説明

ラジアル転がり軸受

【課題】簡単な構成で、高速回転時に各転動体に加わる遠心力に拘らず、各転動体の公転運動が確実に行われる様にして、これら各転動体の転動面と内輪軌道とに、スミアリング或いはスキッディングと呼ばれる損傷が発生する事を防止できる構造を実現する。
【解決手段】保持器15aの軸方向端縁に、この保持器15aの回転方向前方に向かう程浅くなる方向に傾斜した動圧溝19、19を設ける。運転時に上記保持器15aの端縁に、潤滑油を含む冷媒等の流体を衝突させ、この保持器15aに、上記各転動体の公転方向のトルクを付与する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えばスクロール型コンプレッサの回転軸の如く、高速で回転する回転軸を、ハウジング等の固定の部分に支持する為の、ラジアル転がり軸受の改良に関する。具体的には、簡単な構成で、高速回転時に各転動体に加わる遠心力に拘らず、これら各転動体の公転運動が確実に行われる様にして、これら各転動体の転動面と内輪軌道とに、スミアリング或いはスキッディングと呼ばれる損傷が発生する事を防止できる構造を実現するものである。
【背景技術】
【0002】
空調機等を構成する蒸気圧縮式冷凍機に組み込まれるコンプレッサとして、例えば特許文献1〜3に記載された様な、スクロール型コンプレッサが広く知られている。図6は、このうちの特許文献2に記載された構造を示している。電動機1により回転駆動されて冷媒圧縮部2の可動スクロール3を偏心運動させる回転軸4は、上端部をラジアル転がり軸受5により、下端部を支持フレーム23により、ケース22内に、回転自在に支持している。上記電動機1への通電に基づいて上記回転軸4を回転させると、上記冷媒圧縮部2が、吸入管6から吸入した冷媒を圧縮し、吐出管7から吐出する。この冷媒圧縮部2が圧縮した、潤滑油を含む高圧の冷媒の一部は、上記回転軸4の中心部に設けた補助吐出孔8を通じて上記ラジアル転がり軸受5の上方に送り出し、軸受カバー9で跳ね返して、このラジアル転がり軸受5を通過させる。そして、上記高圧の冷媒に含まれる潤滑油により、このラジアル転がり軸受5を潤滑する。
【0003】
このラジアル転がり軸受5の運転速度は相当に高くなる場合があり、この場合には、このラジアル転がり軸受5を構成する各転動体10、10に加わる遠心力も大きくなる。そして、この遠心力に基づいて、これら各転動体10、10が、外輪11の内周面の外輪軌道12に、強く押し付けられた状態となる。この状態では、上記各転動体10、10の転動面と、内輪13の外周面の内輪軌道14との当接圧が低下乃至は喪失し、上記回転軸4の回転に伴うこの内輪13の回転速度に見合う程の速度で、上記各転動体10、10が転動(自転及び公転)する事がなくなる。言い換えれば、上記内輪13の回転速度に比べて、上記各転動体10、10の自転速度及び公転速度が遅くなる。この状態では、これら各転動体10、10の転動面と上記内輪軌道14との接触部で、滑り摩擦の割合が多くなり、この接触部に、スミアリング或いはスキッディングと呼ばれる損傷が発生し易くなる。
【0004】
この様な原因でのスミアリング或いはスキッディングの発生を防止する為の技術として従来から、特許文献4に記載された構造が知られている。この特許文献4に記載された従来技術は、円筒ころ軸受に関してスミアリング或いはスキッディングを抑えるもので、この円筒ころ軸受の外輪軌道の形状を非円形とし、一部のころに予圧を付与する事で公転滑りを小さくする。又、特許文献5に記載された従来技術の場合、図7に示す様に、保持器15の軸方向端面に形成した凹溝16、16にノズル17から流体を、斜め方向に吹き付けて上記保持器15を回転させる事により公転滑りを抑え、上記スミアリング或いはスキッディングを抑える。
【0005】
上述の様な特許文献4に記載された従来技術の場合、スクロール型コンプレッサの回転軸の支持部の如く、高速回転する部分に使用すると、異常発熱により焼き付き等のより重大な損傷の原因となる為、採用できない場合が多い。又、特許文献5に記載された従来技術の場合、保持器を回転駆動する為の流体を斜め方向に噴出する為のノズルが必要になる。流体を斜め方向に噴出するノズルは、噴出角度や噴出速度の調整が難しく、コストが嵩み易い。
【0006】
【特許文献1】特開平5−1680号公報
【特許文献2】特開平5−1690号公報
【特許文献3】特開2002−339975号公報
【特許文献4】特開2001−193744号公報
