説明

レーザ素子及び光送信モジュール

【課題】高速で長距離伝送が可能な、アンクールドタイプの電界吸収型変調器集積分布帰還型レーザの提供。
【解決手段】変調器部に位置する活性層の半導体材料及びメサ構造を最適化し、かつ、所定の温度におけるレーザ部の発振波長に対して、レーザ部の利得ピーク波長の適合値及び変調器部のフォトルミネッセンス波長の適合値の範囲を求め、それら適合値の範囲のいずれかの値になるよう設計してレーザ部及び変調器部を作製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電界吸収型変調器集積分布帰還型レーザに関する。特に、長距離伝送用であり、高速通信可能であり、広い温度範囲で安定的に動作する電界吸収型変調器集積分布帰還型レーザを搭載して駆動する光送信モジュール、光送受信器の小型化、低コスト化、低消費電力化の実現に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のブロードバンドネットワークの飛躍的な発展に伴い、都市間を結ぶメトロ系光通信網では、10Gbit/s以上の伝送速度といった高速通信が必要とされている。そのメトロ系光通信網では、ファイバ伝送距離が40kmもしくは80kmといった長距離伝送が求められている。加えて、同時に、光送受信器のさらなる小型化・低消費電力化が望まれている。
【0003】
[従来技術1]
従来技術にかかる光送受信器には、温度調整器が備えられ、温度一定の条件下で、安定して光出力を得ている光送受信器がある。しかし、温度調整器の存在により、光送受信器の小型化は阻害されることとなり、また、温度調整器の電力消費により、光送受信器の低消費電力化も阻害されることになる。
【0004】
よって、光送受信器の小型化・低消費電力化には、この温度調整器を必要とせず、広い温度領域のすべてにおいて、安定的に光出力する光送受信器が有効である。温度調整器を必要としないレーザ素子は、アンクールドタイプとも呼ばれている。
【0005】
たとえば、従来技術に係る光学素子として、分布帰還型レーザ(以下、DFB(Distributed FeedBack)レーザと記す)であって直接に変調を行う直接変調型DFBレーザがある。ここで、直接変調型とは、小さな光出力となる発振閾値電流付近である数mAの電流をバイアスし、十分大きな光出力となる数十mAの電流を、例えば10Gbit/sの変調速度で印加することによって、光のオン・オフを制御している。直接変調型DFBレーザでは、温度変化に強い材料の選択や、素子の放熱性の向上などにより、素子温度−5℃から85℃程度までの広温度範囲で動作させることが出来る。よって、温度調節器を必要としないアンクールドタイプのレーザ素子として、同軸型パッケージを用いた小型なレーザモジュールに搭載することができ、小型化を実現できる。
【0006】
[従来技術2]
変調速度10Gbit/s以上の高速光信号を40km以上伝送するためには、光のオン・オフを制御する変調器部が、レーザ部本体の外部に備えられる場合がある。その中でも、電界吸収型変調器(以下、EA(Electro-Absorption)変調器と記す)とDFBレーザとを同一半導体基板上に集積したEA変調器集積DFBレーザは、光ファイバの伝送損失の小さい1550nm波長帯で、伝送距離40km以上の長距離伝送用レーザモジュールに用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−279406号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Optical Fiber CommunicationConference 2003, PD42
【非特許文献2】Optical Fiber CommunicationConference 2005, PDP14
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来技術1に係る光学素子である直接変調型DFBレーザは、光ファイバへの分散耐力の指標であるチャーピングが大きいため、伝送距離はせいぜい10kmにとどまり、例えばファイバ分散が大きい1550nm波長帯で40km以上のシングルモードファイバを伝送する光送受信器に適用することは困難である。
【0010】
これに対して、従来技術2に係る光学素子であるEA変調器集積DFBレーザは、直接変調型DFBレーザと比較して、チャーピングが小さいので、長距離伝送に適していると言える。
【0011】
ここで、EA変調器集積DFBレーザについて、説明する。EA変調器集積DFBレーザとは、一定電流で駆動するDFBレーザ部と、バイアス電圧と変調振幅電圧を印加して動作させるEA変調器部とを、同一半導体基板上に集積させた光学素子である。多重量子井戸(以下、MQW(Multi Quantum Well)と記す)に電界を印加すると、吸収端波長が長波長側にシフトするという量子閉じ込めシュタルク効果(以下、QCSE(Quantum Confined Stark Effect)と記す)が知られている。EA変調器は、このQCSEを利用して、その活性層を構成しているMQW層に、電界を印加することで、DFBレーザ部からの連続発振光のオン・オフを制御する変調器である。
【0012】
EA変調器集積DFBレーザの光出力特性・変調特性・伝送特性などの特性は、備えられたEA変調器部の特性に依るところも多い。そして、EA変調器部の特性を決めるパラメータの一つとして、デチューニング量ΔHがある。ここで、デチューニング量ΔHとは、EA変調器のフォトルミネッセンス波長ΛEAとDFBレーザ部の発振波長λDFBの差、すなわち、ΔH=λDFB−ΛEAで定義される。
【0013】
一般に、デチューニング量ΔHが大きくなると、EA変調器の消光特性・チャープ特性が劣化する。逆に、デチューニング量ΔHが小さくなると、EA変調器での光吸収量が増大するため高速変調特性が劣化する。デチューニング量ΔHの大小は、EA変調器集積DFBレーザの温度と密接な関係がある。なぜなら、DFBレーザ部の発振波長λDFBとEA変調器のフォトルミネッセンス波長ΛEAの温度依存性は、それぞれ、約0.1nm/℃、約0.6nm/℃と、異なっているからである。前者は、温度上昇とともに半導体の屈折率が増大する効果により、後者は、温度上昇による熱膨張のためエネルギーバンドギャップが小さくなる効果によるものである。言い換えると、デチューニング量ΔHは約−0.5nm/℃の温度依存性を有するため、低温時にはデチューニング量ΔHが大きく、高温時にはデチューニング量ΔHが小さいことになる。
【0014】
EA変調器部の特性の1つである損失は、デチューニング量ΔHに大きく依っている。ここで、損失には、電圧を印加しない状態、すなわち、無バイアス状態における光吸収による損失と、バイアス電圧と変調振幅電圧を印加した場合、すなわち、変調状態における損失、とがある。前者は基礎吸収による挿入損と、後者は変調損と、呼ばれている。
【0015】
変調損は、EA変調器部のMQW層の構造やEA変調器部の全長によって多少変わるが、およそ5〜6dB程度である。一方、基礎吸収による挿入損は、デチューニング量ΔHによって大きく変動する。
【0016】
EA変調器部を温度一定にして使用する場合、その駆動温度での損失と消光比とのバランスを考慮して、最適なデチューニング量ΔHに設計する。一般には、デチューニング量ΔHの設定を50nm以上60nm以下のいずれかの値にするのが一般的である。ところが、アンクールドタイプのEA変調器集積DFBレーザでは、例えば、−5℃以上85℃以下の広い温度領域での使用が想定されている。そうなると、ある温度において最適なデチューニング量ΔHであったとしても、デチューニング量ΔHの温度依存性により、低温においては、デチューニング量ΔHが大きくなり、損失は十分小さいものの消光比が不足する。逆に、高温においては、デチューニング量ΔHが小さくなり、十分に大きな消光比は得られるが損失が大きくなってしまう。
【0017】
よって、アンクールドタイプのEA変調器集積DFBレーザを用いて長距離伝送を行うためには、広い温度範囲においてEA変調器部での損失を小さくし、かつ、大きな消光比を得ることが必要である。
【0018】
また、EA変調器集積DFBレーザの特性は、DFBレーザ部の特性に依るところも多いのは言うまでもない。DFBレーザ部には、広い温度範囲において、所定の駆動電流によって、大きな光出力が得られることが求められる。
【0019】
DFBレーザ部では、高温において、DFBレーザ部を構成するMQW層内に注入されたキャリアが、熱的励起により高いエネルギーまで分布している。それゆえ、このキャリアがMQW層の外へオーバーフローしやすくなっており、これにより、発振に寄与できるキャリアの数が減少してしまう。その結果、光発振するための発振閾値電流が増大し、これに応じて、光出力が減少する。そのため、高温時において、大きな光出力が得られるよう、DFBレーザ部を構成するMQW層に含まれる障壁層の組成波長を小さくしてキャリアのオーバーフローを抑制したり、放熱性を向上させたりするなど、MQW層の構造の最適化を行う必要がある。
【0020】
さらに、DFBレーザ部のデチューニング量ΔGを適切に設定することが必要となる。ここで、デチューニング量ΔGとは、DFBレーザ部の特性を決めるパラメータの一つであり、DFBレーザ部の発振波長λDFBとDFBレーザ部の利得ピーク波長λgainとの差、すなわち、ΔG=λDFB−λgainで定義される。
