説明

ワイヤソー

【課題】飛散したスラリがワイヤ群やワークに対して再度供給されることに起因するスラリの過剰供給を抑制し、ワークの切り出しをより精度良く行う。
【解決手段】ワイヤソーは、ガイドローラ10A,10Bに巻回された切断用ワイヤ11により形成されるワイヤ群12と、ワークWを保持し、ワイヤ群12に対して前記ワークWをその上側から切り込み送りするスライダ20と、ワイヤ群12に対してその上方からスラリを供給するノズル部材14a,14b、15a,15bとを備える。また、ワイヤソーは、ノズル部材14a等から供給されて飛散したスラリを捕集する捕集部材30を具備している。この捕集部材30は、スライダ20のワーク保持部22に組み付けられることにより、当該ワーク保持部22とワークWとの間に形成される隙間部分に配置されるようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切断用ワイヤにより構成されたワイヤ群に対して半導体インゴット等のワークを切り込み送りすることにより当該ワークを切断するワイヤソーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から半導体インゴット等のワークをスライス状に切り出す手段としてワイヤソーが知られている。ワイヤソーは、図5に示すように、複数のガイドローラ10A,10B間に切断用ワイヤ11が巻き掛けられることにより該ワイヤ11が多数本並んだ状態で張設され、このワイヤ群12をその軸方向に高速走行させながら該ワイヤ群12に遊離砥粒を含むスラリを供給しながら、この状態で、ワーク保持部22に保持されたワークWを切断用ワイヤ11の軸方向と直交する方向に、前記ワイヤ群12に対して切り込み送りすることにより、ワークWをスライス状に多数毎同時に切り出すように構成されている(例えば特許文献1)。なお、ワイヤ群12におけるワークWの切り込み領域の両側であってワイヤ群12の上方にはそれぞれノズル部材14a,15aが配置されており、前記スラリは、これらノズル部材14a,15aからワイヤ群12に対して供給されるようなっている。
【特許文献1】特開平11−10511号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ワイヤソーでは、上記のようにワイヤ群12に対してスラリを供給しながらワークWの切り出しを行うが、ワイヤ群12は高速走行しているため、スラリが供給されるとこれが激しく飛散し、例えば円柱状のワークW(例えば半導体インゴット)を切り出すような場合には、次のような課題がある。
【0004】
すなわち、切断用ワイヤ11の走行方向におけるワークWの上流側では、ノズル14aから供給されたスラリが切断用ワイヤ11の移動に伴いワークW側に飛散することとなる。他方、ワークWの切り込み送りが進行して切り込み終期の段階に達すると、図5に示すように、ワークW、ワーク保持部22およびノズル部材14aにより囲まれた空間Sが形成されるため、上記のように飛散したスラリがこの空間S内で舞い上がり(巻き上がり)、同図中に一点鎖線矢印で示すようにワークWやワイヤ群12に対して再度供給される。
【0005】
その結果、ワークWやワイヤ群12に対してスラリの供給が過多となり切り出し精度に悪影響を与えることが考えられる。例えば、ワークWの切り出し中には、加工熱の影響によりワークWがその軸方向に多少熱膨張することが知られているが、上記のように切り込み終期の段階にスラリが過剰供給されると、ワークWが過冷却される結果、切り込み終期にワークWが短時間に大きく収縮して切断面の品質を損なうことが考えられる。また、スラリの過剰供給によりワークWが過剰に衝撃を受け、あるいは個々の切断用ワイヤ11に過剰に振動が生じる等し、その結果、スライス途中のワークWが脱落するといったトラブルを招くことも考えられる。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、飛散したスラリがワイヤ群やワークに対して再度供給されることに起因するスラリの過剰供給を抑制し、ワークの切り出しをより精度良く行えるようにすることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のワイヤソーは、複数のガイドローラに巻回された切断用ワイヤにより形成されるワイヤ群と、ワークを保持し、前記ワイヤ群に対して相対的に移動することにより前記ワークをワイヤ群に対してその上側から切り込み送りするワーク保持部材と、前記ワイヤ群のうち前記ワークが切り込み送りされる作業領域よりも前記ワイヤの走行方向上流側に少なくとも配置され、前記ワイヤ群に対してその上方からスラリを供給するノズル部材とを備えたワイヤソーにおいて、前記ワイヤ群の上方に配置され、前記ノズル部材から前記ワイヤ群に供給されることにより飛散したスラリを捕集可能な捕集部材を備えているものである(請求項1)。
