説明

モータ用電圧変換制御装置

【課題】モータの入力直流電圧に脈動がある場合でも安定した電圧変換制御を行うモータ用電圧変換制御装置を提供することを課題とする。
【解決手段】モータ15を制御するモータ制御回路14と電源10との間で電源10の直流電圧をモータ15の入力直流電圧に変換する電圧変換回路12を制御するモータ用電圧変換制御装置16であって、コンデンサ13の両端電圧を検出して電圧変換後の入力直流電圧をサンプリングするサンプリング手段13,16h,16iと、モータ制御のゲート信号GSに基づいて入力直流電圧のサンプリングタイミングTSを発生するサンプリングタイミング発生手段16gと、電圧変換制御のサンプリングタイミング要求DS毎にサンプリングタイミングTSに応じてサンプリング手段13,16h,16iでサンプリングされた入力直流電圧を用いて電圧変換制御を行う制御手段16dを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータを制御するモータ制御回路と電源との間で電源の直流電圧をモータの駆動に必要となる入力直流電圧に変換する電圧変換回路に対する電圧変換制御を行うモータ用電圧変換制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境に配慮した車両としてハイブリッド車両や電気自動車等が開発されており、これらの車両は駆動源としてモータを備えている。このモータとしては交流モータが用いられ、インバータによって直流電力を三相交流電力に変換して、三相交流電力によってモータを駆動している。さらに、モータで高回転や高トルクを出力するためには高電圧が必要となるので、昇圧コンバータによってバッテリの直流電圧を直流高電圧に昇圧して、その直流高電圧をインバータに供給している。そのため、車両では、モータを制御するために、インバータのスイッチング素子をスイッチング制御するためのインバータ制御と昇圧コンバータのスイッチング素子をスイッチング制御するための昇圧制御を行っている。昇圧コンバータとインバータとの間には平滑コンデンサが設けられ、この平滑コンデンサの両端間の電圧(昇圧コンバータによる昇圧後の直流高電圧)が電圧センサで検出される。昇圧制御では、この電圧センサで検出された直流高電圧を用いて、モータの駆動に必要となる目標電圧になるように制御を行っている。
【0003】
特許文献1には、駆動源として1個のモータを備える車両のモータ駆動装置において、直流電源の電圧のセンサ値、平滑コンデンサの両端電圧のセンサ値、モータトルク指令値及びモータ回転数に基づいて昇圧コンバータのスイッチング素子を制御するためのゲート信号を生成するとともに、平滑コンデンサの両端電圧のセンサ値、モータトルク指令値及びモータ電流のセンサ値に基づいてインバータのスイッチング素子を制御するためのゲート信号を生成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−341698号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
車両開発では低コスト化や小型化が求められるので、昇圧コンバータとインバータとの間の平滑コンデンサの容量の低減が求められている。平滑コンデンサの容量を小さくするほど、インバータのスイッチング素子のスイッチングに応じた平滑コンデンサへの電荷の出し入れの比率が大きくなるので、平滑コンデンサの平滑能力を超えると平滑コンデンサの両端電圧が大きく変動し、昇圧後の直流高電圧に脈動が発生する。
【0006】
具体的には、走行状態の制約(例えば、インバータのスイッチング素子の温度が高い場合)等により一時的にインバータ制御のキャリア周波数(インバータのスイッチング素子をON/OFFするためのスイッチング周波数)を低くすると、スイッチング素子をON/OFFする周期が長くなり、インバータ制御のスイッチングノイズが平滑コンデンサの両端電圧(昇圧後の直流高電圧)に大きな変動分(脈動成分)として重畳される。図9には、キャリア周波数が2.5kHzの場合の直流高電圧の時間変化VH2.5とキャリア周波数が1.25kHzの場合の直流高電圧の時間変化VH1.25を示している。また、符号VHで示す曲線は、直流高電圧の時間変化VH2.5,VH1.25を所定の時定数でフィルタリングしたフィルタ値の時間変化である。この図9からも判るように、昇圧後の直流高電圧は、キャリア周波数が高い場合より低い場合に大きな脈動成分が重畳し、大きく変動する。ちなみに、キャリア周波数が高いほど、モータが回転し易くなるが、スイッチング素子の発熱が大きくなる等によりシステム損失が大きくなる。
【0007】
また、モータの回転数やトルクによって、モータの駆動に必要となる目標電圧が変わる。この目標電圧が高く、昇圧後の直流高電圧がモータ誘起電圧に対して高くなると、その電圧差に応じて直流高電圧に大きな脈動成分が重畳される。
【0008】
例えば、図10(a)には、直流高電圧が高い場合の電圧VH及び低い場合の電圧VHとモータ誘起電圧Vemfとの関係を示している。高い場合の直流高電圧VHとモータ誘起電圧Vemfとの電圧差VdefH1,VdefH2と、低い場合の直流高電圧VHとモータ誘起電圧Vemfとの電圧差VdefL1,VdefL2とを比較すると、電圧差Vdefは、高い場合の直流高電圧VHのときの方が大きくなる。この電圧差Vdefが大きくなるほど、モータ電流に重畳される変動分が大きくなる。
【0009】
図10(b)には、インバータ制御でのキャリア信号SCとデューティ信号SDを示しており、このキャリア信号SCとデューティ信号SDの交点に応じてインバータのスイッチング素子をON/OFFするためのゲート信号を生成している。また、図10(c)には、モータの目標電流MIと、大きい電圧差Vdefの場合のモータの実電流MIと、小さい電圧差Vdefの場合のモータの実電流MIを示している。モータの実電流MI,MIは、目標電流MIに対して変動しており、インバータのスイッチング素子のスイッチングの影響による脈動成分が重畳しており、図10(b)、(c)から判るようにキャリア信号SCとデューティ信号SDの交点(ゲート信号のON/OFFの切り替えタイミング)で脈動成分の増減が変化している。この図10(c)から判るように、電圧差Vdefが大きいほど、モータ電流に重畳される脈動成分が大きくなる。さらに、図10(d)には、大きい電圧差Vdefの場合のモータの実電流MIのときの昇圧後の直流高電圧VHを示している。直流高電圧VHは、モータの実電流の脈動に応じて脈動し、大きく変動している。
【0010】
つまり、インバータ制御でのスイッチングの影響によってモータ電流に重畳される脈動成分は、直流高電圧VHとモータ誘起電圧Vemfとの電圧差Vdef及びインバータ制御のキャリア周波数によって決まる。そのため、電圧差Vdefが大きいときにインバータ周波数が低くなると、モータ電流に重畳される脈動成分が大きくなる。平滑コンデンサの容量が小さい場合、モータ電流に重畳される脈動成分が大きくなると、平滑コンデンサの平滑能力を超え、平滑コンデンサの両端電圧が大きく変動し、昇圧後の直流高電圧に脈動が発生する。
【0011】
図10(d)には、実際の直流高電圧VHとともに直流高電圧の期待値(直流高電圧VHの山と谷との中間値であり、脈動成分が含まれない直流高電圧である)VH及び昇圧制御における直流高電圧のサンプリングタイミング要求信号DS,DS,DSを示している。サンプリングタイミング要求信号DS,DS,DSは、サンプリングタイミング周期PS毎に出力される。従来の昇圧制御では、サンプリングタイミング要求信号DS,DS,DSが出力されると電圧センサによって平滑コンデンサの両端電圧を検出し、その検出した直流高電圧VH,VH,VHを用いて目標電圧になるように制御を行う。しかし、例えば、サンプリングタイミング要求信号DSで検出した直流高電圧VHの場合、インバータ制御側のスイッチングノイズによるモータ電流の脈動成分の影響により大きな脈動成分が重畳されており、直流高電圧の期待値VHE1から大きく乖離している。このような直流高電圧VHを用いて昇圧制御を行った場合、昇圧制御が不安定になる。
【0012】
特許文献1に記載の制御では、昇圧コンバータのスイッチング素子を制御するためのゲート信号とインバータのスイッチング素子を制御するためのゲート信号を別々に生成しており、昇圧制御とインバータ制御が連携していない。そのため、昇圧コンバータで昇圧後の直流高電圧に脈動が発生している場合には、昇圧制御に用いられる平滑コンデンサの両端電圧のセンサ値にはその脈動成分が含まれ、昇圧制御が不安定になる。
【0013】
そこで、本発明は、モータシステムにおいてモータ電流の脈動によって引き起こされるモータの入力直流電圧に脈動がある場合でも安定した電圧変換制御を行うモータ用電圧変換制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係るモータ用電圧変換制御装置は、モータを制御するモータ制御回路と電源との間で電源の直流電圧をモータの駆動に必要となる入力直流電圧に変換する電圧変換回路に対する電圧変換制御を行うモータ用電圧変換制御装置であって、モータ制御回路と電圧変換回路との間に設けられたコンデンサの両端電圧を検出し、電圧変換回路で変換された入力直流電圧をサンプリングするサンプリング手段と、モータに対するモータ制御のゲート信号に基づいて電圧変換回路で変換された入力直流電圧をサンプリングするサンプリングタイミングを発生するサンプリングタイミング発生手段と、電圧変換制御のサンプリングタイミング要求毎にサンプリングタイミング発生手段で発生したサンプリングタイミングに応じてサンプリング手段でサンプリングされた入力直流電圧を用いて電圧変換制御を行う制御手段とを備えることを特徴とする。