【0021】
デチューニング量ΔGは、EA変調器部におけるデチューニング量ΔHと同様に、温度依存性を有している。DFBレーザ部の発振波長λDFBの温度依存性は、前述の通り、約0.1nm/℃であり、また、DFBレーザ部の利得ピーク波長λgainの温度依存性は、約0.6nm/℃であるため、デチューニング量ΔGは、デチューニング量ΔHとほぼ同様に、約−0.5nm/℃の温度依存性を有している。
【0022】
DFBレーザ部を温度一定にして使用する場合、その駆動温度における適合値にデチューニング量ΔGを設計することで、利得が大きい条件のもとでレーザ発振が得られる。ここで、デチューニング量ΔGの適合値とは、駆動温度において、例えば、−10nm以上0nm以下の範囲である。ところが、アンクールドタイプのEA変調器集積DFBレーザでは、例えば、−5℃以上85℃以下の広い温度領域での使用が想定されている。そうなると、ある温度においてデチューニング量ΔGの適合値の範囲内で、当該レーザが設計されていたとしても、デチューニング量ΔGの温度依存性により、他の温度において使用される場合、利得が非常に小さくなり、レーザ発振するための発振閾値電流が増大し、所望の特性が得られなくなる。また、デチューニング量ΔGの変化に伴い、DFBレーザ部が2次の横モードを発振しやすくなったりもする。それゆえ、広い温度範囲において、安定的に発振するDFBレーザ部の作製は困難なものとなっている。
【0023】
したがって、EA変調器集積DFBレーザは、アンクールドとしてではなく、レーザモジュールに、ペルチエなどの温度調整器部を備えることで、EA変調器集積DFBレーザの温度を一定に保って使用されることが一般的である。たとえば、25℃から35℃の温度領域の中の温度に保つレーザ素子をクールドタイプ、40℃から60℃の温度領域の中の温度に保つレーザ素子をセミクールドタイプなどと呼んでいる。最近では、クールドタイプのレーザ素子を用いた場合に比べて、温度調整器部の消費電力を1W程度低減できるセミクールドタイプのレーザ素子を用いた光送受信器の製品化が主流となっている。しかしながら、温度制御するペルチエなど温度調整器が必要なため、ボックス型のレーザモジュールに搭載することしかできず小型化が阻害され、また、温度調整器が電力消費するため、低消費電力化への隘路となっている。
【0024】
これに対して、さらなる小型・低消費電力化のためには、前述した直接変調型レーザと同様に、EA変調器集積DFBレーザも−5℃から85℃までアンクールドタイプとして動作することが望まれており、最近、開発が盛んに進められている。前述した通り、EA変調器集積DFBレーザの特性は、EA変調器部のデチューニング量ΔHの大きさに依っており、デチューニング量ΔHは、素子温度によって大きく左右される。しかしながら、例えば、特許文献1に記載のあるように、EA変調器部の活性層を構成するMQW層に含まれている障壁層の組成波長の適合範囲を定めたり、広い温度領域において駆動させるのに適合するデチューニング量ΔHの適合値を定めることにより、広い温度領域において、変調特性と伝送特性の向上がなされている。
【0025】
また、その際、温度によってEA変調器に印加する逆バイアスを変化させて、デチューニング量ΔHの温度依存性を補償する駆動を行う。この手法を用いたアンクールドタイプのEA変調器集積DFBレーザの公知例として、例えば、非特許文献1、あるいは、非特許文献2がある。
【0026】
例えば、高温において、EA変調器部での基礎吸収による挿入損を3dB、変調損を6dB、レーザモジュール搭載の際のファイバ結合損を3dBと仮定すると、120mA程度のレーザ駆動電流でDFBレーザ部単体として+13dBm(20mW)の光出力が必要となるが、従来技術に係るアンクールドタイプのEA変調器集積DFBレーザにおいては、そのため、例えば、XFP(IR)の光出力規格である0dBmを、広い温度領域においてすべて満足するには至っていない。
【0027】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、高速で長距離伝送が可能なレーザ素子及び光送信モジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0028】
(1)本発明に係るレーザ素子は、分布帰還型レーザ部と、該レーザ部の出力側に配置される電界吸収型変調器部と、が同一基板上に形成されるレーザ素子であって、前記変調器部は、インジウムガリウムアルミニウム砒素を含む量子井戸層と、該量子井戸層の両側部に隣接して配置される半絶縁半導体からなる埋め込み層と、を含み、前記埋め込み層は、不純物としてルテニウムが添加される、ことを特徴とし、本発明は、当該レーザ素子の製造方法であって、所定の温度において、レーザ光の発振波長と利得ピーク波長の差がそれぞれ異なる複数の前記レーザ部それぞれについて、所定の温度領域の最低温度及び最高温度における発振閾値電流を測定するステップと、複数の前記レーザ部それぞれについて、前記最低温度における発振スペクトルを測定するステップと、前記最低温度において、前記発振閾値電流と前記発振スペクトルに基づいて、所定の発振波長に対する前記利得ピーク波長の下限値を求めるステップと、前記最高温度において、前記発振閾値電流に基づいて、前記所定の発振波長に対する前記利得ピーク波長の上限値を求めるステップと、所定の温度において、前記レーザ部のレーザ光の発振波長と前記変調器部のフォトルミネッセンス波長の差がそれぞれ異なる複数の前記変調器部それぞれについて、前記最低温度における動的消光比を測定するステップと、複数の前記変調器部それぞれについて、前記最高温度における基礎吸収による挿入損を測定するステップと、前記動的消光比の値が、所定の値以上となる、前記所定の発振波長に対する前記フォトルミネッセンス波長の下限値を求めるステップと、前記挿入損の値が、所定の値以下となる、前記所定の発振波長に対する前記フォトルミネッセンス波長の上限値を求めるステップと、前記上限値と前記下限値を満たす前記利得ピーク波長となるよう、前記レーザ部を形成するステップと、前記上限値と前記下限値を満たす前記フォトルミネッセンス波長となるよう、前記変調器部を形成するステップと、を含んでいる。
【0029】
(2)本発明に係るレーザ素子は、分布帰還型レーザ部と、該レーザ部の出力側に配置される電界吸収型変調器部と、が同一基板上に形成されるレーザ素子であって、前記変調器部は、インジウムガリウムアルミニウム砒素を含む量子井戸層を含み、前記量子井戸層の上方にリッジ構造が配置される、ことを特徴とし、本発明は、当該レーザ素子の製造方法であって、所定の温度において、レーザ光の発振波長と利得ピーク波長の差がそれぞれ異なる複数の前記レーザ部それぞれについて、所定の温度領域の最低温度及び最高温度における発振閾値電流を測定するステップと、複数の前記レーザ部それぞれについて、前記最低温度における発振スペクトルを測定するステップと、前記最低温度において、前記発振閾値電流と前記発振スペクトルに基づいて、所定の発振波長に対する前記利得ピーク波長の下限値を求めるステップと、前記最高温度において、前記発振閾値電流に基づいて、前記所定の発振波長に対する前記利得ピーク波長の上限値を求めるステップと、所定の温度において、前記レーザ部のレーザ光の発振波長と前記変調器部のフォトルミネッセンス波長の差がそれぞれ異なる複数の前記変調器部それぞれについて、前記最低温度における動的消光比を測定するステップと、複数の前記変調器部それぞれについて、前記最高温度における基礎吸収による挿入損を測定するステップと、前記動的消光比の値が、所定の値以上となる、前記所定の発振波長に対する前記フォトルミネッセンス波長の下限値を求めるステップと、前記挿入損の値が、所定の値以下となる、前記所定の発振波長に対する前記フォトルミネッセンス波長の上限値を求めるステップと、前記上限値と前記下限値を満たす前記利得ピーク波長となるよう、前記レーザ部を形成するステップと、前記上限値と前記下限値を満たす前記フォトルミネッセンス波長となるよう、前記変調器部を形成するステップと、を含んでいる。
【0030】
(3)上記(1)及び(2)のいずれかに記載のレーザ素子の製造方法によって製造されるレーザ素子。
【0031】
(4)本発明に係るレーザ素子は、分布帰還型レーザ部と、該レーザ部の出力側に配置される電界吸収型変調器部と、が同一基板上に形成されるレーザ素子であって、前記変調器部は、インジウムガリウムアルミニウム砒素を含む量子井戸層と、該量子井戸層の両側部に隣接して配置される半絶縁半導体からなる埋め込み層と、を含み、前記埋め込み層は、不純物としてルテニウムが添加され、25℃における前記レーザ部の発振波長が1460nm以上1630nm以下のいずれかであって、25℃における前記レーザ部の利得ピーク波長の上限値が、25℃における前記発振波長より10nm短く、25℃における前記利得ピーク波長の下限値が、25℃における前記発振波長より25nm短く、25℃における前記変調器部のフォトルミネッセンス波長の上限値が、25℃における前記発振波長より80nm短く、25℃における前記フォトルミネッセンス波長の下限値が、25℃における前記発振波長より100nm短い、ことを特徴とする。
【0032】
