説明

ロボット

【課題】稼働率の低下や維持コストの増加を招くことなくロボットの波動歯車減速機の良好な動作を長期間にわたって維持する。
【解決手段】ロボットは、ウェーブジェネレータとサーキュラスプラインとフレクスプラインとを含む波動歯車減速機と、波動歯車減速機における中心軸付近にグリスを供給するグリス供給部と、波動歯車減速機の外周付近において供給されたグリスを回収するグリス回収部と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットに関し、特に、波動歯車減速機を備えるロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
ロボットは、一般に、関節を駆動するためのモータと減速機を備えている。ロボット用の減速機としては、大きなトルク容量を得るために、例えば波動歯車減速機が採用される(特許文献1,2参照)。周知のように、波動歯車減速機は、楕円形状のカムの外周にボールベアリングを有するウェーブジェネレータと、カップ形状の金属弾性体であり外周面に外歯が形成されたフレクスプラインと、剛体リング形状で内周面に内歯が形成されたサーキュラスプラインと、を主な構成部品として備えている。
【0003】
波動歯車減速機では、各接触部分(例えば、内歯と外歯との噛み合い部分やウェーブジェネレータの外周面とフレクスプラインの内周面との接触部分)の潤滑のために、グリスが用いられている。ロボットの使用に伴い、波動歯車減速機の各接触部分の摩耗やグリス自体の劣化が進行すると、ロボットの波動歯車減速機が良好に動作できなくなる。特に、近年では、ロボットを軽負荷・高速で動作させる場合が増加しており、グリスが早期に劣化しやすい傾向にある。
【0004】
上記のような場合に、グリスを交換すれば、ロボットの波動歯車減速機の良好な動作を回復することができるが、一般に、ロボット内部に設けられた波動歯車減速機のグリス交換は、ロボットの分解(オーバーホール)を伴うこととなり、ロボットの稼働率の低下や維持コストの増加を招く。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−250610号公報
【特許文献2】特開平9−250611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述の問題を考慮し、本発明が解決しようとする課題は、稼働率の低下や維持コストの増加を招くことなくロボットの波動歯車減速機の良好な動作を長期間にわたって維持可能な技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]ロボットであって、
楕円形状のカムを有し中心軸回りに回転するウェーブジェネレータと、孔を有するリング形状であり前記孔の内周面に複数の内歯を有するサーキュラスプラインと、前記サーキュラスプラインの前記孔内に配置されると共に前記ウェーブジェネレータを内部に収容し、外周面に前記内歯よりも少ない数の外歯であって前記カムの長軸に対応する位置で前記内歯に噛み合う外歯を有し、前記ウェーブジェネレータの回転に伴い前記中心軸回りに回転するフレクスプラインと、を含む波動歯車減速機と、
前記波動歯車減速機における前記中心軸付近にグリスを供給するグリス供給部と、
前記波動歯車減速機の外周付近において前記供給されたグリスを回収するグリス回収部と、を備える、ロボット。
【0009】
このロボットでは、グリス供給部により波動歯車減速機における中心軸付近に供給されたグリスは、波動歯車減速機の回転による遠心力により外周方向に移動して波動歯車減速機の各部に至り、各部の潤滑に資する。また、グリス回収部が、波動歯車減速機の外周付近において供給されたグリスを回収するため、波動歯車減速機の各部の潤滑に用いられた後のグリスは確実に回収される。このように、このロボットでは、分解(オーバーホール)を行うことなく波動歯車減速機に対するグリスの供給およびグリスの回収を効率的に行うことができるため、稼働率の低下や維持コストの増加を招くことなく波動歯車減速機の良好な動作を長期間にわたって維持することができる。
【0010】
[適用例2]適用例1に記載のロボットであって、
前記フレクスプラインは、前記中心軸と同軸であり前記外歯を有する円筒部分と、前記円筒部分に連続して形成されていると共に前記中心軸に略直交する底板部分と、を含み、
前記グリス供給部は、供給したグリスが前記波動歯車減速機の回転により前記フレクスプラインの前記底板部分の内側表面に沿って外周側に移動するような位置に、グリスを供給する、ロボット。
【0011】