【0015】
このモータ用電圧変換制御装置は、モータ、モータ制御回路、電圧変換回路、電源等を備えるモータシステムにおいて、電圧変換回路に対する電圧変換制御を行う装置である。モータ制御回路と電圧変換回路との間にはコンデンサが設けられており、サンプリング手段によってそのコンデンサの両端電圧を検出することにより電圧変換回路で電圧変換された入力直流電圧をサンプリングしている。モータ用電圧変換制御装置では、このサンプリング手段でサンプリングされた入力直流電圧を用いて、入力直流電圧がモータの駆動に必要となる目標電圧になるように制御を行っている。なお、モータは、駆動機能を有するモータだけでなく、発電機能を有するモータジェネレータやジェネレータも含む。
【0016】
モータの入力直流電圧の脈動は、モータ電流の脈動によって引き起こされる。モータ電流に重畳される脈動成分は、モータ制御のスイッチングによる影響であり、モータ制御側のスイッチングを行うゲート信号(モータ制御側で生成される信号であり、モータ制御回路のスイッチング素子をスイッチング制御するためのゲート信号)によって決まる。そのため、脈動成分が重畳されているモータ電流の山と谷は、ゲート信号のON/OFFの切り替えタイミングとなる。したがって、脈動成分が重畳された入力直流電圧の山と谷との中間値(すなわち、脈動成分が除かれた入力直流電圧であり、電圧変換制御を安定に行うための入力直流電圧の期待値)は、ゲート信号の連続する切り替えタイミング間の中間のタイミングで得られる。
【0017】
そこで、このモータ用電圧変換制御装置では、サンプリングタイミング発生手段によって、モータ制御のゲート信号に基づいて入力直流電圧をサンプリングするためのサンプリングタイミングを発生する。そして、モータ用電圧変換制御装置では、制御手段によって、電圧変換制御における入力直流電圧に対するサンプリングタイミング要求(電圧変換制御において入力直流電圧が必要なタイミングで出力されるタイミングであり、モータ制御側のゲート信号とは同期していない)毎に、サンプリングタイミング発生手段で発生したサンプリングタイミングに応じてサンプリング手段でサンプリングされた入力直流電圧(実電圧)を用いて目標電圧になるように制御を行う。このように、このモータ用電圧変換制御装置は、モータ制御のゲート信号を考慮して電圧変換制御に用いる入力直流電圧をサンプリングすることにより、モータの入力直流電圧に脈動がある場合でも、サンプリングタイミング要求のときの入力直流電圧の期待値に近い入力直流電圧をサンプリングできるので、入力直流電圧の期待値と電圧変換制御において実際に用いるサンプリング値との差が小さくなり、安定した電圧変換制御を行うことができる。これによって、コンデンサの容量を低減することができ、モータシステムの低コスト及び小型化を図ることができる。
【0018】
本発明の上記モータ用電圧変換制御装置では、サンプリングタイミング発生手段は、ゲート信号のONとOFFとの切り替えタイミングに応じてサンプリングタイミングを発生し、サンプリング手段は、サンプリングタイミング発生手段でサンプリングタイミングを発生する毎に、今回のサンプリングタイミングに応じて電圧変換回路で変換された入力直流電圧と前回のサンプリングタイミングに応じて電圧変換回路で変換された入力直流電圧との平均値を算出し、制御手段は、電圧変換制御のサンプリングタイミング要求毎に、該サンプリングタイミング要求直前にサンプリング手段で算出されている入力直流電圧の平均値を用いて電圧変換制御を行うと好適である。
【0019】
このモータ用電圧変換制御装置では、サンプリングタイミング発生手段によって、ゲート信号のON/OFFの切り替えタイミングに応じてサンプリングタイミングを発生する。そして、モータ用電圧変換制御装置では、サンプリング手段によって、そのサンプリングタイミング毎に、今回のサンプリングタイミングに応じて電圧変換回路で変換された入力直流電圧と前回のサンプリングタイミングに応じて電圧変換回路で変換された入力直流電圧との平均値を算出し、その入力直流電圧の平均値をサンプリングしておく。このゲート信号の連続する切り替えタイミング(連続する立ち上がりタイミングと立ち下がりタイミング)でそれぞれサンプリングされた入力直流電圧の平均値は入力直流電圧の山と谷との中間値である。そして、モータ用電圧変換制御装置では、制御手段によって、サンプリングタイミング要求毎に、サンプリングタイミング要求直前にサンプリング手段で算出された入力直流電圧の平均値を用いて目標電圧になるように制御を行う。このサンプリングタイミング要求直前のゲート信号の連続する切り替えタイミングでそれぞれサンプリングされた入力直流電圧の平均値は、サンプリングタイミング要求のときの入力直流電圧の期待値に近い電圧である。このように、このモータ用電圧変換制御装置は、モータ制御のゲート信号の連続する切り替えタイミングでそれぞれサンプリングされた入力直流電圧の平均値をサンプリングしておくことにより、モータの入力直流電圧に脈動がある場合でも、サンプリングタイミング要求のときの入力直流電圧の期待値に近い入力直流電圧を用いて電圧変換制御ができ、安定した電圧変換制御を行うことができる。
【0020】
本発明の上記モータ用電圧変換制御装置では、サンプリングタイミング発生手段でサンプリングタイミングを発生する毎に、電圧変換回路で変換された入力直流電圧をアナログ値からデジタル値に変換するAD変換手段を備え、AD変換手段でのAD変換時間よりもゲート信号のONとOFFとの切り替え時間が短い場合、サンプリングタイミング発生手段はサンプリングタイミングの発生を中止し、AD変換手段はAD変換を行わない構成としてもよい。
【0021】
このモータ用電圧変換制御装置では、サンプリングタイミング発生手段でサンプリングタイミングを発生する毎に、AD変換手段によって電圧変換回路で変換された入力直流電圧をアナログ値からデジタル値に変換し、サンプリング手段にそのデジタル値の入力直流電圧を出力する。AD変換手段でのAD変換に要する時間よりもゲート信号のON/OFFの切り替え時間が短い場合、AD変換手段でAD変換が終了する前に、サンプリングタイミング発生手段でのサンプリングタイミングを発生するタイミングになる。この場合、サンプリングタイミングを発生しても、AD変換手段でAD変換を行えず、サンプリング手段での処理も行えない。そこで、モータ用電圧変換制御装置では、AD変換手段でのAD変換時間よりもゲート信号のONとOFFとの切り替え時間が短い場合、サンプリングタイミング発生手段がサンプリングタイミングの発生を中止する。この場合、AD変換手段では、ゲート信号の今回の切り替えタイミングに応じたAD変換を行わない。したがって、サンプリング手段では、ゲート信号の今回の切り替えタイミングに応じた入力直流電圧を用いた平均値の算出が行われない。その結果、サンプリング手段での最新のサンプリング値としては、ゲート信号の前回の切り替えタイミングに応じた入力直流電圧とゲート信号の前々回の切り替えタイミングに応じた入力直流電圧との平均値(前回値)となる。この平均値(前回値)も、入力直流電圧の山と谷との中間値であるので、入力直流電圧の期待値に近い電圧であり、安定した電圧変換制御を行うことができる。
【0022】
本発明の上記モータ用電圧変換制御装置では、サンプリングタイミング発生手段でサンプリングタイミングを発生する毎に、電圧変換回路で変換された入力直流電圧をアナログ値からデジタル値に変換するAD変換手段を備え、AD変換手段でのAD変換時間よりもゲート信号のONとOFFとの切り替え時間が短い場合、サンプリングタイミング発生手段はAD変換手段でのAD変換終了直後にサンプリングタイミングを発生し、AD変換手段はAD変換終了直後にAD変換を開始する構成としてもよい。
【0023】
このモータ用電圧変換制御装置では、上記のモータ用電圧変換制御装置と同様にAD変換手段を備えており、AD変換手段でのAD変換時間よりもゲート信号のON/OFFの切り替え時間が短い場合には同様の問題が発生する。そこで、モータ用電圧変換制御装置では、AD変換手段でのAD変換時間よりもゲート信号のONとOFFとの切り替え時間が短い場合、サンプリングタイミング発生手段がAD変換手段でのAD変換終了直後にサンプリングタイミングを発生する。この場合、AD変換手段ではAD変換終了直後にAD変換を開始する。したがって、サンプリング手段では、ゲート信号の今回の切り替えタイミングから少し遅れたタイミングに応じた入力直流電圧とゲート信号の前回の切り替えタイミングに応じた入力直流電圧との平均値を算出することになる。ゲート信号の今回の切り替えタイミングから少し遅れたタイミングの入力直流電圧を用いるが、その値と前回の切り替えタイミングの入力直流電圧を用いた平均値は入力直流電圧の期待値から大きくずれることはないので、安定した電圧変換制御を行うことができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、モータ制御のゲート信号を考慮して電圧変換制御に用いる入力直流電圧をサンプリングすることにより、モータの入力直流電圧に脈動がある場合でも、サンプリングタイミング要求のときの入力直流電圧の期待値に近い入力直流電圧をサンプリングできるので、入力直流電圧の期待値と電圧変換制御において実際に用いるサンプリング値との差が小さくなり、安定した電圧変換制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】第1の実施の形態に係る1モータシステムの構成を示すブロック図である。
