説明

レーダ装置

【課題】メインビームを妨害する妨害波が存在する条件下でも、モノパルス測角による目標測角を可能としつつ、演算量を軽減してコストアップを回避したレーダ装置を得る。
【解決手段】ビーム信号を送信して目標からの反射信号を受信する送受信機と、目標の到来方向を測角するモノパルス測角手段と、受信信号に含まれるメインビームを妨害する妨害波またはメインビームに干渉する干渉波を除去するための信号処理部10Aとを備え、信号処理部10Aは、メインビームを保護するメインローブプロテクション手段44と、受信信号から妨害波を除去するサイドローブ妨害抑圧手段40とを備えている。サイドローブ妨害抑圧手段40は、メインローブプロテクション手段44と協働して、メインローブ成分の過剰抑圧を防ぐためのブロッキングフィルタ47を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ビーム信号を送信して目標からの反射波をアレーアンテナで受信し、受信信号に含まれる目標信号を推定することにより目標の到来方向を測角し、測角結果に基づき次の送信ビームの指向方向を決定するレーダ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、艦載型レーダや地上レーダにおいては、目標信号を含む反射波のメインビーム方向から電磁波による妨害を受けた場合に、妨害波(ジャミング)の影響によりレーダ使用が不可能になった状況を打開するために、目標方向にエネルギー(パルスヒット数)を集中させて、目標からの信号電力と妨害波電力との比(以下、S/J比)の改善を図る、いわゆるバーンスルー・モードを用いて目標探知を行うことがある。しかしながら、バーンスルー・モードを適用した場合には、通常、目標の到来方向の測角が行われないので、目標に対する追尾性能が劣化するという問題があった。
【0003】
また、メインビーム方向からの妨害波が存在する環境下で目標の測角を行うためには、通常のモノパルス測角法が使えないので、超分解能測角に切り替えて目標測角を行うことが多い。
【0004】
超分解能測角については、従来、MUSIC(MUltiple SIgnal Classification)法と称される高分解能のアルゴリズムが知られている(たとえば、非特許文献1参照)。また、スーパーレゾリューション性能を持つESPRIT法も知られており(たとえば、非特許文献2参照)、モノパルスレーダへの最尤推定法の適用も提案されている(たとえば、非特許文献3参照)。しかしながら、これらの測角法は、モノパルス測角法に比べて演算量が高いことから、装置への実装に際して、高速処理が可能なプロセッサを実装する必要があった。
【0005】
一方、アダプティブアレー(AA)を用いるサイドローブ妨害抑圧手段と、メインローブキャンセラ(MLC)を用いるメインローブ妨害除去手段とを併用し、さらに、これらの抑圧手段を併用することによりメインローブ成分の過剰抑圧を防ぐために、サイドローブ妨害抑圧手段にメインローブメンテナンス(MLM)機能を備えたメインローブプロテクション手段を加えることにより、メインビーム妨害環境下においても、モノパルス測角を実現可能にした信号処理部を有するレーダ装置が提案されている(たとえば、非特許文献4参照)。
【0006】
以下、図6のブロック構成図および図7〜図9の機能ブロック図を参照しながら、上記非特許文献4に記載された従来のレーダ装置の概要構成について説明する。
図6において、レーダ装置は、送信部として、送信周波数設定値および送信タイミングトリガを出力する制御器1と、送信周波数設定値に基づく連続波を発生する周波数発振器2と、送信タイミングトリガに基づき連続波をパルス変調した送信パルスを出力する送信機3と、送信パルスに対してビーム形成ウェイト設定値(後述する)に基づく位相操作を行う移相器4と、送受信を切り換える送受切換器5と、送受切換器5を介して入力される送信パルスを空中に送信するアレーアンテナ6とを備えている。
【0007】
複数のアレーアンテナから構成されるアレーアンテナ6は、送信アレーアンテナとしてのみでなく、受信アレーアンテナとしても機能し、送信パルスが測角対象となる目標(図示せず)で反射された反射波(目標信号)を受信するとともに、クラッタ反射波や妨害波などの到来波をすべて受信する。
【0008】
図6に示すレーダ装置は、受信部として、アレーアンテナ6と、送受切換器5を介して入力される到来波(受信信号)を中間周波数信号に周波数変換する受信機7と、位相検波器8と、信号処理部10と、モノパルス測角手段11と、送信ビーム指向方向計算手段12とを備えている。
