説明

プリント配線基板

【課題】 複数の信号線での信号の遅延時間を等しくすることができかつ小型化および高密度化が可能なプリント配線基板を提供することである。
【解決手段】 第1の誘電体層10の一面上にグランド導体40が形成されている。第1の誘電体層10の他面上に複数組の差動信号線対31,32が形成されている。差動信号線対31は、差動信号線対32よりも長い線路長を有する。第1の誘電体層10の差動信号線対31,32が形成された面には、例えば比誘電率3.8の接着剤20を介して第2の誘電体層11が形成されている。第1の誘電体層11上の領域のうち差動信号線対32上の領域に第3の誘電体層12が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線基板に関する。
【背景技術】
【0002】
通信機器、コンピュータ等の電子機器には、フレキシブルプリント配線基板が用いられている。特に、高速な信号を伝送するフレキシブルプリント配線基板では、信号の遅延、反射等を考慮する必要があるため、信号線は単なる電気的な接続ではなく、高周波用の伝送線路として取り扱う必要がある。例えば、複数の差動信号を伝送する場合には、それぞれの差動信号の遅延時間を合わせる必要がある。
【0003】
従来のフレキシブルプリント配線基板においては、基板上の複数の信号線の配線引き回しによる線路長の差を等しくするために、ジグザグの迂回延長配線部分が設けられる(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−152290号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図9は差動信号線対の配線引き回しによる線路長を等しくするためにジグザグ配線部を設けた例を示す模式的平面図である。
【0005】
図9の例では、基板上に2組の差動信号線対131,132が設けられている。差動信号線対131は差動信号線131A,131Bからなる。差動信号線対132は差動信号線132A,132Bからなる。差動信号線対131の線路長は差動信号線対132の線路長よりも長い。
【0006】
そのため、差動信号線対131での信号の遅延時間が差動信号線対132での信号の遅延時間よりも大きくなる。そこで、差動信号線対132にジグザグ配線部140が設けられる。それにより、差動信号線対132の線路長が差動信号線対131の線路長と等しくなる。
【0007】
しかしながら、差動信号線対132をジグザグに引き回して配線すると、ジグザグ配線部140で静電結合および誘導結合が発生し、差動信号線対132の伝送特性が不連続になる。
【0008】
また、ジグザグ配線部140を設けるための配線スペースが必要となり、フレキシブルプリント配線基板の寸法が大きくなるとともに、高密度化が妨げられる。
【0009】
本発明の目的は、伝送特性を劣化させることなく複数の信号線での信号の遅延時間を等しくすることができかつ小型化および高密度化が可能なプリント配線基板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の発明に係るプリント配線基板は、第1の誘電体層と、第1の誘電体層の一面上に形成された接地導体と、第1の誘電体層の他面上に形成された複数の信号線と、複数の信号線上に形成された第2の誘電体層とを備え、複数の信号線のうち少なくとも一部の信号線は互いに異なる線路長を有し、複数の信号線上の第2の誘電体層の実効誘電率は、信号線の線路長が短いほど高いことを特徴とする。
【0011】
本発明に係るプリント配線基板においては、線路長が短くなるほど信号線上の実効誘電率が高い。それにより、線路長の短い信号線を伝送される信号の波長短縮率が大きくなることにより信号線の電気長が長くなり、信号の遅延時間が大きくなる。したがって、複数の信号線での信号の遅延時間を等しくすることができる。この場合、ジグザグ配線部を設ける必要はない。したがって、ジグザグ配線部による伝送特性の劣化が生じない。また、プリント配線基板の小型化および高密度化が可能となる。
【0012】
第2の誘電体層は、第1の誘電体層の他面上に複数の信号線を覆うように形成された接着剤層と、接着剤層上に積層された1または複数の誘電体層とを含んでもよく、複数の信号線上での1または複数の誘電体層の層数は、信号線の線路長が短いほど多い。
