説明

ロウ付け補修材料およびその材料を使用したロウ付け補修方法

【課題】亀裂など欠陥を生じた部品に本来の基材並みの特性を回復させることが可能なロウ付け補修材料およびその補修材料を使用したロウ付け補修方法を提供する。
【解決手段】亀裂2や腐食などの欠陥を生じた基材1の被補修部にロウ付け補修材料3を充填して拡散熱処理を実施することによりロウ付け補修材料を上記被補修部に一体に接合して被補修部を補修するロウ付け補修材料3において、このロウ付け補修材料は、上記基材1と類似した組成を有する非溶融合金粉末と、上記拡散熱処理の温度において溶融する溶融合金粉末との混合物から成り、この溶融合金粉末は質量%で0.001〜0.05%のCと,2〜5%のSiと,10〜25%のCrと,15〜25%のCoと,1〜5%のBと,残部Niとから成りAlを含まないロウ付け補修合金であることを特徴とするロウ付け補修材料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はロウ付け補修材料およびその材料を使用したロウ付け補修方法に係り、特に運転時の起動停止に伴う熱疲労による損傷、クリープ損傷、疲労損傷、高温下に曝されることによる熱劣化、酸化、腐食、エロージョン、または飛来異物との衝突による損傷等を受けたガスタービン静翼などの高温部品を効果的に補修・再生することが可能なロウ付け補修材料およびその材料を使用したロウ付け補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービン発電プラントでは、ガスタービンと同軸に設けられた圧縮機の駆動により圧縮された空気を燃焼器に案内して燃料を混合させることにより燃焼を行わせ、発生する高温燃焼ガスをトランジションピースおよび静翼を経てガスタービンの動翼に案内し、この動翼を回転駆動させてガスタービンで仕事をさせ、発電機にて発電を行うように構成されている。
【0003】
上記のような高温部品であるタービン静翼あるいは燃焼器ライナ、トランジションピース等に亀裂や摩耗等が生じた場合には、補修溶接や拡散ロウ付け補修を施工して継続して使用している。これらの補修の際には、必要に応じて溶接時の熱影響および残留応力除去のための熱処理が施工される。
【0004】
従来からの拡散ロウ付け補修技術としては、米国特許第5320690号「Co基ろう材組成を使用したCo基超合金の補修方法」あるいは、特開平4−254544号公報「改良型高温ロウ付け合金およびその使用方法」等が提案されている。
【0005】
また、熱間静水圧プレス(HIP)処理を用いた機械的性質の改良法としては特開昭57−207163号公報の「合金部品の機械的性質の改良法」あるいは特開平11−210138号公報の「ガスタービン部品の劣化・損傷回復処理方法および本処理を施したガスタービン部品」が提案されている。前者は運転により生じたクリープボイドを消滅させることを意図したものであり、後者は、同じく運転により劣化した組織を回復させることを指向している。
【0006】
また、静翼の再生処理技術の一環として、補修時の欠陥消滅法に関しては特開昭57−62884号公報「溶接処理方法」が知られている。この特許文献に記載された方法は、ホイールとそれに植え込む動翼との突合せ部の溶接処理時に生じる溶接欠陥をHIP処理により消滅させることを目的としている。
【特許文献1】米国特許第5320690号明細書
【特許文献2】特開平4−254544号公報
【特許文献3】特開昭57−207163号公報
【特許文献4】特開平11−210138号公報
【特許文献5】特開昭57−62884号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のようなガスタービンの高温部品、特にタービンの入り口に配置される初段静翼は、最も高温の燃焼ガスに晒され、起動停止時の熱疲労に主として起因する亀裂が不可避的に多数発生することから、耐熱性および補修性に優れたCo基合金が長年用いられてきた。これらの亀裂や酸化エロージョン、摩耗等が生じた場合には、TIGによる溶接補修を施し、継続して使用しているが、高温化が図られるに伴って補修量は増し、これらの補修の際に受ける溶接時の熱影響及び残留応力により変形が生じておリ、その変形量はその後の変形修正では修正が困難な状態までに至っている。
【0008】
これに対して、拡散ロウ付けによる補修方法は、基材組成と類似する材料にSi,B等の融点降下材を添加したロウ材(溶融合金粉末)と基材相当強度を有する組成材(非溶融合金粉末)とを所定の配合比で混合し、基材の融点以下の熱処理温度で亀裂部の充填あるいは減肉部の肉盛を行う方法である。なお従来から被補修部の耐酸化性を向上させるために、この補修材、特に非溶融合金粉末にはAlが添加される場合が多いが、被補修部の基材との界面に基材中に含有する酸素と反応し形成されるアルミナ(Al)が、蜘蛛の巣状の膜を形成することにより接着強度の大幅な低下を招く課題があった。また、このようなアルミニウムの酸化物は、簡易的な還元法であるHガスによる還元が困難であり、この酸化物低減法は簡単には適用できないという問題もあった。
【0009】
本発明は上記のような事情に鑑みてなされたものであり、実機運用により材料劣化・損傷等が生じたガスタービン静翼等の高温部品を対象として、その部品表面に生じた非開口クラックを完全にはつり除去することなく真空中で拡散ロウ付け補修を行うことにより損傷を修復すると共に、高温不活性雰囲気下で加圧処理を行うことにより本来の基材並みの特性を回復し得るロウ付け補修材料およびその補修材料を使用したロウ付け補修方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために本発明者らは以下のような知見を得て本発明を完成した。すなわち、ガスタービン静翼等の高温部品の寿命を支配しているのは溶接補修による変形であり、この補修による変形を防止する処理方法として真空ロウ付け処理とHIPなどの加圧緻密化処理とを用いた補修技術を開発した。