【0008】
この構成によると、ワイヤ群に供給されることにより飛散したスラリを捕集することが可能となるので、当該スラリがワイヤ群やワークに対して再度供給されるのを有効に防止することが可能となる。
【0009】
なお、ワイヤの走行方向における前記ワークの下流側では、飛散したスラリが切断用ワイヤの移動に伴いワークから離間する方向に移動するためワークの切り出し作業に影響を与えることは殆どないが、ワイヤの走行方向における前記ワークよりも上流側では、切断用ワイヤの移動に伴い飛散したスラリがワーク側に舞い上がり、ワークやワイヤ群に再度供給される可能性が高く、ワークの切り出し作業に悪い影響を与える可能性がある。そのため、前記捕集部材は、少なくとも前記ワイヤの走行方向における前記ワークの中心よりも上流側に配置されているのが好適である(請求項2)。
【0010】
捕集部材は、飛散したスラリを効果的に捕集できる位置に設ければ良いが、前記ワーク保持部材に組み付けられているのが好適である(請求項3)。
【0011】
この構成によると、ワークと捕集部材が一体的に移動するので、ワークに対して捕集部材が干渉するおそれがなくなる。
【0012】
この場合、前記ワーク保持部材が、その下端に前記ワークを垂下した状態で保持するとともに、前記下端に前記ワイヤの走行方向に延びて前記ワークに対向する対向面を有し、この対向面と前記ワークとの間に隙間を形成した状態で前記ワークを保持する場合には、前記捕集部材は、前記隙間に配置されているのが好適である(請求項4)。
【0013】
すなわち、例えばワークが円柱状のものであるような場合には、ワーク表面が湾曲している結果、上記隙間がやや広くなりその部分でスラリが舞い上がり(巻き上がり)、ワーク等に再供給され易い。そのため、上記の構成によれば、上記隙間の部分で舞い上がるスラリを効果的に捕集して、ワーク等への再供給を防止することが可能となる。
【0014】
なお、この構成の場合には、前記ワーク保持部材の前記下端に、当該下端から垂下して前記ワイヤの走行方向における上流側と下流側とを遮蔽する遮蔽部材が設けられ、前記捕集部材は、この遮蔽部材の前記走行方向における下流側に配置されるとともにこの遮蔽部材に付着して流下するスラリを捕集可能に設けられているのが好適である(請求項5)。
【0015】
この構成によれば、上記隙間内で舞い上がったスラリを当該隙間部分から外部に飛散させることなく効率良く捕集することが可能となる。
【0016】
なお、前記捕集部材は、前記ノズル部材に組み付けられ、当該ノズル部材と前記作業領域との間に配置されているものであってもよく(請求項6)、この構成の場合にも、飛散したスラリを効果的に捕集することができる。
【0017】
また、上記のような構成において、前記捕集部材は、前記ワイヤ群を形成する前記ワイヤの並び方向に亘って設けられているのが好適である(請求項7)。
【0018】
この構成によれば、切断用ワイヤの並び方向全体に亘って飛散したスラリを捕集することが可能となる。
【0019】
なお、捕集したスラリが捕集部材から溢れる等してワイヤ群に落下すると、結局スラリの過剰供給となってしまうので、前記捕集部材は、前記ワイヤの並び方向に亘って連続して設けられ、かつ捕集したスラリを前記並び方向に流動させるように形成されているのが好適である(請求項8)。
【0020】
