説明

ポンプ吐出流量学習制御処理装置及び蓄圧式燃料噴射制御装置

【課題】高圧ポンプの吐出流量特性の変化を短期間で学習して、要求される高圧ポンプの吐出流量と実際の吐出流量とのずれを小さく維持できるようにするポンプ吐出流量学習制御処理装置及び蓄圧式燃料噴射制御装置を提供する。
【解決手段】燃料無噴射状態が検出されたときに高圧調量弁による燃料の排出流量を所定の学習流量に設定するとともに、燃料の排出流量が学習流量に設定された状態でコモンレールの圧力が所定圧となるように低圧調量弁の操作量を調節し、コモンレールの圧力が所定圧となったときの高圧ポンプの吐出流量を学習流量として推定するとともに、そのときの低圧調量弁の操作量を学習し、学習された低圧調量弁の操作量と学習流量との関係に基づいて吐出流量特性を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧ポンプの吐出流量の学習制御を実施するためのポンプ吐出流量学習制御処理装置、及びそのようなポンプ吐出流量学習制御処理装置を備えた蓄圧式燃料噴射制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ディーゼルエンジン等の内燃機関への燃料噴射制御に用いられる装置として、蓄圧式燃料噴射制御装置が広く用いられている。この蓄圧式燃料噴射制御装置は、主として、燃料タンク内の燃料を高圧ポンプに供給する低圧フィードポンプと、低圧フィードポンプにより供給された燃料を加圧して圧送する高圧ポンプと、高圧ポンプにより圧送された燃料を蓄積するコモンレールと、コモンレールから供給された燃料を内燃機関の気筒へ噴射供給する複数の燃料噴射弁と、燃料噴射制御を実行する電子制御処理装置(ECU:Electronic Control Unit)とを備えている。
【0003】
このような蓄圧式燃料噴射制御装置において、コモンレールの圧力(以下「レール圧」と称する。)は燃料噴射圧力に直接的に関連する要素であるために、内燃機関での燃焼性を良好なものとするためにはレール圧を精度よく制御することが重要となっている。このレール圧の制御は、高圧ポンプからコモンレールに向けて圧送される燃料の流量を調節したり(低圧流量制御)、コモンレールから低圧側に戻す燃料の流量を調節したり(高圧流量制御)、さらにはこれらの流量制御を併用したり(低圧高圧同時制御)することによって行われる。
【0004】
ここで、高圧ポンプからコモンレールに向けて圧送される燃料の流量は、高圧ポンプの加圧室に供給される燃料の流量を調節するために設けられた低圧調量弁を制御することによって調節される。この低圧調量弁としては、通電量に応じてピストンの位置が変化することにより燃料の通過面積が比例的に変化する構造を有する電磁式比例制御弁が採用され、高圧ポンプに取り付けられているのが一般的である。
【0005】
このような低圧調量弁の通電量は、ECUにおいて演算によって算出される高圧ポンプの吐出流量の要求値に応じて決定される。このとき、高圧ポンプの吐出流量の要求値に対応する低圧調量弁の通電量は、ECUにあらかじめ記憶された基本吐出流量特性に基づいて算出されるようになっている。この基本吐出流量特性は、例えば、量産される高圧ポンプのうちの吐出流量特性が中央値を示す高圧ポンプを用いたときの、ポンプ回転数(内燃機関の回転数)と、低圧調量弁の通電量と、高圧ポンプの吐出流量との関係をデータ化したものでものである。
【0006】
しかしながら、低圧調量弁の電気的特性を均一にすることの困難性や、ピストンに設けるスリットの位置のばらつきや形状の違いに起因して、蓄圧式燃料噴射制御装置に備えられるそれぞれの高圧ポンプの吐出流量特性はばらつきを有している。また、高圧ポンプの吐出流量特性は、経時劣化によっても変化するおそれがある。そのため、実際に用いられる高圧ポンプの吐出流量特性は、ECUに記憶される基本吐出流量特性に必ずしも一致していない。
【0007】
低圧流量制御、あるいは、低圧高圧同時制御によってレール圧の制御を実施する場合には、低圧調量弁の通電量を変化させてからコモンレールへ流れ込む燃料の流量が変化するまでに時間差が生じるために、コモンレールから低圧側に戻す燃料の流量を直接調節する高圧流量制御に比べて、応答性が低下しやすくなっている。そのため、高圧ポンプの吐出流量特性のばらつきに起因して、演算によって算出される高圧ポンプの吐出流量の要求値と実際の吐出流量との間にずれが生じると、レール圧のオーバーシュートあるいはアンダーシュートが生じるなどして制御性が低下しやすくなる。
【0008】
そこで、高圧ポンプの基準となる吐出特性に対する実際の吐出特性のずれ量を補償する学習値をより高精度とするようにした燃料噴射制御装置が開示されている。具体的には、レール圧と目標レール圧との差圧に基づき算出される指令吐出量から要求される駆動電流値が算出されると、学習記憶部が、高圧ポンプの吐出特性のばらつきを補償する学習値と指令吐出量との関係を定める関係式を記憶保持し、さらに、加算部が、駆動電流換算部の出力と学習記憶部の出力とを加算して、高圧ポンプの駆動電流値(低圧調量弁の通電量)を算出するように構成された燃料噴射制御装置が提案されている(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−146657号公報 (全文、全図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載された燃料噴射制御装置は、コモンレールから低圧側に燃料を排出するための高圧調量弁を備えていない装置を対象とするものであるとともに、学習値の取得を、ギアチェンジ時又はアイドル安定化制御時である内燃機関の無負荷運転状態中や、内燃機関の安定運転状態中に実行するようになっている。そのために、特許文献1の装置は、学習制御時において、高圧ポンプの吐出流量を自由に選択することができないものとなっている。
【0011】
すなわち、特許文献1に記載された燃料噴射制御装置において、クランク軸の回転速度や、燃料指示噴射量、レール圧が一定となる無負荷運転状態中に学習制御を実行しようとした場合には、無負荷運転状態になったときに高圧ポンプの吐出流量を自由に設定しようとすると、高圧調量弁を備えていないために、レール圧を変化させてしまうか、あるいは、燃料指示噴射量を変更させる必要が生じ、無噴射運転状態を維持することができなくなる。
【0012】
また、特許文献1に記載された蓄圧式燃料噴射制御装置において、高圧ポンプからコモンレールへ圧送される燃料流量とコモンレールから燃料噴射弁を介して流出する燃料流量とが一致する定常状態となる安定運転状態中に学習制御を実行しようとした場合には、安定運転状態になったときに高圧ポンプの吐出流量を自由に設定しようとすると、高圧調量弁を備えていないために、燃料指示噴射量やレール圧を変更させる必要が生じ、安定運転状態を維持することができなくなる。
【0013】
したがって、特許文献1に記載された燃料噴射制御装置では、無噴射運転状態あるいは安定運転状態になったときの条件で学習制御を実行せざるを得ず、補正に用いる関係式を作成するために必要な、吐出流量が異なる複数の仮学習値が得られるまでに比較的長時間を要するおそれがあった。なお、特許文献1に記載の燃料噴射制御装置による学習制御は、低圧調量弁だけでなく高圧調量弁をも備えた蓄圧式燃料噴射制御装置であっても、高圧調量弁を全閉状態で維持することで実行することができるが、吐出流量の異なる複数の仮学習値が得られるまでに比較的長時間を要するおそれがあることに変わりはない。
【0014】
本発明の発明者は、このような問題にかんがみて、低圧調量弁及び高圧調量弁をともに備えた蓄圧式燃料噴射制御装置における高圧ポンプの吐出流量特性を学習するにあたり、燃料無噴射状態中に所定の学習制御を実行することによりこのような問題を解決できることを見出し、本発明を完成させたものである。したがって、本発明は、高圧ポンプの吐出流量特性の変化を短期間で学習して、要求される高圧ポンプの吐出流量と実際の吐出流量とのずれを小さく維持できるようにするポンプ吐出流量学習制御処理装置及び蓄圧式燃料噴射制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明によれば、内燃機関の気筒ごとに設けられる複数の燃料噴射弁と、複数の燃料噴射弁が接続されたコモンレールと、内燃機関の駆動力によって駆動されコモンレールに対して燃料を圧送する高圧ポンプと、高圧ポンプの吐出流量を調節することでコモンレールの圧力を制御する低圧調量弁と、コモンレールから低圧側への燃料の排出流量を調節することでコモンレールの圧力を制御する高圧調量弁と、を備えた蓄圧式燃料噴射制御装置における低圧調量弁の操作量に対する高圧ポンプの吐出流量の学習制御を実行するポンプ吐出流量学習制御処理装置において、内燃機関の回転数と低圧調量弁の操作量と高圧ポンプの吐出流量との関係を示す吐出流量特性が記憶された記憶手段と、内燃機関の運転中における燃料無噴射状態を検出する無噴射状態検出手段と、燃料無噴射状態が検出されたときに高圧調量弁による燃料の排出流量を所定の学習流量に設定するとともに、燃料の排出流量が学習流量に設定された状態でコモンレールの圧力が所定圧となるように低圧調量弁の操作量を調節し、コモンレールの圧力が所定圧となったときの高圧ポンプの吐出流量を学習流量として推定するとともに、そのときの低圧調量弁の操作量を学習する吐出流量特性学習制御手段と、学習された低圧調量弁の操作量と学習流量との関係に基づいて吐出流量特性を補正する補正手段と、を備えることを特徴とするポンプ吐出流量学習制御処理装置が提供され、上述した問題を解決することができる。
