説明

レーザモジュール及び実装方法

【課題】 使用する半田種の制限を緩和し、熱電冷却器の性能低下を防ぎ、かつ設備コストを抑えた方法で製造することの可能なレーザモジュールを提供する。
【解決手段】 レーザモジュール10は、基材12と、第1の半田31によって基材に接合された下面14aを有する熱電冷却器14と、第1の半田の融点よりも低い融点を有する第2の半田32によって熱電冷却器の上面14bに接合され、少なくともレーザダイオード18を搭載するキャリア15を備える。熱電冷却器の下面が、当該下面側に配置された加熱手段によって、第1の半田を溶融可能な温度まで加熱されると、熱電冷却器の上面は第2の半田を溶融可能な温度になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、レーザダイオードを搭載したレーザモジュール、及びその製造に利用可能な実装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱電冷却器(Thermoelectric Cooler:TEC)の一つとしてペルチェ素子が、レーザモジュール内のレーザダイオード(Laser Diode:LD)を冷却するために、よく使用される。下記の特許文献1には、LDおよび小型のペルチェ素子を封入したレーザモジュールの製造方法が開示されている。この方法では、LDとペルチェ素子が半田付けにより固定される。下記の特許文献2には、コレットを加熱してLDを実装するコレットヒーティングという手法が開示されている。下記の特許文献3、4には、ペルチェ素子の下面でPbSn半田、上面でBiSn半田をそれぞれ用いてLDおよびペルチェ素子を実装する方法が開示されている。また、BiSn半田の酸化を防ぐため、水素雰囲気下での実装が提案されている。ただし、環境への配慮から鉛フリー化が要望されている現在では、PbSn半田の使用はあまり望ましくない。下記の特許文献5、6には、LDおよびペルチェ素子を内蔵する同軸の送信サブアッセンブリ((Transmitter Optical Subassembly:TOSA)が開示されている。
【特許文献1】特開2002−94171号公報
【特許文献2】特開2003−158328号公報
【特許文献3】特開2002−76501号公報
【特許文献4】米国特許第6506624号明細書
【特許文献5】特開2004−253779号公報
【特許文献6】アツシ・ミキ(Atsushi Miki)、他2名、「広温度範囲のDWDMおよびCWDMシステム用の極めて小型なDFBレーザモジュール(Extremely Compact DFB Laser Modules for the DWDM and CWDM Systems in the Wide Temperature Range)」、ECOC2004、Th.2.4.4
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
一般に、熱電冷却器(TEC)は、その電源オフ時には熱的に断熱材となるため、TECの上面と下面とに大きな温度差が生じる。TECの性能はTECの熱伝導度に反比例するため、性能のよいTECほど、生じる温度差は大きくなる。このような温度差のため、レーザモジュールに使用できる半田種が限定され、実装の自由度が制限される。
【0004】
上記のコレットヒーティングは、半田種の制限を緩めて、実装の自由度を高めるため提案された方法であるが、製造設備のコストの増大が懸念される。また、TECを複数回にわたって急熱急冷するため、TECの性能が低下するおそれもある。
【0005】
本発明は、上記に鑑みなされたもので、使用する半田種の制限を緩和し、熱電冷却器の性能低下を防ぎ、かつ製造設備のコストを抑えて製造することの可能なレーザモジュール及びその製造に利用可能な実装方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一つの側面において、本発明は、基材と、第1の半田によって基材に接合された下面を有する熱電冷却器と、第1の半田の融点よりも低い融点を有する第2の半田によって熱電冷却器の上面に接合され、少なくともレーザダイオードを搭載するキャリアとを備えるレーザモジュールに関する。熱電冷却器の下面が、当該下面側に配置された加熱手段によって、第1の半田を溶融可能な温度まで加熱されると、熱電冷却器の上面は、第2の半田を溶融可能な温度になる。第1の半田が金錫系の材料からなり、第2の半田が錫金系または錫アンチモン系の材料からなっていてもよい。
【0007】
別の側面において、本発明は、レーザダイオードを搭載するキャリア及び該キャリアを搭載する熱電冷却器の基材上へ実装方法に関する。この方法では、基材と熱電冷却器の下面との間に第1の半田を配置し、熱電冷却器の上面とキャリアとの間に第1の半田よりも融点の低い第2の半田を配置し、熱電冷却器の下面側に配置された加熱手段により、第1の半田及び第2の半田を同時に溶融させて、基材上に熱電冷却器を実装すると共に、熱電冷却器上にキャリアを実装する。第1の半田が金錫系の材料からなり、第2の半田が錫金系または錫アンチモン系の材料からなっていてもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るレーザモジュールは、熱電冷却器の下面側からの加熱により第1および第2の半田を同時に溶融させて製造することができる。第2の半田として、自身の溶融時に第1の半田を溶融させない低融点の半田種を選定する必要はないので、使用する半田種の制限を緩和することができる。また、熱電冷却器の加熱および冷却の回数を削減して、熱電冷却器の性能低下を防ぐことができる。さらに、コレットヒーティングを行う必要がないので、製造設備のコストを抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0010】
