説明

ポリオレフィン微多孔膜及びリチウムイオン電池用セパレータ

【課題】機械的強度や高温時の熱安定性に優れ、特にリチウムイオン電池用セパレータとして好適なポリオレフィン微多孔膜を提供する。
【解決手段】単層又は積層のポリオレフィン微多孔膜であって、表面層を形成するフィルムを有機シリコーン粒子を含有して成るものとした。有機シリコーン粒子の平均粒子径0.01〜10μmの範囲にあり、ポリシロキサン架橋構造体から成る。ポリオレフィン微多孔膜の製造は、少なくともポリオレフィン樹脂、有機シリコーン粒子及び可塑剤を溶融混練する第1工程、溶融混練物を成形し、二軸延伸する第2工程、二軸延伸したフィルムから可塑剤を抽出して除去する第3工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリオレフィン微多孔膜及びリチウムイオン電池用セパレータに関する。リチウムイオン電池用セパレータ、精密濾過膜、コンデンサー用セパレータ、燃料電池用材料等として、ポリオレフィン微多孔膜が使用されている。なかでも、携帯電話、ノート型パーソナルコンピュータ等の小型電子機器及び自動車用蓄電池として使用されるリチウムイオン電池用のセパレータとしての使用が注目されている。本発明は、かかるポリオレフィン微多孔膜及びリチウムイオン電池用セパレータの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、前記のようなポリオレフィン微多孔膜として、表面層を形成するフィルムが酸化チタン、酸化アルミニウム、チタン酸カリウム等の無機粉体を含有して成るもの(例えば特許文献1参照)、表面層を形成するフィルムがケイ素、アルミニウム、チタンの酸化物や窒化物の無機粒子を含有して成るもの(例えば特許文献2参照)等が知られている。
【0003】
ところが、これら従来のポリオレフィン微多孔膜には、無機粉体や無機粒子に微多孔膜の成形工程で行なう延伸に追従できるような弾性が殆どなく、しかもこれらとポリオレフィンとの相溶性が悪いため、微多孔膜の成形作業が誠に厄介であるだけでなく、得られる微多孔膜にピンホールやボイド等の種々の不具合を生じ、とりわけ、得られる微多孔膜の機械的強度が弱く、また高温時の熱安定性が悪いという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−50287号公報
【特許文献2】WO2006−038532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、微多孔膜の成形作業が容易であり、微多孔膜を薄膜化したときにも機械的強度が高く、高温時の安定性にも優れ、したがってリチウムイオン電池用セパレータ、精密濾過膜、コンデンサー用セパレータ、燃料電池用材料等として好適なポリオレフィン微多孔膜を提供する処にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前記の課題を解決するべく研究した結果、単層又は積層のポリオレフィン微多孔膜において、その表面層を形成するフィルム中に有機シリコーン粒子を含有させることが正しく好適であることを見出した。
【0007】
すなわち本発明は、単層又は積層のポリオレフィン微多孔膜であって、表面層を形成するフィルムが有機シリコーン粒子を含有して成るものであることを特徴とするポリオレフィン微多孔膜及びかかるポリオレフィン微多孔膜から成るリチウムイオン電池用セパレータに係る。
【0008】
本発明に係るポリオレフィン微多孔膜(以下、本発明の微多孔膜という)は単層フィルムから成るもの又は積層フィルムから成るものであり、これらの表面層を形成するフィルムが有機シリコーン粒子を含有して成るものである。かかる有機シリコーン粒子の平均粒子径は、成形する微多孔膜の膜厚にもよるが、微多孔膜の機械的強度を上げる観点から、通常は0.01〜10μmとするが、得られる微多孔膜のシャットダウン機能に影響を及ぼさないようにする観点から5μm以下であって且つ有機シリコーン粒子のポリオレフィンや可塑剤との分散性の観点から0.05μm以上とし、したがって0.05〜5μmとするのが好ましい。
【0009】
有機シリコーン粒子は、得られる微多孔膜の機械的強度を上げる観点から、均一形状のものが好ましく、球状のもの、なかでも真球状のものがより好ましい。
【0010】
また有機シリコーン粒子は、耐熱性の高いポリシロキサン架橋構造体から成るものが好ましく、なかでも下記の化1で示されるシロキサン単位で構成されたもの、又は下記の化1で示されるシロキサン単位と、下記の化2で示されるシロキサン単位及び下記の化3で示されるシロキサン単位から選ばれるシロキサン単位とで構成されたものがより好ましい。
