説明

プリント配線板用基材、銅張積層板およびフレキシブル銅張積層板ならびにその製造方法

【課題】めっき層のサイドエッチングによって設計値よりも配線のトップ幅が狭くなってしまうことを効果的に防止でき、特に、半導体チップ等を搭載させた場合にも、位置合わせや抵抗増加の問題が生じないプリント配線板用基材、銅張積層板およびフレキシブル銅張積層板ならびにその製造方法を提供する。
【解決手段】基材11の導電性12、13を有する表面に、複数の金属めっき層16、17、18を積層し、かつこれら複数の金属めっき層を、少なくとも表層18のエッチングレートが基材表面に接触している底層16よりも小さいプリント配線板用基材1とした。また、プラスチックフィルム11の導電性を有する表面に、プラスチックフィルムから露出表面に向けて銅よりもエッチングレートの小さい金属を漸次または段階的に多く含有する金属めっき層16、17、18を形成したフレキシブル銅張積層板1とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、携帯電話やディスプレイ等に組み込まれている半導体チップが搭載さられたプリント配線板を製造するために用いられるフレキシブル銅張積層板その他の銅張積層板(CCL)などのプリント配線板用基材、さらには、フレキシブル銅張積層板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
このプリント配線板用基材としては、特許文献1に示すように、ポリイミドフィルムに、ニッケルクロム合金スパッタ膜と、銅スパッタ膜とが順に成膜されるとともに、この銅スパッタ膜の上に銅めっき層が形成されたものが知られており、このプリント配線板用基材は、これらの銅めっき層、銅スパッタ膜やニッケルクロム合金スパッタ膜をパターニングすることにより、銅配線の形成された上記プリント配線板を得るための中間加工品である。
【0003】
そして、これら銅めっき層などのパターニングは、銅めっき層の上にフォトレジストを塗布して、このフォトレジストによるパターンマスクをフォトリソグラフィー法によって形成し、このパターンマスクの上から塩化第2鉄等のエッチング液を吹き付けることにより、パターンマスクの開口に露出している銅めっき層などを除去することにより行われる。
しかしながら、このエッチング液による除去の際に、銅めっき層の表面側がサイドエッチングされてしまうため、銅めっき層のエッチングによってパターン形成された銅配線は、図6に示すように、そのトップ幅Tがサイドエッチングにより著しく狭くなってしまう。
【0004】
これに対して、例えば、特許文献2には、パターニングの際のサイドエッチを防止すべく、基材の上に易エッチング構造を有する銅箔と難エッチング構造を有する銅箔とを積層したプリント配線板などに用いられる銅箔の積層材が提案されている。
【0005】
【特許文献1】特開2004−303863号公報
【特許文献2】特開2004−190073号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このように結晶構造の異なる銅箔を積層させても、塩化第2鉄のエッチング反応は、Fe3+イオンのエッチング表面への拡散が律速段階となる。このため、結晶構造の異なる銅箔におけるエッチングレートの相違を利用しても、基材側の易エッチング構造を有する銅箔をエッチングによりパターン形成した際には、表面側の難エッチング構造を有する銅箔が完全にサイドエッチされてしまっている。それ故に、銅配線のトップ幅Tが狭くなってしまうため、この銅箔の積層材に半導体チップを搭載させる際には、銅配線と半導体チップとの位置合わせが難しくなるとの問題や銅配線と半導体チップとの接触面積の減少により抵抗値が大きくなるとの問題がある。
【0007】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、めっき層のサイドエッチングによって設計値よりも配線のトップ幅が狭くなってしまうことを効果的に防止でき、特に、半導体チップ等を搭載させた場合にも、位置合わせや抵抗増加の問題が生じないプリント配線板用基材、銅張積層板およびフレキシブル銅張積層板ならびにその製造方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、請求項1に記載の発明に係るプリント配線板用基材は、基材の導電性を有する表面に、複数の金属めっき層が積層され、かつこれら複数の金属めっき層は、少なくとも表層のエッチングレートが上記基材表面に接触している底層のエッチングレートよりも小さいことを特徴としている。