このロボットでは、供給したグリスが波動歯車減速機の回転によりフレクスプラインの底板部分の内側表面に沿って外周側に移動するような位置にグリスが供給されるため、フレクスプラインの内側表面とウェーブジェネレータの外周面との接触部分や外歯と内歯との噛み合い部分といった潤滑の確保が特に要求される部分に確実かつ効率的にグリスを供給することができる。
【0012】
[適用例3]適用例2に記載のロボットであって、
前記波動歯車減速機は、被固定体と共に前記底板部分を挟むことにより前記フレクスプラインを前記被固定体に固定する固定用部材であって、前記被固定体側の表面に前記中心軸から外周側に向かう方向の複数の溝が形成された固定用部材を含み、
前記グリス供給部は、前記固定用部材の前記被固定体側の表面の前記中心軸付近にグリスを供給する、ロボット。
【0013】
このロボットでは、固定用部材の被固定体側の表面の中心軸付近にグリスが供給されると、溝によってグリスを確実かつ効率的に外周側に移動させてフレクスプラインの底板部分の内側表面に至らしめることができるため、潤滑の確保が特に要求される部分に確実かつ効率的にグリスを供給することができると共に、グリス供給のための構成の簡素化や配置の自由度を向上させることができる。
【0014】
[適用例4]適用例3に記載のロボットであって、
前記固定用部材の前記被固定体側の表面の前記中心軸付近には、各前記溝と連通する凹部が形成されており、
前記グリスは、非加熱状態では半固形で、攪拌および加熱により液状となり、
前記グリス供給部は、前記凹部にグリスを供給する、ロボット。
【0015】
このロボットでは、凹部がグリスのバッファとして機能して波動歯車減速機各部へのグリス供給量の変動を抑制することができると共に、中心軸回りの各方向へのグリスの分配バランスを均一化することができる。また、グリス供給部により供給されるグリスは、非加熱状態では半固形(ドロッとした状態)であり、例えばロボットの関節駆動から生まれる上下左右動作による攪拌と減速機やモータからの熱により液状となるものである。そのため、グリス供給部における直ちに供給されないグリス(例えば供給タンクの奥にあるグリス)は半固形で備蓄され、ロボットが上下左右に自由に動いてもいきなり全備蓄量が供給されずにすみ、長い期間にわたってゆっくりグリスを供給することができ、ロボットの波動歯車減速機の良好な動作を長期間にわたって維持することができる。また、非加熱状態では半固形となるグリスを用いると、供給されたグリスがロボットの姿勢の影響も受けてスムーズに全ての溝に均等に流れない(姿勢によって偏った溝に流れる)場合もあるが、このロボットではグリスをいきなり溝に流さず一旦凹部に供給し、そこで攪拌および熱を受け液状化した後に溝に流すようにすることで、液状なので毛細管現象も手伝ってロボットの姿勢の影響をあまり受けずに全ての溝に均等にスムーズにグリスを流すことができ、減速機の各歯に早期の段階からグリスを均等に供給することができる。
【0016】
[適用例5]適用例1ないし適用例4のいずれかに記載のロボットであって、
前記グリス供給部は、前記ロボットの累積走行距離と環境温度との少なくとも一方に基づき決定されるタイミングで自動的にグリスを供給する、ロボット。
【0017】
このロボットでは、適正なタイミングで自動的に波動歯車減速機に対するグリスの供給を行うことができ、グリスの不足により波動歯車減速機に深刻なダメージを与える事態の発生を防止しつつ、効率的にロボットの運用を行うことができる。
【0018】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、減速機を備える減速システム、減速機の潤滑システム、減速機の潤滑方法等の態様で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施例におけるロボットシステム10の概略構成を示す説明図である。
【図2】減速機の概略構成を示す説明図である。
【図3】減速機の概略構成を示す説明図である。
【図4】減速機の概略構成を示す説明図である。
【図5】固定用部材37の概略構成を示す説明図である。
【図6】減速システム20の概略構成を示す説明図である。
【図7】変形例における固定用部材37の概略構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明の実施の形態を実施例に基づいて以下の順序で説明する。
A.実施例:
A−1.ロボットシステムの構成:
A−2.減速機の構成:
A−3.減速システムの構成:
B.変形例:
【0021】
A.実施例:
A−1.ロボットシステムの構成:
図1は、本発明の実施例におけるロボットシステム10の概略構成を示す説明図である。ロボットシステム10は、ロボット本体100と、ロボット制御装置(ロボットコントローラ)200と、ロボット教示装置300と、を備えている。
