ミシン
【課題】ミシンの縫製速度変化にも対応したステッピングモータの制御を行う。
【解決手段】ステッピングモータ76a,77aにより被縫製物の移動位置決めを行う位置決め機構120と、縫製パターンデータ71aに基づいてステッピングモータの動作制御を行う縫製制御手段73とを備え、ミシンの縫製速度を設定に応じて可変とするミシンにおいて、一針分の位置決め動作を行うステッピングモータの駆動パルス列の各パルスの出力時間間隔を定めた駆動パターンPを、複数の位置決め動作量及び複数の縫製速度について個々に記憶するパターン記憶部72を備え、縫製制御手段は、縫製パターンデータに定められた位置情報に基づく位置決め動作量と設定された縫製速度とに基づいて駆動パターンを選択し、ステッピングモータの動作制御を行う。
【解決手段】ステッピングモータ76a,77aにより被縫製物の移動位置決めを行う位置決め機構120と、縫製パターンデータ71aに基づいてステッピングモータの動作制御を行う縫製制御手段73とを備え、ミシンの縫製速度を設定に応じて可変とするミシンにおいて、一針分の位置決め動作を行うステッピングモータの駆動パルス列の各パルスの出力時間間隔を定めた駆動パターンPを、複数の位置決め動作量及び複数の縫製速度について個々に記憶するパターン記憶部72を備え、縫製制御手段は、縫製パターンデータに定められた位置情報に基づく位置決め動作量と設定された縫製速度とに基づいて駆動パターンを選択し、ステッピングモータの動作制御を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、縫製パターンデータに従って縫い針に対して被縫製物を相対的に位置決めすることで縫い目を形成するミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のミシンは、布押さえと、布押さえを支える送り台と、送り台を介して布押さえを同一平面における二軸方向のそれぞれに移動させるX軸、Y軸のステッピングモータとを備え、各針ごとに針落ち位置が定められた縫製のデータに従って任意のパターンに従って縫いを行うことを可能としている。
かかる従来のミシンの駆動方法を図7に示す。正弦波状の曲線Sは針の上下運動を表している。Hは布地の上面高さを示し、曲線Sにおける高さHより上側は縫い針が布地から抜けている状態を示し、下側は縫い針が布地を刺していることを示している。また斜線部分Kは制御装置から各ステッピングモータへの駆動指令(ステッピングモータドライバへ送るパルス列)が出力される期間を示している。また、図7の曲線Sの下側には上記移動指令の出力開始タイミングを定める主軸タイミング信号Jを示し、さらに下側には略階段状の波形となる布押さえの位置変化Dを示している。
各パルスモータへの移動指令は主軸タイミング信号から時間t0遅れた位置より開始する出力期間K内で出力されている。ここで、布押さえはステッピングモータの動作遅れ、X−Y機構の動作遅れにより移動指令のパルス出力に対して少し遅れたところから動き出し、パルス出力が終了する前に停止する。
【0003】
ところで、正確な形状縫製を行うためには、布押さえは正確な位置で停止させる必要があり、ダンピングの少ない間欠移動が要求される。そのために図7の斜線部に示す布送り部分においては布押さえのダンピングが少なくなるようなステッピングモータの駆動パターンPでステッピングモータが駆動されている。また布押さえが停止したときに布地に縫い針が刺さるように主軸タイミング信号からのスタート時間t0が決められている。このスタート時間t0は1針の移動距離に応じたパルス数ごとに用意されている。
例えば、図8に示すように11個のパルス列からなる移動指令がステッピングモータドライバに送られると、ステッピングモータは11ステップ分の回転を行い、布押さえは1.1mmの移動を行うことになる(最小分解能が0.1mmの場合)。かかる移動指令は、1パルス毎の間隔(出力時間)が布押さえのダンピングが少なくなるような時間配分となるように定められている。
そして、前述の主軸タイミング信号からのスタート時間t0及びパルス列の各パルス毎の出力時間間隔からなる駆動パターンPは、図9に示すテーブルTとしてメモリ内部に格納されている。つまり、布押さえの移動ピッチが定まると、テーブルTを参照して駆動パターンと読み出すと共に当該駆動パターンPに定められた間隔で一つずつパルス出力が行われ、ステッピングモータの適正な駆動が行われていた(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平05−007675号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ミシンはその縫製素材や布押さえの重量により縫製スピードを低下させて使用する場合がある。その場合、従来のミシンでは上記駆動パターンを用いて二種類の駆動方法を採っていた。
一つめとしては、図10に示すように、ミシンスピードが低下しても布送りの駆動パターン通りのタイミングでパルス列を出力させるタイプであり、二つめとしては、図11に示すように、ミシンスピードに反比例してパルスの出力期間Kが伸びるので、それに比例して布送り駆動パターンの各パルス列出力期間を伸ばすタイプである。後者の場合、パルス列出力期間を定めたテーブルに記録された値に期間増加比率の係数を乗じてパルス間隔を広げてステッピングモータ駆動を行っていた。
【0005】
しかしながら、布送りの駆動パターンが伸長されると、布押さえのダンピングが極力生じないように定められた本来の駆動パターンとは違った駆動パターンで動作することになるので、例えば元のパターンでは生じなかった共振等が発生し、布押さえにダンピングが発生してしまうケースがあった。
一方、ミシンスピードの低下にかかわらず元の駆動パターン通りにパルス出力を行うタイプの場合、針動きに合わせ、素材を動かすことによって得られる糸の締り具合が高速と低速で変わってしまうという問題があった。
【0006】
本発明は、ミシンモータの速度を変えた場合でも良好な布送りを行うことを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明は、ミシンモータにより縫い針を上下動させる針上下動機構と、ステッピングモータにより被縫製物に対して任意の位置に針落ちが行われるように前記縫い針に対して被縫製物を相対的に位置決めする位置決め機構と、一つの縫製パターンについて各針ごとの前記縫い針に対する被縫製物の相対的位置を定める位置情報を含む縫製パターンデータに基づいて前記ステッピングモータの動作制御を行う縫製制御手段とを備え、前記ミシンモータの駆動による針の上下移動速度としての縫製速度を設定に応じて可変とするミシンにおいて、一針分の位置決め動作を行う前記ステッピングモータの駆動パルス列の各パルスの出力時間間隔を定めた駆動パターンを、複数の位置決め動作量及び複数の縫製速度について個々に記憶するパターン記憶部を備え、前記縫製制御手段は、前記縫製パターンデータに定められた位置情報に基づく位置決め動作量と前記設定された縫製速度とに基づいて前記駆動パターンを選択し、前記ステッピングモータの動作制御を行うことを特徴とする。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明と同様の構成を備えると共に、前記縫製速度の設定入力を行う速度設定手段を備えることを特徴とする。
