説明

ロック機能付電気コネクタ

【課題】コネクタ嵌合完了時のクリック音が大きく、コネクタ嵌合が正常に完了したか否かの確認が容易であり、かつ、良好なノイズ対策を実現できる電気コネクタを提供する。
【解決手段】弾性撓み変形可能な金属製の可撓腕22を有する相手コネクタとの嵌合操作時に、可撓腕22に形成された係止爪23をコネクタ嵌合完了時にコネクタ抜出方向で係止するロック部15Aとを備える電気コネクタにおいて、該電気コネクタは、コネクタ嵌合完了時に相手コネクタの可撓腕22の弾性撓みが解除されて係止爪23が自由状態に戻るように移動する際に当接部位で係止爪23を受ける金属製の受圧部16を有し、受圧部16の上記当接部位が、可撓腕22の撓み変位方向にて、可撓腕22の撓み変形時における係止爪23の変位位置と自由状態位置との間の範囲内に位置している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロック機能付電気コネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
電気コネクタ(以下、単に「コネクタ」ともいう)には、コネクタ同士が嵌合した状態で該コネクタ同士の抜けを防止するための、いわゆるロック構造を有しているものが多い。図5は従来のコネクタのロック構造を示す斜視図であり、図6は図5に示される従来のコネクタのロック構造の横断面図である。図5および図6では、一方のコネクタ、例えば雌型コネクタのハウジング(図示せず)に取り付けられた部材30に形成された開口部31の縁部として設けられたロック部31Aが、他方のコネクタ、例えば雄型コネクタ(図示せず)に設けられたコネクタ嵌合方向(矢印X方向)に延びる可撓腕40の先端部に屈曲して形成された係止爪41を係止することによりコネクタ同士の抜けが防止されるロック構造が示されている。このロック構造は、例えば端子(図示せず)の配列方向(矢印X方向に対して直角な方向)における両端の端子の外側にて対称に設けられており、ここでは、その一方のロック構造のみが示されている。また、図5および図6では、コネクタ嵌合前(破線で図示)、嵌合操作途中(二点鎖線で図示)、嵌合完了時(実線で図示)のそれぞれにおける雄型コネクタの可撓腕40が示されている。
【0003】
雌型コネクタのロック部31Aが設けられている、金属板から作られた部材30は、その板厚方向にL字状に屈曲されており、コネクタ嵌合方向に延びる板面に設けられた四角形状の開口部31が形成されている。該開口部31を形成する内周の四つの内縁のうち、該部材30の自由端側に位置する内縁が、雄型コネクタの係止爪41を係止するロック部31Aとして機能する。
【0004】
雄型コネクタの可撓腕40も、上記雌型コネクタの部材30と同様に、金属板から作られており、その先端部にて、下縁からコネクタ外方へ向けて屈曲されて延びる係止爪41が形成されている。また、図6に示されるように、可撓腕40のコネクタ外方側の板面40Aには、雄型コネクタの合成樹脂製のハウジング50の内側面が接触している。
【0005】
次に、コネクタの嵌合操作におけるロック動作を説明する。まず、可撓腕40が、破線で示すコネクタ嵌合前の位置から、コネクタ嵌合操作に伴い嵌合方向Xへ移動する。そして、可撓腕40の係止爪41の前端面たる斜縁部41Aが雌型コネクタの部材30の端部に当接すると、係止爪41の該斜縁部41Aが上記部材30の上記端部に摺接しつつ反力を受け、可撓腕40の板面がハウジング50から離れる方向へ向けて弾性撓み変形する。すなわち、二点鎖線で示されるように、可撓腕40は、係止爪41の先端部41Bが部材30の内側面に当接してコネクタ内方へ向けて撓んだ状態となる。さらなるコネクタ嵌合操作の進行により、係止爪41の先端部41Bが開口部31のロック部31Aの位置に達すると、可撓腕40の弾性撓み変形は解除されて自由状態に戻るとともに係止爪41の後端部41Cと部材30の開口部31を貫通し、コネクタ嵌合操作が完了する。この結果、部材30のロック部31Aが係止爪41をコネクタ抜出方向で係止するので、嵌合したコネクタ同士の抜けが防止される。
【特許文献1】発見できず
