説明

マイクロポンプによる送液方法および送液システム

【課題】差圧の変化に対する流路抵抗の変化割合を利用した双方向送液が可能なマイクロポンプにおいて、例えばマイクロリアクタの流路内において反応に用いる液を下流へ送液する場合のような主方向への送液時における送液速度を早めることができると同時に、いずれの方向に送液する場合であってもポンプ室内における気泡の発生を十分に防止可能な送液方法および送液システムを提供する。
【解決手段】第1流路および、差圧の変化に対する流路抵抗の変化割合が第1流路よりも小さい第2流路が連通する加圧室に接続された振動アクチュエータに対して、第1流路から第2流路に向かう方向へ液体を送液するための第1の駆動電圧波形における電圧の立ち上り時間T1を、第2流路から第1流路に向かう方向へ液体を送液するための第2の駆動電圧波形における電圧の立ち下り時間T7よりも短くした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロポンプによる送液方法および送液システムに関し、さらに詳しくは、差圧の変化に対する流路抵抗の変化割合が互いに異なる流路が接続された加圧室の内部圧力を変化させ、加圧室に接続されたアクチュエータへ印加する電圧波形によって液体を双方向へ送液するマイクロポンプの送液方法および送液システムに関する。特に、マイクロリアクタの流路内において、マイクロポンプからの駆動液によって反応に用いる液体を送液する技術の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マイクロマシン技術および超微細加工技術を駆使することにより、従来の試料調製、化学分析、化学合成などを行うための装置、手段(例えばポンプ、バルブ、流路、セ
ンサーなど)を微細化して1チップ上に集積化したシステムが開発されている。これは、
μ−TAS(Micro total Analysis System)、バイオリアクタ、ラブ・オン・チップ(Lab-on-chips)、バイオチップとも呼ばれ、医療検査・診断分野、環境測定分野、農産製
造分野でその応用が期待されている。現状の遺伝子検査に見られるように、煩雑な工程、熟練した手技、機器類の操作が必要とされる場合には、自動化、高速化および簡便化されたミクロ化分析システムは、コスト、必要試料量、所要時間のみならず、時間および場所を選ばない分析を可能とする点でその恩恵は多大と言える。
【0003】
また、各種の分析、検査ではこれらの分析用チップにおける分析の定量性、解析の精度、経済性などが重要視される。そのためにはシンプルな構成で、高い信頼性の送液システムを確立することが課題であり、精度が高く信頼性に優れるマイクロ流体制御素子が求められているが、このようなマイクロポンプシステムの一つとして、特許文献1に開示されているものがある。
【0004】
このマイクロポンプは、アクチュエータに印加する電圧波形によって双方向への送液が可能であり、差圧の変化に対する流路抵抗の変化割合が互いに異なる流路を加圧室に接続した構造を備えている。加圧室の壁面にはダイヤフラムが形成されており、その外面にピエゾ素子等からなるアクチュエータが接続されている。加圧室には、流路抵抗が差圧に応じて変化する第1流路と、差圧の変化に対する流路抵抗の変化割合が第1流路よりも小さい第2流路とが連通している。
【0005】
アクチュエータに対して図5(a)に示す波形の電圧を印加すると、急峻に電圧が立ち上がる期間T1において、加圧室の内部へ向かう方向へ素早くダイヤフラムが変位して、第1流路および第2流路に大きい差圧が与えられながら加圧室の体積が減少する。
【0006】
次いで、期間T2において電圧は一定値e1に維持され、その後、緩やかに電圧が立ち下がる期間T3において、加圧室からその外側に向かう方向へゆっくりダイヤフラムが変位して、第1流路および第2流路に小さい差圧が与えられながら加圧室の体積が増加する。
【0007】
期間T4の間隔をおいて繰り返し上記台形状の電圧波形を印加することによって、液体は一方の方向へ送液される。
そして、液体を反対方向へ送液する場合には、電圧制御の利便性等から図5(a)の波形を反転させた形状をもつ図5(b)の電圧波形が用いられている。アクチュエータに対して図5(b)に示す波形の電圧を印加すると、緩やかに電圧が立ち上がる期間T5において、加圧室の内部へ向かう方向へゆっくりダイヤフラムが変位して、第1流路および第