【0011】
【化1】

【0012】
【化2】

【0013】
【化3】

【0014】
化1及び化2において、
1,R2,R:ケイ素原子に直結した炭素原子を有する有機基
【0015】
化1で示されるシロキサン単位において、化1中のRはケイ素原子に直結した炭素原子を有する有機基であり、かかる有機基としては、1)反応性基でない有機基又は反応性基を有しない有機基、及び2)反応性基である有機基又は反応性基を有する有機基が挙げられる。
【0016】
が反応性基でない有機基又は反応性基を有しない有機基の場合、かかる有機基としては、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基、アラルキル基等が挙げられるが、なかでもメチル基、エチル基、プロピル基及びブチル基等の炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基が好ましく、メチル基がより好ましい。化1中のRがかかる有機基である場合、化1で示されるシロキサン単位のうちで好ましいシロキサン単位としては、メチルシロキサン単位、エチルシロキサン単位、プロピルシロキサン単位、ブチルシロキサン単位、フェニルシロキサン単位等が挙げられる。
【0017】
が反応性基である有機基又は反応性基を有する有機基の場合、かかる有機基としては、エポキシ基、(メタ)アクリロキシ基、アルケニル基、メルカプトアルキル基、アミノアルキル基、ハロアルキル基、グリセロキシ基、ウレイド基、シアノ基等が挙げられるが、なかでも2−グリシドキシエチル基、3−グリシドキシプロピル基、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)プロピル基等のエポキシ基を有するアルキル基、3−メタクロキシプロピル基、3−アクリロキシプロピル基等の(メタ)アクリロキシ基、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基等のアルケニル基、メルカプトプロピル基、メルカプトエチル基等のメルカプトアルキル基、3−(2−アミノエチル)アミノプロピル基、3−アミノプロピル基、N,N−ジメチルアミノプロピル基等のアミノアルキル基が好ましい。化1中のRがかかる有機基である場合、化1で示されるシロキサン単位としては、1)3−グリシドキシプロピルシロキサン単位、3−グリシドキシプロピルシロキサン単位、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルシロキサン単位、2−グリシドキシエチルシロキサン単位等のエポキシ基を有するシロキサン単位、2)3−メタクロキシプロピルシロキサン単位、3−アクリロキシプロピルシロキサン単位等の(メタ)アクリロキシ基を有するシロキサン単位、3)ビニルシロキサン単位、アリルシロキサン単位、イソプロペニルシロキサン単位等のアルケニル基を有するシロキサン単位、4)メルカプトプロピルシロキサン単位、メルカプトエチルシロキサン単位等のメルカプトアルキル基を有するシロキサン単位、5)3−アミノプロピルシロキサン単位、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルシロキサン単位、N,N−ジメチルアミノプロピルシロキサン単位、N,N−ジエチルアミノプロピルシロキサン単位、N,N−ジメチルアミノエチルシロキサン単位等のアミノアルキル基を有するシロキサン単位、6)3−クロロプロピルシロキサン単位、トリフルオロプロピルシロキサン単位等のハロアルキル基を有するシロキサン単位、7)3−グリセロキシプロピルシロキサン単位、2−グリセロキシエチルシロキサン単位等のグリセロキシ基を有するシロキサン単位、8)3−ウレイドプロピルシロキサン単位、2−ウレイドエチルシロキサン単位等のウレイド基を有するシロキサン単位、9)シアノプロピルシロキサン単位、シアノエチルシロキサン単位等のシアノ基を有するシロキサン単位等が挙げられるが、なかでもエポキシ基を有するシロキサン単位、(メタ)アクリロキシ基を有するシロキサン単位、アルケニル基を有するシロキサン単位、メルカプトアルキル基を有するシロキサン単位、アミノアルキル基を有するシロキサン単位が好ましい。
【0018】
化2で示されるシロキサン単位及び化3で示されるシロキサン単位において、化2中のR及びRはケイ素原子に直結した炭素原子を有する有機基であり、かかる有機基としては、1)反応性基でない有機基又は反応性基を有しない有機基、及び2)反応性基である有機基又は反応性基を有する有機基が挙げられる。
【0019】