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のコネクタでは、コネクタ嵌合操作が完了する際、弾性撓み変形した可撓腕40が急に自由状態に戻ることで、該可撓腕40の板面がハウジング50の内側面に当接するので、クリック音が得られる。
【0007】
しかしながら、ハウジングは合成樹脂で成形されており、図5および図6に示したような従来のコネクタにおいては、コネクタ嵌合完了時のクリック音は、金属製の可撓腕40の板面と合成樹脂製のハウジング50の内側面との衝突によって発生させられるものであり、ハウジングを形成する合成樹脂が金属に比し軟質であること、衝突が平面同士でその面積が大きいので衝突圧が低いことに起因して、該クリック音はコネクタ嵌合完了を確認できるほどの大きな音とはならない。すなわち、上述した従来のコネクタでは、コネクタ嵌合が正常に完了したか否かをクリック音で確認しにくく、コネクタが未嵌合状態、いわゆる半ロックの状態であっても、それを判定できないという問題が起こり得る。
【0008】
また、上述の電気コネクタでは、コネクタ嵌合完了時において、可撓腕40の係止爪41は、雌型コネクタのどの部分とも電気的に接触していないので、グランド導通を図ることができず、ノイズ対策が不十分であった。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑み、コネクタ嵌合完了時のクリック音が大きく、コネクタ嵌合が正常に完了したか否かの確認が容易であり、かつ、良好なノイズ対策を実現できる電気コネクタを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
<第一発明>
本発明に係るロック機能付電気コネクタは、電気絶縁材で作られたハウジングに配列保持される端子と、該ハウジングに取り付けられた部材に設けられたロック部であって、弾性撓み変形可能な金属製の可撓腕を有する相手コネクタとの嵌合操作時に、該可撓腕に形成された係止爪をコネクタ嵌合完了時にコネクタ抜出方向で係止する該ロック部とを備えている。
【0011】
かかるロック機能付電気コネクタにおいて、本第一発明では、該電気コネクタは、コネクタ嵌合完了時に上記相手コネクタの可撓腕の弾性撓みが解除されて上記係止爪が自由状態に戻るように移動する際に当接部位で該係止爪を受ける金属製の受圧部材を有し、該受圧部材の上記当接部位が、上記可撓腕の撓み変位方向にて、上記可撓腕の撓み変形時における上記係止爪の対応当接部位の変位位置と自由状態位置との間の範囲内に位置していることを特徴としている。
【0012】
このような構成の電気コネクタでは、係止爪に対する受圧部材の当接部位が、可撓腕の撓み変形時における係止爪の対応当接部位の変位位置と自由状態位置との間の範囲内に位置しているので、コネクタ嵌合完了時に可撓腕の弾性撓みが解除されて係止爪が自由状態に戻るように移動する際、受圧部材が係止爪の衝突を受ける。係止爪および受圧部材は金属製であり、該係止爪および受圧部材の衝突時に発生するクリック音は、従来のような金属製の可撓腕と合成樹脂製のハウジングとの衝突時に発生するクリック音と比較して大きい。また、係止爪の先端は小面積であるので、該係止爪と受圧部材との衝突時の応力は、従来のような可撓腕の板面とハウジングの内側面との衝突時の応力と比較して大きく、その分、衝突時に発生するクリック音も大きくなる。
【0013】
また、上記係止爪および受圧部材は金属製なので、コネクタ同士が嵌合した状態で、係止爪および受圧部材を電気的に接触させることができる。したがって、受圧部材を回路基板上の対応グランド回路部に接続することにより、相手コネクタをもグランド導通させることができる。
【0014】
<第二発明>
また、本発明では、電気コネクタの受圧部材を弾性撓み変形可能とし、相手コネクタの腕部を弾性撓み変形しないようにしてもよく、このような構成としても、大きなクリック音を発生させることが可能であり、また、受圧部材をグランド回路部と接続することにより、相手コネクタをもグランド導通させることができる。
【0015】
このような構成の第二発明の電気コネクタは、電気絶縁材で作られたハウジングに配列保持される端子と、該ハウジングに取り付けられた部材に設けられたロック部であって、金属製の腕部を有する相手コネクタとの嵌合操作時に、該腕部に形成された係止爪をコネクタ嵌合完了時にコネクタ抜出方向で係止する該ロック部とを備えている。
