説明

マイクロ波プラズマ成膜装置、マイクロ波プラズマ成膜方法、およびガスバリアフィルム

【課題】低透過性の高いガスバリアフィルムを成膜することが可能な成膜装置、成膜方法を提供すること、および低透過性の高いガスバリアフィルムを提供することを目的とする。
【解決手段】成膜装置1は、基材81の成膜面810にガスバリアフィルム82を成膜する。成膜装置1は、基材81が配置されるプラズマ生成室20と、プラズマ生成室20に露出する誘電体21と、を有する減圧容器2と、プラズマ生成室20に原料ガスを供給する原料ガス供給部50と、プラズマ生成室20にキャリアガスを供給するキャリアガス供給部51と、マイクロ波MWをプラズマ生成室20に導入するスロットアンテナ3と、誘電体21と基材81との間に配置され負のバイアス電圧が周期的に印加される加速部材4と、ガスバリアフィルム82を成膜する際に基材81を冷却する冷却部材4と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材にガスバリアフィルムを成膜するマイクロ波プラズマ成膜装置、マイクロ波プラズマ成膜方法、および当該マイクロ波プラズマ成膜方法により成膜されたガスバリアフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ユビキタス社会の到来に向け、スマートフォンなどの携帯電話、PHS(Personal Handyphone System)、タブレットPC(Personal Computer)、モバイルノートPC等の携帯情報端末、小型ゲーム機器、電子ペーパー等のモバイル機器が普及拡大している。
【0003】
また、これらモバイル機器に対して、軽量化、薄型化、フレキシブル化、落下、衝撃等による破損抑制等のニーズが高まっている。そのため、表示部(ディスプレイ)を有機EL(Electro Luminescence)に変更したり、現在表示部に多用されているガラスに代わり機能性樹脂フィルムが採用されつつある。更に、太陽電池市場においても、フレキシブルで軽量、薄型の有機系薄膜太陽電池が脚光を浴びている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−225396号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、有機EL中の発光層や陰極等は、外部からの微量な酸素、水分の透過やフィルム内のブルーム、吸湿成分の移行等によって劣化しやすい。このため、低透過性(ガスバリア性)の高いガスバリアフィルムの潜在ニーズが高い。また、有機系太陽電池でも、発電層の保護を目的に、低透過性の高いガスバリアフィルムが使用されている。
【0006】
ガスバリアフィルムは、一般的に、真空蒸着、スパッタリング、およびCVD(Chemical Vapor Deposition)などにより、基材の成膜面に成膜される。しかしながら、これらの成膜方法によると、充分な低透過性を有するガスバリアフィルムを成膜することは難しい。
【0007】
そこで、本発明者は、例えば特許文献1に記載されているようなマイクロ波プラズマを用いて、ガスバリアフィルムを成膜することを検討した。ところが、この成膜方法によると、基材にガスバリアフィルムを成膜する際、基材に高エネルギーのプラズマが衝突することになる。このため、当該エネルギーにより基材が加熱されてしまう。基材が加熱されると、熱により基材に熱変形等の不具合が発生するおそれがある。また、ガスバリアフィルムの膜質が低下するおそれがある。
【0008】
本発明のマイクロ波プラズマ成膜装置、マイクロ波プラズマ成膜方法、およびガスバリアフィルムは、上記課題に鑑みて完成されたものである。本発明は、低透過性の高いガスバリアフィルムを成膜することが可能なマイクロ波プラズマ成膜装置、マイクロ波プラズマ成膜方法を提供することを目的とする。また、本発明は、低透過性の高いガスバリアフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上記課題を解決するため、本発明のマイクロ波プラズマ成膜装置は、基材の成膜面にガスバリアフィルムを成膜するマイクロ波プラズマ成膜装置であって、前記基材が配置され減圧可能なプラズマ生成室と、該プラズマ生成室に露出する誘電体と、を有する減圧容器と、該プラズマ生成室に前記ガスバリアフィルムの原料である原料ガスを供給する原料ガス供給部と、該プラズマ生成室にキャリアガスを供給するキャリアガス供給部と、該原料ガスおよび該キャリアガスを電離させプラズマを生成するためのマイクロ波を、該誘電体を介して該プラズマ生成室に導入するスロットアンテナと、該誘電体と該基材との間に配置され、該マイクロ波の電界により生成された該プラズマ中の正荷電粒子を該基材に向けて加速させるための、負のバイアス電圧が周期的に印加される加速部材と、該プラズマ生成室に配置され、該ガスバリアフィルムを成膜する際に該基材を冷却する冷却部材と、を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明のマイクロ波プラズマ成膜装置(以下、適宜、「成膜装置」と略称する。)