説明

レーザー加工方法およびレーザー加工装置

【課題】透明部材からなる被加工物にパルスレーザー光線を照射して効率よくレーザー加工を施すレーザー加工方法およびレーザー加工装置を提供する。
【解決手段】透明部材からなる被加工物にパルスレーザー光線を照射してレーザー加工を施すレーザー加工方法であって、被加工物の加工領域に第1のパルスレーザー光線を照射して加工領域を荒らす第1のレーザー加工工程と、第1のパルスレーザー光線の直後に第1のパルスレーザー光線の照射によって荒らされた加工領域に第2のパルスレーザー光線を照射して凹みを形成する第2のレーザー加工工程とを含み、第1のレーザー加工工程と第2のレーザー加工工程とを繰り返し実施することにより、連続的に凹み加工を施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明部材からなる被加工物にパルスレーザー光線を照射してレーザー加工を施すレーザー加工方法およびレーザー加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス製造工程においては、略円板形状であるシリコン基板の表面に格子状に配列されたストリートと呼ばれる分割予定ラインによって複数の領域が区画され、この区画された領域にIC、LSI等の回路を形成する。そして、半導体ウエーハをストリートに沿って切断することにより回路が形成された領域を分割して個々の半導体チップを製造している。また、サファイア基板、酸化珪素基板、二酸化珪素基板、リチウムタンタレート基板、リチウムナイオベート基板の表面に窒化ガリウム系化合物半導体等が積層された光デバイスウエーハもストリートに沿って切断することにより個々の発光ダイオード、レーザーダイオード等の光デバイスに分割され、電気機器に広く利用されている。
【0003】
近年、半導体ウエーハ等のウエーハをストリートに沿って分割する方法として、ウエーハに形成されたストリートに沿ってウエーハに対して吸収性を有する波長(例えば532nm、355nm、266nm)のパルスレーザー光線を照射してアブレーション加工することによりレーザー加工溝を形成し、このレーザー加工溝に沿って破断する方法が提案されている。(例えば、特許文献1参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−353935号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
而して、サファイア基板、炭化珪素基板、二酸化珪素基板、リチウムタンタレート基板、リチウムナイオベート基板は透明部材であるため、波長が532nm、355nm、266nmのパルスレーザー光線も透過性を有するので、エネルギーの吸収性が悪く、レーザー加工溝を効率よく形成することが困難である。
【0006】
本発明は上記事実に鑑みてなされたものであり、その主たる技術的課題は、透明部材からなる被加工物にパルスレーザー光線を照射して効率よくレーザー加工を施すレーザー加工方法およびレーザー加工装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記主たる技術課題を解決するため、本発明によれば、透明部材からなる被加工物にパルスレーザー光線を照射してレーザー加工を施すレーザー加工方法であって、
被加工物の加工領域に第1のパルスレーザー光線を照射して加工領域を荒らす第1のレーザー加工工程と、
該第1のパルスレーザー光線の直後に該第1のパルスレーザー光線の照射によって荒らされた加工領域に第2のパルスレーザー光線を照射して凹みを形成する第2のレーザー加工工程と、を含み、
該第1のレーザー加工工程と該第2のレーザー加工工程とを繰り返し実施することにより、連続的に凹み加工を施す、
ことを特徴とするレーザー加工方法が提供される。
【0008】
上記第1のパルスレーザー光線の出力は、上記第2のパルスレーザー光線の出力より大きい値に設定されている。
【0009】
透明部材からなる被加工物にパルスレーザー光線を照射してレーザー加工を施すレーザー加工装置であって、
被加工物を保持する被加工物保持手段と、該被加工物保持手段に保持された被加工物にパルスレーザー光線を照射するパルスレーザー光線照射手段と、該被加工物保持手段と該パルスレーザー光線照射手段とを相対的に移動せしめる加工送り手段と、を具備し、