【0009】
位相検波器8は、受信機7からの中間周波数信号をA/D変換および位相検波して、ベースバンド帯のM個の受信信号X0(n)〜XM−1(n)として出力する。
信号処理部10は、位相検波器8でディジタル信号に変換された受信信号X0(n)〜XM−1(n)に基づいて所望のパラメータを抽出し、モノパルス測角手段11は、信号処理部10で抽出されたパラメータに基づいて目標測角値を求める。
送信ビーム指向方向計算手段12は、目標測角値に基づき、送信部の移相器4に対する設定値として、目標に対する次の送信ビーム指向方向およびビーム形成ウェイト設定値を計算して出力する。
【0010】
図7は図6内の信号処理部10の具体的構成を示す機能ブロック図である。
図7において、信号処理部10は、サイドローブ妨害抑圧手段20と、メインローブ妨害除去手段21と、妨害波相関行列推定手段22と、サイドローブ妨害抑圧ウェイト推定手段23と、メインローブプロテクション手段24とを備えている。
【0011】
サイドローブ妨害抑圧手段20は、AAを用いて、メインビーム方向以外から到来する妨害波を、受信信号X0(n)〜XM−1(n)から除去する。
また、メインローブ妨害除去手段21は、MLCを用いて、メインビーム方向から到来する妨害波を、サイドローブ妨害抑圧手段20からの受信信号ΔΔ、ΔEl、ΔAz、Σから除去する。
【0012】
妨害波相関行列推定手段22は、目標受信信号に関する相関行列を計算することにより、メインビーム方向以外からの妨害波の到来方向を推定する。
サイドローブ妨害抑圧ウェイト推定手段23は、推定された妨害波の到来方向の信号をキャンセルするための重み付け係数W^ΣΣを計算する。
メインローブプロテクション手段24は、サイドローブ妨害抑圧動作により、メインビーム方向の信号に及ぼす劣化を補償するための重み付け係数を計算する。
【0013】
図8は図7内のサイドローブ妨害抑圧手段20の具体的構成を示す機能ブロック図である。
図8において、サイドローブ妨害抑圧手段20は、受信信号X0(n)〜XM−1(n)から差分ビームrΔeを抽出する差分ビーム計算手段30と、受信信号X0(n)〜XM−1(n)から和ビームrΣeを抽出する和ビーム計算手段31と、差分ビームrΔeを入力信号とする重み付け手段32、33と、和ビームrΣeを入力信号とする重み付け手段34、35とを備えている。
【0014】
重み付け手段32、33、34、35は、AAを用いて、サイドローブ妨害波をキャンセルしたビームΔΔ、ΔEl、ΔAz、Σを出力する。
また、各重み付け手段32、33、34、35からの出力ビームは、サイドローブ妨害抑圧手段20の後段に位置するメインローブ妨害除去手段21で使用されるパラメータに変換されている。
【0015】
図9は重み付け手段32、33、34、35の具体的構成例を示す機能ブロック図であり、代表的に、和ビーム計算手段31に関連した重み付け手段35を示している。
図9において、重み付け手段35は、N個のFIR(Finite Impulse Response)フィルタ36(0)〜36(N−1)と、FIRフィルタ36(0)〜36(N−1)の各出力信号を加算する総和器37とを備えている。
FIRフィルタ36(0)〜36(N−1)は、M個の受信信号X0(n)〜XM−1(n)に基づくN個の和ビームrΣe(0)〜rΣe(N−1)を入力信号としている。
【0016】
一方、サイドローブ妨害抑圧ウェイト推定手段23に関連したメインローブプロテクション手段24(図7、図8参照)は、以下の(1)〜(5)のメインローブプロテクション動作を含む。
(1)部分空間拘束を用いる共分散行列の再構築動作、
(2)対角線ローディングを用いるメインローブ保持動作、
(3)固有値解析に基づき有力な信号のみ(所定の閾値を上回る信号のみ)抽出する動作、
(4)メインローブ妨害波のフィルタリング動作、
(5)MUSIC法(非特許文献1)を用いて、以下に述べるブロッキングフィルタ係数を計算する動作。
【0017】
しかしながら、非特許文献4に記載のレーダ装置の特徴である上記(1)〜(5)のメインローブプロテクション動作(=ブロッキングフィルタ係数の算出動作)は、きわめて演算量の多い適応処理(適応重み付け)などを用いて実現しているので、レーダ装置への実装に際しては、やはり高速処理が可能なプロセッサを実装する必要があり、装置のコストアップを招く要因となっている。
【0018】
また、サイドローブキャンセラ(SLC)を実現する手法として、上記AAを用いる手法のほかに、一般化サイドローブキャンセル(GSC)を用いる手法も提案されている(たとえば、非特許文献5参照)。
