説明

プロピレン系樹脂微孔フィルム及びその製造方法、並びにリチウムイオン電池用セパレータ及びリチウムイオン電池

【課題】 本発明は、リチウムイオンの透過性及び機械的強度に優れており高性能のリチウムイオン電池を構成することができ且つデンドライトや衝撃による正極と負極の短絡を防止することができるプロピレン系樹脂微孔フィルムを提供する。
【解決手段】 本発明のプロピレン系樹脂微孔フィルムは、プロピレン系樹脂フィルムを二軸延伸することによって微小孔部が形成されてなるプロピレン系樹脂微孔フィルムであって、上記プロピレン系樹脂は、分子量が5万以下の成分量が25〜60重量%で且つ分子量が70万以上の成分量が19〜30重量%であって重量平均分子量が35万〜50万であると共に溶融張力が1.1〜3.2gであり、更に、上記プロピレン系樹脂微孔フィルムの透気度が40〜400s/100mLで、気孔率が40〜70%で、微小孔部の開口端の最大長径が500nm以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池のセパレータに用いられるプロピレン系樹脂微孔フィルム及びその製造方法に関する。さらに、本発明は、プロピレン系樹脂微孔フィルムからなるリチウムイオン電池用セパレータ及びこれを用いてなるリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から携帯用電子機器の電池としてリチウムイオン電池が用いられている。このリチウムイオン電池は、アルミニウム箔の表面にコバルト酸リチウム又はマンガン酸リチウムを塗布してなる正極と、銅箔の表面にカーボンを塗布してなる負極と、この正極と負極の短絡を防止するために正極と負極とを仕切るセパレータとを電解液中に配設することによって構成されている。
【0003】
リチウムイオン電池は、その充電時には、正極からリチウムイオンが放出されて負極内に進入する一方、放電時には、負極からリチウムイオンが放出されて正極に移動することによって充放電が行われる。従って、リチウムイオン電池に用いられているセパレータは、リチウムイオンが透過し得ることが必要である。
【0004】
最近、リチウムイオン電池の充放電を繰り返すと、負極端面にリチウムのデンドライト(樹枝状結晶)が発生し、このデンドライトがセパレータを突き破って正極と負極とが微小な内部短絡(デンドライトショート)を起こし、著しく電池容量が劣化するという問題がある。
【0005】
リチウムイオン電池に用いられるセパレータとして、特許文献1には、ポリプロピレンとポリプロピレンより溶融結晶化温度の高いポリマーおよびβ晶核剤とよりなる組成物を溶融押出し、その後、90℃〜120℃の温度でシート状に成形保持した後、面積倍率2.25〜48倍となるよう少なくとも一軸に延伸することを特徴とするポリプロピレン微孔性フィルムの製造方法が開示されている。
【0006】
しかしながら、上記製造方法で得られたポリプロピレン微孔性フィルムは、リチウムイオンの透過性が不充分であると共に、デンドライトによる正極と負極の短絡を充分に防止し得るものではない。更に、上記製造方法で得られたポリプロピレン微孔性フィルムは、機械的強度が低く、衝撃力などの外力が加わった場合の損傷を充分に防止し得るものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭63−199742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、リチウムイオンの透過性に優れており高性能のリチウムイオン電池を構成することができ且つ高い機械的強度を有しデンドライトや衝撃力などの外力によっても容易に損傷することがなく正極と負極の短絡を防止することができるプロピレン系樹脂微孔フィルム及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のプロピレン系樹脂微孔フィルムは、プロピレン系樹脂フィルムを二軸延伸することによって微小孔部が形成されてなるプロピレン系樹脂微孔フィルムであって、上記プロピレン系樹脂は、分子量が5万以下の成分量が25〜60重量%で且つ分子量が70万以上の成分量が19〜30重量%であって重量平均分子量が35万〜50万であると共に溶融張力が1.1〜3.2gであり、更に、上記プロピレン系樹脂微孔フィルムの透気度が40〜400s/100mLで、気孔率が40〜70%で、微小孔部の開口端の最大長径が500nm以下であることを特徴とする。
【0010】
プロピレン系樹脂微孔フィルムに用いられるプロピレン系樹脂としては、特に限定されず、例えば、プロピレン単独重合体、プロピレンと他のオレフィンとの共重合体などが挙げられ、プロピレン単独重合体(ホモポリプロピレン)が好ましい。プロピレン系樹脂は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。又、プロピレンと他のオレフィンとの共重合体は、ブロック共重合体、ランダム共重合体の何れであってもよい。
【0011】
なお、プロピレンと共重合されるオレフィンとしては、例えば、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセンなどのα−オレフィンなどが挙げられる。
【0012】
プロピレン系樹脂の重量平均分子量は、小さいと、プロピレン系樹脂微孔フィルムの透気性が向上しにくくなり、大きいと、製膜が不安定になり、プロピレン系樹脂微孔フィルムの厚み精度が低下するので、35万〜50万に限定され、37万〜48万が好ましい。
【0013】
プロピレン系樹脂における分子量が5万以下の成分の含有量は、少ないと、プロピレン系樹脂微孔フィルムの透気性が向上しにくくなり、多いと、プロピレン系樹脂微孔フィルムの引張降伏強度が低くなるので、25〜60重量%に限定され、30〜58重量%が好ましい。