該パルスレーザー光線照射手段は、パルスレーザー光線発振器と、該パルスレーザー光線発振器から発振されたパルスレーザー光線を第1の経路に導く第1のパルスレーザー光線と第2の経路に導く第2のパルスレーザー光線とに分光する光分岐手段と、該第2の経路に配設され該第2のパルスレーザー光線を遅延させる遅延手段と、該第1のパルスレーザー光線と該第2のパルスレーザー光線を第3の経路に導く誘導手段と、該第3の経路に配設され該第1のパルスレーザー光線と該第2のパルスレーザー光線を集光して該被加工物保持手段に保持された被加工物に照射する集光器と、を具備している、
ことを特徴とするレーザー加工装置が提供される。
【0010】
上記パルスレーザー光線発振器とビームスプリッターとの間に1/2波長板が配設されている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によるレーザー加工方法においては、第1のパルスレーザー光線を照射して加工領域を荒らす第1のレーザー加工工程を実施した直後に、荒らされた加工領域に第2のパルスレーザー光線を照射して凹みを形成する第2のレーザー加工工程が実施されるので、透明部材からなる被加工物であっても第2のパルスレーザー光線が効果的に吸収されて効率よく凹みが加工される。この第1のパルスレーザー光線を照射して加工領域を荒らす第1のレーザー加工工程と荒らされた加工領域に第2のパルスレーザー光線を照射して凹みを形成する第2のレーザー加工工程とを繰り返し実施することにより、連続的な凹みを効率よく形成することができる。
【0012】
また、本発明によるレーザー加工装置は、パルスレーザー光線照射手段が、パルスレーザー光線発振器と、該パルスレーザー光線発振器から発振されたパルスレーザー光線を第1の経路に導く第1のパルスレーザー光線と第2の経路に導く第2のパルスレーザー光線とに分光する光分岐手段と、該第2の経路に配設され該第2のパルスレーザー光線を遅延させる遅延手段と、該第1のパルスレーザー光線と該第2のパルスレーザー光線を第3の経路に導く誘導手段と、該第3の経路に配設され該第1のパルスレーザー光線と第2のパルスレーザー光線を集光して被加工物保持手段に保持された被加工物に照射する集光器と、を具備しているので、上記レーザー加工方法における被加工物の加工領域に第1のパルスレーザー光線を照射して加工領域を荒らす第1のレーザー加工工程と、第1のパルスレーザー光線の直後に第1のパルスレーザー光線の照射によって荒らされた加工領域に第2のパルスレーザー光線を照射して凹みを形成する第2のレーザー加工工程を効率よく実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に従って構成されたレーザー加工装置の斜視図。
【図2】図1に示すレーザー加工装置に装備されるレーザー光線照射手段の構成を簡略に示すブロック図。
【図3】図1に示すレーザー加工装置に装備される制御手段のブロック構成図。
【図4】本発明によるレーザー加工方法によって加工される光デバイスウエーハの斜視図。
【図5】図4に示す光デバイスウエーハを環状のフレームに装着された保護テープに貼着した状態を示す斜視図。
【図6】本発明によるレーザー加工方法におけるレーザー加工溝形成工程の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明によるウエーハのレーザー加工方法およびレーザー加工装置の好適な実施形態について、添付図面を参照して、更に詳細に説明する。
【0015】
図1には、本発明によるレーザー加工方法を実施するためのレーザー加工装置の斜視図が示されている。図1に示すレーザー加工装置1は、静止基台2と、該静止基台2に矢印Xで示す加工送り方向(X軸方向)に移動可能に配設され被加工物を保持するチャックテーブル機構3と、静止基台2に上記X軸方向と直交する矢印Yで示す割り出し送り方向(Y軸方向)に移動可能に配設されたレーザー光線照射ユニット支持機構4と、該レーザー光線照射ユニット支持機構4に矢印Zで示す集光点位置調整方向(Z軸方向)に移動可能に配設されたレーザー光線照射ユニット5とを具備している。
【0016】
上記チャックテーブル機構3は、静止基台2上にX軸方向に沿って平行に配設された一対の案内レール31、31と、該案内レール31、31上にX軸方向に移動可能に配設された第一の滑動ブロック32と、該第1の滑動ブロック32上に矢印Yで示す割り出し送り方向に移動可能に配設された第2の滑動ブロック33と、該第2の滑動ブロック33上に円筒部材34によって支持されたカバーテーブル35と、被加工物保持手段としてのチャックテーブル36を具備している。このチャックテーブル36は多孔性材料から形成された吸着チャック361を具備しており、吸着チャック361上に被加工物である例えば円盤状の半導体ウエーハを図示しない吸引手段によって保持するようになっている。このように構成されたチャックテーブル36は、円筒部材34内に配設された図示しないパルスモータによって回転せしめられる。なお、チャックテーブル36には、後述する環状のフレームを固定するためのクランプ362が配設されている。