【図2】目標電圧の算出方法の説明図である。
【図3】第1の実施の形態に係る直流高電圧のサンプリングタイミングの説明図であり、(a)が直流高電圧が高い場合及び低い場合とモータ誘起電圧との関係図であり、(b)がインバータ制御でのキャリア信号とデューティ信号であり、(c)がインバータ制御のゲート信号であり、(d)がモータ目標電流とモータ実電流であり、(e)が直流高電圧とサンプリングタイミング要求信号である。
【図4】第2の実施の形態に係る1モータシステムの構成を示すブロック図である。
【図5】AD変換時間とゲート信号の切り替え時間との関係図である。
【図6】第2の実施の形態に係る直流高電圧のサンプリングタイミングの説明図であり、(a)が直流高電圧であり、(b)がインバータ制御でのゲート信号であり、(c)がゲート信号の切り替えタイミングであり、(d)がAD変換器へのAD変換起動信号であり、(e)が平均化禁止信号であり、(f)がAD変換器からのAD変換終了信号であり、(g)がAD変換器によるAD変換値であり、(h)が2値平均化値である。
【図7】第3の実施の形態に係る1モータシステムの構成を示すブロック図である。
【図8】第3の実施の形態に係る直流高電圧のサンプリングタイミングの説明図であり、(a)が直流高電圧であり、(b)がインバータ制御でのゲート信号であり、(c)がゲート信号の切り替えタイミングであり、(d)がAD変換器へのAD変換起動信号であり、(e)がAD変換器からのAD変換終了信号であり、(f)がAD変換器によるAD変換値であり、(g)が2値平均化値である。
【図9】キャリア周波数が高い場合と低い場合の直流高電圧の変化を示す図である。
【図10】直流高電圧の脈動の発生の説明図であり、(a)が直流高電圧が高い場合及び低い場合とモータ誘起電圧との関係図であり、(b)がインバータ制御でのキャリア信号とデューティ信号であり、(c)がモータ目標電流とモータ実電流であり、(d)が直流高電圧とサンプリングタイミング要求信号である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して、本発明に係るモータ用電圧変換制御装置の実施の形態を説明する。なお、各図において同一又は相当する要素については同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0027】
本実施の形態では、本発明に係るモータ用電圧変換制御装置を、1個のモータを駆動源として有する1モータシステムの車両(例えば、ハイブリッド車両、電気自動車、燃料電池車両)のモータECU[Electronic Control Unit]における昇圧制御機能に適用する。本実施の形態に係る1モータシステムでは、昇圧コンバータによってバッテリの直流電圧を昇圧してモータの駆動に必要となる直流高電圧に変換し、その直流高電圧が供給されるインバータによって直流電力を三相交流電力に変換して、三相交流電力によってモータを駆動する。本実施の形態には、昇圧後の直流高電圧をサンプリングするタイミングの設定方法が異なる3つの形態があり、第1の実施の形態が基本となる形態であり、第2及び第3の実施の形態が第1の実施の形態に追加機能を加えた形態である。
【0028】
図1〜図3を参照して、第1の実施の形態に係る1モータシステム1について説明する。図1は、第1の実施の形態に係る1モータシステムの構成を示すブロック図である。図2は、目標電圧の算出方法の説明図である。図3は、第1の実施の形態に係る直流高電圧のサンプリングタイミングの説明図であり、(a)が直流高電圧が高い場合及び低い場合とモータ誘起電圧との関係図であり、(b)がインバータ制御でのキャリア信号とデューティ信号であり、(c)がインバータ制御のゲート信号であり、(d)がモータ目標電流とモータ実電流であり、(e)が直流高電圧とサンプリングタイミング要求信号である。
【0029】
1モータシステム1は、バッテリ10、フィルタコンデンサ11、昇圧コンバータ12、平滑コンデンサ13、インバータ14、モータ15及びモータECU16を備えている。なお、本実施の形態では、バッテリ10が特許請求の範囲に記載する電源に相当し、昇圧コンバータ12が特許請求の範囲に記載する電圧変換回路に相当し、平滑コンデンサ13が特許請求の範囲に記載するコンデンサに相当し、インバータ14が特許請求の範囲に記載するモータ制御回路に相当し、モータ15が特許請求の範囲に記載するモータに相当する。
【0030】
1モータシステム1では、走行制御ECU17からのモータトルク指令DTに応じて、バッテリ10の直流電力を三相交流電力に変換し、その三相交流電力をモータ15に供給する。そのために、モータECU16では、バッテリ10の直流低電圧VLからモータ15の駆動に必要となる目標電圧(直流高電圧VH)まで昇圧するために昇圧コンバータ12に対する昇圧制御を行うとともに、直流電力からモータトルク指令DTを発生させるために必要な三相交流電力に変換するためにインバータ14に対するインバータ制御を行う。特に、モータECU16では、インバータ制御側でのスイッチングノイズの影響によるモータ電流の脈動によって引き起こされる直流高電圧VHの脈動がある場合でも安定した昇圧制御を行うために、インバータ制御のゲート信号GSの連続する切り替えタイミング(連続する立ち上がりタイミングと立ち下がりタイミング)の直流高電圧(平滑コンデンサ13の両端電圧)VHの平均値VHAを算出してサンプリングしておき、VHセンササンプリングタイミング要求信号DS毎にその要求信号DS直前のゲート信号GSの連続する立ち上がりタイミングと立ち下がりタイミングの直流高電圧の平均値VHAを用いて昇圧制御を行う。
【0031】
なお、走行制御ECU17は、車両の走行を制御するためのECUである。走行制御ECU17では、運転者あるいは自動運転によるアクセル要求やブレーキ要求に応じて、そのときの車両の走行状態に基づいてモータ15で必要となる目標となるモータトルクを算出し、その目標となるモータトルクをモータトルク指令DTとしてモータECU16に出力している。
【0032】
バッテリ10は、直流電源であり、二次電池である。フィルタコンデンサ11は、バッテリ10と昇圧コンバータ12との間に設けられ、バッテリ10に並列に接続される。フィルタコンデンサ11では、バッテリ10の直流電圧を平滑化し、その直流電圧の電荷を蓄電する。このフィルタコンデンサ11の両端電圧が、直流低電圧VLである。なお、フィルタコンデンサ11は、スイッチングによる脈動電流をバッテリ10側に流さないようにするためのコンデンサである。
【0033】
昇圧コンバータ12は、リアクトル12a、スイッチング素子12b,12c、還流ダイオード12d,12eからなる。リアクトル12aの一端には、フィルタコンデンサ11の高電圧側が接続される。リアクトル12aの他端には、スイッチング素子12bとスイッチング素子12cの接続点が接続される。ILセンサ12fでは、このリアクトル12aに流れる電流IL(アナログ値)を検出し、その検出した電流ILをモータECU16に出力する。スイッチング素子12bとスイッチング素子12cとは直列に接続され、スイッチング素子12bのコレクタに平滑コンデンサ13の高電圧側が接続され、スイッチング素子12cのエミッタに平滑コンデンサ13の低電圧側が接続される。スイッチング素子12b,12cには、還流ダイオード12d,12eがそれぞれ逆並列接続される。このような回路構成によって、昇圧コンバータ12では、モータECU16から出力されるスイッチング素子12b,12cに対する各ゲート信号に基づいてスイッチング素子12b,12cがそれぞれスイッチング制御され、フィルタコンデンサ11の直流低電圧VLを直流高電圧VHに変換する。
【0034】
平滑コンデンサ13は、昇圧コンバータ12とインバータ14との間に設けられる。平滑コンデンサ13は、昇圧コンバータ12で昇圧された直流電圧を平滑化し、その直流電圧の電荷を蓄電する。この平滑コンデンサ13の両端電圧が、直流高電圧VHである。VHセンサ13aでは、この平滑コンデンサ13の両端電圧(アナログ値)VHを検出し、その検出した電圧をモータECU16に出力する。
【0035】