【0009】
請求項3記載の発明は、請求項1記載の発明と同様の構成を備えると共に、前記縫製パターンデータ中に定められた縫製速度に従って前記ミシンモータの速度制御を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1記載の発明は、駆動パターンを複数の位置決め動作量及び複数の縫製速度について個々に用意している。つまり、位置決め動作量がm段階で設定可能であり、縫製速度がn段階で設定可能な場合には、駆動パターンはm×n個用意されることとなる。また、ステッピングモータを2機以上使用する場合には、個々のステッピングモータについて駆動パターンを用意しても良い。
そして、縫製時には、縫製パターンデータに定められた位置決め動作量と設定された縫製速度とに基づいて駆動パターンをいずれか一つ選択し、当該駆動パターンに基づいてステッピングモータの動作制御が行われる。
このため、上記個数で駆動パターンを用意し、適宜選択を行うので、設定可能な全移動量について設定可能なミシンモータの全回転数に対応した駆動パターンを用意することができるので、被縫製物の材質に対応する等の理由によりミシンモータの駆動による縫製速度を変えた場合でも、ダンピング等の発生を抑えた駆動を実現すると共に、糸締まり不良等の発生を抑えた布送りを実現することが可能となり、縫い品質の向上を図ることが可能となる。
【0011】
請求項2記載の発明は、速度設定手段により縫製に適したミシンモータの速度を設定することが可能となり、これに伴って、適切な駆動パターンでステッピングモータを駆動させることができ、より好適な縫製を実現し、縫い品質の向上を図ることが可能となる。
【0012】
請求項3記載の発明は、縫製パターンデータにより縫製に適したミシンモータの速度を設定することが可能となり、これに伴って、適切な駆動パターンでステッピングモータを駆動させることができ、より好適な縫製を実現し、縫い品質の向上を図ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明に係るミシンの実施の形態について詳細に説明する。
なお、本実施形態では、ミシンとして電子サイクルミシンを例に説明する。
電子サイクルミシンは、縫製を行う被縫製物である布を保持する保持枠を有し、その保持枠が縫い針に対し相対的に移動することにより、保持枠に保持される布に所定の縫製パターンデータ(縫製パターン)に基づく縫い目を形成するミシンである。
ここで、後述する縫い針108が上下動を行う方向をZ軸方向(上下方向)とし、これと直交する一の方向をX軸方向(左右方向)とし、Z軸方向とX軸方向の両方に直交する方向をY軸方向(前後方向)と定義する。
【0014】
電子サイクルミシン100(以下、ミシン100という。)は、図1に示すように、ミシンテーブルTの上面に備えられるミシン本体101と、ミシンテーブルTの下部に備えられ縫製の開始と停止を操作するためのペダルRや、ミシンテーブルTの上部に備えられユーザによる入力操作を行うための操作パネル74等を備えている。
【0015】
(ミシンフレーム及び主軸)
図1、図2に示すように、ミシン本体101は、外形が側面視にて略コ字状を呈するミシンフレーム102を備えている。このミシンフレーム102は、ミシン本体101の上部をなし前後方向に延びるミシンアーム部102aと、ミシン本体101の下部をなし、前後方向に延びるミシンベッド部102bと、ミシンアーム部102aとミシンベッド部102bとを連結する縦胴部102cとを有している。
このミシン本体101は、ミシンフレーム102内に動力伝達機構が配され、回動自在で前後方向に延びる主軸(図示略)及び図示しない下軸を有している。主軸はミシンアーム部102aの内部に配され、下軸(図示省略)はミシンベッド部102bの内部に配されている。
【0016】
主軸は、ミシンモータ2a(図3参照)に接続され、このミシンモータ2aにより回動力が付与される。また、下軸は、縦軸(図示省略)を介して主軸と連結されており、主軸が回動すると、主軸の動力が縦軸を介して下軸側へ伝達し、下軸が回動するようになっている。
主軸の前端には、主軸の回動によりZ軸方向に上下動する針棒108aが接続されており、その針棒108aの下端には、縫い針108が交換可能に設けられている。つまり、主軸の回動により縫い針108はZ軸方向に上下動する。
かかる主軸とミシンモータ2aと針棒108aと主軸から針棒108aに上下動の駆動力を付与する図示しない伝達機構により針上下動機構が構成される。
【0017】
なお、主軸には、主軸角度検出手段としてのエンコーダ2b(図3参照)が設けられている。エンコーダ2bはミシンモータ2aの主軸の回転角度を検知するものであり、例えば、ミシンモータ2aにより主軸が1°回転するごとにパルス信号を制御装置1000に出力するようになっている。また、主軸の1回転に伴い、針棒108aは1往復の運動を行う。
【0018】
また、下軸の前端には、釜(図示省略)が設けられている。主軸とともに下軸が回動すると、縫い針108と釜との協働により縫い目が形成される。
なお、ミシンモータ2a、主軸、針棒108a、縫い針108、下軸、釜等の接続構成は従来公知のものと同様であるので、ここでは詳述しない。
【0019】
ミシンアーム102aには、縫い針108の上下動による布の浮き上がりを防止するために、針棒108aの上下動と連動して上下動し、縫い針108の周囲の布を下方に押圧する中押さえ29を有する中押さえ装置(図示略)が設けられている。なお、中押さえ装置の本体はミシンアーム部102aの内部に配設されており、縫い針108は、中押さえ29の先端側に形成されている貫通孔に挿入されている。
【0020】
(位置決め機構)
図1及び図2に示すように、ミシンベッド部102b上には、針板110が配設されており、この針板110の上方に布保持部としての保持枠111及び縫い針108が配置されるようになっている。
保持枠111は、ミシンアーム部102aの前端部に配される取付部材113に取り付けられており、また、保持枠111は、布押さえ116と下板117とから構成されている。そして、布押さえ116は、ミシンアーム102a内に配置された布押さえシリンダ79cの駆動により上下駆動が可能であり、布押さえ116の下降時に下板117との間で布地を挟持し保持するようになっている。
【0021】
保持枠111を保持する取付部材113は、ミシンフレーム102内に格納保持されたX軸レール105上をスライドユニット(図示略)を介して支持されており、X軸レール105はY軸レール106上をスライドユニット(図示略)を介して支持されている。かかる構造により保持枠111は取付部材113を介してX−Y平面上を任意に移動することが可能となっている。
