説明

ポリ乳酸フィルムおよびその製造方法

【課題】フィルムの一方の表面への可塑剤のブリード防止性、フィルム同士のブロッキング防止性、フィルムの他方の表面のタック性に優れ、かつ、柔軟性、透明性の良好なポリ乳酸フィルムを提供する。
【解決手段】以下の最外層(A)と最外層(B)とを有するポリ乳酸フィルム。最外層(A)は、ポリ乳酸系樹脂(a)と可塑剤と結晶核剤とを含有する。ポリ乳酸系樹脂(a)は、D体の比率が7〜20%であるポリDL乳酸(1)45〜85質量%と、D体の比率が0%を超え7%未満であるポリDL乳酸(2)またはD体の比率が0%であるポリL乳酸15〜55質量%とからなる。ポリ乳酸系樹脂(b)と可塑剤とを含有する。ポリ乳酸系樹脂(b)は、ポリDL乳酸(1)70〜100質量%と、ポリDL乳酸(2)またはポリL乳酸0〜30質量%からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸フィルムおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、家電製品、家具、自動車などの流通段階において、これらの製品の表面に傷が付くことを防ぐために、自己粘着性プロテクトフィルムが広く使用されている。従来使用されてきた自己粘着性プロテクトフィルムは、ポリオレフインをベースとしたものがほとんどで、使用後の廃棄、焼却を考えると、地球環境に対して負荷を与えている。
近年、地球環境に対する負荷を低減する素材として、植物などのバイオマス資源を原料に合成される生分解性プラスチックが市場に出てきている。その代表的な生分解性プラスチックとして、ポリ乳酸が挙げられる。ポリ乳酸は硬質なため、自己粘着性プロテクトフィルムなどの柔軟性を必要とする用途には使用できなかった。
ポリ乳酸フィルムに柔軟性を付与するために、ポリ乳酸フィルムに可塑剤を配合する試みが種々行われている。ところが、可塑剤を配合すると、成形したポリ乳酸フィルムの表面に可塑剤が経時的に滲み出て、フィルムの外観が損なわれるブリードを生じ、また、製膜して巻き取ったフィルム同士が密着して剥がれにくくなるブロッキングを生じるという問題がある。
【0003】
このような問題を解決するために、例えば、特許文献1では、弱晶性または非晶質性ポリ乳酸、および結晶性ポリ乳酸からなるポリ乳酸系樹脂と、可塑剤とを含有する樹脂組成物をフィルム状に成形し、これに結晶化処理を施すことにより、透明性は保持したまま、ブリード防止性、ブロッキング防止性を有するポリ乳酸フィルムが提案されている。
【特許文献1】特開2006−63302号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1によって得られるポリ乳酸フィルムは、自己粘着性プロテクトフィルムに必要なタック性(粘着性)がなかった。
これに対し、例えば、前記樹脂組成物とEVA樹脂(エチレン・酢酸ビニル共重合体樹脂)などの自己粘着性がある樹脂とを共押出して、タック性を有した自己粘着性プロテクトフィルムとすることも可能である。
しかしながら、EVA樹脂はバイオマス資源由来の樹脂ではないため、自己粘着性プロテクトフィルムにおけるバイオマス資源の割合が下がり、また、生分解性が低下するという問題がある。
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであって、フィルムの一方の表面への可塑剤のブリード防止性、フィルム同士のブロッキング防止性、フィルムの他方の表面タック性に優れ、かつ、柔軟性、透明性の良好なポリ乳酸フィルム、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記の課題を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。
[1]一方の表面に形成された最外層(A)と、他方の表面に形成された最外層(B)とを有するポリ乳酸フィルムであって、
最外層(A)が、ポリ乳酸系樹脂(a)と可塑剤と結晶核剤とを含有する樹脂組成物(I)からなり、最外層(A)の結晶融解熱量が3〜20J/gであり、
