンジアミン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ジアミノジフェニルメタン及びジアミノジフェニルスルホン等を挙げることができ、これらは単独又は混合して使用することができる。
【0035】
かかるジアミン化合物の配合量は、難燃性を損なわない範囲であれば特に限定されることはないが、一般に、難燃性樹脂組成物における有機成分中のリン含有量が0.5〜4.0質量%の範囲となるように配合することが好ましい。かかるリン含有量が0.5質量%未満であると、所望の難燃性が得られないことがあるので好ましくない。また、リン含有量が4.0質量%を超えると、基材への密着性等の物性が低下してしまうことがあるので好ましくない。
【0036】
アミノ基含有リン酸エステル化合物、及び任意の上記ジアミン化合物と、エポキシ樹脂との割合は、(アミノ基)/(エポキシ基)の当量比が、0.25〜0.75であることが好ましく、0.40〜0.60であることがより好ましい。かかる当量比が0.25未満又は0.75を超えると、硬化物の架橋密度が低くなり、機械的強度が低下するので好ましくない。
【0037】
また、本発明における難燃性樹脂組成物は、粘度を低減させる観点から、アミノ基及び樹脂の官能基に対して不活性な溶媒を含むことが可能である。かかる溶媒としては、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、酢酸エチル、酢酸ブチル、ジエチレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、γ−ブチロラクトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ベンゼン、トルエン及びキシレン等を挙げることができる。かかる溶媒の配合量は、上記アミノ基含有リン酸エステル化合物、エポキシ樹脂及び任意のジアミン化合物の合計100質量部に対して10〜200質量部であることが好ましい。かかる溶媒の配合量が10質量部未満であると、所望の粘度低減効果が得られないことがあるので好ましくない。一方、かかる溶媒の配合量が200質量部を超えると、樹脂組成物の粘度が低すぎて、塗付時に液ダレが生じてしまうことがあるので好ましくない。
【0038】
さらに、本発明における難燃性樹脂組成物は、樹脂組成物の粘度及び硬化性、並びに硬化物の物性を調整する観点から、アミノ基と反応する官能基を1分子中に2個以上有する樹脂以外の熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂;反応性希釈剤;有機溶剤;顔料;炭酸カルシウム、硫酸バリウム、アルミナ、タルク、シリカ及びガラス粉等の無機フィラー;酸化防止剤、沈降防止剤、分散剤、レベリング剤、シランカップリング剤等の各種添加剤;水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム及び膨張黒鉛等の無機系難燃剤を含むことが可能である。これら成分の中でも、無機系難燃剤は、難燃性樹脂組成物に配合すると、アミノ基含有リン酸エステル化合物による難燃性と無機系難燃剤による難燃性との相乗効果を得ることができるので好ましい。また、これら成分の配合量は、本発明の難燃性樹脂組成物の特性を損なわない範囲であれば特に制限されることはなく、使用目的等にあわせて適宜調整すればよい。
【0039】
本発明のプリプレグは、上記の難燃性樹脂組成物を、繊維強化材からなる基材に含浸、乾燥してなるものである。
本発明のプリプレグにおいて使用可能な繊維強化材としては、特に制限されることはなく、プリプレグの基材として用いられる公知のものを使用することができる。かかる繊維強化材の例としては、カーボン繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、シリコンカーバイド繊維等を挙げることができる。また、繊維強化材からなる基材の厚さは、特に制限されることはなく、使用の目的に応じて適宜調節すればよいが、一般に100〜1000μmである。
本発明のプリプレグにおける繊維強化材の含有量は、使用する繊維強化材及び難燃性樹脂組成物の種類によって適宜調節すればよいが、一般に難燃性樹脂組成物100質量部に対して、繊維強化材が5〜500質量部であることが好ましく、10〜300質量部であることが好ましい。
また、含浸方法及び乾燥方法は、特に制限されることはなく、従来公知の方法に従って行うことができる。具体的には、難燃性樹脂組成物を繊維強化材からなる基材に含浸させた後、50〜150℃の温度で1〜30分乾燥させればよい。
【0040】
このようにして得られたプリプレグは、金属箔を積層し、加熱下で加圧成形をすることにより積層板とすることができる。ここで、プリプレグは、1枚のみならず、任意枚数を適宜積層して用いることも可能である。また、金属箔は、プリプレグの少なくとも片面(例えば、片面又は両面)に積層することも可能である。
