説明

マルチパス信号信頼度判定方法、コード位相誤差算出方法、コード位相算出方法、位置算出方法及びマルチパス信号信頼度判定装置

【課題】マルチパス信号の善し悪しを判定する新たな仕組みを提案すること。
【解決手段】携帯電話機1は、GPS衛星から発信されたGPS衛星信号を受信した受信信号と、レプリカコード生成部により生成されたレプリカコードとを乗算する相関演算処理を行って相関値を算出する。そして、相関演算処理により求められたピーク相関値と、当該ピーク相関値を示したピーク位相からM(1≦M<2)チップ遅れた位相の相関値とを用いてPL値を算出し、算出したPL値に基づいて、受信信号がマルチパス信号である場合の当該マルチパス信号の信頼度を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチパス信号信頼度判定方法、コード位相誤差算出方法、コード位相算出方法、位置算出方法及びマルチパス信号信頼度判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
測位用信号を利用した測位システムとしては、GPS(Global Positioning System)が広く知られており、携帯電話機やカーナビゲーション装置等に内蔵されて利用されている。GPSでは、複数のGPS衛星の位置や各GPS衛星から位置算出装置までの擬似距離等の情報に基づいて位置算出装置の位置を求める位置算出処理を行う。
【0003】
測位用信号を用いた位置算出に誤差が発生する主要因の1つとして、マルチパスが挙げられる。マルチパスが生じている環境のことは「マルチパス環境」と呼ばれる。マルチパス環境とは、測位用信号の発信源(GPSであればGPS衛星)からの直接波信号に、建物や地面等に反射した反射波や障害物を透過した透過波、障害物を回折した回折波等の間接波信号が重畳してマルチパス信号として受信される環境のことであり、間接波信号がエラー信号となって符号の復号が困難となる現象である。
【0004】
このマルチパスに起因する誤差の問題を解決するため、例えば特許文献1には、マルチパスの影響を受ける可能性の高い測位用衛星を判定して測位不適衛星とし、測位不適衛星を除外して位置算出を行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−170214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
マルチパス対策の考え方の1つとしては、捕捉した測位用信号の中からマルチパス信号を排除して位置算出を行うという考え方がある。しかし、高層ビルが隣接するアーバンキャニオン環境等においては、受信した測位用信号の大多数がマルチパス信号であるような場合があり、マルチパス信号を全て排除してしまうと、位置算出に必要な衛星数が確保できないといった問題が生ずる。そのため、たとえマルチパス信号であっても、位置算出に使用しても差し支えない信頼性の高い測位用信号は、なるべく位置算出に使用したいという要請がある。
【0007】
本発明は上述した課題に鑑みて為されたものであり、マルチパス信号の善し悪しを判定する新たな仕組みを提案することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための第1の形態は、位置算出用衛星から発信された衛星信号を受信した受信信号に対して相関演算処理を行うことと、前記相関演算処理により求められたピーク相関値と、当該ピーク相関値を示したピーク位相から所定位相遅れた位相の相関値とを用いて、前記受信信号がマルチパス信号である場合の当該マルチパス信号の信頼度を判定することと、を含むマルチパス信号信頼度判定方法である。
【0009】
また、他の形態として、位置算出用衛星から発信された衛星信号を受信した受信信号に対して相関演算処理を行う相関演算部と、前記相関演算処理により求められたピーク相関値と、当該ピーク相関値を示したピーク位相から所定位相遅れた位相の相関値とを用いて、前記受信信号がマルチパス信号である場合の当該マルチパス信号の信頼度を判定する判定部と、を備えたマルチパス信号信頼度判定装置を構成してもよい。
【0010】
この第1の形態等によれば、位置算出用衛星から発信された衛星信号を受信した受信信号に対して相関演算処理を行う。そして、相関演算処理により求められたピーク相関値と、当該ピーク相関値を示したピーク位相から所定位相遅れた位相の相関値とを用いて、受信信号がマルチパス信号である場合の当該マルチパス信号の信頼度を判定する。
【0011】
マルチパス信号は、測位用衛星から送信される衛星信号である直接波信号に、建物や地面等に反射した反射波や障害物を透過した透過波、障害物を回折した回折波等の間接波信号が重畳した信号である。間接波信号は、測位用衛星から受信機までの伝播距離が直接波信号に比べて長いため、直接波信号に対して遅れた信号となる。そのため、受信信号がマルチパス信号である場合は、ピーク位相から遅れた位相において間接波信号の影響が大きく現れ、相関値の絶対値が大きくなる。従って、ピーク相関値と、ピーク位相から所定位相遅れた位相の相関値とを参照することで、間接波信号が直接波信号に与える影響の程度を把握することができ、マルチパス信号の良し悪しを判定することが可能となる。
【0012】
また、第2の形態として、第1の形態のマルチパス信号信頼度判定方法であって、前記所定位相は、1チップ以上2チップ未満であるマルチパス信号信頼度判定方法を構成してもよい。
【0013】
この第2の形態によれば、ピーク位相から1チップ以上2チップ未満遅れた位相を所定位相として用いて、マルチパス信号の信頼度を判定する。本願発明者が実験を行った結果、ピーク位相からの遅れが1チップ未満である位相や2チップ以上遅れた位相における相関値に比べて、1チップ以上2チップ未満遅れた位相の相関値の方が、間接波信号の影響を判定し易いことが分かった。そのため、1チップ以上2チップ未満遅れた位相の相関値を用いてマルチパス信号の信頼度を判定することがより好適である。
【0014】
また、第3の形態として、第1又は第2の形態のマルチパス信号信頼度判定方法を実行することと、前記衛星信号を直接受信した直接波信号に対する前記衛星信号を間接受信した間接波信号の遅れに応じて前記相関値を強め合う状態か弱め合う状態かを、ピーク相関値と、当該ピーク相関値を示したピーク位相から所定位相進んだ位相の相関値とを用いて判定することと、前記相関演算処理の結果から求まるコード位相に含まれる誤差を、前記信頼度と前記判定した状態とに応じて定められた誤差算出方法を用いて算出することと、を含むコード位相誤差算出方法を構成してもよい。
【0015】
この第3の形態によれば、直接波信号に対する間接波信号の遅れに応じて相関値が強め合う状態か弱め合う状態かを、ピーク相関値と、当該ピーク相関値を示したピーク位相から所定位相進んだ位相の相関値とを用いて判定する。そして、相関演算処理の結果から求まるコード位相に含まれる誤差を、マルチパス信号の信頼度と、判定した強め合い又は弱め合いの状態とに応じて定められた誤差算出方法を用いて算出する。
【0016】
詳細は後述するが、直接波信号と間接波信号の位相の違いによって、相関値が強め合う状態となるか弱め合う状態となるかが変化すること、及び、この状態の変化によって、コード位相誤差の符号が変化することが分かった。また、マルチパス信号の信頼度の違いによって、コード位相誤差の変化の幅(振幅)が変化することが分かった。このことから、マルチパス信号の信頼度と、相関値の強め合い/弱め合いの状態とに応じて誤差算出方法を可変にすることで、コード位相誤差の算出を適切に行うことが可能となる。
【0017】
また、第4の形態として、第3の形態のコード位相誤差算出方法を実行することと、前記コード位相誤差算出方法により求められた前記コード位相の誤差を用いて、前記相関演算処理の結果から求まるコード位相を補正した補正コード位相を算出することと、を含むコード位相算出方法を構成してもよい。
【0018】
この第4の形態によれば、上述した第3の形態のコード位相誤差算出方法により求められたコード位相の誤差を用いて、相関演算処理の結果から求まるコード位相を補正した補正コード位相を算出する。これにより、誤差が補正されたより正確な補正コード位相を用いて位置算出を行うことが可能となり、位置算出の正確性が向上する。
【0019】
また、第5の形態として、複数の位置算出用衛星から衛星信号を受信することと、前記衛星信号それぞれの受信信号について第1又は第2の形態のマルチパス信号信頼度判定方法を実行することと、前記マルチパス信号信頼度判定方法の実行により求められた信頼度を用いて、位置算出に用いる前記衛星信号を選択することと、前記選択された衛星信号の受信信号を用いて位置算出を行うことと、を含む位置算出方法を構成してもよい。
【0020】
この第5の形態によれば、上述した第1又は第2の形態のマルチパス信号信頼度判定方法の実行により求められた信頼度を用いて、位置算出に用いる衛星信号を選択する。そして、選択された衛星信号の受信信号を用いて位置算出を行う。例えば、位置算出に必要な衛星数が不足する場合は、マルチパス信号と判定された衛星信号のうち、信頼度が高い衛星信号を位置算出に使用するようにする。これにより、マルチパス信号を除外してしまうと十分な衛星数を確保することができない環境においても、マルチパス信号であるが信頼性の高い衛星信号を用いて位置算出を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】相関値のピーク検出の説明図。
【図2】相関値のピーク検出の説明図。
【図3】相関値のピーク検出の説明図。
【図4】マルチパス信号に対する相関結果を示す図。
【図5】コード位相誤差ERRの説明図。
【図6】コード位相誤差ERRの説明図。
【図7】コード位相誤差ERRの説明図。
【図8】PE値の算出方法の説明図。
【図9】PE値とコード位相誤差ERRの関係図。
【図10】直接波信号に対する相関結果を示す図。
【図11】直接波信号に対する相関結果を示す図。
【図12】マルチパス信号に対する相関結果を示す図。
【図13】マルチパス信号に対する相関結果を示す図。
【図14】ベクトル角の説明図。
【図15】ベクトル角の説明図。
【図16】ベクトル角とコード位相誤差の関係図。
【図17】受信信号がマルチパス信号であるかの判定の説明図。
【図18】PL値の算出方法の説明図。