2流路に小さい差圧が与えられながら加圧室の体積が減少する。
【0008】
次いで、期間T6において電圧は一定値e1に維持され、その後、急峻に電圧が立ち下がる期間T7において、加圧室からその外側に向かう方向へ素早くダイヤフラムが変位して、第1流路および第2流路に大きい差圧が与えられながら加圧室の体積が増加する。
【0009】
期間T8の間隔をおいて繰り返し上記台形状の電圧波形を印加することによって、液体は上記反対方向へ送液される。
このマイクロポンプをマイクロリアクタの流路上流側に連通させ、マイクロリアクタの流路へ駆動液を送出することによって、マイクロリアクタの流路内にある反応に用いる液体を押して送液することができる。
【0010】
また、例えばマイクロリアクタ内の反応部で試薬等を前後に揺らしながら反応を進行させる場合には、マイクロポンプのアクチュエータに図5(a)の電圧波形と図5(b)の電圧波形とを交互に印加することによって、駆動液と一連に繋がっている反応液の送液方向を正逆方向へ複数回切り換えながら当該操作を行うことができる。
【特許文献1】特開2001−322099号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このマイクロポンプによる送液速度をより早める必要がある場合、図5(a)の電圧波形における立ち上がり期間T1を短くすることで速度を上げることができる。図5(b)の電圧波形における立ち下がり期間T7を短くする場合も同様である。
【0012】
ところが、このようにして送液速度を早めると、次の問題が生じるようになる。すなわち、図5(a)の波形で第1流路から第2流路に向かう方向へ送液した場合と比べて、図5(b)の波形で第2流路から第1流路に向かう方向へ送液した場合では、アクチュエータの振動に伴ってマイクロポンプの加圧室内部に発生する負圧が大きくなる。
【0013】
そのため、ポンプ室内部にキャビテーションによる気泡が発生し易くなり、正常な送液が阻害される要因となる。
本発明は、差圧の変化に対する流路抵抗の変化割合を利用した双方向送液が可能なマイクロポンプにおいて、例えばマイクロリアクタの流路内において反応に用いる液を下流へ送液する場合のような主方向への送液時における送液速度を早めることができると同時に、いずれの方向に送液する場合であってもポンプ室内における気泡の発生を十分に防止可能な送液方法および送液システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のマイクロポンプによる送液方法は、流路抵抗が差圧に応じて変化する第1流路と、
差圧の変化に対する流路抵抗の変化割合が第1流路よりも小さい第2流路と、
第1流路および第2流路に接続された加圧室と、
該加圧室の内部圧力を変化させるアクチュエータと、
を備えたマイクロポンプを用いて液体を双方向へ送液する方法であって、
略台形状の電圧波形が繰り返される第1の駆動電圧波形によってアクチュエータを駆動して第1流路から第2流路に向かう方向へ液体を送液するとともに、
略台形状の電圧波形が繰り返される第2の駆動電圧波形によってアクチュエータを駆動して第2流路から第1流路に向かう方向へ液体を送液し、
第1の駆動電圧波形における電圧の立ち上り時間を、第2の駆動電圧波形における電圧の立ち下り時間よりも短くすることを特徴とする。
【0015】
上記の発明において、マイクロポンプの第2流路側に、板状チップ内の流路において反応に用いる液体が送液されるマイクロリアクタの流路上流に設けられた駆動液注入部を連通させ、
前記第1の駆動電圧波形によってアクチュエータを駆動して第1流路から第2流路に向かう方向へ駆動液を送液し、前記駆動液注入部からマイクロリアクタの流路内に注入された駆動液によって前記反応に用いる液体を下流へ押して送液することが好ましい。
【0016】
上記の発明において、前記第2の駆動電圧波形によってアクチュエータを駆動して第2流路から第1流路に向かう方向へ駆動液を送液し、駆動液と一連に繋がっている前記反応に用いる液体を、下流とは逆方向の前記駆動液注入部側へ送液することが好ましい。
【0017】
本発明のマイクロポンプによる送液システムは、
(i)流路抵抗が差圧に応じて変化する第1流路と、
差圧の変化に対する流路抵抗の変化割合が第1流路よりも小さい第2流路と、
第1流路および第2流路に接続された加圧室と、