【0014】
プロピレン系樹脂における分子量が70万以上の成分の含有量は、少ないと、プロピレン系樹脂微孔フィルムの開口端の最大長径が大きくなりすぎ、多いと、プロピレン系樹脂微孔フィルムの透気性が向上しにくいので、19〜30重量%に限定され、20〜29重量%が好ましい。
【0015】
プロピレン系樹脂の重量平均分子量、分子量が5万以下の成分の含有量及び分子量が70万以上の成分の含有量は、例えば、重量平均分子量の低い樹脂と、重量平均分子量が高い樹脂とを混合し、両者の混合比率を調整することによって制御することができる。
【0016】
ここで、プロピレン系樹脂の重量平均分子量はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)法によって測定されたポリスチレン換算した値である。具体的には、プロピレン系樹脂6〜7mgを採取し、採取したプロピレン系樹脂を試験管に供給した上で、試験管に0.05重量%のBHT(ジブチルヒドロキシトルエン)のo−DCB(オルトジクロロベンゼン)溶液を加えてプロピレン系樹脂濃度が1mg/mLとなるように希釈して希釈液を作製する。
【0017】
溶解濾過装置を用いて145℃にて回転速度25rpmにて1時間に亘って上記希釈液を振とうさせてプロピレン系樹脂をBHTのo−DCB溶液に溶解させて測定試料とする。この測定試料を用いてGPC法によってプロピレン系樹脂の重量平均分子量を測定することができる。
【0018】
プロピレン系樹脂における分子量が5万以下の成分量は上述と同様の要領でGPC法を用いて溶出時間500ms毎の含有比を積分法によって算出し、ポリスチレン換算にて分子量が5万以下の成分の重量を合計する。この合計量に基づいて、プロピレン系樹脂における分子量が5万以下の成分の含有量(重量%)を算出する。
【0019】
プロピレン系樹脂における分子量が70万以上の成分量は、分子量が5万以下の成分量を測定する場合と同様の要領で測定することができる。
【0020】
プロピレン系樹脂における重量平均分子量、分子量が5万以下の成分量及び分子量が70万以上の成分量は、例えば、下記測定装置及び測定条件にて測定することができる。
【0021】
測定装置 TOSHO社製 商品名「HLC−8121GPC/HT」
測定条件 カラム:TSKgelGMHHR−H(20)HT×3本
TSKguardcolumn−HHR(30)HT×1本
移動相:o−DCB 1.0mL/分
サンプル濃度:1mg/mL
検出器:ブライス型屈折計
標準物質:ポリスチレン(TOSHO社製 分子量:500〜8420000)
溶出条件:145℃
SEC温度:145℃
【0022】
プロピレン系樹脂の溶融張力は、小さいと、プロピレン系樹脂フィルムの製膜時にプロピレン系樹脂の配向性が低下し、大きいと、プロピレン系樹脂フィルムの製膜時の安定性が低下するので、1.1〜3.2gに限定され、1.3〜3.0gが好ましい。
【0023】
プロピレン系樹脂の溶融張力は高分子鎖の分子間相互作用(分子鎖のからみあい)が大きく影響するため、プロピレン系樹脂の分子量やエチレン成分量の調整などによって制御することができる。
【0024】
例えば、プロピレン系樹脂中の高分子量成分量を増やすことによって分子間相互作用は強くなり、プロピレン系樹脂の溶融張力を大きくすることができる一方、プロピレン系樹脂中の低分子量成分量を増やすことによって分子間相互作用は弱くなり、プロピレン系樹脂の溶融張力を小さくすることができる。具体的には、重量平均分子量の異なる二種以上のプロピレン系樹脂を混合することによって、プロピレン系樹脂の溶融張力を調整することができ、汎用樹脂の中から適宜選択することで設計可能である。
【0025】
なお、プロピレン系樹脂の溶融張力は、JIS K7199に準拠して測定された値をいう。具体的には、JIS K7199に準拠してサンプルを作製し、このサンプルの溶融張力をJIS K7199に準拠して、例えば、下記測定装置及び測定条件にてプロピレン系樹脂の溶融張力を測定することができる。
【0026】
測定装置
東洋精機社製 キャピログラフ(1B) メルトテンションテスター付
測定条件
温度条件 230℃、保温チャンバー使用
押出速度 10mm/分
キャピラリー φ8mm、L2.095mm
引取速度 3.141m/分
【0027】
上述した重量平均分子量、分子量が5万以下の成分の含有量、分子量が70万以上の成分の含有量及び溶融張力を有するプロピレン系樹脂としては、例えば、プライムポリマー社から商品名「プライムポリプロ」にて市販されている。
【0028】
プロピレン系樹脂において、溶融粘弾性測定から得られる角周波数ωが1rad/sでの緩和時間τは、短いと、ラメラの形成が不充分となることがあり、長いと、プロピレン系樹脂フィルムの製膜が不安定になり、プロピレン系樹脂微孔フィルムの厚み精度が低下することがあるので、0.6〜0.8sが好ましく、0.61〜0.78sがより好ましい。
【0029】
プロピレン系樹脂において、溶融粘弾性測定から得られる角周波数ωが1rad/秒での緩和時間τは、プロピレン系樹脂中の高分子量成分量や低分子量成分量のバランスが大きく影響し、例えば、プロピレン系樹脂の分子量や分子量分布を調整することによって制御することができる。具体的には、重量平均分子量の異なる二種以上のプロピレン系樹脂を混合することによって、溶融粘弾性測定から得られる角周波数ωが1rad/秒での緩和時間τを調整することができる。
【0030】
