説明

モータ駆動回路の地絡検出装置

【課題】インバータ回路の下側スイッチング素子に接続されている電流検出用抵抗によって、インバータ回路とモータとの接続ラインが接地される地絡事故の検出を可能にする。
【解決手段】モータ駆動回路は、インバータ回路3の各下側スイッチング素子と接地間に接続された電流検出用抵抗Ru、Rv、Rwと、を備え、電流検出用抵抗により相電流検出行う。さらに、スイッチング素子のオンオフ制御を行うPWM回路2を備え、上側スイッチング素子と下側スイッチング素子とを交互にオンオフすることによりモータに対して駆動電流を流す力行期間と回生電流を流す回生期間とを繰り返す。下側スイッチング素子群と電流検出用抵抗とモータ4とで閉回路を構成し、この回路に回生電流を流す期間において、電流検出回路により検出した電流値が、所定の電流値以上であるときに、インバータ回路3とモータ4との接続ラインが地絡事故を起こしたと判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば車両の電動パワーステアリング装置に用いられるブラシレーモータを駆動するためのインバータ装置において、地絡事故を検出する装置に関し、特に、モータとインバータ装置との接続ラインの地絡事故を検出するモータ駆動回路の地絡検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の電動パワーステアリング装置においては、ハンドルの操舵トルクに応じた操舵補助力をステアリング機構に与えるために、3相ブラシレスモータなどのモータが設けられる。ハンドルに加えられる操舵トルクはトルクセンサで検出され、この検出値に応じてモータに流すべき電流の目標値が算出され、この目標値とモータに実際に流れる電流の値との偏差に基づいて、モータ駆動部へ与えるフィードバック制御のための指令値が算出される。モータ駆動部は、上下一対のスイッチング素子が各相ごとに設けられたインバータ回路と、指令値に応じたデューティ比を持つPWM(Pulse Width Modulation)信号を生成してスイッチング素子のオンオフ期間をスイッチング制御するPWM回路とを備える。インバータ回路は、スイッチング素子のオンオフ動作に基づき、上記デューティ比に応じた各相の電圧を出力し、この電圧によりモータを駆動する。モータの各相の電流は、下側の各スイッチング素子と直列接続された電流検出用抵抗の両端の電圧を測定することにより検出され、この検出値がモータに実際に流れる電流の値となる。このようなPWM方式のモータ駆動装置における相電流の検出に関しては、例えば特許文献1、2に記載されている。また、この電流検出用抵抗を利用して、電流値が予め設定した過電流検出範囲を超えていれば何らかの異常が生じてモータ駆動部に過電流が流れていることを判定する。
【0003】
特許文献1には、3相ブラシレスモータと、このモータを駆動するインバータ回路と、このインバータ回路をPWM制御するPWM回路と、モータに流れる相電流を検出するための電流検出用抵抗とを備えたモータ駆動装置において、各相の電流検出用抵抗における電圧を、PWM回路からのPWM信号をサンプリング信号としてサンプルホールドし、このサンプルホールドした信号を相電流検出信号して出力するサンプルホールド回路を設けた構成が記載されている。
【0004】
特許文献2には、特許文献1の構成に加えて、タイミング信号を発生する回路を設け、この回路からのタイミング信号に基づき、インバータ回路のスイッチング素子がオンしたタイミングから遅れて電流検出用抵抗の両端電圧に対するサンプリングを開始し、インバータ回路のスイッチング素子がオフするタイミングより前に電流検出用抵抗の電圧に対するサンプリングを終了することが記載されている。
【0005】
特許文献3には、下側の各スイッチング素子のグラウンド接続端子を共通に接続し、この接続点とグラウンド間に過電流検出用の第1の電流検出用抵抗を接続するとともに、上側のスイッチング素子の電源接続端子を共通に接続し、この接続点と電源間に第2の電流検出用抵抗を接続した構成が示されている。
【0006】
そして、第2の電流検出用抵抗は、インバータ回路とモータとの接続ラインが地絡事故を起こしたときにその抵抗に過大な地絡電流が流れることを検出し、それにより地絡事故を判定するために設けられる。
【特許文献1】特許第3245727号公報
【特許文献2】特許第3240535号公報