【0022】
ロボット本体100は、複数の関節を有する多関節型の産業用ロボットである。ロボット本体100は、工場等の設置場所(サイト)に固定されるベース部101と、水平方向に旋回可能にベース部101に支持されたショルダ部102と、鉛直方向に旋回可能にショルダ部102に下端が支持された下アーム103と、鉛直方向に旋回可能に下アーム103の先端に略中央部が支持された上アーム104と、鉛直方向に旋回可能に上アーム104の先端に支持された手首105と、を有している。手首105の先端には、手首105の円周方向に回転可能な軸を有するフランジ部106が設けられている。フランジ部106には、例えばワークを把持するエンドエフェクタ107が取り付けられている。ロボット本体100の各関節には、関節を駆動するサーボモータと、サーボモータの回転出力を減速する減速機(詳細は後述)と、が設置されている。
【0023】
ロボット教示装置300は、接続ケーブル420を介してロボット制御装置200と接続されており、ロボット本体100の動作を教示するために使用される。
【0024】
ロボット制御装置200は、CPUや記憶部を備えるコンピュータとして構成されている。ロボット制御装置200は、制御ケーブル410を介してロボット本体100と接続されていると共に、図示しない電源ケーブルを介してサイトの電源(外部電源)と接続されている。ロボット制御装置200は、ロボット本体100に電力を供給すると共に、ロボット教示装置300から入力された教示データに基づいて、ロボット本体100の各サーボモータを駆動することによりロボット本体100の動作を制御する。また、ロボット制御装置200は、ロボット教示装置300を介して手動による操作指令があった場合には、その指令に応じてロボット本体100の各関節を駆動する。
【0025】
A−2.減速機の構成:
図2ないし図4は、減速機の概略構成を示す説明図である。本実施例のロボット本体100は、サーボモータ21と共に関節を駆動する減速機として、波動歯車減速機22を用いている。図2には、波動歯車減速機22の断面構成を示しており(一部断面の図示を省略している)、図3には、波動歯車減速機22の斜視外観を示しており、図4には、波動歯車減速機22の各構成部材の斜視外観を示している。
【0026】
図2に示すように、波動歯車減速機22は、ロボット本体100の関節部分のフレーム24に設けられた中空の筒状部25内に配置される。図2ないし図4に示すように、波動歯車減速機22は、ウェーブジェネレータ31と、フレクスプライン32と、サーキュラスプライン33と、を備えている。以下では、図2の上下方向を、波動歯車減速機22の中心軸CAに沿った上下方向として説明する。
【0027】
ウェーブジェネレータ31は、楕円状のカム31aの外周にボールベアリング31bが組み付けられて構成されている。ウェーブジェネレータ31には、サーボモータ21の出力軸21aがボルト21bにより連結されており、ウェーブジェネレータ31は、サーボモータ21の出力軸21aの回転に伴い、中心軸CA回りに回転する。
【0028】
サーキュラスプライン33は、孔を有するリング形状の剛体の部材である。サーキュラスプライン33の孔の内周面には複数の内歯33aが形成されている。サーキュラスプライン33は、複数のボルト36により、フレーム24に固定されている。なお、サーボモータ21の上面には、サーボモータ21をフレーム24に固定するための固定プレート23が配置されており、固定プレート23は、複数のボルト35により、サーキュラスプライン33と一体的にフレーム24に固定されている。
【0029】
フレクスプライン32は、薄肉のカップ形状の金属弾性体の部材である。すなわち、フレクスプライン32は、中心軸CAと同軸の円筒部分32dと、円筒部分32dに連続して形成されていると共に中心軸CAに略直交する底板部分32bと、を有している。底板部分32bの中心軸CAの位置には孔が形成されている。フレクスプライン32は、サーキュラスプライン33の孔内に配置されると共に、ウェーブジェネレータ31を内部に収容している。フレクスプライン32の円筒部分32dの外周面には、サーキュラスプライン33の内歯33aよりも所定数(例えば2つ)だけ歯数が少ない外歯32aが形成されている。フレクスプライン32の外歯32aとサーキュラスプライン33の内歯33aとは、楕円状のウェーブジェネレータ31の長軸に対応する位置で噛み合う。
【0030】
