説明

マイクロリアクターの製造方法

【課題】外部への熱の影響を抑制しながら高効率の触媒反応を可能とする信頼性の高いマイクロリアクターを簡便に製造するための方法を提供する。
【解決手段】マイクロリアクター1を、真空筐体2と、この真空筐体内の真空密閉キャビティ3内に配設されたマイクロリアクター本体4とを備えるものとし、筐体用部材作製工程では、筐体を構成するための複数の筐体用部材2A,2Bを作製し、穿設工程では筐体用部材2Bに排気用孔部2bを形成し、接合工程では、マイクロリアクター本体4を筐体用部材に装着し、複数の筐体用部材を接合して筐体2を作製し、気密検査工程では、排気用孔部2bを除く筐体2についてリークの有無を検査し、脱ガス工程では、真空チャンバー21内に筐体2を載置して前記筐体に脱ガス処理を施し、閉塞工程では、真空チャンバー内で排気用孔部2bを閉塞して、筐体2内に真空密閉キャビティ3を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロリアクター、特に担持した触媒によって所望の反応を進行させるためのマイクロリアクターの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、触媒を利用したリアクターが種々の分野で使用されており、目的に応じて最適な設計がなされている。
一方、近年、地球環境保護の観点で二酸化炭素等の地球温暖化ガスの発生がなく、また、エネルギー効率が高いことから、水素を燃料とすることが注目されている。特に、燃料電池は水素を直接電力に変換できることや、発生する熱を利用するコジェネレーションシステムにおいて高いエネルギー変換効率が可能なことから注目されている。これまで燃料電池は宇宙開発や海洋開発等の特殊な条件において採用されてきたが、最近では自動車や家庭用分散電源用途への開発が進んでおり、また、携帯機器用の燃料電池も開発されている。
携帯機器用の燃料電池では小型化が必須であり、炭化水素系燃料を水蒸気改質して水素ガスを生成する改質器の小型化が種々検討されている。例えば、金属基板、シリコン基板、セラミックス基板等にマイクロチャネルを形成し、このマイクロチャネル内に触媒を担持した種々のマイクロリアクターが開発されている。
【0003】
このような燃料電池に使用する水素生成用のマイクロリアクターは、炭化水素系燃料の水蒸気改質温度が高く、例えば、最も低温のメタノールでも250〜300℃となる。このため、高温となる反応部を筐体内に配置して外部と断熱することが必要となる。そして、筐体としてガラス製容器を使用し、反応部とガラス製容器との断熱手段として、断熱効率の最も高い真空断熱を使用したマイクロリアクターが開発されている(特許文献1、2)。このようなガラス製容器は、反応部内に担持された触媒が性能低下を生じないような温度での真空封止(例えば、陽極接合等の手段による)を行うことができ、また、ガラス表面の吸着物の脱ガスによる真空度低下の可能性が低いという利点がある。
【特許文献1】特開2005−259354号公報
【特許文献2】特開2007−95359号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、内部に反応部を配置するための筐体をステンレス鋼のような金属材料を用いて作製する場合、ガラス材料に比べて接合が難しく、また、アウトガスが生じて真空度が低下するおそれがあり、真空封止が重要な問題となっている。
本発明は、上述のような実情に鑑みてなされたものであり、外部への熱の影響を抑制しながら高効率の触媒反応を可能とする信頼性の高いマイクロリアクターを簡便に製造するための方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような目的を達成するために、本発明は、金属製の真空筐体と、該真空筐体内の真空密閉キャビティ内に配設されたマイクロリアクター本体とを備えるマイクロリアクターの製造方法において、筐体を構成するための複数の筐体用部材を作製する筐体用部材作製工程と、該筐体用部材に排気用孔部を形成する穿設工程と、マイクロリアクター本体を前記筐体用部材に装着し、複数の前記筐体用部材を接合して筐体を作製する接合工程と、前記排気用孔部を除く前記筐体についてリークの有無を検査する気密検査工程と、真空チャンバー内に前記筐体を載置して前記筐体に脱ガス処理を施す脱ガス工程と、前記真空チャンバー内で前記排気用孔部を閉塞して筐体内に真空密閉キャビティを形成する閉塞工程と、を備えるような構成とした。