【0009】
請求項2に記載の発明に係る銅張積層板は、一層または複数層の銅めっき層が形成され、かつ当該一層または複数層の銅めっき層は、銅よりもエッチングレートの小さい金属を露出表面部が上記基材に接触している底部よりも多く含有していることを特徴としている。
【0010】
ここで、銅よりもエッチングレートの小さい金属としては、エッチング液として塩化第2鉄を用いる場合において、ニッケル、鉄、コバルト、亜鉛および銀のうちの1種が用いられ、または2種以上が併用される。詳述すると、塩化第2鉄のエッチング液に銅めっき層がCu+イオンとなって溶解するのに対して、ニッケルがNi2+イオンとなって溶解するため、ニッケルの溶解に銅の二倍のエッチング液が必要となり、換言すると、塩化第2鉄のエッチング液に対するニッケルのエッチングレートが銅の1/2の値となる。同様に、鉄、コバルトおよび亜鉛は、いずれも塩化第2鉄のエッチング液に2価以上の陽イオンとなって溶解するため、銅よりもエッチングレートが小さくなる。また、銀は、不溶性の塩化銀の皮膜が形成されて溶解が阻害されるため銅よりもエッチングレートが小さくなる。従って、銅よりもエッチングレートの小さい金属には、塩化第2鉄のエッチング液に対して2価以上の陽イオンとなって溶解するニッケルなどの金属や不溶性の皮膜を形成する金属が用いられる。
【0011】
請求項3に記載の発明に係るフレキシブル銅張積層板は、プラスチックフィルムの導電性を有する表面に、一層または複数層の銅めっき層が形成され、かつ当該一層または複数層の銅めっき層は、上記プラスチックから露出表面の厚さ方向に向けて銅よりもエッチングレートの小さい金属を漸次または段階的に多く含有して構成されていることを特徴としている。
【0012】
ここで、本明細書中においてプラスチックフィルムとは、ポリイミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂およびポリエーテルエーテルケトン樹脂のうちの少なくとも一種以上の樹脂によって形成されたフィルムを意味するものである。
【0013】
請求項4に記載の発明に係るフレキシブル銅張積層板は、請求項3に記載の発明において、上記銅よりもエッチングレートの小さい金属がニッケルであることを特徴としている。
また、銅めっき層は、ニッケル含有率が20wt%を超えると、柔軟性が失われて、電気抵抗値が上昇する不具合があるため、露出表面部のニッケル含有率が20wt%以下に調製される。さらに、銅めっき層は、ニッケル含有率差が1wt%未満ではエッチングレートの変化作用が得られないため、段階的にニッケルを多く含有して構成される場合には、ニッケル含有率差がそれぞれ1wt%以上になるように構成される。
【0014】
請求項5に記載の発明に係るフレキシブル銅張積層板の製造方法は、プラスチックフィルムの導電性を有する表面に、繰り返し銅めっき液による電解銅めっき処理を施して、複数の銅めっき層を積層する際に、上記プラスチックフィルムを、段階的に、銅よりエッチングレートの小さい金属の含有率が高い銅めっき液に浸漬させることにより、上記プラスチックフィルムの表面に膜さ方向に向けて段階的にエッチングレートの小さい銅めっき層を積層することを特徴としている。
【0015】
請求項6に記載の発明に係るフレキシブル銅張積層板の製造方法は、プラスチックフィルムの導電性を有する表面に、銅めっき層を形成する際に、上記プラスチックフィルムを、銅よりもエッチングレートが小さい金属を含有する銅めっき液に浸漬させて、当該浸漬時間の経過とともに上記プラスチックフィルムの表面の電流密度を漸次または段階的に増加または減少させることにより、上記プラスチックフィルムの表面に膜さ方向に向けて漸次または段階的に上記金属の含有率の高い銅めっき層を形成することを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に記載のプリント配線板用基材によれば、基材の導電性を有する表面に複数の金属めっき層を積層し、かつ少なくとも表層のエッチングレートを底層よりも小さくしたため、表層のサイドエッチによって金属配線のトップ幅が設計値よりも狭くなってしまうことを効果的に防止できる。