【図19】PL値の説明図。
【図20】PL値の説明図。
【図21】PL値の説明図。
【図22】PL値の説明図。
【図23】PL値とコード位相誤差の関係図。
【図24】ΔPL値とコード位相誤差の関係図。
【図25】マルチパス信号の信頼度の判定方法の説明図。
【図26】ΔPE値とコード位相誤差の関係図。
【図27】携帯電話機の機能構成を示すブロック図。
【図28】ベースバンド処理回路部の回路構成を示すブロック図。
【図29】ROMのデータ構成を示す図。
【図30】RAMのデータ構成を示す図。
【図31】フラグ判定範囲テーブルのデータ構成を示す図。
【図32】オフセットテーブルのデータ構成を示す図。
【図33】誤差モデル式テーブルのデータ構成を示す図。
【図34】捕捉対象衛星データベースのデータ構成を示す図。
【図35】位置算出処理の流れを示すフローチャート。
【図36】マルチパス検出処理の流れを示すフローチャート。
【図37】マルチパス信号信頼度判定処理の流れを示すフローチャート。
【図38】コード位相補正処理の流れを示すフローチャート。
【図39】第2の位置算出処理の流れを示すフローチャート。
【図40】位置算出使用衛星信号決定処理の流れを示すフローチャート。
【図41】変形例におけるPE値の算出方法の説明図。
【図42】変形例におけるPL値の算出方法の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態を説明する。以下では、GPS受信機を具備した携帯電話機に本発明を適用する場合を例に挙げて説明する。本実施形態では、GPS受信機は、マルチパス信号を検出するマルチパス信号検出装置として機能する他、受信信号がマルチパス信号である場合に当該マルチパス信号の信頼度を判定するマルチパス信号信頼度判定装置としても機能する。尚、本発明を適用可能な実施形態がこれに限定されるものではない。
【0023】
[原理]
(A)マルチパス信号の検出
最初に、マルチパス信号を検出する原理について説明する。GPS受信機では、測位用衛星の一種であるGPS衛星から送出される測位用信号としてのGPS衛星信号の捕捉を、C/Aコードと呼ばれる拡散符号を用いて行う。具体的には、GPS衛星信号は、各GPS衛星ごとに割り当てられた固有の変調コードであるC/A(Coarse and Acquisition)コードで直接スペクトラム拡散方式により変調された1.57542[GHz]の通信信号である。C/Aコードは、コード長1023チップを1PNフレームとする繰返し周期1msの擬似ランダム雑音符号である。
【0024】
このGPS衛星信号の受信信号と、捕捉対象としているGPS衛星(以下、「捕捉対象衛星」と称す。)のGPS衛星信号(以下、「捕捉対象衛星信号」と称す。)のC/Aコードを模擬したレプリカコードとの相関演算を行う。このとき、レプリカコードの周波数及び位相をずらしながら相関演算を行う。相関演算により得られる相関値は、レプリカコードの周波数と受信信号の周波数とが一致し、且つ、レプリカコードの位相と受信信号の位相とが一致した場合に最大となる。相関値が最大となる位相及び周波数を検出することで、GPS衛星信号に含まれるC/Aコードの位相及び搬送波周波数(ドップラ周波数)が得られ、GPS衛星信号が捕捉される。
【0025】
また、C/AコードはGPS衛星毎に異なるコードが予め規定されており、これにより、受信信号から所望のGPS衛星信号を分離・捕捉することが可能となっている。また、最大となった相関値が一定値に満たない場合には、ピークとは判定されず、捕捉対象衛星信号ではないと判定される。この場合には、捕捉対象衛星を変えて、再度、相関演算を行って信号の捕捉を試みる。
【0026】
ところで、GPS衛星は常にその位置が変化しており、GPS衛星とGPS受信機との間の距離(すなわち擬似距離)もそれに応じて変化している。このため、GPS受信機では、擬似距離の変化に対応するために、捕捉したGPS衛星信号を追跡(Tracking)する処理を行う。
【0027】
図1〜図3は、相関値が最大(ピーク)となる位相(以下、「ピーク位相」と称す。)の検出を説明する図である。図1では、横軸をコード位相、縦軸を相関値として、C/Aコードの自己相関値の一例を示している。尚、以下の説明では、相関値というときは、相関値の大きさ(絶対値)を意味するものとする。
【0028】
C/Aコードの自己相関値は、ピーク値を頂点とする左右対称の略三角形の形状で表される。つまり、ピーク位相から同じ量だけ位相が遅れた位相での相関値と、進んだ位相での相関値とは等しくなる。
【0029】
このことから、現在追跡しているコード位相(以下、「Punctual位相」と称す。)に対して、一定量だけ進んだ位相(以下、「Early位相」と称す。)と、一定量だけ遅れた位相(以下、「Late位相」と称す。)それぞれにおける相関値を算出する。一定量は、例えば、1/3チップとすることができる。そして、Late位相の相関値(以下、「Late相関値」と称す。)Plと、Early位相の相関値(以下、「Early相関値」と称す。)Peとが等しくなるように、Punctual位相を制御する。
【0030】
具体的には、図1に示すように、Early相関値PeとLate相関値Plとが一致する場合には、Punctual位相Ppがピーク位相に一致しているとみなす。また、図2に示すように、Early相関値PeがLate相関値Plより大きい場合には、Punctual位相がピーク位相より遅れているため、Punctual位相を進ませる。また、図3に示すように、Early相関値PeがLate相関値Plより小さい場合には、Punctual位相がピーク位相より進んでいるため、Punctual位相を遅らせる。以下の説明において「Punctual位相」とは、Early相関値PeとLate相関値Plとが一致する場合、すなわちピーク位相に一致しているとみなしたPunctual位相を意味するものとする。
【0031】
ところで、マルチパス環境では、GPS受信機で受信される信号(受信信号)は、GPS衛星から送信されるGPS衛星信号である直接波信号に、建物や地面等に反射した反射波や障害物を透過した透過波、障害物を回折した回折波等の間接波信号が重畳した信号(マルチパス信号)となる。
【0032】
図4は、マルチパス信号に対する相関結果を示す図であり、直接波信号と、間接波信号と、この直接波信号と間接波信号とを合成(重畳)したマルチパス信号とのそれぞれの相関値のグラフを示している。図4において、横軸はコード位相、縦軸は相関値を示している。
【0033】
間接波信号に対する相関値は、直接波信号に対する相関値と同様に略三角形の形状をなしているが、間接波信号の相関値のピーク値(相関ピーク値)の大きさは、直接波信号の相関ピーク値よりも小さい。これは、GPS衛星から送出されたGPS衛星信号が、建物や地面に反射したり障害物を透過すること等によって、送出された時点における信号強度が、受信時には弱められていることによるものである。
【0034】
また、間接波信号のピーク位相は、直接波信号のピーク位相よりも遅れている。これは、GPS衛星から送出されたGPS衛星信号が、建物や地面に反射したり障害物を回折すること等によって、GPS衛星からGPS受信機までの伝播距離が長くなったことによるものである。
【0035】
そして、マルチパス信号に対する相関値は、直接波信号の相関値と間接波信号の相関値との和となるため、三角形状が歪んでピーク値を中心とした左右対称とはならない。このため、図5に示すように、マルチパス信号におけるPunctual位相はピーク位相に一致しない。このピーク位相とPunctual位相との位相差を、以下では「コード位相誤差」と称し、「ERR」と表記する。また、Punctual位相がピーク位相よりも遅れている場合のコード位相誤差の符号を「正」、Punctual位相がピーク位相よりも進んでいる場合のコード位相誤差の符号を「負」と定義する。コード位相誤差の正負は、直接波信号と間接波信号の位相の違いにより生じる直接波信号と間接波信号との干渉の種類、すなわち、直接波信号と間接波信号とが強め合う状態(いわゆる増加的干渉)にあるのか、それとも、弱め合う状態(いわゆる減殺的干渉)にあるのかに応じて変化する。
【0036】
図6は、直接波信号と間接波信号とが同相である場合の相関結果の一例を示す図であり、図7は、直接波信号と間接波信号とが逆相である場合の相関結果の一例を示す図である。GPS受信機に到達した直接波信号と間接波信号の位相が同相である場合は、直接波信号と間接波信号とは互いに強め合うため、合成波信号の相関値は、直接波信号に対する相関値と間接波信号に対する相関値との合算値として表される。すなわち、直接波信号に対する間接波信号の遅れに応じて相関値が強め合う状態となっている。この場合は、図6に示すように、Punctual位相がピーク位相に対して遅れ位相となるため、コード位相誤差ERRは正の値となる。
【0037】
一方、GPS受信機に到達した直接波信号と間接波信号の位相が逆相である場合は、直接波信号と間接波信号とは互いに弱め合うため、合成波信号の相関値は、直接波信号に対する相関値から間接波信号に対する相関値を減じた減算値として表される。すなわち、直接波信号に対する間接波信号の遅れに応じて相関値が弱め合う状態となっている。この場合は、図7に示すように、Punctual位相がピーク位相に対して進み位相となるため、コード位相誤差ERRは負の値となる。尚、間接波信号の相関値が直接波信号の相関値よりも大きい場合には相関値の減算値は負の値となるが、絶対値を計算しているため、正の値として図示されている。
【0038】
直接波信号と間接波信号とが強め合う場合は、合成波信号の相関値は、直接波信号に対する相関値と間接波信号に対する相関値との合算値として表されるため、相関値が強め合う状態であることを意味する。直接波信号と間接波信号が弱め合う場合は、合成波信号の相関値は、直接波信号に対する相関値から間接波信号に対する相関値を減じた減算値として表されるため、相関値が弱め合う状態であることを意味する。すなわち、直接波信号と間接波信号の強め合い/弱め合いの状態と、相関値の強め合い/弱め合いの状態とは等価である。
【0039】
本実施形態では、「PE値」と「ベクトル角θ」との2つのパラメーターを定義する。そして、この2つのパラメーターの値を用いて、受信信号がマルチパス信号であるか否かを判定することで、マルチパス信号を検出する。