【0006】
本発明の他の態様として、前記穿設工程では、前記排気用孔部の直径を前記筐体用部材の厚みの半分以下とするような構成とした。
本発明の他の態様として、前記穿設工程では、前記排気用孔部の周囲であって前記筐体用部材の外側に肉厚部を形成するような構成とした。
本発明の他の態様として、前記脱ガス工程では、マイクロリアクター本体が備える発熱体および/または筐体外部のヒーターを使用して加熱するような構成とした。
本発明の他の態様として、前記真空チャンバーはガラス窓を具備し、前記閉塞工程では、前記ガラス窓からレーザーを照射して前記排気用孔部の閉塞を行うような構成とした。
本発明の他の態様として、前記気密検査工程では、前記排気用孔部より排気して前記筐体内部を減圧するとともに排気経路にガス検出器を配置し、筐体外部に検査用ガスを噴きつけ、前記ガス検出器にて前記検査用ガスを検出するか否かで気密性を判定するような構成とした。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、気密検査工程を有することにより、リークが発生している欠陥筐体を検出することができ、また、脱ガス工程において、筐体から発生するおそれのあるアウトガスが予め排除されるので、筐体が真空密封された後に筐体からのアウトガスによって真空度が低下することを防止でき、また、真空チャンバー内で排気用孔部を閉塞するので、筐体内部を高真空状態の真空密閉キャビティとすることができ、これにより、小型でありながら外部への熱の影響が抑制され、かつ、触媒反応の効率が高いマイクロリアクターの製造が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
まず、本発明のマイクロリアクターの製造方法により製造されるマイクロリアクターについて説明する。
図1は、本発明の製造方法により製造されるマイクロリアクターの一例を示す斜視図であり、図2は図1に示されるマイクロリアクターのI−I線における拡大縦断面図である。図1および図2において、マイクロリアクター1は、筐体2と、この筐体2内の真空密閉キャビティ3内に載置されたマイクロリアクター本体4と、このマイクロリアクター本体4に配設された発熱体7とを備えている。
【0009】
筐体2は、マイクロリアクター本体4の周囲に真空密閉キャビティ3を設けるためのものであり、例えば、ステンレス鋼、銅、アルミニウム、チタン、鉄等の材質からなるものであってよい。また、筐体2の形状は、図示例では直方体形状であるが、これに限定されるものではない。真空筐体2の内容積、形状は、マイクロリアクター本体4の形状と断熱作用を考慮して適宜設定することができ、例えば、真空密閉キャビティ3の厚み(マイクロリアクター本体4と筐体2の内壁面との距離)が1mm以上、好ましくは2〜15mmの範囲となるように設定することができる。
また、マイクロリアクター本体4は、原料導入口19aおよびガス排出口19bを有し、原料導入口19aは原料供給管5Aにより筐体2の外部と接続され、ガス排出口19bはガス排出管5Bにより筐体2の外部と接続されている。
【0010】
