説明

ホーム転落検知システム

【課題】駅ホーム上でホーム縁に沿って旅客がホームと連射との間に転落した事故が生じた時に、これを高い精度で迅速かつ確実に自動的に検知することができるホーム転落検知システムを提供する。
【解決手段】ホーム転落検知システムは、列車が入線する駅ホームのホーム縁に沿って当該ホーム縁の上方位置に設置され、所定の時間間隔で設定された計測時刻毎に、それぞれ設定された検知エリアに係る検知画像を出力する複数のMEMSセンサSE1〜SEnと、複数のMEMSセンサの各々が出力する検知画像に基づき旅客像に係るデータを記憶するステイタスメモリ41と、ステイタスメモリに記憶された旅客像に係るデータに基づき旅客像の存在の有無に係るデータを取得し、このデータと判定用データとを比較して一致するか否かを判定し、一致するときに旅客のホーム転落状態が発生したと判定するホーム転落判定部52とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はホーム転落検知システムに関し、特に、それぞれで設定された検知エリアにつ
いて距離センサとして機能する複数のMEMSセンサ(距離エリアセンサ)をホーム縁に
沿った上方領域に一列状に配置し、当該複数のMEMSセンサの検知動作特性を利用して
旅客のホーム転落事故を検知するホーム転落検知システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ホームからの転落を検知する従来の技術として特許文献1,2に記載される技術が存在
する。
【0003】
特許文献1に開示されるホーム転落検知装置では、その図1に示されるように線路軌道
に沿って所定の間隔で配置され、かつその図2に示されるようにホームから線路軌道に向
かって線路軌道側を斜めに覗き込むような配置姿勢で上方位置に設けられた複数の画像撮
像手段によって各々の転落検知エリアの撮像画像を取得する。複数の画像撮像手段によっ
て取得した各々の転落検知エリアに関する撮像画像に係る画像データに基づき、最初に転
落検知標本データを設定し、その後、現時点の画像データを取得し、当該現時点の画像デ
ータと転落検知標本データとの差分画像を得て、当該差分画像の差分領域の画素数に基づ
いて物体の転落を検知する。画像撮像手段はいわゆる撮像用カメラである。
【0004】
特許文献2に開示されるホーム転落者検知方法等では、複数台のステレオカメラをホー
ムの縁部に沿って所定の間隔で配置し、複数台のステレオカメラの各々の検知エリアを撮
像し、撮像で得られた画像信号を用いた画像処理で、ホームからの落下物を検知し、落下
物の大きさを求め、その大きさから落下物が人であるか否かを判定するようにしている。
このときには画像処理では、ホーム上面より下側に設定された所定の高さよりも低くなっ
たことを条件に落下物の存在を判定し、かつステレオカメラから落下物までの距離を求め
、当該距離に基づいて落下物の高さを求めると共に落下物の占有画面数を求めるようにし
ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−276605号公報(図1と図2)
【特許文献2】特開2003−246268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の特許文献1,2に基づくホーム転落検知装置では、検知手段として撮像用カメラ
(ステレオカメラを含む)を利用して撮像画像に基づいてホーム上で起きる転落等の事故
を検知するようしている。カメラによる撮像画像に係る情報を用いてその撮像画像上での
画素数に基づいて転落事故の判定を行っているため、線路軌道上に転落した人や物を検知
し、転落したという事実を検知することのみであり、旅客が、列車の進行動作と共にホー
ムと列車との間に転落するという事故を高い精度で迅速に検知することはできなかった。
またカメラの撮像で得られる画像データでは、外乱光の影響を受け、ホームと列車の間
に転落した可能性のある旅客を検知することが容易ではないという問題もあった。
列車発車時における旅客の転落事故の自動検知は、従来の転落検知装置では技術的に難
しい状態にあり、専ら目視確認作業に基づいて人為的に行っていた。
【0007】
