説明

一液性エポキシ樹脂組成物およびその利用

【課題】低温硬化が可能であり、かつ耐熱性と封止性に優れた一液性エポキシ樹脂組成物およびその利用を提供する。
【解決手段】本発明に係る一液性エポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂、ジシアンジアミド、エポキシ樹脂アダクト化合物、および非潜在性イミダゾール化合物を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一液性エポキシ樹脂組成物およびその利用に関するものであり、特に、エポキシ樹脂、ジシアンジアミド、エポキシ樹脂アダクト化合物、および非潜在性イミダゾール化合物を必須成分として含有することにより、低温硬化が可能で、しかも高い耐熱性および封止性を備えた一液性エポキシ樹脂組成物、およびこれを用いて少なくとも2つの部材が接着されている電子部品、並びに電子部品の封止方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
制御用小型継電器(以下、「リレー」という)は、電気量や物理量といった条件に応じて電気信号を出力することで電気回路を制御する装置であり、テレビ、電子レンジ、エアコン等の家庭電化製品、工作機械、食品関連機械等の産業機械、自動車、鉄道関連等の運輸機器等において広く利用されており、特にプリント配線基板に搭載される電気・電子部品において使用量が増加している。
【0003】
リレーに対して求められる特性の一つとして、気密性の保持がある。すなわち、リレーは、成形材に金属端子を接着させた構造を有するが、成形材と金属端子との密着性が不十分だと、半田フラックスの浸入や悪性ガスの侵入等によって、接点間でオン−オフを繰り返すというリレーの機能を保持することができなくなってしまうため、成形材と金属端子とに強い密着性を持たせ、リレー内部の気密性を保つことが可能な封止剤が強く求められている。
【0004】
従来、封止剤としては、エポキシ樹脂組成物が一般的に用いられており、一液性エポキシ樹脂組成物(潜在性硬化剤を予めエポキシ樹脂組成物と混合しておくタイプのエポキシ樹脂組成物)においては、潜在性硬化剤として、一般的にジシアンジアミドが用いられている。また、ジシアンジアミドを除く潜在性硬化剤(例えばエポキシ樹脂アダクト系化合物等)(特許文献1)、ジシアンジアミドと、ジシアンジアミドを除く潜在性硬化剤との混合物(特許文献2)、潜在性イミダゾール化合物およびジシアンジアミド等の潜在性硬化剤の混合物(特許文献3)等の潜在性硬化剤が提案されている。
【特許文献1】特開2001−207029号公報(平成13年7月31日公開)
【特許文献2】特許第3797616号公報(平成18年4月28日登録)
【特許文献3】特開2004−115552号公報(平成16年4月15日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、安全性および環境への影響等に鑑み、半田の鉛フリー化が進められている。それにより、リレーをプリント配線板に表面実装する際の半田の温度が従来の230〜240℃よりも20〜30℃高くなっている。それゆえ、封止剤に対しても、これに対応できる耐熱性が要求されるようになってきている。
【0006】
また、リレーの構成部材は、端子材料、コイル、磁石等以外は、プラスチック材料が主体であるため、硬化温度は120℃以下であることが望まれている。
【0007】
よって、封止剤に対しては、120℃以下の低温で硬化することができ、かつ、半田処理を行う際の高温処理条件下においても、成形材と金属端子との接着性を向上させてリレーの気密性を保持する能力が求められている。
【0008】
しかしながら、ジシアンジアミドは高融点の化合物であるため、ジシアンジアミドのみを潜在性硬化剤として用いる場合、120℃以下の硬化温度では、未反応物が残る場合があり、かつ、得られる硬化物の耐熱性が不十分であるため、気密不良が生じるという問題がある。
【0009】
また、特許文献1−3に記載された潜在性硬化剤についても、鉛フリー化に伴う半田処理温度の上昇に伴う耐熱性不足による気密不良が生じるという問題がある。
【0010】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、低温硬化が可能であり、かつ耐熱性と封止性に優れた一液性エポキシ樹脂組成物およびその利用を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、低温硬化が可能であり、かつ耐熱性と封止性に優れた一液性エポキシ樹脂組成物の組成について鋭意検討した結果、エポキシ樹脂にジシアンジアミド、エポキシ樹脂アダクト化合物、および非潜在性イミダゾール化合物を硬化剤として混合することによって、所望の一液性エポキシ樹脂組成物を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明に係る一液性エポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂、ジシアンジアミド、エポキシ樹脂アダクト化合物、および非潜在性イミダゾール化合物を含有することを特徴としている。
【0013】
上記構成によれば、ジシアンジアミドが靭性付与効果を示すため、成形材と金属端子の接着性を向上させることができる。また、エポキシ樹脂アダクト化合物が一液性エポキシ樹脂組成物のポットライフ(可使時間)向上および一液性エポキシ樹脂組成物の低温硬化を実現することができる。さらに、非潜在性イミダゾール化合物が速硬化性効果を示すため、成形材と金属端子の硬化を促進し、接着性を向上させることができる。
【0014】
したがって、低温で硬化でき、かつ、鉛フリー半田を用いてリフローまたはフローを行う場合でも、十分に耐熱性を示すことができる。
【0015】
本発明に係る一液性エポキシ樹脂組成物は、上記非潜在性イミダゾール化合物が、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾリウムトリメリテイト、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾリウムトリメリテイト、2,4−ジアミノ−6−〔2’−メチルイミダゾリル−(1’)〕−エチル−s−トリアジン、2−フェニルイミダゾール イソシアヌル酸付加物、2−メチルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾールおよび1,2−ジメチルイミダゾールからなる群より選ばれる1以上の化合物であることが好ましい。
【0016】
本発明に係る一液性エポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂と相溶性を有し、かつ、分子内に1個以上の水酸基および2個以上のグリシジル基を有する濡れ性向上剤を含有することが好ましい。
【0017】
