説明

ワークピース製造用の担体材料

【課題】空隙があるワークピースのプレースホルダに用いられる担体材料であって、除去が簡単で費用効果の高いものを提供する。
【解決手段】担体材料は腐食性材料から成り、該腐食性材料は、マグネシウムと、標準電極電位が反応条件下においてマグネシウムの標準電極電位よりも大きい少なくとも1つの追加される金属成分との混合物又は合金である。本発明において、該担体材料は機械的加圧法によって圧密化される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つの空洞、くぼみ、切欠き、開口、溝又は任意の他の充填されていない部分を有するワークピース(製作品)の製造方法、及びそれに適する担体材料に関する。
【背景技術】
【0002】
空洞、くぼみ、切欠き、アンダーカット、開口等の充填されていない部分を有するワークピースは、種々の方法により製造することができる。空洞、くぼみ、切欠き、アンダーカット、開口等の充填されていない部分は、簡潔にするために以下「空隙」と概して称する。この用語は、アンダーカット等の、壁により完全に囲まれていない空間も含む。
【0003】
複雑な形状を製造する1つの好適な方法は、層(あるいは膜)を順次噴霧し、これらの層で成形体を形成するものである。完成した成形体の空隙を設ける位置には、成形体を完成した後に除去できる材料を使用する。かかる方法においてある材料が使用できるようになるには、その材料は、成形体の完成後に空隙を形成させるため除去可能でなければならない。ここで、除去は簡潔且つ費用効率の高いものでなければならない。
【0004】
通常は、形状が完成された後に溶解除去することができる可溶性材料を使用する。したがって、入手及び廃棄が容易な水性媒体の使用が望まれている。
【0005】
「プレースホルダ」(場所の確保部)として使用される可溶性材料は、「ロストコア」(除去されるコア部)又は「ロストモールド」(除去される鋳型部)とも称される。
【0006】
ロストコアに使用される材料は、種々の要件を満たしていなければならず、とりわけ、機械的応力及び熱的応力に耐性がなければならない。ロストコアに使用されることが望まれる可溶塩は、これらの要件を満たしていない。塩は、溶解性及び入手し易さから関心の高い材料であるが、溶射、コールドガススプレー又は圧密化など機械的応力を伴う方法ではそれらの脆性から使用することができない。それらの脆性から、塩はそのような方法によって生じる機械的応力に耐えることができない。
【0007】
それゆえ、一方でワークピースの製造中の機械的応力に耐えることができ、他方で完成後にワークピースを破壊することなく除去可能な他の材料を見出す必要がある。
【0008】
特許文献1は、少なくとも1つの空洞を有する成形体を製造するためのアルミニウム合金又はマグネシウム合金から成る水溶性コアについて提案している。この出願の主題は、一方で機械強度が十分に高く、他方で溶解性については、後でコアを溶解除去するのに十分なものとなるように、酸化物含量が調節されたマグネシウム合金又はアルミニウム合金を使用することである。この目的を達成するために、合金を使用すること、及び高い比率の酸化物を合金に添加することが必要であった。
【0009】
成形体の完了後、上記合金は、水又は酸性溶液若しくはアルカリ性溶液により溶解除去される。この既知の材料はすべての種類の成形法に適するものでないことが分かっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】独国特許第19716524号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、任意の形状に成形することができ、ロストコアを形成する略あらゆる成形法に使用することができ、成形体の完了後に適切な努力で実質的に成形体を損傷させることなく除去可能であり、且つその除去が可能な限り環境に負担をかけない担体材料を提供することである。この材料は、極めて複雑又は繊細な形状、例えば、狭いチャネルが対象であっても除去することができる。
【0012】
また、本発明の目的は、溶射法、特にキネティックスプレー又はコールドスプレーによっても加工することができる、すなわち、機械的応力に十分耐性があり且つ入手し易い材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
