ミシン
【課題】部品点数低減及び針棒周囲スペース確保を図りつつ被縫製物の厚さを検出する。
【解決手段】縫い針108を上下動させるミシンモータ2aと、縫製時に被縫製物の浮き上がりを防止する中押さえ29と、縫い針に同期して中押さえに上下動させる中押さえ上下動機構M1と、中押さえモータ42により中押さえの下死点高さを調整する中押さえ高さ調節機構M4と、中押さえの下降接触時の押圧により中押さえが停止するように中押さえモータを制御する中押さえ高さ制御手段73と、中押さえの下降接触による中押さえモータの出力軸の状態変化時の中押さえの高さから被縫製物の厚さを求める厚さ取得処理手段73とを備えている。
【解決手段】縫い針108を上下動させるミシンモータ2aと、縫製時に被縫製物の浮き上がりを防止する中押さえ29と、縫い針に同期して中押さえに上下動させる中押さえ上下動機構M1と、中押さえモータ42により中押さえの下死点高さを調整する中押さえ高さ調節機構M4と、中押さえの下降接触時の押圧により中押さえが停止するように中押さえモータを制御する中押さえ高さ制御手段73と、中押さえの下降接触による中押さえモータの出力軸の状態変化時の中押さえの高さから被縫製物の厚さを求める厚さ取得処理手段73とを備えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中押さえを備えるミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のミシンは、上昇を行う縫い針に被縫製物が引っ張られないように縫い針よりも小さいストロークで上下動を行う中押さえによって被縫製物を押さえているが、中押さえは縫い針よりも低位置で上下動を行っているので、厚みがある被縫製物の場合には中押さえの下降時に被縫製物を踏みつけてしまうという問題があった。
そこで、従来のミシンは、ミシンモータとは別に中押さえを上下動させることで中押さえの上下位置を調節するステッピングモータと、光学素子からなる布厚検出器とを設け、検出された布厚に基づいてステッピングモータにより中押さえの下死点高さを調整する制御を行っていた(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特公平7−44983号公報(第5図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1における従来のミシンにあっては、光学素子からなる布厚検出器では縫製時に縫い目により圧縮されたときの布厚を検出することができず、検出精度が低いために中押さえの高さ制御も精度が低いものであった。また、専用の布厚検出器が必須であり部品点数の増加による生産性の低下を招くという問題があった。また、布厚検出器は被縫製物が位置する針棒の周囲に配置しなければならないが、中押さえを備えるミシンにあっては当該中押さえやその上下動機構が設けられ、針棒の周囲に布厚検出器を配置するスペースの確保が困難であるという問題もあった。
また、従来のミシンは、布厚を求めることができても布の硬さまでは求めることはできないという問題もあった。
本発明は、部品点数を低減し、針棒周囲のスペースを広く確保可能としつつ、被縫製物の厚さをふかつきを除いた縫い目形成時の布厚を正確に自動的に検出することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
請求項1記載の発明は、ミシンモータにより縫い針を上下動させる針上下動機構と、前記ミシンモータにより回転駆動される主軸の角度を検出する主軸角度検出手段と、縫製時に被縫製物の浮き上がりを防止する中押さえと、前記ミシンモータから動力を得て、前記縫い針の上下動に同期して前記中押さえを上下動させる中押さえ上下動機構と、中押さえモータにより前記中押さえ上下動機構の前記中押さえの下死点高さを上下移動させる中押さえ高さ調節機構とを備えるミシンにおいて、前記中押さえモータの出力軸の角度を検出するモータ軸角度検出手段を備え、下降する中押さえによる被縫製物への接触時の押圧力で停止可能に前記中押さえモータのトルクを上昇時よりも減少する高さ可変制御を行う中押さえ高さ制御手段と、前記高さ可変制御中は、前記中押さえが被縫製物に当接して下降を途中停止したことで前記中押さえモータの出力軸の角度変化を検出したときは、当該角度変化に対応した前記中押さえの高さから前記被縫製物の厚さを求める厚さ取得処理を行う厚さ取得処理手段を備えることを特徴とする。
【0005】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明と同様の構成を備えると共に、前記高さ可変制御において前記被縫製物の厚さを求めた後に、前記中押さえによる前記被縫製物への接触圧が高まるように前記中押さえモータのトルク値を徐々に変更する押圧制御を行う中押さえ押圧制御手段と、前記押圧制御の実行中に前記モータ軸角度検出手段により前記中押さえの下降が検出された場合に、当該下降時の前記中押さえモータのトルク値又は当該トルク値から求まる被縫製物の硬さを記録する硬さ取得処理手段を備えることを特徴とする。
【0006】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の発明と同様の構成を備えると共に、前記硬さ取得処理手段は、取得された前記中押さえモータのトルク値又は被縫製物の硬さに基づいて、少なくとも、糸張力調整手段の設定糸張力又は前記ミシンモータのトルクのいずれか一つの設定を補正することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
請求項1記載の発明は、中押さえの下降時に、被縫製物への接触時の押圧を上昇時よりも減少するようにトルク出力を行う高さ可変制御を行うので、下降して中押さえが被縫製物に接触すると、被縫製物側から受ける接触圧に押し負けて中押さえは下降動作が制止される。
そして、中押さえの停止状態により中押さえモータの出力軸が角度変化を生じるので、モータ軸角度検出手段により、中押さえと被縫製物との接触の発生を検出するができ、当該接触時における中押さえの検出角度から高さを求め、さらに、被縫製物の厚さを求めることができる。
また、上記発明は、中押さえを被縫製物に当接させて被縫製物の厚さ検出を行うので、被縫製物のふかつきを押さえた正確な布厚を検出することができる。
【0008】
なお、かかる請求項1記載の発明は、実際の縫製動作中に上記被縫製物の厚さ検出を行う場合と、ミシンモータを駆動させずに中押さえモータのみにより縫製維持の中押さえの上下動動作を再現するティーチングの際に被縫製物の厚さ検出を行う場合の両方を想定している(請求項2,3も同様)。そして、実縫製の場合には、中押さえの下降時に中押さえモータは出力軸が回転を生じないように一定に維持すると共にその保持トルクを接触時に生じる押圧力に抗することができない大きさ(上昇時の中押さえモータの保持トルクの大きさよりも小さくする)とすることで、被縫製物への接触時に中押さえモータの出力軸に回転を生じさせるようにする。
また、ティーチングの場合には、中押さえの上下動を中押さえモータの駆動のみにより行い、下降方向への駆動トルクを接触時に生じる押圧力に抗することができない大きさ(上昇時の中押さえモータの駆動トルクの大きさよりも小さくする)とすることで、被縫製物への接触時に中押さえモータの出力軸に回転を生じさせるようにする。
従って、厚さ取得処理手段による「出力軸の角度変化」とは、実縫製の場合には、[出力軸停止→出力軸回転]となる変化を生じた時を示し、ティーチングの場合には、[出力軸回転→出力軸停止]となる変化を生じた時を示すものとする。
【0009】
また、ここで、「被縫製物への接触時の押圧力で停止可能に前記中押さえモータのトルクを上昇時よりも減少する」とは、ミシンモータにより中押さえを下降させる場合(実動作の場合)には当該ミシンモータの動力により中押さえが被縫製物に圧接すると中押さえモータの保持トルクが圧接力に負けて上方移動方向に回転して中押さえの上下動が相殺されることを意味し、中押さえモータにより中押さえを下降させる場合(ティーチングの場合)には当該中押さえモータの下降移動時の駆動トルクを極力低減するように制御して接触圧の発生を低減或いは排除することを言う。
【0010】
上記発明により、接触位置検出や距離検出などを行う布厚検出器を用いることなく被縫製物の厚さを求めることができ、部品点数の低減による生産性の向上を図ることが可能となる。また、中押さえによる被縫製物への接触時の押圧を中押さえモータにより低減するので、被縫製物を押圧して傷つけることを回避でき、被縫製物の保護により縫い品質の向上を図ることが可能となる。
なお、本願発明は、布厚検出器を不要とすることができるが、中押さえモータのモータ軸角度検出手段が必須となる。しかしながら、中押さえモータのモータ軸角度検出手段は、布厚検出に限らず、用途の汎用性が高く、例えば、中押さえモータの脱調等を防ぐための動作制御や偏差を監視してトルクの大小を切り換えるなどの省電力制御に用いるなど他の用途との併用も可能であるため、モータ軸角度検出手段をこれらの用途にも用いることにより部品点数の増加とはならない。さらに、中押さえモータの出力軸の軸角度が検出できればよいので、布厚検出器のように針棒周囲に設ける必要がなく、針棒周囲のスペースを広く作業空間として確保することが可能となると共にミシンの針棒周囲に他の機構や部材を搭載する妨げとならない。
【0011】
なお、高さ可変制御の実行区間は、中押さえの下降動作の全域に限らず、被縫製物に接し得る区間のみとし、被縫製物に接し得ない区間(例えば、縫製対象としている被縫製物の厚さでは接し得ない高さ)については、中押さえモータを中押さえの下死点を維持することが可能な通常のトルク(上昇時と同じ大きさのトルク)となるように制御し、被縫製物に接し得ない区間を脱してから高さ可変制御を開始しても良い。
また、高さ可変制御における中押さえモータのトルクは、中押さえによる被縫製物への接触圧を0若しくは極力低減することが望ましいが、中押さえの下降動作を安定して行うための最小限の圧力が生じていても良い。
また、上記「高さ可変制御」と「厚さ取得処理」とは、実際の縫製時において下降動作を行う中押さえに対して実施しても良いし、後述する再現動作(ティーチング)時に下降動作を行う中押さえに対して実施しても良い。
【0012】
請求項2記載の発明は、高さ可変制御において被縫製物の厚さが求まると、中押さえによる被縫製物への接触圧が高まるように中押さえモータのトルク制御を行う。被縫製物に押し負けていた中押さえは、トルク制御により接触圧がある程度まで高められると、被縫製物を凹ませて下降することが可能となる。その際のトルク値は被縫製物の硬さと一定の対応関係を有するので、当該トルク値或いはトルク値から被縫製物の硬さを求めて記録することで、被縫製物の硬さに応じた各種の制御に応用することが可能となる。
なお、上記制御は、実縫製の場合には、保持トルクを徐々に高め、ティーチングの場合には、下降方向の駆動トルクを徐々に高めるようにトルク制御が行われる。
なお、トルクそのものを記録しても良いし、硬さまで求めても良いが、硬さを求める場合には、トルク値と被縫製物の硬さとの関係は、予め計測等により求めてそれを記憶するテーブルを用いても良いし、対応関係を数式化し、演算により求めても良い。
また、被縫製物の硬さを求めるための専用のセンサなどからなる硬さ検出手段を用いることなく被縫製物の硬さを求めることができ、部品点数の低減による生産性の向上を図ることが可能となる。
なお、本願発明は、専用の硬さ検出手段は不要となるが、中押さえモータのモータ軸角度検出手段が必須となる。しかしながら、中押さえモータのモータ軸角度検出手段は、前述したように、用途の汎用性が高いので、モータ軸角度検出手段が他の用途のために必要性があるミシンにあっては部品点数の増加とはならない。さらに、中押さえモータの出力軸の軸角度が検出できればよいので、専用の硬さ検出手段のように針棒周囲に設ける必要がなく、針棒周囲のスペースを広く作業空間として確保することが可能となると共にミシンの針棒周囲に他の機構や部材を搭載する妨げとならない。
【0013】
請求項3記載の発明は、取得された中押さえモータのトルク値又は被縫製物の硬さに基づいて、糸張力調整手段の設定糸張力又はミシンモータのトルクを補正するので、被縫製物の硬さに応じて糸張力又はミシンモータのトルクの適正化を図ることが可能となり、縫い品質の向上を図ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明に係るミシンの実施の形態について詳細に説明する。
なお、本実施形態では、ミシンとして電子サイクルミシンを例に説明する。
電子サイクルミシンは、縫製を行う被縫製物である布を保持する保持枠を有し、その保持枠が縫い針に対し相対的に移動することにより、保持枠に保持される布に所定の縫製パターンデータ(縫製パターン)に基づく縫い目を形成するミシンである。
ここで、後述する縫い針108が上下動を行う方向をZ軸方向(上下方向)とし、これと直交する一の方向をX軸方向(左右方向)とし、Z軸方向とX軸方向の両方に直交する方向をY軸方向(前後方向)と定義する。
【0015】
電子サイクルミシン100(以下、ミシン100という。)は、図1に示すように、ミシンテーブルTの上面に備えられるミシン本体101と、ミシンテーブルTの下部に備えられ縫製の開始と停止を操作するためのペダルRや、ミシンテーブルTの上部に備えられユーザによる入力操作を行うための操作パネル74等を備えている。
【0016】
(ミシンフレーム及び主軸)
図1、図2に示すように、ミシン本体101は、外形が側面視にて略コ字状を呈するミシンフレーム102を備えている。このミシンフレーム102は、ミシン本体101の上部をなし前後方向に延びるミシンアーム部102aと、ミシン本体101の下部をなし、前後方向に延びるミシンベッド部102bと、ミシンアーム部102aとミシンベッド部102bとを連結する縦胴部102cとを有している。
このミシン本体101は、ミシンフレーム102内に動力伝達機構が配され、回動自在で前後方向に延びる主軸2(図4参照)及び図示しない下軸を有している。主軸2はミシンアーム部102aの内部に配され、下軸(図示省略)はミシンベッド部102bの内部に配されている。
【0017】
主軸2は、ミシンモータ2a(図8参照)に接続され、このミシンモータ2aにより回動力が付与される。また、下軸(図示省略)は、縦軸(図示省略)を介して主軸2と連結されており、主軸2が回動すると、主軸2の動力が縦軸を介して下軸側へ伝達し、下軸が回動するようになっている。
主軸2の前端には、主軸2の回動によりZ軸方向に上下動する針棒108aが接続されており、その針棒108aの下端には、縫い針108が交換可能に設けられている。つまり、主軸2の回動により縫い針108はZ軸方向に上下動する。
かかる主軸2とミシンモータ2aと針棒108aと主軸2から針棒108aに上下動の駆動力を付与する図示しない伝達機構により針上下動機構が構成される。
【0018】
なお、主軸2には、主軸角度検出手段としてのエンコーダ2b(図7参照)が設けられている。エンコーダ2bはミシンモータ2aの主軸2の回転角度を検知するものであり、例えば、ミシンモータ2aにより主軸2が1°回転するごとにパルス信号を制御装置1000に出力するようになっている。また、主軸2の1回転に伴い、針棒108aは1往復の運動を行う。
【0019】
また、下軸(図示省略)の前端には、釜(図示省略)が設けられている。主軸2とともに下軸が回動すると、縫い針108と釜(図示省略)との協働により縫い目が形成される。
なお、ミシンモータ2a、主軸2、針棒108a、縫い針108、下軸(図示省略)、釜(図示省略)等の接続構成は従来公知のものと同様であるので、ここでは詳述しない。
【0020】
(位置決め手段)
図1、図2に示すように、ミシンベッド部102b上には、針板110が配設されており、この針板110の上方に布保持部としての保持枠111及び縫い針108が配置されるようになっている。
保持枠111は、ミシンアーム部102aの前端部に配される取付部材113に取り付けられており、その取付部材113にはミシンベッド102b内に配置された位置決めモータとしてのX軸モータ76a及びY軸モータ77aが駆動手段として連結されている(図7参照)。
保持枠111は、被縫製物である布地を保持し、X軸モータ76a及びY軸モータ77aの駆動に伴い、保持した布地を保持枠111ごと前後左右方向に移動するようになっている。そして、保持枠111の移動と、縫い針108や釜(図示省略)の動作が連動することにより、布地に所定の縫製パターンデータの縫い目データに基づく縫い目が形成される。
また、保持枠111は、布押さえ(図示省略)と下板(図示省略)とからなっており、取付部材113はミシンアーム102a内に配置された布押さえモータ79bの駆動により上下駆動が可能であり、布押さえ下降時に下板との間で布地を挟持し保持するようになっている。
そして、これら保持枠111、取付部材113、X軸モータ76a及びY軸モータ77aが、縫い針と布地をX軸方向及びY軸方向に相対的に位置決めする位置決め機構として機能する。
【0021】
ペダルRは、ミシン100を駆動させ、針棒108a(縫い針108)を上下動させたり、保持枠111を動作させたりするための操作ペダルとして作動する。すなわちペダルRには、ペダルRが踏み込まれたその踏み込み操作位置を検出するためのセンサが組み込まれており、センサからの出力信号がペダルRの操作信号として後述する制御装置1000に出力され、制御装置1000はその操作位置、操作信号に応じて、ミシン100を駆動し、動作させるように構成されている。
【0022】
また、ミシン100には、ユーザによる操作入力を行うための操作パネル74が設けられており、操作パネル74に入力された各種データや操作信号は、後述する制御装置1000に出力される。