ポリ乳酸系樹脂(a)が、D体の比率が7〜20%であるポリDL乳酸(1)45〜85質量%と、D体の比率が0%を超え7%未満であるポリDL乳酸(2)またはD体の比率が0%であるポリL乳酸15〜55質量%とからなり、
可塑剤の含有量が、ポリ乳酸系樹脂(a)100質量部あたり15〜50質量部であり、
最外層(B)が、ポリ乳酸系樹脂(b)と可塑剤とを含有する樹脂組成物(II)からなり、
ポリ乳酸系樹脂(b)が、D体の比率が7〜20%であるポリDL乳酸(1)70〜100質量%と、D体の比率が0%を超え7%未満であるポリDL乳酸(2)またはD体の比率が0%であるポリL乳酸0〜30質量%からなり、
可塑剤の含有量が、ポリ乳酸系樹脂(b)100質量部あたり15〜50質量部であること
を特徴とするポリ乳酸フィルム。
[2]少なくとも一方の表面の、JIS Z 0237に準拠して測定した180°剥離強度が10〜300cN/25mmであることを特徴とする[2]に記載のポリ乳酸フィルム。
【0006】
[3]最外層(A)を形成する樹脂組成物(I)と、最外層(B)を形成する樹脂組成物(II)とを共押出して、最外層(A)を一方の表面に形成し、最外層(B)を他方の表面に形成した積層フィルムを成形する工程と、
最外層(A)の結晶融解熱量が3〜20J/gになるように該フィルムに結晶化処理を施す工程と
を有するポリ乳酸フィルムの製造方法であって、
樹脂組成物(I)が、ポリ乳酸系樹脂(a)と可塑剤と結晶核剤とを含有し、
ポリ乳酸系樹脂(a)が、D体の比率が7〜20%であるポリDL乳酸(1)45〜85質量%と、D体の比率が0%を超え7%未満であるポリDL乳酸(2)またはD体の比率が0%であるポリL乳酸15〜55質量%とからなり、
可塑剤の含有量が、ポリ乳酸系樹脂(a)100質量部あたり15〜50質量部であり、
樹脂組成物(II)が、ポリ乳酸系樹脂(b)と可塑剤とを含有し、
ポリ乳酸系樹脂(b)が、D体の比率が7〜20%であるポリDL乳酸(1)70〜100質量%と、D体の比率が0%を超え7%未満であるポリDL乳酸(2)またはD体の比率が0%であるポリL乳酸0〜30質量%からなり、
可塑剤の含有量が、ポリ乳酸系樹脂(b)100質量部あたり15〜50質量部であること
を特徴とするポリ乳酸フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明のポリ乳酸フィルムは、フィルムの一方の表面への可塑剤のブリード防止性、フィルム同士のブロッキング防止性、フィルムの他方の表面のタック性に優れ、かつ、柔軟性、透明性が良好である。
本発明のポリ乳酸フィルムの製造方法によると、フィルムの一方の表面への可塑剤のブリード防止性、フィルム同士のブロッキング防止性、フィルムの他方の表面のタック性に優れ、かつ柔軟性、透明性の良好なポリ乳酸フィルムを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
<ポリ乳酸フィルム>
本発明のポリ乳酸フィルムは、一方の表面に形成された最外層(A)と、他方の表面に形成された最外層(B)とを有するポリ乳酸フィルムである。
該フィルム全体の厚さは、10〜300μmが好ましく、20〜200μmがより好ましい。フィルム全体の厚みが前記範囲内であれば、良好な強度と加工性が得られ、対象物への粘着が行いやすい。
【0009】
(最外層(A))
一方の表面に形成された最外層(A)は、ポリ乳酸系樹脂(a)と可塑剤と結晶核剤とを含有する樹脂組成物(I)からなる。最外層(A)の厚みは特に限定されないが、フィルム全体の厚みに対する最外層(A)の厚みの割合が、好ましくは、10〜90%である。最外層(A)の厚みが前記範囲内であれば、巻き開反時におけるブロッキング防止性が良好である。
【0010】
[ポリ乳酸系樹脂(a)]
ポリ乳酸系樹脂(a)は、D体の比率が7〜20%であるポリDL乳酸(1)45〜85質量%と、D体の比率が0%を超え7%未満であるポリDL乳酸(2)またはD体の比率が0%であるポリL乳酸15〜55質量%とからなる。