【0013】
この場合、1または複数の誘電体層が接着剤層を介して第1の誘電体層の他面上に形成され、線路長が短いほど信号線上の誘電体層の層数が多いので、線路長が短くなるほど信号線上の実効誘電率が高くなる。それにより、線路長の短い信号線を伝送される信号の波長短縮率が大きくなることにより信号線の電気長が長くなり、信号の遅延時間が大きくなる。したがって、伝送特性を劣化させることなく複数の信号線での信号の遅延時間を等しくすることができかつ小型化および高密度化が可能となる。
【0014】
第2の誘電体層は、第1の誘電体層の他面上に複数の信号線を覆うように積層された1または複数の誘電体層を含んでもよく、複数の信号線上での1または複数の誘電体層の層数は、信号線の線路長が短いほど多い。
【0015】
この場合、1または複数の誘電体層が接着剤層を介さずに第1の誘電体層の他面上に形成され、線路長が短いほど信号線上の誘電体層の層数が多いので、線路長が短くなるほど信号線上の実効誘電率が高くなる。それにより、線路長の短い信号線を伝送される信号の波長短縮率が大きくなることにより信号線の電気長が長くなり、信号の遅延時間が大きくなる。したがって、伝送特性を劣化させることなく複数の信号線での信号の遅延時間を等しくすることができかつ小型化および高密度化が可能となる。
【0016】
第2の誘電体層は、第1の誘電体層の他面上に複数の信号線を覆うように形成されてもよく、複数の信号線上での第2の誘電体層の厚みは、信号線の線路長が短いほど厚い。
【0017】
この場合、第2の誘電体層が第1の誘電体層の他面上に複数の信号線を覆うように形成され、線路長が短いほど信号線上の誘電体層の厚みが厚いので、線路長が短くなるほど信号線上の実効誘電率が高くなる。それにより、線路長の短い信号線を伝送される信号の波長短縮率が大きくなることにより信号線の電気長が長くなり、信号の遅延時間が大きくなる。したがって、伝送特性を劣化させることなく複数の信号線での信号の遅延時間を等しくすることができかつ高密度化が可能となる。
【0018】
第2の発明に係るプリント配線基板は、第1の誘電体層と、第1の誘電体層の一面上に形成された接地導体と、第1の誘電体層の他面上に形成された複数の差動信号線対と、複数の差動信号線対上に形成された第2の誘電体層とを備え、複数の差動信号線対のうち少なくとも一部の差動信号線対は互いに異なる線路長を有し、複数の差動信号線対上の第2の誘電体層の実効誘電率は、差動信号線対の線路長が短いほど高いことを特徴とする。
【0019】
本発明に係るプリント配線基板においては、線路長が短くなるほど差動信号線対上の実効誘電率が高い。それにより、線路長の短い差動信号線対を伝送される信号の波長短縮率が大きくなることにより信号線の電気長が長くなり、信号の遅延時間が大きくなる。したがって、複数の差動信号線対での信号の遅延時間を等しくすることができる。この場合、ジグザグ配線部を設ける必要はない。したがって、ジグザグ配線部による伝送特性の劣化が生じない。また、プリント配線基板の小型化および高密度化が可能となる。
【0020】
第3の発明に係るプリント配線基板は、第1の誘電体層と、第1の誘電体層の一面上に形成された接地導体と、第1の誘電体層の他面上に形成された第1および第2の差動信号線からなる差動信号線対と、差動信号線対上に形成された第2の誘電体層とを備え、第2の差動信号線は第1の差動信号線よりも短い線路長を有し、第2の差動信号線上の第2の誘電体層の実効誘電率は、第1の差動信号線上の第2の誘電体層の実効誘電率よりも高いことを特徴とする。
【0021】
本発明に係るプリント配線基板においては、第2の差動信号線は第1の差動信号線よりも短い線路長を有し、第2の差動信号線上の実効誘電率が第1の差動信号線上の実効誘電率よりも高い。それにより、第2の差動信号線を伝送される信号の波長短縮率が大きくなることにより第2の差動信号線の電気長が長くなり、第2の差動信号線での信号の遅延時間が大きくなる。したがって、第1および第2の差動信号線での信号の遅延時間を等しくすることができる。この場合、ジグザグ配線部を設ける必要はない。したがって、ジグザグ配線部による伝送特性の劣化が生じない。また、プリント配線基板の小型化および高密度化が可能となる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、線路長が短くなるほど信号線上の実効誘電率が高いので、線路長の短い信号線を伝送される信号の波長短縮率が大きくなることにより信号線の電気長が長くなり、信号の遅延時間が大きくなる。したがって、伝送特性を劣化させることなく複数の信号線での信号の遅延時間を等しくすることができかつ小型化および高密度化が可能となる。