及びRが反応性基でない有機基又は反応性基を有しない有機基の場合、かかる有機基としては、Rについて前記したことと同じである。化2中のR及びRがかかる有機基である場合、化2で示されるシロキサン単位のうちで好ましいシロキサン単位としては、ジメチルシロキサン単位、メチルエチルシロキサン単位、メチルプロピルシロキサン単位、メチルブチルシロキサン単位、メチルフェニルシロキサン単位、ジエチルシロキサン単位、エチルプロピルシロキサン単位、エチルブチルシロキサン単位、エチルフェニルシロキサン単位、ジプロピルシロキサン単位、プロピルブチルシロキサン単位、ジブチルシロキサン単位、ブチルフェニルシロキサン単位、ジフェニルシロキサン単位である。
【0020】
化2中のR及びRが反応性基である有機基又は反応性基を有する有機基の場合、かかる有機基としては、Rについて前記したことと同じである。
【0021】
有機シリコーン粒子は、前記したように、ポリシロキサン架橋構造体から成るものであって、化1で示されるシロキサン単位で構成されるか、又は化1で示されるシロキサン単位と、化2で示されるシロキサン単位及び化3で示されるシロキサン単位から選ばれるシロキサン単位とで構成され、且つ化1で示されるシロキサン単位/(化2で示されるシロキサン単位+化3で示されるシロキサン単位)=100/0〜50/50(モル比)の割合で有するものがより好ましい。化2で示されるシロキサン単位及び化3で示されるシロキサン単位の合計割合が50モル%を超えると、得られる微多孔膜の機械的強度が低下する傾向を示す。
【0022】
本発明の微多孔膜は、単層フィルム又は積層フィルムから成るものであって、表面層を形成するフィルムが、前記した有機シリコーン粒子を含有して成るものである。表面層を形成するフィルム中における有機シリコーン粒子の含有割合は、特に制限されないが、5〜60質量%とするのが好ましく、10〜50%質量とするのがより好ましく、15〜35%質量とするのが特に好ましい。有機シリコーン粒子の含有割合が、5質量%未満では高温時の熱安定性に寄与する効果が少なくなり、逆に60質量%を超えると機械的強度が低下し易くなる傾向を示す。
【0023】
本発明の微多孔膜は、下記の第1工程、第2工程及び第3工程を含む工程を経ることにより得ることができる。
第1工程:少なくともポリオレフィン樹脂、有機シリコーン粒子及び可塑剤を溶融混練する工程。
第2工程:溶融混練物を成形し、二軸延伸する工程
第3工程:二軸延伸したフィルムから可塑剤を抽出して除去する工程
【0024】
第1工程では、押出機等を用いて、ポリオレフィン樹脂、有機シリコーン粒子及び可塑剤を、通常は160〜300℃の温度下で溶融混練する。
【0025】
可塑剤は、ポリオレフィンと混合した際に、その融点以上において相溶することのできる有機化合物が好ましい。このような可塑剤として、流動パラフィンやパラフィンワックス等の炭化水素類、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジヘプチルフタレート、ジブチルフタレート等のフタル酸エステル類、その他にセバシン酸エステル類、ステアリン酸エステル類、アジピン酸エステル類、リン酸エステル類が挙げられる。これらの可塑剤は、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。溶融混練物中における可塑剤の含有割合は、20〜80質量%とするのが好ましい。
【0026】
第2工程では、一軸押出機や二軸押出機等を用いて、前記の溶融混練物を成形し、更に二軸延伸する。ここでは各種の成形手段を用いることができるが、押出成形が好ましく、この場合、溶融混練物をスロットダイやTダイ等のシートダイを備える成形機から押出した後にキャストロール等で冷却する。本発明の微多孔膜が積層フィルムから成る場合、かかる微多孔膜は、1)一つのダイで共押出する方法、又は2)各押出機から各層を形成するフィルムを押出成形し、それらを重ね合わせて熱融着により一体化する方法のいずれでも作製できるが、高い層間接着強度及び透過性のフィルムを生産性良く得ることができる点で共押出法が好ましい。
【0027】
成形後の二軸延伸は、同時二軸延伸又は逐次二軸延伸のいずれでもよいが、延伸温度は、通常100〜135℃とし、また延伸倍率は、面積倍率で通常3〜200倍とする。
【0028】