【0016】
すなわち、本発明のポンプ吐出流量学習制御処理装置によれば、内燃機関の燃料無噴射状態中に所定の学習制御が実行されるようになる。この学習制御は、高圧ポンプからコモンレールへ圧送される燃料の流量と、コモンレールから低圧側に排出する燃料の流量とが一致する状態で、燃料の排出流量を吐出流量に見立てて高圧ポンプの吐出流量特性を学習するものであり、高圧ポンプの吐出流量を自由に設定することが可能となっている。したがって、吐出流量の異なる複数点での学習データを短期間で取得することが可能になり、補正の頻度を増やすことができるために、要求される吐出流量と実際の吐出流量との間のずれを小さく維持することができるようになる。
【0017】
また、本発明のポンプ吐出流量学習制御処理装置を構成するにあたり、吐出流量特性学習制御手段は、燃料無噴射状態の継続中に、設定する学習流量を変更して複数点での学習データを取得することが好ましい。
【0018】
本発明において、燃料無噴射状態の継続中に複数点での学習データを取得するように制御することにより、短期間でより多くの学習データを取得することが可能になり、吐出流量特性の補正を実行する頻度を増やすことができる。したがって、要求される吐出流量と実際の吐出流量との間のずれをより小さく維持することができる。
【0019】
また、本発明のポンプ吐出流量学習制御処理装置を構成するにあたり、吐出流量特性学習制御手段は、内燃機関の回転数に基づいて得られる高圧ポンプの最大吐出流量を考慮して学習流量を決定することが好ましい。
【0020】
本発明において、学習データを取得する際に設定する学習流量を、各回転数における高圧ポンプの最大吐出流量を考慮して決定することにより、有効な学習データを効率的に取得することができるようになる。
【0021】
また、本発明のポンプ吐出流量学習制御処理装置を構成するにあたり、吐出流量特性学習制御手段は、より大きな値を優先して学習流量を決定することが好ましい。
【0022】
本発明において、学習データを取得する際に設定する学習流量を、より大きな値を優先して決定することにより、設定できる機会の少ない学習流量の学習データを優先的に取得できるようになり、吐出流量特性の補正をするために必要な数の学習データをより早く取得することができるようになる。
【0023】
また、本発明のポンプ吐出流量学習制御処理装置を構成するにあたり、吐出流量特性学習制御手段は、前回の補正実行時以降、未だ取得されていない吐出流量の学習データが得られるように学習流量を決定することが好ましい。
【0024】
本発明において、学習データを取得する際に設定する学習流量を、未だ学習データが取得されていない吐出流量を選択して決定することにより、吐出流量特性の補正をするために必要な数の学習データをより早く取得することができるようになる。
【0025】
また、本発明のポンプ吐出流量学習制御処理装置を構成するにあたり、吐出流量特性が、低圧調量弁の操作量と高圧ポンプの吐出流量との関係が内燃機関の回転数に依存しない領域を有する場合には、内燃機関の回転数にかかわらず、学習流量が異なる複数点での学習データが得られたときに、補正手段が、補正を実行することが好ましい。
【0026】
本発明において、高圧ポンプの吐出流量特性が、低圧調量弁の操作量と高圧ポンプの吐出流量との関係が内燃機関の回転数に依存しない領域を有する場合に、上述のように補正を実行することにより、すべての領域の吐出流量特性を短期間で補正することができ、要求される吐出流量と実際の吐出流量との間のずれを小さく維持することが容易になる。
【0027】
また、本発明のポンプ吐出流量学習制御処理装置を構成するにあたり、吐出流量特性が、全領域において、低圧調量弁の操作量と高圧ポンプの吐出流量との関係が内燃機関の回転数に依存する場合には、内燃機関の回転数ごとに、学習流量が異なる複数点での学習データが得られたときに、補正手段が、対応する回転数の吐出流量特性の補正を実行することが好ましい。
【0028】
本発明において、高圧ポンプの吐出流量特性が、全領域において、低圧調量弁の操作量と高圧ポンプの吐出流量との関係が内燃機関の回転数に依存する場合に、上述のように補正を実行することにより、内燃機関の回転数ごとに、吐出流量特性を短期間で補正することができ、要求される吐出流量と実際の吐出流量との間のずれを小さく維持することが容易になる。
【0029】
また、本発明の別の態様は、上述したいずれかのポンプ吐出流量学習制御処理装置を備えた蓄圧式燃料噴射制御装置である。
【0030】
本発明の蓄圧式燃料噴射制御装置によれば、要求される高圧ポンプの吐出流量と実際の吐出流量との間のずれが小さく維持できるようになっているために、レール圧制御をより精度よく実行することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】第1の実施の形態にかかるECU(ポンプ吐出流量学習制御処理装置)を備えた蓄圧式燃料噴射制御装置の全体的構成の一例を示す図である。
【図2】第1の実施の形態で用いられる高圧ポンプの吐出流量特性について説明するための図である。
【図3】吐出流量が機関回転数に依存しない領域を有する要因について説明するための図である。
【図4】吐出流量特性のずれについて説明するための図である。
【図5】第1の実施の形態にかかるECUの構成の一例を示すブロック図である。
【図6】第1の実施の形態のECUで実行される吐出流量特性の学習制御方法の一例を示すフローチャート図である。
【図7】第1の実施の形態のECUで実行される吐出流量特性学習制御の具体例を示すフローチャート図である。
【図8】学習流量の選択の手順の一例を示すフローチャート図である。
【図9】吐出流量特性の補正の手順の一例を示すフローチャート図である。
【図10】第2の実施の形態にかかるECUを備えた蓄圧式燃料噴射制御装置の全体的構成の一例を示す図である。
【図11】第2の実施の形態で用いられる高圧ポンプの吐出流量特性について説明するための図である。
【図12】吐出流量が機関回転数に依存しない領域を有しない要因について説明するための図である。
【図13】第2の実施の形態のECUで実行される吐出流量特性の学習制御方法の一例を示すフローチャート図である。
【図14】第2の実施の形態のECUで実行される吐出流量特性学習制御の具体例を示すフローチャート図である。
【図15】学習流量の選択の手順の一例を示すフローチャート図である。
【図16】吐出流量特性の補正の手順の一例を示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明のポンプ吐出流量学習制御処理装置及び蓄圧式燃料噴射制御装置に関する実施の形態について、適宜図面を参照しながら具体的に説明する。ただし、以下の実施の形態は本発明の一態様を示すものであってこの発明を限定するものではなく、実施の形態は本発明の範囲内で任意に変更することが可能である。
なお、それぞれの図中、同じ符号が付されているものは同一の要素を示しており、適宜説明が省略されている。
【0033】
[第1の実施の形態]
本発明の第1の実施の形態は、低圧調量弁の操作量と高圧ポンプの吐出流量との関係が内燃機関の回転数に依存しない領域を有する吐出流量特性を示す高圧ポンプを用いた蓄圧式燃料噴射制御装置、及びそのような蓄圧式燃料噴射制御装置に適用されるポンプ吐出流量学習制御処理装置である。
【0034】
1.蓄圧式燃料噴射制御装置の全体的構成
