説明

ポリイミド樹脂製ベルト及びその製造方法

【課題】反り量が小さく、かつ外側に反らず、しかも長期間にわたって反り量が小さい形状を維持できるポリイミド樹脂製ベルトを提供すること。
【解決手段】本発明のポリイミド樹脂を主成分とするベルトは、前記ポリイミド樹脂が、沸点250℃〜300℃のイミド化触媒、及び沸点300℃〜450℃のイミド化触媒を含有するアミド酸溶液から得られることを特徴とする。このように、特定の異なった沸点を有する、2種以上のイミド化触媒をポリイミド樹脂の前駆体であるポリアミド酸溶液に含有させ、ポリアミド酸溶液を化学イミド化させることで、ポリアミド酸溶液を加熱イミド化させた場合に比べて、ベルトの外反り量を小さくすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド樹脂を主成分とするベルトに関し、詳しくは、電子写真記録装置用の中間転写ベルトや中間転写兼用の印刷シート搬送用ベルト、定着用ベルト、転写定着用ベルトなどに好適に用いられるベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子写真記録装置用の中間転写ベルトに用い得るベルトとしては、ポリイミドフィルムに導電性フィラーを配合して体積抵抗率を1〜1013Ω・cmとしたものが知られている(特許文献1)。該ベルトは、主成分としてポリイミドフィルムを用いることにより、弗化ビニリデン、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体、ポリカーボネート等からなるフィルムを用いる半導電性ベルト(特許文献2〜4)において問題となっている、強度や対摩擦・対摩耗性の機械特性が不足したことによるベルト端部等のクラック、及び駆動時の負荷で変形したことによる転写画像の変形などを、克服したものである。
【0003】
【特許文献1】特開平5−77252号公報
【特許文献2】特開平5−200904号公報
【特許文献3】特開平5−345368号公報
【特許文献4】特開平6−95521号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ポリイミドフィルムを用いるベルトの製造方法としては、ポリイミドフィルムの前駆体であるポリアミド酸溶液を、平滑な金型内面に流延し、加熱して溶剤を除去して成膜した後、さらに加熱して溶媒除去とイミド化(環化)を完結させる加熱イミド化法が一般に採用されている。加熱イミド化法による製造方法を用いる場合、金型内面に塗布されるポリアミド酸溶液の溶媒は、塗布面の表面(空気側面)から除去される。また、加熱方法として熱風乾燥を行う場合、金型は熱伝導率が高く、その熱容量も小さいことから、金型内面に塗布されるポリアミド酸溶液は、金型側面から加熱されやすい。これらの理由により、ポリアミド酸溶液の金型側面と空気側面とでは、乾燥状態が異なったものとなり、その結果、金型側面と空気側面とに収縮応力の差が発生し、得られるベルトの形状は、外側に大きく反りやすいものとなる。このような外側に大きく反りやすいベルトは、製造時には反りの少ない形状であっても、中間転写ベルトや転写搬送ベルトとして長期間使用することにより、外側へ大きく反った形状となり、その結果、印刷シートが逆反りに追従してベルト上で反って転写ムラや画像不良を生じてしまうという問題、及びベルト端部のベルト位置検出用のマーク、フラグ等がうまく読み取れず装置自体が止まってしまうという問題がある。したがって、中間転写ベルトや転写搬送ベルトに用いられるベルトは、製造時のみならず、長期間にわたり、反りの少ない状態を維持する必要がある。
【0005】
本発明は上記した問題に鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、製造時において反り量が小さくかつ外側に反らない、しかも長期間にわたって反り量が小さい形状を維持できる、ポリイミド樹脂を主成分とするベルトを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記問題点に鑑みて鋭意研究を行ったところ、反りの主な原因である、金型に塗布されたポリアミド酸溶液の金型側面と空気側面とにおける乾燥状態の違いが、該金型側面及び空気側面のイミド化の収縮応力の違いによるものであることを見出した。本発明者らは、更に研究を重ねた結果、イミド化法として、従来用いられている、ポリアミド酸溶液を外部的にイミド化する加熱イミド化法の代わりに、内部的にイミド化する化学イミド化法を用いることにより、外反り量の小さいベルトが得られることを見出した。さらにイミド化触媒として、特定の沸点をそれぞれ有する2種以上の3級アミンを用いることで、加熱イミド化法に比べて、加熱温度領域全般に亘って、均一にイミド化が進行し、金型側面と空気側面との間での乾燥状態の差の影響が現れにくくなると推測し、これに基づき本発明を完成するに至った。また、沸点300℃〜450℃のイミド化触媒を用いることにより、金型との離型性が変わらないベルトが得られることを見出し、これらの知見に基づき本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)ポリイミド樹脂を主成分とするベルトであって、前記ポリイミド樹脂が、沸点250℃〜300℃のイミド化触媒及び沸点300℃〜450℃のイミド化触媒を含有するポリアミド酸溶液から得られる樹脂である、ベルト。