【0017】
同様に、請求項2に記載の銅張積層板によれば、基材の表面に形成した銅めっき層は、
銅よりもエッチングレートの小さい金属を露出表面部が底部よりも多く含有している。このため、銅めっき層の露出表面部のサイドエッチによって金属配線のトップ幅が設計値よりも狭くなってしまうことを防止できる。
【0018】
さらに、請求項3〜4に記載のフレキシブル銅張積層板によれば、金属めっき層がプラスチックフィルムから露出表面の厚さ方向に向けてエッチングレートの小さい金属を漸次または段階的に多く含有しており、請求項5〜6に記載のフレキシブル銅張積層板の製造方法によれば、プラスチックフィルムの表面に、厚さ方向に向けてエッチングレートの小さい金属を多く含有する銅めっき層が形成される。このため、請求項3〜4に記載のフレキシブル銅張積層板および請求項5〜6に記載のフレキシブル銅張積層板の製造方法によれば、銅めっき層のサイドエッチによって、銅配線のトップ幅が設計値よりも狭くなってしまうことを効果的に防止できる。
【0019】
従って、請求項1〜6に記載のプリント配線板用基材、銅張積層板やフレキシブル銅張積層板に半導体チップを搭載する場合にも、半導体チップの位置合わせや抵抗値の増加の問題が生じない高精度の配線パターンを形成することができる。
【0020】
特に、請求項2に記載の銅張積層板および請求項3〜4に記載のフレキシブル銅張積層板ならびに請求項5〜6に記載のフレキシブル銅張積層板の製造方法によれば、銅めっき層に銅よりもエッチングレートの小さい金属を含有させて積層することによって、簡易にサイドエッチが生じることを防止でき、ひいては、半導体チップに流れる電気量や抵抗等を考慮して、厚さ方向を含めた配線パターンの立体形状を所望の形状に加工することも可能にできる。さらに、請求項4に記載のフレキシブル銅張積層板によれば、エッチングレートの小さい金属としてニッケルを含有させているため、銅がプラスチックフィルムに拡散して、プラスチックフィルムの裏面から透過する外部雰囲気中の酸素によって酸化されることを防止することにより、加熱処理後の耐熱ピール強度が低下することを防止できる。
【0021】
また、請求項5に記載のフレキシブル銅張積層板の製造方法によれば、段階的に銅よりエッチングレートの小さい金属の含有率の高い銅めっき液に浸漬させて、プラスチックフィルムの表面に繰り返し銅めっき処理を施すため、金属の含有率の異なる銅めっき液をそれぞれ個別の銅めっき槽に収容することによって、容易に製造工程の管理を行うことができる。
【0022】
他方、請求項6に記載のフレキシブル銅張積層板の製造方法によれば、プラスチックフィルム表面の銅めっき液の浸漬時間の経過とともに、同表面の電流密度を漸次または段階的に増加または減少させることによって、同表面に厚さ方向に向けて上記金属の含有率の高い銅めっき層を形成するため、1槽の電解銅めっき槽によってフレキシブル銅張積層板を得ることができ、めっき装置を小型化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明に係るフレキシブル銅張積層板について図1を用いて説明した後に、このフレキシブル基材の製造方法について図2を用いて説明する。
【0024】
まず、本実施形態のフレキシブル銅張積層板1は、厚さ20〜50μmの帯状のポリイミドフィルム(プラスチックフィルム)11の表面全体に、ニッケルクロム合金スパッタ膜12と、この合金スパッタ膜12の上に銅スパッタ膜13とが成膜されている。これにより、フレキシブル銅張積層板1は、その表面にスパッタ膜12、13による膜厚5〜200nmの導電性膜が成膜されている。
【0025】
さらに、フレキシブル銅張積層板1は、銅スパッタ膜13の上に複数(本実施形態においては3層)の銅めっき層16、17、18が総厚5μm〜15μmになるように積層されており、銅めっき層17、18は、銅よりもエッチングレートの小さいニッケルを含有する銅合金めっき層であって、表層である銅合金めっき層18がポリイミドフィルム11側の銅合金めっき層17よりもニッケルの含有率が高くなっている。
【0026】
従って、フレキシブル銅張積層板1は、ポリイミドフィルム11側の銅めっき層(底層、底部)16よりも銅合金めっき層17の方が、さらに、この銅合金めっき層17よりも銅合金めっき層(表層、露出表面部)18の方がニッケルの含有率が高くなっており、ポリイミドフィルム11から露出表面の厚さ方向に向けて段階的にニッケルの含有率の高い銅めっき層16、17、18が積層されて構成されている。
