レンジ検出装置
【課題】スライド面を水平に設置する場合、部品点数を増加することなく、スライダ摺動時のがたつきを抑制し、位置検出精度を向上するレンジ検出装置を提供する。
【解決手段】スライダ本体29の摺動を案内する案内部は、スライダ本体29に形成される嵌合縁部27、及び、スライダレール31に形成され、嵌合縁部27が嵌合する案内溝37を有する。嵌合縁部27の縁下面27d、及び、縁下面27dに接するスライダレール31の案内溝37の溝下壁37dは、スライダ本体29の移動方向に直交する方向にかつスライダ本体29から嵌合縁部27に向かう方向に傾斜して設けられる。これにより、スライダ21の重力Wと傾斜の勾配角度θとに基づく横力Fsの作用によって、スライダ21は摺動時のがたつきが抑制され、常に、摺動方向の同一の直線上を摺動するため、レンジ検出装置の位置検出精度が向上する。
【解決手段】スライダ本体29の摺動を案内する案内部は、スライダ本体29に形成される嵌合縁部27、及び、スライダレール31に形成され、嵌合縁部27が嵌合する案内溝37を有する。嵌合縁部27の縁下面27d、及び、縁下面27dに接するスライダレール31の案内溝37の溝下壁37dは、スライダ本体29の移動方向に直交する方向にかつスライダ本体29から嵌合縁部27に向かう方向に傾斜して設けられる。これにより、スライダ21の重力Wと傾斜の勾配角度θとに基づく横力Fsの作用によって、スライダ21は摺動時のがたつきが抑制され、常に、摺動方向の同一の直線上を摺動するため、レンジ検出装置の位置検出精度が向上する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動変速機のレンジ検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に参照されるように、自動変速機のシフトレンジを検出するためのレンジ検出装置が知られている。ここで、自動変速機は、自動車等の車両に搭載され、自動変速機ケースとオイルパンとによって構成されている。オイルパンは内部に作動油を蓄えている。またオイルパン内には油圧制御装置およびレンジ検出装置が収容されている。レンジ検出装置は、各レンジの選択を検出する。
【0003】
図10に従来技術のレンジ検出装置としてのインヒビタスイッチ20を示す。ここで図10の上下方向は現実の天地方向を示している。すなわち、インヒビタスイッチ20は、スライド面が垂直に設置されている。
インヒビタスイッチ20は、スライダ71とスライダレール81とから構成される。スライダ71は上下に嵌合縁部75、76を有する。嵌合縁部75、76は、それぞれスライダレール81の案内溝85、86に係合している。
【0004】
図10のR部拡大図を図11(a)に、S部拡大図を図11(b)に示す。スライダ71の重力Wにより、下側の縁端面76bは溝底壁86bに接する。このとき、下側の側面76aと内壁86aとの間、上側の側面75aと内壁85aとの間、及び、上側の縁端面75bと溝底壁85bとの間にはクリアランスが有る。
スライダ71は、縁端面76bと溝底壁86bとが接触しながら図の前後方向に摺動する。すなわち、重力Wが常に下向きに作用するため、クリアランスは常に上側に存在する。したがって、スライダ71の摺動時に、クリアランスによる「がたつき」は生じない。
【0005】
特許文献2には、スイッチケースに対するスライダのスライドにより検出信号を出力あるいは出力解除するパーキングレンジ検出装置が開示されている。このパーキングレンジ検出装置では、スライダが、スプリングの弾性によりスイッチケースの内壁に押し付けられてがたつかないようにされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−68535号公報
【特許文献2】特開平6−191311号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところでインヒビタスイッチ20の搭載上の制約条件によっては、スライド面を垂直に設置できず、水平に設置せざるをえない場合がある。その場合、スライダ71の重力Wが縁端面に作用しないため、クリアランスの位置が一定に定まらない。自動変速機では一般に位置検出の要求精度が高いため、スライダ71の摺動時に少しでもがたつきがあると、位置検出精度に影響が生ずる。そのため、スライド面を水平に設置する場合には、レンジ検出装置の位置検出精度が低下するという問題が生じる。
【0008】
ここで、特許文献2に示されるようなスプリングや板バネを利用してスライダを特定方向に押さえることによりがたつきを抑制する方法も考えられるが、部品点数の増加や、組立工数の増加による製造コストアップを招く。
本発明は上記の問題に鑑みなされたものであり、スライド面を水平に設置する場合であっても、部品点数を増加することなく、スライダ摺動時のがたつきを抑制し、位置検出精度を向上するレンジ検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載のレンジ検出装置は、スライダ本体、スライダレール、磁石、磁気検出素子、第1の案内部、及び、第2の案内部を備える。
スライダ本体は、自動変速機のレンジの選択に応じて水平方向に往復移動可能である。
スライダレールは、スライダ本体を案内するとともにスライダ本体を摺動可能に支持する。磁石は、スライダ本体に設けられる。磁気検出素子は、スライダ本体の摺動に伴う磁力の変化を検出する。
第1の案内部は、スライダ本体の一方側に形成される第1嵌合縁部、及び、スライダレールに形成され、第1嵌合縁部が嵌合する第1案内溝を有する。第2の案内部は、スライダ本体の他方側に形成される第2嵌合縁部、及び、スライダレールに形成され、第2嵌合縁部が嵌合する第2案内溝を有する。
第1の案内部および第2の案内部の少なくとも一方について、嵌合縁部の縁下面、及び、この縁下面に接する案内溝の溝下壁は、スライダ本体の移動方向に直交する方向にかつスライダ本体から嵌合縁部に向かう方向に傾斜して設けられる。
【0010】
これにより、スライダの重力と傾斜の勾配角度とに基づく横力が、嵌合縁部からスライダ本体に向かう方向に発生する。横力の作用により、スライダは溝下壁を滑り降り、常に、摺動方向の同一の直線上を摺動する。したがって、横力により他方の案内溝にスライダが押し付けられることで、スライダの摺動時にがたつきが生じることを防止できる。よって、部品点数を増加することなく、レンジ検出装置の位置検出精度を向上させることができる。