また、ミシンベッド102b内には、ステッピングモータとしてのX軸モータ76a及びY軸モータ77aが駆動手段として設けられており、X軸モータ76aは歯車を介して送り軸107を回転させて取付部材113に連結されたタイミングベルト114を搬送することを可能としている。また、Y軸モータ77aは傘歯歯車を介して送り軸108を回転させてX軸レール105に連結されたタイミングベルト115を搬送することを可能としている。つまり、各モータ76a、77aを駆動させることにより、これらの協働によって取付部材113及び保持枠111をX−Y平面の任意の位置に位置決めすることが可能となっている。
そして、保持枠111の移動と、縫い針108や釜の動作が連動することにより、布地に所定の縫製パターンデータの縫い目データに基づく縫い目が形成される。
そして、これら保持枠111、取付部材113、X軸モータ76a及びY軸モータ77aが、縫い針と布地をX軸方向及びY軸方向に相対的に位置決めする位置決め機構120として機能する。
【0022】
ペダルRは、ミシン100を駆動させ、針棒108a(縫い針108)を上下動させたり、保持枠111を動作させたりするための操作ペダルとして作動する。すなわちペダルRには、ペダルRが踏み込まれたその踏み込み操作位置を検出するためのセンサが組み込まれており、センサからの出力信号がペダルRの操作信号として後述する制御装置1000に出力され、制御装置1000はその操作位置、操作信号に応じて、ミシン100を駆動し、動作させるように構成されている。
【0023】
また、ミシン100には、ユーザによる操作入力を行うための操作パネル74が設けられており、操作パネル74に入力された各種データや操作信号は、後述する制御装置1000に出力される。
なお、操作パネル74は、液晶表示パネルとその液晶表示パネルの表示画面上に設けられたタッチパネルとを備えて構成されており、液晶表示パネルに表示される各種操作キー等をタッチ操作することにより、タッチパネルがタッチ指示された位置を検出し、検出した位置に応じた操作信号を後述する制御装置1000に出力するようになっている。
【0024】
(ミシンの制御系:制御装置)
また、ミシン100は、図3に示すように、上述した各部、各部材の動作を制御する制御装置1000を備えている。そして、制御装置1000は、縫製を実行するためのプログラムや各種の設定入力を行うための設定プログラム等が格納されたプログラムメモリ70と、縫製パターンデータ71a及び各種の設定情報(図示略)を記憶した記憶手段としてのデータメモリ71と、一針分の位置決め動作を行うX軸モータ76a及びY軸モータ77aのそれぞれの駆動パルス列の各パルスの出力時間間隔を定めた駆動パターンPを記憶するパターン記憶部としてのパターンメモリ72と、プログラムメモリ70内の各プログラムを実行するCPU73とを備えている。
【0025】
また、CPU73は、インターフェイス74aを介して操作パネル74に接続されている。かかる操作パネル74は、各種画面や入力ボタンを表示する表示部74bと表示部74bの表面に設けられその接触位置を検知するタッチセンサ74cとを有しており、各種情報の入出力手段として機能する。操作パネル74で用いられる入力ボタンや入力スイッチはいずれも、表示部74bで表示され、タッチセンサ74cで入力が検知されることで押下式のボタンやスイッチと同等に機能するものである。
また、この操作パネル74からは縫製時のミシンモータ2aの駆動による針の上下移動速度としての縫製速度を任意に変更するための設定入力も行うことができるようになっており、これにより、操作パネル74は速度設定手段として機能することとなる。
【0026】
また、CPU73は、インターフェイス75を介して、ミシンモータ2aを駆動するミシンモータ駆動回路75bに接続され、ミシンモータ2aの回転を制御する。
なお、ミシンモータ2aはエンコーダ2bを備えており、ミシンモータ2aを駆動するミシンモータ駆動回路75bにおいて、エンコーダ2bからミシンモータ2aの一回転ごとに出力されるZ相信号が、インターフェイス75を介してCPU73に入力され、この信号によって、CPU73はX軸モータ76a及びY軸モータ77aの駆動開始タイミングを定める主軸タイミング信号J(図7参照)を得ることができる。また、エンコーダ2bからは、ミシンモータ2aの回転角度における1°ごとに出力されるA相信号が、インターフェイス75を介してCPU73に入力され、前述したZ相信号を基準にA相信号のパルス数をカウントして、CPU73は主軸の現在回転角度を認識することができる。
なお、ミシンモータ2aには、例えば、サーボモータを適用することができる。
【0027】
また、CPU73は、インターフェイス76及びインターフェイス77を介して、縫製すべき布地を保持する保持枠111に備えられるX軸モータ76a及びY軸モータ77aをそれぞれ駆動するX軸モータ駆動回路76b及びY軸モータ駆動回路77bが接続され、保持枠111のX軸方向及びY軸方向の動作を制御する。
【0028】
また、CPU73は、インターフェイス79を介して、布押さえ116を上下に移動する布押さえシリンダ79cの動作を切り換える電磁弁79aを駆動するシリンダ駆動回路79bが接続され、布押さえ116の上下動動作を制御する。
【0029】
上記データメモリ71に記憶された縫製パターンデータ71aには、図4に示すように、縫製を行う際の運針パターンを実行するために、運針の順番に応じて各針ごとに、保持枠111を移動させる際のX方向移動量、Y方向移動量のデータ(針落ち位置を示す縫い目データ)を示す縫いコマンドが記憶されている。
そして、並び順に従って各種コマンドが実行されることで任意のパターン(模様)による縫いが実行される。
上記「縫い」のコマンドは、保持枠111を移動させる際のX方向移動量、Y方向移動量のデータ(パラメータ)が第一設定値と第二設定値とに記録され、X軸モータ76aとY軸モータ77aの回転駆動量がこれらにより決定される。
なお、図4のX移動量、Y移動量、中押さえ高さの数値データにおける表記は10倍表記であり、例えば、「15」は、「1.5mm」を示している。
【0030】
(駆動パターン)
上記制御装置1000は、縫製パターンデータ71aに基づく縫製実行の際には、CPU73が、所定の主軸角度において1針分の縫いデータを読み込んで、X軸及びY軸方向のそれぞれの移動動作量に応じたパルス列を各モータ76a、77aの駆動回路76b、77bに出力し、パルス列のパルス数に応じて各モータ76a、77aを駆動させる。また、かかるパルス列は、縫い針108が布地から抜けてから布送りが開始され、縫い針108が布地に突き刺さるまでに布送りが終わるように、所定の主軸角度で出力される主軸タイミング信号Jを基準に出力が開始される。
駆動パターンPは、前述した図7に示すように、エンコーダ2aから出力される主軸タイミング信号Jを基準として、一針分の移動量(ピッチ)分の駆動パルス列の各パルスの出力時間間隔t0〜tn(nはパルス数)を定めたデータであり、各モータ76a、77aのそれぞれについて個別に用意されている。また、駆動パターンPは、一針分の移動量の最小ピッチから最大ピッチ(0.1〜12.7[mm])までの範囲について設定単位である1ピッチ(0.1[mm])ごとに用意されている。
そして、各駆動パターンPは、前述した図8に示すように、上記各移動量毎の各パルスの出力間隔を定めたテーブルTとしてパターンメモリ72内部に格納されている。
【0031】