によると、誘電体と基材との間に、加速部材が介在している。加速部材には、負のバイアス電圧が周期的(例えば、矩形波状、サイン波状)に印加されている。このため、誘電体付近で生成されるプラズマ中の正荷電粒子は、加速部材に引き寄せられ、基材の成膜面に向かって加速される。したがって、高エネルギーの正荷電粒子を成膜面に衝突させることができる。
【0011】
ところが、成膜面に高エネルギーの正荷電粒子が衝突すると、基材が加熱されてしまう。この点、本発明の成膜装置は、冷却部材を備えている。このため、基材を冷却しながらガスバリアフィルムの成膜を行うことができる。したがって、熱による不具合が基材に発生することを抑制しつつ、並びにガスバリアフィルムの膜質が低下することを抑制しつつ、低透過性の高いガスバリアフィルムを成膜することができる。
【0012】
また、本発明の成膜装置によると、マイクロ波の導入により発生する表面波を用いて、プラズマを発生させている。並びに、発生したプラズマを維持している。すなわち、プラズマソースとなるマイクロ波は、スロットアンテナ、誘電体を通過した後、生成したマイクロ波プラズマに阻まれ、スロットアンテナ、誘電体表面方向に広がりつつ、プラズマにエネルギーとして吸収される。このため、比較的広い面積に亘って、プラズマを発生させることができる。並びに、発生したプラズマを維持することができる。また、高密度のプラズマを発生させることができる。また、プラズマの発生、維持のために、外部から磁界を印加する必要がない。また、プラズマを発生させるための電極が不要である。
【0013】
(2)好ましくは、上記(1)の構成において、前記成膜面が前記誘電体に背向するように、前記基材は配置され、前記冷却部材は、前記加速部材と兼用であり、前記基材の該誘電体側に並置され、前記正荷電粒子は、該冷却部材に引き寄せられ、該冷却部材を迂回して、該成膜面に前記ガスバリアフィルムを成膜する構成とする方がよい。
【0014】
本構成によると、冷却部材と加速部材とが共用化されている。本構成は、成膜面に対して、直接ではなく、間接的に正荷電粒子を衝突させるものである。冷却部材により引き寄せられた正荷電粒子は、冷却部材を回り込んで、成膜面に到達する。本構成によると、成膜面に対して、直接、正荷電粒子を衝突させる場合と比較して、低透過性の高いガスバリアフィルムを成膜することができる。
【0015】
(3)好ましくは、上記(1)の構成において、前記成膜面が前記誘電体に向き合うように、前記基材は配置され、前記加速部材は、該誘電体と該成膜面との間に介装され、前記正荷電粒子が通過する粒子通過孔を有し、該正荷電粒子は、該加速部材に引き寄せられ、該粒子通過孔を通過して、該成膜面に前記ガスバリアフィルムを成膜する構成とする方がよい。
【0016】
つまり、本構成は、成膜面に対して、粒子通過孔を通過した正荷電粒子(加速部材により加速された正荷電粒子)を衝突させるものである。本構成によると、成膜面に対して、粒子通過孔を通過させずに、正荷電粒子を衝突させる場合と比較して、低透過性の高いガスバリアフィルムを成膜することができる。
【0017】
(4)上記課題を解決するため、本発明のマイクロ波プラズマ成膜方法は、基材の成膜面に該ガスバリアフィルムを成膜するマイクロ波プラズマ成膜方法であって、プラズマ生成室にマイクロ波を導入する誘電体に対して、負のバイアス電圧が周期的に印加される加速部材越しに、かつ前記基材を冷却する冷却部材に並ぶように、該基材を該プラズマ生成室に配置する基材配置工程と、該プラズマ生成室を所定の真空度に保持し、該マイクロ波の電界により、前記ガスバリアフィルムの原料である原料ガスおよびキャリアガスを電離させ、プラズマを生成し、該加速部材により該プラズマ中の正荷電粒子を加速させ、該冷却部材により該基材を冷却しながら、前記成膜面に該ガスバリアフィルムを成膜する成膜工程と、を有することを特徴とする。
【0018】
