説明

プロセス強化マイクロ流体装置

マイクロ流体装置[10]は、少なくとも1つの反応体通路[26]およびその中に画成された1つ以上の熱制御通路を備え、この1つ以上の熱制御通路は、各々が壁[18,20]により境が形成された2つの容積[12,14]内に位置し、配置され、それらの壁は略平面で互いに平行であり、反応体通路は、略平面の壁の間に位置し、その略平面の壁と略平面の壁の間に延在する壁[28]により画成され、反応体通路は多数の連続チャンバ[34]を備え、そのような各チャンバは、反応体通路を少なくとも2つの副通路[36]に分割する分割部、および分割された副通路を合流させる合流部[38]を備え、副通路の少なくとも一方の通路の方向を少なくとも90度変化させる。

【発明の詳細な説明】
【優先権】
【0001】
本発明は、「プロセス強化マイクロ流体装置」と題する、2007年7月11日に出願された欧州特許出願第07301225.4号の優先権を主張する。
【技術分野】
【0002】
本発明はマイクロ流体装置に関する。
【背景技術】
【0003】
マイクロ流体装置は、ここに理解されるように、マイクロメートルから数ミリメートルに及ぶ規模の流体装置、すなわち、その最小寸法が、マイクロメートルから数ミリメートルの範囲にある、好ましくは約数十マイクロメートルから約1.5ミリメートルの範囲にある、流体通路を有する装置を含む。一部には、特徴的に小さい総プロセス流体容積と特徴的に高い表面積対容積比のために、マイクロ流体装置、特に、マイクロリアクタは、難しいか、危険であるか、または他の様式では不可能な化学反応およびプロセスを、安全で効率的かつ環境にやさしい様式で実施するのに有用であり得る。そのような改善された化学処理は、しばしば「プロセス強化(process intensified)」と記載される。
【0004】
プロセス強化は、従来の化学処理を、より小さく、より安全で、よりエネルギー効率がよく、環境に優しいプロセスに転換する能力のある、化学工業における比較的新しい重要事項である。プロセス強化の主な目的は、反応装置のサイズを著しく減少させると同時に、物質移動効率および熱伝達効率を最大にする構成を用いた、高効率の反応および処理システムを製造することにある。研究者がより良好な転化率および選択性を得ることのできる方法を使用することにより、研究室から工業生産までの開発時間を短縮することも、プロセス強化研究の優先事項の内の1つである。プロセス強化は、生産量がしばしば毎年数メートルトン未満であり、強化プロセスにおける研究結果が、並列様式で比較的容易に数を増やせる、精密化学および医薬産業にとって特に有利であろう。
【0005】
プロセス強化は、今日一般に用いられているものに対して、製造および処理において非常に重要な改善をもたらし、設備サイズ対生産能力比、エネルギー消費および/または廃棄物生成を相当減少させ、最終的に、より安価で地球にやさしい技術が得られることが期待されている新規の装置および技法の開発からなる。すなわち、手短に言えば、実質的に小さく、清浄であり、よりエネルギー効率のよい技術をもたらすどのような化学工業開発もプロセス強化である。
【0006】
本発明の発明者等および/またはその同僚は、プロセス強化に有用な様々なマイクロ流体装置およびそのような装置の製造方法をすでに開発してきた。これらのすでに開発された装置としては、従来技術の図1に示された一般形態の装置が挙げられる。図1は、縮尺率が一定ではなく、あるタイプのマイクロ流体装置の一般層状構造を示す斜視図である。図示されたタイプのマイクロ流体装置10は、一般に、この図に詳細には示されていない1つ以上の熱制御通路がその内部に配置されたまたは構築された少なくとも2つの容積12および14を含む。容積12が水平壁16と18により鉛直方向に限られるのに対し、容積14は、水平壁20と22により鉛直方向に限られる。
【0007】
この文書に用いられる「水平」および「鉛直」という用語は、相対的な用語であり、一般的な相対的向きを示すだけであり、必ずしも垂直を示すものではなく、その向きは、慣例として使用しただけであり、図示された装置の特徴を意図するものではない。ここに記載される本発明およびその実施の形態は、どのような所望の向きで使用してもよく、水平壁および鉛直壁は、一般に、交差壁である必要しかなく、垂直である必要はない。
【0008】