これらの目的は、少なくとも1つの空隙を有するワークピースを作るときにプレースホルダとして用いることができる担体材料であって、腐食性材料から成り、該腐食性材料が、マグネシウムと、標準電極電位が反応条件下においてマグネシウムの標準電極電位よりも大きい少なくとも1つの追加される金属成分との混合物又は合金であり、該材料が機械的な加圧法によって圧密化された担体材料により達成される。
【0014】
驚くべきことに、マグネシウムと反応条件下においてより高い標準電極電位を有する追加的な金属成分とを含む腐食性材料が、水又は水性媒体と接触すると非常に速くその構造を失い、マグネシウムが溶解し且つ存在する他の金属が、場合により少なくとも部分的に粒子の形態になって残存することが見出された。本発明の材料は、興味深い特性が組み合わされた構造を特徴としている。一方で材料は、多くの種々の方法においてプレースホルダとして機能する十分な強度を持っている。このプレースホルダは、例えば、成形及び/又は加工中に生じる機械的応力又は熱的応力に耐えることもできる。他方、材料は、腐食液と接触すると非常に速く溶解する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の説明において、「腐食」とは、より高い標準電極電位を有する追加される金属成分の存在下におけるマグネシウムと液体媒体との電気化学反応を指し、この反応によりマグネシウムの広範且つ完全な溶解がもたらされると共に気体が生成される。イオンを含有する液体は腐食媒体と称され、より高い標準電極電位を有する追加される金属成分の存在下における電気化学反応に基づきマグネシウムを溶解する。
【0016】
「より高い標準電極電位」という用語は常に、反応条件下(溶液中の温度、圧力、イオンの種類及びその量等)におけるマグネシウムと比較したある金属成分の標準電極電位に関するもので、電気化学列における位置に関するものではない。
【0017】
マグネシウム及び腐食媒体の腐食反応は加えられる金属成分の存在下でも起こる。「金属成分」という用語は、特に、マグネシウムの腐食反応を促す金属又は金属合金を指す。
【0018】
本発明の材料の有益な特性は、一方ではマグネシウム及び加えられる金属成分の金属特性及び機械特性からもたらされ、他方では特定の条件下におけるマグネシウムの腐食能からもたらされる。
【0019】
理論的なことは別として、例えばプレースホルダの成形中に生じる、マグネシウムを含有する本発明の材料の機械的な加圧処理(例えば、圧密化)に起因して、マグネシウム金属を保護する酸化マグネシウム層又は水酸化マグネシウム層は崩れ、このため、腐食液と接触することになり、マグネシウム粒子又はマグネシウム構造が極めて容易に攻撃を受けて、腐食がより速くなることが考えられる。他方、加えられたより耐食性のある(イオン化傾向の小さい)成分が、圧密化の処理によって、マグネシウム又はマグネシウム合金と密接に接触すると腐食反応が非常に速く起こり得る。
【0020】
マグネシウムと、マグネシウムと同様の反応条件下においてより高い標準電極電位を有するか、又は言い換えるとマグネシウムよりもより耐食性のある加えられた金属成分と、を含む金属粉末の場合、一般的には水又は水性媒体である腐食媒体と接触させると所望の速度で溶解が起こることが分かった。この反応は、多量のイオンを含有する溶液を使用している場合に特に強力である。それ自体は既知であるこの腐食性を本発明に利用することで、ワークピースの完成後に担体材料を簡潔な方法で且つ比較的環境に優しく除去することができる。
【0021】
この目的のために、ワークピースの完成後にプレースホルダを除去するため担体材料を腐食媒体と接触させる。ここで、マグネシウムが溶解し、未溶解の担体材料がマグネシウムを含有する媒体と共に、形成したモールドから続いて洗い流される。
【0022】
理論的なことは別として、金属粉末の圧密化により、粒子が電気化学反応を促進させるように十分に接触している材料が作られると考えられる。同時に、粒子を囲む保護層は反応が起こり且つその反応を妨げない程度で、できるだけ応力又は変形により破壊される。いずれの場合にも、金属粉末が圧密化形態で存在する場合には、溶解が、腐食媒体、一般的には水又は水性媒体を用いて所望の速度で達成されることを確認した。本発明の担体材料によれば、特に溶解反応速度が選択でき調節できる。しかしながら、この場合、高い多孔率を有する粉末混合物が使用され、かかる粉末混合物は、添加される水を吸収して、制御不可能な反応をもたらすことがある。