上記構成によれば、上記濡れ性向上剤が一液性エポキシ樹脂組成物の部材への濡れを向上させることができるため、一液性エポキシ樹脂組成物に対し、非常に狭い隙間への濡れ広がり性を与えることができる。その結果、一液性エポキシ樹脂組成物が、数μm以下のような非常に狭い間隔の隙間でも流動性を備えるため、非常に狭い隙間を介する部材同士の接着性を向上させることができる。
【0018】
本発明に係る一液性エポキシ樹脂組成物は、pHが酸性であるカーボンブラックを含有することが好ましい。
【0019】
酸性のカーボンブラックは分散性に優れ、かつ濡れ性向上効果を示すため、一液性エポキシ樹脂組成物に対し、非常に狭い隙間への濡れ広がり性を与えることができる。その結果、一液性エポキシ樹脂組成物が、数μm以下のような非常に狭い間隔の隙間でも流動性を備えるため、非常に狭い隙間を介する部材同士の接着性を向上させることができる。
【0020】
本発明に係る一液性エポキシ樹脂組成物は、平均粒子径が10nm以上50nm以下の無機質充填剤を含有する一液性エポキシ樹脂組成物であって、上記無機質充填剤は、シラン化合物によって表面処理されており、上記シラン化合物は、分子内に、ケイ素原子に結合した少なくとも1つのアルコキシル基と、ケイ素原子に結合した少なくとも1つのアルキル基とを有し、当該アルキル基の主鎖の炭素数が16個以上20個以下であることが好ましい。
【0021】
上記無機質充填剤は、分散性に優れ、かつ一液性エポキシ樹脂組成物に対して流動性制御効果を示すことができる。したがって、一液性エポキシ樹脂組成物の接着面以外への過剰な流れ込みを抑制することができる。
【0022】
本発明に係る電子部品は、本発明に係る一液性エポキシ樹脂組成物によって、少なくとも2つの部材が接着されていることが好ましい。また、上記電子部品はリレーであることが好ましい。
【0023】
上述のように本発明に係る一液性エポキシ樹脂組成物は、高い耐熱性を有する。それゆえ、本発明に係る電子部品は鉛フリーの半田を用いてリフローまたはフロー処理を行った後でも十分な気密性を示すことができる。それゆえ、半田フラックスの流入や悪性ガスの侵入等を防ぐことができ、特性の良好な電子部品を提供することができる。
【0024】
本発明に係る電子部品の封止方法は、本発明に係る一液性エポキシ樹脂組成物によって、少なくとも2つの部材を接着させることにより、電子部品を気密封止または絶縁封止することが好ましい。
【0025】
本発明に係る一液性エポキシ樹脂組成物は、高い耐熱性を有するので、例えばリレーの成形材と金属端子のような部材同士の接着性を向上させることができ、鉛フリーの半田を用いてリフローまたはフロー処理を行った後でも、接着性を低下させることなく、電子部品を十分に気密封止または絶縁封止することができる。
【発明の効果】
【0026】
以上のように、本発明に係る一液性エポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂、ジシアンジアミド、エポキシ樹脂アダクト化合物、および非潜在性イミダゾール化合物を含有するという構成である。
【0027】
それゆえ、120℃以下の低温でも硬化することができ、かつ、高い耐熱性を有するため、鉛フリーの半田を用いてリフロー処理またはフロー処理を行った場合でも、リレー等の電子部品の気密封止を十分に行うことができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明の実施の形態について説明すれば以下のとおりであるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0029】
〔1.一液性エポキシ樹脂組成物〕
(1−1.一液性エポキシ樹脂組成物)
本発明に係る一液性エポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂、ジシアンジアミド、エポキシ樹脂アダクト化合物、および非潜在性イミダゾール化合物を含有する。
【0030】
一液性エポキシ樹脂組成物とは、エポキシ樹脂、硬化剤および硬化促進剤が予め混合されたエポキシ樹脂組成物であり、エポキシ樹脂と硬化剤/硬化促進剤の混合物あるいはエポキシ樹脂/硬化促進剤の混合物と硬化剤の二成分に分離されており、使用直前に両者を混合して使用される二液性エポキシ樹脂組成物と対比される概念である。
【0031】
二液性エポキシ樹脂組成物は、配合時の軽量ミスによる硬化不良が起こりやすいことや配合後のポットライフが短いこと等の欠点がある。また、硬化剤にポリアミドアミン、脂肪族アミン等を用いた場合、硬化物の耐熱性が低く、半田処理後の気密不良が生じる事が多い。そのため、近年、材料ロスが少なく、生産性の高い一液性エポキシ樹脂組成物が多く用いられるようになってきている。
【0032】
エポキシ樹脂は、ベンゼン環、ナフタレン環、水添ベンゼン環のような芳香族環または水添芳香族環と2個以上の末端エポキシ基を有し、室温付近で液状のエポキシ樹脂を意味している。芳香族環と水添芳香族環にはアルキル、ハロゲン等の置換基が結合していてもよい。
【0033】
末端エポキシ基と芳香族環または水添芳香族環とはオキシアルキレン、ポリ(オキシアルキレン)、カルボオキシアルキレン、カルボポリ(オキシアルキレン)、アミノアルキレン等により結合されている。また、芳香族環や水添芳香族環は直接またはアルキレン、オキシアルキレン、ポリ(オキシアルキレン)等で結合されている。
【0034】
具体的にはビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールAエチレンオキサイド2モル付加物ジグリシジルエーテル、ビスフェノールA−1,2−プロピレンオキサイド2モル付加物ジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、オルソフタル酸ジグリシジルエステル、テトラヒドロイソフタル酸ジグリシジルエステル、N,N−ジグリシジルアニリン、N,N−ジグリシジルトルイジン、N,N−ジグリシジルアニリン−3−グリシジルエーテル、テトラグリシジルメタキシレンジアミン、1,3−ビス(N,N−ジグリジルアミノメチレン)シクロヘキサン、テトラブロモビスフェノールAジグリシジルエーテル等が例示できる。
【0035】
本発明ではこれらのエポキシ樹脂群の中から1種類以上を選び使用される。併用する場合の比率は任意である。硬化物の耐熱性からいえば、ビスフェノールAジグリシジルエーテルと水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル等を使用するのが好ましい。
【0036】
ジシアンジアミドは単独化合物である。ジシアンジアミドは靭性付与効果を持っており、潜在性硬化剤として汎用されている化合物であるが、高融点(融点約180〜200℃)であり、リレー等の電子部品の作成時に求められる120℃以下という低い硬化温度では、未反応物が残る場合があり、電子部品の気密不良を引き起こす原因ともなっていた。
【0037】