【0011】
ただし、両方の案内部が傾斜して設けられる場合、横力が摺動方向の両側から作用する。もし、各部の加工寸法精度によって左右の横力のバランスが崩れたり、または横力より大きいモーメントを受けたりした場合には、いずれかの嵌合縁部の下面が案内溝の溝下壁に乗り上げ、スライダが傾く可能性がある。
【0012】
そこで、請求項2に記載のレンジ検出装置は、第1の案内部および第2の案内部の一方について、嵌合縁部の縁下面、及び、この縁下面に接する案内溝の溝下壁は、水平に設けられる。すなわち、案内部の一方は傾斜して、案内部の他方は水平に設けられる。そのため、傾斜して設けられる一方の側から、水平に設けられる他方の側へのみ横力が作用する。
【0013】
これにより、横力は一方向にのみ作用し、水平に設けられる案内部側で、常に嵌合縁部が案内溝に接触しながらスライダが摺動する。したがって、モーメントを受けてもスライダのがたつきが抑制され、常に、摺動方向の同一の直線上を摺動する。そのため、レンジ検出装置の位置検出精度をさらに向上することができる。
さらに、請求項2に記載のレンジ検出装置では、両方の案内部の形状が非対称であるため、スライダをスライダレールに組み付ける作業時において誤組付の防止に効果がある。
【0014】
以上のように本発明のレンジ検出装置は、スライド面を水平に設置する場合に特有の効果を奏するものである。しかし、本発明のレンジ検出装置を、スライド面を垂直方向に設置する場合には、従来技術と同様にスライダの重力によってがたつきが防止できる。したがって本発明のレンジ検出装置は、スライド面を水平に設置する場合にも、垂直に設置する場合にも共用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(a):本発明の第1実施形態のレンジ検出装置を、スライド面を水平に設置した状態の摺動方向の断面図である。(b):(a)の底面図である。(c):(a)のA−A断面図であり、摺動方向に直交方向の断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態のレンジ検出装置を備える自動変速機の分解斜視図である。
【図3】図1(c)のP部拡大図である。
【図4】図1(c)のQ部拡大図である。
【図5】勾配角度と横力係数の関係を示す特性図である。
【図6】本発明の第1実施形態のレンジ検出装置の変形例を示す正面図と部分側面図である。
【図7】本発明の第2実施形態のレンジ検出装置を、スライド面を水平に設置した状態の摺動方向に直交方向の断面図である。
【図8】(a):比較例のレンジ検出装置の摺動方向に直交方向の断面図である。(b):別の比較例のレンジ検出装置の摺動方向に直交方向の断面図である。(c):(b)の底面図である。
【図9】図8(a)、(b)のT部拡大図である。
【図10】従来技術のレンジ検出装置の摺動方向に直交方向の断面図である。
【図11】(a):図10(a)のR部拡大図である。(b):同S部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1実施形態)
本発明のレンジ検出装置の実施形態を図面に基づいて説明する。
図2に、本発明の第一実施形態のレンジ検出装置を備える自動変速機を示す。自動変速機は、油圧制御装置1とレンジ検出装置2とを備えている。
油圧制御装置1は、マニュアルバルブ5などの複数のバルブや複数の流路を含む油圧回路を有している。マニュアルバルブ5は、バルブボディ6のスプール孔6aにスプール7が移動可能に嵌入されることにより構成される。スプール7の移動位置に応じて油圧回路の流路が切り換わることにより、自動変速機のレンジが切り換わる。レンジとは、一般にP、R、N、Dの各レンジをいう。Pはパーキング、Rはリバース、Nはニュートラル、Dはドライブを示す。
【0017】
レンジ検出装置2は、ディテント機構10とインヒビタスイッチ20とを含む。
ディテント機構10は、ディテントプレート12、コントロールロッド14、ディテントレバー16、出力軸18などから構成される。ディテントプレート12とディテントレバー16とはコントロールロッド14によって連結される。図示しないシフトレバーの操作に応じてディテントレバー16がコントロールロッド14を回転軸として回転すると、それに伴ってディテントプレート12が回動する。
ディテントプレート12の外縁には、ディテントプレート12の回転方向に複数の溝12aが形成されている。シフトレバーによりレンジを選択すると、いずれかの溝12aが図示しないローラと係合する。これにより、シフトレバーの非操作時にディテントプレート12の回動が規制される。
【0018】
出力軸18は、一端がディテントプレート12に固定され、他端がスプール7の溝7aと係合している。この結果、ディテントプレート12の回転運動がスプール7の直線運動に変換され、シフトレバーの操作に応じて、スプール7が軸方向に摺動する。
【0019】
インヒビタスイッチ20は、スライダ21とスライダレール31とから構成される。スライダレール31はバルブボディ6に固定され、スライダ21が摺動するスライド面を有する。また、スライダレール31はスライド面の裏側にホール素子43を備える。
スライダ21の入力軸22は、スプール7の溝7bに係合している。そのためスライダ21は、スプール7の摺動に追従して、スライダレール31のスライド面に沿って摺動する。よって、スライダ21は各レンジの選択に応じた位置に移動する。また、シフトレバーの非操作時にディテントプレート12の回動が規制されるので、スライダ21は、各レンジの選択に応じた位置で移動が規制される。
【0020】
図1はインヒビタスイッチ20を示した図である。図1(a)、(c)の上下方向は現実の天地方向を示している。
スライダレール31は水平に設置され、ベース部33の下側にスライド室32を有する。スライド室32の長手方向の両側には案内溝35、37が形成される。スライド室32の上面はスライド面33aを形成する。