【0017】
上記第1の滑動ブロック32は、その下面に上記一対の案内レール31、31と嵌合する一対の被案内溝321、321が設けられているとともに、その上面にY軸方向に沿って平行に形成された一対の案内レール322、322が設けられている。このように構成された第1の滑動ブロック32は、被案内溝321、321が一対の案内レール31、31に嵌合することにより、一対の案内レール31、31に沿ってX軸方向に移動可能に構成される。図示の実施形態におけるチャックテーブル機構3は、第1の滑動ブロック32を一対の案内レール31、31に沿ってX軸方向に移動させるための加工送り手段37を具備している。加工送り手段37は、上記一対の案内レール31と31の間に平行に配設された雄ネジロッド371と、該雄ネジロッド371を回転駆動するためのパルスモータ372等の駆動源を含んでいる。雄ネジロッド371は、その一端が上記静止基台2に固定された軸受ブロック373に回転自在に支持されており、その他端が上記パルスモータ372の出力軸に伝動連結されている。なお、雄ネジロッド371は、第1の滑動ブロック32の中央部下面に突出して設けられた図示しない雌ネジブロックに形成された貫通雌ネジ穴に螺合されている。従って、パルスモータ372によって雄ネジロッド371を正転および逆転駆動することにより、第一の滑動ブロック32は案内レール31、31に沿ってX軸方向に移動せしめられる。
【0018】
図示の実施形態におけるレーザー加工装置は、上記チャックテーブル36の加工送り量を検出するための加工送り量検出手段374を備えている。加工送り量検出手段374は、案内レール31に沿って配設されたリニアスケール374aと、第1の滑動ブロック32に配設され第1の滑動ブロック32とともにリニアスケール374aに沿って移動する読み取りヘッド374bとからなっている。この送り量検出手段374の読み取りヘッド374bは、図示に実施形態においては0.1μm毎に1パルスのパルス信号を後述する制御手段に送る。そして後述する制御手段は、入力したパルス信号をカウントすることにより、チャックテーブル36の加工送り量を検出する。なお、上記加工送り手段37の駆動源としてパルスモータ372を用いた場合には、パルスモータ372に駆動信号を出力する後述する制御手段の駆動パルスをカウントすることにより、チャックテーブル36の加工送り量を検出することもできる。また、上記加工送り手段37の駆動源としてサーボモータを用いた場合には、サーボモータの回転数を検出するロータリーエンコーダが出力するパルス信号を後述する制御手段に送り、制御手段が入力したパルス信号をカウントすることにより、チャックテーブル36の加工送り量を検出することもできる。
【0019】
上記第2の滑動ブロック33は、その下面に上記第1の滑動ブロック32の上面に設けられた一対の案内レール322、322と嵌合する一対の被案内溝331、331が設けられており、この被案内溝331、331を一対の案内レール322、322に嵌合することにより、矢印Yで示す割り出し送り方向に移動可能に構成される。図示の実施形態におけるチャックテーブル機構3は、第2の滑動ブロック33を第1の滑動ブロック32に設けられた一対の案内レール322、322に沿ってY軸方向に移動させるための第1の割り出し送り手段38を具備している。第1の割り出し送り手段38は、上記一対の案内レール322と322の間に平行に配設された雄ネジロッド381と、該雄ネジロッド381を回転駆動するためのパルスモータ382等の駆動源を含んでいる。雄ネジロッド381は、その一端が上記第1の滑動ブロック32の上面に固定された軸受ブロック383に回転自在に支持されており、その他端が上記パルスモータ382の出力軸に伝動連結されている。なお、雄ネジロッド381は、第2の滑動ブロック33の中央部下面に突出して設けられた図示しない雌ネジブロックに形成された貫通雌ネジ穴に螺合されている。従って、パルスモータ382によって雄ネジロッド381を正転および逆転駆動することにより、第2の滑動ブロック33は案内レール322、322に沿ってY軸方向に移動せしめられる。
【0020】