「D体の比率」とは、L−乳酸単位とD−乳酸単位とから構成される共重合体に占めるD−乳酸単位の組成比率を意味する。D体の比率が高いほど、ポリ乳酸系樹脂は結晶化しにくい。
ポリDL乳酸とは、L−乳酸またはその環状二量体であるラクチドと、D−乳酸またはその環状二量体であるラクチドとをモノマーとして用い、これらを縮合重合または開環重合した共重合体である。
D体の比率が7〜20%であるポリDL乳酸(1)は、通常、DSC(示差走査型熱量計)による測定によって得られたDSC曲線において明確な融点を示さず、結晶性が低いため、結晶化しない、または結晶化しにくいという性質を有する。ただし、ポリDL乳酸(1)であっても、後述の結晶化処理を施すことにより、結晶化することはできる。D体の比率が20%を超えるポリDL乳酸は、入手性を考慮した場合、実用的ではない。
【0011】
D体の比率が0%を超え7%未満であるポリDL乳酸(2)は、DSC曲線において明確な融点を示し、後述の結晶化処理を施すことにより、結晶化しやすいという性質を有する。
D体の比率が0%であるポリL乳酸は、L一乳酸またはその環状二量体であるラクチドをモノマーとして用い、これらを縮合重合または開環重合した重合体である。
ポリL乳酸は、ポリDL乳酸(2)と同様に、DSC曲線において明確な融点を示し、後述の結晶化処理を施すことにより、結晶化しやすいという性質を有する。
【0012】
最外層(A)は、結晶化しにくいポリDL乳酸(1)と、結晶化しやすいポリL乳酸またはポリDL乳酸(2)とのブレンドにより、その結晶化が適度に調整されているため、ブリード防止性、ブロッキング防止性に優れている。
【0013】
ポリ乳酸系樹脂(a)(100質量%)において、ポリL乳酸またはポリDL乳酸(2)の含有量が15質量%を下回ると、結晶化が不充分となるために、最外層(A)のブリしド防止性、ブロッキング防止性が不充分となる。
ポリ乳酸系樹脂(a)(100質量%)において、ポリL乳酸またはポリDL乳酸(2)の含有量が55質量%を超えると、高温条件下で長時間放置したときのフィルムの柔軟性が低下し、高温に長時間晒されうる環境下で使用する際に問題となる。
【0014】
ポリDL乳酸(1)、ポリDL乳酸(2)、およびポリL乳酸の質量平均分子量は、フィルム強度、成形加工性等の観点から、1万〜100万程度が好ましく、3万〜50万程度が特に好ましい。
また、ポリDL乳酸(1)、ポリDL乳酸(2)、およびポリL乳酸は、少量のヒドロキシカルボン酸に由来する単位を含んでいてもよい。ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ青草酸、6−ヒドロキシカプロン酸等が挙げられる。
【0015】
[可塑剤]
樹脂組成物(1)には、ポリ乳酸フィルムに柔軟性を付与するために可塑剤が含有される。可塑剤としては特に限定されるものではないが、例えば、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール等の脂肪族アルコール系可塑剤;グリセリンジアセトモノラウレート、グリセリンジアセトモノオレート等のアセチル化モノグリセライド系可塑剤;乳酸エステル等の脂肪族エステル系可塑剤;ポリグリセリンの重合度が2〜4であり、アセチル化率が50〜100%であるポリグリセリン酢酸エステル系可塑剤;アジピン酸エステル系可塑剤;エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油等のエポキシ系可塑剤が挙げられる。これら可塑剤のうち、ポリ乳酸との相溶性および可塑化効果が良好である点から、アセチル化モノグリセライド系可塑剤またはポリグリセリン酢酸エステル系可塑剤が好ましい。
樹脂組成物(I)に含有される可塑剤は、ポリ乳酸系樹脂(a)100質量部あたり15〜50質量部である。可塑剤が前記範囲を下回ると、可塑化の効果が不充分となり、充分な柔軟性が得られなくなる。可塑剤の配合量が前記範囲を超えると、ブリードが生じやすくなり、加工性も悪くなる。
