説明

マイクロ流体チップおよびマイクロ総合分析システム

【課題】温度環境の異なる領域間での熱の伝導を極力遮断し、チップ内の温度分布を画然とさせ得るマイクロ総合分析システム用のマイクロ流体チップを提供する。
【解決手段】異なる種類の温度領域が併存するマイクロ流体チップにおいて、それらの境界に断熱手段を施す。上記の断熱手段としては、マイクロ流体チップを貫通する空隙や、該チップの微細流路とは連通していない、マイクロ流体チップ基板の表面に形成された溝などが挙げられる。前記の異なる種類の温度領域の境界は、例えば、加熱領域と冷却領域の境界である。この加熱領域は、例えば、遺伝子増幅反応を行う反応部を含み、また、冷却領域は、例えば、検体収容部および/または試薬収容部を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
近年、マイクロマシン技術および超微細加工技術を駆使することにより、従来の試料調製、化学分析、化学合成などを行うための装置、手段(例えばポンプ、バルブ、流路、セ
ンサーなど)を微細化して1チップ上に集積化したシステムが開発されている(特許文献
1)。これは、μ−TAS(Micro total Analysis System)、バイオリアクタ、ラブ・
オン・チップ(Lab-on-chips)、バイオチップとも呼ばれ、医療検査・診断分野、環境測定分野、農産製造分野でその応用が期待されている。現実には遺伝子検査に見られるように、煩雑な工程、熟練した手技、機器類の操作が必要とされる場合には、自動化、高速化および簡便化されたミクロ化分析システムは、コスト、必要試料量、所要時間のみならず、時間および場所を選ばない分析を可能とすることによる恩恵は多大と言える。
【0002】
各種の分析、検査ではこれらの分析用チップにおける分析の定量性、解析の精度、経済性などが重要視される。そのためシンプルな構成で、高い信頼性の送液システムを確立することが課題である。精度が高く、信頼性に優れるマイクロ流体制御素子が求められており、好適なマイクロポンプシステムおよびその制御方法を本発明者らはすでに提案している(特許文献2〜4)。
【0003】
上記のチップには、検体および試薬の収容部、試薬の混合部、反応部、検出部およびこれらを連通する流路などを含む一連の微細流路が形成されているが、その中には部位選択的に加熱または冷却されるべき領域が存在する。例えば、PCR(polymerase chain reaction)法による増幅反応を行う反応部位を構成する微細流路などは、分析時に所定温度
に加熱する必要がある。その一方で、例えば加熱されると変質しやすい検体、試薬が収容される部位、またはこのような試薬類同士を混合する部位などは、昇温されることが望ましくなく、部位選択的に放熱もしくは冷却しなければならない。
【0004】
ところが、限られたスペースに一連の微細流路を集積化するチップにおいては、加熱を要する部位や昇温が望ましくない部位を、充分に広い間隔を取って配置することは難しい。これらの部位が他の部位と近接していると、熱伝導により様々な問題が引き起こされることが考えられる。一例として、PCR法による遺伝子増幅反応を行うための加熱部位の近隣に冷却部位が存在する場合、加熱部位の温度分布が中途半端となり、反応に支障が生じることが挙げられる。
【特許文献1】特開2004-28589号公報
【特許文献2】特開2001-322099号公報
【特許文献3】特開2004-108285号公報
【特許文献4】特開2004-270537号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上述の問題に鑑みてなされたものであり、温度分布の異なる領域間での熱の伝導を極力遮断し、チップ内の温度分布を画然とさせ得るマイクロ流体チップを提供することを課題とする。また、そのようなチップを用いることにより、反応への熱による悪影響などが排除されたマイクロ総合分析システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のマイクロ総合分析システムは、
別途の加熱装置と当接する「加熱領域」、別途の冷却装置と当接する「冷却領域」、ならびに加熱装置および冷却装置とは当接しない「常温領域」からなる群より選ばれる2種
類以上の温度領域が併存し、異なる種類の温度領域の境界に断熱手段が施されているマイクロ流体チップと、
システム装置本体と、
を備え、そのシステム装置本体は、少なくとも
ベース本体と、
そのベース本体内に配置され、該チップに連通させるための流路開口を有するチップ接続部と、該マイクロポンプとを含むマイクロポンプユニットと、
加熱装置および/または冷却装置と、
少なくとも該マイクロポンプユニットの機能と加熱装置および/または冷却装置とを制御する制御装置と、
を備え、
該マイクロポンプが、
流路抵抗が差圧に応じて変化する第1流路と、
差圧の変化に対する流路抵抗の変化割合が第1流路よりも小さい第2流路と、
第1流路および第2流路に接続された加圧室と、
該加圧室の内部圧力を変化させるアクチュエータと、
該アクチュエータを駆動する駆動装置と
を備えるマイクロポンプであることを特徴としている。
【0007】
上記の断熱手段は、マイクロ流体チップを貫通する空隙であることが好ましく、あるいは、該チップの微細流路とは連通していない、マイクロ流体チップ基板の表面に形成された溝であってもよい。
【0008】