【0019】
GSCを用いる手法においては、所望波成分が補助チャネルに混入してキャンセルされてしまうのを防ぐため、補助チャネルへの混入をブロックするためのブロッキングフィルタ(または、ブロッキング行列)を備えている。
しかしながら、ブロッキングフィルタの形状や特性ついては有効な知見が得られておらず、結局、GSCを用いる手法は、実用レベルに達していない。
【0020】
【非特許文献1】R.O.Schidt,「Multiple Emitter Location and Signal Parameter Estimation」, IEEE Trans. on Antennas and Propagation, vol.AP−34, No.3(Mar. 1986)
【非特許文献2】R.Roy, T.Kailath,「ESPRIT − Estimation of Signal Parameters Via Rotational Invariance Techniques」, IEEE Trans. on Acoustics, Speech, and signal processing, vol.37, No.7(July 1989)
【非特許文献3】I.Ziskind, M.Wax,「Maximum Likelihood Localization of Multiple Sources by Alternating Projection」, IEEE Trans. on Acoustics, Speech, and signal processing, vol.36, No.10(Oct. 1988)
【非特許文献4】Kai−Bor Yu, D.J.Murrow,「Adaptive Digital Beamforming for Angle Estimation in Jamming」, IEEE Trans. on aerospace and electronic systems vol.37, No.2(April 2001)
【非特許文献5】L.J.Griffiths, C.W.Jim,「An Alternative Approach to Linearly Constrained Adaptive Beamforming」, IEEE Trans. on Antennas and Propagation, vol.AP−30, No.1(Jan. 1986)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
従来のレーダ装置では、非特許文献1〜4のいずれの場合においても、演算量が多いので、高速処理が可能なプロセッサを実装する必要があり、装置全体のコストアップを招くという課題があり、非特許文献5のようにGSCを用いる手法も、実用段階に達していないという課題があった。
【0022】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、メインビームを妨害する妨害波が存在する条件下でも、モノパルス測角による目標測角を可能としつつ、演算量を軽減してコストアップを回避した実用的なレーダ装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
この発明によるレーダ装置は、信号を送受信するアレーアンテナと、所定周波数のビーム信号をアレーアンテナから送信する送信機と、ビーム信号に基づく目標からの反射信号を受信信号としてアレーアンテナから受信する受信機と、受信信号に基づいて目標の到来方向を測角するモノパルス測角手段と、受信信号に含まれるメインビームを妨害する妨害波またはメインビームに干渉する干渉波を除去して、モノパルス測角手段による測角を可能にするための信号処理部とを備えたレーダ装置において、信号処理部は、メインビームを保護するメインローブプロテクション手段と、受信信号から妨害波または干渉波を除去するサイドローブ妨害抑圧手段とを備え、サイドローブ妨害抑圧手段は、メインローブプロテクション手段と協働して、メインローブ成分の過剰抑圧によってMLC処理に悪影響を及ぼすのを防ぐためのブロッキングフィルタを含むものである。
【発明の効果】
【0024】
この発明によれば、AA(アダプティブアレー)とMLC(メインローブキャンセラ)との組み合わせに、さらに、メインローブプロテクション機能を加える方式をベースとしつつ、演算量の少ない方式を実現することにより、コストアップを回避して実用的なレーダ装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
実施の形態1.