【0023】
このことから本発明によれば、多孔率が20体積%以下、好ましくは5体積%以下である材料を使用することが好ましい。特に、好適な実施形態では、多孔率は1%未満である。
【0024】
事前に圧密化されている本発明の材料、すなわちマグネシウムを含有する混合物又は合金が、腐食媒体、好ましくは導電性水性媒体と接触すると、マグネシウムは少なくともかなりの程度にまで溶解する。本発明によれば、この作用は、混合物を腐食材料と接触させ、且つ担体材料、及び溶液中にマグネシウムを含有する媒体を続いて洗い流すことによって、ワークピースの完成後に形成されたモールドから担体材料を除去するのに用いられる。
【0025】
驚くべきことに、さらに、高い機械的負荷能力を有する材料を、担体材料として金属粉末の形態で使用することができ、またこの材料が完成後に容易に除去可能であることが見出された。この材料は、多くの方法で、特にロストコアとして使用することができる。本発明の担体材料は、空洞、くぼみ、切欠き、アンダーカット又は開口を有するワークピースを製造するのに適しており、特に溶射法を用いて中空体、又はアンダーカットを有するワークピースを製造するのに好適である。
【0026】
マグネシウムの溶解速度は種々のパラメータによって決まるため、標準的な手段を使って、それぞれ最適な材料又は最適な条件を見つけ且つ使用することが可能である。溶解に影響を与えるパラメータは、とりわけ、温度、金属の組合せ、溶解に用いられる媒体に含有されるイオンの種類及びその量、面積比、及び表面の機械的負荷、並びに水素過電圧である。
【0027】
温度が高いほど反応が速くなるため、温度は重要なパラメータである。金属と水との電気化学反応は発熱をもたらす。それゆえ、溶解速度は、必要又は所望すれば、反応の温度を制御することにより調節することが可能である。したがって、反応は、熱を供給することによって及び/又は場合により熱を放出させることによって調節することができる。最も簡単には、熱の供給及び放出は、溶媒として相応しく余熱した媒体を用いることによって実施される。
【0028】
別の重要なパラメータは、担体材料に用いられる金属の組合せである。本発明によれば、マグネシウム合金、又はマグネシウムと少なくとも1つの加えられた金属成分との混合物が使用される。添加される金属によって、マグネシウムを腐食する反応は強くなるか弱くなる。加える金属(複数可)を選択することにより、溶解速度に影響を与えることができる。
【0029】
マグネシウムはかねてから、単独で、特定の条件下において、とりわけ、イオンを含有する溶液に曝されると腐食する傾向にあることが判明している。しかしながら、マグネシウムに比べてより耐食性のある、すなわちマグネシウムよりも高い標準電極電位を有する少なくとも1つのさらなる金属成分を合金又は混合物に添加すると、腐食性を増大させることができる。腐食媒体を添加することにより起こる腐食反応の条件下においてマグネシウムよりも高い標準電極電位を有する各金属はこのため、本発明の担体材料として適する。より低い水素過電圧を有する金属、及び特に金属である鉄、ニッケル及び銅は、腐食性に特に強力な影響を与える。このような金属はそれゆえ好ましくは、単独で又はマグネシウムと組み合わせて混合物又は合金として本発明の担体材料に含まれる。マグネシウムと鉄との組合せが特に好ましい。
【0030】
別の重要なパラメータは、担体材料にかかる機械的応力である。本発明の担体材料は、圧密化によって、マグネシウムと少なくとも1つの加えられた金属成分とから成る。材料及びそれゆえ個々の粒子を、成形前又は成形中に強く加圧している場合に、腐食が非常に速く進行することが見出された。理論的なことは別として、これは、場合により存在する、マグネシウムを保護する水酸化物層又は酸化物層が、応力により乱されるか又は破壊されることの結果であると思われ、このため、腐食による攻撃がその後より速くより強力に起こったと思われる。
【0031】
好ましくは粉末状の2つの金属から成る、すなわち、マグネシウムとある金属成分とから成る混合物又は合金を溶射により形成することが特に好適であることが判明した。溶射により形成する場合、個々の粒子を圧密化して密接させることになる。したがって、この方法は、少なくとも2つの金属粉末(一方がマグネシウムである)の組合せを使用する場合に特に好適である。また、この方法により多孔率が低減する。
【0032】