スライダ本体29の両側に嵌合縁部25、27が形成される。嵌合縁部25、27は、それぞれ案内溝35、37に嵌合する。案内部34pは、嵌合縁部27と案内溝37とを有し、案内部34qは、嵌合縁部25と案内溝35とを有する。スライダ21は、両方の案内部34p、34qに案内され、スライド面33aに沿って摺動方向Sxに摺動する。スライダ下面24には入力軸22が設けられる。入力軸22は、レンジの選択に応じてマニュアルバルブ5のスプール7から駆動力を受ける。
【0021】
スライダレール31のベース部33の上側には、外壁41に囲まれた基板収容室42が形成される。基板収容室42には、磁気検出素子としてのホール素子43の他、コンデンサや抵抗などの電気素子44、及び、回路基板45が収容される。回路基板45はワイヤーハーネス46によって配線される。
【0022】
スライダ21は内部に磁石を有しているか、あるいは、着磁されて作られており、磁力を発生する。また、スライダ21は摺動時の摩擦を低減するため、軽くて潤滑性のある材料で作られることが望ましいことから、例えばプラスチックマグネットで作られる。
【0023】
ホール素子43はホール効果を利用して磁界を検出する素子であり、「特許請求の範囲」に記載の「磁気検出素子」を具現したものである。ホール素子43は、スライダ21の摺動に伴って生ずる磁力の変化を検出し、検出信号を出力する。検出精度を高めるため、ホール素子43は複数用いられる。図2では2個のホール素子43が摺動方向Sxの直行方向に配列される態様が例示されているが、これに限定されず、3個以上用いることもできる。また、磁気検出素子として磁気抵抗素子などを用いてもよい。
【0024】
ホール素子43の出力した検出信号は、検出回路にて、例えばアナログ信号からディジタル信号にA/D変換され、磁界のパターンが認識されることによって、シフトレバーが選択したレンジが検出される。
【0025】
図3は、図1(c)のP部拡大図であり、一方の案内部34pを示す。図4は、Q部拡大図であり、他方の案内部34qを示す。以下、P部を「傾斜側」、Q部を「水平側」と記す。
「傾斜側」では、スライダ21の嵌合縁部の下面、及び、スライダレール31の案内溝の溝下壁は、外側が高くなるよう傾斜して設けられる。そこで、各部の名称を「スライダ21の傾斜嵌合縁部27の縁下傾斜面27d」、「スライダレール31の傾斜案内溝37の溝下傾斜壁37d」と表す。
他方、「水平側」では、同上の部位は水平に設けられる。そこで、各部の名称を「スライダ21の水平嵌合縁部25の縁下面25d」、「スライダレール31の水平案内溝35の溝下壁35d」と表す。
【0026】
図3に示すように、スライダ21の傾斜嵌合縁部27は、側面27a、縁端面27b、縁上面27c、縁下傾斜面27dから構成されている。またスライダレール31の傾斜案内溝37は、内壁37a、溝底壁37b、溝上壁37c、溝下傾斜壁37dから構成されている。縁下傾斜面27dは重力Wにより溝下傾斜壁37dに接する。縁上面27cと溝上壁37cとの間にはクリアランスが設けられる。また、縁端面27bと溝底壁37bとの間、及び、側面25aと内壁35aとの間にもクリアランスが生ずるよう各部寸法が設定される。これらのクリアランスは、スライダ21が滑らかに摺動するために必要不可欠である。
【0027】
スライダ21の重力Wは、式1に示すようにスライダ21の質量mと重力加速度gの積で表される。
W=mg ・・・(式1)
勾配角度θは、式2の範囲の角度である。
0°<θ<90°・・・(式2)
【0028】
勾配角度θの縁下傾斜面27dと溝下傾斜壁37dとの接面に作用する力は、式3〜式6に示される。Fcは垂直方向の力、Faは傾斜面に沿った方向のFcの分力、Fbは傾斜面に垂直方向のFcの分力である。Fsは水平方向のFaの分力であり、「横力」という。この場合、横力Fsはスライダ21の外側から内側に向かって作用する。よって、後述するように水平側の案内部34qで縁端面25bが溝底壁35bに当たるまで、スライダ21は溝下傾斜壁37dを滑り降りる。
Fc=W ・・・(式3)
Fa=Wsinθ ・・・(式4)
Fb=Wcosθ ・・・(式5)
Fs=Wsinθ・cosθ ・・・(式6)
【0029】
図4に示すように、スライダ21の水平嵌合縁部25は、側面25a、縁端面25b、縁上面25c、縁下面25dから構成されている。またスライダレール31の水平案内溝35は、内壁35a、溝底壁35b、溝上壁35c、溝下壁35dから構成されている。縁下面25dは重力Wにより溝下壁35dに接する。縁上面25cと溝上壁35cとの間にはクリアランスが設けられる。本実施形態では、横力Fsにより、縁端面25bが溝底壁35bに押し付けられて接触する。水平嵌合縁部25の嵌合方向の長さは水平案内溝35の深さより大きく設定されているため、側面25aと内壁35aとの間にはクリアランスが有る。
【0030】
また、両方の案内部34p、34qに共通して、スライダ上面23とスライダレール31のスライド面33aとの間には上面クリアランスCuが設けられる。上面クリアランスCuはスライダ21内の磁石とホール素子43との距離を決め、検出精度に影響するため、できるだけ一定であることが望ましい。
【0031】
図5に勾配角度θと横力係数sinθ・cosθの関係を示す。勾配角度θが0°および90°のとき横力係数sinθ・cosθは0となり、勾配角度θが45°のとき横力係数sinθ・cosθは最大値0.5となる。勾配角度θが0°から45°までは角度の増加に伴い増加し、45°から90°までは角度の増加に伴い減少する。したがって、横力Fsの効果を最大に利用しようとすれば勾配角度θは約45°が望ましいと言える。
【0032】
しかし別の観点からは、勾配角度θが大きいとスライダ21が溝下傾斜壁37dを滑り降りる際の上面クリアランスCuの変化が大きくなる。すなわち、スライダ21の初期位置から、水平側の案内部34qで縁端面25bが溝底壁35bに当たるまでの移動において、上面クリアランスCuが広がる。そのため、スライダ21内の磁石とホール素子43との距離が遠くなり、検出精度の低下を招く。
これを防ぐためには、スライダ21とスライダレール31とが関連するクリアランスや角度の寸法精度を非常に厳しくする必要があり、製造上、現実的でない。そのため、勾配角度θを小さくする方がよい。
【0033】
よって、勾配角度θを45°より大きく設定するメリットはないと言える。したがって、式2を式2’のように置き換えてもよい。