【0011】
この補修技術では、運転により含有量が増加する基材中のガス、特に酸素によりロウ付け時の熱処理により補修材との界面にアルミナ(Al)の酸化層が形成されて補修材料の接合強度の低下が生じることを防止するために、また、繰り返し補修が可能となるように水素クリーニング可能な補修材料として、Al無添加(Alフリー)の材料を使用する。
【0012】
また、被補修部の疲労強度改善のために熱間静水圧プレス(HIP)等による高密度化処理を行うことが有効であり、この処理効果が十分に発揮されるように、ロウ付け時において補修材にペーストを混合せずに、被補修部の周囲に堰を設けて流れ防止措置を取った上で堰内に補修材を粉体のまま充填してロウ付け処理を行うことにより、補修材の流出が無く補修部の高密度化が実現できる。
【0013】
さらに、ロウ付け補修材料を構成するCo基合金などの非溶融合金粉末とCo基あるいはNi基合金などの溶融合金粉末との配合比について、非溶融合金粉末の重量比を溶融合金粉末の0.8倍以上とする一方、上記非溶融合金粉末の粒径を上記溶融合金粉末の2倍以上とすることにより、上記ロウ付け補修材料の被補修部への充填度を高めることができる。
【0014】
また、ロウ付け補修材料の充填方法として、温度が800℃以下である搬送ガスによって補修材料を高速で被補修部に吹き付けるコールドスプレー法を採用することにより、補修材を亀裂内部をも含めて被補修部に吹き付け充填して固定することが可能であり、被補修部の施工面の熱処理時の傾斜状態(設置角度)の違いに起因して被補修部の仕上がり精度が大きくばらつく問題を解消することができる。
【0015】
本発明は上記のような技術的知見に基づいて完成されたものである。すなわち、本発明に係るロウ付け補修材料は、亀裂や腐食などの欠陥を生じた基材の被補修部にロウ付け補修材料を充填して拡散熱処理を実施することによりロウ付け補修材料を上記被補修部に一体に接合して被補修部を補修する際に使用するロウ付け補修材料において、このロウ付け補修材料は、上記基材と類似した組成を有する非溶融合金粉末と、上記拡散熱処理の温度において溶融する溶融合金粉末との混合物から成り、この溶融合金粉末は質量%で0.001〜0.03%のCと,2〜5%のSiと,10〜25%のCrと,15〜25%のCoと,1〜5%のBと,残部Niとから成りAlを含まないロウ付け補修合金であることを特徴とする。
【0016】
また、上記ロウ付け補修材料において、前記溶融合金粉末が質量%で0.01〜0.03%のCと,2.5〜4.5%のSiと,12〜20%のCrと,17〜23%のCoと,2〜4%のBと,残部Niとから成り、上記成分の構成比[Si+1.5×(C+B)]が6以上9以下であることが好ましい。
【0017】
さらに、上記ロウ付け補修材料において、前記非溶融合金粉末は、質量%で10〜25%のNiと、15〜45%のCrと、6〜8%のTaと、0.1%以下のWと、0.05%以下のCと、残部Coとから成ることが好ましい。
【0018】
また、上記ロウ付け補修材料において、前記非溶融合金粉末は、質量%で0.001〜0.01%のCと,18〜25%のCrとを含有することが好ましい。
【0019】
さらに、上記ロウ付け補修材料において、前記非溶融合金粉末は、質量%で2〜5%のSiと,1〜5%のBとを含有することが好ましい。
【0020】
本発明に係るロウ付け補修方法は、ガスタービンを運転後、亀裂や腐食などの欠陥を生じたガスタービン部品の基材の検査、分解、表面の清浄化、溶体化熱処理、表面部および貫通亀裂の底部はつり、表面の酸化層除去処理、貫通き裂に対するTIG垂れ落ち防止処理の前処理を行う工程と、被補修部の周囲にロウ付け補修材料の流れ止め用囲いを形成する工程と、上記基材と類似した組成を有する非溶融合金粉末と拡散熱処理の温度において溶融する溶融合金粉末との混合物から成る請求項1〜5のいずれかに記載したロウ付け補修材料を上記囲いの中に充填する工程と、上記ガスタービン部品の基材の融点以下であり上記溶融合金粉末の融点以上の温度で拡散熱処理を加圧下で複数回繰り返して行うことにより上記ロウ付け補修材料を被補修部に一体に接合するロウ付け補修工程と、このロウ付け補修箇所の検査、部分的な不良箇所の追加補修、冷却孔の修復処理を含む仕上げ処理を行う工程と、仕上げ処理を行った被補修部について溶体化処理および時効熱処理を実施する工程と、補修したガスタービン部品の再組立を行なう工程とから成ることを特徴とする。
【0021】
また上記ロウ付け補修方法において、前記ロウ付け補修材料の非溶融合金粉末の重量比を溶融合金粉末の0.8倍以上とする一方、上記非溶融合金粉末の粒径を上記溶融合金粉末の2倍以上とすることにより、上記ロウ付け補修材料の被補修部への充填度を高めると共に上記溶融合金粉末の非溶融粉末中および亀裂先端部への流動性を高めることを特徴とする。
【0022】
さらに上記ロウ付け補修方法において、前記ロウ付け補修材料の非溶融合金粉末の重量比が溶融合金粉末の1〜1.5倍とすることが好ましい。
【0023】
さらに上記ロウ付け補修方法において、前記ロウ付け補修は熱間静水圧プレス(HIP)法により実施し、加熱温度は1000℃以上1300℃以下とする一方、加圧力は1000気圧以上2000気圧以下とし、上記ロウ付け補修後に溶体化処理および時効処理を実施することが好ましい。