前記の異なる種類の温度領域の境界は、例えば、加熱領域と冷却領域との境界である。この加熱領域は、例えば、遺伝子増幅反応を行う反応部を含み、また、冷却領域は、例えば、検体収容部および/または試薬収容部を含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、異なる温度領域間の熱伝導を充分に遮断し、温度分布を画然とさせたマイクロ流体チップが提供される。本発明で用いられる断熱手段により、マイクロ流体チップの狭い範囲に異なる温度領域を隣接して配置することができるため、よりサイズの小型化されたマイクロ流体チップを提供することが可能となる。また、中間温度領域が形成されることによる副反応の発生、流路から試薬類の喪失などを抑制し、効率的に遺伝子などの生体物質の検査を行うことが可能なマイクロ総合分析システムが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本明細書において、「マイクロ流体チップ」は、合成や検査など様々な用途に用いられるマイクロ総合分析システムにおけるチップのことであるが、特に生体物質を対象とした検査に用いられるものについては「検査チップ」と呼ぶこともある。「流路エレメント」とは、マイクロ流体チップに設置される機能部品をいう。「微細流路」は、本発明のマイクロ流体チップに形成された微小な溝状の流路のことであるが、この流路と連通している試薬類などの収容部、反応部もしくは検出部が、容量の大きい広幅の液溜め状に形成されている場合も、これらの部位を含めて「微細流路」ということがある。微細流路内を流れる流体は、実際は液体であることが多く、具体的には、各種の試薬類、試料液、変性剤液、洗浄液、駆動液などが該当する。「遺伝子」とは、何らかの機能を発現する遺伝情報を担うDNAまたはRNAをいうが、単に化学的実体であるDNA、RNAの形でいうこともある。分析対象である標的物質を「アナライト」ということもある。
【0011】
本発明は、種々の実施の形態において、本発明の趣旨に沿って任意の変形、変更が可能であり、それらは本発明に含まれる。すなわち、本発明のマイクロ総合分析システムの全
体または一部について、構造、構成、配置、形状形態、寸法、材質、方式、方法などを本発明の趣旨に合致する限り、種々のものにすることができる。
【0012】
マイクロ総合分析システム
図1は、本発明のマイクロ総合分析システムの一実施形態における構成を示した概念図である。図示したように、かかる実施形態では、マイクロ流体チップ2とともに、このチ
ップを収容する装置として、システム装置本体1がある。この装置は、反応のために用い
られるペルチェ3(冷却装置)と、ヒーター4(加熱装置)と、送液用のマイクロポンプ11、駆動液タンク10およびチップ接続部を有するマイクロポンプユニットと、それらの送液、温度、反応の各制御に関わる制御装置(図示せず)と、光学検出系(ホトダイオード5
、LED6など)を含み、測定データの収集および処理をも受け持つ検出処理装置(図示
せず)とを備えている。マイクロ総合分析システムは、マイクロ流体チップ2以外の構成
要素を一体化してシステム装置本体1とし、マイクロ流体チップ2をこのシステム装置本体1に着脱するように構成することが望ましい。
【0013】
マイクロ流体チップ2は、一般に検査チップ、分析チップ、マイクロリアクタ・チップ
などとも称されるものと同等である。通常、このチップの縦横のサイズは数十mm、高さは数mm程度である。そこには、微細加工技術により微細流路が形成されている。微細流路に連通している試薬収容部内、検体収容部内にある各種の液体は、マイクロポンプに連通させるための流路開口を有するポンプ接続部12を介して各収容部に連通された上記マイクロポンプ11によって送液される。
【0014】
マイクロポンプは、マイクロ流体チップ2に設けることも可能であるが、通常、複数の
マイクロポンプがシステム装置本体1に組み込まれる。これら複数のマイクロポンプと、
マイクロ流体チップ2に連通させるための流路開口を有するチップ接続部とを含むマイク
ロポンプユニットが、システム装置本体1のベース本体内に配置されている。図示したよ
うに、マイクロ流体チップ2をシステム装置本体1に装着し、面同士で重ね合わせることにより、該チップのポンプ接続部をマイクロポンプユニットにあるチップ接続部に接続するようになっている。
【0015】
マイクロポンプ11を制御する電気制御系統の装置は、流量の目標値を設定し、それに応じた駆動電圧をマイクロポンプに供給している。後述するように、そうした制御を受け持つ制御装置についても、本発明システムの装置本体に組み込んで、マイクロ流体チップ2
のポンプ接続部をマイクロポンプユニットのチップ接続部に接続させた場合に作動制御させるようにしてもよい。
【0016】
光学的検出、データの収集および処理を受け持つユニットである検出処理装置(図示せず)は、例えば可視分光法、蛍光測光法などの手法が適用される場合、その光学的測定の手段として特に限定されないが、LED、光電子増倍菅、フォトダイオード、CCDカメラなどがその構成要素としてシステム装置本体内に適宜設置されることが望ましい。
【0017】
ペルチェ3およびヒーター4は、マイクロ流体チップの特定の部位に当接するよう配置され、これらの部位の冷却または加熱を行う。
少なくとも前記のマイクロポンプユニットの機能を制御する制御装置(図示せず)が、本発明システムの装置本体に組み込まれている。この制御装置は、さらに、加熱装置および/または冷却装置による温度調節を管理する機能、検出処理装置における測定データの記録および処理機能などを統合して担い、システムを統括的に制御支配するようにしてもよい。マイクロポンプ11による送液の順序、容量、タイミングの制御、あるいは加熱装置および/または冷却装置による温度制御などの諸条件は、あらかじめプログラムの内容として設定しておき、マイクロ総合分析システムに搭載されたマイクロコンピュータ等のソ
