説明

レーザ加工装置およびレーザ加工方法

【課題】発塵や変形などの、ガラス物体の外側への影響がないように、ガラス物体の内部の任意の範囲を改質して強化する。
【解決手段】クラック修正装置100は、超短パルスレーザ光を射出するレーザーユニット102と、レーザ光をガラス基板1の内部に集光する集光光学系104を備える。クラック修正装置100は、レーザ光を照射すべき照射範囲2が決定すると、集光光学系104の焦点が照射範囲2に位置するように、集光光学系104とガラス基板1との相対位置を制御する。レーザーユニット102は、照射範囲2においてガラス基板1の内部が溶融するように、上記のようにして相対位置が制御された状態で、レーザ光を照射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光を用いてガラス物体を加工する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラスは広く工業製品に利用されており、ガラス物体を加工するための様々な技術も知られている。例えば、レーザ光を用いてガラス基板を割断するレーザダイシング技術が知られている。
【0003】
しかし、レーザダイシング技術は、加熱によるクラック(ひび割れ)の発生のしやすさの証左でもある。そして、一般には、望まないクラックは各種の問題を引き起こす原因である。従来、ガラスの溶融溶接は、加熱によるクラックの発生をともなうために一般の条件下では実用不能な加工方法である、と考えられていた。
【0004】
ところが近年、パルス幅がフェムト秒(fs)乃至ピコ秒(ps)のオーダーであるような超短パルスレーザ光を用いたガラスの溶融溶接技術が知られるようになった(例えば、非特許文献1を参照。)。超短パルスレーザを用いることで、クラックの発生をともなわずに、ガラス板同士を溶融溶接することが可能である。また、超短パルスレーザが照射された領域のガラスは、改質されて強度が増す。
【0005】
このように、ガラスの加工技術には様々なものがあり、様々な分野でガラスを用いた製品が製造されている。しかしながら、依然として、製造工程における機械的衝撃などによってチップ(欠け)またはクラックが発生するのを完全に抑制することは難しい。また、機械的衝撃以外にも熱ストレスなどが原因でクラックが発生することは避けがたい。そして、チップが成長してクラックとなる可能性もあり、クラックが成長して製造途中の製品が完全に割れてしまう可能性もある。
【0006】
そこで、チップまたはクラックに関して、発生を防ぎ、発生後には成長を抑制し、可能なら修正するための各種の対策が求められる。
例えば、近年では、薄板ガラスを基板として用いた薄型表示装置が広く製造されている。薄型表示装置は一般にフラットパネルディスプレイ(FPD;Flat Panel Display)と呼ばれる。FPDには、液晶ディスプレイ(LCD;Liquid Crystal Display)、プラズマディスプレイパネル(PDP;Plasma Display Panel)、有機EL(ElectroLuminescence)ディスプレイ、表面電界ディスプレイ(SED;Surface-conduction Electron-emitter Display)などがある。
【0007】
近年、FPD用の「マザーガラス」と呼ばれるガラス基板の大型化は著しく、クラックへの対策の重要性が増している。その理由は下記のとおりである。
第1に、何らかの原因で生じたクラックが成長してガラス基板が割れてしまうと、1枚のガラス基板から製造するはずだった複数枚のディスプレイパネルのすべてを廃棄せざるを得ない。近年はガラス基板および個々のディスプレイパネルが大型化しており、それにともなって価格も高価になっている。よって、高単価の材料であるガラス基板の損失という意味からも、本来販売して利益を得るはずだった個々のディスプレイパネルの損失という意味からも、ガラス基板が割れたときの金銭的損失が大きい。
【0008】
第2に、ガラス基板が割れるときには一般に細かい粒子が飛散するが、FPDの製造において粉塵は、表示不良をもたらす原因であり、避けねばならない。よって、1枚のガラス基板が製造途中に割れると、生産ラインを止めて、クリーンルームおよびFPD製造装置などの各種装置を清掃しなくてはならない。清掃にかかる労力は多大である。また、割れたガラス基板と同じ室内で製造中だった他のガラス基板は、飛散した粒子が付着しているので廃棄せざるを得ない。
【0009】
第3に、クリーンルームと各種装置を清掃し、生産ラインが復旧するまでには長時間を要する。すなわち、生産ラインを止めることによって、本来製造することができたはずの製品の製造が不可能になり、機会損失も大きい。
【0010】
第4に、上記の第1〜第3の理由から、ガラス基板が完全に割れてしまうことは可能な限り避けるべきであり、そのため、予防的にガラス基板の廃棄が行われることがある。例えば、まだ割れてはいないがクラックが生じているガラス基板は、割れる可能性が高いので、次工程に送らずに廃棄することがある。予防的に廃棄されるガラス基板についても、当然、第1の理由と同様の金銭的損失が生じる。
【0011】
このような種々の理由から、FPDの製造過程においては、たとえクラックが発生してもガラス基板全体が割れてしまわないように、クラックを修復することが求められる。
例えば、ガラス基板の少なくとも一方の面に予め修復用金属膜を形成しておき、このガラス基板にクラックが生じた場合に、修復用金属膜を介してクラック発生部にレーザ光を照射して該クラック発生部のガラスを溶融し、クラックを修復することもできる(例えば、特許文献1を参照。)。
【0012】
また、例えば、液晶を挟んで互いに対向する一対のガラス基板を有する液晶表示装置において、一対のガラス基板の側端面に、レーザ光の照射によって熱処理を加えることができる。ガラス基板の側端面には、液晶パネルの製造過程においてクラックが生じることがあるが、熱処理によって基板側面の適所を溶解することによりそのクラックを消滅することができる(例えば、特許文献2を参照。)。
【非特許文献1】宮本勇「超短パルスレーザによるガラスの新しい溶融溶接技術」、日本機械学会誌、2007年11月、第110巻、第1068号、853〜855ページ
【特許文献1】特開2006−206372号公報
【特許文献2】特開平10−111497号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、修復用金属膜の形成は、製造工程数の増加をもたらし、また、修復用金属膜の剥離による発塵を招くおそれがある。
また、側端面からのレーザ光の照射では、側端面から離れた箇所まで進行したクラックの先端付近に十分な熱処理を加えることは難しい。よって、クラックの先端が熱処理されずに残り、そこからクラックが成長するおそれがある。逆に言えば、クラックの先端付近に十分な熱処理を加えるには、高出力でレーザ光を照射する必要があり、側端面付近での熱変形などの熱による各種の影響が懸念される。
【0014】
そこで本発明の目的は、発塵や変形などの、ガラス物体の外側への影響がないように、ガラス物体の内部の任意の範囲を改質して強化する装置および方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一態様によればレーザ加工装置が提供され、本発明の他の態様によれば前記レーザ加工装置が実行する方法が提供される。
前記レーザ加工装置は、レーザ光を用いてガラス物体を加工するレーザ加工装置であって、射出手段と集光光学系と決定手段と制御手段とを備える。
【0016】
前記射出手段は、前記レーザ光をレーザ光源から射出する。
前記集光光学系は、前記レーザ光源から射出された前記レーザ光を前記ガラス物体の内部に集光する。
【0017】
前記決定手段は、前記ガラス物体の前記内部において前記レーザ光を照射すべき照射範囲を決定するための手段である。
前記制御手段は、前記集光光学系の焦点が、前記決定手段が決定した前記照射範囲に位置するように、前記集光光学系と前記ガラス物体との相対位置を制御する。
【0018】
そして、前記射出手段は、前記レーザ光の前記照射範囲への照射により前記照射範囲において前記ガラス物体の前記内部を溶融させるように、前記制御手段によって前記相対位置が制御された状態で前記レーザ光を前記レーザ光源から射出する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ガラス物体の内部に決定された照射範囲に集光光学系の焦点が位置した状態でレーザ光が照射される。よって、焦点の合っていないガラス物体の外面にレーザ光が与える影響はごくわずかである。また、本発明では、金属膜等の補助的な物質を利用していないので、発塵のおそれもない。
【0020】
また、本発明によれば、集光光学系とガラス物体との相対位置が制御されるので、例えば側端面といった特定の箇所のみからしかレーザ光の照射が行われない場合と比較して、加工可能な範囲の自由度が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら次の順序で詳細に説明する。
まず、いくつか前提条件について述べてから、FPD用のガラス基板に生じたクラックを修正するクラック修正装置に関する第1実施形態について、図1〜図5を参照して説明する。
【0022】
その後、第1実施形態のクラック修正装置の各部の配置を変形した第2実施形態について、図6を参照して説明する。さらに、第1および第2実施形態におけるレーザ照射の様々なパターンについて、図7〜図10を参照して説明する。最後に、その他の様々な実施形態について説明する。なお、同様の構成要素には同じ参照符号を付して、適宜説明を省略する。
【0023】
さて、第1実施形態は、FPD用のガラス基板に生じたクラックの修正に関する実施形態である。すなわち、第1実施形態において、加工すべきガラス物体は、FPD用のガラス基板であり、「加工」の種類は、クラックを修正するための加工である。なお、FPDは複数の工程を経て製造されるが、第1実施形態によるクラックの修正は、任意の段階で行うことができる。
【0024】
以下では特に断らない限り、クラックの「修正」とは、クラックの一部または全部を消滅させることだけではなく、クラックがさらに成長するのを抑止するための加工も含むものとする。
【0025】
また、以下では「ガラス基板」は、表面すなわち上面に回路パターンなどが形成されたものも、まだ回路パターンが形成されていないものも含む。説明の簡単化のため、ガラス基板は薄板状であり、回路パターンを形成すべき表面が長方形であると仮定する。そして、長方形の互いに直交する2辺の方向の座標軸をx軸およびy軸とし、ガラス基板の厚み方向の座標軸をz軸とする。
【0026】
FPDには様々な種類があるが、第1実施形態におけるガラス基板は、どの種類のFPDのガラス基板であってもよい。例えば、LCD用や有機ELディスプレイ用には約0.7mmの厚みのガラス基板が広く使われ、PDP用には約1.4mmの厚みのガラス基板が広く使われている。また、ガラス基板の縦と横の寸法も様々である。しかし、いずれの種類のガラス基板に対しても、本実施形態のクラック修正装置100によるクラックの修正が可能である。
【0027】
また、以下の説明における「ユーザ」は、例えばFPD製造工場においてクラックの修正工程を担当する職員などである。
以下、第1実施形態における装置の構成および動作について詳細に説明する。
【0028】
図1は、第1実施形態によるクラック修正装置100の構成図である。クラック修正装置100は、ガラス基板1を載置するステージ101と、ガラス基板1にレーザ光を照射するためのレーザーユニット102を備える。レーザーユニット102は、図3に示すレーザ光源115からレーザ光を射出する射出手段として機能し、射出のタイミングの制御や、射出するレーザ光の断面形状の制御なども行う。
