説明

レーダ信号処理装置およびレーダ信号処理方法

【課題】レーダ装置はできるだけ多くの信号を、できるだけ短時間での処理が要求され、信号の要求精度を落とさずに高精度の高分解能処理の削減で負荷を削減する。
【解決手段】目標物からの反射波をアンテナで受信してA/D変換部でディジタル化し、時間フーリエ変換部でドップラー周波数次元に変換して目標物の相対速度を算出し、ドップラー周波数次元の信号に対しピーク検出部で受信レベルのピーク検出を行い距離ゲートまたは相対速度情報から信号の重要度を重要度判定部で判定して、データ並び替え部で重要度順に並び替え、この各信号と重要度を、異なる複数の高分解能処理方法における演算精度および所定数の信号の処理時間を処理方法との組合せ毎に格納されたデータベースと照合し、各信号と高分解能処理方法とをデータ割当て部で対応させ、高分解能処理部で角度または距離を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複数のアンテナで受信した信号から、目標物体の距離または角度を算出するレーダ信号処理装置およびレーダ信号処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
受信用アレーアンテナと送信アンテナをもつパルスレーダ装置において、受信ビームで多重波となる場合、高分解能処理を用いて多重波を分離する手法が知られている(非特許文献1)。非特許文献1による手法は時分割で複数周波数のパルス波を送信し、送信したパルス波が目標物で反射し、その反射波を受信することで、規定の幅をもつ距離範囲ごとに信号を処理することができる。この距離範囲を距離ゲートと呼ぶ。
【0003】
しかし、高分解能処理は処理の負荷が大きく、レーダ装置で要求されるリアルタイム処理を達成するために、処理装置の規模が大きくなってしまう。高分解能処理の処理負荷が大きいという問題に対しては、高分解能処理を行うか否かの選定処理を行い、選定された信号にのみ高分解能処理を施す手法(特許文献1)が提案されている。特許文献1の手法によればシステム全体のリソースに対する高分解能処理に割くリソースの割合を減らすことができる。
【0004】
【特許文献1】特開2006-91029号公報
【非特許文献1】稲葉敬之著,「多周波ステップICWレーダによる多目標分離法」,電子情報通信学会論文誌,B Vol. J89-B No.3,pp.373-383
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
目標の検知、速度の算出、角度の算出を目的としたレーダ装置では、できるだけ多くの信号を、できるだけ短時間で処理することを要求される。しかし、特許文献1で提案される手法は、高分解能処理の回数削減によってシステム全体の処理負荷を削減するものであり、負荷を抑えるためには高分解能処理する信号の数を減らすことが必要であった。
【0006】
ところで、レーダ装置においては、信号データごとの重要度が異なる。例えば、自機に危険を及ぼす可能性が高い目標物からの信号データは早急に処理する必要があり、重要度が高い。また、追尾機能を備えたレーダ装置においては、追尾対象の信号の処理は重要度が高い。
【0007】
この発明はこの点を踏まえ、上記のような問題点を解決するためになされたもので、データごとに要求される演算精度を選択して処理することで、演算器およびメモリのリソースを有効に活用し、できるだけ多数の処理すべき信号を、優先度順にリアルタイムに処理することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係るレーダ信号処理装置は、
複数周波数のパルスCW波を時分割で送信する送信アンテナと、
送信アンテナから送信されたパルスCW波が目標物で反射して反射波となり、この反射波を受信する複数のアンテナで構成される受信アレーアンテナと、
受信アレーアンテナの受信信号をディジタル化するA/D変換部と、
A/D変換部でディジタル化された受信信号を時間次元でフーリエ変換し、ドップラー周波数次元に変換し、目標物の相対速度を算出する時間フーリエ変換部と、
時間フーリエ変換部で変換されたドップラー周波数次元の信号に対し受信レベルのピーク検出を行うピーク検出部と、
精度の異なる複数種類の処理方法をもち、検出されたピーク値に相当する相対速度をもつ信号またはピーク値に相当する相対速度およびその付近の相対速度をもつ複数の信号を用いて、高分解能で目標物までの角度または距離を算出する高分解能処理部と、
高分解能処理部における各処理方法の演算精度および所定の数の信号を処理するための所要時間を処理方法との任意の組合せ毎に格納するデータベースと、