本発明のマイクロ波プラズマ成膜方法(以下、適宜、「成膜方法」と略称する。)は、基材配置工程と成膜工程とを有している。基材配置工程においては、誘電体に対して、加速部材、基材の順に並ぶように、基材を配置する。すなわち、誘電体と基材との間に、加速部材を介在させる。また、基材を冷却部材に並置する。
【0019】
成膜工程においては、冷却部材により基材を冷却しながら、ガスバリアフィルムの成膜を行う。ここで、加速部材には、負のバイアス電圧が周期的(例えば、矩形波状、サイン波状)に印加されている。このため、誘電体付近で生成されるプラズマ中の正荷電粒子は、加速部材に引き寄せられ、基材の成膜面に向かって加速される。したがって、高エネルギーの正荷電粒子を成膜面に衝突させることができる。
【0020】
ところが、成膜面に高エネルギーの正荷電粒子が衝突すると、基材が加熱されてしまう。この点、本発明の成膜方法によると、基材が冷却部材に並置されている。このため、基材を冷却しながらガスバリアフィルムの成膜を行うことができる。したがって、熱による不具合が基材に発生することを抑制しつつ、並びにガスバリアフィルムの膜質が低下することを抑制しつつ、低透過性の高いガスバリアフィルムを成膜することができる。
【0021】
また、本発明の成膜方法によると、マイクロ波の導入により発生する表面波を用いて、プラズマを発生させている。並びに、発生したプラズマを維持している。すなわち、マイクロ波のエネルギーは、プラズマの内部と比較して、プラズマの表面付近に集中している。このため、比較的広い面積に亘って、プラズマを発生させることができる。並びに、発生したプラズマを維持することができる。また、高密度のプラズマを発生させることができる。また、プラズマの発生、維持のために、外部から磁界を印加する必要がない。また、プラズマを発生させるための電極が不要である。
【0022】
(5)好ましくは、上記(4)の構成において、前記基材配置工程において、前記成膜面が前記誘電体に背向するように、前記基材を配置し、前記冷却部材は、前記加速部材と兼用であり、前記基材の該誘電体側に並置され、前記成膜工程において、前記正荷電粒子は、該冷却部材に引き寄せられ、該冷却部材を迂回して、該成膜面に前記ガスバリアフィルムを成膜する構成とする方がよい。
【0023】
本構成によると、冷却部材と加速部材とが共用化されている。本構成は、成膜面に対して、直接ではなく、間接的に正荷電粒子を衝突させるものである。冷却部材により引き寄せられた正荷電粒子は、冷却部材を回り込んで、成膜面に到達する。本構成によると、成膜面に対して、直接、正荷電粒子を衝突させる場合と比較して、低透過性の高いガスバリアフィルムを成膜することができる。
【0024】
(6)好ましくは、上記(4)の構成において、前記基材配置工程において、前記成膜面が前記誘電体に向き合うように、前記基材を配置し、前記加速部材は、該誘電体と該成膜面との間に介装され、前記正荷電粒子が通過する粒子通過孔を有し、前記成膜工程において、該正荷電粒子は、該加速部材に引き寄せられ、該粒子通過孔を通過して、該成膜面に前記ガスバリアフィルムを成膜する構成とする方がよい。
【0025】
つまり、本構成は、成膜面に対して、粒子通過孔を通過した正荷電粒子(加速部材により加速された正荷電粒子)を衝突させるものである。本構成によると、成膜面に対して、粒子通過孔を通過させずに、正荷電粒子を衝突させる場合と比較して、低透過性の高いガスバリアフィルムを成膜することができる。
【0026】
(7)上記課題を解決するため、本発明のガスバリアフィルムは、上記(4)ないし(6)のいずれかのマイクロ波プラズマ成膜方法により前記基材の前記成膜面に成膜されることを特徴とする。
【0027】
本発明のガスバリアフィルムは、低透過性が高い。このため、ガスバリアフィルムを、空気中の酸素や水分などが透過しにくい。したがって、有機EL等のデバイスにガスバリアフィルムを用いると、ガスバリアフィルムの内側に配置される部材(一例として有機ELの場合は発光層や陰極など)の劣化を抑制し、製品寿命を延ばすことができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によると、低透過性の高いガスバリアフィルムを成膜することが可能なマイクロ波プラズマ成膜装置、マイクロ波プラズマ成膜方法を提供することができる。また、本発明によると、低透過性の高いガスバリアフィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】第一実施形態の成膜装置の長手方向断面図である。
【図2】図1のII−II方向透過断面図である。