図1は、本実施形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置10の全体的構成の概略図を示している。この蓄圧式燃料噴射制御装置10は、燃料タンク1内の燃料を高圧ポンプ13へ供給する低圧フィードポンプ11と、低圧フィードポンプ11により供給された燃料を加圧して圧送する高圧ポンプ13と、高圧ポンプ13により圧送された燃料を蓄積するコモンレール15と、コモンレール15から供給された燃料を図示しない内燃機関の気筒へ噴射する複数の燃料噴射弁17と、レール圧制御処理やポンプ吐出流量の学習制御処理等を実行するECU50とを備えている。
【0035】
このうち高圧ポンプ13は、プランジャ29の下降時に燃料吸入弁27を介して低圧の燃料が加圧室13aに供給される一方、カム14の回転によってプランジャ29が押し上げられたときに加圧室13a内の燃料が加圧され、燃料吐出弁28を介して高圧の燃料がコモンレール15へと圧送される構成を有している。
【0036】
本実施形態の蓄圧式燃料噴射制御装置10に備えられた高圧ポンプ13は、二つのプランジャ29及び加圧室13aを備えて構成されている。本実施形態の蓄圧式燃料噴射装置10の前提となる、低圧調量弁19の操作量と高圧ポンプ13の吐出流量との関係が内燃機関の回転数(以下「機関回転数」と称する。)に依存しない領域を有する高圧ポンプ13吐出流量特性は、プランジャ29及び加圧室13aが複数備えられていることによって現れるものである。ただし、高圧ポンプ13には、プランジャ29及び加圧室13aが三つ以上備えられていてもよい。
【0037】
また、この高圧ポンプ13は、内燃機関の駆動力によって駆動されるものであって、カム14が固定されたカムシャフトは内燃機関のクランクシャフトに連結されている。すなわち、高圧ポンプ13の回転数(以下「ポンプ回転数」と称する。)は、機関回転数の増減に連動して増減するものとなっている。
【0038】
また、高圧ポンプ13には、低圧調量弁19とオーバーフローバルブ21が備えられている。低圧調量弁19は、低圧フィードポンプ11と高圧ポンプ13の加圧室13aとを接続する燃料通路31の途中に配置されており、加圧室13aに供給する低圧の燃料の流量を調節するために用いられる。また、オーバーフローバルブ21は、低圧調量弁19よりもさらに上流側の燃料通路31に接続されたリターン通路37に配置されており、余剰の燃料を燃料タンク1へと戻すようになっている。
【0039】
また、コモンレール15には圧力センサ25が設けられるとともに、高圧調量弁23が備えられたリターン通路38が接続されている。この高圧調量弁23は、コモンレール15から燃料タンク1へと戻す高圧の燃料の流量を調節するために用いられる。さらに、燃料噴射弁17には、噴射制御に利用された背圧燃料(動的リーク)を燃料タンク1へと戻すリターン通路39が接続されている。
【0040】
低圧調量弁19及び高圧調量弁23は、ECU50によって通電制御が行われるようになっており、通電量(操作量)に応じて燃料通過面積が比例的に変化し、通過する燃料の流量が調節されるようになっている。この蓄圧式燃料噴射制御装置10においては、低圧調量弁19又は高圧調量弁23を用いて、あるいはこれらの調量弁を併用して、圧力センサ25によって検出される実レール圧Pactが目標レール圧Ptgtとなるように制御が行われるようになっている。レール圧の制御を低圧調量弁19を用いて行うか、高圧調量弁23を用いて行うか、あるいはこれらの調量弁を併用して行うかは、主として内燃機関の運転状態に応じて切り分けられている。
【0041】
なお、本実施形態の蓄圧式燃料噴射制御装置10に備えられた燃料噴射弁17は、動的リーク以外に、微細な隙間から漏れ出すリーク(静的リーク)が生じないか、あるいは、ポンプ吐出流量との関係で無視し得る程度の極めて少量のリークしか生じない構造となっている。
【0042】
2.吐出流量特性
次に、図2及び図3を参照して、本実施形態の蓄圧式燃料噴射制御装置10で用いられる高圧ポンプ13の吐出流量特性について説明する。
【0043】
図2は、低圧調量弁19の通電量Icurrと高圧ポンプ13の吐出流量F(体積/時間)との関係を、機関回転数N1〜N5ごとに示したものである。ここでは、通電量Icurrが大きいほど、低圧調量弁19の燃料通過面積が小さくなる、いわゆるノーマルオープン型の低圧調量弁19を用いた場合の吐出流量特性が示されている。
【0044】
吐出流量特性のうちの領域Aにおいては、高圧ポンプ13の吐出流量Fが通電量Icurrに依存していない。これは、領域Aにおいては、各機関回転数N1〜N5における高圧ポンプ13の最大吐出流量Fmaxに対して燃料通過面積が十分に確保された状態となっており、通電量Icurrを変更しても低圧調量弁19を通過する燃料の流量が変わらないからである。また、領域Aにおいては、機関回転数N1〜N5が大きいほど吐出流量Fが増大している。これは、機関回転数N1〜N5が大きいほど圧送回数が多くなるからである。
【0045】
また、吐出流量特性のうちの領域Bにおいては、すべての機関回転数N1〜N5で高圧ポンプ13の吐出流量Fが通電量Icurrに依存している。これは、領域Bにおいては、高圧ポンプ13の吐出流量Fに対して低圧調量弁19のスリットがオリフィスとして作用することになるからであり、通電量Icurrが大きくなるほど燃料通過面積が小さくなるため、吐出流量Fは減少している。ただし、領域Bにおいては、最大吐出流量Fmaxが機関回転数N1〜N5に応じて制限されることを除けば、吐出流量Fは機関回転数N1〜N5に依存しない。これは、本実施形態において用いられる高圧ポンプ13は、機関回転数Nにかかわらず低圧調量弁19の上流側の圧力と下流側の圧力との差圧が大きく変動することがないからである。
【0046】
領域Bにおいて、吐出流量Fが機関回転数N1〜N5に依存しないことに関してより具体的に説明する。
【0047】
図3は、低圧流量弁19の通電量Icurrを図2の領域Bの範囲の値に固定したときの、高圧ポンプ13のカムアングル(度)の変化に伴う、プランジャ29のリフト量と、各加圧室13aへの燃料吸入量/各加圧室13aからの燃料吐出量と、各加圧室13aにおける燃料吸入工程/加圧工程の変化とを示したものである。
【0048】
高圧ポンプ13が二つの加圧室13aを有して構成されている場合には、高圧ポンプ13の駆動状態において、常にいずれかの加圧室13aに燃料が吸入される状態となっている。また、それぞれの加圧室13aでの燃料吸入工程は、機関回転数N(ポンプ回転数)が大きくなるにつれて期間が長くなるものであるが、常にいずれかの加圧室13aに燃料が吸入される状態となっている場合には、低圧調量弁19における燃料の通過面積が一定である限り、燃料吸入工程の長さにかかわらず低圧調量弁19を通過する燃料の流量が大きく変動することはない。
【0049】
また、高圧ポンプ13の駆動状態において、常にいずれかの加圧室13aに燃料が吸入される状態である場合には、低圧調量弁19の下流側の圧力変動が小さく抑えられる。下流側の圧力変動が小さく抑えられ、低圧調量弁19を通過する燃料の流量が大きく変動しないことから、低圧調量弁19の上流側の圧力変動も小さく抑えられる。そのため、機関回転数N(ポンプ回転数)にかかわらず、低圧調量弁19の上流側の圧力と下流側の圧力との差圧がほぼ一定に維持されることになる。
【0050】
したがって、低圧調量弁19の燃料通過面積が通電量Icurrに応じて変動する領域Bについては、最大吐出流量Fmaxが制限されることを除けば、機関回転数N(ポンプ回転数)にかかわらず低圧調量弁19の上流側の圧力と下流側の圧力との差圧が一定となり、吐出流量Fは通電量Icurrにのみ依存することになる。
【0051】
ここで、一般的に、高圧ポンプ13を製造するにあたり、燃料リークが発生するプランジャ29の摺動部分のクリアランスについては厳しく製造管理がなされている。そのため、吐出流量Fが低圧調量弁19の通電量Icurrに依存することなく機関回転数Nにのみ依存する領域Aにおいては、吐出流量特性が大きくずれる可能性は低くなっている。一方で、低圧調量弁19については、電気的特性を一定にすることが困難であったり、ピストンに設けられる燃料通過孔となるスリットの位置のばらつきや形状の違いが存在したりする。そのため、吐出流量Fが低圧調量弁19の通電量Icurrに依存する領域Bにおいては、吐出流量特性が大きくずれることがある。
【0052】
図4に示すように、領域Bでの吐出流量特性のずれには、傾きのずれの要素とオフセットずれの要素とがある。そのため、吐出流量特性のずれを把握して補正を実行するには、領域Bにおいて、吐出流量Fが異なる少なくとも二点での通電量Icurrに対する吐出流量Fを学習する必要がある。
【0053】
3.ECU(ポンプ吐出流量学習制御処理装置)