腐食反応を促進させることができる別のパラメータは、溶解に使用される腐食(好ましくは水性)媒体に含まれるイオンの割合及びイオンの活性である。より多くの活性アニオンがあれば、マグネシウムの腐食、及びそれによる溶解が速く起こることが見出された。この状況では、とりわけ、塩化物イオン、硝酸イオン及び硫酸イオンが特に反応性がある。かかるイオンは、溶解を促進させる容易に溶解可能なマグネシウム塩の形成をもたらす。
【0033】
腐食反応はまた、水溶液の導電性による影響を受け、導電性はさらに、イオンの割合による影響を受ける可能性がある。高い導電性を有する、すなわちイオンの割合が大きい水性媒体は高速溶解をもたらす。したがって、大量のイオンを有する水性媒体を溶解に使用することが好ましい。最も好ましいのは、入手し易さ及び高い費用効率から、塩化ナトリウムを含有する溶液を使用することである。海水は例えば極めて好適な媒体である。経済的理由及び環境上の理由から、他のプロセスで生じるイオンを含有する廃水も極めて有益であり、これらの廃水はこれによって上手くリサイクルすることができる。
【0034】
腐食反応に影響を与える別のパラメータは、陽極粒子と陰極粒子との面積比、及び陽極粒子と陰極粒子との距離である。陽極と陰極との距離の短縮は、本発明の担体材料の構造を作り出す圧密化処理によって達成することができる。また、個々の成分の割合はこのパラメータに影響を与える。
【0035】
腐食はまた、水素過電圧によって影響を受ける。マグネシウムと組み合わせると、より低い水素過電圧を有する金属は有効な陰極となり、したがって反応を促進させることが見出された。より低い水素過電圧を有する金属としては、ニッケル、銅及び鉄が挙げられ、それゆえ、これらが好ましい。
【0036】
溶解速度及び反応の進行に影響を与える別のパラメータは、媒体の動きである。媒体が反応の開始後に動くと、マグネシウム粒子上の水酸化マグネシウムから成る塗工層の連続的な形成が抑制されるため、腐食がさらに促進される。
【0037】
本発明によれば、このため、上記パラメータを調節することによってマグネシウムを溶解する反応の進行を選択的に調節することができる。これに伴い、上記パラメータの1つ又は複数を調節して、速度をプロセスに適応させることができる。
【0038】
本発明の担体材料を用いたワークピースの製造を説明するために、発明を限定するものではないがスプレー法について言及する。優れた機械特性及び化学特性から、本発明の担体材料は、あらゆる種類の成形法に利用可能である。本発明の材料は特に、その成形性、機械加工性、精密な外形を有する層の形成、撮像特性、及び他の材料との適合性の観点で、卓越している。本発明の材料は、特に複数の層で形成されたモールドをその後、機械的に後処理して、アンダーカットなどあらゆる種類の空隙用のプレースホルダとして機能させる単純な成形体及び複雑な、また繊細な成形体をあらゆる種類の材料で成形する場合に、使用することができる。
【0039】
複雑なあるいは繊細なモールドは、機械的処理、通常の機械加工によって材料から形成することができる。本発明の担体材料により形成される複数の層は、基材上に設けられ付着して外形を維持する。このため、本発明の材料は多くの方法で使用することができる。
【0040】
空隙を有するワークピースをスプレーによって製造する場合、成形体は複数の層で構成され、本発明の材料は、後に空隙又はアンダーカットを形成することが意図される領域に付着し、ワークピースの完成後に洗い流すことができる。担体材料を形成する混合物又は合金は、金属粉末又は合金から得られる圧密化した材料が、焼結形態でも存在するように処理される。少なくとも2つの金属の金属粒子が密接することが重要である。
【0041】
「実際の」合金を鑑みても、圧密化は重要である。合金は、少なくとも2つの成分から成り、且つ少なくとも1つの金属を含み、合金の第2の成分が、この金属に溶解するか若しくはこの金属に均質に分布するか、又はこの合金に富んだ第2の相を得るように限定的に溶解されるに過ぎない材料である。いずれの場合にも、合金の第2の成分又はさらなる成分も金属である場合には金属間化合物(すなわち、1つの金属の原子が他の金属のマトリクス中に含まれるもの)に関心がある。合金のマクロ的性質は個々の金属粉末のものと異なる。本発明によれば、圧密化された材料が腐食反応に必要な反応性及び密接な接触をもたらすので、圧密化された材料を使用することが必要不可欠である。
【0042】