インバータ14は、1モータシステムにおける1個のモータに対応して直流電力を三相交流電力に変換する従来の一般的なインバータ回路であるので、詳細な回路構成については説明を省略する。インバータ14では、平滑コンデンサ13の直流高電圧VHが供給され、モータECU16から出力されるモータ15の各相(U相、V相、W相)に対応したスイッチング素子に対する各ゲート信号GSに基づいて各相のスイッチング素子がそれぞれスイッチング制御され、直流電力を三相交流電力に変換し、モータ15に供給する。
【0036】
モータ15は、交流モータであり、車両の駆動源の一つである。モータ15は、インバータ14からの三相交流電力が各相のコイル(図示せず)に供給され、回転駆動する。
【0037】
モータECU16は、マイクロコンピュータ(マイコン)や各種メモリ等からなる電子制御ユニットであり、モータ制御を行う。特に、モータECU16は、インバータ14に対する制御を行うインバータ制御機能(モータ制御16a、ゲート生成16b)と昇圧コンバータ12に対する制御を行う昇圧制御機能(モータ目標電圧算出16c、電圧制御16d、電流制御16e、ゲート生成16f、VHセンササンプリングタイミング発生器16g、VHセンサデータ更新&2値平均化処理16h)を有している。インバータ制御機能と昇圧制御機能とを同じマイコンで構成してもよいし、別々のマイコンで構成してもよい。なお、第1の実施の形態では、VHセンササンプリングタイミング発生器16gが特許請求の範囲に記載するサンプリングタイミング発生手段に相当し、電圧制御16dが特許請求の範囲に記載する制御手段に相当し、VHセンサ13a、AD変換器16i及びVHセンサデータ更新&2値平均化処理16hが特許請求の範囲に記載するサンプリング手段に相当する。
【0038】
インバータ制御機能について説明する。モータ制御16aでは、走行制御ECU17からモータトルク指令DTが入力され、モータ15から角度センサで検出されたモータ角度及び電流センサで検出されたモータ電流を用いて、モータトルク指令DTの目標となるモータトルクを発生させるためのキャリア信号SCとデューティ信号SDを生成し、ゲート生成16bに出力する。また、モータ制御16aでは、モータ回転数MRとモータトルク指令DTを昇圧制御機能のモータ目標電圧算出16cに出力する。
【0039】
ゲート生成16bでは、モータ制御16aからキャリア信号SCとデューティ信号SDが入力され、キャリア信号SCとデューティ信号SDに基づいてインバータ14の各相のスイッチング素子のゲート信号GS(例えば、PWM信号)をそれぞれ生成し、インバータ14に出力する。また、ゲート生成16bでは、ゲート信号GSを昇圧制御機能のVHセンササンプリングタイミング発生器16gに出力する。図3(b)にはキャリア信号SCとデューティ信号SDの一例を示しており、キャリア信号SCとデューティ信号SDとの交点のタイミングでインバータ14のスイッチング素子がON/OFFするゲート信号GSが生成され、図3(c)にそのゲート信号GSを示す。
【0040】
キャリア信号SCは、キャリア周波数であり、インバータ14のスイッチング素子のスイッチング周波数である。キャリア信号SCは、図3(b)に示すように、例えば、山と谷を頂点とする三角波である。モータ15を高回転や高トルクにするためには、キャリア周波数を高くする必要がある。しかし、インバータ14のスイッチング素子が高温度になる等によってシステム損失が大きくなると、キャリア周波数を低くする必要がある。デューティ信号SDは、インバータ14のスイッチング素子のONとOFFのデューティ比を決めるための信号である。デューティ信号SDは、図3(b)に示すように、例えば、正弦波である。ゲート信号GSは、インバータ14のスイッチング素子をON/OFFするための信号である。ゲート信号GSは、図3(c)に示すように、例えば、PWM信号である。
【0041】
ゲート信号GSのON/OFFの切り替えタイミングでインバータ14のスイッチング素子がスイッチングし、そのスイッチングの影響によってモータ電流には脈動成分が重畳する。図3(d)には、モータ15の目標電流MIと、大きな脈動成分が重畳された場合のモータ15の実電流MIと、小さい脈動成分が重畳された場合のモータ15の実電流MIを示している。図3(d)から判るように、モータ15の実電流MI,MIでは、ゲート信号GSの立ち上がりタイミングと立ち下がりタイミングで山と谷となり、脈動成分の増減の変化点となっている。
【0042】
昇圧制御機能について説明する。モータ目標電圧算出16cでは、インバータ制御機能からモータ回転数MRとモータトルク指令DTが入力され、図2に示すように、モータ回転数とモータトルクとのマップM1からモータ回転数MRとモータトルク指令DTのモータトルクとの交点P1を抽出する。このマップM1には、弱め界磁制御領域A1(斜線で示す領域)とPWM制御領域A2があり、1モータシステム1のシステム電圧(直流高電圧VH)の高低によりその制御領域の範囲が変わる。図2に示す例では、交点P1が弱め界磁制御領域A1内に入っているので、弱め界磁制御となる。さらに、モータ目標電圧算出16cでは、図2に示すように、その交点P1に応じて変わるシステム電圧とシステム損失とのマップM2から、システム損失が最小点となるシステム電圧(直流高電圧VHの目標電圧VH)を算出し、電圧制御16dに出力する。システム損失は、1モータシステム1におけるスイッチング素子等における損失である。システム電圧が高電圧になると、モータ15が回転し易くなるが、システム損失が大きくなる。なお、昇圧制御の目標電圧の求める方法については、上記のようにマップを利用した方法を説明したが、他の方法でもよい。
【0043】
電圧制御16dでは、図3(e)に示すように、サンプリングタイミング周期PS毎にVHセンササンプリングタイミング要求信号DSをVHセンサデータ更新&2値平均化処理16hに出力し、VHセンササンプリングタイミング要求信号DSに応じてVHセンサデータ更新&2値平均化処理16hから昇圧制御で用いるためにサンプリングされた直流高電圧VH(デジタル値)の平均値VHAが入力される。サンプリングタイミング周期PSは、予め決められた固定値でもよいしあるいは可変値でもよい。サンプリングタイミング周期PSはインバータ制御とは関係なく設定されているので、VHセンササンプリングタイミング要求信号DSはインバータ制御のゲート信号GSとは同期していない。電圧制御16dでは、モータ目標電圧算出16cから目標電圧VHが入力され、VHセンサデータ更新&2値平均化処理16hからの直流高電圧VH(デジタル値)の平均値VHAを用いて、平滑コンデンサ13の両端電圧(直流高電圧)が目標電圧VHになるための制御を行う。この際、電圧制御16dでは、その制御に必要な目標電流ILを算出し、電流制御16eに出力する。
【0044】
電流制御16eでは、電圧制御16dから目標電流ILが入力され、リアクトル12aに流れる電流IL(デジタル値)を用いて、リアクトル12aに流れる電流が目標電流ILになるための制御を行う。制御に用いる電流IL(デジタル値)は、ILセンサ12fによって検出された電流(アナログ値)をモータECU16内のAD変換器16jでAD変換された電流(デジタル値)である。
【0045】
ゲート生成16fでは、電圧制御16dでの目標電圧VHになるための制御と電流制御16eでの目標電流ILになるための制御に基づいて、昇圧コンバータ12のスイッチング素子12b,12cの各ゲート信号(例えば、PWM信号)をそれぞれ生成し、昇圧コンバータ12に出力する。
【0046】
VHセンササンプリングタイミング発生器16gでは、インバータ制御機能のゲート生成16bからゲート信号GSが入力され、ゲート信号GSのONからOFFへの切り替えのタイミング(立ち下がりタイミング)及びOFFからONへの切り替えタイミング(立ち上がりタイミング)をVHセンササンプリングタイミングTS(AD変換起動信号)としてAD変換器16iに出力する。AD変換器16iでは、VHセンササンプリングタイミング発生器16gからVHセンササンプリングタイミングTSが入力される毎に、VHセンサ13aで検出されている直流高電圧(アナログ値)VHをAD変換し、AD変換後の直流高電圧(デジタル値)VHをVHセンサデータ更新&2値平均化処理16hに出力する。なお、ゲート生成16bからのゲート信号としては、3相のU相、V相、W相のいずれのゲート信号でもよい。
【0047】
VHセンサデータ更新&2値平均化処理16hでは、AD変換器16iから直流高電圧(デジタル値)VHが入力される毎に、その直流高電圧(デジタル値)VHを時系列で記憶しておく。さらに、VHセンサデータ更新&2値平均化処理16hでは、今回入力された直流高電圧(デジタル値)VHと時系列で記憶している前回入力された直流高電圧(デジタル値)VHとの平均値VHAを算出し、その今回と前回の直流高電圧の平均値VHAを時系列で記憶しておく。ここでは、最新の平均値VHAだけを記憶しておいてもよい。そして、VHセンサデータ更新&2値平均化処理16hでは、電圧制御16dからVHセンササンプリングタイミング要求信号DSが入力される毎に、そのVHセンササンプリングタイミング要求信号DSの直前に算出した直流高電圧の平均値VHAを昇圧制御に用いるVHセンサ値として電圧制御16dに出力する。
【0048】