フレクスプライン32の底板部分32bには、厚肉のボス部32cが形成されている。フレクスプライン32のボス部32cは、固定用部材37およびボルト38により、フレクスプライン32の上側に位置するクロスローラベアリングからなる軸受(図示せず)に押し付けられて固定される。すなわち、固定用部材37は、軸受と共に底板部分32bを挟むことにより、フレクスプライン32を軸受に固定する。軸受には、関節の他方のフレームが固定されている。
【0031】
このような構成の波動歯車減速機22において、サーボモータ21の出力軸21aの回転に伴いウェーブジェネレータ31が回転すると、ウェーブジェネレータ31の長軸に対応する位置でフレクスプライン32の外歯32aとサーキュラスプライン33の内歯33aとが噛み合い、外歯32aと内歯33aとの数に応じて定まる減速比にて減速されつつ、フレクスプライン32が中心軸CA回りに回転する。これにより、フレクスプライン32に固定された軸受に、サーボモータ21の回転が減速されて伝達される。
【0032】
図5は、固定用部材37の概略構成を示す説明図である。図5には、主として固定用部材37の軸受側(図2の上側)の形状を示している。固定用部材37は、互いに同軸の小径部37aと大径部37bとから構成されている。固定用部材37の各部の厚さ(中心軸CAに沿った寸法)は、フレクスプライン32の底板部分32bの厚さより大きい。固定用部材37の軸受側の面において、小径部37aは大径部37bより中心軸CA方向に突出している。図2に示すように、波動歯車減速機22において、固定用部材37の小径部37aは、フレクスプライン32の底板部分32bの中心軸CAの位置に形成された孔に嵌合している。また、固定用部材37の大径部37bの軸受側(上側)表面は、フレクスプライン32の底板部分32bの内側表面に接している。
【0033】
固定用部材37の小径部37aの軸受側(上側)の表面の中心軸CAの位置には、凹部37cが形成されている。また、固定用部材37の軸受側の表面には、中心軸CAから外周側に向かう方向の複数の溝37dが形成されている。より詳細には、各溝37dは、凹部37cを起点とし、小径部37aの軸受側(上側)表面と、小径部37aの側部表面と、大径部37bの軸受側(上側)表面とを通る連続した溝として構成されている。
【0034】
A−3.減速システムの構成:
本実施例のロボット本体100は、上述した波動歯車減速機22と、波動歯車減速機22にグリスを供給するグリス供給部と、供給されたグリスを回収するグリス回収部と、を有する減速システム20を備える。図6は、減速システム20の概略構成を示す説明図である。減速システム20は、グリス供給部として、グリスを貯蔵するタンク41と、タンク41から延伸する中空のチューブ42と、を備えている。タンク41は、ロボット制御装置200(図1)からの指令信号に応じて貯蔵したグリスを吐出するための図示しないアクチュエータ(例えばポンプ)を有している。チューブ42のタンク41とは反対側の先端は、固定用部材37の軸受側(上側)の表面の中心軸CA付近(すなわち、凹部37c付近)に位置している。なお、タンク41は、ロボット本体100の外部から容易にグリスを補給できる配置および構成であることが好ましい。また、本明細書において、中心軸CA付近とは、中心軸CAからの距離がフレクスプライン32の半径の3分の2以内の範囲を意味し、より好ましくは中心軸CAからの距離がフレクスプライン32の半径の2分の1以内の範囲を意味し、さらに好ましくは中心軸CAからの距離がフレクスプライン32の半径の3分の1以内の範囲を意味する。本実施例において使用されるグリスは、非加熱状態では半固形(ドロッとした状態)であり、攪拌および加熱により液状となりグリスである。
【0035】
減速システム20は、また、グリス回収部として、波動歯車減速機22の外周付近からグリスを吸引して回収する吸引ポンプ44を備えている。なお、吸引ポンプ44は、回収したグリス(廃グリス)をロボット本体100の外部へ容易に排出できる配置および構成であることが好ましい。また、本明細書において、波動歯車減速機22の外周付近とは、フレクスプライン32の円筒部分32dの外周面からサーキュラスプライン33の外周面までを意味する。
【0036】
本実施例では、ロボット制御装置200は、ロボット本体100の各関節の累計回転数(累積走行距離)やロボット本体100の環境温度をモニタリングしており、対応する関節の累計回転数と環境温度に基づく所定の計算により決定したタイミングで、グリスを吐出させる指令信号をタンク41に送信する。また、吸引ポンプ44は、タンク41からのグリス吐出が行われると同時に、あるいは吐出から所定時間経過後に、吸引動作を開始し、吐出から所定時間経過後に動作を停止する。ただし、吸引ポンプ44の動作の開始および停止タイミングは任意に変更可能である。なお、上述したように、グリスは非加熱状態では半固形であるため、グリス供給部における直ちに供給されないグリス(タンク41の奥にあるグリス)は半固形で備蓄され、ロボット本体100が上下左右に自由に動いてもいきなり全備蓄量が供給されずにすみ、長い期間にわたってゆっくりグリスを供給することができる。