【図3】第二実施形態の成膜装置の長手方向断面図である。
【図4】図3のIV−IV方向透過断面図である。
【図5】第三実施形態の成膜装置の長手方向断面図である。
【図6】図5のVI−VI方向透過断面図である。
【図7】実施例2のSPM写真である。
【図8】実施例2において冷却部材の上面に基材を配置した場合のSPM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明のマイクロ波プラズマ成膜装置、マイクロ波プラズマ成膜方法、およびガスバリアフィルムの実施の形態について説明する。
【0031】
<第一実施形態>
[成膜装置]
まず、本実施形態の成膜装置について説明する。図1に、本実施形態の成膜装置の長手方向断面図を示す。図2に、図1のII−II方向透過断面図を示す。図1、図2に示すように、本実施形態の成膜装置1は、減圧容器2と、スロットアンテナ3と、冷却部材4と、原料ガス供給部50と、キャリアガス供給部51と、マイクロ波発生部52と、減圧部53と、バイアス電圧印加部54と、を備えている。
【0032】
減圧容器2は、金属製であって箱状を呈している。減圧容器2は、アースされている。減圧容器2は、プラズマ生成室20と、誘電体21と、導波室22と、を備えている。誘電体21は、石英製であって長方形板状を呈している。誘電体21は、減圧容器2の内部空間を、上方の導波室22と、下方のプラズマ生成室20と、に気密的に仕切っている。
【0033】
スロットアンテナ3は、金属製の長方形の板であって、スロットを有している。スロットアンテナ3は、誘電体21の上面(導波室22側の面)に積層されている。図2に細線で示すように、スロットアンテナ3には、複数のスロット30が開設されている。スロット30は、方形(例えば、正方形、長方形)孔状を呈している。
【0034】
冷却部材4は、テーブル部40と、一対の脚部41と、冷却通路42と、を備えている。冷却部材4は、プラズマ生成室20の下方に配置されている。テーブル部40は、金属製であって、中空の長方形板状を呈している。テーブル部40は、誘電体21に上下方向に対向して、略平行に配置されている。一対の脚部41は、金属管である。減圧容器2と絶縁するため、脚部41の外周は、セラミック管で真空シールされている。一対の脚部41は、テーブル部40の下面に接続されており、必要に応じて上下にスライドすることができる。冷却部材4の内部には、一方の脚部41→テーブル部40→他方の脚部41という経路を辿る、冷却通路42が形成されている。冷却通路42は、減圧容器2の外部において、熱交換器43とポンプ44とに接続されている。冷却液は、冷却通路42→熱交換器43→ポンプ44→再び冷却通路42という経路を循環している。
【0035】
原料ガス供給部50は、減圧容器2のプラズマ生成室20に接続されている。原料ガス供給部50は、後述する基材81に近接して配置されている。原料ガス供給部50からは、プラズマ生成室20に、ベンゼン(C)が供給される。ベンゼンは、本発明の「原料ガス」の概念に含まれる。ベンゼンは、後述するDLC(ダイヤモンドライクカーボン)製のガスバリアフィルム82の原料である。キャリアガス供給部51は、減圧容器2のプラズマ生成室20に接続されている。キャリアガス供給部51は、誘電体21に近接して配置されている。キャリアガス供給部51からは、プラズマ生成室20に、アルゴン(Ar)が供給される。
【0036】
マイクロ波発生部52は、図示しない、マグネトロン、パワーモニター、EH整合器、アイソレータ(減衰器)、導波管などを備えている。マイクロ波発生部52は、減圧容器2の導波室22に接続されている。マイクロ波発生部52からは、導波室22に、マイクロ波MWが供給される。減圧部53は、減圧容器2のプラズマ生成室20に接続されている。減圧部53は、真空ポンプ(図略)を備えている。
【0037】
バイアス電圧印加部54は、冷却部材4のテーブル部40に接続されている。バイアス電圧印加部54は、直流パルス電源(図略)を備えている。バイアス電圧印加部54は、冷却部材4に、周期的にオン、オフを繰り返す、直流パルス電圧を印加可能である。直流パルス電圧は、本発明の「バイアス電圧」の概念に含まれる。
【0038】
[成膜方法]
次に、本実施形態の成膜方法について説明する。本実施形態の成膜方法は、基材配置工程と成膜工程とを有している。基材配置工程においては、PEN(ポリエチレンナフタレート)製であって、長方形板状の基材81を、冷却部材4のテーブル部40の下面に配置する。この際、基材81の成膜面810を下方に向ける。すなわち、成膜面810を、プラズマ生成室20に露出させる。なお、基材81の上面には、予め、アクリル製のハードコート層80が積層されている。このため、冷却部材4に当接するのは、ハードコート層80である。