なお、操作パネル74は、液晶表示パネルとその液晶表示パネルの表示画面上に設けられたタッチパネルとを備えて構成されており、液晶表示パネルに表示される各種操作キー等をタッチ操作することにより、タッチパネルがタッチ指示された位置を検出し、検出した位置に応じた操作信号を後述する制御装置1000に出力するようになっている。
【0023】
(中押さえ装置)
ミシンアーム102aには、縫い針108の上下動による布の浮き上がりを防止するために、針棒108aの上下動と連動して上下動し、縫い針108の周囲の布を下方に押圧する中押さえ29を有する中押さえ装置1(図3参照)が設けられている。なお、中押さえ装置1の本体はミシンアーム部102aの内部に配設されており、縫い針108は、中押さえ29の先端側に形成されている貫通孔に挿入されている。
中押さえ装置1は、図3〜図5に示すように、縫製時に布を針板110側に押さえ付ける中押さえ29と、主軸2の回転により上下動する縫い針108に合わせて中押さえ29を上下動させる中押さえ上下動機構M1と、中押さえ29の下降動作阻害時に行われる逃げ動作を可能とすると共に逃げ動作の際に中押さえ29を針板110側に付勢する付勢機構M2と、中押さえ29を縫製終了後に退避高さ位置に上昇させる中押さえ退避機構M3と、中押さえ29の高さを調節する中押さえ高さ調節機構M4とを備えている。
【0024】
中押さえ上下動機構M1は、先端に縫い針108を備える針棒108を上下方向に駆動させる主軸2(図4参照)の回動により、中押さえ29を上下動させるようになっている。
図4に示すように、主軸2には偏心カム3が固定され、その偏心カム3には接続リンク4が連結されている。接続リンク4には揺動軸抱き5が連結され、揺動軸抱き5には揺動軸6の一端部が連結されている。
揺動軸6の他端部には、図5に示すように、中押さえの上下方向D1の移動量を調節する中押さえ調節腕7の基端部が固定されている。中押さえ調節腕7には溝カム7aが形成されている。この溝カム7aは弧状の長孔になっており、この溝カム7aの所望の位置で第1リンク8の一端部が調節ナット9と段ねじ10により軸支されている。第1リンク8の一端部の固定位置は揺動軸6の中心に対して接離移動調節可能であり、中心からの距離に比例して第1リンク8に付与する往復動作量を増減調節することができる。
【0025】
第1リンク8の他端部は、図5に示すように、第2リンク11の長手方向略中間に段ねじ12より回動自在に連結されている。ここで、調節ナット9が係合する溝カム7aは、中押さえ29が上下往復運動の下死点にあるときに、段ねじ12の軸心を中心とした円弧の一部となるように形成されている。つまり、上軸2の角度が中押さえ29を下死点に移動させる位相のときにカム溝7aにおける第1リンク8の位置調節を行うことで、中押さえ29の下死点位置を不動状態のままストローク調節を行うことができる。
但し、ミシン10は、後述するように、被縫製物に接触したときの中押さえ29の高さから被縫製物の厚さを算出する処理を行うため、当該算出には上記のストロークが関係することから調節はみだりに行わない。また、調節する際には被縫製物の厚さを算出するためのパラメータとしての上記ストローク値を制御装置1000に設定入力して更新する必要がある。
【0026】
そして、第2リンク11の一端部は、後述する位置決めリンク13に軸支されている。第2リンク11の一端部が、位置決めリンク13に軸支されることで、通常の縫製時に中押さえ29が上下動を行う際には、引っ張りばね16の弾性力により第2リンク11の一端部が規制部材19に押し当てられた状態を維持する。そして、中押さえ29が布地の踏みつけ或いは何かに引っかかって予定された下死点位置まで下降できないような場合に、引っ張りばね16の弾性力に抗して位置決めリンク13が回動を行い、第2リンク11の一端部の支点が引っ張りばね16に抗して下降することで中押さえ29を上方に逃がすことが可能となっている。これにより、中押さえ上下動機構M1の破損が防止される。
【0027】
第2リンク11の他端部は、図5に示すように、第3リンク20の一端部に段ねじ21により回動自在に連結されている。第3リンク20の他端部には、第4リンク22の一端部が段ねじ23により第3リンク20の長手方向に対して直列となるように回動自在に連結されている。そして、本実施形態では、この第3リンク20と第4リンク22とで中押さえリンク部材24が構成されている。
第4リンク22の他端部には、リンク中継板25が段ねじ26により連結されている。リンク中継板25には中押さえ棒抱き27が固定されており、中押さえ棒抱き27には上下方向に延びる中押さえ棒28が保持されている。中押さえ棒28の下端部には、縫製時に布地を針板110側に押さえ付ける中押さえ29が取り付けられている。中押さえ棒28の上端部には押圧バネ30が設けられており、ボルト31及びナット32により中押さえ棒抱き27に取り付けられている。押圧バネ30は、中押さえ29が縫製時に縫い針108と同期して上下動を行う際に、中押さえ29を常時下方に押圧している。
そして、本実施形態では、第1リンク8、第2リンク11、第3リンク20、第4リンク22等により、中押さえ上下動機構M1が構成されている。
【0028】
段ねじ23は、角駒33及び案内部材34と共に第3リンク20と第4リンク22とを連結している。すなわち、第4リンク22の正面側には案内部材34が設けられ、この案内部材34の正面側には角駒33が設けられており、第3リンク20、第4リンク22、角駒33及び案内部材34が一つの段ねじ23で連結されている。
【0029】
案内部材34は、略F字状の板材であり、上端部34tが段ねじ35によりミシン筐体(ミシンフレーム102)に回動自在に取り付けられている。案内部材34の下端部近傍には、上下方向に長尺な長孔34aが形成されている。この長孔34aは、内側に角駒33がスライド可能に嵌めこまれており、案内部材34は、第3リンク20と第4リンク22の連結部Pを中押さえ29の上下方向D1に移動可能とし、かつ、第3リンク20と第4リンク22の直列方向D2を横切る方向D3への移動を規制している。
【0030】
また、図5に示すように、案内部材34には、当該案内部材34を第3リンク20と第4リンク22の直列方向D2を横切る方向D3に移動させる移動リンク36の一端部が、段ねじ37により長孔34aの上部近傍に回動自在に連結されている。移動リンク36の他端部には偏心カム38が連結されており、この偏心カム38には可変軸39の一端部が連結されている。
可変軸39の他端部は、図4に示すように、ベアリング40、かさ歯車41を介して中押さえモータ42に連結されている。つまり、中押さえモータ42の駆動が、可変軸39、偏心カム38、移動リンク36の順に伝達され、移動リンク36が案内部材34の回転角度の傾きを変化・調整させるようになっている。
中押さえモータ42は、正逆方向に回動自在であるとともに、その回動量及び駆動のタイミングが制御装置1000により制御可能となっている。
そして、移動リンク36と案内部材34と角駒33等が、中押さえ上下動機構の動作伝達部材として構成され、中押さえモータ42によりこの動作伝達部材の傾きを変化させることで、後述する中押さえ29の下死点高さを調節する中押さえ高さ調節機構M4として機能する。
【0031】
位置決めリンク13は、その中央部近傍で段ねじ14によりミシン筐体としてのミシンフレーム102に回動自在に取り付けられ、段ねじ14の位置は、中押さえ29が下死点にあるときの段ねじ12の位置と一致するようになっている。
位置決めリンク13の一端部は、ミシン面部側に向かって略コ字状に折り返されており、折り返された先端部にはばね掛13aが形成されている。本実施形態における位置決めリンク13は、その一端のばね掛け13aが、当該位置決めリンク13の回動中心である段ねじ14付近まで折り返されており、回動中心からばね掛け13aまでの距離が短くなるように形成されている。ばね掛け13aには引っ張りばね16の一端(上端)が連結されており、引っ張りばね16の他端(下端)は、ミシンフレームに固定されているばね掛15に連結されている。
引っ張りばね16は、ばね掛13aが形成されている位置決めリンク13の一端部を下方に引き下げるように付勢する。すなわち、引っ張りばね16は、第2リンク11における第3リンク20との接続部位が反力を受けた場合に、中押さえ29による踏みつけの発生により上方への反力を受けた場合に、その接続部位を下方に引き下げるように付勢する。つまり、引っ張りばね16と位置決めリンク13とが、中押さえ29の下降動作阻害時に中押さえ上下動機構M1に対する過剰負荷回避用の逃げ動作を可能とすると共に逃げ動作の際に中押さえ29を針板110側に付勢する付勢機構M2として機能する。そして、引っ張りバネ16は過剰負荷回避用の押さえバネとして機能する。
なお、付勢機構M2は、位置決めリンク13が第2リンク11に連結されることによって中押さえ上下動機構M1に接続されている。
【0032】
位置決めリンク13の他端部にはストッパ17が連結されており、第2リンク11の一端部と位置決めリンク13の他端部とが一つの段ねじ18によって連結されている。また、ストッパ17は、段ねじ14で位置決めリンク13と共にミシンフレーム102に回動自在に取り付けられている。ストッパ17の一端部17aの上方には、当該ストッパ17の一端部の上方への移動を規制するように規制部材19が設けられている。なお、この規制部材19は、ミシンフレーム102の一部で代用してもよい。
【0033】
図4に示すように、かさ歯車41には、かさ歯車43が歯合されており、中押さえモータ42の駆動を可変軸39の軸方向と直交する方向D4に出力することができるようになっている。かさ歯車43の後端にはベアリング44、中押さえ昇降カム45等が同軸上に連結されている。
【0034】
中押さえ昇降カム45は、軸方向端面に図示しない溝を有する溝カムである。
中押さえ昇降カム45は、その溝がカム部となっており、当該中押さえ昇降カム45の回動範囲の半分は、回動中心から溝までの距離がほぼ同一の円弧状に形成され(以下、維持部という)、残る半分は、回動中心から溝までの距離が、その維持部における回動中心から溝までの距離よりも大きく、かつ、滑らかに変化する形状(以下、変化部という)となっている。
この中押さえ昇降カム45は、中押さえ29を縫製終了後の退避位置に上昇させる中押さえ上げ部材46の一端部46aを上下に昇降させるものであり、当該中押さえ昇降カム45の溝の内部には、中押さえ上げ部材46の他端部に設けられた円筒状のコロ47が摺動自在に嵌合されている。そして、コロ47が中押さえ昇降カム45の維持部に沿って移動する際には、中押さえ上げ部材46の一端部46aは昇降しないが、コロ47が中押さえ昇降カム45の変化部に沿って移動する際には、中押さえ上げ部材46の一端部46aが昇降するようになっている。
このような溝カムである中押さえ昇降カム45の図示しない溝の内側にはコロ47を介して押さえ上げ部材46の他端部が係合しているので、中押さえ昇降カム45が回転を行わない限り中押さえ上げ部材46は揺動を行うことがなく、一定の状態を維持することが可能となっている。そして、中押さえ昇降カム45、中押さえ上げ部材46及びコロ47により、中押さえ退避機構M3が構成されている。
【0035】
中押さえ上げ部材46は、その中腹部で軸部材すなわちピン48によりミシンフレーム102に回動自在に取り付けられて支持されている。かかる中押さえ上げ部材46は、その一端部46aが中押さえ棒抱き27の下方に位置するように設けられており、コロ47が中押さえ昇降カム45の変化部に沿って移動し、中押さえ上げ部材46の一端部46aが上昇することで中押さえ棒抱き27を上昇させ、中押さえ29を退避位置に上昇させることができるようになっている。
【0036】
(縫製時における中押さえの動作)
次に、上記構成を有する中押さえ装置1の中押さえ上下動機構M1の動作について説明する。
ミシンモータ2aの駆動により主軸2を回転させて偏心カム3を回動させると、接続リンク4の先端は主軸2の軸線に略直交する方向(第3リンク20と第4リンク22の直列方向D2に対して横切る方向D3)に揺動し、接続リンク4に連結された揺動軸抱き5も同方向に揺動する。その揺動軸抱き5が揺動することにより、揺動軸6も揺動するため、第1リンク8の一端部が揺動支点となって第1リンク8の他端部が揺動軸6の軸線に略直交する方向(第3リンク20と第4リンク22の直列方向D2に対して横切る方向D3)に揺動する。第1リンク8の他端部の揺動に伴い、第2リンク11の他端部は第3リンク20と第4リンク22の直列方向D2に揺動し、第2リンク11の他端部に連結された第3リンク20及び第4リンク22は、その直列方向(上下方向)D2に揺動する。第3リンク20及び第4リンク22の揺動に伴い、第4リンク22に連結された中押さえ棒28は上下方向D1に沿って下方に移動するため、中押さえ29が上下方向に移動する。また、主軸2の回転により縫い針108が上下動するので、その縫い針108の上下動と連動するように中押さえ29は上下動する。
なお、以下の説明では主軸2の角度が0°のときに縫い針108及び中押さえ29が上死点に位置し、主軸2の角度が180°のときに縫い針108及び中押さえ29が下死点に位置するものとする。
【0037】
(中押さえ装置による中押さえの下死点高さの調節動作)
次に、上記構成を有する中押さえ装置1の中押さえ高さ調節機構M4による中押さえ29の高さの調節動作について説明する。
中押さえモータ42の駆動は、かさ歯車41、ベアリング40を介して可動軸39に伝達され、可動軸39は回動を始める。可動軸39の回動により、偏心カム38も回動し、移動リンク36は、可動軸39の軸線に略直交する方向(第3リンク20と第4リンク22の直列方向D2に対して横切る方向D3)に揺動する。移動リンク36の揺動により、案内部材34は第3リンク20と第4リンク22の直列方向D2に対して横切る方向D3に揺動する。
このとき、図6(a)、(b)に示すように、案内部材34の長孔34aで連結された第3リンク20と第4リンク22の連結部Pの段ねじ23(角駒33)は、そのねじ部分が長孔34aによって、第3リンク20と第4リンク22の直列方向D2に対して横切る方向D3への移動が規制されているため(図5、図6(a)参照)、揺動により伝達される力を逃がす場所が無くなり、段ねじ23(角駒33)は長孔34aに沿って上方に移動し、段ねじ23(角駒33)の案内部材34に追随した移動に伴って、直列に並んで連結されていた第3リンク20と第4リンク22同士がなす角度が変化し、中押さえリンク部材24は、略く字状になる(図6(b)参照)。中押さえリンク部材24が略く字状になると、中押さえ29は上下方向D1に沿って上方に移動する。これにより、中押さえ29の針板110からの中押さえ29の下死点高さを調節することができる。
【0038】
(ミシンの制御系:制御装置)
また、ミシン100は、図7に示すように、上述した各部、各部材の動作を制御するための動作制御手段としての制御装置1000を備えている。そして、制御装置1000は、縫製プログラム70a,枠位置ティーチングプログラム70b,中押さえ高さティーチングプログラム70cが格納されたプログラムメモリ70と、縫製パターンデータ71a及び各種の設定情報(図示略)を記憶した記憶手段としてのデータメモリ71と、プログラムメモリ70内の各プログラム70a,70b,70cを実行するCPU73とを備えている。
【0039】
また、CPU73は、インターフェイス74aを介して操作パネル74に接続されている。かかる操作パネル74は、各種画面や入力ボタンを表示する表示部74bと表示部74bの表面に設けられその接触位置を検知するタッチセンサ74cとを有しており、各種情報の入出力手段として機能する。操作パネル74で用いられる入力ボタンや入力スイッチはいずれも、表示部74bで表示され、タッチセンサ74cで入力が検知されることで押下式のボタンやスイッチと同等に機能するものである。
【0040】
また、CPU73は、インターフェイス75を介して、ミシンモータ2aを駆動するミシンモータ駆動回路75bに接続され、ミシンモータ2aの回転を制御する。また、ミシンモータ駆動回路75bを通じてミシンモータ2aの通電電流を制御してトルクの増減を調節することが可能となっている。
なお、ミシンモータ2aはエンコーダ2bを備えており、ミシンモータ2aを駆動するミシンモータ駆動回路75bにおいて、エンコーダ2bからミシンモータ2aの一回転ごとに出力されるZ相信号が、インターフェイス75を介してCPU73に入力され、この信号によって、CPU73は主軸2の一回転における原点(0°位置)を認識できる。また、エンコーダ2bからは、ミシンモータ2aの回転角度における1°ごとに出力されるA相信号が、インターフェイス75を介してCPU73に入力され、前述したZ相信号を基準にA相信号のパルス数をカウントして、CPU73は主軸2の現在回転角度を認識することができる。
なお、ミシンモータ2aには、例えば、サーボモータを適用することができる。
【0041】
また、CPU73は、インターフェイス76及びインターフェイス77を介して、縫製すべき布地を保持する保持枠111に備えられるX軸モータ76a及びY軸モータ77aをそれぞれ駆動するX軸モータ駆動回路76b及びY軸モータ駆動回路77bが接続され、保持枠111のX軸方向及びY軸方向の動作を制御する。
【0042】
また、CPU73は、インターフェイス78を介して、ミシンモータ2aによる上下動とは別に中押さえ29を上下動可能な中押さえモータ42を駆動する中押さえモータ駆動回路78bが接続され、中押さえ機構1の動作を制御する。また、中押さえモータ駆動回路78bを通じて中押さえモータ42の通電電流を制御してトルクの増減を調節することが可能となっている。