次に、本実施形態においてポンプ吐出流量学習制御処理装置として機能するECU50の具体的構成について説明する。
【0054】
図5は、ECU50の構成のうちのレール圧制御及び吐出流量学習制御に関連する部分を機能的なブロックで表したものである。このECU50は、公知のマイクロコンピュータを中心に構成されたものであり、目標噴射量演算手段51と、目標レール圧演算手段53と、レール圧制御手段55と、無噴射状態検出手段59と、吐出流量特性学習制御手段61と、補正手段63とを主たる要素として備えている。具体的に、これらの各手段は、マイクロコンピュータによるプログラムの実行によって実現されるものとなっている。
【0055】
また、ECU50には、RAMやROM、EEPRAM、EEPROM等の記憶素子からなる記憶手段65や、低圧調量弁19や高圧調量弁23への通電を行うための図示しない駆動回路、燃料噴射弁17を駆動するための図示しない駆動回路等が備えられている。さらに、ECU50には、圧力センサ25の検出信号が入力される他、機関回転数Nやアクセル開度Acc、車速V、燃料温度Tfなどの各種の情報が入力されるようになっている。
【0056】
記憶手段65には、制御プログラムや種々のマップ情報があらかじめ記憶され、あるいは、上記した各手段による演算結果等が書き込まれるようになっている。特に、記憶手段65には、低圧調量弁19の通電量Icurrの算出に用いられる基本吐出流量特性の情報M1や、高圧調量弁23の通電量Icurrの算出に用いられる基本排出流量特性の情報M2があらかじめ記憶されている。
【0057】
基本吐出流量特性の情報M1は、量産される高圧ポンプ13のうちの基準品となる高圧ポンプ(以下「基準ポンプ」と称する。)を用いて、機関回転数(ポンプ回転数)Nと、低圧調量弁19の通電量(操作量)Icurrと、高圧ポンプ13の吐出流量Fとの関係をあらかじめ求めてデータ化したものである。基準ポンプとしては、例えば、吐出流量特性が中央値を示すポンプが用いられる。この基本吐出流量特性の情報M1に基づき、要求される高圧ポンプ13の吐出流量Ftgtと機関回転数Nとから低圧調量弁19の通電量Icurrが求められる。
【0058】
また、基本排出流量特性の情報M2は、量産される高圧調量弁23のうちの基準品となる高圧調量弁(以下「基準高圧調量弁」と称する。)を用いて、レール圧と、高圧調量弁23の通電量Icurrと、燃料排出流量Fとの関係をあらかじめ求めたものである。基準高圧調量弁としては、例えば、排出流量特性が中央値を示す高圧調量弁が用いられる。この基本排出流量特性の情報M2に基づき、要求される燃料排出流量Ftgtと実レール圧Pactとから高圧調量弁23の通電量Icurrが求められる。
【0059】
目標噴射量演算手段51は、記憶手段65にあらかじめ記憶されている噴射量マップを参照して、機関回転数N及びアクセル開度Acc等の内燃機関の運転状態に関連する情報に基づき、内燃機関の気筒に噴射すべき燃料の目標噴射量Qを算出する。噴射量マップは従来公知のものであるために、ここでの説明を省略する。
【0060】
目標レール圧演算手段53は、記憶手段65にあらかじめ記憶されたレール圧マップを参照して、機関回転数Nと、目標噴射量演算手段51で算出された目標噴射量Qとに基づき、目標レール圧Ptgtを算出する。レール圧マップについても従来公知のものであるために、ここでの説明を省略する。
【0061】
レール圧制御手段55は、例えば、目標レール圧Ptgtと現在の実レール圧Pactとの偏差ΔP等に基づき、低圧調量弁19又は高圧調量弁23を用いて、あるいはこれらの調量弁を併用して、レール圧制御を実行する。このレール圧制御手段55は、低圧調量弁駆動制御手段56及び高圧調量弁駆動制御手段57を含んでなるものである。
【0062】
レール圧制御を低圧調量弁19を用いて実行するか(低圧流量制御)、高圧調量弁23を用いて実行するか(高圧流量制御)、あるいは、低圧調量弁19及び高圧調量弁23を併用して実行するか(低圧高圧同時制御)は、記憶手段65にあらかじめ記憶された制御モードマップに基づき、内燃機関の運転状態に応じて選択されるようになっている。ただし、制御モードマップは、低圧高圧同時制御が選択される領域を有しないものであっても構わない。
【0063】
レール圧制御を低圧流量制御によって実行する場合には、高圧調量弁23が開ループで制御される一方、低圧調量弁19が閉ループで制御されるようになっている。この低圧流量制御において、高圧調量弁23は基本的に全閉状態とされ、コモンレール15からの燃料排出は行われないため、高圧調量弁23によるレール圧制御は実質的に行われない。一方、低圧調量弁19は、目標レール圧Ptgtと実レール圧Pactとの偏差ΔP等に基づいて通電量Icurrの制御が行われる。その結果、高圧ポンプ13からコモンレール15に圧送される燃料の流量が調節されて、レール圧が調節される。
【0064】
また、レール圧制御を高圧流量制御によって実行する場合には、低圧調量弁19が開ループで制御される一方、高圧調量弁23が閉ループで制御されるようになっている。低圧調量弁19の燃料通過面積は、最大にされるか、あるいは、機関回転数N等に応じて定められており、高圧ポンプ13からコモンレール15に圧送される燃料の流量は定量化されている。このときにコモンレール15に圧送される燃料の流量は、目標レール圧Ptgtを達成するために必要な流量以上となるように定められている。そして、高圧調量弁23は、目標レール圧Ptgtと実レール圧Pactとの偏差ΔP等に基づいて通電量Icurrの制御が行われる。その結果、コモンレール15からの燃料排出流量が調節されて、レール圧が調節される。
【0065】
また、レール圧制御を低圧高圧同時制御によって実行する場合には、低圧調量弁19及び高圧調量弁23がともに閉ループで制御されるようになっている。この低圧高圧同時制御においては、低圧調量弁19の通電量Icurr及び高圧調量弁23の通電量Icurrが、それぞれ目標レール圧Ptgtと実レール圧Pactとの偏差ΔP等に基づいて制御され、高圧ポンプ13からコモンレール15に圧送される燃料の流量及びコモンレール15から排出される燃料の流量がともに調節されてレール圧が制御される。
【0066】
具体的に、レール圧制御手段55を構成する低圧調量弁駆動制御手段56は、低圧流量制御又は低圧高圧同時制御によってレール圧制御が実行される場合において、機関回転数Nや目標噴射量Q、目標レール圧Ptgtと実レール圧Pactとの偏差ΔP等に基づいて要求吐出流量Ftgtを算出するとともに、基本吐出流量特性の情報M1を参照して、低圧調量弁19の通電量Icurrを求める。低圧調量弁駆動制御手段56は、求められた通電量Icurrにしたがって低圧調量弁19の駆動回路に対して通電の指示を出力する。
【0067】
また、レール圧制御手段55を構成する高圧調量弁駆動制御手段57は、高圧流量制御又は低圧高圧同時制御によってレール圧制御が実行される場合において、機関回転数Nや目標噴射量Q、目標レール圧Ptgtと実レール圧Pactとの偏差ΔP等に基づいて要求排出流量Ftgtを算出するとともに、基本排出流量特性の情報M2を参照して、高圧調量弁23の通電量Icurrを求める。高圧調量弁駆動制御手段57は、求められた通電量Icurrにしたがって高圧調量弁23の駆動回路に対して通電の指示を出力する。
【0068】
無噴射状態検出手段59は、内燃機関への燃料噴射量がゼロとなる状態を検出する。具体的に、本実施形態において、無噴射状態検出手段59は、目標噴射量演算手段53で算出される目標噴射量Qがゼロとなる状態を検出するようになっている。このような燃料無噴射状態は、主に、アクセルが踏み込まれた状態から短時間のうちに、アクセル操作量Accがゼロに戻されたときに生じるようになっている。
【0069】
吐出流量特性学習制御手段61は、無噴射状態検出手段59によって燃料無噴射状態が検出されている間に、現在の高圧ポンプ13の吐出流量特性を学習する制御を実行する。
具体的には、吐出流量特性学習制御手段61は、燃料無噴射状態になると、高圧調量弁23による燃料の排出流量Fを所定の学習流量Fstdに設定するとともに、燃料の排出流量Fが学習流量Fstdに設定された状態で実レール圧Pactが所定の学習レール圧Pstdとなるように低圧調量弁19の通電量Icurrを調節する。
【0070】
この学習制御は燃料無噴射状態で実行されるものであり、学習レール圧Pstdの値は適宜設定することができる。好ましくは、基本吐出流量特性を求めたときの圧力値がよい。そして、吐出流量特性学習制御手段61は、実レール圧Pactが学習レール圧Pstdとなったときの低圧調量弁19の通電量Icurrを、低圧調量弁19を通過する燃料の流量が学習流量Fstdとなる通電量Istdとして記憶手段65に記憶させる。