【0027】
なお、銅メッキ層17、18のニッケルの含有率は、1wt%以上であって20wt%以下、好ましくは3wt%以上であって14wt%未満である。
これは、ニッケルの含有率が20wt%を超えると、フレキシブル銅張積層板1の柔軟性が失われて電気抵抗値が上昇する不具合があるとともに、1wt%未満ではエッチングレートの変化作用が得られないためである。また、ニッケルの含有率が14wt%以上になると、エッチングレートが遅くなり過ぎて銅めっき層16がサイドエッチングされることにより電気特性が悪くなる恐れがあるとともに、ニッケル含有率が3wt%未満の場合にはエッチングレートを小さくするどころか逆に大きくなってしまうことがあるためである。
【0028】
次いで、このフレキシブル銅張積層板1の製造方法について、2つの実施形態を説明する。
第1実施形態においては、まず帯状のポリイミドフィルム11の表面を、アルゴン雰囲気によるプラズマ処理によって洗浄することにより、親水性も向上した同表面に真空雰囲気下のスパッタ装置にて、ニッケルクロム合金スパッタ膜12と、このニッケルクロム合金スパッタ膜12の上に銅スパッタ膜13とを連続的に成膜する。
【0029】
次いで、このニッケルクロム合金スパッタ膜12と銅スパッタ膜13とが成膜されたポリイミドフィルム11をロール状に巻き取った後、この巻きロール19を、めっき装置2に付属する巻き出し部材(図示を略す)に、軸方向を上下方向に向けて設置する。
【0030】
ここで、めっき装置2は、図2に示すように、巻き出し部材によって巻きロール19から巻き出されるポリイミドフィルム11の下流側に設置された複数(本実施形態においては3槽)の電解銅めっき槽21、22、23によって概略構成されている。そして、これらの電解銅めっき槽21、22、23は、ポリイミドフィルム11の搬送方向に沿って一列に配設されている。さらに、めっき装置2には、これら電解銅めっき槽21、22、23間ならびに電解銅めっき槽21の上流側および電解銅めっき槽23の下流側にそれぞれ給電水洗槽31、32、33、34が備えられている。
【0031】
また、1槽目の電解銅めっき槽21を除く、2槽目以降の電解銅めっき槽22、23には、硫酸銅めっき液にニッケルが含有されており、2槽目の電解銅めっき槽22よりも下流側の3槽目の電解銅めっき槽23の方が硫酸銅めっき液中のニッケルの含有率が高くなっている。加えて、各給電水洗槽31、32、33、34には、それぞれポリイミドフィルム11の表面に接触して、ポリイミドフィルム11を安定的に搬送させる回転ローラ41とともに銅スパッタ膜13に電気を供給する回転自在な給電ローラ44が内蔵されている。
【0032】
さらに、電解銅めっき槽21の上流側に設置された給電水洗槽31と、上記巻き出し部材との間には、銅スパッタ膜13の表面に付着している無機汚染物を分解除去する硫酸が収容された酸洗槽51が設置されている。他方、電解銅めっき槽22の下流側に設置された給電水洗槽34の後段に下流側に向けて、順に防錆槽53、水洗槽54、乾燥装置55および巻き取りローラ91が配設されている。
【0033】
これにより、巻きロール19から巻き出されたポリイミドフィルム11は、その銅スパッタ膜13の表面が酸洗槽51によって洗浄された後に、電解銅めっき槽21、22、23内において硫酸銅めっき液に浸漬されて、銅スパッタ膜13の表面に銅めっきが施される。
【0034】
その際、ポリイミドフィルム11には、給電水洗槽31、32によってスパッタ膜12、13に電気が流れることにより、電解銅めっき槽21において銅スパッタ膜13の表面に銅めっき層16が形成された後に、給電水洗槽32、33によってスパッタ膜12、13および銅めっき層16に電気が流れることにより、電解銅めっき槽22において銅めっき層16の表面に低ニッケル含有率の銅合金めっき層17が形成される。次いで、給電水洗槽33、34によって銅合金めっき層17等に電気が流れることにより、電解銅めっき槽23において銅合金めっき層17の表面に高ニッケル含有率の銅合金めっき層18が形成され、これにより、ポリイミドフィルム11の銅スパッタ膜13の表面に膜さ方向に向けて、段階的にエッチングレートの小さい銅めっき層16、17、18が積層される。