従来技術の図2に部分的な詳細が示されている反応体通路26は、2つの中央水平壁18と20の間の容積24内に配置されている。図2は、容積24内に所定の断面レベルで、その内のいくつかが反応体通路26を画成している、垂直壁構造28の断面平面図を示している。図2における反応体通路26は、見易いように陰影が付けられており、より狭く蛇行した通路30と、それに続くより広くそれほど蛇行していない通路32を含んでいる。図2の狭く蛇行した通路30を精査すると、蛇行した通路30がこの図面の面で不連続であるのが分かる。図1の断面に示された蛇行した通路の不連続部分間の流体接続は、図2に示された断面の面から垂直にずれた、容積24内の異なる面に提供され、曲がりくねって、三次元的に蛇行した通路30が形成される。図1と2に示された装置および関連する他の実施の形態が、例えば、特許文献1、C.Guermeur等(2005)に、より詳しく開示されている。図1と2の装置および類似の装置において、狭くより蛇行した通路30は反応体を混合するように働くのに対し、直後に続くより広くそれほど蛇行していない通路32は、通路30に続き、比較的制御された熱環境内にある間に反応が完了できる容積を提供するように働く。
【0009】
このタイプの装置により良好な性能が得られているが、それにもかかわらず、所定の反応について最新技術を超えさえする多くの場合において、そのような装置の熱力学的および流体力学的な性能を改善することが望ましくなってきた。特に、そのような装置の熱交換性能を改善すると同時に、その装置により生じる圧力降下をほぼ同じレベルに維持するかまたはさらには減少させながら、混合性能および処理量を増加させることが望ましい。
【0010】
特許文献2、「Method and Statistical Micromixer for Mixing at Least Two Liquids」において、混合の補助として膨張チャンバ内に永続的な渦流を生成する目的のために、狭い通路5に沿って、連続した膨張チャンバ6が間隔をおいて配置されている(図2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】欧州特許出願第01679115号明細書
【特許文献2】米国特許第6935768号明細書(独国特許発明第10041823号明細書に対応)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
マイクロ流体装置は、少なくとも1つの反応体通路およびその中に画成された1つ以上の熱制御通路を備え、この1つ以上の熱制御通路は、各々が壁により境が形成された2つの容積内に位置し、配置され、それらの壁は略平面で互いに平行であり、反応体通路は、略平面の壁の間に位置し、その略平面の壁と略平面の壁の間に延在する壁により画成され、反応体通路は多数の連続チャンバを備え、そのような各チャンバは、反応体通路を少なくとも2つの副通路に分割する分割部、および分割された副通路を合流させる合流部を備え、副通路の少なくとも一方の通路の方向を少なくとも90度変化させる。本発明の追加の特徴および利点は、以下の詳細な説明に述べられており、その一部は、その説明から当業者に容易に明らかであるか、または以下の詳細な説明、特許請求の範囲、並びに添付の図面を含む、ここに記載された本発明を実施することによって認識されるであろう。
【0013】
上述した一般的な説明および以下の詳細な説明は、本発明の実施の形態を提示し、特許請求の範囲に記載された本発明の性質および特徴を理解するための概要または構成を提供することが意図されている。添付の図面は、本発明をさらに理解するために含まれたものであり、この明細書に包含され、その一部を構成する。図面は、本発明の様々な実施の形態を示しており、説明と共に、本発明の原理および動作を説明するように働く。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】ある従来技術のマイクロ流体装置の一般的な層構造を示す斜視図
【図2】図1の容積24内の鉛直壁構造の断面平面図
【図3】本発明のある実施の形態による、反応体通路を画成する鉛直壁構造の断面平面図
【図4】本発明の実施の形態を従来技術の装置と比較した、毎分ミリリットルの流量の関数としての、平方メートルおよびケルビン毎のワットで表された全体の熱伝達係数のグラフ
【図5】本発明の実施の形態と比較の装置に関する、毎分ミリリットルの流量の関数としての、マイクロミキサ装置におけるテスト反応の混合性能のパーセントのグラフ
【図6】本発明の実施の形態および比較の装置に関する、毎分ミリリットルの流量の関数としての、ミリバールで表されたマイクロ流体装置の両端の圧力降下のグラフ(13センチポアズのブドウ糖溶液を使用した)
【図7】本発明によるマイクロ流体装置のある実施の形態のテストにおける不混和液のエマルションの保存を示すデジタル写真
【図8】図17と同じ実験条件による、比較のマイクロ流体装置のテストにおける不混和液の凝集を示すデジタル写真