【0016】
[結晶核剤]
樹脂組成物(I)には、ポリ乳酸の結晶化を促進させるために結晶核剤が含有される。結晶核剤としては、タルク、カオリナイト、モンモリナイト等の珪酸塩化合物;酸化亜鉛、酸化マグネシウム等の金属酸化物;炭酸カルシウム、硫酸バリウム等の各種無機系結晶核剤;トリメシン酸トリアミド化合物、ステレオコンプレックスポリ乳酸等の各種有機結晶核剤が挙げられる。
結晶核剤が含有されないと、最外層(A)が充分に結晶化されず、ブロッキング防止性が不充分となる。なお、最外層(A)には、結晶核剤がポリ乳酸系樹脂(a)100質量部あたり、0.05〜10質量都合有されるのが好ましい。より好ましくは0.1〜5質量部である。結晶核剤を前記範囲内とすることにより、フィルムの結晶化処理に要する時間を短くでき、充分に結晶化された最外層(A)を得ることができる。
【0017】
[結晶融解熱量]
また、最外層(A)は、結晶融解熱量が3〜20J/gを示す。結晶化度が前記範囲を下回ると、ブロッキング防止性が低下する。結晶化度が前記範囲を超えると、柔軟性、ブリード防止性が低下する。
ここで、結晶融解熱量とは、DSCによって得られたDSC曲線の融解ピークの面積から求めた融解熱量を、試料1g当たりに換算した値(J/g)である。
【0018】
(最外層(B))
他方の表面に形成された最外層(B)は、ポリ乳酸系樹脂(b)と可塑剤とを含有する樹脂組成物(II)からなる。最外層(B)の厚みは特に限定されないが、フィルム全体の厚みに対する最外層(B)の厚みの割合が、好ましくは、10〜90%である。最外層(B)の厚みが前記範囲内であれば、安定したタック性が得られる。
【0019】
[ポリ乳酸系樹脂(b)]
ポリ乳酸系樹脂(b)は、D体の比率が7〜20%であるポリDL乳酸(1)70〜100質量%と、D体の比率が0%を超え7%未満であるポリPL乳酸(2)またはD体の比率が0%であるポリL乳酸0〜30質量%とからなる。
最外層(B)のポリ乳酸系樹脂(100質量%)において、ポリDL乳酸(1)と、ポリDL乳酸(2)またはポリL乳酸の含有量を前記範囲内とし、かつ、結晶核剤を含まないことにより、後述の結晶化処理においても、最外層(B)は完全に結晶化されない、または結晶化することがないため、優れたタック性を有することができる。
ポリDL乳酸(2)またはポリL乳酸の含有量が30質量%を超えると、結晶化が進み過ぎ、タック性が不充分となる。
【0020】
[可塑剤]
樹脂組成物(II)には、ポリ乳酸フィルムに柔軟性を付与するために可塑剤が含有される。可塑剤としては、樹脂組成物(I)に含有される可塑剤と同様の可塑剤を用いることができる。
樹脂組成物(II)に含有される可塑剤は、ポリ乳酸系樹脂(b)100質量部あたり15〜50質量部である。可塑剤が前記範囲を下回ると、可塑化の効果が不充分となり、充分な柔軟性タック性が得られなくなる。可塑剤の配合量が前記範囲を超えると、ブリードが生じやすくなり、加工性も悪くなる。
【0021】
[その他の成分]
また、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、樹脂組成物(I)および樹脂組成物(II)には、その他の成分を含有することができる。その他の成分としては、例えば、滑剤、無機化合物微粒子、酸化防止剤、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤、帯電防止剤、熱安定剤、粘着付与剤、顔料、染料等が挙げられる。また、問題を生じない程度の少量の他のポリ乳酸、他の生分解性樹脂、他の合成樹脂を含有してもよい。
【0022】
滑剤は、フィルム成形の工程における加工ロールからのフィルムの離脱を良好にするために好ましく含有される。滑剤としては、例えば、ポリエチレンワックス、脂肪酸アミド、ステアリン酸等を挙げることができる。滑剤の含有量は、ポリ乳酸系樹脂(a)および/またはポリ乳酸系樹脂(b)100質量部あたり、0.01〜2質量部が好ましく、01〜1.5質量部が特に好ましい。
【0023】