(5)本発明に係るレーザ素子は、分布帰還型レーザ部と、該レーザ部の出力側に配置される電界吸収型変調器部と、が同一基板上に形成されるレーザ素子であって、前記変調器部は、インジウムガリウムアルミニウム砒素を含む量子井戸層を含み、前記量子井戸層の上方にリッジ構造が配置され、25℃における前記レーザ部の発振波長が1460nm以上1630nm以下のいずれかであって、25℃における前記レーザ部の利得ピーク波長の上限値が、25℃における前記発振波長より10nm短く、25℃における前記利得ピーク波長の下限値が、25℃における前記発振波長より25nm短く、25℃における前記変調器部のフォトルミネッセンス波長の上限値が、25℃における前記発振波長より80nm短く、25℃における前記フォトルミネッセンス波長の下限値が、25℃における前記発振波長より100nm短い、ことを特徴とする。
【0033】
(6)上記(3)乃至(5)のいずれかに記載のレーザ素子を備える、同軸型レーザモジュール。
【0034】
(7)上記(6)に記載の同軸型レーザモジュールを備える、XFP光送受信器。
【0035】
(8)上記(6)に記載の同軸型レーザモジュールを備える、SFP+光送受信器。
【発明の効果】
【0036】
本発明を用いることによって、長距離伝送が可能なレーザ素子及び光送信モジュールが実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】異なるデチューニング量ΔGを有するDFBレーザ部について、85℃及び−5℃における発振閾値電流の測定結果を示した図である。
【図2】異なるデチューニング量ΔGを有するDFBレーザ部について、−5℃における2次の横モード発生率の測定結果を示した図である。
【図3】異なるデチューニング量ΔHを有するEA変調器部について、85℃における基礎吸収による挿入損と、−5℃における動的消光比の測定結果を示した図である。
【図4】25℃におけるDFBレーザ部の発振波長が1550nmの場合の、DFBレーザ部の発振波長と、DFBレーザ部の利得ピーク波長の適合値と、EA変調器部のフォトルミネッセンス波長の適合値の、温度変化を示した図である。
【図5】本発明の第1の実施形態に係るEA変調器集積DFBレーザの上面図、EA変調器部の断面図、及び、DFBレーザ部の断面図である。
【図6】本発明の第2の実施形態に係るEA変調器集積DFBレーザの上面図、EA変調器部の断面図、及び、DFBレーザ部の断面図である。
【図7】本発明の第3の実施形態に係るレーザモジュールの側面図、及び、内部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下に本発明に関する具体的な実施形態を詳細に説明する。
【0039】
[第1の実施形態]
第1の実施形態に係るEA変調器集積DFBレーザは、波長帯が1550nmであり、伝送速度が10.7Gbit/sである40km伝送用の光送受信器に搭載されるレーザである。温度変調器を必要としないアンクールドタイプのものであり、使用可能温度領域は、−5℃以上85℃以下である。当該EA変調器集積DFBレーザは、後述する製造方法により、EA変調器部とDFBレーザ部が同一基板上に形成される。
【0040】
当該EA変調器集積DFBレーザは、アンクールドタイプのものであり、使用が想定されている温度領域において、いくつかのパラメータについて所定の条件を満たしているよう、以下のように、DFB部及びEA変調器部のデチューニング量ΔG及びΔHの適合値の範囲を求める。
【0041】
[DFBレーザ部のデチューニング量ΔG]
DFBレーザ部のデチューニング量ΔGを設計するための適合値を、最高温度t及び最低温度tにおける発振閾値電流Ithと、最低温度tにおける発振スペクトルの測定により求める。
【0042】
DFBレーザ部のデチューニング量ΔGは、前述の通り、温度依存性を有し、温度に応じてデチューニング量ΔGは変化する。それゆえ、t℃におけるデチューニング量ΔGをΔG(t)と表すこととする。
【0043】
まず、同じ温度tにおいて異なるデチューニング量ΔG(t)の値を有するよう設計して、複数のDFBレーザ部を作製する。当該複数のDFBレーザ部について、想定される使用温度領域の最高温度t及び最低温度tのそれぞれにおいて、発振閾値電流Ithを測定する。レーザ部として使用するに十分な光出力を得るための発振閾値電流を所定の電流値として、測定された発振閾値電流Ithが所定の電流値以下となるDFBレーザ部のデチューニング量ΔGの範囲を求める。また、最低温度tにおいて、発振スペクトルを測定し、その発振スペクトルから、それぞれのデチューニング量ΔGにおいて、2次の横モードが発振しておらず、1次の横モードのみが発振している状態になっているかどうかを判断する。そして、2次の横モードが発振せず、1次の横モードのみが発振している状態となる、ΔGの範囲を求める。以上によって、求められたデチューニング量ΔGの範囲をともに満たす範囲を求めることにより、デチューニング量ΔGの適合値の設定範囲が得られる。
【0044】
図1は、前述した複数のDFBレーザ部について測定された最高温度t=85℃及び最低温度t=−5℃における発振閾値電流Ithの測定結果を示したものである。横軸は、デチューニング量ΔGであるが、デチューニング量ΔGは温度依存性を有するため、複数のDFBレーザ部の各々が有するデチューニング量ΔGは、室温である25℃に換算して、ΔG(t=25)として表されている。前述の通り、デチューニング量ΔGは、約−0.5nm/℃の温度依存性がある。例えば、デチューニング量ΔG(t=25)が20nmである場合、最高温度t=85℃におけるデチューニング量ΔG(t=85)は、20+(−0.5)×(85−25)=−10nmとなる。同様に、最低温度t=−5℃におけるデチューニング量ΔG(t=−5)は、20+(−0.5)×(−5−25)=35nmとなる。また、縦軸は発振閾値電流Ithの電流値であり、シンボル●及びシンボル□は、それぞれ、最低温度t=−5℃及び最高温度t=85℃における発振閾値電流Ithの電流値が示されている。
【0045】
デチューニング量ΔG(t=25)が30nmを超えると、最低温度t=−5℃における発振閾値電流Ithが急激に増大している。ここで、デチューニング量ΔG(t=25)=30nmは、デチューニング量ΔG(t=−5)=45nmと、換算される。
【0046】
一般には、低温において発振閾値電流Ithは小さいが、デチューニング量ΔGが大きくなると、低温においても、急激に発振閾値電流Ithは急激に大きくなる。これは、MQW構造の利得スペクトルが、その量子効果によって利得ピーク波長よりも長波長側は急峻に利得が小さくなる形状となっているからである。
【0047】
たとえば最高温度t=85℃での特性を優先させて、デチューニング量ΔG(t=85)=0nm、すなわち、デチューニング量ΔG(t=25)=30nmとした場合、デチューニング量ΔG(t=−5)=45nmとなり、t=−5℃でレーザ発振するには、発振閾値電流Ithが大きくなっている状況となる。
【0048】
よって、最低温度t=−5℃における発振閾値電流Ithの測定により、デチューニング量ΔG(t=25)は、30nm以下が望ましい。
【0049】
一方、デチューニング量ΔGは、高温において、より小さい値をとるので、設計次第では、負の値をとる場合がある。この場合、発振波長λDFBが、利得ピーク波長λgainよりも短波長側になっている。この場合、デチューニング量ΔGが減少するにつれて、すなわち、発振波長λDFBが、利得ピーク波長λgainから短波長側へより離れていくにつれて、発振閾値電流Ithは増大することがわかる。図1に示す通り、デチューニング量ΔG(t=25)が10nmを下回ると、発振閾値電流Ithは40mAを超えてしまう。このとき、デチューニング量ΔG(t=85)=−20nmとなり、発振波長λDFBが利得ピーク波長λgainよりも20nmも短波長側にずれている。t=85℃におけるEA変調器集積DFBレーザの効率は、MQW構造の最適化などにより約0.25W/Aを達成することは可能であるが、発振閾値電流Ithが40mAを超えてしまうと、駆動電流を120mAとしても20mWという光出力を得ることは困難となる。
【0050】
よって、最高温度85℃における発振閾値電流の測定により、デチューニング量ΔG(t=25)は、10nm以上が望ましい。
【0051】
最低温度t=−5℃において、前述した複数のDFBレーザ部について、発振スペクトルを測定する。その発振スペクトルより、1次の横モードが発振する波長における発振スペクトルの強度と、2次の横モードが発振する波長における発振スペクトルの強度を求める。そして、1次の横モードと2次の横モードの発振スペクトルの強度差が40dB以上であれば、2次の横モードは発振していないと判断し、40dB以下であれば、2次の横モードが発振していると判断する。
【0052】
同じ条件で作製された複数のDFBレーザ部について、測定された発振スペクトルにより、同じ条件において、2次の横モードが発振していると判断されたDFBレーザ部の個数の、作製された複数のDFBレーザ部全体の個数に対する割合を、2次の横モード発生率として、図2に示している。図2に示す通り、デチューニング量ΔG(t=25)が25nmより小さい条件においては、その条件で作製されたDFBレーザ部すべてにおいて2次の横モードが発振していないと判断された。すなわち、2次の横モードの発生率は0である。ところが、デチューニング量ΔG(t=25)が25nmを超えると、すなわち、デチューニング量ΔG(t=−5)が40nmを超えると、t=−5℃において2次の横モード発生率が急激に増大している。これは特に、DFBレーザ部の抵抗を下げる等の目的のために、メサ構造の幅を約2μm程度と若干大きな幅で設計した場合に起こりやすい現象である。
