説明

ポータブル電子機器

【課題】蓋体の重量に係らず蓋体を容易に持ち上げて開くことができると共に、蓋体を所定の開閉位置に停止させて保持できるポータブル電子機器を提供する。
【解決手段】入力操作部が設けられている本体3と、表示ユニットが設けられている蓋体2と、本体3に対して蓋体2を開閉可能に連結するために、蓋体2に固定される回転軸51、及び本体3に固定され回転軸51が回転可能に嵌め合わされる支持部材52から構成されているヒンジ機構5と、永久磁石61及び電磁石62を有し、電磁石62が通電時には永久磁石61に対して反発力が発生して回転軸51が回転可能状態になり、電磁石62が非通電時には永久磁石61の吸引力により当該電磁石62が吸引されることで回転軸51に蓋体2に作用する開閉トルクが生じるように、永久磁石61及び電磁石62が回転軸51に対して配置されている電磁機構6とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力操作部が設けられている本体と、ディスプレイが設けられている蓋体とを、相対的に開閉可能に連結するヒンジ機構を備えたポータブル電子機器に係り、特に開閉トルクを制御可能にしたポータブル電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
図4は、ノートブック型パーソナル・コンピュータ(以下、明細書中において「ノートPC」と言う。)を示す図で、(A)はノートPCの全体斜視図、(B)はヒンジ機構の斜視図、(C)はヒンジ機構の平面図である。このノートPC1は図4(A)に示すように、利用者に情報を表示する液晶表示等から成る表示ユニット21が組み込まれた蓋体2と、利用者が情報を入力するキーボード31が組み込まれた本体3と、本体3に対して蓋体2を開閉可能に連結するヒンジ機構HMとを備えている。
【0003】
ヒンジ機構HMは図4(B)、(C)に示すように、軸受部41と一体化している取付ベース42が本体3に固定され、軸受部41に挿入される回転軸44と一体化している取付アーム43が蓋体2に固定され、軸受部41及び回転軸44は蓋体2及び本体の開閉時に開閉トルクが生じるように構成されている。蓋体2を開閉すると、取付アーム43もその開閉動作に応じて移動するので、取付アーム43と一体化している回転軸44が軸受部41内で回転することで開閉トルクが生じることになる。このヒンジ機構HMは一般的には、蓋体2及び本体3の左右両側面に設けられている。
【0004】
このようなヒンジ機構HMとして、例えば、液晶部筐体に設けられた軸受け部と、軸受け部に摩擦抵抗が生じる状態で回転自在に挿入され本体部筐体に設けられた軸部と、軸受け部の周方向に沿って設けられた溝部に嵌め込まれて固定されたリング状の弾性部材とから構成されたトルクヒンジ装置が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。軸受け部の内径面及び弾性部材の外径面には、それぞれ噛み合わさる凹凸が形成されている。
【0005】
このトルクヒンジ装置は液晶部筐体を開閉すると、軸受け部の内径面及び弾性部材の外径面にはそれぞれ噛み合わさる凹凸が緩やかな曲面状で形成されていることから、弾性部材は、外径面の凸部が、軸受け部の内径面の凸部によって伸縮を繰り返しながら回転するので、軸受け部の内径面及び弾性部材の外径面の凹凸が噛み合う位置ではロック感を得ることができる。また、液晶部筐体の回転時においては、軸受け部の内径面及び弾性部材の外径面間では常に摩擦抵抗が生じているので、開閉トルクを得ることができる。
【0006】
また、ヒンジ機構HMとして、取付アームが端部に固定され蓋体に設けられた軸受筒と、軸受筒に回転自在に挿入され装置本体に設けられたシャフトと、シャフトの外周に装着すると共に一端が外側に折曲された突起を有する4本のコイルスプリングとから構成された開閉トルク変動可能なチルトヒンジが開示されている(例えば、特許文献2参照。)。軸受筒には、1組のコイルスプリングの巻線方向が逆方向になるように突起を対向して密着した状態で固定するスリットと、他の1組のコイルスプリングの巻線方向が逆方向になるように突起を対向して密着した状態で所定角度で回転するように係合する切欠とが形成されている。
【0007】