本発明の目的は、上記の課題に鑑み、駅ホームのホーム縁で旅客がホームと列車との間
に転落した事故が起きた時に、これを高い精度で迅速かつ確実に自動的に検知することが
できるホーム転落検知システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るホーム転落検知システムは、上記の目的を達成するため、次のように構成
される。
【0009】
第1のホーム転落検知システム(請求項1に対応)は、列車が入線する駅ホームのホー
ム縁に沿って当該ホーム縁の上方位置に設置され、所定の時間間隔で設定された計測時刻
毎に、それぞれ設定された検知エリアに係る検知画像を出力する複数のMEMSセンサと
、複数のMEMSセンサの各々が出力する検知画像に基づき旅客像に係るデータを記憶す
る記憶手段と、記憶手段に記憶された旅客像に係るデータに基づき旅客像の存在の有無に
係るデータを取得し、この旅客像の存在に係るデータと判定用データとを比較して一致す
るか否かを判定し、一致するときに旅客のホーム転落状態が発生したと判定する処理手段
と、を備えることを特徴としている。
【0010】
上記のホーム転落検知システムでは、駅ホームにおける列車が入線・停車するホーム縁
の所定の箇所にそれぞれ検知エリアが設定された複数のMEMSセンサを配置し、当該M
EMSセンサによって得られる検知エリアの高さ(距離)情報に基づいて当該検知エリア
での旅客の動き(存在、消滅)を検出し、旅客のホーム転落に特有の動きパターンを判定
用データとして用意して、比較を行い、正確かつ迅速に旅客のホーム転落状態を検知する
ことが可能となる。
【0011】
第2のホーム転落検知システム(請求項2に対応)は、上記の構成において、好ましく
は、複数のMEMSセンサにおける隣り合う2つのMEMSセンサの各々の検知エリアの
境界部は接している、または重なり部分を有することを特徴とする。隣り合う2つのME
MSセンサの各々の検知エリアの設定において、境界部を接するまたは重なり合わせるこ
とにより、判定アルゴリズムの作成を容易化することができる。
【0012】
第3のホーム転落検知システム(請求項3に対応)は、上記の構成において、好ましく
は、判定用データは、隣り合う2つのMEMSセンサの各々の前記検知画像で生じる旅客
像が消滅したことを表す画像データであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、複数のMEMSセンサを利用して駅ホームのホーム縁を含む領域をレ
ーザ光で2次元走査して当該ホーム縁における高さ情報を取得し、当該高さ情報の変化か
ら旅客像を特定し、当該旅客像の存在および消滅に係る動きのパターンから旅客のホーム
転落状態の発生を正確にかつ迅速に自動検知することができる。このため、駅ホーム上で
ホーム縁に沿って旅客がホームと列車の間に転落した事故が生じた時に、これを高い精度
で迅速かつ確実に自動的に検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係るホーム転落検知システムで用いられるセンサシステムのホームにおける具体的な配置構成を示す平面図である。
【図2】センサシステムのホームにおける具体的な配置構成を示す正面図である。
【図3】1つのMEMSセンサの計測で得られた検知画像の一例を示す図である。
【図4】本発明に係るホーム転落検知システムの検知・判定システムの構成を示すブロック図である。
【図5】各MEMSセンサの計測動作で得られる検知画像の3つの例(A)安全エリアにいる場合、(B)危険エリアにいる場合、(C)軌道エリアに出た場合を示す図である。
【図6】ホームに入線・停車した列車が再び発車し動き出した時において、当該列車の近傍で旅客が留まっている状況を示す平面図である。
【図7】時間軸(t)での計測時刻t1,t2,t3の経過に伴う2つのMEMSセンサ(SE5,SE6)の検知画像の変化状態を示す図である。
【図8】ホーム転落検知システムの旅客のホーム転落状態の検知動作と判定動作の流れを示すフローチャートである。
【図9】ステイタスメモリ(41)に保存される或る計測時刻での保存テーブルの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の好適な実施形態(実施例)を添付図面に基づいて説明する。