駆動パターンPは、駆動パルス列のパルス毎の時間間隔を定めることで1針分の各モータ76a、77aの動作における加減速状態に変化を生じさせてダンピングを抑えて安定した布送りを行うためのものであり、送り動作の解析、シミュレーション或いは動作試験等によって個々の間隔時間を算出し或いは見出して定められたものである。
一方、ミシン100は、布地の縫製素材や布押さえの重量(枠のサイズを変更する場合や保持されている布地の重量の軽重)の影響に対応するためにミシンモータ2aの駆動による縫製速度を100〜2500[rpm]の範囲で100[rpm]ごとに速度設定することが可能となっている。
従って、駆動パターンPが、一定の縫製速度に対応するように定められたもののみであると、縫製速度の変更に伴う布地に対する縫い針108の引き上げ時間の変化に対応できなくなる場合があり、また、縫い針の上下動速度に対して布送りの移動速度が早過ぎたり或いは遅すぎたりすると糸締まりの状態が変わってしまうなどの問題がある。
従って、制御装置1000は、図5に示すように、各モータ76a、77aのそれぞれについて、駆動パターンPのテーブルTを、縫製速度100〜2500[rpm]の範囲の100[rpm]ごとに個別に用意してパターンメモリ72内に記憶している。つまり、布地の移動量と縫製速度の双方に好適な駆動パターンPを全て求め、テーブル単位にまとめて縫製速度に対応したミシンモータ2aの各回転速度ごとにパターンメモリ72内に用意している。
【0032】
(縫製処理)
次に、制御装置1000によるミシン100の縫製時の処理について図6のフローチャートに基づいて説明する。
保持枠111に布地がセットされ、縫製可能状態にあるときに、ペダルRが踏み込まれるとミシンモータ2aの回転駆動が開始されて縫製動作が開始される。
このとき、CPU73は、エンコーダ2bの出力から縫製パターンデータ71aの一針ごとのデータの読み取りを行う主軸角度か否かを判定し(ステップS1)、読み取り主軸角度に到達すると、一針分のX方向移動量、Y方向移動量のデータの読み取りを実行する(ステップS2)。
そして、読み取ったX方向移動量、Y方向移動量のデータと現在設定されている縫製速度とからX軸モータ76aとY軸モータ77aのそれぞれについて、適した駆動パターンPを選択する(ステップS3)。
そして、CPU73は、エンコーダ2bからの主軸タイミング信号Jの出力を待ち(ステップS4)、主軸タイミング信号Jが出力されると、t0から順番に時間計測を行い、X軸、Y軸それぞれの出力時間が経過するたびにモータ駆動パルスをX軸モータ駆動回路76bとY軸モータ駆動回路77bとに出力する(ステップS5)。
そして、X方向移動量とY方向移動量のそれぞれについて駆動パターンPの全てのパルスが出力されると、CPU73は、縫製パターンデータ71aに定められた全ての針数の運針が終了したか否かを判定し、終了していない場合には、ステップS1に処理を戻し、終了した場合には縫製動作を終了させる。
CPU73は、以上のように各モータ76a,77aの動作制御を実行することにより縫製制御手段として機能することとなる。
【0033】
(発明の実施形態の効果)
上記ミシン100の制御装置1000は、駆動パターンPをX軸モータ76a及びY軸モータ77aのそれぞれについて、設定動作量及び各縫製速度ごとに個々に用意し、縫製時には、縫製パターンデータ71aに定められた位置決め動作量と設定された縫製速度とに基づいて駆動パターンPをいずれか一つ選択し、当該駆動パターンPに基づいてX軸モータ76a及びY軸モータ77aの動作制御が行われる。
このため、各モータ76a,77aについて、設定可能な全移動量について設定可能なミシンモータ2aの全回転数に対応した駆動パターンPを用意することができるので、布地の材質に対応する等の理由により縫製速度を変えた場合でも、ダンピング等の発生を抑えた駆動を実現すると共に、糸締まり等の発生を抑えた布送りを実現することが可能となり、縫い品質の向上を図ることが可能となる。
【0034】
また、操作パネル74により縫製に適した縫製速度を設定することが可能となり、これに伴って、適切な駆動パターンでステッピングモータを駆動させることができ、より好適な縫製を実現し、縫い品質の向上を図ることが可能となる。
【0035】
(その他)
上記ミシン100では、縫製速度については操作パネル74から設定を行っていたが、縫製速度については縫製パターンデータ71a内に記録し、これに従ってミシンモータ2aの速度制御を行っても良い。かかる場合、例えば、針数に応じて縫製速度を設定することも可能となり、縫製中でも速度変化を実現可能となり、布地の厚みの変化或いは途中で他の材質のものを縫いつけるなど、より多彩な縫いに対応することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係るミシンを示す斜視図である。
【図2】ミシンの位置決め機構の拡大斜視図である。
【図3】本発明に係るミシンの制御装置を示すブロック図である。
【図4】縫製パターンデータのデータ構成を示す説明図である。
【図5】パターンメモリ内の駆動パターンのテーブルの格納状態を示した概念図である。
【図6】制御装置による縫製時の処理を示すフローチャートである。
【図7】従来のミシンにおける主軸角度変化に対する縫い針の上下位置変化、主軸タイミング信号出力及び布抑え枠移動量変化を示す線図である。
【図8】駆動パターンに従って出力されるパルス列の出力時間間隔を示す説明図である。
【図9】布移動量ごとの駆動パターンを表したテーブルの説明図である。
【図10】縫製速度の低下に対して元の駆動パターンをそのまま適用した場合の例を示す線図である。
【図11】縫製速度の低下による期間の伸長に応じて元の駆動パターンを伸長させて適用した場合の例を示す線図である。
【符号の説明】
【0037】
2a ミシンモータ
2b エンコーダ(主軸角度検出手段)
72 パターンメモリ(パターン記憶部)
73 CPU(縫製制御手段)
74 操作パネル(速度設定手段)
76a X軸モータ(ステッピングモータ)
77a Y軸モータ(ステッピングモータ)
100 電子サイクルミシン
108 縫い針
110 針板
120 位置決め機構
1000 制御装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、縫製パターンデータに従って縫い針に対して被縫製物を相対的に位置決めすることで縫い目を形成するミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のミシンは、布押さえと、布押さえを支える送り台と、送り台を介して布押さえを同一平面における二軸方向のそれぞれに移動させるX軸、Y軸のステッピングモータとを備え、各針ごとに針落ち位置が定められた縫製のデータに従って任意のパターンに従って縫いを行うことを可能としている。
かかる従来のミシンの駆動方法を図7に示す。正弦波状の曲線Sは針の上下運動を表している。Hは布地の上面高さを示し、曲線Sにおける高さHより上側は縫い針が布地から抜けている状態を示し、下側は縫い針が布地を刺していることを示している。また斜線部分Kは制御装置から各ステッピングモータへの駆動指令(ステッピングモータドライバへ送るパルス列)が出力される期間を示している。また、図7の曲線Sの下側には上記移動指令の出力開始タイミングを定める主軸タイミング信号Jを示し、さらに下側には略階段状の波形となる布押さえの位置変化Dを示している。