この発明の実施の形態1においては、サイドローブ妨害抑圧機能として、従来装置におけるAAに代えて、GSC(一般化サイドローブキャンセラ)を用いる。以下、この発明の実施の形態1におけるGSCを「モノパルスビーム拘束型GSC」と称する。
また、この発明の実施の形態1においては、メインローブプロテクション機能を実現するための「ブロッキングフィルタ」の実現方法として、目標信号の到来方向(受信波のメインビーム方向)がレーダアンテナの送信ビーム方向に限定できることに着目し、レーダアンテナの送信ビーム方向に対応する、送信ビーム幅内のステアリングベクトルが存在する部分空間を張る複数の固有ベクトルを求め、これら固有ベクトルをビームウェイトとするブロッキング行列を計算し、これをメインビームプロテクション行列として適用するものである。
本方式は、非適応的な固有ベクトル計算を用いてブロッキング行列計算を実現できることから,これにより、従来装置において、適応処理に基づくAA方式に比べて、簡素でかつ少ない演算量で、適応方式と同等の機能および性能を実現する。
【0026】
以下、図1〜図3を参照しながら、この発明の実施の形態1について詳細に説明する。
なお、この発明の実施の形態1に係るレーダ装置の概略構成は、図6に示した通りであり、信号処理部の機能が一部異なるのみである。
図1はこの発明の実施の形態1に係るレーダ装置の信号処理部10Aの具体的構成を示す機能ブロック図であり、前述(図7参照)と同様のものについては、前述と同一符号を付して詳述を省略する。
【0027】
図1において、信号処理部10Aは、サイドローブ妨害抑圧手段40と、メインローブ妨害除去手段41と、妨害波相関行列推定手段42と、サイドローブ妨害抑圧ウェイト推定手段43と、メインローブプロテクション手段44と、メインビーム相関行列計算手段45とを備えている。
信号処理部10A内の各手段40〜44は、前述(図7参照)の各手段20〜24にそれぞれ対応している。
【0028】
妨害波相関行列推定手段42は、妨害波相関行列として共分散行列Rを生成し、共分散行列Rをサイドローブ妨害波ウェイト推定手段43に入力する。
メインビーム相関行列計算手段45は、サイドローブに対応するステアリングベクトルが存在する部分空間を張る複数の固有ベクトルに対応したメインビーム相関行列RMBを生成し、メインビーム相関行列RMBをメインローブプロテクション手段44に入力する。
【0029】
メインローブプロテクション手段44は、メインビーム相関行列RMBに基づいて複数の固有ベクトルを求めるとともに、複数の固有ベクトルをビームウェイトとするブロッキングフィルタ係数を計算し、ブロッキングフィルタ係数をブロッキングフィルタ47およびサイドローブ妨害波ウェイト推定手段43に入力する。
サイドローブ妨害波ウェイト推定手段43は、共分散行列Rおよびブロッキングフィルタ係数に基づいて、サイドローブ妨害波ウェイトW^ΣΣを生成し、サイドローブ妨害波ウェイトW^ΣΣをサイドローブ妨害抑圧手段43に入力する。
【0030】
なお、メインビーム相関行列計算手段45の具体的動作は、公知文献(たとえば、高橋、諏訪、稲葉、「アレーアンテナメインビーム幅内ステアリングベクトルの部分空間構造を利用した目標推定法」、電子情報通信学会論文誌B、Vol.J89−B、No.7、2006)に詳述されている。
【0031】
図2は図1内のサイドローブ妨害抑圧手段40の具体的構成を示す機能ブロック図である。
図2において、サイドローブ妨害抑圧手段40は、受信信号X0(n)〜XM−1(n)に所定係数を乗算する乗算器46と、受信信号X0(n)〜XM−1(n)からサイドローブ成分のみを抽出するブロッキングフィルタ47と、乗算器46の出力信号から差分ビームrΔeおよび和ビームrΣeを計算する差分ビーム計算手段48および和ビーム計算手段49と、ブロッキングフィルタ47の出力信号から差分ビームr'Δeおよび和ビームr'Σeを計算する差分ビーム計算手段50および和ビーム計算手段51と、差分ビームrΔeを加算する総和器52と、和ビームrΣeを加算する総和器53と、受信信号からサイドローブ成分を除算したビーム信号ΔΔ、ΔEl、ΔAz、Σを出力する加算器54〜57と、各計算手段48〜51の出力信号に基づいてサイドローブ妨害波をキャンセルしたビームを出力する重み付け手段58〜65とを備えている。