【0039】
成膜工程においては、まず、減圧部53により、プラズマ生成室20を所定の真空度まで減圧する。次に、キャリアガス供給部51により、プラズマ生成室20にアルゴンを供給する。その後、原料ガス供給部50により、プラズマ生成室20にベンゼンを供給する。なお、ポンプ44は、減圧開始前に駆動し、冷却部材4の冷却通路42に冷却液を循環させる。また、バイアス電圧印加部54を駆動し、冷却部材4に直流パルス電圧を印加する。そして、マイクロ波発生部52により、導波室22にマイクロ波MWを供給する。マイクロ波MWは、スロットアンテナ3内に進入し、定在波を生成する。当該定在波は、スロット30、誘電体21を介して、プラズマ生成室20に進入する。そして、進入した定在波は、アルゴン、ベンゼンを電離させ、プラズマ生成室20の誘電体21付近にプラズマを生成する。プラズマ中の正荷電粒子は、負のバイアス電圧が印加された冷却部材4に引き寄せられる。引き寄せられた正荷電粒子の一部は、冷却部材4に衝突する。また、引き寄せられた正荷電粒子の他の一部は、冷却部材4のテーブル部40を迂回して、脚部41の隙間から、基材81の成膜面810に衝突する。当該正荷電粒子の衝突により、成膜面810にDLC製のガスバリアフィルム82が成膜される。
【0040】
[作用効果]
次に、本実施形態の成膜装置1、成膜方法、ガスバリアフィルムの作用効果について説明する。本実施形態の成膜装置1、成膜方法によると、誘電体21と基材81との間に、冷却部材4が介在している。冷却部材4には、バイアス電圧印加部54から、断続的な直流パルス電圧が印加されている。すなわち、冷却部材4には、負のバイアス電圧が印加されている。このため、誘電体21付近で生成されるプラズマ中の正荷電粒子は、冷却部材4に引き寄せられ、基材81の成膜面810に向かって加速される。したがって、高エネルギーの正荷電粒子を成膜面810に衝突させることができる。
【0041】
ところが、成膜面810に高エネルギーの正荷電粒子が衝突すると、基材81が加熱されてしまう。この点、本発明の成膜装置1は、冷却部材4を備えている。冷却部材4は、ハードコート層80を介して、基材81に当接している。このため、基材81と、冷却部材4中の冷却液と、の間で熱交換が行われる。したがって、基材81の熱は、冷却液により、減圧容器2の外部に搬出される。このため、基材81を冷却しながらガスバリアフィルム82の成膜を行うことができる。したがって、熱による不具合が基材81に発生することを抑制しつつ、並びにガスバリアフィルム82の膜質が低下することを抑制しつつ、低透過性の高いガスバリアフィルム82を成膜することができる。
【0042】
また、本実施形態の成膜装置1、成膜方法によると、負のバイアス電圧として直流パルス電圧(50〜360kHz程度)が用いられている。このため、負のバイアス電圧として高周波電圧(13.56MHz程度)が用いられる場合と比較して、基材81に対する正荷電粒子の衝突頻度が少なくなる。したがって、本実施形態の成膜装置1、成膜方法によると、基材81が加熱されにくい。
【0043】
また、本実施形態の成膜装置1によると、マイクロ波MWの導入により発生する表面波を用いて、プラズマを発生させている。並びに、発生したプラズマを維持している。すなわち、マイクロ波MWのエネルギーは、プラズマの内部と比較して、プラズマの表面付近に集中している。このため、比較的広い面積に亘って、プラズマを発生させることができる。並びに、発生したプラズマを維持することができる。また、高密度のプラズマを発生させることができる。また、プラズマの発生、維持のために、外部から磁界を印加する必要がない。また、プラズマを発生させるための電極が不要である。
【0044】
また、本実施形態の成膜装置1、成膜方法によると、冷却部材4に負のバイアス電圧が印加されている。このため、冷却部材4とは別に、正荷電粒子を引き寄せるための加速部材を配置する場合と比較して、部品点数が少なくなる。
【0045】
また、本実施形態の成膜装置1、成膜方法によると、正荷電粒子は、テーブル部40の下方に回り込んで、成膜面810に衝突する。テーブル部40の下方は、テーブル部40の上方と比較して、電子密度が低い。このため、正荷電粒子の衝突が、電子により邪魔されにくい。
【0046】