【0029】
また、クラック修正装置100は、ステージ移動機構103も備えている。ステージ移動機構103は、ガラス基板1内部の任意の範囲にレーザ光を照射することができるようにするため、かつ、ガラス基板1の任意の位置を観察面とするための機構である。ステージ移動機構103は、レーザーユニット102からガラス基板1までレーザ光を導く光学系と、ガラス基板1との相対位置を、x方向およびy方向に移動させる機能を有する。
【0030】
なお、一般には、ガラス基板1、クラック修正装置100、および後述する不図示のクラック検出装置のそれぞれを基準とした異なる3つの座標系が存在する。そして、例えばクラック検出装置とクラック修正装置100など、異なる装置間でやり取りされる座標のデータは、ガラス基板1を基準とした座標系により表される。そして、ガラス基板1、クラック検出装置、およびクラック修正装置100にはそれぞれ、歪み、たわみ、および反りがある。
【0031】
そのため、一般には、座標系間での座標の変換には、何らかの補正が必要である。しかし、本実施形態では座標系変換のための任意の補正手法を利用することができるので、以下では、座標系変換の誤差の影響はないものとして説明する。
【0032】
すなわち、図1に示したxyz座標系は、上記のとおりガラス基板1を基準として各座標軸の方向が定められている。クラック修正装置100は、実際には、クラック修正装置100自体を基準とした、xyz座標系とは異なる座標系に基づいて位置の認識などを行う。しかし、適切な補正が行われるという前提のもとでは、座標系変換による誤差の影響なしに、クラック修正装置100がxyz座標系にしたがって位置を認識し、所望の位置への相対移動を行うことができる。したがって、以下では、座標系としてxyz座標系のみを示す。
【0033】
ここで、クラック修正装置100の構成の説明に戻ると、クラック修正装置100は、さらに集光光学系104を備える。集光光学系104は、レーザーユニット102が備える不図示のレーザ光源から射出されたレーザ光を、ガラス基板1の内部に集光する光学系であり、対物レンズおよびその他の光学素子を備える。
【0034】
対物レンズの光軸はz軸に平行であり、集光光学系104とガラス基板1とのz方向の相対位置は調節可能である。よって、ガラス基板1内部の任意の深さに対物レンズの焦点を設定することができる。
【0035】
また、第1実施形態においてレーザーユニット102からガラス基板1までレーザ光を導く光学系は、ミラー105と、レーザ光をガラス基板1の内部で結像させるための結像レンズ106と、ビームスプリッタ107と、上記集光光学系104とを含む。
【0036】
さらに、クラック修正装置100は、修正すべきクラックや修正の結果などをユーザが観察するための観察系108も備えている。詳しくは図3とともに後述するが、観察系108は、例えば撮像部120と表示部121を含む。
【0037】
以上のように構成されたクラック修正装置100におけるクラックの修正の概要は以下のとおりである。
まず、ガラス基板1の内部においてレーザ光を照射すべき照射範囲2が決められる。照射範囲2の決定の詳細については後述するが、クラックの修正に適した範囲が照射範囲2として決められる。
【0038】
例えば、図1は、ガラス基板1内部の照射範囲2にレーザ光を照射すべきである、と決められた例を示す。照射範囲2は、例えばレーザ光のスポット照射によって照射される範囲であってもよいし、直線状または曲線状の範囲であってもよい。
【0039】
照射範囲2が決定されると、集光光学系104の対物レンズの焦点が照射範囲2に位置するように、集光光学系104とガラス基板1との相対位置が、x方向、y方向、およびz方向にそれぞれ制御され、調整される。そして、その状態で、レーザーユニット102がレーザ光をレーザ光源から射出する。
【0040】
すると、レーザーユニット102から射出されたレーザ光は、ミラー105で反射し、結像レンズ106を介してビームスプリッタ107に到達し、ビームスプリッタ107で反射されて集光光学系104に入射する。
【0041】
ここで、集光光学系104は、対物レンズの焦点が照射範囲2に位置するように既に調整されているので、集光光学系104に入射したレーザ光は、照射範囲2に照射される。クラック修正装置100は、図1に示したとおり、ガラス基板1の表面から、z軸に平行な集光光学系104の光軸に沿って、レーザ光をガラス基板1の内部の照射範囲2に照射するように、各部が配置されている。
【0042】
ガラス基板1に使われたガラスの物性などに応じて、適切な波長および波形のレーザ光を生成するレーザーユニット102が、適切な時間にわたってレーザ光の照射を続けると、照射範囲2においてガラス基板1は溶融する。
【0043】
例えば、レーザ光の好適な波形として、パルス幅が10ps以下でパルス繰り返し周波数が100kHz〜1MHz程度のパルス波形が挙げられる。パルス幅がfs乃至psのオーダーである超短パルスレーザ光によってガラス物体を溶融することができることは、近年知られるようになってきており、上述のとおり、例えばガラス板同士の溶融溶接に利用されている。本実施形態では、超短パルスレーザ光によるガラス物体の溶融現象を、クラックの修正に利用している。
【0044】
例えば10ps以下といった非常に狭いパルス幅のレーザ光を使用することで、レーザ光が照射された箇所から近傍への熱の拡散の影響が非常に小さくなる。したがって、超短パルスレーザ光の使用により、照射範囲2という特定の範囲のみを選択的に加熱し溶融することが可能となる。
【0045】
また、例えば100kHz〜1MHzといった高いパルス繰り返し周波数でレーザ光を照射することにより、照射範囲2内のガラスに熱を効率よく伝えることが可能となる。
なお、集光光学系104の対物レンズは、例えば収差補正が加えられたものが好ましい。なぜなら、エネルギー密度の高い集光点のごく近傍ではガラスの温度が急激に上昇して溶融する一方で、集光点から離れた箇所では温度上昇の影響がほとんどない、といった選択的な加工における対照が、より際立つからである。
【0046】
レーザ光の強度、パルス幅、パルス繰り返し周波数、照射時間、および波長などは、例えば実験によって調べた適切な値とすることが好ましい。
レーザ光の照射によって溶融した照射範囲2内のガラスは改質され、強化される。また、照射範囲2内にクラックによる約10μm以下の幅の微小な空隙があった場合、溶融したガラスによって空隙がふさがれる。したがって、照射範囲2の溶融により、クラックの成長を抑制し、クラックの少なくとも一部を消滅させることが可能であり、換言すれば、上記で定義した意味においてクラックを「修正」することができる。
【0047】
また、ガラス基板1の表面で反射した照明光などの光は、集光光学系104を介してビームスプリッタ107に入射し、ビームスプリッタ107を透過して観察系108に至る。ユーザは、観察系108を介してガラス基板1の状態を表面から観察することができる。つまり、ビームスプリッタ107は、レーザ光の光路と観察系108の光軸とを、加工対象であり観察対象でもあるガラス基板1上で一致させる。
【0048】
続いて、修正の対象であるガラス基板1の具体例を、図2とあわせて説明する。
図2は、クラックとチップの発生したガラス基板の例を示す上面図である。すなわち、図2において垂直方向の軸がx軸、水平方向の軸がy軸、紙面を貫く軸がz軸である。
【0049】
図2のガラス基板1は、4枚のパネルを製造するためのもので、図2は各パネルに対応した4つのパネル領域4a〜4dの長方形を含む。図2では、図示の都合上、クラックおよびチップを大きく表現している。
【0050】
例えば、ガラス基板1をステージ101上に位置決めする際の機械的な衝撃や、ガラス基板1をステージ101上で保持するためにクランプで挟むことなどが原因で、ガラス基板1にはチップ5aや5bなどが生じることがある。そして、チップ5bから延びているクラック3aとして図示したように、一旦生じたチップからは、クラックが成長することがある。もちろん、チップの発生以外の要因によってクラックが生じることもある。
【0051】
例えば、クラック3bのように、どのパネル領域4a〜4dとも重ならないクラックは、今すぐ直接にFPD製品の品質劣化を引き起こすものではない。しかし、クラック3bは、成長して例えばパネル領域4bに至ってパネルの不良の原因となる可能性もあり、最悪の場合はガラス基板1が割れる原因となる可能性もある。したがって、クラックの発生が検出されたら、発生場所や大きさによらず修正することが望ましい。
【0052】
また、検出のタイミングによっては、既にパネル領域4bにまで進行した状態でクラック3cが検出されることもある。この場合も、クラック3cの修正は決して手遅れではない。
【0053】
つまり、クラック3cによってパネル領域4bは損傷されているが、パネル領域4a、4cおよび4dはまだ損傷されていない。そこで、ガラス基板1から3枚のパネルだけでも製造すれば、金銭的損失を最小限に食い止めることができる。そのためには、ガラス基板1が割れてしまうことを防ぐ必要があり、具体的にはクラック3cを修正し、クラック3cの進行を阻止することが必要である。すなわち、クラックの進行の度合いによらず、検出したクラックを修正することが、歩留まり向上に寄与する。
【0054】
このように、第1実施形態は、様々な状態のクラックの修正を対象としている。以下では、クラック修正装置100のより詳細な機能と動作について説明する。
図3は、第1実施形態によるクラック修正装置100の機能ブロック図であり、図1をより詳細に表した図である。図3には、図1と同様にガラス基板1、ステージ101、レーザーユニット102、ステージ移動機構103、集光光学系104、ミラー105、結像レンズ106、ビームスプリッタ107、および観察系108が示されている。
【0055】
また、図3では、レーザーユニット102からガラス基板1へ至る光路上の光学系が、機能に応じてレーザ光学系109、観察光学系110、集光光学系104、と分類されている。レーザー光学系109は、図1にも示したミラー105および結像レンズ106を含む。
【0056】
また、クラック修正装置100は、各部を制御する制御部111を備える。制御部111は、汎用的なコンピュータにより実現することもでき、専用のハードウェア回路により実現することもできる。
【0057】
例えば、制御部111を実現するコンピュータは、CPU(Central Processing Unit)と、プログラムなどを格納するROM(Read Only Memory)と、作業領域として使われるRAM(Random Access Memory)と、ハードディスク装置などの外部記憶装置とを備え、これらの要素はバスで互いに接続されている。コンピュータはさらに、コンピュータ読み取り可能な可搬型記憶媒体の駆動装置を備えていてもよい。ROM、ハードディスク装置、または駆動装置にセットされた可搬型記憶媒体に格納されたプログラムを、CPUがRAMにロードして実行することにより、後述の制御部111内の各部の機能が実現される。
【0058】
図3に示すように、クラック修正装置100はさらに、ユーザからのデータ入力を受け付けるためのデータ入力部112、および外部の装置との通信を行うための通信部113を備える。例えば、コンピュータが制御部111を実現する場合、データ入力部112は、コンピュータが備える、マウスまたはタッチパネルなどのポインティングデバイス、キーボード、マイクなどの1種以上の入力装置であってもよい。また、通信部113は、制御部111を実現するコンピュータが備える、有線または無線による通信インターフェイスであってもよい。