ここで、図3を参照して、上記のような昇圧制御機能における処理より、インバータ制御側でのスイッチングの影響によるモータ電流の脈動によって引き起こされる直流高電圧VHの脈動がある場合でも安定した昇圧制御を行うことができる理由について説明する。システム損失を抑えるためにインバータ制御におけるキャリア周波数を低くすると、インバータ制御のスイッチングノイズにより、平滑コンデンサの両端電圧(昇圧後の直流高電圧)に脈動成分が重畳される。また、モータの回転数やトルクによってモータの駆動に必要となる目標電圧が変わるが、目標電圧が高くなり、直流高電圧VHがモータ誘起電圧Vemfに対して高くなるほど、その電圧差Vdefが大きくなり、直流高電圧の脈動成分も大きくなる。図3(a)には、直流高電圧VHが高い場合の電圧VH及び低い場合の電圧VHとモータ誘起電圧Vemfとの関係を示している。高い直流高電圧VHとモータ誘起電圧Vemfとの電圧差VdefH1,VdefH2と、低い直流高電圧VHとモータ誘起電圧Vemfとの電圧差VdefL1,VdefL2とを比較すると、電圧差Vdefは高い直流高電圧VHのときの方が大きくなる。この電圧差Vdefが大きくなるほど、モータ電流に重畳される脈動成分が大きくなる。図3(d)には、モータ15の目標電流MIと、大きい電圧差Vdefの場合のモータ15の実電流MIと、小さい電圧差Vdefの場合のモータ15の実電流MIを示している。モータ15の実電流MI,MIには、インバータ14のスイッチング素子のスイッチングに応じて脈動成分が重畳しており、図3(c)に示すゲート信号GSの立ち上がりタイミングと立ち下がりタイミング(図3(b)に示すキャリア信号SCとデューティ信号SDとの交点)で脈動成分の増減が切り替わる。この図3(d)から判るように、電圧差Vdefが大きいほど、モータ電流MIに重畳される脈動成分が大きくなる。さらに、図3(e)には、大きい電圧差Vdefの場合のモータ電流MIのときの直流高電圧VHを示している。直流高電圧VHは、モータ電流MIの脈動成分に応じて脈動成分が重畳され、図3(c)に示すゲート信号GSの立ち上がりタイミングと立ち下がりタイミングで脈動成分の増減が切り替わる。このように、インバータ側のスイッチングの影響によってモータ電流に脈動が発生すると、昇圧後の直流高電圧にも脈動成分が重畳される。
【0049】
つまり、インバータ制御によるスイッチングによってモータ電流MIに重畳される脈動成分(変動分)は、直流高電圧VHとモータ誘起電圧Vemfとの電圧差Vdef及びインバータ制御のキャリア周波数(キャリア信号SC(ゲート信号GS))によって決まる。そのため、電圧差Vdefが大きいときにインバータ周波数が低くなると、モータ電流MIに重畳される脈動成分が大きくなる。平滑コンデンサ13の容量が小さい場合、モータ電流MIに重畳される脈動成分が大きくなると、平滑コンデンサ13の平滑能力を超え、平滑コンデンサ13の両端電圧(直流高電圧)VHにも脈動成分が重畳され、昇圧後の直流高電圧VHが大きく変動する。なお、1モータシステム1の低コスト化や小型化を進める上、容量の大きい平滑コンデンサ13の容量を出来る限り小さくすることが求められている。したがって、その要求に応じて平滑コンデンサ13の容量を小さくすると、上記のように、直流高電圧VHに脈動が発生することになる。
【0050】
上記したように、インバータ制御によるスイッチングによる脈動成分は、ゲート信号GSの立ち上がりタイミングと立ち下がりタイミングで脈動成分の増減が切り替わる。したがって、図3(c)、(d)からも判るように、ゲート信号GSの立ち上がりタイミングと立ち下がりタイミングが脈動成分が重畳されているモータ電流MIの山と谷となるので、モータ電流MIの山と谷との中間値はゲート信号GSの連続する立ち上がりタイミングと立ち下がりタイミングの中間タイミングで得られる。したがって、図3(c)、(e)からも判るように、脈動成分が重畳されている直流高電圧VHの山と谷との中間値(すなわち、昇圧制御を安定に行うための直流高電圧の期待値VH)も、ゲート信号GSの連続する立ち上がりタイミングと立ち下がりタイミングの中間タイミングで得られる。図3(e)に示す例からも判るように、ゲート信号GSの連続する立ち上がりタイミングと立ち下がりタイミングでの直流高電圧VHの平均値は、直流高電圧の期待値VHと略一致している。直流高電圧の期待値VHは、直流高電圧VHの山と谷との中間値であり、脈動成分が略除去された直流高電圧である。
【0051】
そこで、モータECU16の昇圧制御機能では、VHセンササンプリングタイミング発生器16gにおいて、ゲート信号GSのON/OFFの切り替えタイミング毎にVHセンササンプリングタイミングTSを発生し、VHセンササンプリングタイミングTS毎にAD変換器16iにおいてVHセンサ13aで検出されている直流高電圧(アナログ値)VHをAD変換し、直流高電圧(デジタル値)VHを取得している。
【0052】
さらに、図3(e)に示す例からも判るように、VHセンササンプリングタイミング要求信号DS、DS,DSのタイミングでの直流高電圧の期待値VHE1、VHE2,VHE3と、VHセンササンプリングタイミング要求信号DS、DS,DS直前のゲート信号GSの立ち上がりタイミングと立ち下がりタイミングのときの直流高電圧VHC1と直流高電圧VHC2の平均値、直流高電圧VHC3と直流高電圧VHC4の平均値、直流高電圧VHC5と直流高電圧VHC6の平均値とを比較すると、その差は非常に小さい。したがって、VHセンササンプリングタイミング要求信号DS直前の連続するゲート信号GSの立ち上がりタイミングと立ち下がりタイミングのときの直流高電圧VH(VHセンサ値)の平均値VHAを取得することにより、VHセンササンプリングタイミング要求信号DSのタイミングのときの直流高電圧の期待値VHに非常に近い値を得ることができる。
【0053】
そこで、モータECU16の昇圧制御機能では、VHセンサデータ更新&2値平均化処理16hにおいて、電圧制御16dからVHセンササンプリングタイミング要求信号DSが入力される毎に、VHセンササンプリングタイミング要求信号DS直前にAD変換器16iから入力されたゲート信号GSのON/OFF切り替えタイミングの直流高電圧(デジタル値)VHと前回入力されたゲート信号GSのON/OFF切り替えタイミングの直流高電圧(デジタル値)VHの平均値VHAを算出し、電圧制御16dに出力している。電圧制御16dでは、このVHセンササンプリングタイミング要求信号DS直前のゲート信号GSの連続するON/OFF切り替えタイミングの直流高電圧(デジタル値)VHの平均値VHAを用いて昇圧制御を行うことにより、VHセンササンプリングタイミング要求信号DSのときの直流高電圧の期待値VHに近い直流高電圧の平均値VHAを用いて制御を行うことができる。
【0054】
この1モータシステム1(特に、モータECU16での昇圧制御)によれば、インバータ制御のゲート信号GSに基づいて昇圧制御に用いる直流高電圧VH(平均値VHA)をサンプリングすることにより(インバータ制御と昇圧制御とを連携させている)、直流高電圧VHに脈動成分が重畳されている場合でも、VHセンササンプリングタイミング要求信号DSのときの直流高電圧の期待値VHに近い直流高電圧VH(平均値VHA)をサンプリングでき、VHセンササンプリングタイミング要求信号DSのときの直流高電圧の期待値VHと昇圧制御において実際に用いるVHセンサ値との差が小さくなり、安定した昇圧制御を行うことができる。これによって、平滑コンデンサ13の容量を限界まで低減することができ、1モータシステム1の低コスト及び小型化を図ることができる。
【0055】
特に、第1の実施の形態に係る1モータシステム1では、インバータ制御のゲート信号GSの連続する立ち上がりタイミングと立ち下がりタイミング(ON/OFF切り替えタイミング)での直流高電圧VHの平均値VHAをサンプリングしておき、VHセンササンプリングタイミング要求信号DS直前にサンプリングされたゲート信号GSの連続する立ち上がりタイミングと立ち下がりタイミングでの直流高電圧VHの平均値VHAを昇圧制御に用いることにより、VHセンササンプリングタイミング要求信号DSのときの直流高電圧の期待値VHに近い直流高電圧VHのセンサ値を用いて昇圧制御ができ、安定した昇圧制御を行うことができる。
【0056】
次に、図4〜図6を参照して、第2の実施の形態に係る1モータシステム2について説明する。図4は、第2の実施の形態に係る1モータシステムの構成を示すブロック図である。図5は、AD変換時間とゲート信号の切り替え時間との関係図である。図6は、第2の実施の形態に係る直流高電圧のサンプリングタイミングの説明図であり、(a)が直流高電圧であり、(b)がインバータ制御でのゲート信号であり、(c)がゲート信号の切り替えタイミングであり、(d)がAD変換器へのAD変換起動信号であり、(e)が平均化禁止信号であり、(f)がAD変換器からのAD変換終了信号であり、(g)がAD変換器によるAD変換値であり、(h)が2値平均化値である。
【0057】