【0016】
本発明に係るホーム転落検知システムは、列車移動時にホームと列車の間に転落した可
能性のある旅客を検知するためのセンサシステムと、検知した旅客に関して転落状態が発
生しているか否かを正確かつ迅速に自動検知する事故判定に係る判定アルゴリズムを有す
る判定システムとから構成されている。
【0017】
図1と図2を参照して、センサシステムのホームにおける具体的な配置に関する構成を
説明する。図1は平面図を示し、図2は正面図を示している。
【0018】
図1および図2において、11は駅のホームにおいて当該ホームを上方から見たもので
あり、12はこのホーム11に入線した列車を上方から見たものである。11Aは、列車
12が入線した線路軌道に沿った位置に形成されるホーム縁である。ホーム縁11Aはホ
ーム11と線路軌道との間の境界になる。このホーム縁11Aに沿って、ホーム縁11A
の内側の位置にて、その上方の位置に一列状に複数(例えばn個)のセンサSE1,SE
2,…,SEnが所定の等間隔の配置関係に基づいて設置されている。n個のセンサSE
1,SE2,…,SEnはMEMSセンサである。以下、「MEMSセンサSE1,SE
2,…,SEn」と記す。ここで「MEMS」とは、よく知られた「Micro Electro Mechan
ical System」の意味である。また「MEMSセンサ」とは、レーザ光を2次元走査する検
知部の構成と、光パルス飛行時間計測法による距離計測装置の構成とから成り、割り当て
られた特定の検知エリア(2次元領域)における3次元情報(この実施形態では「高さ情
報」)を測距機能に基づいて取得することができるエリアセンサである。
【0019】
複数のMEMSセンサはホーム縁11Aに沿って上方に設けられた取付けフレーム13
において等間隔で設置されている。取付けフレーム13に設置された各MEMSセンサS
E1,SE2,…,SEnは、その検知部を下方に向けて配置され、下方に矩形の検知エ
リア14が設定される。複数のMEMSセンサSE1,SE2,…,SEnの各々は、ホ
ーム11に入線し停車する列車12の各車両の乗降ドア12Aに対応して配置されている
。従って各MEMSセンサSE1,SE2,…,SEnに対応する検知エリア14は、通
常的には、列車12の各車両の各乗降ドア12Aの出入り口(乗降口)の領域を含むよう
にして設定されている。乗降ドア12Aの出入り口等の領域は、旅客の乗降時において、
旅客の転落事故が起きやすい領域である。そこで、当該出入り口領域を含むように検知エ
リア14が設定される。複数のMEMSセンサSE1,SE2,…,SEnは、対応する
検知エリア14の高さ情報(2次元距離情報)を得るためのエリアセンサとしての機能す
る。
【0020】
図2では、複数のMEMSセンサSE1,SE2,…,SEnで隣りあう2つのMEM
Sセンサの各検知エリア14の間の関係を示している。この図示例では、隣り合う2つの
検知エリア14の境界部は、共通する重なり合う領域を有するように重なって設定されて
いる。図2では、14Aは最外側のレーザ光のスキャンプロフィール(スキャン輪郭)を
示している。隣り合う2つの検知エリア14の位置関係では、境界部の共通領域をほぼゼ
ロにする(接するようにする)、或いは検知エリア14を間をあけて離すように設定する
こともできる。隣り合う2つのMEMSセンサの検知エリアを離すように設定する場合に
は、後述する高さ情報に基づく判定アルゴリズムで予測処理が必要とされる。
【0021】
上記のように設置されたn個のMEMSセンサSE1,SE2,…,SEnの各々は、
所定の時間間隔で設定された検知時刻(計測時刻)において、対応する検知エリア14に
ついて測距センサ装置として個別に高さ情報に関する検知動作を行う。各MEMSセンサ
によって各検知時刻での検知動作で得られた対応する検知エリア14内についての高さ情
報は処理コンピュータに送られ、当該処理コンピュータで検知時刻毎に検知エリア14に
おける高さ情報に基づいて検知エリア14毎の検知物情報を取得する。取得した高さ情報
に基づいて、閾値に利用して、検知エリア14内の旅客の存在、および列車12の客車の