【0023】
また、線路長が短くなるほど差動信号線対の実効誘電率が高いので、線路長の短い差動信号線対を伝送される信号の波長短縮率が大きくなることにより差動信号線対を伝送される信号の遅延時間が大きくなる。したがって、伝送特性を劣化させることなく複数の差動信号線対での信号の遅延時間を等しくすることができかつ小型化および高密度化が可能となる。
【0024】
さらに、線路長が短い第2の差動信号線の実効誘電率が第1の差動信号線の実効屈折率よりも高いので、線路長の短い第2の差動信号線を伝送される信号の波長短縮率が大きくなることにより第2の差動信号線を伝送される信号の遅延時間が大きくなる。したがって、伝送特性を劣化させることなく第1および第2の差動信号線での信号の遅延時間を等しくすることができかつ小型化および高密度化が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
(第1の実施の形態)
図1は本発明の第1の実施の形態に係るフレキシブルプリント配線基板の差動信号線対の構造を示す平面図である。また、図2は本発明の第1の実施の形態に係るフレキシブルプリント配線基板の模式的断面図である。
【0026】
図2に示すように、誘電体層10の一面上にグランド導体(接地導体)40が形成されている。誘電体層10は、例えば比誘電率3.1のポリイミド樹脂フィルムからなる。誘電体層10の他面上に複数組の差動信号線対31,32が形成されている。差動信号線対31,32は、例えば銅箔からなる。
【0027】
図1に示すように、差動信号線対31は、差動信号線対32よりも大きな線路長を有する。差動信号線対31は、差動信号線31A,31Bからなる。差動信号線対32は、差動信号線32A,32Bからなる。
【0028】
誘電体層10の差動信号線対31,32が形成された面には、例えば比誘電率3.8の接着剤20を介して誘電体層11が形成されている。誘電体層11は、例えば比誘電率3.1のポリイミド樹脂フィルムからなる。
【0029】
誘電体層11上の領域のうち差動信号線対32上の領域に誘電体層12が形成されている。誘電体層12は、例えば比誘電率5.0のソルダレジストからなる。
【0030】
このように、差動信号線対31の上方には誘電体層11が形成され、差動信号線対32の上方には誘電体層11および誘電体層12が形成されているので、差動信号線対32上の実効誘電率が差動信号線対31上の実効誘電率よりも高くなる。
【0031】
一般に、信号線を伝送する信号の波長短縮率は次式で表される。
【0032】
波長短縮率=1/√比誘電率
上式によれば、波長短縮率は、信号線上の比誘電率が高いほど小さくなる。そのため、信号線上の実効誘電率が高いほど電気長が大きくなる。複数の信号線の電気長が等しい場合には、それらの信号線の物理長にかかわらず信号の遅延時間は等しくなる。
【0033】
したがって、差動信号線対31の線路長と差動信号線対32の線路長との差に応じて誘電体層12の厚みを適切に設定することにより差動信号線対32での信号の遅延時間と差動信号線対31での信号の遅延時間とを等しくすることができる。
【0034】
上記のように、本実施の形態に係るフレキシブルプリント配線基板では、差動信号線対31,32にジグザグ配線部を設けることなく差動信号線対31,32での信号の遅延時間をほぼ等しくすることが可能となる。したがって、フレキシブル配線基板の小型化および高密度化が可能となる。
【0035】
本実施の形態では、誘電体層10が第1の誘電体層に相当し、接着剤20および誘電体層11,12が第2の誘電体層に相当する。
【0036】
(第2の実施の形態)
図3は本発明の第2の実施の形態に係るフレキシブルプリント配線基板の模式的断面図である。
【0037】