本発明の担体材料は、マグネシウム粉末と、マグネシウムに比べてより耐食性の金属又は金属化合物の少なくとも1つの追加される粉末を含有し、好ましくは、マグネシウム及び金属若しくは金属粉末だけを実質的に含むものである。これらの2つの成分の間の電位差により、腐食媒体、特に水又は水性媒体の添加が、酸化還元反応をもたらし、あまり耐食性がない金属であるマグネシウムが溶解するという作用を有する。
【0043】
金属に加えて、さらなる所望の特性を追加するためさらなる成分を含有させることができる。該成分は、構造の形成や電気化学的腐食性を妨害しないという条件付きであれば、多くの種々の材料から選択することができる。例えば、電気化学反応に関して不活性であるさらなる材料を添加することができ、これは機械特性には影響を及ぼす。例えば、より硬い材料を第3の成分として添加して、キネティックな圧密化時の付着性を向上させることができる。さらに、反応の開始及び/又は進行に影響を与えるために、電気化学反応に触媒作用を及ぼす材料をさらなる成分として添加することも可能である。これは、電気化学反応に影響を及ぼさないという条件付きであれば、貯蔵中に粉末を安定化させる物質、例えば石灰であってもよい。さらなる成分を本発明の担体材料に使用する場合、その含量は25体積%を超えてはならない。最適量はそれぞれ、日常実験により当業者によって確定することができる。含める量は、構造の形成及び反応の進行を妨げるほど大きいものであってはならない。他方、この量は所望の効果を得るのに十分なものでなければならない。
【0044】
本発明の材料を形成する金属粉末は、粒径及び粒形を考慮すると多種多様である。粒子の形状は重要ではなく、球形及びフレーク形状又は他の形態を検討することができる。粒子が、充填すべき空隙よりも大きいものであってはならないという条件が合えば、粒径は重要ではない。溶射に関して、0.5mmまでの粒径を有する粒子を処理することができる。好ましくは0.25mmまでの粒子を使用する。
【0045】
溶解挙動も、粉末の粒径により影響を受ける可能性があるため、通常の実験により、各用途に最適な材料を選択することができる。さらに、圧密化の挙動及び構造は、両粉末の粒径の選択及びそれらの割合による影響を受け得る。このため、粒径は、構造及び溶解を鑑みて所望の特性が得られるように、1つの粉末又はそれらの両方について適宜選択することができる。
【0046】
ワークピースを完成させたら直ぐに、腐食媒体を添加する。腐食媒体は、腐食反応を促すいずれの液体であってもよい。通常、腐食媒体は、マグネシウムを酸化させて且つ水酸化物イオンと同時に水素を生成する酸化還元反応を開始及び促進させるイオンを含有する水又は水溶液である。これに伴い、担体材料の一部を溶解し、その構造を破壊して未溶解粒子を放出させる。これらの粒子はその後、溶解状態のマグネシウムを含有する溶液と共に洗い流される。気体が形成されるため、狭いチャネル又は繊細な空洞が関係していても、反応を進行させ続けるのに十分な動きが生じる。
【0047】
本発明の電気化学反応において、使用される材料及び媒体に応じpH値を酸性又はアルカリ性領域に移行させてもよい。ワークピースを製造するのに、酸性又はアルカリ性pH値において腐食性がある材料を使用する場合、ワークピースの材料の腐食が防止されるように、それに応じた担体材料及び/又は腐食媒体を選択し、それによってこれらの材料を保護することができる。例えば、モールドを形成する材料が鋼であれば、この場合アルカリ性溶液が或る程度さび止めとして機能するため、アルカリ性溶液を生成させるのが有益である。他の材料の場合には、使用された媒体によって得られるわずかに酸性のpH値が好まれ得る。
【0048】
それゆえ、本発明によれば、担体材料は一部分しか溶解しないが、水と接触しても構造が破壊されるので、この一部分の溶解でも材料を完全に洗い流すのに十分なものである。この目的のために、好ましくは可能な限り純粋な状態で用いられる、少なくともマグネシウム及び追加される金属成分が必要である。本発明の文脈で「純粋」とは、粉末が、妨害要因となる不純物をせいぜい少量しか含有しないことを意味する。
【0049】