存在等を検知することができる。上記検知物情報は旅客等の存在情報である。取得した高
さ情報、検知物情報は、検知時刻毎に、n個のMEMSセンサSE1〜SEnの各々につ
いての検知情報としてテーブル形式でメモリに保存される。
【0022】
また、n個のMEMSセンサSE1,SE2,…,SEnの各々で得られる検知情報(
検知画像)によれば、処理コンピュータ側において、対応する検知エリア14に関して、
上記の旅客の存在情報と共に、設置位置に関する予めの位置情報に基づいて、ホーム縁1
1Aの位置、およびホーム縁11Aの近傍の危険エリアの位置、それ以外の安全エリアの
位置が知られている。
【0023】
図3に、1つのMEMSセンサによる計測で得られた検知画像の一例を示す。21は、
対応する検知エリア14を2次元矩形領域として示した検知画像である。この検知画像2
1において、22はホーム縁11Aの位置を示すライン像であり、23は危険エリア像で
あり、24は安全エリア像であり、25は検知エリア14内に存在する旅客像である。
図3で、ライン像22の上側が、実際には線路軌道側の領域になる。危険エリア像23は
、実際には、通常的にホーム縁11Aから接近危険ラインの間の領域である。
【0024】
次に、図4を参照して、本発明に係るホーム転落検知システムの検知・判定システムの
構成を説明する。
【0025】
ホーム転落検知システムでは、n個のMEMSセンサSE1,SE2,…,SEnの各
々から時系列の画像データを取得し、列車12の到着・発車時における時間経過に伴うこ
れらの画像データの画像内容の変化に基づいて、自動的に旅客のホーム転落状態の有無を
検知し判定する検知・判定システムの機能部を有している。
【0026】
当該検知・判定システムは、上記のセンサシステムで検知した旅客や列車の存在情報等
を取り出して記憶するメモリと、この記憶情報に基づいて旅客について転落状態が発生し
たか否かを正確かつ迅速に自動的に検知し判定する事故判定に係る判定アルゴリズムを実
行する演算処理部(CPU)とから構成されている。
【0027】
図4に示した構成では、一例として便宜的に7個のMEMSセンサSE1〜SE7が示
されている。実際には、n個のMEMSセンサSE1〜SEnの各出力線がスイッチ部3
1に接続されている。n個のMEMSセンサSE1〜SEnの各々から出力される各検知
エリア14の高さ情報に係る信号は、入力選択式スイッチ機能を有したスイッチ部31に
入力される。スイッチ部31に入力された複数のMEMSセンサの出力信号は、スイッチ
部31によって演算処理装置32側に適宜なタイミングで選択的に取り込まれる。演算処
理装置32は、少なくとも1種類のメモリ41と、CPUで所定のプログラムを実行する
ことにより実現される少なくとも2つの機能部、すなわち、旅客追尾部51およびホーム
転落判定部52とを備える。さらに演算処理装置32の出力側には出力装置61を備えて
いる。
【0028】
なお、n個のMEMSセンサSE1〜SEnの各々から出力される各検知エリア14の
高さ情報に係る信号を利用して、列車ホーム進入検知部、列車停車検知部、列車発車検知
部を設け、列車の移動に係る情報を得るように構成することもできる。
【0029】
メモリ41はステイタスメモリ(状態記憶用メモリ)である。このステイタスメモリ4
1は、旅客(人)の存在および移動に関する状態を記憶するメモリである。
【0030】
また上記の2つの機能部(51,52)の機能内容(処理内容)は次の通りである。
【0031】
旅客追尾部51は、検知時刻毎にn個のMEMSセンサSE1〜SEnの各々が出力す
る検知画像21を取り込み、複数の当該検知画像21に現れる旅客像25に基づいて、旅
客像25の同一性を特定し、旅客像25の位置の変化に基づき当該旅客の移動または消滅
を追尾する機能を有している。旅客追尾部51で追尾された旅客に係る状態情報(各旅客
の特定情報、位置情報、位置の変化情報、消滅情報等)は、上記ステイタスメモリ41に
保存される。
【0032】
ホーム転落判定部52は、ステイタスメモリ41に保存された旅客情報を、判定用デー
タ(危険パターンデータ)71と対比することによって、ホーム転落状態が生じているか