図示の実施形態におけるレーザー加工装置は、上記第2の滑動ブロック33の割り出し加工送り量を検出するための割り出し送り量検出手段384を備えている。割り出し送り量検出手段384は、案内レール322に沿って配設されたリニアスケール384aと、第2の滑動ブロック33に配設され第2の滑動ブロック33とともにリニアスケール384aに沿って移動する読み取りヘッド384bとからなっている。この割り出し送り量検出手段384の読み取りヘッド384bは、図示の実施形態においては0.1μm毎に1パルスのパルス信号を後述する制御手段に送る。そして後述する制御手段は、入力したパルス信号をカウントすることにより、チャックテーブル36の割り出し送り量を検出する。なお、上記第1の割り出し送り手段38の駆動源としてパルスモータ382を用いた場合には、パルスモータ382に駆動信号を出力する後述する制御手段の駆動パルスをカウントすることにより、チャックテーブル36の割り出し送り量を検出することもできる。また、上記第1の割り出し送り手段38の駆動源としてサーボモータを用いた場合には、サーボモータの回転数を検出するロータリーエンコーダが出力するパルス信号を後述する制御手段に送り、制御手段が入力したパルス信号をカウントすることにより、チャックテーブル36の割り出し送り量を検出することもできる。
【0021】
上記レーザー光線照射ユニット支持機構4は、静止基台2上に矢印Yで示す割り出し送り方向に沿って平行に配設された一対の案内レール41、41と、該案内レール41、41上にY軸方向に移動可能に配設された可動支持基台42を具備している。この可動支持基台42は、案内レール41、41上に移動可能に配設された移動支持部421と、該移動支持部421に取り付けられた装着部422とからなっている。装着部422は、一方の側面にZ軸方向に延びる一対の案内レール423、423が平行に設けられている。図示の実施形態におけるレーザー光線照射ユニット支持機構4は、可動支持基台42を一対の案内レール41、41に沿ってY軸方向に移動させるための第2の割り出し送り手段43を具備している。第2の割り出し送り手段43は、上記一対の案内レール41、41の間に平行に配設された雄ネジロッド431と、該雄ネジロッド431を回転駆動するためのパルスモータ432等の駆動源を含んでいる。雄ネジロッド431は、その一端が上記静止基台2に固定された図示しない軸受ブロックに回転自在に支持されており、その他端が上記パルスモータ432の出力軸に伝動連結されている。なお、雄ネジロッド431は、可動支持基台42を構成する移動支持部421の中央部下面に突出して設けられた図示しない雌ネジブロックに形成された雌ネジ穴に螺合されている。このため、パルスモータ432によって雄ネジロッド431を正転および逆転駆動することにより、可動支持基台42は案内レール41、41に沿ってY軸方向に移動せしめられる。
【0022】
図示の実施形態におけるレーザー光線照射ユニット5は、ユニットホルダ51と、該ユニットホルダ51に取り付けられたレーザー光線照射手段52を具備している。ユニットホルダ51は、上記装着部422に設けられた一対の案内レール423、423に摺動可能に嵌合する一対の被案内溝511、511が設けられており、この被案内溝511、511を上記案内レール423、423に嵌合することにより、Z軸方向に移動可能に支持される。
【0023】
図示の実施形態におけるレーザー光線照射ユニット5は、ユニットホルダ51を一対の案内レール423、423に沿ってZ軸方向に移動させるための集光点位置調整手段53を具備している。集光点位置調整手段53は、一対の案内レール423、423の間に配設された雄ネジロッド(図示せず)と、該雄ネジロッドを回転駆動するためのパルスモータ532等の駆動源を含んでおり、パルスモータ532によって図示しない雄ネジロッドを正転および逆転駆動することにより、ユニットホルダ51およびレーザー光線照射手段52を案内レール423、423に沿ってZ軸方向に移動せしめる。なお、図示の実施形態においてはパルスモータ532を正転駆動することによりレーザー光線照射手段52を上方に移動し、パルスモータ532を逆転駆動することによりレーザー光線照射手段52を下方に移動するようになっている。
【0024】
上記レーザー光線照射手段52について、図1および図2を参照して説明する。