【0059】
さらに、クラック修正装置100は、クラック修正装置100におけるワークであるガラス基板1の搬入および搬出を行うワーク入れ替え部114を備える。ワーク入れ替え部114は、例えば、先端に把持用のクランプを有するアームを備えた機構であってもよい。あるいは、ステージ101が、空気の噴出によりガラス基板1を浮上させる浮上式ステージである場合は、ワーク入れ替え部114は、空気の噴出を制御することで、ガラス基板1を特定の方向に動かし、ガラス基板1の入れ替えを行う機構であってもよい。
【0060】
また、図1におけるレーザーユニット102は、図3に示すように、レーザ光源115、レーザ発振制御部116、ガイド照明光源117、ビームスプリッタ118、および加工形状設定部119を備える。
【0061】
レーザ光源115はレーザ光を射出し、レーザ発振制御部116はレーザ光源115におけるレーザ発振を制御する。例えば、レーザ発振制御部116は照射時間および照射タイミングを制御する。レーザ光の強度、パルス幅、パルス繰り返し周波数などは固定されていてもよいが、レーザ発振制御部116が制御してもよい。レーザ光源115の出力は、例えば数mJ程度でもよい。
【0062】
ガイド照明光源117は可視光レーザ光源であり、ユーザが視認しやすいように色味を帯びたガイド照明光を射出する。
ビームスプリッタ118は、レーザ光源115から射出されたレーザ光と、ガイド照明光源117から射出されたガイド照明光との光路を揃えるためのものである。すなわち、レーザ光源115から射出されてビームスプリッタ118を透過したレーザ光と、ガイド照明光源117から射出されてビームスプリッタ118で反射されたガイド照明光は、以後、同一の光路上を進む。
【0063】
ビームスプリッタ118により光路が揃えられたレーザ光とガイド照明光は、加工形状設定部119に入射する。加工形状設定部119は、入射したレーザ光およびガイド照明光のビーム断面形状を設定する。加工形状設定部119によってビーム断面形状が設定されたレーザ光とガイド照明光は、レーザーユニット102から射出され、ミラー105に入射する。
【0064】
例えば、加工形状設定部119は、スリットなどの開口を有する部品と、開口の大きさや形状を制御する制御部を含んでもよい。あるいは、加工形状設定部119は、DMD(Digital Micromirror Device)などの空間光変調器と、空間光変調器の制御部とを含んでもよい。
【0065】
また、図1における観察系108は、図3に示すように、撮像部120と表示部121を備える。
撮像部120は、ビームスプリッタ107を透過した光を受光素子で受けて画像データに変換し、画像データを出力する画像センサである。撮像部120は、例えば、CCD(Charge Coupled Device)画像センサでもよく、CMOS(Complementary Metal-Oxide Semiconductor)画像センサでもよい。また、撮像部120は、モノクロームの輝度画像を撮像するものでも、カラー画像を撮像するものでもよい。撮像部120の受光面は、集光光学系104の光軸に対して垂直である。
【0066】
表示部121は、撮像部120から出力された画像データを表示するモニタディスプレイである。例えば、制御部111がコンピュータにより実現される場合、表示部121はコンピュータが備えるモニタディスプレイであってもよい。
【0067】
また、観察光学系110は、ビームスプリッタ107と集光光学系104の間に位置し、照明光学系122、ビームスプリッタ123、AF(AutoFocus)ミラー124、焦点補正光学系125、および光学系制御部126を備える。
【0068】
照明光学系122は、観察系108による観察を可能とするための照明光をガラス基板1に当てる。クラック修正装置100の周囲が十分に明るい環境においては、照明光学系122を省略することもできる。
【0069】
ビームスプリッタ123は、照明光学系122から照射される照明光を反射して集光光学系104に導く。また、ビームスプリッタ123は、集光光学系104を通過してきたガラス基板1からの光を透過させ、ビームスプリッタ107へと導く。
【0070】
AFミラー124は、ガラス基板1の表面と集光光学系104の対物レンズとのz方向の相対位置を決めるためのAF動作において利用される。また、図3のAFミラー124は、ビームスプリッタ123と107を結ぶ光路上に位置しているため、ビームスプリッタ123を透過した光がビームスプリッタ107に到達可能なように、例えば次のように構成されている。
【0071】
例えば、AFミラー124は、ビームスプリッタ123とビームスプリッタ107を結ぶ光路上から退避可能な可動式のミラーであってもよい。あるいは、AFミラー124は、ビームスプリッタ123からの入射光の一部を透過させるミラーであってもよく、AF用に特定の波長の光を用いる場合には、ダイクロイックミラーであってもよい。
【0072】
AF動作は次のように行われる。すなわち、集光光学系104を通過してきたガラス基板1からの光は、AFミラー124で反射されると、焦点補正光学系125が備える不図示の検出器で検出される。そして、検出器による検出結果に応じて、焦点補正光学系125は、集光光学系104とステージ101とのz方向の相対位置を移動させることにより、集光光学系104とガラス基板1とのz方向の相対位置を移動させる。
【0073】
また、焦点補正光学系125は、AFミラー124を用いたAF動作のほかに、集光光学系104とガラス基板1とのz方向の相対位置を外部からの指定にしたがって移動させる動作も行う。
【0074】
光学系制御部126は、照明光学系122および焦点補正光学系125を制御する。例えば、光学系制御部126は、照明光の光量、照明角度などを照明光学系122に対して指定してもよい。また、光学系制御部126は、集光光学系104とステージ101とのz方向の相対位置を変化させるための相対移動の量を、焦点補正光学系125に対して指定してもよい。
【0075】
制御部111は、処理部127、画像処理部128、レーザ制御部129、光学系制御指示部130、およびステージ制御部131を備える。
処理部127は、様々なデータを受け取り、受け取ったデータに基づいて制御部111内の各部を制御する。例えば、処理部127は、データ入力部112からデータを受け取り、通信部113を介して外部の装置からデータを受け取り、画像処理部128から処理結果を受け取る。
【0076】
画像処理部128は、撮像部120が出力した画像データを受け取り、画像データに対して画像認識処理を行い、画像認識処理の結果を処理部127に出力する。
レーザ制御部129は、処理部127による制御に基づいて、レーザーユニット102内の各部を制御する。例えば、レーザ制御部129は、レーザ発振制御部116にレーザ光の照射タイミングなどを指示し、ガイド照明光源117にガイド照明光の照射タイミングなどを指示し、加工形状設定部119にビーム断面形状を指示する。
【0077】
光学系制御指示部130は、処理部127による制御に基づいて、観察光学系110を制御する。具体的には、光学系制御指示部130は、観察光学系110内の光学系制御部126に指示を与えることで、間接的に照明光学系122と焦点補正光学系125を制御する。
【0078】
ステージ制御部131は、処理部127による制御に基づいて、ステージ移動機構103を制御する。すなわち、ステージ制御部131は、集光光学系104とガラス基板1とのx方向およびy方向の相対位置を変化させるための制御を行う。ステージ制御部131は、例えば上述のような、ガラス基板1とクラック修正装置100をそれぞれ基準とする2つの座標系間の座標変換なども行う。
【0079】
ガラス基板1はステージ101に保持されているので、集光光学系104とステージ101とのx方向およびy方向の相対位置の変化により、集光光学系104とガラス基板1とのx方向およびy方向の相対位置が変化する。このように、制御部111、光学系制御部126、および焦点補正光学系125は、集光光学系104の焦点が照射範囲2に位置するように集光光学系104とガラス基板1との相対位置を制御する制御手段として機能している。
【0080】
なお、集光光学系104とステージ101との相対位置を可変とするために、クラック修正装置100は、例えば以下の(1)、(2)または(3)のように構成されている。
(1)ステージ101は床に対して固定されている。クラック修正装置100は不図示のガントリーを備える。ガントリーは、ステージ101の上方に架かった水平な梁と、ステージ101を挟んで梁を支える2本の支柱を有する。ガントリーはx軸に平行に移動可能であり、梁はy軸に平行である。
【0081】
また、図3の集光光学系104、観察光学系110、ビームスプリッタ107、観察系108、レーザー光学系109、レーザーユニット102からなる部分が、1つの光学ユニットにまとめられている。光学ユニットは、梁に沿ってy方向に移動可能なように、ガントリーの梁に取り付けられている。
【0082】
ステージ制御部131による制御にしたがって、ステージ移動機構103がガントリーをx方向に移動させ、光学ユニットをy方向に移動させることにより、集光光学系104とステージ101との相対位置が変化する。その結果、集光光学系104とガラス基板1との相対位置も変化する。
(2)ステージ101は、x方向に関してのみ、床に対して移動可能である。そして、床に対して固定されている点のみが(1)と異なるガントリーを、クラック修正装置100は備えている。また、(1)と同様の光学ユニットが、梁に沿ってy方向に移動可能なように、ガントリーの梁に取り付けられている。
【0083】
ステージ制御部131による制御にしたがって、ステージ移動機構103がステージ101をx方向に移動させ、光学ユニットをy方向に移動させることにより、集光光学系104とステージ101との相対位置が変化する。その結果、集光光学系104とガラス基板1との相対位置も変化する。
(3)x方向およびy方向に関して、集光光学系104が床に対して固定されており、ステージ101はx方向およびy方向に移動可能である。
【0084】
ステージ制御部131による制御にしたがって、ステージ移動機構103がステージ101をx方向およびy方向に移動させることにより、集光光学系104とステージ101との相対位置が変化する。その結果、集光光学系104とガラス基板1との相対位置も変化する。
【0085】
以上、クラック修正装置100の構成について説明した。
続いてクラック修正装置100の動作について説明する。
図4は、第1実施形態におけるクラック修正装置100の動作を示すフローチャートである。図4は1枚のガラス基板1に関するフローチャートである。
【0086】
ステップS101において、例えば、データ入力部112がユーザから指示を受け取り、指示の受け取りを契機として、ワーク入れ替え部114にガラス基板1の搬入開始を通知する。搬入開始の契機は、実施形態に応じて、例えば通信部113を介して指示を外部から受け取ることであってもよい。
【0087】
搬入開始が通知されると、ワーク入れ替え部114は、新たなガラス基板1の搬入を開始する。すなわち、ワーク入れ替え部114は、例えばクランプで挟んだり吸着ヘッドで吸着したりすることによりガラス基板1を把持しながら、ステージ101上の予め決められた基準位置の上までガラス基板1を移動させ、ガラス基板1をステージ101に降ろす。
【0088】
また、ステップS101では、こうしてステージ101上に載置されたガラス基板1に対し位置合わせが行われる。位置合わせは一般に、機械的な位置合わせによる粗調整と、ガラス基板1を撮像した画像を用いた微調整とを含む。また、微調整においては各種の補正が行われる。例えば、上記で説明した座標系変換の誤差を補正するための補正が、この微調整においてなされてもよい。