各パルスモータへの移動指令は主軸タイミング信号から時間t0遅れた位置より開始する出力期間K内で出力されている。ここで、布押さえはステッピングモータの動作遅れ、X−Y機構の動作遅れにより移動指令のパルス出力に対して少し遅れたところから動き出し、パルス出力が終了する前に停止する。
【0003】
ところで、正確な形状縫製を行うためには、布押さえは正確な位置で停止させる必要があり、ダンピングの少ない間欠移動が要求される。そのために図7の斜線部に示す布送り部分においては布押さえのダンピングが少なくなるようなステッピングモータの駆動パターンPでステッピングモータが駆動されている。また布押さえが停止したときに布地に縫い針が刺さるように主軸タイミング信号からのスタート時間t0が決められている。このスタート時間t0は1針の移動距離に応じたパルス数ごとに用意されている。
例えば、図8に示すように11個のパルス列からなる移動指令がステッピングモータドライバに送られると、ステッピングモータは11ステップ分の回転を行い、布押さえは1.1mmの移動を行うことになる(最小分解能が0.1mmの場合)。かかる移動指令は、1パルス毎の間隔(出力時間)が布押さえのダンピングが少なくなるような時間配分となるように定められている。
そして、前述の主軸タイミング信号からのスタート時間t0及びパルス列の各パルス毎の出力時間間隔からなる駆動パターンPは、図9に示すテーブルTとしてメモリ内部に格納されている。つまり、布押さえの移動ピッチが定まると、テーブルTを参照して駆動パターンと読み出すと共に当該駆動パターンPに定められた間隔で一つずつパルス出力が行われ、ステッピングモータの適正な駆動が行われていた(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平05−007675号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ミシンはその縫製素材や布押さえの重量により縫製スピードを低下させて使用する場合がある。その場合、従来のミシンでは上記駆動パターンを用いて二種類の駆動方法を採っていた。
一つめとしては、図10に示すように、ミシンスピードが低下しても布送りの駆動パターン通りのタイミングでパルス列を出力させるタイプであり、二つめとしては、図11に示すように、ミシンスピードに反比例してパルスの出力期間Kが伸びるので、それに比例して布送り駆動パターンの各パルス列出力期間を伸ばすタイプである。後者の場合、パルス列出力期間を定めたテーブルに記録された値に期間増加比率の係数を乗じてパルス間隔を広げてステッピングモータ駆動を行っていた。
【0005】
しかしながら、布送りの駆動パターンが伸長されると、布押さえのダンピングが極力生じないように定められた本来の駆動パターンとは違った駆動パターンで動作することになるので、例えば元のパターンでは生じなかった共振等が発生し、布押さえにダンピングが発生してしまうケースがあった。
一方、ミシンスピードの低下にかかわらず元の駆動パターン通りにパルス出力を行うタイプの場合、針動きに合わせ、素材を動かすことによって得られる糸の締り具合が高速と低速で変わってしまうという問題があった。
【0006】
本発明は、ミシンモータの速度を変えた場合でも良好な布送りを行うことを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明は、ミシンモータにより縫い針を上下動させる針上下動機構と、ステッピングモータにより被縫製物に対して任意の位置に針落ちが行われるように前記縫い針に対して被縫製物を相対的に位置決めする位置決め機構と、一つの縫製パターンについて各針ごとの前記縫い針に対する被縫製物の相対的位置を定める位置情報を含む縫製パターンデータに基づいて前記ステッピングモータの動作制御を行う縫製制御手段とを備え、前記ミシンモータの駆動による針の上下移動速度としての縫製速度を設定に応じて可変とするミシンにおいて、一針分の位置決め動作を行う前記ステッピングモータの駆動パルス列の各パルスの出力時間間隔を定めた駆動パターンを、複数の位置決め動作量及び複数の縫製速度について個々に記憶するパターン記憶部を備え、前記縫製制御手段は、前記縫製パターンデータに定められた位置情報に基づく位置決め動作量と前記設定された縫製速度とに基づいて前記駆動パターンを選択し、前記ステッピングモータの動作制御を行うことを特徴とする。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明と同様の構成を備えると共に、前記縫製速度の設定入力を行う速度設定手段を備えることを特徴とする。
【0009】
請求項3記載の発明は、請求項1記載の発明と同様の構成を備えると共に、前記縫製パターンデータ中に定められた縫製速度に従って前記ミシンモータの速度制御を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1記載の発明は、駆動パターンを複数の位置決め動作量及び複数の縫製速度について個々に用意している。つまり、位置決め動作量がm段階で設定可能であり、縫製速度がn段階で設定可能な場合には、駆動パターンはm×n個用意されることとなる。また、ステッピングモータを2機以上使用する場合には、個々のステッピングモータについて駆動パターンを用意しても良い。
そして、縫製時には、縫製パターンデータに定められた位置決め動作量と設定された縫製速度とに基づいて駆動パターンをいずれか一つ選択し、当該駆動パターンに基づいてステッピングモータの動作制御が行われる。
このため、上記個数で駆動パターンを用意し、適宜選択を行うので、設定可能な全移動量について設定可能なミシンモータの全回転数に対応した駆動パターンを用意することができるので、被縫製物の材質に対応する等の理由によりミシンモータの駆動による縫製速度を変えた場合でも、ダンピング等の発生を抑えた駆動を実現すると共に、糸締まり不良等の発生を抑えた布送りを実現することが可能となり、縫い品質の向上を図ることが可能となる。
【0011】
請求項2記載の発明は、速度設定手段により縫製に適したミシンモータの速度を設定することが可能となり、これに伴って、適切な駆動パターンでステッピングモータを駆動させることができ、より好適な縫製を実現し、縫い品質の向上を図ることが可能となる。
【0012】
請求項3記載の発明は、縫製パターンデータにより縫製に適したミシンモータの速度を設定することが可能となり、これに伴って、適切な駆動パターンでステッピングモータを駆動させることができ、より好適な縫製を実現し、縫い品質の向上を図ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明に係るミシンの実施の形態について詳細に説明する。
なお、本実施形態では、ミシンとして電子サイクルミシンを例に説明する。