本発明に係る一液性エポキシ樹脂組成物では、エポキシ樹脂、ジシアンジアミド、エポキシ樹脂アダクト化合物、および非潜在性イミダゾール化合物が必須成分となっており、エポキシ樹脂アダクト化合物および非潜在性イミダゾール化合物がジシアンジアミドを溶解させるため、120℃以下の低温におけるジシアンジアミドの硬化を促進することができる。これにより、未反応のジシアンジアミドが残存することによる気密不良を回避することができるとともに、ジシアンジアミドが本来有している靭性付与効果によって、電子部品を構成する部材同士の接着性を強固にすることができる。
【0038】
エポキシ樹脂アダクト化合物とは、エポキシ樹脂との混合系中でも安定で、かつ、エポキシ樹脂とともに80℃以上120℃以下で熱処理することにより、高い熱変形温度を示す硬化物を得ることができる硬化剤である。なお、本明細書では、上記「高い熱変形温度」とは、170℃以上のことをいう。
【0039】
エポキシ樹脂アダクト化合物は、室温付近で液状の一般エポキシ樹脂には不溶性の固体であるが、加熱することにより可溶化し、本来の機能を発揮する。その機能としては、一液性エポキシ樹脂組成物のポットライフを向上させる効果を挙げることができる。具体的には、上述のように、ジシアンジアミドを溶解させ、ジシアンジアミドの硬化を促進させることにより、120℃付近という低温での十分な硬化を可能にする効果を奏することができる。
【0040】
なお、上記「熱変形温度」とは、試験片の中央に一定の曲げ荷重(4.6kgf/cmまたは18.6kgf/cm)を加え、等速度で昇温させ、中央部の引張りひずみが0.2mmに達したときの温度をいい、荷重たわみ温度ともいう。
【0041】
エポキシ樹脂アダクト化合物としては、エポキシ樹脂アミンアダクト化合物、エポキシ樹脂イミダゾールアダクト化合物、変性脂肪族ポリアミン化合物等を挙げることができる。
【0042】
エポキシ樹脂アミンアダクト化合物とは、基本的には、エポキシ化合物とアミン化合物の反応生成物(一般に、エポキシ化合物アミンアダクトと呼称されている)である。詳しくは、単官能および多官能エポキシ化合物のエポキシ基と付加反応し得る活性水素を1分子内に1個以上有し、かつ1級、2級、3級アミノ基の中から選ばれた置換基を少なくとも1分子内に1個以上有するアミン化合物との反応生成物(即ち、エポキシ化合物アミンアダクト)である。
【0043】
このようなエポキシ化合物とアミン化合物には、脂肪族系、脂環族系、芳香族系および複素環系のエポキシ化合物やアミン化合物が含まれる。したがって、エポキシ化合物アミンアダクトの化学構造は一定していないが、特開昭56−155222号公報、特開昭57−100127号公報、特開昭61−228018号公報、特開昭62−285913号公報、特開昭64−70523号公報、特開平3−139517号公報、特開平6−49176号公報、特開平6−211969号公報、特開平7−196776号公報等に記載のものが例示できる。
【0044】
エポキシ樹脂アミンアダクト化合物の市販品としては、特に限定されるものではないが、アミキュアMY−24、MY−R(以上、味の素ファインテクノ(株)製品)、ノバキュアHX−3721、HX−3742(以上、旭化成工業(株)製品)、ハードナーH−3293S、H−3615S(以上、エー・シー・アール(株)製品)、ANCAMINE 2014AS、2014FG(以上、パシフィック・アンカー・ケミカル(株)製品)等を好適に用いることができる。エポキシ樹脂アミンアダクト化合物は、1種類のみ用いても良いし、2種類以上を組み合わせて用いても良い。併用する場合の比率は任意である。
【0045】
エポキシ樹脂イミダゾールアダクト化合物は、エポキシ樹脂との混合系中でも安定で、かつ、エポキシ樹脂とともに80℃以上120℃以下で熱処理することにより、高い熱変形温度を示す硬化物を得ることができる硬化剤であり、室温付近で液状の一般エポキシ樹脂には不溶性の固体であるが、加熱することにより可溶化し、本来の機能を発揮する化合物である。
【0046】
エポキシ樹脂イミダゾールアダクト化合物とは、基本的には、エポキシ化合物とイミダゾール化合物の反応生成物(一般に、エポキシ化合物イミダゾールアダクトと呼称されている)である。詳しくは、単官能および多官能エポキシ化合物のエポキシ基と付加反応し得る活性水素を1分子内に1個以上有し、かつイミダゾール基を少なくとも1分子内に1個以上有するイミダゾール化合物との反応生成物(即ち、エポキシ化合物イミダゾールアダクト)である。
【0047】
このようなエポキシ化合物とイミダゾール化合物には、脂肪族系、脂環族系、芳香族系および複素環系のエポキシ化合物やイミダゾール化合物が含まれる。したがって、エポキシ化合物イミダゾールアダクトの化学構造は一定していないが、特開昭62−285913号公報、特開平3−139517号公報、特開平6−49176号公報、特開平6−211969号公報、特開平7−196776号公報等に記載のものが例示できる。
【0048】
エポキシ樹脂イミダゾールアダクト化合物の市販品としては、特に限定されるものではないが、アミキュアPN−23、PN−R(以上味の素ファインテクノ(株)製品)等を用いることができる。エポキシ樹脂イミダゾールアダクト化合物は、1種類のみ用いても良いし、2種類以上を組み合わせて用いても良い。併用する場合の比率は任意である。
【0049】
変性脂肪族ポリアミン化合物とは、エポキシ樹脂との混合系中でも安定で、かつ80〜120℃の熱処理で高い熱変形温度を示す硬化物が得られる硬化剤であり、室温付近で液状の一般エポキシ樹脂には不溶性の固体であるが、加熱することにより可溶化し本来の機能を発揮する化合物である。基本的には、アミン化合物とイソシアネート化合物との反応生成物(一般に、脂肪族ポリアミン変性体と呼称されている)である。詳しくは、ジアルキルアミノアルキルアミン化合物、分子内に活性水素を有する窒素原子を1あるいは2個以上有する環状アミン化合物、およびジイソシアネート化合物の反応生成物(すなわち、脂肪族ポリアミン変性体)である。
【0050】
このような3成分にさらにエポキシ化合物を第4成分として反応させて得られる脂肪族ポリアミン変性体もある。したがって、脂肪族ポリアミン変性体の化学構造は一定していないが、特公昭58−55970号公報、特開昭59−27914号公報、特開昭59−59720号公報、特開平3−296525号公報等に記載のものが例示できる。
【0051】
変性脂肪族ポリアミン化合物の市販品としては、特に限定されるものではないが、フジキュアFXE−1000(以上、富士化成工業(株)製品)等が挙げられる。
【0052】
エポキシ樹脂アダクト化合物としては、エポキシ樹脂アミンアダクト化合物、エポキシ樹脂イミダゾールアダクト化合物、変性脂肪族ポリアミン化合物等を単独で用いても良く、これらの混合物であっても良い。併用する場合の比率は任意である。
【0053】
非潜在性イミダゾール化合物とは、25℃で保存中に初期粘度が2倍となるまでの日数が30日以下であり、潜在性硬化剤に含まれないイミダゾール化合物をいう。すなわち、非潜在イミダゾール化合物とは、イミダゾール化合物から潜在性イミダゾール化合物を除いたものをいう。なお、上記初期粘度とは、液状エポキシ樹脂に所定量の硬化剤を添加し、攪拌した直後の混合系における25℃時の粘度のことである。上記初期粘度および粘度の変化は、B型粘度計によって測定することができる。