(2)前記沸点250℃〜300℃のイミド化触媒の含有量が、ポリアミド酸溶液中のポリアミド酸1モル当量に対して0.03〜0.4モル当量である、前記(1)記載のベルト。
(3)前記沸点300℃〜450℃のイミド化触媒の含有量が、ポリアミド酸溶液中のポリアミド酸1モル当量に対して0.01〜0.2モル当量である、前記(1)又は(2)に記載のベルト。
(4)前記沸点250℃〜300℃のイミド化触媒が、イミダゾール、2−メチルイミダゾール、4−メチルイミダゾール及び2,4−ジメチルイミダゾールから選ばれる少なくとも1種である、(1)〜(3)のいずれかに記載のベルト。
(5)前記沸点300℃〜450℃のイミド化触媒が、2−フェニルイミダゾールである、前記(1)〜(4)のいずれかに記載のベルト。
(6)前記ベルトを2本の直径30mmのロール間にたるみなく架け渡したときに、当該ロール間の中間点におけるベルト端部の反り量が、−3〜+3mmである、前記(1)〜(5)のいずれかに記載のベルト。
(7)ポリアミド酸溶液が、さらに、無機充填剤を含有する、前記(1)〜(6)のいずれかに記載のベルト。
(8)無機充填剤が、カーボンブラックである、前記(7)記載のベルト。
(9)前記ベルトが、シームレスベルトである、前記(1)〜(8)のいずれかに記載のベルト。
(10)沸点250℃〜300℃のイミド化触媒を、ポリアミド酸溶液中のポリアミド酸1モル当量に対して0.03〜0.4モル当量含有し、沸点300℃〜450℃のイミド化触媒を、ポリアミド酸溶液中のポリアミド酸1モル当量に対して0.01〜0.2モル当量含有するポリアミド酸溶液を、金型の内周面又は外周面に展開し、該展開層を加熱乾燥して、ポリイミド樹脂層を製膜する工程を含む、ベルトの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明のポリイミド樹脂製ベルトは、ポリイミド樹脂に由来する強度や難伸長性などの優れた機械特性を有するだけでなく、電子写真記録装置の中間転写ベルト、中間転写兼用の搬送ベルト、定着ベルト又は転写定着ベルトとして、長期間にわたり用いられた場合であっても、反り量が小さい形状を維持できる。したがって、本発明のポリイミド樹脂製ベルトを用いた電子写真記録装置は、トナー像の変形や転写ムラのない良好な画像を記録シートに転写できる性能を、長期間にわたり持続することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、図面の便宜上、図面の寸法比率は説明のものと必ずしも一致しない。
【0010】
本発明のポリイミド樹脂製ベルトは、ポリイミド樹脂を主成分とするベルトであって、前記ポリイミド樹脂は、沸点250℃〜300℃のイミド化触媒及び沸点300℃〜450℃のイミド化触媒を含有するポリアミド酸溶液を、イミド化して得られるものである。なお、「主成分とする」とは、本発明のベルトの用途に応じて、ポリイミド樹脂に由来する特性を発揮する程度に、ベルトがポリイミド樹脂を含むことを意味する。
【0011】
上記ポリアミド酸溶液は、テトラカルボン酸二無水物又はその誘導体とジアミンとを、有機溶媒中で重合反応させることによって生成することができる。
【0012】
上記テトラカルボン酸二無水物又はその誘導体は、下記一般式(1)で表され、式中Rは、4価の有機酸であり、例えば、芳香族、脂肪族、環状脂肪族又は芳香族と脂肪族を組み合わせたもの、あるいはそれらの置換された基である。そのようなテトラカルボン酸二無水物としては、例えば、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、エチレンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。これらのテトラカルボン酸二無水物又はその誘導体は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0013】
【化1】

【0014】