電子サイクルミシンは、縫製を行う被縫製物である布を保持する保持枠を有し、その保持枠が縫い針に対し相対的に移動することにより、保持枠に保持される布に所定の縫製パターンデータ(縫製パターン)に基づく縫い目を形成するミシンである。
ここで、後述する縫い針108が上下動を行う方向をZ軸方向(上下方向)とし、これと直交する一の方向をX軸方向(左右方向)とし、Z軸方向とX軸方向の両方に直交する方向をY軸方向(前後方向)と定義する。
【0014】
電子サイクルミシン100(以下、ミシン100という。)は、図1に示すように、ミシンテーブルTの上面に備えられるミシン本体101と、ミシンテーブルTの下部に備えられ縫製の開始と停止を操作するためのペダルRや、ミシンテーブルTの上部に備えられユーザによる入力操作を行うための操作パネル74等を備えている。
【0015】
(ミシンフレーム及び主軸)
図1、図2に示すように、ミシン本体101は、外形が側面視にて略コ字状を呈するミシンフレーム102を備えている。このミシンフレーム102は、ミシン本体101の上部をなし前後方向に延びるミシンアーム部102aと、ミシン本体101の下部をなし、前後方向に延びるミシンベッド部102bと、ミシンアーム部102aとミシンベッド部102bとを連結する縦胴部102cとを有している。
このミシン本体101は、ミシンフレーム102内に動力伝達機構が配され、回動自在で前後方向に延びる主軸(図示略)及び図示しない下軸を有している。主軸はミシンアーム部102aの内部に配され、下軸(図示省略)はミシンベッド部102bの内部に配されている。
【0016】
主軸は、ミシンモータ2a(図3参照)に接続され、このミシンモータ2aにより回動力が付与される。また、下軸は、縦軸(図示省略)を介して主軸と連結されており、主軸が回動すると、主軸の動力が縦軸を介して下軸側へ伝達し、下軸が回動するようになっている。
主軸の前端には、主軸の回動によりZ軸方向に上下動する針棒108aが接続されており、その針棒108aの下端には、縫い針108が交換可能に設けられている。つまり、主軸の回動により縫い針108はZ軸方向に上下動する。
かかる主軸とミシンモータ2aと針棒108aと主軸から針棒108aに上下動の駆動力を付与する図示しない伝達機構により針上下動機構が構成される。
【0017】
なお、主軸には、主軸角度検出手段としてのエンコーダ2b(図3参照)が設けられている。エンコーダ2bはミシンモータ2aの主軸の回転角度を検知するものであり、例えば、ミシンモータ2aにより主軸が1°回転するごとにパルス信号を制御装置1000に出力するようになっている。また、主軸の1回転に伴い、針棒108aは1往復の運動を行う。
【0018】
また、下軸の前端には、釜(図示省略)が設けられている。主軸とともに下軸が回動すると、縫い針108と釜との協働により縫い目が形成される。
なお、ミシンモータ2a、主軸、針棒108a、縫い針108、下軸、釜等の接続構成は従来公知のものと同様であるので、ここでは詳述しない。
【0019】
ミシンアーム102aには、縫い針108の上下動による布の浮き上がりを防止するために、針棒108aの上下動と連動して上下動し、縫い針108の周囲の布を下方に押圧する中押さえ29を有する中押さえ装置(図示略)が設けられている。なお、中押さえ装置の本体はミシンアーム部102aの内部に配設されており、縫い針108は、中押さえ29の先端側に形成されている貫通孔に挿入されている。
【0020】
(位置決め機構)
図1及び図2に示すように、ミシンベッド部102b上には、針板110が配設されており、この針板110の上方に布保持部としての保持枠111及び縫い針108が配置されるようになっている。
保持枠111は、ミシンアーム部102aの前端部に配される取付部材113に取り付けられており、また、保持枠111は、布押さえ116と下板117とから構成されている。そして、布押さえ116は、ミシンアーム102a内に配置された布押さえシリンダ79cの駆動により上下駆動が可能であり、布押さえ116の下降時に下板117との間で布地を挟持し保持するようになっている。
【0021】
保持枠111を保持する取付部材113は、ミシンフレーム102内に格納保持されたX軸レール105上をスライドユニット(図示略)を介して支持されており、X軸レール105はY軸レール106上をスライドユニット(図示略)を介して支持されている。かかる構造により保持枠111は取付部材113を介してX−Y平面上を任意に移動することが可能となっている。
また、ミシンベッド102b内には、ステッピングモータとしてのX軸モータ76a及びY軸モータ77aが駆動手段として設けられており、X軸モータ76aは歯車を介して送り軸107を回転させて取付部材113に連結されたタイミングベルト114を搬送することを可能としている。また、Y軸モータ77aは傘歯歯車を介して送り軸108を回転させてX軸レール105に連結されたタイミングベルト115を搬送することを可能としている。つまり、各モータ76a、77aを駆動させることにより、これらの協働によって取付部材113及び保持枠111をX−Y平面の任意の位置に位置決めすることが可能となっている。
そして、保持枠111の移動と、縫い針108や釜の動作が連動することにより、布地に所定の縫製パターンデータの縫い目データに基づく縫い目が形成される。
そして、これら保持枠111、取付部材113、X軸モータ76a及びY軸モータ77aが、縫い針と布地をX軸方向及びY軸方向に相対的に位置決めする位置決め機構120として機能する。
【0022】
ペダルRは、ミシン100を駆動させ、針棒108a(縫い針108)を上下動させたり、保持枠111を動作させたりするための操作ペダルとして作動する。すなわちペダルRには、ペダルRが踏み込まれたその踏み込み操作位置を検出するためのセンサが組み込まれており、センサからの出力信号がペダルRの操作信号として後述する制御装置1000に出力され、制御装置1000はその操作位置、操作信号に応じて、ミシン100を駆動し、動作させるように構成されている。
【0023】
また、ミシン100には、ユーザによる操作入力を行うための操作パネル74が設けられており、操作パネル74に入力された各種データや操作信号は、後述する制御装置1000に出力される。
なお、操作パネル74は、液晶表示パネルとその液晶表示パネルの表示画面上に設けられたタッチパネルとを備えて構成されており、液晶表示パネルに表示される各種操作キー等をタッチ操作することにより、タッチパネルがタッチ指示された位置を検出し、検出した位置に応じた操作信号を後述する制御装置1000に出力するようになっている。
【0024】
(ミシンの制御系:制御装置)
また、ミシン100は、図3に示すように、上述した各部、各部材の動作を制御する制御装置1000を備えている。そして、制御装置1000は、縫製を実行するためのプログラムや各種の設定入力を行うための設定プログラム等が格納されたプログラムメモリ70と、縫製パターンデータ71a及び各種の設定情報(図示略)を記憶した記憶手段としてのデータメモリ71と、一針分の位置決め動作を行うX軸モータ76a及びY軸モータ77aのそれぞれの駆動パルス列の各パルスの出力時間間隔を定めた駆動パターンPを記憶するパターン記憶部としてのパターンメモリ72と、プログラムメモリ70内の各プログラムを実行するCPU73とを備えている。