【0071】
上述したように、吐出流量特性のずれを把握して補正を実行するには、領域Bにおいて、吐出流量Fが異なる少なくとも二点での通電量Icurrに対する吐出流量Fを学習する必要がある。したがって、吐出流量特性学習制御手段61は、低圧調量弁19の吐出流量特性のうちの領域B内の吐出流量Fの中から学習流量Fstdを選択して、学習制御時に設定する高圧調量弁23の排出流量Fとして指示を出力するようになっている。また、吐出流量特性学習制御手段61は、異なる複数の学習流量Fstd_1〜Fstd_nに対応するそれぞれの通電量Istd_1〜Istd_nを得るように構成されている。
【0072】
本実施形態においては、選択可能な学習流量Fstdの値が所定間隔おきに設定されている。具体的に言えば、例えば、領域B内の吐出流量Fが0〜100L/hの範囲となっている場合には、選択可能な学習流量Fstdが、5,15,25,35,45,55,65,75,85,95(L/h)に設定されている。
【0073】
ここで、本実施形態において、吐出流量特性学習制御手段61は、燃料無噴射状態が継続している間に、設定する学習流量Fstdの値を変更して複数点での学習データを取得するようになっている。具体的には、吐出流量特性学習制御手段61は、最初に設定した学習流量Fstd_1に対応する通電量Istd_1を得ると、今度は学習流量Fstdを変更して、学習流量Fstd_2に対応する通電量Istd_2を得る。そして、燃料無噴射状態が継続している限り、あらかじめ決められた数の学習データが得られるまで学習流量Fstdを順次変更するようになっている。
【0074】
ただし、あらかじめ決められた数の学習データが得られる以前に燃料無噴射状態が終了した場合には、次回の燃料無噴射状態において、学習データの取得が続行されるようになっている。このときには、前回の補正実行時以降に学習データが取得された学習流量Fstdを参照して、未だ学習データが取得されていない吐出流量Fの値が学習流量Fstdとして選択されて設定される。
【0075】
また、現在の機関回転数Nでは実現され得ない吐出流量Fの値が学習流量Fstdとして設定されると、そのときの燃料無噴射状態中において学習データが取得できなくなって、吐出流量特性の補正の実行時期が遅れてしまうおそれがある。そのために、本実施形態において、設定される学習流量Fstdの値は、学習流量Fstdを設定する際の機関回転数Nから想定される最大吐出流量Fmaxを考慮して、実現し得る吐出流量Fの範囲内から選択されるようになっている。
【0076】
例えば、上述したように、選択可能な学習流量Fstdの値が、5,15,・・・95(L/h)として設定されている場合に、機関回転数Nから想定される最大吐出流量Fmaxが40L/hである場合には、5,15,25,35(L/h)の中から学習流量Fstdが選択されるようになっている。
【0077】
さらに、学習流量Fstdの値が小さいほど、実現可能な機関回転数Nの範囲が広くなり、学習データを取得する機会が多くなることから、本実施形態では、実現し得る吐出流量Fのうち、学習データを取得する機会が少ない、より大きな値を優先して学習流量Fstdが設定されるようになっている。
【0078】
このようにして、吐出流量特性の補正の実行に必要な数の学習データが取得されるまで、学習制御が繰り返し実行される。補正の実行に必要な学習データの数は、少なくとも二点以上となっていればよいが、現在の高圧ポンプ13の吐出流量特性を正確に把握するためには、三〜四点の学習データを取得することが好ましい。また、取得される学習データにおける吐出流量Fを分散させるために、数だけでなく、それぞれの学習データにおける学習流量Fstdの範囲を決めておくことも好ましい。
【0079】
なお、学習制御実行中に機関回転数Nが変動する場合があるが、本実施形態は、低圧調量弁19の通電量Icurrと高圧ポンプ13の吐出流量Fとの関係が機関回転数Nに依存しない領域Bでの吐出流量特性を把握するものであるために、機関回転数Nの変動は学習制御には影響しない。
【0080】
補正手段63は、吐出流量特性学習制御手段61によって必要な数の学習データが取得されると、実際の高圧ポンプ13の吐出流量特性と基本吐出流量特性とのずれの特性を演算により求め、基本吐出流量特性の情報M1を補正する。例えば、取得された学習データから領域Bにおける吐出流量特性の近似線を導き出し、記憶手段65に記憶されている基本吐出流量特性との差を求めて補正を実行する。
【0081】
具体的な補正方法としては種々の態様を採用することができる。例えば、あらかじめ記憶手段65に記憶されている基本吐出流量特性の情報M1を書き換えたり、あるいは、低圧調量弁19の通電量Icurrを求める際に、基本吐出流量特性の情報M1に対して、ずれの特性に応じた係数を乗算又は除算したり、補正分を加減算したりすることができる。
【0082】
なお、ECU50には、図示しない排出流量特性学習補正手段が備えられており、高圧ポンプ13の吐出流量特性の学習制御が実行される前提として、高圧調量弁23による排出流量特性の学習制御が実行されるようになっている。排出流量特性の学習制御の具体的な方法は特に制限されるものではなく、従来公知の種々の方法を採用することができる。例えば、レール圧の安定状態において、所定の操作量(通電量)で所定時間の間、高圧調量弁23を開弁した時のレール圧の変化に基づいて実際の高圧調量弁23の排出流量特性を学習し、あらかじめ記憶された基本排出流量特性の情報M2とのずれ分を補正するようにして実施することができる。
【0083】
ただし、高圧調量弁23の基本排出流量特性と実際の排出流量特性とのずれを所定の誤差以内に維持できるものである場合には、ECU50に排出流量特性学習補正制御手段が備えられていなくてもかまわない。
【0084】
4.学習制御方法の具体例
次に、本実施形態のポンプ吐出流量学習制御処理装置としてのECU50によって実行される高圧ポンプ13の吐出流量特性の学習制御方法の一例を図6〜図9のフローチャート図に沿って説明する。このうち、図6は、学習制御方法の全体の流れを表すメインフローを示している。
【0085】
図6のフローチャート図において、ECU50は、ステップS1で高圧調量弁23の排出流量特性の学習が完了しているか否かを判別する。高圧調量弁23の排出流量特性の学習が完了していなければそのまま本ルーチンを終了してスタートに戻り、高圧調量弁23の排出流量特性の学習が完了していると判定されるまでステップS1が繰り返される。ただし、高圧調量弁23の基本排出流量特性と実際の排出流量特性とのずれを所定の誤差以内に維持できるものである場合には、ステップS1を省略することができる。
【0086】
ステップS1において、高圧調量弁23の排出流量特性の学習が完了していると判定された場合には、ステップS2に進み、ECU50は、目標燃料噴射量Qがゼロとなる燃料無噴射状態となっているか否かを判別する。このステップS2では、燃料無噴射状態が検出されるまで判別が繰り返される。ステップS2において燃料無噴射状態が検出されると、ステップS3に進み、ECU50は高圧ポンプ13の吐出流量特性の学習制御を実行する。
【0087】
図7及び図8は、吐出流量特性の学習制御の具体的なフローの一例を示している。この学習制御のフローの例では、まず、ステップS11において学習データを取得する学習流量Fstdを選択する。
【0088】
図8が、ステップS1で行われる学習流量Fstdの選択の手順の一例を示している。この例では、ステップS21で現在の機関回転数Nを読み込むとともに、ステップS22で、現在の機関回転数Nにおいて実現されうる高圧ポンプ13の最大吐出流量Fmaxを算出する。
【0089】
次いで、ECU50は、ステップS23において、前回の補正実行時以降に取得された学習データにおける学習流量Fstd_1,Fstd_2,・・・を読み込む。そして、ECU50は、ステップS24において、現在実現され得る最大吐出流量Fmax未満の値であって未だ学習データが取得されていない値の中から最大値を学習流量Fstdとして選択する。これにより、今回の学習制御で取得する学習データの学習流量Fstdが決定される。
【0090】
図7に戻り、ステップS11において学習流量Fstdが選択された後、ECU50は、ステップS12において、基本排出流量特性の情報M2に基づき、高圧調量弁23の通電量Icurrを、所定の学習レール圧Pstd下において高圧調量弁23による排出流量Fが学習流量Fstdとなる通電量Istdに設定する。
【0091】