この開閉トルク変動可能なチルトヒンジは、蓋体の開閉に基づき取付アームを介して軸受筒が回転するので、各コイルスプリングは軸受筒の回転によってシャフトを締め込んで摩擦抵抗によって開閉トルクを得ている。一対のコイルスプリングは取り付け方向が互いに違うことから、開く時と閉じる時にそれぞれが開閉トルクとしてどちらか一方が常時働くようになる。また、蓋体が所定の角度まで開くときには1組のコイルスプリングによる開閉トルクで軽く持ち上げることができ、所定の角度以上に開くときには他の1組のコイルスプリングの開閉トルクが増加される。したがって、蓋体の開閉時における開閉トルクを変動させることが可能になる。
【0008】
また、ヒンジ機構HMとして、軸外周の円周方向にN極、S極、N極の順に磁極を構成した軸部材と、軸部材の磁極部分を挿入する部材内周の円周方向にS極、N極、S極の順に磁極を構成した回動部材とを備えたヒンジ機構が開示されている(例えば、特許文献3参照。)。このヒンジ機構は、機械的な機構を用いることなく回動途中の任意の位置で回動部材を位置決めすることが可能になる。
【0009】
【特許文献1】特開平8−116185号公報
【特許文献2】特開2001−65543号公報
【特許文献3】特開2006−112523号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
近年、ノートPCの蓋体に組み込まれる表示ユニットは大型化の傾向にある。表示ユニットが大型化すると、蓋体は重量が増加することから蓋体が使用中に倒れ易くなるので、開閉トルクを高く設定しなければならない。
【0011】
しかしながら、特許文献1のトルクヒンジ装置及び特許文献2のチルトヒンジでは、摩擦抵抗によって開閉トルクを得ていることから開閉トルクを高く設定すると、蓋体を開けようとするときに、その操作力で本体まで蓋体と一緒に持ち上がってしまうという現象が起きるので、片手では持ち上げることができなくなるという難点があった。
【0012】
これに対して特許文献3のヒンジ機構は、蓋体の位置決めを摩擦抵抗ではなく相対する永久磁石の吸引力によって行っているので、表示ユニットが大型化されても蓋体を片手で持ち上げることは可能であるが、永久磁石では開閉トルクを制御することができなかった。
【0013】
そこで本発明の目的は、蓋体の重量に係らず蓋体を容易に持ち上げて開くことができると共に、蓋体を所定の開閉位置に停止させて保持できるポータブル電子機器を提供することにある。さらに本発明の目的は、蓋体の開閉トルクを制御してスムーズで高級感のある開閉動作を実現できるポータブル電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の原理は、本体に対して蓋体を開閉可能に連結するヒンジ機構の回転軸を、電磁石を有する電磁機構で制御することにある。この電磁機構は、回転軸に摩擦抵抗を付与するように電磁石が配置され、電磁石への励磁電流を制御して摩擦抵抗の大きさを変えることで、蓋体に作用する開閉トルクを調整する。なお、電磁機構は、電磁石と連動して回転軸に摩擦抵抗を与えるように永久磁石を配置してもよい。
【0015】
電磁機構の第1の態様は、回転軸が回転可能に嵌め合わされる支持部材が2分割された一対の分割支持部材と、一対の分割支持部材の少なくとも一つを回転軸に対して直交する方向で移動可能に保持する保持部材と、一方の分割支持部材が有する永久磁石と、回転軸を中心にして永久磁石と対向配置され他方の分割支持部材が有する電磁石と、一対の分割支持部材の内周面及び回転軸の外周面にそれぞれ噛み合うように歯車が設けられたラッチ機構とから構成されたものである。
【0016】
この第1の態様では、電磁石を非通電にすることで電磁石を永久磁石の吸引力で吸引すると、一対の分割支持部材の各歯車と回転軸の歯車とが噛み合うので、回転軸を回転しないように固定することができる。一方、電磁石に通電することで電磁石の磁極及び永久磁石の磁極が反発する方向に力を発生させると、一対の分割支持部材の各歯車と回転軸の歯車とは離れるので、回転軸を回転可能にすることができる。なお、電磁石への励磁電流を制御することで電磁石及び永久磁石による吸引力、反発力の発生を切り換えることができる。
【0017】