ピーク検出部での出力信号に対し、その信号の距離ゲートまたは相対速度の情報から、信号の重要度を判定する重要度判定部と、
重要度判定部で判定された信号が重要度順に高分解能処理されるように信号データを並び替えるデータ並び替え部と、
データ並び替え部から出力される各信号とその重要度をデータベースと照合し、処理すべき信号をリアルタイムに処理するように各信号と高分解能処理部の各処理方法とを対応させ、高分解能処理部に出力するデータ割当て部とを備える。
【発明の効果】
【0009】
この発明のレーダ信号処理装置によれば、高分解能処理を行う信号(データ)毎の重要度を判定した結果をもとにして、異なる高分解能処理方法を各データに割当てるようにしている。処理方法によって高分解能処理の精度は異なるため、データ毎に要求される精度にあわせた処理をすることができる。重要度が高いデータは要求される高い精度で処理することができ、一方、重要度が低いデータも、低い精度ではあるが、高分解能処理を実施することができる。また、重要度の高いデータの順に高分解能処理を実施するので、重要なデータから早期に出力することができ、さらに、データベースに用意されたテーブルを参照して高分解能処理方法を割付けるので、割付け方の選択に長い時間を要することがなく、扱うべき全データの処理をリアルタイムで終えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1を示す構成図である。図1において、11は送信部であり、発振器11a、周波数逓倍器11b、低雑音増幅器11cを備える。12は送信部11からの送信信号を空中に放射する送信アンテナ、13は受信アレーアンテナでアンテナ素子Rx1〜Rxnを備える。14は受信部であり、低雑音増幅器14a、フィルタ14b、ミキサ14cを順次接続したアナログ信号処理系をアンテナ素子数n組備え、低雑音増幅器14aがアンテナ素子Rxに接続される。15はA/D変換器でありn個備え、周波数逓倍器11bの出力とミキシングし、周波数変換されたミキサ14cの出力をディジタル信号に変換する。
【0011】
16はA/D変換器15でディジタル信号にされたミキサ14cの出力受信信号を時間次元でフーリエ変換する時間フーリエ変換部、17は時間フーリエ変換部の出力する信号に対し受信レベルのピーク検出を行うピーク検出部、18は信号の距離ゲートまたは相対速度の情報から、信号の重要度を判定する重要度判定部、19は高分解能処理される順(重要度順)に信号を並び替えるデータ並び替え部、20は異なる高分解能処理方法における算出の演算精度、および、処理方法の任意の組合せと所定の数の信号を処理するための所要時間との対応を格納するデータベース部、21は検出されたピーク信号数と重要度をデータベース部20と照合し、処理すべき信号をリアルタイムに処理するように、各信号と高分解能処理の各処理方法とを対応させるデータのプログラムへの割当て決定部、22は検出したピーク値および、その付近の信号から、データのプログラムへの割当て決定部21で対応された高分解能処理方法で角度または距離を算出する高分解能処理部である。
【0012】
次に動作について説明する。送信部11は、発振器11aで送信信号を発生し、周波数逓倍器11bで周波数が逓倍され、低雑音増幅器11cで増幅される。この送信信号は、複数周波数のパルスCW(Continuous Wave)波を時分割されたもので送信アンテナ12を介してアンテナ面前方に放出される。
【0013】
送信アンテナ12から空中前方に放出された複数周波数のパルスCW波は、送信波の進行方向前方に目標物があった場合、目標物によって反射される。そして、その反射波は、n個の受信アンテナRx1〜Rxnで構成される受信アレーアンテナ13によって受信され、受信信号は、受信系(受信アンテナ〜ミキサ)ごとにA/D変換器15でディジタル信号に変換される。
【0014】
A/D変換器15でディジタル化された各受信系の受信信号は、時間フーリエ変換部16においてデータの時間次元で高速フーリエ変換され、受信信号の時間次元はドップラー周波数次元に変換される。この受信信号のドップラー周波数は自機と目標物との相対速度を示している。
【0015】
ドップラー周波数次元に変換された受信信号は、ピーク検出部17において信号電力強度に関して閾値処理される。閾値よりも大きい電力をもつピーク信号データを表すデータ・インデックス(相対速度V、距離ゲートR)は重要度判定部18に伝送される。
【0016】