【0089】
本実施形態では、位置合わせの手法は任意であり、利用可能な任意の補正を利用することができる。よって、以下では位置合わせの誤差の影響はないものとして説明する。
ステップS101ではさらに、不図示のクラック検出装置から、通信部113を介して処理部127が、クラックの疑いがある箇所のデータを受け取る。このデータを以下「入力データ」という。
【0090】
クラック検出装置は、例えば、ガラス基板1を上からラインセンサでスキャンしながら撮像し、ガラス基板1の表面全体の画像を取得する。クラック検出装置は、同様にしてガラス基板1の裏面すなわち下面全体の画像を取得してもよい。
【0091】
クラック検出装置は、取得した表面、裏面、または表裏両面の画像に対して画像処理を行うことにより、クラックの疑いのある箇所を検出する。クラック検出装置は、検出したクラックの座標と形状を組にして記憶している。
【0092】
クラックを検出するための画像処理は、例えば、エッジ検出処理を含んでもよい。あるいは、クラック検出装置は、クラックのない理想的なガラス基板を表す基準画像と、クラックを検出する対象であるガラス基板1を撮像した画像との差分画像を取得することでクラックを検出してもよい。
【0093】
本実施形態のステップS101においてクラック修正装置100が受け取る入力データは、クラック検出装置が上記のようにしてガラス基板1に対して検出して記憶した、1つ以上のクラックそれぞれについての、座標と形状の組からなるデータである。また、本実施形態では、入力データにおけるクラックの座標は、x座標とy座標の組によって2次元的に表現されている。
【0094】
また、クラックの座標は、実施形態によって、クラックの中心、起点、先端など、クラックを代表して表す1つ以上の点の座標であってよい。本実施形態では、クラックの起点の座標を入力データが含むものとする。また、クラックは一般に、ガラス基板1の表面または裏面において、側面と接する辺上の点を起点として発生する。換言すれば、クラックの起点の座標は、ガラス基板1の表面または裏面をなす長方形の4辺のいずれかの上にある。
【0095】
さらに、実施形態によって、クラック検出装置が記憶する項目および入力データを構成する項目は様々であってよい。例えば、入力データは、クラックの座標のみからなっていてもよく、あるいは、クラックの識別子や種別など、他の項目をさらに含んでいてもよい。
【0096】
ステップS101では続いて、処理部127が、受け取った入力データのうち1つのクラックについてのデータを選択する。そして、処理部127は、選択したクラックの座標が観察系108による観察視野に入るように、x方向およびy方向の相対移動を行うよう、ステージ制御部131に指示する。
【0097】
例えば、上記のとおり本実施形態では入力データがクラックの起点の座標を含む。そこで、処理部127は、選択したクラックの起点が観察視野の中心となるよう、ステージ制御部131に指示する。
【0098】
ステージ制御部131は、処理部127からの指示にしたがって、例えばステージ移動機構103に指定するためのモータやアクチュエータの駆動量を計算し、ステージ移動機構103を制御する。ステージ制御部131は、例えば、ステージ移動機構103の基準位置と現在の位置との差、および、処理部127から指示されたクラックの座標に基づいて、モータやアクチュエータの駆動量を計算する。
【0099】
その結果、ガラス基板1を載置したステージ101と、集光光学系104とのx方向およびy方向の相対位置が変化し、処理部127が選択したクラックの座標が観察視野に入る。
【0100】
すると、次のステップS102では、集光光学系104とステージ101とのz方向の相対位置を変化させる制御を処理部127が行いながら、撮像部120が集光光学系104を介してガラス基板1を撮像する。そして、撮像した画像に基づいてガラス基板1の表面または裏面が検出される。
【0101】
処理部127によるz方向の相対位置の制御は、例えば、次のように行われてもよい。
すなわち、データ入力部112がユーザからの入力を受け取って処理部127に出力する。そして、処理部127は、データ入力部112からの入力に基づいて、集光光学系104とステージ101との間のz方向の相対位置を変化させるよう、光学系制御指示部130に指示する。
【0102】
その結果、光学系制御指示部130、光学系制御部126、および焦点補正光学系125を介して、データ入力部112が受け取った入力に基づいて、集光光学系104とステージ101とのz方向の相対位置が変化する。したがって、集光光学系104とガラス基板1とのz方向の相対位置も変化する。
【0103】
あるいは、処理部127によるz方向の相対位置の制御は、光学系制御指示部130、光学系制御部126、および焦点補正光学系125を介して、次のように行われてもよい。
【0104】
ガラス基板1の品種により、ガラス基板1の厚みは既知である。そこで、処理部127は、既知の厚みtを不図示の記憶装置から読み出す。処理部127は、読み出したガラス基板1の厚みtに、適宜マージンmを加えた値(t+m)を初期値として設定する。
【0105】
そして、ステージ101上のガラス基板1の載置面よりも、設定した初期値(t+m)だけ高い位置に、集光光学系104の対物レンズの焦点が位置するよう、処理部127は、集光光学系104とステージ101とのz方向の相対位置を制御する。その後、処理部127は、集光光学系104とガラス基板1とのz方向の距離を徐々に縮めるように、集光光学系104とステージ101とのz方向の相対位置を制御する。
【0106】
いずれにしろ、処理部127による制御にしたがって集光光学系104とステージ101とのz方向の相対位置が変化している状態で、撮像部120がガラス基板1を撮像する。なお、z方向の相対位置を変化させるべき範囲を、ガラス基板1の既知の厚みtに基づいて限定するよう、処理部127が制御することが好ましい。
【0107】
ここで、上記のとおり、クラックの起点が観察視野に入るように集光光学系104とガラス基板1とのx方向およびy方向の相対位置がステップS101で調整済みである。また、上記のとおり一般に、クラックの起点は、ガラス基板1の表面または裏面が、側面となす辺上にある。したがって、ガラス基板1と外部との境界が観察視野内に入っている。
【0108】
一般に、ガラスのように透明な物体は、観察系108を用いた観察によって認識することが難しく、焦点補正光学系125がAF動作によって透明な物体の表面に焦点を合わせることも難しい。しかし、境界は認識が容易である。よって、集光光学系104とガラス基板1とのz方向の相対位置が連続的あるいは断続的に変化している状態で撮像部120が撮像した複数の画像における境界の鮮明さに基づいて、ガラス基板1の表面または裏面の検出が可能である。
【0109】
例えば、撮像部120は撮像した画像を表示部121に出力し、表示部121は出力された画像を表示する。データ入力部112は、境界が最も鮮明に写っていると判断したところでユーザが行う入力を受け取る。すなわち、データ入力部112は、表面または裏面の検出を通知する入力を受け取り、処理部127に出力する。
【0110】
あるいは、撮像部120は、撮像した画像を表示部121だけではなく、さらに画像処理部128に出力してもよい。そして、画像処理部128は、例えばエッジ抽出処理により、ガラス基板1の境界を示す線を画像から抽出し、抽出した線の輪郭のコントラストを算出してもよい。そして、画像処理部128は、コントラストが高いほど画像の合焦度が高いと判断し、最も合焦度が高い画像を、ガラス基板1の表面または裏面を撮像した画像として検出し、画像処理部128に通知してもよい。
【0111】
上記のとおり、処理部127は、撮像が行われている間、集光光学系104とステージ101とのz方向の相対位置を変化させるための制御をしている。よって、処理部127は、データ入力部112または画像処理部128からの通知がなされたときに表示部121が表示していた画像を撮像部120が撮像したときの、集光光学系104とステージ101とのz方向の相対位置を認識することができる。
【0112】
処理部127が認識した相対位置は、ガラス基板1の表面または裏面に集光光学系104の対物レンズの焦点が位置するときの、集光光学系104とステージ101とのz方向の相対位置である。例えば、既知のガラス基板1の厚みに基づいて、処理部127は、認識した相対位置が、ガラス基板1の表面と裏面のどちらに対応するのかを判断してもよい。
【0113】
あるいは、ガラス基板1の表面または裏面の一方を検出した後、さらに集光光学系104とステージ101とのz方向の相対位置を変化させて他方の面も検出するように、処理部127が制御を行ってもよい。
【0114】
以下では説明の簡単化のため、クラックの起点はガラス基板1の表面が側面となす辺上にあり、ステップS102においてガラス基板1の表面が検出されたものとする。
続いてステップS103〜S105において、クラックの先端をレーザ光の加工対象点に位置させるための、微調整が行われる。ここで、微調整の動作について説明する前に、クラックの具体例について図5とともに説明する。
【0115】
図5は、第1実施形態におけるクラックおよびレーザ光の照射範囲の例を示す斜視図である。
図5(a)に示すように、ガラス基板1に生じたクラック3を修正するため、本実施形態では、クラック3の先端を含む範囲がレーザ光の照射範囲2として決定される。レーザ光が照射されると、照射範囲2内部のガラスは溶融し、その結果として改質され、強化される。したがって、照射範囲2の強化により、クラック3がこれ以上進行することを防ぐことができる。
【0116】
また、クラック3は、x方向、y方向、z方向にそれぞれ任意に進行しうる。例えば、図5(b)のクラック3は、ガラス基板1の表面と側面がなす辺上の点を起点とする。図示したように、クラック3は、ガラス基板1の表面および側面に微小な開口を生じさせるだけではなく、進行にしたがってクラック3による空隙はガラス基板1の内部に潜ってゆく。したがってクラック3の先端は、ガラス基板1の外面上にはない。
【0117】
クラック3を修正するには、ガラス基板1の表面または側面に生じた開口をふさぐことも有益であるが、クラック3の先端を含む領域を強化することも有益である。よって、本実施形態では、図5(c)のように、たとえクラック3の先端がガラス基板1の表面または裏面上になくても、クラック3の先端の位置を特定し、クラック3の先端を含む領域を照射範囲2として決定する。
【0118】
また、図5(c)に示すように、本実施形態における照射範囲2は、点状(つまりスポット状)の範囲ではなく、線状の範囲である。なお、線状の範囲は、直線状でも曲線状でもよい。
【0119】
線状にレーザ光を照射するには、例えば、加工形状設定部119が、レーザ光を線状のスリットに通すことで、線状に形成してもよい。加工形状設定部119は、スリットの代わりに、線状に光を空間変調するよう設定した空間光変調器を利用することもできる。あるいは、レーザーユニット102が不図示のガルバノスキャナなどのスキャニング機構をさらに備え、レーザ制御部129がレーザマーキングの要領で線状にレーザ光をスキャニングさせるよう制御してもよい。あるいは、x方向、y方向、またはxy両方向に、ステージ101と集光光学系104との相対位置を移動させながらレーザ光の照射を行うよう、処理部127が、レーザ制御部129とステージ制御部131とを制御してもよい。
【0120】