フトウェアに従ってそれらの制御を行うことができる。
【0018】
測定試料である検体の前処理、反応および検出の一連の分析工程は、前記のマイクロポンプ11、検出処理装置および制御装置とが一体化されたシステム装置本体1にチップを装着した状態で行なわれる。装着したチップに試料を注入してから、あるいは試料を注入したチップを装置本体に装着してから分析を開始してもよい。試料および試薬類の送液、前処理、混合に基づく所定の反応および光学的測定が、一連の連続的工程として自動的に実施され、測定データが、必要な条件、記録事項とともにファイル内に格納される形態が望ましい。
【0019】
従来の分析チップでは、異なる分析または合成などを行う場合には、変更される内容に対応するマイクロ流体デバイスをその都度構成する必要があった。これとは異なり、本発明のマイクロ総合分析システムでは脱着可能な上記チップのみ交換すればよい。各流路エレメントの制御変更も必要となる場合には、装置本体に格納された制御プログラムを適宜変更すればよい。
【0020】
マイクロ流体チップ
本発明のマイクロ流体チップは、化学分析、各種検査、試料の処理・分離、化学合成などに利用されるように、各流路エレメントまたは構造部が、機能的に適当な位置に微細加工技術により配設されている。このチップには、流体収容部として検体液を収容する検体収容部のほか、各試薬を収容するための複数の試薬収容部が設けられ、この試薬収容部には所定の反応に用いる試薬類、洗浄液、変性処理液などが収容される。これは、場所や時間を問わず迅速に検査ができるように、予め試薬が収容されていることが望ましいためである。チップ内に内蔵される試薬類は、蒸発、漏失、気泡の混入、汚染、変性などを防止するため、その収容部の表面が密封処理されている。
【0021】
上記のチップにおける好ましい態様は、溝形成基板および被覆基板からなる基本的基板を構造として有する。少なくとも溝形成基板には、ポンプ接続部、弁基部および液溜部(試薬収容部、検体収容部などの各収容部、廃液貯留部)、送液制御部、逆流防止部、試薬定量部、混合部などの構造部を含む、微細流路が形成されている。被覆基板は、少なくとも溝形成基板における上記の構造部、流路および検出部を密着して覆う必要があり、溝形成基板の全面を覆っていてもよい。
【0022】
・素材
マイクロ流体チップは、加工成形性、非吸水性、耐薬品性、耐熱性、廉価性などに優れていることが望まれており、チップの構造、用途、検出方法などを考慮して、チップの材料を適切に選択することが求められる。その材料としては従来公知の様々なものが使用可能であり、個々の材料特性に応じて通常は1以上の材料を適宜組み合わせて、基板および流路エレメントが成形される。
【0023】
例えば、多数の測定検体、とりわけ汚染、感染のリスクのある臨床検体を対象とするチップはディスポーサブルタイプであることが望ましい。そのため、量産可能であり、軽量で衝撃に強く、焼却廃棄が容易なプラスチック樹脂、なかでも、透明性、機械的特性および成型性に優れて微細加工がしやすいポリスチレンが好ましく用いられる。
【0024】
分析においてチップを100℃近くまで加熱する必要がある場合には、耐熱性に優れる樹脂(例えばポリカーボネートなど)を用いることが好ましい。樹脂やガラスなどは熱伝導率が小さく、マイクロ流体チップの局所的に加熱される領域にこれらの材料を用いることにより、面方向への熱伝導が抑制され、加熱領域のみ選択的に加熱することができる。
【0025】
また、微細流路の検出部では、蛍光物質または呈色反応の生成物などの光学的な検出が行われるため、この部位の基板には光透過性の材料を用いる必要がある。このような材料としては、アルカリガラス、石英ガラス、透明プラスチック類が使用可能である。
【0026】
・微細流路
マイクロ流体チップの微細流路は、基板上に目的に応じて予め設計された流路配置に従って形成される。流体が流れる流路は、例えば幅数十〜数百μm、好ましくは50〜100μm、深さ25〜200μm程度、好ましくは50〜100μmに形成されるマイクロメーターオーダー幅の微細流路である。流路幅が50μm未満であると、流路抵抗が増大し、流体の送出および検出上不都合である。幅500μmを超える流路ではマイクロスケール空間の利点が薄まる。
【0027】
微細流路の形成方法は、従来の微細加工技術を用いることができるが、典型的にはフォトリソグラフィ技術が好適である。この技術により、感光性樹脂への微細構造の転写および不要部分の除去などが行われ、微細流路が形成される。この際の溝成形基板の材料となる感光性樹脂としては、サブミクロンの構造も正確に転写でき、機械的特性の良好なプラスチックが好ましく用いられる。ポリスチレン、ポリジメチルシロキサンなどは形状転写性に優れる。また、必要であれば射出成形、押し出し成形などによる加工も使用してもよい。
【0028】
・温度領域
本発明のマイクロ流体チップは、別途の加熱装置と当接する「加熱領域」、別途の冷却装置と当接する「冷却領域」、ならびに加熱装置および冷却装置とは当接しない「常温領域」からなる群より選ばれる2種類以上の温度領域が併存する。
【0029】
加熱領域と冷却領域とを同一チップ上に併設する形態は、生体物質分析用のチップでは珍しくない態様である。検体および試薬は、加熱されると変質しやすいものが多く、一般的には冷却して低温に保つことが望ましく、一方で、検出および反応には高温が必要とされるためである。
【0030】