【0040】
図8は、PE値の算出方法の説明図であり、受信信号に対する相関結果の一例を示している。同図において、Punctual相関値Pp、Punctual位相から1チップ以上進んだ位相での相関値Pn、Punctual位相からNチップだけ進んだ位相での相関値Paから、次式(1)に従ってPE値を算出する。
PE=(Pp−Pn)/(Pa−Pn) ・・(1)
【0041】
但し、式(1)において、0<N<1であり、図8に示すように、例えばN=2/3とすることができる。すなわち、PE値は、相関値Pnに対するPunctual相関値Ppと、相関値Pnに対する相関値Paとの比率を表す。相関値Pnは、Punctual位相から1チップ以上離れた位相の相関値であるため、ノイズフロア(ノイズとみなす信号の相関値)に対する相関値と言える。
【0042】
そして、本願発明者が実験を行った結果、このPE値とコード位相誤差ERRとの間には次のような関係があることが分かった。図9は、マルチパスの影響が“無し”の状態から“有り”の状態に変化させた場合の、受信信号のPE値とコード位相誤差ERRとの関係を示す図である。図9では、横軸を共通の時間軸として、実線がPE値の時間変化を示し、破線がコード位相誤差ERRの時間変化を示している。
【0043】
マルチパスの影響が“無し”の状態では、GPS受信機における受信信号は直接波信号のみでなる。この場合、コード位相誤差ERRはほぼゼロであり、PE値は一定値である。これは、直接波信号の相関値のカーブの形状が時間経過によって変化しないためである。このマルチパスの影響が“無し”の状態、すなわち間接波信号が存在しない場合のPE値のことを、以下では「PEオフセット値」として説明する。
【0044】
GPS衛星信号のPRNコードに応じて相関値の三角形の傾斜の程度が異なるため、PEオフセット値は、GPS衛星毎に異なる。また、GPS衛星信号の信号強度に応じて相関値の三角形の高さが異なるため、PEオフセット値は、GPS衛星信号の信号強度に応じても変化する。すなわち、PEオフセット値は、GPS衛星の番号、及び、GPS衛星信号の信号強度に依存する値であると言える。
【0045】
一方、マルチパスの影響が“有り”の状態では、受信信号は、直接波信号に間接波信号が重畳されたマルチパス信号となる。この場合、コード位相誤差ERR及びPE値は、ともに時間経過に伴って変動する。これは、GPS衛星やGPS受信機が移動することによりGPS衛星信号とGPS受信機との相対位置関係が変化することで間接波信号が変動し、マルチパス信号のカーブの相関値の形状が変化するためである。つまり、図8における受信信号の相関値Pp,Paが変化するからである。このPE値の変動はsin波で近似可能であり、その振幅は、直接波信号と間接波信号との信号強度関係や搬送周波数の差によって決まる。
【0046】
図9からわかることは、PE値とコード位相誤差ERRとは、ほぼ同様な時間変動をするということである。つまり、コード位相誤差ERRが増加するとPE値も増加し、逆に、コード位相誤差ERRが減少するとPE値も減少する。前述したように、直接波信号と間接波信号とが強め合う場合は、コード位相誤差ERRが正の値となり、直接波信号と間接波信号とが弱め合う場合は、コード位相誤差ERRが負の値となる。従って、直接波信号と間接波信号とが強め合う場合は、PE値は増加する方向に変化し、直接波信号と間接波信号とが弱め合う場合は、PE値は減少する方向に変化する。
【0047】
次に、ベクトル角θと呼ばれる指標値を定義する。ベクトル角θは、次のように定義される。図10及び図11は、直接波信号の相関結果を示す図である。図10は、直接波信号のコード位相に対する相関値のグラフを示し、図11は、図10における各コード位相の相関値Pを、横軸を相関値のQ成分(直交成分)、縦軸を相関値のI成分(同相成分)とするIQ座標平面にプロットした図である。尚、相関値P=(I+Q1/2、である。
【0048】
図11を見ると、直接波信号の相関値Pは、IQ座標平面において、原点Oを通る略直線状に分布している。すなわち、コード位相CP0,CP4の相関値P0,P4は、I成分及びQ成分がともにゼロであり、IQ座標平面では原点Oにプロットされる。また、コード位相CP1〜CP3の相関値P1〜P3は、I成分及びQ成分がともにゼロでないため、原点Oから離れた位置にプロットされ、特に、相関値Pが最大となるコード位相(ピーク位相)CP2の相関値P2は、原点Oから最も遠い位置にプロットされる。
【0049】
つまり、ピーク位相CP2から1チップ以上進んだ位相CP0から1チップ以上遅れた位相CP4までの相関値Pは、IQ座標平面において、原点Oから離れるように移動し、ピーク位相で最も遠い位置に到達した後、再度、原点Oに戻るような略直線状の軌跡を描く。尚、この相関値Pが描く略直線状の軌跡は、同図ではQ軸に対して約45度の角度を成すこととしているが、直接波信号の搬送波の位相やIQ座標系のとり方等に応じて異なるものとなる。
【0050】
図12及び図13は、図4及び図5に示した直接波信号に間接波信号を合成したマルチパス信号の相関結果である。図12は、マルチパス信号のコード位相に対する相関値のグラフを示し、図13は、図12における各コード位相の相関値をIQ座標平面にプロットした図である。
【0051】
図13によれば、マルチパス信号の相関値Pは、IQ座標平面において閉曲線の軌跡を描くように分布する。すなわち、コード位相CP0は、相関値P0のI成分及びQ成分がともにゼロであり、IQ座標平面の原点Oにプロットされる。また、コード位相CP1〜CP4の相関値P1〜P4は、I成分及びQ成分がともにゼロでないため、原点Oから離れた位置にプロットされ、特に、ピーク位相CP2の相関値P2は、原点Oから最も遠い位置にプロットされる。つまり、マルチパス信号の相関値Pは、原点Oから離れるように移動し、ピーク位相で最も遠い位置に達した後、再度、原点Oに戻るような閉曲線の軌跡を描く。
【0052】
また、マルチパス信号の相関値Pのうち、Early,Late相関値PのそれぞれをIQ座標平面にプロットすると、図14及び図15に示すようになる。図14は、マルチパス信号に対する相関値を示し、図15は、図14における各コード位相の相関値をIQ座標平面にプロットした図である。
【0053】
図15において、原点OからEarly相関値Peの位置に向う位置ベクトルを「Early相関ベクトル」とし、Late相関値Plの位置に向う位置ベクトルを「Late相関ベクトル」とする。そして、このEarly相関ベクトルとLate相関ベクトルとの成す角度θを「ベクトル角」と定義する。尚、相関値Pl,Peは等しいため、IQ座標平面におけるEarly相関ベクトル及びLate相関ベクトルの大きさは等しい。
【0054】
そして、このベクトル角θとコード位相誤差ERRとの間には次のような関係がある。図16は、マルチパスの影響が“有り”の状態から“無し”の状態に変化させた場合の、ベクトル角θとコード位相誤差ERRとの関係を示す図である。図16では、横軸を共通の時刻として、実線がベクトル角θの時間変化を示し、破線がコード位相誤差ERRの時間変化を示している。
【0055】
マルチパスの影響が“無し”の状態では、受信信号は直接波信号のみとなる。この場合、コード位相誤差ERRはゼロであり、ベクトル角θは一定値(理論上ではゼロ)となる。これは、図11に示したように、直接波信号の相関値Pは、IQ座標平面において、略直線状の軌跡を描くように分布するためである。尚、理論上では、直接波信号に対するEarly相関値とLate相関値とは等しいためにベクトル角θはゼロであるが、実際には、所定の位相幅で位相をずらしながら相関演算を行うことから、ハードウェアの性能に応じて決まる一定値となる。
【0056】
一方、マルチパスの影響が“有り”の状態では、受信信号はマルチパス信号となり、コード位相誤差ERR及びベクトル角θは、ともに時間経過に従って変動する。このベクトル角θの変化は、sin波で近似可能であり、その振幅は、直接波信号と間接波信号との信号強度の関係や、搬送波周波数の差によって決まる。また、マルチパスの影響が“有り”の状態では、ベクトル角θとコード位相誤差ERRとの間には、コード位相誤差ERRが大きくなるほど、ベクトル角θは、マルチパスの影響が“無し”の状態(ゼロに近い一定値)に近づき、逆に、コード位相誤差ERRが小さくなるほど、ベクトル角θは大きくなるように変化する。
【0057】
このようなPE値及びベクトル角θそれぞれとコード位相誤差ERRとの関係に基づいて、受信信号がマルチパス信号であるかを判定する。また、コード位相誤差ERRの大きさが十分大きい場合には、マルチパス信号であると判定する。
【0058】
具体的には、図17に示すように、PE値及びベクトル角θに対して判定範囲を定める。図17は、マルチパスの影響が“無し”の状態から“有り”の状態に変化させた場合の、コード位相誤差ERR、PE値及びベクトル角θそれぞれの時間変化を示す図であり、横軸を共通の時間軸として、破線がコード位相誤差ERRの時間変化を示し、実線がPE値の時間変化を示し、一点鎖線がベクトル角θの時間変化を示している。
【0059】
図17に示すように、PE値に対する判定範囲B,Cを定める。この判定範囲B,Cは中心値が共通な範囲であり、この中心値は、受信信号が直接波信号のみでなる場合のPE値(すなわち、直接波信号に含まれるC/Aコードに応じた所定値)に等しい。また、判定範囲Cの幅は、判定範囲Bの幅より大きく定められている。
【0060】
ところで、直接波信号に対するPE値は、当該直接波信号に含まれるGPS衛星信号のC/Aコードに応じて異なる。このため、判定範囲B,Cの中心値は、捕捉対象のGPS衛星に応じて異なる値となる。また、ベクトル角θに対する判定範囲Aを定める。この判定範囲Aの中心値は、受信信号が直接波信号でなる場合のベクトル角θの値に等しい。
【0061】
そして、「条件A:PE値が判定範囲B外であり、且つ、ベクトル角θが判定範囲A外である」或いは「条件B:PE値が判定範囲C外である」の少なくとも一方の条件を満たすならば、受信信号はマルチパス信号であると判断し、何れも満たさないならば、マルチパス信号でないと判断する。これは、次の理由による。
【0062】