【0016】
かかる電気コネクタにおいて、本第二発明では、該電気コネクタは、上記係止爪と当接して該係止爪からの圧力を受ける弾性撓み変形可能な金属製の受圧部材を有しており、該受圧部材は、コネクタ嵌合完了時に弾性撓みが解除されて自由状態に戻るように移動する際に当接部位で上記圧力を受け、上記係止爪の上記当接部位が、該受圧部材の撓み変位方向にて、該受圧部材の撓み変形時における該受圧部材の変位位置と自由状態位置との間の範囲内に位置していることを特徴としている。
【0017】
<第三発明>
また、本発明では、電気コネクタの受圧部材および相手コネクタの腕部の双方を弾性撓み変形可能としてもよく、このような構成としても、大きなクリック音を発生させることが可能であり、また、受圧部材をグランド回路部と接続することにより、相手コネクタをもグランド導通させることができる。
【0018】
このような構成の第三発明の電気コネクタは、電気絶縁材で作られたハウジングに配列保持される端子と、該ハウジングに取り付けられた部材に設けられたロック部であって、弾性撓み変形可能な金属製の可撓腕を有する相手コネクタとの嵌合操作時に、該可撓腕に形成された係止爪をコネクタ嵌合完了時にコネクタ抜出方向で係止する該ロック部とを備えている。
【0019】
かかる電気コネクタにおいて、本第三発明では、該電気コネクタは、上記係止爪と当接して該係止爪からの圧力を受ける弾性撓み変形可能な金属製の受圧部材を有しており、該受圧部材は、上記可撓腕および受圧部材がコネクタ嵌合完了時に弾性撓みが解除されて自由状態に戻るように移動する際に上記係止爪との当接位置で上記圧力を受け、上記当接位置が、上記可撓腕および上記受圧部材の撓み変位方向にて、該可撓腕の自由状態位置と該受圧部材の自由状態位置との間の範囲内にあることを特徴としている。
【0020】
第一ないし第三発明において、受圧部材とロック部は、金属部材で一部材として形成されていることが好ましい。これによって、部材点数が減少するので、コストが抑制され、また、部品の管理の負担が低減される。
【0021】
ロック部が設けられている部材は、電気コネクタが取り付けられる回路基板上の対応グランド回路部への接続のためのグランド脚部を有していることが好ましい。ロック部が設けられている部材にグランド脚部を設けることにより、係止爪と受圧部材との接触部分を流れるノイズ信号は、受圧部材と一部材をなす形態でロック部が設けられている部材のグランド脚部から回路基板上の対応グランド回路部へと流れる。これによって、別部材にグランド脚部を設ける場合と比較して、グランド導通回路を短縮できるので、さらに良好なノイズ対策が実現できる。
【0022】
ハウジングは、金属製のシェル部材が取り付けられていて、該シェル部材は、回路基板上のグランド回路部に取り付けられるグランド片を有しており、該グランド片は、グランド脚部と機械的に結合可能な位置に設けられていることが好ましい。これによって、グランド脚部とシェル部材のグランド片とをまとめて半田付けして回路基板上の対応回路部と接続することができる。この結果、グランド脚部とグランド片とが結合することにより、ロック部が設けられている部材が強固に固定されるので、ロックの強度が増大し、コネクタの抜けが良好に防止される。
【0023】
ロック部が設けられている部材とシェル部材は、一部材として形成されていることが好ましい。これによって、部品点数が減少するので、コストが抑制され、また、部品の管理の負担が低減される。
【発明の効果】
【0024】
第一発明では、コネクタ嵌合完了時に相手コネクタの金属製の可撓腕の係止爪を受ける金属製の受圧部材を、該受圧部材の係止爪に対する当接部位が、係止爪の移動方向にて、可撓腕の撓み変形時における係止爪の変位位置と自由状態位置との間の範囲内に位置するように設けた。これによって、コネクタ嵌合完了時に可撓腕の弾性撓みが解除されて係止爪が自由状態に戻るように移動した際、金属製の係止爪が同じく金属製の受圧部材を衝打するので大きなクリック音が発生し、該クリック音によってコネクタの嵌合が正常に行われたことを確実に確認することができる。また、係止爪および受圧部材は双方とも金属製であり、コネクタ同士が嵌合した状態で、係止爪および受圧部材を電気的に接触させることができるので、受圧部材を回路基板上の対応グランド回路部に接続して、相手コネクタをもグランド導通させることにより、良好なノイズ対策を実現できる。