無機化合物微粒子は、フィルム成形の工程における加工ロールヘのフィルムの粘着を防止したり、ブロッキング防止性を向上するために好ましく含有される。無機化合物微粒子としては、長石、シリカ、タルク、カオリン等を挙げることができる。無機化合物微粒子の平均粒子径は、1〜7μmが好ましい。無機化合物微粒子の配合量は、ポリ乳酸系樹脂(a)および/またはポリ乳酸系樹脂(b)100質量部あたり、0.01〜2質量部が好ましく、0.1〜1.5質量部が特に好ましい。無機化合物微粒子の含有量が前記範囲内であれば、フィルム成形の工程における加工ロールへのフィルムが粘着を低減でき、かつ、ブロッキング防止性をより向上できる。
【0024】
以上説明した本発明のポリ乳酸フィルムは、一方の表面が最外層(A)で形成され、他方の表面が最外層(B)で形成された積層フィルムとすることで、フィルムの一方の表面のブリード防止性、ブロッキング防止性に優れ、かつ、フィルムの他方の表面がタック性に優れたポリ乳酸フィルムを実現している。
一方、樹脂組成物(I)を用いて最外層(A)を単層で製膜すると、ブリード防止性、ブロッキング防止性に優れるものの、タック性がなく、自己粘着性プロテクトフィルムへの適用が難しい。
樹脂組成物(II)を用いて最外層(B)を単層で製膜すると、優れたタック性を有するものの、最外層(B)のみでは、両面にタック性が生ずるために扱いにくく、ブロッキング防止性にも劣るため、自己粘着性プロテクトフィルムとしては機能しにくい。
【0025】
本発明のポリ乳酸フィルムは、可塑剤を適度に配合しているので柔軟性が良好であり、透明性も保持している。ゆえに、本発明のポリ乳酸フィルムは、自己粘着性プロテクトフィルムなどに好適に用いることができる。
また、本発明のポリ乳酸フィルムは、最外層(A)および最外層(B)ともにポリ乳酸系樹脂を主成分とした生分解性プラスチックであるため、使用後の廃棄における地球環境に対しての負荷を低減することができる。
本発明のポリ乳酸フィルムは、必要に応じて、最外層(A)と最外層(B)との間に、中間層を一層以上有していてもよい。中間層は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内のものであることが好ましく、生分解性を有した材料からなるものが好ましい。
【0026】
<ポリ乳酸フィルムの製造方法>
本発明のポリ乳酸フィルムの製造方法は、最外層(A)を形成する樹脂組成物(I)と、最外層(B)を形成する樹脂組成物(II)とを共押出して、最外層(A)を一方の表面に形成し、最外層(B)を他方の表面に形成した積層フィルムを成形する工程と、
最外層(A)の結晶融解熱量が3〜20J/gになるように該フィルムに結晶化処理を施す工程とを有するポリ乳酸フィルムの製造方法である。
【0027】
(樹脂組成物(I)および樹脂組成物(II)の調製)
フィルムを成形する工程に先立ち、まず、最外層(A)を形成する樹脂組成物(I)および最外層(B)を形成する樹脂組成物(II)の調製を行う。
樹脂組成物(I)は、ポリ乳酸系樹脂(a)と可塑剤と結晶核剤とを含有する。ポリ乳酸系樹脂(a)は、D体の比率が7〜20%であるポリDL乳酸(1)45〜85質量%と、D体の比率が0%を超え7%未満であるポリDL乳酸(2)またはD体の比率が0%であるポリL乳酸15〜55質量%とからなる。樹脂組成物(I)に含有される可塑剤の含有量は、ポリ乳酸系樹脂(a)100質量部あたり15〜50質量部である。
樹脂組成物(II)は、ポリ乳酸系樹脂(b)と可塑剤とを含有する。ポリ乳酸系樹脂(b)は、D体の比率が7〜20%であるポリDL乳酸(1)70〜100質量%と、D体の比率が0%を超え7%未満であるポリDL乳酸(2)またはD体の比率が0%であるポリL乳酸0〜30質量%からなる。樹脂組成物(II)に含有される可塑剤の含有量は、ポリ乳酸系樹脂(b)100質量部あたり15〜50質量部である。
なお、樹脂組成物(I)および/または樹脂組成物(II)には、前述したその他の成分を含有させてもよい。
【0028】