マルチパスの影響が“無し”の状態では、PE値は、捕捉対象衛星に応じた一定値となり、また、ベクトル角θは一定値(理論上は、ゼロ)となる。つまり、「条件A」及び「条件B」がともに満たされず、マルチパス信号でないと判定される。一方、マルチパスの影響が“有り”の状態では、PE値はコード位相誤差ERRに略一致した変化をし、また、ベクトル角θの絶対値は、コード位相誤差ERRの絶対値が大きくなるに従って小さくなるとともに、コード位相誤差ERRの絶対値が小さくなるに従って大きくなるように変化する。
【0063】
つまり、コード位相誤差ERRとベクトル角θとの関係から、マルチパス信号であっても「条件A」が満たされない場合がある。例えば図17において、時刻t1,t3,t5のそれぞれの付近の期間は、「条件A」が満たされないが、コード位相誤差ERRの絶対値が大きい期間である。このため、「条件B」によって、ベクトル角θの値に関わらず、PE値がある程度大きい場合にはマルチパス信号であると判定するようにしている。
【0064】
(B)マルチパス信号の信頼度の判定
次に、マルチパス信号の信頼度を判定する原理について説明する。マルチパス信号の信頼度とは、マルチパス信号が位置算出に使用することが許容可能な程度を示す指標値として用いられる。つまり、マルチパス信号の信頼度が高いほど、マルチパス信号を位置算出に使用することが許容可能な程度が高いということである。本実施形態では、コード位相誤差ERRの変化の幅(コード位相誤差の振幅)が小さいほど、誤差の補正によりコード位相の真値に近づけやすいため、マルチパス信号の信頼度は高いものと判定する。このマルチパス信号の信頼度を「PL値」と呼ぶ指標値を用いて判定する。
【0065】
図18は、PL値の算出方法を説明するための図であり、受信信号に対する相関結果の一例を示している。図18において、Punctual相関値Ppと、Punctual位相からMチップ遅れた位相での相関値Pbとを用いて、次式(2)に従ってPL値を算出する。
PL=Pb/Pp ・・・(2)
但し、1≦M<2であり、図18に示すように、例えばM=1.4とすることができる。すなわち、PL値は、相関値PbとPunctual相関値Ppとの比率を示す。
【0066】
本願発明者が実験を行った結果、Punctual位相からの遅れが1チップ未満である位相や2チップ以上遅れた位相に比べて、1チップ以上2チップ未満遅れた位相の方が間接波信号の影響が大きく現れ、相関値の絶対値が大きくなる傾向があることが分かった。そのため、本実施形態では、1チップ以上2チップ未満遅れた位相(1≦M<2)の相関値を用いてPL値を算出することにしている。
【0067】
図19〜図22は、PL値が表す意味を説明するための図である。図19は、GPS衛星から発信されたGPS衛星信号が建物に反射してGPS受信機に到達することで、GPS受信機の受信信号がマルチパス信号となる場合を示している。ここでは、直接波信号と間接波信号とが強め合う場合に着目して図示・説明する。図19において、直接波信号と間接波信号の伝搬距離差を「ΔL1」とする。
【0068】
図20は、図19のマルチパス信号に対する相関結果を示す図であり、直接波信号と、間接波信号と、これらの合成波信号とのそれぞれの相関値のグラフを示している。直接波信号と間接波信号との位相のずれを距離に換算した値が、図19の伝搬距離差「ΔL1」に相当する。図20において、Punctual相関値Pp1と、Punctual位相から1.4チップ遅れた位相における相関値Pb1とを用いてPL値を算出すると、PL1=Pb1/Pp1となる。
【0069】
図21は、図19と同様に、GPS衛星から発信されたGPS衛星信号が建物に反射してGPS受信機に到達することで、GPS受信機の受信信号がマルチパス信号となる場合を示している。ここでも、直接波信号と間接波信号とが強め合う場合に着目して説明する。図21では、図19と比べて、GPS衛星から発信されたGPS衛星信号が建物に反射してGPS受信機に到達するまでの時間(伝搬時間)が長くなっている。これにより、直接波信号と間接波信号の伝搬距離差「ΔL2」が、図19の伝搬距離差「ΔL1」と比べて長くなっている(ΔL2>ΔL1)。
【0070】
図22は、図21のマルチパス信号に対する相関結果を示す図であり、直接波信号と、間接波信号と、これらの合成波信号とのそれぞれの相関値のグラフを示している。直接波信号と間接波信号との位相のずれを距離に換算した値が、図21の伝搬距離差「ΔL2」に相当する。図22では、Punctual相関値Pp2と、Punctual位相から1.4チップ遅れた位相における相関値Pb2とを用いてPL値を算出すると、PL2=Pb2/Pp2となる。
【0071】
前述したように、GPS衛星信号が建物に反射することによってGPS受信機までの伝搬距離が長くなるため、間接波信号のピーク位相は、直接波信号のピーク位相よりも遅れている。また、ΔL2>ΔL1であるため、図22における間接波信号のピーク位相の遅れは、図20における間接波信号のピーク位相の遅れよりも大きくなっている。そのため、図22では、Punctual位相からM(=1.4)チップ離れた位相における間接波信号の影響が、図20の場合と比べて大きくなっており、相関値Pb2の大きさは、相関値Pb1よりも大きくなっている。
【0072】
Pb2>Pb1の関係が成立するため、式(2)のPL値の定義式より、PL2>PL1となる。従って、ΔL2>ΔL1であればPL2>PL1となり、直接波信号と間接波信号の伝搬距離差ΔLが大きいほど、PL値は大きくなる関係にある。すなわち、伝搬距離差ΔLとPL値との間には、正の相関があると言える。
【0073】
また、PL値とコード位相誤差ERRとの間には次のような関係がある。図23は、マルチパスの影響が“無し”の状態から“有り”の状態に変化させてシミュレーション実験を行った場合の、受信信号のPL値とコード位相誤差ERRとの関係を示す図である。図23では、横軸を共通の時間軸として、実線がPL値の時間変化を示し、破線がコード位相誤差ERRの時間変化を示している。
【0074】
この図を見ると、マルチパスの影響が“無し”の状態では、GPS受信機における受信信号は直接波信号のみでなる。この場合、コード位相誤差ERRはほぼゼロであり、PL値もほぼゼロである。これは、受信信号が直接波信号のみでなる場合は、図18に示すように、Punctual位相から1チップ以上離れた位相では相関値がほとんどゼロとなり、式(2)のPL値の定義式においてPb≒0となるためである。このマルチパスの影響が“無し”の状態、すなわち間接波信号が存在しない場合のPL値のことを、以下では「PLオフセット値」として説明する。
【0075】
GPS衛星信号のPRNコードに応じて相関値の三角形の傾斜の程度が異なるため、PLオフセット値は、GPS衛星毎に異なる。また、GPS衛星信号の信号強度に応じて相関値の三角形の高さが異なるため、PLオフセット値は、GPS衛星信号の信号強度に応じても変化する。すなわち、PLオフセット値は、GPS衛星の番号、及び、GPS衛星信号の信号強度に依存する値である。
【0076】
一方、マルチパスの影響が“有り”の状態では、受信信号は、直接波信号に間接波信号が重畳されたマルチパス信号となる。この場合、コード位相誤差ERR及びPL値は、ともに時間経過に伴って変動する。PL値の変動はsin波で近似可能であり、その振幅は、直接波信号と間接波信号との信号強度や搬送距離の差によって決まる。
【0077】
また、図23から、PL値とコード位相誤差ERRとは、ほぼ逆の時間変動をすることがわかる。つまり、コード位相誤差ERRが増加するとPL値は減少し、逆に、コード位相誤差ERRが減少するとPL値は増加する。前述したように、直接波信号と間接波信号とが強め合う場合は、コード位相誤差ERRが正の値となり、直接波信号と間接波信号とが弱め合う場合は、コード位相誤差ERRが負の値となる。従って、直接波信号と間接波信号とが強め合う場合は、PL値は減少する方向に変化し、直接波信号と間接波信号とが弱め合う場合は、PL値は増加する方向に変化すると言える。
【0078】
このように、PL値は、直接波信号と間接波信号の干渉の種類(強め合い/弱め合い)によって増減の方向が変化する。また、受信信号の信号強度は時々刻々と変化しており、PL値は、直接波信号と間接波信号の信号強度関係によっても増減の大きさが変化することになる。従って、PL値を観測したとしても、その変化が、直接波信号と間接波信号の干渉の違いに起因するものであるのか、信号強度の変化に起因するものであるのかを区別することができない。そこで、本願発明者は、PL値からPLオフセット値を減算した値を「ΔPL値」と定義し、ΔPL値の時間変化を調べる実験を行った。
【0079】
図24は、コード位相誤差ERRとΔPL値との関係を示す図である。時刻t1までは受信信号を直接波信号のみとし、時刻t1において、直接波信号に間接波信号を重畳した場合のシミュレーション実験の結果を示している。また、直接波信号と間接波信号との伝搬距離差ΔLを変えて、ΔPL値とコード位相誤差ERRとの関係を調べた。伝搬距離差ΔLが0.6チップ(=約180m)である場合のコード位相誤差ERR及びΔPL値を、それぞれダイヤ形及び四角形で、伝搬距離差ΔLが1.1チップ(=約330m)である場合のコード位相誤差ERR及びΔPL値を、それぞれ三角形及び×印で示している。
【0080】
図24を見ると、伝搬距離差ΔLが0.6チップと1.1チップの何れの場合も、コード位相誤差ERRの波形はゼロ近傍の値を中心として振動していることがわかる。また、コード位相誤差ERRの変化の幅(振幅)を比較すると、伝搬距離差ΔLが1.1チップである場合の方が小さくなっている。このことから、伝搬距離差ΔLが大きくなるにつれて、コード位相誤差ERRの振幅は小さくなる傾向がありそうである。実際に、本願発明者が詳細な実験を行った結果、特に伝搬距離差ΔL=0.6〜1.5チップの範囲では、伝搬距離差ΔLが大きくなるほど、コード位相誤差ERRの振幅が小さくなることを確認した。
【0081】
このことから、伝搬距離差ΔLが大きいほど、コード位相誤差ERRの振幅が小さいため、コード位相誤差ERRを補正すれば、真のコード位相に近付けやすいことになる。真のコード位相に近づけることができれば、マルチパス信号であっても位置算出に使用することができる。本実施形態では、コード位相誤差ERRを補正することによって真のコード位相に近づく度合いが高いマルチパス信号を、信頼度が高いマルチパス信号と称する。よって、伝搬距離差ΔLが大きいほど、マルチパス信号の信頼度は高いと言える。
