説明

レーダー装置

【課題】自動車などの車両の後方確認用レーダーとしての利用が好適なレーダー装置を提供する。
【解決手段】自動車のサイドミラーなどの後方確認装置に、アンテナ素子及び高周波回路を取り付ける。後方確認装置のミラー本体12は、すりガラスなどからなる基体12aと、光路となる透明ガラス12bと、基体12aと透明ガラス12bとの間に設けられ、反射体として機能する金属膜12cと、透明ガラス12bの表面、つまり鏡面を覆う保護膜12dとを備える。アンテナ素子であるパッチアレイアンテナ14は、透明電極材料によって構成され、透明ガラス12bの表面、つまり鏡面に形成されている。これにより、視界を妨げることなく、鏡面側に存在する物体を監視することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレーダー装置に関し、特に、アンテナ素子がミラーと一体化されたタイプのレーダー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マイクロ波やミリ波を利用したレーダー装置が数多く提案されている。このようなレーダー装置の応用範囲は様々であるが、例えばこれを自動車に搭載すれば、先行車両や後続車両との距離を正確に検出することが可能となるばかりでなく、ドライバーの死角となる位置、例えば、斜め後方やバンパーの近傍に存在する障害物を検知してドライバーに注意を促したり、さらには、避けられない衝突が迫っていることを検知してシートベルトを締め付けるなどのプレクラッシュ制御を行うことが可能となる。
【0003】
このようなレーダー装置に用いられるアンテナ素子を車両のどの部分に配置するかに関しては、種々の提案がなされているが、その多くは電波を遮蔽しない外装品、例えば前後のバンパーの内側を取り付け位置としたものがほとんどである。また、側面監視のために側面への搭載も望まれるが、電波を遮蔽しない外装部材が殆ど無いため、実現が困難である。
【0004】
他方、レーダー装置に用いられるアンテナ素子ではないが、特許文献1には、車両の窓ガラス(リアガラス、サイドガラスなど)にラジオなどのアンテナ素子を配置する方法が提案されている。しかしながら、車両の窓ガラスは、ラジオなどの受信アンテナを配置する位置としては適切であるものの、特にフロントガラスやリアガラスは上方に向けて傾斜しているため、レーダー装置用のアンテナ素子を配置する位置としては必ずしも適切ではない。
【0005】
また、特許文献2には、ルームミラーにラジオなどのアンテナ素子を組み込む方法が提案されている。しかしながら、ミラーには反射体となる金属膜が設けられていることから、特許文献2に記載されているようにアンテナ素子をミラーの筐体内部に組み込むと、反射膜である金属によって後方への電波が遮られてしまう。このため、特許文献2に記載されたアンテナ素子をレーダー装置に応用すると、前方については監視可能となるものの、後方については監視することができない。したがって、この方法もラジオなどの受信アンテナを配置する位置としては適切であるものの、後方確認用レーダーに応用することはできなかった。
【特許文献1】特公平3−66843号公報
【特許文献2】特表平2004−512755号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような問題を解決すべくなされたものであって、本発明は、自動車などの車両の後方確認用レーダーとしての利用が好適なレーダー装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によるレーダー装置は、鏡面を備えた車両用の後方確認装置と、前記鏡面に設けられたアンテナ素子と、前記アンテナ素子に接続された高周波回路とを備え、前記アンテナ素子が透明電極材料によって構成されていることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、透明電極材料からなるアンテナ素子が後方確認装置の鏡面に設けられていることから、視界を妨げることなく、鏡面側に存在する物体を監視することが可能となる。したがって、本発明によるレーダー装置は、自動車用のサイドミラーやルームミラーに適用することが好適である。本発明を自動車用のサイドミラーに適用すれば、ドライバーから見て斜め後方に存在する物体をレーダーにより監視することが可能となる。また、本発明を自動車用のルームミラーに適用すれば、車両の後方に存在する物体をレーダーにより監視することが可能となる。
【0009】
本発明において、後方確認装置は鏡面の角度を変更するための角度変更手段を備えていることが好ましい。これによれば、視認領域を変更するために鏡面の角度を変化させると、これに連動してレーダーによる監視位置を変化させることが可能となる。
【0010】
本発明によるレーダー装置は、アンテナ素子を複数有しており、使用するアンテナ素子を切り替えるための切替手段をさらに備えていることが好ましい。これによれば、複数のアンテナの放射パターンに差を設けておくことにより、使用するアンテナ素子の切り替えによって監視位置を変化させることが可能となる。
【0011】
本発明において、後方確認装置は、非使用状態である場合には車内を監視可能に構成されていることが好ましい。これによれば、走行中における後方確認のみならず、駐車中における車内監視にも利用することも可能となる。
【0012】
本発明において、後方確認装置は、使用状態である通常位置と非使用状態である格納位置との切り替えが可能に構成されていることが好ましい。このような構成は、本発明によるレーダー装置を自動車用のサイドミラーに適用した場合に好適であり、これによれば、サイドミラーを格納位置に折りたたむことにより鏡面が車内側を向くと、車内にある物体の監視を行うことが可能となる。