樹脂組成物(I)および樹脂組成物(II)の調製は、通常、混練によって行われる。混練方法としては、ペレット、粉体、固体の細片等の原料をヘンシェルミキサーまたはリボンミキサーで乾式混合し、単軸または2軸押出機、バンパリーミキサー、ニーダー、ミキシングロール等の溶融混練機に供給して溶融混練する方法が挙げられる。具体的には、まず、原料をタンブラーに入れて10分〜20分攪拌混合する。ついで、単軸または2軸押出機等により140〜210℃の温度で溶融混練を行い、樹脂組成物(I)および樹脂組成物(II)のペレットを得る。
【0029】
(積層フィルムを成形する工程)
ついで、樹脂組成物(I)および樹脂組成物(II)のペレットを、複層押出機に供給し、複層Tダイ押出成形、インフレーション成形等によって共押出して、積層フィルムに成形する。
【0030】
(積層フィルムに結晶化処理を施す工程)
ついで、この積層フィルムに結晶化処理を施し、最外層(A)の結晶融解熱量が3〜20J/gになるように、フィルム中のポリ乳酸を結晶化させる。
結晶化処理としては、フィルムを高温下に一定時間置く熱処理が挙げられる。加熱方法としては、加熱ロールによる方法、加熱炉による方法、高温の室内に置く方法、マイクロ波をフィルムに直接照射する方法等が挙げられる。いずれの場合でも、フィルム同士がブロッキングしないよう、熱処理時においてはフィルム同士が直接重ならないようにすることが好ましい。
【0031】
処理温度は、20〜100℃程度が好ましい。前記範囲内であれば、最外層(A)の結晶化の進行度合いを最外層(B)より早くでき、かつ、最外層(A)の結晶化度を本発明の範囲内とすることができる。
処理時間は、処理温度によって異なるが、最外層(A)の結晶化度が前記範囲内でありかつ最外層(B)の結晶化度が低い状態である処理時間内で処理するのが好ましい。例えば、処理温度が100℃の場合、30〜90秒程度の処理時間が目安となる。
【0032】
結晶化処理を行うことで、最外層(A)内に微細なポリ乳酸からなる結晶が均一に生じ、可塑剤等がそれら微細な結晶間に捕捉されて安定的に保持されるため、優れたブリード防止性、ブロッキング防止性を発揮できると考えられる。
このようにして得られる本発明のポリ乳酸フィルムは、フィルムの一方の表面のブリード防止性、フィルム同士のブロッキング防止性、フィルムの他方の表面のタック性に優れ、かつ良好な柔軟性、透明性を有しているので、自己粘着性プロテクトフィルムとして好適に用いることができる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例を示す。なお、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
実施例におけるフィルムのブロッキング防止性、ブリード防止性、柔軟性、タック性は、以下に示す試験方法により測定、評価した。
【0034】
〔1〕ブロッキング防止性:
長さ160mm、幅25mm、厚さ0.05mmの試験片を2枚重ねて10kgの荷重を掛けた状態で、60℃のパーフェクトオーブン中にて1週間エージングした後、2枚の試験片を剥がし、以下の基準で評価した。
○:抵抗なく剥がれる。
×:剥がすときに抵抗がある。
【0035】
〔2〕ブリード防止性:
長さ160mm、幅25mm、厚さ0.05mmの試験片を温度40℃、相対湿度90%に保った室内に3日間エージングした後、目視により以下の基準で評価した。
○:ブリードがほとんど認められない。
×:ブリードが多く認められる。
【0036】
〔3〕柔軟性:
長さ160mm、幅25mm、厚さ0.05mmの試験片を、温度を80℃に保ったパーフェクトオープン中に3日間放置した後、試験片のヤング率を測定し、以下の基準で評価した。
○:ヤング率300MPa未満。
×:ヤング率300MPa以上。
【0037】
〔4〕タック性:
JIS Z 0237に準拠し、長さ150mm、幅25mm、厚さ0.05mmの試験片の剥離強度を180°剥離試験法にて、23℃の環境下で測定し、以下の基準で評価した。
○:10cN/25mm以上。
×:10cN/25mm未満。