溶射などを使用して圧密化された構造に2つ以上の成分が存在する場合、最良の結果を得ることができることが見出された。このような構造は好ましくは、溶射、コールドガススプレー及び/又はキネティックスプレーにより生成される。この方法により、粒子が高密度なマトリクスを形成する構造が得られる。好ましくは、このような方法により使用される材料は、20%未満、特に好ましくは5%未満、及びより好ましくは1%未満の多孔率を有する。材料の多孔率、それに伴う開孔の割合が大きくなれば、担体材料は水性媒体を吸収するであろうし、反応条件及び反応物質に応じて、望ましくない高い気体圧力を伴う無制御反応が起こるほど急速に溶解するであろう。なお、水酸化物の形成による体積の増大のために、未溶解粒子の除去が妨害されるおそれがある。
【0050】
複数の金属でできたマトリックスは、粒子の表面が、水を添加すると電気化学反応を促進するよう十分に接触していて高密度であることが理想的である。
【0051】
金属粉末は、電気化学反応が所望の範囲で進行することを確実なものとする量が使用される。腐食媒体を添加すると、マグネシウムが少なくとも部分的に溶解するのに対し、加えられる成分(複数可)は粉末として残る。したがって、生成された材料、すなわち実質的に金属粒子を洗い流すことができる程度まで事前に圧密化して形成された構造が、マグネシウムの溶解により溶解又は破壊される程度に、マグネシウムが存在していなければならない。
【0052】
他の金属の割合が多過ぎると、担体材料を除去するのが難しくなる。他方、電気化学反応が速く進行し過ぎるほど、より耐食性の金属(複数可)の割合を少なくし過ぎるべきではない。マグネシウムとさらなる成分との体積比が、250:1〜1:10の範囲であるのが適当である。好ましくは、金属粉末は、5:1〜1:10、好ましくは3:1〜1:3の体積比でマグネシウムとより耐食性のある金属とが組み合わせられる。マグネシウム粉末と「より耐食性のある」成分とはおよそ等しい体積比で組み合わせられることが特に好ましい。
【0053】
腐食媒体と接触すると、マグネシウムの溶解によって、構造物が解離して、担体材料を洗い流すことができるという作用をもたらす。この目的のために、上記に説明したような、マグネシウムを腐食させる任意の液体が使用できる。腐食媒体、水性媒体が好ましが重要ではなく、水を主体とした任意の媒体がこの目的には適する。電気化学反応に影響を与える物質が水に含まれないことに注意しなければならない。好ましくは、電気化学反応を促進させる水性媒体、特にイオンを含有する溶液が使用される。イオンを含有する酸性、中性及びアルカリ性の溶液、例えば塩溶液が好適である。希酸又は希塩基を使用してもよい。また、廃水として得られる、イオンを含有する媒体も好適である。これらは、環境上の理由及び経済的理由から好ましい。したがって、好ましくは塩を含有している、水道水及び他のプロセスからの廃水は、酸化還元反応に影響を及ぼさない限り使用することができる。
【0054】
本発明の別の主題は、とりわけアンダーカット、空洞、くぼみ又は切欠きなど少なくとも1つの空隙を有するワークピースを製造する方法であり、該方法では、この空隙を形成する空間が完成後に洗い流される担体材料で充填されている。この担体材料は、請求項1で規定される材料である。
【0055】
本発明の担体材料は、空洞又はアンダーカットを有するワークピースを形成する成形法におけるロストコアを形成するのに極めて好ましいことが判明した。本発明の担体材料は、その機械的負荷能力が卓越しているため、機械的負荷能力が必要とされるいずれの場所でも使用することができる。また、本発明の担体材料は、成形プロセス、特に機械加工プロセスによって処理すれば複雑な形状を形成することができる。
【0056】
本発明の担体材料は、溶射、キネティックな圧密化又はコールドスプレーを用いて処理するのに特に適する。
【0057】
本発明の材料は、溶射により層状構造が形成された後に、その層を機械加工により後処理してワークピースを製造する方法に使用することが特に好ましい。
【0058】
本発明によれば、ワークピースを製造する方法が提供され、該方法では、構造が溶射、キネティックな圧密化又はコールドガススプレーにより生成され、最終成形体において空隙が形成されることが意図される部分は、本発明の担体材料により形成され、この担体材料は、ワークピースの完成後に腐食媒体と接触させて除去される。
【0059】
本発明の担体材料は、プレースホルダを要する他の方法にも使用できるが、溶射を使用した方法に特に好まれる。好ましくは、溶射はキネティックスプレーにより行われる。
【0060】