【特許文献3】特開平6−233450号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献3に示される装置では、インバータ回路の過電流の検出と地絡事故とを検出することができるが、上側のスイッチング素子の電源接続端子と電源間に第2の電流検出用抵抗を接続する必要があるため、次のような不都合が生じていた。
【0008】
すなわち、電流検出を行うにはオペアンプ(差動増幅回路)を使用するが、第2の電流検出用抵抗を用いて電流検出を行う場合には、オペアンプへの入力電圧が電源電圧となるために、入力電圧の変動分と入力オフセット電圧の変動分との比(通常はDC変動分)を表す同相信号除去比CMR(Common Mode Rejection Ratio)が高性能なオペアンプを選ぶ必要があり、このために、高コストとなる。また、第1の電流検出用抵抗に加えて第2の電流検出用抵抗を使用することになり、さらに、電流検出用のオペアンプおよびその周辺回路構成素子も増加するために、回路構成が複雑化し、且つ抵抗による発熱量も増大することになるためインバータ回路の効率が悪くなる不都合があった。
【0009】
この発明の目的は、上記第2の電流検出用抵抗を使用せず、インバータ回路とモータとの接続ラインが接地される地絡事故の検出が可能なモータ駆動回路の地絡検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明のモータ駆動回路の地絡検出装置は、上側スイッチング素子群と下側スイッチング素子群とをブリッジ接続し、出力側をモータの各相に接続したインバータ回路と、前記インバータ回路の各下側スイッチング素子と接地間に接続された電流検出用抵抗とを備えている。インバータ回路の各下側スイッチング素子と接地間に電流検出用抵抗を接続することにより、相電流制御を行う。インバータ回路はPWM回路で構成されるスイッチング制御回路により制御される。
【0011】
すなわち、スイッチング制御回路は、電源から前記インバータ回路の上側スイッチング素子とモータと下側スイッチング素子とに電流を流すことによりモータに対する力行を行う第1の力行期間と、下側スイッチング素子群と電流検出用抵抗とモータとで閉回路を構成し、この回路に回生電流を流す第1の回生期間と、電源から前記インバータ回路の上側スイッチング素子とモータと下側スイッチング素子とに電流を流すことによりモータに対する力行を行う第2の力行期間と、上側スイッチング素子群とモータとで閉回路を構成し、この回路に回生電流を流す第2の回生期間と、を繰り返し、各期間をスイッチング制御する。
【0012】
相電流を増やそうとするときには、1サイクル当たりの力行期間が長くなり回生期間が短くなる。相電流を減らそうとするときには、反対に、1サイクル当たりの力行期間が短くなり回生期間が長くなる。
【0013】
電流検出用抵抗は、その両端が電流検出回路に接続され、スイッチング制御時に前記電流検出用抵抗を流れる電流値を、その抵抗両端に生じる電圧により検出する。この電流検出回路はオペアンプ(差動増幅回路)で構成することができる。
この発明においては、前記電流検出回路により前記第1の回生期間で検出した電流値が、所定の電流値以上であるときに、前記インバータ回路とモータとの接続ラインが地絡事故を起こしたと判定する。
【0014】
スイッチング制御回路においては、上述のように第1の力行期間において電源からモータに力行電流を流し、その直後の第1の回生期間において、下側スイッチング素子群と電流検出用抵抗とモータとで閉回路を構成し、この閉回路内に回生電流(誘導電流)を流す。そこで、もし、インバータ回路とモータとの接続ラインが地絡事故を起こすと、第1の力行期間において、電源から上側のスイッチング素子を介して地絡電流が流れる。このときの地絡電流は大電流であるため、インバータ回路から地絡事故点までのインダクタンス分布(寄生インダクタンス)に相当の電流エネルギーが蓄積される。次の瞬間の第1の回生期間では、この蓄積された電流エネルギーが、上記閉回路を構成している下側のスイッチング素子と同素子に接続されている電流検出用抵抗とグラウンドを介して流れることになる。この発明では、この挙動を利用して、第1の回生期間に検出した電流値が所定の電流値以上であるときに、地絡事故を起こしたと判定する。
【0015】
このように、この発明は、第1の期間にインバータ回路から地絡事故点までのインダクタンス分布(寄生インダクタンス)に蓄積された電流エネルギーを第1の回生期間に電流検出用抵抗を使用して検出するために、特許文献3に示されるような地絡事故検出用の第2の電流検出用抵抗を設けなくてもよい。このため、回路構成が複雑化することなく、且つ効率を低下させることなく地絡事故の検出ができる。