次いで、ECU50は、ステップS13において、高圧ポンプ13の吐出流量Fが学習流量Fstdとなるように低圧調量弁19の通電量Icurrを調節する。ある学習データを得る際に最初に設定される通電量Icurrの値は、その時点において低圧調量弁19の通電量Icurrの演算に用いられている吐出流量特性において、学習流量Fstdに対応する通電量Icurrの値が選択される。
【0092】
低圧調量弁19の通電量IcurrがステップS13で設定された値になると、ECU50は、ステップS14において、圧力センサ25を用いて検出される実レール圧Pactが学習レール圧Pstdと同等の値を示しているか否かを判別する。実レール圧Pactが学習レール圧Pstdと同等の値になっていない場合には、ステップS13に戻り、実レール圧Pactが学習レール圧Pstdに近付けられるように低圧調量弁19の通電量Icurrを変更する。例えば、実レール圧Pactが学習レール圧Pstdよりも低い場合には、吐出流量Fが増大するように通電量Icurrを変更し、実レール圧Pactが学習レール圧Pstdよりも高い場合には、吐出流量Fが減少するように通電量Icurrを変更する。
【0093】
実レール圧Pactが学習レール圧Pstdと同等の値となるまでステップS13〜ステップS14が繰り返され、ステップS14においてYESと判定されたときにステップS15に進み、ECU50は、そのときの通電量Icurrの値を、学習流量Fstdに対応する通電量Istdとして記憶手段65に記憶する。これにより、ある学習流量Fstdに対応する一つの学習データが得られる。
【0094】
図6に戻り、ステップS3における吐出流量特性の学習制御が終了すると、ECU50は、ステップS4において、取得された学習データの数があらかじめ設定された規定値に到達したか否かを判別する。学習データの数が規定値に到達していなければ、ステップS2に戻り、ECU50はこれまでと同様の手順に沿ってステップS2〜ステップS4の各工程を繰り返す。一方、取得された学習データの数が規定値に到達している場合には、ステップS5に進み、ECU50は吐出流量特性の補正を行う。
【0095】
図9は、吐出流量特性の補正を行う際の手順の一例を示している。この例において、ECU50は、ステップS31において、これまでに取得された学習データに基づいて、実際の吐出流量特性と、記憶手段65に記憶されている基本吐出流量特性とのずれの特性を求める。このステップS31において、実際の吐出流量特性のオフセットずれ、あるいは、傾きのずれが把握される。
【0096】
次いで、ステップS32において、ECU50は、ステップS31で把握されたずれの特性を、低圧調量弁19の駆動制御に反映させる。すなわち、ずれの特性に応じて、あらかじめ記憶された基本吐出流量特性の情報M1を書き換えたり、あるいは基本吐出流量特性に対して加減乗除を行いながら低圧調量弁19の通電量Icurrが求められるように設定の変更をしたりする。
【0097】
そして、ECU50は、ステップS33において、記憶されている学習データを消去して、本ルーチンを終了させる。その後は、再び図6のスタートに戻って、これまでのステップを繰り返し実行する。
【0098】
以上説明したように、本実施形態のポンプ吐出流量特性学習制御装置50によれば、燃料無噴射状態が生じるごとに、高圧ポンプ13の吐出流量Fを自由に設定しながら、吐出流量Fの異なる複数の学習データを短期間で取得して、基本吐出流量特性に対する実際の吐出流量特性のずれを低圧調量弁19の駆動制御に反映させることができる。そして、高圧ポンプ13の吐出流量特性のずれが繰り返し反映されることにより、あらかじめ記憶された基本吐出流量特性と、実際の吐出流量特性とのずれを常に小さく維持することができる。その結果、低圧調量弁19を用いたレール圧制御の精度を向上させることができる。
【0099】
また、レール圧制御の精度が向上することによって、レール圧のオーバーシュートやアンダーシュートが低減するために、コモンレール15や配管等のコンポーネントの寿命を延ばすことができるようになる。
【0100】
特に、本実施形態においては、学習データを取得する際に設定する学習流量Fstdの値が、そのときの機関回転数Nによって実現され得る高圧ポンプ13の最大吐出流量Fmaxよりも小さい値であって、かつ、未だ学習データが取得されていない吐出流量Fの中からより大きい値を優先して学習流量Fstdが選択されるようになっている。したがって、吐出流量特性のずれを把握するために必要な数の学習データをより早く取得することができ、補正の頻度を増やすことができる。
【0101】
[第2の実施の形態]
本発明の第2の実施の形態は、全領域において、低圧調量弁の操作量と高圧ポンプの吐出流量との関係が内燃機関の回転数に依存する吐出流量特性を示す高圧ポンプを用いた蓄圧式燃料噴射制御装置、及びそのような蓄圧式燃料噴射制御装置に適用されるポンプ吐出流量学習制御処理装置である。
【0102】
1.蓄圧式燃料噴射制御装置の全体的構成
図10は、本実施形態にかかる蓄圧式燃料噴射制御装置110の全体的構成の概略図を示している。この蓄圧式燃料噴射制御装置110は、高圧ポンプ113が、一つの加圧室113a及び一本のプランジャ129を備えて構成されている点で、第1の実施の形態の蓄圧式燃料噴射制御装置10とは異なっている。各コンポーネントの基本的な機能は、第1の実施の形態においてすでに説明したものと同様であるために、ここでの説明を省略する。
【0103】
2.吐出流量特性
次に、図11及び図12を参照して、本実施形態の蓄圧式燃料噴射制御装置110で用いられる高圧ポンプ113の吐出流量特性について説明する。
【0104】
図11は、高圧ポンプ113の吐出流量特性を示したものであって、第1の実施の形態において説明した図2に対応するものである。この図11についても、ノーマルオープン型の低圧調量弁19を用いた場合の吐出流量特性が示されている。
【0105】
本実施形態で用いられる高圧ポンプ113においても、第1の実施の形態の高圧ポンプ13と同様、各機関回転数N1〜N5の吐出流量特性の領域Aにおいては、高圧ポンプ13の吐出流量Fが通電量Icurrに依存していない一方、機関回転数N1〜N5が大きいほど吐出流量Fが増大している。
【0106】
一方、本実施形態で用いられる高圧ポンプ113においては、各機関回転数N1〜N5の吐出流量特性の領域Cにおいて、高圧ポンプ13の吐出流量Fが通電量Icurrに依存するだけでなく、機関回転数N1〜N5にも依存している。通電量Icurrに依存するのは、低圧調量弁19のスリットがオリフィスとして作用するからであり、機関回転数N1〜N5に依存するのは、本実施形態で用いられる高圧ポンプ113は、機関回転数Nによって、低圧調量弁19の上流側の圧力と下流側の圧力との差圧が大きく変動するからである。
【0107】
領域Cにおいて、吐出流量Fが、通電量Icurrだけでなく機関回転数N1〜N5にも依存することに関してより具体的に説明する。
【0108】
図12は、低圧流量弁19の通電量Icurrを図11の領域Cの範囲の値に固定したときの、高圧ポンプ13のカムアングル(度)の変化に伴う、プランジャ129のリフト量と、各加圧室113aへの燃料吸入量/各加圧室113aからの燃料吐出量と、各加圧室113aにおける燃料吸入工程/加圧工程の変化とを示したものであって、第1の実施の形態で説明した図3に対応するものである。
【0109】
高圧ポンプ113が一つの加圧室113aを有して構成されている場合には、高圧ポンプ113の駆動状態において、低圧調量弁19のスリットの位置が一定であったとしても、加圧室113aにおける燃料吸入工程/加圧工程に応じて、燃料の流通及び停止が繰り返される。ここで、燃料吸入工程は、機関回転数Nが大きくなるにつれて期間が長くなるために、一回の燃料吸入工程当たりの吸入量が機関回転数Nが大きくなるほど増大する。
【0110】
また、加圧室113aにおける燃料吸入工程/加圧工程に応じて、燃料の流通及び停止が繰り返されることと併せて、機関回転数Nが大きくなるほど吸入量が大きくなることから、低圧調量弁19の下流側の圧力はもちろんのこと、上流側の圧力も機関回転数Nが大きくなるほど大きく変動する。そのために、機関回転数Nが大きくなるほど、低圧調量弁19の上流側の圧力と下流側の圧力との差圧が大きくなる。
【0111】
したがって、本実施形態で用いられる高圧ポンプ113において、低圧調量弁19の燃料通過面積が通電量Icurrに応じて変動する領域Bについては、最大吐出流量Fmaxが制限されることと併せて、通電量Icurrが小さくなるにつれて、また、機関回転数Nが大きくなるにつれて、吐出流量Fが増大することになる。