上記ジアミンは、下記一般式(2)で表され、式中Rは、2価の有機酸であり、例えば、芳香族、脂肪族、環状脂肪族又は芳香族と脂肪族を組み合わせたもの、あるいはそれらの置換された基である。そのようなジアミンとしては、例えば、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(DDE)、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジクロロベンジジン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、1,5−ジアミノナフタレン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン(PDA)、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニルジアミン、ベンジジン、3,3’−ジメチルベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、4,4’−ジアミノフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、2,4−ビス(β−アミノ−第三ブチル)トルエン、ビス(p−β−アミノ−第三ブチルフェニル)エーテル、ビス(p−β−メチル−δ−アミノフェニル)ベンゼン、ビス−p−(1,1−ジメチル−5−アミノ−ペンチル)ベンゼン、1−イソプロピル−2,4−m−フェニレンジアミン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、ジ(p−アミノシクロヘキシル)メタン、へキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ジアミノプロピルテトラメチレン、3−メチルへプタメチレンジアミン、4,4−ジメチルヘプタメチレンジアミン、2,11−ジアミノドデカン、1,2−ビス−3−アミノプロポキシエタン、2,2−ジメチルプロピレンジアミン、3−メトキシヘキサメチレンジアミン、2,5−ジメチルヘキサメチレンジアミン、2,5−ジメチルヘプタメチレンジアミン、2,5−ジメチルヘプタメチレンジアミン、3−メチルへプタメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン、2,11−ジアミノドデカン、2,17−ジアミノエイコサデカン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,10−ジアミノ−1,10−ジアミノ−1,10−ジメチルデカン、1,12−ジアミノオクタデカン、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、ピペラジン、HN(CHO(CHOCHNH、HN(CHS(CHNH、HN(CHN(CH(CHNH等が挙げられる。これらのジアミンは、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0015】
【化2】

【0016】
テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを重合する際に用いる溶媒としては、生成するポリアミド酸及びその原料となるモノマーのいずれをも溶解するものであれば特に限定されないが、溶解性の点で極性有機溶媒が好ましく、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルメトキシアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホルトリアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ピリジン、テトラメチレンスルホン、ジメチルテトラメチレンスルホン等が挙げられ、蒸発、置換又は拡散によりポリアミド酸及びポリアミド酸成形品から容易に除去することができる点で、N,N−ジアルキルアミド類が特に好ましく、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドが最も好ましい。これらの溶媒は、単独あるいは混合して使用することができる。溶媒の使用量は、原料となるモノマーを溶解するのに十分な量であればよく、具体的な使用量としては、モノマーが溶解した溶媒に占めるモノマーの濃度が、通常5〜30重量%となるような量が挙げられる。さらに、前記の極性有機溶媒に加え、クレゾール、フェノール、キシレノール等のフェノール類、ベンゾニトリル、ジオキサン、ブチロラクトン、キシレン、シクロヘキサン、へキサン、ベンゼン、トルエン等を、単独あるいは混合して使用することができる。なお、ポリアミド酸溶液中に水が存在する場合、ポリアミド酸が加水分解して低分子量化するため、水を前記の極性有機溶媒に加えることは好ましくなく、ポリアミド酸溶液の調製は実質上無水条件下で行う必要がある。