また、冷却部材4により引き寄せられた正荷電粒子は、冷却部材4を回り込んで、成膜面810に到達する。このため、成膜面810に対して、直接、正荷電粒子を衝突させる場合と比較して、低透過性の高いガスバリアフィルム82を成膜することができる。
【0047】
また、本実施形態のガスバリアフィルム82は、低透過性が高い。このため、ガスバリアフィルム82を、空気中の酸素や水分などが透過しにくい。したがって、有機EL等のデバイスにガスバリアフィルム82を用いると、ガスバリアフィルム82の内側に配置される部材(一例として有機ELの場合は発光層や陰極など)の劣化を抑制し、製品寿命を延ばすことができる。
【0048】
<第二実施形態>
本実施形態の成膜装置と第一実施形態の成膜装置との相違点は、加速部材が配置されている点である。したがって、ここでは相違点について説明する。図3に、本実施形態の成膜装置の長手方向断面図を示す。図4に、図3のIV−IV方向透過断面図を示す。なお、図1、図2と対応する部位については、同じ符号で示す。
【0049】
図3、図4に示すように、基材81は、冷却部材4のテーブル部40の下方ではなく、上方に配置されている。テーブル部40の上面には、ハードコート層80が当接している。基材81の上面、つまり成膜面810は、プラズマ生成室20に露出している。
【0050】
成膜面810と誘電体21とは、上下方向に対向している。加速部材55は、金属製であって長方形板状を呈している。加速部材55は、成膜面810と誘電体21との間に介装されている。加速部材55には、複数のスロット550が開設されている。スロット550は、本発明の「粒子通過孔」の概念に含まれる。図4に細線で示すように、スロット550の延在方向と、スロットアンテナ3のスロット30の延在方向と、は互いに略直交している。加速部材55には、バイアス電圧印加部54から、直流パルス電圧が印加される。すなわち、加速部材55には、負のバイアス電圧が印加される。プラズマ中の正荷電粒子は、加速部材55に引き寄せられ、スロット550を通過し、成膜面810に衝突する。当該衝突により、成膜面810に、ガスバリアフィルム82が成膜される。
【0051】
本実施形態の成膜装置1、成膜方法、ガスバリアフィルムは、構成が共通する部分に関しては、第一実施形態の成膜装置、成膜方法、ガスバリアフィルムと同様の作用効果を有する。また、本実施形態の成膜装置1によると、加速部材55のスロット550を通過した正荷電粒子が、迂回することなく、そのまま成膜面810に衝突する。このため、正荷電粒子のエネルギーが大きくなる。
【0052】
<第三実施形態>
本実施形態の成膜装置と第二実施形態の成膜装置との相違点は、加速部材のスリットの延在方向だけである。したがって、ここでは相違点について説明する。図5に、本実施形態の成膜装置の長手方向断面図を示す。図6に、図5のVI−VI方向透過断面図を示す。なお、図1、図2と対応する部位については、同じ符号で示す。
【0053】
図5、図6に示すように、加速部材55は、成膜面810と誘電体21との間に介装されている。加速部材55には、複数のスロット551が開設されている。スロット551は、本発明の「粒子通過孔」の概念に含まれる。図6に細線で示すように、スロット551の延在方向と、スロットアンテナ3のスロット30の延在方向と、は互いに略平行である。プラズマ中の正荷電粒子は、加速部材55に引き寄せられ、スロット551を通過し、成膜面810に衝突する。当該衝突により、成膜面810に、ガスバリアフィルム82が成膜される。
【0054】
本実施形態の成膜装置1、成膜方法、ガスバリアフィルムは、構成が共通する部分に関しては、第一実施形態の成膜装置、成膜方法、ガスバリアフィルムと同様の作用効果を有する。また、本実施形態の成膜装置1によると、加速部材55のスロット551を通過した正荷電粒子が、迂回することなく、そのまま成膜面810に衝突する。このため、正荷電粒子のエネルギーが大きくなる。
【0055】
<その他>
以上、本発明の成膜装置、成膜方法、ガスバリアフィルムの実施の形態について説明した。しかしながら、実施の形態は上記形態に特に限定されるものではない。当業者が行いうる種々の変形的形態、改良的形態で実施することも可能である。
【0056】
バイアス電圧印加部54から冷却部材4、加速部材55に印加される負のバイアス電圧は、高周波電圧であってもよい。負のバイアス電圧の波形は、矩形波状でもサイン波状でもよい。
【0057】