ここで、プロピレン系樹脂において、溶融粘弾性測定から得られる角周波数ωが1rad/sでの緩和時間τは下記の要領で測定される。先ず、角周波数ωが1rad/sの時のプロピレン系樹脂の貯蔵弾性率G’及び損失弾性率G”を粘弾性測定装置を用いて175℃にて測定する。そして、下記式に基づいて緩和時間τを算出することができる。
緩和時間τ(s)=G’/ω・G”
【0031】
なお、角周波数ωが1rad/sの時のプロピレン系樹脂の貯蔵弾性率G’及び損失弾性率G”は、例えば、下記測定装置及び測定条件にて測定することができる。
測定装置:回転型レオメーター レオメトリクス社製 商品名「RMS−800」
測定条件:温度 175℃
コーンプレート φ25mm
【0032】
プロピレン系樹脂微孔フィルムの透気度は、小さいと、プロピレン系樹脂微孔フィルムのフィルム強度が低下し、大きいと、プロピレン系樹脂微孔フィルムのリチウムイオンの透過性が低下して、プロピレン系樹脂微孔フィルムを用いたリチウムイオン電池の電池性能が低下することがあるので、40〜400s/100mLに限定され、50〜320s/100mLが好ましい。
【0033】
なお、プロピレン系樹脂微孔フィルムの透気度は、JIS P8117に準拠して23℃、相対湿度65%にて測定された値をいう。
【0034】
プロピレン系樹脂微孔フィルムにおける23℃での幅方向の引張降伏強度(MPa)をプロピレン系樹脂微孔フィルムの見掛け密度(g/cm3)で除した値は、小さいと、プロピレン系樹脂微孔フィルムの押出方向の機械的強度が低下し、リチウムイオン電池のセパレータとして用いた場合に損傷して電極の短絡を生じる虞れがあるので、40(MPa/(g/cm3))以上が好ましく、45(MPa/(g/cm3))以上がより好ましい。
【0035】
なお、プロピレン系樹脂微孔フィルムにおける23℃での幅方向の引張降伏強度は下記の要領で測定することができる。プロピレン系樹脂微孔フィルムから押出方向に10mm、押出方向に直交する方向(幅方向)に100mmの寸法を有する短冊状の試験片を切り出す。
【0036】
次に、上記試験片の長さ方向の両端部をチャック間距離が50mmとなるように引張試験装置に把持させた後、23℃にてJIS K 7127に準拠して引張速度300mm/分にて引張強度を測定し、S−S曲線に基づいてプロピレン系樹脂微孔フィルムの上記引張降伏強度を算出することができる。
【0037】
プロピレン系樹脂微孔フィルムの見掛け密度は下記の要領で測定される。先ず、プロピレン系樹脂微孔フィルムから、押出方向に50cm、押出方向に直交する方向(幅方向)に14cmの寸法を有する平面長方形状の試験片を切り出す。この試験片の任意の15個所の厚みを測定し、15個所の厚みの相加平均値を試験片の厚みt(cm)とする。次に、試験片の重量W(g)を測定して下記式に基づいて見掛け密度ρを算出する。
見掛け密度ρ(g/cm3)=W/(50×14×t)
【0038】
プロピレン系樹脂微孔フィルムの気孔率は、小さいと、リチウムイオンの透過性が低下し、プロピレン系樹脂微孔フィルムを用いたリチウムイオン電池の電池性能が低下し、大きいと、デンドライトショートが発生する虞れがあるので、40〜70%に限定され、50〜65%が好ましい。
【0039】
なお、プロピレン系樹脂微孔フィルムの気孔率は下記の要領で測定される。先ず、上述の要領でプロピレン系樹脂微孔フィルムの見掛け密度ρ(g/cm3)を測定する。そして、この見掛け密度ρを用いて下記式に基づいてプロピレン系樹脂微孔フィルムの気孔率Pを算出することができる。
気孔率P(%)=100×(1−ρ/0.9)
【0040】
プロピレン系樹脂微孔フィルムにおける微小孔部の開口端の最大長径は、大きいと、デンドライトショートが発生する虞れがあるので、500nm以下に限定され、450nm以下が好ましい。
【0041】
なお、プロピレン系樹脂微孔フィルムにおける微小孔部の開口端の最大長径は次のようにして測定される。先ず、プロピレン系樹脂微孔フィルムの表面をカーボンコーティングする。次に、プロピレン系樹脂微孔フィルムの表面における任意の10個所を走査型電子顕微鏡を用いて倍率1万にて撮影する。なお、撮影範囲は、プロピレン系樹脂微孔フィルムの表面において縦9.3μm×横12.5μmの平面長方形の範囲とする。
【0042】
得られた写真に現れている各微小孔部の開口端の長径を測定し、最も大きい長径を微小孔部の開口端の最大長径とする。なお、微小孔部の開口端の長径とは、この微小孔部の開口端を包囲し得る最小径の真円の直径とする。
【0043】
次に、プロピレン系樹脂微孔フィルムの製造方法について説明する。先ず、プロピレン系樹脂を押出機に供給して溶融混練した上で、押出機の先端に取り付けたTダイからプロピレン系樹脂フィルムを押出す。
【0044】
プロピレン系樹脂を押出機にて溶融混練する際のプロピレン系樹脂の温度は、低いと、得られるプロピレン系樹脂微孔フィルムの厚みが不均一となり或いはプロピレン系樹脂微孔フィルムの表面平滑性が低下し、高いと、プロピレン系樹脂の配向性が低下してプロピレン系樹脂がラメラ構造を充分に形成しない虞れがあるので、プロピレン系樹脂の融点よりも20℃高い温度以上で且つプロピレン系樹脂の融点よりも50℃高い温度以下に限定され、プロピレン系樹脂の融点よりも25℃高い温度以上で且つプロピレン系樹脂の融点よりも40℃高い温度以下であることが好ましい。
【0045】
プロピレン系樹脂を押出機からフィルム状に押出す際におけるドロー比は、小さいと、プロピレン系樹脂に加わる張力が低下して、プロピレン系樹脂の分子配向が不充分となり、プロピレン系樹脂がラメラ構造を充分に形成しない虞れがあり、大きいと、プロピレン系樹脂の分子配向は高いものとなるが、プロピレン系樹脂フィルムの製膜安定性が低下し、得られるプロピレン系樹脂フィルムの厚み精度や幅精度が低下するので、50〜300が好ましく、70〜250がより好ましい。なお、ドロー比とは、TダイのリップのクリアランスをTダイから押出されたプロピレン系樹脂フィルムの厚みで除した値をいう。