【図9】本発明のマイクロ流体装置の実施の形態のテストにおける、図7における流量より大きい流量で、より小さいな液滴が生じた、不混和液のエマルションの保存を示す別のデジタル写真
【図10】A〜Gは、本発明のいくつかの代わりの実施の形態による反応通路の部分を画成する多数の変わりに鉛直壁構造の断面平面図
【図11】本発明のさらに別の実施の形態による反応通路の一部分を画成する鉛直壁構造の断面平面図
【図12】本発明のさらに別の代わりの実施の形態による反応通路の一部分を画成する代わりの鉛直壁構造の断面平面図
【図13】単一のテスト装置の一部として配置した、図10に示したものにほぼ対応する本発明の様々な代わりの実施の形態による多数のテスト反応通路の断面平面図
【図14】本発明による装置のある実施の形態の固体取扱テスト中の時間の関数としてのバールで表された圧力のグラフ
【図15】本発明のある実施の形態においてテストした3つの異なる水の流量に関するx軸の毎分ミリリットルで表されたガス注入流量の関数としての界面の比表面積(立方メートル毎平方メートル)のグラフ
【発明を実施するための形態】
【0015】
ここで、その実施例が添付の図面に示された、本発明の現在好ましい実施の形態を詳しく参照する。同じまたは同様の部分を参照するために、図面に亘り、できるだけ同じ参照番号が用いられる。
【0016】
図3は、本発明のある実施の形態によりマイクロ流体装置内の鉛直壁構造28の断面平面図である。鉛直壁構造28は、図1におけるように2つの壁18,20の間に位置する反応体通路26を画成し、それらの壁18,20は、それ自体で、容積12および14の反応体通路に面する境界を形成し、それらの容積の中に、1つ以上の熱制御通路(図示せず)が収容されている。
【0017】
図3に一部が示されている本発明の実施の形態において、反応体は、位置AおよびBで反応体通路26中に供給され、両方の位置Cで反応体通路から流出する。この反応体通路は、水平の略平面の壁18,20、および図1の位置付けで略垂直であり、略平面の壁18,20の間に延在する壁28により画成される。反応体通路26は多数の連続したチャンバ34を備え、そのような各チャンバ、反応体通路を少なくとも2つの副通路に分割する分割部、および分割された副通路36を合流させる合流部38を含み、副通路36の少なくとも1つにおける通路の方向がすぐ上流の通路の方向に対して少なくとも90度変化している。図示された実施の形態において、両方の副通路36は、反応体通路26のすぐ上流の通路の方向に対して、90度を超えて方向が変わっていることが図3から分かるであろう。
【0018】
図3の実施の形態において、多数の連続チャンバ34の各々は、そのチャンバの直後に続くものを有するために、直後に続くチャンバの対応する狭くなった入口42を形成する徐々に狭くなる出口40をさらに備えている。チャンバ34は、直ぐ上流の流動方向に交差するように向けられ、チャンバの入口42の直ぐ下流に位置する、分割・向直し壁44も備えている。分割・向直し壁44の上流側には、凹面46がある。あるチャンバ34から次のチャンバへの狭くなる出口40は、約1mm幅程度であることが望ましい。この通路は、約800μmの高さを有することが望ましい。
【0019】
マイクロ流体装置の実施の形態の反応体通路26の大部分を構成する連続チャンバ34が、図3に示されている。このチャンバ34は、壁18および20に対して略素直な向きに、図1に示したような一定の高さHを有することが望ましく、この高さHは、壁18および20の間の距離にほぼ相当する。言い換えれば、チャンバ34を有する通路26の部分は、Hの方向において容積24の最大寸法に一致する、高さHの方向に可能な最大空間をほぼ占める。このことは、(1)それゆえ、所定の横のサイズのマイクロ流体装置の容積が最大になり、より処理量でより長い滞留時間が可能になり、(2)1つ以上の熱制御流体通路がその中に収容される、容積12と14および反応体通路26の間の材料の量と距離が最小になり、より大きな熱伝達が可能になるので、重要である。さらに、高さHは、800μm程度から数ミリメートルを超えることが望ましいが、Hの方向の境界層の厚さは一般に、分割・向直し壁44により生じる方向変化により反応体流体が通過することにより反応体通路内に誘発される二次流、および徐々に狭くなる出口40を通る、連続チャンバ43のより広い空間への繰返しの通過によって減少する。
【0020】
熱交換および滞留時間を最適にすべき装置について、多数の連続チャンバ34が、図3の実施の形態における場合のように、反応体通路26の全容積の少なくとも50%に沿って延在することが望ましく、少なくとも75%に沿って延在することがより望ましい。