【0025】
また、第二発明におけるごとく、電気コネクタの受圧部材を弾性撓み変形可能とし、相手コネクタの腕部は弾性撓み変形しないようにして、係止爪の受圧部材に対する当接部位が、該受圧部材の撓み変位方向にて、該受圧部材の撓み変形時における該受圧部材の変位位置と自由状態位置との間の範囲内に位置するようにしても第一発明と同様の効果を得ることができる。また、第三発明におけるごとく、電気コネクタの受圧部材および相手コネクタの腕部の双方を弾性撓み変形可能として、該受圧部材と該係止部材の当接位置が、腕部および受圧部材の撓み変位方向にて、該腕部の自由状態位置と該受圧部材の自由状態位置との間の範囲内にあるようにしても第一発明と同様の効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、添付図面にもとづき、本発明の実施形態を説明する。
【0027】
<第一実施形態>
図1は、本実施形態に係る雌型コネクタおよび相手コネクタとしての雄型コネクタを示す斜視図である。該雄型コネクタ20をコネクタ嵌合方向(矢印A方向)にて雌型コネクタ10へ挿入することにより両コネクタは嵌合する。
【0028】
雌型コネクタ10は、略直方体外形をなしており、電気絶縁体としての合成樹脂で作られ相手コネクタたる雄型コネクタ20を受け入れる受入空間11Aを形成し、かつ端子配列のための配列部を有するハウジング11と、該ハウジング11の上記配列部に配列保持される複数の端子12と、ハウジング11の外面に取り付けられた金属製のシェル部材13と、ハウジング11に取り付けられ端子配列方向でシェル部材13の両端内側に対称に設けられた後述の固定部材14とを有する。固定部材14のコネクタ嵌合方向に延びる面には、後述する雄型コネクタ20の係止爪をコネクタ嵌合完了時に係止する開口部15が形成されている。雌型コネクタ10は、シェル部材13の端子配列方向両端で下端からコネクタ外方に突出する固定片13Aが回路基板(図示せず)に半田付けされることにより該回路基板に固定される。
【0029】
相手コネクタたる雄型コネクタ20は、コネクタ嵌合方向前方に、ハウジングの一部として、雌型コネクタ10の受入空間11Aと対応した外形をなし該受入空間11Aへ挿入される略直方体外形の嵌合部21を有している。該嵌合部21には、雌型コネクタ10の端子12と接触して電気的に接続される複数の端子(図示せず)が配列保持されている。嵌合部21の端子配列方向両端には、金属板から作られその板厚方向で弾性撓み変形可能な可撓腕22がコネクタ嵌合方向に延びて設けられている。該可撓腕22は、コネクタ外方に屈曲されて突出する係止爪23を有している。後述するように、コネクタ嵌合完了時において、可撓腕22の係止爪23は、雌型コネクタ10の固定部材14の開口部15に係止する。本実施形態では、このような構成のロック機能が実現されており、コネクタ嵌合完了後におけるコネクタ挿抜方向での両コネクタの抜けが防止される。
【0030】
図2(A)および図2(B)は、第一実施形態における両コネクタのロック構造を示す斜視図であり、図3は、図2(A)および図2(B)に示されるロック構造の横断面図である。上述のようにロック構造は、端子配列方向における両端の端子の外側で対称に設けられているが、ここでは、その一方のロック構造のみが示されている。図2(A)では、コネクタ嵌合前(実線で図示)および嵌合操作途中(二点鎖線で図示)、同図(B)では、嵌合完了時(実線で図示)における雄型コネクタ20の可撓腕22が示されている。図3では、コネクタ嵌合前(破線で図示)および嵌合操作途中(二点鎖線で図示)、嵌合完了時(実線で図示)における上記可撓腕22が示されている。
【0031】