図3に示すように、誘電体層10の一面上にグランド導体40が形成されている。誘電体層10は、例えば比誘電率3.1のポリイミド樹脂フィルムからなる。誘電体層10の他面上に複数組の差動信号線対31,32が形成されている。差動信号線対31,32は、例えば銅箔からなる。
【0038】
誘電体層10の差動信号線対31,32が形成された面には、例えば比誘電率5.0のソルダレジストからなる誘電体層11Aが形成されている。また、誘電体層11A上の領域のうち差動信号線対32上の領域に、例えば比誘電率5.0のソルダレジストからなる誘電体層12が形成されている。
【0039】
このように、差動信号線対31の上方には誘電体層11Aが形成され、差動信号線対32の上方には誘電体層11Aおよび誘電体層12が形成されているので、差動信号線対32上の実効誘電率が差動信号線対31上の実効誘電率よりも高くなる。したがって、差動信号線対31の線路長と差動信号線対32の線路長との差に応じて誘電体層12の厚みを適切に設定することにより差動信号線対32での信号の遅延時間と差動信号線対31での信号の遅延時間とを等しくすることができる。
【0040】
上記のように、本実施の形態に係るフレキシブルプリント配線基板では、差動信号線対31,32にジグザグ配線部を設けることなく差動信号線対31,32での信号の遅延時間を等しくすることが可能となる。したがって、フレキシブル配線基板の小型化および高密度化が可能となる。
【0041】
本実施の形態では、誘電体層10が第1の誘電体層に相当し、誘電体層11A,12が第2の誘電体層に相当する。
【0042】
(第3の実施の形態)
図4は本発明の第3の実施の形態に係るフレキシブルプリント配線基板の差動信号線対の構造を示す平面図である。また、図5は本発明の第3の実施の形態に係るフレキシブルプリント配線基板の模式的断面図である。
【0043】
誘電体層10の一面上にグランド導体40が形成されている。誘電体層10は、例えば比誘電率3.1のポリイミド樹脂フィルムからなる。誘電体層10の他面上に複数組の差動信号線対31,32,33が形成されている。差動信号線対31,32,33は、例えば銅箔からなる。
【0044】
図5に示すように、差動信号線対31は、差動信号線対32よりも大きな線路長を有し、差動信号線対32は差動信号線対33よりも大きな線路長を有する。差動信号線対31は、差動信号線31A,31Bからなる。差動信号線対32は、差動信号線32A,32Bからなる。差動信号線対33は、差動信号線33A,33Bからなる。
【0045】
誘電体層10の差動信号線対31,32,33が形成された面には、例えば比誘電率3.8の接着剤20を介して誘電体層11が形成されている。誘電体層11は、例えば比誘電率3.1のポリイミド樹脂フィルムからなる。
【0046】
誘電体層11上の領域のうち差動信号線対32,33上の領域に誘電体層12Aが形成されている。また、誘電体層12A上の領域のうち差動信号線対33上の領域に誘電体層12Bが形成されている。誘電体層12A,12Bは、例えば比誘電率5.0のソルダレジストからなる。
【0047】
このように、差動信号線対31の上方には誘電体層11が形成され、差動信号線対32の上方には誘電体層11および誘電体層12が形成され、差動信号線対33の上方には誘電体層11、誘電体層12Aおよび誘電体層12Bが形成されているので、差動信号線対33上の実効誘電率が差動信号線対32上の実効誘電率よりも高くなり、差動信号線対32上の実効誘電率が差動信号線対31上の実効誘電率よりも高くなる。したがって、差動信号線対31の線路長と差動信号線対32の線路長と差動信号線対33の線路長との差に応じて誘電体層12A,12Bの厚みを適切に設定することにより差動信号線対33での信号の遅延時間と差動信号線対32での信号の遅延時間と差動信号線対31での信号の遅延時間とを等しくすることができる。
【0048】
上記のように、本実施の形態に係るフレキシブルプリント配線基板では、差動信号線対31,32,33にジグザグ配線部を設けることなく差動信号線対31,32,33での遅延時間を等しくすることが可能となる。したがって、フレキシブル配線基板の小型化および高密度化が可能となる。
【0049】
本実施の形態では、誘電体層10が第1の誘電体層に相当し、接着剤20および誘電体層11,12A,12Bが第2の誘電体層に相当する。