部位選択的に加熱される加熱領域に含まる微細流路の例としては、例えば、PCR法によるDNAと試薬との遺伝子増幅反応を行うための反応部位を構成する流路を挙げることができる。また、部位選択的に冷却される冷却領域に含まれる微細流路の例としては、検体収容部、試薬(例えば遺伝子増幅反応用の試薬)収容部および/または複数の試薬を合流させて混合する流路を挙げることができる。
【0031】
加熱/冷却装置
本発明では、一連の微細流路が形成されたマイクロ流体チップにおいて、部位選択的に加熱すべき流路部位を含む加熱領域のチップ面に、発熱体もしくは発熱体に接続された熱伝導部材等の加熱装置を当接させて、その加熱領域を加熱する。また、部位選択的に冷却すべき流路部位を含む冷却領域のチップ面に、冷却体もしくは冷却体に接続された熱伝導部材等の冷却装置を当接させて、その冷却領域を冷却させる。このような加熱領域および冷却領域は、マイクロ流体チップの温度調節領域として、本システムの温度管理下に置かれる。なお、加熱装置または冷却装置は、領域の均一な温度分布や、迅速な昇温または降温のために必要であれば、チップの片面だけでなく両面に配置してもよい。
【0032】
上記の加熱装置としては、例えば、通電により抵抗体を発熱させ、直接あるいは誘電体等を介して熱を伝達する面状発熱体(ヒーター)、該面状発熱体に熱伝導率の高い部材(例えばアルミニウム等の金属部材)を接続して、この部材面をチップ面に当接させるようにしたもの、ならびにペルチェ素子を挙げることができる。
【0033】
また、加熱装置には温度センサが設けられ、この温度センサは、加熱動作に関する制御プログラムが格納されたメモリを有するコントローラに接続されることが望ましい。コントローラは、温度センサにより計測された温度に基づき、当該プログラムに従って加熱装置への通電等を制御する。このような実施形態の構成は、迅速な昇温、具体的には40℃程度から90℃程度まで急速に昇温させることが求められ、しかも頻繁に温度の昇降を繰り返す必要があるPCR法を行う場合に好ましく用いられる。
【0034】
一方、冷却装置としてはペルチェ素子が好ましい。ペルチェ素子には、その熱を放熱するためにヒートシンクを接触配置させてもよい。また、熱伝導率の高い部材(例えばアルミニウム等の金属部材)からなるブロックを併用してもよい。冷却装置についても、加熱装置と同様に、温度管理のための制御装置が接続されていることが望ましい。
【0035】
上述のような装置を用いることにより、マイクロ流体チップに形成された一連の微細流路における複数の機能部位のそれぞれにおいて、部位選択的に均一な加熱もしくは冷却を行うことができる。
【0036】
・温度分布管理の必要性
異なる温度分布が求められる領域が隣接し、これらの領域間で熱の伝導が起きた場合、いくつかの問題が発生することが考えられる。
【0037】
PCR法を含むバイオアッセイおよび合成反応では、温度条件を厳密にしないと反応の成否に影響したり、反応の制御に支障が生じることも往々にしてある。例えばPCRでは、温度条件のみならずその加熱時間を厳密に管理することが求められる。反応部流路に中間温度領域が存在すると、副反応として非特異的な増幅が生じ、これにより標的配列の増幅が阻害されてしまう。このため目的の増幅反応が充分に起こらない可能性もある。したがって、遺伝子増幅などが行なわれる反応部流路を含む領域(例えば加熱領域)と、それに隣接する領域との温度差は、画然としていることが望ましい。
【0038】
このことは流路から試薬、検体およびそれらの混合液体が失われることを防止する観点からも利点がある。微細流路の液体が蒸発などにより失われる原因は、チップのシステム装置本体との密着面に閉じ込められた空気が膨張し、気泡となって流路内の流路圧力を上げ、それにより液体が押し出されることや、さらに空気が抜ける際に密着面にできる隙間に試薬などが入りこんでそこから試薬などが漏れることにあると想定されている。また、加熱領域内もしくはその近傍の液体内部から上記の気泡が形成することも、流路内の液体の喪失とそうした気泡によるトラブルの発生に関わっている。
【0039】
断熱手段
上記のことから、マイクロ流体チップにおける異なる温度領域同士、とりわけ加熱領域と冷却領域とは、熱伝導を充分に遮断しておく必要がある。本発明のマイクロ流体チップにおいては、これらの領域の境界に断熱手段を施すことにより、両者間に温度勾配および熱伝導が生じることがないよう充分に断熱することが可能であり、前述のような問題は効果的に抑制される。また、マイクロ流体チップが例えば厚さ2mmのポリプロピレン樹脂製であった場合、従来は加熱領域と冷却領域とは5〜10mm程度離す必要があったが、本発明の断熱手段を施したマイクロ流体チップにおいては、これらの領域の距離を大幅に近づけ、マイクロ流体チップを小型化することが可能となる。
【0040】
本発明において上記の「境界」とは、異なる温度領域の中間に位置する部分を指す。例えば、冷却領域と加熱領域が隣接している場合、それぞれの領域を取り囲む外周線の近傍を境界と考えることができる。また、冷却領域と加熱領域の間に常温領域が存在する場合
、その常温領域を、冷却領域と加熱領域の境界と考えることができ、常温領域の適当な場所に断熱手段を設けることが可能である。
【0041】
本発明のマイクロ流体チップにおける、領域間を隔てる断熱手段の具体的な態様は特に限定されないが、例えば以下に示す手段を好適に用いることができる。
・空隙
本発明により提供される断熱手段の一つの態様として、異なる温度領域の境界にマイクロ流体チップを貫通する空隙を設けることが挙げられる。「空隙」とは、スリット、切れ込みなどのように、空気が内部に介在している空間をいう。空隙の大きさや形状は、微細流路の配置、チップ基板の材料の熱伝導性などを考慮し、適宜調整することが可能である。また、空隙の設置する場所、数などについても同様である。