【0046】
プロピレン系樹脂フィルムの製膜速度は、小さいと、プロピレン系樹脂に加わる張力が低下して、プロピレン系樹脂の分子配向が不充分となり、プロピレン系樹脂がラメラ構造を充分に形成しない虞れがあり、大きいと、プロピレン系樹脂の分子配向は高いものとなるが、プロピレン系樹脂フィルムの製膜安定性が低下し、得られるプロピレン系樹脂フィルムの厚み精度や幅精度が低下するので、10〜300m/分が好ましく、15〜250m/分がより好ましい。
【0047】
押出されたプロピレン系樹脂フィルムの複屈折率は、小さいと、透気性が向上しにくくなることがあるので、0.017以上が好ましい。
【0048】
なお、プロピレン系樹脂フィルムの複屈折率は、次のようにして測定する。即ち、先ず、プロピレン系樹脂フィルムの厚みDをマイクロゲージを用いて測定する。
【0049】
次に、プロピレン系樹脂フィルムの表裏面にパラフィンワックスを全面的に塗布して光の乱反射による光線透過量の影響を除去する。厚みが1mmの二枚のガラス板をその厚み方向に重ね合わせ、ガラス板上に上記プロピレン系樹脂フィルムを載置する。
【0050】
しかる後、プロピレン系樹脂フィルムの光線透過率T(%)を複屈折率測定装置を用いて検光子135°、偏光子45°の条件下にて測定し、下記式に基づいて波長λが550nmにおける位相差Reを算出し、この位相差Reに基づいて複屈折率Δnを算出する。
位相差Re=550×arcsin(T1/2)/π
複屈折率Δn=Re/D
【0051】
次に、得られたプロピレン系樹脂フィルムを養生する。このプロピレン系樹脂の養生工程は、プロピレン系樹脂フィルムのラメラの結晶化を促進するために行う。このことにより、後述するプロピレン系樹脂フィルムの第一延伸工程において、ラメラ内ではなく、ラメラ間において亀裂を発生させ、この亀裂を起点として微小な貫通孔(微小孔部)を形成することができる。
【0052】
プロピレン系樹脂フィルムの養生温度は、低いと、プロピレン系樹脂フィルムのラメラの結晶化が促進されず、プロピレン系樹脂フィルムの第一延伸工程において、ラメラ間において微小な貫通孔が形成されず、高いと、プロピレン系樹脂フィルムのプロピレン系樹脂分子の配向が緩和してしまい、ラメラ構造が崩れる虞れがあるので、プロピレン系樹脂の融点よりも60℃低い温度以上で且つプロピレン系樹脂の融点よりも10℃低い温度以下に限定され、プロピレン系樹脂の融点よりも50℃低い温度以上で且つプロピレン系樹脂の融点よりも15℃低い温度以下が好ましい。
【0053】
プロピレン系樹脂フィルムの養生時間は、短いと、プロピレン系樹脂フィルムのラメラの結晶化が促進されず、プロピレン系樹脂フィルムの第一延伸工程において、ラメラ間において微小な貫通孔が形成されにくくなるので、充分な時間を確保することが好ましい。
【0054】
次に、プロピレン系樹脂フィルムを押出方向に延伸する(第一延伸工程)が、このプロピレン系樹脂フィルムの押出方向への延伸工程は、冷間延伸工程と、この冷間延伸工程に続く第一熱間延伸工程とからなる。冷間延伸工程では、プロピレン系樹脂フィルムをその押出方向に一軸延伸する。
【0055】
プロピレン系樹脂フィルムの冷間延伸時においては、ラメラは殆ど溶融しておらず、ラメラ同士を延伸によって離間させることによって、ラメラ間の非晶部において効率的に微細な亀裂を独立して生じさせ、この亀裂を起点として確実に多数の微小孔部を形成させる。
【0056】
プロピレン系樹脂フィルムの冷間延伸時の表面温度は、低いと、延伸時にプロピレン系樹脂フィルムが破断する虞れがあり、高いと、ラメラ間の非晶部において亀裂が発生しにくくなるので、−20〜40℃に限定され、0〜30℃が好ましい。
【0057】
プロピレン系樹脂フィルムの冷間延伸の延伸倍率は、小さいと、ラメラ間の非晶部において微小孔部が均一に形成されにくくなり、大きいと、後述するプロピレン系樹脂フィルムの第一熱間延伸時における延伸倍率が低くなり、プロピレン系樹脂微孔フィルムの透気性が低下することがあるので、1.1〜1.6倍に限定され、1.2〜1.5倍が好ましい。
【0058】
なお、本発明において、プロピレン系樹脂フィルムの延伸倍率とは、延伸後のプロピレン系樹脂フィルムの長さを延伸前のプロピレン系樹脂フィルムの長さで除した値をいう。
【0059】
プロピレン系樹脂フィルムの冷間延伸時における延伸速度は、小さいと、ラメラ間の非晶部において微小孔部が均一に形成されにくくなるので、20%/分以上とされ、大き過ぎると、プロピレン系樹脂フィルムが破断する虞れがあるので、20〜3000%/分が好ましい。
【0060】
なお、本発明において、プロピレン系樹脂フィルムの延伸速度とは、単位時間当たりのプロピレン系樹脂フィルムの延伸方向における寸法の変形割合をいう。
【0061】
上記冷間延伸工程におけるプロピレン系樹脂フィルムの押出方向への延伸方法としては、プロピレン系樹脂フィルムをその押出方向にのみ一軸延伸することができれば、特に限定されず、例えば、プロピレン系樹脂フィルムを一軸延伸装置を用いて所定温度にて一軸延伸する方法などが挙げられる。
【0062】
更に、冷間延伸後のプロピレン系樹脂フィルムに冷間延伸時の表面温度よりも高い表面温度にて押出方向にのみ延伸処理を施す(第一熱間延伸工程)。このように、冷間延伸時の表面温度よりも高い表面温度にてプロピレン系樹脂フィルムに冷間延伸時と同一方向に延伸処理を施すことによって、冷間延伸によって形成された多数の微小孔部を成長させることができる。
【0063】