【発明の効果】
【0016】
この発明によれば、インバータ回路の効率を低下させることなく、簡易な回路構成で地絡事故の検出を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1は、この発明が適用される電動パワーステアリング装置の概略構成を示す図である。
【0018】
この電動パワーステアリング装置は、操舵のためのハンドル100と、ハンドル100に一端が固定されているステアリングシャフト101と、ステアリングシャフト101の他端に連結されたラックピニオン機構102と、前記ステアリングシャフト101途中に設けられ、ハンドル100の操作によりステアリングシャフト101に加えられる操舵トルクを検出するトルクセンサ103と、3相ブラシレスモータ(以下、モータ)104の回転駆動力を操舵アシスト力(操舵補助力)としてステアリングシャフト101に対し与えるウォームホイール機構105とを備えている。
【0019】
車両の電子制御ユニット(ECU)106には、前記トルクセンサ103、モータ104、及び車速センサ107が接続され、ECU106は、トルクセンサ103、車速センサ107の検出信号に基づいてモータ104の駆動電流を制御する。このECU106は、モータ駆動部Pを含み、モータ104の駆動電圧を形成するモータ駆動電圧形成機能とを備えている。
【0020】
なお、ステアリンクギアボックス102にはタイロッド108が連結され、その両端には車輪(図示しない)に連結するためのタイロッドエンド109、110が設けられている。
【0021】
以上の構成で、ECU106は、ハンドル100により操舵されたときのトルクセンサ103から得られる操舵トルクの検出信号、及び車速センサ107から得られる車速の検出信号に基づいて、予め設定されているテーブルを参照して、該検出信号に対応したモータ駆動電圧をモータ104に印加する。より詳細には、上記テーブルを参照してモータ104に流すべき相電流を目標値を算出し、この目標値とモータ104に実際に流れる電流との偏差に基づいてインバータ回路を駆動するPWM信号(モータ駆動電圧)を生成する。
【0022】
これにより、モータ104によりステアリングシャフト101に対して操舵アシスト力が与えられることになる。
なお、本実施形態では、操舵トルクと車速に基づいてモータ駆動電圧をモータ104に印加するようにしているが、操舵トルクは車速に相関するために、簡易的に、操舵トルクだけに基づいてモータ駆動電圧を形成するようにしても良い。
【0023】
図2は、モータ駆動回路の構成図である。
【0024】
1はCPUやメモリから構成される制御部、2は制御部1からの電圧指令信号に基づいて所定のデューティ比を持ったPWM信号を出力し、スイッチング素子Q1〜Q6をスイッチング制御する公知のPWM回路(スイッチング制御回路)、3はPWM回路2からのPWM信号に基づいてモータ駆動用の3相電圧(U相電圧、V相電圧、W相電圧)を出力するインバータ回路、4はインバータ回路3の出力側に接続され、同インバータ回路3から出力される3相電圧により駆動されるモータ(3相ブラシレスモータ)、4u、4v、4wはモータ4の巻線、5u、5v、5wは相電流検出用の電圧を所定区間にわたってサンプリングし、サンプルホールドするサンプルホールド回路、6u、6v、6wはサンプルホールド回路5u、5v、5wの出力を増幅する直流増幅回路である。制御部1、PWM回路2、インバータ回路3およびサンプルホールド回路5u、5v、5wによって、モータ駆動回路Pが構成される。
【0025】
インバータ回路3は、バッテリEの正極と負極(グラウンド)との間に接続されており、バッテリEの直流電圧を交流電圧に変換する。このインバータ回路3は公知の回路であって、U相、V相、W相のそれぞれに対応して設けられた上下一対のアームを備え、各アームは、スイッチング素子Q1〜Q6と、これらのスイッチング素子とそれぞれ並列に接続された還流用のダイオードD1〜D6とを備えている。スイッチング素子Q1〜Q6はMOS型FET(電界効果トランジスタ)から構成されるが、これに代えてIGBT(絶縁ゲート型バイポーラモードトランジスタ)などの素子を用いてもよい。各スイッチング素子Q1〜Q6のそれぞれのゲートには、PWM回路2から6種類(U相上、U相下、V相上、V相下、W相上、W相下)のPWM信号が個別に与えられる。PWM信号のオン(High)の区間では、スイッチング素子Q1〜Q6はオン(導通状態)となり、PWM信号のオフ(Low)の区間では、スイッチング素子Q1〜Q6はオフ(遮断状態)となる。