【0021】
図3における本発明の実施の形態に見られるように、連続チャンバ34は、上流方向と下流方向の次のチャンバと共通壁を共有することが望ましい。このことは、最大数のチャンバ34を所定の空間内に配置し、それゆえ、壁18,20の間に利用できる総容積の割合として反応体通路26の容積を最大にすることを確実にするのに役立つ。特に、反応体通路26が、(1)開放容積、(2)水平壁18,20の間に反応体通路を画成し、形成する壁構造28の容積、および(3)反応体通路26を画成し、形成する壁構造28の間の空の空間などの任意の他の容積からなる総容積の少なくとも30%の開放容積を有することが望ましい。反応体通路が少なくとも40%の開放容積を有することがより望ましい。連続チャンバ34は一般に、すぐ上流または下流にはない他のそのようなチャンバと共通壁を共有しないことが望ましい。何故ならば、そのような場合に、反応体通路26の経路に沿って広く離れたチャンバ34間で熱漏れがより容易に生じるかもしれないからである。そのような漏れは、熱に敏感な反応の実施に影響するであろう。それゆえ、空の容積48は、どのような著しい熱漏れの傾向も減少させるように働く。
【0022】
反応体通路26の狭く蛇行した通路30の部分が、図3の実施の形態におけるように本発明の装置に存在する場合、図2の装置などの従来技術の装置の対応する通路30よりも長さが短いことが望ましい。図2のものと比較して図3の装置の狭く蛇行した通路30の長さが短いにもかかわらず、本発明の連続チャンバ34と組み合わせて配置された場合、全ての場合において、少ない処理量で同様に混ざり、多い処理量で良好に混ざり、圧力降下が小さいことが本出願人により分かった。
【0023】
図3に示された本発明の実施の形態のさらに別の特徴として、反応体通路26は、位置F1で最初に、位置F2で二回目に、2つの通路へと二回、分割すなわち分岐する。これにより、滞留時間を局所的に増加させることによる、化学プロセスの推進力の減少が釣り合う。その上、装置の後の段階での圧力降下がそれに対応して減少する。
【実施例】
【0024】
比較テスト
図4は、データ点が△で表された図3に示された本発明の実施の形態を、データ点が●で表された図2の装置と比較した、毎分のミリリットルで表された流量の関数としての平方メートルおよびケルビン毎のワットで表された、測定された全体の熱伝達係数のグラフである。図3に示された構造により生じた二次流動により、テストした全ての流量で約50から100W/m2Kの熱伝達の優位性が生じるのがこのグラフから分かる。テストした装置の両方とも、寸法と容量がほぼ同じであり、各場合における反応体通路の総内容積は5.6±0.1ミリリットルであった。それゆえ、熱交換性能は典型的に、流量と共に減少し、F1およびF2での反応体通路の分岐により、局部的な流量が2回、効果的に半分になるにもかかわらず、本発明の装置の優れた性能が明らかに確立されている。流量が少なくても改善された熱交換性能は、既にマイクロ流体装置である図2の比較の装置に対してさえ、本発明の装置により、プロセス強化が行われたことを示している。
【0025】
図5は、図3に関して先に記載した本発明の実施の形態を、図2に関して記載した装置と比較した、毎分ミリリットルの流量の関数としての、マイクロミキサ装置におけるテスト反応の混合性能パーセントを示したグラフである。テスト方法は、Villermaux J., et al. “Use of Parallel Competing Reactions to Characterize Micro Mixing Efficiency,” AlChE Symp. Ser. 88 (1991) 6, p. 286のものに似ている。概してここに記載されたテストのために、プロセスで、室温で、酸塩化物の溶液およびKI(ヨウ化カリウム)と混合された酢酸カリウムの溶液を調製した。次いで、これらの流体または反応体の両方を、シリンジポンプまたは蠕動ポンプにより、テストすべきマイクロミキサすなわちマイクロリアクタ中に連続的に注入した。結果として得られたテスト反応は、異なる速度の2つの競合する反応である、UVを吸収する最終生成物を生成する「高速」反応、および超高速混合条件下で優勢であり、透明な溶液を形成する「超高速」反応を含む。それゆえ、混合性能はUV透過率と相関関係にあり、理論的に完全なすなわち100%の高速混合により、得られた生成物において100%のUV透過率が生じる。
【0026】