【0053】
1次の横モードと2次の横モードとの実効屈折率差から計算される発振波長の計算値によると、1550nm波長帯の場合、2次の横モード発振波長が1次の横モード発振波長より約20nm短い。−5℃においてデチューニング量ΔGが40nmである場合、発振波長λDFBは、利得ピーク波長λgainより40nmも長波長側にずれているので、1次の横モードの利得がそれに応じて非常に小さくなっている。これに対して、2次の横モードの発振波長は、利得ピーク波長λgainから約20nmずれているに過ぎないため、2次の横モードが発振しやすくなっている。2次の横モードが発振すると、I−L特性に不連続キンクを引き起こしたり、EA変調器において消光比の劣化を引き起こしたりするなど、特性に悪影響を及ぼすこととなる。それゆえ、2次の横モード発生率の測定から、25℃におけるデチューニング量ΔGを25nm以下にするのが望ましい。
【0054】
[EA変調器部のデチューニング量ΔH]
EA変調器部のデチューニング量ΔHを設計するための適合値を、最高温度tにおける基礎吸収による挿入損と、最低温度tにおける動的消光比の測定により求める。
【0055】
DFBレーザ部のデチューニング量ΔGと同様に、t℃におけるEA変調器部のデチューニング量ΔHをΔH(t)と表すこととする。
【0056】
まず、同じ温度tにおいて異なるデチューニング量ΔH(t)の値を有するよう設計して、複数のEA変調器部を作製する。当該複数のEA変調器部について、想定される使用温度領域の最高温度tにおける基礎吸収による挿入損を、最低温度tにおける動的消光比を、測定する。変調器として使用するに十分な特性を有するための挿入損の値を所定値として、最高温度tにおける基礎吸収による挿入損の値が、その所定値以下となるように、EA変調器部のデチューニング量ΔHの下限値を求める。同様に、変調器として使用するに十分な特性を有するための動的消光比の値を所定値として、最低温度tにおける動的消光比の値が、その所定値以上となるように、EA変調器部のデチューニング量ΔHの上限値を求める。以上により、デチューニング量ΔHの適合値の設定範囲が得られる。
【0057】
図3は、前述した複数のEA変調器部について測定された最高温度t=85℃における基礎吸収による挿入損と、最低温度t=−5℃における動的消光比の測定結果を示したものである。ここで、動的消光比は、変調振幅電圧Vmodを2Vとして、測定を行った。横軸は、デチューニング量ΔHである。デチューニング量ΔHは、前述のデチューニング量ΔGと同様に、温度依存性を有するため、図3における横軸は、室温である25℃のデチューニング量ΔHに換算して、ΔH(t=25)として表されている。また、図3における縦軸は、シンボル●については、85℃における基礎吸収による挿入損を、シンボル▲については、−5℃における動的消光比を、示している。
【0058】
85℃における基礎吸収による挿入損は、デチューニング量ΔHが減少するとともに、増加し、デチューニング量ΔH(t=25)が80nm以下になると、3dBよりも大きくなる。基礎吸収による挿入損が3dBを超えると、DFBレーザ部のレーザ駆動電流Iを120mA以上に上げなければ、高温駆動時に所望の光出力を得ることが困難になるので、デチューニング量ΔH(t=25)が80nm以上であることが望ましい。
【0059】
−5℃における動的消光比は、デチューニング量ΔHが増加するとともに、減少し、デチューニング量ΔH(t=25)が100nm以上になると、10dB以下となる。この場合、変調振幅電圧Vmodを2Vでは駆動が困難となり、さらに、変調振幅電圧Vmodを2Vとより高くすることが必要となる。変調振幅電圧Vmodを2Vで駆動させるためには、デチューニング量ΔH(t=25)が100nm以下であることが望ましい。
【0060】
以上により求めた条件をすべて満たす範囲を求めると、DFBレーザ部のデチューニング量ΔG(t=25)の適合値は、10nm以上25nm以下であり、EA変調器部のデチューニング量ΔH(t=25)の適合値は、80nm以上100nm以下であることが得られた。なお、ここでは、発振波長が1550nmの場合について説明したが、同じ波長帯となる発振波長が1460nm以上1630nm以下についても、同様であることは言うまでもない。そして、これらデチューニング量ΔG(t=25)及びΔH(t=25)を、波長帯1460nm以上1630nm以下の発振波長λDFBに対して、エネルギー換算すると、ΔG(t=25)は、およそ5meV以上14meV以下、ΔH(t=25)は、およそ40meV以上60meV以下となる。
【0061】
また、25℃における発振波長λDFB、及び、デチューニング量ΔG(t=25)とΔH(t=25)より、25℃におけるDFBレーザ部の利得ピーク波長λgain及びEA変調器部のフォトルミネッセンス波長ΛEAの適合値の範囲が得られる。
【0062】
図4は、25℃における発振波長λDFBが1550nmの場合について、DFBレーザ部の発振波長λDFB、利得ピーク波長λgainの適合値、及び、EA変調器部のフォトルミネッセンス波長ΛEAの適合値、の温度変化を表している。ここで、横軸は、素子の温度tを、縦軸は波長λを、表している。
【0063】
25℃における発振波長λDFBが1550nmであれば、DFBレーザ部のデチューニング量ΔG(t=25)の適合値の範囲は、10nm以上25nm以下であるので、25℃におけるDFBレーザ部の利得ピーク波長λgainの適合値の範囲は、1525nm以上1540nm以下となる。また、EA変調器部のデチューニング量ΔH(t=25)の適合値の範囲は、80nm以上100nm以下であるので、25℃におけるEA変調器部のフォトルミネッセンス波長ΛEAの適合値の範囲は、1450nm以上1470nm以下となる。図4において、25℃におけるこれら適合値の範囲が、それぞれ矢印で示されている。
【0064】
これは、最低温度t=−5℃において、発振波長λDFBは1547nmで、利得ピーク波長λgainの適合値は、1507nm以上1522nm以下、フォトルミネッセンス波長ΛEAの適合値は、1432nm以上1452nm以下に、相当している。また、最高温度t=85℃において、発振波長λDFBは1556nmで、利得ピーク波長λgainの適合値は1561nm以上1576nm以下、フォトルミネッセンス波長ΛEAの適合値は1486nm以上1506nm以下に、相当している。
【0065】
[レーザの作製]
本実施形態に係るEA変調器集積DFBレーザの作製方法について、説明する。本レーザは、温度調整器を必要としないアンクールドタイプである。
【0066】
複数のEA変調器集積DFBレーザが形成されるウエハを作製するウエハ工程について説明する。ウエハ全体の形状をしたn型半導体基板101上に、有機金属気相成長法(以下、MO−CVD(Metal-Organic Chemical Vapor Deposition)法と記す)により、n型InPバッファ層102、n型InGaAlAs下側ガイド層103、MQW層104、p型InGaAlAs上側ガイド層105、p型InPキャップ層が、順に、結晶成長される(EA変調器部106の第1多層成長)。ここで、MQW層104は、井戸層と障壁層が共に、アンドープInGaAlAsによって構成されており、井戸層は8層存在している。これらが、EA変調器部106の光閉じ込め層となる。
【0067】
次に、こうして形成されたウエハ全体のうち、各EA変調器集積DFBレーザのEA変調器部106となる領域の上にのみ、熱気相成長法(以下、T−CVD(Thermal-Chemical Vapor Deposition)法と記す)により、酸化膜(SiO)が形成される。そして、ドライエッチング・ウェットエッチングが施され、このEA変調器部106となる領域以外の領域に位置する、n型InPバッファ層102より上の多層部分が除去される。
【0068】
その後、n型InGaAsP下側ガイド層107、MQW層108、p型InGaAsP上側ガイド層109、10nmから20nm程度の層厚のp型InGaAsP回折格子層110、p型InPキャップ層が、順に、結晶成長される(DFBレーザ部111の第1多層成長)。ここで、MQW層108は、井戸層・障壁層が共に、アンドープInGaAsPによって構成されている。これらが、DFBレーザ部111の光閉じ込め層をとなる。
【0069】
ここで、上記により求まったDFBレーザ部111及びEA変調器部106のデチューニング量ΔG(t=25)及びΔH(t=25)の適合値の範囲にある値として、DFBレーザ部111のデチューニング量ΔG(t=25)=15nmと、EA変調器部106のデチューニング量ΔH(t=25)=90nmを選択した場合について、説明する。
【0070】