【特許文献5】特開2006−90461号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、簡単な構成で、高速回転時に各転動体に加わる遠心力に拘らず、各転動体の公転運動が確実に行われる様にして、これら各転動体の転動面と内輪軌道とに、スミアリング或いはスキッディングと呼ばれる損傷が発生する事を防止できる構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のラジアル転がり軸受は、内周面に外輪軌道を設けた外輪と、外周面に内輪軌道を設けた内輪と、これら外輪軌道と内輪軌道との間に転動自在に設けられた複数個の転動体と、これら各転動体を転動自在に保持した状態で上記外輪の内周面と上記内輪の外周面との間に配置された、円環状の保持器とを備える。そして、これら外輪の内周面と内輪の外周面との間に流体を、これら外輪及び内輪の軸方向に流通させる状態で使用される。
特に、本発明のラジアル転がり軸受に於いては、上記保持器の軸方向両端縁のうち、少なくとも上記流体の流通方向に関して上流側の端縁に、この保持器の回転方向前方に向かう程浅くなる方向に傾斜した溝を設けている。
【発明の効果】
【0009】
上述の様に構成する本発明のラジアル転がり軸受の場合、外輪の内周面と内輪の外周面との間に、これら外輪及び内輪の軸方向に流通する流体が、保持器端縁の溝に衝突する事で、この保持器に回転方向の力が加わる。この結果、この保持器に保持された各転動体の公転運動が促進され、これら各転動体の転動面と内輪軌道との接触部に、大きな滑りが発生する事がなくなり、これら各転動体の転動面と内輪軌道とに、スミアリング或いはスキッディングと呼ばれる損傷が発生する事を防止できる。
上記外輪の内周面と内輪の外周面との間に流体を、これら外輪及び内輪の軸方向に流通させる為には、ノズルを設ける必要がないか、設ける場合でも、流体を軸方向に噴出する為の簡単なもので済む為、簡単な構成で、上記損傷防止を図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
[実施の形態の第1例]
図1〜2は、本発明の実施の形態の第1例を示している。本例のラジアル転がり軸受5aは、外輪11aと、内輪13aと、複数個の転動体10と、保持器15aとを備える。このうちの外輪11aは、内周面にアンギュラ型の外輪軌道12aを設けている。又、上記内輪13aは、外周面に深溝型の内輪軌道14aを設けている。又、上記各転動体10は、この内輪軌道14aと上記外輪軌道12aとの間に、転動自在に設けられている。又、上記保持器15aは、円環状のもみ抜き保持器で、上記外輪11aの内周面と上記内輪13aの外周面との間に、これら外輪11a及び内輪13aと同心に配置されている。上記保持器15aには、それぞれが円形である複数のポケット18、18を、円周方向に関して等間隔に配置しており、これら各ポケット18、18内に上記各転動体10を、転動自在に保持している。
【0011】
更に、上記保持器15aの軸方向両端縁に、径方向から見た形状がくさび形の溝19、19を、両端縁毎に複数ずつ設けている。同じ端縁に形成した溝19、19の底面20、20は、円周方向に関して同じ方向に向かう程浅くなる方向に傾斜している。又、本例の場合には、一方の端縁に形成した溝19、19の底面20、20の傾斜方向と、他方の端縁に形成した溝19、19の底面20、20の傾斜方向とは、互いに逆にしている。この様な保持器15aを組み込んだラジアル転がり軸受5aの使用時に、上記外輪11aの内周面と上記内輪13aの外周面との間の空間21内に、潤滑油或いは潤滑油を含んだ冷媒等の流体を、ノズル17aにより送り込み、この流体を上記空間21の軸方向に流通させる。
【0012】
上述の様な本例のラジアル転がり軸受5aを組み込んだコンプレッサ等の運転時には、上記ノズル17aから上記空間21内に送り込まれた流体が、上記保持器15aの両端縁のうち、この流体の流通方向上流側端縁の溝19、19の底面20、20に、図2に矢印で示す様に、次々に衝突する。この流体は、上記保持器15aの軸方向に流れるが、上記各溝19、19の底面20、20は傾斜している為、上記流体の動圧に基づいて上記保持器15aに、上記各溝19、19が浅くなっている方向(図2の下向き)のトルクが加わる。この結果、上記保持器15aに保持された上記各転動体10の公転運動が促進され、これら各転動体10の転動面と前記内輪軌道14aとの接触部に、大きな滑りが発生する事がなくなり、これら各転動体10の転動面とこの内輪軌道14aとに、スミアリング或いはスキッディングと呼ばれる損傷が発生する事を防止できる。上記空間21に流体を流通させる為のノズル17aは、この流体を軸方向に噴出する為の簡単なもので済む為、簡単な構成で、上記損傷防止を図れる。