該加圧室の内部圧力を変化させるアクチュエータと、
を備えた液体を双方向へ送液可能なマイクロポンプと、
(ii)アクチュエータを駆動するための、略台形状の電圧波形が繰り返される第1の駆動電圧波形および第2の駆動電圧波形を生成する手段と、
を備え、
第1の駆動電圧波形における電圧の立ち上り時間は、第2の駆動電圧波形における電圧の立ち下り時間よりも短く、
第1の駆動電圧波形によってアクチュエータを駆動して第1流路から第2流路に向かう方向へ液体を送液し、
第2の駆動電圧波形によってアクチュエータを駆動して第2流路から第1流路に向かう方向へ液体を送液することを特徴とする。
【0018】
上記の発明において、送液システムは、板状チップ内の流路に反応に用いる液体が予め収容され当該流路内において試薬を用いた反応が行われるマイクロリアクタを備え、
マイクロリアクタの流路上流には、前記反応に用いる液体を送液するための駆動液が注入される駆動液注入部が設けられ、
前記マイクロポンプの第2流路側に、マイクロリアクタの駆動液注入部が連通され、
前記第1の駆動電圧波形によってアクチュエータを駆動して第1流路から第2流路に向かう方向へ駆動液を送液し、駆動液注入部からマイクロリアクタの流路内に注入された駆動液によって前記反応に用いる液体を下流へ押して送液することが好ましい。
【0019】
上記の発明において、前記第2の駆動電圧波形によってアクチュエータを駆動して第2流路から第1流路に向かう方向へ駆動液を送液し、駆動液と一連に繋がっている前記反応に用いる液体を、下流とは逆方向の前記駆動液注入部側へ送液することが好ましい。
【0020】
以上の発明によれば、差圧の変化に対する流路抵抗の変化割合が第1流路よりも小さい第2流路の下流側へ、駆動液による送液対象の液体がある流路、例えばマイクロリアクタの流路を連通させて、第1流路から第2流路に向かう方向を送液の主方向とし、この方向へ送液するための第1の駆動電圧波形と、その反対側へ送液するための第2の駆動電圧波形とを非対称な形状としている。具体的には、第1の駆動電圧波形における電圧の立ち上がり時間を、第2の駆動電圧波形における電圧の立ち下り時間よりも短くしている。
【0021】
そのため、一方向への送液時と他方向への送液時における電圧値が同一としても、主方向への送液速度を早めることができると同時に、キャビテーションによりポンプ室内に気
泡が発生し易い第2流路から第1流路への送液時にも気泡の発生が抑制される。主方向とは反対側の第2流路から第1流路への送液速度は、主方向への送液速度よりも遅くなるが、逆方向送液の用途および使用頻度の点から実用上の影響は小さい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、主方向への送液時における送液速度を早めることができると同時に、いずれの方向に送液する場合であってもポンプ室内における気泡の発生が十分に防止される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面を参照しながら本発明の実施例について説明する。図1は、本発明の一実施例において使用されるマイクロポンプユニットの断面図、図2は、その斜視図、図3(a)および図3(b)は、マイクロポンプによる主方向(A方向)および逆方向(B方向)への送液時における駆動電圧波形および液の送出量を示したグラフである。図4は、このマイクロポンプユニットを用いて送液を行うマイクロリアクタを示した図である。
【0024】
なお、本実施例で用いられるマイクロリアクタは、マイクロリアクタの流路に予め収容された試薬と、分析時にマイクロリアクタの流路内に注入される検体との遺伝子増幅反応およびその検出を行うものである。
【0025】
図1および図2に示すマイクロポンプユニット1は、シリコン製の基板7と、その上のガラス製の基板8と、その上のガラス製の基板9との3つの基板から構成されている。基板7と基板8、および基板8と基板9はそれぞれ、陽極接合によって接合されている。
【0026】
シリコン製の基板7と、その上に陽極接合によって貼り合わされたガラス製の基板8との間の内部空間によってマイクロポンプ2が構成されている。
基板7は、シリコンウエハをフォトリソグラフィ技術により所定の形状に加工したものである。例えば、シリコン基板面への酸化膜の形成、レジスト塗布、レジストの露光および現像、酸化膜のエッチング、ICP(高周波誘導結合型プラズマ、Inductively Coupled Plasma)などによるシリコンのエッチング等を含む微細加工によって、加圧室12、第1流路13、第1液室15、第2流路14、および第2液室16が形成されている。