【0112】
3.ECU(ポンプ吐出流量学習制御処理装置)
次に、本実施形態においてポンプ吐出流量学習制御装置として機能するECU150の具体的構成について説明する。本実施形態で用いられるECU150は、基本的には、図5に示されるECU50と同様の構成を有している。ただし、吐出流量特性学習制御手段61及び補正手段63による演算処理の内容が第1の実施の形態のECU50とは異なっている。
【0113】
本実施形態において、吐出流量特性学習制御手段61は、燃料無噴射状態になると、学習流量Fstdを決定するだけでなく、そのときの機関回転数Nを読み込むとともに学習データの取得に要する時間等を考慮して、学習データを取得する機関回転数(以下「学習回転数」と称する。)Nstdを決定するようになっている。また、吐出流量特性学習制御手段61は、高圧調量弁23の通電量Icurrを、所定の学習レール圧Pstd下での高圧調量弁23の排出流量Fが学習流量Fstdとなる通電量Istdに設定した状態で、低圧調量弁19の通電量Icurrを調節する。
【0114】
そして、吐出流量特性学習制御手段61は、実レール圧Pactが所定の学習レール圧Pstdとなり、かつ、機関回転数Nが学習回転数Nstdとなったときの通電量Icurrを、当該機関回転数Nにおいて高圧ポンプ113の吐出流量Fが学習流量Fstdとなる通電量Istdとして、学習データを取得するようになっている。
【0115】
具体的には、本実施形態で用いられる高圧ポンプ113は、低圧調量弁19の通電量Icurrに応じて吐出流量Fが変動する領域Cにおいて、吐出流量Fが機関回転数Nにも依存するものであるために、第1の実施の形態で用いられる高圧ポンプ13とは異なり、学習データを取得する機関回転数(学習回転数)Nstdを決定する必要がある。
【0116】
このとき、燃料無噴射状態においては機関回転数Nが変動する場合が多いために、本実施形態のECU50では、現在の機関回転数Nを考慮して、実現可能性の高い機関回転数Nが学習回転数Nstdとして設定されるようになっている。また、学習流量Fstdは、設定された学習回転数Nstdによって実現されうる最大吐出流量Fmax以下の値の中から選択されるようになっている。これ以外の学習流量Fstdの設定のしかたや、学習レール圧Pstdの値については、第1の実施の形態のECU50と同様に構成することができる。
【0117】
そして、補正手段63は、機関回転数Nごとに、あらかじめ決められた数の学習データが取得されたときに、当該機関回転数Nの吐出流量特性を補正する。具体的な補正方法については、第1の実施の形態のECU50と同様に構成することができる。
【0118】
4.学習制御方法の具体例
次に、本実施形態のポンプ吐出流量学習制御処理装置としてのECU50によって実行される高圧ポンプ113の吐出流量特性の学習制御方法の一例について、第1の実施の形態で説明した学習制御方法と異なる点を中心に、図13〜図16のフローチャート図に沿って説明する。このうち、図13は、学習制御方法の全体の流れを表すメインフローを示している。
【0119】
図13のフローチャート図において、ECU50は、図6のステップS1及びステップS2と同様の手順に沿って、ステップS51及びステップS52の各工程を行う。そして、高圧調量弁23の排出流量特性の学習が完了し、燃料無噴射状態となっている場合にはステップS3に進み、ECU50は高圧ポンプ113の吐出流量特性の学習制御を実行する。
【0120】
図14及び図15は、本実施形態のECU50によって実行される吐出流量特性の学習制御の具体的なフローの一例を示している。この学習制御のフローの例では、まず、ステップS61で、学習データを取得する学習回転数Nstd及び学習流量Fstdを選択する。
【0121】
図15が、ステップS61で行われる学習回転数Nstd及び学習流量Fstdの選択の手順の一例を示している。この例においてECU50は、ステップS71において現在の機関回転数Nを読み込んだ後、ステップS72において、実現可能性の高い機関回転数Nを学習回転数Nstdとして設定する。このとき、吐出流量特性の補正の反映の時期が古い機関回転数Nを優先して学習回転数Nstdとして選択することが好ましい。
【0122】
学習回転数Nstdが決定された後、ECU50は、ステップS73で、学習回転数Nstdにおいて実現されうる高圧ポンプ113の最大吐出流量Fmax(N=Nstd)を算出する。次いで、ECU50は、ステップS74で、選択された学習回転数Nstdにおいて、前回の補正実行時以降に取得された学習データにおける学習流量Fstd_1,Fstd_2,・・・を読み込む。そして、ECU50は、ステップS75において、現在実現され得る最大吐出流量Fmax(N=Nstd)未満の値であって未だ学習データが取得されていない値の中から最大値を学習流量Fstdとして選択する。これにより、今回の学習制御で取得する学習データの学習回転数Nstd及び学習流量Fstdが決定される。
【0123】
図14に戻り、ステップS61で学習回転数Nstd及び学習流量Fstdが選択されると、ECU50は、図7のステップS12及びステップS13の手順に沿って、ステップS62及びステップS63の各工程を行う。排出流量特性に基づき高圧調量弁23の通電量Icurrが学習流量Fstdに対応する通電量Istdに設定され、吐出流量特性に基づき低圧調量弁19の通電量Icurrが学習流量Fstdに対応する値に設定されると、ECU50は、ステップS64において、実レール圧Pactが学習レール圧Pstdと同等の値を示しているかを判別する。
【0124】
実レール圧Pactが学習レール圧Pstdと同等の値になるまで、ステップS63及びステップS64の各工程が繰り返され、実レール圧Pactが学習レール圧Pstdと同等の値になったときには、ステップS65に進む。ステップS65では、ECU50は、機関回転数NがステップS61で選択された学習回転数Nstdと同等の値になったか否かを判別する。機関回転数Nが学習回転数Nstdと同等の値になっていない場合にはステップS67に進み、機関回転数Nが学習回転数Nstdよりも小さくなっているか否かを判別する。
【0125】
機関回転数Nが学習回転数Nstdよりも大きい状態であれば学習制御を継続することが可能な状態であるためにステップS63に戻る。一方、機関回転数Nが学習回転数Nstdよりも小さくなっている場合には、今回の燃料無噴射状態において機関回転数Nが学習回転数Nstdと同等の値になる可能性が低く、学習データを得ることができる可能性が低いために、今回の燃料無噴射状態での学習制御を中止し、スタートに戻る。
【0126】
そして、ステップS65において、機関回転数Nが学習回転数Nstdと同等の値になったときには、ステップS66に進み、ECU50は、そのときの低圧調量弁19の通電量Icurrを、学習回転数Nstd及び学習流量Fstdに対応する通電量Istdとして記憶手段65に記憶する。これにより、ある学習回転数Nstd及び学習流量Fstdに対応する一つの学習データが得られる。
【0127】
図13に戻り、ステップS53における吐出流量特性の学習制御が終了すると、ECU50は、ステップS54において、取得された学習データの数があらかじめ設定された規定値に到達した機関回転数Nが存在するか否かを判別する。該当する機関回転数Nが存在しなければ、ステップS52に戻り、ECU50はこれまでと同様の手順に沿ってステップS52〜ステップS54の各工程を繰り返す。一方、該当する機関回転数Nが存在する場合には、ステップS55に進み、ECU50は吐出流量特性の補正を行う。
【0128】
図16は、吐出流量特性の補正を行う際の手順の一例を示している。この例において、ECU50は、ステップS81において、これまでに必要な数の学習データが取得された機関回転数Nの学習データに基づいて、当該機関回転数Nの実際の吐出流量特性と、記憶手段65に記憶されている基本吐出流量特性とのずれの特性を求める。このステップS81において、実際の吐出流量特性のオフセットずれ、あるいは、傾きのずれが把握される。
【0129】
次いで、ステップS82において、ECU50は、ステップS81で把握されたずれの特性を、低圧調量弁19の駆動制御に反映させる。すなわち、ずれの特性に応じて、あらかじめ記憶された基本吐出流量特性の情報M1のうち該当する機関回転数Nについての特性を書き換えたり、あるいは該当する機関回転数Nについては基本吐出流量特性に対する加減乗除を行いながら低圧調量弁19の通電量Icurrが求められるように設定の変更をしたりする。
【0130】