【0082】
また、ΔPL値に着目すると、伝搬距離差ΔLが0.6チップと1.1チップの何れの場合も、ΔPL値の波形は上下に振動している。特徴的であるのは、ΔL=1.1チップの場合のΔPL値の分布がグラフの上部に集中し、バイアスがかかったかのような値になっていることである。すなわち、ΔPL値は、伝搬距離差ΔLが1.1チップの方が0.6チップの場合に比べて総体的に大きい。このことから、伝搬距離差ΔLが大きくなるにつれて、ΔPL値は総じて大きくなることがわかる。
【0083】
尚、図24に示したΔPL値の増減変化と、図23に示したPL値の増減変化とが逆転する現象が発生しているが、これは、GPS受信機の受信回路に設けられたフィルタの特性に起因するものであり、この現象自体に大きな意味があるわけではない。GPS受信機では、受信回路内の前段部分において受信信号をローパスフィルタ等のフィルタに通過させ、高域の周波数の信号を減衰させる場合がある。この際、ローパスフィルタのカットオフ周波数が高く設定されていると、フィルタ通過後の受信信号に対して相関演算を行った際に、Punctual位相からMチップ遅れた位相において直接波信号の影響が大きく現れる場合がある。そして、この場合に算出されるPL値とPLオフセット値の大小関係から、ΔPL値の増減変化とPL値の増減変化とが逆転する場合があるのである。当然のことながら、フィルタ特性によっては、ΔPL値の増減変化とPL値の増減変化とが一致する場合もあるわけであるが、伝搬距離差ΔLが大きくなるにつれて、ΔPL値が総体的に大きくなることに変わりはない。
【0084】
この図24の実験結果に基づいて、マルチパス信号の信頼度を以下のように判定する。すなわち、図25に示すように、ΔPL値に対して閾値判定を行う。そして、ΔPL値が所定の閾値以上である場合は、伝搬距離差ΔLが大きく、コード位相誤差ERRは小さいと推定されることから、マルチパス信号の信頼度を「高」と判定する。これは、直接波信号に対する間接波信号の遅延距離が長いことに相当する。
【0085】
一方、ΔPL値が閾値に満たない場合は、伝搬距離差ΔLが小さく、コード位相誤差ERRは大きいと推定されることから、マルチパス信号の信頼度を「低」と判定する。これは、直接波信号に対する間接波信号の遅延距離が短いことに相当する。
【0086】
尚、ΔPL値の閾値は、シミュレーション実験等により、予め適切な値を選択・設定しておけばよい。例えば、図24のシミュレーション実験の結果では、ΔPL値の閾値を「10」として閾値判定を行えば、ΔL=0.6チップの場合のΔPL値の波形と、ΔL=1.1チップの場合のΔPL値の波形とを分離することができ、マルチパス信号の信頼度を判定できる。
【0087】
(C)コード位相の補正
次に、受信信号がマルチパス信号であると判定された場合にコード位相を補正する原理について説明する。直接波信号と間接波信号とが強め合う場合は、コード位相誤差ERRが正の値となり、直接波信号と間接波信号とが弱め合う場合は、コード位相誤差ERRが負となることを説明した。これは、直接波信号と間接波信号との干渉の種類に応じて、コード位相誤差ERRの符号が変化することを意味する。
【0088】
また、図24において、特に伝搬距離差ΔL=0.6〜1.5チップの範囲では、直接波信号と間接波信号の伝搬距離差ΔLが大きくなるにつれて、コード位相誤差ERRの振幅が小さくなる傾向があることを説明した。また、上述した範囲では、伝搬距離差ΔLが大きいほど、ΔPL値は大きくなる傾向がある。すなわち、伝搬距離差ΔLとΔPL値との間には正の相関がある。従って、ΔPL値が大きいほど、コード位相誤差ERRの振幅は小さくなる傾向がある。また、図25で説明したように、ΔPL値が大きいほど、マルチパス信号の信頼度は高くなるため、マルチパス信号の信頼度が高いほど、コード位相誤差ERRの振幅は小さくなる傾向がある。これは、マルチパス信号の信頼度に応じて、コード位相誤差ERRの振幅が変化することを意味する。別の言い方をすると、直接波信号に対する間接波信号の遅延距離の長短に応じて、コード位相誤差ERRの振幅が変化する。
【0089】
本願発明者は、これらの知見に基づいて、(a)マルチパス信号の信頼度、(b)相関値の強め合い又は弱め合いの状態(直接波信号と間接波信号の干渉の種類)、の2つの要素に応じて、それぞれ算出方法を変えてコード位相誤差ERRの算出を行うことが妥当であると判断した。
【0090】
(a)マルチパス信号の信頼度は、前述したように、ΔPL値の大小に基づいて判定することができる。しかし、(b)相関値の強め合い又は弱め合いの状態(直接波信号と間接波信号の干渉の種類)をどのように判断するかが問題となる。すなわち、相関値が強め合う状態にあるのか、それとも、弱め合う状態にあるのかを判断するための指標値が必要となる。
【0091】
そこで本願発明者が着目したのは、(A)マルチパス信号の検出の原理で定義したPE値である。PE値は、直接波信号と間接波信号の位相の違いに応じて増減変化するが、受信信号の信号強度に応じても増減変化する。従って、PE値のみを観測していても、その増減の変化が、直接波信号と間接波信号の干渉の違いに起因するものなのか、受信信号の信号強度の変化に起因するものなのかを区別することはできない。そこで、PE値からPEオフセット値を減算した値を「ΔPE値」と定義し、ΔPE値の時間変化を調べる実験を行った。
【0092】
図26は、コード位相誤差ERRとΔPE値との関係を示す図である。時刻t2までは受信信号を直接波信号のみとし、時刻t2において、直接波信号に間接波信号を重畳した場合のシミュレーション実験の結果を示している。また、直接波信号と間接波信号との伝搬距離差ΔLを変化させて、ΔPE値とコード位相誤差ERRとの関係を調べた。伝搬距離差ΔLが0.6チップ(=約180m)である場合のコード位相誤差ERR及びΔPE値を、それぞれダイヤ形及び四角形で、伝搬距離差ΔLが1.1チップ(=約330m)である場合のコード位相誤差ERR及びΔPE値を、それぞれ三角形及び×印で示している。
【0093】
この図を見ると、伝搬距離差ΔLに依らず、ΔPE値とコード位相誤差ERRとは、ほぼ同様の時間変動をしていることがわかる。つまり、コード位相誤差ERRが増加するとΔPE値は増加し、逆に、コード位相誤差ERRが減少するとΔPE値も減少する。すなわち、直接波信号と間接波信号とが干渉により強め合う場合は、ΔPE値が増加する方向に変化し、直接波信号と間接波信号とが干渉により弱め合う場合は、ΔPE値が減少する方向に変化する。
【0094】
また、ΔPE値の波形に着目すると、ΔPE値はゼロ近傍の値を中心として振動しており、伝搬距離差ΔLが0.6チップである場合と1.1チップである場合とで、波形はほぼ重なっていることがわかる。よって、伝搬距離差ΔLに依らずに、ΔPE値はほぼ同じ特性を示すと言える。
【0095】
この実験結果によれば、直接波信号と間接波信号とが干渉により強め合う場合(増加的干渉の場合)は、ΔPE値は正の値となり、直接波信号と間接波信号とが干渉により弱め合う場合(減殺的干渉の場合)は、ΔPE値は負の値となる。従って、相関値の強め合い/弱め合いの状態(直接波信号と間接波信号の干渉の種類)は、ΔPE値の符号に基づいて判断することができる。
【0096】
以上の実験結果に基づいて、本実施形態では、ΔPE値の符号と、マルチパス信号の信頼度とに基づいて、コード位相誤差ERRを補正するための式(以下、「誤差モデル式」と称す。)を可変に選択してコード位相を補正する。これは、直接波信号と間接波信号との干渉の種類(=ΔPE値の符号の違い)と、直接波信号に対する間接波信号の遅延距離の長短(=マルチパス信号の信頼度の違い)とに応じて、誤差モデル式を可変にしてコード位相の補正を行うことに相当する。
【0097】
具体的には、(1)ΔPE値の符号が「正」でマルチパス信号の信頼度が「高」、(2)ΔPE値の符号が「正」でマルチパス信号の信頼度が「低」、(3)ΔPE値の符号が「負」でマルチパス信号の信頼度が「高」、(4)ΔPE値の符号が「負」でマルチパス信号の信頼度が「低」、の4種類のパターンそれぞれに対応する誤差モデル式を予め定めておく。例えば、次式(3)〜(6)に示すような4種類の誤差モデル式を定める。
【0098】
ERR=a1・ΔPE+b1(ΔPE≧0、且つ、ΔPL≧閾値) ・・(3)
ERR=a2・ΔPE+b2(ΔPE≧0、且つ、ΔPL<閾値) ・・(4)
ERR=a3・ΔPE+b3(ΔPE<0、且つ、ΔPL≧閾値) ・・(5)
ERR=a4・ΔPE+b4(ΔPE<0、且つ、ΔPL<閾値) ・・(6)
但し、「a1」〜「a4」、「b1」〜「b4」は、それぞれの誤差モデル式に応じた係数である。これらの誤差モデル式は、例えばΔPE値とERR値のサンプリングデータに対して最小二乗法を利用した関数のフィッティングを行うことで求めることができる。
【0099】
上述した誤差モデル式が定義されたら、ΔPE値及びΔPL値の大きさに基づいて、誤差モデル式を択一的に選択してコード位相誤差ERRを算出する。すなわち、選択した誤差モデル式にΔPE値を代入することで、コード位相誤差ERRを算出する。そして、算出したコード位相誤差ERRを、相関演算処理を行うことで取得したコード位相に加算することで、コード位相誤差ERRを補正する。
【0100】
1.第1実施例
1−1.機能構成
図27は、携帯電話機1の内部構成を示すブロック図である。携帯電話機1は、GPSアンテナ10と、GPS受信部20と、ホストCPU(Central Processing Unit)51と、操作部52と、表示部53と、ROM(Read Only Memory)54と、RAM(Random Access Memory)55と、携帯電話用無線通信回路部60と、携帯電話用アンテナ70とを備えて構成される。
【0101】
GPSアンテナ10は、GPS衛星から送信されているGPS衛星信号を含むRF(Radio Frequency)信号を受信するアンテナである。尚、GPS衛星信号は、PRNコードであるC/Aコードによってスペクトラム変調された信号であり、1.57542[GHz]を搬送波周波数とするL1帯の搬送波に重畳されている。
【0102】