〔5〕透明性:
JIS K 7105に基づいて、全光線透過率および拡散透過率を求め、次式によりフィルムのヘイズ(曇り度合い)を算出し、以下の基準で評価した。
ヘイズ(%)=(拡散透過率/全光線透過率)×100
○:ヘイズ10%未満。
×:ヘイズ10%以上。
【0038】
〔6〕結晶化熱量および融解熱量:
フィルムを30℃で12時間減圧乾燥した後、4.0mg秤量して試料とした。そして、示差走査型熱量計(パーキンエルマー社製DSC7)を用い、窒素ガス流通下、20℃/分の昇温速度で−50℃から200℃まで昇温して、DSC曲線を得た。DSC曲線のチャートに現れた結晶化ピークおよび融解ピークの面積から試料1g当たりの結晶化熱量および融解熱量(J/g)を求めた。
【0039】
[実施例1〜4、 比較例1〜7]
最外層(A)に該当する樹脂組成物(I)の配合成分として、D体の比率が12%で質量平均分子量が約19万のポリDL乳酸(1)、D体の比率が1%で質量平均分子量が約19万のポリDL乳酸(2)、可塑剤としてポリグリセリン酢酸エステル系可塑剤(理研ビタミン社製「リケマールPL710」)、および結晶核剤としてトリメシン酸トリアミド化合物(新日本理化社製「TF1」)を用意した。
最外層(B)に該当する樹脂組成物(II)の配合成分として、D体の比率が12%で質量平均分子量が約19万であるポリDL乳酸(1)、および可塑剤としてポリグリセリン酢酸エステル系可塑剤(理研ビタミン社製「リケマールPL−710」)を用意した。
そして、表1に示す各実施例、および表2に示す各比較例の配合成分の配合量にしたがって、各成分を配合し、各実施例および各比較例に用いる樹脂組成物(I)、(II)を調製した。
【0040】
ついで、複層Tダイ押出機に各実施例および各比較例の樹脂組成物(I)、(II)をそれぞれ供給し、シリンダー温度200℃、ダイ温度160℃の条件で成形し、1種1層構造を有する厚さ50μmのポリ乳酸フィルムを2種(比較例1、2)、および2種2層構造を有する厚さ50μmのポリ乳酸フィルム9種(実施例1〜4、比較例3〜7)を得た。
【0041】
得られたポリ乳酸フィルムのうち、比較例3を除いた10種の各ポリ乳酸フィルム(実施例1〜4、比較例1、2、4、5、6、7)を表面温度100℃に調節したホットプレートに60秒間静置して、ポリ乳酸フィルムに結晶化処理を施し、ポリ乳酸系樹脂の結晶化を促進した。なお、結晶化処理に際しては、ポリ乳酸フィルム同士が接触しないよう、ポリ乳酸フィルム間に薄紙を挟んで処理した。
このように結晶化処理した10種のポリ乳酸フィルム、および未処理の比較例3のポリ乳酸フィルム(比較例3)の計11種の各ポリ乳酸フィルムについて、ブロッキング防止性、ブリード防止性、柔軟性、透明性、およびタック性の各評価試験を行った。評価結果を表1および表2に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
表2に示すとおり、最外層(A)に該当する1種1層構造のみとした比較例1は、タック性に劣っていた。
比較例2は、最外層(B)に該当する1種1層構造のみとした例であるが、ブロッキング防止性に劣っていた。
比較例3は、樹脂組成物(I)中のポリDL乳酸(1)およびポリDL乳酸(2)の配合量を本発明の範囲外とし、かつ、結晶化処理を施さなかった例であるが、ブロッキング防止性に劣っていた。
【0045】
比較例4は、結晶核剤を除き実施例2と同じ組成の例であるが、ブロッキング防止性に劣っていた。
比較例5は、樹脂組成物(I)に配合されたポリDL乳酸(1)およびポリDL乳酸(2)の配合量を、それぞれ本発明の範囲外とした例であるが、ブリード防止性、透明性に劣っていた。
比較例6は、樹脂組成物(II)に配合されたポリDL乳酸(1)およびポリDL乳酸(2)の配合量を、それぞれ本発明の範囲外とした例であるが、タック性に劣っていた。
比較例7は、樹脂組成物(I)および樹脂組成物(II)に対して、可塑剤を本発明の範囲未満で配合した例であるが、柔軟性、タック性に劣っていた。
【0046】