図3は図1、図2に示されるマイクロリアクター1を構成するマイクロリアクター本体4の一例を示す斜視図であり、図4は図3に示されるマイクロリアクター本体4のII−II線における拡大縦断面図である。図3および図4において、マイクロリアクター本体4は、一方の面14aに微細溝部15が形成された金属基板14と、一方の面16aに微細溝部17が形成された金属基板16とが、微細溝部15と微細溝部17が対向するように接合された接合体12を有している。この接合体12の内部には、対向する微細溝部15,17で構成されたトンネル状流路13が形成されており、このトンネル状流路13の内壁面の全面に触媒担持層18が配設されており、この触媒担持層18に触媒Cが担持されている。また、トンネル状流路13は、上記の接合体12の対向する端面に設けられている原料導入口19aとガス排出口19bに連通している。
【0011】
図5は、図3に示されるマイクロリアクター本体4の金属基板14と金属基板16を離間させた状態を示す斜視図である。尚、図5では、触媒担持層18を省略している。図5に示されるように、微細溝部15,17は、180度折り返して蛇行しながら連続する形状で形成されている。そして、微細溝部15と微細溝部17は、金属基板14,16の接合面に対して対称関係にあるパターン形状である。したがって、金属基板14,16の接合により、微細溝部15の端部15aが微細溝部17の端部17a上に位置し、微細溝部15の端部15bが微細溝部17の端部17b上に位置して、微細溝部15と微細溝部17が完全に対向している。このような微細溝部15,17で構成されるトンネル状流路13の端部が、図3に示されるように、原料導入口19aとガス排出口19bをなしている。尚、マイクロリアクター本体4のトンネル状流路13の形状、原料導入口19aおよびガス排出口19bの位置は、図示例に限定されるものではない。したがって、原料供給管5Aとガス排出管5Bの位置も、図1および図2に示されるものに限定されない。
【0012】
マイクロリアクター本体4を構成する金属基板14,16は、トンネル状流路13の壁面を構成する微細溝部15,17の加工が容易で、かつ、接合が容易な金属材料を選択することができ、例えば、ステンレス基板、銅基板、アルミニウム基板、チタン基板、鉄基板、鉄合金基板等であってよい。ステンレス基板の場合、微細溝部15,17の精密加工が容易であるとともに、拡散接合、溶接、ロウ付けにより強固な接合体12が得られる。また、銅基板の場合、微細溝部15,17の精密加工が容易であるとともに、拡散接合、各種の溶接、ロウ付けにより強固な接合体12が得られる。金属基板14,16の厚みは、マイクロリアクター本体4の大きさ、使用する金属の熱容量、熱伝導率等の特性、形成する微細溝部15,17の大きさ等を考慮して適宜設定することができるが、例えば、50〜5000μm程度の範囲で設定することができる。
【0013】
金属基板14,16に形成される微細溝部15,17は、図5に示されるような形状に限定されるものではなく、微細溝部15,17内に担持する触媒Cの量が多くなり、かつ、原料が触媒Cと接触する流路長が長くなるような任意の形状とすることができる。
また、トンネル状流路13の流体の流れ方向に垂直な断面における微細溝部15,17の内壁面の形状は、円弧形状ないし半円形状、あるいは、U字形状が好ましい。このような微細溝部15,17からなるトンネル状流路13の径は、例えば、100〜2000μm程度の範囲内で設定することができ、流路長は30〜300mm程度の範囲とすることができる。
触媒担持層18は無機酸化物被膜であり、例えば、溶射により形成したアルミナ(Al23)被膜、ムライト(Al23・2SiO2)被膜、シリカ(SiO2)皮膜、ジルコニア(ZrO2)皮膜、チタニア(TiO2)皮膜、セリア(CeO2)被膜等とすることができる。このような触媒担持層18の厚みは、例えば、10〜50μm程度の範囲で適宜設定することができる。
【0014】
触媒Cとしては、マイクロリアクター1の使用目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水素製造に使用する場合、触媒CとしてCu−Zn系、Pd−Zn系等の改質触媒、Pt、Pd、NiO、Co23、CuO等の燃焼触媒を使用することができる。