【0017】
上記重合反応の条件は、従来公知の条件を適用すればよく、具体例として、有機溶媒中、0〜80℃、好ましくは5〜50℃の温度範囲で、30分〜10時間連続して撹拌及び/又は混合することが挙げられる。必要により重合反応を分割し、及び/又は温度を上下させてもかまわない。また、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの添加順序に特に制限はない。重合反応によって得られるポリアミド酸のポリアミド酸溶液中に占める濃度は、好ましくは5〜30重量%、より好ましくは10〜25重量%であり、前記溶液の粘度はB型粘度計による測定(25℃)で、好ましくは1〜1000Pa・sであり、より好ましくは10〜500Pa・sである。
【0018】
上記ポリアミド酸溶液に含有させる沸点250℃〜300℃のイミド化触媒としては、上記沸点を有する3級アミンであれば特に限定されないが、例えば、イミダゾール(沸点257℃)、2−メチルイミダゾール(沸点267℃)、4−メチルイミダゾール(沸点263℃)、2,4−ジメチルイミダゾール(沸点267℃)等が挙げられ、特に2−メチルイミダゾールが好ましい。このイミド化触媒の使用量は、通常、ポリアミド酸溶液中のポリアミド酸1モル当量に対して0.03〜0.4モル当量、好ましくは0.05〜0.3モル当量である。イミド化触媒の使用量が、0.03モル当量未満であると、反りが充分小さくならず、0.4モル当量を超える場合には、フィルムに浮き等が生じるという問題がある。これらの沸点250℃〜300℃のイミド化触媒は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0019】
上記のポリアミド酸溶液に含有させる沸点300℃〜450℃のイミド化触媒は、上記沸点を有する3級アミンであれば特に限定されないが、例えば、2−フェニルイミダゾール(沸点340℃)等が挙げられる。このイミド化触媒の使用量は、通常、ポリアミド酸溶液中のポリアミド酸1モル当量に対して0.01〜0.2モル当量、好ましくは0.02〜0.15モル当量である。沸点300℃〜450℃のイミド化触媒は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0020】
上記ポリアミド酸溶液には、適宜必要に応じて、フィラーをさらに含有させることができる。例えば、ベルトに対し、半導電性を付与するためには導電性フィラーを含有させることができ、熱伝導性を向上させるためには熱伝導性フィラーを含有させることができる。
【0021】
前記導電性フィラーとしては、特に限定はなく、例えば、ケッチェンブラックやアセチレンブラック等のカーボンブラック、アルミニウムやニッケル等の金属、酸化錫等の酸化金属化合物、チタン酸カリウム等の導電性ないし半導電性粉末、ポリアニリンやポリアセチレン等の導電ポリマ−を用いることができるが、少ない使用量で半導電性を達成することができる点で、カーボンブラックが特に好ましい。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。該導電性フィラーの平均粒径は、偏在による電気特性のバラツキを制御する点から、小さいものが好ましく、具体的には、一次粒子に基づいて、一般に0.005μm〜5μm、好ましくは0.008μm〜3μm、特に好ましくは0.01μm〜1μmである。該導電性フィラーの使用量は、目的とする半導電性、種類、粒径及び分散性などに応じて適宜決定し得るが、一般には、ポリイミド樹脂の強度等の機械特性の低下防止などの点により、ポリイミド(固形分)100重量部あたり2〜50重量部、特に3〜30重量部が好ましい。
【0022】
前記熱伝導性フィラーとしては、特に限定されず、例えば、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、アルミナ、炭化珪素、珪素、シリカ、グラファイト等の粉末を用いることができ、これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0023】
ポリアミド酸溶液中へのフィラーの配合は、特に限定されず、例えば、プラネタリミキサー、ビーズミル及び3本ロール等の分散機にて、フィラーを混合分散して行うことができる。なお、有機溶媒へのフィラーの配合は、目的とする特性のバラツキを防止し、均一に分散させるために、酸二無水物やその誘導体とジアミンを溶解させて重合処理を行う前に、ボールミルや超音波等の適宜な方式で有機溶媒中にフィラーを分散させることが好ましい。
【0024】