本発明の積層板に使用可能な金属箔としては、特に制限されることはなく、金属箔として用いられる公知の材料を使用することができる。かかる金属箔としては、アルミニウム、銅、ニッケル又はこれらの合金等からなる金属箔が挙げることができる。これらの中でも、物理的、電気的性能の観点から銅箔及び銅を主成分とする合金箔が好ましい。かかる金属箔の厚さは、特に制限されることはなく、使用の目的に応じて適宜調節すればよいが、一般に10〜50μmである。
加熱温度及び圧力の条件としては、使用するプリプレグ及び金属箔の種類によって適宜調節すればよいが、一般に加熱温度は150〜250℃であることが好ましく、また圧力は0.1〜2MPaであることが好ましい。また、かかる温度及び圧力には、10〜180分付すことが好ましい。
【0041】
このようにして製造される本発明の積層板では、難燃剤であるアミノ基含有リン酸エステル化合物が樹脂マトリックス中に組み込まれるので、難燃剤のブリードアウトが生じないと共に、難燃性や耐熱性に優れている。さらに、本発明の積層板では、金属箔との密着性にも優れている。したがって、本発明の積層板は、電子基板用積層板(プリント配線板)として使用することができる。
【0042】
また、本発明で用いられる難燃性樹脂組成物は、難燃性や耐熱性に優れると共に、金属箔との密着性が良好な硬化物を与えるので、フレキシブルプリント配線板に用いられるポリイミドと銅箔との粘接着剤、ポリイミド製カバーレイの接着剤、ソルダーレジスト、半導体の封止材、アンダーフィル材、層間絶縁膜等の電子材料としても使用することができる。さらに、本発明で用いられる難燃性樹脂組成物は、電子材料のみならず、電気機器のハウジング、並びに建築物及び車両等の構造材に用いるFRP等にも使用することができる。
なお、これらの用途に用いる場合、難燃性樹脂組成物の成形には従来公知の方法を使用することができる。具体的には、溶融注型法、圧縮成形機により加熱加圧する圧縮成形法、可塑化された成形材料を加熱した金型キャビティ内に圧入して成形するトランスファ成形法、プリフォームに樹脂を含浸させて圧縮成形するマッチドダイ成形法、SMC法、BMC法、一方向繊維に樹脂を含浸させた後ダイ中で硬化させる引き抜き成形法、樹脂を含浸したロービングを芯材に巻き付けるフィラメントワインディング法、RIM法等を使用することができる。
【実施例】
【0043】
以下に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は実施例に何ら限定されるものではない。
実施例及び比較例で製造した難燃性樹脂組成物の硬化物の特性評価は、次の測定によって行った。
(1)難燃性評価(酸素指数)
酸素指数による難燃性評価は、JIS K 7201−2の「酸素指数による燃焼性の試験方法」に準拠して求めた。この評価において、酸素指数の値は、大きいほど難燃性が大きいことを意味する。
(2)難燃性評価(UL規格94V法)
UL規格94V法による難燃性評価は、UL(Under Writers Laboratories Inc)が制定した垂直燃焼試験によって行った。この評価において、燃焼性に従いV−0〜V−3の区分に分けた。
(3)銅箔ピール強度
銅箔ピール強度は、JIS C 6481の「プリント配線板用銅張積層板試験方法」に準拠し、ORIENTEC RTM−1Tを用いて求めた。
(4)耐熱性
耐熱性は、JIS C 6481の「プリント配線板用銅張積層板試験方法」に準拠し、試験温度を250℃、試験時間を60分とし、n=3で目視により観察した。この評価において、試験片に膨れ等の異常が発生しない状態のものを「合格」とした。
(5)はんだ耐熱
はんだ耐熱は、JIS C 6481の「プリント配線板用銅張積層板試験方法」に準拠し、260℃の半田に積層板を120秒浸漬した時の膨れ発生の有無を目視で観察することにより評価した。この評価において、膨れ発生が認められないものを「合格」とした。
【0044】
[2,6−ジメチルフェニルジクロロリン酸の合成]
107.7g(0.882mol)の2,6−ジメチルフェノール、80.7ml(0.884mol)のオキシ塩化リン、1.5gの無水塩化カルシウムを、攪拌装置、乾燥窒素導入管、温度計、適下漏斗及びコンデンサーを備えた4つ口フラスコに仕込み、4つ口フラスコ内を乾燥窒素雰囲気とした。内容物を撹拌しながら15時間加熱還流を行い、得られた反応生成物を減圧下蒸留することにより、119.4g(収率56.7%)の2,6−ジメチルフェニルジクロロリン酸を得た。
【0045】
[アミノ基含有リン酸エステル化合物の調製]
(合成例1:ビス(4−アミノフェニル)フェニルホスフェート(4−APP)の調製)