驚くべきことに、本発明の担体材料は、ロストコアを形成するのに極めて適切であることが確認された。本発明の担体材料は、種々な形状を形成するのに使うことができる。ワークピースの完成後、電気化学反応を適切に進行させるために、この材料を使って生成されたマトリックスは、腐食媒体と接触させて電気化学反応により破壊され、また電気化学反応中に生成される気体により得られる動きによって、十分な水との置換が起こる。マトリックスの破壊後に残る金属粉末はその後、得られる溶液と共に容易に洗い流すことができ、場合によってはリサイクルすることができる。
【0061】
電気化学反応とマグネシウムの溶解及び構造の破壊とは、好ましい実施形態では、水性媒体を添加している間と添加後に媒体の動きを生じさせることによって進行させることができる。これは、例えば、ワークピースを動かすことによって、又は超音波処理によって行うことができる。
【0062】
本発明によれば、機械的負荷能力、並びに靭性及び電気化学反応性によって、理想的な性質を持つ担体材料が提供される。また、スプレー法(吹き付け)によって複数層からなるワークピースを構築し、担体材料を次に洗い流すことによってさらに複雑なくぼみ、空洞、切欠き、開口、アンダーカット又は他の未充填部分を形成することが可能であるため、極めて複雑な形状を作製する方法が可能となる。
【0063】
驚くべきことに、上記の本発明の材料は、あらゆる種類のプレースホルダに極めて適することが分かった。本発明の担体材料は、有益な機械特性及び電気化学特性のために、或る一定期間、空間を空の状態に保ち、その後プレースホルダ材料を除去することを必要とする場合にも使用することができる。特に本発明の担体材料は、プレースホルダが、例えば応力を受けるなどその機能において機械的な加圧をうける場合に適する。したがって、空洞を有するワークピースを製造する上記の用途以外に、本発明の担体材料は、あらゆる形の柄、スペーサ、プレースホルダ及びロストコアとしても使用することができる。
【0064】
この目的のために、マグネシウムと、鉄、ニッケル又は銅の少なくとも1つの金属と組合せて使用することが特に好ましい。とりわけ、これらの組合せは、機械的負荷能力と腐食性とを最適な組合せにする特徴がある。マグネシウムと鉄との組合せは、担体材料を溶解させると、マグネシウム又は腐食によって得られるその分解産物と鉄とのみを含む水性懸濁液が得られるため、特に好ましい。この組合せは、無公害性であり、環境を害することなく廃水として容易に廃棄するか、又はリサイクルすることができる。鉄に加えて又は鉄の代わりに他の金属を使用する場合には、得られる溶液を廃棄前に再生利用することが要求される場合がある。
【0065】
本発明の担体材料が特に有益であるのは、この溶解後に生成される生成物の機械特性及び環境適合性のためである。
【0066】
既に上述したように、マグネシウムと、鉄、ニッケル及び銅から選択される少なくとも1つの追加される金属成分とから成る本発明の担体材料は、機械的な加圧法により圧密化される。上記に説明したような方法、及び上記に説明したような成分の割合は、一般にプレースホルダとしての担体材料の使用にも適用可能である。また、プレースホルダからの除去も、上記に説明したように、すなわち、イオンを含有する水溶液、特に活性アニオンを含有する水性媒体により行われる。この状況では、塩化物イオン、硝酸イオン及び/又は硫酸イオンを含む水性媒体が好適である。良好な入手し易さから、例えば、海水が極めて好適な媒体である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの空隙を有するワークピースのプレースホルダとして用いられる担体材料であって、腐食性材料から成り、前記腐食性材料が、マグネシウムと、標準電極電位が反応条件下においてマグネシウムの標準電極電位よりも大きい少なくとも1つの追加される金属成分との混合物又は合金であり、前記担体材料が機械的加圧法によって圧密化されていることを特徴とする担体材料。
【請求項2】
前記マグネシウム及び前記少なくとも1つの追加される金属成分が、250:1から1:10の体積比で含有されていることを特徴とする請求項1に記載の担体材料。
【請求項3】
前記マグネシウム及び前記少なくとも1つの追加される金属成分が、5:1から1:10の体積比で含有されていることを特徴とする請求項1に記載の担体材料。
【請求項4】
前記機械的加圧法による圧密化は、溶射、キネティックスプレー又はコールドガススプレーによって行われことを特徴とする請求項1に記載の担体材料。
【請求項5】
前記担体材料が、機械加工が可能及び変形させることが可能の少なくとも1つであることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の担体材料。