プロピレン系樹脂フィルムの第一熱間延伸時における表面温度は、低いと、冷間延伸時に形成された微小孔部が成長し難く、プロピレン系樹脂微孔フィルムの透気性が向上しないことがあり、高いと、冷間延伸時に形成された微小孔部が閉塞してしまい、かえってプロピレン系樹脂微孔フィルムの透気性が低下することがあるので、プロピレン系樹脂の融点より60℃低い温度以上で且つプロピレン系樹脂の融点より10℃低い温度以下に限定され、プロピレン系樹脂の融点より50℃低い温度以上で且つプロピレン系樹脂の融点より20℃低い温度以下が好ましい。
【0064】
プロピレン系樹脂フィルムの第一熱間延伸時の延伸倍率は、小さいと、冷間延伸時に形成された微小孔部が成長し難く、プロピレン系樹脂微孔フィルムの透気性が低下することがあり、大きいと、冷間延伸時に形成された微小孔部が閉塞してしまい、かえってプロピレン系樹脂微孔フィルムの透気性が低下することがあるので、1.6〜3倍に限定され、1.8〜2.5倍が好ましい。
【0065】
プロピレン系樹脂フィルムの第一熱間延伸時における延伸速度は、大きいと、冷間延伸時に形成された微小孔部が成長しがたく、プロピレン系樹脂フィルムの透気性が低下することがあるので、500%/分以下が好ましく、400%/分以下がより好ましい。
【0066】
上記第一熱間延伸工程におけるプロピレン系樹脂フィルムの延伸方法としては、プロピレン系樹脂フィルムをその押出方向にのみ一軸延伸することができれば、特に限定されず、例えば、プロピレン系樹脂フィルムを一軸延伸装置を用いて所定温度にて一軸延伸する方法などが挙げられる。
【0067】
次に、第一熱間延伸が施されたプロピレン系樹脂フィルムはアニーリング処理が施される(第一アニーリング工程)。この第一アニーリング工程は、上述した押出方向への延伸工程において加えられた延伸によってプロピレン系樹脂フィルムに生じた残存歪みを緩和して、得られるプロピレン系樹脂微孔フィルムに加熱による熱収縮が生じるのを抑えるために行われる。
【0068】
第一アニーリング工程におけるプロピレン系樹脂フィルムの表面温度は、低いと、プロピレン系樹脂フィルム中に残存した歪みの緩和が不充分となって、得られるプロピレン系樹脂微孔フィルムの加熱時における寸法安定性が低下することがあり、高いと、第一延伸工程で形成された微小孔部が閉塞してしまう虞れがあるので、第一熱間延伸時のプロピレン系樹脂フィルムの表面温度以上で且つプロピレン系樹脂の融点よりも10℃低い温度以下に限定される。
【0069】
第一アニーリング工程におけるプロピレン系樹脂フィルムの収縮率は、大きいと、プロピレン系樹脂フィルムにたるみを生じて均一にアニーリングできなくなったり、微小孔部の形状が保持できなくなったりすることがあるので、30%以下に設定することが好ましい。なお、プロピレン系樹脂フィルムの収縮率とは、第一アニーリング工程時における延伸方向におけるプロピレン系樹脂フィルムの収縮長さを、第一熱間延伸工程後の延伸方向におけるプロピレン系樹脂フィルムの長さで除して100を乗じた値をいう。
【0070】
第一アニーリング工程に続いてプロピレン系樹脂フィルムを幅方向(押出方向に直交する方向)にのみ延伸する(第二延伸工程)が、このプロピレン系樹脂フィルムの幅方向への延伸工程は、第二熱間延伸工程からなる。
【0071】
後述するように、プロピレン系樹脂フィルムを所定の条件で幅方向に延伸することによって、第一延伸工程(冷間延伸工程及び第一熱間延伸工程)にて形成されたプロピレン系樹脂フィルムの微小孔部の開口状態を維持してプロピレン系樹脂微孔フィルムの優れた通気性を維持しつつ、プロピレン系樹脂微孔フィルムに優れた機械的強度を付与することができる。
【0072】
プロピレン系樹脂フィルムの第二熱間延伸時における表面温度は、低いと、微小孔部が幅方向に均一に成長し難く、プロピレン系樹脂微孔フィルムの強度が低下することがあり、高いと、形成された微小孔部が閉塞してしまい、かえってプロピレン系樹脂微孔フィルムの透気性が低下することがあるので、プロピレン系樹脂の融点より60℃低い温度以上で且つ第一アニーリング工程時のプロピレン系樹脂フィルムの表面温度以下に限定され、プロピレン系樹脂の融点より50℃低い温度以上で且つ第一アニーリング工程時のプロピレン系樹脂フィルムの表面温度以下が好ましい。
【0073】
プロピレン系樹脂フィルムの第二熱間延伸時の延伸倍率は、小さいと、プロピレン系樹脂微孔フィルムの機械的強度の向上が不充分となることがあり、大きいと、第一延伸工程時に形成された微小孔部が閉塞してしまい、かえってプロピレン系樹脂微孔フィルムの透気性が低下することがあるので、1.05〜3倍に限定され、1.1〜2.5倍が好ましい。
【0074】
プロピレン系樹脂フィルムの第二熱間延伸時における延伸速度は、大きいと、微小孔部が幅方向に成長し難いので、500%/分以下が好ましく、400%/分以下がより好ましい。
【0075】
上記第二熱間延伸工程におけるプロピレン系樹脂フィルムの延伸方法としては、プロピレン系樹脂フィルムをその幅方向にのみ延伸することができれば、特に限定されず、例えば、プロピレン系樹脂フィルムを一軸延伸装置を用いて所定温度にて延伸する方法などが挙げられる。
【0076】
次に、第二熱間延伸が施されたプロピレン系樹脂フィルムはアニーリング処理が施される(第二アニーリング工程)。この第二アニーリング工程は、上述した幅方向への延伸工程において加えられた延伸によってプロピレン系樹脂フィルムに生じた残存歪みを緩和して、得られるプロピレン系樹脂微孔フィルムに加熱による熱収縮が生じるのを抑えるために行われる。
【0077】
第二アニーリング工程におけるプロピレン系樹脂フィルムの表面温度は、低いと、プロピレン系樹脂フィルム中に残存した歪みの緩和が不充分となって、得られるプロピレン系樹脂微孔フィルムの加熱時における寸法安定性が低下することがあり、高いと、延伸工程で形成された微小孔部が閉塞してしまう虞れがあるので、第二熱間延伸時のプロピレン系樹脂フィルムの表面温度以上で且つプロピレン系樹脂の融点よりも10℃低い温度以下に限定される。