【0026】
このようなスイッチング素子Q1〜Q6のオンオフ動作によって、インバータ回路3における各相の上下アームの接続点a、c、eから、モータ駆動用のU相電圧、V相電圧、W相電圧が取り出され、モータ4に供給される。すなわち、スイッチング素子Q1、Q2の接続点aからは、U相電圧が取り出され、モータ4のU相巻線4uに与えられる。スイッチング素子Q3、Q4の接続点cからは、V相電圧が取り出され、モータ4のV相巻線4vに与えられる。スイッチング素子Q5、Q6の接続点eからは、W相電圧が取り出され、モータ4のW相巻線4wに与えられる。
【0027】
インバータ回路3における各相の下アームには、正常動作時(定常状態時)においてモータ4の相電流を検出するための電流検出用抵抗Ru、Rv、Rwが設けられている。電流検出用抵抗Ruはスイッチング素子Q1、Q2と直列に接続され、この抵抗Ruの両端に生じる電圧(b点の電位)はサンプルホールド回路5uに入力される。電流検出用抵抗Rvはスイッチング素子Q3、Q4と直列に接続され、この抵抗Rvの両端に生じる電圧(d点の電位)はサンプルホールド回路5vに入力される。電流検出用抵抗Rwはスイッチング素子Q5、Q6と直列に接続され、この抵抗Rwの両端に生じる電圧(f点の電位)はサンプルホールド回路5wに入力される。
【0028】
サンプルホールド回路5u、5v、5wは、それぞれ、スイッチSu、Sv、Swと、コンデンサCu、Cv、Cwと、差動アンプAu、Av、Awとを備えている。インバータ回路3の電流検出用抵抗Ru、Rv、Rwに電流が流れ、抵抗の両端に検出すべき電圧が発生しているときに、スイッチSu、Sv、Swは制御部1からのサンプリング信号SPu、SPv、SPwによってオンとなり、検出すべき電圧は、スイッチSu、Sv、Swのオンによって、コンデンサCu、Cv、Cwに充電される形でサンプリングされる。その後、電流検出用抵抗Ru、Rv、Rwに電流が流れなくなり、サンプリングされた電圧を保持する必要が生じると、スイッチSu、Sv、Swはオフとなり、コンデンサCu、Cv、Cwに充電された電圧が保持される。このようにしてサンプルホールドされた電圧は、直流増幅回路6u、6v、6wで増幅されて電流検出信号Iu、Iv、Iwとして出力される。これらの電流検出信号Iu、Iv、Iwは、正常動作時においてモータ4の各相に流れる実際の電流の値を表しており、相電流検出値として制御部1に与えられる。
【0029】
制御部1では、トルクセンサ(図示省略)で検出されたトルク値と、車速センサ(図示省略)で検出された車速値とに基づいて、モータ4の各相に流すべき電流、すなわち必要な操舵補助力を得るためのモータ電流の目標値を算出し、当該目標値と電流検出値Iu、Iv、Iwとを比較して、それらの偏差を求める。そして、得られた偏差に基づいて、PWM回路2に与える各相の指令電圧Vu、Vv、Vwを演算する。この指令電圧は、モータ4の各相巻線4u、4v、4wに目標値の電流が流れるようにフィードバック制御を行うためのパラメータである。PWM回路2は、指令電圧Vu、Vv、Vwに応じたU相電圧、V相電圧、W相電圧がモータ4へ供給されるように、指令電圧に基づいて所定のデューティ比を持った前述の6種類のPWM信号を生成し、それらをインバータ回路3のス
イッチング素子Q1〜Q6へそれぞれ供給する。
【0030】
インバータ回路3は、通常は、オン時(第1の力行期間)において、バッテリEから上アームのスイッチング素子→モータ4→下アームのスイッチング素子の経路で電流を流し、その直後のオフ時(第1の回生期間)に下側スイッチング素子群と電流検出用抵抗とモータとで閉回路を構成し、この回路に回生電流(誘導電流)を流す。これらの第1の力行期間と第1の回生期間を形成するパルス信号は、PWM回路2においてPWM信号として出力される。
【0031】
図3は、上アームのスイッチング素子Q1と下アームのスイッチング素子Q4がオンして、バッテリEからモータ4に電流が流れる第1の力行期間を示している。この第1の力行期間の挙動をパターンAと称する。
