説明

ポリウレタン成型品の製造方法、貯氷容器の製造方法、ポリウレタン成型品および貯氷容器

【課題】表面が硬いインテグラルスキン層が形成される水発泡による貯氷容器の製造方法を提供する。
【解決手段】ポリウレタン発泡原液に含まれたイソシアネートと水が化学反応することにより発生した炭酸ガスを用いてポリウレタンを発泡させ、容器2を囲繞するようにポリウレタンを成型する貯氷容器の製造方法において、流動抵抗の大きな容器2の側部が上に、流動抵抗の小さな容器2の底部が下となるように、型と容器2との間に成型空間Cを形成するようにしたので、容器2の側部に最後にポリウレタンが充填されることになる。したがって、ポリウレタンの充填密度は均一なものとなり、貯氷容器の表面には、フロンにより発泡された貯氷容器と同様に、表面が硬いインテグラルスキン層が形成される。この結果、水発泡により発泡された貯氷容器の表面に面材を設ける必要がない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリウレタン成型品の製造方法、貯氷容器の製造方法、ポリウレタン成型品および貯氷容器に関するものであって、特に水発泡によるポリウレタン成型品の製造方法貯氷容器の製造方法、ポリウレタン成型品および貯氷容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カップ式飲料自動販売機やアイスディスペンサに内蔵される貯氷容器は、金属製の容器を高密度のポリウレタンで囲繞することにより、構成されている。この高密度のポリウレタンは、主としてフロンを発泡材としており、ウレタンの反応熱がフロンを揮発させることにより、ウレタンを発泡させていた。このように、フロンを用いて高密度のウレタンを発泡させる場合には、成形金型の温度とウレタンの反応温度との温度差により、成形金型に接する表面に表面が硬いインテグラルスキン層が発泡表面を覆うように形成され、高密度のポリウレタンの表面には面材を設ける必要がなかった。
【0003】
しかしながら、特定フロンのオゾン層破壊、地球温暖化などの環境問題に由来する規制強化への対応が迫られるに至った。そして、図4に示すように、イソシアネートと水が化学反応することにより、発生した炭酸ガスを用いてウレタンを発泡させる水発泡が採用されるに至っている(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−146085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、水発泡によりウレタンを発泡させると、表面の発泡反応が十分に抑制されずに、インテグラルスキン層が薄くなる。このため、ウレタン発泡の密度が部分的に低い箇所では、表面を押えると、発泡部がひずむなど、表面の硬さが従来のポリウレタン成型品よりも劣るという問題が生じた。
【0006】
たとえば、インテグラルスキン層が厚く形成されるフロンを発泡材とする場合のように、上部が開口されたオープン形状の成型品(貯氷容器)が伏せた状態で成型されるように、金型Dの中に金属製の容器2を伏せてセットし、図5−1に示すように、金型Dと容器2との間に形成される成型空間(キャビティ)Cに発泡原液を注入すると、図5−2に示すように、発泡反応初期において、流動抵抗が大きな側部が発泡反応により成長する。発泡が継続し、図5−3に示すように、発泡反応終期になると、上部(貯氷容器の底部となる部分)に発泡原液が廻る。そして、図4−4に示すように、成型空間Cに発泡ウレタンUが行き渡り、発泡反応を継続する。その途中で、ウレタンUの硬化が始まるが、側部は流動抵抗が大きいためウレタンUが逆流することはない。したがって、成型品の上部(貯氷容器の底部)よりも側部のウレタン密度が低くなり、表面硬度が小さくなる。このように成型された成型品(貯氷容器)は、従来の成型品(貯氷容器)よりも表面の硬さが劣ることになる。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、表面が硬いインテグラルスキン層が形成される水発泡によるポリウレタン成型品の製造方法、貯氷容器の製造方法、ポリウレタンの充填密度が均一となるポリウレタン成型品および貯氷容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、ポリウレタン発泡原液に含まれたイソシアネートと水が化学反応することにより発生した炭酸ガスを用いてポリウレタンを発泡させ、ポリウレタンを所望の形に成型するポリウレタン成型品の製造方法において、ポリウレタン成型品が発泡ウレタンの流動抵抗が小さな流動部と、流動部に連設され、発泡ウレタンの流動抵抗が大きな抵抗部とを有する場合に