【0024】
また、上記ロウ付け補修方法において、前記熱間静水圧プレス(HIP)法における加熱温度を1100℃以上1260℃以下とすることが好ましい。
【0025】
さらに上記ロウ付け補修方法において、前記被補修部には亀裂が形成されており、この亀裂に充填されたロウ付け補修材料の組成が、亀裂の表面側から先端側に向かうにしたがって前記溶融合金粉末の組成に近づくことが好ましい。
【0026】
また、上記ロウ付け補修方法において、前記被補修部へのロウ付け補修材料の充填方法として、合金粉末が溶融および酸化されない温度である800℃以下の高速搬送ガス流を用いてロウ付け補修材料を搬送せしめ、ロウ付け補修材料の粒子速度が300m/秒以上となるように設定し、ロウ付け補修材料を被補修部に付着あるいは亀裂内に充填させることが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
上記構成に係るロウ付け補修材料およびそれを使用したロウ付け補修方法によれば、部品基材と類似した組成を有する非溶融合金粉末と所定組成の溶融合金粉末から成る補修材料を使用しているために、割れや腐食等の欠陥部を生じた高温部品の補修再生が容易であり、高温部品を構成材として使用するガスタービン等の運転経済性および保守管理性を大幅に改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明に係るロウ付け補修材料およびそれを使用したロウ付け補修方法の実施形態について説明する。
【0029】
本発明を適用する被補修部品を構成する材料は、主として高強度耐熱材料であるCo基合金材料である。その代表的な材料がFSX414材であり、下記表1に示す組成を有する。本発明で規定するロウ付け補修材料を構成する非溶融合金は、上記部品の基材と類似する組成を有する。
【表1】

【0030】
本発明で規定するロウ付け補修材料を構成する溶融合金は、上記部品基材と類似組成である非溶融合金との合金化後においても組織的に安定であり、且つ、諸性質が同等であることが必要である。この溶融合金は、ロウ付け補修後の組織安定化を図るため、オーステナイト安定化元素であるNiをベース成分とすると共に、耐酸化性向上を意図して質量%で10%以上のクロム(Cr)を含有する。Cr含有量はオーステナイト組織が安定な範囲とするために25%以下に規定される。望ましくは12%以上20%以下とする。
【0031】
また、コバルト(Co)は基材および非溶融合金粉末との融合部においても組織の安定化が図れる成分として15%以上25%以下の範囲で添加される。ホウ素(B)は溶融合金の融点降下と溶融合金粉末の拡散熱処理時の濡れ性および流動性を改善する成分であり、1%以上の割合で含有される。なお、硼化物相の形成を回避するために添加量の上限は5%以下とされる。Bの好ましい含有量は2%以上4%以下の範囲である。
【0032】
さらに、炭素(C)とけい素(Si)も同様に溶融合金の融点降下の効果を得るために添加される成分元素である。CとSiの添加量は各々の元素による融点降下量を鑑みて、基材の融点に対して−50から−100℃程度低い融点を得ることを目標にして、その融点が拡散熱処理温度になるように設定される。具体的なCの含有量範囲は0.001〜0.05%,Siは2〜5%とし、加えて、好ましくはSi+1.5×(C+B)の計算値が6以上、9以下となるように設定される。
【0033】
一方、本発明で規定するロウ付け補修材料を構成する非溶融粉末の組成は、基材であるFSX414材と類似材とし、基材との融合性および補修後の特性上の相違に起因する問題の発生を防止している。具体的な非溶融粉末の組成としては、Crを15%以上添加することにより良好な耐酸化性を確保する一方、その含有量が45%を超える場合にはσ相の析出等を生じ金属組織的に不安定となるために、Crの含有量の上限は45%以下に規定される。Crの含有量は望ましくは18以上25%以下の範囲とされる。
【0034】
また、Niは低温領域におけるオーステナイト組織の安定化を図るために有効な元素であり、10%以上の割合で添加されるが、25%を超える過量の添加は却って高温領域での強度低下をもたらすことから添加量は25%以下とされる。Wは耐熱性基材では、通常7%前後添加されているが、本発明では上記Wに替えてTaを同等量(6〜8%)添加することによりσ相の形成等による組織的な不安定化を防止する一方、非溶融粉末の融点の調整を行うと共に、炭化物による析出強化を図っている。
【0035】
なお、溶融合金粉末に関しては、上記非溶融合金粉末に、さらに2〜5%のSiおよび1〜5%のBを添加して融点を低下させた合金粉末を溶融合金として用いることも可能である。
【0036】
また、基材としてはFSX414材のみでなく、他のCo基合金あるいはCrを15%〜30%含有するNi基合金にも本発明の適用は可能である。
【0037】
(実施例1)
下記表2に示す組成を有する実施例および比較例用の溶融合金粉末を調製した。これらの各溶融合金粉末について、日本工業規格(JIS Z3191)に規定されるろう材の濡れ試験方法の中の間隙濡れ試験法に基づいてろう材としての濡れ性および組織の安定性の評価を行った。すなわち、上記規格に基づき、外径が19mmであり内径が14mmである外管Aに、外径が13.5mmであり内径が8.5mmである内管Bを挿入し、外管Aの下部に10gの各溶融合金粉末を置き、真空中で温度1200℃にて30分保持し、毛細管現象により内外管間の間隙を上昇したロウ材の上昇高さを計測し、間隙の狭い部位と広い部位との差と上昇高さの大小により各溶融合金粉末のロウ付け性能の評価を行った。結果を合わせて表2中に記す。