【0035】
次いで、めっき層16、17、18が形成されたポリイミドフィルム11は、防錆槽53にて防錆液に浸漬され、次いで、水洗槽54にて水洗されて、乾燥装置55内にて乾燥した後に、巻き取りローラ91に巻き取られる。これにより、フレキシブル銅張積層板1が得られる。
【0036】
次ぎに、フレキシブル銅張積層板1の製造方法の第2実施形態について、説明する。
なお、本実施形態の製造方法は、めっき槽21、22、23および給電水洗槽31、32、33、34に代えて、一槽のめっき槽を有するめっき装置を用いてめっき層を形成した点が第1実施形態と異なっている。このため、スパッタ膜12、13の形成工程などの第1実施形態と同一の工程については、同一符号を用いることにより説明を省略する。
【0037】
本実施形態の製造方法は、上記巻き出し部材に巻きロール19を設置して、この巻きロール19から巻き出したスパッタ膜12、13が形成されたポリイミドフィルム11を、第1実施形態と同様に酸洗槽51によって洗浄する。
次いで、この洗浄されたポリイミドフィルム11のスパッタ膜13の表面に、ニッケル含有の硫酸銅めっき液を収容した1槽の電解銅めっき槽内において銅めっき処理を施す。
その際、電解銅めっき槽の硫酸銅めっき液に浸漬されているポリイミドフィルム11のスパッタ膜12、13等には、浸漬直後から所定時間を経過するまで、ニッケルがめっき処理されない所定電流密度以下の電気を流すとともに、この所定時間経過後、一定時間経過毎に段階的に電流密度を高くして、電気を流す。
【0038】
これにより、ポリイミドフィルム11の銅スパッタ膜13の表面に、銅めっき層16と、低ニッケル含有率の銅合金めっき層17と、高ニッケル含有率の銅合金めっき層18とが順次形成されて、厚さ方向に向けて段階的にニッケル含有率の高い銅めっき層16、17、18が形成される。
次いで、めっき層16、17、18が形成されたポリイミドフィルム11は、第1実施形態と同様に、防錆槽53にて防錆液に浸漬され、次いで、水洗槽54にて水洗されて、乾燥装置55内にて乾燥した後に、巻き取りローラ91に巻き取られる。これにより、フレキシブル銅張積層板が得られる。
【0039】
上述のフレキシブル銅張積層板及びその製造方法によれば、ポリイミドフィルム11のスパッタ膜13の表面に、銅めっき層16と、低ニッケル含有率の銅合金めっき層17と、高ニッケル含有率の銅合金めっき層18とが順次積層されており、これらのめっき層16、17、18は、ポリイミドフィルム11側の底層である銅めっき層16から表層である銅合金めっき層18に向けて、段階的にニッケルの含有率が高くなって、エッチングレートが小さくなる積層構造を有している。
【0040】
このため、銅スパッタ膜13およびめっき層16、17、18を塩化第2鉄エッチング液にてエッチングした後に、ニッケルクロム合金スパッタ膜12をエッチングすることにより、銅配線をパターン形成してプリント配線板とする場合にも、図3に示すように、表層である銅合金めっき層18のサイドエッチによって、銅配線のトップ幅Tが設計値よりも狭くなってしまうことを効果的に防止でき、半導体チップの位置合わせや抵抗増加の問題が生じることを確実に防止できる。
【0041】
なお、本発明は、上述の実施形態に何ら限定されるものでなく、例えば、第2実施形態におけるポリイミドフィルム11のスパッタ膜12、13等に、時間の経過とともに漸次電流密度を高くして電気を流してもよい。また、銅めっき層16〜18がすべて銅合金めっき層であっても、銅合金めっき層18のニッケル含有率が銅合金めっき層17よりも低くてもよく、少なくとも表層である銅合金めっき層18が底層である銅めっき層16よりもニッケル含有率が高く、エッチングレートが小さければ足りる。さらに、複数の銅めっき層16〜18でなく、単層の銅めっき層であってもよい。加えて、ポリイミドフィルム11の片方の表面だけでなく、両表面が導電性を有して、両表面に銅めっき層が形成されていてもよく、また、フレキシブル銅張積層板1でなく、例えば、リジッド基板用の銅張積層板であってもよい。
【実施例】
【0042】
[実施例1]
次ぎに、実施例1として、第1実施形態と同様に複数のめっき槽を用いて製造したフレキシブル銅張積層板について、説明する。