0°<θ≦45°・・・(式2’)
そこで式2’の範囲で横力Fsの効果と上面クリアランスCuの精度とのバランスを検討し、製造上の事情なども考慮して、適当な勾配角度θが設計されるのが望ましい。
【0034】
このように本実施形態では横力Fsは一方向のみに作用し、スライダ21の案内部34qにおいて縁端面25bがスライダレール31の溝底壁35bに接触しながら摺動する。したがって、モーメントを受けてもスライダ21のがたつきが抑制され、常に、摺動方向Sxの同一の直線上を摺動する。また、本実施形態において、スプリングなどの部品は必要ない。よって、部品点数を増加することなく、レンジ検出装置の位置検出精度を向上することができる。
【0035】
さらに、両方の案内部が左右対称に設けられる場合には、スライダ21をスライダレール31に組み付ける作業時において逆向きに組み付ける可能性があるが、本実施形態では片側の案内部34pを傾斜させることにより、案内部34p、34qの形状が非対称となるため、誤組付の防止にも効果がある。
【0036】
(第1実施形態の変形例)
図6は、第1実施形態の変形例を示す。この変形例では、縁下傾斜面27dはスライダ21の軸方向に断続的に設けられ、隣り合う縁下傾斜面27d同士の間には逃がし部が設けられる。このように、傾斜縁下面27dまたは水平縁下面25dは、軸方向の全域にわたって設けられなくともよい。スライダ21の摺動時の荷重を受けるのに必要な接触面積さえ確保できれば、逃がし部を設けることにより、接触抵抗を低減することができる。
【0037】
(比較例)
ここで、両方の案内部が水平に設けられたインヒビタスイッチ20を水平に設置する場合を比較例として説明する。なお本発明と区別するため、比較例では、「スライダ71、入力軸72、スライダレール81」の符号を用いて表す。
図8(a)は、入力軸72がスライダ71の重心上に設けられる場合の比較例であり、図8(b)は、入力軸72がスライダ71の重心Ogから、摺動方向SxにΔX、その直交方向にΔYだけオフセットして設けられる場合の比較例である。
図9は図8(a)、(b)のT部拡大図である。図9に示すように、縁下面75dはスライダ71の重力Wにより溝下壁85dに接する。反対側のT’部でも同様である。
【0038】
スライダ71には、図の左右方向に一定方向の力が作用しないため、衝撃や振動によって、図9に両方向破線矢印で示すようにいずれの方向にも動きうる。すなわちT部およびT’部で、縁端面75bと溝底壁85bとの間が接するか接しないかは定まらない。よって、入力軸72が重心上に設けられる場合、オフセットして設けられる場合のいずれでもスライダ71の摺動時にがたつきが生ずる可能性がある。特に、入力軸72がオフセットして設けられる場合は、図8(c)に示すように、入力軸72が駆動力Fiを受けることにより、重心Ogの回りにモーメントMが作用するため、より顕著にがたつきが生ずる。
【0039】
(第2実施形態)
本発明のレンジ検出装置は、図7に示すように、両方の案内部を傾斜させて設けることもできる。この場合、両方の案内部34の勾配角度θを同一とし、縁下傾斜面27d、溝下傾斜壁37dが中心軸に対称な位置に形成されれば、理論的には横力Fsが左右から均等にかかる。そのため、スライダ21の重心がスライダレール31の中心軸に沿うように、摺動方向Sxの同一の直線上を摺動すると考えられる。
【0040】
ただし現実には、各部の加工寸法精度によって左右の横力Fsのバランスが崩れたり、または横力Fsより大きいモーメントを受けたりした場合には、いずれかの縁下傾斜面27dが溝下傾斜壁37dに乗り上げ、スライダ21が傾く可能性がある。したがって第1実施形態の方がより実現に適していると考えられる。
しかし第2実施形態でも、スライド面を水平に設置する場合に、従来技術に比べてスライダ21の摺動時のがたつきを防止し、部品点数を増加することなく、レンジ検出装置の位置検知精度を向上させることができる。
【0041】
以上のように本発明のレンジ検出装置は、スライド面を水平に設置する場合に特有の効果を奏するものである。しかし、本発明のレンジ検出装置を、スライド面を垂直方向に設置する場合には、従来技術と同様にスライダ21の重力Wによってがたつきが防止できる。したがって本発明のレンジ検出装置は、スライド面を水平に設置する場合にも、垂直に設置する場合にも共用することができる。
【0042】
以上、本発明はこのような実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々なる形態で実施することができる。
【符号の説明】
【0043】
1:油圧制御装置、2:レンジ検出装置、5:マニュアルバルブ、6:バルブボディ、6a:スプール孔、7:スプール、10:ディテント機構、20:インヒビタスイッチ、21:スライダ、22:入力軸、23:スライダ上面、25:水平嵌合縁部、25d:縁下面、27:傾斜嵌合縁部、27d:縁下傾斜面、29:スライダ本体、31:スライダレール、32:スライド室、33:ベース部、33a:スライド面、34、34p、34q:案内部、35:水平案内溝、35d:溝下壁、37:傾斜案内溝、37d:溝下傾斜壁、41:外壁、42:基板収容室、43、ホール素子(磁気検出素子)、45:回路基板、Cu:上面クリアランス、Fs:横力、Sx:摺動方向、W:重力、θ:勾配角度
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動変速機のレンジ検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に参照されるように、自動変速機のシフトレンジを検出するためのレンジ検出装置が知られている。ここで、自動変速機は、自動車等の車両に搭載され、自動変速機ケースとオイルパンとによって構成されている。オイルパンは内部に作動油を蓄えている。またオイルパン内には油圧制御装置およびレンジ検出装置が収容されている。レンジ検出装置は、各レンジの選択を検出する。
【0003】
図10に従来技術のレンジ検出装置としてのインヒビタスイッチ20を示す。ここで図10の上下方向は現実の天地方向を示している。すなわち、インヒビタスイッチ20は、スライド面が垂直に設置されている。