また、点状ではなく線状にレーザ光を照射する理由は、第1に、レーザ光の照射位置を設定する精度が少々低い場合に、点状よりも線状の照射範囲2の方が、より確実に1回の照射でクラック3の先端を含む範囲にレーザ光を照射することが可能であるためである。また、第2に、点状よりも線状の範囲の方が広いため、強化される範囲が広く、より確実にクラック3の進行を防ぐことができるためである。
【0121】
ここで図4の説明に戻ると、集光光学系104とステージ101との相対位置が、ステップS103においてx方向およびy方向に微調整され、ステップS104においてz方向に微調整される。そして、ステップS105で照射位置が決定したか否かが判断され、照射位置が決定するまでステップS103とS104の微調整が繰り返される。なお、「照射位置」とは照射範囲を代表して表す点の位置であるとする。例えば、図5(c)の照射範囲2は、クラック3の先端の位置により代表される。
【0122】
すなわち、ステップS103〜S105の繰り返しは、クラック3の起点から先端まで徐々にたどっていき、先端の位置を特定する処理である。ステップS103〜S105は、具体的には、例えば、常に撮像部120がガラス基板1を撮像し、撮像された画像を表示部121が表示している状態で、以下のように行われる。
【0123】
ステップS103において、データ入力部112は、表示部121を見ながらクラック3を確認しているユーザから、x方向およびy方向の相対移動量に関する指示を受け取り、処理部127に出力する。ステップS103における指示は、現在表示部121が表示しているクラック3の部分から見て、よりクラック3の先端の近くに集光光学系104が位置するようにするための相対移動についての指示である。
【0124】
例えば、処理部127は表示部121にポインタを表示させ、データ入力部112はポインタの移動量を入力として受け取り、処理部127に出力してもよい。この場合、処理部127は、ポインタの移動量から、ステージ101と集光光学系104とのx方向およびy方向の相対移動量を算出する。
【0125】
続いて、ステップS104において、ステップS103によるx方向およびy方向の相対移動の後に観察視野に写っている部分のクラック3に集光光学系104の焦点を合わせるための、z方向の相対移動が行われる。
【0126】
例えば、データ入力部112がユーザから、z方向の相対移動に関する指示を受け取り、処理部127に出力する。そして、処理部127は、データ入力部112から入力された指示にしたがい、光学系制御指示部130、光学系制御部126、および焦点補正光学系125を介して、集光光学系104とステージ101とのz方向の相対位置を制御する。
【0127】
ステップS104は試行錯誤的に行われてもよい。すなわち、上記のようにしてz方向の相対位置が制御された後に撮像部120が撮像した画像に基づく指示を、再度データ入力部112がユーザから受け取り、処理部127が再度z方向の相対位置の制御を行ってもよい。そして、適宜以上の動作を繰り返してもよい。
【0128】
例えば、ユーザは、試行錯誤的に、z方向の相対移動に関する指示をデータ入力部112に入力しながら、表示部121を確認し、クラック3が鮮明に見えるような、集光光学系104とステージ101とのz方向の相対位置を探索する。
【0129】
あるいは、クラック3がある程度鮮明な線として撮像されていれば、データ入力部112からの入力によらず、焦点補正光学系125がAF動作によって、ステップS104のz方向の相対移動を実現することもできる。
【0130】
続いてステップS105において、データ入力部112は、クラック3の先端に到達したか否かの入力をユーザから受け付ける。クラック3の先端に到達していなければ、処理はステップS103に戻る。
【0131】
もしクラック3の先端に到達していれば、先端を照射位置として決定し、すなわち先端を含む範囲を照射範囲として決定することができる。例えば、データ入力部112がユーザから照射範囲を決定するための入力を受け取って処理部127に出力し、処理部127がデータ入力部112からの入力に応じて照射範囲を決定してもよい。
【0132】
例えば、データ入力部112は、表示部121が表示している画像上で図5(b)のクラック3の先端を示す点の座標と、照射範囲を規定する直線の傾きとを、入力として受け取ってもよい。あるいは、データ入力部112は、直線状の照射範囲の両端点の座標を受け取ってもよい。処理部127は、データ入力部112からの入力に応じて、例えば画像内の座標を、ガラス基板1を基準としたxy座標系に変換するなどの処理を行い、図5(c)の照射範囲2を決定する。
【0133】
あるいは、画像処理部128が、撮像部120から出力された画像に対してエッジ抽出などの処理を行ってクラック3の先端の座標および先端付近での傾きを検出し、検出結果に応じた傾きの直線で規定される照射範囲2を決定し、処理部127に通知してもよい。
【0134】
このように、例えばデータ入力部112と処理部127の組み合わせ、あるいは撮像部120と画像処理部128と処理部127の組み合わせが、クラック3の位置または範囲を認識する認識手段として機能している。
【0135】
また、撮像部120、表示部121、データ入力部112、および処理部127は、ガラス物体であるガラス基板1の内部においてレーザ光を照射すべき照射範囲2を決定するための決定手段として機能する。また、場合によっては、画像処理部128も決定手段の一部として機能する。そして、決定手段として機能する各部は、クラック3の位置に基づいて照射範囲2を決定している。
【0136】
照射範囲2の決定後、処理はステップS106に移行する。
ステップS106において、処理部127は、決定した照射範囲2をレーザ制御部129に通知する。すると、レーザ制御部129は、ガイド照明光を射出するようガイド照明光源117を制御する。また、レーザ制御部129は、照射範囲2に合わせてガイド照明光のビーム断面形状を加工するよう、加工形状設定部119を制御する。
【0137】
その結果、ステップS106において、ガイド照明光源117が射出したガイド照明光はビームスプリッタ118で反射され、加工形状設定部119でビーム断面形状が加工され、レーザー光学系109、観察光学系110、および集光光学系104を介してガラス基板1へと照射される。ガイド照明光の照射が行われる間、撮像部120はガラス基板1を撮像し、撮像した画像を表示部121に出力する。よってユーザは、表示部121を見て、ガイド照明光が正しく照射範囲2に照射されたか否かを確認することができる。
【0138】
例えば、不図示のガルバノスキャナなどを用いてレーザ光のスキャニングを行うことによって線状の照射範囲2へのレーザ光の照射を行うようクラック修正装置100が構成されている場合には、ステップS106においてもスキャニングが行われる。よって、ユーザは、表示部121を見て、スキャニングの軌跡を確認することができる。
【0139】
続いてステップS107とステップS108において、必要に応じて微調整が行われる。
ステップS106において、照射範囲2がx方向、y方向、またはxy両方向にずれているとユーザが判断した場合、ステップS107の処理は次のとおりである。
【0140】
すなわち、データ入力部112は、x方向、y方向、またはxy両方向の、集光光学系104とステージ101との相対移動の量に関する指示をユーザから受け取る。そして、データ入力部112は受け取った指示を処理部127に出力する。処理部127は、ステージ制御部131を介して、集光光学系104とステージ101とのx方向、y方向、またはxy両方向の相対位置を制御し、微調整する。このように、ステップS106はステップS103と類似のステップである。
【0141】
また、ステップS106において、照射範囲2がz方向にずれているとユーザが判断した場合、次のステップS108では次のような処理が行われる。
すなわち、データ入力部112は、集光光学系104とステージ101とのz方向の相対移動の量に関する指示をユーザから受け取る。そして、データ入力部112は受け取った指示を処理部127に出力する。処理部127は、光学系制御指示部130、光学系制御部126、および焦点補正光学系125を介して、集光光学系104とステージ101とのz方向の相対位置を制御する。このように、ステップS108はステップS104と類似のステップである。
【0142】
以上のようにして、ステップS106のガイド照明光の照射の結果、何らかの誤差が残っていた場合には、ステップS107およびS108において適宜微調整が行われる。
なお、ステップS107およびS108が実行されている間は、ガイド照明光源117がガイド照明光を射出し続け、撮像部120がガラス基板1を撮像し続け、表示部121が画像を表示し続けることが好ましい。また、ステップS106〜S108は、試行錯誤的に繰り返されてもよい。
【0143】
そして、続くステップS109において、処理部127はレーザ制御部129にレーザ光の照射を指示する。
すると、レーザ制御部129は、ガラス基板1の修正に適したパルス幅、パルス繰り返し周波数、および照射時間で、レーザ光源115からレーザ光を射出するための制御をレーザ発振制御部116に行わせる。なお、データ入力部112が加工条件として、ユーザから、パルス幅、パルス繰り返し周波数、および照射時間などのデータを受け取り、処理部127を介してレーザ制御部129に通知してもよい。また、加工形状設定部119は、既に照射範囲2に合わせてビームの断面形状を設定している。
【0144】
したがって、ステップS109では、レーザ光源115から射出されたレーザ光が加工形状設定部119により整形され、レーザー光学系109、観察光学系110、および集光光学系104を介してガラス基板1の内部の照射範囲2に照射される。
【0145】
また、本実施形態ではスキャニングによって線状の照射範囲2へのレーザ光の照射を実現するものとすると、次のステップS110において、レーザ光のスキャニングが行われる。レーザ制御部129は、例えばスキャン速度の制御も行う。
【0146】
以上のようにして照射範囲2へのレーザ光の照射がなされると、ステップS111においてレーザ制御部129はガイド照明光源117に消灯を指示する。つまり、ステップS109とS110における実際のレーザ光の照射は、ガイド照明光がともに照射された状態で行われている。
【0147】
そして、次のステップS112において、撮像部120がガラス基板1を撮像し、表示部121に撮像した画像を出力する。超短パルスレーザ光が適切に照射されると、照射範囲2においてガラスが改質されるため、照射範囲2外とは屈折率などに差が生じる。そのため、表示部121に表示された画像において、レーザ光が照射された範囲の輪郭は視認可能である。ステップS112において照明光学系122は、例えばステップS102とは異なる角度からガラス基板1に照明光を当ててもよい。
【0148】
ステップS112において、例えば、データ入力部112が、ステップS109〜S110による照射範囲2へのレーザ光の照射が適切であったか否かに関するユーザからの入力を受け付けて処理部127に出力する。その結果、処理部127は、ステップS109〜S110による照射範囲2へのレーザ光の照射が適切であったか否かを判断することができる。
【0149】
レーザ光の照射が適切であれば、処理はステップS113に移行し、不適切であれば処理はステップS106に戻る。例えば、実際にレーザ光が照射された範囲が所望の照射範囲と異なる場合や、照射が不十分なために照射範囲2内のガラスの改質が認められない場合などには、処理はステップS106に戻る。
【0150】