図6は、マイクロリアクター本体4を構成する発熱体7を説明するための平面図である。図6に示されるように、発熱体7は、180度折り返して蛇行しながら連続する形状で電気絶縁層6上に形成されており、発熱体7の両端部には電極8,8が配設されている。
電気絶縁層6は、例えば、ポリイミド、セラミックス(Al23、SiO2)等とすることができる。また、電気絶縁層6は、接合体12の陽極酸化により形成した金属酸化膜であってもよい。このような電気絶縁層6の厚みは、使用する材料の特性等を考慮して適宜設定することができ、例えば、0.5〜150μm程度の範囲で設定することができる。
【0015】
発熱体7は、吸熱反応である原料の触媒反応に必要な熱を供給するためのものであり、カーボンペースト、ニクロム(Ni−Cr合金)、W、Mo、Au、Ti等の材質を使用することができる。この発熱体7の形状は、図6に示されるように、例えば、幅10〜200μm程度の細線を電気絶縁層6上に引き回したような形状とすることができるが、このような形状に限定されず、適宜設定することができる。
発熱体7に形成された通電用の電極8,8は、Au、Ag、Pd、Pd−Ag等の導電材料を用いて形成することができ、また、発熱体7と同じ材質であってもよい。この電極8,8は、筐体を貫通するように配設されたリードピン(図示せず)に配線(図示せず)を介して接続されており、リードピンは外部電源に接続される。
【0016】
次に、本発明のマイクロリアクターの製造方法について説明する。
図7および図8は本発明の製造方法を説明するための工程図であり、図1〜図6に示されるマイクロリアクター1を例とした図面である。
本発明では、筐体用部材作製工程において、筐体2を構成するための1組の筐体用部材2A、2Bを作製する。また、穿設工程において、筐体用部材2Aに原料供給管、ガス排出管用の貫通孔2aをそれぞれ穿設し、筐体用部材2Bに排気用孔部2bを穿設する(図7(A))。筐体用部材2Aは開口を有する函形状であり、例えば、絞り加工、切削加工、鋳造、拡散接合、ろう付け等により作製することができる。この筐体用部材2Aへの貫通孔2aの穿設は、ドリル加工等により行うことができる。また、筐体用部材2Bは平板形状であり、函形状の筐体用部材2Aの蓋材となる。この筐体用部材2Bへの排気用孔部2bの穿設は、ドリル加工等により行うことができる。
【0017】
排気用孔部2bの寸法は、その開口直径Dを筐体用部材2Bの厚みTの半分以下とすることが好ましい。これにより、後述の閉塞工程での排気用孔部2bの閉塞をレーザーによって確実に行なうことができる。また、図9に示すように、排気用孔部2bの周囲であって筐体用部材2Bの外側に肉厚部2′Bを環状に形成してもよい。これにより、肉厚部2′Bを含む筐体用部材2Bの厚みT′の半分以下となるまで、開口直径Dを大きくしても、後述の閉塞工程での排気用孔部2bの閉塞をレーザーによって確実に行なうことができる。上記の肉厚部2′Bは、例えば、環状形状の部材を筐体用部材2Bの排気用孔部2bを囲むように接合して形成することができる。
【0018】
一方、上記の筐体用部材作製工程、穿設工程とは別に、原料導入口19aおよびガス排出口19bを有し、この原料導入口19aおよびガス排出口19bに原料供給管5A、ガス排出管5Bが接続されたマイクロリアクター本体4を作製する。このマイクロリアクター本体4は、その1つの面に絶縁膜6を介して発熱体7が配設されており、発熱体7には電極8,8が形成され、この電極8,8が露出するような電極開口部9a,9aを有する発熱体保護層9が、発熱体7を覆うように設けられている。次いで、接合工程において、このマイクロリアクター本体4を、原料供給管5Aとガス排出管5Bが貫通孔2aに挿入されるようにして筐体用部材2A内に装着し、貫通孔2aを溶接、ろう付け、あるいは樹脂部材により封止する(図7(B))。また、筐体用部材2Aを貫通するように配設されたリードピン(図示せず)と発熱体7の電極9,9とを配線(図示せず)を介して電気的に接続する。次に、筐体用部材2Bを、開口面を閉塞するように筐体用部材2Aに接合して筐体2を作製する(図7(C))。筐体用部材2Aと筐体用部材2Bの接合は、例えば、拡散接合、ろう付け等により行うことができる。