誘電体21としては、アルミナなどの無機材料を用いてもよい。成膜用の原料ガスとしては、メタン、エタン、エチレン、アセチレン、ブタン、ヘキサン、トルエンなどの炭化水素ガスを用いてもよい。キャリアガスとしては、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン、ラドンなどの不活性ガスを用いてもよい。また、場合によっては、窒素、水素、二酸化炭素、一酸化炭素、酸素などの活性ガスをキャリアガスとともに、用いてもよい。
【0058】
また、マイクロ波MWの周波数は特に限定しない。2.45GHz、8.35GHz、1.98GHz、915MHzなどであってもよい。また、冷却部材4に冷却通路42が配置されていなくてもよい。すなわち、冷却部材4の熱伝導により、基材81を冷却してもよい。この場合、減圧容器2の外部に突出する脚部41の先端に放熱用のフィンを配置してもよい。
【0059】
また、スロット550、551の断面形状は特に限定しない。正荷電粒子が通過すればよい。例えば、断面長孔状(長方形状、楕円形状、長円形状(対向する二つの半円のC字両端同士を直線で結んだ形状))、断面真円形状、断面正方形状であってもよい。また、スロット550、551の配置数も特に限定しない。
【実施例】
【0060】
以下、図1、図2を援用しながら、第一実施形態の成膜装置1、成膜方法を用いて基材81に成膜したガスバリアフィルム82の透過性実験について説明する。
【表1】

【0061】
表1に、透過性実験の実験条件、実験結果をまとめて示す。実施例1、2のサンプル(基材81とガスバリアフィルム82との積層体)は、共に第一実施形態の成膜装置1により製造された。実施例1、2のサンプルの相違点は、正荷電粒子加速のために、実施例1のサンプル製造時においては冷却部材4に高周波電圧を印加したのに対して、実施例2のサンプル製造時においては冷却部材4に直流パルス電圧を印加した点である。
【0062】
比較例のサンプルは、従来の高周波プラズマ装置により製造した。すなわち、プラズマの生成にマイクロ波を用いなかった。また、正荷電粒子の加速にバイアス電圧を用いなかった。また、例えば図3に示すように、成膜面810をプラズマ側に向けて配置した。また、プラズマと成膜面810との間に、別の部材を介装しなかった。
【0063】
以下、表1の各項目について説明する。表1中、「到達圧力」とは、減圧部53により達成されたプラズマ生成室20の圧力である。「反応圧力」とは、キャリアガスと原料ガスを導入し、成膜するときの圧力である。「マイクロ波」−「入射」とは、マイクロ波発生部52から導波室22に導入される際の、マイクロ波MWの電力である。「RF」−「出力」とは、実施例1のサンプル製造時に冷却部材4にバイアス電圧を印加するために用いられた、高周波電源の出力である。「RF」−「DC bias」とは、冷却部材4に印加される負のバイアス電圧の平均値である。「DCパルス」−「電圧」とは、実施例2のサンプル製造時に冷却部材4に印加される負のバイアス電圧(直流パルス電圧)である。「DCパルス」−「電流」とは、直流パルスの電流値である。「DCパルス」−「電力」とは、直流パルス電源の出力である。「DCパルス」−「周波数」とは、直流パルス電圧の周波数である。「DCパルス」−「パルス幅」とは、直流パルス電圧のパルス幅である。「距離」とは、誘電体21から基材81までの距離である。「He透過比率」とは、Heガスを透過させた場合の、基材81を100%としたときのガスバリアフィルム82の透過比率である。
【0064】
He透過比率の値が小さいほど、低透過性が高いことを示す。表1中、「He透過比率」−「裏」の項目の値が実施例1、2の実験結果である。「He透過比率」−「表」の項目の値は、冷却部材4の上面に基材81を配置した場合であって、誘電体21と基材81との間に加速部材55を介装しない場合の参考値である。
【0065】
表1から、実施例1のHe透過比率は3%、実施例2のHe透過比率は6%、比較例の透過比率は86%であることが判った。また、実施例1において冷却部材4の上面に基材81を配置した場合、He透過比率は44%であることが判った。また、実施例2において冷却部材4の上面に基材81を配置した場合、He透過比率は93%であることが判った。実験結果から、実施例1、2は、比較例等よりも、Heガスを極めて透過させにくいことが判った。すなわち、実施例1、2は、比較例等よりも、低透過性が極めて高いことが判った。
【0066】
図7に、実施例2のSPM(走査型プローブ顕微鏡)写真を示す。図8に、実施例2において冷却部材の上面に基材を配置した場合のSPM写真を示す。冷却部材4の下面に基材81を配置した図7の方が、冷却部材4の上面に基材81を配置した図8よりも、ガスバリアフィルム82の膜質が均一で緻密である。