電磁機構の第2の態様は、回転軸の固定側に当該回転軸の軸方向に沿って2つの異なる磁極が配置されるように永久磁石が固定され、回転軸が回転可能に嵌め合わされる支持部材に、回転軸の軸方向に沿って往復移動可能に電磁石が設けられると共に、当該電磁石は2つの異なる磁極が当該回転軸の軸方向に沿って生じるように配置されたものでる。
【0018】
この第2の態様では、電磁石を非通電にすることで電磁石を永久磁石の吸引力で吸引すると、電磁石が支持部材上を回転軸の軸方向に沿って移動して永久磁石に吸着されるので、回転軸を回転しないように固定することができる。一方、電磁石に通電することで電磁石の磁極及び永久磁石の磁極が反発する方向に力を発生させると、電磁石が支持部材上を回転軸の軸方向に沿って移動して永久磁石から離脱するので、回転軸を回転可能にすることができる。なお、電磁石への励磁電流を制御することで、電磁石及び永久磁石による吸引力、反発力の発生を切り換えることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、蓋体の重量に係らず蓋体を容易に持ち上げて開くことができると共に、蓋体を所定の開閉位置に停止させて保持できるポータブル電子機器を提供することができた。さらに本発明により、蓋体の開閉トルクを制御してスムーズで高級感のある開閉動作を実現できるポータブル電子機器を提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明のポータブル電子機器を実施するための最良の形態例について、図面を参照して説明する。図1は本発明のポータブル電子機器による最良な実施の一形態を示す動作説明図で、(A)は電磁機構の電磁石が非作動状態の図、(B)は電磁石が作動状態の図である。図2は本発明のポータブル電子機器が備えた制御部が有する電流制御機能による励磁電流の変化を示すグラフの図である。なお、発明を実施するための最良の形態の全体を通じて同一要素には同一参照番号を付す。
【0021】
本発明のポータブル電子機器は、背景技術に記載したノートPC1に適用され、特にヒンジ機構HMに関するものである(図4)。この本発明のポータブル電子機器は図1(A)、(B)に示すように、蓋体2及び本体3を連結するヒンジ機構5と、ヒンジ機構5の開閉トルクを制御する電磁機構6とを備えている。
【0022】
ヒンジ機構5は、回転軸51が蓋体2に組み込まれ、支持部材52が本体3に組み込まれている。支持部材52は、本体3に固定される取付ベース521と、取付ベース521に固定され軸方向が水平方向になるように回転軸51が回転自在に挿入される軸受部522とから構成されている。
【0023】
電磁機構6は、回転軸51の固定側に当該回転軸51の軸方向に沿って2つの異なる磁極が配置されるように永久磁石61が固定され、支持部材52の軸受部522に回転軸51の軸方向に沿って往復移動可能に電磁石62が設けられている。
【0024】
永久磁石61は、回転軸51より直径が大きい円柱状に形成され、回転軸51の側は当該回転軸51に向かうに従って徐々に細くなる斜面61aから成る円錐台に形成されている。この永久磁石61の2つの磁極は、例えば回転軸51方向がN極になっている。
【0025】
電磁石62は、支持部材52に対して往復移動可能に嵌め合わされている。この嵌め合わせ部位は、例えば支持部材52の軸受部522に凸部522aが形成され、電磁石62に軸受部522の凸部522aに嵌め合わせられる凹部62aが形成されている。この電磁石62は、永久磁石61の外径とほぼ同様の直径から構成され、さらに、永久磁石61の側には当該永久磁石61の斜面61aと同角度から成る漏斗状の斜面62bが形成されている。
【0026】
また、このヒンジ機構5及び電磁機構6を備えたポータブル電子機器は、電磁石62を励磁電流によって制御する制御部7を備えている。この制御部7で電磁石62への励磁電流を制御することで、電磁石62及び永久磁石61による吸引力、反発力の発生を切り換えることができる。また、電磁石62及び永久磁石61による吸引力、反発力の割合を変動させて回転軸51への開閉トルクを変動可能に生じさせることも可能になる。
【0027】
また、ヒンジ機構5及び電磁機構6を備えたポータブル電子機器は、蓋体2に当該蓋体2が閉じられると当該蓋体2を本体3にラッチするラッチ・フック22を備えている場合には、ラッチ・フック22をラッチ状態から解除すると制御部7に電磁石励磁信号を送出する電磁石励磁スイッチ23を備えていてもよい。ラッチ・フック22の解除動作に連動する電磁石励磁スイッチ23を備えることで、ラッチ・フック22のラッチ状態を解除したまま蓋体2を開く時には、永久磁石61及び電磁石62は反発力が発生したままになるので、蓋体2を回転させることができる。