【0019】
次に、気密検査工程において、排気用孔部2bを除く筐体2についてリークの有無を検査する。この検査方法としては、排気用孔部2bより排気して筐体2内部を減圧状態とする。このとき、排気経路にガス検出器を配置し、筐体2の内部に存在していたガス以外のガスの流出を検出可能とする。そして、筐体2内部の排気を継続した状態で筐体2の外部から検査用ガス、例えば、ヘリウムを噴きつけ、ガス検出器にて検査用ガスを検出するか否かで気密性を判定する方法が挙げられる。筐体2にリークが生じていれば、検査用ガスが減圧状態の筐体2の内部に侵入するので、排気経路に配置されたガス検出器で検査用ガスが検出され、リークが生じていると判断することができる。
【0020】
次いで、脱ガス工程において、真空チャンバー21内に筐体2を載置して脱ガス処理を施す(図8(A))。この脱ガス処理は、筐体2からアウトガスが生じて筐体2内部の真空度が低下するのを防止するために、筐体2を予め加熱してアウトガスを発生させ除去するものである。筐体2の加熱は、マイクロリアクター本体4が備える発熱体7および/または筐体2の外部に設けたヒーターを使用して行うことができる。このような加熱により筐体2内部で発生したアウトガスは、排気用孔部2bを通過して筐体2の外部に排気され、さらに、真空チャンバー21の排気管22を通過して除去される。また、マイクロリアクター本体4がゲッター材を備えている場合、この脱ガス処理はゲッター材の活性化処理を兼ねることができる。
【0021】
次に、閉塞工程において、真空チャンバー21内で排気用孔部2bを閉塞して筐体2の内部に真空密閉キャビティ3を形成する(図8(B))。これにより、マイクロリアクター1が作製される。排気用孔部2bの閉塞は、例えば、真空チャンバー21のガラス窓23からレーザーを照射して排気用孔部2bの周辺の筐体2を溶融して行うことができる。この場合、レーザーとしては、YAGレーザー、炭酸ガスレーザー等のレーザーを使用することが好ましい。また、排気用孔部2bの閉塞は、電子ビーム等を用いて行うこともできる。
このような本発明の製造方法は、気密検査工程を有するので、リークが発生しているような欠陥筐体を検出することができ、また、脱ガス工程を有するので、筐体からのアウトガスによる真空度の低下を防止するこができ、さらに、閉塞工程では、真空チャンバー内で排気用孔部を閉塞するので、筐体内部に高真空状態の真空密閉キャビティを作り出すことができ、これにより、小型でありながら外部への熱の影響が抑制され、かつ、触媒反応の効率が高いマイクロリアクターの製造が可能となる。
【0022】
尚、上述の実施形態は例示であり、本発明はこれらに限定されるものではない。例えば、筐体2を構成するための複数の筐体用部材として、図10に示すような形状の1組の筐体用部材2A、2Bを使用してもよい。この図10は、図7(A)に相当する図面である。また、筐体を構成するための複数の筐体用部材は、上述の実施形態では1組の筐体用部材であるが、3個以上の筐体用部材からなるものであってもよい。さらに、排気用孔部の数は、上述の実施形態では1個であるが、必要に応じて2個以上としてもよい。また、使用するマイクロリアクター本体は、上述の例に限定されるものではない。
【実施例】
【0023】
次に、より具体的な実施例を示して本発明を更に詳細に説明する。
[筐体用部材作製工程]
厚み0.3mmのSUS316L基板を用いて、内則が35mm×35mm×4.1mmの直方体であり、35mm×35mmの面が開口部とされている筐体用部材を絞り加工によって作製した。また、上記の開口部を閉塞するため筐体用部材として、35mm×35mmの蓋材を作製した。
【0024】
[穿設工程]