この構成によれば、捕集したスラリをワイヤ群の外側に速やかに移動させて回収することが可能となるので、上記のようなトラブルを未然に防止することが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係るワイヤソーによると、ノズル部材からワイヤ群に供給されることにより飛散するスラリを捕集できるように構成したので、飛散したスラリがワイヤ群やワークに対して再度供給されることに起因したスラリの過剰供給を有効に防止することができる。従って、このようなスラリの過剰供給に起因するトラブル、例えばワークの過冷却による切断面の品質低下や、切断用ワイヤの過剰振動等によるワークの脱落といったトラブルの発生を未然に防止することが可能となり、その結果、ワークの切り出しをより精度良く行えるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の好ましい実施の形態について図面に基づいて説明する。
【0023】
図1は、本発明に係るワイヤソーの全体構成を模式的に示している。この図に示すようにワイヤソーは、所定の間隔を隔てて平行に配置される一対のガイドローラ10A,10Bを有している。これらガイドローラ10A,10Bの外周面上にはローラ軸方向(同図では紙面と直交する方向;以下、前後方向という)に並ぶ多数本の溝が形成され、これらの溝に嵌め込むようにして切断用ワイヤ11が両ガイドローラ10A,10B間に巻回されることにより、当該ガイドローラ10A,10B間に前後方向に切断用ワイヤ11が並ぶワイヤ群12が形成されている。
【0024】
切断用ワイヤ11の両端は、それぞれ図外の繰出し・巻取りボビンにそれぞれ巻き付けられている。そして、各ボビンおよび前記ガイドローラ10A(又は10B)が図外の駆動モータにより駆動されるとともにその回転方向が正逆に切換えられることにより、一方側のボビンから切断用ワイヤ11が繰出されて他方側のボビンに巻き取られる状態と、その逆の状態とに切換わるように構成され、これにより、ガイドローラ10A,10B間に形成されるワイヤ群12が正逆方向に往復駆動(往復走行)されるようになっている。
【0025】
なお、本発明においてガイドローラの数は2本に限らず、3本以上のガイドローラの周囲にスラリWが巻回され、かつそのうちの2つのガイドローラ間に形成されたワイヤ群に対してワークが切り込み送りされるものであってもよい。
【0026】
ワイヤ群12のうちワークWが切り込み送りされる領域(作業領域Eと呼ぶ)よりも切断用ワイヤ11の走行方向(同図では左右方向)外側には、ワイヤ群12の上方に、それぞれワイヤ群12に対してスラリ(水溶性あるいは油性の分散液に加工用砥粒を混合した加工液)を供給するための二つ一組のノズル部材14a,14b(15a,15b)が配設されている。これらノズル部材14a,14b,15a,15bは、前後方向に延びるスリット状の液吐出口を有しており、この液吐出口からスラリを吐出することにより、ワイヤ群12の前後方向全体(切断用ワイヤ11の配列方向全体)に亘ってスラリを供給するようになっている。
【0027】
ノズル部材14a,14b、およびノズル部材15a,15bは、それぞれ切断用ワイヤ11の走行方向に一定間隔を隔てて配置されることにより、前記作業領域Eの両側、つまり切断用ワイヤ11の走行方向上流側および下流側(以下、それぞれ単に上流側、下流側という)のそれぞれ二箇所でワイヤ群12に対してスラリを供給するようになっている。特に、各組のノズル部材14a,14b、15a,15bのうち作業領域Eから離間する側のノズル部材14a、15aは、ガイドローラ10A,10Bの真上に配置されている。これによりワイヤ群12と併せてガイドローラ10A,10Bにスラリを供給し、同ローラ10A,10Bを冷却するようになっている。
【0028】
一方、前記ワイヤ群12の上方には、図外のコラムに対して昇降可能に支持されたスライダ20(本発明に係るワーク保持部材に相当する)が配置されている。このスライダ20の下端部には、ワークWを保持するワーク保持部22が設けられており、ワークWがこのワーク保持部22に保持されている。
【0029】
ワークWは、図示の例では半導体インゴットであって円柱状をなし、その上面にはワーク軸方向に延びるスライスベース23が固着されている。そして、このスライスベース23が前後方向を向く状態(すなわちワーク軸方向が前後方向となる状態)で、当該スライスベース23が前記ワーク保持部22に保持され、これによりワークWが前記ワーク保持部22に保持されている。
【0030】