第3工程では、二軸延伸したフィルムから可塑剤を抽出して除去する。可塑剤の抽出は二軸延伸したフィルムを抽出溶媒に浸漬することにより行ない、その後にフィルムは十分乾燥させる。抽出溶媒は、ポリオレフィン、有機シリコーン粒子に対して貧溶媒であり、且つ可塑剤に対して良溶媒であって、沸点がポリオレフィンの融点よりも低いものが好ましい。このような抽出溶媒としては、塩化メチレン、1,1,1−トリクロロエタン等の塩素系溶剤、メチルエチルケトン、アセトン等のケトン類、ヒドロフルオロカーボン、ヒドロフルオロエーテル、環状ヒドロフルオロカーボン、ペルオロカーボン、ペルフルオロエーテル等のハロゲン系有機溶剤、ジエチルエーテルやテトラヒドロフラン等のエーテル類、n−ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素類、メタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類が挙げられるが、なかでも塩化メチレンが好ましい。これらの抽出溶媒は単独で使用することもできるが、二種類以上を併用することもできる。
【0029】
可塑剤の抽出後、厚さや透気度等の物性の調整のために、必要に応じて更に延伸することもできる。かかる延伸には、一軸延伸、同時二軸延伸、逐次二軸延伸が挙げられるが、同時二軸延伸又は逐次二軸延伸が好ましい。延伸温度は、通常100〜135℃とし、延伸倍率は、面積倍率で通常10倍以下とする。
【0030】
本発明の微多孔膜が積層フィルムから成るものである場合、各層のフィルムの孔が三次元的に入り組んでいる三次元網目構造をとっていることが好ましく、これらの三次元網目構造が各層でつながっていることが好ましい。三次元網目構造とは、表面が葉脈状であり、任意の三次元座標軸方向からの断面の膜構造がスポンジ状である構造であり、ここで葉脈状とはフィブリルが網状構造を形成している状態である。これらは走査型電子顕微鏡で表面及び断面を観察することにより確認できる。三次元網目構造のフィブリル径は0.01〜0.1μmであることが好ましい。
【0031】
本発明の微多孔膜は、機械的強度及び高温時の熱安定性に優れ、特にリチウムイオン電池用セパレータとして好適である。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、良好な成形作業の下で、不具合のない、とりわけ機械的強度及び高温時の熱安定性に優れた微多孔膜を提供でき、したがって、特にリチウムイオン電池用セパレータとして好適な微多孔膜を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明で用いた有機シリコーン粒子から任意の5個を選択し、それらを微小圧縮試験機に供したときの荷重変形曲線を例示するグラフ。
【実施例】
【0034】
以下、本発明の実施例及び比較例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0035】
試験区分1(有機シリコーン粒子の合成)
・有機シリコーン粒子(P−1)の合成
反応容器にイオン交換水700gを仕込み、48%水酸化ナトリウム水溶液0.6g及びα−(p−ノニルフェニル)−ω−ヒドロキシ(ポリオキシエチレン)(オキシエチレン単位の数が10)の20%水溶液0.25gを添加し、よく攪拌して均一な溶液とした。この水溶液の温度を14℃に保ち、この水溶液にメチルトリメトキシラン122.6g(0.9モル)及びジメチルジメトキシシラン12.0g(0.1モル)の混合モノマーを水溶液とモノマー層が混ざらないように徐々に滴下し、滴下終了後、双方の層を維持した層流状態でゆっくり攪拌した。1時間後、10%ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液3gを添加し、更に3時間、14℃で同様にゆっくり攪拌した。そして、更に30〜80℃で5時間縮合反応を行なって有機シリコーン粒子を含有する水性懸濁液を得た。この水性懸濁液を孔径2μmのアドバンテック社製のメンブランフィルターに通した後、通過液状部を遠心分離機に供して白色粒子を分離した。分離した白色粒子を水洗し、150℃で5時間、熱風乾燥を行なって有機シリコーン粒子(P−1)60.1gを得た。有機シリコーン粒子(P−1)について、走査型電子顕微鏡による観察、元素分析、ICP発光分光分析、FT−IRスペクトル分析を行なったところ、この有機シリコーン粒子(P−1)は、平均直径が0.3μmの真球状の有機シリコーン粒子であって、化1のシロキサン単位/化2のシロキサン単位=90/10(モル比)の割合で有するポリシロキサン架橋構造体から成るものであった。
【0036】
・有機シリコーン粒子(P−2)の合成