図3では、スイッチング素子Q1〜Q4のオン/オフ状態を実線と破線で表している。実線で描かれているスイッチング素子Q1、Q4はオン状態にあり、破線で描かれているスイッチング素子Q2、Q3はオフ状態にある。後述の図4、図5においても同様である。このパターンAは、1つの相(U相)における上アームのスイッチング素子(Q1)がオン、下アームのスイッチング素子(Q2)がオフであり、他の相(V相)における上アームのスイッチング素子(Q3)がオフ、下アームのスイッチング素子(Q4)がオンとなるパターンである。なお、図3では簡単のためにW相を省略してあるが、U相とW相、およびV相とW相についても、U相とV相と同様の関係が成立する。後述する他のパターンについても同様である。図3では、U相上のスイッチング素子Q1がオンで、V相下のスイッチング素子Q4がオンとなるので、電源Eの直流電圧に基づき、太矢印で示すように、バッテリE→スイッチング素子Q1→モータ4のU相巻線4u→V相巻線4v→スイッチング素子Q4→相電流検出抵抗Rvの経路で相電流Iが流れる。
【0032】
図4は、図3の状態から第1の回生期間に遷移し、上アームのスイッチング素子Q1がオフして、下アームのスイッチング素子Q2がオンしたときの状態を示している。この第2の期間の挙動をパターンBと称する。
このパターンBは、1つの相(U相)における上アームのスイッチング素子(Q1)がオフ、下アームのスイッチング素子(Q2)がオンであり、他の相(V相)においても上アームのスイッチング素子(Q3)がオフ、下アームのスイッチング素子(Q4)がオンとなるパターンである。図4では、U相下のスイッチング素子Q2がオンで、V相下のスイッチング素子Q4がオンとなるので、モータ4の巻線4u、4vに蓄えられた電気エネルギーに基づき、太矢印で示すように、U相巻線4u→V相巻線4v→スイッチング素子Q4→相電流検出抵抗Rv→相電流検出抵抗Ru→スイッチング素子Q2→U相巻線4uの経路で相電流Iが流れる。この相電流Iは、巻線4u、4vに蓄えられた電気エネルギーに基づく回生電流(誘導電流)である。
【0033】
図4のパターンBからは、再びモータ4への力行期間となる。この期間は第2の力行期間である。第2の力行期間では、図3に示す上下スイッチング素子とは異なる上下スイッチング素子をオンすることによりモータ4に対して電流が供給される。
【0034】
第2の力行期間を終えると、続いて、第2の回生期間に遷移する。図5は、上記第2の力行期間から第2の回生期間に遷移し、上アームのスイッチング素子Q1、Q3がオンしたときの状態を示している。この第2の力行期間の挙動をパターンCと称する。
【0035】
このパターンCは、1つの相(U相)における上アームのスイッチング素子(Q1)がオン、下アームのスイッチング素子(Q2)がオフであり、他の相(V相)においても上アームのスイッチング素子(Q3)がオン、下アームのスイッチング素子(Q4)がオフとなるパターンである。図5では、U相上のスイッチング素子Q1がオンで、V相上のスイッチング素子Q3がオンとなるので、モータ4の巻線4u、4vに蓄えられた電気エネルギーに基づき、太矢印で示すように、U相巻線4u→V相巻線4v→スイッチング素子Q3→スイッチング素子Q1→U相巻線4uの経路で相電流Iが流れる。この相電流Iは、巻線4u、4vに蓄えられた電気エネルギーに基づく回生電流(誘導電流)である。
【0036】
上記第1の力行期間(パターンA)→第1の回生期間(パターンB)→第2の力行期間(パターンA)→第2の回生期間(パターンC)などのように、いずれかの状態を他の状態に遷移させることにより、モータ4の電流制御を行う。
【0037】
上記パターンA〜Cのデューティ比の制御により、電流検出用抵抗Ru、Rv に流れる相電流が検出され、その検出値が目標値になるように制御されることでモータ4の回転角の制御が行われる。
【0038】
また、インバータ回路3の故障などによりインバータ回路内に過電流が流れたときには、この電流検出用抵抗Ru、Rvに流れる電流値を検出して過電流状態を検出する。このとき、図示しない保護回路を差動させてインバータ回路を保護する。
【0039】
インバータ回路3のスイッチング制御においては、モータの各巻線に対して各巻線に交互に上記のパターンA〜Cが実行されるため、例えば、巻線4v、4wに対しては、図6、図7のようなスイッチング制御が行われる。このうち、図6は、パターンAを示しており、図7はパターンBを示している。これを繰り返しながら、モータ制御と過電流検出を行っていく。
【0040】
次に、地絡事故が生じたときの動作を説明する。
【0041】