【0028】
さらに、制御部7は、電磁石励磁スイッチ23からの電磁石励磁信号の入力が途絶えると、励磁電流の電流値を所定時間において下げてゼロにする電流制御機能を有していてもよい。この電流制御機能を制御部7にもたせることで、操作者がラッチ・フック22をラッチ状態にすると、電磁石62の励磁電流が減少して永久磁石61との反発力が弱まることで両者の吸引力が強まって摩擦抵抗が大きくなっていくので、回転軸51への開閉トルクを大きくしていくことができる。これにより、蓋体2が所望の開閉角度に近づくにつれて開閉トルクが大きくなっていくので、スムーズで高級感のある開閉動作を実現できる。なお、この電流制御機能は、図2に示すように、励磁電流の電流値を所定時間において比例状態で下げてゼロにする比例曲線から成る電流制御、励磁電流の電流値を所定時間において階段状に下げてゼロにするステップ曲線から成る電流制御、又は励磁電流の電流値を所定時間において指数関数的に下げてゼロにする指数曲線から成る電流制御等が考えられる。
【0029】
なお、この開閉トルクは、永久磁石61の円錐台の斜面61aと、電磁石62の漏斗状の斜面62bとの接触面積が大きいほど大きくすることができる。
【0030】
このように構成されたポータブル電子機器であるノートPC1の蓋体2の開閉動作について説明する。なお、このノートPC1はラッチ・フック22及びラッチ・フック22に連動する電磁石励磁スイッチ23を備え、さらに、制御部7は電流制御機能を有しているものとする。
【0031】
このノートPC1は、蓋体2が閉じている場合にはラッチ・フック22がラッチ状態なので、電磁石励磁スイッチ23はオフされている。この場合、制御部7は電磁石励磁スイッチ23から電磁石励磁信号が送出されないので、電磁機構6の電磁石62は非通電になっている。電磁石62が非通電状態では、電磁石62が軸受部522上を回転軸51の軸方向に沿って移動して永久磁石61に吸着されていることから、回転軸51は容易には回転しないように固定されている(図1(A))。したがって、電磁機構6による開閉トルクは最大になっている。
【0032】
この蓋体2が閉じているノートPC1において、蓋体2を開くためにラッチ・フック22のラッチ状態を解除する操作をすると、電磁石励磁スイッチ23がオンになるので、電磁石励磁スイッチ23から制御部7に電磁石励磁信号が送出される。制御部7は、電磁石励磁信号の入力に基づき電磁石62を通電状態にする。電磁石62を通電状態にすると、電磁石62の磁極及び永久磁石61の磁極が反発する方向に力を発生させることから、電磁石62は軸受部522上を回転軸51の軸方向に沿って移動して永久磁石61から離脱するので、回転軸51を回転可能にすることができる(図1(B))。この場合、電磁機構6による開閉トルクは最小になっているので、蓋体2の重量に係らず蓋体2を容易に持ち上げて開くことができる。したがって、蓋体2を開けようとするときに、その操作力で本体3まで蓋体2と一緒に持ち上がってしまう現象を確実に防ぐことができる。
【0033】
蓋体2の開角度が所望の角度に近づいた時点で、ラッチ・フック22がラッチ状態になるように操作すると、制御部7は電磁石励磁スイッチ23からの電磁石励磁信号の入力が途絶えるので、電流制御機能で励磁電流の電流値を所定時間において比例状態で下げてゼロにする。この電流制御機能により、電磁石62の励磁電流が減少して永久磁石61との反発力が弱まることで両者の吸引力が強まって摩擦抵抗が大きくなっていくので、回転軸51への開閉トルクを比例状態で大きくしていくことができる。したがって、蓋体2が所望の開角度に近づくにつれて開閉トルクが大きくなっていくので、スムーズで高級感のある開閉動作になる。開閉トルクが最大になった時点で蓋体2を所定の開位置に停止させて保持できるようになる。
【0034】