【0037】
図6において矢印で示すように、タンク41から吐出されたグリスは、チューブ42を通って固定用部材37の凹部37c内に供給される。凹部37c内に供給された半固形のグリスは、ロボット本体100の関節駆動から生まれる上下左右動作による攪拌と波動歯車減速機22やサーボモータ21からの熱によって液状となる。液状となったグリスは、フレクスプライン32に締結された固定用部材37の回転に伴う遠心力により、固定用部材37の溝37d内を通って外周側に移動する。グリスは液状となっているので、毛細管現象も手伝ってロボット本体100の姿勢の影響をあまり受けずに全ての溝37dに均等にスムーズにグリスを流すことができる。固定用部材37の大径部37b(図5参照)の軸受側(上側)表面は、フレクスプライン32の底板部分32bの内側表面に接しているので、溝37d内を移動してきたグリスは、フレクスプライン32の底板部分32bの内側表面に沿ってさらに外周側に移動する。その後、グリスは、底板部分32bに連続した円筒部分32dの内側表面に沿ってサーボモータ21側の方向(下方向)に移動し、円筒部分32dの内側表面とウェーブジェネレータ31の外周面との接触部分に至る。フレクスプライン32のサーボモータ21側(下側)には固定プレート23が配置されているため、グリスは、固定プレート23の表面に沿ってフレクスプライン32の内側から外側に移動し、外歯32aと内歯33aとの噛み合い部分に至る。フレクスプライン32の外側まで移動したグリスは、その後、吸引ポンプ44により吸引されて回収される。
【0038】
以上説明したように、本実施例のロボット本体100は、波動歯車減速機22にグリスを供給するためのタンク41およびチューブ42と、供給されたグリスを回収する吸引ポンプ44とを備えている。ここで、タンク41およびチューブ42によるグリスの供給は、波動歯車減速機22における中心軸CA付近(具体的には、固定用部材37の凹部37c)に対して行われるため、供給されたグリスは波動歯車減速機22の回転による遠心力により外周方向に移動して波動歯車減速機22の各部に至り、各部の潤滑に資する。また、吸引ポンプ44は、波動歯車減速機22の外周付近においてグリスを吸引するため、波動歯車減速機22の各部の潤滑に用いられた後のグリス(廃グリスであり、金属削り屑等の不純物を含む場合がある)が確実に回収される。このように、本実施例のロボット本体100では、分解(オーバーホール)を行うことなく波動歯車減速機22に対するグリスの供給および廃グリスの回収を効率的に行うことができるため、稼働率の低下や維持コストの増加を招くことなく波動歯車減速機22の良好な動作を長期間にわたって維持することができる。
【0039】
また、本実施例のロボット本体100では、固定用部材37の凹部37c内にグリスが供給され、供給されたグリスは溝37d内を通ってフレクスプライン32の底板部分32bの内側表面に至り、当該表面沿って外周側に移動する。すなわち、供給したグリスが波動歯車減速機22の回転によりフレクスプライン32の底板部分32bの内側表面に沿って外周側に移動するような位置に、グリスが供給される。そのため、フレクスプライン32の内側表面とウェーブジェネレータ31の外周面との接触部分や外歯32aと内歯33aとの噛み合い部分といった潤滑の確保が特に要求される部分に確実かつ効率的にグリスを供給することができる。
【0040】
また、本実施例のロボット本体100では、固定用部材37の軸受側(上側)の表面に中心軸CAから外周側に向かう方向の複数の溝37dが形成されているため、固定用部材37の中心軸CA付近(具体的には凹部37c)にグリスを供給すれば、溝37dによってグリスを確実かつ効率的に外周側に移動させてフレクスプライン32の底板部分32bの内側表面に至らしめることができ、潤滑の確保が特に要求される部分に確実かつ効率的にグリスを供給することができると共に、例えばチューブ42をフレクスプライン32の内側表面に至るまで延伸する場合と比較して、グリス供給のための構成の簡素化や配置の自由度を向上させることができる。なお、フレクスプライン32は薄肉の部材であるためフレクスプライン32に同様の溝を形成することは困難であるが、固定用部材37はフレクスプライン32と比較して肉厚の部材であるため、固定用部材37の強度を確保しつつ溝37dを形成することができる。
【0041】