【0078】
第二アニーリング工程におけるプロピレン系樹脂フィルムの収縮率は、大きいと、プロピレン系樹脂フィルムにたるみを生じて均一にアニーリングできなくなったり、微小孔部の形状が保持できなくなったりすることがあるので、30%以下に設定することが好ましい。なお、プロピレン系樹脂フィルムの収縮率とは、第二アニーリング工程時における第二熱間延伸工程での延伸方向におけるプロピレン系樹脂フィルムの収縮長さを、第二熱間延伸工程後の第二熱間延伸工程での延伸方向におけるプロピレン系樹脂フィルムの長さで除して100を乗じた値をいう。
【0079】
このようにして得られたプロピレン系樹脂微孔フィルムは、多数の微小孔部がフィルム表裏面を貫通して形成され、優れた透気性を有している。従って、プロピレン系樹脂微孔フィルムをリチウムイオン電池のセパレータとして用いると、リチウムイオンは、プロピレン系樹脂微孔フィルムを円滑に且つ均一に通過することができるので、得られるリチウムイオン電池は優れた電池性能を発揮する。
【0080】
プロピレン系樹脂微孔フィルムは、多数の微小孔部が独立して形成されているので、上述の優れた透気性を維持しており、リチウムイオンが円滑に且つ均一に透過し易く、デンドライトが生成しにくく、更に、押出方向及び幅方向に二軸延伸されて優れた機械的強度も有している。従って、デンドライトショートを確実に防止し、電池容量の劣化などの問題を生じることを未然に防止することができると共に、リチウムイオン電池に衝撃力が加わった場合にあってもプロピレン系樹脂微孔フィルムが損傷するようなことはなく、外力にもかかわらず、正極と負極とがプロピレン系樹脂微孔フィルムを介して仕切られた状態を確実に維持し、リチウムイオン電池の電池性能を維持することができる。
【0081】
本発明によるプロピレン系樹脂微孔フィルムは、上述の通り、多数の微小孔部が形成されていることにより優れた透気性を有しているにも関わらず、優れた機械的強度も兼ね備えている。したがって、このようなプロピレン系樹脂微孔フィルムによれば、高出力化が可能であり、高速での充放電を繰り返し行ったとしても高い出力を維持することが可能なリチウムイオン電池を提供することができる。
【発明の効果】
【0082】
本発明のプロピレン系樹脂微孔フィルムは、上述の如き構成を有しているので、優れた透気性を有しており、リチウムイオン電池に用いた場合にはリチウムイオンの通過を円滑で且つ均一なものとし、リチウムイオン電池は優れた電池性能を有していると共に、デンドライトショートの発生も概ね防止することができ、更に、プロピレン系樹脂微孔フィルムは優れた機械的強度も有しているので、リチウムイオン電池に衝撃力などの外力が加わった場合にあっても容易に損傷することはなく正極と負極とを確実に絶縁状態に仕切ることができ、長期間に亘って安定した電池性能を有するリチウムイオン電池を構成することができる。特に、本発明のプロピレン系樹脂微孔フィルムによれば、高速での充放電を繰り返し行ったとしても、リチウムイオン電池の安定した電池性能を維持することができる。
【0083】
本発明のプロピレン系樹脂微孔フィルムの製造方法によれば、上記の如きプロピレン系樹脂微孔フィルムを容易に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0084】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0085】
(実施例1,2)
表1に示した分子量が5万以下の成分量、分子量が70万以上の成分量、重量平均分子量、溶融張力、融点及び溶融粘弾性測定から得られる角周波数ωが1rad/sでの緩和時間τを有するホモポリプロピレンを押出機に供給して樹脂温度200℃にて溶融混練し、押出機の先端に取り付けられたTダイからフィルム状に押出して30℃にて冷却して厚みが30μmで且つ幅が200mmのホモポリプロピレンフィルムを得た。なお、押出量は10kg/時間、製膜速度は22m/分、ドロー比は83であった。又、得られたホモポリプロピレンフィルムの複屈折率Δnは表1に示した通りであった。
【0086】
得られたホモポリプロピレンフィルムを熱風炉中に供給して表面温度が120℃となるようにして24時間に亘って養生した(養生工程)。
【0087】
次に、ホモポリプロピレンフィルムを押出方向に300mm、幅方向に160mmの短冊状に裁断した。このホモポリプロピレンフィルムを一軸延伸装置(井元製作所社製 商品名「IMC−18C6」)を用いて表面温度が23℃となるようにして50%/分の延伸速度にて延伸倍率1.2倍に押出方向に冷間延伸した(冷間延伸工程)。
【0088】
続いて、ホモポリプロピレンフィルムを一軸延伸装置(井元製作所社製 商品名「IMC−18C6」)を用いて表面温度が120℃となるようにして42%/分の延伸速度にて延伸倍率2倍に押出方向に熱間延伸した(第一熱間延伸工程)。
【0089】
しかる後、ホモポリプロピレンフィルムをその表面温度が130℃となるように且つホモポリプロピレンフィルムに張力が加わらないようにして10分間に亘って放置して、ホモポリプロピレンフィルムにアニーリングを施した(第一アニーリング工程)。なお、第一アニーリング工程におけるホモポリプロピレンフィルムの収縮率は20%とした。
【0090】
次に、ホモポリプロピレンフィルムを一軸延伸装置(井元製作所社製 商品名「IMC−18C6」)を用いて表面温度が120℃となるようにして42%/分の延伸速度にて延伸倍率1.2倍に押出方向に直交する方向に熱間延伸した(第二熱間延伸工程)。