上記の筐体用部材の35mm×4.1mmの1つの壁面に原料供給管を挿入するための1個の円形の貫通孔(直径2.0mm)と、配線を挿入するための円形の貫通孔(直径1.5mm)を、また、この壁面に対向する35mm×4.1mmの壁面にガス排出管を挿入するための1個の円形の貫通孔(直径2.0mm)と、配線を挿入するための1個の円形の貫通孔(直径1.5μm)とを穿設した。この貫通孔の穿設はドリル加工を用いて行った。また、上記の蓋材としての筐体用部材に円形の排気用孔部(直径0.15mm)を形成した。
【0025】
[接合工程]
まず、以下のようにしてマイクロリアクター本体を作製した。
金属基板として厚み1mmのSUS316L基板(25mm×25mm)を準備し、このSUS316L基板の両面に感光性レジスト材料(東京応化工業(株)製OFPR)をディップ法により塗布(膜厚7μm(乾燥時))した。次に、SUS316L基板の微細溝部を形成する側のレジスト塗膜上に、幅1500μmのストライプ状の遮光部がピッチ2000μmで左右から交互に突出(突出長20mm)した形状のフォトマスクを配した。また、上記と同様のSUS316L基板を準備し、同様に感光性レジスト材料を塗布し、SUS316L基板の微細溝部を形成する側のレジスト塗膜上に、フォトマスクを配した。このフォトマスクは、SUS316L基板面に対して、上記のフォトマスクと面対称となるものとした。
【0026】
次いで、上記の1組のSUS316L基板について、それぞれフォトマスクを介してレジスト塗布膜を露光し、炭酸水素ナトリウム溶液を使用して現像した。これにより、各SUS316L基板の一方の面には、幅500μmのストライプ状の開口部がピッチ2000μmで配列され、隣接するストライプ状の開口部が、その端部において交互に連続するようなレジストパターンが形成された。
次に、上記のレジストパターンをマスクとして、下記の条件でSUS316L基板をエッチング(3分間)した。
(エッチング条件)
・温度 : 50℃
・エッチング液(塩化第二鉄溶液) 比重濃度: 45ボーメ(°B’e)
【0027】
これにより、1組のSUS316L基板は、その一方の面に、幅1000μm、深さ650μm、長さ20mmのストライプ形状の微細溝が2000μmのピッチで形成され、隣接する微細溝の端部において交互に連続するような形状(図5に示されるような180度折り返しながら蛇行して連続する形状)の微細溝部(流路長220mm)が形成された。この微細溝部の流体の流れ方向に垂直な断面における内壁面の形状は略半円形状であった。
上述のように微細溝部が形成された1組のSUS316L基板の微細溝部形成面に対して、プラズマスプレー法によりアルミナ溶射を行った。次いで、水酸化ナトリウム溶液を用いてレジストパターンを除去し、水洗した。このレジストパターン除去により、不要なアルミナ溶射膜がリフトオフされ、微細溝部内に触媒担持層(厚み30μm)が形成された。
【0028】
次いで、上記の1組のSUS316L基板を、互いの微細溝部が対向するように下記の条件で拡散接合して接合体を作製した。この接合では、1組の基板の微細溝部どうしが完全に対向するように位置合わせをした。これにより、接合体の対向する端面に原料導入口とガス排出口とが存在するトンネル状流路が接合体内に形成された。
(拡散接合条件)
・雰囲気 :真空中
・接合温度 :1000℃
・接合時間 :12時間
【0029】
次に、接合体の流路内に下記組成の触媒懸濁液を充填して放置(15分間)し、その後、触媒懸濁液を抜き、120℃、3時間の乾燥還元処理を施して、流路内全面に触媒を担持させた。
(触媒懸濁液の組成)
・Al … 5.4重量%
・Cu … 2.6重量%
・Zn … 2.8重量%
・Siバインダー(日産化学工業(株)製 スノーテックスO)
… 5.0重量%
・水 … 残部
【0030】
次に、上記の接合体を構成する一方のSUS316L基板上に、絶縁膜用塗布液としてポリイミド前駆体溶液(東レ(株)製フォトニース)をスクリーン印刷により印刷し、350℃で硬化させて厚み20μmの絶縁膜を形成した。次いで、この絶縁膜上に下記組成の発熱体用ペーストをスクリーン印刷により印刷し、200℃で硬化させて発熱体を形成した。形成した発熱体は、線幅100μmで図6に示されるように180°折り返すように線間隔100μmで引き回したような形状とした。