デチューニング量ΔG及びΔHを上記の値になるようEA変調器集積DFBレーザを作製するために、室温25℃において、EA変調器部106及びDFBレーザ部111のフォトルミネッセンス波長が、それぞれ、1460nm、1530nmとなるよう、また、DFBレーザ部111の利得ピーク波長λgainが1535nmとなるよう、設定されている。
【0071】
なお、ここではEA変調器部106、DFBレーザ部111の順に形成されるとしたが、形成される順序は、どちらが先でもかまわない。EA変調器部106及びDFBレーザ部111が形成された後、DFBレーザ部111のp型InPキャップ層のみがエッチングされる。そして、各EA変調器集積DFBレーザのDFBレーザ部111となる領域の上にのみ、p型InGaAsP回折格子層110に干渉露光法によって回折格子が形成される。このとき、25℃におけるDFBレーザ部111の発振波長λDFBが1550nmとなるよう、ピッチが設計されることで、DFBレーザ部111のデチューニング量ΔG(t=25)を15nm、EA変調器部106のデチューニング量ΔH(t=25)を90nmとすることが出来る。
【0072】
ここで、例えば、同一基板内で上記とは異なる発振波長となる回折格子ピッチの設計を行ったDFBレーザ部を作製することによって、1枚の基板の中で異なるデチューニング量ΔG(t)及びΔH(t)を有する複数のEA変調器集積DFBレーザが作製される。これら複数のEA変調器集積DFBレーザにより、上述したように、デチューニング量ΔG若しくはΔHの適合値を求めることが出来る。
【0073】
さらに、p型InPクラッド層112、p型InGaAsP層とp型InGaAs層の2層からなるp型コンタクト層113、p型InP保護層が、順に、MO−CVD法により、結晶成長される(第2多層成長)。これら多層の層厚の合計は、2μm程度が望ましい。第1多層、第2多層ともに、p型半導体のドーパントとして、亜鉛(Zn)が用いられている。
【0074】
次に、ストライブ状にパターニングし形成されたSiO膜をマスクに、ドライエッチングが施され、EA変調器部106及びDFBレーザ部111に、幅2.0μm、深さ3.5μmのメサ構造が形成される。このとき、EA変調器部106及びDFBレーザ部111において、活性層となるMQW層104,108は、それぞれ、メサ構造の最下点から約1μmの高さに位置している。その後、メサ構造の両脇に、厚さ4.5μm程度のルテニウム(Ru)をドーパントとした半絶縁性InP層114が形成される。形成される際の温度は、半絶縁性InP層114の抵抗率と埋め込み形状が最適になるように、550〜600℃の間に設定される。
【0075】
その後、EA変調器部106とDFBレーザ部111になる領域の間にある領域のp型コンタクト層113が除去され、EA変調器部106のp型コンタクト層113とDFBレーザ部111のp型コンタクト層113とが電気的に遮断される。そして、このウエハ全体が一旦パッシベーション(SiO)膜115で保護され、EA変調器部106及びDFBレーザ部111において、メサ部のパッシベーション膜115が部分的に除去されたスルーホールが形成された後、p電極116が蒸着され、イオンミリングによって電極パターニングが行われる。最後に、n型半導体基板101の下面が、ウエハ全体の厚さが100〜150μmになる程度まで研磨され、n電極117が蒸着されて、ウエハ工程が完了する。
【0076】
続いて、このウエハが、バー状の形状となるよう劈開され、レーザ素子の後方側(レーザ部側)の劈開面に、反射率90%以上の高反射膜118が、レーザ素子の前方側(EA変調器部側)の劈開面に、反射率1%以下の無反射膜119が、コーティングされる。その後、さらに、チップ状に劈開され、EA変調器集積レーザそれぞれが作製される。以上により、作製されたEA変調器集積DFBレーザの上面図と、EA変調器部106の断面(A−A)、DFBレーザ部111の断面(B−B)が、それぞれ、図5(a),(b),(c)に示されている。
【0077】
[レーザ素子の性能評価]
以上により作製されるEA変調器集積DFBレーザ素子を、窒化アルミニウム(AlN)製の50Ω終端抵抗が配置されたチップキャリアに、AuSnはんだにより搭載し、DFBレーザ部・EA変調器部の電極に、ワイヤを接続し、当該レーザ素子の性能評価を行った。
【0078】
DFBレーザ部の特性は、素子温度TLD=−5℃のとき、発振閾値電流Ith=6.5mA、レーザ駆動電流I=50mAでの光出力P=12.6dBm、レーザ部抵抗R=3.5Ω、発振波長λDFB=1547.62nmで、2次の横モードが発振することもなかった。また、素子温度TLD=85℃のとき、発振閾値電流Ith=32mA、レーザ駆動電流I=120mAでの光出力P=10.4dBm、レーザ部抵抗R=3.8Ω、発振波長λDFB=1556.16nmとなった。
【0079】
次に、伝送速度10.7Gbit/sにおいて、40km(分散値800ps/nm)伝送評価を行ったところ、以下の特性を得た。素子温度TLD=−5℃のとき、レーザ駆動電流I=50mA、EA変調器部の逆バイアス電圧Vea=−2.5V、変調振幅電圧Vmod=2.0Vにおいて、変調時光出力Pmod=+6.8dBm、動的消光比ACER=10.6dB、パスペナルティPは0.8dBとなった。また、素子温度TLD=85℃のとき、レーザ駆動電流I=120mA、EA変調器部の逆バイアス電圧Vea=−1.2V、変調振幅電圧Vmod=1.6Vにおいて、変調時光出力Pmod=+4.5dBm、動的消光比ACER=13.7dB、パスペナルティP=1.3dBとなった。
【0080】
これらの特性は、XFP(IR)光送受信器の光送信規格を十分満足することができるものである。このように、EA変調器部の活性層にInGaAlAs系MQWを用いて、ΔG(t=25)=15nm、ΔH(t=25)=90nmと、デチューニング量ΔG及びΔHを適合値の範囲内になるよう設計を行い、また、Ruをドーパントとした半絶縁性InP層で埋め込みが行われたことで、広い温度領域にわたって、小さい発振閾値電流、高い光出力、低い抵抗、安定なシングルモード発振、消光比及びチャープ特性の両立とを、すべて実現することが出来ている。
【0081】
なお、第1の実施形態にかかるEA変調器集積DFBレーザでは、低温の消光特性と高温での挿入損特性を考慮して、EA変調器部に位置するMQW層104において、井戸層の層数は8層とした。これに対して、井戸層の層数を9層としたEA変調器集積DFBレーザにおいても、素子温度TLD=85℃において変調時光出力Pmod=4.2dBm、素子温度TLD=−5℃において動的消光比ACER=11.4dBが得られている。井戸層が8層のものと比較すると、若干光出力特性が劣るが、実用可能な特性である。また、計算上、井戸層が7層から10層まで、低温の消光特性と高温での光出力特性を満たすことが可能であることがわかっている。
【0082】
[MQW材料]
なお、本実施形態に係るEA変調器集積DFBレーザのEA変調器部に位置するMQW層104を構成する材料として、InGaAlAs系を採用した。
【0083】
クールドタイプもしくはセミクールドタイプのEA変調器部では、InGaAsP系によるMQW層が、従来において、一般に用いられてきた。しかしながら、InGaAsP系によるMQW層によって構成されるEA変調器部を、アンクールドタイプのレーザ素子で用いるならば、広い温度範囲において、消光比とチャープ特性を、所定の条件を同時に満たすことは困難である。なぜならば、InGaAsP系によるMQW層は、比較的、価電子帯のバンドオフセットΔEが大きく、伝導帯のバンドオフセットΔEが小さいという特徴があるためである。
【0084】
これに対して、InGaAlAs系によるMQW層は、InGaAsP系によるMQW層と比較して、価電子帯のバンドオフセットΔEが小さく、伝導帯のバンドオフセットΔEが大きい。これにより、チャープ特性、すなわち伝送特性の改善の観点から、正孔の閉じ込めを弱くした場合においても、同時に電子の閉じ込めも十分強くすることができるので、低チャープと高消光比を両立することができる。
【0085】
特に、一般に、低温においてデチューニング量ΔHが大きくなり、高温と比較してチャープが大きくなるので、より大きな逆バイアス電圧を印加する必要がある。このように大きな逆バイアス電圧を印加した場合であっても、InGaAlAs系によるMQW層においては、MQW層への電子の閉じ込めが可能であるため、大きな消光比が得られる。言い換えれば、InGaAsP系によるMQW層を備えるEA変調器部と同程度の消光比を得るためには、InGaAlAs系によるMQW層を備えるEA変調器部は、変調振幅電圧をより小さくすることが出来るので、当該EA変調器集積DFBレーザを搭載したレーザモジュールの低消費電力化を実現することが出来る。
【0086】
[埋め込み層]
本実施形態に係るEA変調器集積DFBレーザのメサ構造の両脇に位置する半絶縁性埋め込み層のドーパント材料として、Ruを採用した。
【0087】
クールドタイプのEA変調器集積DFBレーザのEA変調器部では、半絶縁性埋め込み層のドーパント材料として、鉄(Fe)が一般には用いられてきた。しかし、Feは、p型InPクラッド層112などp型半導体層のドーパント材料である亜鉛(Zn)との相互拡散が比較的大きい。
【0088】