この蓋体2が所定の開角度で停止して保持されているノートPC1において、蓋体2を閉じるためにラッチ・フック22のラッチ状態を解除する操作をすると、電磁石励磁スイッチ23がオンになるので、電磁石励磁スイッチ23から制御部7に電磁石励磁信号が送出される。制御部7は、電磁石励磁信号の入力に基づき電磁石62を通電状態にする。電磁石62を通電状態にすると、電磁石62の磁極及び永久磁石61の磁極が反発する方向に力を発生させることから、電磁石62は軸受部522上を回転軸51の軸方向に沿って移動して永久磁石61から離脱するので、回転軸51を回転可能にすることができる(図1(B))。この場合、電磁機構6による開閉トルクは最小になっているので、蓋体2を容易に閉じることができる。
【0035】
蓋体2の閉角度が所望の角度に近づいた時点で、ラッチ・フック22がラッチ状態になるように操作すると、制御部7は電磁石励磁スイッチ23からの電磁石励磁信号の入力が途絶えるので、電流制御機能で励磁電流の電流値を所定時間において比例状態で下げてゼロにする。この電流制御機能により、電磁石62の励磁電流が減少して永久磁石61との反発力が弱まることで両者の吸引力が強まって摩擦抵抗が大きくなっていくので、回転軸51への開閉トルクを比例状態で大きくしていくことができる。したがって、蓋体2が所望の閉角度に近づくにつれて開閉トルクが大きくなっていくので、スムーズで高級感のある閉動作になる。開閉トルクが最大になった時点で蓋体2を閉じることができるようになる。
【0036】
なお、この第1の実施例においては、制御部7に電磁石励磁信号を送出する電磁石励磁スイッチ23をラッチ・フック22に連動させていたが、これに限らず、本体3に備えて操作者が実際にスイッチ操作することで、同様の作用、効果を得ることができる。
【0037】
また、この第1の実施例においては、蓋体2のスムーズで高級感のある開閉動作を制御部7の電流制御機能で達成していたが、これに限らず、蓋体2の開閉角度を検出してその開閉角度に応じた電磁石励磁信号を制御部7に送出する回転角度センサ(図示せず)を備えてもよい。制御部7は、回転角度センサからの開閉角度に応じた電磁石励磁信号に比例して励磁電流の電流値を下げてゼロにすることができる。したがって、蓋体2が所望の開閉角度に近づくにつれて開閉トルクを大きくしていくことができるので、スムーズで高級感のある開閉動作にすることができる。
【0038】
さらに、この第1の実施例においては、心地よいトルク感のある開閉トルクを制御部7の電流制御機能で与えていたが、これに限らず、ヒンジ機構5に、蓋体2に作用する開閉トルクを摩擦抵抗によって回転軸51に与える摩擦抵抗付与部8を備えるとよい。この摩擦抵抗付与部8は、例えば回転軸51及び軸受部522間の嵌め合わせ部に介在されている。このような摩擦抵抗付与部8をヒンジ機構5に備えることで、制御部7に電流制御機能をもたせなくても、この摩擦抵抗付与部8の摩擦抵抗で心地よいトルク感のある開閉トルクを付与できるようになる。即ち、蓋体2を開くためにラッチ・フック22のラッチ状態を解除して開閉トルクが最小になっていても、摩擦抵抗付与部8の摩擦抵抗で達成できる。
【0039】
また、ポータブル電子機器は上述した第1の実施例に限らず、図3に示すものでもよい。図3は本発明のポータブル電子機器による他の実施の一形態を示す動作図で、(A)はヒンジ機構及び電磁機構の正面図、(B)はヒンジ機構を電磁機構でラッチする状態の側面図、(C)は電磁機構でラッチされたヒンジ機構を開放する状態の側面図である。
【0040】
本発明のポータブル電子機器は、背景技術に記載したノートPC1に適用され、特にヒンジ機構HMに関するものである(図4)。この本発明のポータブル電子機器は図3(A)、(B)、(C)に示すように、蓋体2及び本体3を連結するヒンジ機構11と、ヒンジ機構11の開閉トルクを制御する電磁機構12とを備えている。
【0041】
ヒンジ機構11は、軸方向が水平方向になるように回転軸111が蓋体2に組み込まれ、支持部材112が本体3に組み込まれている。支持部材112は2分割された一対の分割支持部材112a、112bで構成されている。この一対の分割支持部材112a、112bの少なくとも一つを回転軸111に対して直交する方向で移動可能に保持する保持部材113を備えている。また、一方の分割支持部材112aは永久磁石で構成され、他方の分割支持部材112bは電磁石で構成され、他方の分割支持部材112bは回転軸111を中心にして一方の分割支持部材112aと対向配置されている。なお、永久磁石は一方の分割支持部材112aに、電磁石は他方の分割支持部材112bに、それぞれ別個体で設けてもよい。