(発熱体用ペーストの組成)
・カーボン粉末 … 20重量部
・微粉末シリカ … 25重量部
・キシレンフェノール樹脂 … 36重量部
・ブチルカルビトール … 19重量部
【0031】
また、下記組成の電極用ペーストを用いて、スクリーン印刷により発熱体の所定の2ヶ所に電極(0.5mm×0.5mm)を形成した。
(電極用ペーストの組成)
・銀めっき銅粉末 … 90重量部
・フェノール樹脂 … 6.5重量部
・ブチルカルビトール … 3.5重量部
次に、発熱体上に形成された2個の電極を露出するように、下記組成の保護層用ペーストを用いて、スクリーン印刷により発熱体保護層(厚み20μm)を発熱体上に形成した。
(保護層用ペーストの組成)
・樹脂分濃度 … 30重量部
・シリカフィラー … 10重量部
・ラクトン系溶剤(ペンタ1−4−ラクトン) … 60重量部
これにより、マイクロリアクター本体(外形寸法25mm×25mm×約2.1mm)を作製した。
【0032】
次に、上記のマイクロリアクター本体の原料導入口とガス排出口に、それぞれ原料供給管とガス排出管を接続し、この原料供給管とガス排出管を函形状の筐体用部材の上記の貫通孔に挿入するようにして、マイクロリアクター本体を筐体用部材内に装着した。そして、原料供給管とガス排出管が貫通している貫通孔をろう付けにより封止した。また、リードピンを函形状の筐体用部材の2個の貫通孔にそれぞれ挿入し、貫通孔をガラス封止するとともに、2本のリードピンと発熱体の電極とを金線によって接続した。
次いで、上記の蓋材としての筐体用部材を、マイクロリアクター本体が装着された筐体用部材の開口部に拡散接合して筐体とした。拡散接合の条件は上記の拡散接合と同様とした。この状態で、筐体の内壁とマイクロリアクター本体とは幅1〜5mmの空間を介して非接触状態であった。
【0033】
[気密検査工程]
次に、上記のように内部にマイクロリアクター本体を内蔵する筐体の排気用孔部と、ヘリウム検出器(キャノンアネルバ社製 HELEN M212−LD−D)の検出ポートとを、真空ポンプを介して接続し、筐体の内部を減圧した。筐体を大気中に置いて、ヘリウム検出器のヘリウム検出量が安定(1.0×10-11Pa・m3/秒)したところで、筐体の外部からヘリウムガスを噴き付けた。排気用孔部を除く部位にリーク箇所が存在する場合には、ヘリウムガスを噴き付けた後に、ヘリウム検出器によるヘリウム検出量が増大し、リーク箇所が存在しない場合には、ヘリウム検出量が変化しないので、ヘリウムガス検出量の変化の有無によって、当該筐体のリークの有無を判断した。
【0034】
[脱ガス工程]
次いで、上記の気密検査工程でリーク無しと判断された筐体を真空チャンバー内に載置した。この真空チャンバーには、筐体の近傍にヒーターが配設されており、このヒーターと、マイクロリアクター本体が備える発熱体とを加熱し、同時に、真空チャンバー内が減圧状態(1.0×10-2Pa)となるように吸引を継続することにより、脱ガス処理(2時間)を施した。尚、この脱ガス処理時には、筐体の排気用孔部は開放状態とした。
【0035】
[閉塞工程]
脱ガス処理が完了した後、真空チャンバー内を減圧状態(1.0×10-2Pa)に維持し、真空チャンバーのガラス窓からYAGレーザーを照射(照射エネルギー:3.0J)して、排気用孔部の周辺の筐体を溶融して排気用孔部を閉塞した。これにより、筐体内部に真空密閉キャビティ(圧力:1.0×10-2Pa)が形成され、マイクロリアクターが作製された。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、メタノールの改質、一酸化炭素の酸化除去等の反応からなる水素製造等、担持した触媒によって所望の反応を進行させる用途に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の製造方法で製造されるマイクロリアクターの一例を示す斜視図である。