ワーク保持部22のうちワークWの保持部分の両側、すなわちワーク軸方向と直交する方向におけるスライスベース23の両側(同図では左右両側)には、スラリの捕集部材30がそれぞれ設けられている。これらの捕集部材30は、後述するように、主にワイヤ群12対するワークWの切り込み送り終期にワイヤ群12に供給されて飛散するスラリを捕集する部材で、同図に示すように、ワーク保持部22の下端面22a、すなわちワークWの対向面の直ぐ下方に設けられることによって、ワーク保持部22とこれに保持される前記ワークWとの間に形成される隙間に配置されている。
【0031】
各捕集部材30は、図2および図3に示すように、前後方向に延びる底板31aを有し、この底板31aの幅方向両端(図2では左右両端)に一対の側板31bを、後端に側板31cをそれぞれ備えた上向きに開く樋型の形状とされている。そして、ワーク保持部22の下端面22aとの間に所定の隙間を隔てた状態で当該ワーク保持部22に固定されている。詳しくは、前記一対の側壁31bのうち、スライスベース23から離間する側の側壁31bに上方に延びる延設部が一体形成されており、この延設部がワーク保持部22の側面にボルト等で固定されることにより、捕集部材30がワーク保持部22から垂下した状態で固定されている。
【0032】
捕集部材30は、図3に示すように、その前端(同図では左端)が開放されているとともに、底板31aが所定角度θでその後端側から前端側に向かって先下がりに傾斜して設けられている。つまり、捕集したスラリを底板31aに沿って装置前側に流動させながら捕集部材30の前端から図外のスラリ回収部に流下させるように構成されている。なお、捕集部材30は、その前後両端がワイヤ群12の前後方向外側まで延設されている。
【0033】
次にこのワイヤソーの作用について説明する。
【0034】
図1の実線に示す状態で、ガイドローラ10A(又は10B)が回転駆動され、切断用ワイヤ11が軸方向に高速駆動されるとともに、各ノズル部材14a,14b、15a,15bから切断用ワイヤ11(ワイヤ群12)にスラリが供給された状態で、図外のワーク送りモータが作動し、スライダ20がゆっくり下降することにより、当該スライダ20に保持されているワークWがワイヤ群12に対して切り込み送りされる。これにより、ワーク軸方向に並ぶ多数本の切断用ワイヤ11がワークWに対して同時に切り込み、多数枚のウエハの切り出しが同時実行されることとなる。
【0035】
そして、ワークWの切り込み送りが進行して切り込み終期の段階に達すると、図2に示すようにワーク保持部22がノズル14b,15bの間に入り込む結果、ワーク保持部22と、ワークWと、ノズル部材14b,15bとの間にこれらに囲まれた空間Sが形成され、例えば、図1に矢印で示すように切断用ワイヤ11が走行している場合(往動時)には、上流側に配置されたノズル部材14a,14bから供給されたスラリが飛散しつつ切断用ワイヤ11の移動に伴いワークW側に送られ、同図に一点鎖線矢印で示すように、ワークWに沿って上記空間S内に舞い上がる(巻き上がる)こととなる。このように舞い上がったスラリは、ワーク保持部22に沿ってその下端面22aと捕集部材30との間に入り込み、捕集部材30の上流側の側板31b(固定部側の側板31b)に衝突しつつ流下して捕集部材30内に捕集される。そして、この捕集部材30の底板31aに沿って装置前側に流動し、捕集部材30の前端からスラリ回収部に流下して回収されることとなる。
【0036】
なお、上記の例は、切断用ワイヤ11が図中右方から左方に走行している場合(往動時)であるが、切断用ワイヤ11が左方から右方に走行する復動時には、切断用ワイヤ11の走行方向上流側に配置されたノズル部材15a,15bから供給されたスラリが同様に飛散することとなり、この場合には、当該上流側に位置する捕集部材30(図1,図2では左側の捕集部材30)によりスラリが捕集されることとなる。
【0037】
このようなワイヤソーによれば、ワークWの切り込み終期の段階で形成される上記空間S内で舞い上がったスラリを捕集部材30により捕集しつつ回収するので、舞い上がったスラリがワークWやワイヤ群12に再度供給されることに起因したスラリの過剰供給を有効に防止することができる。従って、このようなスラリの過剰供給に起因するトラブル、例えばワークWの過冷却による切断面の品質低下や、切断用ワイヤ11の過剰振動などによるワークの脱落といったトラブルの発生を未然に防止することが可能となり、その結果、ワークの切り出しをより精度良く行えるようになる。