、抵抗部が上となるように、ポリウレタン成型品の成型空間を形成したことを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、ポリウレタン発泡原液に含まれたイソシアネートと水が化学反応することにより発生した炭酸ガスを用いてポリウレタンを発泡させ、容器を囲繞するようにポリウレタンを成型する貯氷容器の製造方法において、発泡ウレタンの流動抵抗が小さな容器の底部が下に、発泡ウレタンの流動抵抗が大きな容器の側部が上となるように、型と容器との間に成型空間を形成したことを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、ポリウレタン発泡原液に含まれたイソシアネートと水が化学反応することにより発生した炭酸ガスを用いてポリウレタンを発泡させ、ポリウレタンを所望の形に成型したポリウレタン成型品において、発泡ウレタンの流動抵抗が小さな流動部と発泡ウレタンの流動抵抗が大きな抵抗部とを有する場合に、流動部のポリウレタンの密度と抵抗部のポリウレタンの密度とが同一となるように成型したことを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、ポリウレタン発泡原液に含まれたイソシアネートと水が化学反応することにより発生した炭酸ガスを用いてポリウレタンを発泡させ、容器を囲繞するように成型した貯氷容器において、発泡ウレタンの流動抵抗が小さな容器底部を囲繞するポリウレタンの密度と発泡ウレタンの流動抵抗の大きな容器側部を囲繞するポリウレタンの密度とが同一となるように成型したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明にかかるポリウレタン成型品の製造方法は、発泡ウレタンの流動抵抗が大きな抵抗部が上となるようにポリウレタン成型品の成型空間(キャビティ)を形成したので、抵抗部に最後にポリウレタンが充填されることになる。したがって、ポリウレタンの充填密度は均一なものとなり、ポリウレタン成型品は、フロンにより発泡されたポリウレタン成型品と同様に、表面が硬いインテグラルスキン層が形成される。この結果、水発泡により発泡されたポリウレタン成型品の表面に面材を設ける必要がない。
【0013】
本発明にかかる貯氷容器の製造方法は、発泡ウレタンの流動抵抗が小さな容器の底部が下に、発泡ウレタンの流動抵抗が大きな容器の側部が上となるように、型と容器との間に成型空間を形成したので、容器の側部に最後にポリウレタンが充填されることになる。したがって、ポリウレタンの充填密度は均一なものとなり、貯氷容器は、フロンにより発泡された貯氷容器と同様に、表面が硬いインテグラルスキン層が形成される。この結果、水発泡により発泡された貯氷容器の表面に面材を設ける必要がない。
【0014】
本発明にかかるポリウレタン成型品は、発泡ウレタンの流動抵抗が小さな流動部と発泡ウレタンの流動抵抗が大きな抵抗部とを有する場合に、流動部のポリウレタンの密度と抵抗部のポリウレタンの密度とが同一となるように成型したので、ポリウレタンの充填密度が均一となり、ポリウレタン成型品は、フロンにより発泡されたポリウレタン成型品と同様に、表面が硬いインテグラルスキン層が形成される。したがって、水発泡により発泡されたポリウレタン成型品に面材を設ける必要がない。
【0015】
本発明にかかる貯氷容器は、発泡ウレタンの流動抵抗が小さな容器底部を囲繞するポリウレタンの密度と発泡ウレタンの流動抵抗の大きな容器側部を囲繞するポリウレタンの密度とが同一となるように成型したので、ポリウレタンの充填密度が均一となり、貯氷容器は、フロンにより発泡された貯氷容器と同様に、表面が硬いインテグラルスキン層が形成される。したがって、水発泡により発泡された貯氷容器に面材を設ける必要がない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明の実施の形態である貯氷容器の製造方法によって製造される貯氷容器を示す断面図である。
【図2】図2は、本発明の実施の形態である貯氷容器を成型する型を示す断面図である。
【図3−1】図3−1は、本発明の実施の形態であるポリウレタン成型品の製造方法を示した断面図であって、発泡原液を注入した状態を示す図である。
【図3−2】図3−2は、本発明の実施の形態であるポリウレタン成型品の製造方法を示した断面図であって、発泡反応初期の状態を示す図である。
【図3−3】図3−3は、本発明の実施の形態であるポリウレタン成型品の製造方法を示した断面図であって、発泡反応終期の状態を示す図である。
【図3−4】図3−4は、本発明の実施の形態であるポリウレタン成型品の製造方法を示した断面図であって、発泡反応が終了した状態を示す図である。