【0042】
さらに、一対の分割支持部材112a、112bの内周面には歯車114、115が設けられ、回転軸111の外周面には一対の分割支持部材112a、112bの歯車114、115と噛み合う歯車116が設けられたラッチ機構110を備えている。このラッチ機構110は、回転軸111のみが回転可能に一対の分割支持部材112a、112bを歯車114、115と歯車116とが噛み合ったり離れたりすることができる。
【0043】
また、このヒンジ機構11及び電磁機構12とを備えたポータブル電子機器は、上述したヒンジ機構5及び電磁機構6を備えたポータブル電子機器と同様に、電磁石62を励磁電流によって制御する制御部7を備えている。
【0044】
また、ヒンジ機構11及び電磁機構12とを備えたポータブル電子機器は、上述したヒンジ機構5及び電磁機構6を備えたポータブル電子機器と同様に、ラッチ・フック22(図4(A))を備えている場合には電磁石励磁スイッチ23を備えていてもよい。さらに、制御部7は、電磁石励磁スイッチ23からの電磁石励磁信号の入力が途絶えると、図2に示すように、励磁電流の電流値を所定時間において比例状態で下げてゼロにする電流制御機能を有していてもよい。
【0045】
このように構成されたポータブル電子機器であるノートPC1の蓋体2の開閉動作について説明する。なお、このノートPC1はラッチ・フック22及びラッチ・フック22に連動する電磁石励磁スイッチ23を備え、さらに、制御部7に電流制御機能を有しているものとする。
【0046】
このノートPC1は、蓋体2が閉じている場合にはラッチ・フック22がラッチ状態なので、電磁石励磁スイッチ23はオフされている。この場合、制御部7は電磁石励磁スイッチ23から電磁石励磁信号が送出されないので、電磁機構12の電磁石である他方の分割支持部材112bは非通電になっている。電磁石である他方の分割支持部材112bは非通電状態では、永久磁石である一方の分割支持部材112aに吸着されていることから、一対の分割支持部材112a、112bの各歯車114、115と回転軸111の歯車116とが確実に噛み合うので、回転軸111は容易には回転しないように固定されている。したがって、電磁機構12による開閉トルクは最大になっている。
【0047】
この蓋体2が閉じているノートPC1において、蓋体2を開くためにラッチ・フック22のラッチ状態を解除する操作をすると、電磁石励磁スイッチ23がオンになるので、電磁石励磁スイッチ23から制御部7に電磁石励磁信号が送出される。制御部7は、電磁石励磁信号の入力に基づき電磁石である他方の分割支持部材112bを通電状態にする。電磁石である他方の分割支持部材112bを通電状態にすると、電磁石である他方の分割支持部材112bの磁極及び永久磁石である一方の分割支持部材112aの磁極が反発する方向に力を発生させることから、一対の分割支持部材112a、112bの各歯車114、115と回転軸111の歯車116とは離れるので、回転軸111を回転可能にすることができる(図3(B))。この場合、電磁機構12による開閉トルクは最小になっているので、蓋体2の重量に係らず蓋体2を容易に持ち上げて開くことができる。したがって、蓋体2を開けようとするときに、その操作力で本体3まで蓋体2と一緒に持ち上がってしまう現象を確実に防ぐことができる。
【0048】
蓋体2の開角度が所望の角度に近づいた時点で、ラッチ・フック22がラッチ状態になるように操作すると、制御部7は電磁石励磁スイッチ23からの電磁石励磁信号の入力が途絶えるので、電流制御機能で励磁電流の電流値を所定時間において比例状態で下げてゼロにする。この電流可変機能を制御部7にもたせると、電磁石である他方の分割支持部材112bの励磁電流が減少して永久磁石である一方の分割支持部材112aとの反発力が弱まることで両者の吸引力が強まって一対の分割支持部材112a、112bによる回転軸111への挟み込み強さを変えることができるので、回転軸111の歯車116の凸部を一対の分割支持部材112a、112bの各歯車114、115の凸部が乗り越え可能となり、その乗り越え抵抗に応じた開閉トルクを生じさせることができる。したがって、蓋体2が所望の開角度に近づくにつれて開閉トルクが大きくなっていくので、スムーズで高級感のある開閉動作になる。開閉トルクが最大になった時点で蓋体2を所定の開位置に停止させて保持できるようになる。