【0025】
また、CPU73は、インターフェイス74aを介して操作パネル74に接続されている。かかる操作パネル74は、各種画面や入力ボタンを表示する表示部74bと表示部74bの表面に設けられその接触位置を検知するタッチセンサ74cとを有しており、各種情報の入出力手段として機能する。操作パネル74で用いられる入力ボタンや入力スイッチはいずれも、表示部74bで表示され、タッチセンサ74cで入力が検知されることで押下式のボタンやスイッチと同等に機能するものである。
また、この操作パネル74からは縫製時のミシンモータ2aの駆動による針の上下移動速度としての縫製速度を任意に変更するための設定入力も行うことができるようになっており、これにより、操作パネル74は速度設定手段として機能することとなる。
【0026】
また、CPU73は、インターフェイス75を介して、ミシンモータ2aを駆動するミシンモータ駆動回路75bに接続され、ミシンモータ2aの回転を制御する。
なお、ミシンモータ2aはエンコーダ2bを備えており、ミシンモータ2aを駆動するミシンモータ駆動回路75bにおいて、エンコーダ2bからミシンモータ2aの一回転ごとに出力されるZ相信号が、インターフェイス75を介してCPU73に入力され、この信号によって、CPU73はX軸モータ76a及びY軸モータ77aの駆動開始タイミングを定める主軸タイミング信号J(図7参照)を得ることができる。また、エンコーダ2bからは、ミシンモータ2aの回転角度における1°ごとに出力されるA相信号が、インターフェイス75を介してCPU73に入力され、前述したZ相信号を基準にA相信号のパルス数をカウントして、CPU73は主軸の現在回転角度を認識することができる。
なお、ミシンモータ2aには、例えば、サーボモータを適用することができる。
【0027】
また、CPU73は、インターフェイス76及びインターフェイス77を介して、縫製すべき布地を保持する保持枠111に備えられるX軸モータ76a及びY軸モータ77aをそれぞれ駆動するX軸モータ駆動回路76b及びY軸モータ駆動回路77bが接続され、保持枠111のX軸方向及びY軸方向の動作を制御する。
【0028】
また、CPU73は、インターフェイス79を介して、布押さえ116を上下に移動する布押さえシリンダ79cの動作を切り換える電磁弁79aを駆動するシリンダ駆動回路79bが接続され、布押さえ116の上下動動作を制御する。
【0029】
上記データメモリ71に記憶された縫製パターンデータ71aには、図4に示すように、縫製を行う際の運針パターンを実行するために、運針の順番に応じて各針ごとに、保持枠111を移動させる際のX方向移動量、Y方向移動量のデータ(針落ち位置を示す縫い目データ)を示す縫いコマンドが記憶されている。
そして、並び順に従って各種コマンドが実行されることで任意のパターン(模様)による縫いが実行される。
上記「縫い」のコマンドは、保持枠111を移動させる際のX方向移動量、Y方向移動量のデータ(パラメータ)が第一設定値と第二設定値とに記録され、X軸モータ76aとY軸モータ77aの回転駆動量がこれらにより決定される。
なお、図4のX移動量、Y移動量、中押さえ高さの数値データにおける表記は10倍表記であり、例えば、「15」は、「1.5mm」を示している。
【0030】
(駆動パターン)
上記制御装置1000は、縫製パターンデータ71aに基づく縫製実行の際には、CPU73が、所定の主軸角度において1針分の縫いデータを読み込んで、X軸及びY軸方向のそれぞれの移動動作量に応じたパルス列を各モータ76a、77aの駆動回路76b、77bに出力し、パルス列のパルス数に応じて各モータ76a、77aを駆動させる。また、かかるパルス列は、縫い針108が布地から抜けてから布送りが開始され、縫い針108が布地に突き刺さるまでに布送りが終わるように、所定の主軸角度で出力される主軸タイミング信号Jを基準に出力が開始される。
駆動パターンPは、前述した図7に示すように、エンコーダ2aから出力される主軸タイミング信号Jを基準として、一針分の移動量(ピッチ)分の駆動パルス列の各パルスの出力時間間隔t0〜tn(nはパルス数)を定めたデータであり、各モータ76a、77aのそれぞれについて個別に用意されている。また、駆動パターンPは、一針分の移動量の最小ピッチから最大ピッチ(0.1〜12.7[mm])までの範囲について設定単位である1ピッチ(0.1[mm])ごとに用意されている。
そして、各駆動パターンPは、前述した図8に示すように、上記各移動量毎の各パルスの出力間隔を定めたテーブルTとしてパターンメモリ72内部に格納されている。
【0031】
駆動パターンPは、駆動パルス列のパルス毎の時間間隔を定めることで1針分の各モータ76a、77aの動作における加減速状態に変化を生じさせてダンピングを抑えて安定した布送りを行うためのものであり、送り動作の解析、シミュレーション或いは動作試験等によって個々の間隔時間を算出し或いは見出して定められたものである。
一方、ミシン100は、布地の縫製素材や布押さえの重量(枠のサイズを変更する場合や保持されている布地の重量の軽重)の影響に対応するためにミシンモータ2aの駆動による縫製速度を100〜2500[rpm]の範囲で100[rpm]ごとに速度設定することが可能となっている。
従って、駆動パターンPが、一定の縫製速度に対応するように定められたもののみであると、縫製速度の変更に伴う布地に対する縫い針108の引き上げ時間の変化に対応できなくなる場合があり、また、縫い針の上下動速度に対して布送りの移動速度が早過ぎたり或いは遅すぎたりすると糸締まりの状態が変わってしまうなどの問題がある。
従って、制御装置1000は、図5に示すように、各モータ76a、77aのそれぞれについて、駆動パターンPのテーブルTを、縫製速度100〜2500[rpm]の範囲の100[rpm]ごとに個別に用意してパターンメモリ72内に記憶している。つまり、布地の移動量と縫製速度の双方に好適な駆動パターンPを全て求め、テーブル単位にまとめて縫製速度に対応したミシンモータ2aの各回転速度ごとにパターンメモリ72内に用意している。
【0032】
(縫製処理)
次に、制御装置1000によるミシン100の縫製時の処理について図6のフローチャートに基づいて説明する。
保持枠111に布地がセットされ、縫製可能状態にあるときに、ペダルRが踏み込まれるとミシンモータ2aの回転駆動が開始されて縫製動作が開始される。
このとき、CPU73は、エンコーダ2bの出力から縫製パターンデータ71aの一針ごとのデータの読み取りを行う主軸角度か否かを判定し(ステップS1)、読み取り主軸角度に到達すると、一針分のX方向移動量、Y方向移動量のデータの読み取りを実行する(ステップS2)。
そして、読み取ったX方向移動量、Y方向移動量のデータと現在設定されている縫製速度とからX軸モータ76aとY軸モータ77aのそれぞれについて、適した駆動パターンPを選択する(ステップS3)。
そして、CPU73は、エンコーダ2bからの主軸タイミング信号Jの出力を待ち(ステップS4)、主軸タイミング信号Jが出力されると、t0から順番に時間計測を行い、X軸、Y軸それぞれの出力時間が経過するたびにモータ駆動パルスをX軸モータ駆動回路76bとY軸モータ駆動回路77bとに出力する(ステップS5)。