【請求項6】
前記担体材料が、20体積%未満の多孔率を有することを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の担体材料。
【請求項7】
前記担体材料が、5体積%未満の多孔率を有することを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の担体材料。
【請求項8】
前記担体材料が、1体積%未満の多孔率を有することを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の担体材料。
【請求項9】
前記担体材料の粒径が、0.5mm未満であることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の担体材料。
【請求項10】
前記担体材料の粒径が、0.25mm未満であることを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載の担体材料。
【請求項11】
前記追加される金属成分が、鉄、ニッケル、銅のいずれか、或いはこれらのいずれか2つ以上の組み合わせであることを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載の担体材料。
【請求項12】
成形体でできたワークピースを製造するために、少なくとも1つの空隙は、前記成形体を損傷させることなく前記成形体の完成後に除去できるプレースホルダとして担体材料で形成され、前記除去が、腐食媒体と前記担体材料とを接触させ且つ前記担体材料と前記媒体との懸濁液を洗い流すことにより行われ、前記担体材料は、マグネシウムと少なくとも1つの追加される金属成分とから成り、圧密化された形態で存在することを特徴とする少なくとも1つの空隙を有するワークピースを製造する方法。
【請求項13】
前記ワークピースを製造する方法は、溶射、キネティックスプレー又はコールドガススプレーによって行われることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ワークピースの製造が、焼結及び加圧によって行われることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記担体材料と前記腐食媒体との接触による溶解の速度は、前記腐食媒体を調整することによって調節されることを特徴とする請求項12から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記溶解の速度は、前記腐食媒体中のイオンの種類及びその量を選択することによって調節されることを特徴とする請求項12から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
硝酸イオンと硫酸イオンと塩化物イオンの少なくとも1つを含有する水溶液が、前記担体材料を溶解するのに使用されることを特徴とする請求項12から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
塩化ナトリウム溶液が、前記腐食媒体として用いられることを特徴とする請求項12から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
圧密化法によってロストモールドを製造するために請求項1〜7のいずれか一項に記載の担体材料を使用する方法。
【請求項20】
積層法又は塗工法におけるロストコアとして請求項1〜7のいずれか一項に記載の担体材料を使用する方法。

【公表番号】特表2010−527291(P2010−527291A)
【公表日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−503405(P2010−503405)
【出願日】平成20年4月16日(2008.4.16)
【国際出願番号】PCT/EP2008/003049
【国際公開番号】WO2008/125351
【国際公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(509286411)ヘルムレ マシネンバウ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (2)
【Fターム(参考)】