ステップS113では、ステップS101で受け付けた入力データに、未処理の次の欠陥すなわちクラックについてのデータが残っているか否かを、処理部127が判断する。未処理のクラックが残っている場合、処理はステップS114に進み、入力データ中のすべての欠陥について修正済みであれば、処理はステップS115に進む。
【0151】
ステップS114では、処理部127が、ステップS101で受け付けた入力データのうち未処理のクラックを1つ選択する。そして、処理部127は、ステップS101と同様にして、選択したクラックの座標が観察系108による観察視野に入るように、x方向およびy方向の相対移動を行うよう、ステージ制御部131に指示する。そして、処理はステップS102に戻る。
【0152】
ステップS115では、ステップS101で受け付けた入力データ中のすべてのクラックについて修正済みなので、ガラス基板1のクラック修正装置100からの払い出し作業をワーク入れ替え部114が行う。そして、図4の処理が終了する。クラック修正装置100は、図4の処理が終了すると、次のガラス基板1に関して再び図4の処理を実行する。
【0153】
なお、図4のフローチャートでは簡単のため、クラック検出装置が検出したすべてのクラックをクラック修正装置100が修正するものとして説明した。しかし、例えばステップS103〜S105によって詳細にガラス基板1を観察する過程で、例えば糸状のごみなど実際にはクラックではないものが誤ってクラックとして検出されたと判明することもある。その場合には、例えば、データ入力部112がユーザから「クラックではないので修正が不要である」と示す入力を受け取ることにより、クラック修正装置100はステップS106〜S112を省略することができる。
【0154】
また、実施形態によっては、図3においてガイド照明光源117を省略し、図4においてガイド照明光源117からのガイドパターンの印加を省略してもよい。すなわち、ステップS106〜S108におけるガイド照明光に基づく微調整を省略し、ステップS109とS110ではレーザ光のみが照射されるようにし、ステップS111を省略する実施形態も可能である。
【0155】
以上説明したように、第1実施形態によれば、ガラス基板1の内部において加工すべき範囲である照射範囲2に集光光学系104の焦点が位置している状態で、超短パルスレーザ光がレーザーユニット102から射出される。超短パルスレーザ光によるガラス物質の加工に関しては、開発の歴史が浅く、第1実施形態のような利用法は知られていないようである。
【0156】
第1実施形態によれば、任意の位置においてクラック3の修正が可能となり、ガラス基板1の割れを防ぐことができ、金銭的損失、清掃のための多大な労力、生産ライン復旧までの機会損失といった種々の問題を回避することができる。
【0157】
また、第1実施形態は次のような利点を有する。
第1に、ガラス基板の外面に修復用金属膜を形成し、金属膜にレーザ光を照射することで間接的にガラス基板を加熱して溶融させる方法と比較して、成膜の工程が不要である。また、クラックの修正後に残った不要な金属膜を除去する工程も不要である。
【0158】
第2に、金属膜はわずかな衝撃でも剥離しやすいが、第1実施形態は修復用金属膜を利用しないので、一旦形成した金属膜が剥離して発塵の原因となる、といった懸念がない。したがって、第1実施形態は、クリーンルーム内で製造し、検査し、修正すべき各種FPD用のガラス基板1におけるクラックの修正に好適である。
【0159】
第3に、第1実施形態は、ガラス基板1内の任意の範囲にレーザ光を照射することができる。
ガラス基板の側端面など、特定の箇所からレーザ光を照射する場合は、ガラス基板の中央付近に十分な強度でレーザ光を照射することができない可能性がある。換言すれば、ガラス基板の中央付近に十分な強度でレーザ光を照射しようとすると、高出力の照射が必要となり、側端面付近でのガラス基板の変形などの影響が懸念される。よって、変形などの影響がないように強度を抑制すると、レーザ光の照射による加工可能範囲が限られてしまう。
【0160】
例えば、湾曲しながらガラス基板の中央付近まで進行したクラックがあったとすると、クラックの先端は修正可能な範囲の外に位置する可能性がある。このように、修正可能な範囲が限定されると、修正可能な範囲外にあるクラックが進行し、最終的にはガラス基板が割れてしまうおそれがある。
【0161】
しかし、第1実施形態では、x方向、y方向、およびz方向のいずれに関しても、集光光学系104とガラス基板1との相対位置を任意に変更することができる。すなわち、第1実施形態によれば、ガラス基板1内の任意の範囲に焦点を合わせてレーザ光を照射することができ、任意の範囲の加工が可能である。
【0162】
第4に、第1実施形態では、ガラス基板1内部の照射範囲2に焦点を合わせて超短パルスレーザ光を照射するので、例えばガラス基板1の外面など、焦点の合っていない部分に対するレーザ光の影響はごくわずかである。
【0163】
例えば10ps以下といったパルス幅の超短パルスレーザ光によるガラス物質の溶融は、熱変形が小さいという特長を持つことが知られている。FPDの製造工程では、レーザ光を用いてガラス基板の表面に付着した異物を除去するレーザリペア装置が利用されているが、レーザリペア装置で利用されるレーザ光のパルス幅は、例えば数nsである。パルス幅によって、レーザ光が起こす反応プロセスは異なり、超短パルスレーザ光を用いることで、ガラス基板1をほとんど変形させずに加工することができる。
【0164】
したがって、第1実施形態によれば、レーザ光の照射によってガラス基板1の外形が歪むといった悪影響はほとんどなく、無視することができる。
例えば、ガラス基板の外面に修復用金属膜を形成する方法では、修正すべきクラックが金属膜によって隠されてしまう。よって、実際の照射時にクラックの正確な位置を外観から確認することができない。また、金属膜へのレーザ光の照射によって実際にクラックが意図どおりに修正されたか否かを外観から判断することもできない。
【0165】
よって、修正用金属膜を利用する方法において確実にクラックを修正するには、出力を高めに設定したレーザ光を、広めに設定した照射範囲に照射する必要が生じるであろう。しかしながら、結果的には不必要に高出力かつ広範囲にレーザ光が照射され、ガラス基板が盛り上がるといった変形や、回路パターンあるいはその上層に設けられたカラーフィルタなどを構成する物質の変質などを招く可能性がある。
【0166】
他方、第1実施形態では、上記のとおり、焦点の合っていない部分に対するレーザ光の影響はごくわずかである。そして、ガラス基板の外形を歪ませることなくクラックの修正が可能であることは、例えばLCD用のガラス基板の製造において非常に有益である。
【0167】
その理由は次のとおりである。LCDパネルは、TFT(Thin Film Transistor)が形成されたガラス基板と対向電極側のガラス基板との間に液晶層を挟んだ構成であるが、近年では液晶層の厚み(すなわちセルギャップ)は2〜5μm程度にまで縮んでいる。そして、セルギャップを精密に管理することがLCDパネルの製造工程では要求されている。すなわち、近年では、液晶層に接するガラス基板の表面に生じたわずかな凹凸が、セルギャップの制御を困難にし、表示不良に直結する度合いが高まっている。よって、ガラス基板の変形という副作用のない第1実施形態は有益である。
【0168】
以上、第1実施形態について説明したので、続いて、図6を参照して第2実施形態について説明する。
図6は、第2実施形態によるクラック修正装置200の構成図である。クラック修正装置200は、ガラス基板1の裏面、すなわちトランジスタや配線などの回路パターンの形成されない面の側からレーザ光の照射を行うように構成されている点で、第1実施形態のクラック修正装置100と異なる。このような構成は、次の点に鑑みてなされたものである。
【0169】
すなわち、超短パルスレーザ光の照射により溶融するガラス物質は、瞬間的に数千度に達するが、ガラス基板1上に形成される回路パターンに用いられる金属やその他の物質の融点は、場合によっては数百度である。あるいは、融点まで達しなくても、高温にさらされることが好ましくない場合もある。
【0170】
焦点の合っていないガラス基板1の表面におけるレーザ光の影響は、第1実施形態では無視していたが、無視すべきでない場合もありうる。そこで、第2実施形態では、レーザ光の光路上に、回路パターンを構成する金属やその他の物質が存在しないように、回路パターンの形成されていない裏面からレーザ光が照射するよう、クラック修正装置200が構成されている。
【0171】
具体的には、クラック修正装置200は、ガラス基板1を両側で保持する中抜き構造のステージ101を備え、さらに、第1実施形態とは配置が異なるものの機能は同様の、レーザーユニット102、ステージ移動機構103、集光光学系104、ミラー105、結像レンズ106、ビームスプリッタ107、観察系108、および制御部111を備える。
【0172】
また、図6には、観察系108およびレーザーユニット102を載置する台132も図示してある。例えば、台132はy軸と平行な搬送軸にそって動くことができる台でもよい。その場合、図3と同様に制御部111が備える不図示のステージ制御部131が、台132の搬送軸に沿った動きを制御する。それにより、ステージ101と集光光学系104とのy方向の相対移動が実現される。
【0173】
クラック修正装置200は、ステージ101bの中抜き部分に集光光学系104の光軸が位置するよう、各部が配置されている。また、ステージ移動機構103は、xy座標で指定されたガラス基板1内の位置が、ステージ101bの中抜き部分の上に位置するように調整しながら、ステージ101と集光光学系104との相対位置をx方向およびy方向に移動させる。
【0174】
ステージ101と同様に、ステージ101bも浮上式ステージでもよい。また、図6に示したステージ101bは、x方向に2つに分かれた部分の中間に中抜き部分の空間があるが、中抜き部分の空間の形状は任意である。例えば、ステージ101bが四角形の枠状であり、四角形の空間が中抜きにされていてもよい。
【0175】
また、ガラス基板1の端を中抜き部分の上に位置させる際に、バランスを崩さずにガラス基板1を保持するため、不図示のクランプまたは吸着パッドなどをステージ101bが備えていてもよい。
【0176】
クラック修正装置200においてレーザ光は、以下の光路をたどる。すなわち、レーザ光は、まずレーザーユニット102から射出され、ミラー105で反射し、結像レンズ106を介してビームスプリッタ107に到達する。そして、レーザ光は、ビームスプリッタ107で反射して集光光学系104に入射し、集光光学系104を介してガラス基板1内の照射範囲2に照射される。
【0177】
この光路は、集光光学系104がガラス基板1の裏面側に配置されており、それにともなって他の要素もガラス基板1の裏面側に配置されているという以外は、第1実施形態と同様である。
【0178】
また、第2実施形態においては、ガラス基板1の表面側からの透過光およびガラス基板1の裏面における反射光は、集光光学系104を介してビームスプリッタ107に到達しし、ビームスプリッタ107を透過して、集光光学系104の光軸上に設けられた不図示の撮像部120を含む観察系108において観察される。つまり、ガラス基板1から観察系108に至る光路も、ガラス基板1の裏面側であるという点以外は、第1実施形態と同様である。
【0179】
このように、第2実施形態は、レーザ光の照射される方向以外は第1実施形態と同様であるので、動作などの詳しい説明は省略する。なお、クラック修正装置200は、図6に示した観察系108に加えて、さらに、ガラス基板1を上方から観察するための第2の観察系をさらに有していてもよい。
【0180】
以上説明した第2実施形態は、第1実施形態と同様の効果に加えて、さらに次の効果を有する。