重要度判定部18では、ピーク検出部17で選択された信号データのデータ・インデックス(相対速度Vと距離ゲートR)を入力とし、その信号を処理する上での重要度Iを決定する。重要度Iは信号の重要度が高いほど大きく、重要度が小さいほど小さく設定される数値である。
【0017】
まず、相対速度Vから信号の重要度Ivを決定する方法を説明する。目標物の自機に対する相対速度Vが正の値の信号は、自機に向かってくる目標物を表し、Vが大きければ大きいほど処理上の重要度Ivを大きく設定する。また、相対速度Vが負の値となる信号は自機から遠ざかる目標物を表し、Vが小さくなればなるほど(負の値が大きくなればなるほど)、処理上の重要度Ivを小さく設定する。
【0018】
次に、距離ゲートRから信号の重要度Irを決定する方法を説明する。距離ゲートが近い信号は処理上の重要度は高く、Irを大きく設定し、距離ゲートが遠いほどIrを小さく設定する。
また、相対速度Vと距離ゲートRから、自機と目標物とが衝突する場合の衝突までの時間を概算することができる。衝突までの時間をもとにした信号データの重要度をIcとし、衝突までの時間が短い信号データの重要度Icを大きく設定する。最後に、得られたIv、Ir、Icの3つの重要度から、以下の式によって重要度Iを決定する。
【0019】
I=Wv×Iv+Wr×Ir+Wc×Ic
ここで、Wv、Wr、Wcはあらかじめ設定された加算における各重要度に対する重みである。各信号のデータ・インデックス(相対速度V、距離ゲートR)と重要度Iは、データ並び替え部19に送られる。
【0020】
データ並び替え部19は、重要度判定部18から出力される各信号のデータ・インデックス(相対速度V、距離ゲートR)と重要度Iを入力とし、信号の重要度Iが大きい順に高分解能処理されるように各信号の順序を並び替える。そして、各信号のデータ・インデックスと重要度Iは、データのプログラムへの割当て決定部21に出力される。
【0021】
データベース部20は、高分解能処理部22における各処理方法の処理精度を格納し、また、所定の数の信号を処理するための所要時間を処理方法の任意の組合せ毎に格納する。格納データはデータのプログラムへの割り当て決定部21から参照される。
【0022】
データのプログラムへの割当て決定部21は、データ並び替え部19から出力される各信号のデータ・インデックス(相対速度V、距離ゲートR)と重要度Iを入力とする。そして、データベース部20を参照し、各信号にその信号の重要度ごとに処理精度の異なる高分解能処理方法を割当てる。重要度Iが大きいデータには処理精度の高い高分解能処理方法を割当て、重要度Iが小さいデータに処理精度の低い高分解能処理方法を割当てる。割当てにおいては、全データを処理するのに要する時間がリアルタイム処理の制限時間以内に収まるようにする。各信号のデータ・インデックス(相対速度V、距離ゲートR)と各割当てられた高分解能処理方法Pの組は、高分解能処理部22に送られる。
【0023】
高分解能処理部22は、MUSIC(Multiple Signal Classification)と2種類のESPRIT(Estimation of Signal Parameters via Rotational Invariance Techniques)すなわち、LS(Least-Squares)-ESPRIT、TLS(Total-Least-Squares)-ESPRITの、計3種類のアルゴリズム(処理方法)の高分解能処理プログラムをもち、ピーク検出部17で選択したピーク信号の到来角度を算出する。データのプログラムへの割当て決定部21の出力である、並び替えられた各信号のデータ・インデックス(相対速度V、距離ゲートR)と割当てられた高分解能処理方法Pの組を入力とし、時間フーリエ変換部16からデータ・インデックスに対応する信号を取り出し、割当てられた方法で高分解能処理を、並び換えの順に施し、到来角度を求める。
【0024】
以上のように、実施の形態1によればデータ毎の重要度を判定した結果をもとにして、異なるアルゴリズムの高分解能プログラムを各データに割当てるようにしている。アルゴリズムによって高分解能処理の精度は異なるため、データ毎に要求される精度にあわせた処理をすることができる。重要度が高いデータは要求される高い精度で処理することができ、一方、重要度が低いデータも、低い精度ではあるが、高分解能処理を実施することができる。また、重要度の高いデータの順に高分解能処理を実施するので、重要なデータから早期に出力することができる。さらに、データベース部20に用意されたテーブルを参照して高分解能処理プログラムを割付けるので、割付け方の選択に長い時間を要することがなく、扱うべき全データの処理をリアルタイムで終えることができる。
【0025】
実施の形態2.