インヒビタスイッチ20は、スライダ71とスライダレール81とから構成される。スライダ71は上下に嵌合縁部75、76を有する。嵌合縁部75、76は、それぞれスライダレール81の案内溝85、86に係合している。
【0004】
図10のR部拡大図を図11(a)に、S部拡大図を図11(b)に示す。スライダ71の重力Wにより、下側の縁端面76bは溝底壁86bに接する。このとき、下側の側面76aと内壁86aとの間、上側の側面75aと内壁85aとの間、及び、上側の縁端面75bと溝底壁85bとの間にはクリアランスが有る。
スライダ71は、縁端面76bと溝底壁86bとが接触しながら図の前後方向に摺動する。すなわち、重力Wが常に下向きに作用するため、クリアランスは常に上側に存在する。したがって、スライダ71の摺動時に、クリアランスによる「がたつき」は生じない。
【0005】
特許文献2には、スイッチケースに対するスライダのスライドにより検出信号を出力あるいは出力解除するパーキングレンジ検出装置が開示されている。このパーキングレンジ検出装置では、スライダが、スプリングの弾性によりスイッチケースの内壁に押し付けられてがたつかないようにされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−68535号公報
【特許文献2】特開平6−191311号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところでインヒビタスイッチ20の搭載上の制約条件によっては、スライド面を垂直に設置できず、水平に設置せざるをえない場合がある。その場合、スライダ71の重力Wが縁端面に作用しないため、クリアランスの位置が一定に定まらない。自動変速機では一般に位置検出の要求精度が高いため、スライダ71の摺動時に少しでもがたつきがあると、位置検出精度に影響が生ずる。そのため、スライド面を水平に設置する場合には、レンジ検出装置の位置検出精度が低下するという問題が生じる。
【0008】
ここで、特許文献2に示されるようなスプリングや板バネを利用してスライダを特定方向に押さえることによりがたつきを抑制する方法も考えられるが、部品点数の増加や、組立工数の増加による製造コストアップを招く。
本発明は上記の問題に鑑みなされたものであり、スライド面を水平に設置する場合であっても、部品点数を増加することなく、スライダ摺動時のがたつきを抑制し、位置検出精度を向上するレンジ検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載のレンジ検出装置は、スライダ本体、スライダレール、磁石、磁気検出素子、第1の案内部、及び、第2の案内部を備える。
スライダ本体は、自動変速機のレンジの選択に応じて水平方向に往復移動可能である。
スライダレールは、スライダ本体を案内するとともにスライダ本体を摺動可能に支持する。磁石は、スライダ本体に設けられる。磁気検出素子は、スライダ本体の摺動に伴う磁力の変化を検出する。
第1の案内部は、スライダ本体の一方側に形成される第1嵌合縁部、及び、スライダレールに形成され、第1嵌合縁部が嵌合する第1案内溝を有する。第2の案内部は、スライダ本体の他方側に形成される第2嵌合縁部、及び、スライダレールに形成され、第2嵌合縁部が嵌合する第2案内溝を有する。
第1の案内部および第2の案内部の少なくとも一方について、嵌合縁部の縁下面、及び、この縁下面に接する案内溝の溝下壁は、スライダ本体の移動方向に直交する方向にかつスライダ本体から嵌合縁部に向かう方向に傾斜して設けられる。
【0010】
これにより、スライダの重力と傾斜の勾配角度とに基づく横力が、嵌合縁部からスライダ本体に向かう方向に発生する。横力の作用により、スライダは溝下壁を滑り降り、常に、摺動方向の同一の直線上を摺動する。したがって、横力により他方の案内溝にスライダが押し付けられることで、スライダの摺動時にがたつきが生じることを防止できる。よって、部品点数を増加することなく、レンジ検出装置の位置検出精度を向上させることができる。
【0011】
ただし、両方の案内部が傾斜して設けられる場合、横力が摺動方向の両側から作用する。もし、各部の加工寸法精度によって左右の横力のバランスが崩れたり、または横力より大きいモーメントを受けたりした場合には、いずれかの嵌合縁部の下面が案内溝の溝下壁に乗り上げ、スライダが傾く可能性がある。
【0012】
そこで、請求項2に記載のレンジ検出装置は、第1の案内部および第2の案内部の一方について、嵌合縁部の縁下面、及び、この縁下面に接する案内溝の溝下壁は、水平に設けられる。すなわち、案内部の一方は傾斜して、案内部の他方は水平に設けられる。そのため、傾斜して設けられる一方の側から、水平に設けられる他方の側へのみ横力が作用する。
【0013】
これにより、横力は一方向にのみ作用し、水平に設けられる案内部側で、常に嵌合縁部が案内溝に接触しながらスライダが摺動する。したがって、モーメントを受けてもスライダのがたつきが抑制され、常に、摺動方向の同一の直線上を摺動する。そのため、レンジ検出装置の位置検出精度をさらに向上することができる。
さらに、請求項2に記載のレンジ検出装置では、両方の案内部の形状が非対称であるため、スライダをスライダレールに組み付ける作業時において誤組付の防止に効果がある。
【0014】
以上のように本発明のレンジ検出装置は、スライド面を水平に設置する場合に特有の効果を奏するものである。しかし、本発明のレンジ検出装置を、スライド面を垂直方向に設置する場合には、従来技術と同様にスライダの重力によってがたつきが防止できる。したがって本発明のレンジ検出装置は、スライド面を水平に設置する場合にも、垂直に設置する場合にも共用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(a):本発明の第1実施形態のレンジ検出装置を、スライド面を水平に設置した状態の摺動方向の断面図である。(b):(a)の底面図である。(c):(a)のA−A断面図であり、摺動方向に直交方向の断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態のレンジ検出装置を備える自動変速機の分解斜視図である。
【図3】図1(c)のP部拡大図である。
【図4】図1(c)のQ部拡大図である。