これに対して、Ruは、Feと比較して、Znとの相互拡散が小さいことを特徴としている。そのRuをドーパントとした半絶縁性InP層114が、メサ構造の両側を埋め込まれている。Feをドーパントとした場合と比較して、p型InPクラッド層112などのドーパントであるZnとの相互拡散が小さくなるので、光学素子構造として十分に高い電気抵抗を確保することが出来、DFBレーザ部に対して漏れ電流を低減することが可能となっている。特に、高温においても、DFBレーザ部への印加電流を効率よく活性層に流れるようにすることができ、発振閾値電流Ithが小さい値で維持されるので、小さい駆動電流においても十分大きな光出力を得ることができる。
【0089】
同様に、EA変調器部では、活性層に印加する電界が、埋め込み層へ漏れるのを低減することができるため、特に、低温においても、活性層に効率よく電界がかかり、変調振幅電圧が小さくても所望の消光特性・伝送特性を得ることができる。
【0090】
[第2の実施形態]
第2の実施形態に係るEA変調器集積DFBレーザは、波長帯が1550nmであり、伝送速度が10.7Gbit/sである40km伝送用光送受信器に搭載されるレーザである。第1の実施形態にかかるEA変調器集積DFBレーザと同様に、アンクールドタイプであり、使用可能温度領域は、−5℃以上85℃以下である。
【0091】
第1の実施形態に係るEA変調器集積DFBレーザと同様に、第2の実施形態に係るEA変調器集積DFBレーザは、使用が想定されている温度領域において、いくつかのパラメータについて所定の条件を満たしているよう、DFB部及びEA変調器部のデチューニング量ΔG及びΔHの適合値の範囲を求める。そして、デチューニング量ΔG及びΔHがその適合値の範囲になるよう設計して、以下の作製方法により、当該EA変調器集積DFBレーザを作製する。ここで、デチューニング量ΔG及びΔHは、25℃において、それぞれ、15nm、90nmとしている。
【0092】
[レーザの作製]
本実施形態に係るEA変調器集積DFBレーザの作製方法について、説明する。本レーザは、温度調整器を必要としないアンクールドタイプである。
【0093】
複数のEA変調器集積DFBレーザが形成されるウエハを作成するウエハ工程について説明する。ウエハ全体の形状をしたn型半導体基板201上に、MO−CVD法により、n型InPバッファ層202、n型InGaAlAs下側ガイド層203、MQW層204、p型InGaAlAs上側ガイド層205、p型InGaAsPエッチストップ層206、p型InPキャップ層が、順に、結晶成長される(EA変調器部207の第1多層成長)。ここで、MQW層204は、井戸層と障壁層が共に、アンドープInGaAlAsによって構成されており、井戸層は8層存在している。これらが、EA変調器部207の光閉じ込め層となる。ここで、p型InGaAsPエッチストップ層206は、数nmから10nm程度の層厚を有していれば十分である。
【0094】
続いて、第1の実施形態と同様に、こうして形成されたウエハ全体のうち、各EA変調器集積DFBレーザのDFBレーザ部208となる領域に位置する、n型InPバッファ層202より上の多層部分が、ドライエッチング・ウェッチングにより、除去される。
【0095】
その後、n型InGaAsP下側ガイド層209、MQW層210、p型InGaAsP上側ガイド層211、p型InGaAsP回折格子層212、p型InPキャップ層が、順に、結晶成長される(DFBレーザ部208の第1多層成長)。ここで、MQW層210は、井戸層・障壁層が共に、アンドープInGaAsPによって構成されている。このとき、EA変調器部207のp型InGaAsPエッチストップ層206と、DFBレーザ部208のp型InGaAsP回折格子層212との段差が20nm以下になるように厚さ設計を行うとよい。
【0096】
その後、第1の実施形態と同様の方法により、DFBレーザ部208において回折格子を形成し、また、EA変調器部207及びDFBレーザ部208となる領域に、p型InPクラッド層213及びp型コンタクト層214、p型InP保護層が、順に、結晶成長される(第2多層成長)。
【0097】
デチューニング量ΔG及びΔHが上記の値になるようEA変調器集積DFBレーザを作製するために、第1の実施形態と同様に、室温25℃において、EA変調器部207及びDFBレーザ部208のフォトルミネッセンス波長が、それぞれ、1460nm、1530nmとなるよう、また、DFBレーザ部208の発振波長λDFB及び利得ピーク波長λgainが、それぞれ、1550nm、1535nmとなるよう、設定されている。これにより、デチューニング量ΔG(t=25)及びΔH(t=25)をそれぞれ、15nm、90nmとすることが出来る。
【0098】
次に、p型InP保護層が除去された後、ドライエッチング、またはウェットエッチングによって、EA変調器部207及びDFBレーザ部208に、幅2.0μm程度のリッジ導波路構造となるメサ構造が形成される。メサ構造の深さは、EA変調器部207及びDFBレーザ部208のそれぞれにおいて、それぞれ、p型InPクラッド層213とp型InGaAsPエッチストップ層206との、p型InPクラッド層213とp型InGaAsP回折格子層212との、界面で、エッチングを止めるローメサリッジ導波路構造にするのが、一般的である。これは、例えば塩酸と酢酸の混合液を用いれば、選択的に上記界面でエッチングを止めることができ、非常に簡単なプロセスで作製することができるという利点がある。
【0099】
前述したように、EA変調器部207のp型InGaAsPエッチストップ層206と、DFBレーザ部208のp型InGaAsP回折格子層212の段差を20nm以下に作製されており、それぞれの接続部でメサの段差が極力抑制されている。
【0100】
次に、EA変調器部207とDFBレーザ部208になる領域の間にある領域のp型コンタクト層214がエッチングにより除去され、EA変調器部207のp型コンタクト層214とDFBレーザ部208のp型コンタクト層214とが、両者を電気的に遮断される。その後、ウエハ全体がパッシベーション膜215で保護される。さらに、メサ構造の両側が十分に埋まる程度の厚さのポリイミド樹脂216がウエハ全体に塗布される。そして、メサ構造の最上層にあるパッシベーション膜215が露出するまで、ウエハ全体のポリイミド樹脂216が、酸素とアルゴンの混合ガスによりエッチバックされることにより、平坦化される。
【0101】
ここで、EA変調器部207の電極パッドとなる部分もポリイミド樹脂216で埋め込まれている。このポリイミド樹脂216の埋め込みは、EA変調器部207の低容量化のためであるが、EA変調器部207の全長を短くしたり、EA変調器部207の電極パッド部となる部分にプロトンが打ち込まれるなどにより、15GHz以上の3dB帯域を確保することができれば、ポリイミド樹脂216の埋め込みは、必ずしも必要ではない。続いて、EA変調器部207及びDFBレーザ部208において、メサ部のパッシベーション膜115が部分的に除去されたスルーホールが形成される。その後、p電極217が蒸着され、イオンミリングによって電極パターニングが行われる。最後に、n型半導体基板101の下面が、ウエハ全体の厚さが100〜150μmになる程度まで研磨され、n電極218が蒸着されて、ウエハ工程が完了する。
【0102】
続いて、第1の実施形態と同様に、このウエハが劈開され、レーザ素子の後方側(レーザ部側)の劈開面に、反射率90%以上の高反射膜219が、レーザ素子の前方側(EA変調器部側)の劈開面に、反射率1%以下の無反射膜220が、コーティングされ、チップ状に劈開され、EA変調器集積レーザそれぞれが作製される。以上により、作製されたEA変調器集積DFBレーザの上面図と、EA変調器部207の断面(C−C)、DFBレーザ部208の断面(D−D)が、それぞれ、図6(a),(b),(c)に示されている。
【0103】
[レーザ素子の性能評価]
以上により作製されるリッジ導波路構造型のEA変調器集積DFBレーザ素子を、第1の実施形態と同様に、チップキャリアに搭載し、当該レーザ素子の性能評価を行った。
【0104】
DFBレーザ部の特性は、素子温度TLD=−5℃のとき、発振閾値電流Ith=14mA、レーザ駆動電流I=50mAでの光出力P=12.2dBm、レーザ部抵抗R=3.6Ω、発振波長λDFB=1547.33nmで、2次の横モードが発振することもなかった。また、素子温度TLD=85℃のとき、発振閾値電流Ith=43mA、レーザ駆動電流I=120mAでの光出力P=9.9dBm、レーザ部抵抗R=3.8Ω、発振波長λDFB=1556.09nmとなった。
【0105】
次に、第1の実施形態と同様に、伝送速度10.7Gbit/sにおいて、40km伝送評価を行ったところ、以下の特性を得た。素子温度TLD=−5℃のとき、レーザ駆動電流I=50mA、EA変調器部の逆バイアス電圧Vea=−2.5V、変調振幅電圧Vmod=2.0Vにおいて、変調時光出力Pmod=+6.2dBm、動的消光比ACER=10.1dB、パスペナルティPは1.0dBとなった。また、素子温度TLD=85℃のとき、レーザ駆動電流I=130mA、EA変調器部の逆バイアス電圧Vea=−1.2V、変調振幅電圧Vmod=1.6Vにおいて、変調時光出力Pmod=+3.9dBm、動的消光比ACER=13.1dB、パスペナルティP=1.6dBとなった。
【0106】