すなわち、裏面からレーザ光が照射されるので、第2実施形態は、集光光学系104の焦点が合っていない箇所においてレーザ光がガラス以外の物質に対して与える影響を無視することができない場合にも好適である。つまり、第2実施形態によれば、表面に形成される、配線、導電膜、絶縁膜などからなる回路パターンを構成する物質によらず、回路パターンへのダメージを避けつつ、クラックのみを選択的に修正をすることが可能である。
【0181】
以上、第1および第2実施形態について詳細に説明したが、いずれの実施形態においても、照射範囲2のパターンは図5に例示した第1のパターンに限らず、様々なパターンが可能である。そこで以下では、第1および第2実施形態の双方に適用可能な、レーザ照射の様々なパターンについて、図7〜図10を参照して説明する。
【0182】
図7は、レーザ光の照射範囲の第2の例を示す斜視図である。図7(a)は、ガラス基板1に生じた線状のクラック3に沿って、複数箇所を照射範囲とするパターンを示す。
図7(a)のように、クラック3に沿った複数箇所にレーザ光を照射する場合、そのうちの1箇所はクラック3の先端を含むことが望ましい。なぜなら、クラック3の先端は、今後クラック3が成長する起点となるため、クラック3の先端を修正することが、より確実なクラック3の修正につながるからである。
【0183】
また、特にクラック3が既にある程度成長している場合などは、図7(a)のように、複数箇所を照射範囲とすることで、より確実にクラック3の成長を防ぐことができる。
図7(a)の例では、クラック3の先端を含む照射範囲2aに加えて、照射範囲2bと2cにレーザ光が照射される。照射範囲2a〜2cはそれぞれ直線状の範囲であるが、曲線状の範囲であってもよい。クラック修正装置100または200は、これらの照射範囲2a〜2c内のガラスを溶融させて改質強化することで、クラック3を修正する。
【0184】
クラック3に沿った複数箇所を照射範囲とする場合、照射の順序は任意である。例えば、図7(b)は、クラック3の途中でクラック3を横断する照射範囲2に、先にレーザ光を照射する例を示す。
【0185】
クラック修正装置100または200は、このようにクラック3の途中でクラック3を横断する照射範囲2に先にレーザ光を照射した後、クラック3の先端を含む不図示の照射範囲にレーザ光を照射してもよい。あるいは、照射の順番は逆でもよい。
【0186】
ところで、図7(a)では、x座標あるいはy座標の範囲が異なる複数の照射範囲を例示したが、クラック修正装置100または200は、図8に示すように、z座標が異なる複数の照射範囲にレーザ光を照射することにより、クラック3を修正してもよい。
【0187】
図8は、レーザ光の照射範囲の第3の例を示す断面図である。すなわち、図8は、z軸に平行な平面によるガラス基板1の断面図である。
図8には、V字型のクラック3の断面が示されている。クラック3による空隙は、図8のようにガラス基板1の表面に開口を有する場合もあるし、ガラス基板1の裏面に開口を有する場合もある。
【0188】
クラック3により生じた空隙は、肉眼では認識できないこともある。しかし、ミクロレベルでは、図8のように、互いに向き合う破断面6aおよび6bに挟まれた狭い空隙が存在する。
【0189】
クラック修正装置100または200は、ガラス基板1の厚み方向であるz方向に関しても、クラック3の先端を含む範囲にレーザ光を照射することが好ましい。そこで、図8の例では、クラック3のz方向における先端を含む照射範囲2bに、レーザ光が照射される。
【0190】
さらに、図8の例では、より確実にクラック3を修正するために、照射範囲2bよりも浅い領域、すなわちガラス基板1の表面により近い領域に、もう1つの照射範囲2aが設定されており、照射範囲2aにもレーザ光が照射される。照射範囲2aは、破断面6aと6bの間のクラック3の空隙を横断する範囲である。
【0191】
もし空隙の幅が十分に狭ければ、照射範囲2aへのレーザ光の照射によって溶融したガラスにより、照射範囲2aの深さにおいて、破断面6aと6bは溶接され、クラック3の空隙はふさがれる。つまり、レーザマーキングの要領で連続的になされるレーザ光の照射により、照射範囲2aにおいては連続した溶融面が形成され、溶融したガラスが破断面6aと6bを横断してつなぐ。例えば、空隙の幅が約10μm程度であれば、空隙がふさがれるであろう。
【0192】
空隙がふさがれることは、少なくともクラック3の一部が消滅することを意味する。つまり、空隙をふさぐことで、クラック3はより確実に修正される。よって、空隙の幅が約10μm以下となる深さに照射範囲を設定することが好ましい。
【0193】
図8の例によれば、ガラスの溶融強化層が深さ方向に2層、形成されるので、例えば照射範囲2bにのみレーザ光を照射する場合と比べて、破断面6aと6bの溶接強度が上がる。したがって、図8の例によれば、溶接強度が上がった分、より確実に、クラック3の成長を阻害することができ、ガラス基板1全体が割れてしまうことを防ぐことができる。
【0194】
なお、図8の照射範囲2aと2bは、z軸に垂直な直線状の範囲であるが、z軸に垂直な平面上の曲線に沿った範囲が照射範囲であってもよい。また、z軸に垂直な平面上の直線または曲線に沿った照射範囲へのレーザ光の照射は、x方向およびy方向の一方または双方にレーザ光をスキャンさせることで行ってもよいが、レーザ光はスキャンさせなくてもよい。すなわち、後者の場合であっても、加工形状設定部119が直線状または曲線状にビーム断面形状を設定することで、z軸に垂直な平面上の直線または曲線に沿った照射範囲にレーザ光が照射される。
【0195】
続いて、連続的に何度もクラック3を横断するようにレーザ光を照射するパターンについて説明する。
図9は、レーザ光の照射範囲の第4の例を示す斜視図および断面図である。図7および図8は、互いに離れた複数の照射範囲にレーザ光が照射される例である。しかし、クラック修正装置100または200は、クラック3に沿ってジグザグ状かつ連続的にレーザ光を照射することで、より確実にクラック3を修正してもよい。
【0196】
例えば、図9(a)には、xy平面に平行な平面上で、ジグザグ状の線に沿ってレーザ光を照射する例を示した。すなわち、図9(a)における照射範囲2は、一部がクラック3の先端を横断しており、かつ、クラック3に沿ってジグザグに進む線に沿った範囲である。
【0197】
図9(a)のような照射範囲2にレーザ光を照射する場合は、図4の処理を次のように変形してもよい。すなわち、図4の処理は、ステップS103〜S105の繰り返しによってクラック3の先端を探した後にステップS106〜S112による照射を行うという処理である。図4における処理順を変えて、クラック修正装置100または200は、クラック3をたどりながら直線状のレーザ光の照射を行うことを繰り返してもよい。繰り返しの結果として、照射範囲2は、複数の直線状の範囲が連結された、全体としてはジグザグ状の範囲となる。
【0198】
また、図9(b)には、z軸に平行な平面上で、ジグザグ状の線に沿ってレーザ光を照射する例、すなわち、深さ方向に何度もクラック3を横断するようにレーザ光を照射する例を示した。図9(b)のようなジグザグ状の照射は、例えば下記のように複数回に分けて実行してもよい。
【0199】
・クラック3のz方向の先端を含む、直線状の照射範囲2aへのレーザ光の照射
・照射範囲2aに連結している直線状の照射範囲2bへのレーザ光の照射
・照射範囲2bに連結している直線状の照射範囲2cへのレーザ光の照射
また、照射範囲を規定するジグザグ状の線は、x軸、y軸、z軸のいずれにも平行ではない平面上にあってもよい。
【0200】
あるいは、クラック修正装置100は、3次元的な広がりを有するジグザグ状の線に沿った照射範囲に、レーザ光を照射してもよい。この場合、例えば、ステージ移動機構103によるx方向およびy方向の相対移動と、光学系制御部126を介しての集光光学系104とステージ101との間のz方向の相対移動とを、同時に行うよう、処理部127がクラック修正装置100全体を制御する。
【0201】
続いて、クラック3を周囲から連続的に囲うことでクラック3の進行を抑制するパターンについて説明する。
図10は、レーザ光の照射範囲の第5の例を示す斜視図および断面図である。図10に示すパターンは、幅が例えば約10μm以下といった、ごく細いクラック3の修正に適している。
【0202】
図10(a)には、xy平面に平行な平面上で、またはクラック3の深さに合わせてz座標を変えながら、クラック3を起点から先端までレーザマーキングの要領で囲うように、曲線状の照射範囲2にレーザ光を照射する例を示す。照射範囲2にレーザ光を照射することで、クラック3の周辺は強化されたガラスで囲われることになり、クラック3の伸張を防ぐことができる。
【0203】
また、図10(b)は、z方向に複数の層にわたって、クラック3を囲って曲線状にレーザ光を照射するパターンを表す。すなわち、図10(b)は、ガラス基板1の表面に近い側から順に次の3層に照射範囲がそれぞれ設定された例である。
【0204】
・断面が照射範囲2aと2dにより表され、クラック3を囲う曲線に沿った照射範囲
・断面が照射範囲2bと2eにより表され、クラック3を囲う曲線に沿った照射範囲
・断面が照射範囲2cと2fにより表され、クラック3を囲う曲線に沿った照射範囲
図10(b)は、複数の溶融層を形成するように、複数の照射範囲へレーザ光を照射することで、クラック3をより確実に修正するという点において、図7(a)および図8と同様である。
【0205】
以上、図7〜図10を参照して様々な照射パターンを説明したが、図5および図7〜図10に示したいずれの照射パターンも以下の特徴がある。すなわち、ガラス基板1の外面の盛り上がりなどの変形を避けるため、照射範囲2および2a〜2fは、ガラス基板1の表面と裏面のいずれにも接しないように設定されている。したがって、ガラス基板1がLCD用のものであった場合に、クラック3を修正した後のガラス基板1においても精密なセルギャップ制御が可能である。
【0206】
なお、本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、様々に変形可能である。以下にその例をいくつか述べる。
変形の第1の観点は、レーザ光を照射する対象物である。
【0207】
第1および第2実施形態では、FPD用のガラス基板に発生したクラックを修正するクラック修正装置100および200を例示した。しかし、FPD用のガラス基板以外の、任意の形状および大きさのガラス物体を対象としてクラックの修正を行うように、第1または第2実施形態を変形してもよい。例えば、ガラス物体を載置するステージの大きさや、z軸方向の相対移動の可動範囲などは、修正対象のガラス物体の形状や大きさに応じ、実施形態によって適宜定めることができる。
【0208】
変形の第2の観点は、レーザ光を照射する目的である。すなわち、既に生じてしまったクラックに対する修正以外の用途に、上記のクラック修正装置100または200を利用することもできる。
【0209】
例えば、図2に示したように、何らかの原因でチップ5aまたは5bが発生すると、クラックに成長する可能性が高い。そこで、チップが発生した場合は、例えばクラック修正装置100または200が、図10と同様にしてチップの周りにレーザ光を照射してもよい。
【0210】
すると、チップの周辺のガラスが強化されるので、チップがクラックに成長するのを防ぐことが可能である。このように、第1および第2実施形態は、クラックの修正以外にクラックの予防の用途にも利用することができる。
【0211】