【0038】
特に、上記のワイヤソーでは、捕集部材30の側板31bのうちスライスベース23とは反対側の側板31bに上方に延びる延設部を一体に設け、この延設部分をワーク保持部22に固定することにより、上記空間Sから外部へのスラリの飛散を防止しつつこの側板31bに衝突させて捕集するように構成されているので、上記空間S内で舞い上がったスラリを外部に逃がすことなく効率良く捕集することができる。従って、舞い上がったスラリがワークWやワイヤ群12に再度供給されることに起因する上記のようなスラリの過剰供給を効果的に防止することができる。なお、当実施形態では、このように側板31bが切断用ワイヤ11の走行方向における上流側と下流側とを遮蔽してスラリの外部飛散を防止する遮蔽板として機能するようになっており、つまり当実施形態では、この側板31bが本発明に係る遮蔽部材を兼ねた構成となっている。
【0039】
ところで、上述したワイヤソーは、本発明に係るワイヤソーの好ましい実施形態の一例であって、その具体的な構成は本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0040】
例えば、上述したワイヤソーでは、スライダ20(ワーク保持部22)に捕集部材30を設けているが、例えば、図4に示すように、ワイヤ群12の前記作業領域Eの直ぐ側方に位置するノズル部材14b,15bに捕集部材31を設けるようにしてもよい。具体的には、ノズル部材14b,15bのうち作業領域E側の側面に捕集部材31を組み付けるようにしてもよい。このような構成は、例えばワークWとして太陽電池のシリコン基板等、四角柱状のワークW等を切り出す場合に好適である。すなわち、ワークWが四角柱状の場合には、円柱状のワークWに比べてワークWとワーク保持部22(下端面22a)との間に形成される隙間が狭く、切り込み終期の段階での上記空間Sも小さいため、当該空間Sでのスラリの舞い上がりが問題となることがないが、太陽電池のシリコン基板等はウエハ厚みが非常に薄いため、飛散したスラリが再度ワークWやワイヤ群12等に供給されてワークWに過剰な衝撃が付与され、あるいは切断用ワイヤ11に過剰な振動が生じることによるウエハの脱落が生じ易い。従って、図4に示すように、ノズル部材14b,15bに捕集部材31を設けておけば、捕集場所は異なるが、図1のワイヤソーと同様に、飛散したスラリを効果的に捕集しつつ回収することができ、その結果、ワークWやワイヤ群12にスラリが再度供給されることに起因する上記のようなトラブルの発生を未然に防止することが可能となる。
【0041】
なお、このようにノズル部材14b,15bに捕集部材31を設ける構成は、必ずしも太陽電池のシリコン基板等、四角柱状のワークW等を対象とする場合に限らず、円柱状のワークWを対象とする場合にも勿論有効である。
【0042】
また、上記実施形態では、捕集部材30として樋型のものを用い、スラリを捕集しつつ捕集部材30の前端に流動させ、その末端から図外のスラリ回収部に流下させるようにしているが、捕集部材30の具体的な形状は、これに限定されるものではなく、飛散したスラリを効率良く捕集しつつ図外のスラリ回収部に回収できるものであればよい。但し、捕集したスラリが捕集部材30から溢れる等してワイヤ群12に落下すると、結局スラリの過剰供給となってしまうので、この点を考慮すると、上記実施形態のように、捕集したスラリをワイヤ群12の外側に速やかに流動させながら回収する構成は有効と言える。
【0043】
また、捕集部材30,31の固定方法も、図1や図4に示すようにスライダ20(ワーク保持部22)やノズル部材14b,15bに直接設ける必要はなく、可能な場合には、それ以外の部材に設けるようにしてもよい。
【0044】