【0013】
本発明においてアンテナ素子は、垂直方向よりも水平方向に広いビームを形成することが好ましい。これによれば、後方確認用のレーダーとして用いた場合に、より広いエリアを監視できるとともに、路面などからの不要な反射成分を低減することが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
このように、本発明によるレーダー装置は、透明電極材料からなるアンテナ素子が後方確認装置の鏡面に設けられていることから、視界を妨げることなく、鏡面側に存在する物体を監視することが可能となる。これにより、自動車用のサイドミラーなどに適用すれば、ドライバーから見て斜め後方に存在する物体を監視することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明の好ましい実施形態によるレーダー装置が組み込まれた後方確認装置である、自動車用のサイドミラー10の構造を示す略斜視図であり、図2は略分解斜視図である。
【0017】
図1及び図2に示すように、本実施形態によるレーダー装置が組み込まれたサイドミラー10は、筐体11と、筐体11に嵌め込まれるミラー本体12と、ミラー本体12の裏側にて筐体11に収容される高周波回路13とを備えて構成されている。ミラー本体12の鏡面には、複数のパッチアレイアンテナ14が設けられており、パッチアレイアンテナ14の給電ライン14aは高周波回路13に接続されている。高周波回路13の出力は、図示しないコントローラに供給される。高周波回路13は、ミラー本体12の裏側に配置されているため、これが視界の妨げとなることはない。
【0018】
図3は、ミラー本体12の構造を示す略断面図である。
【0019】
図3に示すように、ミラー本体12は、すりガラスなどからなる基体12aと、光路となる透明ガラス12bと、基体12aと透明ガラス12bとの間に設けられ、反射体として機能する金属膜12cと、透明ガラス12bの表面、つまり鏡面を覆う保護膜12dとを備えて構成されている。ここで、「鏡面」とは、透明ガラス12bからみて金属膜12cとは反対側に位置する面を指し、したがって、透明ガラス12bの表面に他の層が形成されている場合には、透明ガラス12bの表面だけでなく、当該他の層の表面も「鏡面」に含まれる。
【0020】
図3に示すように、パッチアレイアンテナ14は、透明ガラス12bの表面、つまり鏡面に形成されている。パッチアレイアンテナ14は透明電極材料によって構成されている。具体的な透明電極材料については特に限定されないが、ITOやZnO、SrCuなどの材料を選択することができる。パッチアレイアンテナ14の厚さについては、数μm程度と非常に薄く設定することができる。これらにより、パッチアレイアンテナ14が視界を妨げるようなことはほとんどない。また、パッチアレイアンテナ14の表面は保護膜12dによって覆われており、これによって物理的・化学的に保護されている。
【0021】
パッチアレイアンテナ14は、垂直方向よりも水平方向に広いビームを形成するようなパターンであることが好ましい。これは、水平方向に広いビームを形成することによってより広いエリアを監視することができる一方で、垂直方向におけるビームの広がりを抑えることにより、路面などからの不要な反射成分を低減することが可能となるからである。
【0022】
図4は、サイドミラー10が備えられた自動車19と、サイドミラー10に組み込まれたレーダー装置の監視エリアを示す模式的な平面図である。
【0023】
図4に示すように、レーダー装置の監視エリア10aは、サイドミラー10を用いたドライバーの視認可能エリア10bとほぼ重複しているが、より水平方向に広い監視エリアを有している。このため、サイドミラー10を用いたドライバーの視認可能エリア10b内に存在する物体はもちろん、ドライバーの視認可能エリア10b外に存在する物体を検知することができる。このような車両の斜め後方のエリアは、車線変更を行う際などにおいて注意すべきエリアであることから、このようなレーダー装置をサイドミラーに取り付けることにより、特に高速走行時における車線変更においてドライバーを補助することが可能となる。
【0024】
車線変更時にレーダー装置が他の車両などを検知した場合の処理については特に限定されず、警告音を鳴らしてドライバーの注意を喚起するなどの処理を行えばよい。
【0025】
監視エリアの変更は、ミラー本体12の角度変更や、使用するパッチアレイアンテナ14の切り替えによって行うことができる。つまり、図5に示すように、サイドミラー10に角度変更手段15を設け、これによって視認領域を変更可能に構成すれば、ミラー本体12aの角度変化に連動してレーダーによる監視位置を変化させることが可能となる。
【0026】
また、図1に示すように、パッチアレイアンテナ14を複数備えている場合には、各パッチアレイアンテナ14の放射パターンに差を設けておき、高周波回路13の内部に設けた切替手段13aによって使用するパッチアレイアンテナ14を切り替えれば、レーダーによる監視位置を変化させることが可能となる。
【0027】
自動車用のサイドミラー10は、非使用状態において折りたたみ可能であることが好ましい。つまり、図4に示す後方確認するための通常位置と、図6に示す車体側に折りたたまれた格納位置との切り替えが可能であることが好ましい。この場合、図4に示す通常位置にある場合には、上述したように後方監視を行い、図6に示す格納位置にある場合には、車内の監視を行うことができる。
【0028】