【0038】
なお、組織安定性の評価は、間隙濡れ試験後の組織観察により脆い粗大なホウ化物相の形成の有無により評価を行った。各評価結果を下記表2に示す。
【表2】

【0039】
上記表2に示す結果から明らかなように、本発明の各実施例用の溶融合金粉末の中でも、Si+1.5(C+B)で規定される成分比率が下限値である6に近いものは、間隙を上昇するろう材の上昇高さが低くなる、また、上記成分比率が9近くに達すると、内管と外管との間隙の狭い部位では上昇量は大きくなるが、広い部位では逆に低くなり、その差は大きくなる傾向を示した。ここでは、両値が基準値を満たしているものを◎、いずれかが基準値近くのものを○、いずれかが満たしていないものを△、両値とも満たしていないものを×として試験結果を評価した。
【0040】
各実施例用の溶融合金粉末では、いずれも良好な濡れ性を示しており、溶融合金粉末としての優れたロウ付け性能を有することが確認できた。また、組織中に粗大で脆いホウ化物相の形成量が少なく、組織の安定性にも優れていることが判明した。
【0041】
(実施例2)
下記表3(a)に示す組成を有する実施例および比較例用の非溶融合金粉末を調製した。また、表3(b)に示す組成を有する実施例および比較例用の溶融合金粉末を調製した。上記各溶融合金粉末と非溶融合金粉末との重量比が5:7となるように両者を混合し、各ロウ付け補修材料を調製した。
【0042】
一方、FSX414材から成る基材に幅6mmの溝加工を行い試験評価用の被補修部を形成し、この被補修部としての溝に上記各ロウ付け補修材料(混合粉末)を充填した。その後、温度1200℃で20分間に亘り、拡散熱処理を実施した後に急冷し、FSX414基材の熱処理として温度1150℃で4hの溶体化熱処理と、温度982℃で4hの時効熱処理を施し、被補修部の特性を評価した。
【0043】
なお、表3(b)中に示す比較非溶融合金粉末8用の溶融合金粉末としては、本発明で規定する溶融合金粉末にAlを溶融合金粉末と同量添加した合金粉末を用いた。上記のように各ロウ付け補修材料を充填した被補修部に拡散熱処理を実施した後に溶体化時効熱処理を施した被補修部の耐酸化性、クリープ強度、低サイクル疲労寿命を測定した。ここで被補修部の耐酸化性は、温度1000℃で1000時間加熱した場合における酸化増量(g)で示す一方、クリープ強度は温度816℃で103.4MPaの引張応力を掛けた状態でのクリープ破断時間(h)で表記した。また低サイクル疲労寿命は温度816℃で0.4%の全歪みを生じるまでの運転の繰返し可能回数(回)で表記している。
【0044】
上記の測定結果を下記表3(a)および図1〜3に示す。なお、表3(a)においては、各比較合金粉末を使用した結果と共に、基材そのままの場合についての結果を併記している。また、従来のTIG溶接補修を行った場合についての結果も下記表3(a)および図3に併記した。
【表3】

【0045】
上記表3(a)および図1〜3に示す結果から明らかなように、比較合金粉末7のようにCr含有量が15%未満の場合では耐酸化性が悪化することが判明した。また比較合金粉末8のように、Alを3%添加した合金を使用した場合は、酸化増量が少なく耐酸化性は優れるが、補修部界面において酸化物の形成が認められ、結果的にクリープ強度の若干の低下と低サイクル疲労強度の大幅な低下が発生した。また、Ni、Cr、Cの過度の添加は組織の不安定を招き易いことが確認できた。特に比較合金粉末6のように、Cr含有量が45%を超えるとσ相等の脆化相の析出を生じクリープ強度および低サイクル疲労強度が低下することが確認できた。
【0046】
(実施例3)
基材と類似した組成を有する実施例2で示した合金粉末に実施例1と同様に融点降下元素としてC,B、Siを同様に添加することにより表4に示す組成を有する各種溶融合金粉末を調製し、ろう材としての濡れ性(接合性)を評価した。本実施例においても実施例1と同様にJIS Z3191に規定するろう材の濡れ試験方法に基づく間隙濡れ試験を実施するとさらにろう材の広がり試験を追加して実施し、ろう材としての濡れ性および流動性の評価を行った。ここで上記ろう材の広がり試験は、0.1gのろう材をロウ付け温度で30秒保持した後急冷し、その広がり面積の大小で濡れ性を比較評価する試験方法である。本実施例に係る合金粉末材料は当初その濡れ性および流動性が懸念されたことから、このろう材広がり試験による評価も追加して実施した。測定評価結果を下記表4に示す。
【表4】

【0047】
上記表4に示す結果から明らかなように、実施例1と同様に融点降下元素としてC,B、Siを所定量の範囲内で添加することにより、当初懸念された流動性および濡れ性の問題もなく溶融合金として用いることが可能であることが確認できた。
【0048】
次に上記Co基合金から成る溶融合金粉末と、基材と類似した組成を有するCo基合金から成る非溶融合金粉末4との混合物から成るロウ付け補修材料を調製して実施例2で実施した同様な補修試験を実施した。下記表5に用いた本発明の溶融合金粉末8と非溶融合金粉末4の組成を示す。(表4に示す本発明溶融合金粉末5が、表5に示す本発明溶融合金粉末8に相当する。)
すなわち、溶融合金粉末8と非溶融合金粉末4との重量比が5:7となるように両者を混合し、各ロウ付け補修材料を調製した。そして、FSX414材から成る基材に幅6mmの溝加工を行い試験評価用の被補修部を形成し、この被補修部としての溝に上記各ロウ付け補修材料(混合粉末)を充填した後に、実施例2と同一条件で拡散熱処理を実施し、被補修部の特性を評価した。評価結果を表5中に併せて示す。
【表5】

【0049】