【0032】
差分ビーム計算手段48、50は、前述(図8参照)の差分ビーム計算手段30に対応し、和ビーム計算手段49、51は、前述の和ビーム計算手段31に対応している。
また、重み付け手段58〜61は、それぞれ、前述の重み付け手段32〜35に対応し、同様に、重み付け手段62〜65は、それぞれ、前述の重み付け手段32〜35に対応している。
各重み付け手段58〜65は、前述と同様に、それぞれAAにより実現される。
【0033】
図3は重み付け手段58〜65の具体的構成例を示す機能ブロック図であり、代表的に、和ビーム計算手段51に関連した重み付け手段65を示している。
図3において、重み付け手段65は、N個のFIRフィルタ66(0)〜66(N−1)と、FIRフィルタ66(0)〜66(N−1)の各出力信号を加算する総和器67とを備えている。
【0034】
FIRフィルタ66(0)〜66(N−1)は、M個の受信信号X0(n)〜XM−1(n)に基づくN個の和ビームr'Σe(0)〜r'Σe(N−1)を入力信号としている。
FIRフィルタ66(0)〜66(N−1)は、前述(図9参照)のFIRフィルタ36(0)〜36(N−1)に対応し、総和器67は、前述の総和器37に対応している。
【0035】
以上のように、この発明の実施の形態1に係るレーダ装置は、信号を送受信するアレーアンテナ6(図6参照)と、所定周波数のビーム信号をアレーアンテナ6から送信する送信機3と、ビーム信号に基づく目標からの反射信号を受信信号としてアレーアンテナ6から受信する受信機7と、受信信号X0(n)〜XM−1(n)に基づいて目標の到来方向を測角するモノパルス測角手段11と、受信信号X0(n)〜XM−1(n)に含まれるメインビームを妨害する妨害波またはメインビームに干渉する干渉波を除去して、モノパルス測角手段11による測角を可能にするための信号処理部10Aとを備えている。
【0036】
信号処理部10Aは、メインビームを保護するメインローブプロテクション手段44と、受信信号から妨害波または干渉波を除去するサイドローブ妨害抑圧手段40とを備え、サイドローブ妨害抑圧手段40は、メインローブプロテクション手段44と協働して、サイドローブ妨害抑圧手段40が、メインローブ成分まで過剰に抑圧して、後続するMLC処理に悪影響を及ぼすのを防ぐためのブロッキングフィルタ47を含む。
【0037】
また、信号処理部10Aは、メインビーム相関行列計算手段45を備えており、メインビーム相関行列計算手段45は、レーダアンテナの送信ビーム方向に対応した、送信ビーム幅内のステアリングベクトルが存在する部分空間に対し、部分空間を張る複数の固有ベクトルに対応したメインビーム相関行列RMBを生成し、メインビーム相関行列RMBをメインローブプロテクション手段44に入力する。
メインローブプロテクション手段44は、メインビーム相関行列RMBに基づいて複数の固有ベクトルを求めるとともに、複数の固有ベクトルをビームウェイトとするブロッキングフィルタ係数を計算し、ブロッキングフィルタ係数をブロッキングフィルタ47に入力する。
【0038】
また、サイドローブ妨害抑圧手段40は、ブロッキングフィルタ47と協働する和ビーム計算手段50および差分ビーム計算手段51と、和ビーム計算手段50および差分ビーム計算手段51で計算された和ビームおよび差分ビームに対して重み付け演算を行い、サイドローブ妨害波をキャンセルしたビームを出力する重み付け手段62〜65とを含む。
【0039】