【図4】図4は、ポリウレタンの生成反応を説明する説明図である。
【図5−1】図5−1は、従前のポリウレタン成型品の製造方法を示した断面図であって、発泡原液を注入した状態を示す図である。
【図5−2】図5−2は、従前のポリウレタン成型品の製造方法を示した断面図であって、発泡反応初期の状態を示す図である。
【図5−3】図5−3は、従前のポリウレタン成型品の製造方法を示した断面図であって、発泡反応終期の状態を示す図である。
【図5−4】図5−4は、従前のポリウレタン成型品の製造方法を示した断面図であって、発泡反応が終了した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明にかかるポリウレタン成型品の製造方法、ポリウレタン成型品および貯氷容器の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0018】
ここで説明するポリウレタン成型品は、カップ式飲料自動販売機やアイスディスペンサに内蔵される貯氷容器1であって、図1に示すように、容器2と、該容器2を囲繞する断熱材3とを備えている。
【0019】
容器2は、金属製(たとえば、アルミ製)であって、上面が開放され、底部に穴21が設けられた有底の円筒形を呈している。開放された上面は、図示せぬ蓋体によって、閉塞されるようになっている。底部に開けられた穴21には、復氷を防止するアジテータ(図示せず)が取り付けられた軸が挿通するとともに、貯氷容器1の下方に設けられた製氷器(図示せず)から氷が送り込まれるようになっている。
【0020】
断熱材3は、ポリウレタンを発泡成型したものであって、ここで説明する断熱材3は、イソシアネートと水が化学反応することにより、発生した炭酸ガスを用いてウレタンを発泡させる水発泡により成型されるものである。
【0021】
また、図1に示すように、断熱材3は、容器底部を囲繞する底部31が厚く、容器側部を囲繞する側部32が薄く形成されるようになっている。したがって、底部を成型する成型空間底部(キャビティ底部)における発泡ウレタンの流動抵抗は小さく、側部を成型する成型空間側部(キャビティ側部)における発泡ウレタンの流動抵抗は大きくなる。
【0022】
上述した貯氷容器を製造する場合には、図2に示すように、発泡ウレタンの流動抵抗が小さな底部が下に、発泡ウレタンの流動抵抗が大きな容器の側部が上となるように、型Dと容器2との間に成型空間(キャビティ)Cを形成する。
【0023】
なお、成形空間(キャビティ)Cを形成する型Dには、成形空間上部に挿通するガス抜孔Hが複数設けてある。ガス抜孔Hは、成形空間(キャビティ)Cに炭酸ガスが溜まり貯氷容器(成形品)1の表面にボイドが生成されることを防止するためのもので、成形した貯氷容器(成型品)1の開口部上面には、ガス抜孔Hの痕跡が複数残ることになる。また、型は、鉄、アルミ等の金属製の金型であっても良いし、樹脂製の型であっても良い。
【0024】
つぎに、図3−1に示すように、型Dと容器2との間に形成された成型空間底部(キャビティ底部)に発泡原液を注入すると、図3−2に示すように、発泡反応初期において発泡したウレタンUは、発泡ウレタンの流動抵抗が小さな成型空間底部(キャビティ底部)から発泡ウレタンの流動抵抗が大きな成型空間側部(キャビティ側部)に向けて成長する。
【0025】
発泡が継続し、図3−3に示すように、発泡反応終期になると、ウレタンUの発泡圧を上げながら流動抵抗が大きな成型空間側部(キャビティ側部)には発泡原液が廻る。そして、図3−4に示すように、発泡反応終期になると、成型空間に発泡ウレタンUが行き渡り、発泡反応が継続する。その途中で、ウレタンUの硬化が始まるが、発泡ウレタンの流動抵抗が大きい成型空間側部に最後に発泡ウレタンUが充填されるため、ウレタンUの発泡圧が、発泡ウレタンの流動抵抗が小さな成型空間底部(キャビティ底部)に作用することになり、ウレタン密度が均一となる。
【0026】
上述した実施の形態である貯氷容器(ポリウレタン成型品)の製造方法により製造された貯氷容器(ポリウレタン成型品)1は、発泡ウレタンの流動抵抗が小さな容器底部を囲繞するポリウレタンの密度と発泡ウレタンの流動抵抗の大きな容器側部を囲繞するポリウレタンの密度が略同一であり、断熱材3の表面に表面が硬いインテグラルスキン層が形成される。
【0027】
また、この製造方法により製造された貯氷容器(ポリウレタン成型品)1の断熱材3を分析すると、炭酸ガスにより発泡されたことが確認される。
【0028】
さらに、この製造方法により製造された貯氷容器(ポリウレタン成型品)1の開口縁部上面には、ガス抜孔Hの痕跡が残るので、この製造方法で製造された貯氷容器(ポリウレタン成型品)1か否かが確認される。