なお、中押さえモータ42の出力軸にはモータ軸角度検出手段としてのエンコーダ81が設けられており、中押さえモータ42を駆動する中押さえモータ駆動回路79bにおいて、エンコーダ81から中押さえモータ42の一回転ごとに出力されるZ相信号が、インターフェイス75を介してCPU73に入力され、この信号によって、CPU73は中押さえモータ42の出力軸の一回転における原点(0°位置)を認識できる。また、エンコーダ81からは、中押さえモータ42の回転角度における1°ごとに出力されるA相信号が、インターフェイス78を介してCPU73に入力され、前述したZ相信号を基準にA相信号のパルス数をカウントして、CPU73は中押さえモータの出力軸の現在回転角度を認識できる。
【0043】
また、CPU73は、インターフェイス79を介して、布押さえ(図示省略)を上下に移動する布押さえモータ79aを駆動する布押さえモータ駆動回路79bが接続され、布押さえの上下動動作を制御する。
布押さえモータ79aは、カム機構を介して布押さえの上下動機構と図示しない糸切り装置とに接続されており、その1周360°の回転範囲の一部の区間を布押さえの上下動動作の駆動に割り当てられ、他の区間を糸切り装置の糸切り動作の駆動に割り当てられている。従って、布押さえモータ79aを制御することにより、布押さえの上下動動作のみならず、糸切り動作の制御も可能となっている。
なお、X軸モータ76a及びY軸モータ77a、中押さえモータ42、布押さえモータ79aには、例えば、ステッピングモータを適用することができる。
【0044】
また、CPU73は、インターフェイス82を介して、縫い糸に糸張力を付与する糸張子装置(図示略)の駆動源となる糸張子ソレノイド82aを駆動するソレノイド駆動回路82bが接続され、糸張力の増減を制御する。
【0045】
上記データメモリ71に記憶された縫製パターンデータ71aは、図8に示すように、縫製を行う際の運針パターンを実行するために、保持枠111を移動させる際のX方向移動量、Y方向移動量のデータ(針落ち位置を示す縫い目データ)を示す縫いコマンド、終了コマンド及び中押さえ29の下死点高さを定める中押さえ高さコマンド、糸張力コマンド、糸切りコマンド及び終了コマンドが組み合わされている。
そして、並び順に従って各種コマンドが実行されることで任意のパターン(模様)による縫いが実行される。
図8に示す縫製パターンデータにおいて、「縫い」のコマンドでは、保持枠111を移動させる際のX方向移動量、Y方向移動量のデータ(パラメータ)が第一設定値と第二設定値とに記録され、X軸モータ76aとY軸モータ77aの回転駆動量がこれらにより決定される。
また、「中押さえ高さ」のコマンドでは、中押さえモータ42により定められる中押さえ29の下死点高さが第一設定値に記録され、中押さえモータ42の回転駆動量がこれにより決定される。
また、「糸張力」のコマンドでは、糸調子装置が縫い糸に付与すべき糸張力が第一設定値に記録され、糸張子ソレノイド82aの出力がこれにより決定される。
また、「糸切り」は糸切り装置(図示省略)を作動させるコマンド、「終了」はミシン100の布押さえモータ79aを駆動させて布を解放させるコマンドである。
なお、図8のX移動量、Y移動量、中押さえ高さの数値データにおける表記は10倍表記であり、例えば、「15」は、「1.5mm」を示している。
また、縫製パターンデータ71aには、図示しないが、後述する中押さえ高さティーチングプログラム70cの実行により取得される被縫製物の硬さも記録することが可能となっている。
【0046】
(縫製プログラムによる縫製処理)
プログラムメモリ70に格納された縫製プログラム70aは、上記縫製パターンデータ71aの各コマンドを順番に読み出して、コマンドに応じて制御対象を特定し、コマンド内の設定数値に基づいてミシンモータ2a、X軸モータ76a、Y軸モータ77a、中押さえモータ42、糸張子ソレノイド82aの動作制御を行い、縫製パターンデータ71aに基づく縫製を実行させるプログラムである。
例えば、上記図8の縫製パターンデータ71aの場合には、ペダルRの入力により縫製パターンデータにおける第一針目に関するデータである「中押さえ高さ」、「糸張力」、「縫い」のコマンド及びその設定値が読み込まれ、これらに基づいて、中押さえモータ42、糸張子ソレノイド82a、X軸モータ76a及びY軸モータ77aが各々の設定値に応じた動作量で駆動が行われる。また、最初の「縫い」コマンドの読み込みによりミシンモータ2aの駆動が開始される。
そして、ミシンモータ2aの駆動開始以降は、エンコーダ2bのカウントにより主軸角度が監視され、所定の主軸角度で縫製パターンデータ71aにおける毎針のコマンドの読み込みが行われると共に、コマンド毎に定められた所定の主軸角度で制御対象の動作が実行される。
【0047】
また、上記ミシンモータ2aの縫製時における回転速度及び回転駆動時のトルク値は、操作パネル74から設定された設定値がデータメモリ71内に記録されており、これに従ってミシンモータ2aの駆動制御が行われるようになっている。
さらに、X軸モータ76a及びY軸モータ77aの保持枠111の位置決め制御については、枠移動開始から停止までの動作期間が主軸角度によって定められている。かかる動作期間は、X軸モータ76aとY軸モータ77aの各々について、動作量と動作期間との対応関係を示すテーブルが予めデータメモリ71内に記録されており、縫製時には、CPU73は、縫製パターンデータ71aから「縫い」コマンドの移動量を読み込むと、上記対応デーブルを参照して動作期間を読み出し、エンコーダ2bにより動作開始と終了のタイミングを計って各モータ76a,77aの制御を実行する。
【0048】
(枠位置ティーチングプログラムによる処理)
枠位置ティーチングプログラム70bは、縫製パターンデータ71aにおける各針の「縫い」及び「中押さえ高さ」のコマンドに基づく動作の確認及びその設定値の修正を行うためのものである。この枠位置ティーチングプログラム70bに基づくティーチングの際には、ミシンモータ2aの駆動を行わずに縫製パターンデータ71aの各針毎のコマンドを、操作パネル74に設けられた図示しない前進キーと後退キーの入力に従って縫製順又は逆順に一針ずつ実行して再現する。このとき、一針毎の再現動作により設定値に修正の必要がある場合には、オペレータは、操作パネル74を通じてコマンドの種類を選択し、その設定値を増減キーにより修正する。かかる入力があると、CPU73は、修正が行われたコマンドについて新たな設定値で再現動作を行う動作制御を実行する。そして、確定が入力されると、修正内容に従って縫製パターンデータ71aの更新を行う。
なお、縫製パターンデータ71aに「縫い」、「中押さえ高さ」以外のコマンドが含まれている場合にはそれらについても同様に再現し、また修正することが可能である。
【0049】
(中押さえ高さティーチングプログラムによる処理)
中押さえ高さティーチングプログラム70cは、縫製パターンデータ71aに対して「中押さえ高さ」のコマンド及び設定値の設定と被縫製物の硬さの記録を行うためのものである。前述した枠位置ティーチングプログラム70bの実行時にも中押さえ高さの設定を行うことは可能であるが、その場合はオペレータが決定した中押さえ高さを数値入力することで設定が行われることとなる。
一方、中押さえ高さティーチングプログラム70cの実行時には、後述する処理により、縫製パターンデータ71aに従って枠移動動作が再現される過程で各針落ち位置において実測された被縫製物の布厚から「布押さえ高さ」コマンドを求め、自動的にミシンにより縫製パターンデータ71a中に設定される。
【0050】
かかる中押さえ高さティーチングプログラム70cによりCPU73が行う制御について図9〜図12に基づいて詳細に説明する。
図9は、ミシンモータ2は駆動させずに中押さえモータ42のみにより縫製時の上下動を模して上下動を再現する中押さえ29の高さ変化を示した線図(上図)及びその際の中押さえモータ42のトルク変化を示した線図(下図)である。図9のトルク変化を示す線図は0の位置を境に上側が中押さえ29を上方に移動させる回転方向のトルクの大きさを示し、下側が中押さえ29を下方に移動させる回転方向のトルクの大きさを示す。
また、図10(A)は図9の点a、図10(B)は図9の点b−c区間、図10(C)は図9の点cの各中押さえ高さにおける中押さえ高さ調節機構M4の動作状態を示した模式図である。なお、図10では各構成の重なりを避けるために便宜上、リンク20,22の屈曲方向と中押さえモータ42の配置を左右逆にしているが、以下の原理説明には何ら影響はない。
【0051】
中押さえ高さティーチングプログラム70cに基づく中押さえ高さティーチングの際には、ミシンモータ2aを停止させた状態で縫製パターンデータ71aに基づいてX軸モータ76a及びY軸モータ77aを駆動させて一針ごとの被縫製物の相対的な位置決め動作を再現する確認動作制御と、縫製パターンデータ71aに基づく一針分の保持枠111の再現動作ごとに中押さえ29の下降と上昇とからなる一往復の上下動動作を行う動作制御とが行われる。なお、確認動作制御はミシンモータ2aを停止させて行うので中押さえ29の上下動は中押さえモータ42を駆動源として実行される。
そして、中押さえ29の毎針ごとの下降動作の際には、中押さえ29による被縫製物への接触時の押圧を中押さえモータ42のトルク制御により上昇時よりも減少する高さ可変制御が行われ、高さ可変制御の実行中にエンコーダ81による中押さえ29の下降の停止が検出された場合に、当該停止を生じた時の中押さえ29の高さから被縫製物の厚さを求める厚さ取得処理が行われる。
さらに、上記高さ可変制御において被縫製物の厚さが求められると、縫製パターンデータ71aに対して、針数の順番に対応づけて、取得された被縫製物の厚さを記録する厚さ記録処理が行われる。
また、上記高さ可変制御において被縫製物の厚さが求められると、中押さえ29による被縫製物への接触圧が高まるように中押さえモータ42のトルク値を徐々に変更する押圧制御と、押圧制御の実行中にエンコーダ81により中押さえ29の下降が検出された場合に、当該下降時の中押さえモータ42のトルク値から求まる被縫製物の硬さを記録する硬さ取得処理が行われる。
このように、中押さえ高さティーチングプログラム70cを実行することにより、CPU73は、縫製制御手段、中押さえ高さ制御手段、厚さ取得処理手段、中押さえ押圧制御手段、硬さ取得処理手段、厚さ記録手段として機能することとなる。
【0052】
(中押さえ高さティーチングプログラム:確認動作制御)
上記各制御及び各処理についてさらに詳細に説明する。
上記縫製パターンデータ71aに基づく再現動作の際には、CPU73は、保持枠111に被縫製物をセットした状態で、ミシンモータ2aを駆動させないで、通常の縫製時よりも低速となる一定の設定速度で縫製パターンデータ71aに従って一針ずつ保持枠111の位置決め動作を行う。
【0053】
(中押さえ高さティーチングプログラム:高さ可変制御)
そして、高さ可変制御では、図10に示すように、ミシンモータ2aの主軸角度が上死点近くの上停止位置(通常の縫製終了時における主軸停止位置)で固定され、保持枠111を移動させるX軸及びY軸モータ76a,77aの駆動開始後所定の経過タイミングで中押さえモータ42による中押さえ29の下降動作が開始される。
中押さえモータ42は、毎回の上下動における初期位置として中押さえ29をその可動範囲内で最も引き上げた位置(図9点a及び図10(A)の状態)から下降を開始し、厚みのある被縫製物でも上方から接することができるように上下動を実行する。
【0054】
中押さえ29の下降時にあっては、中押さえモータ42の駆動トルクT2は、図9に示すように、上昇時の駆動トルクT0に比べて十分に小さくすることが望ましい。これにより、下降時に被縫製物に当接すると、中押さえモータ42の駆動トルクではそれ以上中押さえ29を下降させることはできず、加圧しすぎることなく被縫製物上面で中押さえ29を停止させることができる。
【0055】
なお、前述したように、中押さえ29は押圧バネ30により常時下降に押圧されている。
即ち、中押さえ29は、図11に示すように、押圧バネ30により常に下方に矢印Y1の押圧力で押圧されているため、屈曲状態にあるリンク20,22は真っ直ぐに伸びるようにバネ厚を受けることとなり、その結果、リンク部材20は矢印Y2のトルクを受け、角駒33は矢印Y3の方向に引っ張られ、案内部材34は矢印Y4の方向に回動力が付与され、移動リンク36は矢印Y5の方向に引っ張られ、偏心カム38を介して中押さえモータ42の出力軸は矢印Y6の方向に負荷トルクT1が付与される。
一方、中押さえモータ42も中押さえ29を下降さえる方向に上昇時よりも小さい大きさの駆動トルクT2の出力を行うので、中押さえ29の下降時における被縫製物への押圧力は、押圧バネ30により押圧力と中押さえモータ42の下降方向の駆動トルクに起因する押圧力との合計となるが、それぞれの加圧力は十分に小さく設定されるため、過度の押圧は生じないようになっている。
【0056】
中押さえ29は、下降移動して被縫製物の厚い段部に当接すると(図10(B)の状態)、下降を途中停止する。このとき中押さえ29の下降時における中押さえモータ42のトルクが上記のように上昇時の駆動トルクよりも減少しているため、中押さえ29は被縫製物を押圧することなく、下降を停止することができる。そして、CPU73は、エンコーダ81を通じて、中押さえモータ42の軸角度の回転状態から停止状態への切り替わり(角度変化)により、被縫製物への到達(下降停止)を検出することができる。
【0057】
(中押さえ高さティーチングプログラム:厚さ取得処理)
厚さ取得処理は、毎針の再現動作ごとに行われる高さ可変制御において、中押さえ29の下降停止が検出されると実行される。
CPU73は、下降停止状態において、エンコーダ81の検出軸角度から中押さえ29から針板までの高さ(=被縫製物の厚さ)を求める。中押さえモータ29の軸角度と中押さえ29の高さは例えば予め各部材の設計値から算出する。また、事前の計測等により作成された軸角度−中押さえ高さの対応テーブルをデータメモリ71に用意し、これを参照することで取得しても良い。
【0058】
(中押さえ高さティーチングプログラム:厚さ記録処理)
厚さ記録処理では縫製パターンデータ71aに対して実測された被縫製物の厚さが記録されるので、中押さえ高さティーチングの開始時には、縫製パターンデータ71a中に既に記録されていた中押さえ高さコマンド及びその設定値のデータは予め全て削除される。
そして、上記厚さ取得処理により、毎針ごとの被縫製物の厚さが求められると、CPU73は、一つ前の針落ち位置での被縫製物の厚さと比較を行い、所定の定数A以上の差を生じた場合に限り、縫製パターンデータ71aの該当する針数について新たに中押さえ高さコマンド及びその設定値として求められた被縫製物の厚さが記録される。
ここで、上記定数Aの値は、操作パネル74により設定可能な閾値であり、設定によりデータメモリ71内に記憶される。
また、検出された被縫製物の厚さを縫製パターンデータ71aの記録する際には、補正値αの加算による補正が行われる。かかる補正値αは、操作パネル74により任意に設定可能な数値であり、データメモリ71内に記録されている。なお、この例では、補正値は加算する値としたが加減乗除のいずれを行う数値を補正値としても良い。
【0059】
(中押さえ高さティーチングプログラム:押圧制御)
また、中押さえ29の下降停止時には、CPU73は、中押さえモータ42のトルクを変化させて中押さえ29による下方押圧力を徐々に高める押圧制御を実行する。即ち、被縫製物の上面で停止した状態の中押さえモータ42の下降側へのトルクを徐々に増加するように制御が行われる(図12(A)から(B)へ)。
【0060】
被縫製物の押圧力が、ある一定の押圧力を超えると中押さえ29が被縫製物を凹ませて下降することとなる(図9点c及び図10(C)の状態)。かかる押圧制御は中押さえモータ29の軸角度が下降を示す変化をエンコーダ81により検出されるまで継続される。
上記押圧制御における中押さえモータ42のトルクの変動率は操作パネル74から設定することができ、設定値はデータメモリ71内に記憶される。従って、押圧制御ではデータメモリ71に記憶された変動率に応じて中押さえモータ42のトルクが変動させられる。かかる変動率は小さいほど精密に被縫製物の硬さを検出することができる。
また、被縫製物に凹みが発生したと判定するための中押さえ29の下降量についても同様に、操作パネル74から設定することができ、設定値はデータメモリ71内に記憶される。かかる下降量の設定値は、被縫製物を傷つけない範囲とすることが望ましい。
また、図11に示すように、中押さえモータ42により回動動作が付与される案内部材34は第3リンク20を介して第2リンク11と接続されており、当該第2リンク11は、その中間部で第1リンク8に支持され、他端部は引っ張りバネ16により上方に付勢されて規制部材19に圧接した状態にある(引っ張りバネ16は実際には取付部材13を介して第2リンク11と接続されているが、ここでは説明を分かり易くするために構造を簡略化しており、機能上の差異はない)。
かかる構造において、押圧制御で中押さえモータ42の下降方向の駆動トルクを徐々に大きくすると、被縫製物が過度に硬い素材の場合、厚さ変化を生じる前に引っ張りバネ16が撓み、第2リンク11の左端部が規制部材19から離間して硬さ検出が不能となる場合があり得る。従って、押圧制御における中押さえモータ42の駆動トルクは、引っ張りバネ16に抗して第2リンク11左端部が規制部材19から離間を生じない範囲を上限とすることが望ましい。
【0061】
(中押さえ高さティーチングプログラム:硬さ取得処理)