そして、X方向移動量とY方向移動量のそれぞれについて駆動パターンPの全てのパルスが出力されると、CPU73は、縫製パターンデータ71aに定められた全ての針数の運針が終了したか否かを判定し、終了していない場合には、ステップS1に処理を戻し、終了した場合には縫製動作を終了させる。
CPU73は、以上のように各モータ76a,77aの動作制御を実行することにより縫製制御手段として機能することとなる。
【0033】
(発明の実施形態の効果)
上記ミシン100の制御装置1000は、駆動パターンPをX軸モータ76a及びY軸モータ77aのそれぞれについて、設定動作量及び各縫製速度ごとに個々に用意し、縫製時には、縫製パターンデータ71aに定められた位置決め動作量と設定された縫製速度とに基づいて駆動パターンPをいずれか一つ選択し、当該駆動パターンPに基づいてX軸モータ76a及びY軸モータ77aの動作制御が行われる。
このため、各モータ76a,77aについて、設定可能な全移動量について設定可能なミシンモータ2aの全回転数に対応した駆動パターンPを用意することができるので、布地の材質に対応する等の理由により縫製速度を変えた場合でも、ダンピング等の発生を抑えた駆動を実現すると共に、糸締まり等の発生を抑えた布送りを実現することが可能となり、縫い品質の向上を図ることが可能となる。
【0034】
また、操作パネル74により縫製に適した縫製速度を設定することが可能となり、これに伴って、適切な駆動パターンでステッピングモータを駆動させることができ、より好適な縫製を実現し、縫い品質の向上を図ることが可能となる。
【0035】
(その他)
上記ミシン100では、縫製速度については操作パネル74から設定を行っていたが、縫製速度については縫製パターンデータ71a内に記録し、これに従ってミシンモータ2aの速度制御を行っても良い。かかる場合、例えば、針数に応じて縫製速度を設定することも可能となり、縫製中でも速度変化を実現可能となり、布地の厚みの変化或いは途中で他の材質のものを縫いつけるなど、より多彩な縫いに対応することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係るミシンを示す斜視図である。
【図2】ミシンの位置決め機構の拡大斜視図である。
【図3】本発明に係るミシンの制御装置を示すブロック図である。
【図4】縫製パターンデータのデータ構成を示す説明図である。
【図5】パターンメモリ内の駆動パターンのテーブルの格納状態を示した概念図である。
【図6】制御装置による縫製時の処理を示すフローチャートである。
【図7】従来のミシンにおける主軸角度変化に対する縫い針の上下位置変化、主軸タイミング信号出力及び布抑え枠移動量変化を示す線図である。
【図8】駆動パターンに従って出力されるパルス列の出力時間間隔を示す説明図である。
【図9】布移動量ごとの駆動パターンを表したテーブルの説明図である。
【図10】縫製速度の低下に対して元の駆動パターンをそのまま適用した場合の例を示す線図である。
【図11】縫製速度の低下による期間の伸長に応じて元の駆動パターンを伸長させて適用した場合の例を示す線図である。
【符号の説明】
【0037】
2a ミシンモータ
2b エンコーダ(主軸角度検出手段)
72 パターンメモリ(パターン記憶部)
73 CPU(縫製制御手段)
74 操作パネル(速度設定手段)
76a X軸モータ(ステッピングモータ)
77a Y軸モータ(ステッピングモータ)
100 電子サイクルミシン
108 縫い針
110 針板
120 位置決め機構
1000 制御装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミシンモータにより縫い針を上下動させる針上下動機構と、
ステッピングモータにより被縫製物に対して任意の位置に針落ちが行われるように前記縫い針に対して被縫製物を相対的に位置決めする位置決め機構と、
一つの縫製パターンについて各針ごとの前記縫い針に対する被縫製物の相対的位置を定める位置情報を含む縫製パターンデータに基づいて前記ステッピングモータの動作制御を行う縫製制御手段とを備え、
前記ミシンモータの駆動による縫製速度を設定に応じて可変とするミシンにおいて、
一針分の位置決め動作を行う前記ステッピングモータの駆動パルス列の各パルスの出力時間間隔を定めた駆動パターンを、複数の位置決め動作量及び複数の縫製速度について個々に記憶するパターン記憶部を備え、
前記縫製制御手段は、前記縫製パターンデータに定められた位置情報に基づく位置決め動作量と前記設定された縫製速度とに基づいて前記駆動パターンを選択し、前記ステッピングモータの動作制御を行うことを特徴とするミシン。
【請求項2】
前記縫製速度の設定入力を行う速度設定手段を備えることを特徴とする請求項1記載のミシン。
【請求項3】
前記縫製パターンデータ中に定められた縫製速度に従って前記ミシンモータの速度制御を行うことを特徴とする請求項1記載のミシン。
【請求項1】
ミシンモータにより縫い針を上下動させる針上下動機構と、
ステッピングモータにより被縫製物に対して任意の位置に針落ちが行われるように前記縫い針に対して被縫製物を相対的に位置決めする位置決め機構と、
一つの縫製パターンについて各針ごとの前記縫い針に対する被縫製物の相対的位置を定める位置情報を含む縫製パターンデータに基づいて前記ステッピングモータの動作制御を行う縫製制御手段とを備え、
前記ミシンモータの駆動による縫製速度を設定に応じて可変とするミシンにおいて、
一針分の位置決め動作を行う前記ステッピングモータの駆動パルス列の各パルスの出力時間間隔を定めた駆動パターンを、複数の位置決め動作量及び複数の縫製速度について個々に記憶するパターン記憶部を備え、
前記縫製制御手段は、前記縫製パターンデータに定められた位置情報に基づく位置決め動作量と前記設定された縫製速度とに基づいて前記駆動パターンを選択し、前記ステッピングモータの動作制御を行うことを特徴とするミシン。
【請求項2】
前記縫製速度の設定入力を行う速度設定手段を備えることを特徴とする請求項1記載のミシン。
【請求項3】
前記縫製パターンデータ中に定められた縫製速度に従って前記ミシンモータの速度制御を行うことを特徴とする請求項1記載のミシン。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−82149(P2010−82149A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−253950(P2008−253950)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000003399)JUKI株式会社 (1,557)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000003399)JUKI株式会社 (1,557)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]