また、実施形態のワイヤソーでは、ワーク保持部22のうちワークWの保持位置(スライスベース23の位置)の両側に捕集部材30を設けているが、これはワイヤソーが切断用ワイヤ11を正逆方向に往復駆動させるものであって、切断用ワイヤ11の走行方向によってスライスベース23の両側で上記のようなスラリの舞い上がり現象が発生するためである。従って、切断用ワイヤ11の走行方向が一方向のみのワイヤソーについては、ワークWの保持位置(切断用ワイヤ11の走行方向におけるワークWの中心)より上流側、つまり切断用ワイヤ11の走行方向上流側にのみ捕集部材30を設けるようにしてもよい。この点は、図4に示すワイヤソーの構成についても同様である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明に係るワイヤソーを示す模式図(正面図)である。
【図2】ワイヤソーを示す図1の要部拡大図である。
【図3】捕集部材の構成を示す図2のA−A断面図である。
【図4】本発明に係るワイヤソーの変形例を示す模式図(正面図)である。
【図5】従来のワイヤソーを示す模式図(正面図)である。
【符号の説明】
【0046】
10A,10B ガイドローラ
11 切断用ワイヤ
12 ワイヤ群
14a,14b、15a,15b ノズル部材
20 スライダ
22 ワーク保持部
30 捕集部材
W ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のガイドローラに巻回された切断用ワイヤにより形成されるワイヤ群と、ワークを保持し、前記ワイヤ群に対して相対的に移動することにより前記ワークをワイヤ群に対してその上側から切り込み送りするワーク保持部材と、前記ワイヤ群のうち前記ワークが切り込み送りされる作業領域よりも前記ワイヤの走行方向上流側に少なくとも配置され、前記ワイヤ群に対してその上方からスラリを供給するノズル部材とを備えたワイヤソーにおいて、
前記ワイヤ群の上方に配置され、前記ノズル部材から前記ワイヤ群に供給されることにより飛散したスラリを捕集可能な捕集部材を備えていることを特徴とするワイヤソー。
【請求項2】
請求項1に記載のワイヤソーにおいて、
前記捕集部材は、前記ワイヤの走行方向における前記ワークの中心よりも上流側に配置されていることを特徴とするワイヤソー。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のワイヤソーにおいて、
前記捕集部材は、前記ワーク保持部材に組み付けられていることを特徴とするワイヤソー。
【請求項4】
請求項3に記載のワイヤソーにおいて、
前記ワーク保持部材は、その下端に前記ワークを垂下した状態で保持するとともに、前記下端に前記ワイヤの走行方向に延びて前記ワークに対向する対向面を有し、この対向面と前記ワークとの間に隙間を形成した状態で前記ワークを保持するものであって、
前記捕集部材は、前記隙間に配置されていることを特徴とするワイヤソー。
【請求項5】
請求項4に記載のワイヤソーにおいて、
前記ワーク保持部材の前記下端に、当該下端から垂下して前記ワイヤの走行方向における上流側と下流側とを遮蔽する遮蔽部材が設けられ、前記捕集部材は、この遮蔽部材の前記走行方向における下流側に配置されるとともにこの遮蔽部材に付着して流下するスラリを捕集可能に設けられていることを特徴とするワイヤソー。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のワイヤソーにおいて、
前記捕集部材は、前記ノズル部材に組み付けられ、当該ノズル部材と前記作業領域との間に配置されていることを特徴とするワイヤソー。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れかに記載のワイヤソーにおいて、
前記捕集部材は、前記ワイヤ群を形成する前記ワイヤの並び方向に亘って設けられていることを特徴とするワイヤソー。
【請求項8】
請求項7に記載のワイヤソーにおいて、
前記捕集部材は、前記ワイヤの並び方向に亘って連続して設けられ、かつ捕集したスラリを前記並び方向に流動させるように形成されている
ことを特徴とするワイヤソー。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2007−273711(P2007−273711A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−97326(P2006−97326)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(391003668)トーヨーエイテック株式会社 (145)
【Fターム(参考)】