上記押圧制御において、エンコーダ81により中押さえ29の下降が検出されると、CPU73は、硬さ取得処理に移行する。硬さ取得処理では中押さえ29の下降を生じた時点での中押さえモータ42のトルク値を記憶し、当該トルク値から被縫製物の硬さを取得する。つまり、中押さえモータ42のトルク値は中押さえ29による被縫製物への押圧力と一定の対応関係にあり、被縫製物に凹みを生じさせる中押さえ29による被縫製物への押圧力と被縫製物の硬さとは一定の対応関係にあるため、事前の計測等により作成されたトルク値と被縫製物の硬さとの対応テーブルをデータメモリ71に用意し、これを参照することで被縫製物の硬さを取得することができる。
そして、硬さ取得処理で求められた被縫製物の硬さについては、縫製パターンデータ71aに記憶される。なお、記録される被縫製物の硬さについては、実際の硬さを数値化して記録する場合に限らず、硬さを特定可能な数値情報を記録すれば良い。例えば、下降を生じた時点での中押さえモータ42のトルク値そのものを記録しても良い。
なお、押圧制御及び硬さ取得処理については、毎針毎に行っても良いし、中押さえ高さの記録が行われた時の針数についてのみ行っても良いし、一つの被縫製物について一回のみ行っても良い。
【0062】
また、かかる硬さ取得処理において、被縫製物の硬さが求められると、CPU73は、縫製パターンデータ71aに記録された糸張力コマンドの設定糸張力に対して係数を乗じて補正した値に書き換える処理を行う。つまり、被縫製物が硬くなると、糸張力は高く設定する必要があるので、被縫製物の硬さに応じて糸張力の増減を図っている。被縫製物の硬さと糸張力に乗じる係数との関係は、予めデータメモリ71に用意された対応テーブルに記録されており、これを参照することで取得される。なお、縫製パターンデータ71aの糸張力設定を書き換えずに、例えば、実際に縫製する際に縫製パターンデータ71aに記録された被縫製物の硬さから係数を求め、糸張力ソレノイド82aを制御する際に、補正を行っても良い。
また、同様にして、被縫製物の硬さが求められると、CPU73は、被縫製物の位置決めを行うX軸モータ76a及びY軸モータ77aの動作期間に対して補正する処理を行う。つまり、被縫製物が硬くなると、縫い針の貫通動作が遅速化するため動作期間は短く設定する必要があるので、各モータ76a、77aの駆動開始と終了のそれぞれの主軸角度に対して補正値により増減する補正が行われる。被縫製物の硬さと補正値との関係は、予めデータメモリ71に用意された対応テーブルに記録されており、これを参照することで取得される。なお、縫製パターンデータ71aに上記補正値を記録しても良いし、実際に縫製する際に、縫製パターンデータ71aに記録された被縫製物の硬さから補正値を求め、各モータ76a、77aの駆動タイミングを決定する際に補正を行っても良い。
また、同様にして、被縫製物の硬さが求められると、CPU73は、ミシンモータ2aの設定トルクに対して係数を乗じて補正する処理を行う。つまり、被縫製物が硬くなると、縫い針の貫通力を高める必要があるので、ミシンモータ2aのトルク値を係数により増減する補正が行われる。被縫製物の硬さと上記係数との関係は、予めデータメモリ71に用意された対応テーブルに記録されており、これを参照することで取得される。なお、縫製パターンデータ71aに上記係数を記録しても良いし、実際に縫製する際に、縫製パターンデータ71aに記録された被縫製物の硬さから係数を求め、ミシンモータ2aの回転時にトルクに補正を行っても良い。
【0063】
また、押圧制御が行われると(押圧制御を毎針ごとに行わない設定の場合には高さ可変制御による下降停止後)、中押さえ29は次の下降動作の開始までに、中押さえモータ42による最上方位置まで上昇移動が行われる(図9における点d,e)。かかる上昇移動における中押さえモータ42のトルクは、例えば、通常の縫製時において下死点を変更する際の駆動時と同様に、押圧バネ30に負荷トルクT1に対して十分に大きくなるように制御される。
【0064】
(ミシンの中押さえ高さティーチングにおける動作説明)
中押さえ高さティーチングプログラム70cの実行によりCPU73が行う制御及び処理について図13に示すフローチャートに基づいて説明する。
中押さえ高さティーチングは、操作パネル74から開始を入力することができ、入力を受けると、図13に示すように、CPU73は、まず、縫製パターンデータ71aの読み込みを開始する(ステップS1)。そして、縫製パターンデータ71a中の全ての中押さえ高さコマンド及びその設定値のデータを削除する(ステップS2)。
そして、保持枠111に被縫製物がセットされ、ペダルRから保持枠111の下降動作指示が入力されると、布押さえモータ79aを駆動させて保持枠111を下降させる(ステップS3)。
【0065】
次いで、ペダルRからの縫製開始の入力の有無を判定し(ステップS4)、入力があると、布押さえモータ79aを駆動させて保持枠111を下降させる。このとき、CPU74は、初期値として布厚の値に0を設定する(ステップS5)。
そして、布厚検知が開始される(ステップS6)。かかる布厚検知の内容は図14のフローチャートにより詳細に説明する。
【0066】
布厚検知では、まず、ミシンモータ2aは駆動させずに、縫製パターンデータ71aの現在針数におけるX方向移動量、Y方向移動量のデータに従ってX軸モータ76aとY軸モータ77aによる位置決めの再現動作を開始する(ステップS31:確認動作制御)。
次いで、中押さえモータ42に対して低電流としてトルクを抑えて中押さえ29の下降を開始する(ステップS32:高さ可変制御)。
中押さえ29が下降する縫い目形成位置に、厚い段部が送られると、中押さえはこの段部の厚さ位置で下降動作を途中停止する。
そして、中押さえ29の下降中のエンコーダ81の出力を監視し、中押さえモータ42の出力軸の回転状態の変化(ここでは、回転状態→停止状態)の発生の有無を判定する(ステップS33)。
このように中押さえモータ42の回転状態の変化が検出されると、その際のエンコーダ81の検出角度から被縫製物の厚さを算出する(ステップS34:厚さ取得処理)。
【0067】
布厚が求まると、中押さえモータ42のトルク制御により中押さえ29の被縫製物に対する接触圧を設定増加比率分だけ増加させる(ステップS35:押圧制御)。そして、エンコーダ81の検出角度が下降変化を示すか判定する(ステップS36)。そして、下降変化がない場合には、中押さえモータ42の通電電流値が、中押さえ29を下降させる回転方向について許容範囲内で最大電流値(例えば前述した第2リンク11の左端部を規制部材19から離間させない程度の電流値)に達したか判定する(ステップS37)。達していない場合には、ステップS35に処理を戻して、中押さえモータ42のへの電流値を再び設定増加比率分だけ増加させる。
一方、エンコーダ81が下降変化を検出した場合(ステップS36:YES)又は中押さえモータ42の通電電流値が最大電流値に達した場合(ステップS37:YES)には、被縫製物の硬さを算出する(ステップS38:硬さ取得処理)。なお、中押さえモータ42の通電電流を最大としても中押さえ29の下降変化が検出されなかった場合には、測定可能範囲以上の硬さであるとの特定が行われる。
そして、中押さえモータ42の駆動により最上位置まで中押さえ29が戻され、これにより、一針分の再現動作が完了する。上昇時の中押さえモータ42のトルクは、通常の縫いが行われる場合と同じように高い値に制御される。
【0068】
布厚検知が行われると、図13に示すように、ステップS34で得られた布厚と現在布厚として設定されている値との比較が行われる(ステップS7)。
比較の結果、検出布厚と現在布厚との差が予め設定された定数A以下の場合には、検出された布厚は縫製パターンデータ71aにおける該当針数の布厚として記録されず、針数が一つ進められて(ステップS11)、ステップS6に処理が戻され、次の針数における布厚検知が行われる。
また、ステップS7において、検出布厚と現在布厚との差が予め設定された定数Aよりも大きい場合には、一つ前の針落ち位置から布厚に変化があったものと見なされ、現在布厚が検出された布厚の値に更新される(ステップS8)。
そして、現在布厚(=検出布厚)が縫製パターンデータ71aの該当針数について書き込まれる処理が行われる(ステップS9:厚さ記録処理)。即ち、該当針数における縫いコマンドの前に中押さえ高さコマンドが生成され、その設定値に現在布厚に前述した補正値αを加算して補正した値が記録される。
また、同時に、縫製パターンデータ71aに対して現在の針数における被縫製物の硬さのデータが書き込まれる。
そして、現在の針数が縫製パターンデータ71aの最終針か否かを判定し(ステップS10)、最終針ではない場合には、針数を一つ進めてステップS6に処理を戻し、最終針の場合には、中押さえ高さティーチングを終了する。
【0069】
(実施形態の効果)
電子サイクルミシン100では、高さ可変制御により下降する中押さえ29が被縫製物に接触した時の押圧を回避し、厚さ取得処理により被縫製物の厚さを求めるので、被縫製物の押圧による傷などの発生を防止し、保護を図りつつ布厚検出を行うことが可能となる。
さらに、上記布厚検出は、縫製パターンデータに従って実行される毎針の被縫製物の位置決め動作に同期して行われるので、目視作業と試行錯誤を繰り返して適正な中押さえ高さを求める人為的な設定作業と異なり、容易且つ迅速に、被縫製物の厚さを考慮した縫製パターンデータを取得することが可能となる。
また、上記縫製パターンデータに従って実行される毎針の被縫製物の位置決め動作は、ミシンモータ2aを駆動させないで行うので、データ作成のために被縫製物を無駄にすることがない。
【0070】
また、電子サイクルミシン100では、布厚検出をエンコーダ81を用いた中押さえモータ42の制御により行うので、接触位置検出や距離検出などを行う布厚検出器を用いることなく被縫製物の厚さを求めることができ、部品点数の低減による生産性の向上を図ることが可能となる。さらに、上記構成であれば、針棒周囲に配置する必要がなく、針棒周囲のスペースを広く作業空間として確保することが可能となると共にミシンの針棒周囲に他の機構や部材を搭載する妨げとならない。
【0071】
また、得られた被縫製物の厚さは、一針前に取得された被縫製物の厚さと比較して所定値以上の変化がある場合にのみ縫製パターンデータ71aに記録するので、縫製パターンデータ71aのデータ量を低減すると共に縫製パターンデータの実行に伴う処理手段の処理負担を軽減することが可能となる。
さらに、縫製パターンデータ71aに記録される被縫製物の厚さは補正することができるので、被縫製物の厚さ検出に対して影響のある各種条件の変化を考慮して個々に補正を行うことで、被縫製物の厚さをより正確に求めることが可能となる。
【0072】
また、電子サイクルミシン100では、被縫製物の厚さ検出後に、中押さえ29による接触圧を高めて、被縫製物が凹んで中押さえ29に下降を生じたときの中押さえモータ42のトルク値から被縫製物の硬さを求めるので圧力センサ等の専用の検出機器を用いることなく被縫製物の硬さを検出することが可能となる。
さらに、検出した被縫製物の硬さに応じて糸張力、被縫製物の位置決めの動作期間、ミシンモータ2aのトルクに補正を加えるので、被縫製物の硬さに応じて適正な縫いが行われ、縫い品質の向上を図ることが可能となる。また、専用の硬さ検出手段を針棒周囲に設ける必要がないので、厚さ検出の場合と同様に、針棒周囲のスペースを広く作業空間として確保することが可能となると共にミシンの針棒周囲に他の機構や部材を搭載する妨げとならない。
【0073】
(その他)
なお、上記被縫製物の厚さ及び硬さの検出は、ミシンモータ2aを停止させて行ったが、ミシンモータ2aを駆動させて、当該ミシンモータ2aを中押さえ29の上下動駆動源とした状態で被縫製物の厚さ及び硬さの検出を行っても良い。
その場合には、高さ可変制御の際には、中押さえ29はミシンモータ2aにより下降動作を行うので、中押さえモータ42の出力軸は下降変化を行うように推移させないで、一定の角度を維持するように停止状態を維持する。トルク値は、押圧バネ30の押圧力に対して釣り合いを取るように上方への駆動トルクを出力し、中押さえモータ42の出力軸に回転が生じないように制御する。
また、中押さえ29が被縫製物に接触したか否かの判定は、エンコーダ80が中押さえモータ42の出力軸の停止状態から回転状態への変化を検出したことにより行う。
また、中押さえ29の高さ(被縫製物の厚さ)の算出の際には、中押さえモータ42の検出角度だけでなく、中押さえ29が被縫製物に接触した時の主軸角度も考慮する必要がある。
さらに、硬さ検出の際には、被縫製物への接触の検出後、すぐに、ミシンモータ2aが回転している状態において、中押さえモータ42は一定角度を維持する保持トルク或いは下降移動側への駆動トルクを徐々に高める制御を行う。その際、トルクが不足している間は、中押さえモータ42は指令角度を維持することができず、出力軸は回転を続けるが、被縫製物の硬さにトルクが勝ると中押さえ29が中押さえモータ42に追従して下降を生じ、出力軸の回転は停止する。かかる回転停止時のトルク値を記録し、当該トルク値から被縫製物の硬さを算出する。
上記の点を考慮することで、ミシンモータ2aを駆動させた状態でも被縫製物の厚さ及び硬さの検出を行うことが可能である。
また、ティーチングの際に限らず、ミシンモータ2aを駆動させて実際に縫製を行いながらリアルタイムで被縫製物の厚さ及び硬さの検出を行っても良い。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明に係るミシンを示す斜視図である。
【図2】ミシンの保持枠や中押さえの近傍を示す拡大斜視図である。
【図3】ミシンの中押さえ装置を示す側面図である。
【図4】中押さえ装置の分解斜視図である。
【図5】中押さえ装置の分解斜視図である。
【図6】中押さえ装置の中押さえの高さ調節に関する説明図であって、図6(a)は下死点を下方に調節した場合を示し、図6(b)は下死点を調節に当接した場合を示す。
【図7】本発明に係るミシンの制御装置を示すブロック図である。
【図8】縫製パターンデータのデータ構成を示す説明図である。
【図9】中押さえモータにより縫製時の上下動を模して上下動を再現する中押さえの高さ変化を示した線図及びその際の中押さえモータのトルク変化を示した線図である。
【図10】図10(A)は図9の点a、図10(B)は図9の点b−c区間、図10(C)は図9の点cの各中押さえ高さにおける中押さえ高さ調節機構の動作状態を示した模式図である。
【図11】中押さえ高さ調節機構の押圧バネが中押さえモータにもたらすトルク負荷を説明するための模式図である。
【図12】図12(A)は高さ可変制御において下降中の中押さえに加わる力の状態を示す説明図であり、図12(B)は高さ可変制御において中押さえが被縫製物に当接した時に加わる力の状態を示す説明図である。
【図13】本発明に係るミシンの中押さえ高さティーチングにおける全体的な処理を示すフローチャートである。
【図14】本発明に係るミシンの中押さえ高さティーチングにおける布厚検知にかかわる処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0075】
1 中押さえ装置
2 主軸
2a ミシンモータ
2b エンコーダ(主軸角度検出手段)
16 引っ張りばね
20 第3リンク
22 第4リンク
29 中押さえ
30 押圧バネ
33 角駒(動作伝達部材)
34 案内部材(動作伝達部材)
42 中押さえモータ
70a 縫製プログラム
70b 中押さえ高さ制御プログラム
71a 縫製パターンデータ
73 CPU(縫製制御手段、中押さえ高さ制御手段、厚さ取得処理手段、厚さ記録手段、中押さえ押圧制御手段、硬さ取得処理手段)
74 操作パネル(区間設定手段)
76a X軸モータ(位置決めモータ)
77a Y軸モータ(位置決めモータ)
81 エンコーダ(モータ軸角度検出手段)
100 電子サイクルミシン
110 針板
1000 制御装置
M1 中押さえ上下動機構
M2 付勢機構
M3 中押さえ退避機構
M4 中押さえ高さ調節機構
【技術分野】
【0001】
本発明は、中押さえを備えるミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のミシンは、上昇を行う縫い針に被縫製物が引っ張られないように縫い針よりも小さいストロークで上下動を行う中押さえによって被縫製物を押さえているが、中押さえは縫い針よりも低位置で上下動を行っているので、厚みがある被縫製物の場合には中押さえの下降時に被縫製物を踏みつけてしまうという問題があった。
そこで、従来のミシンは、ミシンモータとは別に中押さえを上下動させることで中押さえの上下位置を調節するステッピングモータと、光学素子からなる布厚検出器とを設け、検出された布厚に基づいてステッピングモータにより中押さえの下死点高さを調整する制御を行っていた(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特公平7−44983号公報(第5図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1における従来のミシンにあっては、光学素子からなる布厚検出器では縫製時に縫い目により圧縮されたときの布厚を検出することができず、検出精度が低いために中押さえの高さ制御も精度が低いものであった。また、専用の布厚検出器が必須であり部品点数の増加による生産性の低下を招くという問題があった。また、布厚検出器は被縫製物が位置する針棒の周囲に配置しなければならないが、中押さえを備えるミシンにあっては当該中押さえやその上下動機構が設けられ、針棒の周囲に布厚検出器を配置するスペースの確保が困難であるという問題もあった。