<ポリイミドを主成分とするベルトの製造方法>
次に、本発明のポリイミド樹脂製ベルトの製造方法について説明する。
本発明のポリイミド樹脂製ベルトは、上記のポリアミド酸溶液を、金型の内周面又は外周面に展開し、該展開層を乾燥・加熱して、ポリイミド樹脂層を製膜する工程を含むことを特徴とする。
【0025】
上記の金型としては従来からベルトの製造に用いられているものであればどのようなものでも差し支えなく、通常、ベルトの形状に応じた円筒状金型を用い、その内面に塗布する。金型の材質としては、例えば、その耐熱性の観点から、金属、ガラス、セラミック等の各種のものが挙げられる。また、ポリアミド酸溶液の展開は、均一な厚みで塗布できるものであれば、特に制限なく、例えば、ディスペンサー塗布方式、浸漬方式、遠心方式、注形型に充填する方式などが挙げられる。
【0026】
ポリアミド酸溶液の展開層の加熱方法は、円筒状型を均一に加熱できれば、特に制限なく、例えば、熱風乾燥、赤外線加熱、誘導加熱、誘電加熱などが挙げられる。展開層の加熱温度は、通常、250〜450℃、好ましくは300〜400℃である。加熱温度が250℃未満であると、イミド化が不十分であり、強度等が弱くなり、450℃を超えると、離型剤が劣化し、フィルムが離型できなくなる。また加熱時間は、通常0.2〜4.0時間程度、好ましくは0.5〜2.0時間である。加熱時間が、0.2時間未満であると、均一な加熱が困難となり、抵抗等の特性がばらついてしまうこととなり、4.0時間を超えると、生産性の点で好ましくない。
【0027】
本発明のベルトの厚さは、使用目的などに応じて適宜決定し得るが、強度や柔軟性等の機械特性を十分に発揮するために、通常5〜500μm、好ましくは10〜300μm、特に好ましくは20〜200μmである。また、目的とするベルトがリング形である場合には、フィルム端の接着剤等を介した接着方式などの適宜な接続方式にて形成することもできるし、シームレスなリングベルトとすることもできる。リング形のシームレスベルトは、重畳による厚さの変化がなく任意な部分を回転の開始位置とすることができて、回転開始位置の制御機構を省略できる利点などを有している。なお、前記したシームレスベルトの形成は、例えば、ポリアミド酸の溶液を金型の内周面や外周面に浸債方式や遠心方式や塗布方式等にてコートする方式や注形型に充填する方式などの適宜な方式で、リング状に展開し、その展開層を乾燥製膜してシームレスベルト形に成形する。シームレスベルトの形成に際しては、型の離型処理や脱泡処理などの適宜な処理を施すことができる。
【0028】
このようにして得られた本発明のベルトは、2本の直径30mmのロール間にたるみなく架け渡したときに当該ロール間の中間点におけるベルト端部の反り量が−3〜+3mmであり、好ましくは−2〜+2mmである。なお、−(マイナス)の値は内反りを意味し、+(プラス)の値は外反りを意味する。反り量が−3〜+3mmであると、転写ベルト等として用いた場合に、トナー像の変形や転写ムラが少なく、長期に渡る使用後でも反り量を小さく維持することができる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0030】
(実施例1)
3000gのN−メチル−2−ピロリドン(NMP)中に、乾燥したカーボンブラックPrintex V(デグサジャパン社製、揮発分:5%、BET比表面積:100m/g、揮発分/BET比表面積×100:5%、pH4.5、酸化処理なし)140.2g(ポリイミドに対し23重量%)をボールミルで6時間(室温)混合した。
このカーボンブラック分散NMPに、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BPDA)489.8gとp−フェニレンジアミン(PDA)179.9gとを溶解し、窒素雰囲気中において、室温で6時間撹拌しながら反応させて、150Pa・s(B型粘度計使用、25℃で測定)のカーボンブラック分散ポリアミド酸溶液を得た。このカーボンブラック分散ポリアミド酸溶液に、触媒として、2−メチルイミダゾール(沸点267℃)27.4g(ポリアミド酸1モル当量に対して0.2モル当量)及び2−フェニルイミダゾール(沸点340℃)24.1g(ポリアミド酸1モル当量に対して0.1モル当量)を30分間混合し、触媒添加カーボンブラック分散ポリアミド酸溶液を得た。
内径300mm、長さ900mmの円筒状金型(SUS製)の内面に、前記溶液をディスペンサーで厚さ170μmに塗布後、1500rpmで10分間回転させ均一な塗布面を得た。
次に、20rpmで回転させながら、金型の外側より130℃の熱風を30分間あてた後、その後350℃まで4℃/分の昇温速度で昇温し、350℃で15分保持した後冷却し、金型内面からベルトを離型し、目的とするポリイミド樹脂製ベルトを得た。このベルトの厚さは、75μmであった。