否かを判定し、当該判定用データ71と一致するときにはホーム転落状態が発生したとい
う検知・判定を行う。ホーム転落状態を検知した時には、ホーム転落判定部52は、出力
装置61に対して検知信号を出力する。出力装置61は、例えばアラーム信号発生器や停
止信号発生器である。アラーム信号発生器は、アラーム信号を出力して、関係部署或いは
関係する周辺領域等にアラーム音、アラーム光を発生させる。停止信号発生器は、列車運
行制御システムに対して、ホーム11での発車を開始した列車12を緊急に停止させる等
の停止信号を出力する。
【0033】
次に、図5〜図9を参照して、本発明に係るホーム転落検知システムの検知・判定シス
テムの動作を説明する。
【0034】
図3で説明したように、n個のMEMSセンサSE1〜SEnの各々の計測動作によれ
ば、その出力される情報では、それらの対応する各検知エリア14に旅客12が存在する
という前提の下で、図3に示した通りの検知画像21を得ることができる。この際、検知
エリア14に列車が存在する場合には列車像も併せて表示される。
【0035】
n個のMEMSセンサSE1〜SEnの各々の計測動作に基づいて得られる検知画像の
代表的な例を、図5において再び示す。
【0036】
図5において(A)に示した検知画像21は、図3で説明した検知画像と全く同じ内容
である。この場合、旅客像25は安全エリア像24内に存在しているので、ホーム11に
入線してくる列車12との位置的な関係において、旅客は安全な状態にあると判断するこ
とができる。
【0037】
図5の(B)に示した検知画像21では、旅客像25は危険エリア像23内に留まって
存在し、かつ列車12が矢印72のごとく動き出したにも拘わらず、その後、旅客像25
に関して消滅状態(破線の小円25A)が生じている。このような検知画像21は、ホー
ム11上に居た旅客に関して実際にホーム11と列車12との間にホーム転落した危険状
態が発生している可能性が高いことを意味している。この場合において、特に、旅客像が
消滅した状態が検知画像21で生じると、実質的にホーム転落の危険状態が発生している
と判断される。
【0038】
他方、図5の(C)の検知画像21に示されるように、危険エリア像23内に存在した
旅客像25が安全エリア像24の方へ移動する場合(矢印73でその動きを示す)には、
例えば、列車12から降車した旅客が普通に列車12の乗降口近傍の危険エリアから安全
エリアに移動したと判断され、安全な移動と判断されることになる。
【0039】
図5の(A)〜(C)に示した3つの検知画像21は、それぞれ単体のMEMSセンサ
に基づく計測で得られる検知画像を示している。(A)は或る1つの計測時刻での1枚の
検知画像である。(C)は旅客像25が危険エリア像23から安全エリア像24に移動し
た状態(矢印73)に基づいて判断を行うので、少なくとも2つの計測時刻での検知画像
を比較することで行われる判断である。(B)の場合には、元々或る時点で存在した旅客
像25が消滅したことが検知されることが条件になるから、少なくとも2つの計測時刻で
の検知画像を比較することが必要となる。(B)の場合の消滅状態(破線の小円25A)
、(C)の場合の移動(矢印73)では、関連する単体のMEMSセンサの計測で得られ
る検知画像で判断することが可能となる。
【0040】
n個のMEMSセンサSE1〜SEnから構成されるセンサシステムに基づく上記の計
測動作を前提にして、本発明に係るホーム転落検知システムの検知・判定システムの動作
が実行される。
【0041】
図6は、例えばホーム11に入線・停車した列車12が再び発車し動き出した時におい
て、当該列車12とホーム11との間に旅客74が転落した状況を示している。図6では
、列車12の移動等と旅客74の状況変化の検知に関して、一例として3つの計測時刻(
検知時刻)t1,t2,t3が想定されているものとする。この状況は、列車12とホー
ム11との間に旅客74が転落した状態が発生しているものとする。この旅客転落の発生
状態を、本発明に係るホーム転落検知システムによれば、次の通り検知し判定する。
【0042】
図6で示した例における旅客転落の検知・判定の場合には、計測時刻t1〜t3でのn