第1の実施形態に係るレーザ素子と比較すると、素子構造が異なるため、発振閾値電流Ithは大きくなり、光出力Pは小さくなっている。それにより、レーザ駆動電流Iを、第1の実施形態と比較して、10mA程度大きい値とすることで、第1の実施形態に係るレーザ素子の同程度の特性を得ることが出来る。そして、これら特性は、XFP(IR)光送受信器の光送信規格を満足している。このように、EA変調器部の活性層にInGaAlAs系MQWを用いて、ΔG(t=25)=15nm、ΔH(t=25)=90nmの最適設計を行い、リッジ導波路構造をとることで、第1の実施形態と同様に、広い温度領域にわたって良好な特性を得ることができた。
【0107】
[ローメサリッジ構造]
本実施形態に係るレーザ素子は、メサ構造が、Ruをドーパントとした半絶縁性InP層による埋め込み構造ではなく、リッジ導波路構造を有している。この構造の場合、前述の通り、DFBレーザ部及びEA変調器部の活性層がメサ構造部だけでなく、メサ構造の両脇にまで広がっているローメサリッジ構造であることが一般的である。
【0108】
この場合、DFBレーザ部に対しては、印加した電流がメサ構造の両側の活性層へと広がってしまい、レーザ発振に寄与しない無効電流が増大する。その結果、第1の実施形態にかかるRuをドーパントとした半絶縁性InP層による埋め込み構造と比較して、発振閾値電流Ithが増大する傾向にある。また、EA変調器部に対しては、活性層で吸収した光によって発生するフォトキャリアがメサ構造の両脇にドリフトし、蓄積されやすくなる。そしてメサ構造の両脇に蓄積したフォトキャリアによって荷電子帯吸収が起き、Ruをドーパントとした半絶縁性InP層による埋め込み構造と比較して、高速変調時の損失が増大すると考えられる。DFBレーザ部及びEA変調器部の特性を合わせると、特に高温時に高光出力を得るのが、第1の実施形態と比較すると、より困難になる。
【0109】
しかしながら、DFBレーザ部の全長を短くして小さい電流での効率を上げたり、EA変調器部のMQW構造を階段的なエネルギーバンド構造を適用したりするなどの工夫をすれば、DFBレーザ部及びEA変調器部のデチューニング量ΔG及びΔHの適合値の範囲を求め、その範囲内に設定し、さらに、DFBレーザの駆動電流を5〜15mA程度大きくすることによって、広い温度領域にわたって良好な特性を得ることができる。
【0110】
[第3の実施形態]
第3の実施形態に係るレーザモジュールは、第1の実施形態に係るEA変調器集積DFBレーザを搭載した、同軸型パッケージを用いた小型のレーザモジュールである。図7(a)は、当該レーザモジュールの側面図である。また、図7(b)は、当該レーザモジュールのうち、EA変調器集積DFBレーザが搭載された部分の内部拡大図である。
【0111】
同軸型レーザモジュール301は、チップキャリア302に搭載されたEA変調器集積DFBレーザ303、これらを搭載したCANステム304、アイソレータを内蔵したレセプタクル部305で構成され、電気信号の端子として高周波信号端子306、レーザ駆動端子307、共通導体端子308が付加されている。これらの端子は、フレキシブル基板309上に施された回路基板へ接続するためのそれぞれの端子へ、はんだにて電気的に接続されている。
【0112】
EA変調器集積DFBレーザ303を搭載したチップキャリア302が、CANステム304にはんだ付けされる。次に、EA変調器部と高周波信号端子306が、DFBレーザ部とレーザ駆動端子307が、それぞれ、ワイヤボンディングにて電気的に接続される。また、共通導体端子308は、CANステム304にロウ付けされている。共通導体端子308により、EA変調器部とDFBレーザ部とがともに接地されている。ここで特筆すべきは、従来技術に係るレーザモジュールとは異なり、温度調整するためのペルチエ基板は搭載されていない。
【0113】
さらに、EA変調器集積DFBレーザ303の後方側に、パワーモニタ用のフォトダイオードが配置され、電気的に接続される。続いて、CANステム304を覆うように、レンズキャップ310がCANステム304上に溶接にて接続される。最後に、アイソレータを内蔵したレセプタクル部305が組み立てられ、同軸型レーザモジュール301の作製が完了する。
【0114】
[レーザモジュールの性能評価]
以上により作製されるレーザモジュールについて、伝送速度10.7Gbit/sにおいて、40km伝送評価を行ったところ、以下の特性を得た。レーザモジュールのケース温度T=−5℃のとき、レーザ駆動電流I=45.6mA、EA変調器部の逆バイアス電圧Vea=−2.45V、変調振幅電圧Vmod=2.0Vにおいて、変調時ファイバ光出力Pfmod=3.6dBm、動的消光比ACER=10.3dB、伝送速度10.7Gbit/sにおけるSONET(Synchronous Optical Network)規格のマスクマージンMM=26%、パスペナルティP=0.86dBとなった。また、レーザモジュールのケース温度T=75℃のとき、レーザ駆動電流I=120mA、EA変調器部の逆バイアス電圧Vea=−1.25V、変調振幅電圧Vmod=1.55Vにおいて、変調時ファイバ光出力Pfmod=1.4dBm、動的消光比ACER=13.4dB、SONET規格のマスクマージンMM=22%、パスペナルティP=1.45dBとなった。これらの特性は、XFP(IR)の規格を十分満足する特性である。
【0115】
当該レーザモジュールに搭載したEA変調器集積DFBレーザは、第1の実施形態に係るレーザ素子である。ここでは、DFBレーザ部のデチューニング量ΔG(t=25)=15nmになるよう、EA変調器部のデチューニング量ΔH(t=25)=90nmになるよう、設計されて作製されている。
【0116】
DFBレーザ部のデチューニング量ΔG(t=25)=15nmに設計されたことにより、高温においても十分大きな光出力を得ることができる。また、EA変調器部のメサ構造の活性層として、InGaAlAsからなるMQW層を用い、メサ構造の両側をRuをドーパントとした半絶縁性InP層で埋め込み、かつ、EA変調器部のデチューニング量ΔH(t=25)=90nmに設計されたことにより、高消光比と低チャープを両立し、Tc=−5℃から75℃の温度範囲にわたって40km伝送特性を満足する。
【0117】
それにより、温度調整器を必要としないアンクールドタイプとして駆動することが出来る。温度調節器が不要になったため、従来技術に係るクールドタイプまたはセミクールドタイプのEA変調器集積DFBレーザ素子では困難だった、小型な同軸型レーザモジュールが実現される。
【0118】
なお、本実施形態に係るレーザモジュールとして、第1の実施形態に係るEA変調器集積DFBレーザが搭載されるレーザモジュールについて、説明したが、第2の実施形態に係るEA変調器集積DFBレーザが搭載されるレーザモジュールであってもよい。
【0119】
[第4の実施形態]
第4の実施形態に係るXFP光送受信器は、第3の実施形態に係るレーザモジュールと、これとは別に作製された同軸型光受信モジュールとを搭載している。ここで、XFP光送受信器とは、SONET、または、10GbE(ギガビットイーサーネット)の着脱モジュールの業界標準規格の一つであるXFP規格(10 Gbit/s Small Form Factor Pluggable)を満たす光送受信器である。当該光送受信器のサイズは、長さが78.0mm、幅が18.4mm、高さが8.5mmである。ここで、光受信モジュールは、一般に用いられるものであるため、詳細な特性については説明しない。
【0120】
当該光送信器について、伝送速度10.7Gbit/sにおいて、40km伝送評価を行ったところ、以下の特性を得た。光送受信器のケース温度T=−5℃のとき、レーザ駆動電流I=46.5mA、EA変調器部の逆バイアス電圧Vea=−2.38V、変調振幅電圧Vmod=2.0Vにおいて、変調時ファイバ光出力Pfmod=3.25dBm、動的消光比ACER=10.1dB、SONET規格のマスクマージンMM=27%、パスペナルティP=0.91dBとなった。また、光送受信器のケース温度T=70℃のとき、レーザ駆動電流I=120mA、EA変調器部の逆バイアス電圧Vea=−1.23V、変調振幅電圧Vmod=1.54Vにおいて、変調時ファイバ光出力Pfmod=1.25dBm、動的消光比ACER=13.2dB、SONET規格のマスクマージンMM=23%、パスペナルティP=1.35dBとなった。これらの特性は、XFP(IR)の規格を十分満足する特性である。
【0121】
また、このとき、当該XFP光送受信器の消費電力Pは、−5℃以上75℃以下の範囲のあらゆる温度において、2.3W以下となり、小型であり低消費電力である長距離伝送用光送受信器となっている。当該XFP光送受信器に搭載されるEA変調器集積DFBレーザ素子は、第1の実施形態に係るレーザ素子であり、アンクールドタイプである。温度調節器を備える従来技術に係るレーザを搭載したXFP光送受信器では実現困難であった消費電力2.5W以下という低消費電力が実現されている。
【0122】
[第5の実施形態]
第5の実施形態に係るSFP+光送受信器は、第3の実施形態に係るレーザモジュールと、これとは別に作製された同軸型光受信モジュールとを搭載している。ここで、SFP+光送受信器とは、8.5GbE及び10GbEの着脱モジュールの業界標準規格の一つであるSFP+規格(8.5 and 10 Gbit/s Small Form Factor Pluggable)を満たす光送受信器である。当該光送受信器は、第4の実施形態にかかる光送受信器よりも、さらに小型の光送受信器であり、サイズは、長さが56.0mm、幅が13.0mm、高さが8.5mmである。SFP+光送受信器では、XFP光送受信器よりも、さらに1W以上の消費電力の低減が必要とされる。第4の実施形態と同様、ここでは、光受信モジュールの詳細な特性については説明しない。