GPS受信部20は、GPSアンテナ10で受信されたRF信号からGPS衛星信号を捕捉・抽出し、GPS衛星信号から取り出した航法メッセージ等に基づく測位演算を行って現在位置を算出する。このGPS受信部20は、RF受信回路部30と、ベースバンド処理回路部40とを有する。本実施形態において、GPS受信部20は、マルチパス信号検出装置及びマルチパス信号信頼度判定装置に相当する機能ブロックである。
【0103】
RF受信回路部30は、SAW(Surface Acoustic Wave)フィルタ31と、LNA(Low Noise Amplifier)32と、局部発振信号生成部33と、乗算部34と、増幅部35と、A/D変換部36とを有し、いわゆるスーパーヘテロダイン方式によって信号受信を行う。
【0104】
SAWフィルタ31は、バンドパスフィルタであり、GPSアンテナ10から入力されるRF信号に対して所定帯域の信号を通過させ、帯域外の周波数成分を遮断して出力する。
【0105】
LNA32は、低雑音アンプであり、SAWフィルタ31から入力される信号を増幅して出力する。
【0106】
局部発振信号生成部33は、LO(Local Oscillator)等の発振器で構成され、局部発振信号を生成する。
【0107】
乗算部34は、複数の信号を合成する乗算器を有して構成され、LNA32から入力されるRF信号に局部発振信号生成部33で生成された局部発振信号を乗算(合成)して中間周波数の信号(IF信号)にダウンコンバージョンする。尚、図示されていないが、乗算部34では、位相を互いに90度ずらした局部発振信号それぞれをRF信号と乗算することによって、受信信号をIF信号にダウンコンバージョンするとともに、同相成分(I信号)と直交成分(Q信号)とに分離する。
【0108】
増幅部35は、乗算部34から入力されたIF信号(I信号及びQ信号)を所定の増幅率で増幅する。A/D変換部36は、増幅部35から入力された信号(アナログ信号)をデジタル信号に変換する。従って、RF受信回路部30からは、IF信号のI信号とQ信号とが出力される。
【0109】
ベースバンド処理回路部40は、RF受信回路部30から入力されるIF信号からGPS衛星信号を捕捉・追尾し、データを復号して取り出した航法メッセージや時刻情報等に基づいて擬似距離の算出演算や測位演算等を行う。
【0110】
図28は、ベースバンド処理回路部40の回路構成の一例を示す図である。ベースバンド処理回路部40は、メモリ41と、レプリカコード生成部42と、相関演算部43と、CPU44と、ROM45と、RAM46とを備えて構成される。
【0111】
メモリ41は、RF受信回路部30から入力されたIF信号のI信号及びQ信号それぞれを、所定時間間隔でサンプリングして格納する。
【0112】
レプリカコード生成部42は、CPU44からの制御信号に従って、捕捉対象のGPS衛星のGPS衛星信号のPRNコードを模擬したレプリカコード(レプリカ信号)を生成・出力する。
【0113】
相関演算部43は、メモリ41に格納されているIF信号のI信号及びQ信号それぞれのサンプリングデータと、レプリカコード生成部42から入力されたレプリカコードとの相関演算を、レプリカコードの位相をずらしながら行う。
【0114】
CPU44は、ベースバンド処理回路部40の各部を統括的に制御するとともに、位置算出処理を含む各種演算処理を行うプロセッサーである。CPU44は、レプリカコード生成部42に、捕捉対象衛星のC/Aコードのレプリカコードを生成させる。そして、相関演算部43による相関演算結果(相関値)をもとに、GPS衛星信号に含まれるC/Aコード及びコード位相を検出してGPS衛星信号を捕捉・追跡する。GPS衛星信号の追跡は、先に説明したLate相関値及びEarly相関値とが一致するように、現在追跡している位相(Punctual位相)を可変制御することによって行う。
【0115】
ROM45は、読み取り専用の不揮発性の記憶装置であり、CPU44がベースバンド処理回路部40及びRF受信回路部30の各部を制御するためのシステムプログラムや、位置算出処理を含む各種処理を実現するための各種プログラムやデータ等を記憶している。
【0116】
RAM46は、読み書き可能な揮発性の記憶装置であり、CPU44の作業領域として用いられ、ROM45から読み出されたプログラムやデータ、CPU44が各種プログラムに従って実行した演算結果等を一時的に記憶する。
【0117】
ホストCPU51は、ROM54に記憶されているシステムプログラム等の各種プログラムに従って携帯電話機1の各部を統括的に制御するプロセッサーである。具体的には、主に、電話機としての通話機能を実現するとともに、ベースバンド処理回路部40から入力された携帯電話機1の現在位置を地図上にプロットした位置表示画面を表示部53に表示させるといった位置表示機能を含む各種機能を実現するための処理を行う。
【0118】
操作部52は、操作キーやボタンスイッチ等により構成される入力装置であり、利用者による操作に応じた操作信号をホストCPU51に出力する。この操作部52の操作により、位置算出の開始/終了指示等の各種指示が入力される。
【0119】
表示部53は、LCD(Liquid Crystal Display)等により構成される表示装置であり、ホストCPU51から入力される表示信号に基づく表示画面(例えば、位置表示画面や時刻情報等)を表示する。
【0120】
ROM54は、ホストCPU51が携帯電話機1を制御するためのシステムプログラムや、位置表示機能を実現するための各種プログラムやデータ等を記憶している。
【0121】
RAM55は、ホストCPU51の作業領域として用いられ、ROM54から読み出されたプログラムやデータ、操作部52から入力されたデータ、ホストCPU51が各種プログラムに従って実行した演算結果等を一時的に記憶する。
【0122】
携帯電話用無線通信回路部60は、RF変換回路やベースバンド処理回路等によって構成される携帯電話用の通信回路部であり、ホストCPU51の制御に従って無線信号の送受信を行う。
【0123】
携帯電話用アンテナ70は、携帯電話機1の通信サービス事業者が設置した無線基地局との間で携帯電話用無線信号の送受信を行うアンテナである。
【0124】
1−2.データ構成
図29は、ベースバンド処理回路部40のROM45に格納されたデータの一例を示す図である。ROM45には、CPU44により読み出され、位置算出処理(図35参照)として実行される位置算出プログラム451と、フラグ判定範囲テーブル453と、オフセットテーブル455と、誤差モデル式テーブル457とが記憶されている。
【0125】
位置算出処理では、CPU44は、各捕捉対象衛星について、受信信号に対する相関結果にもとづいて、位置算出用のメジャメントを取得・演算する。メジャメントとは、CPU44が位置算出計算において使用する受信信号に関する情報であり、受信信号の受信周波数やコード位相の情報が含まれる。
【0126】
そして、CPU44は、捕捉に成功した各GPS衛星信号について、当該GPS衛星信号がマルチパス信号であるか否かを判定し、マルチパス信号であると判定した場合は、当該マルチパス信号の信頼度を判定する。そして、信頼度の判定結果に基づいて、メジャメントに含まれるコード位相を補正する処理を行い、補正されたコード位相(以下、「補正コード位相」と称す。)を用いて所定の位置算出計算を行うことで、携帯電話機1の位置を算出する。この位置算出処理については、フローチャートを用いて詳細に後述する。
【0127】
図31は、フラグ判定範囲テーブル453のデータ構成の一例を示す図である。フラグ判定範囲テーブル453には、各GPS衛星と対応付けて、判定範囲A〜Cそれぞれの中心値と、この中心値を基準とした正方向及び負方向それぞれへの幅とが対応付けて記憶されている。このフラグ判定範囲テーブル453は、マルチパス検出処理において、判定対象とするGPS衛星信号がマルチパス信号であるか否かを判定するために使用される。
【0128】
図32は、オフセットテーブル455のデータ構成の一例を示す図である。オフセットテーブル455には、各GPS衛星4551と対応付けて、受信信号の信号強度4553別に、PEオフセット値4555及びPLオフセット値4557が記憶されている。このオフセットテーブル455は、ΔPE値及びΔPL値を算出するために使用される。
【0129】
図33は、誤差モデル式テーブル457のデータ構成の一例を示す図である。誤差モデル式テーブル457は、コード位相の補正に使用するための誤差モデル式が定められたテーブルであり、ΔPE値の正負及びマルチパス信号の信頼度に応じて、4種類の誤差モデル式が定められている。
【0130】
図30は、ベースバンド処理回路部40のRAM46に格納されるデータの一例を示す図である。RAM46には、捕捉対象衛星データベース461と、出力位置463とが記憶される。
【0131】
図34は、捕捉対象衛星データベース461のデータ構成の一例を示す図である。捕捉対象衛星データベース461は、各捕捉対象衛星についてのデータである捕捉対象衛星データ462(462−1,462−2,462−3,・・・)が蓄積記憶されたデータベースである。
【0132】
各捕捉対象衛星データ462には、衛星番号4621と、当該捕捉対象衛星についての相関演算の結果であるIQ相関値データ4622と、当該捕捉対象衛星について取得・演算された受信周波数及びコード位相を含むメジャメント4623と、当該捕捉対象衛星について算出されたベクトル角4624、PE値4625、ΔPE値4626、PL値4627及びΔPL値4628と、F1〜F3のフラグ4629とが記憶される。
【0133】
出力位置463は、位置算出計算を行うことで最終的に出力する位置として決定された位置のデータである。
【0134】
1−3.処理の流れ
図35は、ROM45に記憶されている位置算出プログラム451がCPU44により読み出されることで実行される位置算出処理の流れを示すフローチャートである。
先ず、CPU44は、アルマナックやエフェメリス等の衛星軌道情報に基づいて捕捉対象衛星を判定する(ステップA1)。そして、判定した各捕捉対象衛星を対象としてループAの処理を実行する(ステップA3〜A19)。
【0135】
ループAの処理では、CPU44は、レプリカコード生成部42に対して、当該捕捉対象衛星のC/Aコードのレプリカコードを生成させ、相関演算部43から入力される捕捉対象衛星からの受信信号に対する相関演算結果をもとにメジャメントを算出し、当該捕捉対象衛星の捕捉対象衛星データ462に記憶させる(ステップA5)。すなわち、相関値がピーク相関値をとる受信周波数及び位相を特定して、当該捕捉対象衛星のメジャメントとする。この場合にメジャメントとして求められる位相は、先に述べたピーク相関値に一致しているとみなしたPunctual位相であり、コード位相誤差ERRを含み得る位相である。