【0027】
加圧室12の位置では、シリコン基板がダイヤフラムに加工され、その外側表面には、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)セラミックスなどからなるピエゾアクチュエータ11が貼着されている。
【0028】
このマイクロポンプ2は、ピエゾアクチュエータ11へ印加する電圧によって次のように駆動される。所定波形の電圧を印加することによりピエゾアクチュエータ11が振動すると、それと共に、加圧室12の位置におけるシリコンダイヤフラムが振動し、これによって加圧室12の体積が増減する。第1流路13と第2流路14とは、幅および深さが同じで、長さが第1流路13よりも第2流路14の方が長くなっている。
【0029】
第1流路13では、差圧が大きくなると、流路内で乱流が発生し、流路抵抗が増加する。一方、第2流路14では、流路幅が長いので差圧が大きくなっても層流になり易く、第1流路13に比べて差圧の変化に対する流路抵抗の変化割合が小さくなる。
【0030】
なお、第1流路13と第2流路14における、差圧の変化に対する流路抵抗の変化割合の相違は、必ずしも流路の長さの違いによる必要はなく、他の形状的な相違に基づくものであってもよい。
【0031】
ピエゾアクチュエータ11に対して図3(a)に示す波形の電圧を印加すると、急峻に電圧が立ち上がる期間T1において、加圧室12の内部へ向かう方向へ素早くダイヤフラムが変位して、第1流路13および第2流路14に大きい差圧が与えられながら加圧室12の体積が減少する。
【0032】
次いで、期間T2において電圧は一定値e1に維持され、その後、緩やかに電圧が立ち下がる期間T3において、加圧室12からその外側に向かう方向へゆっくりダイヤフラムが変位して、第1流路13および第2流路14に小さい差圧が与えられながら加圧室12の体積が増加する。
【0033】
期間T4の間隔をおいて繰り返し上記台形状の電圧波形を印加することによって、液体は図1においてA方向へ送液される。
一方、ピエゾアクチュエータ11に対して図3(b)に示す波形の電圧を印加すると、緩やかに電圧が立ち上がる期間T5において、加圧室12の内部へ向かう方向へゆっくりダイヤフラムが変位して、第1流路13および第2流路14に小さい差圧が与えられながら加圧室12の体積が減少する。
【0034】
次いで、期間T6において電圧は一定値e1に維持され、その後、急峻に電圧が立ち下がる期間T7において、加圧室12からその外側に向かう方向へ素早くダイヤフラムが変位して、第1流路13および第2流路14に大きい差圧が与えられながら加圧室12の体積が増加する。
【0035】
期間T8の間隔をおいて繰り返し上記台形状の電圧波形を印加することによって、液体は図1においてB方向へ送液される。
本実施例では、B方向へ送液する際の図3(b)の台形電圧波形として、A方向へ送液する際の図3(a)の台形電圧波形を反転させたものを用いるのではなく、図3(a)の台形電圧波形と図3(b)の台形電圧波形とは互いに非対称な形状になっている。
【0036】
すなわち、A方向へ送液する際の駆動電圧波形における電圧の立ち上り時間T1を、B方向へ送液する際の駆動電圧波形における電圧の立ち下り時間T7よりも短くしている。
したがって、図3(a)の台形電圧波形における短い立ち上り時間T1によって、送液の主方向であるA方向への送液速度を早めることができると共に、図3(b)の台形電圧波形における立ち下り時間T7は、B方向への送液速度に実用上の支障がない程度に、図3(a)の台形電圧波形の立ち上り時間T1よりも長くなっているので、キャビテーションによりポンプ室内に気泡が発生し易いB方向への送液時にも気泡の発生が抑制される。
【0037】
基板9には、流路10がパターニングされており、流路10の下流側には、図4のマイクロリアクタの開口32a〜32kに位置合わせすることによりマイクロポンプ2を検査チップの微細流路に連通させるための開口5が設けられている。
【0038】