それに応じて、図5のグラフは、全ての反応体の流量の関数としての結果として生じた透過率のパーセントを示している。トレース50は、図3に対応する本発明の実施の形態の混合性能に対応する一方で、トレース52は、図2に対応する比較の装置の性能に対応する。図に示されるように、本発明の実施の形態の混合性能は、特に大きい流量で、優れている。これは、テストした図3の本発明の実施の形態が、図2の対照の装置よりも小さい圧力降下を生じるにもかかわらずそうである。このことは重ねて、図2の装置に対する増大してプロセス強化の達成を示している。
【0027】
圧力降下の結果が図6に示されており、トレース54は、本発明の装置のより低い圧力降下を示し、トレース56は、比較の装置のより高い圧力降下を示している(13センチポアズのブドウ糖溶液を用いた)。
【0028】
図7および8は、不混和液の分散体または混合物を維持する上での本発明による装置の比較優位を劇的に示している。図7は、各液体について毎分10ミリリットルの流量で、等しい比率での着色水と非着色ヘプタンを供給することによって、先の図3の実施の形態による装置のデジタル写真の一部を示している。この図に示されるように、水とヘプタンの混合物は、本発明による装置のこの実例内でチャンバからチャンバへと移動するときに、十分に分散されたままである。本発明による装置は、液中気の分散体を分散および/または維持する上での効率も示している。
【0029】
図8は、各々毎分10ミリリットルで着色水とヘプタンによりテストした、先の図2による比較の装置のデジタル写真の一部を示している。図から分かるように、2つの不混和液相が、比較装置の通路内で合体している。
【0030】
本発明による装置は、概して、幅広い流量に亘り、不混和液の分散体または混合物を生成し、維持することができる。微細な分散体を生成するために、より多い流量を用いてもよい。図9は、毎分54ミリリットルの水流と毎分51ミリリットルのヘプタンによる、先の図3の実施の形態による装置のデジタル写真の一部を示している。この写真の明るい色の細粒が、小さく、比較的均一な、十分に分散したヘプタンの液滴である。
【0031】
いくつかの追加の実施の形態
図10A〜10Gは、特に、連続チャンバ34の他の採り得る形態を示す、本発明のいくつかの代わりの実施の形態による反応体通路の部分を画成する多数の代わりの壁構造の断面平面図である。先の実施の形態に示されたチャンバは、図10Fのものに概して対応し、ここで、支柱58が、潜在的に、図10Aの実施の形態におけるような大きな開放区域または「自由区域」を有するチャンバ34に対して、チャンバ34の圧力抵抗を増加させるように働くであろう。他方で、支柱58のない実施の形態は、支柱58の上流に小さな死空間(流体流パターンにおける遅く動く地点)を有する傾向が少ないであろう。図10Gの実施の形態は、分割・向直し壁44の下流側に三角形の受け構造60を含むことによって、死空間の全ての虞を実質的に避け、したがって、死空間の区域に収集して、反応体通路を詰まらせることのある、固体懸濁物などの固体または沈殿反応を取り扱うのに特に推奨される。
【0032】
図10Bの実施の形態において、分割・向直し壁44が、4つの区画に分かれており、それゆえ、反応体通路を分割・向直し壁44の周りで2つの主要な副通路に分割し、壁44の区画の間に3つの二次的副通路に分割している。補助的副通路の小さなサイズは、微細なエマルションを保持するのに役立ち得る。
【0033】
図10Cの実施の形態において、分割・向直し壁44は非対称であり、特に強烈な副流を提供するように、連続チャンバ34における交互の側でずれている。支柱58も、交互の様式でチャンバ34の中心からずれており、壁44により形成された2つの副通路の大きい方に位置することによって、支柱58は追加の流動分割器として働く。
【0034】
図10Dおよび10Eの実施の形態は、それぞれ、図10Fおよび10Bのものに対応し、その差は、先に論じた実施の形態の徐々に狭くなる出口40が、チャンバ34に流入する流れを微細に分割し、それによって、エマルションまたは他の不混和混合物を形成し、維持するのを補助するように位置した小さい補助的流動分割器64が詰め込まれたより広い出口62により置き換えられていることである。
【0035】
図11は、本発明のさらに別の実施の形態による反応体通路の部分を画成する鉛直壁構造の断面平面図である。この実施の形態は、本発明の装置に利用された連続チャンバ34の構造が、この場合、自続性振動ミキサチャンバ66などの、他のタイプの混合装置と組み合わせて使用してもよいことを示している。
【0036】
図12は、本発明のチャンバ34のさらに別の実施の形態を示しており、ここで、分割・向直し壁44は、先に論じた実施の形態のいくつかにおけるよりも、チャンバ34への上流の入口からさらに間隔がおかれている。