【0054】
潜在性硬化剤とは、エポキシ樹脂と混合系中で安定な硬化剤であり、室温でエポキシ樹脂を硬化する活性を持たず、加熱することにより溶解、分解、転移反応等により活性化し、エポキシ樹脂に対して硬化促進剤として機能する化合物である。例えば、ジシアンジアミド、有機酸ジヒドラジド、エポキシ樹脂アダクト化合物、尿素系化合物、変性脂肪族ポリアミン化合物、第3級アミン化合物、アミノドデカン酸等がこれに含まれる。
【0055】
潜在性イミダゾール化合物とは、イミダゾール化合物のうち、潜在性硬化剤として機能する化合物をいう。例えば、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル5−ヒドロキシメチルイミダゾール、2,4-ジアミノ-6-〔2’-メチルイミダゾリル−(1’)〕-エチル−s−トリアジン イソシアヌル酸付加物、2−フェニルイミダゾール等を挙げることができる。
【0056】
非潜在性イミダゾール化合物の具体例としては、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾリウムトリメリテイト、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾリウムトリメリテイト、2,4−ジアミノ−6−〔2’−メチルイミダゾリル−(1’)〕−エチル−s−トリアジン、2−フェニルイミダゾール イソシアヌル酸付加物、2−メチルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール等が例示できる。本発明ではこれらの非潜在性イミダゾール化合物群の中から1種類以上を選び使用することが好ましい。併用する場合の比率は任意である。
【0057】
非潜在性イミダゾール化合物は、潜在性硬化剤ではないため、速硬化性を有する。それゆえ、エポキシ樹脂の硬化を促進させることができ、電子部品の部材、例えばリレーの構成部材である成形材と金属端子との接着性を向上させる効果を奏することができる。
【0058】
非潜在性イミダゾール化合物を用いることによって、潜在性イミダゾール化合物では得られないさらなる低温硬化性と速硬化性を実現できる。また、非潜在性イミダゾール化合物は低温硬化性であるため、高融点の硬化剤を溶解することができ、低温速硬化性であるため、電子部品へのダメージを低減することができる。さらに、上述のように、ジシアンジアミドを溶解させ、ジシアンジアミドの硬化を促進させることにより、120℃以下の低温におけるジシアンジアミドの十分な硬化を可能にすることができる。
【0059】
上述のように、本発明に係る一液性エポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂、ジシアンジアミド、エポキシ樹脂アダクト化合物、および非潜在性イミダゾール化合物という各成分から構成されている。
【0060】
ジシアンジアミド、エポキシ樹脂アダクト化合物、および非潜在性イミダゾール化合物は、いずれも硬化剤として従来公知のものである。しかしながら、後述する比較例に記載したように、これら3成分を単独でエポキシ樹脂に配合した場合、リレーの気密性を保つことはできない。また、3成分中2成分を組み合わせた場合も、同様にリレーの気密性を保つことはできない。
【0061】
すなわち、ジシアンジアミド、エポキシ樹脂アダクト化合物、非潜在性イミダゾール化合物を単独で用いた場合、あるいは2成分のみを組み合わせた場合は、エポキシ樹脂の低温硬化を達成可能で、かつ、高い耐熱性を有する一液性エポキシ樹脂組成物を得ることはできない。
【0062】
本発明に係る一液性エポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂に対して、ジシアンジアミド、エポキシ樹脂アダクト化合物、および非潜在性イミダゾール化合物を必ず併用していることに特異性がある。そうすることにより予期せぬ相乗作用効果が発現され、従来技術では不可能であった、120℃以下での低温硬化を達成可能で、かつ、高耐熱性を備える一液性エポキシ樹脂組成物を得ることができ、その結果、鉛フリー半田処理後も電子部品の気密性を保持することが可能となったものである。
【0063】
本発明に係る一液性エポキシ樹脂組成物は、硬化剤の配合量が少ないと硬化不足が生じ、硬化剤の配合量が多いと高粘度化により作業性が低下するため、エポキシ樹脂100重量部に対してジシアンジアミドを1〜30重量部、好ましくは1〜10重量部、エポキシ樹脂アダクト化合物を1〜30重量部、好ましくは1〜10重量部、非潜在性イミダゾール化合物を1〜30重量部、好ましくは1〜10重量部含有することが好ましい。
【0064】
(1−2.濡れ性向上剤)
本発明に係る一液性エポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂と相溶性を有し、かつ、分子内に1個以上の水酸基および2個以上のグリシジル基を有する濡れ性向上剤を含有することが好ましい。
【0065】
濡れ性向上剤は、一液性エポキシ樹脂組成物に添加することにより、一液性エポキシ樹脂組成物の濡れ性を向上させることができ、その結果、一液性エポキシ樹脂組成物に、数μm以下のような非常に狭い間隔の隙間での流動性を持たせることができる。
【0066】
濡れ性向上剤としては、エポキシ樹脂と相溶性を有し、かつ、分子内に1個以上の水酸基および2個以上のグリシジル基を有するものであれば、特に限定されるものではない。モノエポキシ化合物としては、例えば、i−プロピルグリシジルエーテル、n−ブチルグリシジルエーテル、t−ブチルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、ラウリルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、p−クレジルグリシジルエーテル、p−t−ブチルフェニルグリシジルエーテル、ベンジルグリシジルエーテル、ジエチレングリコール−t−ブチルエーテルグリシジルエーテル、ジエチレングリコール−2−エチルヘキシルエーテルグリシジルエーテル、ラウリン酸グリシジルエステル、オレイン酸グリシジルエステル、リノール酸グリシジルエステル、7−ヒドロキシオレイン酸グリシジルエステル等を用いることができる。
【0067】
また、ジエポキシ化合物としては、例えば、グリセリンジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル等を用いることができる。
【0068】
また、トリエポキシ化合物としては、例えば、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、トリフェニロールメタントリグリシジルエーテル等を用いることができる。
【0069】