個のMEMSセンサSE1〜SEnの検知動作において、旅客74の動きの関係で、特に
2つのMEMSセンサSE5,SE6の計測による検知画像に係るデータが使用される。
【0043】
図7に、時間軸(t)での計測時刻t1,t2,t3の経過に伴うMEMSセンサSE
5,SE6の検知画像における変化状態を示す。
【0044】
MEMSセンサSE5の検知画像について、計測時刻t1では、旅客74は、MEMS
センサSE5の検知エリア14のホーム縁11Aの近傍に存在し、MEMSセンサSE1
の検知画像21は危険エリア像23内に旅客像25を含む画像81のごとくなる。計測時
刻t2の検知画像82では、旅客74はそのまま危険エリア像23内に留まる。計測時刻
t3の検知画像83では、旅客像25は消滅している。
【0045】
次に、MEMSセンサSE6の検知画像について、計測時刻t1およびt2の検知画像
91,92では、旅客74は、MEMSセンサSE5の検知エリア14内には存在しない
ので、旅客像25は生じていない。さらに計測時刻t3の検知画像93でも、旅客像25
はやはり生じていない。
【0046】
上記のように、時刻t1,t2,t3の経過においてMEMSセンサSE5,SE6に
よって得られる検知画像21において上記のごとき変化の状態が生じるので、MEMSセ
ンサSE5,SE6の検知画像21の変化状態をモニタし、その特徴変化を検知すること
で、旅客のホーム転落状態の発生の有無を判定することができる。すなわち、この場合、
MEMSセンサSE5,SE6の検知データを基礎にして、旅客のホーム転落状態の発生
の有無を判定する。より具体的には、MEMSセンサSE5,SE6の時刻t1,t2,
t3の検知画像(画像81〜84)の危険エリア像23の近傍で存在した旅客像25の消
滅という特徴的変化状態を基準として、「旅客のホーム転落状態の発生」であると判定す
る。
【0047】
図7で示した上記の特徴的変化状態の内容が図4で説明した判定用データ71となる。
【0048】
図8に示したフローチャートを参照して、ホーム転落検知システムの旅客のホーム転落
状態の検知動作と判定動作の流れを説明する。
【0049】
ステップS11,S12によって、n個のMEMSセンサSE1,SE2,…,SEn
で検出された信号が取り込まれる。検出信号の取り込みは、ステップS11において所定
の時間間隔で設定された計測時刻毎に繰り返して行われる。
【0050】
ステップS13では、n個のMEMSセンサSE1〜SEnの各々で得られた検知エリ
ア14毎の高さ情報に基づいて検出対象物として旅客を検出し、当該旅客に係る状態情報
(各旅客の特定情報、位置情報、位置の変化情報、消滅情報等)をステイタスメモリ41
にテーブル形式で保存する。図9にステイタスメモリ41に保存される或る計測時刻での
保存テーブル101の一例を示す。この保存テーブル101では、n個のMEMSセンサ
SE1〜SEnの各々について、例えば、検知エリア14における「位置」と、「検出物
」と、「高さ情報」とが記録されている。ここで、「位置」とは、検知エリア14内にお
ける危険エリア、安全エリア、またはホーム縁の外側(線路軌道側)のいずれかである。
「検出物」とは旅客像の有無である。「高さ情報」とは「検出物」の高さ情報であり、例
えば成人または子供の判断に使用される。当該保存テーブル101は、計測時刻毎に作成
される。
【0051】
ステップS11,S12,S13に基づき、上記のn個のMEMSセンサSE1,SE
2,…,SEnによってホーム11のホーム縁11Aの近傍で設定された危険エリア等で
の旅客の追尾を行うための上記の旅客追尾部51が実現される。
【0052】
判定ステップS22では、先ず事前のステップS21において保存テーブル101から
旅客像25に関するデータを抽出し、抽出した旅客像25に関するデータの変化に係る情
報と判定用データ71とが対比され、一致するか否かが判定される。判定ステップS22
でNOであれば、旅客のホーム転落は生じていないとして検知処理を終了する。判定ステ
ップS22でYESであるときには、旅客のホーム転落は生じているものとして外部の装
置に対してアラーム信号と停止信号が出力される(ステップS23)。その後、検知処理
が終了する。