165g(1.66mol)の無水炭酸カリウム、及び700gの脱水処理したアセトニトリルと101g(0.926mol)のp−アミノフェノールとの混合液を、攪拌装置、乾燥窒素導入管、温度計、適下漏斗及びコンデンサーを備えた4つ口フラスコに仕込み、4つ口フラスコ内を乾燥窒素雰囲気とした。内容物を攪拌しながら60〜65℃に昇温した後、65.1g(0.309mol)のフェニルジクロロリン酸と60gの脱水処理したアセトニトリルとの混合液を内容物にゆっくりと滴下した。滴下終了後、さらに1時間加熱還流した後、室温まで反応液を冷却した。生成した塩及び炭酸カリウムを濾過により除き、さらに50mlのアセトニトリルで洗浄した。得られた濾液を減圧濃縮後、約600mlの水に投入した。次いで、5%の炭酸カリウム水溶液約600mlを投入して30分間撹拌した後、析出した固形物を濾過し、水で丁寧に洗浄後、固形物を乾燥させた。得られた固形物を、メタノールを用いて再結晶させることによって、66.6gの上記化学式(III)で表される4−APPを得た(収率65%)。得られた4−APPの融点は123〜124℃であった。また、得られた4−APPのH−NMRの測定結果を図1に示す。ここで、融点測定では、Kofler block社のBOETIUS PHMK 81/2969を使用し、H−NMRの測定には、Bruker社のAC−200を使用した(以下の融点測定及びH−NMR測定についても、同じ装置を使用した)。
【0046】
(合成例2:ビス(4−アミノフェニル)−2,6−ジメチルフェニルホスフェート(4−ADMP)の調製)
38.4g(0.386mol)の無水炭酸カリウム、30.3g(0.278mol)のp−アミノフェノール、及び100ml(78g)の脱水処理したアセトニトリルを、攪拌装置、乾燥窒素導入管、温度計、適下漏斗及びコンデンサーを備えた4つ口フラスコに仕込み、4つ口フラスコ内を乾燥窒素雰囲気とした。内容物を攪拌しながら75〜80℃に昇温した後、16.6g(0.069mol)の2,6−ジメチルフェニルジクロロリン酸を内容物にゆっくりと滴下した。滴下終了後、さらに2時間加熱還流した後、室温まで反応液を冷却した。生成した塩及び炭酸カリウムを濾過により除き、さらに50mlのアセトニトリルで洗浄した。得られた濾液を減圧濃縮後、約600mlの水に投入した。析出した固形物を濾過し、5%の水酸化ナトリウム水溶液中に投入して30分間撹拌した。その後、固形物を濾過した後、水で洗浄し、乾燥させた。得られた固形物を、トルエンを用いて2回再結晶させることによって、7.0gの上記化学式(IV)で表される4−ADMPを得た(収率26%)。得られた4−ADMPの融点は126〜128℃であった。また、得られた4−ADMPのH−NMRの測定結果を図2に示す。
【0047】
[実施例1〜3]
表1に示す配合割合にて各成分を混合することによって、難燃性樹脂組成物を調製した。
次に、得られた難燃性樹脂組成物を、厚さ約180μmのガラスクロス(日東紡績株式会社製 ガラスクロス「WE18K105」)に含浸した後、70℃で3分の条件で溶剤を乾燥させ、さらに120℃で2分間加熱してプリプレグを作製した。
次に、得られたプリプレグの両面に厚さ約18μmの銅箔(日鉱マテリアル株式会社製「JTC 1/2OZ」)を貼り合わせ、さらに1MPaの加圧下、200℃で60分間加熱成形することで積層板を作製した。かかる積層板は、厚みが約0.2mm、難燃性樹脂組成物の含有量が約40質量%であった。
このようにして作製した実施例1〜3の積層板において、上記(1)〜(5)の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0048】
[比較例1]
表1に示す配合割合にて各成分を混合することによって、難燃性樹脂組成物を調製した。なお、比較例1の樹脂組成物では、難燃剤として、添加型のリン系難燃剤であるPX−200(芳香族縮合リン酸エステル、大八化学工業株式会社製)を用いた。
次に、得られた難燃性樹脂組成物を用い、実施例1〜3と同様にしてプリプレグを作製した。そして、かかるプリプレグを用い、実施例1〜3と同様にして積層板を作製した。かかる積層板は、厚みが約0.2mm、難燃性樹脂組成物の含有量が約40質量%であった。
このようにして作製した比較例1の積層板において、上記(1)〜(5)の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
表1に示されるように、実施例1〜3の積層板は、難燃性、銅箔ピール強度、耐熱性及びはんだ耐熱に優れていた。これに対して比較例1の積層板は、難燃性については良好であったものの、銅箔ピール強度、耐熱性及びはんだ耐熱が悪かった。
【0051】
従って、本発明のプリプレグ及び積層板は、所定のアミノ基含有リン酸エステル化合物を難燃剤として配合した難燃性樹脂組成物を用いて製造したので、成形加工時に加熱する際及び使用後に焼却する際にダイオキシン類が発生しないと共に、難燃剤のブリードアウトが生じず、且つ耐熱性、難燃性及び電気特性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】実施例において調製した4−APPのH−NMRを示す図である。
【図2】実施例において調製した4−ADMPのH−NMRを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の一般式(1):
【化1】