1モータシステム2は、バッテリ10、フィルタコンデンサ11、昇圧コンバータ12、平滑コンデンサ13、インバータ14、モータ15及びモータECU26を備えている。1モータシステム2は、第1の実施の形態に係る1モータシステム1と比較すると、モータECU26での制御だけが異なる。特に、モータECU26では、AD変換時間がゲート信号GSのON/OFFの切り替え時間よりも短い場合、AD変換を中止し、昇圧制御では直流高電圧の平均値VHAとして前回値を用いる。ここでは、モータECU26についてのみ詳細に説明する。
【0058】
ここで、図5を参照して、AD変換時間とゲート信号GSのON/OFFの切り替え時間(ON時間、OFF時間)の関係について説明する。図5には、ゲート信号GS、AD変換器へのAD変換起動信号SS(VHセンササンプリングタイミングTS)、AD変換器からのAD変換終了信号ESの一例を示している。AD変換時間CHはAD変換器によって決まっており、一定の時間である。ゲート信号GSの切り替え時間SH,SHがある程度長い場合、ゲート信号GSのON/OFF切り替えタイミングでAD変換起動信号SS,SSが出力されても、切り替え時間SH,SH内にAD変換が終了し、ゲート信号GSの次のON/OFF切り替えタイミングになるまでにAD変換器からAD変換終了信号ES,ESが出力される。しかし、ゲート信号GSの切り替え時間SHが短くなると、ゲート信号GSのON/OFF切り替えタイミングでAD変換起動信号SSが出力されても、ゲート信号GSの次のON/OFF切り替えタイミングになるまでにAD変換が終了せず、AD変換器からAD変換終了信号ESが出力され前にAD変換起動信号SSが出力されることになる。このような場合、AD変換器では、AD変換起動信号SSに対するAD変換ができない。そこで、モータECU26は、このような場合に対応できる追加機能を有している。
【0059】
モータECU26は、マイクロコンピュータや各種メモリ等からなる電子制御ユニットであり、モータ制御を行う。特に、モータECU26は、インバータ14に対する制御を行うインバータ制御機能(モータ制御26a、ゲート生成26b)と昇圧コンバータ12に対する制御を行う昇圧制御機能(モータ目標電圧算出26c、電圧制御26d、電流制御26e、ゲート生成26f、VHセンササンプリングタイミング発生器&切替時判定器26g、VHセンサデータ更新&2値平均化処理26h)を有している。インバータ制御機能と昇圧制御機能とを同じマイコンで構成してもよいし、別々のマイコンで構成してもよい。なお、第2の実施の形態では、VHセンササンプリングタイミング発生器&切替時判定器26gが特許請求の範囲に記載するサンプリングタイミング発生手段に相当し、電圧制御26dが特許請求の範囲に記載する制御手段に相当し、VHセン13a、AD変換器26i及びVHセンサデータ更新&2値平均化処理26hが特許請求の範囲に記載するサンプリング手段に相当し、AD変換器26iが特許請求の範囲に記載するAD変換手段に相当する。
【0060】
なお、モータ制御26a、ゲート生成26b、モータ目標電圧算出26c、電圧制御26d、電流制御26e、ゲート生成26f、AD変換器26jについては、第1の実施の形態に係るモータ制御16a、ゲート生成16b、モータ目標電圧算出16c、電圧制御16d、電流制御16e、ゲート生成16f、AD変換器16jと同様の処理を行うので、説明を省略する。
【0061】
VHセンササンプリングタイミング発生器&切替時判定器26gには、インバータ制御機能のゲート生成26bからゲート信号GSが入力されるとともにAD変換器26iからAD変換終了信号ESが入力される。VHセンササンプリングタイミング発生器&切替時判定器26gでは、VHセンササンプリングタイミングTS(AD変換起動信号)を出力する毎に、そのVHセンササンプリングタイミングTS(AD変換起動信号)に対するAD変換終了信号ESとゲート信号GSの次のON/OFFの切り替えタイミングとに基づいて、AD変換終了信号ESの後にゲート信号GSの次のON/OFFの切り替えタイミングになった場合にはその次のON/OFFの切り替えタイミングに応じてVHセンササンプリングタイミングTS(AD変換起動信号)をAD変換器26iに出力し、AD変換終了信号ESの前にゲート信号GSの次のON/OFFの切り替えタイミングになった場合にはその次のON/OFFの切り替えタイミングに対するVHセンササンプリングタイミングTS(AD変換起動信号)をAD変換器26iに出力しない(AD変換中止)とともに平均化禁止信号RSをVHセンサデータ更新&2値平均化処理26hに出力する。平均化禁止信号RSのONタイミングはAD変換中止後のゲート信号GSの次の切り替えタイミングであり、平均化禁止信号RSのOFFタイミングはゲート信号GSのその次の切り替えタイミングである。AD変換器26iでは、VHセンササンプリングタイミング発生器&切替時判定器26gからVHセンササンプリングタイミングTSが入力される毎に、VHセンサ13aで検出されている直流高電圧(アナログ値)VHをAD変換し、AD変換後の直流高電圧(デジタル値)VHをVHセンサデータ更新&2値平均化処理26hに出力する。AD変換器26iでは、AD変換が終了すると、AD変換終了信号ESをVHセンササンプリングタイミング発生器&切替時判定器26gに出力する。特に、AD変換終了信号ESの前にゲート信号GSの次のON/OFFの切り替えタイミングになった場合(AD変換時間よりゲート信号GSの切り替え時間が短い場合)、AD変換器26gでは、AD変換を中止する。
【0062】
VHセンサデータ更新&2値平均化処理26hでは、AD変換器26iから直流高電圧(デジタル値)VHが入力される毎に、その直流高電圧(デジタル値)VHを時系列で記憶しておく。さらに、VHセンサデータ更新&2値平均化処理26hでは、今回入力された直流高電圧(デジタル値)VHと時系列で記憶している前回入力された直流高電圧(デジタル値)VHとの平均値VHAを算出し、その今回と前回の直流高電圧の平均値VHAを時系列で記憶しておく。特に、VHセンササンプリングタイミング発生器&切替時判定器26gから平均化禁止信号RSが入力されている場合、VHセンサデータ更新&2値平均化処理26hでは、直流高電圧の平均値VHAの算出を禁止する。この場合、前回算出されている直流高電圧の平均値VHAが最新値として保持されている。そして、VHセンサデータ更新&2値平均化処理26hでは、電圧制御26dからVHセンササンプリングタイミング要求信号DSが入力される毎に、そのVHセンササンプリングタイミング要求信号DSの直前に算出した直流高電圧の平均値VHA(保持している最新の平均値VHA)を昇圧制御に用いるVHセンサ値として電圧制御26dに出力する。したがって、平均化禁止信号RSが入力されている場合、前回算出した直流高電圧の平均値VHAを出力することになる。
【0063】
ここで、図6を参照して、上記のような昇圧制御機能において、ゲート信号GSの切り替え時間がAD変換時間より長い場合とゲート信号GSの切り替え時間がAD変換時間より短い場合のゲート信号GSの連続するON/OFF切り替えタイミングの直流高電圧VHの平均値VHAの算出過程について説明する。図6(a)には直流高電圧VHを示しており、図6(b)にはゲート信号GSを示しており、図6(c)にはゲート信号GSのON/OFFの切り替えタイミングSTを示しており、図6(a)には切り替えタイミングST,ST,ST,・・・のときの直流高電圧値としてB値,C値,D値,・・・(山と谷の各値)を示している。また、図6(d)には、切り替えタイミングST,ST,ST,・・・に応じてVHセンササンプリングタイミング発生器&切替時判定器26gから出力されるAD変換起動信号SS,SS,SS,・・・(VHセンササンプリングタイミングTSに相当)を示している。さらに、図6(f)には、AD変換起動信号SS,SS,SS,・・・に応じて行われるAD変換が終了したときにAD変換器26iから出力されるAD変換終了信号ES,ES,ES,・・・を示している。また、図6(g)には、AD変換器26iから出力されてVHセンサデータ更新&2値平均化処理26hで保持されるAD変換後の直流電圧値ADCであるA値,B値,C値,D値,・・・(直流高電圧VAの山と谷の各値)を示している。さらに、図6(h)には、VHセンサデータ更新&2値平均化処理26hで算出され、保持される直流高電圧値の平均値VHAとして(A+B)/2,(B+C)/2,・・・を示している。
【0064】
ゲート信号GSの切り替え時間がAD変換時間より長い場合、例えば、ゲート信号GSの切り替えタイミングST,STのときで説明する。VHセンササンプリングタイミング発生器&切替時判定器26gでは切り替えタイミングSTに応じてAD変換起動信号SSを出力し、AD変換器26iではAD変換を開始し、AD変換が終了すると直流高電圧(デジタル値)としてB値をVHセンサデータ更新&2値平均化処理26hに出力するとともにAD変換終了信号ESをVHセンササンプリングタイミング発生器&切替時判定器26gに出力する。この場合、VHセンサデータ更新&2値平均化処理26hでは、B値を保持するとともに、前回保持しているA値と今回のB値を用いて平均値(A+B)/2を算出し、その平均値(A+B)/2を保持する。次に、VHセンササンプリングタイミング発生器&切替時判定器26gではAD変換終了信号ESの後に切り替えタイミングSTがきたので、その切り替えタイミングSTに応じてAD変換起動信号SSを出力し、AD変換器26iではAD変換を開始し、AD変換が終了すると直流高電圧(デジタル値)としてC値をVHセンサデータ更新&2値平均化処理26hに出力するとともにAD変換終了信号ESをVHセンササンプリングタイミング発生器&切替時判定器26gに出力する。この場合、VHセンサデータ更新&2値平均化処理26hでは、C値を保持するとともに、前回保持しているB値と今回のC値を用いて平均値(B+C)/2を算出し、その平均値(B+C)/2を保持する。この後に、電圧制御26dからVHセンササンプリングタイミング要求信号DSが入力されると、VHセンサデータ更新&2値平均化処理26hでは、平均値(B+C)/2を電圧制御26dに出力する。