このような濡れ性向上剤を本発明の一液性エポキシ樹脂組成物に添加することにより、本発明に係る一液性エポキシ樹脂組成物の硬化性に影響を及ぼすことなく、一液性エポキシ樹脂組成物の粘度を数分の1〜10分の1程度にまで低下し、かつ濡れ性を向上させることができる。
【0070】
本発明ではこれらのエポキシ樹脂群の中から1種類以上を選び使用される。併用する場合の比率は任意である。エポキシ樹脂と相溶性を有し、かつ、分子内に1個以上の水酸基および2個以上のグリシジル基を有する濡れ性向上剤でいえば、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル等を使用するのが好ましい。
【0071】
上記濡れ性向上剤の含有量は、エポキシ樹脂100重量部に対して1重量部以上100重量部以下であることが好ましく、より好ましくは5重量部以上80重量部以下である。
【0072】
濡れ性向上剤を一液性エポキシ樹脂組成物に混合する方法は特に限定されるものではなく、ニーダーやミキシングロール等の従来公知の装置を用いて適宜混合することができる。
【0073】
なお、上記「相溶性を有し」とは、濡れ性向上剤とエポキシ樹脂とが相互に親和性を有し、溶液または混和物を形成する性質を有することをいう。
【0074】
(1−3.カーボンブラック)
本発明に係る一液性エポキシ樹脂組成物は、pHが酸性であるカーボンブラックを含有することが好ましい。
【0075】
カーボンブラックとは、天然ガス、炭化水素ガスの気相熱分解や不完全燃焼によって生成する微粉の球状あるいは鎖状の炭素のことである。カーボンブラックの種類は、その製造方法によって、チャンネルブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック、ランプブラック等に分けられるが、本発明で用いられるカーボンブラックの種類は特に限定されるものではない。
【0076】
カーボンブラックは、微小粒子(平均粒子径10〜100nm程度)であることから、凝集力が著しく強く、媒体中に分散することが困難であり、またいったん分散してもすぐに再凝集する性質がある。このため、カーボンブラックを分散する際に、分散剤を媒体中に予め添加することや、分散時に分散剤をカーボンブラックと同時に配合することが検討されており、各種の分散剤を用いた検討がなされている。
【0077】
しかしながら、カーボンブラックの表面状態が特異的であるため、媒体の表面に十分付着しないことが多く、満足すべき分散剤を見出すことは至難の技である。
【0078】
そこで、本発明では、pHが酸性領域であるカーボンブラックを用いている。当該カーボンブラックとしては、通常、各種酸化剤により酸化処理したものが用いられ、好適にはpHが6.5以下、より好ましくは5.0以下、さらに好ましくは2.0以上4.0以下である。カーボンブラックの酸化処理は、通常、空気、NOx、酸素、オゾン等による気相処理や、重クロム酸カリウム、過酸化水素、次亜塩素酸ナトリウム、硝酸等による液相処理を行うことによって達成することができる。なお、pHが酸性であるカーボンブラックとは、カーボンブラックの表面および内部が酸性であることをいう。
【0079】
pHが酸性領域(特に好ましくは2.0以上4.0以下)であれば、一液性エポキシ樹脂組成物への分散性に優れたカーボンブラックが得られるため、当該カーボンブラックを一液性エポキシ樹脂組成物に混合することにより、一液性エポキシ樹脂組成物の、部材に対する濡れ性を向上させることができる。その結果、一液性エポキシ樹脂組成物に対して、数μm以下のような非常に狭い間隔の隙間での流動性を与えることができる。
【0080】
上記カーボンブラックを一液性エポキシ樹脂組成物に混合する方法は特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いることができる。例えば、ミキシングロールやニーダーを用いて混練する方法を挙げることができる。
【0081】
上記カーボンブラックの含有量は、エポキシ樹脂100重量部に対して0.1重量部以上5重量部以下であることが好ましく、より好ましくは0.1重量部以上2重量部以下である。
【0082】
上記カーボンブラックを一液性エポキシ樹脂組成物に混合する方法は特に限定されるものではなく、ニーダーやミキシングロール等の従来公知の装置を用いて適宜混合することができる。
【0083】
(1−4.表面処理された無機質充填剤)
本発明に係る一液性エポキシ樹脂組成物は、平均粒子径が10nm以上50nm以下の無機質充填剤を含有する一液性エポキシ樹脂組成物であって、上記無機質充填剤は、シラン化合物によって表面処理されており、上記シラン化合物は、分子内に、ケイ素原子に結合した少なくとも1つのアルコキシル基と、ケイ素原子に結合した少なくとも1つのアルキル基とを有し、当該アルキル基の主鎖の炭素数が16個以上20個以下であることが好ましい。
【0084】
数μm以上の粒子径を持つ無機質充填剤を本発明に係る一液性エポキシ樹脂組成物に多量に配合すると、粘度が上昇し、作業性が低下する。そのため、本発明における無機質充填剤は、少量の配合で一液性エポキシ樹脂組成物の接着面以外への過剰な流れ込みを抑制することが可能な、平均粒子径10nm以上50nm以下の無機質充填剤であることが好ましい。
【0085】
なお、上記平均粒子径は、例えば以下の方法によって10nm以上50nm以下に調整することができる。すなわち、無機質充填剤を高温の酸水素炎中(あるいは酸素雰囲気で間接加熱)、1000〜1200℃で加水分解(あるいは酸化分解)し、一旦、スート(すす)状の緩い結合をした凝集体を形成させる。そして、1800℃以上の温度で加熱溶融した後、冷却してランダムに再結合させる。これにより、平均粒子径を10nm以上50nm以下に調整することができる。
【0086】
上記無機質充填剤は、シラン化合物によって表面処理されており、上記シラン化合物は、分子内に、ケイ素原子に結合した少なくとも1つのアルコキシル基と、ケイ素原子に結合した少なくとも1つのアルキル基とを有し、当該アルキル基の主鎖の炭素数が16個以上20個以下であることが好ましい。当該表面処理によって、無機質充填剤の一液性エポキシ樹脂組成物への分散性、一液性エポキシ樹脂組成物と無機質充填剤との結合力を向上させることができる。その結果、当該表面処理を行った無機質充填剤は、一液性エポキシ樹脂組成物の流動性制御を効率よく行うことができるようになる。
【0087】
以上のように、平均粒子径が10nm以上50nm以下であって、上記表面処理を行った無機質充填剤は、一液性エポキシ樹脂組成物への分散性に優れ、少量の配合量で一液性エポキシ樹脂組成物の流動性を制御することが可能である。したがって、一液性エポキシ樹脂組成物の接着面以外への過剰な流れ込みを抑制することができる。
【0088】