【0053】
上記において、ステップS21および判定ステップS22によって前述した旅客転落判
定部52が実現される。
【0054】
以上によれば、ホーム転落検知システムにおいて、ホーム11のホーム縁11Aに対応
して所定の上方位置に配置された所要数のMEMSセンサSE1,SE2,…,SEnの
検知画像情報を利用して旅客像を取得し、さらに旅客像の存在および消滅に係る情報を取
得し、これを判定用データ(図7に示す関係性)と対比することにより正確かつ迅速な旅
客のホーム転落の自動的な検知を可能し、緊急安全化動作を行うことによって事故発生の
未然防止を可能することができる。
【0055】
以上の実施形態で説明された構成、形状、大きさおよび配置関係については本発明が
理解・実施できる程度に概略的に示したものにすぎない。従って本発明は、説明された
実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示される技術的思想の範囲を逸
脱しない限り様々な形態に変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明に係るホーム転落検知システムは、駅の列車が入線するホームのホーム縁に沿っ
た検知エリアに対して所要の配置位置で複数のMEMSセンサを設置し、当該MEMSセ
ンサの測距機能を利用して対応する検知エリアの高さ情報を取得し、高さ情報に基づき旅
客の存在または消滅に係る情報を得て旅客のホーム転落状態を検知する。このホーム転落
検知システムは、2次元領域センサのMEMSセンサを利用して検知エリアにおける高さ
情報に基づいて対象物を検知するようにしたため、ホームと列車との間に旅客が転落した
事故が生じた時において、これを高い精度で迅速かつ確実に自動的に検知することに利用
される。
【符号の説明】
【0057】
11 ホーム
11A ホーム縁
SE1〜SEn MEMSセンサ
12 列車
13 取付けフレーム
14 検知エリア
14A スキャンプロフィール
21 検知画像
22 ライン像
23 危険エリア像
24 安全エリア像
25 旅客像
31 スイッチ部
32 演算処理部
41 ステイタスメモリ
51 旅客追尾部
52 ホーム転落判定部
61 出力装置
71 判定用データ
74 旅客
81〜83 画像(MEMSセンサSE5の検知画像)
91〜93 画像(MEMSセンサSE6の検知画像)
101 保存テーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
列車が入線する駅ホームのホーム縁に沿って当該ホーム縁の上方位置に設置され、所定
の時間間隔で設定された計測時刻毎に、それぞれ設定された検知エリアに係る検知画像を
出力する複数のMEMSセンサと、
前記複数のMEMSセンサの各々が出力する前記検知画像に基づき旅客像に係るデータ
を記憶する記憶手段と、
前記記憶手段に記憶された前記旅客像に係るデータに基づき前記旅客像の存在の有無に
係るデータを取得し、前記旅客像の存在に係るデータと判定用データとを比較して一致す
るか否かを判定し、一致するときに旅客のホーム転落状態が発生したと判定する処理手段
と、
を備えることを特徴とするホーム転落検知システム。
【請求項2】
前記複数のMEMSセンサにおける隣り合う2つの前記MEMSセンサの各々の前記検
知エリアの境界部は接している、または重なり部分を有することを特徴とする請求項1記
載のホーム転落検知システム。
【請求項3】
前記判定用データは、隣り合う2つの前記MEMSセンサの各々の前記検知画像で生じ
る旅客像が消滅したことを表す画像データであることを特徴とする請求項1または2記載
のホーム転落検知システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−35762(P2012−35762A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−177766(P2010−177766)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(000004651)日本信号株式会社 (720)
【Fターム(参考)】