【0091】
しかる後、ホモポリプロピレンフィルムをその表面温度が130℃となるように且つホモポリプロピレンフィルムに張力が加わらないようにして10分間に亘って放置して、ホモポリプロピレンフィルムにアニーリングを施して厚みが23μmのプロピレン系樹脂微孔フィルムを得た(第二アニーリング工程)。なお、第二アニーリング工程におけるホモポリプロピレンフィルムの収縮率は20%とした。
【0092】
(実施例3,4)
表1に示した分子量が5万以下の成分量、分子量が70万以上の成分量、重量平均分子量、溶融張力、融点及び溶融粘弾性測定から得られる角周波数ωが1rad/sでの緩和時間τを有するホモポリプロピレンを押出機に供給して樹脂温度210℃にて溶融混練し、押出機の先端に取り付けられたTダイからフィルム状に押出して30℃にて冷却して厚みが30μmで且つ幅が200mmのホモポリプロピレンフィルムを得た。なお、押出量は10kg/時間、製膜速度は22m/分、ドロー比は83であった。また、得られたホモポリプロピレンフィルムの複屈折率Δnは表1に示した通りであった。
【0093】
得られたホモポリプロピレンフィルムを加熱熱風炉中に供給して表面温度が120℃となるようにして24時間に亘って養生した(養生工程)。
【0094】
次に、ホモポリプロピレンフィルムを押出方向に300mm、幅方向に160mmの短冊状に裁断した。このホモポリプロピレンフィルムを一軸延伸装置(井元製作所社製 商品名「IMC−18C6」)を用いて表面温度が23℃となるようにして50%/分の延伸速度にて延伸倍率1.2倍に押出方向に冷間延伸した(冷間延伸工程)。
【0095】
続いて、ホモポリプロピレンフィルムを一軸延伸装置(井元製作所社製 商品名「IMC−18C6」)を用いて表面温度が110℃となるようにして42%/分の延伸速度にて延伸倍率2倍に押出方向に熱間延伸した(第一熱間延伸工程)。
【0096】
しかる後、ホモポリプロピレンフィルムをその表面温度が130℃となるように且つホモポリプロピレンフィルムに張力が加わらないようにして10分間に亘って放置して、ホモポリプロピレンフィルムにアニーリングを施した(第一アニーリング工程)。なお、第一アニーリング工程におけるホモポリプロピレンフィルムの収縮率は20%とした。
【0097】
次に、ホモポリプロピレンフィルムを一軸延伸装置(井元製作所社製 商品名「IMC−18C6」)を用いて表面温度が110℃となるようにして42%/分の延伸速度にて延伸倍率1.2倍に押出方向に直交する方向に熱間延伸した(第二熱間延伸工程)。
【0098】
しかる後、ホモポリプロピレンフィルムをその表面温度が130℃となるように且つホモポリプロピレンフィルムに張力が加わらないようにして10分間に亘って放置して、ホモポリプロピレンフィルムにアニーリングを施して厚みが23μmのプロピレン系樹脂微孔フィルムを得た(第二アニーリング工程)。なお、第二アニーリング工程におけるホモポリプロピレンフィルムの収縮率は20%とした。
【0099】
(比較例1〜5)
表1に示した分子量が5万以下の成分量、分子量が70万以上の成分量、重量平均分子量、溶融張力、融点及び溶融粘弾性測定から得られる角周波数ωが1rad/sでの緩和時間τを有するホモポリプロピレンを押出機に供給して樹脂温度200℃にて溶融混練し、押出機の先端に取り付けられたTダイからフィルム状に押出して30℃にて冷却して厚みが30μmで且つ幅が200mmのホモポリプロピレンフィルムを得た。なお、押出量は10kg/時間、製膜速度は22m/分、ドロー比は83であった。又、得られたホモポリプロピレンフィルムの複屈折率Δnは表1に示した通りであった。
【0100】
得られたホモポリプロピレンフィルムを熱風炉中に供給して表面温度が120℃となるようにして24時間に亘って養生した(養生工程)。
【0101】
次に、ホモポリプロピレンフィルムを押出方向に300mm、幅方向に160mmの短冊状に裁断した。このホモポリプロピレンフィルムを一軸延伸装置(井元製作所社製 商品名「IMC−18C6」)を用いて表面温度が23℃となるようにして50%/分の延伸速度にて延伸倍率1.2倍に押出方向に冷間延伸した(冷間延伸工程)。
【0102】
続いて、ホモポリプロピレンフィルムを一軸延伸装置(井元製作所社製 商品名「IMC−18C6」)を用いて表面温度が120℃となるようにして42%/分の延伸速度にて延伸倍率2倍に押出方向に熱間延伸した(第一熱間延伸工程)。
【0103】
しかる後、ホモポリプロピレンフィルムをその表面温度が130℃となるように且つホモポリプロピレンフィルムに張力が加わらないようにして10分間に亘って放置して、ホモポリプロピレンフィルムにアニーリングを施して厚みが25μmのプロピレン系樹脂微孔フィルムを得た(第一アニーリング工程)。なお、第一アニーリング工程におけるホモポリプロピレンフィルムの収縮率は20%とした。
【0104】
(評価)
得られたプロピレン系樹脂微孔フィルムの透気度、気孔率、微小孔部の開口端の最大長径、幅方向の引張降伏強度及び見掛け密度を上述の要領で測定し、その結果を表1に示した。
【0105】
更に、以下の要領に従って、実施例1〜2及び比較例1〜4のプロピレン系樹脂微孔フィルムを用いてリチウムイオン電池を作製し、リチウムイオン電池について放電容量を測定した。結果を表1に示す。
【0106】
(リチウムイオン電池の作製)
正極活物質としてLiMn24(平均粒径:26μm)92重量%、導電助剤としてカーボンブラック4重量%、及びバインダー樹脂としてポリフッ化ビニリデン4重量%を混合して撹拌することにより正極形成用組成物を調製し、この正極形成用組成物を正極集電体としてのアルミニウム箔の一面にコンマコーターを用いて塗布し、乾燥させることにより正極活物質層を作製した。その後、正極活物質層が一面に形成されている正極集電体を縦30mm×横60mmの平面長方形に打ち抜くことにより正極を得た。