【0037】
追加の比較テスト
図13は、単一の装置の一部として配列された、図9に示されたものにおおよそ対応する本発明の様々な代わりの実施の形態による多数のテスト反応通路の断面平面図である。上述した混合テストを、図に示されたテスト反応通路70〜82の各々に行った。その結果が、図2の装置の比較テストと共に、以下の表Iに示されている。
【表1】

【0038】
表から分かるように、図13に示された本発明の様々な実施の形態の全ては、異なる内容積を考慮に入れたとしても、毎分250ミリリットル以上の流量で、図2に示されたタイプの装置よりも、小さい圧力降下(Δp)で、より良好な混合性能を示す。これらの実施の形態のいくつか、特に、テスト通路70、76および82は、毎分100ミリリットルで、図2の装置と混合性能において実質的に同一であり、全ての多い流量で、優れている。この結果は、テスト通路70および76を含む、それ自体「混合区域」を持たない実施の形態で、特別な混合区画を有するマイクロ流体装置と同程度、またはそれより良好に働いたという点で、さらに重要である。それゆえ、本発明のチャンバを、狭く蛇行した通または他の形態のミキサ装置を必要とせずに、同様にミキサとして効果的に使用されることが明らかである。
【0039】
本発明の装置の固体取扱能力を理解するためのテストを実施した。以下の反応:FeCl3(H2O)6+3NaOH→Fe(OH)3+6H2O+3NaClを用いて、酸化鉄の沈殿物を形成して、0.7バールの圧力の到達するまで経過した時間を記録した。多数のチャンバを含むが、予混または他の混合区画を含まない、本発明による装置を、先の図2による装置との比較においてテストした。以下の表IIにその結果が示されている。
【表2】

【0040】
さらに、一時的な閉塞物を取り除くためにたった一度だけ約11バールまで推進圧力を上昇させることにより、本発明の装置は、テストしたどの他の装置の持続期間も十分に超えて、目詰まりしないままであり、実際に、70分間のテストの期間を超えて継続した。その結果が、秒で表された時間の関数として、バールで表された圧力が示されている、図14のグラフに示されている。図から分かるように、蓄積した沈殿物を取り除くために約11バールまで圧力が急上昇したにもかかわらず、本発明による装置は、テストの期間に亘り決して目詰まりせず、自己洗浄の傾向さえ示した。
【0041】
本発明のタイプの装置を、様々な流量の組合せで水と窒素を一緒に流すことによって、気/液反応の適性についてもテストした。気泡が、一旦形成されたら安定したままであるのが観察された。気/液分散体の界面の比表面積は、目視法により評価され、毎分50ミリリットル(■)、75ミリリットル(◆)および100ミリリットル(●)の水流量に関して、x軸の気体注入量の関数として図15にグラフで表されている。毎分100ミリリットルでは、この比表面積は少なくとも12000m2/m3を超え、低いガス流量では、14000m2/m3を超えた値も得られる。ここに引用された比表面積は、実際に、実際の値の分率を表し(直径が50μm未満の気泡は計数できなかった)、この分率は、実際の合計の30%と60%の間であると考えられる。これらの値は、気液反応に用いられる他のプロセスに比べて勝るとも劣らない:14800m2/m3でのMicro Bubble Columnおよび27000m2/m3でのFalling Film MicroReactorにより、撹拌タンクは典型的に220未満、気泡塔は600未満、衝突するジェットは2000未満である(J■hnisch et al. “Direct fluorination of toluene using elemental fluorine in gas/liquid microreactors” Journal of Fluorine Chemistry, 105 (2000), p. 117を参照のこと)。
【0042】
本発明による装置の実施の形態を、その圧力限界についてもテストした。図3の装置の結果および図2の装置の比較結果が、以下の表に要約されている。
【表3】

【0043】
本発明によるマイクロ流体装置は、ガラス、ガラスセラミック、およびセラミックの内の1種類以上から製造されることが好ましい。水平壁を形成するガラス板の間に、成形され固結されたフリットを配置して、そのガラス板からそのような装置を調製するプロセスが、例えば、米国特許第7007709号、「Microfluidic Device and Manufacture Thereof」に開示されているが、製造はこの方法に制限されない。
【0044】
本発明の装置は、所望であれば、図示された層に加えて他の層を備えてもよい。