また、クラックとは関係なく、ガラス物体内部の一部分を改質するためのレーザ加工装置として、クラック修正装置100または200を利用することもできる。すなわち、上記実施形態によれば、クラックの修正、クラックの発生の予防、ガラス物体内部の改質強化、ガラス物体内部の屈折率の変化などの、ガラス物体内部に対する種々の加工を行うレーザ加工装置およびレーザ加工方法が提供される。
【0212】
変形の第3の観点は、レーザ光の照射範囲である。照射範囲は、上記に例示したパターンに限らず、例示したパターンの任意の組み合わせでもよい。また、その他種々のパターンでの照射も可能である。
【0213】
すなわち、クラックの修正に有効であれば、どのような直線または曲線に沿った照射範囲であってもよい。例えば、直線状または曲線状の照射範囲は、クラックに接していてもよく、クラックを横断してもよく、クラックから離れていてもよい。例えば、図9(a)は、クラック3から離れてクラック3の成長する側に位置する照射範囲2を示している。図9(a)では、レーザ光の照射によって照射範囲2に作られた溶融層が、クラックの進行に対する障壁となっている。
【0214】
一般にクラックは、先端からさらに進行する可能性があるので、クラックの先端から見て起点と逆側は、クラックの成長する側である。また、一般にクラックは、クラックによってガラス基板の表面、裏面、または側面上に生じた微細な開口の幅がさらに広がるという進行をたどる可能性もある。よって、例えば図9(a)においてクラック3の左右を囲む照射範囲2も、クラックの成長する側に位置していると言える。
【0215】
上述した以外のレーザ光の照射パターンとしては、例えば、以下のような例が挙げられる。
クラック修正装置100または200は、図9(a)のジグザグ状の照射範囲2を、図10(b)と類似の仕方でz方向の複数の層に設定し、レーザ光を照射してもよい。
【0216】
また、図10(a)では、照射範囲2がクラック3の起点から先端までを囲う曲線状であるが、照射範囲2は、クラック3の先端付近の一部を囲う曲線状の範囲であってもよい。円、楕円、または多角形のように閉じた線状の照射範囲がクラック3の先端付近を囲う実施形態も可能である。
【0217】
なお、図示した照射範囲はいずれも、直線状または曲線状に連続した範囲であるが、照射範囲は、断続的に直線状または曲線状に連なる複数の点からなる集合であってもよい。
以上のように照射範囲の形状は様々であるが、例えば、処理部127は、クラック3の形状に合わせて、クラック3を囲う図10(a)のような照射範囲2を設定することもでき、クラック3を何度も横断する図9(a)のような照射範囲2を設定することもできる。例えば、画像処理部128がエッジ抽出処理を行ったり、データ入力部112がユーザから入力を受け付けたりすることにより、処理部127はクラック3の形状を認識することができる。よって、処理部127は、認識した形状に合わせて照射範囲2を決定してもよい。
【0218】
また、例えば、予め用意された複数の照射パターンの中から適用すべき照射パターンを指定する入力を、データ入力部112がユーザから受け取って処理部127に出力してもよい。処理部127は、必要ならクラック3の形状を認識して、指定された照射パターンにしたがったレーザ光の照射を制御することができる。
【0219】
変形の第4の観点は、クラック修正装置100、200、またはその他の上記変形例によるレーザ加工装置における光学素子の配置である。例えば、クラック修正装置100において下記の(1)および(2)のような変形が可能である。もちろん、クラック修正装置200やその他のレーザ加工装置において類似の変形が可能である。また、(1)と(2)以外の変形も可能であり、例えば、ガラス基板1の表面と裏面の双方からレーザ光を照射することが可能なように、クラック修正装置を構成することもできる。
(1)図1のクラック修正装置100において、観察系108と加工用のレーザーユニット102との位置が逆であってもよい。
【0220】
すなわち、レーザーユニット102が射出したレーザ光が、ビームスプリッタ107を透過して集光光学系104を介して照射範囲2に照射されるよう、レーザーユニット102が集光光学系104の光軸上に配置されていてもよい。
【0221】
(1)の場合、結像レンズ106は、例えばレーザーユニット102とビームスプリッタ107の間に配置されてもよい。また、ガラス基板1から集光光学系104を介してビームスプリッタ107に到達した光は、ビームスプリッタ107で反射し、ミラー105で再度反射して観察系108に入射する。
(2)図1のクラック修正装置100において、ミラー105を省略してもよい。
【0222】
図1においてミラー105を省略し、レーザーユニット102からのレーザ光の射出光路が結像レンズ106の光軸に一致するように、レーザーユニット102の位置を変えてもよい。
【0223】
また、(1)の場合において(2)と同様にミラー105を省略し、ビームスプリッタ107からの反射光の光路に観察系108の不図示の撮像部120の光軸が一致するように、観察系108を配置してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0224】
【図1】第1実施形態によるクラック修正装置の構成図である。
【図2】クラックとチップの発生したガラス基板の例を示す上面図である。
【図3】第1実施形態によるクラック修正装置100の機能ブロック図である。
【図4】第1実施形態におけるクラック修正装置100の動作を示すフローチャートである。
【図5】第1実施形態におけるクラックおよびレーザ光の照射範囲の例を示す斜視図である。
【図6】第2実施形態によるクラック修正装置の構成図である。
【図7】レーザ光の照射範囲の第2の例を示す斜視図である。
【図8】レーザ光の照射範囲の第3の例を示す断面図である。
【図9】レーザ光の照射範囲の第4の例を示す斜視図および断面図である。
【図10】レーザ光の照射範囲の第5の例を示す斜視図および断面図である。
【符号の説明】
【0225】
1 ガラス基板
2、2a〜2f 照射範囲
3 クラック
4a〜4d パネル領域
5a、5b チップ
6a、6b 破断面
100、200 クラック修正装置
101、101b ステージ
102 レーザーユニット
103 ステージ移動機構
104 集光光学系
105 ミラー
106 結像レンズ
107 ビームスプリッタ
108 観察系
109 レーザ光学系
110 観察光学系
111 制御部
112 データ入力部
113 通信部
114 ワーク入れ替え部
115 レーザ光源
116 レーザ発振制御部
117 ガイド照明光源
118 ビームスプリッタ
119 加工形状設定部
120 撮像部
121 表示部
122 照明光学系
123 ビームスプリッタ
124 AFミラー
125 焦点補正光学系
126 光学系制御部
127 処理部
128 画像処理部
129 レーザ制御部
130 光学系制御指示部
131 ステージ制御部
132 台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を用いてガラス物体を加工するレーザ加工装置であって、
前記レーザ光をレーザ光源から射出する射出手段と、
前記レーザ光源から射出された前記レーザ光を前記ガラス物体の内部に集光する集光光学系と、
前記ガラス物体の前記内部において前記レーザ光を照射すべき照射範囲を決定するための決定手段と、
前記集光光学系の焦点が、前記決定手段が決定した前記照射範囲に位置するように、前記集光光学系と前記ガラス物体との相対位置を制御する制御手段とを備え、
前記射出手段は、前記レーザ光の前記照射範囲への照射により前記照射範囲において前記ガラス物体の前記内部を溶融させるように、前記制御手段によって前記相対位置が制御された状態で前記レーザ光を前記レーザ光源から射出する、
ことを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項2】
前記レーザ光は、パルスレーザ光であることを特徴とする請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
前記パルスレーザ光のパルス幅は10ps以下であることを特徴とする請求項2に記載のレーザ加工装置。
【請求項4】
前記ガラス物体に生じたクラックまたは欠けの位置または範囲を認識する認識手段をさらに備え、
前記決定手段は、前記認識手段が認識した前記クラックまたは前記欠けの前記位置または前記範囲に基づいて、1つ以上の前記照射範囲を決定する、
ことを特徴とする請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項5】
前記照射範囲のうちの少なくとも1つは、前記クラックの先端の点を含むことを特徴とする請求項4に記載のレーザ加工装置。
【請求項6】
1つ以上の前記照射範囲の各々は、
前記クラック上の点、
前記クラックに接するか、前記クラックを横断するか、前記クラックからは離れて前記クラックの成長する側に位置するか、前記クラックのうち少なくとも先端を含む一部を囲むか、または前記欠けを囲むかしている、直線または曲線、および
前記直線または前記曲線に沿って断続的に分布する複数の点の集合、
のいずれかであることを特徴とする請求項4に記載のレーザ加工装置。
【請求項7】
前記照射範囲のうちの少なくとも1つは前記クラックを横断しており、
前記射出手段は、ガラスの溶融によって前記クラックの破断面同士を溶接するように、前記レーザ光を前記レーザ光源から射出する、
ことを特徴とする請求項6に記載のレーザ加工装置。
【請求項8】
前記ガラス物体は、フラットパネルディスプレイ用のガラス基板であり、
前記レーザ光源と前記集光光学系は、回路パターンが形成された前記ガラス基板の表面の側と、前記表面に対向する裏面の側の一方または双方から、前記レーザ光が照射されるように配置されている、
ことを特徴とする請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項9】
レーザ光を用いてガラス物体を加工するレーザ加工装置が、
ユーザからの指示に基づいて、前記ガラス物体の内部において前記レーザ光を照射すべき照射範囲を決定し、
前記レーザ光を前記ガラス物体の前記内部に集光する集光光学系の焦点が、決定した前記照射範囲に位置するように、前記集光光学系と前記ガラス物体との相対位置を制御し、
前記照射範囲において前記ガラス物体の前記内部を溶融させるために前記レーザ光をレーザ光源から射出して前記照射範囲に照射する、
ことを特徴とするレーザ加工方法。
【請求項10】
前記照射範囲は、
前記ガラス物体に生じたクラック上の点、
前記クラックに接するか、前記クラックを横断するか、前記クラックからは離れて前記クラックの成長する側に位置するか、前記クラックのうち少なくとも先端を含む一部を囲むか、または前記ガラス物体に生じた欠けを囲むかしている、直線または曲線、および
前記直線または前記曲線に沿って断続的に分布する複数の点の集合、
のいずれかであることを特徴とする、請求項9に記載のレーザ加工方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図1】
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【図6】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−70388(P2010−70388A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−235823(P2008−235823)
【出願日】平成20年9月16日(2008.9.16)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】