また、従来のミシンは、布厚を求めることができても布の硬さまでは求めることはできないという問題もあった。
本発明は、部品点数を低減し、針棒周囲のスペースを広く確保可能としつつ、被縫製物の厚さをふかつきを除いた縫い目形成時の布厚を正確に自動的に検出することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
請求項1記載の発明は、ミシンモータにより縫い針を上下動させる針上下動機構と、前記ミシンモータにより回転駆動される主軸の角度を検出する主軸角度検出手段と、縫製時に被縫製物の浮き上がりを防止する中押さえと、前記ミシンモータから動力を得て、前記縫い針の上下動に同期して前記中押さえを上下動させる中押さえ上下動機構と、中押さえモータにより前記中押さえ上下動機構の前記中押さえの下死点高さを上下移動させる中押さえ高さ調節機構とを備えるミシンにおいて、前記中押さえモータの出力軸の角度を検出するモータ軸角度検出手段を備え、下降する中押さえによる被縫製物への接触時の押圧力で停止可能に前記中押さえモータのトルクを上昇時よりも減少する高さ可変制御を行う中押さえ高さ制御手段と、前記高さ可変制御中は、前記中押さえが被縫製物に当接して下降を途中停止したことで前記中押さえモータの出力軸の角度変化を検出したときは、当該角度変化に対応した前記中押さえの高さから前記被縫製物の厚さを求める厚さ取得処理を行う厚さ取得処理手段を備えることを特徴とする。
【0005】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明と同様の構成を備えると共に、前記高さ可変制御において前記被縫製物の厚さを求めた後に、前記中押さえによる前記被縫製物への接触圧が高まるように前記中押さえモータのトルク値を徐々に変更する押圧制御を行う中押さえ押圧制御手段と、前記押圧制御の実行中に前記モータ軸角度検出手段により前記中押さえの下降が検出された場合に、当該下降時の前記中押さえモータのトルク値又は当該トルク値から求まる被縫製物の硬さを記録する硬さ取得処理手段を備えることを特徴とする。
【0006】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の発明と同様の構成を備えると共に、前記硬さ取得処理手段は、取得された前記中押さえモータのトルク値又は被縫製物の硬さに基づいて、少なくとも、糸張力調整手段の設定糸張力又は前記ミシンモータのトルクのいずれか一つの設定を補正することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
請求項1記載の発明は、中押さえの下降時に、被縫製物への接触時の押圧を上昇時よりも減少するようにトルク出力を行う高さ可変制御を行うので、下降して中押さえが被縫製物に接触すると、被縫製物側から受ける接触圧に押し負けて中押さえは下降動作が制止される。
そして、中押さえの停止状態により中押さえモータの出力軸が角度変化を生じるので、モータ軸角度検出手段により、中押さえと被縫製物との接触の発生を検出するができ、当該接触時における中押さえの検出角度から高さを求め、さらに、被縫製物の厚さを求めることができる。
また、上記発明は、中押さえを被縫製物に当接させて被縫製物の厚さ検出を行うので、被縫製物のふかつきを押さえた正確な布厚を検出することができる。
【0008】
なお、かかる請求項1記載の発明は、実際の縫製動作中に上記被縫製物の厚さ検出を行う場合と、ミシンモータを駆動させずに中押さえモータのみにより縫製維持の中押さえの上下動動作を再現するティーチングの際に被縫製物の厚さ検出を行う場合の両方を想定している(請求項2,3も同様)。そして、実縫製の場合には、中押さえの下降時に中押さえモータは出力軸が回転を生じないように一定に維持すると共にその保持トルクを接触時に生じる押圧力に抗することができない大きさ(上昇時の中押さえモータの保持トルクの大きさよりも小さくする)とすることで、被縫製物への接触時に中押さえモータの出力軸に回転を生じさせるようにする。
また、ティーチングの場合には、中押さえの上下動を中押さえモータの駆動のみにより行い、下降方向への駆動トルクを接触時に生じる押圧力に抗することができない大きさ(上昇時の中押さえモータの駆動トルクの大きさよりも小さくする)とすることで、被縫製物への接触時に中押さえモータの出力軸に回転を生じさせるようにする。
従って、厚さ取得処理手段による「出力軸の角度変化」とは、実縫製の場合には、[出力軸停止→出力軸回転]となる変化を生じた時を示し、ティーチングの場合には、[出力軸回転→出力軸停止]となる変化を生じた時を示すものとする。
【0009】
また、ここで、「被縫製物への接触時の押圧力で停止可能に前記中押さえモータのトルクを上昇時よりも減少する」とは、ミシンモータにより中押さえを下降させる場合(実動作の場合)には当該ミシンモータの動力により中押さえが被縫製物に圧接すると中押さえモータの保持トルクが圧接力に負けて上方移動方向に回転して中押さえの上下動が相殺されることを意味し、中押さえモータにより中押さえを下降させる場合(ティーチングの場合)には当該中押さえモータの下降移動時の駆動トルクを極力低減するように制御して接触圧の発生を低減或いは排除することを言う。
【0010】
上記発明により、接触位置検出や距離検出などを行う布厚検出器を用いることなく被縫製物の厚さを求めることができ、部品点数の低減による生産性の向上を図ることが可能となる。また、中押さえによる被縫製物への接触時の押圧を中押さえモータにより低減するので、被縫製物を押圧して傷つけることを回避でき、被縫製物の保護により縫い品質の向上を図ることが可能となる。
なお、本願発明は、布厚検出器を不要とすることができるが、中押さえモータのモータ軸角度検出手段が必須となる。しかしながら、中押さえモータのモータ軸角度検出手段は、布厚検出に限らず、用途の汎用性が高く、例えば、中押さえモータの脱調等を防ぐための動作制御や偏差を監視してトルクの大小を切り換えるなどの省電力制御に用いるなど他の用途との併用も可能であるため、モータ軸角度検出手段をこれらの用途にも用いることにより部品点数の増加とはならない。さらに、中押さえモータの出力軸の軸角度が検出できればよいので、布厚検出器のように針棒周囲に設ける必要がなく、針棒周囲のスペースを広く作業空間として確保することが可能となると共にミシンの針棒周囲に他の機構や部材を搭載する妨げとならない。
【0011】
なお、高さ可変制御の実行区間は、中押さえの下降動作の全域に限らず、被縫製物に接し得る区間のみとし、被縫製物に接し得ない区間(例えば、縫製対象としている被縫製物の厚さでは接し得ない高さ)については、中押さえモータを中押さえの下死点を維持することが可能な通常のトルク(上昇時と同じ大きさのトルク)となるように制御し、被縫製物に接し得ない区間を脱してから高さ可変制御を開始しても良い。
また、高さ可変制御における中押さえモータのトルクは、中押さえによる被縫製物への接触圧を0若しくは極力低減することが望ましいが、中押さえの下降動作を安定して行うための最小限の圧力が生じていても良い。
また、上記「高さ可変制御」と「厚さ取得処理」とは、実際の縫製時において下降動作を行う中押さえに対して実施しても良いし、後述する再現動作(ティーチング)時に下降動作を行う中押さえに対して実施しても良い。
【0012】
請求項2記載の発明は、高さ可変制御において被縫製物の厚さが求まると、中押さえによる被縫製物への接触圧が高まるように中押さえモータのトルク制御を行う。被縫製物に押し負けていた中押さえは、トルク制御により接触圧がある程度まで高められると、被縫製物を凹ませて下降することが可能となる。その際のトルク値は被縫製物の硬さと一定の対応関係を有するので、当該トルク値或いはトルク値から被縫製物の硬さを求めて記録することで、被縫製物の硬さに応じた各種の制御に応用することが可能となる。
なお、上記制御は、実縫製の場合には、保持トルクを徐々に高め、ティーチングの場合には、下降方向の駆動トルクを徐々に高めるようにトルク制御が行われる。
なお、トルクそのものを記録しても良いし、硬さまで求めても良いが、硬さを求める場合には、トルク値と被縫製物の硬さとの関係は、予め計測等により求めてそれを記憶するテーブルを用いても良いし、対応関係を数式化し、演算により求めても良い。
また、被縫製物の硬さを求めるための専用のセンサなどからなる硬さ検出手段を用いることなく被縫製物の硬さを求めることができ、部品点数の低減による生産性の向上を図ることが可能となる。
なお、本願発明は、専用の硬さ検出手段は不要となるが、中押さえモータのモータ軸角度検出手段が必須となる。しかしながら、中押さえモータのモータ軸角度検出手段は、前述したように、用途の汎用性が高いので、モータ軸角度検出手段が他の用途のために必要性があるミシンにあっては部品点数の増加とはならない。さらに、中押さえモータの出力軸の軸角度が検出できればよいので、専用の硬さ検出手段のように針棒周囲に設ける必要がなく、針棒周囲のスペースを広く作業空間として確保することが可能となると共にミシンの針棒周囲に他の機構や部材を搭載する妨げとならない。
【0013】
請求項3記載の発明は、取得された中押さえモータのトルク値又は被縫製物の硬さに基づいて、糸張力調整手段の設定糸張力又はミシンモータのトルクを補正するので、被縫製物の硬さに応じて糸張力又はミシンモータのトルクの適正化を図ることが可能となり、縫い品質の向上を図ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明に係るミシンの実施の形態について詳細に説明する。
なお、本実施形態では、ミシンとして電子サイクルミシンを例に説明する。
電子サイクルミシンは、縫製を行う被縫製物である布を保持する保持枠を有し、その保持枠が縫い針に対し相対的に移動することにより、保持枠に保持される布に所定の縫製パターンデータ(縫製パターン)に基づく縫い目を形成するミシンである。
ここで、後述する縫い針108が上下動を行う方向をZ軸方向(上下方向)とし、これと直交する一の方向をX軸方向(左右方向)とし、Z軸方向とX軸方向の両方に直交する方向をY軸方向(前後方向)と定義する。
【0015】
電子サイクルミシン100(以下、ミシン100という。)は、図1に示すように、ミシンテーブルTの上面に備えられるミシン本体101と、ミシンテーブルTの下部に備えられ縫製の開始と停止を操作するためのペダルRや、ミシンテーブルTの上部に備えられユーザによる入力操作を行うための操作パネル74等を備えている。
【0016】
(ミシンフレーム及び主軸)
図1、図2に示すように、ミシン本体101は、外形が側面視にて略コ字状を呈するミシンフレーム102を備えている。このミシンフレーム102は、ミシン本体101の上部をなし前後方向に延びるミシンアーム部102aと、ミシン本体101の下部をなし、前後方向に延びるミシンベッド部102bと、ミシンアーム部102aとミシンベッド部102bとを連結する縦胴部102cとを有している。
このミシン本体101は、ミシンフレーム102内に動力伝達機構が配され、回動自在で前後方向に延びる主軸2(図4参照)及び図示しない下軸を有している。主軸2はミシンアーム部102aの内部に配され、下軸(図示省略)はミシンベッド部102bの内部に配されている。
【0017】
主軸2は、ミシンモータ2a(図8参照)に接続され、このミシンモータ2aにより回動力が付与される。また、下軸(図示省略)は、縦軸(図示省略)を介して主軸2と連結されており、主軸2が回動すると、主軸2の動力が縦軸を介して下軸側へ伝達し、下軸が回動するようになっている。
主軸2の前端には、主軸2の回動によりZ軸方向に上下動する針棒108aが接続されており、その針棒108aの下端には、縫い針108が交換可能に設けられている。つまり、主軸2の回動により縫い針108はZ軸方向に上下動する。
かかる主軸2とミシンモータ2aと針棒108aと主軸2から針棒108aに上下動の駆動力を付与する図示しない伝達機構により針上下動機構が構成される。
【0018】
なお、主軸2には、主軸角度検出手段としてのエンコーダ2b(図7参照)が設けられている。エンコーダ2bはミシンモータ2aの主軸2の回転角度を検知するものであり、例えば、ミシンモータ2aにより主軸2が1°回転するごとにパルス信号を制御装置1000に出力するようになっている。また、主軸2の1回転に伴い、針棒108aは1往復の運動を行う。
【0019】
また、下軸(図示省略)の前端には、釜(図示省略)が設けられている。主軸2とともに下軸が回動すると、縫い針108と釜(図示省略)との協働により縫い目が形成される。
なお、ミシンモータ2a、主軸2、針棒108a、縫い針108、下軸(図示省略)、釜(図示省略)等の接続構成は従来公知のものと同様であるので、ここでは詳述しない。
【0020】
(位置決め手段)
図1、図2に示すように、ミシンベッド部102b上には、針板110が配設されており、この針板110の上方に布保持部としての保持枠111及び縫い針108が配置されるようになっている。
保持枠111は、ミシンアーム部102aの前端部に配される取付部材113に取り付けられており、その取付部材113にはミシンベッド102b内に配置された位置決めモータとしてのX軸モータ76a及びY軸モータ77aが駆動手段として連結されている(図7参照)。
保持枠111は、被縫製物である布地を保持し、X軸モータ76a及びY軸モータ77aの駆動に伴い、保持した布地を保持枠111ごと前後左右方向に移動するようになっている。そして、保持枠111の移動と、縫い針108や釜(図示省略)の動作が連動することにより、布地に所定の縫製パターンデータの縫い目データに基づく縫い目が形成される。
また、保持枠111は、布押さえ(図示省略)と下板(図示省略)とからなっており、取付部材113はミシンアーム102a内に配置された布押さえモータ79bの駆動により上下駆動が可能であり、布押さえ下降時に下板との間で布地を挟持し保持するようになっている。
そして、これら保持枠111、取付部材113、X軸モータ76a及びY軸モータ77aが、縫い針と布地をX軸方向及びY軸方向に相対的に位置決めする位置決め機構として機能する。
【0021】
ペダルRは、ミシン100を駆動させ、針棒108a(縫い針108)を上下動させたり、保持枠111を動作させたりするための操作ペダルとして作動する。すなわちペダルRには、ペダルRが踏み込まれたその踏み込み操作位置を検出するためのセンサが組み込まれており、センサからの出力信号がペダルRの操作信号として後述する制御装置1000に出力され、制御装置1000はその操作位置、操作信号に応じて、ミシン100を駆動し、動作させるように構成されている。
【0022】
また、ミシン100には、ユーザによる操作入力を行うための操作パネル74が設けられており、操作パネル74に入力された各種データや操作信号は、後述する制御装置1000に出力される。
なお、操作パネル74は、液晶表示パネルとその液晶表示パネルの表示画面上に設けられたタッチパネルとを備えて構成されており、液晶表示パネルに表示される各種操作キー等をタッチ操作することにより、タッチパネルがタッチ指示された位置を検出し、検出した位置に応じた操作信号を後述する制御装置1000に出力するようになっている。
【0023】
(中押さえ装置)
ミシンアーム102aには、縫い針108の上下動による布の浮き上がりを防止するために、針棒108aの上下動と連動して上下動し、縫い針108の周囲の布を下方に押圧する中押さえ29を有する中押さえ装置1(図3参照)が設けられている。なお、中押さえ装置1の本体はミシンアーム部102aの内部に配設されており、縫い針108は、中押さえ29の先端側に形成されている貫通孔に挿入されている。
中押さえ装置1は、図3〜図5に示すように、縫製時に布を針板110側に押さえ付ける中押さえ29と、主軸2の回転により上下動する縫い針108に合わせて中押さえ29を上下動させる中押さえ上下動機構M1と、中押さえ29の下降動作阻害時に行われる逃げ動作を可能とすると共に逃げ動作の際に中押さえ29を針板110側に付勢する付勢機構M2と、中押さえ29を縫製終了後に退避高さ位置に上昇させる中押さえ退避機構M3と、中押さえ29の高さを調節する中押さえ高さ調節機構M4とを備えている。
【0024】
中押さえ上下動機構M1は、先端に縫い針108を備える針棒108を上下方向に駆動させる主軸2(図4参照)の回動により、中押さえ29を上下動させるようになっている。
図4に示すように、主軸2には偏心カム3が固定され、その偏心カム3には接続リンク4が連結されている。接続リンク4には揺動軸抱き5が連結され、揺動軸抱き5には揺動軸6の一端部が連結されている。
揺動軸6の他端部には、図5に示すように、中押さえの上下方向D1の移動量を調節する中押さえ調節腕7の基端部が固定されている。中押さえ調節腕7には溝カム7aが形成されている。この溝カム7aは弧状の長孔になっており、この溝カム7aの所望の位置で第1リンク8の一端部が調節ナット9と段ねじ10により軸支されている。第1リンク8の一端部の固定位置は揺動軸6の中心に対して接離移動調節可能であり、中心からの距離に比例して第1リンク8に付与する往復動作量を増減調節することができる。
【0025】
第1リンク8の他端部は、図5に示すように、第2リンク11の長手方向略中間に段ねじ12より回動自在に連結されている。ここで、調節ナット9が係合する溝カム7aは、中押さえ29が上下往復運動の下死点にあるときに、段ねじ12の軸心を中心とした円弧の一部となるように形成されている。つまり、上軸2の角度が中押さえ29を下死点に移動させる位相のときにカム溝7aにおける第1リンク8の位置調節を行うことで、中押さえ29の下死点位置を不動状態のままストローク調節を行うことができる。