上記表5に示す結果から明らかなように、Co基合金から成る溶融合金粉末および非溶融合金粉末4との混合物から成るロウ付け補修材料を使用した場合においても、Ni基合金から成る溶融合金粉末を使用した場合と同等以上の特性が得られることが確認できた。
【0050】
(実施例4)
次に本発明に係るロウ付け補修材料を使用したロウ付け補修方法のプロセスの流れを説明すると共に、処理温度、複数回の拡散熱処理、平坦部におけるペーストを使わずに補修材料を混合する操作等を説明する。
【0051】
本発明のロウ付け補修方法の処理工程は、図4にも示すように以下の工程から成る。
【0052】
(1)受け入れ確認→(2)インピンジメントプレート・コアプラグ分解→(3)ブラストによる表面酸化層・付着物除去→(4)超音波探傷試験やX線探傷試験などの非破壊検査→(5)被補修部の表面はつり→(6)水素クリーニング→(7)貫通亀裂部の封止溶接等の補修材料の垂れ落ち防止処理→(8)補修材料の流れ止め措置および溶融粉末と非溶融粉末との混合、被補修部への補修材料の充填→(9)拡散熱処理→各被補修部(処理面)において(8)、(9)工程を繰り返す→(10)非破壊検査および補修不良部のタッチアップ補修→(11)HIP処理→(12)非破壊検査および補修不良部のタッチアップ補修→(13)仕上げ処理→(14)冷却孔加工→(15)溶体化熱処理→(16)時効熱処理→(17)コアプラグ組み立て→(18)出荷前検査
上記ロウ付け補修工程において、後工程で補修部の緻密化のために行なうHIP処理の効果を十分に発揮させるために、ロウ付け補修材料は溶融合金粉末と非溶融合金粉末とを混合するのみでペースト材を用いない機械的な混合粉末を用いることが好ましい。この場合、ロウ付け補修材料は見掛けの粘性が小さく流れ易い。そのため、ロウ付け補修材料の移動を防止するために、被補修部の処理面の水平面からの傾斜角度が30度以内になるように設定してロウ付け補修材料の充填処理および拡散熱処理を行うことが好ましい。
【0053】
なお、上記補修材料の流れ止め防止措置としては、ロウ付け補修材料(混合粉末)にペースト剤を混合させて粘性を高めた混合粉末を使用すること、または被補修部の周囲を耐熱テープで囲うことなどが採用できる。
【0054】
このように、ロウ付け補修材料の流れや移動を防止するために、被補修部の処理面は水平に近い状態に保つことが有効である。1個の高温部品について多数の損傷部位が発生した場合には、上記(8)の工程(補修材料の流れ止め措置および溶融粉末と非溶融粉末との混合、被補修部への補修材料の充填)および(9)の工程(拡散熱処理)を処理面の数だけ繰り返す必要がある。ガスタービン実機の高温部品としての初段ノズルに生じた損傷を補修する場合には図4に示す処理工程によりロウ付け補修処理が実行される。
【0055】
ここで上記ロウ付け補修処理における拡散熱処理温度の設定経緯について説明する。すなわち、表6に示すような組成を有する各種の溶融合金粉末および非溶融合金粉末の融点を示差熱分析法によって計測した。
【0056】
すなわち、炉内に試料(合金粉末)と基準試料とを対称的に配置して、一定速度で昇温しながら、試料と基準試料の温度差を測定して、時間に対してプロットして記録する装置である示差熱分析計を用意した。この示差熱分析計を用いて計測した示差熱分析曲線(DTA曲線)を用いて各溶融合金および非溶融合金の融点を測定した。そして、基材であるFSX414材の融点と共に下記表6に示す。なお、基材であるFSX414材に関しては、DTA曲線から求めた融点と共に、試料を所定の温度に加熱し、急冷した後の組織観察から局所的な溶融が生じる温度も求めた。この局部溶融温度は1261℃であった。これらのデータから、溶融合金粉末の融点より高い温度であり、かつ基材の局部溶融温度より低い温度として1200℃を拡散熱処理温度として用いた。
【表6】

【0057】
(実施例5)
次に、高温ロウ付け補修技術において重要な溶融合金粉末と非溶融合金粉末との混合比率や粒径比が被補修部の特性に及ぼす影響について以下の実施例に基づいて説明する。
【0058】
まず溶融合金粉末と非溶融合金粉末の混合比率に関しては、溶融合金粉末の比率が大きくなると補修材料の形状の保全性が悪化する一方、非溶融合金粉末の比率が大きくなると補修材料の流動性が悪化する結果、亀裂先端まで補修材料が流れにくくなり充填性が低下すると共に、補修部の気孔率(ロウ付け欠陥)が大きくなる傾向にある。
【0059】
具体的に溶融合金粉末と非溶融合金粉末との混合比を表7に示すように変えて各種ロウ付け補修材料を調製し、被補修部(処理面)の傾斜角を変えた状態で補修材料の形状の保全性を確認した。また処理面を水平にした状態(傾斜角0度)で拡散熱処理を実施し補修部の断面組織の観察を行い、気孔等の欠陥の発生状況を調査した。調査結果を下記表7に示す。
【表7】

【0060】
上記表7に示す結果から明らかなように、非溶融合金粉末と溶融合金粉末の混合比率が40/60である場合においても、補修材料の保全性はある程度は得られるが、混合比率は40/60超が好ましく、さらには50/50から60/40の範囲が気孔率も小さく最適であることが確認できる。
【0061】
一方、ロウ付け補修材料を構成する非溶融合金粉末の粒径と溶融合金粉末の粒径との比も補修部の健全性への影響度は大きい。非溶融合金粉末の粒径を約45ミクロンに設定する一方、表8に示すように溶融合金粉末の粒径を非溶融合金粉末の粒径の1/2から3倍まで変化させて、4種類のロウ付け補修材料を調製した。これらの各ロウ付け補修材料を使用して実施例2と同一条件でロウ付け補修を実施した。なお、被補修部は水平状態(傾斜角0度)に保持して補修を行った。そして、各補修部の組織を観察して気孔率の大小を比較することにより最適粒径比の検討を行った。検討結果を下記表8に示す。