【0123】
当該光送信器について、伝送速度10.3Gbit/sにおいて、40km伝送評価を行ったところ、以下の特性を得た。光送受信器のケース温度Tc=−5℃のとき、レーザ駆動電流I=41.2mA、EA変調器部の逆バイアス電圧Vea=−2.12V、変調振幅電圧Vmod=1.20Vにおいて、変調時ファイバ光出力Pfmod=2.18dBm、動的消光比ACER=8.6dB、10.3Gbit/sにおけるGbE(ギガビットイーサーネット)規格のマスクマージンMM=60%、光変調振幅OMA=3.94dBm、パスペナルティP=0.88dBとなった。また、光送受信器のケース温度Tc=70℃のとき、レーザ駆動電流I=70mA、EA変調器部の逆バイアス電圧Vea=−0.96V、変調振幅電圧Vmod=1.20Vにおいて、変調時ファイバ光出力Pfmod=−0.32dBm、動的消光比ACER=12.3dB、GbE規格のマスクマージンMM=54%、光変調振幅OMA=2.18dBm、パスペナルティP=1.38dBとなった。これらの特性は、SFP+(ER)の規格を十分満足する特性である。
【0124】
また、このとき、当該SFP+光送受信器の消費電力Pは、−5℃以上70℃以下温度領域のあらゆる温度において、1.3W以下となり、第4の実施形態に係る光送受信器より、さらに小型でありさらに低消費電力である長距離伝送用光送受信器となっている。
【0125】
本実施形態に係る光送受信器は、光送受信器のケース温度T=70℃においても、レーザ駆動電流I=70mAという小さい駆動電流で駆動が行われおり、また、変調振幅電圧Vmod=1.20Vという固定された変調振幅電圧で、規格を満足する特性が得られていることが、第4の実施形態に係る光送受信器と大きく異なる。
【0126】
本実施形態に係る光送受信器に搭載されたアンクールドタイプのEA変調器集積DFBレーザにおいて、DFBレーザ部のデチューニング量ΔGが適合値となるよう設計されたこと、Ruをドーパントとした半絶縁性InP層による埋め込み構造をEA変調器部が有していることにより、高温時においても発振閾値電流Ithが小さい値で維持され、高い光出力が得られたため、小さいレーザ駆動電流Ifで駆動される場合であっても、SFP+(ER)光送受信器の変調時ファイバ光出力Pfmodが−4.7dBm以上、かつ、光変調振幅OMAが−1.7dBm以上という規格を満足する。
【0127】
また、EA変調器部のメサ構造の活性層として、InGaAlAs系からなるMQW層を用い、メサ構造の両脇をRuをドーパントとした半絶縁性InP層で埋め込み、かつ、EA変調器部のデチューニング量ΔHを適合値に設計されたことにより、低温時においても1.20Vという小さな変調振幅電圧で、動的消光比ACERが8.5dB以上の値をとる。さらに、DFBレーザ部のデチューニング量ΔGも適合値に設計されたことにより、低温時でも十分小さい値の発振閾値電流が維持され、小さいレーザ駆動電流Ifで駆動される場合であっても、高光出力を実現できた。以上により、低温でも光変調振幅OMAの規格を十分満足できる。
【0128】
変調振幅電圧Vmodが、温度によらず固定して用いられるということは、光送受信器内のマイコンに記憶させる項目を減らすことができ、また、検査工程にかかる時間を短縮することができ、低コスト化へつながる利点がある。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明によって、従来技術よりさらに小型でさらに低消費電力の長距離伝送用レーザモジュールや光送受信器を実現することができる。また、レーザモジュール内に温度調整器が不要となるため、さらに低コスト化も同時に実現でき、産業上非常に有効な発明である。
【符号の説明】
【0130】
101 n型半導体基板、102 n型InPバッファ層、103 n型InGaAlAs下側ガイド層、104 MQW層、105 p型InGaAlAs上側ガイド層、106 EA変調器部、107 n型InGaAsP下側ガイド層、108 MWQ層、109 p型InGaAsP上側ガイド層、110 p型InGaAsP回折格子層、111 DFBレーザ部、112 p型InPクラッド層、113 p型コンタクト層、114 半絶縁性InP層、115 パッシベーション膜、116 p電極、117 n電極、118 高反射膜、119 無反射膜、201 n型半導体基板、202 n型InPバッファ層、203 n型InGaAlAs下側ガイド層、204 MQW層、205 p型InGaAlAs上側ガイド層、206 p型InGaAsPエッチストップ層、207 EA変調器部、208 DFBレーザ部、209 n型InGaAsP下側ガイド層、210 MQW層、211 p型InGaAsP上側ガイド層、212 p型InGaAsP回折格子層、213 p型InPクラッド層、214 p型コンタクト層、215 パッシベーション膜、216 ポリイミド樹脂、217 p電極、218 n電極、219 高反射膜、220 無反射膜、301 同軸型レーザモジュール、302 チップキャリア、303 EA変調器集積DFBレーザ、304 CANステム、305 レセプタクル部、306 高周波信号端子、307 レーザ駆動端子、308 共通導体端子、309 フレキシブル基板、310 レンズキャップ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分布帰還型レーザ部と、
前記レーザ部の出力側に配置され、InGaAlAsを含む量子井戸層を含んだ電界吸収型変調器部と、
を備え、
前記レーザ部と前記変調器部は、同一の基板上に形成され、
25℃における前記レーザ部の発振波長が1460nm以上1630nm以下であり、
前記レーザ部の発振波長λDFBと前記レーザ部の利得ピーク波長λgainの差分で定義される第1のデチューニング量ΔG(ΔG=λDFB−λgain)は、25℃において10nm以上25nm以下であり、
前記レーザ部の発振波長λDFBと前記変調器部のフォトルミネッセンス波長λEAの差分で定義される第2のデチューニング量ΔH(ΔH=λDFB−λEA)は、25℃において80nm以上100nm以下である、
ことを特徴とするレーザ素子。
【請求項2】
請求項1に記載のレーザ素子であって、
前記変調器部の前記量子井戸層は、その両側を不純物としてルテニウムが添加された半絶縁性半導体の埋め込み層にて埋め込まれている、
ことを特徴とするレーザ素子。
【請求項3】
請求項1に記載のレーザ素子であって、
前記変調器部の前記量子井戸層の上方にはリッジ構造が配置されている、
ことを特徴とするレーザ素子。
【請求項4】
請求項1に記載のレーザ素子であって、
前記レーザ部は、InGaAsPを含む量子井戸層を含む、
ことを特徴とするレーザ素子。
【請求項5】
n型半導体基板と、
前記半導体基板上に、n型InGaAlAs下側ガイド層、アンドープInGaAlAsで構成された井戸層と障壁層で形成された第1の量子井戸層、及びp型InGaAlAs上側ガイド層が順次積層された、電界吸収型変調器部と、
前記変調器部と光学的に接続され、前記半導体基板上に、n型InGaAsP下側ガイド層、アンドープInGaAsPで構成された井戸層と障壁層で形成された第2の量子井戸層、p型InGaAsP上側ガイド層、及びp型InGaAsP回折格子層が順次積層された、分布帰還型レーザ部と、
を備え、
25℃における前記レーザ部の発振波長が1460nm以上1630nm以下であり、
前記レーザ部の発振波長λDFBと前記レーザ部の利得ピーク波長λgainの差分で定義される第1のデチューニング量ΔG(ΔG=λDFB−λgain)は、25℃において10nm以上25nm以下であり、
前記レーザ部の発振波長λDFBと前記変調器部のフォトルミネッセンス波長λEAの差分で定義される第2のデチューニング量ΔH(ΔH=λDFB−λEA)は、25℃において80nm以上100nm以下である、
ことを特徴とするレーザ素子。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載のレーザ素子を備える、光送信モジュール。
【請求項7】
請求項6に記載の光送信モジュールであって、
前記レーザ素子の温度調整を行うための温度調整器を含まない、
ことを特徴とする光送信モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−209583(P2012−209583A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−157005(P2012−157005)
【出願日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【分割の表示】特願2009−87641(P2009−87641)の分割
【原出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(301005371)日本オクラロ株式会社 (311)
【Fターム(参考)】