まず、実験の事前準備として、めっき装置2から3層目のめっき槽23とその下流側の給電水洗槽34を取り外し、下記表1の組成の液温55℃の2Lの硫酸銅めっき液をめっき槽21に、下記表2の組成の液温55℃の2Lの硫酸銅めっき液をめっき槽22に、それぞれ貯留した。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
次ぎに、ポリイミドフィルム(東レ・デュポン製 カプトンEN)11の表面をアルゴン雰囲気によるプラズマ処理によって洗浄した後に、このポリイミドフィルム11の表面に膜厚25nmのニッケルクロム合金スパッタ膜12と膜厚0.2μmの銅スパッタ膜13とを成膜した。次いで、これらのスパッタ膜12、13を成膜したポリイミドフィルム11をロール状に巻き取った巻きロール19を、めっき装置2に付属する巻き出し部材に、軸方向を上下方向に向けて設置する。
【0046】
次いで、巻きロール19から巻き出されたポリイミドフィルム11のスパッタ膜12、
13に、給電水洗槽31、32によって電流密度0.5〜2A/dm2の条件で20分間通電させて、めっき槽21の硫酸銅めっき液によって厚さ8μmの銅めっき層16を形成する。
次ぎに、このポリイミドフィルム11の銅めっき層16およびスパッタ膜12、13に、給電水洗槽32、33によって電流密度1A/dm2の条件で25分間通電させて、めっき槽22のニッケル含有の硫酸銅めっき液よってニッケルを20wt%含有する厚さ4μmの銅合金めっき層17を形成することにより、フレキシブル銅張積層板を得た。
【0047】
次いで、この銅張積層板の銅合金めっき層17の表面にレジストを塗布して、フォトリソグラフィー法によってレジストによる縞状のパターンマスクをライン幅とスペース幅とがともに15μmになるように形成した。次いで、このパターンマスクが形成されたフレキシブル銅張積層板に向けて塩化第2鉄エッチング液をスプレー噴射して、めっき層16、17、銅スパッタ膜13をエッチングした後に、再度、塩化第2鉄エッチング液のスプレー噴射によってニッケルクロム合金スパッタ膜12をエッチングすることにより、図4に示す銅配線が形成されたプリント配線板を得た。
【0048】
図4から判るように、パターンマスクを用いて銅配線をパターニングする際に、銅合金めっき層17がサイドエッチされることにより銅配線のトップ幅Tが設計値よりも狭くなってしまうことを効果的に防止できた。
【0049】
[実施例2]
次ぎに、実施例2として、上記表2の組成のNiSO46H2Oの量を調整して、Niの添加量を0wt%、3wt%、7wt%、14wt%に変更した他は第1実施形態と同様にして複数のめっき槽を用いてNo.1〜4のフレキシブル銅張積層板を得た。
【0050】
次いで、この銅張積層板の銅合金めっき層17の表面にレジストを塗布して、フォトリソグラフィー法によってレジストによる縞状のパターンマスクをライン幅とスペース幅とがともに12.5μmになるように形成した。次いで、このパターンマスクが形成されたフレキシブル銅張積層板に向けて塩化第2鉄エッチング液をスプレー噴射して、めっき層16、17、銅スパッタ膜13をエッチングした後に、再度、塩化第2鉄エッチング液のスプレー噴射によってニッケルクロム合金スパッタ膜12をエッチングすることにより、図5(a)〜(d)に示す銅配線が形成されたプリント配線板を得た。
なお、図5(a)はNi添加なしのNo.1のプリント配線板を走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した写真であり、 図5(b)はNi添加量3wt%のNo.2のプリント配線板、図5(c)はNi添加量7wt%のNo.3のプリント配線板、図5(d)はNi添加量14wt%のNo.4のプリント配線板をそれぞれ走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した写真である。
【0051】
図5(b)から判るようにNiの添加量が3wt%の場合には、図5(c)のNiの添加量7wt%の場合と比較してトップ幅が小さくなるだけでなく、図5(a)のNi添加なしのNo.1のプリント配線板と比較してもトップ幅が小さくなる傾向にある。従って、Niの添加量が3wt%未満になると、Niによってエッチングレートを小さくするどころか逆に大きくなってしまう恐れがある。