但し、ミシン10は、後述するように、被縫製物に接触したときの中押さえ29の高さから被縫製物の厚さを算出する処理を行うため、当該算出には上記のストロークが関係することから調節はみだりに行わない。また、調節する際には被縫製物の厚さを算出するためのパラメータとしての上記ストローク値を制御装置1000に設定入力して更新する必要がある。
【0026】
そして、第2リンク11の一端部は、後述する位置決めリンク13に軸支されている。第2リンク11の一端部が、位置決めリンク13に軸支されることで、通常の縫製時に中押さえ29が上下動を行う際には、引っ張りばね16の弾性力により第2リンク11の一端部が規制部材19に押し当てられた状態を維持する。そして、中押さえ29が布地の踏みつけ或いは何かに引っかかって予定された下死点位置まで下降できないような場合に、引っ張りばね16の弾性力に抗して位置決めリンク13が回動を行い、第2リンク11の一端部の支点が引っ張りばね16に抗して下降することで中押さえ29を上方に逃がすことが可能となっている。これにより、中押さえ上下動機構M1の破損が防止される。
【0027】
第2リンク11の他端部は、図5に示すように、第3リンク20の一端部に段ねじ21により回動自在に連結されている。第3リンク20の他端部には、第4リンク22の一端部が段ねじ23により第3リンク20の長手方向に対して直列となるように回動自在に連結されている。そして、本実施形態では、この第3リンク20と第4リンク22とで中押さえリンク部材24が構成されている。
第4リンク22の他端部には、リンク中継板25が段ねじ26により連結されている。リンク中継板25には中押さえ棒抱き27が固定されており、中押さえ棒抱き27には上下方向に延びる中押さえ棒28が保持されている。中押さえ棒28の下端部には、縫製時に布地を針板110側に押さえ付ける中押さえ29が取り付けられている。中押さえ棒28の上端部には押圧バネ30が設けられており、ボルト31及びナット32により中押さえ棒抱き27に取り付けられている。押圧バネ30は、中押さえ29が縫製時に縫い針108と同期して上下動を行う際に、中押さえ29を常時下方に押圧している。
そして、本実施形態では、第1リンク8、第2リンク11、第3リンク20、第4リンク22等により、中押さえ上下動機構M1が構成されている。
【0028】
段ねじ23は、角駒33及び案内部材34と共に第3リンク20と第4リンク22とを連結している。すなわち、第4リンク22の正面側には案内部材34が設けられ、この案内部材34の正面側には角駒33が設けられており、第3リンク20、第4リンク22、角駒33及び案内部材34が一つの段ねじ23で連結されている。
【0029】
案内部材34は、略F字状の板材であり、上端部34tが段ねじ35によりミシン筐体(ミシンフレーム102)に回動自在に取り付けられている。案内部材34の下端部近傍には、上下方向に長尺な長孔34aが形成されている。この長孔34aは、内側に角駒33がスライド可能に嵌めこまれており、案内部材34は、第3リンク20と第4リンク22の連結部Pを中押さえ29の上下方向D1に移動可能とし、かつ、第3リンク20と第4リンク22の直列方向D2を横切る方向D3への移動を規制している。
【0030】
また、図5に示すように、案内部材34には、当該案内部材34を第3リンク20と第4リンク22の直列方向D2を横切る方向D3に移動させる移動リンク36の一端部が、段ねじ37により長孔34aの上部近傍に回動自在に連結されている。移動リンク36の他端部には偏心カム38が連結されており、この偏心カム38には可変軸39の一端部が連結されている。
可変軸39の他端部は、図4に示すように、ベアリング40、かさ歯車41を介して中押さえモータ42に連結されている。つまり、中押さえモータ42の駆動が、可変軸39、偏心カム38、移動リンク36の順に伝達され、移動リンク36が案内部材34の回転角度の傾きを変化・調整させるようになっている。
中押さえモータ42は、正逆方向に回動自在であるとともに、その回動量及び駆動のタイミングが制御装置1000により制御可能となっている。
そして、移動リンク36と案内部材34と角駒33等が、中押さえ上下動機構の動作伝達部材として構成され、中押さえモータ42によりこの動作伝達部材の傾きを変化させることで、後述する中押さえ29の下死点高さを調節する中押さえ高さ調節機構M4として機能する。
【0031】
位置決めリンク13は、その中央部近傍で段ねじ14によりミシン筐体としてのミシンフレーム102に回動自在に取り付けられ、段ねじ14の位置は、中押さえ29が下死点にあるときの段ねじ12の位置と一致するようになっている。
位置決めリンク13の一端部は、ミシン面部側に向かって略コ字状に折り返されており、折り返された先端部にはばね掛13aが形成されている。本実施形態における位置決めリンク13は、その一端のばね掛け13aが、当該位置決めリンク13の回動中心である段ねじ14付近まで折り返されており、回動中心からばね掛け13aまでの距離が短くなるように形成されている。ばね掛け13aには引っ張りばね16の一端(上端)が連結されており、引っ張りばね16の他端(下端)は、ミシンフレームに固定されているばね掛15に連結されている。
引っ張りばね16は、ばね掛13aが形成されている位置決めリンク13の一端部を下方に引き下げるように付勢する。すなわち、引っ張りばね16は、第2リンク11における第3リンク20との接続部位が反力を受けた場合に、中押さえ29による踏みつけの発生により上方への反力を受けた場合に、その接続部位を下方に引き下げるように付勢する。つまり、引っ張りばね16と位置決めリンク13とが、中押さえ29の下降動作阻害時に中押さえ上下動機構M1に対する過剰負荷回避用の逃げ動作を可能とすると共に逃げ動作の際に中押さえ29を針板110側に付勢する付勢機構M2として機能する。そして、引っ張りバネ16は過剰負荷回避用の押さえバネとして機能する。
なお、付勢機構M2は、位置決めリンク13が第2リンク11に連結されることによって中押さえ上下動機構M1に接続されている。
【0032】
位置決めリンク13の他端部にはストッパ17が連結されており、第2リンク11の一端部と位置決めリンク13の他端部とが一つの段ねじ18によって連結されている。また、ストッパ17は、段ねじ14で位置決めリンク13と共にミシンフレーム102に回動自在に取り付けられている。ストッパ17の一端部17aの上方には、当該ストッパ17の一端部の上方への移動を規制するように規制部材19が設けられている。なお、この規制部材19は、ミシンフレーム102の一部で代用してもよい。
【0033】
図4に示すように、かさ歯車41には、かさ歯車43が歯合されており、中押さえモータ42の駆動を可変軸39の軸方向と直交する方向D4に出力することができるようになっている。かさ歯車43の後端にはベアリング44、中押さえ昇降カム45等が同軸上に連結されている。
【0034】
中押さえ昇降カム45は、軸方向端面に図示しない溝を有する溝カムである。
中押さえ昇降カム45は、その溝がカム部となっており、当該中押さえ昇降カム45の回動範囲の半分は、回動中心から溝までの距離がほぼ同一の円弧状に形成され(以下、維持部という)、残る半分は、回動中心から溝までの距離が、その維持部における回動中心から溝までの距離よりも大きく、かつ、滑らかに変化する形状(以下、変化部という)となっている。
この中押さえ昇降カム45は、中押さえ29を縫製終了後の退避位置に上昇させる中押さえ上げ部材46の一端部46aを上下に昇降させるものであり、当該中押さえ昇降カム45の溝の内部には、中押さえ上げ部材46の他端部に設けられた円筒状のコロ47が摺動自在に嵌合されている。そして、コロ47が中押さえ昇降カム45の維持部に沿って移動する際には、中押さえ上げ部材46の一端部46aは昇降しないが、コロ47が中押さえ昇降カム45の変化部に沿って移動する際には、中押さえ上げ部材46の一端部46aが昇降するようになっている。
このような溝カムである中押さえ昇降カム45の図示しない溝の内側にはコロ47を介して押さえ上げ部材46の他端部が係合しているので、中押さえ昇降カム45が回転を行わない限り中押さえ上げ部材46は揺動を行うことがなく、一定の状態を維持することが可能となっている。そして、中押さえ昇降カム45、中押さえ上げ部材46及びコロ47により、中押さえ退避機構M3が構成されている。
【0035】
中押さえ上げ部材46は、その中腹部で軸部材すなわちピン48によりミシンフレーム102に回動自在に取り付けられて支持されている。かかる中押さえ上げ部材46は、その一端部46aが中押さえ棒抱き27の下方に位置するように設けられており、コロ47が中押さえ昇降カム45の変化部に沿って移動し、中押さえ上げ部材46の一端部46aが上昇することで中押さえ棒抱き27を上昇させ、中押さえ29を退避位置に上昇させることができるようになっている。
【0036】
(縫製時における中押さえの動作)
次に、上記構成を有する中押さえ装置1の中押さえ上下動機構M1の動作について説明する。
ミシンモータ2aの駆動により主軸2を回転させて偏心カム3を回動させると、接続リンク4の先端は主軸2の軸線に略直交する方向(第3リンク20と第4リンク22の直列方向D2に対して横切る方向D3)に揺動し、接続リンク4に連結された揺動軸抱き5も同方向に揺動する。その揺動軸抱き5が揺動することにより、揺動軸6も揺動するため、第1リンク8の一端部が揺動支点となって第1リンク8の他端部が揺動軸6の軸線に略直交する方向(第3リンク20と第4リンク22の直列方向D2に対して横切る方向D3)に揺動する。第1リンク8の他端部の揺動に伴い、第2リンク11の他端部は第3リンク20と第4リンク22の直列方向D2に揺動し、第2リンク11の他端部に連結された第3リンク20及び第4リンク22は、その直列方向(上下方向)D2に揺動する。第3リンク20及び第4リンク22の揺動に伴い、第4リンク22に連結された中押さえ棒28は上下方向D1に沿って下方に移動するため、中押さえ29が上下方向に移動する。また、主軸2の回転により縫い針108が上下動するので、その縫い針108の上下動と連動するように中押さえ29は上下動する。
なお、以下の説明では主軸2の角度が0°のときに縫い針108及び中押さえ29が上死点に位置し、主軸2の角度が180°のときに縫い針108及び中押さえ29が下死点に位置するものとする。
【0037】
(中押さえ装置による中押さえの下死点高さの調節動作)
次に、上記構成を有する中押さえ装置1の中押さえ高さ調節機構M4による中押さえ29の高さの調節動作について説明する。
中押さえモータ42の駆動は、かさ歯車41、ベアリング40を介して可動軸39に伝達され、可動軸39は回動を始める。可動軸39の回動により、偏心カム38も回動し、移動リンク36は、可動軸39の軸線に略直交する方向(第3リンク20と第4リンク22の直列方向D2に対して横切る方向D3)に揺動する。移動リンク36の揺動により、案内部材34は第3リンク20と第4リンク22の直列方向D2に対して横切る方向D3に揺動する。
このとき、図6(a)、(b)に示すように、案内部材34の長孔34aで連結された第3リンク20と第4リンク22の連結部Pの段ねじ23(角駒33)は、そのねじ部分が長孔34aによって、第3リンク20と第4リンク22の直列方向D2に対して横切る方向D3への移動が規制されているため(図5、図6(a)参照)、揺動により伝達される力を逃がす場所が無くなり、段ねじ23(角駒33)は長孔34aに沿って上方に移動し、段ねじ23(角駒33)の案内部材34に追随した移動に伴って、直列に並んで連結されていた第3リンク20と第4リンク22同士がなす角度が変化し、中押さえリンク部材24は、略く字状になる(図6(b)参照)。中押さえリンク部材24が略く字状になると、中押さえ29は上下方向D1に沿って上方に移動する。これにより、中押さえ29の針板110からの中押さえ29の下死点高さを調節することができる。
【0038】
(ミシンの制御系:制御装置)
また、ミシン100は、図7に示すように、上述した各部、各部材の動作を制御するための動作制御手段としての制御装置1000を備えている。そして、制御装置1000は、縫製プログラム70a,枠位置ティーチングプログラム70b,中押さえ高さティーチングプログラム70cが格納されたプログラムメモリ70と、縫製パターンデータ71a及び各種の設定情報(図示略)を記憶した記憶手段としてのデータメモリ71と、プログラムメモリ70内の各プログラム70a,70b,70cを実行するCPU73とを備えている。
【0039】
また、CPU73は、インターフェイス74aを介して操作パネル74に接続されている。かかる操作パネル74は、各種画面や入力ボタンを表示する表示部74bと表示部74bの表面に設けられその接触位置を検知するタッチセンサ74cとを有しており、各種情報の入出力手段として機能する。操作パネル74で用いられる入力ボタンや入力スイッチはいずれも、表示部74bで表示され、タッチセンサ74cで入力が検知されることで押下式のボタンやスイッチと同等に機能するものである。
【0040】
また、CPU73は、インターフェイス75を介して、ミシンモータ2aを駆動するミシンモータ駆動回路75bに接続され、ミシンモータ2aの回転を制御する。また、ミシンモータ駆動回路75bを通じてミシンモータ2aの通電電流を制御してトルクの増減を調節することが可能となっている。
なお、ミシンモータ2aはエンコーダ2bを備えており、ミシンモータ2aを駆動するミシンモータ駆動回路75bにおいて、エンコーダ2bからミシンモータ2aの一回転ごとに出力されるZ相信号が、インターフェイス75を介してCPU73に入力され、この信号によって、CPU73は主軸2の一回転における原点(0°位置)を認識できる。また、エンコーダ2bからは、ミシンモータ2aの回転角度における1°ごとに出力されるA相信号が、インターフェイス75を介してCPU73に入力され、前述したZ相信号を基準にA相信号のパルス数をカウントして、CPU73は主軸2の現在回転角度を認識することができる。
なお、ミシンモータ2aには、例えば、サーボモータを適用することができる。
【0041】
また、CPU73は、インターフェイス76及びインターフェイス77を介して、縫製すべき布地を保持する保持枠111に備えられるX軸モータ76a及びY軸モータ77aをそれぞれ駆動するX軸モータ駆動回路76b及びY軸モータ駆動回路77bが接続され、保持枠111のX軸方向及びY軸方向の動作を制御する。
【0042】
また、CPU73は、インターフェイス78を介して、ミシンモータ2aによる上下動とは別に中押さえ29を上下動可能な中押さえモータ42を駆動する中押さえモータ駆動回路78bが接続され、中押さえ機構1の動作を制御する。また、中押さえモータ駆動回路78bを通じて中押さえモータ42の通電電流を制御してトルクの増減を調節することが可能となっている。
なお、中押さえモータ42の出力軸にはモータ軸角度検出手段としてのエンコーダ81が設けられており、中押さえモータ42を駆動する中押さえモータ駆動回路79bにおいて、エンコーダ81から中押さえモータ42の一回転ごとに出力されるZ相信号が、インターフェイス75を介してCPU73に入力され、この信号によって、CPU73は中押さえモータ42の出力軸の一回転における原点(0°位置)を認識できる。また、エンコーダ81からは、中押さえモータ42の回転角度における1°ごとに出力されるA相信号が、インターフェイス78を介してCPU73に入力され、前述したZ相信号を基準にA相信号のパルス数をカウントして、CPU73は中押さえモータの出力軸の現在回転角度を認識できる。
【0043】
また、CPU73は、インターフェイス79を介して、布押さえ(図示省略)を上下に移動する布押さえモータ79aを駆動する布押さえモータ駆動回路79bが接続され、布押さえの上下動動作を制御する。
布押さえモータ79aは、カム機構を介して布押さえの上下動機構と図示しない糸切り装置とに接続されており、その1周360°の回転範囲の一部の区間を布押さえの上下動動作の駆動に割り当てられ、他の区間を糸切り装置の糸切り動作の駆動に割り当てられている。従って、布押さえモータ79aを制御することにより、布押さえの上下動動作のみならず、糸切り動作の制御も可能となっている。
なお、X軸モータ76a及びY軸モータ77a、中押さえモータ42、布押さえモータ79aには、例えば、ステッピングモータを適用することができる。
【0044】
また、CPU73は、インターフェイス82を介して、縫い糸に糸張力を付与する糸張子装置(図示略)の駆動源となる糸張子ソレノイド82aを駆動するソレノイド駆動回路82bが接続され、糸張力の増減を制御する。
【0045】
上記データメモリ71に記憶された縫製パターンデータ71aは、図8に示すように、縫製を行う際の運針パターンを実行するために、保持枠111を移動させる際のX方向移動量、Y方向移動量のデータ(針落ち位置を示す縫い目データ)を示す縫いコマンド、終了コマンド及び中押さえ29の下死点高さを定める中押さえ高さコマンド、糸張力コマンド、糸切りコマンド及び終了コマンドが組み合わされている。
そして、並び順に従って各種コマンドが実行されることで任意のパターン(模様)による縫いが実行される。
図8に示す縫製パターンデータにおいて、「縫い」のコマンドでは、保持枠111を移動させる際のX方向移動量、Y方向移動量のデータ(パラメータ)が第一設定値と第二設定値とに記録され、X軸モータ76aとY軸モータ77aの回転駆動量がこれらにより決定される。
また、「中押さえ高さ」のコマンドでは、中押さえモータ42により定められる中押さえ29の下死点高さが第一設定値に記録され、中押さえモータ42の回転駆動量がこれにより決定される。
また、「糸張力」のコマンドでは、糸調子装置が縫い糸に付与すべき糸張力が第一設定値に記録され、糸張子ソレノイド82aの出力がこれにより決定される。