図2はこの発明の実施の形態2を示す構成図である。図2において、高分解能処理部22は、データ精度の異なる複数の高分解能処理プログラムをもつ。その他の装置は、実施の形態1と全く同一のものである。
【0026】
次に動作について説明する。送信波の送信からデータの並び替えまでは実施の形態1と全く同様の動作である。データの並び替え後、データのプログラムへの割り当て決定部21はデータベース部20を参照する。データベース部20は高分解能処理部22におけるデータ精度の異なる各処理の処理精度を格納し、また、所定の数の信号を処理するための所要時間を処理の任意の組合せ毎に格納する。データのプログラムへの割当て決定部21は、データの重要度をもとに、全データをリアルタイムに処理するように、プログラムを割り当てる。
【0027】
高分解能処理部22は、3種類のデータ精度、すなわち、固定小数点、単精度浮動小数点、倍精度浮動小数点、における高分解能処理プログラムをもち、ピーク検出部17で選択したピーク信号の到来角度を算出する。
【0028】
以上のように実施の形態2によれば、データ毎の重要度を判定した結果をもとにして、異なるデータ精度の高分解能プログラムを各データに割当てるので、データ毎に要求される精度にあわせた処理をすることができる。
【0029】
実施の形態3.
図3はこの発明の実施の形態3を示す構成図である。図3において、23は空間フーリエ変換部であり、ピーク検出部17、重要度判定部18は空間フーリエ変換部23の出力をも加味した処理を行う。高分解能処理部22は、アルゴリズムおよびデータ精度の異なる複数の高分解能処理プログラムをもち、目標物の距離と角度の算出を行う。データのプログラムへの割当て決定部21は高分解能処理部22の複数プログラムへ対応するような実施の形態1に記載の処理を行う。その他の構成は、実施の形態1と全く同様なものである。
【0030】
次に動作について説明する。送信波の送信から時間フーリエ変換処理までは実施の形態1と同様の動作である。時間フーリエ変換後、空間フーリエ変換部23では、受信アレーアンテナ13で受信された複数信号にアンテナ間位相補正を施し、所望の複数角度に対してディジタルビーム形成する。ディジタルビーム形成によって、受信信号の粗い精度での到来角度情報を得ることができる。空間フーリエ変換部23は、受信信号の距離ゲートR、相対速度V、粗い到来角度Aの情報を持つ信号データを出力する。
【0031】
ピーク検出部17では、電力に関する閾値処理によってピーク信号を選択し、
選択したピーク信号のデータ・インデックス(距離ゲートR、相対速度V、粗い到来角度A)を出力する。
【0032】
重要度判定部18では、ピーク検出部17で選択された信号データのデータ・インデックス(距離ゲートR、相対速度V、粗い到来角度A)を入力とし、信号処理上の重要度を決定する。
粗い到来角度Aから重要度Iaを決定する方法を説明する。正面方向角度の重要度Iaを大きく設定し、正面からの離角が大きくなるほど重要度Iaを小さく設定する。距離ゲート、相対速度、衝突までの時間からの重要度Ir、Iv、Icの決定方法は実施の形態1と同様である。最後に、すべての重要度をあわせて、信号データの重要度Iを決定する。
【0033】
重要度Iの決定は、以下の式による。
I=Wv×Iv+Wr×Ir+Wc×Ic+Wa×Ia
ここで、Wv、Wr、Wc、Waは、あらかじめ設定された加算における各重要度に対する重みである。
【0034】
高分解能処理部22では、実施の形態1で示した3つの高分解能処理、すなわちMUSIC、LS-ESPRIT、TLS-ESPRITの3つの処理プログラムをもつ。さらに、各プログラムは3つの異なる精度、すなわち、固定小数点数、単精度浮動小数点数、倍精度浮動小数点数をもつ。また、高分解能処理部22では、送信信号を反射した目標物と自機との距離を求める測距用プログラムと、信号の到来角度を算出する測角用プログラムをもつ。測距用プログラムは空間フーリエ変換部23の出力データを用いて距離を、また測角用プログラムは時間フーリエ変換部16の出力データを用いて到来角度を算出する。
【0035】
実施の形態3によれば、空間フーリエ変換によって粗い角度情報が求められるので、重要度判定において、到来方向を考慮した重要度判定を行うことができる。
【0036】
また、高分解能処理部においてアルゴリズムに加えて、データ型精度の異なるプログラムを用意したので、実施の形態1、実施の形態2よりもさらにデータごとの要求精度に適した演算精度での高分解能処理を行うことができる。
【0037】
実施の形態4.