また、図5(d)から判るようにNiの添加量が14wt%以上になるとエッチングレートが遅くなって銅めっき層16や銅スパッタ膜13がサイドエッチングされるため、中細の銅配線が形成されて電気特性が悪くなる恐れがある。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明に係るフレキシブル銅張積層板1を示す縦断面模式図である。
【図2】図1の銅張積層板1を製造するめっき装置2の説明図である。
【図3】図1の銅張積層板1のスパッタ膜12、13およびめっき層16、17、18をパターニングして銅配線を形成したプリント配線板の縦断面模式図である。
【図4】実施例1の銅張積層板のスパッタ膜12、13および銅めっき層16、17をパターニングして銅配線を形成したプリント配線板の縦断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により撮影した写真である。
【図5】実施例2のプリント配線板の断面図を走査型電子顕微鏡により撮影した写真であって、図5(a)はNi添加なしのNo.1のプリント配線板、図5(b)はNi添加量3wt%のNo.2のプリント配線板、図5(c)はNi添加量7wt%のNo.3のプリント配線板、図5(d)はNi添加量14wt%のNo.4のプリント配線板写真である。
【図6】従来のプリント配線板の縦断面模式図である。
【符号の説明】
【0053】
1 フレキシブル銅張積層板(プリント配線板用基材)
11 ポリイミドフィルム(プラスチックフィルム、基材)
12 ニッケルクロム合金スパッタ膜
13 銅スパッタ膜
16 銅めっき層(金属めっき層、底層、底部)
17 銅合金めっき層(金属めっき層)
18 銅合金めっき層(金属めっき層、表層、露出表面部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の導電性を有する表面に、複数の金属めっき層が積層され、かつ
これら複数の金属めっき層は、少なくとも表層のエッチングレートが上記基材表面に接触している底層のエッチングレートよりも小さいことを特徴とするプリント配線板用基材。
【請求項2】
基材の導電性を有する表面に、一層または複数層の銅めっき層が形成され、かつ
当該一層または複数層の銅めっき層は、銅よりもエッチングレートの小さい金属を露出表面部が上記基材に接触している底部よりも多く含有していることを特徴とする銅張積層板。
【請求項3】
プラスチックフィルムの導電性を有する表面に、一層または複数層の銅めっき層が形成され、かつ
当該一層または複数層の銅めっき層は、上記プラスチックから露出表面の厚さ方向に向けて銅よりもエッチングレートの小さい金属を漸次または段階的に多く含有して構成されていることを特徴とするフレキシブル銅張積層板。
【請求項4】
上記銅よりもエッチングレートの小さい金属は、ニッケルであることを特徴とする請求項3に記載のフレキシブル銅張積層板。
【請求項5】
プラスチックフィルムの導電性を有する表面に、繰り返し銅めっき液による電解銅めっき処理を施して、複数の銅めっき層を積層する際に、
上記プラスチックフィルムを、段階的に、銅よりエッチングレートの小さい金属の含有率が高い銅めっき液に浸漬させることにより、上記プラスチックフィルムの表面に厚さ方向に向けて段階的にエッチングレートの小さい銅めっき層を積層することを特徴とするフレキシブル銅張積層板の製造方法。
【請求項6】
プラスチックフィルムの導電性を有する表面に、銅めっき層を形成する際に、
上記プラスチックフィルムを、銅よりもエッチングレートが小さい金属を含有する銅めっき液に浸漬させて、当該浸漬時間の経過とともに上記プラスチックフィルムの表面の電流密度を漸次または段階的に増加または減少させることにより、上記プラスチックフィルムの表面に膜さ方向に向けて漸次または段階的に上記金属の含有率の高い銅めっき層を形成することを特徴とするフレキシブル銅張積層板の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図6】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−209446(P2009−209446A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−212919(P2008−212919)
【出願日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】