【0050】
(第4の実施の形態)
図6は本発明の第4の実施の形態に係るフレキシブルプリント配線基板の模式的断面図である。
【0051】
図6に示すように、誘電体層10の一面上にグランド導体40が形成されている。誘電体層10は、例えば比誘電率3.1のポリイミド樹脂フィルムからなる。誘電体層10の他面上に複数組の差動信号線対31,32,33が形成されている。差動信号線対31,32,33は、例えば銅箔からなる。
【0052】
誘電体層10の差動信号線対31,32,33が形成された面には、例えば比誘電率5.0のソルダレジストからなる誘電体層11Aが形成されている。また、誘電体層11A上の領域のうち差動信号線対32,33上の領域に、例えば比誘電率5.0のソルダレジストからなる誘電体層12Aが形成されている。さらに、誘電体層12A上の領域のうち差動信号線対33上の領域に、例えば比誘電率5.0のソルダレジストからなる誘電体層12Bが形成されている。
【0053】
このように、差動信号線対31の上方には誘電体層11Aが形成され、差動信号線対32の上方には誘電体層11Aおよび誘電体層12Aが形成され、差動信号線対33の上方には誘電体層11A、誘電体層12Aおよび誘電体層12Bが形成されているので、差動信号線対32上の実効誘電率が差動信号線対31上の実効誘電率よりも高くなり、差動信号線対33上の実効誘電率が差動信号線対32上の実効誘電率よりも高くなる。したがって、差動信号線対31の線路長と差動信号線対32の線路長と差動信号線対33の線路長との差に応じて誘電体層12A,12Bの厚みを適切に設定することにより差動信号線対33での信号の遅延時間と差動信号線対32での信号の遅延時間と差動信号線対31での信号の遅延時間とを等しくすることができる。
【0054】
上記のように、本実施の形態に係るフレキシブルプリント配線基板では、差動信号線対31,32,33にジグザグ配線部を設けることなく差動信号線対31,32,33での信号の遅延時間を等しくすることが可能となる。したがって、フレキシブル配線基板の小型化および高密度化が可能となる。
【0055】
本実施の形態では、誘電体層10が第1の誘電体層に相当し、誘電体層11A,12A,12Bが第2の誘電体層に相当する。
【0056】
(第5の実施の形態)
図7は本発明の第5の実施の形態に係るフレキシブルプリント配線基板の製造方法を示す模式的断面図である。図8は階調露光マスクの模式的平面図である。
【0057】
まず、図7(a)に示すように、誘電体層10の一面上にグランド導体40を形成する。誘電体層10は、例えば比誘電率3.1のポリイミド樹脂フィルムからなる。また、誘電体層10の他面上に差動信号線対35を形成する。差動信号線対35は、例えば銅箔からなる。この差動信号線対35は、差動信号線35A,35Bからなり、差動信号線35Aは差動信号線35Bよりも大きな線路長を有する。
【0058】
次に、図7(b)に示すように、誘電体層10の差動信号線対35が形成された面に、感光性ポリイミド前駆体溶液を塗布し乾燥させることにより、感光性ポリイミド前駆体層15を形成する。
【0059】
続いて、図7(c)に示すように、図8に示される階調露光マスク60を用いて感光性ポリイミド前駆体層15を露光し、現像する。階調露光マスク60は、Cr(クロム)蒸着膜を有するストライプ状の遮光領域60AとCr蒸着膜を有さないストライプ状の透光領域60Bとを有する。1組の遮光領域60Aおよび透光領域60Bの幅の合計Wは例えば6μmである。階調露光マスク60において、遮光領域60Aの光透過率は透光領域60Bの光透過率よりも低い。
【0060】
その後、図7(d)に示すように、加熱により感光性ポリイミド前駆体層15をイミド化することにより感光性ポリイミドからなる誘電体層15Aを形成する。
【0061】
本実施の形態では、ネガ型の感光性ポリイミド前駆体層15を用いる。それにより、階調露光マスク60の遮光領域60Aに対応する感光性ポリイミド前駆体層15の領域では、階調露光マスク60の透光領域60Bに対応する感光性ポリイミド前駆体層15の領域に比べて露光量が小さくなる。したがって、誘電体層15Aの領域のうち差動信号線35Aの上方の領域の厚みt1が差動信号線35Bの上方の厚み(t1+t2)よりも小さくなる。