【0042】
このような空隙は、例えば、それぞれの対応する部分に空隙が形成されるように設計された溝成形基板および被覆基板を射出成型により製造し、2枚の基板を重ね合わせてチップとすることにより作り出すことができる。また、空隙を設けていないチップを製造した後に、それを貫通する空隙を常法により作り出すようにしてもよく、その作成方法は問わない。
【0043】
・溝
本発明により提供される断熱手段の別の態様として、異なる温度領域の境界に溝を設けることが挙げられる。この溝は、チップに形成された微細流路とは連通しておらず、微細流路とは区別されるものである。溝の幅、深さ、形状、設置場所、数などについても、微細流路の配置、チップ基板の材料の熱伝導性などを考慮し、適宜調整することができる。
【0044】
このような溝は、例えば、2枚の基板を重ね合わせたチップの表面の一部を常法により削るようにして形成することが可能であり、その作成方法は問わない。
上述したような、本発明のマイクロ総合分析システムにおけるマイクロ流体チップの、加熱領域、冷却領域およびその境界にある断熱手段について、図2〜図4を参照しながら、その好ましい実施形態を説明する。
【0045】
図2は、加熱領域32、冷却領域35を有し、その境界に断熱手段37が施された、マイクロ流体チップ2の一実施形態を示した上面図である。加熱領域32には、例えばPCR法によ
る遺伝子増幅反応を行うための、反応部が存在する。冷却領域35には、例えば上記の遺伝子増幅反応に供するための、検体収容部および試薬収容部が存在する。また、加熱領域と冷却領域の境界の断熱手段は、前述のような、チップを貫通する空隙またはチップ表面に形成された溝などである。なお、装置本体に設けられている加熱装置および冷却装置は図示されていないが、それぞれ加熱領域および冷却領域の上面よりマイクロ流体チップに当接する。
【0046】
図3および図4は、マイクロ流体チップの反応部、検体収容部および試薬収容部、チップ面に当接する加熱部材および冷却部材、ならび前述の断熱手段を含む断面の模式図である。
【0047】
図3において、反応部流路31(例えばPCR法による遺伝子増幅反応を行う部位)を含む加熱領域32におけるチップ面に、前述のような加熱装置33を当接させ、局所的な加熱を行っている。また、試薬類が混合される試薬混合流路34を含む冷却領域35に、前述のような冷却装置36を押し付けて所定温度に冷却している。加熱領域32および冷却領域35の境界には、チップを貫通する空隙が設けられており、これにより、加熱領域32と冷却領域35との間の熱伝導が効率的に遮断される。
【0048】
また、図4では、加熱領域32および冷却領域35の境界に、チップ表面に形成された溝が存在しており、このような態様も熱伝導の抑制に効果的である。
マイクロポンプユニット
本発明のシステム装置本体は、ベース本体とともに、そのベース本体内に配置され、マイクロ流体チップに連通させるための流路開口を有するチップ接続部と、複数のマイクロポンプとを含むマイクロポンプユニットを構成単位として有している。マイクロポンプは、例えば複数のマイクロポンプがフォトリソグラフィー技術などにより形成されたチップ状のポンプユニットとして、システム装置本体に組み込まれていてもよい。
【0049】
マイクロポンプとしては、アクチュエータを設けた弁室の流出入孔に逆止弁を設けた逆止弁型のポンプなど各種のものが使用できるが、ピエゾポンプを用いることが好適である。このピエゾポンプは、概略すると、流路抵抗が差圧に応じて変化する第1流路と、差圧の変化に対する流路抵抗の変化割合が第1流路よりも小さい第2流路と、第1流路および第2流路に接続された加圧室と、該加圧室の内部圧力を変化させるアクチュエータと、該アクチュエータを駆動する駆動装置とを備えており、ポンプの駆動電圧波形、電圧値、および周波数を変えることによって、液体の送液方向、送液速度を制御できるようになっている。このようなマイクロポンプおよびそれを用いたシステムを本発明者らはすでに提案しており、その詳細は特開2001-322099号公報、特開2004-108285号公報、特開2004-270537号公報などを参照することができる。
【0050】
図6(a)は、ピエゾポンプの一例を示した断面図、図6(b)は、その上面図である。このマイクロポンプには、第1液室48、第1流路46、加圧室45、第2流路47、および第2液室49が形成された基板42と、基板42上に積層された上側基板41と、上側基板41上に積層された振動板43と、振動板43の加圧室45と対向する側に積層された圧電素子44と、圧電素子44を駆動するための駆動部(図示せず)とが設けられている。この駆動部と、圧電素子44表面上の2つの電極とは、フレキシブルケーブルなどによる配線で接続されており、かかる接続を通じて当該駆動部の駆動回路によって圧電素子44に特定波形の電圧を印加する構成となっている。図6の(a)(b)には図示されていないが、第1液室48には、駆動液タンク10につながるポート72が設けられており、その第1液室は、「リザーバ」の役割を演じ、ポート72で駆動液タンク10から駆動液の供給を受けている。第2液室49はマイクロポンプユニットの流路を形成し、その流路の先にチップ接続部のポート73があり、マイクロ流体チップの「ポンプ接続部」12とつながる。
【0051】