【0029】
上述した実施の形態である貯氷容器(ポリウレタン成型品)の製造方法は、発泡ウレタンの流動抵抗が小さな容器2の底部が下に、発泡ウレタンの流動抵抗が大きな容器2の側部が上となるように、型Dと容器2との間に成型空間(キャビティ)Cを形成したので、容器2の側部に最後にポリウレタンが充填されることになる。したがって、ポリウレタンUの充填密度は均一なものとなり、貯氷容器1は、フロンにより発泡された貯氷容器と同様に、表面が硬いインテグラルスキン層が形成される。この結果、水発泡により発泡された貯氷容器1の表面に面材を設ける必要がない。
【0030】
また、実施の形態である貯氷容器1は、発泡ウレタンの流動抵抗が小さな容器底部を囲繞する断熱材(ポリウレタン)31の密度と発泡ウレタンの流動抵抗の大きな容器側部を囲繞する断熱材(ポリウレタン)32の密度とが同一となるように成型したので、ポリウレタンの充填密度が均一となり、貯氷容器1は、フロンにより発泡された貯氷容器と同様に、表面が硬いインテグラルスキン層が形成される。したがって、水発泡により発泡された貯氷容器に面材を設ける必要がない。
【符号の説明】
【0031】
1 貯氷容器(ポリウレタン成型品)
2 容器
21 穴
3 断熱材
31 底部(流動部)
32 側部(抵抗部)
C 成型空間(キャビティ)
D 型
H ガス抜孔
U ウレタン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタン発泡原液に含まれたイソシアネートと水が化学反応することにより発生した炭酸ガスを用いてポリウレタンを発泡させ、ポリウレタンを所望の形に成型するポリウレタン成型品の製造方法において、
ポリウレタン成型品が発泡ウレタンの流動抵抗が小さな流動部と、流動部に連設され、発泡ウレタンの流動抵抗が大きな抵抗部とを有する場合に、抵抗部が上となるように、ポリウレタン成型品の成型空間を形成したことを特徴とするポリウレタン成型品の製造方法。
【請求項2】
ポリウレタン発泡原液に含まれたイソシアネートと水が化学反応することにより発生した炭酸ガスを用いてポリウレタンを発泡させ、容器を囲繞するようにポリウレタンを成型する貯氷容器の製造方法において、
発泡ウレタンの流動抵抗が小さな容器の底部が下に、発泡ウレタンの流動抵抗が大きな容器の側部が上となるように、型と容器との間に成型空間を形成したことを特徴とする貯氷容器の製造方法。
【請求項3】
ポリウレタン発泡原液に含まれたイソシアネートと水が化学反応することにより発生した炭酸ガスを用いてポリウレタンを発泡させ、ポリウレタンを所望の形に成型したポリウレタン成型品において、
発泡ウレタンの流動抵抗が小さな流動部と発泡ウレタンの流動抵抗が大きな抵抗部とを有する場合に、流動部のポリウレタンの密度と抵抗部のポリウレタンの密度とが同一となるように成型したことを特徴とするポリウレタン成型品。
【請求項4】
ポリウレタン発泡原液に含まれたイソシアネートと水が化学反応することにより発生した炭酸ガスを用いてポリウレタンを発泡させ、容器を囲繞するように成型した貯氷容器において、
発泡ウレタンの流動抵抗が小さな容器底部を囲繞するポリウレタンの密度と発泡ウレタンの流動抵抗の大きな容器側部を囲繞するポリウレタンの密度とが同一となるように成型したことを特徴とする貯氷容器。

【図1】
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【図2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図3−3】
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【図3−4】
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【図4】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図5−3】
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【図5−4】
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【公開番号】特開2010−194816(P2010−194816A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−41154(P2009−41154)
【出願日】平成21年2月24日(2009.2.24)
【出願人】(000237710)富士電機リテイルシステムズ株式会社 (1,851)
【Fターム(参考)】