【図5】勾配角度と横力係数の関係を示す特性図である。
【図6】本発明の第1実施形態のレンジ検出装置の変形例を示す正面図と部分側面図である。
【図7】本発明の第2実施形態のレンジ検出装置を、スライド面を水平に設置した状態の摺動方向に直交方向の断面図である。
【図8】(a):比較例のレンジ検出装置の摺動方向に直交方向の断面図である。(b):別の比較例のレンジ検出装置の摺動方向に直交方向の断面図である。(c):(b)の底面図である。
【図9】図8(a)、(b)のT部拡大図である。
【図10】従来技術のレンジ検出装置の摺動方向に直交方向の断面図である。
【図11】(a):図10(a)のR部拡大図である。(b):同S部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1実施形態)
本発明のレンジ検出装置の実施形態を図面に基づいて説明する。
図2に、本発明の第一実施形態のレンジ検出装置を備える自動変速機を示す。自動変速機は、油圧制御装置1とレンジ検出装置2とを備えている。
油圧制御装置1は、マニュアルバルブ5などの複数のバルブや複数の流路を含む油圧回路を有している。マニュアルバルブ5は、バルブボディ6のスプール孔6aにスプール7が移動可能に嵌入されることにより構成される。スプール7の移動位置に応じて油圧回路の流路が切り換わることにより、自動変速機のレンジが切り換わる。レンジとは、一般にP、R、N、Dの各レンジをいう。Pはパーキング、Rはリバース、Nはニュートラル、Dはドライブを示す。
【0017】
レンジ検出装置2は、ディテント機構10とインヒビタスイッチ20とを含む。
ディテント機構10は、ディテントプレート12、コントロールロッド14、ディテントレバー16、出力軸18などから構成される。ディテントプレート12とディテントレバー16とはコントロールロッド14によって連結される。図示しないシフトレバーの操作に応じてディテントレバー16がコントロールロッド14を回転軸として回転すると、それに伴ってディテントプレート12が回動する。
ディテントプレート12の外縁には、ディテントプレート12の回転方向に複数の溝12aが形成されている。シフトレバーによりレンジを選択すると、いずれかの溝12aが図示しないローラと係合する。これにより、シフトレバーの非操作時にディテントプレート12の回動が規制される。
【0018】
出力軸18は、一端がディテントプレート12に固定され、他端がスプール7の溝7aと係合している。この結果、ディテントプレート12の回転運動がスプール7の直線運動に変換され、シフトレバーの操作に応じて、スプール7が軸方向に摺動する。
【0019】
インヒビタスイッチ20は、スライダ21とスライダレール31とから構成される。スライダレール31はバルブボディ6に固定され、スライダ21が摺動するスライド面を有する。また、スライダレール31はスライド面の裏側にホール素子43を備える。
スライダ21の入力軸22は、スプール7の溝7bに係合している。そのためスライダ21は、スプール7の摺動に追従して、スライダレール31のスライド面に沿って摺動する。よって、スライダ21は各レンジの選択に応じた位置に移動する。また、シフトレバーの非操作時にディテントプレート12の回動が規制されるので、スライダ21は、各レンジの選択に応じた位置で移動が規制される。
【0020】
図1はインヒビタスイッチ20を示した図である。図1(a)、(c)の上下方向は現実の天地方向を示している。
スライダレール31は水平に設置され、ベース部33の下側にスライド室32を有する。スライド室32の長手方向の両側には案内溝35、37が形成される。スライド室32の上面はスライド面33aを形成する。
スライダ本体29の両側に嵌合縁部25、27が形成される。嵌合縁部25、27は、それぞれ案内溝35、37に嵌合する。案内部34pは、嵌合縁部27と案内溝37とを有し、案内部34qは、嵌合縁部25と案内溝35とを有する。スライダ21は、両方の案内部34p、34qに案内され、スライド面33aに沿って摺動方向Sxに摺動する。スライダ下面24には入力軸22が設けられる。入力軸22は、レンジの選択に応じてマニュアルバルブ5のスプール7から駆動力を受ける。
【0021】
スライダレール31のベース部33の上側には、外壁41に囲まれた基板収容室42が形成される。基板収容室42には、磁気検出素子としてのホール素子43の他、コンデンサや抵抗などの電気素子44、及び、回路基板45が収容される。回路基板45はワイヤーハーネス46によって配線される。
【0022】
スライダ21は内部に磁石を有しているか、あるいは、着磁されて作られており、磁力を発生する。また、スライダ21は摺動時の摩擦を低減するため、軽くて潤滑性のある材料で作られることが望ましいことから、例えばプラスチックマグネットで作られる。
【0023】
ホール素子43はホール効果を利用して磁界を検出する素子であり、「特許請求の範囲」に記載の「磁気検出素子」を具現したものである。ホール素子43は、スライダ21の摺動に伴って生ずる磁力の変化を検出し、検出信号を出力する。検出精度を高めるため、ホール素子43は複数用いられる。図2では2個のホール素子43が摺動方向Sxの直行方向に配列される態様が例示されているが、これに限定されず、3個以上用いることもできる。また、磁気検出素子として磁気抵抗素子などを用いてもよい。
【0024】
ホール素子43の出力した検出信号は、検出回路にて、例えばアナログ信号からディジタル信号にA/D変換され、磁界のパターンが認識されることによって、シフトレバーが選択したレンジが検出される。
【0025】
図3は、図1(c)のP部拡大図であり、一方の案内部34pを示す。図4は、Q部拡大図であり、他方の案内部34qを示す。以下、P部を「傾斜側」、Q部を「水平側」と記す。
「傾斜側」では、スライダ21の嵌合縁部の下面、及び、スライダレール31の案内溝の溝下壁は、外側が高くなるよう傾斜して設けられる。そこで、各部の名称を「スライダ21の傾斜嵌合縁部27の縁下傾斜面27d」、「スライダレール31の傾斜案内溝37の溝下傾斜壁37d」と表す。
他方、「水平側」では、同上の部位は水平に設けられる。そこで、各部の名称を「スライダ21の水平嵌合縁部25の縁下面25d」、「スライダレール31の水平案内溝35の溝下壁35d」と表す。