図6(c)に、このポンプの他の例を示した。この例では、ポンプをシリコン基板71、圧電素子44、および図示しないフレキシブル配線から構成している。加圧室45、ダイヤフラム43、第1流路46、第1液室48、第2流路47、および第2液室49が形成されている。第1液室48にはポート72が、第2液室49にはチップ接続部のポート73がそれぞれ設けられており、例えばこのピエゾポンプを図1のチップ2とは別体とする場合には、このポート73を介してマイクロ流体チップ2のポンプ接続部12と連通する。例えば、ポート72、73が穿孔された基板74と、マイクロ流体チップのポンプ接続部近傍とを上下に重ね合わせることによって、ポンプをマイクロ流体チップ2に接続することができる。また、前述したように、1枚のシリコン基板に複数のポンプを形成することも可能である。この場合、チップ2と接続したポートの反対側のポートには、駆動液タンク10が接続されていることが望ましい。ポンプが複数個ある場合、それらのポートは共通の駆動液タンクに接続されてもよい。
【0052】
上記のマイクロポンプと、図1に示した本発明のマイクロ総合分析システムとの関係を説明する。図1の例では、マイクロポンプ11は、マイクロ流体チップ2とは別の装置とし
てシステム装置本体1に属し、駆動液タンク10と連通している。マイクロポンプ11は、マ
イクロ流体チップ2とは、両者が互いに所定の形態で接合したときに、マイクロポンプユ
ニットにあるチップ接続部のポート73と、マイクロ流体チップにあってマイクロポンプに連通させるための流路開口を有するポンプ接続部12とが連結してマイクロ流体チップの流路と連通するようになる。
【0053】
なお、別の態様として、マイクロポンプそのものもマイクロ流体チップ上に組み込むことも可能である。特にチップ上の流路が比較的単純であり、繰り返し使用を前提とするような目的または用途、例えば化学合成反応用のチップとする場合にはこの形態を採り得る。
【0054】
分析の実施態様
本発明のマイクロ分析システムは、特に遺伝子または核酸(DNA、RNA)の検査に好適に用いることができる。その場合、マイクロ流体チップの微細流路は、PCR法またはICAN(Isothermal chimera primer initiated nucleic acid amplification)法による遺伝子増幅に適した構成とされるが、遺伝子検査以外の生体物質についても基本的な流路構成はほぼ同一になるといえる。通常は検体前処理部、試薬類、プローブ類を変更すればよく、その場合、送液エレメントの配置、数などは変化するであろう。当業者であれば、例えばイムノアッセイ法のために必要な試薬類などをマイクロ流体チップに搭載し、若干の流路エレメントの変更、仕様の変更を含む修正を施すことにより、分析の種類を容易に変更することができる。ここにいう遺伝子以外の生体物質とは、各種の代謝物質、ホルモン、タンパク質(酵素、抗原なども含む)などをいう。
【0055】
本発明のマイクロ流体チップの好ましい一態様では、一つのチップ内において、
検体もしくは検体から抽出したアナライト(例えば、DNA、RNA、遺伝子)が注入される検体収容部と、
検体の前処理を行う検体前処理部と、
プローブ結合反応、検出反応(遺伝子増幅反応または抗原抗体反応なども含む)などに用いる試薬が収容される試薬収容部と、
ポジティブコントロールが収容されるポジティブコントロール収容部と、
ネガティブコントロールが収容されるネガティブコントロール収容部と、
プローブ(例えば、遺伝子増幅反応により増幅された検出対象の遺伝子にハイブリダイズさせるプローブ)が収容されるプローブ収容部と、
これらの各収容部に連通する微細流路と、
前記各収容部および流路内の液体を送液する別途のマイクロポンプに接続可能なポンプ接続部と、が設けられている。
【0056】
図5は、このようなマイクロ流体チップにおける微細流路の構成の一実施態様を示す。マイクロ流体チップのポンプ接続部12を介して接続されたマイクロポンプ11は、検体収容部20に収容された検体もしくは検体から抽出した生体物質(例えばDNAまたはそれ以外の生体物質)と、試薬収容部18に収容された試薬とを流路15へ送液する。これらを微細流路の反応部位、例えば遺伝子増幅反応(タンパク質の場合、抗原抗体反応など)の部位で混合して反応させた後、その下流側流路にある検出部22aへ、この反応液を処理した処理
液と、プローブ収容部21dに収容されたプローブとを送液し、流路内で混合してプローブ
と結合(またはハイブリダイゼーション)させ、この反応生成物に基づいて生体物質の検出を行う。また、ポジティブコントロール収容部21hに収容されたポジティブコントロー
ルおよびネガティブコントロール収容部21iに収容されたネガティブコントロールについ
ても、上記と同様にして反応および検出を行う。
【0057】
・検体
マイクロ流体チップの検体収容部は、検体注入部に連通し、検体の一時収容および混合部への検体供給を行う。検体の注入は、例えば検体収容部の上面に設けられた検体注入部
から行う。この検体注入部は、ゴム状材質などの弾性体からなる栓が形成されているか、あるいはポリジメチルシロキサン(PDMS)などの樹脂、強化フィルムで覆われていることが望ましい。例えば、当該ゴム材質の栓を突き刺したニードルまたは蓋付き細孔を通したニードルでシリンジ内の検体を注入する。
【0058】
遺伝子検査において対象となる検体は、DNAまたはRNAを含有する試料であり、例えば、全血、血漿、血清、バフィーコート、尿、糞便、唾液、喀痰などの生体由来の試料、ウィルス、細菌、カビ、酵母、動植物の細胞などが挙げられる。また、これらの試料から従来技術により単離したDNAまたはRNAを用いてもよい。
【0059】