【0013】
[実施の形態の第2例]
図3は、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例は、前述の図6に示した、回転軸4の上端部をケース22内に回転自在に支持する為のラジアル転がり軸受5に本発明を適用する場合に就いて示している。前述した通りこのラジアル転がり軸受5内には、スクロール型コンプレッサの運転時に潤滑油を含む冷媒が、軸方向に流通(上方から下方に流下)する。本例の場合には、この潤滑油を含む冷媒により保持器15aに、各転動体の公転方向のトルクを付与すべく、この保持器15aの端縁を、上記潤滑油を含む冷媒の流れに対向させている。
【0014】
[実施の形態の第3例]
図4は、本発明の実施の形態の第3例を示している。本例の場合には、保持器15bの軸方向両端縁に形成した溝19a、19aの底面20a、20aの傾斜方向を、上述した第1〜2例と逆にして、流体の流れに伴って上記保持器15bに加わる回転トルクの方向を、これら第1〜2例と逆にしている。
【0015】
[実施の形態の第4例]
図5は、本発明の実施の形態の第4例を示している。本例の場合には、保持器15cの軸方向両端縁に形成した溝19、19aの底面20、20aの傾斜方向を、円周方向に関して互いに同じとしている。従って、流体の流れ方向を同じとした場合、上記保持器15cの組み付け方向に応じて、この保持器15cに加わる回転トルクの方向が逆になる。即ち、上述した第1〜3例の場合には、組み付け作業性の向上を主眼として、保持器15〜15bの組み付け方向に拘らず、この保持器15〜15bに加わる回転トルクの方向が同じになる様にしている。これに対して本例の場合には、部品製作、部品管理の容易化を主眼として、同種の保持器15cの組み付け方向を変える事により、この保持器15cに加わる回転トルクの方向を変えられる様にしている。
【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明は、スクロール型コンプレッサに限らず、高速で回転する回転軸を有する各種回転機械装置に組み込まれるラジアル転がり軸受に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を示す部分断面図。
【図2】保持器を取り出して径方向から見た図。
【図3】本発明の実施の形態の第2例を示す、図2と同様の図。
【図4】同第3例を示す、図2と同様の図。
【図5】同第4例を示す、図2と同様の図。
【図6】本発明の対象となるラジアル転がり軸受を組み込んだスクロール型コンプレッサの1例を示す断面図。
【図7】従来構造の1例を示す、図2と同様の図。
【符号の説明】
【0018】
1 電動機
2 冷媒圧縮部
3 可動スクロール
4 回転軸
5、5a ラジアル転がり軸受
6 吸入管
7 吐出管
8 補助吐出孔
9 軸受カバー
10 転動体
11、11a 外輪
12、12a 外輪軌道
13、13a 内輪
14、14a 内輪軌道
15、15a、15b、15c 保持器
16 凹溝
17、17a ノズル
18 ポケット
19、19a 溝
20、20a 底面
21 空間
22 ケース
23 支持フレーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に外輪軌道を設けた外輪と、外周面に内輪軌道を設けた内輪と、これら外輪軌道と内輪軌道との間に転動自在に設けられた複数個の転動体と、これら各転動体を転動自在に保持した状態で上記外輪の内周面と上記内輪の外周面との間に配置された、円環状の保持器とを備え、これら外輪の内周面と内輪の外周面との間に流体を、これら外輪及び内輪の軸方向に流通させる状態で使用されるラジアル転がり軸受に於いて、上記保持器の軸方向両端縁のうち、少なくとも上記流体の流通方向に関して上流側の端縁に、この保持器の回転方向前方に向かう程浅くなる方向に傾斜した溝を設けた事を特徴とするラジアル転がり軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−127650(P2009−127650A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−300076(P2007−300076)
【出願日】平成19年11月20日(2007.11.20)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】