上記無機質充填剤を表面処理可能なシラン化合物は、分子内に少なくとも1つのアルコキシル基と、少なくとも1つのアルキル基とを有しており、シラン化合物のケイ素原子の4個の結合の内、1〜3個の結合はアルコキシル基が結合され、残りの3〜1個の結合には同一の、または異なる非または難加水分解性のアルキル基が結合されている。当該アルキル基の主鎖の炭素原子数は16個以上20個以下である。主鎖の炭素原子数が14個より少なくなると表面処理の効果が小さく、主鎖の炭素原子数が22個を超えると加水分解速度が遅くなり、均一な表面処理ができにくくなる。
【0089】
上記アルキル基としては、例えば、パルミトイル基、ステアリル基、デシル基等を用いることができる。
【0090】
上記アルコキシル基としては、特に限定されるものではなく、メトキシ基、エトキシ基等従来公知のアルコキシル基を用いることができる。
【0091】
上記シラン化合物としては、例えばヘキサデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン等を用いることができる。
【0092】
表面処理に供される無機質充填剤は特に限定されるものではないが、溶融シリカ、結晶シリカ、タルク、アルミナ、窒化珪素、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム等を用いることができる。これらの無機質充填剤は、1種類のみ用いても良いし、2種類以上を併用してもよい。併用する場合の比率は任意である。中でもシリカが熱膨張、熱伝導の点で優れるため好ましい。
【0093】
上記表面処理は、例えば、上記シラン化合物を希釈した処理剤を無機酸化物粉末の表面に存在させて、200℃以上に加熱することによって行うことができる。
【0094】
上記処理剤としては、例えば、シラン化合物を触媒とともに溶剤に溶解したものを用いることができる。上記触媒としてはトリエチルアミン、ジエチルアミン、エチレンジアミン等のアミン類や酢酸等を用いることができる。溶剤はアルキルシランの種類によって選択され、例えば、ヘキサン、トルエン、アルコール類、エーテル類等、長鎖アルキルシランが溶解しやすいものを用いることが好ましい。
【0095】
上記オクタデシルトリエトキシシランをこれらの触媒と共に用いることによってシラン化合物の加水分解反応が進み、無機酸化物粉末表面への固定化が促進される。上記処理剤を無機酸化物粉末の表面に存在させる方法としては、例えば、上記処理剤を無機酸化物粉末に噴霧する方法や、処理剤の溶液に無機酸化物粉末を浸す方法等、適宜の方法を用いることができる。また、上記表面処理は窒素雰囲気下で行うのが好ましい。
【0096】
加熱処理することによって処理剤と無機酸化物表面との結合反応が促進される。加熱温度は200℃以上400℃以下が適当である。
【0097】
上記表面処理を行った無機質充填剤の含有量は、エポキシ樹脂100重量部に対して0.1重量部以上30重量部以下であることが好ましく、より好ましくは0.1重量部以上10重量部以下である。
【0098】
上記表面処理を行った無機質充填剤を一液性エポキシ樹脂組成物に混合する方法は特に限定されるものではなく、ニーダーやミキシングロール等の従来公知の装置を用いて適宜混合することができる。
【0099】
(1−5.その他の配合剤、添加剤)
さらに、本発明の一液性エポキシ樹脂組成物には必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲内で、充填剤、着色剤、難燃剤、光安定剤、補強剤、増粘剤、粘度調整剤、揺変性付与剤等の配合剤や添加剤を追加混合してもよい。これらの配合剤や添加剤は本発明に限定される特別なものではなく、従来からの一液性エポキシ樹脂組成物に使用されている一般的なものから任意に選択して使用することができる。例えば、後述する実施例では、充填剤として炭酸カルシウムを用いている。
【0100】
本発明の一液性エポキシ樹脂組成物は、上記エポキシ樹脂、ジシアンジアミド、エポキシ樹脂アダクト化合物、および非潜在性イミダゾール化合物並びに必要に応じて他の配合剤や添加剤を、従来からの一液性エポキシ樹脂組成物の製造に採用されている製造方法に従い混合することにより製造することができる。
〔2.本発明に係る一液性エポキシ樹脂組成物の利用〕
本発明に係る一液性エポキシ樹脂組成物は、電子部品の気密封止や絶縁封止を行うための封止剤として好適に用いることができる。本発明に係る電子部品は、本発明に係る一液性エポキシ樹脂組成物によって、少なくとも2つの部材が接着されている電子部品である。
【0101】
上記「電子部品」とは、気密封止や絶縁封止を行うことに有用性があるものであれば特に限定されるものではなく、通常「電気部品」と称されるものであってもよい。例えば、リレー、スイッチ、センサー等を挙げることができる。
【0102】
「一液性エポキシ樹脂組成物によって、少なくとも2つの部材が接着されている」とは、少なくとも2つの部材の間に一液性エポキシ樹脂組成物が介在し、一液性エポキシ樹脂組成物の接着力によって少なくとも2つの部材が結合していることをいう。
【0103】
接着の対象となる部材としては特に限定されるものではない。例えば、一液性エポキシ樹脂組成物によって、リレーの成形材と金属端子とを接着する場合を挙げることができる。図1は、成形材に金属端子を接着させたリレーの外観を示す模式図である。図1において、リレー100は、外観上、成形材1、金属端子2からなり、成形材1の内部にはコイル、スイッチ等の部品が格納されている(図示せず)。成形材1は、一液性エポキシ樹脂組成物塗布面3を備えている。
【0104】
本発明に係る一液性エポキシ樹脂組成物によって部材を接着する方法は特に限定されるものではない。例えば、一液性エポキシ樹脂組成物を少なくとも1の部材の全体または一部分に塗布し、当該部材と接着させたい部材とを密着させ、一液性エポキシ樹脂組成物を硬化させればよい。
【0105】
図1においては、一液性エポキシ樹脂組成物塗布面3に一液性エポキシ樹脂組成物を必要量塗布し、金属端子2の表面を一液性エポキシ樹脂組成物塗布面3に密着させた後、一液性エポキシ樹脂組成物を硬化させればよい。なお、上記必要量は電子部品の種類によって異なる。
【0106】
上記一液性エポキシ樹脂組成物の硬化は、上記一液性エポキシ樹脂組成物を加熱することによって行うことができる。加熱温度としては、特に限定されるものではないが、硬化時の温度がリレー特性へ変動を与えるため、60℃〜120℃であることが好ましく、80℃〜110℃であることがより好ましい。
【0107】
電子部品がリレーである場合、リレーの構成部材は端子材料、コイル、磁石等以外はプラスチック材料が主体であるため、一液性エポキシ樹脂組成物を120℃以下の低温で硬化させることが望まれる。本発明に係る一液性エポキシ樹脂組成物は、上述のようにエポキシ樹脂アダクト化合物および非潜在性イミダゾール化合物が120℃以下の低温においてジシアンジアミドの硬化を促進することができるため、120℃以下の低温で十分に硬化させることができる。
【0108】