【0026】
図3に示すように、スライダ21の傾斜嵌合縁部27は、側面27a、縁端面27b、縁上面27c、縁下傾斜面27dから構成されている。またスライダレール31の傾斜案内溝37は、内壁37a、溝底壁37b、溝上壁37c、溝下傾斜壁37dから構成されている。縁下傾斜面27dは重力Wにより溝下傾斜壁37dに接する。縁上面27cと溝上壁37cとの間にはクリアランスが設けられる。また、縁端面27bと溝底壁37bとの間、及び、側面25aと内壁35aとの間にもクリアランスが生ずるよう各部寸法が設定される。これらのクリアランスは、スライダ21が滑らかに摺動するために必要不可欠である。
【0027】
スライダ21の重力Wは、式1に示すようにスライダ21の質量mと重力加速度gの積で表される。
W=mg ・・・(式1)
勾配角度θは、式2の範囲の角度である。
0°<θ<90°・・・(式2)
【0028】
勾配角度θの縁下傾斜面27dと溝下傾斜壁37dとの接面に作用する力は、式3〜式6に示される。Fcは垂直方向の力、Faは傾斜面に沿った方向のFcの分力、Fbは傾斜面に垂直方向のFcの分力である。Fsは水平方向のFaの分力であり、「横力」という。この場合、横力Fsはスライダ21の外側から内側に向かって作用する。よって、後述するように水平側の案内部34qで縁端面25bが溝底壁35bに当たるまで、スライダ21は溝下傾斜壁37dを滑り降りる。
Fc=W ・・・(式3)
Fa=Wsinθ ・・・(式4)
Fb=Wcosθ ・・・(式5)
Fs=Wsinθ・cosθ ・・・(式6)
【0029】
図4に示すように、スライダ21の水平嵌合縁部25は、側面25a、縁端面25b、縁上面25c、縁下面25dから構成されている。またスライダレール31の水平案内溝35は、内壁35a、溝底壁35b、溝上壁35c、溝下壁35dから構成されている。縁下面25dは重力Wにより溝下壁35dに接する。縁上面25cと溝上壁35cとの間にはクリアランスが設けられる。本実施形態では、横力Fsにより、縁端面25bが溝底壁35bに押し付けられて接触する。水平嵌合縁部25の嵌合方向の長さは水平案内溝35の深さより大きく設定されているため、側面25aと内壁35aとの間にはクリアランスが有る。
【0030】
また、両方の案内部34p、34qに共通して、スライダ上面23とスライダレール31のスライド面33aとの間には上面クリアランスCuが設けられる。上面クリアランスCuはスライダ21内の磁石とホール素子43との距離を決め、検出精度に影響するため、できるだけ一定であることが望ましい。
【0031】
図5に勾配角度θと横力係数sinθ・cosθの関係を示す。勾配角度θが0°および90°のとき横力係数sinθ・cosθは0となり、勾配角度θが45°のとき横力係数sinθ・cosθは最大値0.5となる。勾配角度θが0°から45°までは角度の増加に伴い増加し、45°から90°までは角度の増加に伴い減少する。したがって、横力Fsの効果を最大に利用しようとすれば勾配角度θは約45°が望ましいと言える。
【0032】
しかし別の観点からは、勾配角度θが大きいとスライダ21が溝下傾斜壁37dを滑り降りる際の上面クリアランスCuの変化が大きくなる。すなわち、スライダ21の初期位置から、水平側の案内部34qで縁端面25bが溝底壁35bに当たるまでの移動において、上面クリアランスCuが広がる。そのため、スライダ21内の磁石とホール素子43との距離が遠くなり、検出精度の低下を招く。
これを防ぐためには、スライダ21とスライダレール31とが関連するクリアランスや角度の寸法精度を非常に厳しくする必要があり、製造上、現実的でない。そのため、勾配角度θを小さくする方がよい。
【0033】
よって、勾配角度θを45°より大きく設定するメリットはないと言える。したがって、式2を式2’のように置き換えてもよい。
0°<θ≦45°・・・(式2’)
そこで式2’の範囲で横力Fsの効果と上面クリアランスCuの精度とのバランスを検討し、製造上の事情なども考慮して、適当な勾配角度θが設計されるのが望ましい。
【0034】
このように本実施形態では横力Fsは一方向のみに作用し、スライダ21の案内部34qにおいて縁端面25bがスライダレール31の溝底壁35bに接触しながら摺動する。したがって、モーメントを受けてもスライダ21のがたつきが抑制され、常に、摺動方向Sxの同一の直線上を摺動する。また、本実施形態において、スプリングなどの部品は必要ない。よって、部品点数を増加することなく、レンジ検出装置の位置検出精度を向上することができる。
【0035】
さらに、両方の案内部が左右対称に設けられる場合には、スライダ21をスライダレール31に組み付ける作業時において逆向きに組み付ける可能性があるが、本実施形態では片側の案内部34pを傾斜させることにより、案内部34p、34qの形状が非対称となるため、誤組付の防止にも効果がある。
【0036】
(第1実施形態の変形例)
図6は、第1実施形態の変形例を示す。この変形例では、縁下傾斜面27dはスライダ21の軸方向に断続的に設けられ、隣り合う縁下傾斜面27d同士の間には逃がし部が設けられる。このように、傾斜縁下面27dまたは水平縁下面25dは、軸方向の全域にわたって設けられなくともよい。スライダ21の摺動時の荷重を受けるのに必要な接触面積さえ確保できれば、逃がし部を設けることにより、接触抵抗を低減することができる。
【0037】
(比較例)
ここで、両方の案内部が水平に設けられたインヒビタスイッチ20を水平に設置する場合を比較例として説明する。なお本発明と区別するため、比較例では、「スライダ71、入力軸72、スライダレール81」の符号を用いて表す。
図8(a)は、入力軸72がスライダ71の重心上に設けられる場合の比較例であり、図8(b)は、入力軸72がスライダ71の重心Ogから、摺動方向SxにΔX、その直交方向にΔYだけオフセットして設けられる場合の比較例である。
図9は図8(a)、(b)のT部拡大図である。図9に示すように、縁下面75dはスライダ71の重力Wにより溝下壁85dに接する。反対側のT’部でも同様である。
【0038】