また、「糸切り」は糸切り装置(図示省略)を作動させるコマンド、「終了」はミシン100の布押さえモータ79aを駆動させて布を解放させるコマンドである。
なお、図8のX移動量、Y移動量、中押さえ高さの数値データにおける表記は10倍表記であり、例えば、「15」は、「1.5mm」を示している。
また、縫製パターンデータ71aには、図示しないが、後述する中押さえ高さティーチングプログラム70cの実行により取得される被縫製物の硬さも記録することが可能となっている。
【0046】
(縫製プログラムによる縫製処理)
プログラムメモリ70に格納された縫製プログラム70aは、上記縫製パターンデータ71aの各コマンドを順番に読み出して、コマンドに応じて制御対象を特定し、コマンド内の設定数値に基づいてミシンモータ2a、X軸モータ76a、Y軸モータ77a、中押さえモータ42、糸張子ソレノイド82aの動作制御を行い、縫製パターンデータ71aに基づく縫製を実行させるプログラムである。
例えば、上記図8の縫製パターンデータ71aの場合には、ペダルRの入力により縫製パターンデータにおける第一針目に関するデータである「中押さえ高さ」、「糸張力」、「縫い」のコマンド及びその設定値が読み込まれ、これらに基づいて、中押さえモータ42、糸張子ソレノイド82a、X軸モータ76a及びY軸モータ77aが各々の設定値に応じた動作量で駆動が行われる。また、最初の「縫い」コマンドの読み込みによりミシンモータ2aの駆動が開始される。
そして、ミシンモータ2aの駆動開始以降は、エンコーダ2bのカウントにより主軸角度が監視され、所定の主軸角度で縫製パターンデータ71aにおける毎針のコマンドの読み込みが行われると共に、コマンド毎に定められた所定の主軸角度で制御対象の動作が実行される。
【0047】
また、上記ミシンモータ2aの縫製時における回転速度及び回転駆動時のトルク値は、操作パネル74から設定された設定値がデータメモリ71内に記録されており、これに従ってミシンモータ2aの駆動制御が行われるようになっている。
さらに、X軸モータ76a及びY軸モータ77aの保持枠111の位置決め制御については、枠移動開始から停止までの動作期間が主軸角度によって定められている。かかる動作期間は、X軸モータ76aとY軸モータ77aの各々について、動作量と動作期間との対応関係を示すテーブルが予めデータメモリ71内に記録されており、縫製時には、CPU73は、縫製パターンデータ71aから「縫い」コマンドの移動量を読み込むと、上記対応デーブルを参照して動作期間を読み出し、エンコーダ2bにより動作開始と終了のタイミングを計って各モータ76a,77aの制御を実行する。
【0048】
(枠位置ティーチングプログラムによる処理)
枠位置ティーチングプログラム70bは、縫製パターンデータ71aにおける各針の「縫い」及び「中押さえ高さ」のコマンドに基づく動作の確認及びその設定値の修正を行うためのものである。この枠位置ティーチングプログラム70bに基づくティーチングの際には、ミシンモータ2aの駆動を行わずに縫製パターンデータ71aの各針毎のコマンドを、操作パネル74に設けられた図示しない前進キーと後退キーの入力に従って縫製順又は逆順に一針ずつ実行して再現する。このとき、一針毎の再現動作により設定値に修正の必要がある場合には、オペレータは、操作パネル74を通じてコマンドの種類を選択し、その設定値を増減キーにより修正する。かかる入力があると、CPU73は、修正が行われたコマンドについて新たな設定値で再現動作を行う動作制御を実行する。そして、確定が入力されると、修正内容に従って縫製パターンデータ71aの更新を行う。
なお、縫製パターンデータ71aに「縫い」、「中押さえ高さ」以外のコマンドが含まれている場合にはそれらについても同様に再現し、また修正することが可能である。
【0049】
(中押さえ高さティーチングプログラムによる処理)
中押さえ高さティーチングプログラム70cは、縫製パターンデータ71aに対して「中押さえ高さ」のコマンド及び設定値の設定と被縫製物の硬さの記録を行うためのものである。前述した枠位置ティーチングプログラム70bの実行時にも中押さえ高さの設定を行うことは可能であるが、その場合はオペレータが決定した中押さえ高さを数値入力することで設定が行われることとなる。
一方、中押さえ高さティーチングプログラム70cの実行時には、後述する処理により、縫製パターンデータ71aに従って枠移動動作が再現される過程で各針落ち位置において実測された被縫製物の布厚から「布押さえ高さ」コマンドを求め、自動的にミシンにより縫製パターンデータ71a中に設定される。
【0050】
かかる中押さえ高さティーチングプログラム70cによりCPU73が行う制御について図9〜図12に基づいて詳細に説明する。
図9は、ミシンモータ2は駆動させずに中押さえモータ42のみにより縫製時の上下動を模して上下動を再現する中押さえ29の高さ変化を示した線図(上図)及びその際の中押さえモータ42のトルク変化を示した線図(下図)である。図9のトルク変化を示す線図は0の位置を境に上側が中押さえ29を上方に移動させる回転方向のトルクの大きさを示し、下側が中押さえ29を下方に移動させる回転方向のトルクの大きさを示す。
また、図10(A)は図9の点a、図10(B)は図9の点b−c区間、図10(C)は図9の点cの各中押さえ高さにおける中押さえ高さ調節機構M4の動作状態を示した模式図である。なお、図10では各構成の重なりを避けるために便宜上、リンク20,22の屈曲方向と中押さえモータ42の配置を左右逆にしているが、以下の原理説明には何ら影響はない。
【0051】
中押さえ高さティーチングプログラム70cに基づく中押さえ高さティーチングの際には、ミシンモータ2aを停止させた状態で縫製パターンデータ71aに基づいてX軸モータ76a及びY軸モータ77aを駆動させて一針ごとの被縫製物の相対的な位置決め動作を再現する確認動作制御と、縫製パターンデータ71aに基づく一針分の保持枠111の再現動作ごとに中押さえ29の下降と上昇とからなる一往復の上下動動作を行う動作制御とが行われる。なお、確認動作制御はミシンモータ2aを停止させて行うので中押さえ29の上下動は中押さえモータ42を駆動源として実行される。
そして、中押さえ29の毎針ごとの下降動作の際には、中押さえ29による被縫製物への接触時の押圧を中押さえモータ42のトルク制御により上昇時よりも減少する高さ可変制御が行われ、高さ可変制御の実行中にエンコーダ81による中押さえ29の下降の停止が検出された場合に、当該停止を生じた時の中押さえ29の高さから被縫製物の厚さを求める厚さ取得処理が行われる。
さらに、上記高さ可変制御において被縫製物の厚さが求められると、縫製パターンデータ71aに対して、針数の順番に対応づけて、取得された被縫製物の厚さを記録する厚さ記録処理が行われる。
また、上記高さ可変制御において被縫製物の厚さが求められると、中押さえ29による被縫製物への接触圧が高まるように中押さえモータ42のトルク値を徐々に変更する押圧制御と、押圧制御の実行中にエンコーダ81により中押さえ29の下降が検出された場合に、当該下降時の中押さえモータ42のトルク値から求まる被縫製物の硬さを記録する硬さ取得処理が行われる。
このように、中押さえ高さティーチングプログラム70cを実行することにより、CPU73は、縫製制御手段、中押さえ高さ制御手段、厚さ取得処理手段、中押さえ押圧制御手段、硬さ取得処理手段、厚さ記録手段として機能することとなる。
【0052】
(中押さえ高さティーチングプログラム:確認動作制御)
上記各制御及び各処理についてさらに詳細に説明する。
上記縫製パターンデータ71aに基づく再現動作の際には、CPU73は、保持枠111に被縫製物をセットした状態で、ミシンモータ2aを駆動させないで、通常の縫製時よりも低速となる一定の設定速度で縫製パターンデータ71aに従って一針ずつ保持枠111の位置決め動作を行う。
【0053】
(中押さえ高さティーチングプログラム:高さ可変制御)
そして、高さ可変制御では、図10に示すように、ミシンモータ2aの主軸角度が上死点近くの上停止位置(通常の縫製終了時における主軸停止位置)で固定され、保持枠111を移動させるX軸及びY軸モータ76a,77aの駆動開始後所定の経過タイミングで中押さえモータ42による中押さえ29の下降動作が開始される。
中押さえモータ42は、毎回の上下動における初期位置として中押さえ29をその可動範囲内で最も引き上げた位置(図9点a及び図10(A)の状態)から下降を開始し、厚みのある被縫製物でも上方から接することができるように上下動を実行する。
【0054】
中押さえ29の下降時にあっては、中押さえモータ42の駆動トルクT2は、図9に示すように、上昇時の駆動トルクT0に比べて十分に小さくすることが望ましい。これにより、下降時に被縫製物に当接すると、中押さえモータ42の駆動トルクではそれ以上中押さえ29を下降させることはできず、加圧しすぎることなく被縫製物上面で中押さえ29を停止させることができる。
【0055】
なお、前述したように、中押さえ29は押圧バネ30により常時下降に押圧されている。
即ち、中押さえ29は、図11に示すように、押圧バネ30により常に下方に矢印Y1の押圧力で押圧されているため、屈曲状態にあるリンク20,22は真っ直ぐに伸びるようにバネ厚を受けることとなり、その結果、リンク部材20は矢印Y2のトルクを受け、角駒33は矢印Y3の方向に引っ張られ、案内部材34は矢印Y4の方向に回動力が付与され、移動リンク36は矢印Y5の方向に引っ張られ、偏心カム38を介して中押さえモータ42の出力軸は矢印Y6の方向に負荷トルクT1が付与される。
一方、中押さえモータ42も中押さえ29を下降さえる方向に上昇時よりも小さい大きさの駆動トルクT2の出力を行うので、中押さえ29の下降時における被縫製物への押圧力は、押圧バネ30により押圧力と中押さえモータ42の下降方向の駆動トルクに起因する押圧力との合計となるが、それぞれの加圧力は十分に小さく設定されるため、過度の押圧は生じないようになっている。
【0056】
中押さえ29は、下降移動して被縫製物の厚い段部に当接すると(図10(B)の状態)、下降を途中停止する。このとき中押さえ29の下降時における中押さえモータ42のトルクが上記のように上昇時の駆動トルクよりも減少しているため、中押さえ29は被縫製物を押圧することなく、下降を停止することができる。そして、CPU73は、エンコーダ81を通じて、中押さえモータ42の軸角度の回転状態から停止状態への切り替わり(角度変化)により、被縫製物への到達(下降停止)を検出することができる。
【0057】
(中押さえ高さティーチングプログラム:厚さ取得処理)
厚さ取得処理は、毎針の再現動作ごとに行われる高さ可変制御において、中押さえ29の下降停止が検出されると実行される。
CPU73は、下降停止状態において、エンコーダ81の検出軸角度から中押さえ29から針板までの高さ(=被縫製物の厚さ)を求める。中押さえモータ29の軸角度と中押さえ29の高さは例えば予め各部材の設計値から算出する。また、事前の計測等により作成された軸角度−中押さえ高さの対応テーブルをデータメモリ71に用意し、これを参照することで取得しても良い。
【0058】
(中押さえ高さティーチングプログラム:厚さ記録処理)
厚さ記録処理では縫製パターンデータ71aに対して実測された被縫製物の厚さが記録されるので、中押さえ高さティーチングの開始時には、縫製パターンデータ71a中に既に記録されていた中押さえ高さコマンド及びその設定値のデータは予め全て削除される。
そして、上記厚さ取得処理により、毎針ごとの被縫製物の厚さが求められると、CPU73は、一つ前の針落ち位置での被縫製物の厚さと比較を行い、所定の定数A以上の差を生じた場合に限り、縫製パターンデータ71aの該当する針数について新たに中押さえ高さコマンド及びその設定値として求められた被縫製物の厚さが記録される。
ここで、上記定数Aの値は、操作パネル74により設定可能な閾値であり、設定によりデータメモリ71内に記憶される。
また、検出された被縫製物の厚さを縫製パターンデータ71aの記録する際には、補正値αの加算による補正が行われる。かかる補正値αは、操作パネル74により任意に設定可能な数値であり、データメモリ71内に記録されている。なお、この例では、補正値は加算する値としたが加減乗除のいずれを行う数値を補正値としても良い。
【0059】
(中押さえ高さティーチングプログラム:押圧制御)
また、中押さえ29の下降停止時には、CPU73は、中押さえモータ42のトルクを変化させて中押さえ29による下方押圧力を徐々に高める押圧制御を実行する。即ち、被縫製物の上面で停止した状態の中押さえモータ42の下降側へのトルクを徐々に増加するように制御が行われる(図12(A)から(B)へ)。
【0060】
被縫製物の押圧力が、ある一定の押圧力を超えると中押さえ29が被縫製物を凹ませて下降することとなる(図9点c及び図10(C)の状態)。かかる押圧制御は中押さえモータ29の軸角度が下降を示す変化をエンコーダ81により検出されるまで継続される。
上記押圧制御における中押さえモータ42のトルクの変動率は操作パネル74から設定することができ、設定値はデータメモリ71内に記憶される。従って、押圧制御ではデータメモリ71に記憶された変動率に応じて中押さえモータ42のトルクが変動させられる。かかる変動率は小さいほど精密に被縫製物の硬さを検出することができる。
また、被縫製物に凹みが発生したと判定するための中押さえ29の下降量についても同様に、操作パネル74から設定することができ、設定値はデータメモリ71内に記憶される。かかる下降量の設定値は、被縫製物を傷つけない範囲とすることが望ましい。
また、図11に示すように、中押さえモータ42により回動動作が付与される案内部材34は第3リンク20を介して第2リンク11と接続されており、当該第2リンク11は、その中間部で第1リンク8に支持され、他端部は引っ張りバネ16により上方に付勢されて規制部材19に圧接した状態にある(引っ張りバネ16は実際には取付部材13を介して第2リンク11と接続されているが、ここでは説明を分かり易くするために構造を簡略化しており、機能上の差異はない)。
かかる構造において、押圧制御で中押さえモータ42の下降方向の駆動トルクを徐々に大きくすると、被縫製物が過度に硬い素材の場合、厚さ変化を生じる前に引っ張りバネ16が撓み、第2リンク11の左端部が規制部材19から離間して硬さ検出が不能となる場合があり得る。従って、押圧制御における中押さえモータ42の駆動トルクは、引っ張りバネ16に抗して第2リンク11左端部が規制部材19から離間を生じない範囲を上限とすることが望ましい。
【0061】
(中押さえ高さティーチングプログラム:硬さ取得処理)
上記押圧制御において、エンコーダ81により中押さえ29の下降が検出されると、CPU73は、硬さ取得処理に移行する。硬さ取得処理では中押さえ29の下降を生じた時点での中押さえモータ42のトルク値を記憶し、当該トルク値から被縫製物の硬さを取得する。つまり、中押さえモータ42のトルク値は中押さえ29による被縫製物への押圧力と一定の対応関係にあり、被縫製物に凹みを生じさせる中押さえ29による被縫製物への押圧力と被縫製物の硬さとは一定の対応関係にあるため、事前の計測等により作成されたトルク値と被縫製物の硬さとの対応テーブルをデータメモリ71に用意し、これを参照することで被縫製物の硬さを取得することができる。
そして、硬さ取得処理で求められた被縫製物の硬さについては、縫製パターンデータ71aに記憶される。なお、記録される被縫製物の硬さについては、実際の硬さを数値化して記録する場合に限らず、硬さを特定可能な数値情報を記録すれば良い。例えば、下降を生じた時点での中押さえモータ42のトルク値そのものを記録しても良い。
なお、押圧制御及び硬さ取得処理については、毎針毎に行っても良いし、中押さえ高さの記録が行われた時の針数についてのみ行っても良いし、一つの被縫製物について一回のみ行っても良い。
【0062】
また、かかる硬さ取得処理において、被縫製物の硬さが求められると、CPU73は、縫製パターンデータ71aに記録された糸張力コマンドの設定糸張力に対して係数を乗じて補正した値に書き換える処理を行う。つまり、被縫製物が硬くなると、糸張力は高く設定する必要があるので、被縫製物の硬さに応じて糸張力の増減を図っている。被縫製物の硬さと糸張力に乗じる係数との関係は、予めデータメモリ71に用意された対応テーブルに記録されており、これを参照することで取得される。なお、縫製パターンデータ71aの糸張力設定を書き換えずに、例えば、実際に縫製する際に縫製パターンデータ71aに記録された被縫製物の硬さから係数を求め、糸張力ソレノイド82aを制御する際に、補正を行っても良い。
また、同様にして、被縫製物の硬さが求められると、CPU73は、被縫製物の位置決めを行うX軸モータ76a及びY軸モータ77aの動作期間に対して補正する処理を行う。つまり、被縫製物が硬くなると、縫い針の貫通動作が遅速化するため動作期間は短く設定する必要があるので、各モータ76a、77aの駆動開始と終了のそれぞれの主軸角度に対して補正値により増減する補正が行われる。被縫製物の硬さと補正値との関係は、予めデータメモリ71に用意された対応テーブルに記録されており、これを参照することで取得される。なお、縫製パターンデータ71aに上記補正値を記録しても良いし、実際に縫製する際に、縫製パターンデータ71aに記録された被縫製物の硬さから補正値を求め、各モータ76a、77aの駆動タイミングを決定する際に補正を行っても良い。