つまり、サイドミラー10が格納位置に折りたたまれると、鏡面が車内側を向くため、車内にある物体の監視を行うことができる。物体が車内に存在するのか、社外に存在するのかの判断は、パッチアレイアンテナ14と物体までの距離に基づいて行えばよい。或いは、左右のパッチアレイアンテナ14がともに検知した物体については、車内の物体であると判断することもできる。つまり、図6に示すように、サイドミラー10が格納位置に折りたたまれた場合、重複する監視エリアは車内に限られるため、両方のパッチアレイアンテナ14により検知された物体は、車内に存在する物体であると判断することが可能となる。
【0029】
このような車内の監視は、さまざまな利用方法が考えられる。例えば、駐車中に不審者が車内に侵入した場合や、車内に残しておいた子供が車外に出た場合などにこれを検知することが可能なる。不審者の侵入などを検知した場合の処理については特に限定されず、警告音を鳴らして威嚇するなどの処理を行えばよい。
【0030】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0031】
例えば、上記実施形態では本発明を自動車のサイドミラーに適用した例について説明したが、サイドミラーに限らず、他の後方確認装置、例えばルームミラーに適用することも可能である。但し、車線変更時における後方監視のためには、上記実施形態のようにサイドミラーに適用することが最も好ましい。尚、本発明をルームミラーに適用した場合に車内を監視可能とするためには、例えば、エンジンが停止している場合のような非使用状態において、レーダーによる監視エリアを車内に限定すればよい。
【0032】
また、本発明の適用対象は自動車用の後方確認装置に限らず、他の用途にも適用することが可能である。但し、後方確認装置の鏡面側にアンテナ素子が取り付けられる点を考えれば、自動車に用いられる後方確認用ミラーに適用することが最も相応しいと言える。
【0033】
また、上記実施形態では、サイドミラー10が格納位置にある場合に車内の監視を行っているが、ミラー本体12の角度調整機能を利用して車内の監視を行うことも可能である。例えば、車両が停車中である場合、サイドミラー10自体は通常位置に保持したまま、ミラー本体12だけを車内側に向けることによって、車内の監視を行うことも可能である。
【0034】
さらに、車内の監視のみならず、車庫近辺に不審な人物が接近していないかどうかについても本発明によるレーダー装置を用いて監視することができる。この場合、サイドミラー10自体は通常位置に保持し、ミラー本体12の角度を定期的又は連続的に動かすことにより、車内を含む広範囲のエリアを監視することができる。このような使い方によれば、車庫近辺における防犯性を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の好ましい実施形態によるレーダー装置が組み込まれた自動車用のサイドミラー10の構造を示す略斜視図である。
【図2】サイドミラー10の構造を示す略分解斜視図である。
【図3】ミラー本体12の構造を示す略断面図である。
【図4】サイドミラー10が備えられた自動車19と、サイドミラー10に組み込まれたレーダー装置の監視エリアを示す模式的な平面図である。
【図5】監視エリアを変更するための機構部分を示すブロック図である。
【図6】サイドミラー10が折りたたまれた状態を示す模式的な平面図である。
【符号の説明】
【0036】
10 サイドミラー
10a 監視エリア
10b 視認可能エリア
11 筐体
12 ミラー本体
12a 基体
12b 透明ガラス
12c 金属膜
12d 保護膜
13 高周波回路
13a 切替手段
14 パッチアレイアンテナ
14a 給電ライン
15 角度変更手段
19 自動車

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鏡面を備えた車両用の後方確認装置と、前記鏡面に設けられたアンテナ素子と、前記アンテナ素子に接続された高周波回路とを備え、前記アンテナ素子が透明電極材料によって構成されていることを特徴とするレーダー装置。
【請求項2】
前記後方確認装置は、前記鏡面の角度を変更するための角度変更手段を備えていることを特徴とする請求項1に記載のレーダー装置。
【請求項3】
前記アンテナ素子を複数有しており、使用するアンテナ素子を切り替えるための切替手段をさらに備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載のレーダー装置。
【請求項4】
前記後方確認装置は、非使用状態である場合には車内を監視可能に構成されていることを特徴とする請求項請求項1乃至3のいずれか一項に記載のレーダー装置。
【請求項5】
前記後方確認装置は、使用状態である通常位置と非使用状態である格納位置との切り替えが可能に構成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のレーダー装置。
【請求項6】
前記アンテナ素子は、垂直方向よりも水平方向に広いビームを形成することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載のレーダー装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−174390(P2007−174390A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−370888(P2005−370888)
【出願日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】