図示のレーザー光線照射手段52は、上記ユニットホルダ51に固定され実質上水平に延出する円筒形状のケーシング521と、該ケーシング521内に配設されたパルスレーザー光線発振手段522と、該パルスレーザー光線発振手段522によって発振されたパルスレーザー光線LBの出力を調整する出力調整手段523と、該出力調整手段523によって出力が調整されたパルスレーザー光線LBの偏光面を回転せしめる1/2波長板524と、該1/2波長板524によって偏光面が回転せしめられたパルスレーザー光線を第1の経路52aに導く第1のパルスレーザー光線LB1と第2の経路52bに導く第2のパルスレーザー光線LB2とに分光するビームスプリッターからなる光分岐手段525と、該第2の経路52bに配設され該第2のパルスレーザー光線LB2を遅延させる遅延手段526と、第1のパルスレーザー光線LB1と第2のパルスレーザー光線LB2を第3の経路52cに導く誘導手段527と、第3の経路52cに配設され第1のパルスレーザー光線LB1と第2のパルスレーザー光線LB2を集光してチャックテーブル36に保持された被加工物Wに照射する集光レンズ528を具備している。なお、上記光分岐手段525と誘導手段527との間には光分岐手段525によって第1の経路52aに導かれた第1のパルスレーザー光線LB1を誘導手段527に向けて方向変換する方向変換ミラー529aが配設されており、上記遅延手段526と誘導手段527との間には光分岐手段525によって第2の経路52bに導かれ遅延手段526によって遅延された第2のパルスレーザー光線LB2を誘導手段527に向けて方向変換する方向変換ミラー529bが配設されている。
【0025】
上記パルスレーザー光線発振手段522は、YAGレーザー発振器或いはYVO4レーザー発振器からなるパルスレーザー光線発振器522aと、これに付設された繰り返し周波数設定手段522bとから構成されている。上記出力調整手段523は、パルスレーザー光線発振手段522から発振されたパルスレーザー光線LBの出力を所定の出力に調整する。これらパルスレーザー光線発振手段522および出力調整手段523は、後述する制御手段によって制御される。
【0026】
上記1/2波長板524は、パルスレーザー光線LBの偏光面を回転せしめる割合を調整することにより、光分岐手段525によって第1の経路52aに導かれる第1のパルスレーザー光線LB1と第2の経路52bに導かれる第2のパルスレーザー光線LB2との比率を変更する。例えば1/2波長板524を45度回動すると光分岐手段525によって第1の経路52aに導かれる第1のパルスレーザー光線LB1と第2の経路52b導かれる第2のパルスレーザー光線LB2はそれぞれ50%となる。また、1/2波長板524を例えば30度回動すると光分岐手段525によって第1の経路52aに導かれる第1のパルスレーザー光線LB1が約66.5%、第2の経路52b導かれる第2のパルスレーザー光線LB2はそれぞれ約33.5%となる。
【0027】
上記遅延手段526は、石英や二酸化珪素(SiO2)等の屈折率の高い部材によって形成され、通過時間を長くして実質的に光路長を長くし上記第1のパルスレーザー光線LB1に対して例えば1/1000000秒遅らせて誘導手段527に到達するように設定されている。なお、誘導手段527は、上記光分岐手段525によって第1の経路52aに導かれる第1のパルスレーザー光線LB1と第2の経路52bに導かれる第2のパルスレーザー光線LB2をそれぞれ集光レンズ528に向けて導く集合ビームスプリッターからなっている。
【0028】
図1に戻って説明を続けると、上記レーザー光線照射手段52を構成するケーシング521の先端部には、レーザー光線照射手段52によってレーザー加工すべき加工領域を検出する撮像手段6が配設されている。この撮像手段6は、可視光線によって撮像する通常の撮像素子(CCD)の外に、被加工物に赤外線を照射する赤外線照明手段と、該赤外線照明手段によって照射された赤外線を捕らえる光学系と、該光学系によって捕らえられた赤外線に対応した電気信号を出力する撮像素子(赤外線CCD)等で構成されており、撮像した画像信号を後述する制御手段8に送る。
【0029】
図示の実施形態におけるレーザー加工装置は、図3に示す制御手段8を具備している。制御手段8はコンピュータによって構成されており、制御プログラムに従って演算処理する中央処理装置(CPU)81と、制御プログラム等を格納するリードオンリメモリ(ROM)82と、演算結果等を格納する読み書き可能なランダムアクセスメモリ(RAM)83と、カウンター84と、入力インターフェース85および出力インターフェース86とを備えている。制御手段8の入力インターフェース85には、上記加工送り量検出手段374、割り出し送り量検出手段384および撮像手段6等からの検出信号が入力される。そして、制御手段8の出力インターフェース86からは、上記パルスモータ372、パルスモータ382、パルスモータ432、パルスモータ532、レーザー光線照射手段52のパルスレーザー光線発振手段522、出力調整手段523等に制御信号を出力する。
【0030】
図示の実施形態におけるレーザー加工装置は以上のように構成されており、以下その作用について説明する。