リレーの成形材は内部にスイッチやコイル等を格納するために用いられるケースであり、その材質は特に限定されるものではないが、PBT(ポリブチレンテレフタレート)やLCP(液晶ポリマー)が汎用されている。PBTは、エンジニアリングプラスチックの一つであり、熱安定性や寸法精度、電気特性に優れるため、電気部品、電子部品や自動車部品等に幅広く利用されている。しかしながら、接着性は高いが、耐熱性が低いという欠点がある。一方、LCPは、剛直鎖の配向に起因する耐熱性、優れた強度特性、低熱膨張性および配向状態を得やすいが、接着性が低いという欠点がある。
【0109】
これまでに、PBTおよびLCPの両方に対して接着性が良好な接着剤は見出されていないが、本発明に係る一液性エポキシ樹脂組成物は、120℃以下の低温で硬化することができるため、耐熱性が低いPBTにも十分に適用でき、高い封止能力を有するので、接着性が低いLCPにも十分適用できる。よって、PBTおよびLCPは、共に、本発明に係る一液性エポキシ樹脂組成物による接着対象として好ましく用いることができる。
【0110】
リレー等の電子部品を基板上に実装する場合、半田を用いて、金属端子が基板に固定されるが、鉛フリーの半田を用いてリフローまたはフロー処理を行う場合は、従来の半田を用いる場合よりも半田の温度は20〜30℃増加し、電子部品全体の温度は最高250〜260℃に達する。
【0111】
ジシアンジアミド、エポキシ樹脂アダクト化合物、非潜在性イミダゾール化合物を単独で用いた場合、あるいは2成分のみを組み合わせた場合は、耐熱性が低いため、このような高温処理に供すると、接着した部材同士の封止状態を保つことができない。一方、本発明に係る一液性エポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂、ジシアンジアミド、エポキシ樹脂アダクト化合物、および非潜在性イミダゾール化合物を必須成分として含有するため、鉛フリーの半田処理後であっても気密性を維持することができる。
【0112】
それゆえ、本発明に係る一液性エポキシ樹脂組成物によって少なくとも2つの部材を接着させることによって、接着対象の部材間にリークを発生させることなく、電子部品を気密封止または絶縁封止することができる。電子部品が気密封止されているか否かは、例えば、日本電気制御機器工業会規格 NECA0404 制御機器の封止(気密性)試験方法(リレーハンドブック、眞野國夫著、森北出版)を行うことによって確認することができる。また、電子部品が絶縁封止されているか否かは、例えば耐トラッキング法(JIS C2134)によって確認することができる。
【実施例】
【0113】
〔実施例1〕
エポキシ樹脂としてビスフェノールAジグリシジルエーテル100重量部〔表1において「エポキシ樹脂(A)」と表記〕に対して、硬化剤としてジシアンジアミド10重量部〔表1において「硬化剤(B)」と表記〕、エポキシ樹脂アダクト化合物(商品名:アミキュアMY−24、味の素ファインテクノ(株)製品)10重量部〔表1において「硬化剤(C)」と表記〕および1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾリウムトリメリテイト10重量部〔表1において「硬化剤(D)」と表記〕を加え、さらに、pH8.0であるカーボンブラック(商品名:#25、三菱化学(株)製品)1重量部〔表1において「カーボンブラック(F)」と表記〕と無機質充填剤として表面処理を行っていない未処理シリカ(商品名:Aerosil200、日本アエロジル(株)製品)1重量部〔表1において「無機質充填剤(G)」と表記〕と炭酸カルシウム50重量部を混合した後、ミキシングロールを使って混練し、一液性エポキシ樹脂組成物を調製した。
【0114】
得られた一液性エポキシ樹脂組成物を、図1に示すように、リレーを構成する成形材の一液性エポキシ樹脂組成物塗布面に塗布し、成形材と金属端子とを密着させた後、一液性エポキシ樹脂組成物を100℃で60分硬化させ、リレーを作製した。
【0115】
作製したリレーは、リフロー炉((株)トーヨーコーポレーション、NRY−540S−7Z)を用い、リフロー処理に供した。図2は、リフロー処理における半田の温度の変化の一例を示すグラフである。横軸は時間、縦軸は温度を表す。本実施例では、リフロー処理(IRS法)は、予備加熱を150℃(図2におけるT1)で90〜120秒(図2におけるt1)行い、200℃(図2におけるT2)30秒以内(図2におけるt2)かつ最高温度が250℃(図2におけるT3)以下で加熱する条件にて処理を行った。なお、IRS法の詳細は、品質・信頼性ハンドブック(ソニー(株)等)に記載されている。
【0116】
その後、日本電気制御機器工業会規格 NECA0404 制御機器の封止(気密性)試験方法(リレーハンドブック、眞野國夫著、森北出版)に従って70℃に加熱したフッ素系不活性液体に2分間浸漬させ、気密性評価試験を行った。結果は、目視にて観察し、浸漬中に気泡が発生しない場合を◎または○(◎は、気密性が○よりも優れていることを示す)、浸漬中に気泡が発生した場合を×として表した。一液性エポキシ樹脂組成物の組成および気密性評価試験の結果を表1に示した。
【0117】
〔実施例2〜8、比較例1〜7〕
実施例2〜4は、表1に示すように、硬化剤(D)として実施例1で用いた硬化剤とは異なるものを用い、実施例1と同様の気密性評価試験を行ったものである。
【0118】
実施例5は、表1に示すように、ビスフェノールAジグリシジルエーテル50重量部に対して、グリセリンジグリシジルエーテル50重量部〔表1において「濡れ性向上剤(E)」と表記〕を加え、ビスフェノールAジグリシジルエーテルおよびグリセリンジグリシジルエーテルの合計量(100重量部)に対して、実施例1と同様の硬化剤(B)〜(D)、カーボンブラック、未処理シリカ、炭酸カルシウムを実施例1と同じ量で加え、実施例1と同様の気密性評価試験を行ったものである。
【0119】
実施例6は、表1に示すように、実施例1とは異なるpHが3.0であるカーボンブラック(商品名:MA11、三菱化学(株)製品)を用い、実施例1と同様の気密性評価試験を行ったものである。
【0120】
実施例7は、表1に示すように、実施例1とは異なる無機質充填剤として、オクタデシルトリエトキシシランで表面処理したシリカ(粒子径10−50nm)を用い、実施例1と同様の気密性評価試験を行ったものである。
【0121】
上記表面処理は、オクタデシルトリエトキシシランを触媒ジエチルアミンと共に溶剤ヘキサンに溶解したものをシリカにスプレーし、200℃に加熱することにより行った。
【0122】
実施例8は、表1に示すように、実施例6と同じカーボンブラックおよび実施例7と同じ無機質充填剤を用い、実施例1と同様の気密性評価試験を行ったものである。
【0123】
比較例1〜7は、表2に示す割合で各材料を混合した後、実施例1と同様にして気密性評価試験を行ったものである。なお、表1、2に示す数値の単位は、全て重量部である。
【0124】
【表1】

【0125】
【表2】

【0126】
表1、2に示すように、エポキシ樹脂、ジシアンジアミド、エポキシ樹脂アダクト化合物、および非潜在性イミダゾール化合物を必須成分として含有する一液性エポキシ樹脂組成物のみが良好な気密性を示し、上記必須成分のうちいずれかを欠いた一液性エポキシ樹脂組成物を用いた場合は、気密性を示すことができなかった。