このように、信号処理部10A内にメインビーム相関行列計算手段45を設け、メインローブプロテクション手段44にブロッキングフィルタ係数(レーダアンテナの送信ビーム方向に対応したステアリングベクトルが存在する部分空間を張る複数の固有ベクトルをビームウェイトとする)を入力するとともに、メインローブプロテクション手段44と協働するサイドローブ妨害抑圧手段40内にブロッキングフィルタ47を設け、モノパルスビーム拘束型GSCの補助チャネル(非拘束成分)系のメインローブプロテクション行列として、ブロッキングフィルタ係数をメインローブプロテクション行列として用いる。
【0040】
これにより、メインビーム成分は、ブロッキング行列を構成する各固有ベクトルとほぼ直交することになるのでキャンセルされ、ブロッキングフィルタ47の後段からメインローブ成分が漏れ出すことがなくなる。したがって、加算器54〜57でサイドローブキャンセル動作を実行しても、メインローブ成分まで過剰にキャンセル(抑圧)されることなく良好に保持される。
この結果、補助チャネルにメインビーム妨害波が混入するのを防ぐことができ、モノパルスビーム拘束型GSCは、サイドローブ妨害のみを選択的に抑圧することができる。
【0041】
また、メインローブプロテクション手段44の動作は、メインビーム相関行列計算手段45で生成したメインビーム相関行列RMBに基づいて、複数の固有ベクトルを求めることのみなので、演算量の多い適応処理を行うことなくブロッキングフィルタ係数を求めることができ、演算量を大幅に削減することができる。
したがって、高速処理が可能なプロセッサを必要とすることがなく、コストアップを招くこともない。
【0042】
実施の形態2.
なお、上記実施の形態1(図2)では、各計算手段48〜51の入力側にブロッキングフィルタ47を設けたが、図4のように、各計算手段70、71の出力側に、ブロッキングフィルタ47に対応したブロッキング行列72〜75を設けてもよい。
図4はこの発明の実施の形態2に係る信号処理部内のサイドローブ妨害抑圧手段40Bを示す機能ブロック図である。
【0043】
図4において、前述(図2参照)と同様のものについては、前述と同一符号が付して、または符号の後に「B」を付して詳述を省略する。
この場合、サイドローブ妨害抑圧手段40Bは、受信信号X0(n)〜XM−1(n)を入力信号とする差分ビーム計算手段70および和ビーム計算手段71と、差分ビーム計算手段70からの差分ビームrΔeを入力信号とするブロッキング行列72、73と、和ビーム計算手段71からの和ビームrΣeを入力信号とするブロッキング行列74、75と、前述と同様の加算器54〜57および重み付け手段58〜65とを備えている。
【0044】
また、図5は和ビーム計算手段71に関連したブロッキング行列75および重み付け手段61、65の相互関係を示す機能ブロック図である。
図5において、ブロッキング行列(BΣΣ)75は、N個の和ビームr'Σe(0)〜r'Σe(N−1)に基づいて、所要のD次(最大で(N−1)次)の出力信号を生成して重み付け手段65に入力する。
【0045】
図4、図5に示すように、メインローブプロテクション手段44Bと協働するブロッキング行列72〜75を、差分ビーム70および和ビーム計算手段71の後段に配置した場合でも、前述の実施の形態1と同様の作用効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】この発明の実施の形態1に係るレーダ装置の信号処理部を示す機能ブロック図である。
【図2】図1内のサイドローブ妨害抑圧手段の具体的構成を示す機能ブロック図である。
【図3】図2内の重み付け手段の具体的構成例を示す機能ブロック図である。
【図4】この発明の実施の形態2に係る信号処理部内のサイドローブ妨害抑圧手段の具体的構成を示す機能ブロック図である。
【図5】図4内のブロッキング行列および重み付け手段の相互関係を示す機能ブロック図である。
【図6】一般的なレーダ装置を概略的に示すブロック構成図である。
【図7】従来のレーダ装置の信号処理部を具体的に示す機能ブロック図である。