反応容器にイオン交換水700gを仕込み、48%水酸化ナトリウム水溶液0.6g及びα−(p−ノニルフェニル)−ω−ヒドロキシ(ポリオキシエチレン)(オキシエチレン単位の数が10)の20%水溶液0.61gを添加し、よく攪拌して均一な溶液とした。この水溶液の温度を14℃に保ち、この水溶液にメチルトリメトキシラン122.6g(0.9モル)及びテトラエトキシシラン20.8g(0.1モル)の混合モノマーを水溶液とモノマー層が混ざらないように徐々に滴下し、滴下終了後、双方の層を維持した層流状態でゆっくり攪拌した。1時間後、10%ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液3gを添加し、更に3時間、14℃で同様にゆっくり攪拌した。そして、更に30〜80℃で5時間縮合反応を行なって有機シリコーン粒子を含有する水性懸濁液を得た。この水性懸濁液を孔径2μmのアドバンテック社製のメンブランフィルターに通した後、通過液状部を遠心分離機に供して白色粒子を分離した。分離した白色粒子を水洗し、150℃で5時間、熱風乾燥を行なって有機シリコーン粒子(P−2)60.1gを得た。有機シリコーン粒子(P−2)について、走査型電子顕微鏡による観察、元素分析、ICP発光分光分析、FT−IRスペクトル分析を行なったところ、この有機シリコーン粒子(P−2)は、平均直径が1μmのゴルフボール状の有機シリコーン粒子であって、化1のシロキサン単位/化3のシロキサン単位=90/10(モル比)の割合で有するポリシロキサン架橋構造体から成るものであった。
【0037】
・有機シリコーン粒子(P−3)の合成
反応容器にイオン交換水700gを仕込み、48%水酸化ナトリウム水溶液0.6g及びα−(p−ノニルフェニル)−ω−ヒドロキシ(ポリオキシエチレン)(オキシエチレン単位の数が10)の20%水溶液0.21gを添加し、よく攪拌して均一な溶液とした。この水溶液の温度を14℃に保ち、この水溶液にメチルトリメトキシラン136.2g(1モル)のシリコンモノマーを水溶液とモノマー層が混ざらないように徐々に滴下し、滴下終了後、双方の層を維持した層流状態でゆっくり攪拌した。1時間後、10%ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液3gを添加し、更に3時間、14℃で同様にゆっくり攪拌した。そして、更に30〜80℃で5時間縮合反応を行なって有機シリコーン粒子を含有する水性懸濁液を得た。この水性懸濁液を孔径2μmのアドバンテック社製のメンブランフィルターに通した後、通過液状部を遠心分離機に供して白色粒子を分離した。分離した白色粒子を水洗し、150℃で5時間、熱風乾燥を行なって有機シリコーン粒子(P−3)60.1gを得た。有機シリコーン粒子(P−3)について、走査型電子顕微鏡による観察、元素分析、ICP発光分光分析、FT−IRスペクトル分析を行なったところ、この有機シリコーン粒子(P−3)は、平均直径が100nmの真球状の有機シリコーン粒子であって、化1のシロキサン単位のポリシロキサン架橋構造体から成るものであった。
【0038】
・有機シリコーン粒子(P−4)の合成
反応容器にイオン交換水700gを仕込み、48%水酸化ナトリウム水溶液0.3gを添加して水溶液とした。この水溶液にメチルトリメトキシランg(0.8モル)及びジメチルジメトキシランg(0.2モル)を添加し、温度を13〜15℃に保ちながら1時間加水分解反応を行ない、更に10%ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液3gを添加し、同温度で3時間加水分解反応を行なった。約4時間でシラノール化合物を含有する透明な反応物を得た。次いで得られた反応物の温度を30〜80℃に保ちながら5時間縮合反応を行なって有機シリコーン粒子を含有する水性懸濁液を得た。この水性懸濁液を孔径5μmのアドバンテック社製のメンブランフィルターに通した後、通過液状部を遠心分離機に供して白色粒子を分離した。分離した白色粒子を水洗し、150℃で5時間、熱風乾燥を行なって有機シリコーン粒子(P−4)60.1gを得た。有機シリコーン粒子(P−4)について、走査型電子顕微鏡による観察、元素分析、ICP発光分光分析、FT−IRスペクトル分析を行なったところ、この有機シリコーン粒子(P−4)は、平均直径が2.0μmの真球状の有機シリコーン粒子であって、化1のシロキサン単位/化2のシロキサン単位=80/20(モル比)の割合で有するポリシロキサン架橋構造体から成るものであった。
【0039】
図1は合成した有機シリコーン粒子(P−4)から任意の5個を選択し、それらを微小圧縮試験機に供したときの荷重変形曲線を例示するグラフである。縦軸に荷重(gf)を目盛り、横軸に変形の程度(μm)を目盛っているが、この図1からも、有機シリコーン粒子(P−4)が荷重の変化に対して破壊され難いものであることがわかる。
【0040】
・有機シリコーン粒子(P−5)の合成