そして、ECU50は、ステップS83において、記憶されている学習データのうち、補正を行った機関回転数Nの学習データを消去して、本ルーチンを終了させる。その後は、再び図13のスタートに戻って、これまでのステップを繰り返し実行する。
【0131】
以上説明したように、本実施形態のポンプ吐出流量特性学習制御装置50によれば、燃料無噴射状態が生じるごとに、高圧ポンプ113の吐出流量Fを自由に設定しながら、機関回転数N及び吐出流量Fの異なる複数の学習データを短期間で取得して、機関回転数Nごとに、基本吐出流量特性に対する実際の吐出流量特性のずれを低圧調量弁19の駆動制御に反映させることができる。そして、高圧ポンプ113の吐出流量特性のずれが繰り返し反映されることにより、あらかじめ記憶された基本吐出流量特性と、実際の吐出流量特性とのずれを常に小さく維持することができる。その結果、低圧調量弁19を用いたレール圧制御の精度を向上させることができる。
【0132】
また、レール圧制御の精度が向上することによって、レール圧のオーバーシュートやアンダーシュートが低減するために、コモンレール15や配管等のコンポーネントの寿命を延ばすことができるようになる。
【0133】
特に、本実施形態においては、学習データを取得する際に設定する学習回転数Nstd値として、前回の補正の反映の時期が古い機関回転数Nが優先的に選択され、また、設定する学習流量Fstdの値として、その機関回転数Nにおいて実現され得る最大吐出流量Fmax(N=Nstd)未満の値であって、かつ、未だ学習データが取得されていない吐出流量Fの中からより大きい値が優先的に選択されるようになっている。したがって、吐出流量特性のずれを把握するために必要な数の学習データをより早く取得することができ、補正の頻度を増やすことができる。
【0134】
[他の実施の形態]
ここまでに説明した第1の実施の形態及び第2の実施の形態は、以下のように変更して実施することもできる。
【0135】
例えば、第1の実施の形態及び第2の実施の形態は、燃料噴射弁からの静的リークが生じないか、あるいは、極少量である燃料噴射弁を用いた蓄圧式燃料噴射制御装置に適用される例を説明したものであるが、実レール圧に依存して変化する静的リークの流量を推定することができるように構成した場合には、静的リークを生じる燃料噴射弁を用いた蓄圧式燃料噴射制御装置であっても本発明を適用することができる。
【0136】
また、高圧ポンプの吐出流量特性を把握する場合においては、高圧調量弁の吐出流量F(体積/時間)及び高圧ポンプ13の吐出流量F(体積/時間)を積算して、排出量(体積)及び吐出量(体積)を算出した上で、制御処理を行うようにすることもできる。
【0137】
また、第1の実施の形態及び第2の実施の形態は、ノーマルオープン型の低圧調量弁を用いた蓄圧式燃料噴射制御装置に適用される例を説明したものであるが、通電量Icurrに対する吐出流量Fの特性が反対の特性を示すノーマルクローズ型の低圧調量弁を用いた場合であっても、本発明を適用することができる。
【0138】
さらに、第2の実施の形態においては、機関回転数Nごとに必要な数の学習データが取得されたときに当該機関回転数Nの吐出流量特性を補正するようにしているが、それぞれの機関回転数N1,N2,・・・Nnの吐出流量特性の相関関係をあらかじめ把握できる場合には、特定の機関回転数Nあるいはいずれかの機関回転数Nにおいて必要な数の学習データが取得されたときに、すべての機関回転数N1,N2,・・・Nnの吐出流量特性の補正を行うようにしてもよい。
【符号の説明】
【0139】
1:燃料タンク、10,110:蓄圧式燃料噴射制御装置、11:低圧フィードポンプ、13,113:高圧ポンプ、13a,113a:加圧室、14:カム、15:コモンレール、17:燃料噴射弁、19:低圧調量弁、21:オーバーフローバルブ、23:高圧調量弁、25:圧力センサ、27:燃料吸入弁、28:燃料吐出弁、29,129:プランジャ、31,33,35:燃料通路、37,38,39:リターン通路、50:ECU(ポンプ吐出流量学習制御処理装置)、51:目標噴射量演算手段、53:目標レール圧演算手段、55:レール圧制御手段、56:低圧調量弁駆動制御手段、57:高圧調量弁駆動制御手段、59:無噴射状態検出手段、61:吐出流量特性学習制御手段、63:補正手段、65:記憶手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の気筒ごとに設けられる複数の燃料噴射弁と、前記複数の燃料噴射弁が接続されたコモンレールと、前記内燃機関の駆動力によって駆動され前記コモンレールに対して燃料を圧送する高圧ポンプと、前記高圧ポンプの吐出流量を調節することで前記コモンレールの圧力を制御する低圧調量弁と、前記コモンレールから低圧側への前記燃料の排出流量を調節することで前記コモンレールの圧力を制御する高圧調量弁と、を備えた蓄圧式燃料噴射制御装置における前記低圧調量弁の操作量に対する前記高圧ポンプの吐出流量の学習制御を実行するポンプ吐出流量学習制御処理装置において、
前記内燃機関の回転数と前記低圧調量弁の操作量と前記高圧ポンプの吐出流量との関係を示す吐出流量特性が記憶された記憶手段と、
前記内燃機関の運転中における燃料無噴射状態を検出する無噴射状態検出手段と、
前記燃料無噴射状態が検出されたときに前記高圧調量弁による前記燃料の排出流量を所定の学習流量に設定するとともに、前記燃料の排出流量が前記学習流量に設定された状態で前記コモンレールの圧力が所定圧となるように前記低圧調量弁の操作量を調節し、前記コモンレールの圧力が所定圧となったときの前記高圧ポンプの吐出流量を前記学習流量として推定するとともに、そのときの前記低圧調量弁の操作量を学習する吐出流量特性学習制御手段と、
学習された前記低圧調量弁の操作量と前記学習流量との関係に基づいて前記吐出流量特性を補正する補正手段と、
を備えることを特徴とするポンプ吐出流量学習制御処理装置。
【請求項2】
前記吐出流量特性学習制御手段は、前記燃料無噴射状態の継続中に、設定する前記学習流量を変更して複数点での学習データを取得することを特徴とする請求項1に記載のポンプ吐出流量学習制御処理装置。
【請求項3】
前記吐出流量特性学習制御手段は、前記内燃機関の回転数に基づいて得られる前記高圧ポンプの最大吐出流量を考慮して前記学習流量を決定することを特徴とする請求項1又は2に記載のポンプ吐出流量学習制御処理装置。
【請求項4】
前記吐出流量特性学習制御手段は、より大きな値を優先して前記学習流量を決定することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のポンプ吐出流量学習制御処理装置。
【請求項5】
前記吐出流量特性学習制御手段は、前回の補正実行時以降、未だ取得されていない前記吐出流量の学習データが得られるように前記学習流量を決定することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のポンプ吐出流量学習制御処理装置。
【請求項6】
前記吐出流量特性が、前記低圧調量弁の操作量と前記高圧ポンプの吐出流量との関係が前記内燃機関の回転数に依存しない領域を有する場合には、前記内燃機関の回転数にかかわらず、前記学習流量が異なる複数点での学習データが得られたときに、前記補正手段が、前記補正を実行することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のポンプ吐出流量学習制御処理装置。
【請求項7】
前記吐出流量特性が、全領域において、前記低圧調量弁の操作量と前記高圧ポンプの吐出流量との関係が前記内燃機関の回転数に依存する場合には、前記内燃機関の回転数ごとに、前記学習流量が異なる複数点での学習データが得られたときに、前記補正手段が、対応する回転数の前記吐出流量特性の補正を実行することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のポンプ吐出流量学習制御処理装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載のポンプ吐出流量学習制御処理装置を備えた蓄圧式燃料噴射制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−102714(P2012−102714A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−254556(P2010−254556)
【出願日】平成22年11月15日(2010.11.15)
【出願人】(000003333)ボッシュ株式会社 (510)
【Fターム(参考)】