今、巻線4v、4wに対して制御を行っているときにその電流経路中に地絡事故が生じたときを考える。この場合の地絡事故は、インバータ回路3の出力点であるe点とモータ4の巻線4vとの接続ライン中のx点が地絡する事故である。この地絡事故が発生すると、パターンAの動作を行うときに、図8のようにx点で地絡となり、バッテリE、スイッチング素子Q5を介して、グラウンドに地絡電流Ioが流れる。しかし、e点とx点の間にはインダクタンス成分(寄生インダクタンス)Lが存在するために、このインダクタンス成分Lに地絡電流エネルギーが蓄積される。すると、次の瞬間のパターンBになると、図9に示すように、上記地絡電流エネルギーが、スイッチング素子Q6、電流検出用抵抗Rw、グラウンド間(接地間)の閉回路を介して、放出され、電流Io′が流れる。そして、直前の地絡電流Ioが相当に大きいために、この時の電流Io′は、上記過電流として検出される電流値を大きく超える。そこで、本実施形態のモータ駆動装置では、電流検出用抵抗Rwに流れる電流が過電流として検出される電流値を大きく超える電流であると、インバータ回路3の出力点であるe点とモータ4の巻線4wとの接続ライン中に地絡事故が発生したと判断する。
【0042】
他の相(U相、W相)の接続ラインが地絡を起こした場合も同様な動作により地絡検出が可能である。
【0043】
このように、地絡事故が発生したときは、パターンAのときに寄生インダクタンスに大きなエネルギーが蓄積されるため、これを利用して、次の瞬間のパターンBのときに地絡事故を検出する。このため、正常動作時に電流検出を行うために使用される、又はインバータ回路内の過電流を検出するために使用される電流検出使用抵抗Ru、Rv、Rwを使用して該地絡事故を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】この発明が適用される電動パワーステアリング装置の概略構成を示す図
【図2】モータ駆動回路の構成図
【図3】パターンAのときの電流経路を示す図
【図4】パターンBのときの電流経路を示す図
【図5】パターンCのときの電流経路を示す図
【図6】巻線4v、4wに対するパターンAのときの電流経路を示す図
【図7】巻線4v、4wに対するパターンBのときの電流経路を示す図
【図8】巻線4v、4wに対するパターンAのときの地絡事故発生時の電流経路を示す図
【図9】巻線4v、4wに対するパターンBのときの地絡事故発生時の電流経路を示す図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上側スイッチング素子群と下側スイッチング素子群とをブリッジ接続し、出力側をモータの各相に接続したインバータ回路と、
前記インバータ回路の各下側スイッチング素子と接地間に接続された電流検出用抵抗と、
電源から前記インバータ回路の上側スイッチング素子とモータと下側スイッチング素子とに電流を流すことによりモータに対する力行を行う第1の力行期間と、下側スイッチング素子群と電流検出用抵抗とモータとで閉回路を構成し、この回路に回生電流を流す第1の回生期間と、電源から前記インバータ回路の上側スイッチング素子とモータと下側スイッチング素子とに電流を流すことによりモータに対する力行を行う第2の力行期間と、上側スイッチング素子群とモータとで閉回路を構成し、この回路に回生電流を流す第2の回生期間と、を繰り返し、各期間をスイッチング制御するスイッチング制御回路と、
前記スイッチング制御時に前記電流検出用抵抗を流れる電流値を検出する電流検出回路と、を備えるモータ駆動回路の地絡検出装置において、
前記電流検出回路により前記第1の回生期間で検出した電流値が、所定の電流値以上であるときに、前記インバータ回路とモータとの接続ラインが地絡事故を起こしたと判定することを特徴とするモータ駆動回路の地絡検出装置。
【請求項2】
前記スイッチング制御回路は、前記電流検出回路により正常動作時のときの前記第1の力行期間、前記第1の回生期間、又は前記第2の力行期間で検出した電流値に基づいて、前記スイッチング制御を行う、請求項1記載のモータ駆動回路の地絡検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−244133(P2007−244133A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−64675(P2006−64675)
【出願日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】