反応容器にイオン交換水700gを仕込み、48%水酸化ナトリウム水溶液0.3gを添加して水溶液とした。この水溶液にメチルトリメトキシラン81.7g(0.6モル)及びジメチルジメトキシラン48.1g(0.4モル)を添加し、有機シリコーン粒子(P−4)の場合と同様にして反応等を行なった。得られた有機シリコーン粒子(P−5)は、平均直径が2.0μmの真球状の有機シリコーン粒子であって、式1のシロキサン単位/式2のシロキサン単位=60/40(モル比)の割合で有するポリシロキサン架橋構造体から成るものであった。
【0041】
・有機シリコーン粒子(P−6)の合成
反応容器にイオン交換水700gを仕込み、48%水酸化ナトリウム水溶液0.6g及びα−(p−ノニルフェニル)−ω−ヒドロキシ(ポリオキシエチレン)(オキシエチレン単位の数が10)の20%水溶液0.61gを添加し、よく攪拌して均一な溶液とした。この水溶液の温度を14℃に保ち、この水溶液にメチルトリメトキシラン109.0g(0.8モル)、ジメチルジメトキシラン12.0g(0.1モル)及びテトラエトキシシラン20.8g(0.1モル)の混合モノマーを添加して、有機シリコーン粒子(P−2)の場合と同様にして反応等を行なった。得られた有機シリコーン粒子(P−6)は、平均直径が1μmのゴルフボール状の有機シリコーン粒子であって、式1のシロキサン単位/式2のシロキサン単位/式3のシロキサン単位=80/10/10(モル比)の割合で有するポリシロキサン架橋構造体から成るものであった。
以上で合成した各有機シリコーン粒子の内容を表1にまとめて示した。
【0042】
【表1】

【0043】
表1において、
MTS:メチルトリメトキシラン
DMS:ジメチルジメトキシシラン
TEOS:テトラエトキシシラン
【0044】
試験区分2(ポリオレフィン微多孔膜の作製)
・実施例1
質量平均分子量が2.5×10の超高分子量ポリエチレン6質量部と質量平均分子量が3.5×10の高密度ポリエチレン24質量部のポリエチレン組成物30質量部に、酸化防止剤0.2質量部を加えてポリエチレン組成物を得た。このポリエチレン組成物30.2質量部、試験区分1で合成した有機シリコーン粒子(P−1)8質量部及び核剤としてビス(p−エチルベンジリデン)ソルビトール2質量部を、二軸押出し機(58mmφL/D=42、強混練タイプ)に投入した。またこの二軸押出し機のサイドフィーダーから流動パラフィン70質量部を供給し、200℃、200rpmで溶融混練して、二軸押出し機の先端に取り付けたTダイから押出し、直ちに25℃に冷却したキャストロールで冷却固化させ、厚さ1.5mmのシートを成形した。このシートを同時二軸延伸機を用いて124℃の条件で5×5倍に延伸した後、塩化メチレンに浸漬して、流動パラフィンを抽出除去した後、乾燥し、テンター延伸機により125℃の条件で横方向に1.5倍延伸した。その後、この延伸シートを130℃で7%幅方向に緩和して熱処理を行ない、単層フィルムから成る実施例1の微多孔膜を作製した。
【0045】
・実施例2
有機シリコーン粒子として、試験区分1で合成した有機シリコーン粒子(P−2)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2の微多孔膜を作製した。
【0046】
・実施例3
有機シリコーン粒子として、試験区分1で合成した有機シリコーン粒子(P−3)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例3の微多孔膜を作製した。
【0047】
・実施例4
有機シリコーン粒子として、試験区分1で合成した有機シリコーン粒子(P−4)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例4の微多孔膜を作製した。
【0048】
・実施例5
有機シリコーン粒子として、試験区分1で合成した有機シリコーン粒子(P−5)を 質量部用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例5の微多孔膜を作製した。
【0049】
・実施例6
有機シリコーン粒子として、試験区分1で合成した有機シリコーン粒子(P−6)を 質量部用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例6の微多孔膜を作製した。
【0050】
・比較例1
有機シリコーン粒子を用いなかったこと以外は実施例1と同様にして、比較例1の微多孔膜を作製した。
【0051】
・比較例2
有機シリコーン粒子の代わりとして、球状のシリカ粒子(日本触媒社製の商品名シイホスターKE−P10、平均直径100nm)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例2の微多孔膜を作製した。
【0052】
・比較例3