図2(A)および図2(B)に示されているように、雌型コネクタ10の固定部材14は金属板から作られていて、その板厚方向に屈曲されてL字状をなしている。固定部材14は、コネクタ嵌合方向(矢印A方向)に延びる上下端縁にそれぞれ設けられた突起状の取付部14Aを有しており、該取付部14Aでハウジング11へ固定される。また、固定部材14のコネクタ嵌合方向に延びる部分には略四角形状の開口部15が形成されている。該開口部15を形成する内周の四つの内縁のうち、固定部材14の自由端側に位置する内縁が、雄型コネクタ20の係止爪23を係止するロック部15Aとして機能する。なお、本実施形態では、固定部材14は、コネクタ嵌合方向に延びる部分が上記可撓腕22の係止爪23との当接によって板面方向(矢印B方向)に弾性撓み変形しない程度の剛性を有する部材で作られている。
【0032】
固定部材14のコネクタ嵌合方向に延びる部分には、その板面を部分的に切り起こして屈曲して形成された受圧部16が設けられている。該受圧部16は、コネクタ嵌合方向に延びており、後述するように、コネクタ嵌合完了時に、コネクタ内方側の面である受圧面16Aで雄型コネクタ20の係止爪23を受ける。該受圧部16は、後述するように、可撓腕22の撓み変位方向にて、該可撓腕22の撓み変形時における係止爪23の先端部23Bの変位位置と自由状態位置との間の範囲内に位置している。本実施形態では、受圧部16は上記可撓腕22の係止爪23との当接によって板厚方向に弾性撓み変形しない程度の剛性を有している。
【0033】
受圧部16は、本実施形態では、上下に位置する二つの連結部17A,17Bによりロック部15Aと連結されており、図3によく見られるように、上下方向で連結部17Aと17Bとの間は貫通しているが、ロック部15Aと受圧部16とが上記連結部17A,17Bを介して一部材で形成されているので、上記受圧部の剛性が高まるとともに、部材点数が少なくてすむので、コストが抑制され、また、部品の管理の負担が低減される。なお、ロック部と受圧部とは必ずしも一部材で形成されている必要はなく、それぞれ別の部材として設けられてもよい。
【0034】
雄型コネクタ20の可撓腕22は、その先端部にて、該可撓腕22の下縁で屈曲されてコネクタ外方へ向けて延びる係止爪23が形成されている。該係止爪23は、図3によく見られるように、コネクタ嵌合方向前方に斜縁部23Aを有している。また、係止爪23は、その延出方向先端面として形成された先端部23Bを有している。該先端部23Bは、コネクタ嵌合完了時に受圧部16の受圧面16Aに当接する面を形成する。
【0035】
以下、雌型コネクタ10に対する雄型コネクタ20の嵌合操作におけるロック動作を説明する。
【0036】
まず、可撓腕20が、図2(A)にて実線で、図3にて破線で示すコネクタ嵌合前の位置から、コネクタ嵌合操作によって嵌合方向Aへ移動する。そして、可撓腕22の係止爪23の斜縁部23Aが雌型コネクタの固定部材14の端部に当接した後、上記固定部材14の上記端部に摺接しつつ前進し、可撓腕22が固定部材14における嵌合方向Aに延びる部分から離れる方向へ向けて弾性撓み変形する。この結果、二点鎖線で示されるように、可撓腕22は、係止爪23の先端部23Bが固定部材14の内側面に当接してコネクタ内方へ向けて撓んだ状態となる。
【0037】
さらなるコネクタ嵌合操作の進行により、係止爪23の先端部23Bが開口部15のロック部15Aの位置に達すると、可撓腕22の弾性撓み変形は解除されて自由状態に戻るとともに係止爪23が固定部材14の開口部15を貫通し、係止爪23の先端部23Bが受圧部16の受圧面16Aに当接して、コネクタ嵌合操作が完了する。この結果、固定部材14のロック部15Aが係止爪23をコネクタ抜出方向で係止するので、嵌合したコネクタ同士の抜けが防止される。
【0038】
既述したように、雌型コネクタ10の受圧部16は、係止爪23の撓み変位方向(矢印B方向)にて、可撓腕22の撓み変形時における係止爪23の先端部23Aの変位位置と自由状態位置との間の範囲内に位置している。すなわち、図3に示されるように、可撓腕22の撓み変位方向における、係止爪23の先端部23Bに対する受圧部16の当接部位である受圧面16Aの位置Pは、可撓腕22の撓み変形時における係止爪23の先端部23B変位位置Q1と自由状態位置Q2との間の範囲内にある。したがって、コネクタ嵌合完了時に雄型コネクタ20の可撓腕22の弾性撓みが解除されて係止爪23が自由状態に戻るように移動する際、該係止爪23が自由状態位置Q2よりも手前の位置で、受圧部16の受圧面16Aが位置Pにて該係止爪23の先端部23Bでの衝突を受ける。