図4はこの発明の実施の形態4を示す構成図である。図4において、24は追尾処理部であり、重要度判定部18は追尾処理部24の出力をも加味して処理を行う。それ以外の構成は上記実施の形態3と全く同様なものである。
【0038】
次に動作について説明する。高分解能処理までの一連の処理によって、目標物の自機との相対速度、距離、角度が求まる。追尾処理部24では、それらの情報を入力として、追尾処理を行う。追尾処理によって、目標物からの所望信号と目標物以外からの信号、すなわち単発的なノイズとに分離することができる。目標物からの所望信号に関しては、次に目標物からの信号が出現する位置を誤差付きで予測することができる。
【0039】
重要度判定部18では、追尾処理によって予測した信号出現位置から重要度Isを決定する。予測された信号出現位置の誤差範囲にある信号は、重要度Isを大きく設定する。最後に、速度、距離ゲート、粗い角度から求めた重要度Iv、Ir、Ic、IaとIsをあわせて、重要度Iを決定する。
【0040】
重要度Iの決定は、以下の式による。
I=Wv×Iv+Wr×Ir+Wc×Ic+Wa×Ia+Ws×Is
ここで、Wv、Wr、Wc、Wa、Wsは、あらかじめ設定された加算における各重要度に対する重みである。
【0041】
実施の形態4においては、追尾処理による信号の出現位置予測を用いた重要度判定を行うので、追尾すべき信号に演算精度の高い高分解能処理を割当てることができ、追尾対象の目標物の位置をより高精度に算出することができる。
【0042】
実施の形態5.
図5はこの発明の実施の形態5を示す構成図である。図5において、25は進路形状認識装置であり、重要度判定部18は進路形状認識装置25の出力をも加味して処理を行う。それ以外の構成は上記実施の形態4と全く同様なものである。
【0043】
次に動作について説明する。進路形状認識装置25は、自機の移動情報または外部通信装置から取得した情報を元に自機の位置を認識し、装置内に保存された、または外部通信装置から取得した進路情報を参照することにより、自機の進路の形状を認識する。進路の形状の情報は、重要度判定部18に送られる。
【0044】
重要度判定部18では、進路形状認識装置25から取得した進路の形状によって信号の重要度を決定する。実施の形態4と同様に、重要度Iは、4つのパラメータ(速度、距離ゲート、粗い角度、追尾情報)から求めた5つの重要度(Iv、Ir、Ic、Ia、Is)から決定するが、実施の形態5では、さらに進路の形状にあわせて、各重要度の決定方法を変更する。
【0045】
実施の形態5においては、進路形状認識装置によって自機の位置における進路の形状を認識し、進路の形状にあわせて重要度を決定する方法を変更するので、自機の進路環境にあわせた高分解能処理を行うことができる。
【0046】
なお、上述の実施の形態では、重要度Iを決定する式を各重要度の重み付き加算としたが、重み付き積算等、別の形式をとることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0047】
この発明はパルス波を送信して遠隔にある目標物体の角度及び距離を算出する分野に広く適用できるものであり、特に飛行機や自動車用レーダ装置の技術として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】この発明の実施の形態1を示す構成図である。
【図2】この発明の実施の形態2を示す構成図である。
【図3】この発明の実施の形態3を示す構成図である。
【図4】この発明の実施の形態4を示す構成図である。
【図5】この発明の実施の形態5を示す構成図である。
【符号の説明】
【0049】
11 送信部、11a 発信器、11b 周波数逓倍器、11c 低雑音増幅器、12 送信アンテナ、13 受信アレーアンテナ、14 受信部、14a 低雑音増幅器、14b フィルタ、14c ミキサ、15 A/D変換器、16 時間フーリエ変換部、17 ピーク検出部、18 重要度判定部、19 データ並び替え部、20 データベース部、21 データのプログラムへの割当て決定部、22 高分解能処理部、23 空間フーリエ変換部、24 追尾処理部、25 進路形状認識装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数周波数のパルスCW波を時分割で送信する送信アンテナと、