必要とされる検体の量は、従来の装置を使用して行う手作業の場合に比べて極めて少なくてすむ。例えば、縦横の長さが数cmのチップに対しては、2〜3μL程度の血液検体を注入するだけでよい。DNAとしては、0.001〜100ngである。
【0060】
また、検体収容部に注入された検体については、必要に応じて、試薬との混合前に、予め流路に設けられた検体前処理部にて、前処理を行ってもよい。好ましい検体前処理として、アナライトの分離または濃縮、除タンパクなどが含まれる。例えば、1%SDS混合液などの溶菌剤を用いて溶菌を行い、放出されたDNAをビーズ、吸着用樹脂またはフィルターの膜面に吸着させる、DNA抽出処理が挙げられる。
【0061】
・試薬
マイクロ流体チップの試薬収容部には、目的とする反応方法や検出方法に応じた必要な試薬類が予め所定の量だけ封入されている。したがって使用時にその都度、試薬を必要量充填する必要はなく、即使用可能の状態になっている。検体中の生体物質を分析する場合に必要な試薬類は、従来と同じものである。例えば、検体に存在する抗原を分析する場合、それに対する抗体(好ましくはモノクローナル抗体)を含有する試薬が使用される。抗体は、好ましくはビオチンおよびFITCで標識されている。遺伝子検査用の試薬類としては、遺伝子増幅に用いられる各種試薬、検出に使用されるプローブ類、発色試薬などが挙げられ、必要であれば、前記の検体前処理に使用する前処理試薬も含まれる。
【0062】
・混合
マイクロポンプから駆動液を供給することにより各収容部から検体液および試薬液を押し出してこれらを合流させることによって、遺伝子増幅反応、アナライトのトラップまたは抗原抗体反応といった分析に必要な反応が開始される。
【0063】
試薬と試薬との混合、および検体と試薬との混合は、単一の混合部で所望の比率で混合してもよく、あるいは何れかもしくは両方を分割して複数の合流部を設け、最終的に所望の混合比率となるように混合してもよい。
【0064】
そうした反応部位の態様は特に限定されるものではなく、様々な形態および様式が考えられる。一例としては、試薬を含む2以上の液体を合流させる合流部(流路分岐点)から先に、各液が拡散混合される微細流路が設けられ、この微細流路の下流側端部から先に設けられた、該微細流路よりも広幅の空間からなる液溜めにおいて反応が行われる。
【0065】
・反応
DNA増幅方法としては、改良点も含めて各種文献などに記載され、多方面で盛んに利用されているPCR法を使用することができる。PCR法においては、3つの温度間で昇降させる温度管理が必要になるが、適切な装置を使用してマイクロ流体チップの温度制御を行えばよい。マイクロ流体チップにおいては、微細流路において熱サイクルを高速に切り替えることが可能であり、DNAの増幅を手作業で行うよりもはるかに短時間で行うこ
とができる。また、近年開発されたICAN法(タカラバイオ(株)、登録商標)は、50〜65℃における任意の一定温度の下にDNA増幅を短時間で実施できるため(特許第3433929号)、本発明システムにおいても好適な増幅技術である。
【0066】
・検出
マイクロ流体チップの微細流路における反応部位よりも下流側には、アナライト、例えば増幅された遺伝子を検出するための検出部が設けられている。少なくともその検出部の基板は、光学的測定を可能とするために透明な材質、好ましくは透明なプラスチックとなっている。
【0067】
さらに微細流路上の検出部位に吸着させ固定化したたビオチン親和性タンパク質(アビジン、ストレプトアビジン)は、プローブ物質に標識されたビオチン、または遺伝子増幅反応に使用されるプライマーの5’末端に標識されたビオチンと特異的に結合する。これにより、ビオチンで標識されたプローブまたは増幅された遺伝子が本検出部位でトラップされる。
【0068】
アナライトまたは目的遺伝子のDNAを分析する方法は特に限定されないが、好ましい態様として基本的には以下の工程で行われる。
(1a) 検体もしくは検体から抽出したDNA、あるいは検体もしくは検体から抽出したRNAから逆転写反応により合成したcDNAと、5’位置でビオチン修飾したプライマーとを、これらの収容部から下流の微細流路へ送液する。
【0069】
反応部位の微細流路内で、遺伝子を増幅する工程、微細流路内で増幅された遺伝子を含む増幅反応液と変性液とを混合して、増幅された遺伝子を変性処理により一本鎖にし、これと末端をFITC(fluorescein isothiocyanate)で蛍光標識したプローブDNAとをハイブリダイズさせる。
【0070】
次いで、ビオチン親和性タンパク質を吸着させた微細流路内の検出部位に送液し、前記増幅遺伝子を微細流路内の検出部位にトラップする(増幅遺伝子を検出部位でトラップした後に蛍光標識したプローブDNAとをハイブリダイズさせてもよい。)。
(1b) 検体に存在する抗原、代謝物質、ホルモンなどのアナライトに対する特異的な抗体、好ましくはモノクローナル抗体を含有する試薬を検体と混合する。その場合、抗体は、ビオチンおよびFITCで標識されている。したがって抗原抗体反応により得られる生成物は、ビオチンおよびFITCを有する。これをビオチン親和性タンパク質(好ましくはストレプトアビジン)を吸着させた微細流路内の検出部位に送液し、ビオチン親和性タンパク質とビオチンとの結合を介して該検出部位に固定化する。
(2) 上記微細流路内にFITCに特異的に結合する抗FITC抗体で表面を修飾した金コロイド液を流し、これにより固定化したアナライト・抗体反応物のFITCに、あるいは遺伝子にハイブリダイズしたFITC修飾プローブに、その金コロイドを吸着させる。
(3) 上記微細流路の金コロイドの濃度を光学的に測定する。
