説明

ワイヤボンディング方法

【課題】半導体パッケージや電子部品の実装基板で用いられるワイヤボンディングの接合性を向上させる。
【解決手段】ワイヤ12の先端に形成されたボール14の表面にフェムト秒レーザを照射して縞状の第1の凹凸16を形成する。次に、ボール14を第1の電極20に接触させて超音波振動を印加しながら押し潰すことにより、ワイヤ12を第1の電極20にボンディングする。ここで、第1の凹凸16が延びる方向は、超音波振動の振幅方向に直交する。これにより、接合界面の結晶が微細化されるため、低荷重でも塑性変形がしやすく、金属拡散接合しやすくなり、接合性が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体パッケージや電子部品の基板実装で用いられるワイヤボンディング方法に関し、特に接合性を向上することができるワイヤボンディング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のワイヤボンディングでは、まず、キャピラリから導出されたワイヤの先端をアーク放電や火炎によって溶融させてボールを形成する。次に、ボールを第1の電極に接触させてキャピラリにより超音波振動を印加しながら押し潰して、ワイヤを第1の電極にボンディングする。次に、キャピラリにより加重及び超音波振動を印加することにより、ワイヤを第2の電極にボンディングする。この際に、第1の電極と第2の電極との間においてワイヤが屈曲部を有するループ状になる。
【0003】
なお、機械部品等の密着面の密着性を向上させるために、フェムト秒レーザを用いて密着面に微細周期構造を形成する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、ワイヤと電極との接合性を向上させることについては何ら開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許4092256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ワイヤボンドのボールは、溶融した後に大気中への自然放熱によって融点以下まで冷却されて凝固する。これは緩やかな凝固のため、結晶の寸法は数十μmにおよぶ場合が多い。結晶寸法が大きいと、荷重によるズレが生じやすい結晶粒界が少ないため、塑性変形しにくい。さらに、金属拡散速度の大きい粒界が少ないため、金属接合しにくい。
【0006】
特に、高密度実装を実現しようとするとワイヤボンドの狭ピッチ化が必要となり、ボールサイズが小さくなると、ボールに含まれる結晶の数が少なくなり、この傾向が顕在化する恐れがある。また、高密度実装の目的で半導体チップを積層する場合、チップが薄くなるため、チップ破壊を防止するために低荷重での接合が重要となり、塑性変形のしやすさが必須となる。
【0007】
また、半導体素子やプリント基板の電極は、めっきや蒸着により数μm以下の薄さで形成される。このため、電極の結晶寸法は1μm程度となることが多い。Au線をワイヤとして用いる場合、電極がAuであれば比較的良好な接合性が期待できる。しかし、ボールと電極で結晶寸法が大きく違う場合には、相互拡散が遅くなり、接合性が低下する可能性がある。
【0008】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、その目的は、接合性を向上することができるワイヤボンディング方法を得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ワイヤの先端に形成されたボールの表面にフェムト秒レーザを照射して縞状の第1の凹凸を形成する工程と、前記ボールを第1の電極に接触させて超音波振動を印加しながら押し潰すことにより、前記ワイヤを前記第1の電極にボンディングする工程とを備え、前記第1の凹凸が延びる方向は、前記超音波振動の振幅方向に直交することを特徴とするワイヤボンディング方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、接合性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態に係るワイヤボンディング方法を説明するための断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るワイヤボンディング方法を説明するための断面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係るワイヤボンディング方法を説明するための断面図である。
【図4】本発明の実施の形態に係るワイヤボンディング方法を説明するための断面図である。
【図5】本発明の実施の形態に係るワイヤボンディング方法を説明するための断面図である。
【図6】本発明の実施の形態に係るワイヤボンディング方法を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態に係るワイヤボンディング方法について図面を参照しながら説明する。図1〜6は、本発明の実施の形態に係るワイヤボンディング方法を説明するための断面図である。
【0013】
まず、図1に示すように、キャピラリ10から導出されたワイヤ12の先端に、照射出力を大きくしたフェムト秒レーザを照射して溶融させて、ボール14を形成する。
【0014】
次に、図2に示すように、ワイヤ12の先端に形成されたボール14の下半分の表面にフェムト秒レーザを照射する。ここで、例えばフェムト秒レーザの波長を800nm、パルスエネルギーを1mJ、繰り返しを1kHz、パルス幅を200fsとする。これにより、ボール14の表面に、1μm以下の縞状の第1の凹凸16が形成される。この凹凸は、ボール14の表面に形成されたリップル又はナノ周期構造である。
【0015】
この際に、レーザ光の出力を制御することで、ボール14の溶融状態から一旦冷却されて固体化する前に表面に第1の凹凸16を形成する。これにより、凝固に伴う残留応力を低減させ、信頼性の高いワイヤボンド部を形成することができる。