【表8】

【0062】
上記表8に示す結果から明らかなように、非溶融合金粉末の粒径と溶融合金粉末の粒径との比が1〜3である場合において、気孔率が小さく緻密な組織が得られており、特に粒径比が2のときに最適な緻密組織が得られた。
【0063】
(実施例6)
次に所定量のバインダーを添加したロウ付け補修材料を用いて高温ロウ付け補修を実施した場合の補修部の組織に対する影響を実施例6として調査した。軽微の損傷がある高温部品で処理面の水平面に対する傾斜角度が大きい部位の補修を行う場合には、ロウ付け補修材料の流れ止めを形成しても、十分な量の補修材を被補修部に保持することが困難になる場合がある。その場合には、補修部位の品質が保持できる範囲内でバインダーを混ぜた補修材を用いる必要がある。
【0064】
本実施例ではロウ付け補修材料(混合粉末)に対するバインダーの混合比(重量比)を表9に示すように2〜20%と変化させて粘性(流動性)が異なる各補修材料を調製した。さらに各ロウ付け補修材料を使用して実施例2と同一条件でロウ付け補修を実施した。そして、各補修部の組織を観察して気孔率の大小を比較することにより、バインダーの混合比が拡散熱処理後の組織に及ぼす影響を調べた。調査結果を下記表9に示す。
【表9】

【0065】
上記表9に示す結果から明らかなように、ロウ付け補修材料に対するバインダーの混合比を重量比で5〜12%程度の範囲にした場合においては、気孔率も小さくロウ付け欠陥は軽微であることが確認できた。
【0066】
(実施例7)
次に熱間静水圧プレス(HIP)処理条件についての検討を行った。本実施例7では、前記本発明溶融合金粉末1と本発明非溶融合金粉末1とを5:7の重量比率で混合してロウ付け補修材料を調製し、この補修材料を使用して実施例2と同一条件でロウ付け補修を実施した。上記補修部を含む各試験片を表10に示す条件でHIP処理した。具体的には、圧力は1000atmとし加熱温度を1000℃から1350℃の範囲で変化させてHIP処理を実施した。各試験片について補修部の組織観察を行うと共に、補修材料の亀裂への充填状況を調査した。また、補修部の引張試験を実施し補修部の引張強さおよび引張伸びを測定した。各測定評価結果を下記表10に示す。
【表10】

【0067】
上記表10に示す結果から明らかなように、1260℃より高い温度でHIP処理した場合には、基材の組織崩壊が生じており、1300℃以上の処理では補修部が一部溶解して流出したことも確認できた。一方、1000℃の処理では溶融・非溶融合金粉末の拡散熱処理後の組織からほとんど変化は認められず、1100℃から組織の均質化が実現した。
【0068】
なお、実施例2および実施例3で使用したロウ付け補修材料を使用してロウ付け補修した後に本発明のHIP処理条件3(圧力:1000atm、温度:1200℃)でHIP処理した試験片および実施例3で使用した本発明溶融合金粉末8と非溶融合金粉末4とを5:7で混合して調製したロウ付け補修材料を使用してロウ付け補修した後に上記本発明のHIP処理条件3でHIP処理した試験片について、低サイクル疲労寿命を測定した。上記低サイクル疲労寿命は、実施例2と同様に、温度816℃で0.4%の全歪みを生じるまでの運転の繰返し可能回数(回)で表記している。これらの測定結果を、実施例2における結果に追記して図5に示す。
【0069】
図5に示す結果から明らかなように、ロウ付け補修後に所定条件でHIP処理を実施した場合には、いずれの合金を使用した場合においても補修部の緻密化が進行するために、基材と同等以上の低サイクル疲労寿命特性を確保できた。
【0070】
(実施例8)
次に、本発明のロウ付け補修方法において、溶融合金粉末と非溶融合金粉末との粒径比が被補修部の特性に及ぼす影響について以下の実施例8に基づいて説明する。本実施例8におけるロウ付け補修材料では、表11に示す組成を有する溶融合金粉末と非溶融合金粉末とから成り、この溶融合金粉末の粒径を非溶融合金粉末の粒径の約半分に設定することにより拡散熱処理時の溶融合金の流動性を改善している。
【0071】
こうして調製したロウ付け補修材料を使用して実施例2と同一条件で拡散ロウ付け補修を実施した。そして補修部の組織観察を行った結果、図6に示すような組織が得られた。すなわち図6は拡散ロウ付け法によって補修した補修部における非溶融合金と溶融合金の分布状態を示す模式的な断面図である。基材1に発生した亀裂2に溶融合金粉末(○)と非溶融合金粉末(●)とから成るロウ付け補修材料3を充填して拡散熱処理を実施すると、拡散熱処理時の溶融合金の流動性が改善されているために、基材の表面部P1から中位部P2,P3を経て亀裂2の先端部位P4まで補修材料が効果的に浸透しており、補修材料の亀裂2への充填性は極めて良好であることが確認された。
【0072】
また、図6に示す補修部において基材の表面部P1、亀裂2の中位部P2,P3および亀裂2の先端部P4での合金組成の分析結果を下記表11に示す。
【表11】

【0073】
上記表11および図6に示す結果から明らかなように、拡散熱処理時の溶融合金の流動性が改善されているために、基材の表面部P1から中位部P2,P3を経て亀裂2の先端部位P4まで補修材料が効果的に浸透しており、補修材料の亀裂2への充填性は極めて良好であることが確認された。
【0074】
その結果、表11の分析結果からも明らかなように、補修部の表層部P1から亀裂2の先端部P4に向かうに従って、合金組成は非溶融合金粉末組成から溶融合金粉末組成に近くなることが確認された。なお、Si,B成分量は、拡散熱処理によって本来の溶融合金組成よりも若干低めの値を示しているが、概ね亀裂の先端側に向かうに従って溶融合金粉末組成に近づく傾向が示された。