【図8】従来の信号処理部内のサイドローブ妨害抑圧手段を具体的に示す機能ブロック図である。
【図9】従来の信号処理部のサイドローブ妨害抑圧手段内の重み付け手段を具体的に示す機能ブロック図である。
【符号の説明】
【0047】
1 制御器、2 周波数発振器、3 送信機、4 移相器、5 送受信切換器、6 アレーアンテナ、7 受信機、8 位相検波器、10A 信号処理部、11 モノパルス測角手段、12 送信ビーム指向方向計算手段、40、40B サイドローブ妨害抑圧手段、41 メインローブ妨害除去手段、42 妨害波相関行列推定手段、43、43B サイドローブ妨害抑圧ウェイト推定手段、44、44B メインローブプロテクション手段、45 メインビーム相関行列計算手段、47 ブロッキングフィルタ、48、50、70 差分ビーム計算手段、49、51、71 和ビーム計算手段、54〜57 加算器、58〜65 重み付け手段、72〜75 ブロッキング行列。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号を送受信するアレーアンテナと、
所定周波数のビーム信号を前記アレーアンテナから送信する送信機と、
前記ビーム信号に基づく目標からの反射信号を受信信号として前記アレーアンテナから受信する受信機と、
前記受信信号に基づいて前記目標の到来方向を測角するモノパルス測角手段と、
前記受信信号に含まれるメインビームを妨害する妨害波または前記メインビームに干渉する干渉波を除去して、前記モノパルス測角手段による測角を可能にするための信号処理部と
を備えたレーダ装置において、
前記信号処理部は、
前記メインビームを保護するメインローブプロテクション手段と、
前記受信信号から前記妨害波または前記干渉波を除去するサイドローブ妨害抑圧手段とを備え、
前記サイドローブ妨害抑圧手段は、前記メインローブプロテクション手段と協働して、メインローブ成分の過剰抑圧を防ぐためのブロッキングフィルタを含むことを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
前記信号処理部は、メインビーム相関行列計算手段を備え、
前記メインビーム相関行列計算手段は、前記サイドローブ成分に対応したステアリングベクトルが存在する部分空間に対し、前記部分空間を張る複数の固有ベクトルに対応したメインビーム相関行列を生成し、
前記メインローブプロテクション手段は、前記メインビーム相関行列に基づいて前記複数の固有ベクトルを求めるとともに、前記複数の固有ベクトルをビームウェイトとするブロッキングフィルタ係数を計算し、前記ブロッキングフィルタ係数を前記ブロッキングフィルタに入力することを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記サイドローブ妨害抑圧手段は、
前記ブロッキングフィルタと協働する和ビーム計算手段および差分ビーム計算手段と、
前記和ビーム計算手段および前記差分ビーム計算手段で計算された和ビームおよび差分ビームに対して重み付け演算を行い、サイドローブ妨害波をキャンセルしたビームを出力する重み付け手段と
を含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記ブロッキングフィルタは、ブロッキング行列からなることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載のレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−162613(P2009−162613A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−513(P2008−513)
【出願日】平成20年1月7日(2008.1.7)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】