【0016】
次に、図3に示すように、半導体チップ18上に形成された第1の電極20の表面に、フェムト秒レーザを照射して縞状の第2の凹凸22を形成する。この際に、第1の凹凸16の形成時とレーザの波長を同じにし、更に好ましくは第1の電極20の構造、材質、厚み、及びメタライズの製法などに応じてレーザの波長及び出力を調整して、第1の凹凸16と第2の凹凸22をほぼ等しい寸法(周期)にする。
【0017】
次に、図4に示すように、ボール14を第1の電極20に接触させてキャピラリ10により超音波振動を印加しながら押し潰す。これにより、ワイヤ12を第1の電極20にボンディングする。ここで、第1の凹凸16及び第2の凹凸22が延びる方向は、超音波振動の振幅方向に直交する。これにより、低荷重でも良好な接合性を得ることができる。なお、半導体チップ18はプリント基板24上に搭載されている。プリント基板24上には第2の電極26が形成されている。
【0018】
次に、図5に示すように、ワイヤ12の屈曲部(後述)となる部分にフェムト秒レーザを照射して屈曲方向に直交する縞状の第3の凹凸28を形成する。また、1回目のワイヤボンディングと同様に、ワイヤ12のボンディング部分及び第2の電極26の表面にフェムト秒レーザを照射して、超音波振動の振幅方向に直交する縞状の凹凸を形成する。
【0019】
次に、図6に示すように、キャピラリ10により加重及び超音波振動を印加することにより、第2の電極26にワイヤ12をボンディングする。この際に、第1の電極20と第2の電極26との間においてワイヤ12が屈曲部30を有するループ状になる。なお、プリント基板24はホットプレート上に置かれ、加熱された状態である。
【0020】
以上説明したように、本実施の形態では、ボールの表面にフェムト秒レーザを照射して、超音波振動の振幅方向に直交する縞状の凹凸を形成する。これにより、接合界面の結晶が微細化されるため、低荷重でも塑性変形がしやすく、金属拡散接合しやすくなり、接合性が向上する。
【0021】
また、レーザを照射して接合部のワイヤや電極の温度を上昇させることで、塑性変形しやすくなり、接合性を高めることができる。さらに、塑性変形に伴う残留応力を低減することもできる。
【0022】
また、ワイヤボンドする電極の表面にもレーザを照射することにより、ボールの表面と結晶寸法を揃えて接合性を高めることができる。さらに、第1の電極の構造及び材質などに応じてレーザの波長及び出力を調整することで、第1の凹凸と第2の凹凸をほぼ等しい寸法にすることができる。
【0023】
また、ボールの形成と凹凸の形成を同じレーザによって行うことで、生産性を改善することができる。
【0024】
また、ループ状のワイヤの屈曲部にもレーザを照射することで、塑性変形に伴う粒界を起点としたクラックの発生を抑制することができる。
【0025】
なお、フェムト秒レーザの光源として、例えばCyber Laser社製の光源を用いる。ただし、リップル形成可能なレーザであれば他の波長・出力のレーザでも同様の効果が得られる。また、ワイヤは例えばAu線だが、AlやCuなど他の金属ワイヤでも同様の効果が得られる。また、明確な縞状の凹凸(ナノ周期構造)が形成されなくても、レーザを照射された最表面の結晶寸法が微細化されれば同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0026】
12 ワイヤ
14 ボール
16 第1の凹凸
22 第2の凹凸
26 第2の電極
28 第3の凹凸
30 屈曲部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤの先端に形成されたボールの表面にフェムト秒レーザを照射して縞状の第1の凹凸を形成する工程と、
前記ボールを第1の電極に接触させて超音波振動を印加しながら押し潰すことにより、前記ワイヤを前記第1の電極にボンディングする工程とを備え、
前記第1の凹凸が延びる方向は、前記超音波振動の振幅方向に直交することを特徴とするワイヤボンディング方法。
【請求項2】
前記第1の電極の表面にフェムト秒レーザを照射して縞状の第2の凹凸を形成する工程を更に備え、
前記第2の凹凸が延びる方向は、前記超音波振動の振幅方向に直交することを特徴とする請求項1に記載のワイヤボンディング方法。
【請求項3】
前記第1の電極の構造及び材質に応じて前記フェムト秒レーザの波長及び出力を調整して、前記第1の凹凸と前記第2の凹凸をほぼ等しい寸法にすることを特徴とする請求項2に記載のワイヤボンディング方法。
【請求項4】
前記第1の凹凸を形成する前に、前記ワイヤの先端にフェムト秒レーザを照射して前記ボールを形成する工程を更に備えることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のワイヤボンディング方法。
【請求項5】
前記ワイヤを前記第1の電極にボンディングした後に前記ワイヤを第2の電極にボンディングして、前記第1の電極と前記第2の電極の間において前記ワイヤが屈曲部を有するループ状になるようにする工程と、
前記ワイヤを前記第2の電極にボンディングする前に、前記ワイヤの前記屈曲部となる部分にフェムト秒レーザを照射して屈曲方向に直交する縞状の第3の凹凸を形成する工程とを更に備えることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載のワイヤボンディング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−181839(P2011−181839A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−46935(P2010−46935)
【出願日】平成22年3月3日(2010.3.3)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】