【0075】
(実施例9)
次に、本発明のロウ付け補修方法において、溶融合金粉末と非溶融合金粉末とから成るロウ付け補修材料を高速ガス流によって被補修部に充填するように構成した例を以下の実施例9に基づいて説明する。本実施例9においては、被補修部へのロウ付け補修材料の充填装置として図7に示すような非溶融コーティング装置を使用するものである。
【0076】
この非溶融コーティング装置は、ガスタ−ビン動翼のコーティング処理に使用される溶射装置に近似した構成を有し、ロウ付け補修材料3を供給する粉末供給装置4と、窒素、Heガス等の圧縮された気体(高圧ガス)を加熱するガス加熱装置5と、上記粉末供給装置4から供給されたロウ付け補修材料3を加熱された高圧ガスによって分散し高速のガスジェット6として噴射する超音速ノズル7とから構成される。
【0077】
亀裂等の欠陥を生じた基材1の被補修部にロウ付け補修材料3を充填する場合には、ロウ付け補修材料3を構成する合金粉末が溶融および酸化しない温度以下の高速ガス流により補修材料が分散され搬送される。そして、被補修部位に補修材料を衝突させ、その衝突のエネルギーにより混合粉末を非補修部に付着させると共に、亀裂の深部まで補修材料を押し込む。すなわち、圧縮空気あるいは窒素、Heガス等の圧縮された気体を、ガス加熱装置5を通してその流速を加速させて超音速ノズル7に供給し、別途供給されたロウ付け補修材料3の粉末と混合し、超音速ノズル7内での流路をさらに絞り込むことによりガス流速を更に加速させ超音速で被補修部に衝突させ被覆する。これらの充填操作によれば、欠陥を生じ易いバインダーを使用することなく、また煩雑な流れ止め措置を施すことなく、補修材料を効率的に付着させることが可能になった。特に上記の充填操作によりロウ付け補修材料を強固に基材表面および亀裂内部に付着させることが可能になるために、ガスタービン静翼の全面に亘って亀裂等の損傷が発生しているような場合であっても、拡散熱処理の回数は、翼面腹側を上向きにした場合と下側にした場合との2回で処理することが可能となり、補修作業効率が大幅に向上する。
【0078】
図8は上記非溶融コーティング装置を使用してロウ付け補修材料を高速度で基材表面に衝突付着させる場合の粒子速度とその粒子の付着効率との関係を示すグラフである。図8に示す結果から明らかなように、ロウ付け補修材料の粒子速度が300m/秒以上の範囲において付着効率が高くなるため、粒子速度が300m/秒以上である搬送ガスを用いスプレイし、基材表面あるいは亀裂内部に補修材料粒子を充填させることが極めて有効である。なお、ここで付着効率とは高速ガス流によって搬送された補修材料の量に対する実際に基材表面および亀裂内部に付着した補修材料の量の比率と定義する。
【0079】
図9は、前記非溶融コーティング装置における圧縮ガスのノズル出口温度と粒子速度との関係を示すグラフである。圧縮ガスのノズル出口温度の上昇に比例して粒子速度は増加する傾向が明白である。粒子速度を300m/秒以上とするためには、搬送ガスとしての圧縮ガスのノズル出口温度を200℃以上にすれば十分である。しかしながら、この圧縮ガス温度が800℃を超えるように高くなると補修材料を構成する合金粉末の溶融や酸化による劣化が進行し易くなるために上限温度は800℃とすることが望ましい。
【0080】
図10は、前記非溶融コーティング装置を使用してロウ付け補修材料粉末を高速度で基材表面に衝突付着させた場合のロウ付け補修材料粉末の溶射効率と粉末粒径との関係を示すグラフである。特に粉末粒径が10μmから150μmの範囲において、溶射効率が高くなることが明白であるため、ロウ付け補修材料を構成する溶融合金粉末および非溶融合金粉末の粒径は上記範囲内で選定することが好ましい。
【0081】
なお、ここで溶射効率とは高速ガス流によって搬送された補修材料の量に対する実際に基材表面および亀裂内部に溶射された補修材料の量の比率と定義する。
【0082】
上記各実施例に係るロウ付け補修材料およびそれを使用したロウ付け補修方法によれば、部品基材と類似した組成を有する非溶融合金粉末と所定組成の溶融合金粉末から成る補修材料を使用しているために、割れや腐食等の欠陥部を生じた高温部品の補修再生が容易であり、高温部品を構成材として使用するガスタービン等の運転経済性および保守管理性を大幅に改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明に係るロウ付け補修材料および他の補修材料を用いて補修した補修部の酸化試験結果を示すグラフ。
【図2】本発明に係るロウ付け補修材料および他の補修材料を用いて補修した補修部のクリープ強度を比較して示すグラフ。
【図3】本発明に係るロウ付け補修材料および他の補修材料を用いて補修した補修部の低サイクル疲労強度を比較して示すグラフ。
【図4】本発明に係るロウ付け補修材料を用いた補修技術の施工プロセス例を示すブロック図。
【図5】補修部にHIP処理を施した場合および施さない場合の低サイクル疲労強度の改善効果を比較して示すグラフ。
【図6】拡散ロウ付け補修方法によって補修した補修部における非溶融合金と溶融合金との分布状態を示す模式的な断面図。
【図7】非溶融コーティング装置の構成例を示す概念図。
【図8】非溶融コーティングを使用してロウ付け補修材料を高速度で基材表面に衝突付着させた場合の粒子速度とその粒子の付着効率との関係を示すグラフ。
【図9】非溶融コーティング装置のノズル出口温度と粒子速度との関係を示すグラフ。