【図2】図1に示されるマイクロリアクターのI−I線における拡大縦断面図である。
【図3】図1に示されるマイクロリアクターを構成するマイクロリアクター本体の一例を示す斜視図である。
【図4】図3に示されるマイクロリアクター本体のII−II線における拡大縦断面図である。
【図5】図3に示されるマイクロリアクター本体を構成する金属基板を離間させた状態を示す斜視図である。
【図6】マイクロリアクター本体を構成する発熱体を説明するための平面図である。
【図7】本発明のマイクロリアクターの製造方法を説明するための工程図である。
【図8】本発明のマイクロリアクターの製造方法を説明するための工程図である。
【図9】本発明のマイクロリアクターの製造方法における排気用孔部の状態の他の例を示す図である。
【図10】本発明のマイクロリアクターの製造方法における筐体用部材の他の例を示す図である。
【符号の説明】
【0038】
1…マイクロリアクター
2…筐体
2A,2B…筐体用部材
2b…排気用孔部
3…真空密閉キャビティ
4…マイクロリアクター本体
5A…原料供給管
5B…ガス排出管
7…発熱体
12…接合体
13…トンネル状流路
15,17…微細溝部
18…触媒担持層
19a…原料導入口
19b…ガス排出口
C…触媒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の真空筐体と、該真空筐体内の真空密閉キャビティ内に配設されたマイクロリアクター本体とを備えるマイクロリアクターの製造方法において、
筐体を構成するための複数の筐体用部材を作製する筐体用部材作製工程と、
該筐体用部材に排気用孔部を形成する穿設工程と、
マイクロリアクター本体を前記筐体用部材に装着し、複数の前記筐体用部材を接合して筐体を作製する接合工程と、
前記排気用孔部を除く前記筐体についてリークの有無を検査する気密検査工程と、
真空チャンバー内に前記筐体を載置して前記筐体に脱ガス処理を施す脱ガス工程と、
前記真空チャンバー内で前記排気用孔部を閉塞して筐体内に真空密閉キャビティを形成する閉塞工程と、を備えることを特徴とするマイクロリアクターの製造方法。
【請求項2】
前記穿設工程では、前記排気用孔部の直径を前記筐体用部材の厚みの半分以下とすることを特徴とする請求項1に記載のマイクロリアクターの製造方法。
【請求項3】
前記穿設工程では、前記排気用孔部の周囲であって前記筐体用部材の外側に肉厚部を形成することを特徴とする請求項1に記載のマイクロリアクターの製造方法。
【請求項4】
前記脱ガス工程では、マイクロリアクター本体が備える発熱体および/または筐体外部のヒーターを使用して加熱することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のマイクロリアクターの製造方法。
【請求項5】
前記真空チャンバーはガラス窓を具備し、前記閉塞工程では、前記ガラス窓からレーザーを照射して前記排気用孔部の閉塞を行うことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のマイクロリアクターの製造方法。
【請求項6】
前記気密検査工程では、前記排気用孔部より排気して前記筐体内部を減圧するとともに排気経路にガス検出器を配置し、筐体外部に検査用ガスを噴きつけ、前記ガス検出器にて前記検査用ガスを検出するか否かで気密性を判定することを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のマイクロリアクターの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−160480(P2009−160480A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−339126(P2007−339126)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】