【符号の説明】
【0067】
1:マイクロ波プラズマ成膜装置、2:減圧容器、3:スロットアンテナ、4:冷却部材。
20:プラズマ生成室、21:誘電体、22:導波室、30:スロット、40:テーブル部、41:脚部、42:冷却通路、43:熱交換器、44:ポンプ、50:原料ガス供給部、51:キャリアガス供給部、52:マイクロ波発生部、53:減圧部、54:バイアス電圧印加部、55:加速部材、80:ハードコート層、81:基材、82:ガスバリアフィルム。
550:スロット(粒子通過孔)、551:スロット(粒子通過孔)、810:成膜面。
MW:マイクロ波。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の成膜面にガスバリアフィルムを成膜するマイクロ波プラズマ成膜装置であって、
前記基材が配置され減圧可能なプラズマ生成室と、該プラズマ生成室に露出する誘電体と、を有する減圧容器と、
該プラズマ生成室に前記ガスバリアフィルムの原料である原料ガスを供給する原料ガス供給部と、
該プラズマ生成室にキャリアガスを供給するキャリアガス供給部と、
該原料ガスおよび該キャリアガスを電離させプラズマを生成するためのマイクロ波を、該誘電体を介して該プラズマ生成室に導入するスロットアンテナと、
該誘電体と該基材との間に配置され、該マイクロ波の電界により生成された該プラズマ中の正荷電粒子を該基材に向けて加速させるための、負のバイアス電圧が周期的に印加される加速部材と、
該プラズマ生成室に配置され、該ガスバリアフィルムを成膜する際に該基材を冷却する冷却部材と、
を備えることを特徴とするマイクロ波プラズマ成膜装置。
【請求項2】
前記成膜面が前記誘電体に背向するように、前記基材は配置され、
前記冷却部材は、前記加速部材と兼用であり、前記基材の該誘電体側に並置され、
前記正荷電粒子は、該冷却部材に引き寄せられ、該冷却部材を迂回して、該成膜面に前記ガスバリアフィルムを成膜する請求項1に記載のマイクロ波プラズマ成膜装置。
【請求項3】
前記成膜面が前記誘電体に向き合うように、前記基材は配置され、
前記加速部材は、該誘電体と該成膜面との間に介装され、前記正荷電粒子が通過する粒子通過孔を有し、
該正荷電粒子は、該加速部材に引き寄せられ、該粒子通過孔を通過して、該成膜面に前記ガスバリアフィルムを成膜する請求項1に記載のマイクロ波プラズマ成膜装置。
【請求項4】
基材の成膜面に該ガスバリアフィルムを成膜するマイクロ波プラズマ成膜方法であって、
プラズマ生成室にマイクロ波を導入する誘電体に対して、負のバイアス電圧が周期的に印加される加速部材越しに、かつ前記基材を冷却する冷却部材に並ぶように、該基材を該プラズマ生成室に配置する基材配置工程と、
該プラズマ生成室を所定の真空度に保持し、該マイクロ波の電界により、前記ガスバリアフィルムの原料である原料ガスおよびキャリアガスを電離させ、プラズマを生成し、
該加速部材により該プラズマ中の正荷電粒子を加速させ、該冷却部材により該基材を冷却しながら、前記成膜面に該ガスバリアフィルムを成膜する成膜工程と、
を有するマイクロ波プラズマ成膜方法。
【請求項5】
前記基材配置工程において、前記成膜面が前記誘電体に背向するように、前記基材を配置し、前記冷却部材は、前記加速部材と兼用であり、前記基材の該誘電体側に並置され、
前記成膜工程において、前記正荷電粒子は、該冷却部材に引き寄せられ、該冷却部材を迂回して、該成膜面に前記ガスバリアフィルムを成膜する請求項4に記載のマイクロ波プラズマ成膜方法。
【請求項6】
前記基材配置工程において、前記成膜面が前記誘電体に向き合うように、前記基材を配置し、前記加速部材は、該誘電体と該成膜面との間に介装され、前記正荷電粒子が通過する粒子通過孔を有し、
前記成膜工程において、該正荷電粒子は、該加速部材に引き寄せられ、該粒子通過孔を通過して、該成膜面に前記ガスバリアフィルムを成膜する請求項4に記載のマイクロ波プラズマ成膜方法。
【請求項7】
請求項4ないし請求項6のいずれかに記載のマイクロ波プラズマ成膜方法により前記基材の前記成膜面に成膜されるガスバリアフィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−233215(P2012−233215A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−100692(P2011−100692)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】