【図10】非溶融コーティング装置を使用してロウ付け補修材料を高速度で基材表面に衝突付着させた場合のロウ付け補修材料粉末の溶射効率と粉末粒径との関係を示すグラフ。
【符号の説明】
【0084】
1 基材
2 亀裂
3 ロウ付け補修材料
P1 亀裂の表層部
P2、P3 亀裂の中位部
P4 亀裂の先端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亀裂や腐食などの欠陥を生じた基材の被補修部にロウ付け補修材料を充填して拡散熱処理を実施することによりロウ付け補修材料を上記被補修部に一体に接合して被補修部を補修する際に使用するロウ付け補修材料において、このロウ付け補修材料は、上記基材と類似した組成を有する非溶融合金粉末と、上記拡散熱処理の温度において溶融する溶融合金粉末との混合物から成り、この溶融合金粉末は質量%で0.001〜0.05%のCと,2〜5%のSiと,10〜25%のCrと,15〜25%のCoと,1〜5%のBと,残部Niとから成りAlを含まないロウ付け補修合金であることを特徴とするロウ付け補修材料。
【請求項2】
請求項1記載のロウ付け補修材料において、前記溶融合金粉末が質量%で0.01〜0.03%のCと,2.5〜4.5%のSiと,12〜20%のCrと,17〜23%のCoと,2〜4%のBと,残部Niとから成り、上記成分の構成比[Si+1.5×(C+B)]が6以上9以下であることを特徴とする請求項1記載のロウ付け補修材料。
【請求項3】
請求項1記載のロウ付け補修材料において、前記非溶融合金粉末は、質量%で10〜25%のNiと、15〜45%のCrと、6〜8%のTaと、0.1%以下のWと、0.05%以下のCと、残部Coとから成ることを特徴とするロウ付け補修材料。
【請求項4】
請求項3記載のロウ付け補修材料において、前記非溶融合金粉末は、質量%で0.001〜0.01%のCと,18〜25%のCrとを含有することを特徴とするロウ付け補修材料。
【請求項5】
請求項1記載のロウ付け補修材料において、前記非溶融合金粉末は、質量%で2〜5%のSiと,1〜5%のBとを含有することを特徴とするロウ付け補修材料。
【請求項6】
ガスタービンを運転後、亀裂や腐食などの欠陥を生じたガスタービン部品の基材の検査、分解、表面の清浄化、溶体化熱処理、表面部および貫通亀裂の底部はつり、表面の酸化層除去処理、貫通亀裂に対するTIG垂れ落ち防止処理の前処理を行う工程と、
被補修部の周囲にロウ付け補修材料の流れ止め用囲いを形成する工程と、
上記基材と類似した組成を有する非溶融合金粉末と拡散熱処理の温度において溶融する溶融合金粉末との混合物から成る請求項1〜5のいずれかに記載したロウ付け補修材料を上記囲いの中に充填する工程と、
上記ガスタービン部品の基材の融点以下であり上記溶融合金粉末の融点以上の温度で拡散熱処理を複数回繰り返して行うことにより上記ロウ付け補修材料を被補修部に一体に接合すると共に加圧下で熱処理することにより緻密化を図るロウ付け補修工程と、
このロウ付け補修箇所の検査、部分的な不良箇所の追加補修、冷却孔の修復処理を含む仕上げ処理を行う工程と、
仕上げ処理を行った被補修部について溶体化処理および時効熱処理を実施する工程と、
補修したガスタービン部品の再組立を行なう工程とから成ることを特徴とするロウ付け補修方法。
【請求項7】
請求項6記載のロウ付け補修方法において、前記ロウ付け補修材料の非溶融合金粉末の重量比を溶融合金粉末の0.8倍以上とする一方、上記非溶融合金粉末の粒径を上記溶融合金粉末の2倍以上とすることにより、上記ロウ付け補修材料の被補修部への充填度を高めると共に上記溶融合金粉末の非溶融粉末中および亀裂先端部への流動性を高めることを特徴とするロウ付け補修方法。
【請求項8】
請求項7記載のロウ付け補修方法において、前記ロウ付け補修材料の非溶融合金粉末の重量比を溶融合金粉末の1〜1.5倍とすることを特徴とするロウ付け補修方法。
【請求項9】
請求項6記載のロウ付け補修方法において、前記ロウ付け補修は熱間静水圧プレス(HIP)法により実施し、加熱温度は1000℃以上1300℃以下とする一方、加圧力は1000気圧以上2000気圧以下とし、上記ロウ付け補修後に溶体化処理および時効処理を実施することを特徴とするロウ付け補修方法。
【請求項10】
請求項9記載のロウ付け補修方法において、前記熱間静水圧プレス(HIP)法における加熱温度を1100℃以上1260℃以下とすることを特徴とするロウ付け補修方法。
【請求項11】
請求項6記載のロウ付け補修方法において、前記被補修部には亀裂が形成されており、この亀裂に充填されたロウ付け補修材料の組成が、亀裂の表面側から先端側に向かうにしたがって前記溶融合金粉末の組成に近づくことを特徴とするロウ付け補修方法。
【請求項12】
請求項6記載のロウ付け補修方法において、前記被補修部へのロウ付け補修材料の充填方法として、合金粉末が溶融および酸化されない温度800℃以下の高速搬送ガス流を用いてロウ付け補修材料を搬送せしめ、ロウ付け補修材料の粒子速度が300m/秒以上となるように設定し、ロウ付け補修材料を被補修部に付着あるいは亀裂内に充填させることを特徴とするロウ付け補修方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−285664(P2009−285664A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−138161(P2008−138161)
【出願日】平成20年5月27日(2008.5.27)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】