【0071】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されることはなく、その要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形、変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】図1は、マイクロ総合分析システムの一実施形態における概略構成を示す図である。
【図2】図2は、加熱領域および冷却領域を有し、その境界に断熱手段が施された、マイクロ流体チップの一実施形態を示した上面図である。
【図3】図3は、マイクロ流体チップの反応部、検体収容部および試薬収容部、チップ面に当接する加熱部材および冷却部材、ならび前述の断熱手段としてチップを貫通する空隙を含む断面の模式図である。
【図4】図4は、マイクロ流体チップの反応部、検体収容部および試薬収容部、チップ面に当接する加熱部材および冷却部材、ならび前述の断熱手段としてチップ表面に形成された溝を含む断面の模式図である。
【図5】図5は、マイクロ流体チップにおける微細流路の構成の一実施態様を示す図である。
【図6】図6(a)は、ピエゾポンプの一例を示した断面図、図6(b)は、その上面図である。図6(c)は、ピエゾポンプの他の例を示した断面図である。
【符号の説明】
【0073】
1 本体
2 マイクロ流体チップ
3 ペルチェ(冷却装置)
4 ヒーター(加熱装置)
5 ホトダイオード
6 LED
10 駆動液タンク
11 マイクロポンプ
12 ポンプ接続部
13 送液制御部
15 微細流路
15a〜15d 微細流路
16 逆止弁
17a 試薬貯留部
17b 検体貯留部
18 試薬収容部
18a〜18c 試薬収容部
20 検体収容部
21a 反応停止液収容部
21b 変性液収容部
21c ハイブリダイゼーションバッファー収容部
21d 洗浄液収容部
21e 金コロイド収容部
21f プローブDNA収容部
21g インターナルコントロール用プローブDNA収容部
21h ポジティブコントロール収容部
21i ネガティブコントロール収容部
21jバッファー収容部
22 検出部
23 廃液貯留部
31 反応部流路
32 加熱領域
33 加熱装置
34 試薬収容部
35 冷却領域
36 冷却装置
37 断熱手段
37a 空隙
37b 溝
38 溝形成基板
39 被覆基板
41 上側基板
42 基板
43 振動板
44 圧電素子
45 加圧室
46 第1流路
47 第2流路
48 第1液室
49 第2液室
71 シリコン基板
72 ポート
73 ポート
74 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
別途の加熱装置と当接する「加熱領域」、別途の冷却装置と当接する「冷却領域」、ならびに加熱装置および冷却装置とは当接しない「常温領域」からなる群より選ばれる2種類以上の温度領域が併存するマイクロ流体チップであって、異なる種類の温度領域の境界に断熱手段が施されていることを特徴とするマイクロ流体チップ。
【請求項2】
前記の断熱手段がマイクロ流体チップを貫通する空隙であることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ流体チップ。
【請求項3】
前記の断熱手段がマイクロ流体チップ基板の表面に形成された溝であり、その溝は該チップの微細流路とは連通していないことを特徴とする請求項1に記載のマイクロ流体チップ。
【請求項4】
前記の異なる種類の温度領域の境界が、加熱領域と冷却領域との境界であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のマイクロ流体チップ。
【請求項5】
前記の加熱領域に遺伝子増幅反応を行う反応部が含まれることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のマイクロ流体チップ。
【請求項6】
前記の冷却領域に検体収容部および/または試薬収容部を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のマイクロ流体チップ。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のマイクロ流体チップと、
システム装置本体と、
を備え、そのシステム装置本体は、少なくとも
ベース本体と、
そのベース本体内に配置され、該チップに連通させるための流路開口を有するチップ接続部と、該マイクロポンプとを含むマイクロポンプユニットと、
加熱装置および/または冷却装置と、
少なくとも該マイクロポンプユニットの機能と加熱装置および/または冷却装置とを制御する制御装置と、
を備え、
該マイクロポンプが、
流路抵抗が差圧に応じて変化する第1流路と、
差圧の変化に対する流路抵抗の変化割合が第1流路よりも小さい第2流路と、
第1流路および第2流路に接続された加圧室と、
該加圧室の内部圧力を変化させるアクチュエータと、
該アクチュエータを駆動する駆動装置と
を備えるマイクロポンプであることを特徴とするマイクロ総合分析システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−120399(P2007−120399A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−313380(P2005−313380)
【出願日】平成17年10月27日(2005.10.27)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】