【0049】
この蓋体2が所定の開角度で停止して保持されているノートPC1において、蓋体2を閉じるためにラッチ・フック22のラッチ状態を解除する操作をすると、電磁石励磁スイッチ23がオンになるので、電磁石励磁スイッチ23から制御部7に電磁石励磁信号が送出される。制御部7は、電磁石励磁信号の入力に基づき電磁石62を通電状態にする。電磁石62を通電状態にすると、電磁石である他方の分割支持部材112bの磁極及び永久磁石である一方の分割支持部材112aの磁極が反発する方向に力を発生させることから、一対の分割支持部材112a、112bの各歯車114、115と回転軸111の歯車116とは離れるので、回転軸111を回転可能にすることができる(図3(B))。この場合、電磁機構6による開閉トルクは最小になっているので、蓋体2を容易に閉じることができる。
【0050】
蓋体2の閉角度が所望の角度に近づいた時点で、ラッチ・フック22がラッチ状態になるように操作すると、制御部7は電磁石励磁スイッチ23からの電磁石励磁信号の入力が途絶えるので、電流制御機能で励磁電流の電流値を所定時間において比例状態で下げてゼロにする。この電流制御機能により、電磁石である他方の分割支持部材112bの励磁電流が減少して永久磁石である一方の分割支持部材112aとの反発力が弱まることで両者の吸引力が強まって一対の分割支持部材112a、112bによる回転軸111への挟み込み強さを変えることができるので、回転軸111への開閉トルクを比例状態で大きくしていくことができる。したがって、蓋体2が所望の閉角度に近づくにつれて開閉トルクが大きくなっていくので、スムーズで高級感のある閉動作になる。開閉トルクが最大になった時点で蓋体2を閉じることができるようになる。
【0051】
なお、この第2の実施例においても第1の実施例と同様に、電磁石励磁スイッチ23を本体3に備え、制御部7の電流制御機能の代替手段として回転角度センサを備えてもよい。
【0052】
また、電磁機構は、永久磁石及び電磁石を有し、電磁石が通電時には永久磁石に対して反発力が発生して回転軸が回転可能状態になり、電磁石が非通電時には永久磁石の吸引力により当該電磁石が吸引されることで回転軸に蓋体に作用する開閉トルクが生じるように、永久磁石及び電磁石が回転軸に対して配置されていれば、どのような機構構成でもよい。さらに、電磁機構は、回転軸に摩擦抵抗を付与するように電磁石が配置され、摩擦抵抗の大きさによって蓋体に作用する開閉トルクを調整することができれば、どのような機構構成でもよい。また、電磁機構は、電磁石と連動して回転軸に摩擦抵抗を与えるように配置されている永久磁石を備えた機構構成でもよい。
【0053】
また、本発明のポータブル電子機器はノートPCに限らず、入力操作部が設けられている本体と、表示ユニットが設けられている蓋体とを備えていればどのようなポータブル電子機器でも適用させることができる。
【0054】
これまで本発明について図面に示した特定の実施の形態をもって説明してきたが、本発明は図面に示した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の効果を奏する限り、これまで知られたいかなる構成であっても採用することができることはいうまでもないことである。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明のポータブル電子機器による最良な実施の一形態を示す動作説明図である。
【図2】本発明のポータブル電子機器が備えた制御部が有する電流制御機能による励磁電流の変化を示すグラフの図である。
【図3】本発明のポータブル電子機器による他の実施の一形態を示す動作図である。
【図4】図4は、ノートPCに用いられる従来のヒンジ機構を示す図で、(A)はノートPCの全体斜視図、(B)はヒンジ機構の斜視図、(C)はヒンジ機構の平面図である。
【符号の説明】
【0056】
1……ノートPC
2……蓋体
21……表示ユニット
3……本体
31……キーボード(入力操作部)
61……永久磁石
62……電磁石
HM……ヒンジ機構

5……ヒンジ機構
6……電磁機構
8……摩擦抵抗付与部
51……回転軸

11……ヒンジ機構
12……電磁機構
110……ラッチ機構
111……回転軸
112……支持部材