最初に、従来技術の課題を詳しく説明する。従来技術には、A)使用半田種の制限、B)ペルチェ素子の性能低下という、解決すべき課題がある。
【0011】
課題A:使用半田種の制限
図1は、レーザモジュールの製造方法を説明するための概略図である。ペルチェ素子を内蔵するレーザモジュールの製造では、まず、ペルチェ素子14の下面14aをパッケージのステム12に接合し、その後、レーザダイオード(LD)18などが実装されたLDキャリア16をペルチェ素子14の上面14aに接合する2体実装が主流である。ステム12とペルチェ素子14の間には半田31が、ペルチェ素子14とLDキャリア16の間には半田32がそれぞれ配置される。まず、下側の半田31が、ステム12の下に配置されたヒータ20を用いて加熱、溶融された後、急冷されて硬化する。これにより、ペルチェ素子14がステム12に接合される。次に、上側の半田32がヒータ20を用いて加熱、溶融された後、急冷されて硬化する。これにより、LDキャリア16がペルチェ素子14の上面14aに接合される。
【0012】
図1に示すように、ペルチェ素子14の上面14aにおけるLDキャリア16の実装は、ペルチェ素子14の下面14bをヒータ20によって加熱し、それによって上面14a上の半田32を間接的に暖めることによって行われる。ところが、一般に、ペルチェ素子の熱伝導度はかなり低い(1.5W/m/K)ので、ペルチェ素子14の上下面に大きな温度差が生じる。したがって、上面14aで用いる半田32を溶融させるためには、半田32の融点よりもはるかに高い温度まで下面14bを加熱する必要がある。
【0013】
図2は、半田32を溶融させる際にステム12、下面14bおよび上面14aでそれぞれ測定された温度を示すグラフである。従来技術では、このような温度差を考慮して、下面14bで使う半田31と上面14aで使う半田31を選定する必要がある。
【0014】
図3は、ペルチェ内蔵同軸TOSA内のレーザモジュール10の一例を示す概略側面図である。理解の容易のため、図3では、リードピンやボンディングワイヤを省略している。図3に示されるレーザモジュール10では、ペルチェ素子14−L字キャリア15間の半田32としてSnSb(融点239℃)を用いると、ステム12−ペルチェ素子14間の半田31として既に硬化済みのAuSn(融点283℃)が半田32の溶融中に軟化し、L字キャリア15の実装と同時にペルチェ素子14が位置ずれを起こすおそれがある。このため、L字キャリア15の実装には、より融点の低い半田(たとえば、SnAu)を用いる必要がある。この結果、L字キャリア15上にLDキャリア16を実装するために用いる半田33の選択肢をさらに狭めてしまうことになる。
【0015】
このように、鉛フリー化など、環境面からの要請により、使用できる半田種が限定されている現状では、2体実装において半田種を選定することは容易ではなく、実装の自由度が大きく損ねられている。たとえば、実装温度の変動誤差などのマージンを見込むと、LDキャリア16の実装に用いる半田33には、L字キャリア15の実装に用いるSnAu(融点220℃)よりもはるかに低い融点を持つIn系半田など、希少物質を使用せざるを得なくなる。
【0016】
課題B:ペルチェ素子の性能低下
ペルチェ素子は急激な加熱冷却に比較的弱いデバイスである。上述の上面/下面実装では、ペルチェ素子14に対し300度前後までの温度上昇が短時間(例えば1分間)で行われるので、ペルチェ素子の性能低下のおそれがある。
【0017】
上記の課題Aを克服する手法としては、上記の特許文献2に開示されているように、コレットそのものを加熱するという方法が挙げられる。この方法によると、ペルチェ素子の下面での実装に用いた半田の融点よりも高い融点を有する半田をペルチェ素子の上面での実装に用いることができるようになる。しかし、その反面、コレットとヒータステージの両方を加熱する装置を準備する必要があるので、製造設備の大型化、高コスト化を招いてしまう。しかも、この方法でもペルチェ素子を複数回にわたり急熱急冷するので、上記の課題Bは残ったままである。
【0018】
これに対し、本発明は、ペルチェ素子の上面と下面とで同時に半田を溶融させることにより製造可能なレーザモジュールを提供する。以下では、本発明に係るレーザモジュールの一実施形態として、図3に示されるレーザモジュール10を挙げ、その構造と製造方法を詳細に説明する。
【0019】
図3に示されるように、レーザモジュール10は、基材であるステム12上に実装されたペルチェ素子14、L字キャリア15およびLDキャリア16を有している。ペルチェ素子14の下面14aは、半田31によってステム12の上面に接合されている。L字キャリア15は、半田32によってペルチェ素子14の上面14aに接合されている。LDキャリア16は、半田33によってL字キャリア15上に固定されている。LDキャリア16上にはLD18が実装されている。ペルチェ素子14は、下部電極14cおよび上部電極14dを有しており、これらの電極間に電圧を印加することにより、下面14aおよび上面14bの一方で吸熱を行い、他方で発熱を行う。ペルチェ素子14の下部電極14c上には、モニタフォトダイオード(Photodiode:PD)22を搭載したPDキャリア24が固定されている。