有機シリコーン粒子の代わりとして、球状のポリメチルメタクリレート系粒子(日本触媒社製の商品名エポスターMA−1002、平均直径2.5μm)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例3の微多孔膜を作製した。
【0053】
・比較例4
有機シリコーン粒子の代わりとして、球状のシリカ粒子(日本触媒社製の商品名シイホスターKE−P10、平均直径100nm)20.1質量部を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例4の微多孔膜を作製しようとしたが、良好な微多孔膜は得られなかった。
【0054】
試験区分3(ポリオレフィン微多孔膜の物性の測定)
試験区分2で作製した各例の微多孔膜について、膜厚(μm)、平均貫通孔径(nm)、透気度(秒/100cc)、引張り破断強度(MPa)及び熱収縮率(%)を次のように測定し、結果を表2にまとめて示した。
【0055】
膜厚(μm):微多孔膜の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により測定した。
平均貫通孔径(nm):ベルソープミニ(日本ベル社製)により測定した。
透気度(秒/100cc):JIS−P8117に準拠し、ガーレー式透気度計(東洋精機製作所社製のG−B2)により測定した。
引張り破断強度(MPa):微多孔膜から幅15mmの短冊状試験片を切り出し、その破断強度をASTM D882に準拠して測定した。
熱収縮率(%):微多孔膜から120mm×120mm角の試料片を切り出し、これに100mm間隔で3箇所、油性ペンで印をつけた。A4サイズのコピー用紙(コクヨ製)で微多孔膜を挟み、コピー用紙の側辺をホッチキスで綴じ、150℃のオーブン中に水平に置き、1時間放置した。その後、空冷し、印間の長さ(mm)を測定した。3箇所の平均値より収縮率を下記の数1から算出した。
【0056】
【数1】

【0057】
【表2】

【0058】
表2から明らかなように、本発明の微多孔膜は、所期の通りの貫通孔径及び透気度を有し、とりわけ機械的強度や高温時の熱安定性に優れていることがわかる。
【0059】
試験区分4(ポリオレフィン微多孔膜の作製)
・実施例7
表面層を形成するフィルムの原料として、ポリプロピレン(密度0.90、粘度平均分子量30万)32質量部、試験区分1で作製した有機シリコーン粒子(P−1)9質量部、核剤としてビス(p−エチルベンジリデン)ソルビトール2質量部、酸化防止剤としてテトラキスー[メチレン−(3’−5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン0.3質量部及び可塑剤として流動パラフィン12質量部をミキサーで混合した。また中間層を形成するフィルムの原料として、高密度ポリエチレン(密度0.95、粘度平均分子量25万)40質量部及び酸化防止剤としてテトラキスー[メチレン−(3’−5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン0.3質量部を同様に混合した。双方の原料を、2台の口径25mm、L/D=48の二軸押出機フィーダーに投入し、更に表面層のフィルムを形成することとなるものには流動パラフィン48質量部を、また中間層のフィルムを形成することとなるものには流動パラフィン60質量部をサイドフィードからそれぞれの二軸押出機に供給し、両表面層のフィルムを形成することとなる部分からは押出量が5kg/時となるように、また中間層のフィルムを形成することとなる部分からは押出量が15kg/時となるようにして、200℃、200rpmの条件で混練しつつ、押出機先端に取り付けた共押出(二種三層)が可能なTダイから押出して、直ちに25℃に冷却したキャストロールで冷却固化させ、厚さ1.5mmのシートを成形した。このシートを二軸延伸機を用いて124℃の条件で7×7倍に延伸した後、塩化メチレンに浸漬して、流動パラフィンを抽出除去した後、乾燥し、テンター延伸機により125℃の条件で横方向に1.5倍延伸した。その後、この延伸シートを130℃で7%幅方向に緩和して熱処理を行ない、両表面層を形成するフィルムが同一の組成で、中間層のフィルムが異なる組成を有する二種三層構造の積層フィルムから成る微多孔膜を作製した。
【0060】
・実施例8
有機シリコーン粒子として、試験区分1で合成した有機シリコーン粒子(P−2)を用いたこと以外は実施例7と同様にして、実施例8の微多孔膜を作製した。
【0061】
・実施例9
有機シリコーン粒子として、試験区分1で合成した有機シリコーン粒子(P−3)を用いたこと以外は実施例7と同様にして、実施例9の微多孔膜を作製した。
【0062】
・実施例10