【0062】
このように、差動信号線35Aの上方には厚みt1の誘電体層15Aが形成され、差動信号線35Bの上方には厚み(t1+t2)の誘電体層15Aが形成されているので、差動信号線35B上の実効誘電率が差動信号線35A上の実効誘電率よりも高くなる。したがって、差動信号線35Aの線路長と差動信号線35Bの線路長との差に応じて誘電体層15Aの厚みt1またはt2を適切に設定することにより差動信号線35Bでの信号の遅延時間と差動信号線35Aでの信号の遅延時間とを等しくすることができる。
【0063】
上記のように、本実施の形態に係るフレキシブルプリント配線基板では、差動信号線35A,35Bにジグザグ配線部を設けることなく差動信号線35A,35Bでの信号の遅延時間をほぼ等しくすることが可能となる。したがって、フレキシブル配線基板の小型化および高密度化が可能となる。
【0064】
本実施の形態では、誘電体層10が第1の誘電体層に相当し、誘電体層15Aが第2の誘電体層に相当する。
【0065】
(他の実施の形態)
本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0066】
グランド導体40の表面に接着剤を介してポリイミド樹脂フィルムからなる誘電体層10を積層してもよい。
【0067】
また、誘電体層10の材料は、ポリイミド樹脂フィルムに限定されるものではなく、ポリエステル樹脂フィルム、フッ素樹脂フィルム等の種々の樹脂フィルム、さらに接着剤で積層された種々の樹脂フィルムを用いることができる。
【0068】
また、誘電体層11A,12,12A,12Bの材料としては、ソルダーレジストに限定されるものでなく、誘電体層10上に接着剤20を介してポリイミド樹脂フィルムを形成してもよい。また、誘電体層11,11A,12,12A,12Bの材料として、アルミナ、チタン酸バリウム等の高誘電率のセラミック粉体等が分散された樹脂等を用いることもできる。
【0069】
また、差動信号線対31,32,33,35およびグランド導体40の材料は、銅箔に限定されず、導電性を有する種々の材料を用いることができ、異種金属を積層した多層構造を用いることもできる。
【0070】
さらに、比誘電率の異なる誘電体層をそれぞれ差動信号線対の上方の誘電体層上に形成してもよい。
【0071】
また、上方に実効誘電率の高い誘電体層が形成される差動信号線対または差動信号線の線路幅を予め小さくすることにより、上方に実効誘電率の高い誘電体層が形成される差動信号線対または差動信号線の特性インピーダンスを他の差動信号線対または差動信号線の特性インピーダンスと整合させることができる。
【0072】
(実施例1)
実施例1では、図4および図5に示した構造を有するフレキシブルプリント配線基板を作製した。
【0073】
まず、厚み50μmのポリイミド樹脂フィルムからなる誘電体層10の一面上に厚み18μmの銅箔からなるグランド導体40を形成し、誘電体層10の他面上に厚み18μmの銅箔からなる3組の差動信号線対31,32,33を形成した。ポリイミド樹脂フィルムの誘電率は3.1である。差動信号線対31、差動信号線対32および差動信号線対33の線路長は、それぞれ105mm、103mmおよび100mmとした。
【0074】
次に、差動信号線対31,32,33が形成された誘電体層10の面に、接着剤20を介して厚み12.5μmのポリイミド樹脂フィルムからなる誘電体層11を形成した。接着剤20の誘電率は3.8であり、誘電体層11のポリイミド樹脂フィルムの誘電率は3.8である。なお、差動信号線対31,32,33上の接着剤20の厚みは2μmであった。
【0075】
その後、誘電体層11上の領域のうち差動信号線対32,33上の領域に厚み20μmのソルダーレジストを塗布することにより誘電体層12Aを形成した後、誘電体層12A上の領域のうち差動信号線対33上の領域に厚み20μmのソルダーレジストを重ねて塗布することにより誘電体層12Bを形成した。それにより、差動信号線対32の上方の誘電体層12Aの厚みは20μmとなり、差動信号線対33の上方の誘電体層12A,12Bの総厚みは40μmとなった。このようにして、実施例1のフレキシブルプリント配線基板を作製した。
【0076】
(実施例2)