112a、112b……一対の分割支持部材
113……保持部材
114、115、116……歯車

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力操作部が設けられている本体と、
表示ユニットが設けられている蓋体と、
前記本体に対して前記蓋体を開閉可能に連結するために、前記本体と前記蓋体の何れか一方に固定される回転軸、及び他方に固定され前記回転軸が回転可能に嵌め合わされる支持部材から構成されているヒンジ機構と、
前記回転軸に摩擦抵抗を付与するように電磁石が配置され、前記摩擦抵抗の大きさによって前記蓋体に作用する開閉トルクを調整する電磁機構とを備えたポータブル電子機器。
【請求項2】
前記電磁機構は、前記電磁石と連動して前記回転軸に前記摩擦抵抗を与えるように配置されている永久磁石を備えた請求項1記載のポータブル電子機器。
【請求項3】
前記電磁機構は、前記電磁石が通電時には前記永久磁石に対して反発力が発生して前記回転軸が回転可能状態になり、前記電磁石が非通電時には前記永久磁石の吸引力により当該電磁石が吸引されることで前記回転軸に前記摩擦抵抗が付与されるように、前記永久磁石及び前記電磁石が前記回転軸に対して配置された請求項2記載のポータブル電子機器。
【請求項4】
前記電磁機構は、
前記回転軸の固定側に当該回転軸の軸方向に沿って2つの異なる磁極が配置されるように前記永久磁石が固定され、
前記支持部材に前記回転軸の軸方向に沿って往復移動可能に前記電磁石が設けられると共に、当該電磁石は2つの異なる磁極が当該回転軸の軸方向に沿って生じるように配置された請求項3記載のポータブル電子機器。
【請求項5】
前記電磁機構は、
前記支持部材が2分割された一対の分割支持部材と、
前記一対の分割支持部材の少なくとも一つを前記回転軸に対して直交する方向で移動可能に保持する保持部材と、
前記一方の分割支持部材が有する前記永久磁石と、
前記回転軸を中心にして前記永久磁石と対向配置され前記他方の分割支持部材が有する前記電磁石と、
前記一対の分割支持部材の内周面及び前記回転軸の外周面にそれぞれ噛み合うように歯車が設けられたラッチ機構とから構成された請求項3記載のポータブル電子機器。
【請求項6】
前記ヒンジ機構は、前記蓋体に作用する前記開閉トルクを摩擦抵抗によって前記回転軸に与える摩擦抵抗付与部を備え、前記摩擦抵抗付与部は前記回転軸及び前記支持部材間の嵌め合わせ部に介在された請求項1乃至請求項5のうち何れか1項に記載のポータブル電子機器。
【請求項7】
前記電磁石を励磁電流によって制御する制御部と、
前記制御部に電磁石励磁信号を送出する電磁石励磁スイッチとを備えた請求項1乃至請求項6のうち何れか1項に記載のポータブル電子機器。
【請求項8】
前記蓋体は、
前記電磁石励磁スイッチと、
前記蓋体が閉じられると当該蓋体を前記本体にラッチすると共に、前記蓋体が開かれるとラッチ状態が解除され前記電磁石励磁スイッチをオン状態にするラッチ・フックとを備えた請求項7記載のポータブル電子機器。
【請求項9】
前記制御部は、前記電磁石励磁スイッチからの前記電磁石励磁信号の入力が途絶えると、前記励磁電流の電流値を所定時間において下げてゼロにする電流制御機能を有する請求項7又は請求項8記載のポータブル電子機器。
【請求項10】
前記電磁石を励磁電流によって制御する制御部と、
前記蓋体の開閉角度を検出してその開閉角度に応じた電磁石励磁信号を前記制御部に送出する回転角度センサとを備えた請求項1乃至請求項6のうち何れか1項に記載のポータブル電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−145927(P2009−145927A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−319291(P2007−319291)
【出願日】平成19年12月11日(2007.12.11)
【出願人】(505205731)レノボ・シンガポール・プライベート・リミテッド (292)
【復代理人】
【識別番号】100077584
【弁理士】
【氏名又は名称】守谷 一雄
【復代理人】
【識別番号】100106699
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 弘道
【Fターム(参考)】