図4には、本発明によるレーザー加工方法に従って加工される光デバイスウエーハの斜視図が示されている。図4に示す光デバイスウエーハ10は、例えば厚みが100μmのサファイア基板、炭化珪素基板、二酸化珪素基板、リチウムタンタレート基板、リチウムナイオベート基板等の透明基板の表面10aに例えば窒化物半導体からなる光デバイス層が積層されている。そして、格子状に形成された複数のストリート101によって区画された複数の領域に発光ダイオード、レーザーダイオード等の光デバイス102が形成されている。以下、上述したレーザー加工装置を用いて光デバイスウエーハ10に対してアブレーション加工を施すレーザー光線を基板の表面または裏面側からストリートに沿って照射し、基板の表面または裏面に破断起点となるレーザー加工溝を形成するレーザー加工溝形成工程について説明する。
【0031】
先ず、光デバイスウエーハ10の裏面10bを環状のフレームに装着されたダイシングテープの表面に貼着するウエーハ支持工程を実施する。即ち、図5の(a)および(b)に示すように、環状のフレームFの内側開口部を覆うように外周部が装着されたダイシングテープTの表面に上記光デバイスウエーハ10の裏面10bを貼着する。
【0032】
上述したウエーハ支持工程を実施したならば、図1に示すレーザー加工装置のチャックテーブル36上に光デバイスウエーハ10のダイシングテープT側を載置する。そして、図示しない吸引手段を作動することにより、ダイシングテープTを介して光デバイスウエーハ10をチャックテーブル36上に吸引保持する(ウエーハ保持工程)。従って、チャックテーブル36に保持された光デバイスウエーハ10は、表面10aが上側となる。
【0033】
上述したように光デバイスウエーハ10を吸引保持したチャックテーブル36は、加工送り手段37によって撮像手段6の直下に位置付けられる。チャックテーブル36が撮像手段6の直下に位置付けられると、撮像手段6および図示しない制御手段によって光デバイスウエーハ10のレーザー加工すべき加工領域を検出するアライメント作業を実行する。即ち、撮像手段6および図示しない制御手段は、光デバイスウエーハ10の所定方向に形成されているストリート101と、ストリート101に沿ってレーザー光線を照射するレーザー光線照射手段52の集光レンズ528との位置合わせを行うためのパターンマッチング等の画像処理を実行し、レーザー光線照射位置のアライメントを遂行する。また、光デバイスウエーハ10に形成されている上記所定方向に対して直交する方向に延びるストリート101に対しても、同様にレーザー光線照射位置のアライメントが遂行される。
【0034】
以上のようにしてチャックテーブル36上に保持された光デバイスウエーハ10に形成されているストリート101を検出し、レーザー光線照射位置のアライメントが行われたならば、図6の(a)で示すようにチャックテーブル36をレーザー光線照射手段52の集光レンズ528が位置するレーザー光線照射領域に移動し、所定のストリート101の一端(図6の(a)において左端)を集光レンズ528の直下に位置付ける。そして、集光レンズ528を通して照射されるパルスレーザー光線の集光点Pを光デバイスウエーハ10の表面10a(上面)付近に位置付ける。
【0035】
次に、レーザー光線照射手段52を作動し集光レンズ528を通して上記図2に示す第1のパルスレーザー光線LB1を照射して加工領域を荒らす第1のレーザー加工工程と、第1のパルスレーザー光線LB1の照射によって荒らされた加工領域に第2のパルスレーザー光線LB2を照射して凹みを形成する第2のレーザー加工工程とを交互に実施するとともに、チャックテーブル36を図6の(a)において矢印X1で示す方向に所定の加工送り速度で移動せしめる。そして、図6の(b)で示すようにレーザー光線照射手段52の集光レンズ528の照射位置がストリート101の他端(図6の(b)において右端)の位置に達したら、パルスレーザー光線の照射を停止するとともにチャックテーブル36の移動を停止する(レーザー加工溝形成工程)。
【0036】
上記レーザー加工溝形成工程における加工条件は、例えば次のように設定されている。
レーザー光線の波長 :532nm、355nm、266nm
繰り返し周波数 :50kHz
平均出力 :2W
第1のパルスレーザー光線LB1:1.5W
第2のパルスレーザー光線LB2:0.5W
遅延時間 :1/1M秒
集光スポット径 :φ15μm
加工送り速度 :100mm/秒
【0037】