【0039】
係止爪23および受圧部16は双方とも金属製なので、係止爪23と受圧部16との衝突時に発生するクリック音は、従来のような金属製の可撓腕と合成樹脂製のハウジングとが衝突時に発生するクリック音と比較して大きい。また、係止爪23の先端部23Bの面積は小さいので、該係止爪23と受圧部16との衝突時の応力は、従来のような可撓腕の板面とハウジングの内側面との衝突時の応力と比較して大きく、その分、衝突時に発生するクリック音も大きくなる。
【0040】
したがって、本実施形態に係る雌型コネクタ10では、コネクタ嵌合が正常に完了したか否かをクリック音によって容易に確認することができる。また、コネクタが未嵌合状態、いわゆる半ロックの状態であるときには、クリック音は発生しない、あるいはクリック音が小さいので、これによって、コネクタの未嵌合状態を容易に判定することができる。
【0041】
また、上記係止爪23および受圧部16は金属製なので、コネクタ同士が嵌合した状態で、該係止爪23および受圧部16をそれらの当接面で電気的に接触させることができる。したがって、雌型コネクタ10の受圧部16を回路基板上の対応グランド回路部に接続することにより、相手コネクタである雄型コネクタ20をもグランド導通させることが可能となる。
【0042】
このように両コネクタをグランド導通させる場合、受圧部16が設けられている部材である金属製の固定部材14に上記対応グランド回路部への接続のためのグランド脚部を形成して、グランド導通させることが好ましい。このように、固定部材14にグランド脚部を設けることにより、係止爪23と受圧部16との接触部分を流れるノイズ信号は、受圧部16と一部材として形成されている、固定部材14のグランド脚部から回路基板上の対応グランド回路部へと流れる。これによって、別部材にグランド脚部を設ける場合と比較して、グランド導通回路を短縮できるので、さらに良好なノイズ対策が実現できる。
【0043】
本実施形態では、雄型コネクタ20の腕部を弾性撓み変形可能な可撓腕22として形成し、雌型コネクタ10の受圧部16を弾性撓み変形しない部材として形成したが、変形例として、雄型コネクタ側の上記腕部を弾性撓み変形しない部材として形成し、雌型コネクタ側の受圧部を弾性撓み変形可能な部材として形成してもよい。この変形例では、上記腕部の係止爪の当接部位、すなわち該係止部の先端部が、受圧部の撓み変位方向にて、受圧部の撓み変形時における受圧部の変位位置と自由状態位置との間の範囲内に位置するようにする。
【0044】
これによって、受圧部は、コネクタ嵌合完了時に弾性撓みが解除されて自由状態に戻るように移動する際、自由状態位置よりも手前の位置で、係止爪と当接して該係止爪からの衝突圧を受ける。この結果、本実施形態と同様に、大きなクリック音が発生させることができ、また、受圧部を回路基板上の対応グランド回路部に接続して雄型コネクタをもグランド導通させることができる。なお、受圧部だけが弾性撓み変形することとせずに、受圧部が設けられた固定部材全体が弾性撓み変形することとしてもよい。
【0045】
また、本実施形態の他の変形例として、雄型コネクタの腕部および雌型コネクタの受圧部の双方を弾性撓み変形可能として形成してもよい。この変形例では、コネクタ嵌合完了時における受圧部材と係止爪の当接位置が、上記腕部および上記受圧部材の撓み変位方向にて、該腕部の自由状態位置と該受圧部材の自由状態位置との間の範囲内にあるようにする。
【0046】
これによって、腕部および受圧部がコネクタ嵌合完了時に弾性撓みが解除されて自由状態に戻るように移動する際、該腕部および該受圧部がそれぞれの自由状態位置よりも手前の位置で、受圧部は、係止爪と当接して該係止爪から衝突圧を受ける。この結果、本実施形態と同様に、大きなクリック音が発生させることができ、また、受圧部を回路基板上の対応グランド回路部に接続して雄型コネクタをもグランド導通させることができる。なお、受圧部自体が弾性撓み変形せずに、受圧部が設けられた固定部材が弾性撓み変形することとしてもよい。