送信アンテナから送信されたパルスCW波が目標物で反射して反射波となり、この反射波を受信する複数のアンテナで構成される受信アレーアンテナと、
受信アレーアンテナの受信信号をディジタル化するA/D変換部と、
A/D変換部でディジタル化された受信信号を時間次元でドップラー周波数次元にフーリエ変換し、目標物の相対速度を算出する時間フーリエ変換部と、
時間フーリエ変換部で変換されたドップラー周波数次元の信号に対し受信レベルのピーク検出を行うピーク検出部と、
精度の異なる複数種類の処理方法をもち、検出されたピーク値に相当する相対速度をもつ信号またはピーク値に相当する相対速度およびその付近の相対速度をもつ複数の信号を用いて、高分解能で目標物までの角度または距離を算出する高分解能処理部と、
高分解能処理部における各処理方法の演算精度および所定の数の信号を処理するための所要時間を処理方法との任意の組合せ毎に格納するデータベースと、
ピーク検出部での出力信号に対し、その信号の距離ゲートまたは相対速度の情報から、信号の重要度を判定する重要度判定部と、
重要度判定部で判定された信号が重要度順に高分解能処理されるように信号データを並び替えるデータ並び替え部と、
データ並び替え部から出力される各信号とその重要度をデータベースと照合し、処理すべき信号をリアルタイムに処理するように各信号と高分解能処理部の各処理方法とを対応させ、高分解能処理部に出力するデータ割当て部とを備えたレーダ信号処理装置。
【請求項2】
ピーク検出部の前段に、受信信号の粗い角度を算出する空間フーリエ変換部を備え、
重要度判定部は距離ゲート、相対速度に粗い角度を加えた3次元情報から信号の重要度を判定する構成にされたことを特徴とする請求項1に記載のレーダ信号処理装置。
【請求項3】
相対速度、距離情報、角度情報をもとに、目標物の追尾処理を行う追尾処理部を高分解能処理部の後段に備え、
重要度判定部は距離ゲート、相対速度、粗い角度および追尾処理部の追尾処理結果をもとに信号の重要度を判定する構成にされたことを特徴とする請求項2に記載のレーダ信号処理装置。
【請求項4】
自機の進行する進路の形状を認識する進路形状認識装置を備え、
重要度判定部は、進路形状認識装置によって認識した進路の形状を加味して、信号の重要度を判定する構成にされたことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載のレーダ信号処理装置。
【請求項5】
送信アンテナから複数周波数のパルスCW波が時分割で送信され、目標物で反射した反射波を複数のアンテナで構成される受信アレーアンテナで受信する受信工程と、
受信工程での受信信号をディジタル化するA/D変換工程と、
A/D変換工程でディジタル化された受信信号を時間次元でドップラー周波数次元にフーリエ変換し、目標物の相対速度を算出する時間フーリエ変換工程と、
時間フーリエ変換工程で変換されたドップラー周波数次元の信号に対し受信レベルのピーク検出を行うピーク検出工程と、
精度の異なる複数種類の処理方法をもち、検出されたピーク値に相当する相対速度をもつ信号またはピーク値に相当する相対速度およびその付近の相対速度をもつ複数の信号を用いて、高分解能で目標物までの角度または距離を算出する高分解能処理工程と、
ピーク検出工程での出力信号に対し、その信号の距離ゲートまたは相対速度の情報から、信号の重要度を判定する重要度判定工程と、
重要度判定工程で判定された信号が重要度順に高分解能処理されるように信号データを並び替えるデータ並び替え工程と、
データ並び替え工程から出力される各信号とその重要度を、高分解能処理工程における各処理方法の演算精度および所定の数の信号を処理するための所要時間を処理方法との任意の組合せ毎に格納されたデータベースと照合し、処理すべき信号をリアルタイムに処理するように各信号と高分解能処理工程の各処理方法とを対応させ、高分解能処理工程に出力するデータ割当て工程とを備えたレーダ信号処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−36539(P2009−36539A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−199005(P2007−199005)
【出願日】平成19年7月31日(2007.7.31)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】