これに対し、実施例1〜4は、表1に示すとおり、ブロッキング防止性、ブリード防止性、柔軟性、タック性および透明性のいずれにおいても良好な結果を示した。本発明のポリ乳酸フィルムを用いれば、優れたブロッキング防止性、ブリード防止性、タック性および透明性を有し、かつ柔軟性の良好な自己粘着性プロテクトフィルムを得られることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明のポリ乳酸フィルムは、自動車、家電製品、家具などといった製品の表面を保護するための自己粘着性プロテクトフィルムとして好適に用いられる。また、本発明のポリ乳酸フィルムは、ポリ乳酸系樹脂を主成分とした生分解性プラスチックであるため、使用後の廃棄による地球環境に対する負荷を低減できる。さらに、本発明のポリ乳酸フィルムは、その使用目的により、他のフィルムと複合化して使用することも可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の表面に形成された最外層(A)と、他方の表面に形成された最外層(B)とを有するポリ乳酸フィルムであって、
最外層(A)が、ポリ乳酸系樹脂(a)と可塑剤と結晶核剤とを含有する樹脂組成物(I)からなり、最外層(A)の結晶融解熱量が3〜20J/gであり、
ポリ乳酸系樹脂(a)が、D体の比率が7〜20%であるポリDL乳酸(1)45〜85質量%と、D体の比率が0%を超え7%未満であるポリDL乳酸(2)またはD体の比率が0%であるポリL乳酸15〜55質量%とからなり、
可塑剤の含有量が、ポリ乳酸系樹脂(a)100質量部あたり15〜50質量部であり、
最外層(B)が、ポリ乳酸系樹脂(b)と可塑剤とを含有する樹脂組成物(II)からなり、
ポリ乳酸系樹脂(b)が、D体の比率が7〜20%であるポリDL乳酸(1)70〜100質量%と、D体の比率が0%を超え7%未満であるポリDL乳酸(2)またはD体の比率が0%であるポリL乳酸0〜30質量%からなり、
可塑剤の含有量が、ポリ乳酸系樹脂(b)100質量部あたり15〜50質量部であること
を特徴とするポリ乳酸フィルム。
【請求項2】
少なくとも一方の表面の、JIS Z 0237に準拠して測定した180°剥離強度が10〜300cN/25mmであることを特徴とする請求項1に記載のポリ乳酸フィルム。
【請求項3】
最外層(A)を形成する樹脂組成物(I)と、最外層(B)を形成する樹脂組成物(II)とを共押出して、最外層(A)を一方の表面に形成し、最外層(B)を他方の表面に形成した積層フィルムを成形する工程と、
最外層(A)の結晶融解熱量が3〜20J/gになるように該積層フィルムに結晶化処理を施す工程と
を有するポリ乳酸フィルムの製造方法であって、
樹脂組成物(I)が、ポリ乳酸系樹脂(a)と可塑剤と結晶核剤とを含有し、
ポリ乳酸系樹脂(a)が、D体の比率が7〜20%であるポリDL乳酸(1)45〜85質量%と、D体の比率が0%を超え7%未満であるポリDL乳酸(2)またはD体の比率が0%であるポリL乳酸15〜55質量%とからなり、
可塑剤の含有量が、ポリ乳酸系樹脂(a)100質量部あたり15〜50質量部であり、
樹脂組成物(II)が、ポリ乳酸系樹脂(b)と可塑剤とを含有し、
ポリ乳酸系樹脂(b)が、D体の比率が7〜20%であるポリDL乳酸(1)70〜100質量%と、D体の比率が0%を超え7%未満であるポリDL乳酸(2)またはD体の比率が0%であるポリL乳酸0〜30質量%からなり、
可塑剤の含有量が、ポリ乳酸系樹脂(b)100質量部あたり15〜50質量部であること
を特徴とするポリ乳酸フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2010−64301(P2010−64301A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−230995(P2008−230995)
【出願日】平成20年9月9日(2008.9.9)
【出願人】(000106726)シーアイ化成株式会社 (267)
【Fターム(参考)】