【0127】
また、比較例7に示すように、イミダゾール化合物として、潜在性イミダゾールである2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾールを用いた場合は、気泡が発生し、本発明の効果を得ることはできなかった。すなわち、本発明に係る一液性エポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂、ジシアンジアミド、エポキシ樹脂アダクト化合物、および非潜在性イミダゾール化合物を必須成分とすることによって、良好な気密性を示すことができるといえる。
【0128】
また、実施例5は、実施例1におけるエポキシ樹脂の1/2を、濡れ性向上剤であるグリセリンジグリシジルエーテルに置き換えた一液性エポキシ樹脂組成物を用い、リレーの気密性試験を行ったものであるが、気密性は実施例1よりも優れていた。これは、濡れ性向上剤の作用によって、成形材と金属端子との隙間での一液性エポキシ樹脂組成物の流動性が向上した結果、接着性が向上したことによるものと考えられる。
【0129】
実施例6は、実施例1で用いたpHが8.0であるカーボンブラックの代わりにpHが3.0のカーボンブラックを添加した一液性エポキシ樹脂組成物を用い、リレーの気密性試験を行ったものであるが、気密性は実施例1よりも優れていた。これは、実施例6で用いたカーボンブラックはpHが酸性であるため、実施例1で用いたカーボンブラックよりも一液性エポキシ樹脂組成物に対する分散性が良好であるため、一液性エポキシ樹脂組成物の、部材に対する濡れ性を向上させることができたためであると考えられる。
【0130】
実施例7は、実施例1で用いた未処理シリカの代わりに、無機質充填剤として、オクタデシルトリエトキシシランで表面処理したシリカ(粒子径10−50nm)を用い、リレーの気密性試験を行ったものであるが、気密性は実施例1よりも優れていた。これは、実施例7で用いた無機質充填剤は、表面処理によって一液性エポキシ樹脂組成物への分散性が向上し、一液性エポキシ樹脂組成物と無機質充填剤との結合力が向上した結果、一液性エポキシ樹脂組成物の接着面以外への過剰な流れ込みが抑制されたためであると考えられる。
【0131】
実施例8は、実施例1におけるエポキシ樹脂の1/2を、実施例5で用いたグリセリンジグリシジルエーテルに置き換え、実施例1で用いたカーボンブラックの代わりに、実施例6で用いた酸性であるカーボンブラックを用い、実施例1で用いた未処理シリカの代わりに、実施例7で用いた表面処理されたシリカを用いて、リレーの気密性試験を行ったものである。気密性は実施例1よりも優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0132】
本発明に係る一液性エポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂、ジシアンジアミド、エポキシ樹脂アダクト化合物、および非潜在性イミダゾール化合物を含有するので、120℃以下での低温硬化が可能であり、かつ、高い耐熱性を有するので、電子部品を十分に気密封止または絶縁封止することができる。したがって、各種電子産業に幅広く利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0133】
【図1】図1は、成形材に金属端子を接着させたリレーの外観を示す模式図である。
【図2】図2は、リフロー処理における半田の温度変化の一例を示すグラフである。
【符号の説明】
【0134】
1 成形材
2 金属端子
3 一液性エポキシ樹脂組成物塗布面
100 リレー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂、ジシアンジアミド、エポキシ樹脂アダクト化合物、および非潜在性イミダゾール化合物を含有することを特徴とする一液性エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
上記非潜在性イミダゾール化合物が、
1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾリウムトリメリテイト、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾリウムトリメリテイト、2,4−ジアミノ−6−〔2’−メチルイミダゾリル−(1’)〕−エチル−s−トリアジン、2−フェニルイミダゾール イソシアヌル酸付加物、2−メチルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾールおよび1,2−ジメチルイミダゾールからなる群より選ばれる1以上の化合物であることを特徴とする請求項1に記載の一液性エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
エポキシ樹脂と相溶性を有し、かつ、分子内に1個以上の水酸基および2個以上のグリシジル基を有する濡れ性向上剤を含有することを特徴とする請求項1に記載の一液性エポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
pHが酸性であるカーボンブラックを含有することを特徴とする請求項1に記載の一液性エポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
平均粒子径が10nm以上50nm以下の無機質充填剤を含有する一液性エポキシ樹脂組成物であって、
上記無機質充填剤は、シラン化合物によって表面処理されており、
上記シラン化合物は、分子内に、ケイ素原子に結合した少なくとも1つのアルコキシル基と、ケイ素原子に結合した少なくとも1つのアルキル基とを有し、当該アルキル基の主鎖の炭素数が16個以上20個以下であることを特徴とする請求項1に記載の一液性エポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1に記載の一液性エポキシ樹脂組成物によって、少なくとも2つの部材が接着されていることを特徴とする電子部品。
【請求項7】
上記電子部品がリレーであることを特徴とする請求項6に記載の電子部品。
【請求項8】
請求項1に記載の一液性エポキシ樹脂組成物によって、少なくとも2つの部材を接着させることにより、電子部品を気密封止または絶縁封止することを特徴とする電子部品の封止方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−215368(P2009−215368A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−58178(P2008−58178)
【出願日】平成20年3月7日(2008.3.7)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】