実施例2では、図6に示した構造を有するフレキシブルプリント配線基板を作製した。
【0077】
誘電体層10、グランド導体40および3組の差動信号線対31,32,33の材料および構造は実施例1と同様である。
【0078】
誘電体層10の差動信号線対31,32,33が形成された面に、接着剤を用いずに厚み5μmのソルダーレジストを塗布することにより誘電体層11Aを形成した。誘電体層11Aのソルダーレジストの誘電率は5.0である。
【0079】
その後、誘電体層11A上の領域のうち差動信号線対32,33上の領域に厚み20μmのソルダーレジストを塗布することにより誘電体層12Aを形成し、さらに誘電体層12A上の領域のうち差動信号線対33上の領域に厚み20μmのソルダーレジストからなる誘電体層12Bを形成した。誘電体層12A,12Bのソルダーレジストの比誘電率は5.0である。このようにして、実施例2のフレキシブルプリント配線基板を作製した。
【0080】
(評価1)
実施例1および実施例2のフレキシブルプリント配線基板において、差動信号線対31,32,33での信号の遅延時間をデジタルオシロスコープおよびステップパルス発生器を利用したTDR法(Time Domain Refrectmetory)により測定した。その結果、実施例1および実施例2のフレキシブルプリント配線基板の各々において差動信号線対31,32,33での信号の遅延時間はほぼ等しくなった。
【0081】
(実施例3)
実施例3では、図7に示した構造を有するフレキシブルプリント配線基板を作製した。
【0082】
まず、図7(a)に示すように、厚み50μmのポリイミド樹脂フィルムからなる誘電体層10の一面上に厚み18μmの銅箔からなるグランド導体40を形成した。誘電体層10のポリイミド樹脂フィルムの比誘電率は3.1である。また、誘電体層10の他面上に厚み18μmの銅箔からなる差動信号線対35を形成した。差動信号線対35は、差動信号線35A,35Bからなる。差動信号線35A,35Bの線路長は、それぞれ102mmおよび100mmであった。
【0083】
次に、図7(b)に示すように、誘電体層10の差動信号線対35が形成された面に、感光性ポリアミック酸溶液を塗布し乾燥させることにより、感光性ポリイミド前駆体層15を形成した。
【0084】
続いて、図7(c)に示すように、図8に示した階調露光マスク60を用いて感光性ポリイミド前駆体層15を露光量600mJ/cm2 で露光した。階調露光マスク60は、石英ガラス板上にピッチ6μmの縞状のクロム金属薄膜の繰り返しパターンを有する。クロム金属薄膜の遮光領域60Aでの光透過率は50%である。
【0085】
その後、図7(d)に示すように、感光性ポリイミド前駆体層15をテトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液で現像した後、温度250℃でイミド化することによりポリイミドからなる誘電体層15Aを形成した。
【0086】
階調露光マスク60の遮光領域60Aに対応する感光性ポリイミド前駆体層15の領域では、階調露光マスク60の透光領域60Bに対応する感光性ポリイミド前駆体層15の領域に比べて露光量が小さくなる。したがって、誘電体層15Aの領域のうち差動信号線35Aの上方の領域の厚みが差動信号線35Bの上方の厚みよりも小さくなる。本実施例3では、差動信号線35Aの上方の誘電体層15Aの厚みt1は3μmとなり、差動信号線35Bの上方の誘電体層15Aの厚み(t1+t2)は5μmとなった。このようにして、実施例3のフレキシブルプリント配線基板5を作製した。
【0087】
(評価)
実施例3のフレキシブルプリント配線基板において、差動信号線35Aおよび差動信号線35Bでの信号での遅延時間をデジタルオシロスコープおよびステップパルス発生器を利用したTDR法により測定した。その結果、差動信号線35Aでの信号の遅延時間と差動信号線35Bでの信号での遅延時間とはほぼ等しくなった。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明に係るプリント配線基板は、電子機器等に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るフレキシブルプリント配線基板の差動信号線対の構造を示す平面図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係るフレキシブルプリント配線基板の模式的断面図である。