【0136】
次いで、CPU44は、当該捕捉対象衛星からの受信信号の信号強度を計測する(ステップA7)。そして、CPU44は、当該捕捉対象衛星の捕捉に成功したか否かを判定し(ステップA9)、捕捉に成功したと判定した場合は(ステップA9;Yes)、マルチパス検出処理を行う(ステップA11)。
【0137】
図36は、マルチパス検出処理の流れを示すフローチャートである。
先ず、CPU44は、フラグF1〜F3の全てを「0」に初期設定する(ステップB1)。続いて、相関演算部43から出力される当該捕捉対象衛星からの受信信号に対する相関結果をもとに、PE値を算出する(ステップB3)。また、相関演算部43から入力される、Early相関値及びLate相関値をもとに、ベクトル角θを算出する(ステップB5)。
【0138】
次いで、CPU44は、ROM45のフラグ判定範囲テーブル453を参照して、算出したPE値を所定の判定範囲B,Cそれぞれと比較し、PE値が判定範囲B外ならば(ステップB7:Yes)、フラグF2を「1」に設定するとともに(ステップB9)、判定範囲C外ならば(ステップB11:Yes)、フラグF3を「1」に設定する(ステップB13)。また、算出したベクトル角θを所定の判定範囲Aと比較し、判定範囲A外ならば(ステップB15:YES)、フラグF1を「1」に設定する(ステップB17)。
【0139】
そして、フラグF1〜F3の設定値をもとに、対象の捕捉衛星からの受信信号がマルチパス信号であるか否かを判断する。すなわち、「条件A:フラグF1,F2がともに「1」である」或いは「条件B:フラグF3が「1」である」の少なくとも一方を満たすならば(ステップB19:Yes)、受信信号はマルチパス信号であると判断し(ステップB21)、ともに満たさないならば(ステップB19:No)、マルチパス信号でないと判断する(ステップB23)。以上の処理を行うと、マルチパス検出処理を終了する。
【0140】
図35の位置算出処理に戻って、マルチパス検出処理を行った後、当該捕捉対象衛星からの受信信号がマルチパス信号であると判定したならば(ステップA9:Yes)、CPU44は、マルチパス信号信頼度判定処理を行う(ステップA15)。
【0141】
図37は、マルチパス信号信頼度判定処理の流れを示すフローチャートである。
先ず、CPU44は、相関演算部43から出力される当該捕捉対象衛星からの受信信号に対する相関結果をもとに、PL値を算出する(ステップC1)。そして、ROM45のオフセットテーブル455を参照し、当該捕捉対象衛星の衛星番号及びステップA7で計測した当該捕捉対象衛星からの受信信号の信号強度に対応するPLオフセット値を読み出す(ステップC3)。
【0142】
次いで、CPU44は、ステップC1で算出したPL値から、ステップC3で読み出したPLオフセット値を減算することで、ΔPL値を算出する(ステップC5)。そして、CPU44は、ΔPL値に対して閾値判定を行って、マルチパス信号の信頼度を判定する(ステップC7)。具体的には、ΔPL値≧閾値である場合には信頼度「高」、ΔPL値<閾値である場合には信頼度「低」と判定する。そして、CPU44は、マルチパス信号信頼度判定処理を終了する。
【0143】
図35の位置算出処理に戻って、マルチパス信号信頼度判定処理を行った後、CPU44は、コード位相補正処理を行う(ステップA17)。
【0144】
図38は、コード位相補正処理の流れを示すフローチャートである。
先ず、CPU44は、ROM45のオフセットテーブル455を参照し、当該捕捉対象衛星の衛星番号及び信号強度に対応するPEオフセット値を読み出す(ステップD1)。そして、CPU44は、マルチパス検出処理のステップB3で算出したPE値から、ステップD1で読み出したPEオフセット値を減算することで、ΔPE値を算出する(ステップD3)。
【0145】
その後、CPU44は、ROM45の誤差モデル式テーブル457を参照し、ステップD3で算出したΔPE値と、マルチパス信号信頼度判定処理のステップC7で判定したマルチパス信号の信頼度とに基づいて、誤差モデル式を1つ選択する(ステップD5)。
【0146】
次いで、CPU44は、選択した誤差モデル式にΔPE値を代入することで、コード位相誤差ERRを算出する(ステップD7)。そして、CPU44は、ステップA5で算出したメジャメントに含まれるコード位相に、ステップD7で算出したコード位相誤差ERRを加算することでコード位相を補正して、補正コード位相を算出する(ステップD9)。そして、CPU44は、コード位相補正処理を終了する。
【0147】
図35の位置算出処理に戻って、コード位相補正処理を行った後、CPU44は、次の捕捉対象衛星へと処理を移行する。そして、全ての捕捉対象衛星についてループAの処理を終了すると(ステップA19)、CPU44は、各捕捉衛星のメジャメントを用いて携帯電話機1の位置を算出する位置算出計算を実行する(ステップA21)。特に、補正コード位相を用いて擬似距離を算出して、位置算出計算に利用する。
【0148】
そして、CPU44は、算出した位置を出力位置463としてRAM46に記憶させ、ホストCPU51に出力する(ステップA23)。その後、CPU44は、位置算出を終了するか否かを判断し(ステップA25)、終了しないならば(ステップA25:No)、ステップA1に戻る。また、位置算出を終了するならば(ステップA25:Yes)、位置算出処理を終了する。
【0149】
1−4.作用効果
携帯電話機1において、相関演算部43は、GPS衛星から発信されたGPS衛星信号を受信した受信信号と、レプリカコード生成部42により生成されたレプリカコードとを乗算する相関演算処理を行って相関値を算出する。CPU44は、相関演算処理により求められたピーク相関値と、当該ピーク相関値を示したピーク位相からM(1≦M<2)チップ遅れた位相の相関値とを用いてPL値を算出し、算出したPL値に基づいて、受信信号がマルチパス信号である場合の当該マルチパス信号の信頼度を判定する。
【0150】
より具体的には、CPU44は、受信したGPS衛星信号の信号強度を計測する。そして、各GPS衛星それぞれについて信号強度別に定められたPLオフセット値の中から、当該GPS衛星信号を発信したGPS衛星及び計測した信号強度に対応するPLオフセット値を読み出す。そして、PL値からPLオフセット値を減算することでΔPL値を算出し、ΔPL値に対する閾値判定を行って、マルチパス信号の信頼度を判定する。
【0151】
マルチパス信号は、GPS衛星から送信されるGPS衛星信号である直接波信号に、建物や地面等に反射した反射波や障害物を透過した透過波、障害物を回折した回折波等の間接波信号が重畳した信号である。間接波信号は、GPS衛星からGPS受信機までの伝播距離が直接波信号に比べて長いため、直接波信号に対して遅れた信号となる。そのため、受信信号がマルチパス信号である場合は、ピーク位相から遅れた位相、より具体的には、ピーク位相から1チップ以上2チップ未満遅れた位相において間接波信号の影響が大きく現れ、当該位相において相関値の絶対値が大きくなることが実験により明らかとなった。従って、ピーク相関値と、ピーク位相から1チップ以上2チップ未満遅れた位相の相関値とを用いて算出されるPL値を観察することで、間接波信号が直接波信号に与える影響の度合いを把握することができ、マルチパス信号の良し悪しを判定することができる。
【0152】
2.第2実施例
第2実施例は、携帯電話機1が、マルチパス信号の信頼度を用いて、位置算出に使用する衛星信号(以下、「位置算出使用衛星信号」と称す。)を選択し、選択した位置算出使用衛星信号を利用して位置算出を行う実施例である。
【0153】
2−1.処理の流れ
図39は、第2実施例において、ベースバンド処理回路部40のCPU44が行う第2の位置算出処理の流れを示すフローチャートである。尚、図35の位置算出処理と同一のステップについては同一の符号を付して説明を省略し、位置算出処理とは異なる部分を中心に説明する。
【0154】
CPU44は、ループAの処理において、ステップA15においてマルチパス信号信頼度判定処理を行った後、次の捕捉対象衛星へと処理を移行する。そして、全ての捕捉対象衛星についてループAの処理を行った後、位置算出使用衛星信号決定処理を行う(ステップE20)。
【0155】
図40は、位置算出使用衛星信号決定処理の流れを示すフローチャートである。
先ず、CPU44は、捕捉した衛星信号のうち、マルチパス信号ではないと判定した衛星信号を選択して、位置算出使用衛星信号とする(ステップF1)。つまり、マルチパス信号ではない衛星信号を優先的に位置算出に使用するようにする。
【0156】
次いで、CPU44は、位置算出使用衛星信号の数が、位置算出に必要となる衛星数である位置算出必要衛星数に達しているか否かを判定する(ステップF3)。位置算出必要衛星数は、緯度、経度及び高度を算出する3次元測位では4個、緯度及び経度を算出する2次元測位では3個である。そして、位置算出使用衛星信号の数が位置算出必要衛星数に達していると判定した場合は(ステップF3;Yes)、CPU44は、位置算出使用衛星信号決定処理を終了する。
【0157】
一方、ステップF3において位置算出使用衛星信号の数が位置算出必要衛星数に達していないと判定した場合は(ステップF3;No)、CPU44は、マルチパス信号であると判定された衛星信号の中から信頼度が「高」である衛星信号を選択して、位置算出使用衛星信号に追加する(ステップF5)。マルチパス信号と判定されなかった信号だけでは位置算出を行うことができない場合は、マルチパス信号と判定された信号のうち信頼度が高い信号も併用して位置算出を行うようにする。
【0158】
そして、CPU44は、再び、位置算出使用衛星信号の数が位置算出必要衛星数に達しているか否かを判定し(ステップF7)、達していると判定した場合は(ステップF7;Yes)、位置算出使用衛星信号決定処理を終了する。また、達していないと判定した場合は(ステップF7;No)、位置算出を行うことが不可能である旨をホストCPU51に通知した後(ステップF9)、ステップA25へと処理を移行する。
【0159】
2−2.作用効果