有機シリコーン粒子として、試験区分1で合成した有機シリコーン粒子(P−4)を用いたこと以外は実施例7と同様にして、実施例10の微多孔膜を作製した。
【0063】
・実施例11
有機シリコーン粒子として、試験区分1で合成した有機シリコーン粒子(P−5)を5.6質量部用いたこと以外は実施例7と同様にして、実施例11の微多孔膜を作製した。
【0064】
・実施例12
有機シリコーン粒子として、試験区分1で合成した有機シリコーン粒子(P−6)を23.2質量部用いたこと以外は実施例7と同様にして、実施例12の微多孔膜を作製した。
【0065】
・比較例5
有機シリコーン粒子を用いなかったこと以外は実施例7と同様にして、比較例5の微多孔膜を作製した。
【0066】
・比較例6
有機シリコーン粒子の代わりとして、球状のシリカ粒子(日本触媒社製の商品名シイホスターKE−P10、平均直径100nm)を用いたこと以外は実施例7と同様にして、比較例6の微多孔膜を作製した。
【0067】
・比較例7
有機シリコーン粒子の代わりとして、球状のポリメチルメタクリレート系粒子(日本触媒社製の商品名エポスターMA−1002、平均直径2.5μm)を用いたこと以外は実施例7と同様にして、比較例7の微多孔膜を作製した。
【0068】
・比較例8
有機シリコーン粒子の代わりとして、球状のポリメチルメタクリレート系粒子(日本触媒社製の商品名エポスターMA−1002、平均直径2.5μm)を17.2質量部用いたこと以外は実施例7と同様にして、比較例8の微多孔膜を作製した。
【0069】
試験区分5(ポリオレフィン微多孔膜の物性の測定)
試験区分4で作製した各例の微多孔膜について、膜厚(μm)、平均貫通孔径(nm)、透気度(秒/100cc)、引張り破断強度(MPa)及び熱収縮率(%)を試験区分3と同様に測定し、結果を表3にまとめて示した。
【0070】
【表3】

【0071】
表3から明らかなように、本発明の微多孔膜は、所期の通りの貫通孔径及び透気度を有し、とりわけ機械的強度や高温時の熱安定性に優れていることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単層又は積層のポリオレフィン微多孔膜であって、表面層を形成するフィルムが有機シリコーン粒子を含有して成るものであることを特徴とするポリオレフィン微多孔膜。
【請求項2】
有機シリコーン粒子が、平均粒子径0.01〜10μmのものである請求項1記載のポリオレフィン微多孔膜。
【請求項3】
有機シリコーン粒子が、ポリシロキサン架橋構造体から成る球状有機シリコーン粒子である請求項1又は2記載のポリオレフィン微多孔膜。
【請求項4】
ポリシロキサン架橋構造体が、下記の化1で示されるシロキサン単位で構成されたもの、又は下記の化1で示されるシロキサン単位と、下記の化2で示されるシロキサン単位及び下記の化3で示されるシロキサン単位から選ばれるシロキサン単位とで構成されたものである請求項3記載のポリオレフィン微多孔膜。
【化1】

【化2】

【化3】

(化1及び化2において、
1,R2,R:ケイ素原子に直結した炭素原子を有する有機基)
【請求項5】
ポリシロキサン架橋構造体が、化1で示されるシロキサン単位/(化2で示されるシロキサン単位+化3で示されるシロキサン単位)=100/0〜50/50(モル比)の割合で有するものである請求項4記載のポリオレフィン微多孔膜。
【請求項6】
表面層を形成するフィルムが、有機シリコーン粒子を5〜60質量%の割合で含有するものである請求項1〜5のいずれか一つの項記載のポリオレフィン微多孔膜。
【請求項7】
下記の第1工程、第2工程及び第3工程を含む工程を経ることによって得られる請求項1〜6のいずれか一つの項記載のポリオレフィン微多孔膜。
第1工程:少なくともポリオレフィン樹脂、有機シリコーン粒子及び可塑剤を溶融混練する工程
第2工程:溶融混練物を成形し、二軸延伸する工程
第3工程:二軸延伸したフィルムから可塑剤を抽出して除去する工程
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一つの項記載のポリオレフィン微多孔膜から成るリチウムイオン電池用セパレータ。

【図1】
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【公開番号】特開2011−6585(P2011−6585A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−151760(P2009−151760)
【出願日】平成21年6月26日(2009.6.26)
【出願人】(000210654)竹本油脂株式会社 (138)
【Fターム(参考)】