【図3】本発明の第2の実施の形態に係るフレキシブルプリント配線基板の模式的断面図である。
【図4】本発明の第3の実施の形態に係るフレキシブルプリント配線基板の差動信号線対の構造を示す平面図である。
【図5】本発明の第3の実施の形態に係るフレキシブルプリント配線基板の模式的断面図である。
【図6】本発明の第4の実施の形態に係るフレキシブルプリント配線基板の模式的断面図である。
【図7】本発明の第5の実施の形態に係るフレキシブルプリント配線基板の製造方法を示す模式的断面図である。
【図8】階調露光マスクの模式的平面図である。
【図9】差動信号線対の配線引き回しによる線路長を等しくするためにジグザグ配線部を設けた例を示す模式的平面図である。
【符号の説明】
【0090】
10,11,11A,12,12A,12B,15A 誘電体層
15 感光性ポリイミド前駆体層
31,32,33,35 差動信号線対
31A,31B,32A,32B,33A,33B,35A,35B 差動信号線
40 グランド導体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の誘電体層と、
前記第1の誘電体層の一面上に形成された接地導体と、
前記第1の誘電体層の他面上に形成された複数の信号線と、
前記複数の信号線上に形成された第2の誘電体層とを備え、
前記複数の信号線のうち少なくとも一部の信号線は互いに異なる線路長を有し、
前記複数の信号線上の前記第2の誘電体層の実効誘電率は、信号線の線路長が短いほど高いことを特徴とするプリント配線基板。
【請求項2】
前記第2の誘電体層は、
前記第1の誘電体層の他面上に前記複数の信号線を覆うように形成された接着剤層と、
前記接着剤層上に積層された1または複数の誘電体層とを含み、
前記複数の信号線上での前記1または複数の誘電体層の層数は、信号線の線路長が短いほど多いことを特徴とする請求項1記載のプリント配線基板。
【請求項3】
前記第2の誘電体層は、
前記第1の誘電体層の他面上に前記複数の信号線を覆うように積層された1または複数の誘電体層を含み、
前記複数の信号線上での前記1または複数の誘電体層の層数は、信号線の線路長が短いほど多いことを特徴とする請求項1記載のプリント配線基板。
【請求項4】
前記第2の誘電体層は、前記第1の誘電体層の他面上に前記複数の信号線を覆うように形成され、
前記複数の信号線上での前記第2の誘電体層の厚みは、信号線の線路長が短いほど厚いことを特徴とする請求項1記載のプリント配線基板。
【請求項5】
第1の誘電体層と、
前記第1の誘電体層の一面上に形成された接地導体と、
前記第1の誘電体層の他面上に形成された複数の差動信号線対と、
前記複数の差動信号線対上に形成された第2の誘電体層とを備え、
前記複数の差動信号線対のうち少なくとも一部の差動信号線対は互いに異なる線路長を有し、
前記複数の差動信号線対上の前記第2の誘電体層の実効誘電率は、差動信号線対の線路長が短いほど高いことを特徴とするプリント配線基板。
【請求項6】
第1の誘電体層と、
前記第1の誘電体層の一面上に形成された接地導体と、
前記第1の誘電体層の他面上に形成された第1および第2の差動信号線からなる差動信号線対と、
前記差動信号線対上に形成された第2の誘電体層とを備え、
前記第2の差動信号線は前記第1の差動信号線よりも短い線路長を有し、
前記第2の差動信号線上の前記第2の誘電体層の実効誘電率は、前記第1の差動信号線上の前記第2の誘電体層の実効誘電率よりも高いことを特徴とするプリント配線基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2005−175078(P2005−175078A)
【公開日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−410631(P2003−410631)
【出願日】平成15年12月9日(2003.12.9)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】