(式中、X、X、X、X及びXは、同一でも異なっていてもよく、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基である)で表わされるアミノ基含有リン酸エステル化合物と、アミノ基と反応する官能基を1分子中に2個以上有する樹脂とを含む難燃性樹脂組成物を、繊維強化材からなる基材に含浸、乾燥してなることを特徴とするプリプレグ。
【請求項2】
前記アミノ基含有リン酸エステル化合物が、次の一般式(2):
【化2】

又は次の一般式(3):
【化3】

(式中、X、X、X、X及びXは、同一でも異なっていてもよく、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基である)で表わされることを特徴とする請求項1に記載のプリプレグ。
【請求項3】
前記アミノ基含有リン酸エステル化合物が、
【化4】

【化5】

【化6】

又は
【化7】

であることを特徴とする請求項1又は2に記載のプリプレグ。
【請求項4】
前記アミノ基と反応する官能基が、エポキシ基であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のプリプレグ。
【請求項5】
前記アミノ基と反応する官能基を1分子中に2個以上有する樹脂が、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールビフェニレン型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、グルシジルアミン型エポキシ樹脂、含リンエポキシ樹脂及びこれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のプリプレグ。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のプリプレグに金属箔を積層し、加熱下で加圧成形してなることを特徴とする積層板。
【請求項7】
前記プリプレグの少なくとも片面に前記金属箔を積層したことを特徴とする請求項6に記載の積層板。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2008−195897(P2008−195897A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−35121(P2007−35121)
【出願日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【出願人】(000187068)昭和高分子株式会社 (224)
【Fターム(参考)】