また、本実施例のロボット本体100では、固定用部材37の軸受側(上側)の表面の中心軸CA付近に、各溝37dと連通する凹部37cが形成されており、チューブ42からのグリスは凹部37cに対して供給される。そのため、凹部37cがグリスのバッファとして機能して波動歯車減速機22各部へのグリス供給量の変動を抑制することができると共に、中心軸CA回りの各方向へのグリスの分配バランスを均一化することができる。また、本実施例において、グリス供給部により供給されるグリスは、非加熱状態では半固形(ドロッとした状態)であり、ロボット本体100の関節駆動から生まれる上下左右動作による攪拌と減速機やモータからの熱により液状となるものである。そのため、グリス供給部における直ちに供給されないグリス(タンク41の奥にあるグリス)は半固形で備蓄され、ロボット本体100が上下左右に自由に動いてもいきなり全備蓄量が供給されずにすみ、長い期間にわたってゆっくりグリスを供給することができ、波動歯車減速機22の良好な動作を長期間にわたって維持することができる。また、非加熱状態では半固形となるグリスを用いると、供給されたグリスがロボット本体100の姿勢の影響も受けてスムーズに全ての溝37dに均等に流れない(姿勢によって偏った溝37dに流れる)場合もあるが、このロボット本体100ではグリスをいきなり溝37dに流さず一旦凹部37cに供給し、そこで攪拌および熱を受け液状化した後に溝37dに流すようにすることで、液状なので毛細管現象も手伝ってロボット本体100の姿勢の影響をあまり受けずに全ての溝37dに均等にスムーズにグリスを流すことができ、波動歯車減速機22の各歯に早期の段階からグリスを均等に供給することができる。
【0042】
また、本実施例では、ロボット本体100の累計回転数(累積走行距離)と環境温度とに基づく所定の計算式により決定したタイミングで、グリスを吐出させる指令信号がロボット制御装置200からタンク41に送信され、タンク41から波動歯車減速機22に向けてグリスが供給される。そのため、適正なタイミングで自動的に波動歯車減速機22に対するグリスの供給を行うことができ、グリスの不足により波動歯車減速機22に深刻なダメージを与える事態の発生を防止しつつ、効率的にロボット本体100の運用を行うことができる。
【0043】
B.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0044】
上記実施例におけるロボットシステム10の構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、上記各実施例では、ロボット本体100は多関節型の産業用ロボットであるとしているが、ロボット本体100が単関節型ロボットであるとしてもよい。
【0045】
また、上記実施例において、固定用部材37に凹部37cや溝37dが形成されていなくてもよい。図7は、変形例における固定用部材37の概略構成を示す説明図である。図7に示す変形例の固定用部材37は、軸受側表面に、上記実施例における凹部37cや溝37d(図5参照)が形成されていない。なお、図7に示す変形例の固定用部材37では、中心軸CAの位置に孔が形成されているが、この孔はなくてもよい。図7に示す変形例の固定用部材37を用いる場合でも、タンク41およびチューブ42によるグリスの供給を固定用部材37の軸受側表面に対して行えば、供給されたグリスは波動歯車減速機22の回転による遠心力により、フレクスプライン32の底板部分32bの内側表面に沿って外周側に移動して波動歯車減速機22の各部に至り、各部の潤滑に資する。なお、上記実施例や図7に示す変形例では、固定用部材37は小径部37aおよび大径部37bにより構成されているとしているが、固定用部材37が所定の単一の径の円板形状の部材であるとしてもよい。
【0046】
また、上記実施例において、タンク41およびチューブ42によるグリスの供給位置は、中心軸CA付近の位置であれば、固定用部材37の軸受側表面の位置でなくてもよい。例えば、グリスの供給位置は、ウェーブジェネレータ31の軸受側表面の中心軸CA付近の位置であってもよい。この場合でも、供給されたグリスは波動歯車減速機22の回転による遠心力により外周側に移動して波動歯車減速機22の各部に至り、各部の潤滑に資する。
【0047】
また、上記実施例では、グリスを供給する構成(グリス供給部)としてタンク41およびチューブ42を用いた構成を採用しているが、他の構成を採用してもよい。例えば、タンク41からチューブ42を用いずに固定用部材37の表面に直接グリスを供給する構成を採用することもできる。また、上記実施例では、グリスを回収する構成(グリス回収部)として吸引ポンプ44を用いた構成を採用しているが、他の構成を採用してもよい。例えば、吸引ポンプ44とチューブを組み合わせた構成や、グリスを吸収するスポンジ状部材を用いた構成を採用することもできる。