【0045】
ここに用いた「反応体」は、マイクロ流体装置内に使用することが望ましい潜在的に任意の物質の省略表現である。それゆえ、「反応体」および「反応体通路」は、不活性材料およびそれに用いられる通路を称してもよい。
【符号の説明】
【0046】
10 マイクロ流体装置
12,14,24 容積
16,18,20,22 水平壁
26 反応体通路
34 チャンバ
40 出口
42 入口
44 分割・向直し壁
58 支柱

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの反応体通路およびその中に画成された1つ以上の熱制御通路を備えたマイクロ流体装置であって、前記1つ以上の熱制御通路は、各々が壁により境が形成された2つの容積内に位置し、配置され、前記壁は略平面で互いに平行であり、前記反応体通路は、前記略平面の壁の間に位置し、該略平面の壁と該略平面の壁の間に延在する壁により画成され、前記反応体通路は多数の連続チャンバを備え、該チャンバの各々は、前記反応体通路を少なくとも2つの副通路に分割する分割部、および分割された前記副通路を合流させる合流部を備え、前記副通路の少なくとも一方の通路の方向の変化が少なくとも90度であることを特徴とするマイクロ流体装置。
【請求項2】
前記多数のチャンバの別のものが直後に続くチャンバの各々が、前記連続したチャンバの対応して狭くなる入口を形成する徐々に狭くなる出口、および直ぐ上流の通路に交差するように向けられ、前記チャンバの入口のすぐ下流に位置する分割・向直し壁をさらに備え、該分割・向直し壁の上流側が窪んだ表面を有することを特徴とする請求項1記載のマイクロ流体装置。
【請求項3】
前記通路の方向の変化が90度より大きいことを特徴とする請求項1または2記載のマイクロ流体装置。
【請求項4】
前記通路の方向の変化が、前記副通路の少なくとも2つの通路の方向変化であることを特徴とする請求項1から3いずれか1項記載のマイクロ流体装置。
【請求項5】
前記反応体通路が、前記略平面の壁に対して垂直な方向に一定の高さを有することを特徴とする請求項1から4いずれか1項記載のマイクロ流体装置。
【請求項6】
前記反応体通路が、(1)開放容積、(2)前記略平面の壁の間に延在する壁の容積、および(3)前記略平面の壁の間の延在する壁の間の任意の他の容積からなる総容積の少なくとも40%の前記開放容積を有することを特徴とする請求項1から5いずれか1項記載のマイクロ流体装置。
【請求項7】
前記少なくとも2つ副通路が、少なくとも2つの副通路および1つ以上の補助副通路を含むことを特徴とする請求項1から6いずれか1項記載のマイクロ流体装置。
【請求項8】
ガラス、ガラスセラミック、およびセラミックの内の少なくとも1種類以上から形成されることを特徴とする請求項1から7いずれか1項記載のマイクロ流体装置。
【請求項9】
前記多数の連続チャンバが、前記反応体通路の容積の少なくとも50%に沿って延在することを特徴とする請求項1から8いずれか1項記載のマイクロ流体装置。
【請求項10】
前記反応体通路が、少なくとも2つの分岐に1回以上分岐していることを特徴とする請求項1から9いずれか1項記載のマイクロ流体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図10C】
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【図10D】
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【図10E】
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【図10F】
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【図10G】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公表番号】特表2011−508657(P2011−508657A)
【公表日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−516065(P2010−516065)
【出願日】平成20年7月11日(2008.7.11)
【国際出願番号】PCT/US2008/008535
【国際公開番号】WO2009/009129
【国際公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【出願人】(397068274)コーニング インコーポレイテッド (1,222)
【Fターム(参考)】