流路10の上流側は、基板8の貫通孔6bを介して、基板7に設けられた流路を通りマイクロポンプ2に連通されている。また、マイクロポンプ2の上流側は、基板7に設けられた流路から基板8の貫通孔6aを介して、ガラス製の基板9に設けられた開口4に連通されている。この開口4は不図示の駆動液タンクに接続されている。開口4は、例えば、PDMS(ポリジメチルシロキサン)のパッキンを介して駆動液タンクに接続される。
【0039】
開口5a,5b,5cはそれぞれ、図4のマイクロリアクタの開口32c,32d,32eと連通される(なお、図2ではマイクロポンプユニット全体のうち一部分のみ示している)。マイクロポンプ2によって、流路10、開口5a、開口32cを通じて駆動液を送液して試薬収容部33aに収容された試薬を下流へ押し出し、流路10、開口5b、開
口32dを通じて駆動液を送液して試薬収容部33bに収容された試薬を下流へ押し出し、流路10、開口5c、開口32eを通じて駆動液を送液して試薬収容部33cに収容された試薬を下流へ押し出す。
【0040】
試薬収容部33a〜33cに収容された試薬は、開口32c〜32eに連通するそれぞれ別途のマイクロポンプによって、試薬収容部33a〜33cの下流側端部に設けられた撥水バルブ(図示せず)を通過して合流部41へ流れ込み、その先に続く流路である試薬混合流路35で3種類の各試薬が混合される。
【0041】
試薬混合流路35で混合され混合試薬送出流路36に送り出された混合試薬は、流路状の試料受容部37に収容された試料と合流部38で合流する。なお、混合試薬は開口32bに連通したマイクロポンプ2によって駆動液で下流へ押し出され、試料は開口32aに連通したマイクロポンプ2によって駆動液で下流へ押し出される。混合試薬と試料との混合液は、反応部39へ送出され、加熱によって遺伝子増幅反応が開始される。
【0042】
反応後の液は、検出部40へ送出され、例えば光学的な検出方法などによって標的物質が検出される。なお、開口32f〜32jに連通するそれぞれ別途のマイクロポンプ2によって、これらの開口から先の流路に予め収容された各試薬(例えば混合試薬と試料との反応を停止させる液、検出対象の物質に対して標識などの必要な処理を行うための液、洗浄液など)を所定のタイミングで下流へ押し出して送液するようにしている。
【0043】
図2のマイクロポンプ2におけるA方向の送液は、試薬同士の合流、反応部39への試薬および試料の送液など、マイクロリアクタ30の流路内にある反応、検出に用いる液体を下流へ押して送液する際に用いられる。
【0044】
一方、B方向の送液は、反応部39などで試薬を前後に揺らしたり、下流へ進め過ぎた液体を少し戻したりする場合等に用いられるが、A方向への送液と比べれば使用頻度は低いので、多少送液速度が遅くても実用上の問題は起こりにくい。
【0045】
本実施例の電圧波形によってマイクロポンプ2を制御すれば、マイクロリアクタ30内の流路においてA方向への素早い送液が実行でき、さらに、B方向への送液時にもマイクロポンプ2のポンプ室には気泡が発生しにくい。
【0046】
以上、実施例に基づいて本発明を説明したが、本発明はこの実施例に限定されることはなく、その要旨を逸脱しない範囲内において各種の変形、変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】図1は、本発明の一実施例において使用されるマイクロポンプユニットの断面図である。
【図2】図2は、図1のマイクロポンプユニットの斜視図である。
【図3】図3(a)は、主方向(A方向)への送液時における駆動電圧波形および液の送出量を示したグラフ、図3(b)は、逆方向(B方向)への送液時における駆動電圧波形および液の送出量を示したグラフである。
【図4】図4は、図1のマイクロポンプユニットを用いて送液を行うマイクロリアクタを示した図である。
【図5】図5(a)および図5(b)は、マイクロポンプの送液時における従来の駆動電圧波形および液の送出量を示し、図5(a)は、マイクロポンプによる第1流路から第2流路に向かう方向への送液時における駆動電圧波形および液の送出量を示したグラフ、図5(b)は、第2流路から第1流路に向かう方向への送液時における駆動電圧波形および液の送出量を示したグラフである。
【符号の説明】
【0048】
1 マイクロポンプユニット
2 マイクロポンプ
3 チップ接続部
4 開口
5a〜5c 開口
6a,6b 貫通孔
7 基板
8 基板
9 基板
10 流路
11 ピエゾアクチュエータ
12 加圧室
13 第1流路
14 第2流路
15 第1液室