スライダ71には、図の左右方向に一定方向の力が作用しないため、衝撃や振動によって、図9に両方向破線矢印で示すようにいずれの方向にも動きうる。すなわちT部およびT’部で、縁端面75bと溝底壁85bとの間が接するか接しないかは定まらない。よって、入力軸72が重心上に設けられる場合、オフセットして設けられる場合のいずれでもスライダ71の摺動時にがたつきが生ずる可能性がある。特に、入力軸72がオフセットして設けられる場合は、図8(c)に示すように、入力軸72が駆動力Fiを受けることにより、重心Ogの回りにモーメントMが作用するため、より顕著にがたつきが生ずる。
【0039】
(第2実施形態)
本発明のレンジ検出装置は、図7に示すように、両方の案内部を傾斜させて設けることもできる。この場合、両方の案内部34の勾配角度θを同一とし、縁下傾斜面27d、溝下傾斜壁37dが中心軸に対称な位置に形成されれば、理論的には横力Fsが左右から均等にかかる。そのため、スライダ21の重心がスライダレール31の中心軸に沿うように、摺動方向Sxの同一の直線上を摺動すると考えられる。
【0040】
ただし現実には、各部の加工寸法精度によって左右の横力Fsのバランスが崩れたり、または横力Fsより大きいモーメントを受けたりした場合には、いずれかの縁下傾斜面27dが溝下傾斜壁37dに乗り上げ、スライダ21が傾く可能性がある。したがって第1実施形態の方がより実現に適していると考えられる。
しかし第2実施形態でも、スライド面を水平に設置する場合に、従来技術に比べてスライダ21の摺動時のがたつきを防止し、部品点数を増加することなく、レンジ検出装置の位置検知精度を向上させることができる。
【0041】
以上のように本発明のレンジ検出装置は、スライド面を水平に設置する場合に特有の効果を奏するものである。しかし、本発明のレンジ検出装置を、スライド面を垂直方向に設置する場合には、従来技術と同様にスライダ21の重力Wによってがたつきが防止できる。したがって本発明のレンジ検出装置は、スライド面を水平に設置する場合にも、垂直に設置する場合にも共用することができる。
【0042】
以上、本発明はこのような実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々なる形態で実施することができる。
【符号の説明】
【0043】
1:油圧制御装置、2:レンジ検出装置、5:マニュアルバルブ、6:バルブボディ、6a:スプール孔、7:スプール、10:ディテント機構、20:インヒビタスイッチ、21:スライダ、22:入力軸、23:スライダ上面、25:水平嵌合縁部、25d:縁下面、27:傾斜嵌合縁部、27d:縁下傾斜面、29:スライダ本体、31:スライダレール、32:スライド室、33:ベース部、33a:スライド面、34、34p、34q:案内部、35:水平案内溝、35d:溝下壁、37:傾斜案内溝、37d:溝下傾斜壁、41:外壁、42:基板収容室、43、ホール素子(磁気検出素子)、45:回路基板、Cu:上面クリアランス、Fs:横力、Sx:摺動方向、W:重力、θ:勾配角度
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動変速機のレンジの選択に応じて、水平方向に往復移動可能なスライダ本体と、
前記スライダ本体を案内するとともに前記スライダ本体を摺動可能に支持するスライダレールと、
前記スライダ本体に設けられる磁石と、
前記スライダレールに設けられ、前記スライダ本体の摺動に伴う磁力の変化を検出する磁気検出素子と、
前記スライダ本体の一方側に形成される第1嵌合縁部、及び、前記スライダレールに形成され、前記第1嵌合縁部が嵌合する第1案内溝、を有する第1の案内部と、
前記スライダ本体の他方側に形成される第2嵌合縁部、及び、前記スライダレールに形成され、前記第2嵌合縁部が嵌合する第2案内溝、を有する第2の案内部と、を備え、
前記第1の案内部および第2の案内部の少なくとも一方について、
前記嵌合縁部の縁下面、及び、この縁下面に接する前記案内溝の溝下壁は、前記スライダ本体の移動方向に直交する方向にかつ前記スライダ本体から前記嵌合縁部に向かう方向に傾斜して設けられることを特徴とするレンジ検出装置。
【請求項2】
前記第1の案内部および第2の案内部の一方について、
前記嵌合縁部の縁下面、及び、この縁下面に接する前記案内溝の溝下壁は、水平に設けられることを特徴とする請求項1に記載のレンジ検出装置。
【請求項1】
自動変速機のレンジの選択に応じて、水平方向に往復移動可能なスライダ本体と、
前記スライダ本体を案内するとともに前記スライダ本体を摺動可能に支持するスライダレールと、
前記スライダ本体に設けられる磁石と、
前記スライダレールに設けられ、前記スライダ本体の摺動に伴う磁力の変化を検出する磁気検出素子と、
前記スライダ本体の一方側に形成される第1嵌合縁部、及び、前記スライダレールに形成され、前記第1嵌合縁部が嵌合する第1案内溝、を有する第1の案内部と、
前記スライダ本体の他方側に形成される第2嵌合縁部、及び、前記スライダレールに形成され、前記第2嵌合縁部が嵌合する第2案内溝、を有する第2の案内部と、を備え、
前記第1の案内部および第2の案内部の少なくとも一方について、
前記嵌合縁部の縁下面、及び、この縁下面に接する前記案内溝の溝下壁は、前記スライダ本体の移動方向に直交する方向にかつ前記スライダ本体から前記嵌合縁部に向かう方向に傾斜して設けられることを特徴とするレンジ検出装置。
【請求項2】
前記第1の案内部および第2の案内部の一方について、
前記嵌合縁部の縁下面、及び、この縁下面に接する前記案内溝の溝下壁は、水平に設けられることを特徴とする請求項1に記載のレンジ検出装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−117507(P2011−117507A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−274300(P2009−274300)
【出願日】平成21年12月2日(2009.12.2)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月2日(2009.12.2)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
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