【0047】
本実施形態では、雄型コネクタが係止爪を有し、雌型コネクタがロック部を有することとしたが、変形例として、雄型コネクタに固定部材を設けて該固定部材がロック部を有することとし、雌型コネクタに腕部を設けて該腕部が係止爪を有することとしてもよい。
【0048】
<第二実施形態>
本実施形態は、雌型コネクタの固定部材とシェル部材とが一部材として形成されている点で、固定部材とシェル部材とが別部材で形成されている第一実施形態と相違がある。図4は、本実施形態における固定部材およびシェル部材を示す斜視図である。本実施形態では、第一実施形態と同一の部材には、同一符号を付して説明を省略する。
【0049】
図4に示されるように、本実施形態では、シェル部材13と固定部材14は、一つの金属板で作られた一部材として形成されている。具体的には、該シェル部材13における雌型コネクタ10の上面をなす部分が、コネクタ嵌合方向(矢印A方向)前方の縁部にて固定部材14の端子配列方向に延びる部分と連結されている。このように、シェル部材13と固定部材14とを一部材として屈曲形成することにより、固定部材14の強度そして剛性が向上するとともに、部品点数が減少する分、コストが抑制され、また、部品の管理の負担が低減される。
【0050】
シェル部材13における雌型コネクタ10の下面をなす部分にはコネクタ嵌合方向前方の縁部から該嵌合方向に突出して延びるグランド片13Bが形成されている。グランド片13Bは、回路基板(図示せず)への雌型コネクタ10の実装時において、該回路基板上の対応グランド回路部(図示せず)に半田接続により取り付けられ、シェル部材13をグランド導通させる。固定部材14の端子配列方向に延びる部分の下縁には、端子配列方向で上記グランド片13Bと同位置に、下方へ向けて延びるグランド脚部14Bが形成されている。該グランド脚部14Bは、図4に示されるように、その先端部がグランド片13Bに形成された孔部に突入して、該グランド片13Bと当接し合って機械的に結合している。そして、該先端部が回路基板上の対応グランド回路部に半田接続されることにより、固定部材14が該対応グランド回路部とグランド導通される。
【0051】
このように、シェル部材13のグランド片13Bと固定部材14のグランド脚部14Bとは回路基板上で機械的に結合されているので、該グランド片13Bとグランド脚部14Bとを半田付けして一体化された状態で回路基板上の対応回路部と接続することができる。このように、グランド脚部14Bがグランド片13Bと一体化されて結合されることにより、グランド脚部14Bと13Cとが、別々に回路基板と接続される場合と比較して、互いに支え合うこと、そしてグランド脚部14Bの取付けのための面積がグランド片13Bの面積分だけ増大することにより、固定部材14そしてシェル部材13は、より強固に回路基板に固定されるので、ロック構造におけるロック強度が増大し、コネクタ同士の抜けが良好に防止される。
【0052】
本実施形態のロック構造自体は、第一実施形態と同様であるので、本実施形態においても、大きなクリック音の発生やロック構造を用いたグランド導通等、第一実施形態による既述の効果が得られる。また、第一実施形態とともに説明した二つの変形例、すなわち、雄型コネクタの腕部を弾性撓み変形しない部材とし、雌型コネクタの受圧部を弾性撓み変形可能な部材として形成する変形例、および雄型コネクタの腕部および雌型コネクタの受圧部の双方を弾性撓み変形可能な部材として形成する変形例が本実施形態にも適用できることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】第一実施形態における雌型コネクタおよび相手コネクタとしての雄型コネクタの斜視図である。
【図2】第一実施形態におけるロック構造を示す斜視図であり、(A)は、コネクタ嵌合前および嵌合操作途中におけるロック構造を示す図であり、(B)嵌合完了時におけるロック構造の図である。
【図3】図2(A)および図2(B)に示されるロック構造の横断面図である。
【図4】第二実施形態における固定部材およびシェル部材を示す斜視図である。
【図5】従来のコネクタのロック構造を示す斜視図である。