第2実施例では、捕捉したGPS衛星信号のうちマルチパス信号ではないと判定された信号の数が位置算出に必要な衛星数に満たない場合は、マルチパス信号であると判定された衛星信号のうち、信頼度が高い衛星信号を併用して位置算出を行う。これにより、高層ビルに囲まれたアーバンキャニオン環境のように、受信信号の多くがマルチパス信号となるような環境においても、その中でも信頼性の高い信号を利用して位置算出を行うことが可能となる。
【0160】
3.変形例
尚、本発明の適用可能な実施形態は、上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であることは勿論である。
【0161】
3−1.電子機器
上述した実施例では、電子機器の一種である携帯電話機に本発明を適用した場合について説明したが、他には、カーナビゲーション装置や携帯型ナビゲーション装置、パソコン、PDA(Personal Digital Assistants)、腕時計といった他の電子機器についても同様に適用することが可能である。
【0162】
3−2.衛星位置算出システム
また、上述の実施形態では、GPSを利用した場合を説明したが、例えば、GPSと同じCDMA方式を用いたGALILEOといった他の衛星測位システムにも同様に適用可能なのは勿論である。さらには、衛星測位システムに限らず、直接スペクトラム拡散方式により変調された信号が送出されるシステム、例えばIEEE802.11b規格の無線LANの無線信号を測位用信号として用いるシステムにも適用可能である。
【0163】
3−3.処理の主体
上述した実施例では、ベースバンド処理回路部40のCPU44が位置算出処理を行うものとして説明したが、ホストCPU51が位置算出処理を行うことにしてもよい。また、マルチパス検出処理、マルチパス信号信頼度判定処理及びコード位相補正処理はCPU44が行い、位置算出計算はホストCPU51が行うといったように、CPU44とホストCPU51とで処理を分担することにしてもよい。
【0164】
3−4.マルチパス信号の判定
例えば、上述の実施形態では、二つの条件(条件A,B)の少なくとも一方が満たされる場合に、受信信号がマルチパス信号であると判定することにしたが、これを、一方の条件のみを用いて判定することにしても良い。この場合、判定範囲A,B,Cの範囲を、大きくするように定めても良いし、小さくするように定めても良い。
【0165】
3−5.PE値及びPL値
上述した実施形態において、図8ではPE値の算出方法を、図18ではPL値の算出方法をそれぞれ説明したが、このPE値及びPL値の算出方法を次のようにすることも可能である。
【0166】
図41は、変形例におけるPE値の算出方法の説明図である。図8では、Punctual相関値Pp、Punctual位相から1チップ以上進んだ位相での相関値Pn、Punctual位相からNチップだけ進んだコード位相での相関値Paを用いてPE値を算出したが、相関値Pnを用いずに、次式(7)に従ってPE値を算出することにしてもよい。
PE=Pp/Pa ・・・(7)
【0167】
図42は、変形例におけるPL値の算出方法の説明図である。図18では、Punctual相関値Ppと、Punctual位相からMチップ遅れた位相での相関値Pbとを用いてPL値を算出したが、Punctual位相から1チップ未満遅れた位相での相関値Pmを併用して、次式(8)に従ってPL値を算出することにしてもよい。
PL=(Pm−Pb)/(Pp−Pb) ・・(8)
【0168】
3−6.誤差モデル式
上述した実施形態では、ΔPE値とコード位相誤差ERRとの関係を示す誤差モデル式を1次関数で近似するものとして説明したが、2次以上の関数や指数関数、対数関数等の各種関数を用いて近似することも可能である。
【0169】
また、本願発明者が数値実験を行った結果、誤差モデル式を定める際に、単純に最小二乗法を利用した関数のフィッティング等を行って誤差モデル式を決定すると、誤差モデル式から算出されるコード位相誤差ERR(コード位相の算出誤差)が、コード位相に実際に含まれる誤差(コード位相の実誤差)よりも大きくなり、補正が強くかかる場合があることが分かった。そこで、コード位相の補正量が小さくなる方向に作用するように誤差モデル式を決定してもよい。例えば、最小二乗法を用いて求めた誤差モデル式を、コード位相の補正量が小さくなる方向にシフトさせるといった手法を適用することができる。
【0170】
3−7.位置算出使用衛星の決定
上述した第2実施例では、マルチパス信号の信頼度を用いて位置算出使用衛星信号を決定する場合について説明したが、マルチパス信号の信頼度の他に、受信信号の信号強度や衛星の仰角等の情報を併用して、位置算出使用衛星信号を決定することにしてもよい。
【0171】
例えば、図40のステップF5において、マルチパス信号の中から位置算出使用衛星信号に追加する衛星信号を選択する際に、信頼度が「高」である衛星信号のうち、信号強度の大きな衛星信号や、仰角の高いGPS衛星から発信された衛星信号を優先的に選択して、位置算出使用衛星信号に追加することが考えられる。
【0172】
3−8.マルチパス信号信頼度
上述した実施形態では、ΔPL値が閾値以上である場合は、マルチパス信号の信頼度「高」、ΔPL値が閾値未満である場合は、マルチパス信号の信頼度「低」と判定するものとして説明したが、信頼度をより細かく判定することにしてもよい。ΔPL値が大きいほど信頼度が高くなればよいため、信頼度判定用の閾値を複数設定しておくことで、3段階以上の信頼度の判定を行うことが可能である。
【0173】
この場合も、信頼度の違いに応じた複数種類の誤差モデル式を予め定めておき、受信信号がマルチパス信号である場合は、当該マルチパス信号の信頼度に応じた誤差モデル式を選択して、コード位相の補正に使用するようにする。また、マルチパス信号の信頼度に基づいて位置算出使用衛星信号を決定する場合は、信頼度が高い衛星信号から順に、位置算出使用衛星信号に追加していくようにすればよい。
【符号の説明】
【0174】
1 携帯電話機、 20 GPS受信部、 30 RF受信回路部、
40 ベースバンド処理回路部、 41 メモリ、 42 レプリカコード生成部、
43 相関演算部、 44 CPU、 45 ROM、 46 RAM、
51 ホストCPU、 52 操作部、 53 表示部、 54 ROM、
55 RAM、 60 携帯電話用無線通信回路部、 70 携帯電話用アンテナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
位置算出用衛星から発信された衛星信号を受信した受信信号に対して相関演算処理を行うことと、
前記相関演算処理により求められたピーク相関値と、当該ピーク相関値を示したピーク位相から所定位相遅れた位相の相関値とを用いて、前記受信信号がマルチパス信号である場合の当該マルチパス信号の信頼度を判定することと、
を含むマルチパス信号信頼度判定方法。
【請求項2】
前記所定位相は、1チップ以上2チップ未満である、
請求項1に記載のマルチパス信号信頼度判定方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のマルチパス信号信頼度判定方法を実行することと、
前記衛星信号を直接受信した直接波信号に対する前記衛星信号を間接受信した間接波信号の遅れに応じて前記相関値を強め合う状態か弱め合う状態かを、前記ピーク相関値と、当該ピーク相関値を示したピーク位相から所定位相進んだ位相の相関値とを用いて判定することと、
前記相関演算処理の結果から求まるコード位相に含まれる誤差を、前記信頼度と前記判定した状態とに応じて定められた誤差算出方法を用いて算出することと、
を含むコード位相誤差算出方法。
【請求項4】
請求項3に記載のコード位相誤差算出方法を実行することと、
前記コード位相誤差算出方法により求められた前記コード位相の誤差を用いて、前記相関演算処理の結果から求まるコード位相を補正した補正コード位相を算出することと、
を含むコード位相算出方法。
【請求項5】
複数の位置算出用衛星から衛星信号を受信することと、
前記衛星信号それぞれの受信信号について請求項1又は2に記載のマルチパス信号信頼度判定方法を実行することと、
前記マルチパス信号信頼度判定方法の実行により求められた信頼度を用いて、位置算出に用いる前記衛星信号を選択することと、
前記選択された衛星信号の受信信号を用いて位置算出を行うことと、
を含む位置算出方法。
【請求項6】
位置算出用衛星から発信された衛星信号を受信した受信信号に対して相関演算処理を行う相関演算部と、
前記相関演算処理により求められたピーク相関値と、当該ピーク相関値を示したピーク位相から所定位相遅れた位相の相関値とを用いて、前記受信信号がマルチパス信号である場合の当該マルチパス信号の信頼度を判定する判定部と、
を備えたマルチパス信号信頼度判定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate

【図26】
image rotate

【図27】
image rotate

【図28】
image rotate

【図29】
image rotate

【図30】
image rotate

【図31】
image rotate

【図32】
image rotate

【図33】
image rotate

【図34】
image rotate

【図35】
image rotate

【図36】
image rotate

【図37】
image rotate

【図38】
image rotate

【図39】
image rotate

【図40】
image rotate

【図41】
image rotate

【図42】
image rotate


【公開番号】特開2011−7808(P2011−7808A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−192238(P2010−192238)
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【分割の表示】特願2009−152535(P2009−152535)の分割
【原出願日】平成21年6月26日(2009.6.26)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】