16 第2液室
30 マイクロリアクタ
32a〜32k 開口
33a〜33c 試薬収容部
35 試薬混合流路
36 混合試薬送出流路
37 試料受容部
38 合流部
39 反応部
40 検出部
41 合流部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路抵抗が差圧に応じて変化する第1流路と、
差圧の変化に対する流路抵抗の変化割合が第1流路よりも小さい第2流路と、
第1流路および第2流路に接続された加圧室と、
該加圧室の内部圧力を変化させるアクチュエータと、
を備えたマイクロポンプを用いて液体を双方向へ送液する方法であって、
略台形状の電圧波形が繰り返される第1の駆動電圧波形によってアクチュエータを駆動して第1流路から第2流路に向かう方向へ液体を送液するとともに、
略台形状の電圧波形が繰り返される第2の駆動電圧波形によってアクチュエータを駆動して第2流路から第1流路に向かう方向へ液体を送液し、
第1の駆動電圧波形における電圧の立ち上り時間を、第2の駆動電圧波形における電圧の立ち下り時間よりも短くすることを特徴とするマイクロポンプによる送液方法。
【請求項2】
マイクロポンプの第2流路側に、板状チップ内の流路において反応に用いる液体が送液されるマイクロリアクタの流路上流に設けられた駆動液注入部を連通させ、
前記第1の駆動電圧波形によってアクチュエータを駆動して第1流路から第2流路に向かう方向へ駆動液を送液し、前記駆動液注入部からマイクロリアクタの流路内に注入された駆動液によって前記反応に用いる液体を下流へ押して送液することを特徴とする請求項1に記載のマイクロポンプによる送液方法。
【請求項3】
前記第2の駆動電圧波形によってアクチュエータを駆動して第2流路から第1流路に向かう方向へ駆動液を送液し、駆動液と一連に繋がっている前記反応に用いる液体を、下流とは逆方向の前記駆動液注入部側へ送液することを特徴とする請求項2に記載のマイクロポンプによる送液方法。
【請求項4】
(i)流路抵抗が差圧に応じて変化する第1流路と、
差圧の変化に対する流路抵抗の変化割合が第1流路よりも小さい第2流路と、
第1流路および第2流路に接続された加圧室と、
該加圧室の内部圧力を変化させるアクチュエータと、
を備えた液体を双方向へ送液可能なマイクロポンプと、
(ii)アクチュエータを駆動するための、略台形状の電圧波形が繰り返される第1の駆動電圧波形および第2の駆動電圧波形を生成する手段と、
を備え、
第1の駆動電圧波形における電圧の立ち上り時間は、第2の駆動電圧波形における電圧の立ち下り時間よりも短く、
第1の駆動電圧波形によってアクチュエータを駆動して第1流路から第2流路に向かう方向へ液体を送液し、
第2の駆動電圧波形によってアクチュエータを駆動して第2流路から第1流路に向かう方向へ液体を送液することを特徴とするマイクロポンプによる送液システム。
【請求項5】
板状チップ内の流路に、反応に用いる液体が予め収容され、当該流路内において試薬を用いた反応が行われるマイクロリアクタを備え、
マイクロリアクタの流路上流には、前記反応に用いる液体を送液するための駆動液が注入される駆動液注入部が設けられ、
前記マイクロポンプの第2流路側に、マイクロリアクタの駆動液注入部が連通され、
前記第1の駆動電圧波形によってアクチュエータを駆動して第1流路から第2流路に向かう方向へ駆動液を送液し、駆動液注入部からマイクロリアクタの流路内に注入された駆動液によって前記反応に用いる液体を下流へ押して送液することを特徴とする請求項4に記載のマイクロポンプによる送液システム。
【請求項6】
前記第2の駆動電圧波形によってアクチュエータを駆動して第2流路から第1流路に向かう方向へ駆動液を送液し、駆動液と一連に繋がっている前記反応に用いる液体を、下流とは逆方向の前記駆動液注入部側へ送液することを特徴とする請求項5に記載のマイクロポンプによる送液システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−224844(P2007−224844A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−48545(P2006−48545)
【出願日】平成18年2月24日(2006.2.24)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】