【0020】
図2に示すように、ペルチェ素子14の上下面の温度差は30〜40℃くらいである。図2を参考にすると、下面14aの温度が280度付近になれば、上面14bの温度は240度付近になる。本実施形態では、この温度差を利用して、上下面同時に、融点の異なる半田を用いた3部品同時実装を行う。具体的には、ステム12とペルチェ素子14の間の半田31としてAuSnを、L字キャリア15とペルチェ素子14の間の半田32としてSnSbを使用し、ステム12の下に配置されたヒータ(図示せず)を用いて、ステム12、ペルチェ素子14およびL字キャリア15を同時に加熱する。ここで、AuSn半田31は、AuとSnの含有比が8:2の共晶合金(融点:約283℃)であり、SnSb半田32は、SnとSbの含有比が91.5:8.5の共晶合金(融点:約238℃)である。ヒータは、図1に示されるヒータ20と同様に、ペルチェ素子14の下面14a側に配置され、ステム12はそのヒータ上に載置される。
【0021】
ペルチェ素子14の下面14bが、上記のヒータによって、AuSn半田31が溶融可能な温度まで加熱されると、ペルチェ素子14の上面14aは、SnSb半田32が溶融可能な温度になる。この結果、二つの半田31、32が同時に溶融する。この後、半田31および32を冷却すれば、ステム12、ペルチェ素子14およびL字キャリア15の3部品が同時に実装される。
【0022】
このような方法によれば、2部品ずつ実装していたときにくらべて融点の高い半田種をL字キャリア15とペルチェ素子14の間の半田32として使用することができるようになる。半田31を溶融させずに溶融する低融点の半田種を半田32として選定する必要はないので、使用する半田種の制限が緩和される。また、ペルチェ素子14が受ける300度付近くらいまでの急激な加熱とその後の急激な冷却は、実装工程において1度だけになるため、ペルチェ素子14の性能が低下しにくい。さらに、従来技術のようにコレットを加熱する必要はないので、製造設備のコストを抑えることができる。
【0023】
以上、本発明をその実施形態に基づいて詳細に説明した。しかし、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0024】
本発明のレーザモジュールの製造に使用する半田は、上記実施形態で挙げたものに限られない。例えば、上記の半田32として、SnSbの代わりにSnAu(含有比Sn:Au=9:1)の共晶合金(融点:約221℃)を使用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、レーザモジュールの製造方法を説明するための概略図である。
【図2】図2は、ペルチェ素子の上下面の温度差を示すグラフである。
【図3】図3は、ペルチェ内蔵同軸TOSAの内部構造を示す概略側面図である。
【符号の説明】
【0026】
10…レーザモジュール、12…ステム、14…ペルチェ素子、15…L字キャリア、16…LDキャリア、18…LD、20…ヒータ、22…モニタPD、24…PDキャリア、31〜33…半田

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
第1の半田によって前記基材に接合された下面を有する熱電冷却器と、
前記第1の半田の融点よりも低い融点を有する第2の半田によって前記熱電冷却器の上面に接合され、少なくともレーザダイオードを搭載するキャリアと、
を備え、
前記熱電冷却器の下面が、当該下面側に配置された加熱手段によって、前記第1の半田を溶融可能な温度まで加熱されると、前記熱電冷却器の上面は、前記第2の半田を溶融可能な温度になる、レーザモジュール。
【請求項2】
前記第1の半田は、金錫系の材料からなり、
前記第2の半田は、錫金系または錫アンチモン系の材料からなる、
請求項1に記載のレーザモジュール。
【請求項3】
レーザダイオードを搭載するキャリア及び該キャリアを搭載する熱電冷却器の基材上へ実装方法であって、
前記基材と前記熱電冷却器の下面との間に第1の半田を配置し、
前記熱電冷却器の上面と前記キャリアとの間に第1の半田よりも融点の低い第2の半田を配置し、
前記熱電冷却器の下面側に配置された加熱手段により、前記第1の半田及び前記第2の半田を同時に溶融させて、前記基材上に前記熱電冷却器を実装すると共に、前記熱電冷却器上に前記キャリアを実装する方法。
【請求項4】
前記第1の半田は、金錫系の材料からなり、
前記第2の半田は、錫金系または錫アンチモン系の材料からなる、
請求項3に記載の実装方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−222145(P2006−222145A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−31949(P2005−31949)
【出願日】平成17年2月8日(2005.2.8)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】