【0031】
(比較例1)
触媒を添加しないこと以外は実施例1と同様に行ない、目的とするポリイミド樹脂製ベルトを得た。このベルトの厚さは、74μmであった。
【0032】
(比較例2)
触媒として、イソキノリン(沸点243℃、融点27℃)43.0g(ポリアミド酸1モル当量に対して0.2モル当量)を30分間混合する以外は、実施例1と同様に行ない、目的とするポリイミド樹脂製ベルトを得た。このベルトの厚さは、75μmであった。
【0033】
(評価試験)
(1)反り量
実施例および比較例1〜2で得られたベルトを、図1に示すように、2本の直径30mmのロール2にたるみなく架け渡し、当該ロール間の中間点でのベルト端部の距離aおよびbを測定し、ベルトが平坦であることを示す30mmと距離a及びbとの差をベルト端部の反り量とした。
【0034】
(2)画像転写性
実施例および比較例1〜2で得られたベルトを、市販の複写機に中間転写兼用の記録シート搬送ベルトとして組み込み、1万枚の印字テストを行った。1万枚の印字テストにわたり、全て良好な転写による鮮明で正確な画像が得られた場合を良好とし、転写不良や不鮮明または不正確な画像が得られた場合を不良とした。
【0035】
【表1】

【0036】
表1より、実施例のベルトは、ベルト端部の反り量が±3mmの範囲内にあり、画像転写性に優れるものであった。一方、比較例1及び2のベルトは、実施例のベルトと比べて、ベルト端部の外反り量が大きく、画像転写性に劣るものであった。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】図1は本発明のポリイミドを主成分とするベルトの、ベルト端部の反り量を測定する方法を示す概略図(斜視図)である。
【符号の説明】
【0038】
1 ベルト
2 ロール
a ロール間の中間点におけるベルトの一方の端部の距離
b ロール間の中間点におけるベルトの他方の端部の距離。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミド樹脂を主成分とするベルトであって、前記ポリイミド樹脂が、沸点250℃〜300℃のイミド化触媒及び沸点300℃〜450℃のイミド化触媒を含有するポリアミド酸溶液から得られる樹脂である、ベルト。
【請求項2】
前記沸点250℃〜300℃のイミド化触媒の含有量が、ポリアミド酸溶液中のポリアミド酸1モル当量に対して0.03〜0.4モル当量である、請求項1記載のベルト。
【請求項3】
前記沸点300℃〜450℃のイミド化触媒の含有量が、ポリアミド酸溶液中のポリアミド酸1モル当量に対して0.01〜0.2モル当量である、請求項1又は2に記載のベルト。
【請求項4】
前記沸点250℃〜300℃のイミド化触媒が、イミダゾール、2−メチルイミダゾール、4−メチルイミダゾール及び2,4−ジメチルイミダゾールから選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のベルト。
【請求項5】
前記沸点300℃〜450℃のイミド化触媒が、2−フェニルイミダゾールである、請求項1〜4のいずれか1項に記載のベルト。
【請求項6】
前記ベルトを2本の直径30mmのロール間にたるみなく架け渡したときに、当該ロール間の中間点におけるベルト端部の反り量が、−3〜+3mmである、請求項1〜5のいずれか1項に記載のベルト。
【請求項7】
ポリアミド酸溶液が、さらに、無機充填剤を含有する、請求項1〜6のいずれか1項に記載のベルト。
【請求項8】
無機充填剤が、カーボンブラックである、請求項7記載のベルト。
【請求項9】
前記ベルトが、シームレスベルトである、請求項1〜8のいずれか1項に記載のベルト。
【請求項10】
沸点250℃〜300℃のイミド化触媒を、ポリアミド酸溶液中のポリアミド酸1モル当量に対して0.03〜0.4モル当量含有し、沸点300℃〜450℃のイミド化触媒を、ポリアミド酸溶液中のポリアミド酸1モル当量に対して0.01〜0.2モル当量含有するポリアミド酸溶液を、金型の内周面又は外周面に展開し、該展開層を加熱乾燥して、ポリイミド樹脂層を製膜する工程を含む、ベルトの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−139925(P2010−139925A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−318043(P2008−318043)
【出願日】平成20年12月15日(2008.12.15)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】