【0107】
次に、負極活物質としてグラファイト粒子91重量%、導電助剤としてカーボンブラック5重量%、及びバインダー樹脂としてポリフッ化ビニリデン4重量%を混合して撹拌することにより負極形成用組成物を調製した。負極集電体として電解法により一面が粗面化された電解銅箔を用意し、この電解銅箔の粗面化された面に負極形成用組成物をコンマコーターを用いて塗布し、乾燥させることにより負極活物質層を作製した。その後、負極活物質層が一面に形成されている負極集電体を縦30mm×横60mmの平面長方形に打ち抜くことにより負極を得た。
【0108】
次に、正極、プロピレン系樹脂微孔フィルム及び負極を、プロピレン系樹脂微孔フィルムを介して正極活物質層と負極活物質層とが対向するようにして、重ね合わせて積層体を形成し、各電極にタブを配設した後、積層体を80℃にて12時間に亘って減圧乾燥した。積層体を減圧乾燥した後、積層体を外装材に収納しアルゴンガス雰囲気中にて電解液を注入した後、外装材を減圧下でシールしてリチウムイオン電池を作製した。なお、電解液は、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとを3:7(体積比)にて混合して得られた混合溶液を溶媒としたLiPF6溶液(1mol/L)を用いた。
【0109】
(放電容量)
リチウムイオン電池を20℃恒温槽中に設置し、1Cに相当する電流で電圧4.2Vまでリチウムイオン電池の充電を行った後、5Cに相当する電流で電圧2.7Vにてリチウムイオン電池の放電を行う充放電を1サイクルとし、同じ条件で充放電を200サイクル行った。そして、1サイクルの充放電を行った後のリチウムイオン電池の初期放電容量A1(mAh)、及び200サイクルの充放電を行った後のリチウムイオン電池の放電容量A200(mAh)を測定し、初期放電容量A1に対する放電容量の維持率((%)=A200/A1×100)を算出した。
【0110】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロピレン系樹脂フィルムを二軸延伸することによって微小孔部が形成されてなるプロピレン系樹脂微孔フィルムであって、上記プロピレン系樹脂は、分子量が5万以下の成分量が25〜60重量%で且つ分子量が70万以上の成分量が19〜30重量%であって重量平均分子量が35万〜50万であると共に溶融張力が1.1〜3.2gであり、更に、上記プロピレン系樹脂微孔フィルムの透気度が40〜400s/100mLで、気孔率が40〜70%で、微小孔部の開口端の最大長径が500nm以下であることを特徴とするプロピレン系樹脂微孔フィルム。
【請求項2】
プロピレン系樹脂において、溶融粘弾性測定から得られる角周波数ωが1rad/sでの緩和時間τが0.6〜0.8sであることを特徴とする請求項1に記載のプロピレン系樹脂微孔フィルム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のプロピレン系樹脂微孔フィルムからなることを特徴とするリチウムイオン電池用セパレータ。
【請求項4】
請求項3に記載のリチウムイオン電池用セパレータを組み込んでなることを特徴とするリチウムイオン電池。
【請求項5】
分子量が5万以下の成分量が25〜60重量%、分子量が70万以上の成分量が19〜30重量%、重量平均分子量が35万〜50万及び溶融張力が1.1〜3.2gであるプロピレン系樹脂を押出機に供給して上記プロピレン系樹脂の融点よりも20℃高い温度以上で且つ上記プロピレン系樹脂の融点よりも50℃高い温度以下にて溶融混練して上記押出機の先端に取り付けたTダイからプロピレン系樹脂フィルムを押出す工程と、このプロピレン系樹脂フィルムを上記プロピレン系樹脂の融点よりも60℃低い温度以上で且つプロピレン系樹脂の融点よりも10℃低い温度以下にて養生する養生工程と、この養生工程後のプロピレン系樹脂フィルムをその表面温度が−20〜40℃にて押出方向に1.1〜1.6倍に延伸する冷間延伸工程と、この冷間延伸工程後のプロピレン系樹脂フィルムをその表面温度がプロピレン系樹脂の融点より60℃低い温度以上で且つプロピレン系樹脂の融点より10℃低い温度以下にて1.6〜3倍に押出方向に延伸する第一熱間延伸工程と、この第一熱間延伸工程後のプロピレン系樹脂フィルムをその表面温度が上記第一熱間延伸工程時のプロピレン系樹脂フィルムの表面温度以上で且つ上記プロピレン系樹脂の融点よりも10℃低い温度以下にてアニーリングする第一アニーリング工程と、上記第一アニーリング工程後のプロピレン系樹脂フィルムをその表面温度がプロピレン系樹脂の融点より60℃低い温度以上で且つ第一アニーリング工程時のプロピレン系樹脂フィルムの表面温度以下にて1.05〜3倍に幅方向に延伸する第二熱間延伸工程と、この第二熱間延伸工程後のプロピレン系樹脂フィルムをその表面温度が上記第二熱間延伸時のプロピレン系樹脂フィルムの表面温度以上で且つ上記プロピレン系樹脂の融点よりも10℃低い温度以下にてアニーリングする第二アニーリング工程とを含むことを特徴とするプロピレン系樹脂微孔フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2012−92286(P2012−92286A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−81929(P2011−81929)
【出願日】平成23年4月1日(2011.4.1)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】