【0065】
ゲート信号GSの切り替え時間がAD変換時間より短い場合、例えば、ゲート信号GSの切り替えタイミングST,STのときで説明する。VHセンササンプリングタイミング発生器&切替時判定器26gでは切り替えタイミングSTに応じてAD変換起動信号SSを出力し、AD変換器26iではAD変換を開始し、AD変換が終了すると直流高電圧(デジタル値)としてF値をVHセンサデータ更新&2値平均化処理26hに出力するとともにAD変換終了信号ESをVHセンササンプリングタイミング発生器&切替時判定器26gに出力する。この場合、VHセンサデータ更新&2値平均化処理26hでは、F値を保持するとともに、前回保持しているE値と今回のF値を用いて平均値(E+F)/2を算出し、その平均値(E+F)/2を保持する。次に、VHセンササンプリングタイミング発生器&切替時判定器26gでは、AD変換終了信号ESの前に切り替えタイミングSTがきたので、その切り替えタイミングSTに応じたAD変換起動信号を出力しない。したがって、AD変換器26iでは、切り替えタイミングSTに応じたAD変換が行われない。VHセンサデータ更新&2値平均化処理26hでは、最新の直流高電圧としてF値を保持し続けるとともに、最新の平均値として(E+F)/2を保持し続ける。この後に、電圧制御26dからVHセンササンプリングタイミング要求信号DSが入力されると、VHセンサデータ更新&2値平均化処理26hでは、平均値(E+F)/2を電圧制御26dに出力する。やがて、次の切り替えタイミングSTがくると、VHセンササンプリングタイミング発生器&切替時判定器26gでは、平均化禁止信号RSをその次の切り替えタイミングSTまでの間出力する。VHセンサデータ更新&2値平均化処理26hでは、平均化禁止信号RSに応じて平均値の算出を禁止し、前回の平均値(E+F)/2を保持し続ける。また、VHセンササンプリングタイミング発生器&切替時判定器26gでは、切り替えタイミングSTに応じてAD変換起動信号SSを出力し、AD変換器26iではAD変換を開始し、AD変換が終了すると直流高電圧(デジタル値)としてH値をVHセンサデータ更新&2値平均化処理26hに出力するとともにAD変換終了信号ESをVHセンササンプリングタイミング発生器&切替時判定器26gに出力する。この場合、VHセンサデータ更新&2値平均化処理26hでは、H値を保持するが、平均値の算出を禁止している。この後に、電圧制御26dからVHセンササンプリングタイミング要求信号DSが入力されると、VHセンサデータ更新&2値平均化処理26hでは、平均値(E+F)/2を電圧制御26dに出力する。この平均値(E+F)/2は、前回値であるが、直流高電圧VHの山と谷の中間値であるので、直流高電圧の期待値VHに近い値である。
【0066】
この1モータシステム2(特に、モータECU26での昇圧制御)によれば、第1の実施の形態に係る1モータシステム1と同様の効果を有する。特に、第2の実施の形態に係る1モータシステム2では、AD変換時間がゲート信号GSの切り替え時間よりも短い場合でも、AD変換を中止するとともに直流高電圧VHの平均値VHAの算出も禁止し、昇圧制御には直流高電圧VHの平均値VHAの前回値を用いる。この平均値VHAの前回値も直流高電圧の期待値VHに近い電圧であるので、安定した電圧変換制御を行うことができる。
【0067】
次に、図7及び図8を参照して、第3の実施の形態に係る1モータシステム3について説明する。図7は、第3の実施の形態に係る1モータシステムの構成を示すブロック図である。図8は、第3の実施の形態に係る直流高電圧のサンプリングタイミングの説明図であり、(a)が直流高電圧であり、(b)がインバータ制御でのゲート信号であり、(c)がゲート信号の切り替えタイミングであり、(d)がAD変換器へのAD変換起動信号であり、(e)がAD変換器からのAD変換終了信号であり、(f)がAD変換器によるAD変換値であり、(g)が2値平均化値である。
【0068】
1モータシステム3は、バッテリ10、フィルタコンデンサ11、昇圧コンバータ12、平滑コンデンサ13、インバータ14、モータ15及びモータECU36を備えている。1モータシステム3は、第1の実施の形態に係る1モータシステムと比較すると、モータECU36での制御だけが異なる。モータECU36では、AD変換時間がゲート信号GSのON/OFFの切り替え時間よりも短い場合、AD変換終了直後にAD変換を直ちに開始する。ここでは、モータECU36についてのみ詳細に説明する。
【0069】
モータECU36は、マイクロコンピュータや各種メモリ等からなる電子制御ユニットであり、モータ制御を行う。特に、モータECU36は、インバータ14に対する制御を行うインバータ制御機能(モータ制御36a、ゲート生成36b)と昇圧コンバータ12に対する制御を行う昇圧制御機能(モータ目標電圧算出36c、電圧制御36d、電流制御36e、ゲート生成36f、VHセンササンプリングタイミング発生器&切替時判定器36g、VHセンサデータ更新&2値平均化処理36h)を有している。インバータ制御機能と昇圧制御機能とを同じマイコンで構成してもよいし、別々のマイコンで構成してもよい。なお、第3の実施の形態では、VHセンササンプリングタイミング発生器&切替時判定器36gが特許請求の範囲に記載するサンプリングタイミング発生手段に相当し、電圧制御36dが特許請求の範囲に記載する制御手段に相当し、VHセンサ13a、AD変換器36i及びVHセンサデータ更新&2値平均化処理36hが特許請求の範囲に記載するサンプリング手段に相当し、AD変換器36iが特許請求の範囲に記載するAD変換手段に相当する。
【0070】
なお、モータ制御36a、ゲート生成36b、モータ目標電圧算出36c、電圧制御36d、電流制御36e、ゲート生成36f、VHセンサデータ更新&2値平均化処理36h、AD変換器36jについては、第1の実施の形態に係るモータ制御16a、ゲート生成16b、モータ目標電圧算出16c、電圧制御16d、電流制御16e、ゲート生成16f、VHセンサデータ更新&2値平均化処理16h、AD変換器16jと同様の処理を行うので、説明を省略する。
【0071】
VHセンササンプリングタイミング発生器&切替時判定器36gには、インバータ制御機能のゲート生成36bからゲート信号GSが入力されるとともにAD変換器36iからAD変換終了信号ESが入力される。VHセンササンプリングタイミング発生器&切替時判定器36gでは、VHセンササンプリングタイミングTS(AD変換起動信号)を出力する毎に、そのVHセンササンプリングタイミングTS(AD変換起動信号)に対するAD変換終了信号ESとゲート信号GSの次のON/OFFの切り替えタイミングとに基づいて、AD変換終了信号ESの後にゲート信号GSの次のON/OFFの切り替えタイミングになった場合にはその次のON/OFFの切り替えタイミングに応じてVHセンササンプリングタイミングTS(AD変換起動信号)をAD変換器36iに出力し、AD変換終了信号ESの前にゲート信号GSの次のON/OFFの切り替えタイミングになった場合にはAD変換終了信号ESに応じてVHセンササンプリングタイミングTS(AD変換起動信号)をAD変換器36iに出力する。AD変換器36iでは、VHセンササンプリングタイミング発生器&切替時判定器36gからVHセンササンプリングタイミングTSが入力される毎に、VHセンサ13aで検出されている直流高電圧(アナログ値)VHをAD変換し、AD変換後の直流高電圧(デジタル値)VHをVHセンサデータ更新&2値平均化処理36hに出力する。AD変換器36iでは、AD変換が終了すると、AD変換終了信号ESをVHセンササンプリングタイミング発生器&切替時判定器36gに出力する。特に、AD変換終了信号ESの前にゲート信号GSの次のON/OFFの切り替えタイミングになった場合(AD変換時間よりゲート信号GSの切り替え時間が短い場合)、AD変換器36iでは、AD変換終了直後にAD変換を開始する。
【0072】