【図6】図5に示される従来のコネクタのロック構造の横断面図である。
【符号の説明】
【0054】
10 雌型コネクタ 15A ロック部
11 ハウジング 16 受圧部
12 端子 20 雄型コネクタ
13 シェル部材 22 可撓腕
14 固定部材 23 係止爪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気絶縁材で作られたハウジングに配列保持される端子と、該ハウジングに取り付けられた部材に設けられたロック部であって、弾性撓み変形可能な金属製の可撓腕を有する相手コネクタとの嵌合操作時に、該可撓腕に形成された係止爪をコネクタ嵌合完了時にコネクタ抜出方向で係止する該ロック部とを備える電気コネクタにおいて、該電気コネクタは、コネクタ嵌合完了時に上記相手コネクタの可撓腕の弾性撓みが解除されて上記係止爪が自由状態に戻るように移動する際に当接部位で該係止爪を受ける金属製の受圧部材を有し、該受圧部材の上記当接部位が、上記可撓腕の撓み変位方向にて、上記可撓腕の撓み変形時における上記係止爪の変位位置と自由状態位置との間の範囲内に位置していることを特徴とするロック機能付電気コネクタ。
【請求項2】
電気絶縁材で作られたハウジングに配列保持される端子と、該ハウジングに取り付けられた部材に設けられたロック部であって、金属製の腕部を有する相手コネクタとの嵌合操作時に、該腕部に形成された係止爪をコネクタ嵌合完了時にコネクタ抜出方向で係止する該ロック部とを備える電気コネクタにおいて、該電気コネクタは、上記係止爪と当接して該係止爪からの圧力を受ける弾性撓み変形可能な金属製の受圧部材を有しており、該受圧部材は、コネクタ嵌合完了時に弾性撓みが解除されて自由状態に戻るように移動する際に当接部位で上記圧力を受け、上記係止爪の上記当接部位が、該受圧部材の撓み変位方向にて、該受圧部材の撓み変形時における該受圧部材の変位位置と自由状態位置との間の範囲内に位置していることを特徴とするロック機能付電気コネクタ。
【請求項3】
電気絶縁材で作られたハウジングに配列保持される端子と、該ハウジングに取り付けられた部材に設けられたロック部であって、弾性撓み変形可能な金属製の可撓腕を有する相手コネクタとの嵌合操作時に、該可撓腕に形成された係止爪をコネクタ嵌合完了時にコネクタ抜出方向で係止する該ロック部とを備える電気コネクタにおいて、該電気コネクタは、上記係止爪と当接して該係止爪からの圧力を受ける弾性撓み変形可能な金属製の受圧部材を有しており、該受圧部材は、上記可撓腕および受圧部材がコネクタ嵌合完了時に弾性撓みが解除されて自由状態に戻るように移動する際に上記係止爪との当接位置で上記圧力を受け、上記当接位置が、上記可撓腕および上記受圧部材の撓み変位方向にて、該可撓腕の自由状態位置と該受圧部材の自由状態位置との間の範囲内にあることを特徴とするロック機能付電気コネクタ。
【請求項4】
受圧部材とロック部は、金属部材で一部材として形成されていることとする請求項1ないし請求項3のいずれか一つに記載のロック機能付電気コネクタ。
【請求項5】
ロック部が設けられている部材は、電気コネクタが取り付けられる回路基板上の対応グランド回路部への接続のためのグランド脚部を有していることとする請求項4に記載のロック機能付電気コネクタ。
【請求項6】
ハウジングは、金属製のシェル部材が取り付けられていて、該シェル部材は、回路基板上のグランド回路部に取り付けられるグランド片を有しており、該グランド片は、グランド脚部と機械的に結合可能な位置に設けられていることとする請求項5に記載のロック機能付電気コネクタ。
【請求項7】
ロック部が設けられている部材とシェル部材は、一部材として形成されていることとする請求項6に記載のロック機能付電気コネクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−54518(P2009−54518A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−222379(P2007−222379)
【出願日】平成19年8月29日(2007.8.29)
【出願人】(390005049)ヒロセ電機株式会社 (383)
【Fターム(参考)】