【0048】
また、上記実施例では、ロボット本体100の累計回転数(累積走行距離)と環境温度とに基づく計算式により決定したタイミングでグリスを供給するとしているが、グリス供給タイミングは任意に変更可能である。例えば、グリス供給タイミングは、ロボット本体100の累計回転数のみに基づき決定するとしてもよいし、ロボット本体100の累計動作時間(電源ON時間)に基づき決定するとしてもよい。あるいは、使用者の指示入力に応じてグリスが供給されるとしてもよい。
【0049】
また、上記実施例における減速システム20は、ロボット本体100に用いられるものであるが、ロボット本体100以外の産業機器や生産設備、車両、輸送機器等にも適用可能である。
【符号の説明】
【0050】
10…ロボットシステム
20…減速システム
21…サーボモータ
21a…出力軸
21b…ボルト
22…波動歯車減速機
23…固定プレート
24…フレーム
25…筒状部
31…ウェーブジェネレータ
31a…カム
31b…ボールベアリング
32…フレクスプライン
32a…外歯
32b…底板部分
32c…ボス部
32d…円筒部分
33…サーキュラスプライン
33a…内歯
35…ボルト
36…ボルト
37…固定用部材
37a…小径部
37b…大径部
37c…凹部
37d…溝
38…ボルト
41…タンク
42…チューブ
44…吸引ポンプ
100…ロボット本体
101…ベース部
102…ショルダ部
103…下アーム
104…上アーム
105…手首
106…フランジ部
107…エンドエフェクタ
200…ロボット制御装置
300…ロボット教示装置
410…制御ケーブル
420…接続ケーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロボットであって、
楕円形状のカムを有し中心軸回りに回転するウェーブジェネレータと、孔を有するリング形状であり前記孔の内周面に複数の内歯を有するサーキュラスプラインと、前記サーキュラスプラインの前記孔内に配置されると共に前記ウェーブジェネレータを内部に収容し、外周面に前記内歯よりも少ない数の外歯であって前記カムの長軸に対応する位置で前記内歯に噛み合う外歯を有し、前記ウェーブジェネレータの回転に伴い前記中心軸回りに回転するフレクスプラインと、を含む波動歯車減速機と、
前記波動歯車減速機における前記中心軸付近にグリスを供給するグリス供給部と、
前記波動歯車減速機の外周付近において前記供給されたグリスを回収するグリス回収部と、を備える、ロボット。
【請求項2】
請求項1に記載のロボットであって、
前記フレクスプラインは、前記中心軸と同軸であり前記外歯を有する円筒部分と、前記円筒部分に連続して形成されていると共に前記中心軸に略直交する底板部分と、を含み、
前記グリス供給部は、供給したグリスが前記波動歯車減速機の回転により前記フレクスプラインの前記底板部分の内側表面に沿って外周側に移動するような位置に、グリスを供給する、ロボット。
【請求項3】
請求項2に記載のロボットであって、
前記波動歯車減速機は、被固定体と共に前記底板部分を挟むことにより前記フレクスプラインを前記被固定体に固定する固定用部材であって、前記被固定体側の表面に前記中心軸から外周側に向かう方向の複数の溝が形成された固定用部材を含み、
前記グリス供給部は、前記固定用部材の前記被固定体側の表面の前記中心軸付近にグリスを供給する、ロボット。
【請求項4】
請求項3に記載のロボットであって、
前記固定用部材の前記被固定体側の表面の前記中心軸付近には、各前記溝と連通する凹部が形成されており、
前記グリスは、非加熱状態では半固形で、攪拌および加熱により液状となり、
前記グリス供給部は、前記凹部にグリスを供給する、ロボット。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のロボットであって、
前記グリス供給部は、前記ロボットの前記波動歯車減速機に対応する関節の累積回転数と環境温度との少なくとも一方に基づき決定されるタイミングで自動的にグリスを供給する、ロボット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−68306(P2013−68306A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−208769(P2011−208769)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(501428545)株式会社デンソーウェーブ (1,155)
【Fターム(参考)】