ここで、図8を参照して、上記のような昇圧制御機能において、ゲート信号GSの切り替え時間がAD変換時間より長い場合とゲート信号GSの切り替え時間がAD変換時間より短い場合のゲート信号GSの連続するON/OFF切り替えタイミングの直流高電圧VHの平均値VHAの算出過程について説明する。図8(a)には直流高電圧VHを示しており、図8(b)にはゲート信号GSを示しており、図8(c)にはゲート信号GSのON/OFFの切り替えタイミングSTを示しており、図8(a)には切り替えタイミングST,ST,ST,・・・のときの直流高電圧値としてB値,C値,D値,・・・を示している。また、図8(d)には、切り替えタイミングST,ST,ST,・・・に応じてVHセンササンプリングタイミング発生器&切替時判定器36gから出力されるAD変換起動信号SS,SS,SS,・・・を示している。さらに、図8(e)には、AD変換起動信号SS,SS,SS,・・・に応じて行われるAD変換が終了したときにAD変換器36iから出力されるAD変換終了信号ES,ES,ES,・・・を示している。また、図8(f)には、AD変換器36iから出力されてVHセンサデータ更新&2値平均化処理36hで保持されるAD変換後の直流電圧値ADCであるA値,B値,C値,D値,・・・を示している。さらに、図8(g)には、VHセンサデータ更新&2値平均化処理36hで算出され、保持される直流高電圧値の平均値VHAとして(A+B)/2,(B+C)/2,・・・を示している。なお、ゲート信号GSの切り替え時間がAD変換時間より長い場合については、第2の実施の形態での説明と同様なので、説明を省略する。
【0073】
ゲート信号GSの切り替え時間がAD変換時間より短い場合、例えば、ゲート信号GSの切り替えタイミングST,STのときで説明する。VHセンササンプリングタイミング発生器&切替時判定器36gでは切り替えタイミングSTに応じてAD変換起動信号SSを出力し、AD変換器36iではAD変換を開始し、AD変換が終了すると直流高電圧(デジタル値)としてF値をVHセンサデータ更新&2値平均化処理36hに出力するとともにAD変換終了信号ESをVHセンササンプリングタイミング発生器&切替時判定器36gに出力する。この場合、VHセンサデータ更新&2値平均化処理36hでは、F値を保持するとともに、前回保持しているE値と今回のF値を用いて平均値(E+F)/2を算出し、その平均値(E+F)/2を保持する。次に、VHセンササンプリングタイミング発生器&切替時判定器36gでは、AD変換終了信号ESの前に切り替えタイミングSTがきたので、その切り替えタイミングSTに応じたAD変換起動信号の出力を一時待機し、AD変換終了信号ESが入力されるとAD変換起動信号SSを出力する。AD変換器36iでは、AD変換起動信号SSに応じてAD変換を開始し(したがって、AD変換終了直後にAD変換を開始することになる)、AD変換が終了すると直流高電圧(デジタル値)としてG’値をVHセンサデータ更新&2値平均化処理36hに出力するとともにAD変換終了信号ESをVHセンササンプリングタイミング発生器&切替時判定器36gに出力する。このG’値は、直流高電圧VHにおけるゲート信号GSの切り替えタイミングSTのときのG値から少し小さくなるが近い値である。この場合、VHセンサデータ更新&2値平均化処理36hでは、G’値を保持するとともに、前回保持しているF値と今回のG’値を用いて平均値(F+G’)/2を算出し、その平均値(F+G’)/2を保持する。この後に、電圧制御36dからVHセンササンプリングタイミング要求信号DSが入力されると、VHセンサデータ更新&2値平均化処理36hでは、平均値(F+G’)/2を電圧制御36dに出力する。この平均値(F+G’)/2は、G’値が直流高電圧VHの山のときのG値から少し小さいが、直流高電圧の谷のときのF値との平均値なでので、直流高電圧値の期待値に近い値である。
【0074】
この1モータシステム3(特に、モータECU36での昇圧制御)によれば、第1の実施の形態に係る1モータシステム1と同様の効果を有する。特に、第3の実施の形態に係る1モータシステム3では、AD変換時間がゲート信号GSの切り替え時間よりも短い場合でも、AD変換終了直後にAD変換を行い、その直後のAD変換による直流高電圧VHを用いて平均値VHAを算出し、昇圧制御にはその平均値VHAを用いる。このAD変換直後のAD変換による直流高電圧VHを用いた平均値VHAも直流高電圧の期待値に近い電圧であるので、安定した電圧変換制御を行うことができる。
【0075】
以上、本発明に係る実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されることなく様々な形態で実施される。
【0076】
例えば、本実施の形態では1モータシステムの車両に適用したが、1モータシステムの装置や移動体等の様々なものに適用できる。また、モータとしたが、モータジェネレータやジェネレータにも適用できる。
【0077】
また、本実施の形態では昇圧コンバータに対する昇圧制御に適用したが、降圧コンバータに対する降圧制御、昇降圧コンバータに対する昇降圧制御にも適用可能である。
【0078】
また、本実施の形態では昇圧制御に用いる直流高電圧のサンプリングのタイミングについてインバータ制御のゲート信号を利用した3つの方法を示したが、インバータ制御のゲート信号を利用した他の方法でもよい。
【符号の説明】
【0079】
1,2,3…1モータシステム、10…バッテリ、11…フィルタコンデンサ、12…昇圧コンバータ、12a…リアクトル、12b,12c…スイッチング素子、12d,12e…還流ダイオード、12f…ILセンサ、13…平滑コンデンサ、13a…VHセンサ、14…インバータ、15…モータ、16,26,36…モータECU、16a,26a,36a…モータ制御、16b,26b,36b…ゲート生成、16c,26c,36c…モータ目標電圧算出、16d,26d,36d…電圧制御、16e,26e,36e…電流制御、16f,26f,36f…ゲート生成、16g…VHセンササンプリングタイミング発生器、26g,36g…VHセンササンプリングタイミング発生器&切替時判定器、16h,26h,36h…VHセンサデータ更新&2値平均化処理、16i,16j,26i,26j,36i,36j…AD変換器、17…走行制御ECU。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを制御するモータ制御回路と電源との間で前記電源の直流電圧を前記モータの駆動に必要となる入力直流電圧に変換する電圧変換回路に対する電圧変換制御を行うモータ用電圧変換制御装置であって、
前記モータ制御回路と前記電圧変換回路との間に設けられたコンデンサの両端電圧を検出し、前記電圧変換回路で変換された入力直流電圧をサンプリングするサンプリング手段と、
前記モータに対するモータ制御のゲート信号に基づいて前記電圧変換回路で変換された入力直流電圧をサンプリングするサンプリングタイミングを発生するサンプリングタイミング発生手段と、
電圧変換制御のサンプリングタイミング要求毎に前記サンプリングタイミング発生手段で発生したサンプリングタイミングに応じて前記サンプリング手段でサンプリングされた入力直流電圧を用いて電圧変換制御を行う制御手段と、
を備えることを特徴とするモータ用電圧変換制御装置。
【請求項2】
前記サンプリングタイミング発生手段は、前記ゲート信号のONとOFFとの切り替えタイミングに応じてサンプリングタイミングを発生し、
前記サンプリング手段は、前記サンプリングタイミング発生手段でサンプリングタイミングを発生する毎に、今回のサンプリングタイミングに応じて前記電圧変換回路で変換された入力直流電圧と前回のサンプリングタイミングに応じて前記電圧変換回路で変換された入力直流電圧との平均値を算出し、
前記制御手段は、電圧変換制御のサンプリングタイミング要求毎に、該サンプリングタイミング要求直前に前記サンプリング手段で算出されている入力直流電圧の平均値を用いて電圧変換制御を行うことを特徴とする請求項1に記載のモータ用電圧変換制御装置。
【請求項3】
前記サンプリングタイミング発生手段でサンプリングタイミングを発生する毎に、前記電圧変換回路で変換された入力直流電圧をアナログ値からデジタル値に変換するAD変換手段を備え、
前記AD変換手段でのAD変換時間よりも前記ゲート信号のONとOFFとの切り替え時間が短い場合、前記サンプリングタイミング発生手段はサンプリングタイミングの発生を中止し、前記AD変換手段はAD変換を行わないことを特徴とする請求項2に記載のモータ用電圧変換制御装置。
【請求項4】
前記サンプリングタイミング発生手段でサンプリングタイミングを発生する毎に、前記電圧変換回路で変換された入力直流電圧をアナログ値からデジタル値に変換するAD変換手段を備え、
前記AD変換手段でのAD変換時間よりも前記ゲート信号のONとOFFとの切り替え時間が短い場合、前記サンプリングタイミング発生手段は前記AD変換手段でのAD変換終了直後にサンプリングタイミングを発生し、前記AD変換手段はAD変換終了直後にAD変換を開始することを特徴とする請求項2に記載のモータ用電圧変換制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−222984(P2012−222984A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−87267(P2011−87267)
【出願日】平成23年4月11日(2011.4.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】