上記レーザー加工溝形成工程においては、第1のパルスレーザー光線LB1を照射して加工領域を荒らす第1のレーザー加工工程を実施した直後に、荒らされた加工領域に第2のパルスレーザー光線LB2を照射して凹みを形成する第2のレーザー加工工程が実施されるので、透明部材からなる光デバイスウエーハ10であっても第2のパルスレーザー光線LB2が効果的に吸収されて効率よく凹みが加工される。この第1のパルスレーザー光線LB1を照射して加工領域を荒らす第1のレーザー加工工程と荒らされた加工領域に第2のパルスレーザー光線LB2を照射して凹みを形成する第2のレーザー加工工程とを繰り返し実施することにより、図6の(b)および(c)に示すようにストリート101に沿って連続的な凹みであるレーザー加工溝110が形成される。なお、上述した実施形態においては、第1のレーザー加工工程において照射する第1のパルスレーザー光線LB1の出力が第2のレーザー加工工程において照射する第2のパルスレーザー光線LB2の出力より高い値に設定されているので、加工領域を効果的に荒らすことができる。
【0038】
以上のようにして、光デバイスウエーハ10の所定方向に延在する全てのストリート101に沿って上記レーザー加工溝形成工程を実施したならば、チャックテーブル36を90度回動せしめて、上記所定方向に対して直交する方向に形成された各ストリート101に沿って上記レーザー加工溝形成工程を実施する。
【0039】
上述したレーザー加工溝形成工程が実施された光デバイスウエーハ10は、外力を付与することにより破断起点となるレーザー加工溝110が形成されたストリート101に沿って破断し、個々の光デバイスに分割するウエーハ分割工程に搬送される。
【符号の説明】
【0040】
1:レーザー加工装置
2:静止基台
3:チャックテーブル機構
36:チャックテーブル
37:加工送り手段
38:第1の割り出し送り手段
4:レーザー光線照射ユニット支持機構
43:第2の割り出し送り手段
5:レーザー光線照射ユニット
52:レーザー光線照射手段
522:パルスレーザー光線発振手段
523:出力調整手段
524:1/2波長板
525:光分岐手段
526:遅延手段
527:誘導手段
528:集光レンズ
6:撮像手段
8:制御手段
10:光デバイスウエーハ
F:環状のフレーム
T:ダイシングテープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明部材からなる被加工物にパルスレーザー光線を照射してレーザー加工を施すレーザー加工方法であって、
被加工物の加工領域に第1のパルスレーザー光線を照射して加工領域を荒らす第1のレーザー加工工程と、
該第1のパルスレーザー光線の直後に該第1のパルスレーザー光線の照射によって荒らされた加工領域に第2のパルスレーザー光線を照射して凹みを形成する第2のレーザー加工工程と、を含み、
該第1のレーザー加工工程と該第2のレーザー加工工程とを繰り返し実施することにより、連続的に凹み加工を施す、
ことを特徴とするレーザー加工方法。
【請求項2】
該第1のパルスレーザー光線の出力は、該第2のパルスレーザー光線の出力より大きい値に設定されている、請求項1記載のレーザー加工方法。
【請求項3】
透明部材からなる被加工物にパルスレーザー光線を照射してレーザー加工を施すレーザー加工装置であって、
被加工物を保持する被加工物保持手段と、該被加工物保持手段に保持された被加工物にパルスレーザー光線を照射するパルスレーザー光線照射手段と、該被加工物保持手段と該パルスレーザー光線照射手段とを相対的に移動せしめる移動手段と、を具備し、
該パルスレーザー光線照射手段は、パルスレーザー光線発振器と、該パルスレーザー光線発振器から発振されたパルスレーザー光線を第1の経路に導く第1のパルスレーザー光線と第2の経路に導く第2のパルスレーザー光線とに分光する光分岐手段と、該第2の経路に配設され該第2のパルスレーザー光線を遅延させる遅延手段と、該第1のパルスレーザー光線と該第2のパルスレーザー光線を第3の経路に導く誘導手段と、該第3の経路に配設され該第1のパルスレーザー光線と該第2のパルスレーザー光線を集光して該被加工物保持手段に保持された被加工物に照射する集光器と、を具備している、
ことを特徴とするレーザー加工装置。
【請求項4】
該パルスレーザー光線発振器と該光分岐手段との間に1/2波長板が配設されている、請求項3記載のレーザー加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−240082(P2012−240082A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−112484(P2011−112484)
【出願日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(000134051)株式会社ディスコ (2,397)
【Fターム(参考)】