また、同様にして、被縫製物の硬さが求められると、CPU73は、ミシンモータ2aの設定トルクに対して係数を乗じて補正する処理を行う。つまり、被縫製物が硬くなると、縫い針の貫通力を高める必要があるので、ミシンモータ2aのトルク値を係数により増減する補正が行われる。被縫製物の硬さと上記係数との関係は、予めデータメモリ71に用意された対応テーブルに記録されており、これを参照することで取得される。なお、縫製パターンデータ71aに上記係数を記録しても良いし、実際に縫製する際に、縫製パターンデータ71aに記録された被縫製物の硬さから係数を求め、ミシンモータ2aの回転時にトルクに補正を行っても良い。
【0063】
また、押圧制御が行われると(押圧制御を毎針ごとに行わない設定の場合には高さ可変制御による下降停止後)、中押さえ29は次の下降動作の開始までに、中押さえモータ42による最上方位置まで上昇移動が行われる(図9における点d,e)。かかる上昇移動における中押さえモータ42のトルクは、例えば、通常の縫製時において下死点を変更する際の駆動時と同様に、押圧バネ30に負荷トルクT1に対して十分に大きくなるように制御される。
【0064】
(ミシンの中押さえ高さティーチングにおける動作説明)
中押さえ高さティーチングプログラム70cの実行によりCPU73が行う制御及び処理について図13に示すフローチャートに基づいて説明する。
中押さえ高さティーチングは、操作パネル74から開始を入力することができ、入力を受けると、図13に示すように、CPU73は、まず、縫製パターンデータ71aの読み込みを開始する(ステップS1)。そして、縫製パターンデータ71a中の全ての中押さえ高さコマンド及びその設定値のデータを削除する(ステップS2)。
そして、保持枠111に被縫製物がセットされ、ペダルRから保持枠111の下降動作指示が入力されると、布押さえモータ79aを駆動させて保持枠111を下降させる(ステップS3)。
【0065】
次いで、ペダルRからの縫製開始の入力の有無を判定し(ステップS4)、入力があると、布押さえモータ79aを駆動させて保持枠111を下降させる。このとき、CPU74は、初期値として布厚の値に0を設定する(ステップS5)。
そして、布厚検知が開始される(ステップS6)。かかる布厚検知の内容は図14のフローチャートにより詳細に説明する。
【0066】
布厚検知では、まず、ミシンモータ2aは駆動させずに、縫製パターンデータ71aの現在針数におけるX方向移動量、Y方向移動量のデータに従ってX軸モータ76aとY軸モータ77aによる位置決めの再現動作を開始する(ステップS31:確認動作制御)。
次いで、中押さえモータ42に対して低電流としてトルクを抑えて中押さえ29の下降を開始する(ステップS32:高さ可変制御)。
中押さえ29が下降する縫い目形成位置に、厚い段部が送られると、中押さえはこの段部の厚さ位置で下降動作を途中停止する。
そして、中押さえ29の下降中のエンコーダ81の出力を監視し、中押さえモータ42の出力軸の回転状態の変化(ここでは、回転状態→停止状態)の発生の有無を判定する(ステップS33)。
このように中押さえモータ42の回転状態の変化が検出されると、その際のエンコーダ81の検出角度から被縫製物の厚さを算出する(ステップS34:厚さ取得処理)。
【0067】
布厚が求まると、中押さえモータ42のトルク制御により中押さえ29の被縫製物に対する接触圧を設定増加比率分だけ増加させる(ステップS35:押圧制御)。そして、エンコーダ81の検出角度が下降変化を示すか判定する(ステップS36)。そして、下降変化がない場合には、中押さえモータ42の通電電流値が、中押さえ29を下降させる回転方向について許容範囲内で最大電流値(例えば前述した第2リンク11の左端部を規制部材19から離間させない程度の電流値)に達したか判定する(ステップS37)。達していない場合には、ステップS35に処理を戻して、中押さえモータ42のへの電流値を再び設定増加比率分だけ増加させる。
一方、エンコーダ81が下降変化を検出した場合(ステップS36:YES)又は中押さえモータ42の通電電流値が最大電流値に達した場合(ステップS37:YES)には、被縫製物の硬さを算出する(ステップS38:硬さ取得処理)。なお、中押さえモータ42の通電電流を最大としても中押さえ29の下降変化が検出されなかった場合には、測定可能範囲以上の硬さであるとの特定が行われる。
そして、中押さえモータ42の駆動により最上位置まで中押さえ29が戻され、これにより、一針分の再現動作が完了する。上昇時の中押さえモータ42のトルクは、通常の縫いが行われる場合と同じように高い値に制御される。
【0068】
布厚検知が行われると、図13に示すように、ステップS34で得られた布厚と現在布厚として設定されている値との比較が行われる(ステップS7)。
比較の結果、検出布厚と現在布厚との差が予め設定された定数A以下の場合には、検出された布厚は縫製パターンデータ71aにおける該当針数の布厚として記録されず、針数が一つ進められて(ステップS11)、ステップS6に処理が戻され、次の針数における布厚検知が行われる。
また、ステップS7において、検出布厚と現在布厚との差が予め設定された定数Aよりも大きい場合には、一つ前の針落ち位置から布厚に変化があったものと見なされ、現在布厚が検出された布厚の値に更新される(ステップS8)。
そして、現在布厚(=検出布厚)が縫製パターンデータ71aの該当針数について書き込まれる処理が行われる(ステップS9:厚さ記録処理)。即ち、該当針数における縫いコマンドの前に中押さえ高さコマンドが生成され、その設定値に現在布厚に前述した補正値αを加算して補正した値が記録される。
また、同時に、縫製パターンデータ71aに対して現在の針数における被縫製物の硬さのデータが書き込まれる。
そして、現在の針数が縫製パターンデータ71aの最終針か否かを判定し(ステップS10)、最終針ではない場合には、針数を一つ進めてステップS6に処理を戻し、最終針の場合には、中押さえ高さティーチングを終了する。
【0069】
(実施形態の効果)
電子サイクルミシン100では、高さ可変制御により下降する中押さえ29が被縫製物に接触した時の押圧を回避し、厚さ取得処理により被縫製物の厚さを求めるので、被縫製物の押圧による傷などの発生を防止し、保護を図りつつ布厚検出を行うことが可能となる。
さらに、上記布厚検出は、縫製パターンデータに従って実行される毎針の被縫製物の位置決め動作に同期して行われるので、目視作業と試行錯誤を繰り返して適正な中押さえ高さを求める人為的な設定作業と異なり、容易且つ迅速に、被縫製物の厚さを考慮した縫製パターンデータを取得することが可能となる。
また、上記縫製パターンデータに従って実行される毎針の被縫製物の位置決め動作は、ミシンモータ2aを駆動させないで行うので、データ作成のために被縫製物を無駄にすることがない。
【0070】
また、電子サイクルミシン100では、布厚検出をエンコーダ81を用いた中押さえモータ42の制御により行うので、接触位置検出や距離検出などを行う布厚検出器を用いることなく被縫製物の厚さを求めることができ、部品点数の低減による生産性の向上を図ることが可能となる。さらに、上記構成であれば、針棒周囲に配置する必要がなく、針棒周囲のスペースを広く作業空間として確保することが可能となると共にミシンの針棒周囲に他の機構や部材を搭載する妨げとならない。
【0071】
また、得られた被縫製物の厚さは、一針前に取得された被縫製物の厚さと比較して所定値以上の変化がある場合にのみ縫製パターンデータ71aに記録するので、縫製パターンデータ71aのデータ量を低減すると共に縫製パターンデータの実行に伴う処理手段の処理負担を軽減することが可能となる。
さらに、縫製パターンデータ71aに記録される被縫製物の厚さは補正することができるので、被縫製物の厚さ検出に対して影響のある各種条件の変化を考慮して個々に補正を行うことで、被縫製物の厚さをより正確に求めることが可能となる。
【0072】
また、電子サイクルミシン100では、被縫製物の厚さ検出後に、中押さえ29による接触圧を高めて、被縫製物が凹んで中押さえ29に下降を生じたときの中押さえモータ42のトルク値から被縫製物の硬さを求めるので圧力センサ等の専用の検出機器を用いることなく被縫製物の硬さを検出することが可能となる。
さらに、検出した被縫製物の硬さに応じて糸張力、被縫製物の位置決めの動作期間、ミシンモータ2aのトルクに補正を加えるので、被縫製物の硬さに応じて適正な縫いが行われ、縫い品質の向上を図ることが可能となる。また、専用の硬さ検出手段を針棒周囲に設ける必要がないので、厚さ検出の場合と同様に、針棒周囲のスペースを広く作業空間として確保することが可能となると共にミシンの針棒周囲に他の機構や部材を搭載する妨げとならない。
【0073】
(その他)
なお、上記被縫製物の厚さ及び硬さの検出は、ミシンモータ2aを停止させて行ったが、ミシンモータ2aを駆動させて、当該ミシンモータ2aを中押さえ29の上下動駆動源とした状態で被縫製物の厚さ及び硬さの検出を行っても良い。
その場合には、高さ可変制御の際には、中押さえ29はミシンモータ2aにより下降動作を行うので、中押さえモータ42の出力軸は下降変化を行うように推移させないで、一定の角度を維持するように停止状態を維持する。トルク値は、押圧バネ30の押圧力に対して釣り合いを取るように上方への駆動トルクを出力し、中押さえモータ42の出力軸に回転が生じないように制御する。
また、中押さえ29が被縫製物に接触したか否かの判定は、エンコーダ80が中押さえモータ42の出力軸の停止状態から回転状態への変化を検出したことにより行う。
また、中押さえ29の高さ(被縫製物の厚さ)の算出の際には、中押さえモータ42の検出角度だけでなく、中押さえ29が被縫製物に接触した時の主軸角度も考慮する必要がある。
さらに、硬さ検出の際には、被縫製物への接触の検出後、すぐに、ミシンモータ2aが回転している状態において、中押さえモータ42は一定角度を維持する保持トルク或いは下降移動側への駆動トルクを徐々に高める制御を行う。その際、トルクが不足している間は、中押さえモータ42は指令角度を維持することができず、出力軸は回転を続けるが、被縫製物の硬さにトルクが勝ると中押さえ29が中押さえモータ42に追従して下降を生じ、出力軸の回転は停止する。かかる回転停止時のトルク値を記録し、当該トルク値から被縫製物の硬さを算出する。
上記の点を考慮することで、ミシンモータ2aを駆動させた状態でも被縫製物の厚さ及び硬さの検出を行うことが可能である。
また、ティーチングの際に限らず、ミシンモータ2aを駆動させて実際に縫製を行いながらリアルタイムで被縫製物の厚さ及び硬さの検出を行っても良い。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明に係るミシンを示す斜視図である。
【図2】ミシンの保持枠や中押さえの近傍を示す拡大斜視図である。
【図3】ミシンの中押さえ装置を示す側面図である。
【図4】中押さえ装置の分解斜視図である。
【図5】中押さえ装置の分解斜視図である。
【図6】中押さえ装置の中押さえの高さ調節に関する説明図であって、図6(a)は下死点を下方に調節した場合を示し、図6(b)は下死点を調節に当接した場合を示す。
【図7】本発明に係るミシンの制御装置を示すブロック図である。
【図8】縫製パターンデータのデータ構成を示す説明図である。
【図9】中押さえモータにより縫製時の上下動を模して上下動を再現する中押さえの高さ変化を示した線図及びその際の中押さえモータのトルク変化を示した線図である。
【図10】図10(A)は図9の点a、図10(B)は図9の点b−c区間、図10(C)は図9の点cの各中押さえ高さにおける中押さえ高さ調節機構の動作状態を示した模式図である。
【図11】中押さえ高さ調節機構の押圧バネが中押さえモータにもたらすトルク負荷を説明するための模式図である。
【図12】図12(A)は高さ可変制御において下降中の中押さえに加わる力の状態を示す説明図であり、図12(B)は高さ可変制御において中押さえが被縫製物に当接した時に加わる力の状態を示す説明図である。
【図13】本発明に係るミシンの中押さえ高さティーチングにおける全体的な処理を示すフローチャートである。
【図14】本発明に係るミシンの中押さえ高さティーチングにおける布厚検知にかかわる処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0075】
1 中押さえ装置
2 主軸
2a ミシンモータ
2b エンコーダ(主軸角度検出手段)
16 引っ張りばね
20 第3リンク
22 第4リンク
29 中押さえ
30 押圧バネ
33 角駒(動作伝達部材)
34 案内部材(動作伝達部材)
42 中押さえモータ
70a 縫製プログラム
70b 中押さえ高さ制御プログラム
71a 縫製パターンデータ
73 CPU(縫製制御手段、中押さえ高さ制御手段、厚さ取得処理手段、厚さ記録手段、中押さえ押圧制御手段、硬さ取得処理手段)
74 操作パネル(区間設定手段)
76a X軸モータ(位置決めモータ)
77a Y軸モータ(位置決めモータ)
81 エンコーダ(モータ軸角度検出手段)
100 電子サイクルミシン
110 針板
1000 制御装置
M1 中押さえ上下動機構
M2 付勢機構
M3 中押さえ退避機構
M4 中押さえ高さ調節機構
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミシンモータにより縫い針を上下動させる針上下動機構と、 前記ミシンモータにより回転駆動される主軸の角度を検出する主軸角度検出手段と、
縫製時に被縫製物の浮き上がりを防止する中押さえと、
前記ミシンモータから動力を得て、前記縫い針の上下動に同期して前記中押さえを上下動させる中押さえ上下動機構と、
中押さえモータにより前記中押さえ上下動機構の前記中押さえの下死点高さを上下移動させる中押さえ高さ調節機構とを備えるミシンにおいて、
前記中押さえモータの出力軸の角度を検出するモータ軸角度検出手段を備え、
被縫製物への接触時の押圧力で前記中押さえの下降が停止可能となるように前記中押さえモータのトルクを上昇時よりも減少する高さ可変制御を行う中押さえ高さ制御手段と、
前記高さ可変制御中は、前記中押さえが被縫製物に当接して下降を途中停止したことで前記中押さえモータの出力軸の角度変化を検出したときは、当該角度変化に対応した前記中押さえの高さから前記被縫製物の厚さを求める厚さ取得処理を行う厚さ取得処理手段を備えることを特徴とするミシン。
【請求項2】
前記高さ可変制御において前記被縫製物の厚さを求めた後に、前記中押さえによる前記被縫製物への接触圧が高まるように前記中押さえモータのトルク値を徐々に変更する押圧制御を行う中押さえ押圧制御手段と、
前記押圧制御の実行中に前記モータ軸角度検出手段により前記中押さえの下降が検出された場合に、当該下降時の前記中押さえモータのトルク値、当該トルク値から求まる被縫製物の硬さを記録する硬さ取得処理手段を備えることを特徴とする請求項1記載のミシン。
【請求項3】
前記硬さ取得処理手段は、取得された前記中押さえモータのトルク値又は被縫製物の硬さに基づいて、少なくとも、糸張力調整手段の設定糸張力又は前記ミシンモータのトルクのいずれか一つの設定を補正することを特徴とする請求項2記載のミシン。
【請求項1】
ミシンモータにより縫い針を上下動させる針上下動機構と、 前記ミシンモータにより回転駆動される主軸の角度を検出する主軸角度検出手段と、
縫製時に被縫製物の浮き上がりを防止する中押さえと、
前記ミシンモータから動力を得て、前記縫い針の上下動に同期して前記中押さえを上下動させる中押さえ上下動機構と、
中押さえモータにより前記中押さえ上下動機構の前記中押さえの下死点高さを上下移動させる中押さえ高さ調節機構とを備えるミシンにおいて、
前記中押さえモータの出力軸の角度を検出するモータ軸角度検出手段を備え、
被縫製物への接触時の押圧力で前記中押さえの下降が停止可能となるように前記中押さえモータのトルクを上昇時よりも減少する高さ可変制御を行う中押さえ高さ制御手段と、
前記高さ可変制御中は、前記中押さえが被縫製物に当接して下降を途中停止したことで前記中押さえモータの出力軸の角度変化を検出したときは、当該角度変化に対応した前記中押さえの高さから前記被縫製物の厚さを求める厚さ取得処理を行う厚さ取得処理手段を備えることを特徴とするミシン。
【請求項2】
前記高さ可変制御において前記被縫製物の厚さを求めた後に、前記中押さえによる前記被縫製物への接触圧が高まるように前記中押さえモータのトルク値を徐々に変更する押圧制御を行う中押さえ押圧制御手段と、
前記押圧制御の実行中に前記モータ軸角度検出手段により前記中押さえの下降が検出された場合に、当該下降時の前記中押さえモータのトルク値、当該トルク値から求まる被縫製物の硬さを記録する硬さ取得処理手段を備えることを特徴とする請求項1記載のミシン。
【請求項3】
前記硬さ取得処理手段は、取得された前記中押さえモータのトルク値又は被縫製物の硬さに基づいて、少なくとも、糸張力調整手段の設定糸張力又は前記ミシンモータのトルクのいずれか一つの設定を補正することを特徴とする請求項2記載のミシン。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2010−131175(P2010−131175A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−309585(P2008−309585)
【出願日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(000003399)JUKI株式会社 (1,557)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(000003399)JUKI株式会社 (1,557)
【Fターム(参考)】
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